JP2019077629A - 抗がん剤及び新規医薬のスクリーニング方法 - Google Patents

抗がん剤及び新規医薬のスクリーニング方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2019077629A
JP2019077629A JP2017204777A JP2017204777A JP2019077629A JP 2019077629 A JP2019077629 A JP 2019077629A JP 2017204777 A JP2017204777 A JP 2017204777A JP 2017204777 A JP2017204777 A JP 2017204777A JP 2019077629 A JP2019077629 A JP 2019077629A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
hnf4α
cancer
activation
cells
administration
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2017204777A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2019077629A5 (ja
Inventor
山下 太郎
Taro Yamashita
太郎 山下
周一 金子
Shuichi Kaneko
周一 金子
政夫 本多
Masao Honda
政夫 本多
元治 清木
Motoharu Seiki
元治 清木
岡田 光
Hikari Okada
光 岡田
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kanazawa University NUC
Kowa Co Ltd
Original Assignee
Kanazawa University NUC
Kowa Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kanazawa University NUC, Kowa Co Ltd filed Critical Kanazawa University NUC
Priority to JP2017204777A priority Critical patent/JP2019077629A/ja
Publication of JP2019077629A publication Critical patent/JP2019077629A/ja
Publication of JP2019077629A5 publication Critical patent/JP2019077629A5/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Landscapes

  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
  • Acyclic And Carbocyclic Compounds In Medicinal Compositions (AREA)

Abstract

【課題】抗がん作用が報告されていたぺレチノインと抗がん作用との関係は報告されているものの、その標的物質について明らかではなく、有効な抗がん治療につなげることが困難であった。【解決手段】ポリプレノイン酸(PA)又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、がんの発症又は再発の予防のための医薬であって、HNF4α発現細胞を有するがんを対象とする、上記医薬を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、がんの発症又は再発の予防のための医薬に関し、より具体的には、肝細胞転写因子4α(HNF4α)を発現する患者を対象として選択して投与される医薬に関する。本発明はまた、組織再生のための医薬に関する。本発明は更に、HNF4αに対する活性化又は不活性化作用を検出することを特徴とする、新規医薬のスクリーニング方法に関する。
肝臓は糖代謝、脂質代謝、アミノ酸代謝、薬物代謝など生体の維持に必須の器官である。これらの代謝機能は核内レセプターと呼ばれる転写因子により発現誘導される多くの遺伝子群により調節を受けている。
肝細胞では肝細胞転写因子4α(HNF4α)と呼ばれる核内レセプターが発現している。HNF4αは肝臓における様々な代謝酵素及びタンパク質の合成等を司ることから、肝臓のマスターレギュレーターと呼ばれている(非特許文献1)。しかしながら、HNF4αは長らくオーファンレセプターとして知られ、内在性リガンドとしては過去に脂肪アシル-CoAチオエステル及びリノール酸が報告されているが、それらにHNF4αの活性化作用は認められていない(非特許文献2及び3)。
一方、非環式レチノイドの1種であるぺレチノインは、抗がん作用を有することが報告されており、肝細胞がんに対しても分岐鎖アミノ酸との組合せで効果を有すると報告されている(特許文献1及び2)。
特開昭56-140949号 WO 2012/020785号
Curr. Opin. Pharmacol. 10, 698-705, 2010 Herz R et al., Nature 392, 512-516, 1998 Yuan et al., PLoS One 4, e5609, 2009
HNF4αを活性化する薬剤は機能低下した肝細胞の働きを助ける作用が期待される。しかしながら、これまでにHNF4αを活性化する化合物は見出されていなかった。すなわち、HNF4αに対するリガンドについて、明らかな知見は得られておらず、HNF4αに結合するだけでなく、これを活性化させることができる物質は知られていなかった。一方で、ぺレチノインと抗がん作用との関係は報告されているものの、その標的物質について明らかではなく、有効な抗がん治療につなげることが困難であった。
本発明者等は、上記課題に対して種々検討を重ねてきた結果、従来ペレチノインと呼ばれてきたポリプレノイン酸(polyprenoic acid、以下PAとも記載する)にHNF4αを活性化する作用(アゴニスト作用)があることを見出した。この活性化作用はHNF4αに結合する内因性リガンドであるリノール酸では認められなかった。本発明者等は更に、ポリプレノイン酸の代謝産物であるM-26は逆にHNF4αを不活性化する作用(アンタゴニスト作用)を示すことを見出した。そして、NHF4αの活性化及び不活性化作用を有する物質が、それぞれ特有の効果をもたらし、アゴニスト作用を有する物質がHNF4αを発現するがんの再発を抑制し、一方、アンタゴニスト作用を有する物質が細胞増殖効果に基づく組織の再生に寄与し得ることも見出した。
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
1. 以下の構造を有するポリプレノイン酸(Polyprenoic acid、PA)
Figure 2019077629
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、がんの発症又は再発の予防のための医薬であって、HNF4α発現細胞を有するがんを対象とする、上記医薬。
2. がんが肝がんである、上記1記載の医薬。
3. 患者が前がん病変を有する患者である、上記1又は2記載の医薬。
4. 以下の構造を有する化合物:
Figure 2019077629
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、組織再生剤。
5. 肝不全患者又は肝組織切除後の患者を対象として投与される、上記4記載の組織再生剤。
6. 肝細胞転写因子4α(HNF4α)活性化作用又は不活性化作用を有する薬剤のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
被験物質をin vitroにおいてHNF4α発現細胞と接触させるステップ、及び
被験物質とHNF4αとの結合に基づくHNF4αの活性化又は不活性化を検出するステップ
を含む、上記スクリーニング方法。
7. 活性化又は不活性化の検出が、HNF4α量の減少又は増加の検出である、上記6記載の方法。
8. HNF4α量の減少又は増加を、抗HNF4α抗体を用いて検出する、上記7記載の方法。
9. HNF4α発現細胞が、HNF4αをコードするポリヌクレオチドの導入によってHNF4αの発現を誘導した細胞である、上記6〜8のいずれか記載の方法。
10. HNF4αを、検出のためのマーカーと結合して発現させる、上記9記載の方法。
11. 活性化の陽性対照として以下の構造を有するポリプレノイン酸(PA)
Figure 2019077629
又はその塩若しくは溶媒和物を使用する、上記6〜10のいずれか記載の方法。
本発明により、従来は投与対象者が明確でなかったために高い効果が認められなかったポリプレノイン酸について、HNF4αの発現に基づいて投与対象者を選択することで、顕著に高い抗がん作用を得ることができる。一方、HNF4αに対してアンタゴニスト作用を有する化合物は、組織切除後の再生剤として有効である。
また、本発明により、HNF4αの発現を制御する化合物を探索するスクリーニングシステムを得ることができ、HNF4αを標的とした新たな創薬の創出が可能となる。
図1aは、RXRα及びHNF4αに対するリノール酸(LA、100μM)及びPA(100μM)のin vitroでの結合を示す。P<0.05。図1bは、野生型HNF4α(WT)及び3種の変異体(V255M、E285Q、I314F)に対するPA(100μM)の結合を示す。P<0.05。 図2aは、KH#3細胞におけるHNF4αのウェスタンブロットによる検出を示す。LA(30μM及び300μM)及びATRA(10μM)の添加では対照と比較して変化が認められなかったが、PA(10μM)の添加によってHNF4α量が減少している。図2bは、PA(10μM)によるHNF4αの減少がMG132(10μM)の添加により抑制されることを示す。 図3aは、KH#3細胞へのPA及びATRAの添加により、HNF4α標的遺伝子であるトランスサイレチン(TTR)の発現が誘導されることを示す。図3bは、H4ルシフェラーゼアッセイの結果を示す。 HNF4α-GFP発現細胞を用いたタイムラプスイメージングの結果を示す。PA(10μM)の添加により、核内での蛍光シグナルが減弱している。 図5aは、KH#3細胞におけるHNF4αのウェスタンブロットによる検出を示す。PA(10μM)の添加ではHNF4α量が減少するが、PAの代謝産物であるM-26(10μM)の添加ではHNF4α量が増加していることが示される。図5bは、H4ルシフェラーゼアッセイの結果、M-26がPAとは逆にHNF4α活性を抑制すること、及びPAがBI6015のアンタゴニスト作用を抑制することが示される。 KH#3細胞の増殖をPAが阻害すること、及びM-26が促進することを示す。 図7aは、PDGF-C Tgマウスの肝腫瘍が経時的に増大することをGd-EOB-DTPA造影MRIにより示す。矢印は腫瘍部位を示す。 図7bは、PDGF-C TgマウスのL1、T1、T2及びT3から得た組織切片のH&E染色及び免疫組織化学染色の結果を示す。PDGF-C Tgマウスでは経時的にHNF4αの発現が減少し、薬物トランスポーターの発現も低下し、腫瘍マーカーであるAFPは60週齢で発現した。 図8aは、32週齢又は52週齢のPDGF-C Tgマウスに対してPAを8週間投与した結果をGd-EOB-DTPA造影MRIにより示す。PA投与によりいったん出現したマウス肝がんの一部で消失、縮小、薬物トランスポーターの再活性化が認められる。 図8bは、図8aの結果を腫瘍体積変化のグラフで示す。上図は32週からPA投与を行った群及び対照群、下図は52週からPA投与を行った群及び対照群のマウス毎の腫瘍体積変化を示す。 図8cは、PAによる抗腫瘍効果が認められた肝がん(T4)及びPAによる効果が認められなかった肝がん(T5)から得た組織切片のH&E染色及び免疫組織化学染色の結果を示す。T4ではHNF4αが発現しているが、T5ではHNF4α発現は認められなかった。 いずれも60週齢のPDGF-C TgマウスでのT3(PA未処理)、T4及びT5(PA処理)組織の細胞における遺伝子変異の数を調べた結果を示す。 KH#3細胞にPA(10μM)又はM-26(10μM)を添加して培養した後、DNA依存性タンパク質キナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs)、リン酸化DNA-PKcs(P-DNA-PKcs S2056)、リン酸化チェックポイントキナーゼ1(P-Chk1 S345)、リン酸化チェックポイントキナーゼ2(P-Chk2 T68)、リン酸化ヒストンH2AX(γ-H2AX)、及びβ-アクチンについてイムノブロット解析を行った結果を示す。PAの添加により、Chk2が活性化し、DNA-PK csのリン酸化が増大していることが確認されたが、この効果はM-26では観察されなかった。 肝細胞がん(HCC)の再発に対するPAの抑制効果を示す。a:プラセボ投与群(n=111)及びPA投与群(n=111)におけるHCCの再発率をカプラン-マイヤー曲線で示す。b:プラセボ投与群及びPA投与群における前がん病変からのHCCの発症率をカプラン-マイヤー曲線で示す。
[がんの発症又は再発の予防のための医薬]
本発明は、以下の構造を有するPA
Figure 2019077629
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、がんの発症又は再発の予防のための医薬を提供する。
PAは脂肪酸に類似した小分子化合物であり、3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸の化学名を有する。PAは、例えば特開昭56-140949号に記載された方法によって合成することができる。また、興和株式会社からぺレチノインとして入手することもできる。
PAの塩としては、特に限定するものではないが、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸等の無機酸、酢酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の薬学的に許容される塩が挙げられる。
また、PAの溶媒和物としては、水、又は生理的に許容されるエタノール等との溶媒和物、例えば水和物が挙げられる。
当業者であれば、PAの製剤化において、保存中の安定性や投与形態、安全性等を考慮して、好適な塩として調製し、使用することができる。
上記した通り、HNF4αは、様々な機能に関わる核内レセプターであるが、これに結合するだけでなく、その作用を活性化するアゴニストについては従来知られていなかった。HNF4αについては複数のアイソフォームの存在が知られており、それぞれのアミノ酸配列についてはNCBI等のデータベースに収載され、また国際公開 WO 2006/006583号等にも開示されている。また、HNF4αとリノール酸等との結合解析から、HNF4αのリガンド結合ドメインはアミノ酸140〜380番目のアミノ酸の領域にあることが報告されている。
本発明者等は、組換えタンパク質を用いた結合解析から、PA及びリノール酸(LA)がいずれも、従来これらのレセプターとして想定されていたレチノイドX受容体α(RXRα)よりもHNF4αにより強く結合すること(図1a)、及びリガンド結合領域に変異を入れたHNF4α V255Mではその結合が減弱すること(図1b)を見出した。そこで、本発明者等が独自に確立した肝がん細胞株KH #3細胞、および内因性脂質の影響を排除するために脂質を除去した1%ウシ血清含有DMEM培地を用いて、HNF4αのタンパク質量について検討を行った。
その結果、PAに特異的にHNF4αタンパク質では12時間で著しい分解が認められた(図2a)。LA及びオールトランスレチノイン酸(ATRA)ではこの作用は認められなかった。さらに、この分解はプロテアソーム阻害剤であるMG132投与により抑制されたことから(図2b)、核内受容体の活性化とそれに引き続くプロテアソーム分解を反映していると考えられた。核内受容体はリガンド結合及び活性化後にユビキチン-プロテアソームシステムによって分解されることが知られているが(FEBS Lett. 590, 908-923 (2016))、HNF4αの活性化とそれに引き続く分解が示されたのはこれが初めてである。
本発明者等はまた、前がん病変(腺腫様過形成、DN)から経時的に肝細胞がん(HCC)を発症する血小板増殖因子-C(PDGF-C)トランスジェニック(Tg)マウスを用い、PA投与により腫瘍が顕著に縮小する場合と効果が低い若しくはない場合とがあることを確認し、これらが腫瘍におけるHNF4αの発現と相関していることを実証した。すなわち、この動物モデルにおいて、HNF4αの発現はがんの進行に従って低下し、腫瘍がHNF4αを発現している場合にはPAの投与によって縮小効果が見られ、HNF4αを発現していない場合には効果が見られなかった(図7b、図8a〜8c)。更に、PA投与により、蓄積される遺伝子変異の数が減少することも確認された(図9)。PDGF-C TgマウスにおけるHNF4αの発現をsiRNAによってダウンレギュレートした場合、PAの効果が低下してHCCの進行が加速し、また遺伝子変異の数も増加することも確認した(データは示さない)。PDGF-C Tgマウスで形成される腫瘍は、特定のがん遺伝子の導入又は移植によって形成した腫瘍ではないため、ヒト患者で見られるHCCと類似の特徴を有するため、評価に適した動物モデルと考えられる。
更にヒトでの臨床試験結果を解析した結果、PAの投与は、HNF4αの発現が消失した患者を含むHCC治療後の患者における再発予防においては効果が有意ではなかったのに対して、HNF4αを発現する前がん病変(DN)患者における発症の予防において有意な効果を有することが確認された。
これらの知見に基づけば、本発明のがんの発症又は再発の予防のための医薬は、HNF4α発現細胞を有するがんを対象とするものである。ここで、当分野で通常理解されているように、がんの「発症」とは、前がん組織を有する患者又は正常個体ががんを発症することをいい、「再発」とは、以前にがんの治療を受けた結果、がんが治癒した患者において、再度がんが発症することをいう。
本明細書において、「HNF4α発現細胞」とは、天然にHNF4αを発現している細胞、又は人為的にHNF4αの発現を誘導した細胞のいずれも意図し、例えばヒトの正常臓器においては、肝細胞、膵腺房細胞、腎細胞、大腸上皮細胞等がHNF4αを発現していることが知られている。HNF4α遺伝子又はタンパク質の発現が、当分野において通常用いられているウェスタンブロット、免疫染色、逆転写PCR等を用いて検出される細胞は、本明細書における「HNF4α発現細胞」に含まれる。
本発明の医薬を投与する場合、対象者はHNF4α発現細胞を有することで選択される。ここで、再発の予防の目的となるがんは、特に限定するものではないが、例えば肝がん、膵臓がん、腎臓がん、及び大腸がんである。本発明において、特に好ましくは、がんは肝がんである。
本発明の医薬の投与対象は、正常人であっても良く、特に限定するものではないが、がんの発症又は再発の予防という目的のためには、がんの発症又は再発の可能性が高い患者、すなわち前がん病変を有する患者、及び以前にがんの治療を受けた患者であることが好ましい。しかしながら、本明細書に開示するように、がんの進行に従ってHNF4αの発現が減少することから、以前にがんの治療を受けた患者の中には効果が少ない又は認められない患者も含まれ得る。従って、投与に先立って、患者から取得したサンプル、好ましくは組織サンプルにおいて、HNF4αの発現を検出し、本発明の医薬の投与に適しているか否かを判定することが好ましい。
発症又は再発を予防することを目的とするがんが肝がんの場合、前がん病変は、限定するものではないが、例えば腺腫様過形成、ウイルス性又は代謝性慢性肝炎、アルコール性又は非アルコール性脂肪性肝炎、肝異形成結節、肝硬変等が挙げられる。
本発明のがんの発症又は再発の予防のための医薬の投与は、局所投与及び全身投与のいずれであっても良く、例えば経口投与、又は注射剤、坐剤、軟膏等による非経口投与とすることができる。PAの脂肪酸に類似した構造、意図する効果、及び投与の容易性等を考慮すれば、経口投与とすることが好適である。有効成分であるPAは、限定するものではないが、例えば経口投与の場合には成人で1日あたり10mg〜10g、好ましくは50mg〜5g、より好ましくは100mg〜3g、更により好ましくは200mg〜2gの範囲で投与することができる。
また、本発明の医薬は、単独又は他の有効成分と組み合わせて、医薬組成物の形態とすることができる。本発明の医薬と組み合わせることが想定される他の有効成分としては、例えばラウリン酸等の脂質化合物、抗がん剤、更には本発明のスクリーニング方法によって効果が同定された新規薬剤等が挙げられる。医薬組成物は、当分野で通常使用される担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、湿潤剤、安定化剤、矯味剤等と共に、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、注射剤、坐剤、軟膏等の形態とすることができる。医薬組成物は、限定するものではないが、1日1回〜数回、2日毎、3日毎、1週間毎、2週間毎に1回等の頻度で、数週間〜数カ月間、あるいはそれ以上の期間、がんの発症又は再発の予防のために投与することができる。
[組織再生剤]
本発明はまた、以下の構造を有する化合物:
Figure 2019077629
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、組織再生剤を提供する。
PAは、投与後に体内で代謝されて上記の化合物(以下M-26と記載する)に変換することが知られている。M-26は3,7,11,15-テトラメチル-6,10,14-ヘキサデカトリエン酸の化学名を有し、上記の(S)体及び(R)体が混合したラセミ体として存在し得る。
上述のごとく、本発明者等は、PA投与によるHNF4αタンパク質の分解を確認したが、更に驚くべきことに、PAの代謝産物であるM-26は、PAと構造が類似しているにも関わらず、HNF4αタンパク量を増加させることが認められた(図5a)。そこでPAおよびM-26がH4 ルシフェラーゼ活性におよぼす影響を検討したところ、M-26はPAとは逆に転写活性を抑制することが明らかになった(図5b)。図5bに示すように、M-26を10μMで投与した際のHNF4α転写活性抑制効果は、既知のHNF4αアンタゴニストであるBI6015 1μMよりも強く認められた。さらに、PAのHNF4α活性化作用についてBI6015と併用して検討したところ、PAにはBI6015によるアンタゴニスト作用を打ち消してHNF4αを活性化させる作用があることが明らかになった。
KH#3細胞に対する増殖効果についても検討したところ、PAは細胞増殖を抑制し、細胞死を誘導する一方、M-26は細胞増殖亢進作用を示した(図6)。HNF4αの活性化は肝細胞を成熟化させ細胞周期を停止させるが、一方不活化は細胞周期を活性化させ肝再生を促す作用がある。すなわち、PAはHNF4αを活性化させることで肝代謝の改善や発がん予防に働く一方、M-26はHNF4αを不活化させることで肝細胞***を促し、肝再生を促進する組織再生剤として機能し得る。
本発明の組織再生剤として利用可能なM-26の塩としては、特に限定するものではないが、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸等の無機酸、酢酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の薬学的に許容される塩が挙げられる。
また、M-26の溶媒和物としては、水、又は生理的に許容されるエタノール等との溶媒和物、例えば水和物が挙げられる。
当業者であれば、M-26の製剤化において、保存中の安定性や投与形態、安全性等を考慮して、好適な塩として調製し、使用することができる。
本発明の組織再生剤は、特に限定するものではないが、組織切除後の患者に対して投与することができる。例えば、本発明の組織再生剤は、肝不全患者又は肝組織切除後の患者を対象として投与することができる。
本発明の組織再生剤の投与は、局所投与及び全身投与のいずれであっても良く、例えば経口投与、又は注射剤、坐剤、軟膏等による非経口投与をすることができる。PAと同様に、M-26についても経口投与とすることが好適であるが、組織再生剤としての局所的効果の発揮のためには、機能低下した組織部位(例えば肝不全を起こした肝組織若しくはその近辺)、あるいは組織切除部位に局所的に投与することも好ましい。有効成分であるM-26は、限定するものではないが、例えば経口投与の場合には成人で1日あたり10mg〜10g、好ましくは50mg〜5g、より好ましくは100mg〜3g、更により好ましくは200mg〜2gの範囲で投与することができる。局所投与の場合には1回あたり1mg〜1g、より好ましくは5〜500mgの範囲で投与することができる。
また、本発明の医薬は、単独又は他の有効成分と組み合わせて、医薬組成物の形態とすることができる。本発明の医薬と組み合わせることが想定される他の有効成分としては、細胞増殖効果を促進し得る薬剤、更に本発明のスクリーニング方法によって効果が同定された新規薬剤等が挙げられる。医薬組成物は、当分野で通常使用される担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、湿潤剤、安定化剤、矯味剤等と共に、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、注射剤等の形態とすることができる。医薬組成物は、限定するものではないが、1日1回〜数回、2日毎、3日毎、1週間毎、2週間毎に1回等の頻度で、数週間〜数カ月間、あるいはそれ以上の期間、組織再生を目的として投与することができる。
[スクリーニング方法]
本発明は更に、肝細胞転写因子4α(HNF4α)活性化作用又は不活性化作用を有する薬剤のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
被験物質をin vitroにおいてHNF4α発現細胞と接触させるステップ、及び
被験物質とHNF4αとの結合に基づくHNF4αの活性化又は不活性化を検出するステップ
を含む、上記スクリーニング方法を提供する。
ここで、HNF4αの「活性化作用を有する」とは、HNF4αに結合するだけでなく、HNF4αの標的遺伝子の発現誘導、HNF4αのプロテアソームによる分解、HNF4αへの作用を介した細胞増殖阻害、HNF4α発現腫瘍の縮小、HNF4α発現腫瘍におけるDNA損傷の修復等の作用を発揮することができることを意味する。
また、HNF4αの「不活性化作用を有する」とは、HNF4α合成の促進、細胞増殖亢進等の作用を発揮することができることを意味する。
被験物質とHNF4α発現細胞との接触は、具体的には、例えばHNF4α発現細胞培養中に被験物質を添加することで達成できる。HNF4α発現細胞は、天然でHNF4αを発現する細胞又はそれ由来の培養細胞、人為的にHNF4αを発現するように誘導した細胞のいずれであっても良い。HNF4αの導入は、HNF4αをコードするポリヌクレオチドを適切なベクターに組込み、当分野で通常行われる方法を利用して実施することができる。実施例に記載するように、例えばOriGene Technologies等から本発明の方法に使用可能なプラスミドが市販されており、これらを適宜利用することができる。
HNF4α発現細胞の前培養、及び被験物質との接触時に使用する培地としては、HNF4α発現細胞の培養に適したものとして当分野において通常使用されるものを適宜使用することができる。例えば、実施例で使用するような、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、MEM培地、RPMI 1640培地等を挙げることができる。培地には、血清又は血清代替物等を添加することができる。一方、本発明の目的を考慮して、この場合、内因性脂肪酸の影響を最小限にするために、培地中から脂質を除去することが好ましい。
被験物質とHNF4α発現細胞との接触は、限定するものではないが、6〜48時間の範囲、例えば約12時間、約24時間等の時間とすることが好ましい。
HNF4αの活性化又は不活性化の検出は、例えば被験物質と接触させた後のHNF4α発現細胞におけるHNF4α量の減少又は増加の検出である。HNF4α量の減少又は増加は、例えば抗HNF4α抗体を用い、免疫組織化学染色、ウェスタンブロット、ELISA等を用いて検出することができる。抗HNF4α抗体は、HNF4タンパク質又はその断片を抗原に用い、当分野で一般的に用いられる方法を用いてポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれも作製することができる。また、抗HNF4α抗体は、例えばCell Signaling Technology等から提供されている市販のものを適宜利用することができる。
あるいはまた、HNF4α量の減少又は増加は、HNF4α発現細胞として、HNF4αをコードするポリヌクレオチドの導入によってHNF4αの発現を誘導した細胞を用い、HNF4αと結合して発現するマーカーを検出することで検出することができる。マーカーは、限定するものではないが、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光タンパク質を用い、これをコードする遺伝子をHNF4αをコードする遺伝子と共に細胞に導入することができる。GFPでタグ付けされたHNF4αを発現可能なプラスミドも市販されており、好適に使用することができる。
活性化の検出として、組換えHNF4αへの結合の検出だけでは、活性化作用をもたないLAも同時にスクリーニングで同定されてしまう(図1a)。また、HNF4αの標的遺伝子の発現変動やHNF4α結合ドメインを用いたリポーター細胞では、レチノイン酸シグナルを活性化する化合物でも同様にスクリーニングで同定されてしまう(図3a及びb)。しかしながら、HNF4αの分解を伴うHNF4αの活性化とがんの縮小効果が関連すること、HNF4αの分解をもたらさないM-26に細胞増殖効果があることが明らかとなったため、HNF4αの活性化の有無の指標として、HNF4α量の減少又は増加を検出することが有効である。
本発明の方法において使用される被験物質は、特に限定されるものではなく、脂質、タンパク質、ペプチド、糖、小分子、動物、植物、若しくは微生物由来の抽出物等が想定される。種々の化合物ライブラリーに含まれる化合物を本発明のスクリーニング方法に用いることができる。
本発明の方法において、HNF4α活性化作用を有するか否かの判定は、限定するものではないが、例えばHNF4α量が、被験物質と接触させない対照サンプルと比較して80%以下、70%以下、60%以下、50%以下まで減少した場合に活性化を有するものとすることができる。あるいはまた、HNF4αと共に発現させたマーカーの発現が同様に80%以下、70%以下、60%以下、50%以下まで減少した場合に活性化を有するものとすることができる。例えばHNF4αと共に蛍光タンパク質を発現させる場合、蛍光タンパク質からの蛍光を可視的に判定するか、蛍光強度を測定することで、活性化を判定することができる。
また、本発明の方法では、活性化の陽性対照としてPA又はその塩若しくは溶媒和物を使用し、PAと同等以上の活性化作用が認められた場合、その被験物質は、がんの発症又は再発の予防のための医薬として有望である可能性が示される。
一方、HNF4α量が、被験物質と接触させない対照サンプルと比較して例えば1.2倍、1.5倍、又は2倍以上に増加した場合、その被験物質は、HNF4αの不活性化作用を有するものとすることができ、M-26と同様に、組織再生剤として有効である可能性が示される。
上記と同様、HNF4αの不活性化作用の対照として、M-26又はその塩若しくは溶媒和物を使用することができる。また、PA及びM-26の双方を、活性化作用の陽性対照及び陰性対照として使用することができる。
本発明の方法により、in vitroで効果が確認された被験物質は、次いで、HNF4α発現細胞を有する動物を用いて更に効果を確認することができる。この場合、HNF4αの減少又は分解/増加を検出することに加えて、DNA損傷の回復に対する効果、血小板増殖因子-C(PDGF-C)Tgマウス等の発がんモデル動物におけるがんの発症又は再発を予防する効果、細胞増殖効果等を試験することもできる。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ヒト肝がん由来細胞株であるHLF細胞(JCRB細胞バンク)にpCMV6-HNF4A-Myc-DDKプラスミド(RC217835、OriGene Technologies)およびpCMV6-RXRA-Myc-DDKプラスミド(RC210311,OriGene Technologies)をトランスフェクションし、組換えRXRαおよびHNF4αを発現させた。
pCMV6-HNF4A-Myc-DDKプラスミドは、フォワードプライマー:5'-TAAGAATTCGCCATGCGACTCTCCAAAACCCTCG-3'(配列番号1)及びリバースプライマー:5'-AATAAGCTTCTACAGATCCTCTTCTGAGATGAGTTTCTGCTC-3'(配列番号2)を用いたポリメラーゼ連鎖反応によって増幅して得られるHNF4A-Myc-DDKベクターをpCMV6-XL4(OriGene Technologies)のHindIII及びEcoRI部位に挿入して得ることができる。
これに抗-Myc-Tag抗体(9B11、Cell Signaling Technology)およびProtein Gビーズ(Thermo Fisher Scientific)を用いてRXRα及びHNF4αを抽出した。ビーズに結合した各組換えタンパク質(1mg)を、LA(100μM)又はPA(100μM)と30分間インキュベートし、洗浄した後、65℃で30分間、100μlのPBS中に溶出させた。タンパク質と結合した脂質が存在する上清を別のチューブに移した後、300μLのヘキサンを3回添加して脂質成分を抽出し、乾燥後、LC-MS(Nexera及びLCMS-8040、株式会社島津製作所)でタンパク質に結合したLA及びPA濃度を測定した。
その結果、図1aに示すように、LA及びPAのいずれもが、RXRαと比較してHNF4αに有意に多量に結合していることが示された。
次いで、発現するHNF4αにV255M、E285Q、又はI314F変異を導入した。変異の導入は、PrimeStar Mutagensis Basal Kit (Takara)、及び以下のプライマーセットを用いて行った。
V255M変異
フォワードプライマー:5'-ATGAGCCGGATGTCCATACGCATCCTTGAC-3'(配列番号3)
リバースプライマー:5'-GCGTATGGACATCCGGCTCATCTCCGCC-3'(配列番号4)
E285Q変異
フォワードプライマー:5'-GATGACAATCAGTATGCCTACCTCAAAGCC-3'(配列番号5)
リバースプライマー:5'-GTAGGCATACTGATTGTCATCGATCTGCAG-3'(配列番号6)
I314F変異
フォワードプライマー:5'-GAGGACTACTTCAACGACCGCCAGTATGAC-3'(配列番号7)
リバースプライマー:5'-GCGGTCGTTGAAGTAGTCCTCCAAGCTCAC-3'(配列番号8)
野生型(WT)のHNF4α、及び3種の変異体について、上記と同様の方法でPAの結合を確認した。その結果、図1bに示すように、HNF4αとの結合に関わる部位における変異であるV255M変異でのみPA結合量が低下していることが判明した。
[実施例2]
本発明者等は、ガドリニウムエトキシベンジルジエチレントリアミン五酢酸(Gd-EOB-DTPA)の取り込み能を示す初発性肝細胞がん(HCC)組織由来の培養細胞としてKH#3細胞を確立している(Hepatology 60, 1674-1685 (2014))。内因性脂肪酸の影響を最小限にするために、本実施例では脂質除去培地を使用した。
KH#3細胞(5×105個/dish)を1%ウシ胎児血清含有脂質除去DMEMで12時間培養後、LA(30若しくは300μM)、PA(10μM)、又はオールトランスレチノイン酸(ATRA、Sigma Aldrich、10μM)を添加して更に12時間培養した後、蛋白を抽出し、抗HNF4α抗体(Cell Signaling Technology)もしくは比較のために抗β-アクチン抗体(Sigma Aldrich)を用いたウェスタンブロットにより、タンパク質を検出した。
その結果、図2aに示すように、LA及びATRAの添加では変化が認められなかったが、PA添加後12時間の培養により、HNF4α量が減少していることが明らかとなった。
PA添加と共に、プロテアソーム阻害剤であるMG132(Sigma Aldrich)を添加して培養したところ、図2bに示すように、PAによるHNF4αの分解が抑制された。
[実施例3]
トランスサイレチン(TTR)は典型的なHNF4α標的遺伝子である。本実施例では、PA、並びにレチノイン酸シグナルを活性化するATRAによるTTRの発現誘導を定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって検討した。
KH#3細胞(5×105個/dish)をPA又はATRA(いずれも5μM、10μM又は20μM)を添加して72時間培養し、High Pure RNA Isolation Kit (Roche Diagnostics)を用いて全RNAを抽出し、7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems)を使用してTTR遺伝子の発現を検出し(プローブ:Hs00174914_m1、Applied Biosystems)、TTRの誘導を分析した。
その結果、図3aに示すように、TTRはPA及びATRAのいずれによっても誘導が活性化された。しかしながら、実施例2に示すように、ATRAはHNF4αの減少には関与しないことを考慮すれば、HNF4α標的遺伝子の発現誘導のみでHNF4αの活性化を特異的に測定することはできないことが示された。
また、KH#3細胞(5×105個/dish)にPA(20μM)、9-cis RA(20μM)及びATRA(20μM)を添加して24時間培養した後、Cignal HNF4 Reporter(luc)キット(SABiosciences)を使用して、H4 ルシフェラーゼ(HNF4応答性ホタルルシフェラーゼ)アッセイを行った。このアッセイは、HNF4α特異的結合ドメイン (HBE) をタンデムに並べてルシフェラーゼ活性を測定することで、HNF4αの活性化を測定することができる。
しかしながら、HBE内部にRXR/RARが結合するDR1配列を含むため、PAだけでなく、ATRAや9-cis RAでも強く活性化が生じた(図3b)。そのため、H4ルシフェラーゼアッセイのみではHNF4αの活性化を特異的に測定することはできないことが示された。
[実施例4]
HNF4α-GFP発現細胞を用いたタイムラプスイメージングを行った。HLF細胞(JCRB細胞バンク)にHNF4α及びGFPをコードするポリヌクレオチドを導入して発現させたHLF-HNF4α-GFP細胞(1×104個)を8ウェルのチャンバーガラススライドにまき、1%ウシ胎児血清含有脂質除去培地中で24時間培養した。これにPA(10μM)又はDMSO(添加量)を添加して更に培養し、5% CO2インキュベーター付きタイムラプス蛍光顕微鏡システム(Andor Technology)で10分毎にて24時間観察した。
その結果、図4に示すように、HNF4αリガンドであるPAの投与後、HNF4α-GFPの分解が起こり、核内での蛍光シグナルが減弱していた。一方、コントロールであるDMSOの添加では分解は生じておらず、HNF4α量が減少していないことが示された。
この結果から、HNF4α-GFP発現細胞を用いた画像評価スクリーニングにより、HNF4αを活性化させる化合物を特異的に同定することが可能であることが示された。
[実施例5]
KH#3細胞(5×105個/dish)を1%ウシ胎児血清含有脂質除去DMEM中で12時間培養後、PA(10μM)又はM-26(10μM)を添加して更に12時間培養し、実施例2と同様にしてウェスタンブロットによって、HNF4αタンパク質を検出した。
その結果、図5aに示すように、PA添加ではHNF4α量が減少するのに対して、PA代謝産物であるM-26の添加ではHNF4α量の増加が認められた。
次いで、H4ルシフェラーゼアッセイにより、PA、M-26、既知のHNF4aアンタゴニストであるBI6015の効果を検討した。その結果、M-26はPAとは逆にHNF4α活性を抑制すること、PAはBI6015のアンタゴニスト作用を抑制することが示された(図5b)。
[実施例6]
PA及びM-26がHNF4α発現細胞の増殖にもたらす効果を検討した。
2×103個のKH#3細胞の単細胞懸濁液を96ウェルプレートに入れ、1%ウシ胎児血清含有脂質除去DMEM中で12時間培養後、PA若しくはM-26を10μM加えて更に培養し、24時間後にMTTアッセイを実施し、Cell Counting Kit-8 (Dojindo Laboratories)を用いて細胞の生存を確認した。
その結果、図6に示すように、24時間の短時間の暴露であるにも関わらず、PAは化合物を添加しない対照と比較して細胞増殖を著しく抑制したが(P<0.0001)、M-26の添加では増殖がやや亢進していた(P = 0.039)。
[実施例7]
血小板増殖因子-C(PDGF-C)Tgマウス(Jean S. Campbell博士より供与)では、経時的に肝腫瘍が増大していくことが知られている。図7aに示すように、ガドリニウムエトキシベンジルジエチレントリアミン五酢酸(Gd-EOB-DTPA)造影剤を用いたMRIによって肝腫瘍の増大を評価したところ、32週齢(T1)、40週齢(T2)、60週齢(T3)と経時的に腫瘍が増大した。32週齢では非がん性の組織(L1)が認められた。
L1、T1、T2及びT2組織をそれぞれ摘出し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色及び免疫組織化学染色(有機アニオントランスポーター:OATP1、α-フェトタンパク質:AFP、及びHNF4α)を行った。免疫組織化学染色は、マウスモノクローナル抗-ヒトOATP1B3 MDQ/5F260抗体(Novus Biologicals)、ヤギポリクローナル抗-ヒトAFP C-19抗体(Santa Cruz)、及びウサギモノクローナル抗-ヒトHNF4α C11F12抗体(Cell Signaling Technology)をそれぞれ用い、Envision+kits(DAKO)を使用して実施した。
その結果、図7bに示すように、PDGF-C Tgマウスでは経時的にHNF4aの発現が減少し、また薬物トランスポーターの発現も低下し、腫瘍マーカーであるAFPは60週齢(T3)で発現した。
[実施例8]
図8aは、32週齢又は52週齢のPDGF-C Tgマウスに対してPAを8週間投与した結果を示す。PAはダイズ油(Riken)中に分散し、8週間にわたり、週に5日間経口投与した(80mg/kg/日)。磁気共鳴画像は0.4 Tesla MRIシステム(日立製作所)を使用して取得した。
その結果、32週からPAを投与したマウスでは、一旦出現したマウス肝がんの一部で消失又は縮小が観察され、薬物トランスポーターの再活性化が認められた。これに対して、52週からPAを投与したマウスでは、肝がんの縮小例(「可逆」と記載)と効果が認められなかった例(「不可逆」と記載)とが混在していた。
磁気共鳴画像から式:L×W×H/2を用いて腫瘍サイズを計算し、各マウスについてPA処理前(Pre PA)及び処理後(Post PA)で比較したところ、図8bに示すように、32週からPAを投与した群(n=8)では全てのマウスで腫瘍が縮小しており、52週齢からPAを投与した群(n=9)よりも肝がん抑制効果が明らかに強いことが示された。
次いで、図8aでの可逆例(T4)及び不可逆例(T5)について、上記と同様の免疫組織化学染色を行ったところ、PAによる抗腫瘍効果が認められた肝がん(T4)ではHNF4αが発現しているが、PAによる効果が認められなかった肝がん(T5)ではHNF4α発現は認められなかった(図8c)。このことは、標的細胞におけるHNF4αの発現の有無がPAの肝がん抑制効果と関連していることを示す。
[実施例9]
いずれも60週齢のPDGF-C TgマウスでのT3(実施例7、PA未処理)、T4及びT5(実施例8、PA処理)組織の細胞における遺伝子変異の数を全エクソン解析によって調べた。
遺伝子変異の情報は、凍結した組織からQIAamp DNA Mini Kit (Qiagen)を使用してDNAを抽出した後、SureSelect Mouse All Exon Kit (Agilent Technologies)を使用して全エキソームを取得し、HiSeq 2500 Sequencing System (Illumina Inc.)により大規模並行的シーケンシング(massive parallel sequencing)を行って取得した。得られた配列をカリフォルニア大学のSanta Cruz Genome Browser mm10 (http://hgdownload.cse.ucsc.edu/goldenPath/0010/chromosomes/)を用いてマッピングし、Genome Analysis Toolkitソフトウェア (GATK; Broad Institute)を用いて一塩基多型、挿入、欠失等の配列の変異を検出し、変異アレル頻度が0.1を超えた場合に遺伝子が変異しているとした。尚、解析は株式会社理研ジェネシスに委託した。
その結果、図9に示すように、PA投与をしない場合(T3)では約100個の遺伝子変異が検出されたのに対し、PA投与(T4及びT5)により肝がんにおける遺伝子変異の集積が抑制されることが明らかとなり、特にHNF4α発現組織(T4)において遺伝子変異が非常に少ないことが見出された。
[実施例10]
10μMのPA又はM-26で12時間、1%ウシ胎児血清含有脂質除去DMEM中でKH#3細胞(5×105個/dish)を培養した後、DNA修復に関わるタンパク質の発現を確認するためにイムノブロット解析を行った。
培養後の細胞を溶解し、NE-PERTM Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents(Thermo Fisher Scientific)を用いて核を抽出した。抗-DNA-PKcs抗体、抗-phospho DNA-PKcs S2056抗体、抗-phospho-Chk1(S345)抗体、抗-phospho-Chk2 (T68)抗体、及び抗-phospho-Histone H2A.X (Ser139)抗体(いずれもCell Signaling Technology)を用い、核抽出液に添加して免疫複合体を形成させた後、化学発光の増大を可視化した(Amersham Biosciences)。
その結果、図10に示すように、PAの添加により、チェックポイントキナーゼ2(Chk2)が活性化し、DNA依存性タンパク質キナーゼの触媒サブユニット(DNA-PK cs)のリン酸化が増大していることが確認された。この効果はM-26では観察されなかった。
HNF4αはX線によるDNA傷害後のDNA-PKcs複合体の形成に関与していることが報告されていることから(J. Biol. Chem. 286, 674-686 (2011))、上記の知見により、PAによるHNF4αの活性化がDNA修復及び細胞周期チェックポイント経路の活性化を誘導している可能性が示唆された。
[実施例11]
本発明者等の知見により、前がん病変である腺腫様過形成(dysplastic nodule、DN)はHNF4αを発現するが、ヒトHCCの約40%ではHNF4α発現が消失していることが明らかとなっている(Hepatology 60, 1674-1685 (2014))。本発明者等は、HCCの発症及び進行を防止するためにPAを用いる場合の治療標的が、上記のDNのようなHNF4α発現細胞であるとの仮説に基づき、以下の検討を行った。
2005年から2009年までに実施された第II/III相ランダム化プラセボ対照比較試験に登録された患者から、登録後3カ月毎に撮影された造影コンピュータ断層撮影法(CT)で得られたデータを取得し、プラセボ投与群110名、及びPA(600mg/日)投与群111名について解析した。尚、全ての患者は試験に登録する前に手術又は高周波アブレーションによるHCCの治療を受けていた。
その結果、図11aに示すように、40カ月以上の追跡期間で、プラセボ投与群で67.3%、PA投与群で49.2%の再発が認められ、PA投与群ではプラセボ投与群よりも再発率は低いものの、統計的有意性は得られなかった(P=0.12)。
一方、図11bに示すように、DNの段階でPAを投与した患者では、40カ月以上の追跡期間での肝がんの発症は13.7%であり、プラセボ投与群(42.1%)と比較して有意に低かった。
本発明により、従来オーファンレセプターとされていたHNF4αの発現が前がん組織とがん組織とで異なるとの知見に基づき、抗がん作用が報告されていたPAについて、より効果的な医薬用途を提供することができる。投与対象者を適切に選択することで、選択された患者において適切な治療を行うと共に、有効でないと判断される患者に対しては不要な投与を行うことがなく、医療に係るコストを低減することができる。
また、HNF4αの再活性化作用を有するM-26は、肝不全患者や、組織切除後の患者に対して、肝再生剤としての新たな医薬としての利用可能性を有する。
更に、本発明の知見により、従来知られていなかったメカニズムを利用して、HNF4αの発現を制御する化合物をスクリーニングすることができ、HNF4αを標的とした新たな創薬の創出が可能となる。

Claims (11)

  1. 以下の構造を有するポリプレノイン酸(Polyprenoic acid、PA)
    Figure 2019077629
    又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、がんの発症又は再発の予防のための医薬であって、HNF4α発現細胞を有するがんを対象とする、上記医薬。
  2. がんが肝がんである、請求項1記載の医薬。
  3. 患者が前がん病変を有する患者である、請求項1又は2記載の医薬。
  4. 以下の構造を有する化合物:
    Figure 2019077629
    又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、組織再生剤。
  5. 肝不全患者又は肝組織切除後の患者を対象として投与される、請求項4記載の組織再生剤。
  6. 肝細胞転写因子4α(HNF4α)活性化作用又は不活性化作用を有する薬剤のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
    被験物質をin vitroにおいてHNF4α発現細胞と接触させるステップ、及び
    被験物質とHNF4αとの結合に基づくHNF4αの活性化又は不活性化を検出するステップ
    を含む、上記スクリーニング方法。
  7. 活性化又は不活性化の検出が、HNF4α量の減少又は増加の検出である、請求項6記載の方法。
  8. HNF4α量の減少又は増加を、抗HNF4α抗体を用いて検出する、請求項7記載の方法。
  9. HNF4α発現細胞が、HNF4αをコードするポリヌクレオチドの導入によってHNF4αの発現を誘導した細胞である、請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。
  10. HNF4αを、検出のためのマーカーと結合して発現させる、請求項9記載の方法。
  11. 活性化の陽性対照として以下の構造を有するポリプレノイン酸(PA)
    Figure 2019077629
    又はその塩若しくは溶媒和物を使用する、請求項6〜10のいずれか1項記載の方法。
JP2017204777A 2017-10-23 2017-10-23 抗がん剤及び新規医薬のスクリーニング方法 Pending JP2019077629A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017204777A JP2019077629A (ja) 2017-10-23 2017-10-23 抗がん剤及び新規医薬のスクリーニング方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017204777A JP2019077629A (ja) 2017-10-23 2017-10-23 抗がん剤及び新規医薬のスクリーニング方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2019077629A true JP2019077629A (ja) 2019-05-23
JP2019077629A5 JP2019077629A5 (ja) 2021-01-14

Family

ID=66626350

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2017204777A Pending JP2019077629A (ja) 2017-10-23 2017-10-23 抗がん剤及び新規医薬のスクリーニング方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2019077629A (ja)

Non-Patent Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
CANCER RES., vol. Vol.70, Issue 19, JPN6021040031, 2010, pages 7640 - 7651, ISSN: 0004614627 *
JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY, vol. 287, no. 10, JPN6021040032, 2012, pages 7345 - 7356, ISSN: 0004614628 *
PLOS ONE, vol. Vol.4, Issue 5, JPN6021040029, 2009, pages 5609 - 1, ISSN: 0004614625 *
THE NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE, vol. 334, no. 24, JPN6021040030, 1996, pages 1561 - 1567, ISSN: 0004614626 *

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Zhang et al. Ferroptosis is governed by differential regulation of transcription in liver cancer
Kim et al. Prostaglandin E2 activates YAP and a positive-signaling loop to promote colon regeneration after colitis but also carcinogenesis in mice
Shao et al. ETS-1 induces Sorafenib-resistance in hepatocellular carcinoma cells via regulating transcription factor activity of PXR
Yue et al. Zinc fingers and homeoboxes 2 inhibits hepatocellular carcinoma cell proliferation and represses expression of Cyclins A and E
Kim et al. Small heterodimer partner and fibroblast growth factor 19 inhibit expression of NPC1L1 in mouse intestine and cholesterol absorption
Wang et al. Alpha-fetoprotein acts as a novel signal molecule and mediates transcription of Fn14 in human hepatocellular carcinoma
Wang et al. MDM2-NFAT1 dual inhibitor, MA242: Effective against hepatocellular carcinoma, independent of p53
Bian et al. Treatment of cholestatic fibrosis by altering gene expression of Cthrc1: Implications for autoimmune and non-autoimmune liver disease
Chen et al. Induction of nuclear protein-1 by thyroid hormone enhances platelet-derived growth factor A mediated angiogenesis in liver cancer
Liu et al. Central role of mTORC1 downstream of YAP/TAZ in hepatoblastoma development
Delgado et al. Complete response of Ctnnb1-mutated tumours to β-catenin suppression by locked nucleic acid antisense in a mouse hepatocarcinogenesis model
Lo et al. A novel interaction of nucleophosmin with BCL2‐associated X protein regulating death evasion and drug sensitivity in human hepatoma cells
Dong et al. Dampened VEPH1 activates mTORC1 signaling by weakening the TSC1/TSC2 association in hepatocellular carcinoma
JP2009541213A (ja) 高脂血症を改善するための組成物および方法
Gougelet et al. Hepatocellular carcinomas with mutational activation of beta-catenin require choline and can be detected by positron emission tomography
Jo et al. The critical role of glucose deprivation in epithelial-mesenchymal transition in hepatocellular carcinoma under hypoxia
Gai et al. Hyperactivation of IL-6/STAT3 pathway leaded to the poor prognosis of post-TACE HCCs by HIF-1α/SNAI1 axis-induced epithelial to mesenchymal transition
Li et al. Mechanisms of STAT3 activation in the liver of FXR knockout mice
Yao et al. Hepatocyte nuclear factor 4α suppresses the aggravation of colon carcinoma
Wang et al. Targeting N6-methyladenosine reader YTHDF1 with siRNA boosts antitumor immunity in NASH-HCC by inhibiting EZH2-IL-6 axis
Chan et al. Polo‐like kinase 4 inhibitor CFI‐400945 suppresses liver cancer through cell cycle perturbation and eliciting antitumor immunity
Jian et al. Glycemic variability promotes both local invasion and metastatic colonization by pancreatic ductal adenocarcinoma
Yaqoob et al. GIPC-regulated IGFBP-3 promotes HSC migration in vitro and portal hypertension in vivo through a β1-integrin pathway
Wang et al. MTDH promotes intestinal inflammation by positively regulating TLR signalling
Frohlich et al. GDF11 rapidly increases lipid accumulation in liver cancer cells through ALK5-dependent signaling

Legal Events

Date Code Title Description
A80 Written request to apply exceptions to lack of novelty of invention

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A80

Effective date: 20171121

A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A711

Effective date: 20200601

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20201022

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20201022

A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A711

Effective date: 20201022

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20211012

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20220405