以下、本実施形態を図面を参照して説明する。この説明に際し、全図にわたり、共通する部分には共通する参照符号を付す。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の無線通信方法が適用された無線通信装置の回路構成を示す図である。
無線通信装置1は、信号処理回路12、送信回路20、ミラー移相回路30、選択回路40、フィードバック回路50、及び制御回路60を備える。
信号処理回路12は、送信対象信号に対してベースバンド処理を行い、当該ベースバンド処理した送信対象信号を送信回路20へ出力する機能を有する。ベースバンド処理とは、一般的に符号化処理やビーム形成処理を指す。
送信回路20は、信号処理回路12からの送信対象信号の電力増幅の際に生じる位相歪みを補償する他、無線通信装置1と無線通信を行う、例えば携帯電話などの通信端末(図示せず)が位置する特定の方向へ送信対象信号を送信する機能を有する。
送信回路20は、単数又は複数のアンテナ素子を備えた単数又は複数の送信部21を備えている。図1は、無線通信装置1が、例えば104本のアンテナ素子を搭載するために、それぞれ4本のアンテナ素子を備えた26の送信部21を備えた例を示しており、例えば送信部21(1)は、アンテナ素子271(1)、271(2)、271(3)及び271(4)を用いて送信対象信号を空中へ放射する。
なお、本実施形態では、送信対象信号を放射するために必要なアンテナ素子の数を104本とし、各送信部21が4本のアンテナ素子を搭載するものとして、送信部21の数を26としたが、本発明はこれに限られず、アンテナ素子の全数、1個の送信部21に搭載されるアンテナ素子の数、送信部21の数ともに2以上の数とすることができる。
送信部21(1)〜21(26)それぞれは、互いに独立した送信対象信号を、対象の通信端末へ送信する。送信部21(1)〜21(26)は同一の構成及び機能を有するため、以下では、送信部21(1)に着目して説明する。
送信部21(1)は、補償器22(1)、デジタルアナログ変換器(図中、DACと表記)23(1)、信号分岐器(図中、HYBと表記)24(1)、アナログ移相器25(1)、パワーアンプ26(1)、及びアンテナ27(1)を備える。
補償器22(1)は、パワーアンプ26(1)による電力増幅の際に発生する送信対象信号の位相歪みを補償する機能を有する。具体的には、補償器22(1)は、パワーアンプ26(1)での送信対象信号に対する電力増幅の際に発生する位相歪みと逆方向の位相歪み(以下、逆特性と称する場合がある)を送信対象信号に設定する。
ここで、パワーアンプ26(1)による送信対象信号の位相の歪み量を[α](以下、歪み量[α]と称する)とし、この歪み量[α]と逆特性の逆歪み量を[α’](以下、逆歪み量[α’]と称する)とする。
なお、本実施形態では、通信端末との無線通信前に、逆歪み量[α’]を予め補償器22(1)に設定しても良いし、通信端末への送信対象信号の送信の都度パワーアンプ26(1)によって生じた歪み量[α]に基づき算出された逆歪み量[α’]を補償器22(1)に設定しても良い。
デジタルアナログ変換器23(1)は、送信対象信号をデジタル信号からアナログ信号へ変換する機能を有する。
信号分岐器24(1)は、アナログ信号へ変換された送信対象信号を、本例では4本のアンテナ素子271(271(1)、271(2)、271(3)及び271(4))に対応する4つの信号S(以下、信号S1、S2、S3及びS4と称する)に分岐させ、後段のアナログ移相器25(1)へ出力する機能を有する。なお、本例では4本のアンテナ素子271を用いることから、信号分岐器24(1)が送信対象信号を分岐する信号Sの数を4つとしたが、前述したようにアンテナ素子271の本数は4本に限られず、少なくとも2つ以上であればよいので、信号分岐器24(1)による信号Sの分岐数は、アンテナ素子271の数と同様に2以上とすることができる。
なお、本明細書において信号S1、S2、S3及びS4を区別しない場合には、単に信号Sと称する。同様に、アンテナ素子271(1)、271(2)、271(3)及び271(4)を区別しない場合にも、単にアンテナ素子271と称する。
アナログ移相器25(1)は、後述する制御回路60からの位相シフト量情報に基づいて、信号分岐器24(1)で分岐された信号S1、S2、S3及びS4の位相をそれぞれ一定量シフトさせる機能を有する。
ここで、アナログ移相器25(1)は、信号S1、S2、S3及びS4にそれぞれ対応するアナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)を備える。
ここで、例えば、アナログ移相素子251(1)による信号S1に対する位相シフト量を位相[θ1]とする。また、アナログ移相素子251(2)、251(3)及び251(4)による信号S2、S3及びS4に対する位相シフト量をそれぞれ位相[θ2]、[θ3]及び[θ4]とする。
すなわち、アナログ移相素子251(1)は、信号S1の位相を位相[θ1]だけシフトさせる。他のアナログ移相素子251(2)、251(3)及び251(4)も同様に、信号S2、S3及びS4の位相をそれぞれ位相[θ2]、[θ3]及び[θ4]だけシフトさせる。これにより、アンテナ27(1)によって合成される単一の送信対象信号を特定の方向へ送信可能とする。なお本明細書では、位相[θ1]、[θ2]、[θ3]及び[θ4]を区別しない場合には、単に位相[θ]と称する。
なお、アナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)に設定する位相シフト量を調整するために、信号S1、S2、S3及びS4が伝搬する通信路の短長を物理的に調整してもよい。
パワーアンプ26(1)は、信号S1、S2、S3及びS4それぞれを電力増幅する機能を有する。パワーアンプ26(1)は、信号S1、S2、S3及びS4にそれぞれ対応するアンプ素子261(1)、261(2)、261(3)及び261(4)を備える。
そして、アンプ素子261(1)、261(2)、261(3)及び261(4)による電力増幅時の信号S1、S2、S3及びS4それぞれの歪み量を[α]とする。つまり、例えばアンプ素子261(1)による信号S1に対する電力増幅により、当該信号S1の位相が更に歪み量[α]だけシフトする。アンプ素子261(2)、261(3)及び261(4)もそれぞれ同様である。すなわち、アンプ素子261(2)、261(3)及び261(4)それぞれによる信号S2、S3及びS4に対する電力増幅により、当該信号S2、S3及びS4の位相が更に歪み量[α]だけシフトする。
この結果、電力増幅後の例えば信号S1の位相は、当初(デジタル生成時)の位相に対して、位相[θ1]と、歪み量[α]と逆歪み量[α’]との差(以下、この差を位相差[Δα]と称する)と、を考慮した値だけシフトする。電力増幅後の例えば信号S2、S3及びS4の位相も同様に、当初(デジタル生成時)の位相に対して、位相[θ2]、[θ3]及び[θ4]それぞれと、歪み量[α]と逆歪み量[α’]との差(以下、この差を位相差[Δα]と称する)と、を考慮した値だけシフトする。
なお、補償器22(1)による逆歪み量[α’]と、パワーアンプ26(1)による歪み量[α]とが同値であれば位相差[Δα]は“0”である。
そして、アナログ移相器25(1)により設定された信号S1、S2、S3及びS4の位相シフト量である位相[θ1]、[θ2]、[θ3]及び[θ4]それぞれと、パワーアンプ26(1)による信号S1、S2、S3及びS4の電力増幅時に発生した歪み量[α]とを合計した位相シフト量が、フィードバック線F1、F2、F3及びF4を介して送信回路20から後段のミラー移相回路30へと提供される。
つまり、例えば歪み量[α]と位相[θ1]との合算値が、フィードバック線F1を介してミラー移相回路30に提供される。歪み量[α]と位相[θ2]、歪み量[α]と位相[θ3]、及び歪み量[α]と位相[θ4]の各合算値も同様に、フィードバック線F2、F3及びF4を介してミラー移相回路30に提供される。
アンテナ27(1)は、アレイ状に配置されたアンテナ素子271(1)、271(2)、271(3)及び271(4)を備える。つまり、アンプ素子261(1)、261(2)、261(3)、及び261(4)においてそれぞれ電力増幅された信号S1、S2、S3及びS4が、アンテナ素子271(1)、271(2)、271(3)及び271(4)によってそれぞれ合成され単一の送信対象信号として空中へ放射される。
なお、本明細書において、補償器22(1)〜22(26)を区別しない場合には、単に補償器22と称する。同様に、アナログ移相器25(1)〜25(26)、パワーアンプ26(1)〜26(26)、及びアンテナ27(1)〜27(26)も同様に区別しない場合には、単にそれぞれアナログ移相器25、パワーアンプ26、及びアンテナ27と称する。また、アナログ移相素子251及びアンプ素子261も同様である。
次に、ミラー移相回路30について説明する。
ミラー移相回路30は、後述する制御回路60からの位相シフト量情報に基づき、アナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)それぞれによる信号S1、S2、S3及びS4の位相のシフト方向と逆方向へ同量の位相をシフトさせる機能を有する。
ミラー移相回路30は、上述した送信部21(1)〜21(26)それぞれに対応して設置されたミラー移相部31(1)〜31(26)を備える。ミラー移相部31(1)〜31(26)の機能は同一であるため、以下ではミラー移相部31(1)に着目して説明する。
ミラー移相部31(1)は、アナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)それぞれに対応して設置されたミラー移相素子311(1)、311(2)、311(3)及び311(4)を備える。
例えば、ミラー移相素子311(1)による信号S1に対する位相シフト量を、位相[θ1]と逆方向の位相[−θ1]とする。また、ミラー移相素子311(2)、311(3)及び311(4)による信号S2、S3及びS4それぞれに対する位相シフト量を、位相[θ2]、[θ3]、及び[θ4]それぞれと逆方向の位相[−θ2]、[−θ3]及び[−θ4]とする。
従って、例えばミラー移相素子311(1)は、信号S1の位相を位相[−θ1]だけシフトさせることができる。他のミラー移相素子311(2)、311(3)及び311(4)も同様に信号S2、S3及びS4の位相をそれぞれ位相[−θ2]、[−θ3]及び[−θ4]だけシフトさせることができる。
その結果、ミラー移相素子311(1)、311(2)、311(3)及び311(4)それぞれから歪み量[α]を有する信号S1、S2、S3及びS4が選択回路40へ出力される。
次に、選択回路40について説明する。
選択回路40は、信号S1、S2、S3及びS4のうちいずれか1つを選択し、選択した信号Sが有する歪み量[α]を後段のフィードバック回路50へ出力する機能を有する。
フィードバック回路50は、選択回路40からの歪み量[α]を各送信部21へ出力する機能を有する。
制御回路60は、(i)図示しない通信端末から受信した受信信号(例えば、ビーコン信号)の信号強度を計測する機能、(ii)計測した信号強度に基づいて、無線通信装置1と通信端末との位置関係を計測し、送信部21(1)から通信端末へ送信する送信対象信号の方向(以下、チルト角[Tθ]と称する)を計測する機能、及び(iii)当該チルト角[Tθ]に基づいて、アナログ移相器25(1)及びミラー移相部31(1)へ設定する位相シフト量である位相[θ]及び位相[−θ]を算出し、算出した位相[θ]及び位相[−θ]それぞれを位相シフト量情報としてアナログ移相器25及びミラー移相回路30へ提供する機能を有する。
次に、上記構成における無線通信方法を適用した無線通信装置1の動作例について、図2を用いて説明する。
図2は、第1実施形態に係る無線通信方法を適用した無線通信装置1内の制御回路60による位相シフト量の設定動作例を示すフローチャートである。
以下の動作例では、アナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)及びこれに対応するミラー移相素子311(1)、311(2)、311(3)及び311(4)に着目して説明する。
無線通信装置1と通信端末とが無線通信を開始する前に、図示しない通信端末から受信した受信信号の信号強度が制御回路60により計測される(ステップST1)。
その後、制御回路60により、計測された受信信号強度に基づき送信対象信号のチルト角[Tθ]が計測される(ステップST2)。
このチルト角[Tθ]に基づき、例えば信号S1に対する位相シフト量である位相[θ1]と、この位相[θ1]と逆方向の位相シフト量である位相[−θ1]とがそれぞれ算出される。
信号S2、S3及びS4に対する位相シフト量も同様である。つまり、チルト角[Tθ]に基づき、これら信号S2、S3及びS4に対して位相シフト量である位相[θ2]、[θ3]及び[θ4]と、これら位相[θ2]、[θ3]及び[θ4]それぞれの逆方向の位相シフト量である位相[−θ2]、[−θ3]及び[−θ4]が算出される。
その後、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、例えば位相シフト量である位相[θ1]がアナログ移相素子251(1)に設定される。また、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、位相シフト量である位相[θ2]、[θ3]及び[θ4]がそれぞれ、アナログ移相素子251(2)、251(3)及び251(4)に設定される(ステップST3)。
同様に、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、例えば位相シフト量である位相[−θ1]がミラー移相素子311(1)に設定される。また、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、位相シフト量である位相[−θ2]、[−θ3]、及び[−θ4]がそれぞれミラー移相素子311(2)、311(3)、及び311(4)に設定される(ステップST3)。
図3は、第1実施形態に係る無線通信方法を適用した無線通信装置1による送信対象信号の送信動作例を示すフローチャートである。
ここでも説明を簡単にするために、送信部21(1)の各構成、及びミラー移相素子311(1)、311(2)、311(3)及び311(4)に着目して説明する。
まず、信号処理回路12において送信対象信号(デジタル信号)に対してベースバンド処理が実行される(ステップST10)。
その後、補償器22(1)により、ステップST10においてベースバンド処理が実行された送信対象信号に対して逆歪み量[α’]が設定される(ステップST11)。これにより、パワーアンプ26(1)による電力増幅時に発生する位相歪みに対する補償がなされる。
次いで、デジタルアナログ変換器23(1)において送信対象信号(デジタル信号)がアナログ信号へ変換された後(ステップST12)、当該アナログ信号へ変換された送信対象信号が信号分岐器24(1)において信号S1、S2、S3及びS4に分岐される(ステップST13)。
次いで、ステップST3において設定された、例えば位相[θ1]に従い、アナログ移相素子251(1)において信号S1の位相が位相[θ1]だけシフトされる(ステップST14)。また、ステップST3において設定された位相[θ2]、[θ3]及び[θ4]に従い、アナログ移相素子251(2)、251(3)及び251(4)それぞれによって、信号S2、S3及びS4それぞれの位相が、位相[θ2]、[θ3]及び[θ4]だけシフトされる(ステップST14)。
次いで、例えばアンプ素子261(1)において信号S1に対する電力増幅がなされると(ステップST15)、当該信号S1の位相が歪み量[α]だけ更にシフトされる。また、アンプ素子261(2)、261(3)及び261(4)それぞれにおいて信号S2、S3及びS4に対する電力増幅がなされると(ステップST15)、当該信号S2、S3及びS4の位相がそれぞれ歪み量[α]だけ更にシフトされる。
この結果、信号S1の位相は位相[θ1+Δα]だけシフトされ、信号S2の位相は位相[θ2+Δα]だけシフトされ、信号S3の位相は位相[θ3+Δα]だけシフトされ、信号S4の位相は位相[θ4+Δα]だけシフトされる。
位相差[Δα]が“0”であれば、その後、アレイ状に配置されたアンテナ素子271(1)、271(2)、271(3)及び271(4)によって合成された信号S1、S2、S3及びS4から成る単一の送信対象信号が、特定の方向に位置する通信端末へ送信される。(ステップST16)。
その後、例えばフィードバック線F1を介して、信号S1に対するアナログ移相素子251(1)及びアンプ素子261(1)による合計位相シフト量である位相[θ1+α]がミラー移相素子311(1)へ提供される。また、例えばフィードバック線F2を介して、信号S2に対するアナログ移相素子251(2)及びアンプ素子261(2)による合計位相シフト量である位相[θ2+α]が、ミラー移相素子311(2)へ提供される。
信号S3及びS4に対する合計位相シフト量である位相[θ3+α]及び[θ4+α]も同様に、フィードバック線F3及びF4を介して、ミラー移相素子311(3)及び311(4)へそれぞれ提供される。
次いで、例えばミラー移相素子311(1)によって信号S1の位相が位相[−θ1]だけ逆方向へシフトされるため(ステップST17)、当該ミラー移相素子311(1)を通過した後の信号S1の位相シフト量は歪み量[α]とされる。また、ミラー移相素子311(2)、311(3)及び311(4)によって信号S2、S3及びS4の位相がそれぞれ位相[−θ2]、位相[−θ3]、及び位相[−θ4]だけ逆方向へシフトされる(ステップST17)。このため、当該ミラー移相素子311(2)、311(3)及び311(4)それぞれを通過した後の信号S2、S3及びS4の位相シフト量も歪み量[α]とされる。
その後、ミラー移相素子311(1)、311(2)、311(3)及び311(4)それぞれから提供された信号S1、S2、S3及びS4のうちの1つが選択回路40によって選択され、選択された信号Sの歪み量[α]がフィードバック回路50を介して補償器22(1)へフィードバックされる(ステップST18)。
最後に、無線通信装置1から送信すべき送信対象信号がなければ(ステップST19、NO)、当該送信対象信号の送信処理を終了する。これに対して、無線通信装置1によって送信すべき送信対象信号があれば(ステップST19、YES)、再度ステップST10の動作に戻り、ステップST10〜ステップST18までの動作が実行されることで、再度新たな送信対象信号が特定の通信端末へ送信される。
したがって、上記構成の無線通信方法が適用された無線通信装置1は、信号分岐器24(1)において送信対象信号を信号S1、S2、S3及びS4に分岐させ、分岐した信号S1、S2、S3及びS4それぞれの位相をアナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)において、それぞれ位相[θ1]、[θ2]、[θ3]及び[θ4]だけシフトさせることで、特定の位置の通信端末に対して送信対象信号を送信する。
またアナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)と逆特性を有するミラー移相素子311(1)、311(2)、311(3)及び311(4)を用いて送信対象信号を構成する信号S1、S2、S3及びS4の位相を、それぞれ位相[−θ1]、[−θ2]、[−θ3]及び[−θ4]だけ逆方向にシフトさせることで、アンプ素子261(1)、261(2)、261(3)及び261(4)による電力増幅で発生した歪み量[α]だけを補償器22(1)へフィードバックする。
これによれば、第1実施形態に係る無線通信方法を適用した無線通信装置1は、簡易的な回路設計で位相歪みを補償できるという有利な点を有する。
補償器22(1)へフィードバックされる信号S1、S2、S3及びS4それぞれの位相シフト量は、アナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)による位相成分(位相[θ1]、[θ2]、[θ3]及び[θ4])を含まないため、当該アナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)による位相シフトの影響を受けない。
すなわち、補償器22(1)へフィードバックされる値は、アンプ素子261(1)、261(2)、261(3)及び261(4)における電力増幅により発生した歪み量[α]のうちいずれか1つである。このため、当該補償器22(1)は、信号処理回路12からの送信対象信号(デジタル信号)に対して当該歪み量[α]と逆特性の逆歪み量[α’]を設定すればよい。
換言すれば、補償器22(1)は、通信端末の移動に伴ってその都度変化する信号S1、S2、S3及びS4それぞれの位相シフト量である位相[θ1]、[θ2]、[θ3]及び[θ4]を考慮した上で歪み補償を実施しなくてもよくなることから、上述の通り簡易的な回路設計で位相歪み補償を実現できる。
また、上記構成の無線通信方法が適用された無線通信装置1は、電力増幅の際に同一の歪み量[α]を発生させるアンプ素子261(1)、261(2)、261(3)及び261(4)を備える。このため、信号分岐器24(1)において逆歪み量[α’]をアンプ素子261(1)、261(2)、261(3)及び261(4)の数だけ分岐させる構成でよい。したがって補償器22(1)の構成を、アンプ素子261(1)、261(2)、261(3)及び261(4)毎に設ける必要はない。
これによれば、第1実施形態に係る無線通信方法を適用した無線通信装置1は、回路面積の増大及び消費電力の増加を抑制できるという有利な点を有する。
上述の通り、補償器22(1)は、アンプ素子261(1)、261(2)、261(3)及び261(4)それぞれにおいて共通して発生する歪み量[α]とは逆特性の逆歪み量[α’]を送信対象信号に設定すればよいことから、アンプ素子261(1)、261(2)、261(3)及び261(4)毎に補償器22(1)を設ける必要がない。同様に、信号分岐器24(1)の前段に設けられるデジタルアナログ変換器23(1)も補償器22(1)と同数だけ設置すればよい。
更に、送信部21(1)内に設置される補償器22(1)が1つで済むことから、歪み量[α]をフィードバックするフィードバック回路50も補償器22(1)の数に応じて減少させることができる。
また、送信対象信号を放射する際には、無線通信装置1において所定の電力を消費することになる。ここで、アンテナ27(1)〜27(26)に搭載される104本からなるアンテナ素子の各々が信号Sを送信するために必要とされる送信電力は、無線通信装置1によって出力可能とされる総送信電力をアンテナの総本数で除した値となる。つまり、アンテナ素子1本当たりの送信電力は、総送信電力の1/104と非常に小さな値となる。このため、アンテナ27(1)の前段に設けられるパワーアンプ26(1)の消費電力も抑制することができ、またパワーアンプ26(1)の消費電力の低下に伴いアナログ移相器25(1)も小型化させることができる。
特に、Massive MIMOのように100以上もの多数のアンテナ素子を必要とする通信規格では、アンテナ素子の数の増加に伴って送信回路も増加するが、第1実施形態に係る無線通信方法を適用した無線通信装置1によれば、送信部21単位で補償器22の数のみならず、デジタルアナログ変換器23の数をも低減することができ、またアナログ移相器25も小型化できることから無線通信装置1全体で回路面積の増大を抑制することが可能となる。
第1実施形態に係る無線通信方法を適用した無線通信装置1ではまた、補償器22及びデジタルアナログ変換器23の数を、アナログ移相器25(1)を構成するアナログ移相素子251の数と同数にする必要がなく、またフィードバック回路50は送信部21(1)〜21(26)のすべてに対して1つしか設けない構成であるため、無線通信装置1における総電力消費量の増加を抑制できる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る無線通信方法が適用された無線通信装置について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に係る無線通信方法が適用された無線通信装置1において、信号処理回路12内に各送信部21に対応したデジタル移相素子120(図中、デジタル移相素子120(1)〜120(26))を更に設けた構成であって、送信対象信号の位相シフトをデジタル移相素子120及びアナログ移相器25の両者で実現するものである。
第2実施形態に係る無線通信方法が適用された無線通信装置1の構成を、図4を用いて説明する。以下説明では、デジタル移相素子120(1)、120(2)と、それぞれ対応する送信部21(1)、21(2)、及びミラー移相部31(1)、31(2)に着目して説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、異なる構成や機能に着目して説明する。
なお、本実施形態では、無線通信装置1が、例えば2の送信部21毎に合成した単一の送信対象信号を放射する例である。すなわち、送信回路20は偶数の送信部21を備える。このため、第1実施形態と同様に、送信対象信号を放射するために必要なアンテナ素子の数を104本とし、また各送信部21が4本のアンテナ素子を搭載する例とすることで、送信回路20は、26個の送信部21を備える。
制御回路60は、2の送信部21毎に制御を行い、デジタル移相素子120(1)、120(2)、アナログ移相素子251(251(1)、251(2)、251(3)及び251(4))、アナログ移相素子252(252(1)、252(2)、252(3)及び252(4))、ミラー移相素子311(311(1)、311(2)、311(3)及び311(4))、並びにミラー移相素子312(312(1)、312(2)、312(3)及び312(4))それぞれに位相シフト情報量を提供する機能を有する。
具体的には、制御回路60は、8本のアンテナ素子271(1)、271(2)、271(3)、271(4)、272(1)、272(2)、272(3)及び272(4)それぞれによって単一の送信対象信号が形成されるように、アナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)、251(4)、252(1)、252(2)、252(3)及び252(4)に所定の位相シフト量情報を提供する。
また、制御回路60は、位相シフト量情報が提供された結果、アナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)、251(4)、252(1)、252(2)、252(3)及び252(4)にそれぞれ設定された位相シフト量と逆の位相シフト量が設定されるように、ミラー移相素子311(1)、311(2)、311(3)、311(4)、312(1)、312(2)、312(3)及び312(4)に対してそれぞれ所定の位相シフト量情報を提供する。
更に、制御回路60は、8本のアンテナ素子271(1)、271(2)、271(3)271(4)、272(1)、272(2)、272(3)及び272(4)により合成された単一の送信対象信号が特定の方向に送信されるように、当該送信部21(1)、21(2)に対応するデジタル移相素子120(1)、120(2)の組に所定の位相シフト量情報を提供する。
これにより、アナログ移相素子251、252、ミラー移相素子311、312、及びデジタル移相素子120(1)、120(2)には、以下のような位相シフト量がそれぞれ設定される。
制御回路60からの位相シフト量情報に基づいて、例えば、位相シフト量である位相[θa1]がアナログ移相素子251(1)に設定される。また、位相シフト量である位相[θa2]、[θa3]及び[θa4]がそれぞれ、アナログ移相素子251(2)、251(3)及び251(4)に設定される。
同様に、制御回路60からの位相シフト量情報に基づいて、例えば、位相シフト量である位相[θa5]がアナログ移相素子252(1)に設定される。また、位相シフト量である位相[θa6]、[θa7]及び[θa8]がそれぞれ、アナログ移相素子252(2)、252(3)及び252(4)に設定される。
更に、制御回路60からの位相シフト量情報に基づいて、例えば、位相シフト量である位相[−θa1]がミラー移相素子311(1)に設定される。また、位相シフト量である位相[−θa2]、[−θa3]及び[−θa4]がそれぞれ、ミラー移相素子311(2)、311(3)及び311(4)に設定される。
また更に、制御回路60からの位相シフト量情報に基づいて、例えば、位相シフト量である位相[−θa5]がミラー移相素子312(1)に設定される。また、位相シフト量である位相[−θa6]、[−θa7]及び[−θa8]がそれぞれ、ミラー移相素子312(2)、312(3)及び312(4)に設定される。
なお、位相[θa1]〜[θa8]及び位相[−θa1]〜[−θa8]を区別しない場合には、単に位相[θa]及び位相[−θa]と称する。
デジタル移相素子120(1)〜120(26)は、送信部21(1)〜21(26)に対応して配置される。
制御回路60からの位相シフト量情報に基づいて、位相シフト量である位相[θd1]がデジタル移相素子120(1)、デジタル移相素子120(2)に設定される。
これにより、無線通信装置1は、例えば送信部21(1)、21(2)の組で合成された送信対象信号を特定の方向へ送信可能とする。
次に、上記構成における無線通信装置1の動作例について説明する。図5は、第2実施形態に係る無線通信方法を適用した無線通信装置1内の制御回路60による位相シフト量の設定動作例を示すフローチャートである。
以下の動作例では、デジタル移相素子120(1)、120(2)と対応するアナログ移相素子251、252、及びミラー移相素子311、312に着目して説明する。
まず、第1実施形態におけるステップST1、ST2と同様の処理が実行される。すなわち、通信端末から受信した受信信号の受信信号強度が制御回路60により計測され(ステップST1)、その後、制御回路60により、計測された受信信号強度に基づき送信対象信号のチルト角[Tθ]が計測され、計測されたチルト角[Tθ]から位相シフト量情報として位相[θd1]、[θa]及び[−θa]が算出される(ステップST2)。
その後、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、例えば位相シフト量である位相[θd1]がデジタル移相素子120(1)、120(2)それぞれに設定される(ステップST3a)。
次いで、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、例えば、位相シフト量である位相[θa1]がアナログ移相素子251(1)に対して設定される。また、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、位相シフト量である位相[θa2]、[θa3]及び[θa4]がアナログ移相素子251(2)、251(3)及び251(4)それぞれに設定される(ステップST3a)。
更に、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、例えば、位相シフト量である位相[θa5]がアナログ移相素子252(1)に対して設定される。また、位相シフト量である位相[θa6]、[θa7]及び[θa8]がアナログ移相素子252(2)、252(3)及び252(4)それぞれに設定される(ステップST3a)。
また更に、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、例えば、位相シフト量である位相[−θa1]がミラー移相素子311(1)に対して設定される。また、位相シフト量である位相[−θa2]、[−θa3]及び[−θa4]がミラー移相素子311(2)、311(3)及び311(4)それぞれに設定される(ステップST3a)。
最後に、制御回路60からの位相シフト量情報に従い、例えば、位相シフト量である位相[−θa5]がミラー移相素子312(1)に対して設定される。また、位相シフト量である位相[−θa6]、[−θa7]及び[−θa8]がミラー移相素子312(2)、312(3)及び312(4)それぞれに設定される(ステップST3a)。
図6は、第2実施形態に係る無線通信方法を適用した無線通信装置1による送信対象信号の送信時の動作例であって、ステップST10の処理をより詳細に示すフローチャートである。
まず、第1実施形態で説明したステップST10の処理が実行され、信号処理回路12において送信対象信号(デジタル信号)に対してベースバンド処理が実行される(ステップST10a)。
その後、デジタル移相素子120(1)、120(2)により、ベースバンド処理が実行されたデジタル信号の位相が位相[θd1]だけシフトされ(ステップST10b)、その後ステップST11以降の処理がなされる。
なお、第2実施形態では、第1実施形態のステップST14において、アナログ移相素子251(1)、251(2)、251(3)及び251(4)それぞれにより、信号S1、S2、S3及びS4の位相がそれぞれ位相[θa1]、[θa2]、[θa3]及び[θa4]だけシフトされる。同様に、アナログ移相素子252(1)、252(2)、252(3)及び252(4)それぞれにより、信号S5、S6、S7及びS8の位相がそれぞれ位相[θa5]、[θa6]、[θa7]及び[θa8]だけシフトされる。
更に、第2実施形態では、第1実施形態のステップST17において、ミラー移相素子311(1)、311(2)、311(3)及び311(4)それぞれにより、信号S1、S2、S3及びS4の位相がそれぞれ位相[−θa1]、[−θa2]、[−θa3]及び[−θa4]だけシフトされる。同様に、ミラー移相素子312(1)、312(2)、312(3)及び312(4)それぞれにより、信号S5、S6、S7及びS8の位相がそれぞれ位相[−θa5]、[−θa6]、[−θa7]及び[−θa8]だけシフトされる。
したがって、第2実施形態の無線通信装置1によれば、信号処理回路12内に、送信部21(1)及び送信部21(2)の組、…、送信部21(25)及び送信部21(26)の組によってそれぞれ合成された単一の送信対象信号の送信方向を制御するデジタル移相素子120(1)〜120(26)を更に備える。
これによれば、第1実施形態で得られる有利な点に加えて、例えば8本のアンテナ素子271(1)、271(2)、271(3)、271(4)、272(1)、272(2)、272(3)、272(4)を用いることで送信対象信号の送信電力が上昇されることから、無線通信装置1から長距離に位置する通信端末に対して送信対象信号を送信することができる。
なお、第1実施形態及び第2実施形態に係る無線通信装置1による送信対象信号の送信動作は、例えば制御回路60からの制御によって実現してもよい。この場合、例えば制御回路60内に格納された実行プログラムを起動、実行することで、無線通信装置1を構成する各回路の動作が制御される。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。