JP2019085372A - N−アセチルグルコサミントランスフェラーゼを用いた多分岐糖鎖を有するIgG抗体の調製方法 - Google Patents

N−アセチルグルコサミントランスフェラーゼを用いた多分岐糖鎖を有するIgG抗体の調製方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 コアフコ−スの有無にかかわらず、3〜6本鎖といった多分岐糖鎖が結合したIgG抗体を調製する方法を提供すること。【解決手段】 多分岐糖鎖を持つIgG抗体の調製方法であって、以下の工程(1)、工程(2)、工程(3)のいずれかを行うことを特徴とするIgG抗体の調製方法。(1)糖鎖の非還元末端に少なくとも1つのGlcNAcを有する2本鎖複合型糖鎖を持つIgG抗体に対してN−アセチルグルコサミントランスフェラ−ゼ(GnT)を用いてGlcNAcを付加して分岐型糖鎖とする工程(2)工程(1)の後に少なくとも1種の修飾酵素を作用させることによって糖鎖を修飾する工程(3)工程(1)または(2)の後に最終生成物を分離する工程【選択図】図2

Description

本発明は、多分岐糖鎖を有することを特徴とするIgG抗体の調製方法に関する。本発明で表している多分岐糖鎖とは、複合型糖鎖において、キトビオースユニットに結合したマンノース(Man)からα1−3またはα1−6の結合様式で結合したマンノース残基(β1−2の結合様式でN−アセチルグルコサミン[GlcNAc]が結合している)にβ1−4結合、あるいはβ1−6結合したN−アセチルグルコサミンを少なくとも1つ以上有する糖鎖である。
糖タンパク質のN結合型糖鎖には、高マンノース型糖鎖(ジアセチルキトビオース(GlcNAc−GlcNAc)にマンノースのオリゴマーが結合している糖鎖);複合型糖鎖(ジアセチルキトビオースにマンノースおよびN−アセチルグルコサミン、ガラクトース(Gal)、シアル酸(Sia)の少なくとも1つが結合した糖鎖);並びに混合(hybrid)型糖鎖(ジアセチルキトビオースに高マンノース型糖鎖と複合型糖鎖が混成している糖鎖)が存在する。構成糖、鎖長、結合様式等の違いによって様々な種類の糖鎖が存在し得る。
N結合型糖鎖の中には、糖タンパク質の機能発現に関わるものがあり、特に、糖鎖構造の違いが機能発現に重大な影響を及ぼす場合がある。例えば、免疫グロブリンG(Immunoglobulin G, IgG)抗体の場合、297番目のアスパラギン残基にN結合型糖鎖が付加しているが、このアスパラギン残基に直接結合するN−アセチルグルコサミンに、コアフコースとよばれるα1−6結合したフコース(Fuc)が付加していない複合型糖鎖を有するIgG抗体は、非常に高い抗体依存性細胞傷害活性(Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity, ADCC)を示すが、コアフコースが付加した複合型糖鎖を有するIgG抗体は、低いADCC活性を示すことが報告されている(非特許文献1)。
通常、抗体分子には様々な糖鎖が不均一に結合している。現在、がんなどの疾患治療薬(抗体医薬品)として多くの抗体が開発されているが、糖鎖に由来する抗体分子の不均一性は、医薬品としての力価や安定性にも影響を及ぼすことが考えられ、医薬品として十分な品質管理をする上で問題である。
抗体の機能解明の観点から、IgG抗体に均一の糖鎖を結合させる糖鎖リモデリング法が試みられている(非特許文献2,3、特許文献1)。この方法は、最初にIgG抗体のFc領域に結合しているN結合型糖鎖を、エンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼの一種であり、IgG抗体のFc領域の糖鎖を特異的に切断する活性を有するEndoSという酵素(非特許文献4)を用いて切断する。この際、IgG抗体の糖鎖付加部位である297番目のアスパラギンにはN−アセチルグルコサミンが一残基、あるいはコアフコースが結合した二残基が結合している。次に、このIgG抗体をアクセプター基質として、糖鎖の還元末端をオキサゾリン体にした糖鎖オキサゾリンをドナー基質として、EndoSの糖鎖切断活性を抑制し、かつ糖鎖転移活性を保持するグライコシンターゼ化した変異体(EndoS D233A変異体、またはD233Q変異体)を作用させる事によって、IgG抗体へ均一の糖鎖を付加させる。
抗体機能の増強や新規機能の付与などを目指して、上記方法のような糖鎖改変技術を利用して、既存の抗体とは異なる構造をした糖鎖をもつ抗体を創製する試みが行われている(非特許文献5)。例えば、抗体医薬品として利用されているIgG抗体は、おもに2本鎖複合型糖鎖が結合しているが、均一なコアフコースつき3本鎖複合型糖鎖が結合したIgG抗体が調製されている(非特許文献6)。
この調製方法は、まずエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼの一種であるEndoF3をリツキシマブに作用させて、IgG抗体の糖鎖付加部位であるアスパラギンにコアフコースの結合したN−アセチルグルコサミンが残ったIgG抗体を調製する。つぎに、このIgG抗体をアクセプター基質として、均一な3本鎖複合型糖鎖のオキサゾリン体をドナー基質として、EndoF3の糖鎖切断活性を抑制し、かつ糖鎖転移活性を強化させたグライコシンターゼ化した変異体(EndoF3 D165A変異体)を作用させて、3本鎖複合型糖鎖が結合したリツキシマブを調製している。
EndoF3やその変異体は、基質特異性としてコアフコースを有する糖鎖構造に選択的に作用する。したがって、EndoF3やその変異体を用いた上述の糖鎖改変方法では、コアフコースを有しない3本鎖複合型糖鎖が結合したIgG抗体は調製することができない。ADCC活性は、コアフコースが付加していない糖鎖が結合したIgG抗体が高い活性を示すので(非特許文献1)、コアフコースが付加していない3本鎖複合型糖鎖が結合したIgG抗体の調製方法の確立が望まれる。また、これまでに多分岐糖鎖として4本鎖以上の複合型糖鎖が結合したIgG抗体の調製方法は報告されていない。
国際公開公報WO2013/120066号 国際公開公報WO2014/080991号
Toyohide Shinkawa et al., J. Biol. Chem. 278, 3466−3473 (2003) Wei Huang et al., J.Am. Chem. Soc. 134, 12308−12318 (2012) Masaki Kurogochi et al., PLoS One 10, e0132848 (2015) Mattias Collin et al., EMBO J. 20, 3046−3055 (2001) Feng Tang et al., Nat.protoc. 12, 1702−1721 (2017) John P. Giddens et al., J. Biol. Chem. 291, 9356−9370 (2016) Jonathan Sjogren et al., Biochem. J. 455, 107−118 (2013) Kiyotaka Fujita et al., Arch. Biochem.Biophys. 432, 41−49 (2004) Yasunari Eshima et al., PLoS One 10, e0132859 (2015) Chin−Wei Lin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 112, 10611−10616 (2015)
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、前記問題点を解決し、コアフコースの有無にかかわらず、3〜6本鎖といった多分岐糖鎖が結合したIgG抗体を調製する方法を提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、G0型の2本鎖複合型糖鎖(図1参照)が結合したIgG抗体に対し、UDP−GlcNAcを糖供与体としてN−アセチルグルコサミントランスフェラーゼ(GnT)−IVまたはGnT−Vを作用させることによって、IgG抗体上に3本鎖複合型糖鎖が形成されることを見出した。さらに、最初にGnT−IVを作用させた場合にはGnT−Vを、あるいは最初にGnT−Vを作用させた場合にはGnT−IVを後から添加して作用させることにより、IgG抗体上に4本鎖複合型糖鎖が形成されることを見出した。またこのようにしてIgG抗体上に3本鎖または4本鎖複合型糖鎖を形成させた際、EndoSあるいはEndoS2といったエンドグリコシダーゼを作用させる事によって、混在するG0型糖鎖を有するIgG抗体の糖鎖のみを選択的に切断除去することにより、3本鎖または4本鎖複合型糖鎖を有するIgG抗体を容易に分離精製できることを見出して本発明を完成するに至った。
また、IgG抗体上に4本鎖複合型糖鎖を形成させた後に、UDP−GlcNAcを糖供与体としてGnT−IX(GnT−VB)、またはGnT−VIを作用させることによって、IgG抗体上に5本鎖複合型糖鎖が形成されると考えられる。また、5本鎖複合型糖鎖を有するIgG抗体を調製する際、GnT−IX(GnT−VB)を用いた場合には、つぎにGnT−VIを作用させることによって、IgG抗体上に6本鎖複合型糖鎖が形成されると考えられる。同様に、5本鎖複合型糖鎖を有するIgG抗体を調製する際、GnT−VIを用いた場合には、つぎにGnT−IX(GnT−VB)を作用させることによって、IgG抗体上に6本鎖複合型糖鎖が形成されると考えられる。また、G0型の2本鎖複合型糖鎖が結合したIgG抗体に対し、UDP−GlcNAcを糖供与体としてGnT−IIIを作用させることによって、IgG抗体上にbisecting GlcNAc構造をもつ複合型糖鎖を形成することもできる。なお、各N−アセチルグルコサミントランスフェラーゼ(GnT)の反応経路は、図1に示すとおりである。
上記のようにIgG抗体上に3〜6本鎖の複合型糖鎖を形成させた後に、UDP−Galを糖供与体としてガラクトース(Gal)転移酵素を作用させる事によって、糖鎖の非還元末端側に存在しているGlcNAcにGalを結合させて糖鎖を伸長することができる。また、付加したGalに対して、CMP−シアル酸(Sia)を糖供与体としてシアル酸転移酵素を作用させる事によって、糖鎖の非還元末端側に存在しているGalにSiaを結合させて糖鎖を伸長することができる。さらに、アセチル基転移酵素や硫酸転移酵素を作用させることによって、伸長したシアル酸やガラクトースを修飾することもできる。また、GDP−Fucを糖供与体としてフコース(Fuc)転移酵素を作用させる事によって、Fucを結合させた糖鎖を伸長することができる。
すなわち、本発明は、多分岐糖鎖を持つIgG抗体の調製方法であって、以下の工程(1)、工程(2)、工程(3)のいずれかを行うことを特徴とするIgG抗体の調製方法を提供するものである。
(1)糖鎖の非還元末端に少なくとも1つのGlcNAcを有する2本鎖複合型糖鎖を持つIgG抗体に対してN−アセチルグルコサミントランスフェラーゼ(GnT)を用いてGlcNAcを付加して分岐型糖鎖とする工程
(2)工程(1)の後に少なくとも1種の修飾酵素を作用させることによって糖鎖を修飾する工程
(3)工程(1)または(2)の後に最終生成物を分離する工程
また、本発明は、上記IgG抗体の調製方法によって調製した多分岐糖鎖を持つIgG抗体を提供するものである。
本発明によれば、前記問題点を解決し、酵素処理という簡単なステップにより、効率的かつ低コストで、コアフコースの有無にかかわらず、多分岐糖鎖が結合したIgG抗体を調製することができる。また、このようにして調製されたIgG抗体は、「特定の糖鎖構造を有するIgG抗体の機能および安定性」等の検討に利用することができる。
G0型糖鎖に対し、各N−アセチルグルコサミントランスフェラーゼ(GnT)を作用させて多分岐糖鎖を形成させるスキームを示す図である。 多分岐糖鎖を有するIgG抗体の調製方法の概念図である。 G0−リツキシマブに対するGnT−IVによるGlcNAc転移の過程を質量分析で解析した結果を示した図である。GN3(3−)は3価イオンによるシグナルを示す。 G0−リツキシマブに対するGnT−VによるGlcNAc転移の過程を質量分析で解析した結果を示した図である。 G0−リツキシマブに対して、GnT−IV(A)またはGnT−V(B)を作用させてGlcNAcを転移させたとき(0〜135時間)の基質(G0−リツキシマブ)および反応産物(GN3−リツキシマブ)量の変化を質量分析で解析し、定量した結果を示した図である。 G0−リツキシマブに対して、先にGnT−IVを作用させ、次いでGnT−Vを作用させてGlcNAcを転移して4本鎖糖鎖を形成させた場合(A)と、G0−リツキシマブに対して、先にGnT−Vを作用させ、次いでGnT−IVを作用させてGlcNAcを転移して4本鎖糖鎖を形成させた場合(B)の、反応279時間における反応産物の質量分析による解析結果を示した図である。各糖ペプチド(G0、GN3、GN4)の割合はシグナル強度から算出した。 G0F−リツキシマブに対するGnT−IVによるGlcNAc転移の過程を質量分析で解析した結果を示した図である。G0F(3−)は3価イオンによるシグナルを示す。 G1aF−リツキシマブに対するGnT−IVによるGlcNAc転移の過程を質量分析で解析した結果を示した図である。G1aF(3−)は3価イオンによるシグナルを示す。 G1a−リツキシマブに対するGnT−IVによるGlcNAc転移の過程を質量分析で解析した結果を示した図である。 G0F−リツキシマブ(A)、G1aF−リツキシマブ(B)、またはG1a−リツキシマブ(C)に対して、GnT−IVを作用させてGlcNAcを転移させたとき(0〜135時間)の基質(2本鎖複合型糖鎖を有するIgG抗体)および反応産物(3本鎖複合型糖鎖を有するIgG抗体)量の変化を質量分析で解析し、定量した結果を示した図である。 G0−リツキシマブに対して、GnT−IVを作用させてGlcNAcを転移して3本鎖糖鎖を形成させた後(0〜134時間)、各種エンドグリコシダ−ゼを作用させ、糖鎖の切断状況をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動にて解析した結果である。 G0−リツキシマブに対して、GnT−IVを作用させてGlcNAcを転移して3本鎖糖鎖を形成させた後、各種エンドグリコシダ−ゼ処理を施し、その反応産物を質量分析で解析し、定量した結果を示した図である。
以下、本発明の実施態様および実施方法について詳細に説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものでなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
<本発明の多分岐糖鎖を有するIgG抗体の調製方法>
本発明の多分岐糖鎖を有するIgG抗体の調製方法は、以下の工程(1)、工程(2)、工程(3)のいずれかを行うことを特徴とする。
(1)糖鎖の非還元末端に少なくとも1つのGlcNAcを有する2本鎖複合型糖鎖を持つIgG抗体に対してN−アセチルグルコサミントランスフェラ−ゼ(GnT)を用いてGlcNAcを付加して分岐型糖鎖とする工程
(2)工程(1)の後に少なくとも1種の修飾酵素を作用させることによって糖鎖を修飾する工程
(3)工程(1)または(2)の後に最終生成物を分離する工程
上記の多分岐糖鎖を有するIgG抗体の調製方法の例として、G0型糖鎖を有するIgG抗体に対し、N−アセチルグルコサミントランスフェラ−ゼ(GnT)とUDP−GlcNAcを用いて3本鎖糖鎖を形成させ、さらにガラクト−ス転移酵素とUDP−Galを用いて糖鎖を伸長したのち、最終生成物である3本鎖糖鎖を有するIgG抗体を分離精製する工程の概念図を図2に示すが、本発明はこの概念図の例に限定されるものではない。
本明細書中において、「多分岐糖鎖」とは、複合型糖鎖において、キトビオ−スユニットに結合したマンノ−スからα1−3またはα1−6の結合様式で結合したマンノ−ス残基(β1−2の結合様式でGlcNAcが結合している)にβ1−4結合、あるいはβ1−6結合したN−アセチルグルコサミンを少なくとも1つ以上有する糖鎖であり、特にことわりのない限り、全体の糖鎖構造については、構成糖、鎖長および結合様式の違いは問わない。
G0型糖鎖は2本鎖複合型糖鎖の一種であり、図1にその糖鎖構造の模式図を示す。IgG抗体に結合する糖鎖としてG0型糖鎖のみを有するIgG抗体の調製法は、特許文献1、非特許文献2、3などに開示されている。
N−アセチルグルコサミントランスフェラ−ゼ(GnT)とは、酵素番号EC2.4.1.145に分類される酵素で、糖ヌクレオチドであるUDP−GlcNAcを糖供与体として、アクセプタ−となる糖鎖にGlcNAcを転移する活性を有する酵素である。本発明の多分岐糖鎖、特に3本鎖および4本鎖糖鎖を有するIgG抗体の調製に用いるN−アセチルグルコサミントランスフェラ−ゼは、ヒト由来の酵素であり、複合型糖鎖中のキトビオ−スユニットに結合したマンノ−スからα1−3の結合様式で結合したマンノ−ス(β1−2の結合様式でGlcNAcが結合している)に対して、β1−4の結合様式でGlcNAcを転移する活性を有するGnT−IV、および複合型糖鎖中のキトビオ−スユニットに結合したマンノ−スからα1−6の結合様式で結合したマンノ−ス(β1−2の結合様式でGlcNAcが結合している)にβ1−6の結合様式でGlcNAcを転移する活性を有するGnT−Vが特に好ましいが、同様の活性を示す酵素であれば、動植物や微生物由来の酵素を用いても構わない。
また、5本鎖および6本鎖糖鎖を有するIgG抗体の調製に用いるN−アセチルグルコサミントランスフェラ−ゼとしては、ヒト由来の酵素では、複合型糖鎖中のキトビオ−スユニットに結合したマンノ−スからα1−3の結合様式で結合したマンノ−ス(β1−2の結合様式およびβ1−4の結合様式でGlcNAcが結合している)に対して、β1−6の結合様式でGlcNAcを転移する活性を有するGnT−IX(GnT−VB)、および複合型糖鎖中のキトビオ−スユニットに結合したマンノ−スからα1−6の結合様式で結合したマンノ−ス(β1−2の結合様式およびβ1−6の結合様式でGlcNAcが結合している)にβ1−4の結合様式でGlcNAcを転移する活性を有するGnT−VIが特に好ましいが、同様の活性を示す酵素であれば、動植物や微生物由来の酵素を用いても構わない。
さらに、bisecting GlcNAc構造を有するIgG抗体の調製に用いるN−アセチルグルコサミントランスフェラ−ゼは、ヒト由来の酵素であり、複合型糖鎖中のキトビオ−スユニットに結合したマンノ−スに対して、β1−4の結合様式でGlcNAcを転移する活性を有するGnT−IIIが特に好ましいが、同様の活性を示す酵素であれば、動植物や微生物由来の酵素を用いても構わない。
本発明では、上記の工程(2)において、各種修飾酵素を作用させることによって糖鎖を修飾する場合がある。上記のようにしてIgG抗体上に3〜6本鎖の複合型糖鎖を形成させた後に、UDP−ガラクト−ス(Gal)を糖供与体としてガラクト−ス転移酵素を作用させる事によって、糖鎖の非還元末端側に存在しているGlcNAcにGalを結合させて糖鎖を伸長することができる。また、このようにして付加したGalに対して、CMP−シアル酸(Sia)を糖供与体としてシアル酸転移酵素を作用させる事によって、糖鎖の非還元末端側に存在しているGalにSiaを結合させて糖鎖を伸長することができる。さらに、アセチル基転移酵素や硫酸転移酵素を作用させることによって、ガラクト−スやシアル酸を修飾することもできる。また、GDP−フコ−ス(Fuc)を糖供与体としてフコ−ス転移酵素を作用させる事によって、Fucを結合させた糖鎖を伸長することができる。ここで用いる酵素はヒト由来の酵素でも構わないし、同様の活性を示す酵素であれば、動植物や微生物由来の酵素を用いても構わない。
本発明では、上記の工程(3):最終生成物を分離する工程において、エンドグリコシダ−ゼを用いる場合がある。ここで表するエンドグリコシダ−ゼとは、酵素番号EC3.2.1.96に分類されるエンド−β−N−アセチルグルコサミニダ−ゼであって、「『N−アセチルグルコサミン』に結合している糖鎖」を加水分解する酵素である。すなわち、「エンドグリコシダ−ゼ」とは、特定の糖鎖の構造を認識して、該糖鎖ごと切断することができる酵素である。
エンドグリコシダ−ゼの例としては、EndoS、EndoS2、Endo−M、Endo−CCなどがあり、それぞれ非特許文献4、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9に開示されている。このうち、EndoS、EndoS2は3本鎖や4本鎖といった分岐型構造を有するIgG抗体に結合した糖鎖を切断する活性がないが(bisecting GlcNAc構造は除く)、IgG抗体に結合した分岐型構造を持たない糖鎖は切断できる。
基質由来の「分岐型糖鎖を持たないIgG抗体」と最終生成物である「分岐型糖鎖を持つIgG抗体」が、分岐構造を形成している糖鎖分(GlcNAc)しか違わない場合、両者をクロマトグラフィ−操作によって分離するのは困難である場合がある。しかし、基質特異性の高いエンドグリコシダ−ゼを作用させることによって、「分岐型糖鎖を持たないIgG抗体」の糖鎖を切断除去する事によって、その分子量やクロマトグラフィ−における挙動を大きく変化させて、分離を容易にすることができる。
本発明における工程(3)で使用するエンドグリコシダ−ゼとして、上記のような基質特異性を有するEndoSやEndoS2が特に好ましいが、同様の活性を示す酵素であれば、他のエンドグリコシダ−ゼを用いても構わない。
このような他のエンドグリコシダ−ゼとしては、微生物や動植物由来のエンド−β−N−アセチルグルコサミニダ−ゼを遺伝子組換え技術により改変した酵素や、その酵素に各種のタグを付加した酵素などを挙げることができるが、これらはいずれも本発明の範囲に包含されるものである。
上記工程(3)において、最終生成物を分離する工程には、一般的なクロマトグラフィ−操作によって基質由来の「分岐型糖鎖を持たないIgG抗体」と最終生成物である「分岐型糖鎖を持つIgG抗体」を分離し、「分岐型糖鎖を持つIgG抗体」を精製取得する工程が含まれる。一般的なクロマトグラフィ−操作とは、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロ−ス等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィ−法、スルホプロピル(SP)セファロ−ス等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィ−法、ブチルセファロ−ス、フェニルセファロ−ス等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィ−法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティ−クロマトグラフィ−法、クロマトフォ−カシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法のことであり、これらを単独あるいは組み合わせて用い、最終生成物である「分岐型糖鎖を持つIgG抗体」の精製標品を得ることができる。
本発明で提供される調製方法により調製される多分岐糖鎖を有するIgG抗体には、コアフコ−スを有さないIgG抗体およびコアフコ−スを有するIgG抗体が含まれる。また多分岐糖鎖が3本鎖糖鎖から6本鎖糖鎖であるIgG抗体、及びbisecting GlcNAc構造をもつ糖鎖が結合したIgG抗体が含まれる。さらに上記抗体が非キメラ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であるIgG抗体が含まれる。さらに具体的には、トラスツズマブ、リツキシマブ、モガムリズマブといった抗体医薬品として利用されているIgG抗体が含まれる。
以下に記載する実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>コアフコ−スの付加していない3本鎖および4本鎖複合型糖鎖を有するリツキシマブの調製方法
リツキシマブはCD20陽性の非ホジキンリンパ腫などの治療に用いられる抗体医薬品である。リツキシマブに結合する糖鎖の大部分(95%以上)にはコアフコ−スが付加している(www.afiscientifica.it/all/BERNAREGGI SESSIONE II.pdf)。このコアフコ−スを有するリツキシマブに3本鎖複合型糖鎖を結合させる方法は公知であるが(非特許文献6)、コアフコ−スの付加していない3本鎖あるいは4本鎖の糖鎖を有するIgG抗体の調製方法は知られていない。本発明ではこの課題の克服のため、コアフコ−スの有無によらない多分岐糖鎖を有するIgG抗体の調製方法の確立に取り組んだ。
リツキシマブにEndoSとフコシダ−ゼを作用させて、コアフコ−スの付加していないリツキシマブの抗体アクセプタ−を調製する方法が開示されている(非特許文献10)。この方法を参考にして、本発明者らもコアフコ−スの付加していないリツキシマブの抗体アクセプタ−を調製した。また従来技術(非特許文献2,3、特許文献1)を利用して、この抗体アクセプタ−にG0型の2本鎖複合型糖鎖を結合させ、コアフコ−スの付加していないG0型糖鎖のみを有するリツキシマブ(G0−リツキシマブ)を調製した。
ヒトのN−アセチルグルコサミントランスフェラ−ゼ(GnT)−IVおよびGnT−Vは、シスメックス株式会社に依頼して、N末端側にFLAG−tag(Sigma−Aldrich)を付加した形でカイコに生産させ、そのカイコの抽出物上清より、DDDDK−tagged Protein PURIFICATION GEL(MBL)を用いてアフィニティ−精製した。
上記G0−リツキシマブ(100μg)とGnT−IV(4.15μg)、あるいはGnT−V(0.56μg)を25mM MOPS緩衝液(pH7.4)、10mM UDP−GlcNAc、5mM MnCl、25mM NaClの溶液中(30μL)で37℃、192時間、振盪しながら反応させた。この際、反応状況を確認するため、0、24、48、135時間の各時間に5μLずつサンプリングし、質量分析による解析を行った。質量分析による解析は、抗体(15μg)を50mM炭酸水素アンモニウム水溶液(37.5μl)に溶かして、100℃で15分間加熱した後に、シ−クエンスグレ−ドのトリプシン(Roche社製、0.5μg)を加えて、37℃で12時間反応させた。その反応溶液を、Zorbax 300SB−C18 1.0×150mm カラムを繋げたThermoScientific製LC−ESI MS装置(Ultimate3000+VelosPro)を用いてMS測定を行い、ペプチド鎖(EEQYNSTYR)及びそのペプチド鎖に糖鎖(G0及びGN3)が結合した糖ペプチドのイオンをモニタリングしてイオン量より、各種のモル量を計算し、反応を追跡した。
その結果、GnT−IVとG0−リツキシマブを反応させた場合(反応液1)には、反応時間の経過とともに3本鎖糖鎖(GN3型糖鎖)を有するIgG抗体の割合が増加していくことが判明した。質量分析に供した抗体由来の全糖ペプチドの割合を100%としたとき、反応135時間時には、3本鎖糖鎖を有する糖ペプチドの割合がそのうちの25.3%になった(図3A、図4)。また、GnT−VとG0−リツキシマブを反応させた場合(反応液2)も反応時間の経過とともに3本鎖糖鎖を有するIgG抗体の割合が増加していくことが判明した。質量分析に供した抗体由来の全糖ペプチドの割合を100%としたとき、反応135時間時には、3本鎖糖鎖を有する糖ペプチドの割合がそのうちの5.88%になった(図3B、図4)。
さらに、反応192時間時に、反応液1にGnT−V(0.56μg)と0.2M UDP−GlcNAc,1μLを添加し、その後、279時間まで反応させた。また、同じく反応192時間時に、反応液2にGnT−IV(4.15μg)と0.2M UDP−GlcNAc,1μLを添加し、その後、279時間まで反応させた。そして反応279時間時の反応産物について質量分析による解析を行った。質量分析による解析は、抗体(15μg)を50mM炭酸水素アンモニウム水溶液(37.5μl)に溶かして、100℃で15分間加熱した後に、シ−クエンスグレ−ドのトリプシン(Roche社製、0.5μg)を加えて、37℃で12時間反応させた。その反応溶液を、Zorbax 300SB−C18 1.0×150mm カラムを繋げたThermoScientific製LC−ESI MS装置(Ultimate3000+VelosPro)を用いてMS測定を行い、ペプチド鎖(EEQYNSTYR)及びそのペプチド鎖に糖鎖(G0,GN3及びGN4)が結合した糖ペプチドのイオンをモニタリングしてイオン量より、各種のモル量を計算し、反応を追跡した。
その結果、質量分析に供した抗体由来の全糖ペプチドの割合を100%としたとき、反応液1における4本鎖糖鎖を有する糖ペプチド(GN4)の割合は6.13%、3本鎖糖鎖を有する糖ペプチド(GN3)の割合は27.35%、未反応のG0型糖鎖を有する糖ペプチドの割合は66.39%、糖鎖が切断されてGlcNAcのみが結合したペプチド(Pep+Gn)の割合は0.2%であった(図5A)。また、反応液2における4本鎖糖鎖(GN4)を有する糖ペプチドの割合は4.9%、3本鎖糖鎖(GN3)を有する糖ペプチドの割合は36.88%、未反応のG0型糖鎖を有する糖ペプチドの割合は58.18%、糖鎖が切断されてGlcNAcのみが結合したペプチド(Pep+Gn)の割合は0.27%であった(図5B)。以上の結果から、いずれの反応液においても4本鎖糖鎖を有するIgG抗体の存在が確認できたといえる。
上記のようにして調製した3本鎖糖鎖あるいは4本鎖糖鎖を有するIgG抗体に対し、さらにGnT−VI、GnT−IX(GnT−VB)を作用させて分岐鎖を増やすことや、ガラクト−ス転移酵素、シアル酸転移酵素、フコ−ス転移酵素などを作用させて糖鎖を伸長させることや、アセチル基転移酵素、硫酸転移酵素といった修飾酵素を作用させて糖鎖にアセチル基や硫酸基を導入することも可能であり、多分岐糖鎖の構造バリエ−ションを増やすことができる。
<実施例2>G0F、G1aFまたはG1a型の2本鎖複合型糖鎖が結合したリツキシマブから3本鎖複合型糖鎖を有するリツキシマブを調製する方法
多分岐糖鎖を有するIgG抗体の調製方法として、図1と図2にはコアフコ−スが付加していないG0型糖鎖を有するIgG抗体を出発材料とした方法を例示している。また実施例1ではコアフコ−スが付加していないG0型糖鎖が結合したリツキシマブを出発材料とした3本鎖および4本鎖複合型糖鎖を有するリツキシマブの調製方法を示した。実施例2では、コアフコ−スが付加しているG0型糖鎖を有するIgG抗体、およびG0型糖鎖以外の糖鎖を有するIgG抗体を出発材料とした3本鎖複合型糖鎖を有するIgG抗体の調製方法を示す。
リツキシマブにEndoSを作用させて、コアフコ−スの付加しているリツキシマブの抗体アクセプタ−を調製した。また従来技術(非特許文献2,3、特許文献1)を利用して、この抗体アクセプタ−にG0型の2本鎖複合型糖鎖を結合させ、コアフコ−スの付加しているG0型糖鎖のみを有するリツキシマブ(G0F−リツキシマブ)を調製した。
コアフコ−スの付加しているリツキシマブの抗体アクセプタ−とコアフコ−スの付加していないリツキシマブの抗体アクセプタ−を上記の方法で調製し、従来技術(非特許文献2,3、特許文献1)を利用して、これらの抗体アクセプタ−にG1a型の2本鎖複合型糖鎖を結合させ、コアフコ−スの付加しているG1a型糖鎖のみを有するリツキシマブ(G1aF−リツキシマブ)、およびコアフコ−スの付加していないG1a型糖鎖のみを有するリツキシマブ(G1a−リツキシマブ)を調製した。
上記G0F−リツキシマブ、G1aF−リツキシマブ、G1a−リツキシマブ(各100μg)とGnT−IV(各抗体に対しそれぞれ4.15μg使用)を25mM MOPS緩衝液(pH7.4)、10mM UDP−GlcNAc、5mM MnCl、25mM NaClの溶液中(30μL)で37℃、135時間、振盪しながら反応させた。この際、反応状況を確認するため、0、24、48、135時間の各時間に5μLずつサンプリングし、質量分析による解析を行った。質量分析による解析は、抗体(15μg)を50mM炭酸水素アンモニウム水溶液(37.5μl)に溶かして、100℃で15分間加熱した後に、シ−クエンスグレ−ドのトリプシン(Roche社製、0.5μg)を加えて、37℃で12時間反応させた。その反応溶液を、Zorbax 300SB−C18 1.0×150mm カラムを繋げたThermoScientific製LC−ESI MS装置(Ultimate3000+VelosPro)を用いてMS測定を行い、ペプチド鎖(EEQYNSTYR)及びそのペプチド鎖に糖鎖(G0及びGN3)が結合した糖ペプチドのイオンをモニタリングしてイオン量より、各種のモル量を計算し、反応を追跡した。
その結果、GnT−IVとG0F−リツキシマブを反応させた場合には、反応時間の経過とともに3本鎖糖鎖(GN3F型糖鎖)を有するIgG抗体の割合が増加していくことが判明した。質量分析に供した抗体由来の全糖ペプチドの割合を100%としたとき、反応135時間時には、3本鎖糖鎖を有する糖ペプチドの割合がそのうちの4.53%になった(図6、図9A)。また、GnT−IVとG1aF−リツキシマブを反応させた場合も反応時間の経過とともに3本鎖糖鎖を有するIgG抗体の割合が増加していくことが判明した。質量分析に供した抗体由来の全糖ペプチドの割合を100%としたとき、反応135時間時には、3本鎖糖鎖を有する糖ペプチドの割合がそのうちの2.95%になった(図7、図9B)。さらに、GnT−IVとG1a−リツキシマブを反応させた場合も反応時間の経過とともに3本鎖糖鎖を有するIgG抗体の割合が増加していくことが判明した。質量分析に供した抗体由来の全糖ペプチドの割合を100%としたとき、反応135時間時には、3本鎖糖鎖を有する糖ペプチドの割合がそのうちの10.82%になった(図8、図9C)。以上の結果から、いずれの反応液においても3本鎖糖鎖を有するIgG抗体の存在が確認できたといえる。
上記のようにして調製した3本鎖糖鎖を有するIgG抗体に対し、さらにGnT−V、GnT−VI、GnT−IX(GnT−VB)を作用させて分岐鎖を増やすことや、ガラクト−ス転移酵素、シアル酸転移酵素、フコ−ス転移酵素などを作用させて糖鎖を伸長させることや、アセチル基転移酵素、硫酸転移酵素といった修飾酵素を作用させて糖鎖にアセチル基や硫酸基を導入することも可能であり、多分岐糖鎖の構造バリエ−ションを増やすことができる。
<実施例3>最終生成物である分岐型糖鎖を有するIgG抗体から基質由来の分岐型糖鎖を有しないIgG抗体を除去する方法
3本鎖糖鎖や4本鎖糖鎖といった分岐構造のある糖鎖が結合したIgG抗体の溶液中に、基質に由来する2本鎖複合型糖鎖のような分岐構造のない糖鎖が結合したIgG抗体が混入していると、最終生成物である分岐型糖鎖を有するIgG抗体を精製単離する際に妨げとなる可能性がある。そこで、最終生成物である分岐型糖鎖を有するIgG抗体をより容易に精製できるようにするため、基質由来の分岐構造を有しないIgG抗体を除去する方法を開発した。
上記と同様にして、G0−リツキシマブ(590μg)とGnT−IV(16.6μg)、を25mM MOPS緩衝液(pH7.4)、10mM UDP−GlcNAc、5mM MnCl、25mM NaClの溶液中(70μL)で37℃、134時間、振盪しながら反応させた。質量分析により反応産物の解析を行ったところ、反応134時間時には3本鎖糖鎖を有するIgG抗体由来の糖ペプチドの割合が48.3%、未反応のG0型糖鎖を有するIgG抗体由来の糖ペプチドの割合が51.7%であった。
この反応産物2μLに対して、EndoS(3.5μg)を加え、反応液量を水で10μLにして、37℃、4時間反応させた。また、EndoS2、Endo−CC、Endo−M、EndoF3についても同様の反応液を調製して(ただし、Endo−M、EndoF3については100mMリン酸緩衝液[pH6.5]を使用してpH6.5に調整した)、酵素反応を実施した。反応終了後、反応液0.5μL分をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、残りの反応液を質量分析によって解析した。
図10にSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動による解析結果を示す。図の50kDa近傍に見られるバンドが抗体重鎖であり、25kDa近傍に見られるバンドが抗体軽鎖である。EndoSあるいはEndoS2と反応させた場合、明瞭な2本の抗体重鎖バンドが認められる。このうち、分子量が大きいバンドは糖鎖が結合したままの抗体重鎖であり、分子量が小さいバンドは糖鎖が切断された抗体重鎖のものであると考えられる。またEndo−CCあるいはEndo−Mと反応させた場合も、EndoSあるいはEndoS2と反応させた場合と比べると少ないものの、糖鎖が切断された抗体由来のバンドが認められた。一方、EndoF3と反応させた場合は、糖鎖が切断された抗体由来のバンドは、泳動パタ−ンからは認められなかった。
酵素処理により切断された糖鎖と切断されなかった糖鎖の質量分析による定量的な解析結果を図11に示す。EndoSあるいはEndoS2と反応させた場合、G0型糖鎖はほとんど切断され(G0型糖鎖の残存1.4〜1.5%)、糖鎖が切断された抗体(pep+Gn)(約49%)に変換されたが、量的に3本鎖糖鎖(GN3)は切断されずに抗体に結合したままであった。またEndo−CCあるいはEndo−Mと反応させた場合、G0型糖鎖の一部(〜15%)が切断されて糖鎖が切断された抗体(pep+Gn)(約15%)に変換された結果、G0型糖鎖をもつ抗体(G0):3本鎖糖鎖をもつ抗体(GN3):糖鎖が切断された抗体(pep+Gn)の割合は、35:50:15程度の割合になった。なおEndoF3は、コアフコ−スを有する糖鎖を選択的に切断するという基質特異性を有している為、質量分析による定量的な解析において糖鎖が切断された抗体(pep+Gn)の検出もされず、G0型とGN3型の両方共に糖鎖の切断は検出されなかった。
上記のように、3本鎖糖鎖のような分岐型糖鎖を有するIgG抗体とG0型糖鎖のような分岐型糖鎖を有しないIgG抗体が共存する場合、反応性が高く基質特異性のあるEndoSあるいはEndoS2で処理することにより、分岐型糖鎖を有しないIgG抗体から糖鎖を効率よく切断除去することができる。これによって、基質由来の分岐型糖鎖を有しないIgG抗体と最終生成物である分岐型糖鎖を有するIgG抗体の分子量の違いが広がるとともに、糖鎖に由来するカラム担体との相互作用にも違いが生じ、カラムクロマトグラフィ−において両者をより容易に分離できると予想される。
本発明は、3〜6本鎖糖鎖といった多分岐糖鎖を有するIgG抗体を調製、製造することができる。したがって、特定構造の多分岐糖鎖を有するIgG抗体の機能や安定性の検討、およびそれらの改善、純品の標品としての使用が可能になるので、医薬品業界等において利用可能である。

Claims (9)

  1. 多分岐糖鎖を持つIgG抗体の調製方法であって、以下の工程(1)、工程(2)、工程(3)のいずれかを行うことを特徴とするIgG抗体の調製方法。
    (1)糖鎖の非還元末端に少なくとも1つのGlcNAcを有する2本鎖複合型糖鎖を持つIgG抗体に対してN−アセチルグルコサミントランスフェラ−ゼ(GnT)を用いてGlcNAcを付加して分岐型糖鎖とする工程
    (2)工程(1)の後に少なくとも1種の修飾酵素を作用させることによって糖鎖を修飾する工程
    (3)工程(1)または(2)の後に最終生成物を分離する工程
  2. 上記糖鎖の非還元末端に少なくとも1つのGlcNAcを有する2本鎖複合型糖鎖がコアフコ−スを有さない、またはコアフコ−スを有する請求項1に記載のIgG抗体の調製方法。
  3. 上記多分岐糖鎖が3本鎖、4本鎖、5本鎖、または6本鎖である請求項1または請求項2に記載のIgG抗体の調製方法。
  4. 上記多分岐糖鎖がbisecting GlcNAc構造を含む請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のIgG抗体の調製方法。
  5. 上記工程(2)で上記少なくとも1種の修飾酵素がガラクト−ス転移酵素であり、糖鎖の非還元末端にガラクト−スを結合して伸長する工程である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載のIgG抗体の調製方法。
  6. 上記工程(2)で上記少なくとも1種の修飾酵素がガラクト−ス転移酵素とシアル酸転移酵素であり、糖鎖の非還元末端にガラクト−スを結合させた後、シアル酸を結合して伸長する工程である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載のIgG抗体の調製方法。
  7. 上記IgG抗体が非ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のIgG抗体の調製方法。
  8. 上記IgG抗体がトラスツズマブ、リツキシマブ、またはモガムリズマブである請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載のIgG抗体の調製方法。
  9. 請求項1ないし請求項8の何れかの請求項に記載のIgG抗体の調製方法によって調製した多分岐糖鎖を持つIgG抗体。
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