以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理、信号には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面において説明上重要ではない部材の一部は省略して表示する。
この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものであり、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤を凝固又は不溶化させることが挙げられる。
また、「記録素子(又はノズル)」とは、特にことわらない限り吐出口およびこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギを発生する素子を総括して言うものとする。
(第1の実施形態)
図1は、インクジェット記録ヘッドを用いて記録を行う第1の実施形態に係るプリンタ1の構成の概要を示す外観斜視図である。プリンタ1はインクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行う記録ヘッド3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を走査方向(矢印Aで示される方向)に往復移動させて記録を行う。プリンタ1は、マルチパス記録により記録媒体P上に画像を形成する。プリンタ1は、記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行う。
プリンタ1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクタンク6を装着する。インクタンク6はキャリッジ2に対して着脱自在に構成される。
プリンタ1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクタンク6(インクカートリッジとも称される)を搭載している。これら4つのインクタンク6は夫々独立に着脱可能に構成される。
記録ヘッド3は、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、電気ヒータなどの電気熱変換体を備えている。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧が印加されることによって対応する吐出口からインクが吐出される。
(画像形成システムの構成)
図2は、本実施形態による画像形成システムの構成を示したブロック図である。この図および本明細書の他のブロック図に示す各ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
画像形成システムは、画像処理装置10及びプリンタ1で構成される。なお、画像処理装置10は例えば一般的なパーソナルコンピュータにインストールされたプリンタドライバによって実施され得る。その場合、以下に説明する画像処理装置10の各部は、コンピュータが所定のプログラムを実行することにより実現される。また、別の構成として、例えば、プリンタ1が画像処理装置10を含むような構成としてもよい。
画像処理装置10は、画像入力端子101と、低周波回復部102と、低周波格納部103と、全周波回復部110と、全周波格納部111と、色分解格納部105と、色分解部104と、高周波生成部112と、OPG格納部107と、OPG処理部106と、マトリクス格納部109と、ハーフトーン処理部108と、出力端子113と、を備える。プリンタ1は、キャリッジ2と、記録ヘッド3と、給紙機構5と、ヘッド制御部204と、インク色選択部210と、方向制御部201と、入力端子211と、を備える。
画像処理装置10とプリンタ1とは、プリンタインタフェースまたは回路によって接続されている。画像処理装置10は、画像入力端子101より記録(印刷)対象の画像データを取得する。画像データは8ビットのRGBカラー画像を表すデータである。
低周波回復部102は、入力されたRGB画像データに対する低周波回復処理を行う。低周波回復部102は、低周波回復処理に際して、低周波格納部103に格納された低周波回復フィルタのフィルタ係数を取得し、入力画像の輝度値に対して畳み込み演算を行うことで低周波成分を回復する。これは、いわゆるフィルタリングとも呼ばれる処理である。本実施形態では低周波回復フィルタとして11×11のサイズのフィルタを用いる。低周波回復フィルタの作成方法については後述する。
色分解部104は、低周波回復部102で補正された画像データから、プリンタ1が備える4色のインクに対応した4プレーンの8ビットのインク値画像を生成する。本実施形態ではシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクを記録ヘッド3に搭載しており、色分解部104で生成されるインク値画像の4プレーンは4色のインクにそれぞれ対応する。色分解部4は、色分解処理に際して、色分解格納部105に格納された3次元の色分解LUT(Look-Up Table、ルックアップテーブル)を参照する。色分解LUTは、17×17×17点に間引いた格子点上に4色のインク値が格納されている。格子点間の値は線形補間により算出される。
OPG(アウトプットガンマ)処理部106は、色分解部104で生成されたインク値画像に対し、ガンマ補正処理を施す。OPG処理部106は、ガンマ補正処理に際して、OPG格納部107に格納された1次元のOPGLUTを参照する。OPGLUTでは、CMYKそれぞれのインクのみを用いて記録した場合に、インク値画像の信号値に対して印刷物の明度が線形に変化するように、インク色毎に予め値が設定されている。明度の評価値としてはCIELABで規定されたL*が用いられる。
ハーフトーン処理部108は、OPG処理部106によって得られた各色のインク値画像を2値画像(または2値以上で入力階調数より少ない階調数の画像)に変換する。本実施形態においては、ハーフトーン処理部108は、マトリクス格納部109に格納されたディザマトリクスを参照し、ディザ法に基づいて画素毎に閾値処理を行うことで、インクのON/OFFに対応する2値画像データを生成する。
全周波回復部110は、入力されたRGB画像データに対する全周波回復処理を行う。全周波回復部110は、全周波回復処理に際して、全周波格納部111に格納された全周波回復フィルタを取得し、入力画像の輝度値に対して畳み込み演算を行うことで全周波成分を回復させる。本実施形態では全周波回復フィルタとして11×11サイズのフィルタが用いられる。全周波回復フィルタの作成方法については後述する。
高周波生成部112は、低周波回復部102で補正された画像データと、全周波回復部112で補正された画像データとの差分を計算することで、高周波回復量画像を生成する。
ハーフトーン処理部108が生成した2値画像データ(4色のインク分)、及び、高周波生成部112が生成した高周波回復量画像は、出力端子113を介してプリンタ1の入力端子211へそれぞれ出力される。
方向制御部201は、入力端子211を介して画像処理装置10から取得した高周波回復量画像に基づいて、ドットオン時の走査方向を画素毎に決定する。ドットオン時とは、ドットを形成する時ということを意味する。方向制御部201は、パス入替部209と、パス分解部207と、前処理部206と、パスマスク格納部208と、を含む。
前処理部206は、入力端子211から2値画像データ(4色のインク分)、及び、高周波回復量画像を取得し、2値画像データの画素のうちの少なくとも一部に対して、ドットオン時の走査方向を画素毎に決定する。前処理部206において、ドットオン時の走査方向は、2値画像データのひとつの画素について、互いに逆向きの往記録方向(第1方向)および復記録方向(第2方向)のうちの一方に決定されるか、またはこの段階では決定されない。決定されない場合は走査方向は任意(往記録方向と復記録方向のいずれでもよい)とされる。
パス分解部207は、2値画像データ及びパスマスク格納部208から取得したパスマスクに基づき、各インク色に対応する走査データを生成する。走査データとは、複数に分割されたノズル群が各記録走査において記録するパターンである。走査データは互いに補完の関係にあり、全ノズル群のパターンを重ね合わせると全領域の記録が完成される。各記録走査が終了するたびに、記録媒体は複数に分割されたノズル群の幅分ずつ搬送方向に搬送される。搬送方向と走査方向とは直交する。
パス入替部209は、パス分解部207が出力する各パスの走査データを取得し、前処理部206で決定された各画素の走査方向を参照しつつ、パスデータの入替処理を行う。前処理部206で決定された画素のドットオン時の走査方向と、パス分解部207が出力する各パスの走査データにおける該画素のドットオン時の走査方向とが異なる場合、パス入替部209は、前者が後者よりも優先されるようパスデータの入替処理を行う。
インク色選択部210は、パス入替部209が出力する入替済みの走査データに基づき、記録ヘッド3に搭載されるインク色の中から、対応するインク色を選択する。
プリンタ1において、記録ヘッド3を記録媒体Pに対して相対的に縦横に動かすことにより、画像処理装置10にて生成した2値画像データが記録媒体P上に形成される。本実施形態では、記録ヘッド3として、インクジェット方式のものを用いる。記録ヘッド3は、複数の記録素子(ノズル)を有する。本実施形態ではシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクを記録ヘッド3に搭載している。キャリッジ2は、ヘッド制御部204の制御下で、記録ヘッド3を動かす。給紙機構5は、ヘッド制御部204の制御下で、記録媒体Pを搬送する。なお、本実施形態では、記録媒体P上で記録ヘッド3によって複数回(例えば4回)の走査を行って画像を完成させるマルチパス記録方式を用いている。
以上説明した構成に従って、画像が形成される。
(画像形成システムの処理フロー)
次に、上述の機能構成を備えた本実施形態の画像形成システムにおける処理フローについて説明する。図3は、画像形成システムにおける一連の処理の流れを示すフローチャートである。
まず、S201において、画像処理装置10は画像入力端子101から入力RGB画像を取得する。
次に、S202において、低周波回復部102は、入力RGB画像に対する低周波回復処理を行う。低周波回復部102は、低周波回復処理に際して、低周波格納部103に格納されている2次元のフィルタを用いる。
次に、S203において、色分解部104は、低周波回復部102で補正された画像データから、インク値画像を生成する。色分解部104は、色分解処理に際して、色分解格納部105に格納された3次元の色分解LUTを参照する。
次に、S204において、OPG処理部106は、色分解部104で生成されたインク値画像に対し、ガンマ補正処理を施す。
次に、S205において、ハーフトーン処理部108は、OPG処理後データを2値データに変換するためのハーフトーン処理を行う。ハーフトーン処理部108は、ハーフトーン処理において、マトリクス格納部109に格納されているディザマトリクスを参照する。
一方、S206において、全周波回復部110は、入力画像に対する全周波回復処理を行う。全周波回復部110は、全周波回復処理に際して、全周波格納部111に格納されている2次元のフィルタを用いる。
次に、S207において、高周波生成部112は、高周波回復量画像の生成処理を行う。高周波生成部112は、高周波回復量画像の生成処理において、全周波回復部110で補正された画像データと低周波回復部102で補正された画像データとの差分をとることにより高周波回復量画像を生成する。
なお、高周波回復量画像は、その使用目的によって、鮮鋭性回復量と呼ばれる場合もある。以降の説明においては、鮮鋭性回復量と表記するが、高周波回復量画像と鮮鋭性回復量とは同等のデータを表すもので、表現の違いに過ぎない。なお、本実施形態における鮮鋭性回復量は、周波数回復処理を行うための「補償の過不足分布」であり、いわゆるエッジ検出によって得られるエッジ量とは異なる概念である。そのため、公知のラプラシアンフィルタ等とは異なり、エッジ部のみならず任意の周波数劣化を補償できる。
以上のステップで得られた、ハーフトーン処理後の2値画像データ、及び、生成された鮮鋭性回復量は、画像全体、或いは単位記録領域のバンド幅分などの任意のサイズで、出力端子113より出力され、入力端子211を介して、前処理部206へと渡される。
次に、S208において、前処理部206は、入力端子211から2値画像データ(4色のインク分)、及び、鮮鋭性回復量を取得し、2値画像データの画素のうちの少なくとも一部に対して、ドットオン時の走査方向を決定する。ドットオン時の走査方向は、2値画像データのひとつの画素に対して、往記録方向または復記録方向のいずれかに決定されるか、またはこの段階で決定されない。決定されない場合は走査方向は任意(往記録方向と復記録方向のいずれでも可)とされる。走査方向決定の詳細については後述する。
次に、S209において、パス分解部207は、パスマスク格納部208から取得したパスマスクに基づき、前処理部206より受け取った画像データを走査データに変換するパス分解処理を行う。本実施形態では、パス分解部207は入力画像データ(2値画像データ)を4パスに分解する。このとき、パス分解マスクはパスマスク格納部208に格納されており、各パスの打ち込み量を25%とした均等マスクが用いられる。なお、均等マスクは一例であり、例えば、先行パス及び後続パスの打ち込み量が少なめで中央パスの打ち込み量が多めのいわゆるグラデーションマスクが用いられてもよい。その他、パスマスクの各パスの打ち込み量を任意としたマスクが用いられてもよい。
次に、S210において、パス入替部209は、パス分解部207が出力する各パスの走査データを取得し、前処理部206で決定された画素の走査方向を参照しつつ、パスデータの入替処理を行う。前処理部206で決定された画素のドットオン時の走査方向と、パス分解部207が出力する各パスの走査データにおける該画素のドットオン時の走査方向とが異なる場合、パス入替部209は、前者が後者よりも優先されるようパスデータの入替処理を行う。パスデータの入替処理の詳細については後述する。
次に、S211において、パス入替部209から出力される入替済みの走査データに適合するインク色がインク色選択部210により選択され、画像形成が開始される。画像形成においては、記録ヘッド3を記録媒体Pに対して動かしながら、一定の駆動間隔で各ノズルを駆動して記録媒体P上に画像を記録する。記録媒体Pは、走査毎に所定の搬送量だけ搬送される。
以上で一連の画像形成処理が完了する。
(全周波回復フィルタ及び低周波回復フィルタの作成方法)
以下、本実施形態における全周波回復フィルタ及び低周波回復フィルタの作成方法について説明する。
まず、フィルタ設計対象のプリンタ1を用いて、鮮鋭性の計測チャートを出力する。なお、計測チャートの出力時は鮮鋭性回復処理を行わない。
図4は、例示的な計測チャート301を示す図である。計測チャート301は、周波数や方向が異なる複数の正弦波パターンと、均一パターン(例えば、白ベタと黒ベタ)と、を含む画像チャートの一例である。計測チャート301において、パターン302、303、304が周波数の異なる横方向の正弦波パターンで、パターン305、306、307が周波数の異なる縦方向の正弦波パターンである。また、パターン308が白ベタの均一パターン、パターン309が黒ベタの均一パターンである。
ここで、周波数応答値P(u)は、例えば光学伝達関数(MTF)として以下の式(1)のように算出される。
P(u)=C(u)/C’
…式(1)
ただし、uは正弦波パターンの周波数で、C(u)、C’は次式で表される。
C(u)={Max(u)−Min(u)}/{Max(u)+Min(u)}
C’=(White−Black)/(White+Black)
このとき、Max(u)は周波数uで変化する正弦波パターンの最大明度、Min(u)は周波数uで変化する正弦波パターンの最小明度、White、Blackはそれぞれ白ベタの均一パターンの明度、及び黒ベタの均一パターンの明度を表す。
なお、光学伝達関数の算出はこれに限定されず、例えば以下の式(2)を用いてもよい。
P(u)={Max(u)−Min(u)}/(White−Black)
…式(2)
また、式(2)では、Max(u)とMin(u)とWhiteとBlackとを明度として周波数応答値P(u)を算出しているが、例えば輝度や濃度、測定装置のデバイスRGB値等を用いて周波数応答値を算出してもよい。また、計測チャートとして、正弦波パターンではなく、矩形波パターンを用いて周波数応答値P(u)を取得してもよい。その場合、矩形波パターンに対して式(1)を適用することにより算出されるコントラスト伝達関数(CTF)の値を周波数応答値P(u)として用いる。もしくは、CTF値を公知のコルトマン補正式を用いて変換したMTF値を周波数応答値P(u)として用いてもよい。
次に、周波数応答値P(u)に基づき、全周波回復フィルタの周波数特性Ra(u)=1/P(u)を算出する。図5は、P(u)及びRa(u)の一例を示す図である。Ra(u)は、uの値が大きい高周波領域で強い応答となる。一方、低周波回復フィルタの周波数特性Rl(u)は、Ra(u)に対して所定の周波数ub以上の応答を略平坦に補正することで生成される。
最後に、周波数特性Ra(u)及びRl(u)を逆フーリエ変換することで、全周波回復フィルタ及び低周波回復フィルタの係数が算出される。
(走査方向決定処理の詳細)
以下、本実施形態の走査方向決定処理の詳細について説明する。図6は、走査方向決定処理における一連の処理の流れを示すフローチャートである。
まず、S501において、前処理部206は入力画像を取得する。ここでの入力画像は、入力端子211を介して前処理部206に入力されるハーフトーン処理後の2値画像データである。
次に、S502において、前処理部206は鮮鋭性回復量を取得する。鮮鋭性回復量はS501で取得済みの2値画像データの各画素に対応する正負の値である。
図7(a)、(b)は、2値画像データ及び鮮鋭性回復量の一例を示す図である。図7(a)は、2値画像データの一例を示す。図7(b)は、図7(a)に示される2値画像データに対応する鮮鋭性回復量の一例を示す。鮮鋭性回復量は、記録媒体P上に形成される画像の空間周波数特性の劣化を回復するための量である。鮮鋭性回復量は画像の鮮鋭性を回復するために、値が大きいほど濃度を高め、値が小さいほど濃度を低めに補正することを表す。
図7(a)の2値画像データは、画像の左半分の打ち込み量が75%であり画像の右半分の打ち込み量が25%である多値データを2値化したデータを示す。図7(b)に示されるように、左から4列目および5列目の画素からなる領域750において、その左側(4列目)の鮮鋭性回復量が大きな正の値で、その右側(5列目)の鮮鋭性回復量が(絶対値が)大きな負の値となっている。なお、鮮鋭性回復量には、その正負の符号が反転(ゼロクロス)する画素がエッジに相当するという特性がある。鮮鋭性回復量を参照することで、2値画像データでは明確に分離できないエッジにおいてもエッジの位置やエッジ両端の濃度の濃淡関係を推定することができる。本実施形態では鮮鋭性回復量のこのような特性を利用する。
図6に戻り、S503において、前処理部206は往記録方向において処理対象の画素(処理点)に隣接する画素の鮮鋭性回復量が正で、かつ、復記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量が負であるかどうかを判定する。判定結果がYesの場合は、処理はS504に進み、判定結果がNoの場合は、処理S505に進む。
S504に進んだ場合は、前処理部206は処理対象画素のドットオン時の走査方向を往記録方向に決定する。
S505に進んだ場合は、前処理部206は、往記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量が負で、かつ、復記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量が正であるかどうかを判定する。判定結果がYesの場合は、処理はS506に進み、判定結果がNoの場合は、処理はS507に進む。
S506に進んだ場合は、前処理部206は処理対象画素のドットオン時の走査方向を復記録方向に決定する。
S507に進んだ場合は、前処理部206は処理対象画素のドットオン時の走査方向を前処理においては決定しない、すなわち任意とする。ここでの任意とは、前処理部206では往復の指定をしないことを表し、いずれの方向でもよい。
S504、S506、S507の処理を行った後は、いずれも処理はS508に進む。S508において、前処理部206はS501で取得された入力画像の全ての画素に対して前処理が行われたか否かを判定する。判定結果がYesの場合は、処理はS209に進み、判定結果がNoの場合は、処理はS502に戻り、次の処理対象画素に対する同様の処理が行われる。S209、S210、S211の処理は図3を参照して説明した通りである。
なお、鮮鋭性回復量の符号を参照する際は、鮮鋭性回復量を格納するRAM等のメモリ上の該当画素に対応する値の最上位ビット(MSB)を参照する。最上位ビットのみを参照することで、実装の負荷を少なくすることができる。なお、鮮鋭性回復量の符号の情報の取得は他の手段によって実現されてもよい。例えば、メモリに鮮鋭性回復量を格納する際に、最上位ビットのみを別途格納するようにしてもよい。この場合、最上位ビットを参照する際のメモリアクセスを大幅に削減できる。
以上で一連の走査方向決定処理が完了する。
(往復記録におけるサテライトの発生位置と決定される走査方向との関係)
往復記録におけるサテライトの発生位置と決定される走査方向との関係について、以下説明する。
図8は、走査方向決定の前処理における判定条件とそれに応じて求まる走査方向との関係を示す図である。説明を簡単にするため、鮮鋭性回復量の0は正に含まれるものとする。本実施形態においては、鮮鋭性回復量の符号に基づいて、ドットオン時の走査方向が決定される。復記録方向における隣接画素と、往記録方向における隣接画素と、の間で鮮鋭性回復量の符号が反転する場合に、処理対象画素のドットオン時の走査方向が往記録方向および復記録方向のうちの一方に決定される。以下、そのように決定する理由について説明する。
図9(a)〜(f)は、鮮鋭性回復量の符号の関係によって走査方向が決定される理由を示すための説明図である。ドットオン時の走査方向の決定にあたっては、往復記録のそれぞれにおいて発生するサテライトの向きが考慮される。サテライトは、本来、記録媒体上に形成されるべきドットではないため、サテライトの画質への影響が最小限に抑制されるように、ドットオン時の走査方向が決定される。
図9(a)、(b)は、それぞれ、往記録方向における主滴とサテライトとの位置関係、及び、復記録方向における主滴とサテライトとの位置関係を示す模式図である。図9(a)において、図中左から右の往記録方向にドットを形成する際(すなわち、ドットオン時)には、サテライトの吐出速度は主滴の吐出速度に比べて遅いため、サテライトは主滴の往記録方向側(右側)に付着する。
一方、図9(b)において、図中右から左の復記録方向にドットを形成する際には、図9(a)の場合と同様、サテライトの吐出速度は主滴の吐出速度に比べて遅いので、サテライトは主滴の復記録方向側(左側)に付着する。これは、往記録の場合とは逆となる。このように、走査方向によって主滴に対するサテライトの付着位置が異なる。なお、本実施形態においては、往記録方向、復記録方向に依らず、サテライトが付着する画素と主滴が付着する画素とは常に隣接することを前提とする。
図9(c)、(d)は、それぞれ、走査方向に対する入力画像の画素値を一次元で表した模式図である。図9(c)、(d)のそれぞれにおいて、入力画像の画素値=「255」はドットを打つ(ON)画素、入力画像の画素値=「0」はドットを打たない(OFF)画素を表す。図9(c)は往記録方向側の濃度が相対的に高いエッジ領域を表しており、図9(d)は復記録方向側の濃度が相対的に高いエッジ領域を表している。
図9(e)、(f)は、それぞれ、図9(c)、(d)の入力画像に対応する鮮鋭性回復量を示す模式図である。図9(e)、(f)のいずれにおいても、入力画像のエッジ領域の濃度が高い側の画素に対して、大きな正の値の鮮鋭性回復量となっている。また、入力画像のエッジ領域の濃度が低い側の画素に対して、絶対値の大きな負の値の鮮鋭性回復量となっている。
図9(c)の画素801に着目して説明する。画素801に対応する鮮鋭性回復量は、図9(e)の符号802である。図9(e)から分かるように、復記録方向における隣接画素の鮮鋭性回復量(符号805)が負で、往記録方向における隣接画素の鮮鋭性回復量(符号806)が正となっている。これは、図8の表の1行目の場合に対応し、このときのドットオン時の走査方向は往記録方向である。つまり、画素801は図9(a)に示した往記録方向でドットオンされ、そのときのサテライトは、画素801の右側(エッジ領域のうち濃度が高い側)に付着する。
一方、図9(d)の画素803に着目すると、画素803に対応する鮮鋭性回復量は、図9(f)の符号804である。図9(f)から分かるように、復記録方向における隣接画素の鮮鋭性回復量(符号807)が正で、往記録方向における隣接画素の鮮鋭性回復量(符号808)が負となっている。これは、図8の表の2行目の場合に対応し、このときのドットオン時の走査方向は復記録方向である。つまり、画素803は図9(b)に示した復記録方向でドットオンされ、そのときのサテライトは、画素803の左側(エッジ領域のうち濃度が高い側)に付着する。
このように、本実施形態では、往記録方向における隣接画素と復記録方向における隣接画素と間で鮮鋭性回復量の符号を比較する。そして、処理対象画素を記録する主滴に対応するサテライトドットが濃度のより高い領域に重複して付着するよう、処理対象画素のドットオン時の走査方向を決定する。これにより、サテライトを濃度がより高い側の領域に付着させることができ、サテライトによる画質への悪影響を低減できる。
(パスデータ入替処理の詳細)
図10(a)〜(c)は、パスデータ入替処理の詳細を説明するための模式図である。図10(a)は、パスデータ入替処理を行う前のパスデータの一例を示している。図10(a)は、4画素×8画素の領域に対する4パス記録における各パスデータを、記録ヘッドのノズル(簡単のためノズル数16個で表記)に対応させて示した模式図であり、各パスにおけるドットON、ドットOFFを示している。図10(a)において、1パス目、3パス目のパスデータが往記録方向(以下、往方向とも言う)で記録され、2パス目、4パス目のパスデータが復記録方向(以下、復方向とも言う)で記録されるものとする。
図10(b)は、前処理部206で決定された走査方向の一例を示したものである。この例においては、中央付近の2列(左から4列目および5列目)の画素の走査方向は、当該画素のドットオン時に当該画素が復方向に走査されるよう決定されている。その他の画素については、前処理段階では走査方向は任意とされている。
図10(c)はパスデータ入替処理後のパスデータであり、図10(a)で示したパスデータ入替処理前のパスデータのうちのいくつかのドットについて、図10(b)で示した走査方向に従ってONとOFFとを入れ替えることで生成されるパスデータである。パスデータ入替処理前のパスデータにおける画素の走査方向と、前処理部206で決定された走査方向とが異なる場合に、ON/OFFの入替処理が実行される。
図10(a)〜(c)の例では、まず画素901、902、903について、入替前のパスデータではドットオン時の走査方向が往方向となっており、前処理部206で決定されたドットオン時の走査方向は復方向(図10(b)の破線の円)であり、両者は異なると判定される。異なると判定された画素901、902、903のそれぞれについて、ドットオン時の走査方向が逆になるように、ドットオンするパスを入れ替える処理が行われる。画素901については、「1パス目で記録」から「2パス目で記録」に変更される。その結果、図10(c)に示されるように、画素901について、1パス目はドットオフで2パス目でドットオンとなる。2パス目でドットオンする場合、画素901のドットオン時の走査方向は復方向であり、前処理部206で決定されたドットオン時の走査方向と一致する。画素902については、「3パス目で記録」から「4パス目で記録」に変更される。その結果、図10(c)に示されるように、画素902について、3パス目はドットオフで4パス目でドットオンとなる。4パス目でドットオンする場合、画素902のドットオン時の走査方向は復方向であり、前処理部206で決定されたドットオン時の走査方向と一致する。画素903については画素902と同様である。上記の処理は、前処理で決定された走査方向とパスデータの走査方向とが異なる画素について、ドットオンするパスを入れ替える処理であると言うこともできる。
パスデータの入替処理は、パス数が偶数である場合、上述のように隣接する偶数パスと奇数パスとの間でドットONを入れ替える処理であってもよい。パス数が奇数の場合は、あるパスとそのパスの直前または直後のパスとの間、あるいは最終パスと先頭パスとの間でドットONを入れ替えてもよい。あるいはまた、パス数が偶数、奇数に関わらず、前処理部206で決定された走査方向となるように、任意のパスとパスとの間で入れ替えを行ってもよい。いずれの方法であれ、最終的に記録されるドット数が保存されるように入れ替えを行う。
(効果)
以下、本実施形態を適用した場合の効果について説明する。ここでは、簡単のため、1パス目で往方向の記録を行い、2パス目で復方向の記録を行う2パスで画像を形成する場合を例として説明する。
図11(a)〜(d)は、本実施形態を適用した場合の効果を従来例と比較して示す説明図である。図11(a)、(b)はそれぞれ、本実施形態における走査方向及び記録されるドットパターンを示す模式図である。図11(a)における符号1001及び符号1002は、前処理部206で決定された走査方向を示している。符号1001の枠で囲まれる領域の全ての画素について、ドットオン時の走査方向は往方向である。符号1002の枠で囲まれる領域の全ての画素について、ドットオン時の走査方向は復方向である。図11(a)の走査方向に従って記録したドットパターンが図11(b)に示される。図11(b)は主滴1003(図中、大きい黒丸)とそれに伴い発生するサテライト1004(図中、小さい黒丸。ドットが重なっている部分は色を濃くしている)を模式的に示している。
一方、図11(c)、(d)はそれぞれ、従来例における走査方向及び記録されるドットパターンを示す模式図である。従来例では、市松模様状のパスマスク(図11(c))に従って記録されたドットパターン(図11(d))が示される。
図11(b)と図11(d)とを比較して分かるように、図11(b)に示されるドットパターンでは、主滴が付着すべきでない領域の画素にサテライトが付着しておらず、エッジ領域が良好に形成されている。これに対して、図11(d)では当該領域の画素のいくつかにサテライトが付着しており、エッジ領域の鮮鋭性が低下している。
なお、本実施形態の効果を簡潔に説明するため、ここでは、比較的エッジ領域の境界がはっきりとしている例を説明した。しかしながら、鮮鋭性回復量はあらゆる入力画像に対して連続値として取得可能であるため、領域の境界が不明瞭な中間調のエッジを含む入力画像に対して本実施形態を適用したとしても、エッジ領域の鮮鋭性を向上することができる。
また、本実施形態では、走査方向において隣接する画素の鮮鋭性回復量を参照することでドットオン時の走査方向を決定するので、所定領域の抽出処理を行う場合と比べて、必要な処理負荷を低減できる。
以上説明したように本実施形態によれば、プリンタの鮮鋭性回復量の符号に基づいて、鮮鋭性回復による補正濃度の高い画像領域にサテライトドットが付着するように、ドットオン時の走査方向を決定する。これにより、従来の所定領域を抽出する方法に比べ、簡易な構成で、境界の不明瞭な領域を含む入力画像に対しても鮮鋭性を向上させることができる。
(変形例)
なお、上述の実施形態では、鮮鋭性回復量として、低周波を補償された画像データと全周波を補償された画像データとの差分画像を用いる例について説明したが、これに限られず、鮮鋭性回復量を加工して用いる構成としてもよい。例えば、鮮鋭性回復量の加算によって入力画素のレンジを超えないように、鮮鋭性回復量(の絶対値)に任意の上限値を設定してもよい。この場合、入力画像から算出した鮮鋭性回復量が該上限値を上回る場合は鮮鋭性回復量を一定値にクリップしてもよい。
あるいはまた、鮮鋭性回復量画像からエッジや細線が抽出され、用いられてもよい。例えば、隣接する二つの画素の間で鮮鋭性回復量の符号が反転する場合、その二つの画素をエッジ画素と判定し、エッジ画素のみパスの入れ替え対象としてもよい。
実施形態では、往記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量の符号と、復記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量の符号と、に基づいて、走査方向を決定する場合を説明した。しかしながら、これに限られず、例えばまずパス分解等により各画素のドットオン時の走査方向を仮決めしてもよい。その後、仮決めされた走査方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量の符号を参照して、走査方向を変更または修正してもよい。この場合、仮決めされた走査方向において処理対象画素の隣接する画素の鮮鋭性回復量の符号が負の時のみ、走査方向を反転するように変更すればよい。
実施形態では、記録ヘッド3がシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクを備える場合を説明したが、インクの種類はこれらに限定されない。例えば、濃度の薄い淡インク、レッドやグリーン等の特色インク、白色インクが用いられてもよい。あるいはまた、無色透明のクリアインクや、金属調のメタリックインクが用いられてもよい。あるいはまた、本実施形態の技術的思想は、記録ヘッド3により吐出されるインクの吐出量が制御可能な構成にも適用できる。但し、白色インクの場合は、走査方向判定が逆となる。
実施形態では、入力画像はRGBのカラー画像としたが、これに限られず、画像の種類は任意でよく、例えばモノクロ画像やCMYK画像であってもよい。また、画像が色以外の情報を含んでもよく、例えば光沢情報を含む画像が入力されてもよい。
実施形態において、各種LUTのビット数、グリッド数、グリッド間の補間方法は任意である。同様に、各種フィルタやディザマトリクスのビット数、サイズは任意である。
実施形態では、ハーフトーン処理部108におけるハーフトーン処理でディザマトリクスが用いられる場合を説明したが、これに限られず、ハーフトーン処理は任意であってもよい。例えば、公知の誤差拡散法やその他のハーフトーン処理方法が用いられてもよい。
実施形態では、パス分解部207におけるパス分解処理でパスマスクを用いる場合を説明したが、これに限られず、パス分解処理の方法は任意であってもよい。例えば、色分解部104においてパス数分の多値画像を生成し、ハーフトーン処理部108で2値化する構成にも、本実施形態の技術的思想を適用可能である。
実施形態では、4パスによるマルチパス記録を用いる場合を説明したが、これに限られず、パス数は任意であってもよい。例えば、往方向の走査と復方向の走査とをそれぞれ少なくとも1回ずつ含む往復記録を行うマルチパス記録方式が用いられてもよい。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、鮮鋭性回復量の符号及び大きさ(絶対値)の両方に基づいて走査方向を決定する。
第1の実施形態では、プリンタ1に起因する鮮鋭性の低下を補償するための鮮鋭性回復量の符号に基づいて、サテライトが濃度のより高い画像領域に付着するように走査方向を決定する例について説明した。第2の実施形態では、例えば、鮮鋭性回復量の符号が同じ場合でも、走査方向を制御した方が良い場合を考える。鮮鋭性回復量は、濃度の補正方向(薄く/濃く)とその補正量(どの程度薄く/濃くするか)とを示している。つまり、符号が同じであっても、濃度の差が維持されるようにサテライトの付着位置を制御すると鮮鋭性を維持、向上することができる。例えば、主滴が付着する画素の両隣の画素のうち、濃度がより濃くなる方または濃度の薄まり方の小さい方の画素にサテライトが付着するように制御すると鮮鋭性の維持、向上に貢献できる。
そこで、本実施形態では、プリンタ1の鮮鋭性回復量の符号のみならず、その大きさ(絶対値)にも基づいて、サテライトが濃度のより高い画像領域に付着するように走査方向を決定する例について説明する。なお、本実施形態と第1の実施形態との主な差異は、走査方向の決定処理であり、その他の部分については第1の実施形態と共通であるから説明を省略する。なお、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、往記録方向、復記録方向に依らず、サテライトが付着する画素と主滴が付着する画素とは常に隣接することを前提とする。
(走査方向決定処理の詳細)
以下、本実施形態における走査方向決定処理の詳細を説明する。図12は、走査方向決定処理における一連の処理の流れを示すフローチャートである。図12において、第1の実施形態の図6と異なる処理ステップは、S1101、S1102、S1103の3つであり、これらの処理ステップのみを説明する。
S1101において、前処理部は、往記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量が正で、かつ、復記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量が正であるかどうかを判定する。判定結果がYesの場合は、処理はS1102に進み、判定結果がNoの場合は、処理はS1103に進む。
S1102において、前処理部は、往記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量の絶対値の大きさが、復記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量の大きさの絶対値以上であるかどうかを判定する。判定結果がYesの場合は、処理はS504に進み、判定結果がNoの場合は、処理はS506に進む。
S1103において、前処理部は、往記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量の絶対値の大きさが、復記録方向において処理対象画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量の大きさの絶対値以上であるかどうかを判定する。判定結果がYesの場合は、処理はS506に進み、判定結果がNoの場合は、処理はS504に進む。
本実施形態において、鮮鋭性回復量の符号及び大きさ(絶対値)を参照する際の処理例は以下の通りである。前処理部は、鮮鋭性回復量を格納するRAMメモリにアクセスし、該量の最上位ビット(MSB)を参照することで符号を取得し、最上位ビット以外を参照することで大きさ(絶対値)を取得する。このとき、符号が負の場合は、反転して1を加算する。あるいはまた、符号が同じ場合の鮮鋭性回復量の大きさ(絶対値)を取得できるその他の手段が用いられてもよい。例えば、符号が負の場合、最上位ビット以外が全て0の場合を除けば、反転するだけで大きさを判定できる。
以上で本実施形態における一連の記録方向決定処理が完了する。
(往復記録でのサテライトの発生位置と決定される走査方向との関係)
本実施形態における、往復記録でのサテライトの発生位置と決定される走査方向との関係について、以下説明する。
図13は、走査方向決定の前処理における判定条件とそれに応じて求まる走査方向との関係を示す図である。説明を簡単にするため、鮮鋭性回復量の0は正に含まれるものとする。図13に示されるように、本実施形態においては、鮮鋭性回復量の符号及び大きさ(絶対値)に基づいて、ドットオン時の走査方向が決定される。第1の実施形態とは異なり、本実施形態では走査方向が任意でパスマスクの走査方向に依存する場合はない。復記録方向の隣接画素と往記録方向の隣接画素とで鮮鋭性回復量の符号が同じであったとしても、鮮鋭性回復量の大きさ(絶対値)の大小関係によって、より適切な走査方向を決定することができる。
なお、鮮鋭性回復量の符号及び大きさ(絶対値)に基づく判定条件は図13の例に限定されず、大きさ(絶対値)の大小に応じて走査方向を決定する条件を詳細化することで走査方向を制御してもよい。例えば、前処理部は、絶対値の差が所定値以下の場合は走査方向を指定しない(走査方向の変更を行わない)よう構成されてもよい。
以上説明したように本実施形態によれば、プリンタの鮮鋭性回復量の符号付きの大きさに基づいて、鮮鋭性回復による補正濃度の高い画像領域にサテライトドットが付着するように、ドットオン時の走査方向を一意に決定する。これにより、従来の所定領域を抽出する方法に比べ、簡易な構成で、境界の不明瞭な領域を含む入力画像に対しても鮮鋭性を向上させることができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、鮮鋭性回復量の大小関係に基づいて走査方向を決定する。
第2の実施形態では、プリンタの鮮鋭性回復量の符号及び大きさ(絶対値)に基づいて、サテライトドットが鮮鋭性回復による補正濃度の高い画像領域に付着するようにドットオン時の走査方向を決定する例について説明した。第3の実施形態では、鮮鋭性回復量の大小関係のみに基づいてドットオン時の走査方向を決定する例について説明する。なお、本実施形態と第1の実施形態および第2の実施形態との主な差異は、走査方向の決定処理であり、その他の部分については第1の実施形態と共通であるから説明を省略する。また、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、往記録方向、復記録方向に依らず、サテライトが付着する画素と主滴が付着する画素とは常に隣接することを前提とする。
(走査方向決定処理の詳細)
以下、本実施形態における走査方向決定処理の詳細を説明する。図14は、走査方向決定処理における一連の処理の流れを示すフローチャートである。図14において、第1の実施形態の図6および第2の実施形態の図12と異なる処理ステップは、S1301であり、この処理ステップのみを説明する。
S1301において、前処理部は、往記録方向において処理対象の画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量が復記録方向において処理対象の画素に隣接する画素の鮮鋭性回復量よりも大きいかどうかを判定する。判定結果がYesの場合は、処理はS504に進み、判定結果がNoの場合は、処理はS506に進む。
以上で本実施形態における一連の走査方向決定処理が完了する。
(往復記録でのサテライトの発生位置と決定される走査方向との関係)
本実施形態における、往復記録でのサテライトの発生位置と決定される走査方向との関係について、以下説明する。
図15は、走査方向決定の前処理における判定条件とそれに応じて求まる走査方向との関係を示す図である。図15に示されるように、本実施形態においては、鮮鋭性回復量の大小関係に基づいて、走査方向が決定される。そのため、第1の実施形態とは異なり、前処理段階では走査方向が任意とされ、パスマスクによって走査方向が決定される画素はない。また、鮮鋭性回復量の大小比較のみという簡易な条件で走査方向を決定することができるので第2の実施形態よりも処理負荷が軽減される。
なお、鮮鋭性回復量の差がある閾値以上の場合のみ走査方向を決定し、差が小さな場合は走査方向を任意としてパスマスクの走査方向に従う構成であってもよい。閾値を調整することで、本実施形態によるサテライトの走査方向の制御の程度を調整することができる。
以上説明したように本実施形態によれば、プリンタの鮮鋭性回復量の大小関係に基づいて、鮮鋭性回復による補正濃度の高い画像領域にサテライトドットが付着するようにドットオン時の走査方向を決定する。これにより、従来の所定領域を抽出する方法に比べ、より簡易な構成で、境界の不明瞭な領域を含む入力画像に対しても鮮鋭性を向上させることができる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、サテライト距離情報を取得し、それに応じて走査方向を決定する。
第1から第3の実施形態では、往記録方向、復記録方向に依らず、サテライトが付着する画素と主滴が付着する画素とは常に隣接することを前提として説明した。第4の実施形態では、サテライトが主滴に対して所定数の画素分離れた位置に付着する場合について説明する。以下、第1から第3の実施形態と共通する部分については説明を省略し、第4の実施形態で追加された構成についてのみ説明する。
(画像形成システムの構成)
図16は、本実施形態による画像形成システムの構成を示したブロック図である。第1の実施形態の図2と異なる構成は、距離格納部212、距離取得部213であり、その他の構成は図2と共通である。
距離格納部212は、サテライトの距離に関する情報を格納する。本実施形態では、距離格納部212には、往記録方向、復記録方向ともに、サテライト距離が2(画素)であることを示す情報が格納されている。
距離取得部213は、距離格納部212に格納されているサテライト距離情報を取得する。本実施形態では、距離取得部213は、往記録方向、復記録方向ともに、サテライト距離が2(画素)であることを示す情報を取得する。
以上説明した構成に従って、画像が形成される。
(走査方向決定処理の詳細)
以下、本実施形態における走査方向決定処理の詳細について説明する。図17は、走査方向決定処理における一連の処理の流れを示すフローチャートである。図17において、第1の実施形態の図6と異なる処理ステップは、S1601、S1602、S1603の3つであり、これらの処理ステップのみを説明する。
S1601において、距離取得部213は、距離格納部212を参照し、サテライト距離情報を取得する。ここでは、往記録方向、復記録方向ともに、サテライト距離が2(画素)である情報が取得される。
S1602において、前処理部206は、往記録方向でサテライトが付着する可能性のある画素の鮮鋭性回復量が正で、復記録方向でサテライトが付着する可能性のある画素の鮮鋭性回復量が負であるかどうかを判定する。サテライトが付着する可能性のある画素とは、S1601で取得したサテライト距離とサテライトの直径とにより決定される1ないし複数の画素である。決定された画素は、サテライトによりその少なくとも一部が覆われる。決定された画素の鮮鋭性回復量は、決定された画素に対応する鮮鋭性回復量の平均値とされる。本実施形態では、サテライト距離が2であるため、処理対象の画素から2画素分離れた画素の鮮鋭性回復量が用いられる。S1602における判定結果がYesの場合は、処理はS504に進み、判定結果がNoの場合は、処理はS1603に進む。
S1603において、前処理部206は、往記録方向でサテライトが付着する可能性のある画素の鮮鋭性回復量が負で、復記録方向でサテライトが付着する可能性のある画素の鮮鋭性回復量が正であるかどうかを判定する。判定結果がYesの場合は、処理はS506に進み、判定結果がNoの場合は、処理はS507に進む。
以上で本実施形態における一連の走査方向決定処理が完了する。
(サテライト離間距離とドット位置との関係)
図18(a)〜(f)は、サテライト距離と往復記録における付着位置との関係を示す模式図である。図18(a)、(b)は、サテライト距離が1の場合における往記録方向及び復記録方向の主滴MDおよびサテライトSTの模式図である。図18(c)、(d)は、サテライト距離が2の場合における往記録方向及び復記録方向の主滴MDおよびサテライトSTの模式図である。図18(e)、(f)は、サテライト距離が3の場合における往記録方向及び復記録方向の主滴MDおよびサテライトSTの模式図である。
図18(a)〜(f)から分かるように、サテライト距離、及び、走査方向によって、主滴MDとサテライトSTとの距離、及びサテライトSTが付着する方向が異なることが分かる。本実施形態においては、S1601でサテライト距離を取得し、往記録方向及び復記録方向でサテライトSTが付着する可能性のある画素を特定し、特定された画素に対応する鮮鋭性回復量の値に基づき走査方向を決定する。これにより、第1から第3の実施形態と同様に、サテライトSTが付着した場合の影響がより少ない領域にサテライトSTが付着するよう制御される。
以上説明したように本実施形態によれば、主滴に隣接する画素以外の画素にサテライトが付着する場合においても、プリンタの鮮鋭性回復量に基づいて、鮮鋭性回復による補正濃度の高い画像領域にサテライトドットが付着するように走査方向が決定される。これにより、従来の所定領域を抽出する方法に比べ、簡易な構成で、境界の不明瞭な領域を含む入力画像に対しても鮮鋭性を向上させることができる。
(変形例)
第4の実施形態では、往記録方向と復記録方向とでサテライト距離が等しい場合を説明したが、これに限られない。例えば、記録ヘッドのフェース面と記録媒体との相対的な傾き等の画像形成時の状態によっては、往記録方向と復記録方向とでサテライト距離が異なる場合がある。そのような場合、往記録方向と復記録方向とで異なるサテライト距離を格納、取得することで、本実施形態の技術的思想を同様に適用できる。その際、往記録方向について取得される鮮鋭性回復量と復記録方向について取得される鮮鋭性回復量とは処理対象の画素に対して非対称となる。
本実施形態では、サテライト距離の単位を画素数とする場合について説明したが、これに限られず、例えばサテライト距離を紙面上での距離(例えばμm)の単位で格納し、取得してもよい。この場合、画素の大きさに対するサテライトにより被覆される部分の割合に応じて鮮鋭性回復量を加重平均することができる。あるいは、鮮鋭性回復量の画素ピッチに応じて、距離を画素数に変換(例えば切り上げ)して用いてもよい。
また、サテライトが複数個発生する場合は、主滴から最も遠いサテライトの主滴からの距離を、サテライト距離として格納、取得し、鮮鋭性回復量を求めることで、本実施形態の技術的思想を同様に適用できる。
(第5の実施形態)
第5の実施形態では、スキャナの鮮鋭性回復量を取得し、走査方向を決定する。
第1から第4の実施形態では、プリンタ1の既知の周波数劣化特性に基づいて算出される鮮鋭性回復量を用いて、ドットオン時の走査方向を決定する例について説明したが、これに限られない。濃度を上げたい方向にサテライトが付着するのであれば、他の鮮鋭性回復量が用いられてもよい。そこで第5の実施形態では、原稿読み取り手段(スキャナ)を備えたプリンタ(いわゆる複合機)による原稿の複写(コピー)を例とする。本実施形態では、原稿読み取り手段の周波数劣化特性から得られた鮮鋭性回復量を用いて、走査方向を決定する。なお、第1から第4の実施形態のいずれかと共通する部分については説明を省略する。
(複合機の構成)
図19は、本実施形態による複合機20の構成を示したブロック図である。複合機20は、原稿読み取り部114と、鮮鋭性回復部110と、鮮鋭性格納部111と、色分解格納部105と、色分解部104と、回復量生成部115と、OPG格納部107と、OPG処理部106と、マトリクス格納部109と、ハーフトーン処理部108と、キャリッジ2と、記録ヘッド3と、給紙機構5と、ヘッド制御部204と、インク色選択部210と、方向制御部201と、を備える。方向制御部201は、パス入替部209と、パス分解部207と、前処理部206と、パスマスク格納部208と、を含む。
複合機20は、原稿読み取り部114から複写対象の画像の画像データを取得する。画像データは8ビットのRGBカラー画像である。
鮮鋭性回復部110は、鮮鋭性格納部111に格納されている鮮鋭性フィルタを用いて、入力された画像データに対する鮮鋭性回復処理を行う。鮮鋭性フィルタは、原稿読み取り部114の空間周波数劣化特性に基づいて設計されている。鮮鋭性回復部110によって補正された画像は、色分解部104及び回復量生成部115へ送出される。
回復量生成部115は、鮮鋭性回復部110で補正された画像データと、補正前の画像データとの差分を計算することで、鮮鋭性回復量を生成する。生成された鮮鋭性回復量は、前処理部206へ送出される。
その他の構成については、第1から第4の実施形態のいずれかと共通であり、説明を省略する。また、本実施形態において、鮮鋭性回復量を取得した後の処理については、第1から第4の実施形態と同様であり、説明を省略する。
以上説明したように本実施形態によれば、原稿読み取り部における空間周波数の劣化特性から得られた鮮鋭性回復量に基づいて、鮮鋭性回復による補正濃度の高い画像領域にサテライトドットが付着するように走査方向が決定される。これにより、従来の所定領域を抽出する方法に比べ、簡易な構成で、境界の不明瞭な領域を含む入力画像に対しても好適に鮮鋭性を向上させることができる。
(第6の実施形態)
第1から第5の実施形態では、鮮鋭性回復量に基づいてドットオン時の走査方向を決定することで鮮鋭性を向上させる場合を説明した。第6の実施形態では、走査方向の決定以外の画像処理に鮮鋭性回復量を用いることで、さらに鮮鋭性を高める。
図20は、本実施形態による画像形成システムの構成を示したブロック図である。第1の実施形態の図2との差違は、高周波生成部112によって生成される鮮鋭性回復量がハーフトーン処理部108にも入力されることであり、その他の構成は図2と共通である。
図21(a)〜(d)は、本実施形態に係るハーフトーン処理部108における補正処理を示す模式図である。図21(a)はOPG処理部106によって処理されハーフトーン処理部108に入力された多値の画像データおよび濃度分布を示す。図21(a)には8画素×8画素の領域が示されており、そのうち左半分は濃度50%の領域であり、右半分は濃度25%(白)の領域である。ハーフトーン処理部108はマトリクス格納部109に格納されているディザマトリクスを用いて図21(a)に示される多値の画像データをハーフトーン処理し、図21(b)に示されるハーフトーンパターンを生成する。ハーフトーン処理は多値を二値に変換する処理であるから、図21(b)の濃度分布のグラフに示されるように、エッジの鮮鋭性が低下する。
図21(c)は高周波生成部112によって生成された鮮鋭性回復量およびその分布を示す。ハーフトーン処理部108は図21(c)に示される鮮鋭性回復量に基づいて図21(b)に示されるハーフトーンパターンを補正する。図21(d)は、鮮鋭性回復量に基づく補正が行われた後のハーフトーンパターンおよび濃度分布を示す。図21(d)の濃度分布のグラフに示されるように、鮮鋭性回復量に基づく補正によりエッジの鮮鋭性が回復している。
以上説明したように本実施形態によれば、鮮鋭性回復量に基づいて画像の鮮鋭性をさらに高めることができる。
以上、実施形態に係る装置の構成と動作について説明した。これらの実施形態は例示であり、その各構成要素や各処理の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。