本発明は、遺伝子操作細菌、その医薬組成物、ならびに高アンモニア血症に関連する障害、例えば、尿素回路異常症、肝性脳症および過剰のアンモニアもしくはアンモニアレベルの上昇に関連する他の障害をモジュレートまたは治療する方法を含む。遺伝子操作細菌は、とりわけ、哺乳動物消化管内におけるような、特定の環境条件下で、過剰のアンモニアを減少させることができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、体内の過剰の窒素を非毒性分子、例えば、アルギニン、シトルリン、メチオニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン、グルタミンまたはトリプトファンに組み込むことによって過剰のアンモニアを減少させる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、過剰のアンモニアを減少させ、1つもしくは複数の他の有毒物質、例えば、GABAおよび/またはマンガンも減少させる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、過剰のアンモニアを減少させ、例えば、GABAを移入することによって、かつ/またはGABAを代謝することによって、GABAレベルも低下させる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、過剰のアンモニアを減少させ、例えば、マンガンを移入することによって、マンガンレベルも減少させる。遺伝子操作細菌は、消化管のバリア機能を改善するあるいはアンモニアの上昇に関連する障害(例えば、UCD、HE等)の症状を軽減する1つまたは複数の分子をさらに産生し得る。したがって、述べた実施形態のいずれかにおいて、遺伝子操作細菌は、消化管のバリア機能を改善するあるいはアンモニアの上昇に関連する障害の症状を軽減する1つまたは複数の分子も産生し得る。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、短鎖脂肪酸、例えば、酪酸、プロピオン酸および/または酢酸を産生する。いくつかの実施形態では、操作細菌は、過剰のアンモニアを減少させ、消化管のバリア機能を改善するあるいはアンモニアの上昇に関連する障害の症状を軽減する1つまたは複数の分子を産生する、例えば、酪酸、プロピオン酸および/または酢酸などの、短鎖脂肪酸を産生する。いくつかの実施形態では、操作細菌は、過剰のアンモニアを減少させ、1つもしくは複数の他の有毒物質、例えば、GABAおよび/またはマンガンを減少させ、消化管のバリア機能を改善するあるいはアンモニアの上昇に関連する障害の症状を軽減する1つもしくは複数の分子を産生する、例えば、酪酸、プロピオン酸および/または酢酸などの、短鎖脂肪酸を産生する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、過剰のアンモニアを減少させ、例えば、GABAを移入することによって、かつ/またはGABAを代謝することによって、GABAレベルを低下させ、消化管のバリア機能を改善するあるいはアンモニアの上昇に関連する障害の症状を軽減する1つもしくは複数の分子を産生する、例えば、酪酸、プロピオン酸および/または酢酸などの、短鎖脂肪酸を産生する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、過剰のアンモニアを減少させ、例えば、マンガンを移入することによって、マンガンレベルを低下させ、消化管のバリア機能を改善するあるいはアンモニアの上昇に関連する障害の症状を軽減する1つもしくは複数の分子を産生する、例えば、酪酸、プロピオン酸および/または酢酸などの、短鎖脂肪酸を産生する。
述べた実施形態のいずれかにおいて、操作細菌は、(1)当技術分野で公知であり、本明細書で示す栄養要求性のいずれか、例えば、thyA栄養要求性などの、1つまたは複数の栄養要求性、(2)本明細書に記載の、あるいは当技術分野で公知のキルスイッチのいずれかなどの、1つまたは複数のキルスイッチ回路、(3)1つまたは複数の抗生物質耐性回路、(4)本明細書に記載の、あるいは当技術分野で公知の輸送体のいずれかのような、生体分子または物質を移入する1つまたは複数の輸送体、(5)本明細書に記載の、あるいは当技術分野で公知の分泌回路のいずれかなどの、1つまたは複数の分泌回路、および(6)そのようなさらなる回路の1つまたは複数の組合せのうちの1つまたは複数をさらに含み得る。
いくつかの実施形態では、ペイロードもしくは治療回路(例えば、アンモニア消費、GABA減少、マンガン減少、短鎖脂肪酸産生回路)のうちのいずれか1つもしくは複数および/または追加の回路(例えば、栄養要求性、キルスイッチ回路、抗生物質耐性回路、輸送体および分泌回路)のうちのいずれか1つもしくは複数のものは、構成的プロモーターにより調節することができる。いくつかの実施形態では、ペイロードもしくは治療回路(例えば、アンモニア消費、GABA減少、マンガン減少、短鎖脂肪酸産生回路)のうちのいずれか1つもしくは複数および/または追加の回路(例えば、栄養要求性、キルスイッチ回路、抗生物質耐性回路、輸送体および分泌回路)のうちのいずれか1つもしくは複数のものは、組織特異的プロモーターにより調節することができる。いくつかの実施形態では、ペイロードもしくは治療回路(例えば、アンモニア消費、GABA減少、マンガン減少、短鎖脂肪酸産生回路)のうちのいずれか1つもしくは複数および/または追加の回路(例えば、栄養要求性、キルスイッチ回路、抗生物質耐性回路、輸送体および分泌回路)のうちのいずれか1つもしくは複数のものは、誘導性プロモーターにより調節することができる。いくつかの実施形態では、ペイロードもしくは治療回路(例えば、アンモニア消費、GABA減少、マンガン減少、短鎖脂肪酸産生回路)のうちのいずれか1つもしくは複数および/または追加の回路(例えば、栄養要求性、キルスイッチ回路、抗生物質耐性回路、輸送体および分泌回路)のうちのいずれか1つもしくは複数のものは、環境条件、因子もしくはキュー、例えば、哺乳動物消化管に見いだされる環境条件、因子もしくはキューに反応する誘導性プロモーターにより調節することができる。例示的誘導性プロモーターは、酸素レベル依存性プロモーター(例えば、FNR誘導性プロモーター)、HE特異的分子または肝損傷を示す代謝物(例えば、ビリルビン)により誘導されるプロモーター、炎症または炎症反応により誘導されるプロモーター(RNS、ROSプロモーター)、ならびに消化管における天然に存在する可能性があるまたは可能性がない(例えば、外から加えることができる)代謝物、例えば、アラビノースおよびテトラサイクリンにより誘導されるプロモーターを含む。
いくつかの実施形態では、ペイロードもしくは治療回路(例えば、アンモニア消費、GABA減少、マンガン減少、短鎖脂肪酸産生回路)のうちのいずれか1つもしくは複数および/または追加の回路(例えば、栄養要求性、キルスイッチ回路、抗生物質耐性回路、輸送体および分泌回路)のうちのいずれか1つもしくは複数のものは、1つもしくは複数の低コピーまたは高コピープラスミド上に存在し得る。いくつかの実施形態では、ペイロードもしくは治療回路(例えば、アンモニア消費、GABA減少、マンガン減少、短鎖脂肪酸産生回路)のうちのいずれか1つもしくは複数および/または追加の回路(例えば、栄養要求性、キルスイッチ回路、抗生物質耐性回路、輸送体および分泌回路)のうちのいずれか1つもしくは複数のものは、細菌の染色体に組み込むことができる。本開示をより容易に理解することができるために、特定の用語を最初に定義する。これらの定義は、本開示の残りの部分に照らして、また当業者により理解されているように読むべきである。別途定義しない限り、本明細書で用いるすべての技術および科学用語は、当業者により一般的に理解されているのと同じ意味を有する。さらなる定義は、この詳細な説明を通して示す。
「高アンモニア血症」、「高アンモニア血」または「過剰アンモニア」は、体内のアンモニアの濃度の増加を指すために用いる。高アンモニア血症は、アンモニアの解毒の低下および/または産生の増加によって引き起こされる。解毒の低下は、アルギニノコハク酸尿症、アルギナーゼ欠損症、カルバモイルリン酸シンテターゼ欠損症、シトルリン血症、N−アセチルグルタミン酸シンテターゼ欠損症およびオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症などの、尿素回路異常症(UCD)に、あるいは肝臓のバイパス、例えば、開放肝管、および/またはグルタミンシンテターゼの欠損に起因し得る(Hoffmanら、2013年;Haberleら、2013年)。解毒の低下は、肝性脳症、急性肝不全または慢性肝不全などの肝臓障害およびハンチントン病などの神経変性疾患にも起因し得る(Chenら、2015年;Chiangら、2007年)。アンモニアの産生の増加は、感染、薬物、神経因性膀胱および消化管細菌過増殖に起因し得る(Haberleら、2013年)。高アンモニア血症に関連する他の障害および状態は、肝性脳症、急性肝不全または慢性肝不全などの肝臓障害;有機酸障害;イソ吉草酸尿症;3−メチルクロトニルグリシン尿症;メチルマロン酸尿症;プロピオン酸尿症;脂肪酸酸化欠損;カルニチン回路欠損症;カルニチン欠損症;β−酸化欠損症;リシン尿性タンパク不耐症;ピロリン−5−カルボン酸シンテターゼ欠損症;ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症;オルニチンアミノトランスフェラーゼ欠損症;炭酸脱水酵素欠損症;高インスリン症−高アンモニア血症症候群;ミトコンドリア障害;バルプロ酸療法;アスパラギナーゼ療法;完全腸管外栄養;グリシン含有溶液を用いた膀胱鏡検査;肺/骨髄移植後;門脈体静脈短絡;***症;尿管拡張;多発性骨髄腫;および化学療法を含むが、これらに限定されない(Hoffmanら、2013年;Haberleら、2013年;Phamら、2013年;Lazierら、2014年)。健常者では、血漿アンモニア濃度は、一般的に約50μmol/L未満である(Leonard、2006年)。いくつかの実施形態では、高アンモニア血症の診断シグナルは、少なくとも約50μmol/L、少なくとも約80μmol/L、少なくとも約150μmol/L、少なくとも約180μmol/L、または少なくとも約200μmol/Lの血漿アンモニア濃度である(Leonard、2006年;Hoffmanら、2013年;Haberleら、2013年)。
「アンモニア」は、気体アンモニア(NH3)、イオン性アンモニア(NH4 +)またはそれらの混合物を指すために用いられる。体液中では、気体アンモニアとイオン性アンモニアが以下のように平衡状態にある。
NH3 + H+ ←→ NH4 +
いくつかの臨床検査で総アンモニア(NH3+NH4 +)を分析する(Walker、2012年)。本発明のいずれかの実施形態では、特に示さない限り、「アンモニア」は、気体アンモニア、イオン性アンモニアおよび/または総アンモニアを意味し得る。
アンモニアの「解毒」は、有毒なアンモニアが除去され、かつ/またはアルギニン、シトルリン、メチオニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン、グルタミン、トリプトファンまたは尿素を含むが、これらに限定されない1つもしくは複数の非毒性分子に変換される、天然または合成の1つまたは複数の過程を指すために用いられる。例えば、尿素回路は、身体から尿中への除去のためにアンモニアを尿素に酵素的に変換する。アンモニアは、多くの生化学的経路を経て合成される、多くのアミノ酸の窒素源であるので、それらのアミノ酸生合成経路のうちの1つまたは複数の増強を用いて、過剰の窒素を非毒性分子に組み込むことができる。例えば、アルギニン生合成は、1個の窒素原子を含むグルタミン酸を4個の窒素原子を含むアルギニンに変換し、それにより、過剰の窒素を非毒性分子に組み込む。ヒトでは、アルギニンは、大腸から再吸収されず、結果として、大腸における過剰のアルギニンは、有害であるとみなされない。同様に、シトルリンは、大腸から再吸収されず、結果として、大腸における過剰のシトルリンは、有害であるとみなされない。アルギニン生合成は、シトルリンを最終産物として産生するように修正することもできる。シトルリンは、3個の窒素原子を含み、したがって、修正経路も過剰の窒素を非毒性分子に組み込むことができる。
「アルギニンレギュロン」、「アルギニン生合成レギュロン」および「アルグレギュロン」は、同義で用いられ、アルギニン生合成経路において、グルタミン酸をアルギニンおよび/または中間代謝物、例えば、シトルリンに変換することに関与する酵素をコードする遺伝子を含む所定の細菌種におけるオペロンの集合を意味する。アルギニンレギュロンは、それらのオペロンに関連するオペレーター、プロモーター、ARGボックスおよび/または調節領域も含む。アルギニンレギュロンは、アルギニン生合成酵素であるN−アセチルグルタミン酸シンテターゼ、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギノコハク酸シンターゼ、アルギノコハク酸リアーゼ、カルバモイルリン酸シンターゼをコードするオペロン、そのオペレーター、そのプロモーター、そのARGボックスおよび/またはその調節領域を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、アルギニンレギュロンは、N−アセチルグルタミン酸シンテターゼおよび/またはN−アセチルオルニチナーゼに加えてあるいはその代わりにオルニチンアセチルトランスフェラーゼをコードするオペロンならびに関連するオペレーター、プロモーター、ARGボックスおよび/または調節領域も含む。いくつかの実施形態では、アルギニンレギュロンの1つもしくは複数のオペロンまたは遺伝子は、細菌におけるプラスミド上に存在し得る。いくつかの実施形態では、細菌は、アルギニンレギュロンにおける任意の遺伝子またはオペロンの複数のコピーを含んでいてよく、1つもしくは複数のコピーは、本明細書に記載の通り突然変異させるか、あるいは変更することができる。
1つの遺伝子は、1つの酵素、例えば、N−アセチルグルタミン酸シンテターゼ(argA)をコードし得る。2つまたはそれ以上の遺伝子は、1つの酵素の異なるサブユニット、例えば、カルバモイルリン酸シンターゼのサブユニットAおよびサブユニットB(carAおよびcarB)をコードし得る。いくつかの細菌では、2つまたはそれ以上の遺伝子は、同じ酵素、例えば、オルニチントランスカルバミラーゼをそれぞれ独立にコードし得る(argFおよびargI)。いくつかの細菌では、アルギニンレギュロンは、N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードする、argA;N−アセチルグルタミン酸キナーゼをコードする、argB;N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼをコードする、argC;アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼをコードする、argD;N−アセチルオルニチナーゼをコードする、argE;アルギニノコハク酸シンターゼをコードする、argG;アルギニノコハク酸リアーゼをコードする、argH;それぞれがオルニチントランスカルバミラーゼを独立にコードする、argFおよびargIの1つまたは両方;カルバモイルリン酸シンターゼの小サブユニットをコードする、carA;カルバモイルリン酸シンターゼの大サブユニットをコードする、carB;そのオペロン;そのオペレーター、そのプロモーター、そのARGボックスおよび/またはその調節領域を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、アルギニンレギュロンは、オルニチンアミノトランスフェラーゼ(N−アセチルグルタミン酸シンテターゼおよび/またはN−アセチルオルニチナーゼに加えてあるいはその代わりに)をコードする、argJ、そのオペロン、そのオペレーター、そのプロモーター、そのARGボックスおよび/またはその調節領域を含む。
「アルギニンオペロン」、「アルギニン生合成オペロン」および「argオペロン」は、同義で用いられ、少なくとも1つのプロモーターおよび少なくとも1つのARGボックスを含む共有された調節領域の制御下のアルギニン生合成酵素をコードする遺伝子のうちの1つまたは複数のクラスターを意味する。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の遺伝子は、共転写され、かつ/または共翻訳される。アルギニンの生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の任意の組合せを自然にまたは合成によりオペロンに組織化することができる。例えば、枯草菌(B.subtilis)において、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、カルバモイルリン酸シンターゼおよびオルニチントランスカルバミラーゼをコードする遺伝子をプロモーターおよびARGボックスを含む共有調節領域の制御下の単一オペロンargCAEBD−carAB−argF(例えば、表2参照)に組織化する。大腸菌K12およびニッスルにおいて、N−アセチルオルニチナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、N−アセチルグルタミン酸キナーゼおよびアルギニノコハク酸リアーゼをコードする遺伝子を2つの2極性オペロンargECBHに組織化する。アルギニン生合成に関与する酵素をコードするオペロンを染色体にわたる異なる遺伝子座に分配することができる。非改変細菌において、各オペロンは、ArgRを介してアルギニンにより抑制することができる。いくつかの実施形態では、アルギニンおよび/または中間副産物の産生は、本発明の遺伝子操作細菌において、本明細書で示したアルギニン生合成オペロンによりコードされる酵素の発現を変化させることによって変化させることができる。各アルギニンオペロンは、プラスミドまたは細菌染色体上に存在し得る。さらに、任意のアルギニンオペロン、またはアルギニンオペロン内の遺伝子もしくは調節領域の複数のコピーは、細菌に存在し得るものであって、オペロンまたは遺伝子もしくは調節領域の1つもしくは複数のコピーは、本明細書に記載の通り突然変異させるか、あるいは変更することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、コピー数を増加させるために同じ産物(例えば、オペロンまたは遺伝子もしくは調節領域)の複数のコピーを含むようにまたは複数の異なる機能を果たすオペロンの複数の異なる構成要素を含むように操作されている。
「ARGボックス共通配列」は、ARGボックス核酸配列を意味し、その核酸は、argR、argA、argB、argC、argD、argE、argF、argG、argH、argI、argJ、carAおよび/またはcarBの調節領域のうちの1つまたは複数に高頻度で存在することが公知である。上述のように、各argオペロンは、プロモーターと重複し、レプレッサータンパク質が結合しているARGボックスと呼ばれる少なくとも1つの18ヌクレオチド不完全回文構造配列を含む調節領域を含む(Tianら、1992年)。ARGボックスのヌクレオチド配列は、各オペロンごとに異なり得るものであり、共通ARGボックス配列は、A/T nTGAAT A/T A/T T/A T/A ATTCAn T/Aである(Maas、1994年)。アルギニンリプレッサーは、1つまたは複数のARGボックスに結合して、当1つまたは複数のARGボックスに作動可能に連結したアルギニン生合成酵素(複数可)の転写を能動的に阻害する。
「突然変異アルギニンレギュロン」または「突然変異型アルギニンレギュロン」は、突然変異アルギニンレギュロンが、同じ条件下で同じ細菌亜型に由来する非改変レギュロンより多くのアルギニンおよび/または中間副産物を産生するように、アルギニン生合成経路における、グルタミン酸をアルギニンおよび/または中間副産物、例えば、シトルリンに変換することに関与する酵素をコードするオペロンのそれぞれのアルギニン媒介抑制を低減または消失させる1つまたは複数の核酸の突然変異を含むアルギニンレギュロンを指すために用いられる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrならびにアルギニン生合成酵素N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼおよびカルバモイルリン酸シンターゼをコードするオペロンのうちの1つまたは複数の少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを含み、それにより、レギュロンを活性化し、アルギニンおよび/または中間副産物の生合成を増強する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンリプレッサー機能が低下もしくは不活性化し、または遺伝子操作細菌がアルギニンリプレッサーを有さず(例えば、アルギニンリプレッサー遺伝子が欠失し)、レギュロンの抑制解除ならびにアルギニンおよび/または中間副産物の生合成の増強がもたらされるように、1つもしくは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンリプレッサーを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbr、アルギニン生合成酵素をコードするオペロンのそれぞれの少なくとも1つのARGボックスにおける1つもしくは複数の核酸突然変異を含む、突然変異アルギニンレギュロンおよび/または突然変異もしくは欠失アルギニンリプレッサーを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrおよびアルギニン生合成酵素をコードするオペロンのそれぞれに対する少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrおよびアルギニンリプレッサーの突然変異または欠失を含む。いくつかの実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンは、野生型N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードするオペロンおよび前記オペロンの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む。いくつかの実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンは、野生型N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードするオペロンおよび突然変異または欠失アルギニンリプレッサーを含む。いくつかの実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンは、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(N−アセチルグルタミン酸シンテターゼおよび/またはN−アセチルオルニチナーゼに加えてあるいはその代わりに)をコードするオペロンならびに前記オペロンの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む。
ARGボックスは、各アルギニン生合成オペロンの調節領域におけるプロモーターと重複する。突然変異アルギニンレギュロンにおいては、1つまたは複数のアルギニン生合成オペロンの調節領域は、回文構造ARGボックス配列を破壊し、ArgR結合を低減するのに十分に突然変異しているが、天然オペロン特異的プロモーターとして認識されるのに、非突然変異調節領域のプロモーターとの十分に高い相同性を依然として含む。オペロンは、ARGボックスおよびオペロンの調節領域へのArgR結合が低減または消失するように少なくとも1つのARGボックスにおける少なくとも1つの核酸突然変異を含む。いくつかの実施形態では、DNAメチル化から保護される塩基およびArgR結合時にヒドロキシルラジカル攻撃から保護される塩基は、ArgR結合を破壊するための突然変異の主要な標的である(例えば、表3参照)。突然変異調節領域のプロモーターは、RNAポリメラーゼが、作動可能に連結したアルギニン生合成酵素(複数可)の転写を促進するのに十分な親和性でそれに結合するように非突然変異調節領域のプロモーターとの十分に高い相同性を保持している。いくつかの実施形態では、突然変異体のプロモーターのG/C:A/T比は、野生型プロモーターのG/C:A/T比と10%以下異なっている。
いくつかの実施形態では、複数のARGボックスが単一オペロンに存在し得る。これらの実施形態の一態様では、オペロンにおけるARGボックスのうちの少なくとも1つは、オペロンの調節領域へのArgR結合の必要な低減をもたらすように変更される。これらの実施形態の別の態様では、オペロンにおけるARGボックスのそれぞれは、オペロンの調節領域へのArgR結合の必要な低減をもたらすように変更される。
ArgR結合の「低減」は、同じ条件下の同じ亜型の細菌における非改変ARGボックスおよび調節領域へのリプレッサー結合と比較して、オペロンにおけるARGボックスへのリプレッサー結合の低減または前記オペロンの調節領域への全リプレッサー結合の低減を指すために用いる。いくつかの実施形態では、オペロンの突然変異ARGボックスおよび調節領域へのArgR結合は、同じ条件下の同じ亜型の細菌における非改変ARGボックスおよび調節領域へのArgR結合より少なくとも約50%低い、少なくとも約60%低い、少なくとも約70%低い、少なくとも約80%低い、少なくとも約90%低い、または少なくとも約95%低い。いくつかの実施形態では、突然変異ARGボックスおよび調節領域へのArgR結合の低減は、オペロンにおける1つまたは複数の遺伝子のmRNA発現の少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、少なくとも約500倍、少なくとも約600倍、少なくとも約700倍、少なくとも約800倍、少なくとも約900倍、少なくとも約1000倍、または少なくとも約1500倍の増加をもたらす。
「ArgR」または「アルギニンリプレッサー」は、アルギニンレギュロンにおけるアルギニン生合成遺伝子の転写を調節することによりアルギニン生合成を抑制することができるタンパク質を指すために用いられる。アルギニンリプレッサータンパク質をコードする遺伝子(「argR」)の発現が野生型細菌において増加する場合、アルギニン生合成が減少する。argRの発現が野生型細菌において減少する場合、またはargRが欠失しているかもしくはアルギニンリプレッサー機能を不活性化するように突然変異している場合、アルギニン生合成が増加する。
「機能し得るArgRを欠く」細菌および「ArgR欠失細菌」は、各アルギニンリプレッサーが、同じ条件下の同じ亜型の細菌の非改変アルギニンリプレッサーと比較して活性を著しく低下または消失した細菌を指すために用いられる。アルギニンリプレッサー活性の低下または消失は、例えば、アルギニン生合成遺伝子の転写の増加ならびに/またはアルギニンおよび/もしくは中間副産物、例えば、シトルリンの濃度の増加をもたらし得る。アルギニンリプレッサー活性が低下または消失している細菌は、細菌argR遺伝子を改変することによりまたはargR遺伝子の転写を改変することにより作製することができる。例えば、染色体argR遺伝子を欠失させることができ、突然変異させることができ、またはargR遺伝子を野生型リプレッサー活性を示さないargR遺伝子で置換することができる。
「作動可能に連結した」は、核酸配列の発現が例えば、シスで作動することを可能にする形で調節領域配列に連結している核酸配列、例えば、フィードバック抵抗性ArgAをコードする遺伝子に当てはまる。調節領域は、目的の遺伝子の転写を導くことができる核酸であり、プロモーター配列、エンハンサー配列、応答エレメント、タンパク質認識部位、誘導性エレメント、プロモーター制御エレメント、タンパク質結合配列、5’および3’非翻訳領域、転写開始部位、終結配列、ポリアデニル化配列ならびにイントロンを含むことができる。「誘導性プロモーター」は、1つまたは複数の遺伝子に作動可能に連結している調節領域を意味し、遺伝子の発現が前記調節領域のインデューサーの存在下で増加する。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、低酸素、微好気性または嫌気的条件により誘導される酸素レベル依存性プロモーターを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、分子もしくは代謝物、例えば、組織特異的分子もしくは代謝物または肝損傷を示す分子もしくは代謝物により誘導されるプロモーターを含む。いくつかの実施形態では、代謝物は、腸特異的であり得る。いくつかの実施形態では、代謝物は、肝性脳症に関連付けることができ、例えば、ビリルビンであり得る。分子もしくは代謝物の非限定的な例は、それらの血液および腸における例えば、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、血液凝固因子II、VII、IXおよびX、アルカリホスファターゼ、ガンマグルタミルトランスフェラーゼ、肝炎抗原および抗体、アルファフェトプロテイン、抗ミトコンドリア、平滑筋および抗核抗体、鉄、トランスフェリン、フェリチン、銅、セルロプラスミン、アンモニアならびにマンガンを含む。これらの分子またはそれらの代謝物のうちの1つに応答するプロモーターを本明細書で示した遺伝子操作細菌に用いることができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、炎症または炎症反応により誘導されるプロモーター、例えば、RNSまたはROSプロモーターを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、消化管内に自然に存在し得るまたはし得ない(例えば、体外から加えることができる)代謝物、例えば、アラビノースおよびテトラサイクリンにより誘導されるプロモーターを含む。
「外因性環境条件(複数可)」は、本明細書に記載のプロモーターが誘導される状況(複数可)または環境(複数可)を意味する。「外因性環境条件」という語句は、操作された微生物にとっては外部であるが、宿主対象の環境にとっては内因性または天然の環境条件を意味する。したがって、「外因性」および「内因性」は、同義で用いて、環境条件が哺乳動物の身体に対して内因性であるが、完全な微生物細胞に対しては外部または外因性である環境条件を意味することができる。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、哺乳動物の消化管に固有のものである。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、哺乳動物の上部胃腸管に固有のものである。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、哺乳動物の下部胃腸管に固有のものである。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、哺乳動物の小腸に固有のものである。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、健常または疾患状態(例えば、HE)の哺乳動物の消化管に固有である分子もしくは代謝物の存在を意味する。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、哺乳動物の消化管の環境のような、低酸素、微好気的または嫌気的条件である。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、哺乳動物の消化管に固有である分子もしくは代謝物、例えば、プロピオネートである。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、組織に固有または疾患に固有の代謝物もしくは分子(複数可)である。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、低pH環境である。いくつかの実施形態では、本開示の遺伝子操作微生物は、pH依存性プロモーターを含む。いくつかの実施形態では、本開示の遺伝子操作微生物は、酸素レベル依存性プロモーターを含む。いくつかの態様では、細菌は、酸素レベルを感知することができる転写因子を発達させた。異なるシグナル伝達経路は、異なる酸素レベルにより誘発され、異なる速度論で発生し得る。
「酸素レベル依存性プロモーター」または「酸素レベル依存性調節領域」は、1つまたは複数の酸素レベル感知転写因子が結合することができる核酸配列を指し、ここで、対応する転写因子の結合および/または活性化が下流遺伝子発現を活性化する。
酸素レベル依存性転写因子の例は、FNR、ANRおよびDNRを含むが、これらに限定されない。対応するFNR応答性プロモーター、ANR応答性プロモーターおよびDNR応答性プロモーターは、当技術分野で公知であり(例えば、Castiglioneら、2009年;Eiglmeierら、1989年;Galimandら、1991年;Hasegawaら、1998;Hoerenら、1993年;Salmonら、2003年参照)、非限定的な例を表1に示す。
非限定的な例において、プロモーター(PfnrS)は、低または無環境酸素の条件下で高度に発現することが公知である大腸菌ニッスルフマル酸・硝酸レダクターゼ遺伝子S(fnrS)に由来していた(DurandおよびStorz、2010年;Boysenら、2010年)。PfnrSプロモーターは、ニッスルに天然で見いだされるグローバルな転写調節因子FNRにより嫌気的条件下で活性化される。嫌気的条件下では、FNRは、二量体を形成し、その制御下の特定の遺伝子のプロモーターにおける特定の配列に結合し、それにより、それらの発現を活性化する。しかし、好気的条件下では、酸素がFNR二量体における鉄−硫黄クラスターと反応し、それらを不活性形に変換する。このようにして、PfnrS誘導性プロモーターは、タンパク質またはRNAの発現をモジュレートするために採用される。PfnrSは、本願書においてFNRS、fnrs、FNR、P−FNRSプロモーターおよびPfnrSプロモーターを示すための他のそのような関連する記号表示と同義で用いる。
「消化管バリア機能増強分子」は、短鎖脂肪酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、GLP−2、IL−10、IL−27、TGF−β1、TGF−β2、N−アシルホスファチジルエタノールアミン(NAPEs)、エラフィン(ペプチダーゼ阻害剤3およびSKALPとも呼ばれる)、トレフォイル因子、メラトニン、PGD2、キヌレン酸およびキヌレニンを含むが、これらに限定されない。消化管バリア機能増強分子は、単一遺伝子によりコードされ得る。例えば、エラフィンは、PI3遺伝子によりコードされる。あるいは、例えば、酪酸などの、消化管バリア機能増強分子は、複数の遺伝子を必要とする生合成経路により合成することができる。これらの分子は、治療用分子と呼ぶこともできる。
本明細書で使用する場合、生合成経路をコードする「遺伝子カセット」または「オペロン」は、消化管バリア機能増強分子、例えば、酪酸、プロピオン酸を産生するために必要な2つまたはそれ以上の遺伝子を意味する。前記分子を産生することができる一組の遺伝子をコードすることに加えて、遺伝子カセットまたはオペロンは、さらなる転写および翻訳エレメント、例えば、リボソーム結合部位も含み得る。
「酪酸生成遺伝子カセット」、「酪酸生合成遺伝子カセット」および「酪酸オペロン」は、同義で用いて、酪酸を生合成経路で生成することができる一組の遺伝子を意味する。内因性酪酸生合成経路を介して酪酸を産生することができる非改変細菌は、クロストリジウム属(Clostridium)、ペプトクロストリジウム属(Peptoclostridium)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、ブチリビブリオ属(Butyrivibrio)、ユウバクテリウム属(Eubacterium)およびトレポネーマ属(Treponema)を含むが、これらに限定されず、これらの内因性酪酸生合成経路は、本発明の遺伝子操作細菌の遺伝子の起源であり得る。本発明の遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来する酪酸生合成遺伝子、あるいは細菌の異なる種、菌株および/または亜菌株に由来する酪酸生合成遺伝子の組合せを含み得る。酪酸生成遺伝子カセットは、例えば、ペプトクロストリジウム・ディフィシル(Peptoclostridium difficile)(クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)とも呼ばれる)に由来する酪酸産生経路の8つの遺伝子:それぞれブチリルCoAデヒドロゲナーゼサブユニット、電子伝達フラビンタンパク質サブユニットベータ、電子伝達フラビンタンパク質サブユニットアルファ、アセチルCoA C−アセチルトランスフェラーゼ、3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼ、クロトナーゼ、リン酸ブチリルトランスフェラーゼおよび酪酸キナーゼをコードするbcd2、etfB3、etfA3、thiA1、hbd、crt2、pbtおよびbukを含み得る(Aboulnagaら、2013年)。酪酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数を機能的に置換または改変することができる。ペプトクロストリジウム・ディフィシル630菌株および1296菌株は、両方が酪酸を産生することができるが、etfA3、thiA1、hbd、crt2、pbtおよびbukについて異なる核酸配列を含む。酪酸生成遺伝子カセットは、ペプトクロストリジウム・ディフィシル630菌株に由来するbcd2、etfB3、etfA3およびthiA1ならびにペプトクロストリジウム・ディフィシル1296菌株に由来するhbd、crt2、pbtおよびbukを含み得る。あるいは、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)に由来する単一遺伝子(ter、トランス−2−エノイルCoAレダクターゼをコードする)は、ペプトクロストリジウム・ディフィシルに由来するbcd2、etfB3およびetfA3遺伝子の3つすべてを機能的に置換することができる。したがって、酪酸生成遺伝子カセットは、ペプトクロストリジウム・ディフィシルに由来するthiA1、hbd、crt2、pbtおよびbukならびにトレポネーマ・デンティコラに由来するterを含み得る。酪酸生成遺伝子カセットは、酪酸の好気的生合成の遺伝子および/または酪酸の嫌気的もしくは微好気的生合成の遺伝子を含み得る。
同様に、「プロピオン酸遺伝子カセット」または「プロピオン酸オペロン」は、プロピオン酸を生合成経路で生成することができる一組の遺伝子を意味する。内因性プロピオン酸生合成経路を介してプロピオン酸を産生することができる非改変細菌は、クロストリジウム・プロピオニクム(Clostridium propionicum)、メガスフェラ・エルスデニイ(Megasphaera elsdenii)およびプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)を含むが、これらに限定されず、これらの内因性プロピオン酸生合成経路は、本発明の遺伝子操作細菌の遺伝子の起源であり得る。本発明の遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するプロピオン酸生合成遺伝子、あるいは細菌の異なる種、菌株および/または亜菌株に由来するプロピオン酸生合成遺伝子の組合せを含み得る。いくつかの実施形態では、プロピオン酸遺伝子カセットは、アクリル酸経路プロピオン酸生合成遺伝子、例えば、それぞれプロピオン酸CoAトランスフェラーゼ、ラクトイルCoAデヒドラターゼA、ラクトイルCoAデヒドラターゼB、ラクトイルCoAデヒドラターゼC、電子伝達フラビンタンパク質サブユニットA、アクリロイルCoAレダクターゼBおよびアクリロイルCoAレダクターゼCをコードするpct、lcdA、lcdB、lcdC、etfA、acrBおよびacrCを含む(Hetzelら、2003年、Selmerら、2002年)。代替実施形態では、プロピオン酸遺伝子カセットは、ピルビン酸経路プロピオン酸生合成遺伝子(例えば、TsengおよびPrather、2012年参照)、例えば、それぞれホモセリンデヒドロゲナーゼ1、ホモセリンキナーゼ、L−トレオニンシンターゼ、L−トレオニンデヒドラターゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ジヒドロリポアミドアセチルトランスフェラーゼおよびジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼをコードするthrAfbr、thrB、thrC、ilvAfbr、aceE、aceFおよびlpdを含む。いくつかの実施形態では、プロピオン酸遺伝子カセットは、アシルCoAチオエステラーゼをコードするtesBをさらに含む。プロピオン酸遺伝子カセットは、プロピオン酸の好気的生合成の遺伝子および/またはプロピオン酸の嫌気的もしくは微好気的生合成の遺伝子を含み得る。プロピオン酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数を機能的に置換または改変する、例えば、コドンを最適化することができる。
「酢酸遺伝子カセット」または「酢酸オペロン」は、酢酸を生合成経路で生成することができる一組の遺伝子を意味する。細菌は、セルロース、リグニンおよび無機気体などの様々な基質を含む、「多くの炭素およびエネルギー源から酢酸を合成し」、当技術分野で公知である、種々の生合成機序および遺伝子を利用する(Ragsdaleら、2008年)。内因性酢酸生合成経路を介して酢酸を産生することができる非改変細菌は、本発明の遺伝子操作細菌の酢酸生合成遺伝子の起源であり得る。本発明の遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来する酢酸生合成遺伝子、あるいは細菌の異なる種、菌株および/または亜菌株に由来する酢酸生合成遺伝子の組合せを含み得る。大腸菌は、好気的増殖中にグルコースおよび酸素を消費して、酢酸および二酸化炭素を産生することができる(Klemanら、1994年)。アセチトマクラム属(Acetitomaculum)、アセトアナエロビウム属(Acetoanaerobium)、アセトハロビウム属(Acetohalobium)、アセトネマ属(Acetonema)、バルチア属(Balutia)、ブチリバクテリウム属(Butyribacterium)、クロストリジウム属、ムーレラ属(Moorella)、オキソバクター属(Oxobacter)、スポロムサ属(Sporomusa)およびサーモアセトゲニウム属(Thermoacetogenium)などの、いくつかの細菌は、例えば、Wood−Ljungdahl経路を用いて、COまたはCO2+H2を酢酸に変換することができる酢酸生成嫌気性菌である(Schiel−Bengelsdorfら、2012年)。様々な細菌種のWood−Ljungdahl経路における遺伝子は、当技術分野で公知である。酢酸遺伝子カセットは、酢酸の好気的生合成の遺伝子および/または酢酸の嫌気的もしくは微好気的生合成の遺伝子を含み得る。酢酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数を機能的に置換または改変することができる。
「GABA」および「γ−アミノ酪酸」は、哺乳動物中枢神経系における主要な抑制性神経伝達物質(C4H9NO2)を指すために用いられる。ヒトにおいては、GABAは、筋緊張の調節にも直接的に関与する。GABAは、リガンド開口型イオンチャンネル複合体の一部である、GABAA受容体、ならびにGABAB代謝調節型Gタンパク質共役受容体を活性化することができる。GABAを産生するニューロンは、「GABA作動性」ニューロンとして公知であり、GABA受容体の活性化は、GABA作動性トーンと表現される(すなわち、GABA受容体の活性化の増大は、GABA作動性トーンの増大を意味する)。
「GABA輸送体」および「GabP」は、GABAを細菌細胞内に輸送することができる膜輸送タンパク質を指すために用いられる(例えば、Liら、2001年参照)。大腸菌では、gabP遺伝子は、GABAの輸送に関与する高親和性GABAパーミアーゼをコードする(Liら、2001年)。いくつかの実施形態では、GABA輸送体は、枯草菌および大腸菌を含むが、これらに限定されない、細菌種に由来するgabP遺伝子によりコードされる。これらの内因性GABA輸送体遺伝子は、本発明の遺伝子操作細菌の遺伝子の起源であり得る。GABA輸送体をコードする任意の適切な遺伝子(複数可)を用いることができる。
「マンガン」は、記号「Mn」および原子番号25を有する化学元素を意味する。生体系においては、マンガンは、必須微量金属であり、酵素媒介性触媒作用に重要な役割を果たすが、有害な作用も有し得る。細胞は、毒性を避けるためにマンガンを厳格な恒常性制御下に維持する。高アンモニア血症に関連するいくつかの障害は、マンガンのレベルの上昇を特徴とすることもあり得るものであり、マンガンは、疾患病因(例えば、肝性脳症)に寄与し得るものである(Rivera−Manciaら、2012年)。
「マンガン輸送体」および「MntH」は、マンガンを細菌細胞内に輸送することができる膜輸送タンパク質を指す(例えば、JensenおよびJensen、2014年参照)。大腸菌では、mntH遺伝子は、マンガンの輸送に関与するプロトン刺激性2価金属陽イオン取込み系をコードする(Porcheronら、2013年)。いくつかの実施形態では、マンガン輸送体は、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、フレキスナー赤痢菌(Shigella flexneri)、ペスト菌(Yersinia pestis)および大腸菌を含むが、これらに限定されない、細菌種に由来するmntH遺伝子によりコードされる。これらの内因性マンガン輸送体遺伝子は、本発明の遺伝子操作細菌の遺伝子の起源であり得る。マンガン輸送体をコードする任意の適切な遺伝子(複数可)を用いることができる。
本明細書で使用する場合、「非天然」核酸配列は、通常細菌に存在しない核酸配列、例えば、内因性配列の余剰のコピー、あるいは細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来する配列などの異種配列、あるいは同じ亜型の細菌に由来する非改変配列と比較して改変され、かつ/または突然変異した配列を意味する。いくつかの実施形態では、非天然核酸配列は、合成非天然型配列である(例えば、Purcellら、2013年参照)。非天然核酸配列は、遺伝子カセットにおける調節領域、プロモーター、遺伝子および/または1つもしくは複数の遺伝子であり得る。いくつかの実施形態では、「非天然」は、天然で互いに同じ関係性が見いだされない2つまたはそれ以上の核酸配列を意味する。非天然核酸配列、例えば、遺伝子または遺伝子カセットは、プラスミドまたは細菌染色体上に存在し得る。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、天然において前記遺伝子カセットと関連していない誘導性プロモーター、例えば、酪酸生成遺伝子カセットまたはアルギニン産生カセットに作動可能に連結したFNR応答性プロモーターに直接的または間接的に作動可能に連結している遺伝子カセットを含む。さらに、遺伝子、遺伝子カセットまたは調節領域の複数のコピーが細菌に存在し、1つもしくは複数のコピーは、本明細書に記載の通り突然変異させるか、あるいは変更することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、コピー数を増大させるまたは複数の異なる機能を果たす遺伝子カセットの複数の異なる構成要素を構成するために、同じ非天然核酸配列、例えば、遺伝子、遺伝子カセットまたは調節領域の複数のコピーを含むように操作されている。
「構成的プロモーター」は、その制御下の、かつ/またはそれが作動可能に連結したコード配列もしくは遺伝子の連続的転写を駆動することができるプロモーターを意味する。構成的プロモーターおよび変異体は、当技術分野で周知であり、BBa_J23100、構成的大腸菌σSプロモーター(例えば、osmYプロモーター(International Genetically Engineered Machine(iGEM) Registry of Standard Biological Parts Name BBa_J45992; BBa_J45993))、構成的大腸菌σ32プロモーター(例えば、htpG熱ショックプロモーター(BBa_J45504))、構成的大腸菌σ70プロモーター(例えば、lacqプロモーター(BBa_J54200; BBa_J56015)、大腸菌CreABCDリン酸感知オペロンプロモーター(BBa_J64951)、GlnRSプロモーター(BBa_K088007)、lacZプロモーター(BBa_K119000;BBa_K119001)、M13K07遺伝子Iプロモーター(BBa_M13101)、M13K07遺伝子IIプロモーター(BBa_M13102)、M13K07遺伝子IIIプロモーター(BBa_M13103)、M13K07遺伝子IVプロモーター(BBa_M13104)、M13K07遺伝子Vプロモーター(BBa_M13105)、M13K07遺伝子VIプロモーター(BBa_M13106)、M13K07遺伝子VIIIプロモーター(BBa_M13108)、M13110(BBa_M13110)、構成的枯草菌σAプロモーター(例えば、プロモーターveg(BBa_K143013)、プロモーター43(BBa_K143013)、PliaG(BBa_K823000)、PlepA(BBa_K823002)、Pveg(BBa_K823003)、構成的枯草菌σBプロモーター(例えば、プロモーターctc(BBa_K143010)、プロモーターgsiB(BBa_K143011))、サルモネラ属(Salmonella)プロモーター(例えば、サルモネラ属に由来するPspv2(BBa_K112706)、サルモネラ属に由来するPspv(BBa_K112707))、バクテリオファージT7プロモーター(例えば、T7プロモーター(BBa_I712074;BBa_I719005;BBa_J34814;BBa_J64997;BBa_K113010;BBa_K113011;BBa_K113012;BBa_R0085;BBa_R0180;BBa_R0181;BBa_R0182;BBa_R0183;BBa_Z0251;BBa_Z0252;BBa_Z0253))、バクテリオファージSP6プロモーター(例えば、SP6プロモーター(BBa_J64998))およびそれらの機能的断片を含むが、これらに限定されない。
本明細書で使用する場合、アルギニンまたは中間副産物、例えば、シトルリンを「過剰産生する」遺伝子操作細菌は、突然変異アルギニンレギュロンを含む細菌を指す。例えば、操作細菌は、ArgAのフィードバック抵抗形を含み得るものであり、アルギニンフィードバック抵抗性ArgAが発現する場合、同じ条件下で同じ亜型の非改変細菌より多くのアルギニンおよび/または中間副産物を産生することができる。遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成酵素をコードするオペロンのそれぞれの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを代わるべきものとしてまたはさらに含み得る。遺伝子操作細菌は、突然変異もしくは欠失アルギニンリプレッサーを代わるべきものとしてまたはさらに含み得る。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、同じ条件下で同じ亜型の非改変細菌の少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、少なくとも約500倍、少なくとも約600倍、少なくとも約700倍、少なくとも約800倍、少なくとも約900倍、少なくとも約1000倍、または少なくとも約1500倍のアルギニンを産生する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、同じ条件下で同じ亜型の非改変細菌の少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、少なくとも約500倍、少なくとも約600倍、少なくとも約700倍、少なくとも約800倍、少なくとも約900倍、少なくとも約1000倍、または少なくとも約1500倍のシトルリンまたは他の中間副産物を産生する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌におけるアルギニン生合成遺伝子のうちの1つまたは複数のmRNA転写物レベルは、同じ条件下で同じ亜型の非改変細菌におけるmRNA転写物レベルの少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、少なくとも約500倍、少なくとも約600倍、少なくとも約700倍、少なくとも約800倍、少なくとも約900倍、少なくとも約1000倍、または少なくとも約1500倍である。特定の実施形態では、非改変細菌は、検出可能なレベルのアルギニン、中間副産物、および/またはそのようなオペロンにおける遺伝子(複数可)の転写を有さない。しかし、タンパク質ならびに/またはアルギニンおよび/もしくは中間副産物の転写レベルは、突然変異アルギニンレギュロンを有する対応する遺伝子操作細菌において検出可能である。転写レベルは、遺伝子のmRNAレベルを直接測定することによって検出することができる。アルギニンおよび/または中間副産物レベル、ならびにアルギニン生合成遺伝子から発現する転写物のレベルを測定する方法は、当技術分野で公知である。アルギニンおよびシトルリンは、例えば、質量分析により測定することができる。
「消化管」は、食物の輸送および消化、栄養素の吸収、ならびに廃物の***に関与する器官、腺、路および系を意味する。ヒトにおいては、消化管は、口から始まり、肛門で終わり、食道、胃、小腸および大腸をさらに含む、胃腸管を含む。消化管は、脾臓、肝臓、胆嚢および膵臓などの、付属器官および腺も含む。上部胃腸管は、食道、胃および小腸の十二指腸を含む。下部胃腸管は、小腸の残りの部分、すなわち、空腸および回腸、ならびに大腸のすべて、すなわち、盲腸、結腸、直腸および肛門管を含む。細菌は、消化管を通して、例えば、胃腸管、とりわけ腸に見いだすことができる。
本明細書で使用する場合、「遺伝子配列」という用語は、遺伝子配列、例えば、核酸配列を意味する。遺伝子配列(gene sequence)または遺伝子配列(genetic sequence)は、完全な遺伝子配列または部分的遺伝子配列を含むことを意味する。遺伝子配列(gene sequence)または遺伝子配列(genetic sequence)は、タンパク質またはポリペプチドをコードする配列を含むことを意味し、タンパク質またはポリペプチドをコードしない遺伝子配列、例えば、調節配列、リーダー配列、シグナル配列または他の非タンパク質コード配列を含むことも意味する。
「微生物」は、一般的に単細胞からなる顕微鏡的、超顕微鏡的または極超微鏡的サイズの生物または微小生物を意味する。微生物の例は、細菌、ウイルス、寄生虫、真菌、特定の藻類および原虫を含む。いくつかの態様では、微生物は、1つまたは複数の治療用分子を生産するように操作される(「操作微生物」)。特定の態様では、微生物は、その環境、例えば、消化管からの特定の有毒な代謝物、基質または他の化合物を移入し、かつ/または異化するように操作される。特定の態様では、微生物は、有益な代謝物、分子または他の化合物(合成もしくは天然)を合成し、それらをその環境中に放出するように操作される。特定の実施形態では、操作微生物は、操作細菌である。特定の実施形態では、操作微生物は、操作ウイルスである。
「非病原性細菌」は、宿主における疾患または有害な反応を引き起こす能力がない細菌を意味する。いくつかの実施形態では、非病原性細菌は、共生細菌である。非病原性細菌の例は、バシラス属(Bacillus)、バクテロイデス属(Bacteroides)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ブレビバクテリウム属(Brevibacteria)、クロストリジウム属、腸球菌属(Enterococcus)、大腸菌、乳酸桿菌属(Lactobacillus)、乳酸球菌属(Lactococcus)、サッカロミセス属(Saccharomyces)およびスタフィロコッカス属(Staphylococcus)、例えば、バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)、枯草菌、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ズブチリス(Bacteroides subtilis)、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)、エンテロコッカス・ファシウム(Enterococcus faecium)、ラクトバシラス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシラス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)およびサッカロミセス・ブラウディを含むが、これらに限定されない(Sonnenbornら、2009年;Dinleyiciら、2014年;米国特許第6,835,376号;米国特許第6,203,797号;米国特許第5,589,168号;米国特許第7,731,976号)。天然で病原性の細菌を遺伝子操作して、病原性の低下または消失をもたらすことができる。
本明細書で使用する場合、「ペイロード」は、細菌またはウイルスなどの、遺伝子操作微生物により産生される目的の1つもしくは複数のポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドを意味する。いくつかの実施形態では、ペイロードは、遺伝子もしくは複数の遺伝子またはオペロンによりコードされる。いくつかの実施形態では、ペイロードを含む1つもしくは複数の遺伝子および/またはオペロンは、微生物に対して内因性である。いくつかの実施形態では、ペイロードの1つもしくは複数のエレメントは、異なる微生物および/または生物に由来する。いくつかの実施形態では、ペイロードは、治療用ペイロードである。いくつかの実施形態では、ペイロードは、分子の生合成のための遺伝子によりコードされる。いくつかの実施形態では、ペイロードは、分子の代謝、異化または分解のための遺伝子によりコードされる。いくつかの実施形態では、ペイロードは、分子の移入のための遺伝子によりコードされる。いくつかの実施形態では、ペイロードは、分子の輸出のための遺伝子によりコードされる。いくつかの実施形態では、ペイロードは、調節分子(複数可)、例えば、FNRのような転写調節因子である。いくつかの実施形態では、ペイロードは、プロモーターまたはリプレッサーのような、調節エレメントを含む。いくつかの実施形態では、ペイロードは、ペイロードは、FNRSのような、誘導性プロモーターを含む。いくつかの実施形態では、ペイロードは、キルスイッチのような、リプレッサーエレメントを含む。代替実施形態では、ペイロードは、生合成または生化学的経路により生成されるものであって、生合成または生化学的経路は、任意選択で微生物に対して内因性であってもよい。いくつかの実施形態では、遺伝子操作微生物は、2つまたはそれ以上のペイロードを含む。ペイロード(複数可)の非限定的な例は、(1)ArgAfbr、(2)突然変異Argボックス、(3)突然変異ArgR、(4)突然変異ArgG、(5)酪酸生合成カセット、(6)プロピオン酸生合成カセット、(7)酢酸生合成カセット、(8)GABA代謝カセット、(9)GABA輸送体、(10)Mn輸送体のうちの1つまたは複数を含む。他の例示的ペイロードは、GLP−2、IL−10、IL−27、TGF−β1、TGF−β2、エラフィン(ペプチダーゼ阻害剤3またはSKALPとしても公知)、トレフォイル因子、メラトニン、PGD2、キヌレン酸およびキヌレニンを含む。他の例示的ペイロードは、栄養要求性、例えば、thyA栄養要求性をもたらす突然変異配列(複数可)、キルスイッチ回路、抗生物質耐性回路、生体分子または基質を移入するための輸送体配列、分泌回路を含む。
「プロバイオティク」は、適切な量の微生物を含む宿主生物に健康上の恩恵をもたらし得る、生存している非病原性微生物、例えば、細菌を指すために用いられる。いくつかの実施形態では、宿主生物は、哺乳動物である。いくつかの実施形態では、宿主生物は、ヒトである。非病原性細菌のいくつかの種、菌株および/または亜型は、現在プロバイオティク細菌と認識されている。プロバイオティク細菌の例は、ビフィドバクテリウム属、大腸菌、乳酸桿菌属およびサッカロミセス属、例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、エンテロコッカス・ファシウム、大腸菌ニッスル、ラクトバシラス・アシドフィラス、ラクトバシラス・ブルガリクス、ラクトバシラス・パラカゼイ、ラクトバシラス・プランタルムおよびサッカロミセス・ブラウディを含むが、これらに限定されない(Dinleyiciら、2014年;米国特許第5,589,168号;米国特許第6,203,797号;米国特許第6,835,376号)。プロバイオティクは、細菌の変異または突然変異菌株であり得る(Arthurら、2012年;Cuevas−Ramosら、2010年;Olierら、2012年;Nougayredeら、2006年)。非病原性細菌を遺伝子操作して、所望の生物学的特性、例えば、生存性を増強または改善することができる。非病原性細菌を遺伝子操作して、プロバイオティク特性を与えることができる。プロバイオティク細菌を遺伝子操作して、プロバイオティク特性を増強または改善することができる。
本明細書で使用する場合、「安定に維持された」または「安定な」細菌は、
非天然遺伝物質が保持され、発現し、伝播するように、宿主ゲノムに組み込まれるまたは自己複製染色体外プラミド上に伝播する非天然遺伝物質、例えば、フィードバック抵抗性argA遺伝子、突然変異アルギニンリプレッサーおよび/または他の突然変異アルギニンレギュロンを有する細菌宿主細胞を指すために用いられる。安定な細菌は、in vitroでの、例えば、培地中での、かつ/またはin vivoでの、例えば、消化管中での生存および/または増殖の能力がある。例えば、安定な細菌は、argAfbrを細菌において発現させることができ、細菌がin vitroで、かつ/またはin vivoで生存し、かつ/または増殖することができるように、argAfbr遺伝子を有するプラスミドまたは染色体が細菌において安定に維持されている、argAfbr遺伝子を含む遺伝子操作細菌であり得る。
本明細書で使用する場合、「モジュレートする」および「治療する」という用語ならびにそれらの同語源語は、疾患、障害および/または状態、あるいはその少なくとも1つの認識できる症状の改善を意味する。他の実施形態では、「モジュレートする」および「治療する」は、患者によって必ずしも認識できない、少なくとも1つの測定可能な物理的パラメーターの改善を意味する。他の実施形態では、「モジュレートする」および「治療する」は、疾患、障害および/または状態の進行を、物理的に(例えば、認識できる症状の安定化)、生理学的に(例えば、物理的パラメーターの安定化)または両方により、抑制することを意味する。他の実施形態では、「モジュレートする」および「治療する」は、疾患、障害および/または状態の進行を遅くすることまたは進行を逆転することを意味する。本明細書で使用する場合、「妨げる」およびその同語源語は、所定の疾患、障害および/または状態あるいはそのような疾患、障害および/または状態に関連する症状の発生を遅延させることまたはかかるリスクを低下させることを意味する。
治療を必要とする人は、特定の医学的障害を既に有する人、障害を有するリスクがある、または最終的に障害にかかる可能性がある人を含み得る。治療の必要性は、例えば、障害の発生に関連する1つもしくは複数のリスクファクターの存在、障害の進行もしくは存在、または障害を有する対象の治療に対する生じ得る受容によって評価される。原発性高アンモニア血症は、公知の治療法が存在しない常染色体劣性またはX連鎖先天性代謝異常である、UCDによって引き起こされる。高アンモニア血症は、尿素回路の他の破壊、例えば、有毒代謝物、感染および/または基質欠損に二次的でもあり得る。高アンモニア血症は、他の病的状態にも寄与し得る。例えば、ハンチントン病は、公知の治療法が存在しない常染色体優性障害である。高アンモニア血症、高血中シトルリンおよび尿素回路酵素の抑制を特徴とする尿素回路異常は、公知の治療法が存在しない常染色体優性障害である、ハンチントン病の病状に寄与し得る。高アンモニア血症の治療は、過剰のアンモニアおよび/または随伴症状を低減または除去することを含み得るものであり、潜在する高アンモニア血症に関連する障害の除去を必ずしも含まない。
本明細書で使用する場合、「医薬組成物」は、本発明の遺伝子操作細菌と生理学的に適切な担体および/または賦形剤のような他の成分との製剤を意味する。
同義で用いることができる「生理学的に許容される担体」および「薬学的に許容される担体」という語句は、生物に対する著しい刺激を引き起こさず、投与された細菌化合物の生物学的活性および特性を無効にしない担体または希釈剤を意味する。アジュバントは、これらの語句のもとに含まれる。
「賦形剤」という用語は、有効成分の投与をさらに促進するために医薬組成物に添加される不活性物質を意味する。例は、重炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖および種類のデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコールならびに例えば、ポリソルベート20を含む、界面活性剤を含むが、これらに限定されない。
「治療有効用量」および「治療有効量」という用語は、症状の発生の予防、遅延、または状態、例えば、高アンモニア血症の症状の改善をもたらす化合物の量を指すために用いられる。治療有効量は、例えば、アンモニア濃度の上昇に関連する障害の1つもしくは複数の症状を治療する、防止する、重症度を低下させる、発症を遅延させる、かつ/または発生のリスクを低下させるのに十分であり得る。治療有効量、ならびに治療有効投与頻度は、当技術分野で公知であり、下文で述べる方法により決定することができる。
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」という用語は、「ポリペプチド」ならびに「(複数の)ポリペプチド」を含み、アミド結合(すなわち、ペプチド結合)により直線状に連結したアミノ酸単量体から構成される分子を意味する。「ポリペプチド」という用語は、2つまたはそれ以上のアミノ酸の1つまたは複数の鎖を意味し、特定の長さの生成物を意味しない。したがって、「ペプチド」、「ジペプチド」、「トリペプチド」、「オリゴペプチド」、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」または2つもしくはそれ以上のアミノ酸の1つもしくは複数の鎖を指すために用いられる任意の他の用語は、「ポリペプチド」の定義の範囲内に含まれ、「ポリペプチド」という用語は、これらの用語の代わりに、またはそれらと同義で用いることができる。「ポリペプチド」という用語は、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、誘導体化、タンパク質分解的切断または非天然アミノ酸による修飾を含むが、これらに限定されない、ポリペプチドの発現後修飾の生成物も指すものとする。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源から得ることができ、または組換え技術により生成することができる。他の実施形態では、ポリペプチドは、本発明の遺伝子操作細菌またはウイルスにより産生される。本発明のポリペプチドは、約3もしくはそれ以上、5もしくはそれ以上、10もしくはそれ以上、20もしくはそれ以上、25もしくはそれ以上、50もしくはそれ以上、75もしくはそれ以上、100もしくはそれ以上、200もしくはそれ以上、500もしくはそれ以上、1000もしくはそれ以上、または2000もしくはそれ以上のアミノ酸のサイズであり得る。ポリペプチドは、必ずしもそのような構造を有さないが、定義された3次元構造を有し得る。定義された3次元構造を有するポリペプチドは、折りたたみと呼ばれ、定義された3次元構造を有さずに、多数の異なる立体配座をとり得るポリペプチドは、変性と呼ばれる。「ペプチド」または「ポリペプチド」という用語は、タンパク質もしくはタンパク質の一部に対応するアミノ酸配列を意味し、または非タンパク質配列、例えば、調節ペプチド配列、リーダーペプチド配列、シグナルペプチド配列、リンカーペプチド配列および他のペプチド配列から選択される配列と一致するアミノ酸配列を意味し得る。
「単離」ポリペプチドまたはその断片、変異体もしくは誘導体は、その天然環境中に存在しないポリペプチドを意味する。特定のレベルの精製は、要求されない。細菌または哺乳動物細胞を含むが、これらに限定されない宿主細胞において発現した組換えにより産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術により分離され、分画され、または部分的もしくは実質的に精製された天然または組換えポリペプチドと同様に、本発明の目的のために単離されたと見なされる。
組換えペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、組換えDNA技術により産生された、すなわち、ポリペプチドをコードする外因性組換えDNA発現構築物により形質転換した、細胞、微生物または哺乳動物から産生されたペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を意味する。大部分の細菌培養において発現するタンパク質またはペプチドは、一般的にグリカンを含まない。前述のポリペプチドの断片、誘導体、類似体または変異体、およびそれらのいずれかの組合せもポリペプチドとして含まれる。「断片」、「変異体」、「誘導体」および「類似体」という用語は、最初のペプチドのアミノ酸配列と十分に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み、対応する最初のポリペプチドの少なくとも1つまたは複数の特性を保持している、任意のポリペプチドを含む。本発明のポリペプチドの断片は、タンパク質分解性断片ならびに欠失断片を含む。断片は、本明細書に記載の任意のポリペプチドに由来する特異抗体または生物活性断片もしくは免疫学的に活性な断片も含む。変異体は、天然型または非天然型であり得る。非天然型変異体は、当技術分野で公知の突然変異誘発法を用いて生成することができる。変異型ポリペプチドは、同類もしくは非同類アミノ酸置換、欠失または付加を含み得る。
ポリペプチドは、融合タンパク質も含む。本明細書で使用する場合、「変異体」という用語は、最初のペプチドのまたは最初のペプチドと十分に類似した配列を含む、融合タンパク質を含む。本明細書で使用する場合、「融合タンパク質」という用語は、2つまたはそれ以上の異なるタンパク質のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質を意味する。一般的に、融合タンパク質は、周知のin vitro組換え技術により得られる。融合タンパク質は、融合タンパク質の成分である個別の最初のタンパク質と類似の構造的機能(ただし必ずしも同じ程度でない)および/または類似の調節機能(ただし必ずしも同じ程度でない)および/または類似の生化学的機能(ただし必ずしも同じ程度でない)および/または免疫学的活性(ただし必ずしも同じ程度でない)を有し得る。「誘導体」は、20種の標準アミノ酸の1つまたは複数の天然アミノ酸誘導体を含む、ペプチドを含むが、これに限定されない。2つのペプチド間の「類似性」は、1つのペプチドのアミノ酸配列を第2のペプチドの配列と比較することによって決定される。それが同一または同類アミノ酸置換である場合、1つのペプチドのアミノ酸は、第2のペプチドの対応するアミノ酸と類似している。同類置換は、Dayhoff M.O.編、The Atlas of Protein Sequence and Structure 5、National Biomedical Research Foundation、Washington D.C.(1978年)およびArgos、EMBO J.8(1989年)、779〜785頁に記載されているものを含む。例えば、以下の群の1つに属するアミノ酸は、保守的変化または置換を示す:−Ala、Pro、Gly、Gln、Asn、Ser、Thr;−Cys、Ser、Tyr、Thr;−Val、Ile、Leu、Met、Ala、Phe;−Lys、Arg、His;−Phe、Tyr、Trp、His;および−Asp、Glu。
本明細書で使用する場合、「十分に類似している」という用語は、第1および第2のアミノ酸配列が共通の構造ドメインおよび/または共通の機能活性を有するように第2のアミノ酸配列と比べて十分なまたは最小限の数の同一または同等のアミノ酸残基を含む第1のアミノ酸配列を意味する。例えば、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または少なくとも約100%同一である共通の構造ドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書で十分に類似していると定義される。好ましくは、変異体は、本発明のペプチドのアミノ酸配列と十分に類似している。そのような変異体は、一般的に本発明のペプチドの機能活性を保持している。変異体は、1つもしくは複数のアミノ酸欠失、付加および/または置換により、それぞれ天然および野生型ペプチドとアミノ酸配列が異なるペプチドを含む。これらは、天然に存在する変異体ならびに人工的に設計されたものであり得る。
本明細書で使用する場合、「リンカー」、「リンカーペプチド」または「ペプチドリンカー」または「リンカー」という用語は、2つのポリペプチド配列を結合または連結する、例えば、2つのポリペプチドドメインを連結する合成または非天然もしくは非天然型アミノ酸配列を意味する。本明細書で使用する場合、「合成」という用語は、天然に存在しないアミノ酸配列を意味する。例示的リンカーは、本明細書に記載されている。さらなる例示的リンカーは、その内容がその全体として参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第20140079701号に記載されている。
本明細書で使用する場合、「コドン最適化配列」という用語は、例えば、コード配列から転写された転写物RNA分子の発現宿主細胞もしくは生物における翻訳を改善するために、またはコード配列の転写を改善するために、既存のコード配列から改変された、または設計された配列を意味する。コドン最適化は、発現宿主生物のコドン選択に適合するコード配列のコドンを選択することを含む過程を含むが、これに限定されない。
多くの生物は、成長しつつあるポリペプチド鎖における特定のアミノ酸の挿入をコードする特定のコドンの使用についてバイアスまたは選択を示す。コドン選択またはコドンバイアスは、生物間のコドン使用の差であり、遺伝コードの縮重によって可能になるものであり、多くの生物で十分に立証されている。コドンバイアスは、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳の効率としばしば相関しており、これがひいては、とりわけ、翻訳されるコドンの特性および特定の転移RNA(tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられている。細胞における選択されるtRNAsが優位であることは、一般的にペプチド合成において最も高頻度で使用されるコドンを反映するものである。したがって、コドン最適化に基づいて所定の生物における最適の遺伝子発現を得るために遺伝子を調整することができる。
本明細書で使用する場合、「分泌システム」または「分泌タンパク質」という用語は、微生物、例えば、細菌細胞質から目的のタンパク質または治療用タンパク質を分泌または輸出することができる天然または非天然分泌機構を意味する。分泌システムは、単一タンパク質を含み、または複合体、例えば、HlyBDに集合する2つまたはそれ以上のタンパク質を含み得る。グラム陰性細菌の分泌システムの非限定的な例は、改変III型鞭毛、I型(例えば、ヘモリシン分泌システム)、II型、IV型、V型、VI型およびVII型分泌システム、レジスタンス−ノジュレーション−ディビジョン(resistance−nodulation−division)(RND)多剤排出ポンプ、様々な単一膜分泌システムを含む。グラム陽性細菌の分泌システムの非限定的な例は、SecおよびTAT分泌システムを含む。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質(複数可)または治療用タンパク質(複数可)は、目的のタンパク質(複数可)または治療用タンパク質(複数可)を特定の分泌システムに導くためのRNAまたはペプチド起源の「分泌タグ」を含む。いくつかの実施形態では、分泌システムは、操作細菌から目的のタンパク質(複数可)または治療用タンパク質(複数可)を分泌する前にこのタグを除去することができる。例えば、V型自己分泌媒介性分泌では、N末端ペプチド分泌タグは、天然Secシステムにより「パッセンジャー」ペプチドの細胞質からペリプラズムコンパートメント内への転位時に除去される。さらに、自己分泌体が外膜を越えて転位したならば、C末端分泌タグを自己触媒またはプロテアーゼ触媒、例えば、OmpT切断によって除去し、それにより、目的のタンパク質(複数可)または治療用タンパク質(複数可)を細胞外環境中に放出することができる。
本明細書で使用する場合、「輸送体」という用語は、分子、例えば、アミノ酸、毒素、代謝物、基質等を細胞外環境から微生物に移入するための機構、例えば、1つまたは複数のタンパク質を意味する。
冠詞「a」および「an」は、本明細書で使用する場合、それに反することが明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味することを理解すべきである。
「および/または」という語句は、リストにおける要素の間に用いられる場合、(1)1つの列挙された要素のみが存在すること、または(2)リストの複数の要素が存在することを意味するものとする。例えば、「A、Bおよび/またはC」は、選択がAのみ;Bのみ;Cのみ;AおよびB;AおよびC;BおよびC;またはA、BおよびCであり得ることを示している。「および/または」という語句は、リストにおける要素「のうちの少なくとも1つ」または「のうちの1つもしくは複数」と同義で用いることができる。
細菌
本明細書で開示する遺伝子操作細菌は、過剰のアンモニアを減少させ、アンモニアおよび/または窒素を代替副産物に変換することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、天然で非病原性細菌である。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、共生細菌である。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、プロバイオティク細菌である。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、病原性を低下または消失させるように改変または突然変異させた天然で病原性の細菌である。例示的細菌は、バシラス属、バクテロイデス属、ビフィドバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、クロストリジウム属、腸球菌属、大腸菌、乳酸桿菌属、乳酸球菌属、サッカロミセス属およびスタフィロコッカス属、例えば、バシラス・コアグランス、枯草菌、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・ズブチリス、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・ロンガム、クロストリジウム・ブチリカム、エンテロコッカス・ファシウム、ラクトバシラス・アシドフィラス、ラクトバシラス・ブルガリクス、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・ジョンソニイ、ラクトバシラス・パラカゼイ、ラクトバシラス・プランタルム、ラクトバシラス・ロイテリ、ラクトバシラス・ラムノサス、ラクトコッカス・ラクティスおよびサッカロミセス・ブラウディを含むが、これらに限定されない。特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、バクテロイデス・ズブチリス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ラクティス、クロストリジウム・ブチリカム、大腸菌ニッスル、ラクトバシラス・アシドフィラス、ラクトバシラス・プランタルム、ラクトバシラス・ロイテリおよびラクトコッカス・ラクティスからなる群から選択される。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、最も十分に特徴付けられたプロビオティクの1つに進化した腸内細菌科(Enterobacteriaceae family)のグラム陰性細菌である(Ukenaら、2007年)、大腸菌ニッスル1917株である。該菌株は、その完全な無害(Schultz、2008年)を特徴とし、GRAS(一般的に安全と認識された(generally recognized as safe))状態(Reisterら、2014年、強調は著者による)を有する。ゲノム配列決定により、大腸菌ニッスルが顕著な毒性因子(例えば、大腸菌α−ヘモリシン、P線毛アドヘシン)を欠いていることが確認された(Schultz, 2008)。さらに、大腸菌ニッスルが病原性接着因子を有さず、腸毒素または細胞毒素を産生せず、侵襲性でなく、尿路病原性でないことが示された(Sonnenbornら、2009年)。1917年という早期に、大腸菌ニッスルが治療用のMutaflorと呼ばれた医薬カプセルに包装された。大腸菌ニッスルは、それ以来、in vivoでヒトにおける潰瘍性大腸炎を治療するために(Rembackenら、1999年)、in vivoでヒトにおける炎症性腸疾患、クローン病および回腸嚢炎を治療するために(Schultz、2008年)、またin vitroで腸管侵襲性サルモネラ属、レジオネラ属(Legionella)、エルシニア属(Yersinia)および赤痢菌属(Shigella)を抑制するために(Altenhoeferら、2004年)用いられている。大腸菌ニッスルの治療有効性および安全性が説得力をもって立証された(Ukenaら、2007年)ことは、一般的に受け入れられている。
当業者は、本明細書で開示した遺伝子改変は、修正し、細菌の他の種、菌株および亜型に適応することができることを十分に理解するであろう。例えば、アルギニン媒介調節は、非常に多様な細菌、すなわち、大腸菌、ネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)、サーモトガ門(Thermotoga)およびモンテラ・プロファンダ(Moritella profunda)などのグラム陰性菌ならびに枯草菌、ゲオバシラス・ステアサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)およびストレプトミセズ・クラブリゲルス(Streptomyces clavuligerus)などのグラム陽性菌ならびに他の細菌において著しく十分に保存されていることが公知である(Nicoloff、2004年)。さらに、アルギニンリプレッサーは、細菌ゲノムにおいて普遍的に保存されており、弱い回文構造である、その認識シグナル(ARGボックス)もゲノム間に保存されている(Makarovaら、2001年)。
非改変大腸菌ニッスルおよび本発明の遺伝子操作細菌は、例えば、消化管または血清中の防御因子により破壊することができる(Sonnenbornら、2009年)。in vivoでの細菌の滞留時間は、本明細書に記載の方法を用いて決定することができる。いくつかの実施形態では、滞留時間をヒト対象について計算する。野生型ArgRおよび野生型アルギニン調節を含むストレプトマイシン耐性大腸菌ニッスルを用いる非限定的な例を本明細書で示す。いくつかの実施形態では、in vivoでの滞留時間を本発明の遺伝子操作細菌について計算する。
過剰なアンモニアの低減
アルギニン生合成経路
大腸菌などの細菌において、アルギニン生合成経路は、N−アセチルグルタミン酸シンテターゼ、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミン酸リン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、カルバモイルリン酸シンターゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、およびアルギニノコハク酸リアーゼを含む8ステップ酵素過程においてグルタミンをアルギニンに変換することができる(Cuninら、1986年)。最初の5ステップは、オルニチン前駆体を得るためのN−アセチル化を含む。第6のステップにおいて、オルニチントランスカルバミラーゼ(オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼとしても公知である)がシトルリンの形成を触媒する。最後の2ステップは、シトルリンからアルギニンを得るためのカルバモイルリン酸の利用を含む。
いくつかの細菌、例えば、バシラス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)および淋菌(Neisseria gonorrhoeae)において、アルギニン生合成における第1および第5ステップは、二機能性酵素オルニチンアセチルトランスフェラーゼにより触媒され得る。オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)が大腸菌におけるN−アセチルグルタミン酸シンテターゼ(argA)およびN−アセチルオルニチナーゼ(argE)栄養要求性遺伝子突然変異の両方を補完することが示された場合、この二機能性が最初に特定された(Mountainら、1984年;Crabeelら、1997年)。
argAは、N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードし、argBは、N−アセチルグルタミン酸キナーゼをコードし、argCは、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼをコードし、argDは、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼをコードし、argEは、N−アセチルオルニチナーゼをコードし、argFは、オルニチントランスカルバミラーゼをコードし、argIもオルニチントランスカルバミラーゼをコードし、argGは、アルギノコハク酸シンターゼをコードし、argHは、アルギノコハク酸リアーゼをコードし、argJは、オルニチンアセチルトランスフェラーゼをコードする。carAは、グルタミナーゼ活性を有するカルバモイルリン酸シンターゼの小Aサブユニットをコードし、carBは、アンモニアからのカルバモイルリン酸の合成を触媒するカルバモイルリン酸シンターゼの大Bサブユニットをコードする。これらのアルギニン生合成遺伝子(すなわち、argA、argB、argC、argD、argE、argF、argG、argH、argI、argJ、carAおよびcarB)のうちの1つまたは複数の異なる組合せを天然でまたは合成により、1つまたは複数のオペロンに組織化することができ、そのような組織化は、細菌の種、菌株および亜型間で異なり得る(例えば、表2参照)。各オペロンの調節領域は、少なくとも1つのARGボックスを含み、調節領域当たりのARGボックスの数は、オペロンおよび細菌間で異なり得る。
これらの酵素をコードする遺伝子のすべてをArgRとのその相互作用を介してアルギニンによる抑制にかけて、各遺伝子の調節領域に結合し、転写を抑制する複合体を形成する。N−アセチルグルタミン酸シンテターゼもアルギニンのみによるタンパク質レベルでのアロステリックフィードバック阻害にかける(Tuchmanら、1997年;Caldaraら、2006年; Caldaraら、2008年;Caldovicら、2010年)。
細菌におけるアルギニン生合成を調節する遺伝子は、染色体にわたって散在しており、単一リプレッサーにより制御される複数のオペロンに組織化され、これは、MaasおよびClark(1964年)により「レギュロン」と名付けられた。各オペロンは、プロモーターと重複し、リプレッサータンパク質が結合しているARGボックスと呼ばれる、少なくとも1つの18ヌクレオチドの不完全回文構造配列を含む調節領域により調節される(Tianら、1992年;Tianら、1994年)。argR遺伝子は、1つまたは複数のARGボックスに結合している、リプレッサータンパク質をコードする(Limら、1987年)。アルギニンは、アルギニンリプレッサーを活性化する共リプレッサーとして機能する。各オペロンを調節するARGボックスは、同一でないことがあり、共通ARGボックス配列は、A/TnTGAATA/T A/T T/A T/AATTCAnT/Aである(Maas、1994年)。さらに、argRの調節領域は、2つのプロモーターを含み、そのうちの1つは、2つのARGボックスと重複し、自己制御性である。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、突然変異アルギニンレギュロンを含み、同じ条件下で同じ亜型の非改変細菌より多くのアルギニンおよび/または中間副産物、例えば、シトロリンを産生する。突然変異アルギニンレギュロンは、アルギニン生合成経路におけるグルタミン酸をアルギニンに変換することに関与する酵素をコードするオペロンのうちの1つまたは複数の、ARGボックスへのArgRの結合および/またはN−アセチルグルタミン酸シンテターゼへのアルギニンの結合を介した、アルギニン媒介抑制を低減または妨げ、それによりアルギニンおよび/または中間副産物の生合成を増大させる1つまたは複数の核酸突然変異を含む。
代替実施形態では、細菌を、他の代謝経路、例えば、ヒスチジン生合成経路、メチオニン生合成経路、リシン生合成経路、アスパラギン生合成経路、グルタミン生合成経路およびトリプトファン生合成経路を介して過剰のアンモニアを消費するように遺伝子操作を施す。本明細書で使用する場合、「アンモニア変換回路」は、過剰のアンモニアを消費し、かつ/または減少させることができる代謝経路を意味する。
ヒスチジン生合成経路
ヒスチジン生合成は、例えば、大腸菌における単一オペロン内にある8つの遺伝子により行われる。該オペロンの8つの遺伝子のうちの3つ(hisD、hisBおよびhisI)は、二機能性酵素をコードし、2つ(hisHおよびhisF)は、一緒に1つの酵素を形成して、合計10酵素反応の1つのステップを触媒するポリペプチド鎖をコードする(Alifanoら、1996年)。hisG遺伝子の産物であるATPホスホリボシルトランスフェラーゼは、ヒスチジンによりタンパク質レベルで阻害される。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、フィードバック抵抗性hisGを含む。細菌は、当技術分野で公知の技術を用いて突然変異を起こさせ、かつ/またはフィードバック抵抗性hisG突然変異体についてスクリーニングすることができる。フィードバック抵抗性hisGを含むように操作された細菌は、ヒスチジンの産生のレベルの上昇を示し、ひいてはアンモニアの消費を増加させ、高アンモニア血を低下させることとなる。あるいは、ヒスチジン生合成に必要な1つまたは複数の遺伝子をFNR誘導性プロモーターなどの、誘導性プロモーターの制御下におき、律速酵素の産生の増大を可能にし得る。ヒスチジン生合成経路の任意の他の適切な改変(複数可)を用いて、アンモニアの消費を増加させることができる。
メチオニン生合成経路
細菌のメチオニンレギュロンは、ホモセリンからのメチオニンの3ステップ合成(すなわち、アシル化、スルフリル化およびメチル化)を制御する。metJ遺伝子は、メチオニンまたはその誘導体と結合した場合、メチオニンレギュロン内の遺伝子の転写レベルでの抑制をもたらす調節タンパク質をコードする(Saint−Gironsら、1984年;Shoemanら、1985年)。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、metJ遺伝子の欠失、破壊または突然変異を含む。metJ遺伝子を欠失する、破壊または突然変異させるように操作された細菌は、メチオニンの産生のレベルの上昇を有し、ひいてはアンモニア消費を増加し、高アンモニア血を低下させる。メチオニン生合成経路の任意の他の適切な改変(複数可)を用いて、アンモニアの消費を増加させることができる。
リシン生合成経路
微生物は、2つの経路の1つによりリシンを合成する。ジアミノピメリン酸(DAP)経路を用いて、アスパラギン酸およびピルビン酸からリシンを合成し(Dogovskiら、2012年)、アミノアジピン酸経路を用いて、アルファ−ケトグルタル酸およびアセチル補酵素Aからリシンを合成する。ジヒドロジピコリン酸シンターゼ(DHDPS)は、DAP経路の第1のステップを触媒し、リシンによるフィードバック阻害を受ける(Liuら、2010年;Reboulら、2012年)。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、フィードバック抵抗性DHDPSを含む。フィードバック抵抗性DHDPSを含むように操作された細菌は、ヒスチジン産生のレベルの上昇を示し、ひいてはアンモニア消費を増加し、高アンモニア血を低下させる。あるいは、リシン生合成に必要な1つまたは複数の遺伝子をFNR誘導性プロモーターなどの、誘導性プロモーターの制御下におくことによって、リシンの産生を最適化することができる可能性がある。リシン生合成経路の任意の他の適切な改変(複数可)を用いて、アンモニアの消費を増加させることができる。
アスパラギン生合成経路
アスパラギンは、それぞれオキサロ酢酸トランスアミナーゼおよびアスパラギンシンテターゼ酵素によりオキサロ酢酸およびアスパラギン酸から直接合成する。この経路の第2のステップにおいて、L−グルタミンまたはアンモニアがアミノ基ドナーとしての役割を果たす。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、同じ条件下で同じ亜型の非改変細菌と比較してアスパラギンを過剰産生し、それにより過剰のアンモニアを消費し、高アンモニア血を低下させる。あるいは、これらの遺伝子の1つまたは両方をFNR誘導性プロモーターなどの、誘導性プロモーターの制御下におくことによって、アスパラギン合成を最適化することができる。アスパラギン生合成経路の任意の他の適切な改変(複数可)を用いて、アンモニアの消費を増加させることができる。
グルタミン生合成経路
アンモニアおよびオキソグルタル酸からのグルタミンおよびグルタミン酸の合成は、3つの酵素により強固に調節される。グルタミン酸デヒドロゲナーゼは、オキソグルタル酸の還元的アミノ化を触媒して、単一ステップでグルタミン酸を生成させる。グルタミンシンテターゼは、グルタミン酸およびアンモニアのATP依存性縮合を触媒して、グルタミンを形成させる(Lodeiroら、2008年)。グルタミンシンテターゼはまた、サイクル反応においてグルタミン−オキソグルタル酸アミノトランスフェラーゼ(グルタミン酸シンターゼとしても公知)とともに作用して、グルタミンおよびオキソグルタル酸からグルタミン酸を生成させる。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、同じ条件下で同じ亜型の非改変細菌と比較してグルタミンシンテターゼを高いレベルで発現する。グルタミンシンテターゼの発現の増大を示すように操作された細菌は、高いレベルのグルタミン産生を有し、ひいてはアンモニア消費を増加し、高アンモニア血を低下させる。あるいは、グルタミン酸デヒドロゲナーゼおよび/またはグルタミン−オキソグルタル酸アミノトランスフェラーゼの発現を改変して、アンモニア消費を促進することができる。グルタミンシンテターゼの産生が窒素により転写レベルで調節される(Fengら、1992年;van Heeswijkら、2013年)ので、グルタミンシンテターゼ遺伝子をFNR誘導性プロモーターなどの、異なる誘導性プロモーターの制御下において用いて、グルタミンの産生を改善することもできる。グルタミンおよびグルタミン酸生合成経路の任意の他の適切な改変(複数可)を用いて、アンモニアの消費を増加させることができる。
トリプトファン生合成経路
大部分の細菌において、コリスミ酸前駆体からのトリプトファンの合成に必要な遺伝子は、単一転写単位、trpオペロンとして組織化されている。trpオペロンは、高レベルのトリプトファンが存在する場合に、トリプトファンリプレッサー(TrpR)により阻害される単一プロモーターの制御下にある。trpオペロンの転写は、高レベルの荷電トリプトファンtRNAの存在下でも終結され得る。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、trpR遺伝子の欠失、破壊または突然変異を含む。trpR遺伝子の欠失、破壊または突然変異、および結果として生じるTrpR機能の不活性化は、トリプトファンの産生およびアンモニアの消費の両方のレベルの上昇をもたらし得る。あるいは、トリプトファン生合成に必要な1つまたは複数の酵素をFNR誘導性プロモーターなどの、誘導性プロモーターの制御下におくことができる可能性がある。トリプトファン生合成経路の任意の他の適切な改変(複数可)を用いて、アンモニアの消費を増加させることができる。
突然変異アルギニンレギュロンを含む操作細菌
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成経路を含み、過剰のアンモニアを減少させることができる。より具体的な態様では、遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成酵素(複数可)をコードする1つまたは複数のオペロンが活性化されて、同じ条件下の同じ亜型の非改変細菌より多くのアルギニンまたは中間副産物、例えば、シトルリンを産生する突然変異アルギニンレギュロンを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンを過剰産生する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、シトルリンを過剰産生し、これは、さらに有益であり得る。その理由は、シトルリンが現在、特定の尿素回路異常症の治療薬として使用されているからである(国立尿素回路異常症財団)。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、本明細書に記載の中間体のいずれかのような、アルギニン生合成経路における別の中間副産物を過剰産生する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、同じ条件下の同じ細菌亜型の非改変細菌より多くのアルギニン、シトルリンおよび/または他の中間副産物を産生することによって過剰のアンモニアを消費する。尿素回路異常症および肝性脳症を含む、高アンモニア血症に関連する状態を治療するために、アルギニンおよび/または中間副産物生合成の増強を用いて、体内の過剰の窒素を非毒性分子に組み込むことができる。
当業者は、オペロン内のアルギニン生合成遺伝子の構成(organization)が、細菌の種、菌株および亜型、例えば、大腸菌K12株における二極argECBH、枯草菌におけるargCAEBD−carAB−argFおよびL.プランタルム(L. plantarum)における二極carAB−argCJBDFにわたって異なることを理解するであろう。種々の細菌のオペロン構成の非限定的な例を表2に示す(いくつかの例では、遺伝子は、推測であり、かつ/または大腸菌における公知の配列との配列相同性により同定されている;いくつかの例では、アルギニンレギュロンにおける遺伝子のすべてが公知かつ/または下に示されているとは限らない)。特定の例において、アルギニン生合成酵素は、細菌の種、菌株および亜型にわたって異なる。
各オペロンは、前記オペロンにおけるアルギニン生合成遺伝子の抑制および発現を制御する、少なくとも1つのプロモーターおよび少なくとも1つのARGボックスを含む調節領域により調節される。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成経路におけるグルタミン酸をアルギニンおよび/または中間副産物に変換することに関与する酵素をコードするオペロンのうちの1つまたは複数のアルギニン媒介抑制を低減または消失させる1つまたは複数の核酸突然変異を含むアルギニンレギュロンを含む。アルギニン媒介抑制を低減または消失させることは、ArgRリプレッサー結合(例えば、アルギニンリプレッサーを突然変異させるもしくは欠失させることにより、またはアルギニン生合成酵素をコードするオペロンのそれぞれに対する少なくとも1つのARGボックスを突然変異させることにより)、および/またはN−アセチルグルタミン酸シンテターゼへのアルギニンの結合(例えば、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrを産生するためにN−アセチルグルタミン酸シンテターゼを突然変異させることにより)を低減または消失させることによって達成することができる。
ARGボックス
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成酵素N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼおよびカルバモイルリン酸シンターゼをコードするオペロンのうちの1つまたは複数の少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを含み、それにより、レギュロンを活性化し、アルギニンおよび/または中間副産物の生合成を増強する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンリプレッサー機能が低下もしくは不活性化し、または遺伝子操作細菌がアルギニンリプレッサーを有さず(例えば、アルギニンリプレッサー遺伝子が欠失し)、レギュロンの抑制解除ならびにアルギニンおよび/または中間副産物の生合成の増強がもたらされるように、1つもしくは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンリプレッサーを含む。これらの実施形態のいずれかにおいて、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrをさらに含み得る。したがって、いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成酵素をコードするオペロンのうちの1つまたは複数の少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンおよびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、突然変異または欠失アルギニンリプレッサーおよびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbr、アルギニン生合成酵素をコードするオペロンのそれぞれの少なくとも1つのARGボックスにおける1つもしくは複数の核酸突然変異を含む、突然変異アルギニンレギュロンおよび/または突然変異もしくは欠失アルギニンリプレッサーを含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ArgR結合が低減もしくは消失し、それにより、レギュロンを活性化し、アルギニンおよび/または中間副産物生合成を増強するように、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼをコードし、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ、カルバモイルリン酸シンターゼおよび野生型N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードするオペロンのうちの1つまたは複数の各ARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンをさらに含む。
いくつかの実施形態では、アルギニノコハク酸シンターゼ(argG)をコードするオペロンのARGボックスは、ArgRに結合する能力を維持し、それにより、シトルリン生合成を駆動する。例えば、アルギニノコハク酸シンターゼ(argG)をコードするオペロンの調節領域は、構成的であり、それにより、アルギニン生合成を駆動し得る。代替実施形態では、1つまたは複数の代替オペロンの調節領域は、構成的であり得る。しかし、特定の細菌において、複数の酵素をコードする遺伝子は、二極オペロンにまたは共有調節領域の制御のもとに組織化することができ、これらの場合、活性調節領域を構成的に操作するために調節領域をデコンボリュートする(deconvolute)必要があり得る。例えば、大腸菌K12およびニッスルにおいて、argEおよび/またはargCBHの構成的な型を得るために、argEおよびargCBHを2つの二極オペロンに組織化し、argECBHおよびそれらの調節領域をデコンボリュートすることができる。
いくつかの実施形態では、アルギニン生合成遺伝子を含む1つまたは複数のオペロンにおけるすべてのARGボックスを突然変異させて、ArgR結合を低減または消失させる。いくつかの実施形態では、アルギニン生合成酵素をコードする1つまたは複数のオペロンにおけるすべてのARGボックスを突然変異させて、ArgR結合を低減または消失させる。いくつかの実施形態では、アルギニン生合成遺伝子を含む各オペロンにおけるすべてのARGボックスを突然変異させて、ArgR結合を低減または消失させる。いくつかの実施形態では、アルギニン生合成酵素をコードする各オペロンにおけるすべてのARGボックスを突然変異させて、ArgR結合を低減または消失させる。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ArgR結合が低減もしくは消失し、それにより、レギュロンを活性化し、シトルリン生合成を増強するように、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ、ArgR抑制性調節領域により駆動されるアルギニノコハク酸シンターゼをコードし、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ、カルバモイルリン酸シンターゼおよび任意選択で、野生型N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードするオペロンのそれぞれの各ARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンをさらに含む。いくつかの実施形態では、シトルリンを産生することができる遺伝子操作細菌は、とりわけ好都合である。その理由は、シトルリンは、特定の尿素回路異常症の治療用の治療上有効な栄養補助食品としてさらに役割を果たすからである(国立尿素回路異常症財団)。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ArgR結合が低減もしくは消失し、それにより、レギュロンを活性化し、アルギニン生合成を増強するように、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ、構成的プロモーターにより駆動されるアルギニノコハク酸シンターゼをコードし、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ、カルバモイルリン酸シンターゼおよび任意選択で、野生型N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードするオペロンのそれぞれの各ARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンをさらに含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、突然変異アルギニンレギュロンおよびフィードバック抵抗性ArgAを含み、アルギニンフィードバック抵抗性ArgAが発現する場合、同じ条件下の同じ亜型の非改変細菌より多くのアルギニンおよび/または中間副産物を産生することができる。これらの実施形態のいずれかにおいて、突然変異アルギニンレギュロンおよび/またはフィードバック抵抗性ArgAは、細菌染色体の1つもしくは複数の組込み部位に組み込むことができるかまたは1つもしくは複数のプラスミド上に存在していてもよい。
アルギニンリプレッサー結合部位(ARGボックス)
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンレギュロンが活性化され、アルギニンおよび/または中間副産物、例えば、シトルリンの生合成が増強されるように、アルギニン生合成酵素N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼおよびカルバモイルリン酸シンターゼをコードするオペロンのうちの1つまたは複数の少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンをさらに含む。
いくつかの実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンは、オルニチンアセチルトランスフェラーゼをコードするオペロンおよび前記オペロンの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む。1つまたは複数の核酸突然変異は、同じ条件下の同じ亜型の細菌における非改変ARGボックスおよび調節領域へのArgRの結合と比較して、当ARGボックスへのおよびオペロンの調節領域へのArgRの結合が低減または消失するように、回文構造ARGボックス配列の破壊をもたらす。いくつかの実施形態では、ArgR結合時にDNAメチル化およびヒドロキシルラジカル攻撃から保護される核酸は、ArgR結合を破壊するための突然変異の主要な標的である。いくつかの実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンは、上述のアルギニン生合成酵素をコードするオペロンのそれぞれの1つまたは複数のARGボックスにおける少なくとも3つの核酸突然変異を含む。ARGボックスは、プロモーターと重複し、突然変異アルギニンレギュロンにおいて、突然変異プロモーター領域のG/C:A/T比は、野性型プロモーター領域のG/C:A/T比と10%以下異なる(表3)。プロモーターは、RNAポリメラーゼが転写を駆動するのに十分な親和性で結合するように非突然変異プロモーターとの十分に高い相同性を保持している。
大腸菌ニッスルにおける各アルギニン生合成オペロンのARGボックスを含む野生型ゲノム配列およびその突然変異体を表3に示す。例示的野生型配列については、ARGボックスを斜体で示し、各遺伝子の開始コドンは囲み線付きである。RNAポリメラーゼ結合部位は、下線付きである(Cunin、1983年;Maas、1994年)。いくつかの実施形態では、下線付きの配列は、変化していない。ArgR結合時にDNAメチル化から保護される塩基は網掛け付きであり、ArgR結合時にヒドロキシルラジカル攻撃から保護される塩基は太字である(Charlierら、1992年)。網掛け付きの塩基および太字の塩基は、ArgR結合を破壊するための突然変異の主要な標的である。
いくつかの実施形態では、複数のARGボックスが単一オペロンに存在し得る。これらの実施形態の一態様では、オペロンの調節領域へのArgRの結合の必要な低減をもたらすためにオペロンにおけるARGボックスのうちの少なくとも1つを突然変異させる。これらの実施形態の代替態様では、オペロンの調節領域へのArgRの結合の必要な低減をもたらすためにオペロンにおけるARGボックスのそれぞれを突然変異させる。当業者は、調節領域当たりのARGボックスの数が各細菌で異なり、ARGボックスのヌクレオチド配列が各オペロンごとに異なり得ることを理解するであろう。例えば、大腸菌ニッスルにおけるcarABオペロンは、2つのARGボックスを含み、1つまたは両方のARGボックス配列を突然変異させることができる。大腸菌ニッスルにおけるargGオペロンは、3つのARGボックスを含み、1つ、2つまたは3つのARGボックス配列を突然変異させる、破壊する、または欠失させることができる。いくつかの実施形態では、3つすべてのARGボックス配列を突然変異させ、破壊し、または欠失させ、構成的プロモーター、例えば、BBa_J23100をargGオペロンの調節領域に挿入する。当業者は、調節領域当たりのARGボックスの数が各細菌で異なり、ARGボックスのヌクレオチド配列が各オペロンごとに異なり得ることを理解するであろう。
大腸菌ニッスルにおける構成的に発現するargG構築物の例示的実施形態を表4に示す。表4に大腸菌ニッスルにおけるargG遺伝子の調節領域および5’部分の野生型ゲノム配列ならびにその構成的突然変異体を示す。各配列のプロモーター領域は下線付きであり、argG遺伝子の5’部分は囲み線付きである。野生型配列では、ArgR結合部位は大文字の下線付きである。突然変異配列では、5’非翻訳領域は大文字の下線付きである。構成的プロモーターの制御下でargGを発現する細菌は、アルギニンを産生することができる。野生型ArgR抑制性プロモーターの制御下でargGを発現する細菌は、シトルリンを産生することができる。大腸菌ニッスルの野生型argGオペロンおよびその構成的に発現する突然変異体のマップを図12に示す。
いくつかの実施形態では、オペロンの突然変異ARGボックスまたは調節領域に対するArgRの結合親和性は、同じ条件下の同じ亜型の細菌における非改変ARGボックスおよび調節領域に対するArgRの結合親和性より少なくとも約50%低い、少なくとも約60%低い、少なくとも約70%低い、少なくとも約80%低い、少なくとも約90%低い、または少なくとも約95%低い。いくつかの実施形態では、突然変異ARGボックスおよび調節領域へのArgRの結合の低減は、関連オペロンにおける遺伝子(複数可)のmRNA発現を少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍、少なくとも300倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、少なくとも600倍、少なくとも700倍、少なくとも800倍、少なくとも900倍、少なくとも1000倍、または少なくとも1500倍増加させる。
いくつかの実施形態では、定量的PCR(qPCR)を用いて、アルギニン生合成遺伝子のmRNA発現レベルを増幅し、検出し、かつ/または定量する。アルギニン生合成遺伝子、例えば、argA、argB、argC、argD、argE、argF、argG、argH、argI、argJ、carAおよびcarBに特異的プライマーを当技術分野で公知の方法(Fragaら、2008年)に従って設計し、試料中のmRNAを検出するために用いることができる。いくつかの実施形態では、arg mRNAを含む可能性がある試料反応混合物に発蛍光団を加え、サーマルサイクラーを用いて、試料反応混合物に特定の波長の光を照射し、その後の発蛍光団による発光を検出する。反応混合物を所定の温度に所定の時間にわたり加熱し、冷却する。特定の実施形態では、加熱および冷却を所定のサイクル数繰り返す。いくつかの実施形態では、反応混合物を90〜100℃、60〜70℃および30〜50℃に所定のサイクル回数にわたり加熱し、冷却する。特定の実施形態では、反応混合物を93〜97℃、55〜65℃および35〜45℃に所定のサイクル回数にわたり加熱し、冷却する。いくつかの実施形態では、蓄積しつつあるアンプリコンをqPCRの各サイクルの後に定量する。蛍光が閾値を超えるサイクルの数は、閾値サイクル(CT)である。各試料について少なくとも1つのCT結果を発生させ、CT結果(複数可)を用いて、アルギニン生合成遺伝子のmRNA発現レベルを決定することができる。
いくつかの実施形態では、アルギニン生合成酵素N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼおよびカルバモイルリン酸シンターゼをコードするオペロンのうちの1つまたは複数の少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrをさらに含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、フィードバック抵抗型のArgA、ならびにアルギニン生合成酵素N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ、オルニチンアセチルトランスフェラーゼおよびカルバモイルリン酸シンターゼをコードするオペロンのうちの1つまたは複数の各ARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、フィードバック抵抗型のArgA、ArgR抑制性調節領域により駆動されるアルギノコハク酸シンターゼ、ならびにアルギニン生合成酵素N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ、オルニチンアセチルトランスフェラーゼおよびカルバモイルリン酸シンターゼをコードするオペロンのそれぞれの各ARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む。これらの実施形態では、細菌は、シトルリンを産生することができる。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、フィードバック抵抗型のArgA、構成的プロモーターから発現するアルギノコハク酸シンターゼ、ならびにアルギニン生合成酵素N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ、オルニチンアセチルトランスフェラーゼおよびカルバモイルリン酸シンターゼをコードするオペロンのそれぞれの各ARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む。これらの実施形態では、細菌は、アルギニンを産生することができる。
表3に1つまたは複数の核酸突然変異がアルギニンオペロンのそれぞれのアルギニン媒介性抑制を低減または消失させる突然変異構築物の例を示す。突然変異構築物は、酸素レベル依存性プロモーター、例えば、FNRプロモーターにより駆動されるフィードバック抵抗型のArgAを含む。各突然変異アルギニンレギュロンは、ArgR結合が低減または消失し、それにより、アルギニンおよび/または中間副産物の生合成が増強されるように、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ、カルバモイルリン酸シンターゼおよび野生型N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードするオペロンのうちの1つまたは複数の少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む。突然変異アルギニンレギュロン構築物の非限定的な例を表5に示す。
突然変異は、プラスミドまたは染色体上に存在し得る。いくつかの実施形態では、アルギニンレギュロンは、単一リプレッサータンパク質により調節される。細菌の特定の種、菌株および/または亜型において、アルギニンレギュロンが2つの推定上のリプレッサーにより調節され得ることが提案された(Nicoloffら、2004年)。したがって、特定の実施形態では、本発明のアルギニンレギュロンは、複数のリプレッサータンパク質により調節される。
特定の実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンは、遺伝子操作細菌の1つの種、菌株または亜型において発現する。代替実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンは、遺伝子操作細菌の2つまたはそれ以上の種、菌株または亜型において発現する。
アルギニンリプレッサー(ArgR)
本発明の遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成経路におけるグルタミン酸をアルギニンおよび/または中間副産物に変換することに関与する酵素をコードするオペロンのうちの1つまたは複数のアルギニン媒介抑制を低減または消失させる1つまたは複数の核酸突然変異を含むアルギニンレギュロンを含む。いくつかの実施形態では、アルギニン媒介抑制を低減または消失は、ArgRレプレッサー結合を低減もしくは消失させることにより、例えば、アルギニン生合成酵素をコードするオペロンのうちの1つまたは複数の少なくとも1つのARGボックスを突然変異させることにより(上で述べたように)またはアルギニンリプレッサーを突然変異もしくは欠失させることにより(ここで述べるように)かつ/またはN−アセチルグルタミン酸シンテターゼへのアルギニンの結合を低減もしくは消失させることにより(例えば、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrを生じるようにN−アセチルグルタミン酸シンテターゼを突然変異させることにより)達成することができる。
したがって、いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、機能し得るArgRリプレッサーを欠いており、したがって、アルギニン生合成オペロンのそれぞれのArgRリプレッサー媒介転写抑制が低減または消失している。いくつかの実施形態では、操作細菌は、アルギニンリプレッサー機能が低下するまたは不活性であるように1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンリプレッサーを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンリプレッサーを有さず(例えば、アルギニンリプレッサー遺伝子が欠失した)、レギュロンの活性化ならびにアルギニンおよび/または中間副産物の生合成の増強がもたらされる。いくつかの実施形態では、対応する野生型細菌に通常存在する機能性argR遺伝子の各コピーは、1つまたは複数のヌクレオチドの欠失、挿入または置換によって独立に欠失するかまたは不活性にされる。いくつかの実施形態では、対応する野生型細菌に通常存在する機能性argR遺伝子の各コピーが欠失している。
いくつかの実施形態では、アルギニンレギュロンは、単一リプレッサータンパク質により調節される。細菌の特定の種、菌株および/または亜型において、アルギニンレギュロンが2つの異なる推定上のリプレッサーにより調節され得ることが提案された(Nicoloffら、2004年)。したがって、特定の実施形態では、それぞれが異なるアミノ酸配列を含む2つの異なるArgRタンパク質は、遺伝子操作細菌において突然変異または欠失している。
いくつかの実施形態では、突然変異または欠失アルギニンリプレッサーを含む遺伝子改変細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrをさらに含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、フィードバック抵抗型のArgAを含み、機能性アルギニンリプレッサーを欠き、アルギニンを産生することができる。特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、機能性ArgGをさらに欠き、シトルリンを産生することができる。いくつかの実施形態では、argR遺伝子を遺伝子操作細菌において欠失させる。いくつかの実施形態では、argR遺伝子を突然変異させて、ArgR機能を不活性化する。いくつかの実施形態では、argG遺伝子を遺伝子操作細菌において欠失させる。いくつかの実施形態では、argG遺伝子を突然変異させて、ArgR機能を不活性化する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、argAfbrを含み、ArgRを欠失した。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、argAfbrを含み、ArgRを欠失し、argGを欠失した。いくつかの実施形態では、いくつかの実施形態では、欠失ArgRおよび/または欠失argGが細菌ゲノムから欠失し、argAfbrがプラスミドに存在する。いくつかの実施形態では、欠失ArgRおよび/または欠失argGが細菌ゲノムから欠失し、argAfbrが染色体に組み込まれる。1つの特定の実施形態では、遺伝子改変細菌は、染色体に組み込まれたargAfbrを含み、ゲノムArgRを欠失し、ゲノムargGを欠失した。他の特定の実施形態では、遺伝子改変細菌は、プラスミド上に存在するargAfbrを含み、ゲノムArgRを欠失し、ゲノムargGを欠失した。argGが欠失している実施形態のいずれかにおいて、アルギニンではなく、シトルリンが産生される。
いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗型のArgAが発現する条件下で、本発明の遺伝子操作細菌は、同じ条件下の同じ亜型の非改変細菌と比較して少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、少なくとも約500倍、少なくとも約600倍、少なくとも約700倍、少なくとも約800倍、少なくとも約900倍、少なくとも約1000倍、または少なくとも約1500倍のアルギニン、シトルリン、他の中間副産物および/またはオペロンにおける遺伝子(複数可)の転写物を産生する。
いくつかの実施形態では、定量的PCR(qPCR)を用いて、アルギニン生合成遺伝子のmRNA発現レベルを増幅し、検出し、かつ/または定量する。アルギニン生合成遺伝子、例えば、argA、argB、argC、argD、argE、argF、argG、argH、argI、argJ、carAおよびcarBに特異的プライマーを当技術分野で公知の方法(Fragaら、2008年)に従って設計し、試料中のmRNAを検出するために用いることができる。いくつかの実施形態では、arg mRNAを含む可能性がある試料反応混合物に発蛍光団を加え、サーマルサイクラーを用いて、試料反応混合物に特定の波長の光を照射し、その後の発蛍光団による発光を検出する。反応混合物を所定の温度に所定の時間にわたり加熱し、冷却する。特定の実施形態では、加熱および冷却を所定のサイクル数繰り返す。いくつかの実施形態では、反応混合物を90〜100℃、60〜70℃および30〜50℃に所定のサイクル回数にわたり加熱し、冷却する。特定の実施形態では、反応混合物を93〜97℃、55〜65℃および35〜45℃に所定のサイクル回数にわたり加熱し、冷却する。いくつかの実施形態では、蓄積しつつあるアンプリコンをqPCRの各サイクルの後に定量する。蛍光が閾値を超えるサイクルの数は、閾値サイクル(CT)である。各試料について少なくとも1つのCT結果を発生させ、CT結果(複数可)を用いて、アルギニン生合成遺伝子のmRNA発現レベルを決定することができる。
ArgRが突然変異しているこれらの実施形態のいずれかにおいて、突然変異ArgRおよび/またはフィードバック抵抗性ArgAは、1つもしくは複数の組込み部位において細菌染色体に組み込まれるかまたは1つもしくは複数のプラスミド上に存在し得る。
フィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼ
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ変異体、例えば、argAfbrを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性ArgAを含む突然変異アルギニンレギュロンを含み、アルギニンフィードバック抵抗性ArgAが発現する場合、同じ条件下の同じ亜型の非改変細菌より多くのアルギニンおよび/または中間副産物を産生することができる。アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼタンパク質(argAfbr)は、フィードバック感受性親系統の酵素よりL−アルギニンに対して著しく感受性が低い(例えば、Eckhardtら、1975年;Rajagopalら、1998年参照)。フィードバック抵抗性argA遺伝子は、プラスミドまたは染色体に存在し得る。いくつかの実施形態では、プラスミドからの発現は、argAfbr発現を増大させるのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、染色体からの発現は、argAfbr発現の安定性を向上させるのに有用であり得る。
いくつかの実施形態では、アルギニン生合成経路に関与する述べた突然変異配列(例えば、ArgR、argAfbr、Argボックス配列)のいずれかを細菌染色体の1つまたは複数の組込み部位に組み込む。例えば、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼをコードする配列の1つまたは複数のコピーを細菌染色体に組み込むことができる。染色体に組み込まれたアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼの複数のコピーを有することは、N−アセチルグルタミン酸シンターゼのより多くの産生が可能になり、発現のレベルの微調整も可能になる。或いは、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼに加えて、輸送体またはキルスイッチ回路のいずれかのような、本明細書に記載の異なる回路を、複数の異なる機能を果たす1つまたは複数の異なる組込み部位において細菌染色体に組み込むことができよう。複数の異なるフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼタンパク質は、当技術分野で公知であり、遺伝子操作細菌において組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、argAfbr遺伝子は、構成的プロモーターの制御下に発現させる。いくつかの実施形態では、argAfbr遺伝子は、外因性環境条件により誘導されるプロモーターの制御下に発現させる。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、哺乳動物の消化管に固有のものである。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、健常または疾患状態の哺乳動物の消化管に固有である分子または代謝物、例えば、プロピオン酸である。いくつかの実施形態では、外因性環境条件は、哺乳動物消化管の環境のような、低酸素または嫌気的条件である。
細菌は、酸素レベルを検知することができる転写因子を発達させた。異なるシグナル伝達経路は、異なる酸素レベルにより誘発され、異なる速度論で発生し得る。酸素レベル依存性プロモーターは、1つまたは複数の酸素レベル検知転写因子が結合することができる核酸配列であり、対応する転写因子の結合および/または活性化が下流の遺伝子発現を活性化する。一実施形態では、argAfbr遺伝子は、酸素レベル依存性プロモーターの制御下にある。より具体的な態様では、argAfbr遺伝子は、哺乳動物消化管の環境のような、低酸素または嫌気的環境下で活性化される酸素レベル依存性プロモーターの制御下にある。
特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、フマル酸・硝酸レダクターゼ調節因子(FNR)プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む。大腸菌では、FNRは、好気的代謝から嫌気的代謝への切り替えを制御する主要な転写活性化因子である(Undenら、1997年)。嫌気的状態では、FNRは、嫌気性増殖への適応に関与する数百もの遺伝子を活性化する活性DNA結合タンパク質に二量体化する。好気的状態では、FNRは、酸素によって二量体化を妨げられ、不活性である。代替実施形態では、遺伝子操作細菌は、代替酸素レベル依存性プロモーターの制御下、例えば、アルギニンデイミニアーゼおよび硝酸還元ANRプロモーター(Rayら、1997年)、異化型硝酸呼吸調節因子DNRプロモーター(Trunkら、2010年)の嫌気的調節下で発現するargAfbrを含む。これらの実施形態では、アルギニン生合成経路は、消化管内のような、低酸素または嫌気的環境下で特に活性化される。
緑膿菌(P. aeruginosa)では、アルギニンデイミナーゼおよび硝酸還元(ANR)転写調節因子の嫌気的制御は、「酸素制限または嫌気的条件下で誘導性である生理学的機能の発現のために必要である」(Wintelerら、1996年;Sawers、1991年)。緑膿菌ANRは、大腸菌FNRと相同であり、「共通FNR部位(TTGAT−−−−ATCAA)は、ANRおよびFNRにより効率的に認識された」(Wintelerら、1996年)。FNRと同様に、嫌気的状態では、ANRは、嫌気性増殖への適応に関与する多くの遺伝子を活性化する。好気的状態では、ANRは、不活性である。シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)およびシュードモナス・メンドシナ(Pseudomonas mendocina)はすべて、ANRの機能性類似体を有する(Zimmermannら、1991年)。ANRにより制御されるプロモーターは、当技術分野で公知であり、例えば、arcDABCオペロンのプロモーターなどがある(例えば、Hasegawaら、1998年参照)。
FNRファミリーは、「緑膿菌の嫌気性硝酸呼吸」のためにANRとの結合に必要である転写調節因子である(Hasegawaら、1998年)、異化型硝酸呼吸調節因子(DNR)も含む(Araiら、1995年)。特定の遺伝子について、FNR結合モチーフは、「おそらくDNRのみによって認識される」(Hasegawaら、1998年)。外因性環境条件および対応する調節領域によって制御される任意の適切な転写調節因子を用いることができる。非限定的な例は、ArcA/B、ResD/E、NreA/B/CおよびAirSRならびに当技術分野で公知のその他を含む。
FNRプロモーター配列は、当技術分野で公知であり、任意の適切なFNRプロモーター配列(複数可)を本発明の遺伝子操作細菌に用いることができる。任意の適切なFNRプロモーター(複数可)を任意の適切なargAfbrと組み合わせることができる(例えば、例示的argAfbr配列を表7に示す)。非限定的なFNRプロモーター配列を表6に示す。表6にFNR応答性プロモーター配列を含む例示的調節領域配列の核酸配列を示す。下線付きの配列は、予測されるリボソーム結合部位であり、太字の配列は、クローニングに用いられる制限部位である。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、配列番号18、配列番号19、nirB1プロモーター(配列番号20)、nirB2プロモーター(配列番号21)、nirB3プロモーター(配列番号22)、ydfZプロモーター(配列番号23)、強リボソーム結合部位に融合したnirBプロモーター(配列番号24)、強リボソーム結合部位に融合したydfZプロモーター(配列番号25)、嫌気的に誘導される小RNA遺伝子であるfnrS(fnrS1プロモーター配列番号26またはfnrS2プロモーター配列番号27)、crp結合部位に融合したnirBプロモーター(配列番号28)およびcrp結合部位に融合したfnrS(配列番号29)のうちの1つまたは複数を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28もしくは29のDNA配列またはそれらの機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
他の実施形態では、argAfbrは、転写活性化因子、例えば、CRPの結合部位に融合した酸素レベル依存性プロモーターの制御下で発現する。CRP(環状AMP受容体タンパク質または異化代謝産物活性化タンパク質もしくはCAP)は、グルコースのような迅速代謝性炭水化物が存在する場合にさほど有益でない炭素源の取込み、代謝および同化に関与する遺伝子を抑制することによって細菌における調節における主要な役割を果たす(Wuら、2015年)。このグルコースに対する選択は、グルコース抑制ならびに炭素異化代謝産物抑制と呼ばれた(Deutscher、2008年;GorkeおよびStulke、2008年)。いくつかの実施形態では、argAfbrの発現は、CRP結合部位に融合した酸素レベル依存性プロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、argAfbrの発現は、CRP結合部位に融合したFNRプロモーターにより制御される。これらの実施形態では、グルコースが環境中に存在しない場合、環状AMPがCRPに結合する。この結合が、CRPにおける立体配座の変化を引き起こし、CRPがその結合部位に強固に結合することを可能にする。CRPの結合が次に、直接的なタンパク質間相互作用によるRNAポリメラーゼのFNRプロモーターへの動員をもたらすことによってargAfbr遺伝子の転写を活性化する。グルコースの存在下では、環状AMPは、CRPに結合せず、argAfbr遺伝子の転写が抑制される。いくつかの実施形態では、転写活性化因子の結合部位に融合した酸素レベル依存性プロモーター(例えば、FNRプロモーター)を用いて、例えば、in vitroで増殖培地にグルコースを加えることにより、十分な量のグルコースが存在する場合にargAfbrが嫌気的条件下で発現しないことを保証する。
いくつかの実施形態では、argAfbrは、環境中、例えば、哺乳動物消化管内の特定の分子または代謝物に応答性である誘導性プロモーターの制御下で発現する。例えば、短鎖脂肪酸プロピオネートは、消化管に局在する主要な微生物発酵代謝物である(Hosseiniら、2011年)。一実施形態では、argAfbr遺伝子発現は、プロピオン酸誘導性プロモーターの制御下にある。より具体的な実施形態では、argAfbr遺伝子発現は、哺乳動物消化管内のプロピオン酸の存在によって活性化されるプロピオン酸誘導性プロモーターの制御下にある。健常および/または疾患状態の、哺乳動物消化管内に見いだされる任意の分子または代謝物を用いて、argAfbr発現を誘導することができる。非限定的な例は、プロピオネート、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、血液凝固因子II、VII、IXおよびX、アルカリホスファターゼ、ガンマグルタミルトランスフェラーゼ、肝炎抗原および抗体、アルファ−フェトプロテイン、抗ミトコンドリア、平滑筋および抗核抗体、鉄、トランスフェリン、フェリチン、銅、セルロプラスミン、アンモニアならびにマンガンを含む。代替実施形態では、argAfbr遺伝子発現は、アラビノース糖の存在下で活性化される、ParaBADプロモーターの制御下にある(例えば、図13参照)。
肝性脳症(HE)および他の肝臓疾患または障害を有する対象は、それらの血液および腸における高いアンモニアレベルをもたらす慢性肝損傷を有する。アンモニアに加えて、これらの患者は、それらの血液および腸におけるビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、血液凝固因子II、VII、IXおよびX、アルカリホスファターゼ、ガンマグルタミルトランスフェラーゼ、肝炎抗原および抗体、アルファ−フェトプロテイン、抗ミトコンドリア、平滑筋および抗核抗体、鉄、トランスフェリン、フェリチン、銅、セルロプラスミン、アンモニアならびにマンガンのレベルの上昇も有する。これらのHEに関連する分子またはそれらの代謝物のうちの1つに応答するプロモーターは、消化管内のargAfbrの発現を誘導するために遺伝子操作細菌に用いることができる。これらのプロモーターは、非HE患者において誘導されるとは予期されないものであろう。
いくつかの実施形態では、argAfbr遺伝子は、テトラサイクリンへの曝露により誘導されるプロモーターの制御下で発現する。いくつかの実施形態では、argAfbr遺伝子は、炎症または炎症反応への曝露により誘導されるプロモーター(例えば、RNSまたはROSプロモーター)の制御下で発現する。いくつかの実施形態では、argAfbr遺伝子は、アラビノースのような代謝物への曝露により誘導されるプロモーター(例えば、AraBADプロモーター)の制御下で発現する。
いくつかの実施形態では、例えば、リボソーム結合部位を最適化し、転写調節因子を操作し、かつ/またはmRNAの安定性を向上させることによって、当技術分野で公知の方法により遺伝子発現をさらに最適化する。例示的argAfbr配列の核酸配列を表7に示す。例示的argAfbr配列のポリペプチド配列を表8に示す。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号30の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号30と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号30のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号30と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号31のポリペプチド配列またはその機能性断片をコードする。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号31またはその機能性断片に対する1つもしくは複数の同類アミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするポリペプチド配列をコードする。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号31またはその機能性断片のDNA配列と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同であるポリペプチド配列をコードする。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌のN−アセチルグルタミン酸シンテターゼのアルギニンフィードバック阻害は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼが活性である場合、同じ条件下の同じ亜型の細菌の野生型N−アセチルグルタミン酸シンテターゼと比較して少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%減少する。
いくつかの実施形態では、argAfbrを宿主細胞中で発現させることができ、宿主細胞が、in vitroで、例えば、培地中で、かつ/またはin vivoで、例えば、消化管内で、生存し、かつ/または増殖することができるように、遺伝子操作細菌は、argAfbr遺伝子を有する安定に維持されたプラスミドまたは染色体を含む。いくつかの実施形態では、細菌は、フィードバック抵抗性argA遺伝子の複数のコピーを含み得る。いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗性argA遺伝子を低コピープラスミド上で発現させる。いくつかの実施形態では、低コピープラスミドは、発現の安定性を向上させるのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、低コピープラスミドは、非誘導性条件下での漏出性発現を低下させるのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗性argA遺伝子を高コピープラスミド上で発現させる。いくつかの実施形態では、高コピープラスミドは、argAfbr発現を増加させるのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗性argA遺伝子を染色体上で発現させる。
いくつかの実施形態では、複数の作用機構(MOAs)、例えば、同じ産物の複数のコピーを産生する回路または複数の異なる機能を果たす回路を含むように細菌に遺伝子操作を施す。挿入部位の例は、malE/K、insB/I、araC/BAD、lacZ、dapA、ceaおよび図18に示すその他を含むが、これらに限定されない。例えば、遺伝子操作細菌は、4つの異なる挿入部位、例えば、malE/K、insB/I、araC/BADおよびlacZに挿入されたargAfbrの4つのコピーを含み得る。あるいは、遺伝子操作細菌は、3つの異なる挿入部位、例えば、malE/K、insB/IおよびlacZに挿入されたargAfbrの3つのコピーならびに3つの異なる挿入部位dapA、ceaおよびaraC/BADに挿入された、3つの突然変異アルギニンレギュロン、例えば、シトルリンを産生する2つおよびアルギニンを産生する1つを含み得る。
いくつかの実施形態では、プラスミドまたは染色体は、野生型ArgR結合部位、例えば、ARGボックスも含む。いくつかの例では、機能性ArgRの存在および/または集積は、遺伝子発現のオフターゲット変化をもたらし得る、ARGボックス以外の部位におけるオフターゲット結合をもたらし得る。機能性ARGボックスをさらに含むプラスミドまたは染色体を用いて、すなわち、ArgRシンクとして作用することによって、オフターゲットArgR結合を低減または消失させることができる。いくつかの実施形態では、プラスミドまたは染色体は、機能性ArgR結合部位を含まず、例えば、プラスミドまたは染色体は、改変ARGボックスを含むかまたはARGボックスを含まない。
いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗性argA遺伝子は、プラスミド上に存在し、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗性argA遺伝子は、染色体に存在し、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗性argA遺伝子は、プラスミド上に存在し、哺乳動物消化管に特異的である分子または代謝物により誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗性argA遺伝子は、染色体上に存在し、哺乳動物消化管に特異的である分子または代謝物により誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗性argA遺伝子は、染色体上に存在し、テトラサイクリンへの曝露により誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、フィードバック抵抗性argA遺伝子は、プラスミド上に存在し、テトラサイクリンへの曝露により誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、対応する酸素レベル依存性プロモーターに加えて、変異もしくは突然変異酸素レベル依存性転写調節因子、例えば、FNR、ANRまたはDNRを含む。変異もしくは突然変異酸素レベル依存性転写調節因子は、低酸素または嫌気性環境中の作動可能に連結した遺伝子の転写を増加させる。いくつかの実施形態では、対応する野生型転写調節因子は、野生型活性を保持している。代替実施形態では、対応する野生型転写調節因子を欠失または突然変異させて、野生型活性を低減または消失させる。特定の実施形態では、突然変異酸素レベル依存性転写調節因子は、二量体化およびFNR活性を増強するアミノ酸置換を含むFNRタンパク質である(例えば、Mooreら、2006年参照)。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、低酸素または嫌気性環境中でアンモニアを減少させ、かつ/または消費する異なる細菌種に由来する酸素レベル依存性転写調節因子を含む。特定の実施形態では、突然変異酸素レベル依存性転写調節因子は、淋菌に由来するFNRタンパク質である(例えば、Isabellaら、2011年参照)。いくつかの実施形態では、対応する野生型転写調節因子は、完全なままであり、野生型活性を保持する。代替実施形態では、対応する野生型転写調節因子を欠失または突然変異させて、野生型活性を低減または消失させる。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、酸素レベル依存性プロモーター、例えば、FNRプロモーターの制御下で発現するargAfbr、ならびに上で述べた1つまたは複数のARGボックス突然変異を含む突然変異調節領域の制御下で発現する野生型argAを含む。特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、酸素レベル依存性プロモーター、例えば、FNRプロモーターの制御下で発現するargAfbrを含み、野生型argAを含まない。他の実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンは、酸素レベル依存性プロモーター、例えば、FNRプロモーターの制御下で発現するargAfbrを含み、ARGボックス突然変異を含まない野生型argAをさらに含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、プラスミドおよび/または染色体からargAfbrを発現する。いくつかの実施形態では、argAfbr遺伝子は、構成的プロモーターの制御下で発現する。いくつかの実施形態では、argAfbr遺伝子は、誘導性プロモーターの制御下で発現する。一実施形態では、argAfbr遺伝子は、低酸素または嫌気性環境中で活性化される酸素レベル依存性プロモーター、例えば、FNRプロモーターの制御下で発現する。例示的FNRプロモーター駆動argAfbr配列の核酸配列を表9に示す。FNRプロモーター配列は太字であり、argAfbr配列は囲み線付きである。FNRプロモーター駆動argAfbrプラスミドの核酸配列を表10に示し、FNRプロモーター配列は太字であり、argAfbr配列は囲み線付きである。表11に例示的pSC101プラスミドの核酸配列を示す。任意の適切なFNRプロモーター(複数可)を任意の適切なフィードバック抵抗性ArgAと組み合わせることができる。非限定的なFNRプロモーター配列を表6に示す。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、配列番号16、配列番号17、nirB1プロモーター(配列番号18)、nirB2プロモーター(配列番号19)、nirB3プロモーター(配列番号20)、ydfZプロモーター(配列番号21)、強リポソーム結合部位に融合したnirBプロモーター(配列番号22)、強リポソーム結合部位に融合したydfZプロモーター(配列番号23)、嫌気的に誘導された小RNA遺伝子fnrS(fnrS1プロモーター配列番号24またはfnrS2プロモーター配列番号25)、crp結合部位に融合したnirBプロモーター(配列番号26)およびcrp結合部位に融合したfnrS(配列番号27)のうちの1つまたは複数を含む。表12に例示的fnrSプロモーター駆動argAfbr配列の核酸配列を示す。FNRプロモーター配列は太字であり、リボソーム結合部位は網掛け付きであり、argAfbr配列は囲み線付きである。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号32の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号32と同じポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号32のDNA配列、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号32と同じポリペプチドをコードする核酸配列と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号33の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号33と同じポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号33のDNA配列、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号33と同じポリペプチドをコードする核酸配列と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号35の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号35と同じポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号35のDNA配列、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号35と同じポリペプチドをコードする核酸配列と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、染色体に組み込まれたargAfbrを含む。いくつかの実施形態では、組み込まれたfbrArgAは、fnrSプロモーターの制御下にある。いくつかの実施形態では、抗生物質耐性カセットも同じ部位に存在する。いくつかの実施形態では、抗生物質耐性カセットは、存在しない。いくつかの実施形態では、抗生物質耐性は、クロラムフェニコールである。いくつかの実施形態では、抗生物質耐性は、カナマイシンである。いくつかの実施形態では、染色体に組み込まれたargAfbrを含む遺伝子操作細菌は、thyA栄養要求体である。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、染色体に組み込まれたargAfbrを含み、ArgR突然変異も含むかまたはArgRの欠失を有する。1つの特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、fnrSプロモーターの制御下にあり、染色体に組み込まれたargAfbrを含み、ArgR突然変異を含むかまたはArgRの欠失を有し、thyA栄養要求性を含む。他の特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、fnrSプロモーターの制御下にあり、染色体に組み込まれたargAfbrを含み、ArgR突然変異を含むかまたはArgRの欠失を有し、thyA栄養要求性を含み、抗生物質耐性カセットを含む。他の特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、fnrSプロモーターの制御下にあり、染色体に組み込まれたargAfbrを含み、ArgR突然変異を含むかまたはArgRの欠失を有し、thyA栄養要求性を含み、カナマイシン耐性カセットを含む。1つの特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、SYN−UCD305である。他の特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、SYN_UCD303である。
表13に染色体に組み込まれているFNRS−fbrArgA構築物の非限定的な例を示す。
配列番号36は、例えば、SYN−UCD301、SYN−UCD302に含まれているような、FNRS−fbrArgAおよびクロラムフェニコール耐性を含む。配列番号37は、例えば、SYN−UCD303、SYN−UCD306、SYN−UCD307およびSYN−UCD309に含まれているような、FNRS−fbrArgAおよびカナマイシン耐性を含む。配列番号38は、例えば、SYN−UCD305、SYN−UCD304、SYN−UCD308、SYNUCD310に含まれているような、FNRS−fbrArgAを含み、抗生物質耐性を含まない。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号36の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号36と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号36のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号37と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号37の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号37と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号37のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号37と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号38の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号38と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号38のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号38と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
アルギニン異化
本発明を実施するうえでの重要な考慮すべき事柄は、アンモニアがアルギニンおよび/またはシトルリン異化の副産物として過剰産生されないことを保証することである。尿素回路の最終酵素ステップにおいて、アルギナーゼは、アルギニンのオルニチンおよび尿素への加水分解開裂を触媒する(Cuninら、1986年)。腸内細菌により産生され得る、ウレアーゼは、尿素の二酸化炭素およびアンモニアへの開裂を触媒する(Summerskill、1966年;Aoyagiら、1966年;Cuninら、1986年)。したがって、ウレアーゼ活性は、ヒト組織に対して有毒であり得るアンモニアを発生し得る(Koniecznaら、2012年)。大腸菌ニッスルを含む、いくつかの細菌において、arcD遺伝子は、アンモニアも放出し得る、アルギニン/オルニチン対向輸送体をコードする(Vander Wauvenら、1984年;Gamperら、1991年;Mengら、1992年)。
AstAは、アンモニアを放出する、コハク酸へのアルギニンの変換に関与する酵素である。SpeAは、さらに異化されてアンモニアを生成し得る、アグマチンへのアルギニンの変換に関与する酵素である。したがって、いくつかの例において、アルギニンの分解を防ぐことは、有益であり得る。いくつかの実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンを含む遺伝子操作細菌は、アルギニン異化を低減または消失させ、それにより、さらなるアンモニアの産生を低減または消失させる突然変異をさらに含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ArcD活性を低減または消失させる突然変異も含む。特定の実施形態では、ArcDが欠失している。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、AstA活性を低減または消失させる突然変異も含む。特定の実施形態では、AstAが欠失している。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、SpeA活性を低減または消失させる突然変異も含む。特定の実施形態では、SpeAが欠失している。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギナーゼ活性を低減または消失させる突然変異も含む。特定の実施形態では、アルギナーゼが欠失している。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ウレアーゼ活性を低減または消失させる突然変異も含む。特定の実施形態では、ウレアーゼが欠失している。いくつかの実施形態では、アルギニン異化に関与する1つまたは複数の他の遺伝子が突然変異または欠失している。
他の高アンモニア血障害
肝性脳症(HE)は、患者における神経認知変化を特徴とし、生化学的撹乱が病因に関連付けられた。具体的には、アンモニアレベルの上昇が疾患の病態生理に部分的に寄与していると推測されている。高アンモニア血症に加えて、脳GABAのレベルおよびマンガンレベルの上昇が認められ、臨床症状に寄与すると推測された。
いくつかの実施形態では、本開示は、遺伝子操作微生物、例えば、細菌およびウイルス、その医薬組成物、ならびに高アンモニア血症に関連する疾患もしくは障害、例えば、肝性脳症およびハンチントン病をモジュレートまたは治療する方法を提供する。遺伝子操作細菌は、哺乳動物における過剰のアンモニアを減少させることができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、体内の過剰の窒素を非毒性分子、例えば、アルギニン、シトルリン、メチオニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン、グルタミンまたはトリプトファンに組み込むことによって過剰のアンモニアを減少させる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、他の有毒または有害分子(複数可)、例えば、GABA、マンガンのレベルを低下させるための1つまたは複数の回路(遺伝子配列)をさらに含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、消化管バリア増強分子、例えば、酪酸、プロピオン酸および酢酸のような短鎖脂肪酸を産生する1つまたは複数の回路をさらに含む。本開示はまた、過剰のアンモニアならびに他の有害な分子、例えば、GABAおよびマンガンを減少させるための組成物および治療方法を提供する。特定の態様では、本開示は、過剰のアンモニアおよび他の有害な分子を減少させることができる遺伝子操作細菌を提供する。特定の実施形態では、本開示は、過剰のアンモニアおよび他の有害な分子を減少させ、消化管バリア機能増強分子、例えば、酪酸などの、1つまたは複数の治療用分子をさらに産生することができる遺伝子操作細菌を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、回路が誘導性プロモーター制御下にある過剰のアンモニアを減少させるための1つまたは複数の回路を含む遺伝子操作細菌を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、回路のうちの1つまたは複数が誘導性プロモーター制御下にある過剰のアンモニアを減少させるための1つまたは複数の回路および他の有害な分子を減少させるための1つまたは複数の回路を含む遺伝子操作細菌を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、回路のうちの1つまたは複数および/または治療用分子が誘導性プロモーター制御下にある過剰のアンモニアを減少させるための1つまたは複数の回路および他の有害な分子を減少させるための1つまたは複数の回路を含み、消化管バリア機能増強分子、例えば、酪酸などの、1つまたは複数の治療用分子をさらに産生する遺伝子操作細菌を提供する。特定の態様では、本明細書で開示する組成物および方法は、過剰のアンモニアに関連する疾患もしくは障害、例えば、肝性脳症もしくはハンチントン病、および/または肝性脳症もしくはハンチントン病などの、過剰のアンモニアに関連する疾患もしくは障害に随伴する1つもしくは複数の症状を治療するために用いることができる。
GABAの輸送および代謝
γ−アミノ酪酸(GABA)は、哺乳動物中枢神経系における主要な抑制性神経伝達物質である。ヒトにおいて、GABAは、リガンド開口型塩化物特異的イオンチャンネル複合体の一部である、シナプス後GABAA受容体を活性化する。シナプス後ニューロン上のこの複合体の活性化により、塩化物イオンがニューロンに入り、抑制作用を及ぼすことが可能となる。そのようなGABA作動性神経伝達の変化は、てんかん(Jones−DavisおよびMacDonald、2003年)、ハンチントン病(Krogsgaard−Larsen、1992年)および肝性脳症(JonesおよびBasile、1997年)を含む、いくつかの神経障害の病態生理に関連付けられた。
GABAによりモジュレートされる脳内のニューロンは、抑制性GABA作動性トーンのもとにあると言われる。この抑制性トーンは、十分に強力な興奮性刺激が受容されるまで、または抑制性トーンが別の方法で開放されるまで、ニューロン発火を妨げる。肝性脳症におけるGABA作動性トーンの増大は、ガラクトサミン誘発性肝不全を有するウサギおよびGABAA受容体のアロステリックモジュレーター(例えば、ペントバルビタール、ジアゼパム)を投与したウサギにおける同様な視覚的応答パターン基づいて、1980年代初頭に最初に記載された(JonesおよびBasile、1997年)。GABAA受容体における高度に選択的なベンゾジアゼピンアンタゴニストであるフルマゼニルにより治療したHE患者における臨床的改善は、これらの所見をさらに確認するものであった(Banksyら、1985年;Scollo−LavizzariおよびSteinmann、1985年)。HEにおけるGABA作動性トーンの増大は、それ以来、(1)脳内のGABA濃度の上昇、(2)GABAA受容体の完全性の変化、および/または(3)GABAA受容体の内因性モジュレーターの濃度の上昇(AhbouchaおよびButterworth、2004年)のうちの1つまたは複数の結果であると提案された。
大腸菌におけるGABAの取込みは、膜電位により駆動され、膜輸送タンパク質GabPにより促進される(Liら、2001年)。GabPは、二次性能動輸送体の2つの最大のファミリーの1つである、アミノ酸/ポリアミン/有機陽イオン(APC)輸送体スーパーファミリーのメンバーである(Jackら、2000年)。gabP遺伝子によりコードされる、GabPタンパク質は、466アミノ酸および12膜貫通アルファらせんからなり、NおよびC末端の両方が細胞質ゾルに面している(HuおよびKing、1998a)。GabP残基配列は、細菌から哺乳動物までのAPCファミリーのメンバー間で保存されている、共通両親媒性領域(CAR)も含む(HuおよびKing、1998b)。細胞への侵入により、GABAがGABA α−ケトグルタル酸トランスアミナーゼ(GSST)によりスクシニルセミアルデヒド(SSA)に変換される。コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSDH)がGABA異化における第2の唯一の他の特異的ステップである、スクシニルセミアルデヒドのコハク酸への酸化を触媒する(DoverおよびHalpern、1972年)。最終的に、コハク酸がクエン酸(TCA)回路の基質になる。
いくつかの実施形態では、細菌は、本明細書に記載の代謝経路、例えば、アルギニン生合成経路、ヒスチジン生合成経路、メチオニン生合成経路、リシン生合成経路、アスパラギン生合成経路、グルタミン生合成経路またはトリプトファン生合成経路(「アンモニア変換回路」)により過剰のアンモニアを消費するように遺伝子操作されている。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成経路を含み、過剰のアンモニアを減少させることができる。いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路は、誘導性プロモーターの制御下にある。いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路は、酸素レベル依存性プロモーター、例えば、FNR誘導性プロモーターの制御下にある。いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路は、肝性脳症に関連する分子または代謝物、例えば、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、トランスフェラーゼ、肝炎抗原および抗体、アルファ−フェトプロテイン、抗ミトコンドリア、平滑筋および抗核抗体、鉄、トランスフェリン、フェリチン、銅、セルロプラスミン、アンモニアまたマンガンにより誘導されるプロモーターの制御下にある。
いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路を含む遺伝子操作細菌は、1つまたは複数のGABA膜輸送タンパク質、例えば、GabPを産生するための1つまたは複数の回路をさらに含み、GABAを細胞内に輸送することができる(「GABA輸送回路」)(図41)。
いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路を含む遺伝子操作細菌は、1つまたは複数のGABA異化酵素、例えば、GSST、SSDHおよび/またはCOTを産生するための1つまたは複数の回路(「GABA代謝回路」)をさらに含む(図49)。いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路を含む遺伝子操作細菌は、1つまたは複数のGABA膜輸送タンパク質、例えば、GabPを産生するための1つまたは複数の回路および1つまたは複数のGABA異化酵素、例えば、GSST、SSDHおよび/またはCOTを産生するための1つまたは複数の回路(「GABA代謝回路」)をさらに含む(図41)。
より具体的な態様では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、GABA輸送回路およびGABA代謝回路を含む。いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路、GABA輸送回路およびGABA代謝回路は、同じプロモーターの制御下にある。代替実施形態では、アンモニア変換回路、GABA輸送回路およびGABA代謝回路は、異なるプロモーターの制御下にある。例示的プロモーターは、本明細書で開示するプロモーターのいずれかを含む。例えば、いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、低酸素、微好気性または嫌気的条件により誘導される酸素レベル依存性プロモーターを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、分子もしくは代謝物、例えば、組織特異的分子もしくは代謝物または肝損傷を示す分子もしくは代謝物により誘導されるプロモーターを含む。分子もしくは代謝物の非限定的な例は、それらの血液および腸における例えば、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、血液凝固因子II、VII、IXおよびX、アルカリホスファターゼ、ガンマグルタミルトランスフェラーゼ、肝炎抗原および抗体、アルファフェトプロテイン、抗ミトコンドリア、平滑筋および抗核抗体、鉄、トランスフェリン、フェリチン、銅、セルロプラスミン、アンモニアならびにマンガンを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、炎症または炎症反応により誘導されるプロモーター、例えば、RNSまたはROSプロモーターを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、消化管内に自然に存在し得るまたはし得ない(例えば、体外から加えることができる)代謝物、例えば、アラビノースおよびテトラサイクリンにより誘導されるプロモーターを含む。
例示的GabP輸送体のアミノ酸配列を表42に示す。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号105のアミノ酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号105と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号105のアミノ酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、もしくは少なくとも約99%相同であるアミノ酸配列、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号105と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。
ポリヌクレオチド配列の非限定的な例を表43(配列番号106)に示す。
マンガンの輸送
マンガンは、生物学的に重要な微量金属であり、大部分の生存生物の生存に必要である。哺乳動物において、マンガンは、胆汁中に***されるが、その除去は、肝不全を伴う肝臓から十二指腸への胆汁の流れの障害(すなわち、胆汁うっ滞)の影響を受ける。アンモニアと同様に、マンガンの濃度の上昇は、肝性脳症の発現に一定の役割を果たす(Rivera−Manciaら、2012年)。グルタミンシンテターゼによって触媒される反応におけるアンモニアを解毒する脳内の星状細胞は、マンガンを補助因子として必要とし、したがって、この金属を蓄積する傾向を有する(Aschnerら、1999年)。in vitro試験で、マンガンがグルタミン酸の輸送の抑制(HazellおよびNorenberg、1996年)、星状細胞の形態の異常(Hazellら、2006年)および細胞容積の増加(Rama Raoら、2007年)をもたらし得るが示された。
マンガンおよびアンモニアは、肝脳症の病因において相乗的に作用することも示された(Jayakumarら、2004年)。
内部区画を欠く原核細胞における金属イオンの恒常性は、細胞膜を横切る金属イオンフラックスの厳格な調節により維持されている(JensenおよびJensen、2014年)。細菌におけるマンガンの取込みは、プロトン依存性Nramp関連輸送体および/またはATP依存性ABC輸送体の2つの主要な種類の輸送体が主として関与している。Nramp(天然抵抗性関連マクロファージタンパク質(Natural resistance−associated macrophage protein))輸送体ファミリーは、植物、動物および酵母において最初に記載された(Cellierら、1996年)が、MntHは、それ以来、いくつかの細菌種において特徴付けがなされた(Porcheronら、2013年)。マンガンに対するNramp1輸送体の選択性が金属蓄積試験において示され、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)mntHの過剰発現が細胞結合マンガンのレベルの増加をもたらしたが、カルシウム、銅、鉄、マグネシウムまたは亜鉛の蓄積をもたらさなかった(Horsburghら、2002年)。さらに、mntH遺伝子の突然変異を含む枯草菌(Bacillus subtilis)菌株は、マンガンの添加により救出された金属不含有培地中の増殖の障害を示した(QueおよびHelmann、2000年)。例示的MntH輸送体のアミノ酸配列を表44に示す。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号107のアミノ酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号36と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号107のアミノ酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、もしくは少なくとも約99%相同であるアミノ酸配列、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号107と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。ポリヌクレオチド配列の非限定的な例を表45(配列番号108)に示す。
マンガンの高親和性取込みは、ABC(ATP結合カセット(ATP−binding cassette))輸送体によっても媒介され得る。この輸送体スーパーファミリーのメンバーは、ATPの加水分解を利用して、イオンから巨大分子までの多様な基質の移入または輸出を増大させ、原核および真核細胞の両方の多剤耐性におけるそれらの役割について十分に特徴付けられている。マンガンの移入に関与する細菌ABC輸送体の非限定的な例は、MntABCD(枯草菌、黄色ブドウ球菌)、SitABCD(ネズミチフス菌、フレキスナー赤痢菌)、PsaABCD(肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae))およびYfeABCD(ペスト菌)を含む(BeardenおよびPerry、1999年;Kehresら、2002年;McAllisterら、2004年;Zhouら、1999年)。MntABCD輸送体複合体は、3つのサブユニットからなり、MntCおよびMntDは、パーミアーゼサブユニットを含む内在性膜タンパク質であり、陽イオン輸送を媒介し、MntBは、ATPアーゼであり、MntAは、マンガンに結合し、パーミアーゼサブユニットに送達する。sitABCD、psaABCDおよびyfeABCDなどの、他のABC輸送体オペロンは、同様のサブユニット構成および機能を示す(Higgins、1992年;Reesら、2009年)。
いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路を含む遺伝子操作細菌は、マンガン膜輸送タンパク質、例えば、MntHを産生するための1つまたは複数の回路をさらに含み、マンガンイオンを細胞内に輸送することができる(「マンガン輸送回路」)(図42)。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、マンガン輸送回路およびGABA代謝回路を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、マンガン輸送回路およびGABA輸送回路を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、マンガン輸送回路、GABA輸送回路およびGABA代謝回路を含む。いくつかの実施形態では、各回路は、同じプロモーターの制御下にある。代替実施形態では、各回路は、異なるプロモーターの制御下にある。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、低酸素、微好気性または嫌気的条件により誘導される酸素レベル依存性プロモーターを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、分子もしくは代謝物、例えば、組織特異的分子もしくは代謝物または肝損傷を示す分子もしくは代謝物により誘導されるプロモーターを含む。分子もしくは代謝物の非限定的な例は、それらの血液および腸における例えば、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、血液凝固因子II、VII、IXおよびX、アルカリホスファターゼ、ガンマグルタミルトランスフェラーゼ、肝炎抗原および抗体、アルファフェトプロテイン、抗ミトコンドリア、平滑筋および抗核抗体、鉄、トランスフェリン、フェリチン、銅、セルロプラスミン、アンモニアならびにマンガンを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、炎症または炎症反応により誘導されるプロモーター、例えば、RNSまたはROSプロモーターを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、消化管内に自然に存在し得るまたはし得ない(例えば、体外から加えることができる)代謝物、例えば、アラビノースおよびテトラサイクリンにより誘導されるプロモーターを含む。
酪酸および他の消化管バリア機能増強分子の産生
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、消化管バリア機能増強分子をコードする遺伝子、または消化管バリア機能増強分子を産生することができる生合成経路をコードする遺伝子カセットをさらに含む。いくつかの実施形態では、該分子は、短鎖脂肪酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、GLP−2、IL−10、IL−27、TGF−β1、TGF−β2、エラフィン(ペプチダーゼ阻害剤3およびSKALPとも呼ばれる)、トレフォイル因子、メラトニン、PGD2、キヌレン酸およびキヌレニンからなる群から選択される。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、単一遺伝子によりコードされる消化管バリア機能増強分子を発現するものであり、例えば、該分子は、エラフィンであり、PI3遺伝子によりコードされる。代替実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、複数の遺伝子を必要とする生合成経路により合成される消化管バリア機能増強分子、例えば、酪酸またはプロピオン酸をコードする。
遺伝子または遺伝子カセットは、高コピープラスミド、低コピープラスミドまたは染色体上で発現させることができる。いくつかの実施形態では、プラスミドからの発現は、消化管バリア機能増強分子の発現を増加させるのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、染色体からの発現は、消化管バリア機能増強分子の発現の安定性を向上させるのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、消化管バリア機能増強分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットを遺伝子操作細菌における1つまたは複数の組込み部位において細菌染色体に組み込む。例えば、酪酸生合成遺伝子カセットの1つまたは複数のコピーを細菌染色体に組み込むことができる。いくつかの実施形態では、消化管バリア機能増強分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットを遺伝子操作細菌におけるプラスミドから発現させる。いくつかの実施形態では、消化管バリア機能増強分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットを大腸菌ニッスルにおける以下の挿入部位:malE/K、araC/BAD、lacZ、thyA、malP/Tのうちの1つまたは複数において細菌ゲノムに挿入する。任意の適切な挿入部位を用いることができる(例えば、図18参照)。挿入部位は、ゲノムにおけるどこでもよく、例えば、thyA(栄養要求体を創製するための)のような、生存および/または増殖に必要な遺伝子;ゲノム複製の部位の近くのような、ゲノムの活性領域;および/またはアラビノースオペロンのAraBとAraCとの間のような、意図しない転写のリスクを低下させるために多様なプロモーターの間であってよい。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、酪酸生成遺伝子カセットを含み、酪酸を産生することができる。遺伝子操作細菌は、適切な組の酪酸生成遺伝子を含み得る(例えば、表14参照)。酪酸生合成遺伝子を含む非改変細菌は、公知であり、ペプトクロストリジウム属、クロストリジウム属、フゾバクテリウム属、ブチリビブリオ属、ユウバクテリウム属およびトレポネーマ属を含むが、これらに限定されず、これらの内因性酪酸生合成経路は、本発明の遺伝子操作細菌の遺伝子の起源であり得る。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来する酪酸生合成遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ペプトクロストリジウム・ディフィシル、例えば、ペプトクロストリジウム・ディフィシル630株に由来する酪酸生合成経路の8つの遺伝子:bcd2、etfB3、etfA3、thiA1、hbd、crt2、pbtおよびbukを含み(Aboulnagaら、2013年)、HE特異的分子もしくは代謝物の存在下、肝損傷、炎症もしくは炎症反応に関連する分子もしくは代謝物の存在下、またはアラビノースのようなある種の他の代謝物に存在下で、低酸素条件で酪酸を産生することができる。ペプトクロストリジウム・ディフィシル630菌株および1296菌株は、両方が酪酸を産生することができるが、etfA3、thiA1、hbd、crt2、pbtおよびbukについて異なる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株および/または亜菌株に由来する酪酸生成遺伝子の組合せを含み、低酸素条件でまたはHE特異的分子もしくは代謝物の存在下で酪酸を産生することができる。例えば、いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ペプトクロストリジウム・ディフィシル630菌株に由来するbcd2、etfB3、etfA3およびthiA1ならびにペプトクロストリジウム・ディフィシル1296菌株に由来するhbd、crt2、pbtおよびbukを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、低酸素条件でまたはHE特異的分子もしくは代謝物の存在下で酪酸生合成カセットを発現し、酪酸を産生することができる。遺伝子をコドン最適化することができ、翻訳および転写エレメントを加えることができる。表14に酪酸生合成遺伝子カセットにおける例示的遺伝子の核酸配列を示す。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号39、40、41、42、43、44、45、46、47もしくは48のDNA配列、その機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号39、40、41、42、43、44、45、46、47もしくは48の核酸配列、またはその機能性断片を含む。
クロストリジウム・ディフィシルにおけるbcd2、etfA3およびetfB3遺伝子の遺伝子産物は、酸素依存性共酸化剤として機能し得る、クロトニルCoAをブチリルCoAに変換する複合体を形成する。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、微好気的または酸素制限環境、例えば、哺乳動物消化管内で酪酸を産生するように設計されているので、酸素依存性は、消化管内での酪酸の産生に負の影響を及ぼす可能性がある。トレポネーマ・デンティコラに由来する単一遺伝子(ter、トランス−2−エノイルCoAレダクターゼをコードする)が、この3遺伝子複合体を酸素非依存的に機能的に置換し得ることが示された。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、ペプトクロストリジウム・ディフィシルに由来するbcd2、etfB3およびetfA3遺伝子の3つすべてを機能的に置換することができる、例えば、トレポネーマ・デンティコラに由来するter遺伝子を含む。この実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、ペプトクロストリジウム・ディフィシルに由来するthiA1、hbd、crt2、pbtおよびbuk、ならびに例えば、トレポネーマ・デンティコラに由来するterを含み、HE特異的分子もしくは代謝物の存在下、肝損傷、炎症もしくは炎症反応に関連する分子もしくは代謝物の存在下、またはアラビノースのような、消化管中に存在し得る、もしくは存在し得ないある種の他の代謝物の存在下で、低酸素条件で酪酸を産生することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、好気的酪酸生合成の遺伝子および/または嫌気的もしくは微好気的酪酸生合成の遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、例えば、ペプトクロストリジウム・ディフィシルに由来するthiA1、hbd、crt2、pbtおよびbuk、例えば、トレポネーマ・デンティコラに由来するter、例えば、ペプトクロストリジウム・ディフィシルに由来するbcd2、etfB3およびetfA3のうちの1つまたは複数を含み、低酸素条件で、またはHE特異的分子もしくは代謝物の存在下で酪酸を産生する。いくつかの実施形態では、低酸素条件でまたはHE特異的分子もしくは代謝物、または肝損傷に関連する分子もしくは代謝物の存在下、または炎症もしくは炎症反応のような他の条件(複数可)で、またはアラビノースのような、消化管中に存在し得るもしくは存在し得ないある種の他の代謝物の存在下で安定性を増大させ、かつ/または酪酸の産生を増加させるために、酪酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数を機能的に置換し、改変し、かつ/または突然変異させる。いくつかの実施形態では、酪酸の局所産生は、消化管内の調節T細胞の分化を誘導し、かつ/または結腸上皮細胞のバリア機能を増進させる。
pbtおよびbukの遺伝子産物は、ブチリルCoAを酪酸に変換する。いくつかの実施形態では、pbtおよびbuk遺伝子は、tesB遺伝子により置換することができる。tesBは、ブチリルCoAからCoAを切り離すために用いることができる。一実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、ペプトクロストリジウム・ディフィシルに由来するbcd2、etfB3、etfA3、thiA1、hbdおよびcrt2、ならびに大腸菌に由来するtesBを含み、HE特異的分子もしくは代謝物の存在下で、肝損傷、炎症もしくは炎症反応に関連する分子もしくは代謝物の存在下、またはアラビノースのような、消化管中に存在し得るもしくは存在し得ないある種の他の代謝物の存在下で、低酸素条件で酪酸を産生する。一実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、トレポネーマ・デンティコラに由来するter遺伝子(トランス−2−エノイル−CoAレダクターゼをコードする)、例えば、ペプトクロストリジウム・ディフィシルに由来するthiA1、hbd、crt2、pbtおよびbuk、ならびに大腸菌に由来するtesBを含み、HE特異的分子もしくは代謝物の存在下で、肝損傷、炎症もしくは炎症反応に関連する分子もしくは代謝物の存在下、またはアラビノースのような、消化管中に存在し得るもしくは存在し得ないある種の他の代謝物の存在下で、低酸素条件で酪酸を産生する。いくつかの実施形態では、低酸素条件でまたはHE特異的分子もしくは代謝物、または肝損傷に関連する分子もしくは代謝物の存在下、または炎症もしくは炎症反応のような他の条件(複数可)で、またはアラビノースのような、消化管中に存在し得るもしくは存在し得ないある種の他の代謝物の存在下で安定性を増大させ、かつ/または酪酸の産生を増加させるために、酪酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数を機能的に置換し、改変し、かつ/または突然変異させる。いくつかの実施形態では、酪酸の局所産生は、消化管内の調節T細胞の分化を誘導し、かつ/または結腸上皮細胞のバリア機能を増進させる。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、プロピオン酸遺伝子カセットを含み、低酸素条件でまたはHE特異的分子もしくは代謝物の存在下でプロピオン酸を産生することができる。遺伝子操作細菌は、任意の適切な組のプロピオン酸生合成遺伝子を発現し得る(例えば、表15参照)。内因性プロピオン酸生合成経路を介してプロピオン酸を産生することができる非改変細菌は、クロストリジウム・プロピオニクム、メガスフェラ・エルスデニイおよびプレボテラ・ルミニコラを含むが、これらに限定されず、これらの内因性プロピオン酸生合成経路は、本発明の遺伝子操作細菌の遺伝子の起源であり得る。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するプロピオン酸生合成遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、クロストリジウム・プロピオニクムに由来する遺伝子pct、lcdおよびacrを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、プロピオン酸生合成のためのアクリル酸経路遺伝子、例えば、pct、lcdA、lcdB、lcdC、etfA、acrBおよびacrCを含む。代替実施形態では、遺伝子操作細菌は、プロピオン酸生合成のためのピルビン酸経路遺伝子、例えば、thrAfbr、thrB、thrC、ilvAfbr、aceE、aceFおよびlpdを含み、tesBを任意選択でさらに含む。遺伝子は、コドンを最適化することができ、翻訳および転写エレメントを加えることができる。表15にプロピオン酸生合成遺伝子カセットにおける例示的遺伝子の核酸配列を示す。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61もしくは62のDNA配列、その機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61もしくは62の核酸配列、またはその機能性断片を含む。
いくつかの実施形態では、プロピオン酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数は、合成プロピオン酸生合成遺伝子である。いくつかの実施形態では、プロピオン酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数は、大腸菌プロピオン酸生合成遺伝子である。いくつかの実施形態では、プロピオン酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数は、C.グルタミクム(C.glutamicum)プロピオン酸生合成遺伝子である。いくつかの実施形態では、プロピオン酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数は、C.プロピオニクムプロピオン酸生合成遺伝子である。プロピオン酸遺伝子カセットは、プロピオン酸の好気的生合成のための遺伝子および/またはプロピオン酸の嫌気的もしくは微好気的生合成のための遺伝子を含み得る。プロピオン酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数は、機能的に置換または改変、例えば、コドンを最適化することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株および/または亜菌株に由来するプロピオン酸生合成遺伝子の組合せを含み、HE特異的分子もしくは代謝物の存在下で、肝損傷、炎症もしくは炎症反応に関連する分子もしくは代謝物の存在下、またはアラビノースのような、消化管中に存在し得るもしくは存在し得ないある種の他の代謝物の存在下で、低酸素条件でプロピオン酸を産生することができる。いくつかの実施形態では、HE特異的分子もしくは代謝物の存在下で、肝損傷、炎症もしくは炎症反応に関連する分子もしくは代謝物の存在下、またはアラビノースのような、消化管中に存在し得るもしくは存在し得ないある種の他の代謝物の存在下で、低酸素条件で安定性を向上させ、かつ/またはプロピオン酸の産生を増加させるために、プロピオン酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数を機能的に置換、改変、および/または突然変異させる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、HE特異的分子もしくは代謝物の存在下で、肝損傷、炎症もしくは炎症反応に関連する分子もしくは代謝物の存在下、またはアラビノースのような、消化管中に存在し得るもしくは存在し得ないある種の他の代謝物の存在下で、低酸素条件でプロピオン酸生合成カセットを発現し、プロピオン酸を産生することができる。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、酢酸遺伝子カセットを含み、酢酸を産生する。遺伝子操作細菌は、適切な組の酢酸生合成遺伝子を含み得る。内因性酢酸生合成遺伝子を含む非改変細菌は、当技術分野で公知であり、好気的および/または嫌気的条件下で様々な基質を消費して、酢酸を産生することができる(例えば、Ragsdaleら、2008年参照)。これらの内因性酢酸生合成遺伝子は、本発明の遺伝子操作細菌の遺伝子の起源であり得る。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来する酢酸生合成遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌における天然酢酸生合成遺伝子は、増強されている。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、大腸菌に由来する好気性酢酸生合成遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、アセチトマクラム属、アセトアナエロビウム属、アセトハロビウム属、アセトネマ属、バルチア属、ブチリバクテリウム属、クロストリジウム属、ムーレラ属、オキソバクター属、スポロムサ属および/またはサーモアセトゲニウム属に由来する嫌気性酢酸生合成遺伝子を含む。遺伝子操作細菌は、好気的酢酸生合成の遺伝子または嫌気的もしくは微好気的酢酸生合成の遺伝子を含み得る。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、好気性および嫌気性または微好気性酢酸生合成遺伝子の両方を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株および/または亜菌株に由来する酢酸生合成遺伝子の組合せを含み、酢酸を産生することができる。いくつかの実施形態では、安定性および/または酢酸の産生を増大させるために、酢酸生合成遺伝子のうちの1つまたは複数を機能的に置換、改変、および/または突然変異させる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、低酸素条件でまたはHE特異的分子もしくは代謝物の存在下で酢酸生合成カセットを発現し、酢酸を産生することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、代替短鎖脂肪酸を産生することができる。
当業者は、消化管バリア機能増強分子を産生することができるさらなる遺伝子および遺伝子カセットが当技術分野で公知であり、本発明の遺伝子操作細菌により発現させることができることを理解するであろう。いくつかの実施形態では、治療用分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、さらなる転写および翻訳エレメント、例えば、治療用分子の発現を増大させるための、リボソーム結合部位も含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、2種またはそれ以上の消化管バリア機能増強分子を産生する。特定の実施形態では、2種またはそれ以上の消化管バリア機能増強分子は、相乗的に挙動して、消化管バリア機能を増強する。特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、酪酸およびプロピオン酸を発現する。
いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路を含む遺伝子操作細菌は、消化管バリア増強分子、例えば、酪酸を産生するための1つまたは複数の回路をさらに含む(図43)。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、GABA代謝回路および消化管バリア増強分子、例えば、酪酸を産生するための1つまたは複数の回路を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、GABA輸送回路および消化管バリア増強分子、例えば、酪酸を産生するための1つまたは複数の回路を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、GABA輸送回路、GABA代謝回路および消化管バリア増強分子、例えば、酪酸を産生するための1つまたは複数の回路を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、マンガン輸送回路、GABA代謝回路および消化管バリア増強分子、例えば、酪酸を産生するための1つまたは複数の回路を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、マンガン輸送回路、GABA輸送回路および消化管バリア増強分子、例えば、酪酸を産生するための1つまたは複数の回路を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アンモニア変換回路、マンガン輸送回路、GABA輸送回路、GABA代謝回路および消化管バリア増強分子、例えば、酪酸を産生するための1つまたは複数の回路を含む。いくつかの実施形態では、各回路は、同じプロモーターの制御下にある。代替実施形態では、各回路は、異なるプロモーターの制御下にある。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、HE特異的分子もしくは代謝物の存在下で、肝損傷、炎症もしくは炎症反応に関連する分子もしくは代謝物の存在下、またはアラビノースのような、消化管中に存在し得るもしくは存在し得ないある種の他の代謝物の存在下で、低酸素条件で、記載した回路のうちの1つまたは複数を発現することができる。いくつかの実施形態では、記載した回路のうちの1つまたは複数が1つもしくは複数のプラスミド(例えば、高コピーもしくは低コピー)上に存在するかまたは細菌染色体における1つもしくは複数の部位に組み込まれる。また、いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、記載した回路のうちの1つまたは複数をさらに発現することができ、(1)当技術分野で公知であり、本明細書で示す栄養要求性のいずれか、例えば、thyA栄養要求性などの、1つまたは複数の栄養要求性、(2)本明細書に記載の、あるいは当技術分野で公知のキルスイッチのいずれかなどの、1つまたは複数のキルスイッチ回路、(3)1つまたは複数の抗生物質耐性回路、(4)本明細書に記載の、あるいは当技術分野で公知の輸送体のいずれかのような、生体分子または物質を移入する1つまたは複数の輸送体、(5)本明細書に記載の、あるいは当技術分野で公知の分泌回路のいずれかなどの、1つまたは複数の分泌回路、および(6)そのようなさらなる回路のうちの1つまたは複数の組合せのうちの1つまたは複数をさらに含む。
本明細書に記載の実施形態のいずれかにおいて、遺伝子操作細菌は、リファキシミンに対する耐性をさらに含み得る。リファキシミンに対する耐性は、rpoB遺伝子における突然変異によって主としてもたらされる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、rpoB遺伝子における公知のリファキシミン耐性を含む。他の実施形態では、リファキシミン耐性をもたらす有用な突然変異を同定するために、遺伝子操作細菌を漸増量のリファキシミンに曝露する、スクリーニングを用いることができる。
誘導性プロモーター
いくつかの実施形態では、ペイロード(複数可)を宿主細胞において発現させることができ、宿主細胞が、in vitroで、例えば、培地中で、かつ/またはin vivoで、例えば、消化管内で、生存し、かつ/または増殖することができるように、細菌細胞は、ペイロード(複数可)をコードする遺伝子(複数可)を有する安定に維持されたプラスミドまたは染色体を含む。いくつかの実施形態では、細菌細胞は、2種またはそれ以上の異なるペイロードまたはオペロン、例えば、2種またはそれ以上のペイロード遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、細菌細胞は、3種またはそれ以上の異なる輸送体またはオペロン、例えば、3種またはそれ以上のペイロード遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、細菌細胞は、4、5、6、7、8、9、10種またはそれ以上の異なるペイロードまたはオペロン、例えば、4、5、6、7、8、9、10種またはそれ以上のペイロード遺伝子を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、同じペイロード遺伝子(複数可)の複数のコピーを含む。いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝子は、プラスミド上に存在し、誘導性プロモーターに直接的または間接的に作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝子は、プラスミド上に存在し、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝子は、染色体上に存在し、誘導性プロモーターに直接的または間接的に作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝子は、染色体上に存在し、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝子は、プラスミド上に存在し、テトラサイクリンまたはアラビノースへの曝露により誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。
いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝に作動可能に連結されたプロモーターは、外因性環境条件により直接的に誘導される。いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝に作動可能に連結されたプロモーターは、外因性環境条件により間接的に誘導される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、哺乳動物の消化管に固有の外因性環境条件により直接的または間接的に誘導される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、哺乳動物の小腸に固有の外因性環境条件により直接的または間接的に誘導される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、哺乳動物の消化管の環境のような低酸素または嫌気的条件により直接的または間接的に誘導される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、哺乳動物の消化管に特有である分子または代謝物により直接的または間接的に誘導される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、細菌細胞と併用投与される分子により直接的または間接的に誘導される。
特定の実施形態では、細菌細胞は、フマル酸・硝酸レダクターゼ調節因子(FNR)応答性プロモーターの制御下に発現するペイロードをコードする遺伝子を含む。大腸菌において、FNRは、好気的代謝から嫌気的代謝への切り替えを制御する主要な転写活性化因子である(Undenら、1997年)。嫌気的状態では、FNRは、嫌気的増殖への適応に関与する数百種の遺伝子を活性化する活性なDNA結合タンパク質に二量体化する。好気的状態では、FNRは、酸素により二量体化することが妨げられ、不活性である。FNR応答性プロモーターは、下文の図表に示すFNR応答性プロモーターを含むが、これらに限定されない。下線付き配列は、予測されるリボソーム結合部位であり、太字の配列は、クローニングに用いられる制限部位である。
FNRプロモーター配列は、当技術分野で公知であり、任意の適切なFNRプロモーター配列(複数可)を本発明の遺伝子操作細菌に用いることができる。任意の適切なFNRプロモーター(複数可)を適切なペイロードと組み合わせることができる(例えば、例示的argAfbr配列を表7に示す)。非限定的なFNRプロモーター配列を表6に示す。表6にFNR応答性プロモーター配列を含む例示的調節領域配列の核酸配列を示す。下線付きの配列は、予測されるリボソーム結合部位であり、太字の配列は、クローニングに用いられる制限部位である。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、配列番号18、配列番号19、nirB1プロモーター(配列番号20)、nirB2プロモーター(配列番号21)、nirB3プロモーター(配列番号22)、ydfZプロモーター(配列番号23)、強リボソーム結合部位に融合したnirBプロモーター(配列番号24)、強リボソーム結合部位に融合したydfZプロモーター(配列番号25)、嫌気的に誘導される小RNA遺伝子であるfnrS(fnrS1プロモーター配列番号26またはfnrS2プロモーター配列番号27)、crp結合部位に融合したnirBプロモーター(配列番号28)およびcrp結合部位に融合したfnrS(配列番号29)のうちの1つまたは複数を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28もしくは29のDNA配列またはそれらの機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
一実施形態では、FNR応答性プロモーターは、配列番号1を含む。他の実施形態では、FNR応答性プロモーターは、配列番号2を含む。他の実施形態では、FNR応答性プロモーターは、配列番号3を含む。他の実施形態では、FNR応答性プロモーターは、配列番号4を含む。他の実施形態では、FNR応答性プロモーターは、配列番号5を含む。
いくつかの実施形態では、複数の異なるFNR核酸配列が遺伝子操作細菌に挿入されている。代替実施形態では、遺伝子操作細菌は、代替酸素レベル依存性プロモーター、例えば、DNR(Trunkら、2010年)またはANR(Rayら、1997年)の制御下に発現するペイロードをコードする遺伝子を含む。これらの実施形態では、ペイロード遺伝子の発現は、消化管内のような、低酸素または嫌気的環境において特に活性化される。いくつかの実施形態では、遺伝子発現は、当技術分野で公知の方法により、例えば、リボソーム結合部位を最適化し、かつ/またはmRNAの安定性を向上させることにより、さらに最適化される。一実施形態では、哺乳動物消化管は、ヒト哺乳動物消化管である。
いくつかの実施形態では、細菌細胞は、酸素レベル依存性転写調節因子、例えば、FNR、ANRまたはDNR、および異なる細菌種に由来する対応するプロモーターを含む。異種酸素レベル依存性転写調節因子およびプロモーターは、同じ条件下の細菌における天然遺伝子(複数可)およびプロモーターと比較して、低酸素または嫌気的環境における、前記プロモーターに作動可能に連結した遺伝子、例えば、ペイロードをコードする遺伝子の転写を増加させる。特定の実施形態では、非天然酸素レベル依存性転写調節因子は、淋菌に由来するFNRタンパク質である(例えば、Isabellaら、2011年参照)。いくつかの実施形態では、対応する野生型転写調節因子は、完全なままであり、野生型活性を保持している。代替実施形態では、対応する野生型転写調節因子は、野生型活性を低減または消失するように欠失または突然変異させる。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、野生型酸素レベル依存性転写調節因子、例えば、FNR、ANRまたはDNR、および同じ亜型の細菌に由来する野生型プロモーターと比べて突然変異している対応するプロモーターを含む。突然変異プロモーターは、同じ条件下の野生型プロモーターと比較して、低酸素または嫌気的環境における、野生型転写調節因子への結合を増強させ、前記プロモーターに作動可能に連結した遺伝子、例えば、ペイロードをコードする遺伝子の転写を増加させる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、野生型酸素レベル依存性プロモーター、例えば、FNR、ANRまたはDNRプロモーター、および同じ亜型の細菌に由来する野生型転写調節因子と比べて突然変異している対応する転写調節因子を含む。突然変異転写調節因子は、同じ条件下の野生型転写調節因子と比較して、低酸素または嫌気的環境における、野生型プロモーターへの結合を増強させ、前記プロモーターに作動可能に連結した遺伝子、例えば、ペイロードをコードする遺伝子の転写を増加させる。特定の実施形態では、突然変異酸素レベル依存性転写調節因子は、二量体化およびFNR活性を増加させるアミノ酸置換を含むFNRタンパク質である(例えば、Mooreら、2006年参照)。
いくつかの実施形態では、細菌細胞は、酸素レベル感知転写調節因子、例えば、FNR遺伝子をコードする内因性遺伝子の複数のコピーを含む。いくつかの実施形態では、酸素レベル感知転写調節因子をコードする遺伝子は、プラスミド上に存在する。いくつかの実施形態では、酸素レベル感知転写調節因子をコードする遺伝子およびペイロードをコードする遺伝子は、異なるプラスミド上に存在する。いくつかの実施形態では、酸素レベル感知転写調節因子をコードする遺伝子およびペイロードをコードする遺伝子は、同じプラスミド上に存在する。いくつかの実施形態では、酸素レベル感知転写調節因子をコードする遺伝子は、染色体上に存在する。いくつかの実施形態では、酸素レベル感知転写調節因子をコードする遺伝子およびペイロードをコードする遺伝子は、異なる染色体上に存在する。いくつかの実施形態では、酸素レベル感知転写調節因子をコードする遺伝子およびペイロードをコードする遺伝子は、同じ異染色体上に存在する。いくつかの例では、発現安定性を向上させるために誘導性プロモーターの制御下で酸素レベル感知転写調節因子を発現させることは、有利であり得る。いくつかの実施形態では、転写調節因子の発現は、ペイロードをコードする遺伝子の発現を制御するプロモーターと異なるプロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、転写調節因子の発現は、ペイロードの発現を制御する同じプロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、転写調節因子およびペイロードは、プロモーター領域から分岐して転写される。
RNS依存性調節
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌または遺伝子操作ウイルスは、誘導性プロモーターの制御下で発現するペイロードをコードする遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌または遺伝子操作ウイルスは、炎症状態により活性化されるプロモーターの制御下でペイロードを発現する。一実施形態では、ペイロードを産生するための遺伝子は、炎症性環境において活性化される炎症依存性プロモーター、例えば、活性窒素種またはRNSプロモーターの制御下に発現する。
本明細書で使用する場合、「活性窒素種」および「RNS」は、同義で用い、分子状窒素に由来する高度に活性な分子、イオンおよび/またはラジカルを意味する。RNSは、ニトロソ化ストレスのような有害な細胞効果をもたらし得る。RNSは、酸化窒素(NO・)、ペルオキシ亜硝酸またはペルオキシ亜硝酸アニオン(ONOO−)、二酸化窒素(・NO2)、三酸化二窒素(N2O3)、ペルオキシ亜硝酸(ONOOH)およびニトロペルオキシカーボネート(ONOOCO2−)を含むが、これらに限定されない(不対電子を・により示す)。細菌は、RNSレベルを感知することができる転写因子を発達させた。異なるRNSシグナル伝達経路は、異なるRNSレベルにより誘発され、異なる速度論で発生する。
本明細書で使用する場合、「RNS誘導性調節領域」は、1つまたは複数のRNS感知転写因子が結合することができ、対応する転写因子の結合および/または活性化が下流の遺伝子発現を活性化する、核酸配列を意味し、RNSの存在下で、転写因子は、調節領域に結合し、かつ/またはそれを活性化する。いくつかの実施形態では、RNS誘導性調節領域は、プロモーター配列を含む。いくつかの実施形態では、転写因子は、RNSを感知し、その後、RNS誘導性調節領域に結合し、それにより、下流の遺伝子発現を活性化する。代替実施形態では、転写因子は、RNSの非存在下でRNS誘導性調節領域に結合し、RNSの存在下では、転写因子は、立体配座の変化を受け、それにより、下流の遺伝子発現を活性化する。RNS誘導性調節領域は、1つまたは複数の遺伝子、例えば、ペイロード遺伝子配列(複数可)、例えば、本明細書に記載のペイロードのいずれかに作動可能に連結することができる。例えば、RNSの存在下で、転写因子は、RNSを感知し、対応するRNS誘導性調節領域を活性化し、それにより、作動可能に連結した遺伝子配列の発現を駆動する。このように、RNSは、遺伝子または遺伝子配列の発現を誘導する。
本明細書で使用する場合、「RNS抑制解除調節領域」は、1つまたは複数のRNS感知転写因子が結合することができ、対応する転写因子の結合が下流の遺伝子発現を抑制する、核酸配列を意味し、RNSの存在下では、転写因子は、調節領域に結合せず、抑制しない。いくつかの実施形態では、RNS抑制解除調節領域は、プロモーター配列を含む。RNS抑制解除調節領域は、1つまたは複数の遺伝子、例えば、ペイロード遺伝子配列(複数可)に作動可能に連結することができる。例えば、RNSの存在下では、転写因子は、RNSを感知し、調節領域にもはや結合し、かつ/または抑制することをせず、それにより、作動可能に連結した遺伝子配列または遺伝子カセットを活性化する。このように、RNSは、1つまたは複数の遺伝子の発現を活性化する。
本明細書で使用する場合、「RNS抑制性調節領域」は、1つまたは複数のRNS感知転写因子が結合することができ、対応する転写因子の結合が下流の遺伝子発現を抑制する、核酸配列を意味し、RNSの存在下では、転写因子は、調節領域に結合し、抑制する。いくつかの実施形態では、RNS抑制性調節領域は、プロモーター配列を含む。いくつかの実施形態では、RNSを感知する転写因子は、プロモーター配列の一部と重複する調節領域に結合することができる。代替実施形態では、RNSを感知する転写因子は、プロモーター配列の上流または下流である調節領域に結合することができる。RNS抑制性調節領域は、遺伝子配列または遺伝子カセットに作動可能に連結することができる。例えば、RNSの存在下では、転写因子は、RNSを感知し、対応するRNS抑制性調節領域に結合し、それにより、1つまたは複数の作動可能に連結した遺伝子配列の発現を阻止する。このように、RNSは、遺伝子または遺伝子配列の発現を抑制する。
本明細書で使用する場合、「RNS応答性調節領域」は、RNS誘導性調節領域、RNS抑制性調節領域および/またはRNS抑制解除調節領域を意味する。いくつかの実施形態では、RNS応答性調節領域は、プロモーター配列を含む。各調節領域は、少なくとも1つの対応するRNS感知転写因子に結合することができる。RNSを感知する転写因子ならびにそれらの対応するRNS応答性遺伝子、プロモーターおよび/または調節領域の例は、表Aに示すものを含むが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、少なくとも1つの活性窒素種を感知することができる転写因子により直接的または間接的に制御される調整可能な調節領域を含む。調節可能な調節領域は、ペイロードの発現を直接的または間接的に駆動することができる1つまたは複数の遺伝子に作動可能に連結し、ひいてはRNSレベルに対してペイロードの発現を制御する。例えば、調節可能な調節領域は、RNS誘導性調節領域であり、ペイロードは、本明細書で示すペイロードのいずれかのような、ペイロードであり、例えば、炎症組織においてRNSが存在する場会、RNS感知転写因子は、調節領域に結合し、かつ/または活性化し、1つまたは複数のペイロード遺伝子の発現を駆動する。その後、炎症が改善し、RNAレベルが低下した場合、ペイロードの産生は、減少または消失する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、RNS誘導性調節領域であり、RNSの存在下で、転写因子は、RNSを感知し、RNS誘導性調節領域を活性化し、それにより、1つまたは複数の作動可能に連結した遺伝子の発現を駆動する。いくつかの実施形態では、転写因子は、RNSを感知し、その後、RNS誘導性調節領域に結合し、それにより、下流の遺伝子発現を活性化する。代替実施形態では、転写因子をRNSの非存在下でRNS誘導性調節領域に結合させ、転写因子がRNSを感知するとき、それは、立体配座の変化を受け、それにより、下流の遺伝子発現を誘導する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、RNS誘導性調節領域であり、RNSを感知する転写因子は、NorRである。NorRは、「NOを亜酸化窒素に還元する、フラボルブレドキシンおよび関連フラビタンパク質をコードするnorVW遺伝子の発現を調節するNO応答性転写活性化因子である」(Spiro、2006年)。本発明の遺伝子操作細菌は、NorRによって活性化される遺伝子の任意の適切なRNA応答性調節領域を含み得る。NorRによって活性化することができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Spiro、2006年;Vineら、2011年;Karlinseyら、2012年参照)。特定の実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、1つまたは複数の遺伝子、例えば、1つまたは複数のペイロード遺伝子配列に作動可能に連結したnorVWに由来するRNS誘導性調節領域を含む。RNRの存在下で、NorR転写因子は、RNRを感知し、norVW調節領域を活性化し、それにより、作動可能に連結した遺伝子(複数可)の発現を駆動し、ペイロードを産生する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、RNS誘導性調節領域であり、RNSを感知する転写因子は、DNRである。DNR(異化型硝酸呼吸調節因子)は、酸化窒素の存在下で「nir、norおよびnos遺伝子の発現を促進する」(Castiglioneら、2009年)。本発明の遺伝子操作細菌は、DNRによって活性化される遺伝子の任意の適切なRNS応答性調節領域を含み得る。DNRによって活性化することができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Castiglioneら、2009年;Giardinaら、2008年参照)。特定の実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、遺伝子または遺伝子カセット、例えば、酪酸生成遺伝子カセットに作動可能に連結したnorCBのRNS誘導性調節領域を含む。RNRの存在下で、DNR転写因子は、RNSを感知し、norCB調節領域を活性化し、それにより、1つまたは複数の作動可能に連結した遺伝子の発現を駆動し、1つまたは複数のペイロードを産生する。いくつかの実施形態では、DNRは、緑膿菌DNRである。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、RNS抑制解除調節領域であり、対応する転写因子の結合が下流の遺伝子発現を抑制するものであり、RNSの存在下では、転写因子は、調節領域にもはや結合せず、それにより、作動可能に連結した遺伝子または遺伝子カセットを活性化する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、RNS抑制解除調節領域であり、RNSを感知する転写因子は、NsrRである。NsrRは、「NOを感知し、NOの代謝に関与する遺伝子の発現を制御することができるRrf2型の転写リプレッサー」である(Isabellaら、2009年)。本発明の遺伝子操作細菌は、NsrRによって抑制される遺伝子の適切なRNS応答性調節領域を含み得る。いくつかの実施形態では、NsrRは、淋菌NsrRである。NsrRによる抑制を受けることができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Isabellaら、2009年;Dunnら、2010年参照)。特定の実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、1つまたは複数の遺伝子、例えば、1つまたは複数のペイロード遺伝子に作動可能に連結したnorBのRNS抑制解除調節領域を含む。RNSの存在下で、NsrR転写因子は、RNSを感知し、norB調節領域にもはや結合せず、それにより、1つまたは複数の作動可能に連結したペイロード遺伝子を活性化し、ペイロードをコードするもの(the encoding a payload(s))を生成する。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌が、細菌におけるかなりの数の天然遺伝子の発現を調節しないRNS感知転写因子を発現することは、有利である。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、転写因子が本発明の遺伝子操作細菌における調節配列に結合しない、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するRNS感知転写因子を発現する。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、大腸菌であり、RNS感知転写因子は、例えば、淋菌に由来するNsrRであり、ここで、大腸菌は、前記NsrRに対する結合部位を含まない。いくつかの実施形態では、異種転写因子は、遺伝子操作細菌における内因性調節領域および遺伝子に対するオフターゲット効果を最小限にまたは排除する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、RNS抑制性調節領域であり、対応する転写因子の結合が下流の遺伝子発現を抑制するものであり、RNSの存在下では、転写因子は、RNSを感知し、RNS抑制性調節領域に結合し、それにより、作動可能に連結した遺伝子または遺伝子カセットの発現を抑制する。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子は、プロモーター配列の一部と重複する調節領域に結合することができる。代替実施形態では、RNS感知転写因子は、プロモーター配列の上流または下流である調節領域に結合することができる。
これらの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ペイロードを発現させるために用いる、2つのリプレッサー活性化調節回路を含み得る。2つのリプレッサー活性化調節回路は、第1のRNS感知リプレッサーおよび例えば、ペイロードをコードする遺伝子または遺伝子カセットに作動可能に連結した、第2のリプレッサーを含む。これらの実施形態の一態様では、RNS感知リプレッサーは、遺伝子または遺伝子カセットの転写を抑制する、第2のリプレッサーの転写を抑制する。これらの実施形態において有用な第2のリプレッサーの例は、TetR、C1およびLexAを含むが、これらに限定されない。第1のリプレッサーによる結合の非存在(RNSの非存在下で起こる)下では、第2のリプレッサーが転写され、これが1つまたは複数の遺伝子の発現を抑制する。第1のリプレッサーによる結合の存在(RNSの存在下で起こる)下では、第2のリプレッサーの発現が抑制され、1つまたは複数の遺伝子、例えば、1つまたは複数のペイロード遺伝子が発現する。
RNS応答性転写因子は、遺伝子操作細菌において用いられる調節領域の配列によって遺伝子発現を誘導、活性化、または抑制し得る。1つまたは複数の種類のRNS感知転写因子および対応する調節領域配列が遺伝子操作細菌に存在し得る。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、1種類のRNS感知転写因子、例えば、NsrR、および例えば、norBに由来する1つの対応する調節領域配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、1種類のRNS感知転写因子、例えば、NsrR、ならびに例えば、norBおよびaniAに由来する、2つまたはそれ以上の異なる対応する調節領域配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、2またはそれ以上の種類のRNS感知転写因子、例えば、NsrRおよびNorR、ならびに例えば、それぞれnorBおよびnorRに由来する、2つまたはそれ以上の対応する調節領域配列を含む。1つのRNS応答性調節領域が複数の転写因子に結合できることがあり得る。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、2またはそれ以上の種類のRNS感知転写因子および1つの対応する調節領域配列を含む。いくつかのRNSにより調節される調節領域の核酸配列は、当技術分野で公知である(例えば、Spiro、2006年;Isabellaら、2009年;Dunnら、2010年;Vineら、2011年;Karlinseyら、2012年)。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、RNS感知転写因子をコードする遺伝子、例えば、その天然プロモーターにより制御されるnsrR遺伝子、誘導性プロモーター、天然プロモーターより強いプロモーター、例えば、GlnRSプロモーターもしくはP(Bla)プロモーター、または構成的プロモーターを含む。いくつかの例では、発現安定性を向上させるために誘導性プロモーターの制御下のRNS感知転写因子を発現させることは、有利であり得る。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子の発現は、治療用分子の発現を制御するプロモーターと異なるプロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子の発現は、治療用分子の発現を制御する同じプロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子および治療用分子は、プロモーター領域から分岐して転写される。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するRNS感知転写因子の遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するRNS応答性調節領域を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するRNS感知転写因子および対応するRNS応答性調節領域を含む。異種RNS感知転写因子および調節領域は、同じ条件下の同じ亜型の細菌に由来する天然転写因子および調節領域と比較して、RNSの存在下で前記調節領域に作動可能に連結した遺伝子の転写を増加させ得る。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、RNS感知転写因子NsrRおよび淋菌に由来する対応する調節領域nsrRを含む。いくつかの実施形態では、天然RNS感知転写因子、例えば、NsrRは、完全なままであり、野生型活性を保持している。代替実施形態では、天然RNS感知転写因子、例えば、NsrRは、野生型活性を低減または消失させるために欠失または突然変異させる。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、RNS感知転写因子をコードする内因性遺伝子、例えば、nsrR遺伝子の複数のコピーを含む。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子をコードする遺伝子は、プラスミド上に存在する。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子をコードする遺伝子および治療用分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、異なるプラスミド上に存在する。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子をコードする遺伝子および治療用分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、同じプラスミド上に存在する。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子をコードする遺伝子は、染色体上に存在する。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子をコードする遺伝子および治療用分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、異なる染色体上に存在する。いくつかの実施形態では、RNS感知転写因子をコードする遺伝子および治療用分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、同じ染色体上に存在する。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、RNS感知転写因子をコードする野生型遺伝子、例えば、NsrR遺伝子、同じ亜型の細菌の野生型調節領域と比べて突然変異している、対応する調節領域、例えば、norB調節領域を含む。突然変異調節領域は、同じ条件下の野生型調節領域と比較して、RNSの存在下でペイロードの発現を増加させる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、野生型RNS応答性調節領域、例えば、norB調節領域、および同じ亜型の細菌の野生型転写因子と比べて突然変異している、対応する転写因子、例えば、NsrRを含む。突然変異転写因子は、同じ条件下の野生型転写因子と比較して、RNSの存在下でペイロードの発現を増加させる。いくつかの実施形態では、RNSの存在下でのペイロードの発現を増加させるために、RNS感知転写因子および対応する調節領域の両方を同じ亜型の細菌の野生型配列と比べて突然変異させる。
いくつかの実施形態では、抗炎症および/または消化管バリア機能増強分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、プラスミド上に存在し、RNSにより誘導されるプロモーターに作動可能に連結している。いくつかの実施形態では、当技術分野で公知の方法によって、例えば、リボソーム結合部位を最適化し、転写調節因子を操作し、かつ/またはmRNAの安定性を増大させることによって、発現がさらに最適化される。
いくつかの実施形態では、本開示の遺伝子(複数可)のいずれかを1つまたは複数の組込み部位において細菌染色体に組み込むことができる。例えば、ペイロード遺伝子(複数可)をコードする1つまたは複数の1つまたは複数のコピーを細菌染色体に組み込むことができる。染色体に組み込まれた1つまたは複数の遺伝子の複数のコピーを有することにより、ペイロード(複数可)のより多くの産生が可能となり、発現のレベルの微調整も可能となる。あるいは、複数の異なる機能を果たすために治療用遺伝子(複数可)または遺伝子カセット(複数可)に加えて、分泌または輸出回路のいずれかのような、本明細書に記載の異なる回路を細菌染色体の1つまたは複数の異なる組込み部位に組み込むことが可能である。
ROS依存性調節
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌または遺伝子操作ウイルスは、誘導性プロモーターの制御下で発現するペイロードを産生するための遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌または遺伝子操作ウイルスは、細胞損傷の状態により活性化されるプロモーターの制御下でペイロードを発現する。一実施形態では、ペイロードを産生するための遺伝子は、細胞もしくは組織損傷が存在する環境において活性化される細胞損傷依存性プロモーター、例えば、活性酸素種またはROSプロモーターの制御下で発現する。
本明細書で使用する場合、「活性酸素種」および「ROS」は、同義で用いられ、分子状酸素に由来する高度に活性な分子、イオンおよび/またはラジカルを意味する。ROSは、好気的呼吸または金属触媒酸化の副産物として産生され、酸化的損傷などの有害な細胞効果をもたらし得る。ROSは、過酸化水素(H2O2)、有機過酸化物(ROOH)、ヒドロキシルイオン(OH−)、ヒドロキシルラジカル(・OH)、スーパーオキシドまたはスーパーオキシドアニオン(・O2−)、一重項酸素(1O2)、オゾン(O3)、炭酸ラジカル、過酸化物またはペルオキシルラジカル(・O2−2)、次亜塩素酸(HOCl)、次亜塩素酸イオン(OCl−)、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、酸化窒素(NO・)およびペルオキシ亜硝酸またはペルオキシ亜硝酸アニオン(ONOO−)を含むが、これらに限定されない(不対電子を・により示す)。細菌は、ROSレベルを感知することができる転写因子を発達させた。異なるROSシグナル伝達経路は、異なるROSレベルによって誘発され、異なる速度論で発生する(Marinhoら、2014年)。
本明細書で使用する場合、「ROS誘導性調節領域」は、1つまたは複数のROS感知転写因子が結合することができ、対応する転写因子の結合および/または活性化が下流の遺伝子発現を活性化する、核酸配列を意味し、ROSの存在下で、転写因子は、調節領域に結合し、かつ/またはそれを活性化する。いくつかの実施形態では、ROS誘導性調節領域は、プロモーター配列を含む。いくつかの実施形態では、転写因子は、ROSを感知し、その後、ROS誘導性調節領域に結合し、それにより、下流の遺伝子発現を活性化する。代替実施形態では、転写因子は、ROSの非存在下でROS誘導性調節領域に結合し、ROSの存在下では、転写因子は、立体配座の変化を受け、それにより、下流の遺伝子発現を活性化する。ROS誘導性調節領域は、遺伝子配列または遺伝子配列、例えば、1つもしくは複数のペイロードをコードする1つまたは複数の遺伝子配列に作動可能に連結することができる。例えば、ROSの存在下で、転写因子、例えば、OxyRは、ROSを感知し、対応するROS誘導性調節領域を活性化し、それにより、1つまたは複数の作動可能に連結した遺伝子配列の発現を駆動する。このように、ROSは、1つまたは複数の遺伝子の発現を誘導する。
本明細書で使用する場合、「ROS抑制解除調節領域」は、1つまたは複数のROS感知転写因子が結合することができ、対応する転写因子の結合が下流の遺伝子発現を抑制する、核酸配列を意味し、ROSの存在下では、転写因子は、調節領域に結合せず、抑制しない。いくつかの実施形態では、ROS抑制解除調節領域は、プロモーター配列を含む。ROS抑制解除調節領域は、1つまたは複数の遺伝子、例えば、1つもしくは複数のペイロード(複数可)をコードする1つまたは複数の遺伝子に作動可能に連結することができる。例えば、ROSの存在下で、転写因子、例えば、OhrRは、ROSを感知し、もはや調節領域に結合し、かつ/または抑制することをせず、それにより、作動可能に連結した遺伝子配列または遺伝子カセットを活性化する。このように、ROSは、遺伝子または遺伝子カセットの発現を活性化する。
本明細書で使用する場合、「ROS抑制性調節領域」は、1つまたは複数のROS感知転写因子が結合することができ、対応する転写因子の結合が下流の遺伝子発現を抑制する、核酸配列を意味し、ROSの存在下では、転写因子は、調節領域に結合し、抑制する。いくつかの実施形態では、ROS抑制性調節領域は、プロモーター配列を含む。いくつかの実施形態では、ROSを感知する転写因子は、プロモーター配列の一部と重複する調節領域に結合することができる。代替実施形態では、ROSを感知する転写因子は、プロモーター配列の上流または下流である調節領域に結合することができる。ROS抑制性調節領域は、1つまたは複数の遺伝子配列に作動可能に連結することができる。例えば、ROSの存在下では、転写因子、例えば、PerRは、ROSを感知し、対応するROS抑制性調節領域に結合し、それにより、1つまたは複数の作動可能に連結した遺伝子配列の発現を阻止する。このように、ROSは、1つまたは複数の遺伝子の発現を抑制する。
本明細書で使用する場合、「ROS応答性調節領域」は、ROS誘導性調節領域、ROS抑制性調節領域および/またはROS抑制解除調節領域を意味する。いくつかの実施形態では、ROS応答性調節領域は、プロモーター配列を含む。各調節領域は、少なくとも1つの対応するROS感知転写因子に結合することができる。ROSを感知する転写因子ならびにそれらの対応するROS応答性遺伝子、プロモーターおよび/または調節領域の例は、表Bに示すものを含むが、それらに限定されない。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、少なくとも1つの活性酸素種を感知することができる転写因子に直接的または間接的に制御される調節可能な調節領域を含む。調節可能な調節領域は、ペイロードの発現を直接的または間接的に駆動することができる遺伝子または遺伝子カセットに作動可能に連結し、ひいてはROSレベルに対してペイロードの発現を制御する。例えば、調節可能な調節領域は、ROS誘導性調節領域であり、分子は、ペイロードであり、例えば、炎症組織にROSが存在する場合、ROS感知転写因子は、調節領域に結合し、かつ/または活性化し、ペイロードの遺伝子配列の発現を駆動し、それにより、ペイロードを生成する。その後、炎症が改善された場合、ROSレベルが低下し、ペイロードの産生が減少または消失する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、ROS誘導性調節領域であり、ROSの存在下で、転写因子は、ROSを感知し、ROS誘導性調節領域を活性化し、それにより、作動可能に連結した遺伝子または遺伝子カセットの発現を駆動する。いくつかの実施形態では、転写因子は、ROSを感知し、その後、ROS誘導性調節領域に結合し、それにより、下流の遺伝子発現を活性化する。代替実施形態では、転写因子をROSの非存在下でROS誘導性調節領域に結合させ、転写因子がROSを感知するとき、それは、立体配座の変化を受け、それにより、下流の遺伝子発現を誘導する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、ROS誘導性調節領域であり、ROSを感知する転写因子は、OxyRである。OxyRは、「過酸化物ストレス反応のグローバルな調節因子として主として機能し」、多くの遺伝子、例えば、「H2O2の解毒(katE、ahpCF)、ヘム生合成(hemH)、還元剤供給(grxA、gor、trxC)、チオール−ジスルフィド異性化(dsbG)、Fe−S中心修復(sufA−E、sufS)、鉄結合(yaaA)、鉄移入システムの抑制(fur)に関与する遺伝子」および「小調節RNAであるOxyS」(Dubbsら、2012年)を調節することができる。遺伝子操作細菌は、OxyRによって活性化される遺伝子の適切なROS応答性調節領域を含み得る。OxyRによる活性化を受けることができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Zhengら、2001年;Dubbsら、2012年参照)。特定の実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、遺伝子、例えば、ペイロード遺伝子に作動可能に連結するoxySのROS誘導性調節領域を含む。ROS、例えば、H2O2の存在下で、OxyR転写因子は、ROSを感知し、oxyS調節領域を活性化し、それにより、作動可能に連結したペイロード遺伝子の発現を駆動し、ペイロードを生成する。いくつかの実施形態では、OxyRは、大腸菌oxyR遺伝子によりコードされる。いくつかの実施形態では、oxyS調節領域は、大腸菌oxyS調節領域である。いくつかの実施形態では、ROS誘導性調節領域は、katG、dpsおよびahpCの調節領域から選択される。
代替実施形態では、調節可能な調節領域は、ROS誘導性調節領域であり、ROSを感知する対応する転写因子は、SoxRである。SoxRが「その[2Fe−2S]クラスターの酸化によって活性化される場合、それがSoxSの合成を増加させ、これがその標的遺伝子発現を活性化する」(Kooら、2003年)。「SoxRは、スーパーオキシドおよび酸化窒素に主として応答することが公知であり」(Kooら、2003年)、H2O2に応答することもできる。本発明の遺伝子操作細菌は、SoxRにより活性化される遺伝子の任意の適切なROS応答性調節領域を含み得る。SoxRによる活性化を受けることができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Kooら、2003年参照)。特定の実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、遺伝子、例えば、ペイロードに作動可能に連結しているsoxSのROS誘導性調節領域を含む。ROSの存在下で、SoxR転写因子は、ROSを感知し、soxS調節領域を活性化し、それにより、作動可能に連結したペイロード遺伝子の発現を駆動し、ペイロードを生成する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、ROS抑制解除調節領域であり、対応する転写因子の結合が下流の遺伝子発現を抑制するものであり、ROSの存在下では、転写因子は、調節領域にもはや結合せず、それにより、作動可能に連結した遺伝子または遺伝子カセットを活性化する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、ROS抑制解除調節領域であり、ROSを感知する転写因子は、OhrRである。OhrRは、「ohrAプロモーター部位と重複する逆方向反復DNA配列の対に結合し、それにより、転写イベントを抑制する」が、酸化OhrRは、「そのDNA標的に結合することが不可能である」(Duarteら、2010年)。OhrRは、「有機過酸化物およびNaOClの両方を感知する転写リプレッサーであり」(Dubbsら、2012年)、「H2O2により弱く活性化されるが、有機ヒドロペルオキシドに対するはるかにより高い反応性を示す」(Duarteら、2010年)。本発明の遺伝子操作細菌は、OhrRにより抑制される遺伝子の任意の適切なROS応答性調節領域を含み得る。OhrRによる抑制を受けることができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Dubbsら、2012年参照)。特定の実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、遺伝子または遺伝子カセット、例えば、ペイロード遺伝子に作動可能に連結されているohrAのROS抑制解除調節領域を含む。ROS、例えば、NaOClの存在下で、OhrR転写因子は、ROSを感知し、ohrA調節領域にもはや結合せず、それにより、作動可能に連結したペイロード遺伝子を活性化し、ペイロードを生成する。
OhrRは、ROS応答性調節因子のMarRファミリーのメンバーである。「MarRファミリーの大部分のメンバーは、転写リプレッサーであり、プロモーターにおける−10または−35領域にしばしば結合し、RNAポリメラーゼの結合の立体阻害をもたらす」(Bussmannら、2010年)。このファンリーの他のメンバーは、当技術分野で公知であり、OspR、MgrA、RosRおよびSarZを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、ROSを感知する転写因子は、OspR、MgRA、RosRおよび/またはSarZであり、本発明の遺伝子操作細菌は、OspR、MgRA、RosRおよび/またはSarZにより抑制される遺伝子の1つまたは複数の対応する調節領域配列を含む。OspR、MgRA、RosRおよび/またはSarZによる抑制を受けることができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Dubbsら、2012年参照)。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、ROS抑制解除調節領域であり、ROSを感知する対応する転写因子は、RosRである。RosRは、「共通配列TTGTTGAYRYRTCAACWAを有する18bp逆方向反復配列」に結合する「MarR型転写調節因子」であり、「酸化剤H2O2により可逆的に阻害される」(Bussmannら、2010年)。RosRは、「推定ポリイソプレノイド結合タンパク質(cg1322、rosRの上流で、異なる遺伝子)、感覚ヒスチジンキナーゼ(cgtS9)、Crp/FNRファミリーの推定転写調節因子(cg3291)、グルタチオンS−トランフェラーゼファミリーのタンパク質(cg1426)、2つの推定FMNレダクターゼ(cg1150およびcg1850)ならびに4つの推定モノオキシゲナーゼ(cg0823、cg1848、cg2329およびcg3084)」を含むが、これらに限定されない、多くの遺伝子および推定遺伝子を抑制することができる(Bussmannら、2010年)。本発明の遺伝子操作細菌は、RosRにより抑制される遺伝子の任意の適切なROS応答性調節領域を含み得る。RosRによる抑制を受けることができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Bussmannら、2010年参照)。特定の実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、遺伝子または遺伝子カセット、例えば、ペイロードに作動可能に連結されているcgtS9のROS抑制解除調節領域を含む。ROS、例えば、H2O2の存在下で、RosR転写因子は、ROSを感知し、cgtS9調節領域にもはや結合せず、それにより、作動可能に連結したペイロード遺伝子を活性化し、ペイロードを生成する。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌が、細菌におけるかなりの数の天然遺伝子の発現を調節しないROS感知転写因子を発現することは、有利である。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、転写因子が本発明の遺伝子操作細菌における調節配列に結合しない、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するROS感知転写因子を発現する。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、大腸菌であり、ROS感知転写因子は、例えば、コリネバクテリウム・グルタミクムに由来するRosRであり、大腸菌は、前記RosRに対する結合部位を含まない。いくつかの実施形態では、異種転写因子は、遺伝子操作細菌における内因性調節領域および遺伝子に対するオフターゲット効果を最小限にまたは排除する。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、ROS抑制性調節領域であり、対応する転写因子の結合が下流の遺伝子発現を抑制するものであり、ROSの存在下では、転写因子は、ROSを感知し、ROS抑制性調節領域に結合し、それにより、作動可能に連結した遺伝子または遺伝子カセットの発現を抑制する。いくつかの実施形態では、ROS感知転写因子は、プロモーター配列の一部と重複する調節領域に結合することができる。代替実施形態では、ROS感知転写因子は、プロモーター配列の上流または下流である調節領域に結合することができる。
いくつかの実施形態では、調節可能な調節領域は、ROS抑制解除調節領域であり、ROSを感知する転写因子は、PerRである。枯草菌では、PerRは、「DNAに結合した場合、酸化ストレス応答(katA、ahpCおよびmrgA)、金属恒常性(hemAXCDBL、furおよびzoaA)ならびにそれ自体の合成(perR)に関与するタンパク質をコードする遺伝子を抑制する」(Marinhoら、2014年)。PerRは、「主としてH2O2に応答するグローバルな調節因子であり」(Dubbsら、2012年)、「PerR制御遺伝子のプロモーター配列内および近くに存在する特定の回文構造共通配列(TTATAATNATTATAA)である、perボックスにおけるDNAと相互作用する」(Marinhoら、2014年)。PerRは、「プロモーターの一部と重複するかまたはそのすぐ下流にある」調節領域に結合することができる(Dubbsら、2012年)。本発明の遺伝子操作細菌は、PerRにより抑制される遺伝子の任意の適切なROS応答性調節領域を含み得る。PerRによる抑制を受けることができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Dubbsら、2012年参照)。
これらの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ペイロードを発現するために用いられる、2つのリプレッサー活性化調節回路を含み得る。2つのリプレッサー活性化調節回路は、第1のROS感知リプレッサー、例えば、PerR、および第2のリプレッサー、例えば、遺伝子または遺伝子カセット、例えば、ペイロードに作動可能に連結されている、TetRを含む。これらの実施形態の一態様では、ROS感知リプレッサーは、遺伝子または遺伝子カセットの転写を抑制する、第2のリプレッサーの転写を抑制する。これらの実施形態において有用な第2のリプレッサーの例は、TetR、C1およびLexAを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、ROS感知リプレッサーは、PerRである。いくつかの実施形態では、第2のリプレッサーは、TetRである。この実施形態では、PerR抑制性調節領域は、TetRの発現を駆動し、TetR抑制性調節領域は、遺伝子または遺伝子カセット、例えば、ペイロードの発現を駆動する。PerR結合の非存在(ROSの非存在下で起こる)下では、tetRが転写され、TetRが遺伝子または遺伝子カセット、例えば、ペイロードの発現を抑制する。PerR結合の存在(ROSの存在下で起こる)下では、tetRの発現が抑制され、遺伝子または遺伝子カセット、例えば、ペイロードが発現する。
ROS応答性転写因子は、遺伝子操作細菌において用いられる調節領域配列によって遺伝子発現を誘導、活性化または抑制し得る。例えば、「OxyRは、酸化条件下では主として転写活性化因子として考えられているが、OxyRは、酸化および還元の両条件下でリプレッサーまたは活性化因子として機能することができ」(Dubbsら、2012年)、OxyRは、「それ自体のリプレッサーならびにfhuF(第二鉄イオンレダクターゼをコードする)およびflu(抗原43外膜タンパク質をコードする)のそれであることが示された」(Zhengら、2001年)。本発明の遺伝子操作細菌は、OxyRにより抑制される遺伝子の任意の適切なROS応答性調節領域を含み得る。いくつかの実施形態では、OxyRは、上述のように、2つのリプレッサー活性化調節回路に用いられる。OxyRによる抑制を受けることができる遺伝子は、当技術分野で公知である(例えば、Zhengら、2001年参照)。または、例えば、RosRは、多くの遺伝子を抑制することができるが、それは、特定の遺伝子、例えば、narKGHJIオペロンを活性化することもできる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、RosRにより活性化される遺伝子の任意の適切なROS応答性調節領域を含む。さらに、「PerR媒介性の正の調節も認められ、遠隔上流部位へのPerRの結合に関係すると思われる」(Dubbsら、2012年)。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、PerRにより活性化される遺伝子の任意の適切なROS応答性調節領域を含む。
1つまたは複数の種類のROS感知転写因子および対応する調節領域配列が遺伝子操作細菌に存在し得る。例えば、「OhrRは、グラム陽性およびグラム陰性細菌に認められ、OxyRもしくはPerRまたは両方と共存し得る」Dubbsら、2012年)。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、1種類のROS感知転写因子、例えば、OxyR、および例えば、oxySに由来する1つの対応する調節領域配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、1種類のROS感知転写因子、例えば、OxyR、ならびに例えば、oxySおよびkatGに由来する2つまたはそれ以上の異なる対応する調節領域配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、2またはそれ以上の種類のROS感知転写因子、例えば、OxyRおよびPerR、ならびに例えば、oxySおよびkatAに由来する2つまたはそれ以上の対応する調節領域配列を含む。1つのROS応答性調節領域は、複数の転写因子に結合し得る。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、2またはそれ以上の種類のROS感知転写因子、および1つの対応する調節領域配列を含む。
いくつかの例示的なOxyRにより調節される調節領域の核酸配列を表Cに示す。OxyR結合部位は、下線付きの太字である。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号63、64、65もしくは66のDNA配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、ROS感知転写因子をコードする遺伝子、例えば、その天然プロモーターにより制御されるoxyR遺伝子、誘導性プロモーター、天然プロモーターより強いプロモーター、例えば、GlnRSプロモーターもしくはP(Bla)プロモーター、または構成的プロモーターを含む。いくつかの例では、発現安定性を向上させるために誘導性プロモーターの制御下のROS感知転写因子を発現させることは、有利であり得る。いくつかの実施形態では、ROS感知転写因子の発現は、治療用分子の発現を制御するプロモーターと異なるプロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、ROS感知転写因子の発現は、治療用分子の発現を制御する同じプロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、ROS感知転写調節因子および治療用分子は、プロモーター領域から分岐して転写される。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するROS感知転写因子の遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するROS応答性調節領域を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌の異なる種、菌株または亜菌株に由来するROS感知転写因子および対応するROS応答性調節領域を含む。異種ROS感知転写因子および調節領域は、同じ条件下の同じ亜型の細菌に由来する天然転写因子および調節領域と比較して、ROSの存在下で前記調節領域に作動可能に連結した遺伝子の転写を増加させ得る。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ROS感知転写因子OxyR、および大腸菌に由来する対応する調節領域oxySを含む。いくつかの実施形態では、天然ROS感知転写因子、例えば、OxyRは、完全なままであり、野生型活性を保持している。代替実施形態では、天然ROS感知転写因子、例えば、OxyRは、野生型活性を低減または消失させるために欠失または突然変異させる。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、ROS感知転写因子をコードする内因性遺伝子、例えば、oxyR遺伝子の複数のコピーを含む。いくつかの実施形態では、ROS感知転写因子をコードする遺伝子は、プラスミド上に存在する。いくつかの実施形態では、ROS感知転写因子をコードする遺伝子および治療用分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、異なるプラスミド上に存在する。いくつかの実施形態では、ROS感知転写因子をコードする遺伝子および治療用分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、同じプラスミド上に存在する。いくつかの実施形態では、ROS感知転写因子をコードする遺伝子は、染色体上に存在する。いくつかの実施形態では、ROS感知転写因子をコードする遺伝子および治療用分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、異なる染色体上に存在する。いくつかの実施形態では、ROS感知転写因子をコードする遺伝子および治療用分子を産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、同じ染色体上に存在する。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ROS感知転写因子をコードする野生型遺伝子、例えば、soxR遺伝子、同じ亜型の細菌の野生型調節領域と比べて突然変異している、対応する調節領域、例えば、soxS調節領域を含む。突然変異調節領域は、同じ条件下の野生型調節領域と比較して、ROSの存在下でペイロードの発現を増加させる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、野生型ROS応答性調節領域、例えば、oxyS調節領域、および同じ亜型の細菌の野生型転写因子と比べて突然変異している、対応する転写因子、例えば、OxyRを含む。突然変異転写因子は、同じ条件下の野生型転写因子と比較して、ROSの存在下でペイロードの発現を増加させる。いくつかの実施形態では、ROSの存在下でのペイロードの発現を増加させるために、ROS感知転写因子および対応する調節領域の両方を同じ亜型の細菌の野生型配列と比べて突然変異させる。
いくつかの実施形態では、ペイロードを産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、プラスミド上に存在し、ROSにより誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、ペイロードを産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、染色体上に存在し、ROSにより誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、ペイロードを産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、染色体上に存在し、テトラサイクリンへの曝露により誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、ペイロードを産生するための遺伝子または遺伝子カセットは、プラスミド上に存在し、テトラサイクリンへの曝露により誘導されるプロモーターに作動可能に連結する。いくつかの実施形態では、当技術分野で公知の方法により、例えば、リボソーム結合部位を最適化し、転写調節因子を操作し、かつ/またはmRNAの安定性を増大させることにより、発現をさらに最適化する。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ペイロード(複数可)を産生することができる遺伝子(複数可)の複数のコピーを含み得る。いくつかの実施形態では、ペイロード(複数可)を産生することができる遺伝子(複数可)は、プラスミド上に存在し、ROS応答性調節領域に作動可能に連結している。いくつかの実施形態では、ペイロードを産生することができる遺伝子(複数可)は、染色体上に存在し、ROS応答性調節領域に作動可能に連結している。
このように、いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌または遺伝子操作ウイルスは、酸素レベル依存性プロモーター、活性酸素種(ROS)依存性プロモーターまたは活性窒素種(RNS)依存性プロモーターおよび対応する転写因子の制御下で1つまたは複数のペイロードを産生する。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、ペイロードを宿主細胞中で発現させることができ、宿主細胞がin vitroで、例えば、培地中で、かつ/またはin vivoで生存し、かつ/または増殖することができるように、ペイロードを産生するための遺伝子を有する安定に維持されたプラスミドまたは染色体を含む。いくつかの実施形態では、細菌は、ペイロードをコードする遺伝子の複数のコピーを含み得る。いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝子を低コピープラスミド上で発現させる。いくつかの実施形態では、低コピープラスミドは、発現の安定性を増大させるのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、低コピープラスミドは、非誘導性条件下で漏出性発現を減少させるのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝子を高コピープラスミド上で発現させる。いくつかの実施形態では、高コピープラスミドは、ペイロードの発現を増加させるのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、ペイロードをコードする遺伝子を染色体上で発現させる。
いくつかの実施形態では、細菌に、複数の作用機構(MOAs)、例えば、同じ産物の複数のコピーを産生する回路(例えば、コピー数を増加させるため)または複数の異なる機能を果たす回路を含むように遺伝子操作を施す。例えば、遺伝子操作細菌は、4つの異なる挿入部位に挿入された特定のペイロードをコードする遺伝子の4つのコピーを含み得る。あるいは、遺伝子操作細菌は、3つの異なる挿入部位に挿入された特定のペイロードをコードする遺伝子の3つのコピーおよび3つの異なる挿入部位に挿入された異なるペイロードをコードする遺伝子の3つのコピーを含み得る。
いくつかの実施形態では、ペイロードが発現する条件下で、本開示の遺伝子操作細菌は、同じ条件下の同じ亜型の非改変細菌と比較して少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、少なくとも約500倍、少なくとも約600倍、少なくとも約700倍、少なくとも約800倍、少なくとも約900倍、少なくとも約1000倍、または少なくとも約1500倍のペイロード、および/またはオペロンにおける遺伝子(複数可)の転写物を産生する。
いくつかの実施形態では、定量的PCR(qPCR)を用いて、ペイロード遺伝子(複数可)のmRNA発現レベルを増幅し、検出し、かつ/または定量する。ペイロード遺伝子(複数可)に固有のプライマーは、当技術分野で公知の方法により設計し、試料中のmRNAを検出するために用いることができる。いくつかの実施形態では、ペイロードmRNAを含む可能性がある試料反応混合物に発蛍光団を加え、サーマルサイクラーを用いて、試料反応混合物に特定の波長の光を照射し、その後の発蛍光団による発光を検出する。反応混合物を所定の温度に所定の時間にわたり加熱し、冷却する。特定の実施形態では、加熱および冷却を所定のサイクル数繰り返す。いくつかの実施形態では、反応混合物を90〜100℃、60〜70℃および30〜50℃に所定のサイクル回数にわたり加熱し、冷却する。特定の実施形態では、反応混合物を93〜97℃、55〜65℃および35〜45℃に所定のサイクル回数にわたり加熱し、冷却する。いくつかの実施形態では、蓄積しつつあるアンプリコンをqPCRの各サイクルの後に定量する。蛍光が閾値を超えるサイクルの数は、閾値サイクル(CT)である。各試料について少なくとも1つのCT結果を発生させ、CT結果(複数可)を用いて、ペイロード遺伝子(複数可)のmRNA発現レベルを決定することができる。
いくつかの実施形態では、定量的PCR(qPCR)を用いて、ペイロード遺伝子(複数可)のmRNA発現レベルを増幅し、検出し、かつ/または定量する。ペイロード遺伝子(複数可)に固有のプライマーは、当技術分野で公知の方法により設計し、試料中のmRNAを検出するために用いることができる。いくつかの実施形態では、ペイロードmRNAを含む可能性がある試料反応混合物に発蛍光団を加え、サーマルサイクラーを用いて、試料反応混合物に特定の波長の光を照射し、その後の発蛍光団による発光を検出する。反応混合物を所定の温度に所定の時間にわたり加熱し、冷却する。特定の実施形態では、加熱および冷却を所定のサイクル数繰り返す。いくつかの実施形態では、反応混合物を90〜100℃、60〜70℃および30〜50℃に所定のサイクル回数にわたり加熱し、冷却する。特定の実施形態では、反応混合物を93〜97℃、55〜65℃および35〜45℃に所定のサイクル回数にわたり加熱し、冷却する。いくつかの実施形態では、蓄積しつつあるアンプリコンをqPCRの各サイクルの後に定量する。蛍光が閾値を超えるサイクルの数は、閾値サイクル(CT)である。各試料について少なくとも1つのCT結果を発生させ、CT結果(複数可)を用いて、ペイロード遺伝子(複数可)のmRNA発現レベルを決定することができる。
複数の作用機構
いくつかの実施形態では、細菌に、複数の作用機構(MOAs)、例えば、同じ産物の複数のコピーを産生する回路または複数の異なる機能を果たす回路を含むように遺伝子操作を施す。挿入部位の例は、malE/K、insB/I、araC/BAD、lacZ、dapA、ceaおよび図18に示すその他を含むが、これらに限定されない。例えば、遺伝子操作細菌は、4つの異なる挿入部位、例えば、malE/K、insB/I、araC/BADおよびlacZに挿入されたargAfbrの4つのコピーを含み得る。あるいは、遺伝子操作細菌は、3つの異なる挿入部位、例えば、malE/K、insB/IおよびlacZに挿入されたargAfbrの3つのコピーならびに3つの異なる挿入部位dapA、ceaおよびaraC/BADに挿入された、3つの突然変異アルギニンレギュロン、例えば、シトルリンを産生する2つおよびアルギニンを産生する1つを含み得る。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、1つまたは複数の異なる挿入部位に挿入された1つまたは複数のアンモニア変換回路および1つまたは複数の他の挿入部位に挿入された1つまたは複数の追加の回路を含み得る。例えば、遺伝子操作細菌は、1つもしくは複数の異なる挿入部位に挿入されたargAfbrの1つもしくは複数のコピー(および/または他のアンモニア変換回路(複数可))、ならびに他の挿入部位における1つもしくは複数の消化管バリア増強回路、例えば、1つもしくは複数の酪酸産生回路(または他の消化管バリア増強回路(複数可)を含み得る。他の例示的実施形態では、遺伝子操作細菌は、1つもしくは複数の異なる挿入部位に挿入されたargAfbrの1つもしくは複数のコピー(および/または他のアンモニア変換回路(複数可))、ならびに他の挿入部位に挿入された、1つもしくは複数のGABA低減回路、例えば、GABA輸送および/またはGABA代謝回路(複数可)を含み得る。他の例示的実施形態では、遺伝子操作細菌は、1つもしくは複数の異なる挿入部位に挿入されたargAfbrの1つもしくは複数のコピー(および/または他のアンモニア変換回路(複数可))、ならびに他の挿入部位に挿入された1つもしくは複数のマンガン輸送回路(図47A)を含み得る。いくつかの実施形態では、1つもしくは複数のアンモニア変換回路(例えば、argAfbrおよび/または他のアンモニア変換回路(複数可))、1つもしくは複数の消化管バリア増強回路(例えば、酪酸、プロピオン酸、酢酸生合成回路(複数可))、1つもしくは複数のGABA低減回路(例えば、GABA輸送および/またはGABA代謝回路)、ならびに1つもしくは複数のマンガン輸送回路が4つまたはそれ以上の異なる染色体挿入部位に挿入されている(例えば、図45)。いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路、消化管バリア増強回路、GABA輸送および/またはGABA代謝回路が3つの異なる染色体挿入部位に挿入されている。いくつかの実施形態では、アンモニア変換回路、GABA輸送/GABA代謝回路およびマンガン輸送回路が3つの異なる染色体挿入部位に挿入されている(図46B)。他の実施形態では、アンモニア変換回路およびマンガン輸送回路が2つの異なる染色体挿入部位に挿入されている(図47A)。他の実施形態では、アンモニア変換回路、ならびにGABA輸送および/またはGABA代謝回路が2つの異なる染色体挿入部位に挿入されている。さらに他の実施形態では、アンモニア変換回路および消化管バリア増強回路が2つの異なる染色体挿入部位に挿入されている。さらに他の実施形態では、アンモニア変換回路およびマンガン低減回路が2つの異なる染色体挿入部位に挿入されている。
表14に本開示の実施形態の非限定的な例を示す。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌による酪酸の産生は、さらなる改変によってさらに向上させることができる。嫌気的条件下の酪酸の産生は、内因性NADHプールに依存する。いくつかの実施形態では、酪酸経路を経るフラックスは、NADHの利用の競合経路を除去することによって増加させることができる。非限定的な例は、NADHを利用して、ホスホエノールピルビン酸のコハク酸への変換を触媒する、frdAの突然変異/欠失である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子操作細菌のいずれかは、NADHの利用の競合経路を除去する、突然変異、例えば、frdAの突然変異/欠失をさらに含む。
分泌
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌細胞質から、目的のタンパク質(複数可)または治療用タンパク質(複数可)を分泌することができる天然分泌機構(例えば、グラム陽性細菌)または非天然分泌機構(例えば、グラム陰性細菌)をさらに含む。多くの細菌が細菌細胞外被を越えて基質を輸送する高機能の分泌システムを発達させた。小分子、タンパク質およびDNAのような、基質は、細胞外腔もしくはペリプラズム(消化管内腔もしくは他の腔など)中に放出し、標的細胞中に注入し、または細菌膜に結合させることができる。
グラム陰性細菌では、分泌機構は、内および外膜の1つまたは両方にわたり得る。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、非天然二重膜スパンニング分泌システムをさらに含む。二重膜スパンニング分泌システムは、I型分泌システム(T1SS)、II型分泌システム(T2SS)、III型分泌システム(T3SS)、IV型分泌システム(T4SS)、VI型分泌システム(T6SS)およびレジスタンス−ノジュレーション−ディビジョン(RND)多剤排出ポンプのファミリーを含むが、これらに限定されない(Pugsley、1993年;Gerlachら、2007年;Collinsonら、2015年;Costaら、2015年;Reevesら、2015年;国際公開第2014138324号A1、参照により本明細書に組み込まれる)。そのような分泌システムの例を図69〜73に示す。グラム陰性様細胞外被を有する、マイコバクテリアもVII型分泌システム(T7SS)をコードし得る(Stanleyら、2003年)。T2SSを除いて二重膜スパンニング分泌は、一般的に基質を細菌細胞質から細胞外腔または標的細胞内に直接的に輸送する。対照的に、T2SSおよび外膜のみに及ぶ分泌システムは、2ステップ機構を使用し得るものであり、基質は、最初に内膜スパンニング輸送体によってペリプラズムに転位させられ、次に外膜に運ばれるかまたは細胞外腔に分泌される。外膜スパンニング分泌システムは、V型分泌または自己輸送システム(T5SS)、カーリー(curli)分泌システムおよび線毛アセンブリのシャペロン−アッシャー経路を含むが、これらに限定されない(Saier、2006年;Costaら、2015年)。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、赤痢菌属、サルモネラ属、大腸菌属、ビブリオ属(Bivrio)、バークホルデリア属(Burkholderia)エルシニア属(Yersinia)、クラミジア属(Chlamydia)またはシュードモナス属(Pseudomonas)に由来するIII型またはIII型様分泌システム(T3SS)をさらに含む。T3SSは、ニードル複合体を介して細菌細胞質から宿主細胞質にタンパク質を輸送することができる。T3SSは、細菌細胞質から分子を分泌するが、宿主細胞質に分子を注入しないように、改変することができる。したがって、分子は、消化管内腔または他の細胞外腔に分泌される。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、前記改変T3SSを含み、細菌細胞質から目的のタンパク質(複数可)または治療用タンパク質(複数可)を分泌することができる。いくつかの実施形態では、異種タンパク質もしくはペプチド、例えば、目的のタンパク質または治療用タンパク質などの、分泌分子は、目的のタンパク質(複数可)または治療用タンパク質(複数可)が細菌から分泌されることを可能にするIII型分泌配列を含む。
いくつかの実施形態では、鞭毛III型分泌経路を用いて、目的の分子を分泌する。いくつかの実施形態では、ペプチドを天然鞭毛成分のN末端鞭毛分泌シグナルに組換えにより融合させることにより、不完全鞭毛を用いて、目的の治療用ペプチドを分泌する。この方法で、細胞内で発現したキメラペプチドを内および外膜を越えて周囲宿主環境中に移動させることができる。
いくつかの実施形態では、V型自己輸送体分泌システム(Type V Autotransporter Secretion System)を用いて、治療用ペプチドを分泌する。このマシナリーの単純さおよび比較的に大きなタンパク質フラックスを扱う能力のため、V型分泌システムは、組換えタンパク質の細胞外産生に魅力的である。図70に示すように、治療用ペプチド(星)をN末端分泌シグナル、リンカーおよび自己輸送体のベータドメインに融合させることができる。N末端シグナル配列は、タンパク質を内膜を越えてペリプラズム内に移動させるSecA−YEGマシナリーにタンパク質を導き、その後、シグナル配列の切断が起こる。ベータドメインは、Bam複合体(「ベータ−バレルアセンブリマシナリー」)に動員され、そこでベータドメインが折りたたまれ、ベータ−バレル構造として外膜に挿入される。治療用ペプチドは、リンカー配列の前にベータ−バレル構造の中空孔を通り抜ける。細胞外環境に曝露したならば、治療用ペプチドは、自触媒切断(Bam複合体の左側)によってまたはリンカーにおける相補的プロテアーゼ切断部位への膜結合ペプチド(黒いハサミ;Bam複合体の右側)の標的化によってリンカーシステムから解放される。このように、いくつかの実施形態では、異種タンパク質もしくはペプチド、例えば、目的のタンパク質または治療用タンパク質などの、分泌分子は、分子が細菌から分泌されるようにN末端分泌シグナル、リンカーおよび自己輸送体のベータドメインを含む。
いくつかの実施形態では、ヘモリシンに基づく分泌システムを用いて、目的の分子を分泌する。I型分泌システムは、それらのパッセンジャーペプチドを細胞質から細胞外腔に直接に移動させ、他の分泌の種類の2ステップ工程が不要となるという利点がある。図71に尿路病原性大腸菌のアルファ−ヘモリシン(HlyA)を示す。この経路は、ATP結合カセット輸送体である、HlyB;膜融合タンパク質である、HlyD;および外膜タンパク質である、TolCを用いる。これらの3つのタンパク質の集合により、内および外膜の両方を通るチャンネルが形成される。天然では、このチャンネルは、HlyAを分泌するために用いられるが、本開示の治療用ペプチドを分泌するために、HlyAの分泌シグナル含有C末端部分を治療用ペプチド(星)のC末端部分に融合させて、このペプチドの分泌を媒介する。
代替実施形態では、遺伝子操作細菌は、非天然単一膜スパンニング分泌システムをさらに含む。単一膜スパンニング輸出体は、分泌システムの構成要素としての役割を果たすか、または基質を独立して輸出し得る。そのような輸出体は、ATP結合カセットトランスロカーゼ、鞭毛/ビルレンス関連トランスロカーゼ、コンジュゲーション関連トランスロカーゼ、一般的分泌システム(例えば、大腸菌におけるSecYEG複合体)、マイコバクテリアおよびいくつかの種類のグラム陽性細菌(例えば、バシラス・アントラシス(Bacillus anthracis)、ラクトバシラス・ジョンソニイ、コリネバクテリウム・グルタミクム、ストレプトコッカス・ゴルドニイ(Streptococcus gordonii)、黄色ブドウ球菌における付属分泌システム、およびツイン−アルギニン転位(TAT)システムを含むが、これらに限定されない(Saier、2006年;RigelおよびBraunstein、2008年;Albiniakら、2013年)。一般的分泌およびTATシステムは、両方が切断可能なN末端シグナルペプチドを用いて基質をペリプラズム内に輸出し得ることが公知であり、生物医薬の製造に関連して探究された。しかし、TATシステムは、とりわけ折りたたまれた基質を輸送することができ、それにより早発または不正折りたたみの可能性が解消される点で優位である。特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、TATまたはTAT様システムを含み、細菌細胞質から目的のタンパク質(複数可)または治療用タンパク質(複数可)を分泌することができる。当業者は、本明細書で開示した分泌システムは、細菌の種々の種、菌株および亜型において機能を発揮するように改変し、かつ/または種々のペイロードを送出するように構成することができることを理解するであろう。
タンパク質、例えば、治療用ポリペプチドを細胞外腔に移動させるために、ポリペプチドは、最初に細胞内で移動させ、内膜を越えて移動させ、最後に外膜を越えて移動させなければならない。多くのエフェクタータンパク質(例えば、治療用ポリペプチド)−とりわけ真核生物由来のもの−は、3次および4次構造を安定化するためにジスルフィド結合を含む。これらの結合は、酸化ペリプラズムコンパートメント内でペリプラズムシャペロンの助けにより正しく形成することができるが、ポリペプチドを外膜を越えて移動させるために、ジスルフィド結合を還元し、タンパク質を再び広げなければならない。
グラム陰性細菌−とりわけジスルフィド結合を必要とするもの−における適切に折りたたまれたタンパク質を分泌する1つの方法は、不安定な外膜を有する細菌におけるペリプラズムを標的にすることである。この方法により、タンパク質を酸化環境中に移動させ、適切に折りたたませる。調和のとれた細胞外分泌システムと対照的に、タンパク質は、膜の漏れによって正しく折りたたまれた形態でペリプラズム腔を脱出することができる。したがって、これらの「漏出性」グラム陰性突然変異体は、生物活性の、適切にジスルフィド結合したポリペプチドを分泌することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、「漏出性」または不安定な外膜を有する。漏れをもたらすために細菌の外膜を不安定にすることは、例えば、lpp、ompC、ompA、ompF、tolA、tolB、pal、degS、degPおよびnlplを含む、外膜を強固なペプチドグリカン骨格につなぎ留めることに関与する遺伝子を欠失または突然変異を起こさせることによって達成することができる。Lppは、細胞当たり約500,000コピーで存在する細菌細胞中の最も豊富なポリペプチドであり、ペプチドグリカンへの細菌細胞壁の主要な「ステープル」として機能する(Silhavy T. J.、Kahne D.およびWalker S.The bacterial cell envelope. Cold Spring Harb Perspect Biol 2、 a000414 (2010年))。TolA−PALおよびOmpA複合体は、Lppと同様に機能し、漏出性表現型を得るための他の欠失標的である。さらに、漏出性表現型は、ペリプラズムプロテアーゼが不活性化した場合に認められた。ペリプラズムは、タンパク質とともに非常に密に充填されており、したがって、いくつかのペリプラズムタンパク質をコードして、タンパク質のターンオーバーを促進する。degS、degPまたはnlpIのようなペリプラズムプロテアーゼを除去することにより、ペリプラズムタンパク質の過剰な蓄積が促進されて、漏出性表現型がもたらされ得る。プロテアーゼの突然変異によっても、これらのプロテアーゼによる標的化分解が妨げられることによりエフェクターポリペプチドを保存することができる。さらに、これらの突然変異の組合せにより、細胞の生存の重大な犠牲を伴わずに細胞の漏出性表現型が相乗的に高められる可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、操作細菌は、1つもしくは複数の欠失または突然変異膜遺伝子を有する。いくつかの実施形態では、操作細菌は、欠失または突然変異lpp膜遺伝子を有する。いくつかの実施形態では、操作細菌は、ompC、ompAおよびompF遺伝子から選択される1つもしくは複数の欠失または突然変異遺伝子(複数可)を有する。いくつかの実施形態では、操作細菌は、tolA、tolBおよびpal遺伝子から選択される1つもしくは複数の欠失または突然変異遺伝子を有する。いくつかの実施形態では、操作細菌は、1つもしくは複数の欠失または突然変異ペリプラズムプロテアーゼ遺伝子を有する。いくつかの実施形態では、操作細菌は、degS、degPおよびnlplから選択される1つもしくは複数の欠失または突然変異ペリプラズムプロテアーゼ遺伝子を有する。いくつかの実施形態では、操作細菌は、lpp、ompC、ompA、ompF、tolA、tolB、pal、degS、degPおよびnlpl遺伝子から選択される1つもしくは複数の欠失または突然変異遺伝子を有する。
細胞の生存への擾乱を最小限にするために、例えば、lpp、ompC、ompA、ompF、tolA、tolB、pal、degS、degPおよびnlplから選択される1つもしくは複数の膜またはペリプラズムプロテアーゼ遺伝子を誘導性プロモーターの制御下におくことによって漏出性表現型を誘導性にすることができる。例えば、治療用ポリペプチドを送出(分泌)させる必要がある状態においてlppまたは他の細胞壁安定タンパク質またはペリプラズムプロテアーゼの発現を抑制することができる。例えば、誘導性条件下で、標的膜またはペリプラズムプロテアーゼ遺伝子の転写または翻訳を低減する転写リプレッサータンパク質または設計アンチセンスRNAを発現させることができる。逆に、特定のペプチドの過剰発現、例えば、コリシンまたはTolAの第3のトポロジードメインの過剰発現は、表現型の不安定化をもたらし得るものであり、治療用ポリペプチドを送出(分泌)させる必要がある状態においてペプチドの過剰発現を誘導することができる。これらの戦略の選別は、脆弱、漏出性表現型をバイオマス産生から切り離すものである。したがって、いくつかの実施形態では、操作細菌は、誘導性プロモーターの制御下の1つもしくは複数の膜および/またはペリプラズムプロテアーゼ遺伝子を有する。
表15および表16にグラム陽性細菌およびグラム陰性細菌の分泌システムを示す。これらは、操作細菌から目的のポリペプチド、タンパク質または治療用タンパク質(複数可)を分泌させるために用いることができ、これらは、その内容がその全体として参照により本明細書に組み込まれる、Milton H. Saier、Jr. Microbe/1巻、1号、2006年、「Protein Secretion Systems in Gram−Negative Bacteria Gram−negative bacteria possess many protein secretion−membrane insertion systems that apparently evolved independently」に総説されている。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、治療用酵素の分泌のための本明細書に記載の天然または非天然分泌システムを含む。いくつかの実施形態では、分泌システムは、改変III型鞭毛、I型(例えば、ヘモリシン分泌システム)、II型、IV型、V型、VI型およびVII型分泌システム、レジスタンス−ノジュレーション−ディビジョン(RND)多剤排出ポンプ、単一膜分泌システム、SecおよびTAT分泌システムから選択される。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌により分泌される治療用タンパク質は、プロテアーゼ、例えば、腸プロテアーゼに対する抵抗性を増大させるように改変する。
いくつかの実施形態では、分泌のための1つもしくは複数の目的のタンパク質または治療用タンパク質は、本明細書に記載の通り、誘導性プロモーターの制御下にある。一例では、1つもしくは複数の目的のタンパク質または治療用タンパク質は、FNRプロモーターの制御下にあり、嫌気的条件下で産生され、分泌される。いくつかの実施形態では、分泌のための1つもしくは複数の目的のタンパク質または治療用タンパク質は、構成的プロモーターの制御下にある。
1つもしくは複数の目的のタンパク質または治療用タンパク質が微生物から分泌または輸出される、いくつかの実施形態では、操作微生物は、分泌タグを含む遺伝子配列(複数可)を含む。いくつかの実施形態では、1つもしくは複数の目的のタンパク質または治療用タンパク質は、1つもしくは複数の目的のタンパク質または治療用タンパク質を特定の分泌システムに導くためのRNAまたはペプチド由来の「分泌タグ」を含む。例えば、I型ヘモリシン分泌システムの分泌タグは、アルファヘモリシンタンパク質(HlyA)のC末端53アミノ酸、HlyA分泌シグナルにコードされる。
HlyBが内膜に挿入して、孔を形成し、HlyDがHlyBをTolC(外膜孔)と一直線に並べ、それにより内および外膜を通るチャンネルを形成する。C末端分泌タグを自触媒またはプロテアーゼ触媒、例えば、OmpT切断により除去し、それにより、1つもしくは複数の目的のタンパク質または治療用タンパク質を細胞外環境中に放出することができる。
V型自己分泌システムは、N末端Sec依存性ペプチドタグ(内膜)およびC末端タグ(外膜)を利用する。これは、Secシステムを用いて、細胞質からペリプラズムに移動する。C末端タグは、外膜に挿入して、「パッセンジャー」タンパク質が通る孔を形成する。外膜を越えたならば、パッセンジャー(抗癌分子)は、自触媒、インテイン様機構によりまたは膜結合プロテアーゼ(すなわち、OmpT)により膜埋込みC末端タグから放出される。N末端タグは、Secシステムにより除去される。したがって、いくつかの実施形態では、分泌システムは、1つもしくは複数の目的のタンパク質または治療用タンパク質を操作細菌から分泌する前にこのタグを除去することができる。V型自己分泌媒介分泌では、N末端ペプチド分泌タグは、天然Secシステムによる細胞質からペリプラズムコンパートメントへの「パッセンジャーペプチド」の転位時に除去される。さらに、自己分泌型が外膜を越えて転位したならば、C末端分泌タグは、自触媒またはプロテアーゼ触媒、例えば、OmpT切断により除去し、それにより抗癌分子(複数可)を細胞外環境中に放出させることができる。
鞭毛改変III型分泌では、タグは、mRNAの5’非翻訳領域にコードされ、したがって、切断/除去すべきペプチドタグが存在しない。この改変システムは、「シリンジ」部分を含まず、その代わりに両膜を越え、形成鞭毛から出るための孔として鞭毛構造の基底小体を使用する。fliC/fliD遺伝子(鞭毛「尾」/むちをコードする)が破壊される場合、鞭毛が十分に形成し得ず、これが全体的な分泌を促進する。いくつかの実施形態では、尾部を完全に除去することができる。III型の伝統的なシステムでは、基底小体は、鞭毛に極めて類似しているが、「尾」/むちの代わりに伝統的なT3SSは、パッセンジャータンパク質を宿主細胞に注射するためのシリンジを有する。分泌タグは、N末端ペプチドによりコードされる(長さが変化し、いくつかの異なるタグが存在する、PCT/US14/020972参照)。N末端タグは、この分泌システムにおけるポリペプチドから除去されない。
いくつかの実施形態では、1つもしくは複数の目的のタンパク質または治療用タンパク質は、大腸菌CFT073のアルファ−ヘモリシン(hlyA)のC末端の53アミノ酸を含む融合タンパク質として発現する(タグ)を含む(C末端分泌タグ)。
必須遺伝子および栄養要求体
本明細書で使用する場合、「必須遺伝子」という語は、細胞の増殖および/または生存に必要な遺伝子を意味する。細菌必須遺伝子は、当業者に周知であり、遺伝子の特異的欠失および/またはランダム突然変異誘発ならびにスクリーニングによって同定することができる(例えば、それぞれの全体の内容が参照により本明細書に明確に組み込まれる、Zhangおよび Lin、2009年、DEG 5.0、a database of essential genes in both prokaryotes and eukaryotes、Nucl. Acids Res.、37巻:D455〜D458頁ならびにGerdesら、Essential genes on metabolic maps、Curr. Opin. Biotechnol.、17巻(5号):448〜456頁参照)。
「必須遺伝子」は、生物が生存する状況および環境に依存し得る。例えば、必須遺伝子の突然変異、修飾または除去は、本開示の組換え細菌が栄養要求体になることをもたらし得る。栄養要求性の改変は、細菌が必須栄養素を産生するために必要な遺伝子(複数可)を欠いているため、生存または増殖に必須である、外部から加えられる栄養素の非存在下では細菌を死滅させることを意図するものである。
栄養要求性菌株を作製するために破壊または除去することができる例示的細菌遺伝子を以下に示す。これらは、オリゴヌクレオチド合成、アミノ酸合成および細胞壁合成に必要な遺伝子を含むが、これらに限定されない。
栄養要求性の改変は、細菌が必須栄養素を産生するために必要な遺伝子(複数可)を欠いているため、生存または増殖に必須である、外部から加えられる栄養素の非存在下では細菌を死滅させることを意図するものである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子操作細菌のいずれかは、細胞の生存および/または増殖に必要な遺伝子における欠失または突然変異も含む。一実施形態では、必須遺伝子は、DNA合成遺伝子、例えば、thyAである。他の実施形態では、必須遺伝子は、細胞壁合成遺伝子、例えば、dapAである。他の実施形態では、必須遺伝子は、アミノ酸遺伝子、例えば、serAまたはMetAである。対応する野生型遺伝子産物が細菌において産生されない限り、cysE、glnA、ilvD、leuB、lysA、serA、metA、glyA、hisB、ilvA、pheA、proA、thrC、trpC、tyrA、thyA、uraA、dapA、dapB、dapD、dapE、dapF、flhD、metB、metC、proAB、およびthi1を含むが、これらに限定されない、細胞の生存および/または増殖に必要な任意の遺伝子を標的にすることができる。表17に栄養要求性菌株を作製するために破壊または除去することができる例示的な細菌遺伝子を示す。これらは、オリゴヌクレオチド合成、アミノ酸合成および細胞壁合成に必要な遺伝子を含むが、これらに限定されない。
表18に強制経口投与後24時間および48時間目に検出されたマウス消化管内の種々のアミノ酸栄養要求体の生存を示す。これらの栄養要求体は、大腸菌の非ニッスル株であるBW25113を用いて作製した。
例えば、チミンは、細菌細胞の増殖に必要な核酸であり、その非存在下では、細菌は、細胞死を受ける。thyA遺伝子は、dUMPをdTMPに変換することによる、チミン合成における第1のステップを触媒する酵素であるチミジル酸シンテターゼをコードする(Satら、2003年)。いくつかの実施形態では、本開示の細菌細胞は、thyA遺伝子が欠失し、かつ/または無関係の遺伝子で置換されているthyA栄養要求体である。thyA栄養要求体は、例えば、in vitroで増殖培地にチミンを加えることによって、またはin vivoでヒト消化管内で天然で認められる高いチミンレベルの存在下で十分の量のチミンが存在する場合にのみ増殖することができる。いくつかの実施形態では、本開示の細菌細胞は、細菌が哺乳動物消化管内に存在する場合、補足される遺伝子における栄養要求体である。十分な量のチミンが存在しない場合、thyA栄養要求体は、死滅する。いくつかの実施形態では、栄養要求性の改変を用いて、細菌細胞が栄養要求性遺伝子産物の非存在下(例えば、消化管外)で生存しないことが確認される。
ジアミノピメリン酸(DAP)は、リシン生合成経路内で合成されるアミノ酸であり、細菌細胞壁の増殖に必要である(Meadowら、1959年;Clarksonら、1971年)。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子操作細菌のいずれかは、dapDが欠失し、かつ/または無関係の遺伝子で置換されているdapD栄養要求体である。dapD栄養要求体は、例えば、DAPをin vitroで増殖培地に加えることによって、十分の量のDAPが存在する場合にのみ増殖することができる。十分の量のDAPが存在しない場合、dapD栄養要求体は、死滅する。いくつかの実施形態では、栄養要求性の改変を用いて、細菌細胞が栄養要求性遺伝子産物の非存在下(例えば、消化管外)で生存しないことが確認される。
他の実施形態では、本開示の遺伝子操作細菌は、uraAが欠失し、かつ/または無関係の遺伝子で置換されているuraA栄養要求体である。uraA遺伝子は、ピリミジンウラシルの取込みおよびその後の代謝を促進する膜結合輸送体であるUraAをコードする(Andersenら、1995年)。uraA栄養要求体は、例えば、ウラシルをin vitroで増殖培地に加えることによって十分の量のウラシルが存在する場合にのみ増殖することができる。十分の量のウラシルが存在しない場合、uraA栄養要求体は、死滅する。いくつかの実施形態では、栄養要求性の改変を用いて、細菌が栄養要求性遺伝子産物の非存在下(例えば、消化管外)で生存しないことが確認される。
複雑なコミュニティーにおいて、細菌がDNAを共有することは可能である。非常にまれな状況では、栄養要求性細菌菌株は、ゲノム欠失を修復し、栄養要求体を永久的に救出する非栄養要求性菌株からDNAを受け取り得る。したがって、複数の栄養要求体を含む細菌菌株を操作することにより、DNA転移が栄養要求体を救出するのに十分な時間起こる可能性が著しく低くなり得る。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、細胞の生存および/または増殖に必要な2つまたはそれ以上の遺伝子の欠失または突然変異を含む。
必須遺伝子の他の例は、yhbV、yagG、hemB、secD、secF、ribD、ribE、thiL、dxs、ispA、dnaX、adk、hemH、lpxH、cysS、fold、rplT、infC、thrS、nadE、gapA、yeaZ、aspS、argS、pgsA、yefM、metG、folE、yejM、gyrA、nrdA、nrdB、folC、accD、fabB、gltX、ligA、zipA、dapE、dapA、der、hisS、ispG、suhB、tadA、acpS、era、rnc、ftsB、eno、pyrG、chpR、lgt、fbaA、pgk、yqgD、metK、yqgF、plsC、ygiT、pare、ribB、cca、ygjD、tdcF、yraL、yihA、ftsN、murI、murB、birA、secE、nusG、rplJ、rplL、rpoB、rpoC、ubiA、plsB、lexA、dnaB、ssb、alsK、groS、psd、orn、yjeE、rpsR、chpS、ppa、valS、yjgP、yjgQ、dnaC、ribF、lspA、ispH、dapB、folA、imp、yabQ、ftsL、ftsI、murE、murF、mraY、murD、ftsW、murG、murC、ftsQ、ftsA、ftsZ、lpxC、secM、secA、can、folK、hemL、yadR、dapD、map、rpsB、infB、nusA、ftsH、obgE、rpmA、rplU、ispB、murA、yrbB、yrbK、yhbN、rpsI、rplM、degS、mreD、mreC、mreB、accB、accC、yrdC、def、fmt、rplQ、rpoA、rpsD、rpsK、rpsM、entD、mrdB、mrdA、nadD、hlepB、rpoE、pssA、yfiO、rplS、trmD、rpsP、ffh、grpE、yfjB、csrA、ispF、ispD、rplW、rplD、rplC、rpsJ、fusA、rpsG、rpsL、trpS、yrfF、asd、rpoH、ftsX、ftsE、ftsY、frr、dxr、ispU、rfaK、kdtA、coaD、rpmB、dfp、dut、gmk、spot、gyrB、dnaN、dnaA、rpmH、rnpA、yidC、tnaB、glmS、glmU、wzyE、hemD、hemC、yigP、ubiB、ubiD、hemG、secY、rplO、rpmD、rpsE、rplR、rplF、rpsH、rpsN、rplE、rplX、rplN、rpsQ、rpmC、rplP、rpsC、rplV、rpsS、rplB、cdsA、yaeL、yaeT、lpxD、fabZ、lpxA、lpxB、dnaE、accA、tilS、proS、yafF、tsf、pyrH、olA、rlpB、leuS、lnt、glnS、fldA、cydA、infA、cydC、ftsK、lolA、serS、rpsA、msbA、lpxK、kdsB、mukF、mukE、mukB、asnS、fabA、mviN、rne、yceQ、fabD、fabG、acpP、tmk、holB、lolC、lolD、lolE、purB、ymfK、minE、mind、pth、rsA、ispE、lolB、hemA、prfA、prmC、kdsA、topA、ribA、fabI、racR、dicA、ydfB、tyrS、ribC、ydiL、pheT、pheS、yhhQ、bcsB、glyQ、yibJ、およびgpsAを含むが、これらに限定されない。他の必須遺伝子は、当業者に公知である。
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、合成リガンド依存性必須遺伝子(SLiDE)細菌細胞である。SLiDE細菌細胞は、特定のリガンドの存在下でのみ増殖する1つまたは複数の必須遺伝子における突然変異を有する合成栄養要求体である(その全体の内容が参照により本明細書に明確に組み込まれる、Lopezおよび Anderson 「Synthetic Auxotrophs with Ligand−Dependent Essential Genes for a BL21 DE3 Biosafety Strain」、ACS Synthetic Biology(2015) DOI: 10.1021/acssynbio.5b00085参照)。
いくつかの実施形態では、SLiDE細菌細胞は、必須遺伝子における突然変異を含む。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、pheS、dnaN、tyrS、metGおよびadkからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、次の突然変異:H191N、R240C、I317S、F319V、L340T、V347IおよびS345Cのうちの1つまたは複数を含むdnaNである。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、突然変異:H191N、R240C、I317S、F319V、L340T、V347IおよびS345Cを含むdnaNである。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、次の突然変異:F125G、P183T、P184A、R186AおよびI188Lのうちの1つまたは複数を含むpheSである。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、次の突然変異:F125G、P183T、P184A、R186AおよびI188Lを含むpheSである。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、突然変異:L36V、C38AおよびF40Gのうちの1つまたは複数を含むtyrSである。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、突然変異:L36V、C38AおよびF40Gを含むtyrSである。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、次の突然変異:E45Q、N47R、I49GおよびA51Cのうちの1つまたは複数を含むmetGである。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、突然変異:E45Q、N47R、I49GおよびA51Cを含むmetGである。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、次の突然変異:I4L、L5IおよびL6Gのうちの1つまたは複数を含むadkである。いくつかの実施形態では、必須遺伝子は、突然変異:I4L、L5IおよびL6Gを含むadkである。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、リガンドにより補足されている。いくつかの実施形態では、リガンドは、ベンゾチアゾール、インドール、2−アミノベンゾチアゾール、インドール−3−酪酸、インドール−3−酢酸およびL−ヒスチジンメチルエステルからなる群から選択される。例えば、metG(E45Q、N47R、I49GおよびA51C)における突然変異を有する細菌細胞は、ベンゾチアゾール、インドール、2−アミノベンゾチアゾール、インドール−3−酪酸、インドール−3−酢酸またはL−ヒスチジンメチルエステルにより補足される。dnaN(H191N、R240C、I317S、F319V、L340T、V347IおよびS345C)における突然変異を有する細菌細胞は、ベンゾチアゾール、インドールまたは2−アミノベンゾチアゾールにより補足される。pheS(F125G、P183T、P184A、R186AおよびI188L)における突然変異を有する細菌細胞は、ベンゾチアゾールまたは2−アミノベンゾチアゾールにより補足される。tyrS(L36V、C38AおよびF40G)における突然変異を有する細菌細胞は、ベンゾチアゾールまたは2−アミノベンゾチアゾールにより補足される。adk(I4L、L5IおよびL6G)における突然変異を有する細菌細胞は、ベンゾチアゾールまたはインドールにより補足される。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、リガンドに対して栄養要求性にする複数の突然変異遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、細菌細胞は、2つの必須遺伝子における突然変異を含む。例えば、いくつかの実施形態では、細菌細胞は、tyrS(L36V、C38AおよびF40G)ならびにmetG(E45Q、N47R、I49GおよびA51C)における突然変異を含む。他の実施形態では、細菌細胞は、3つの必須遺伝子における突然変異を含む。例えば、いくつかの実施形態では、細菌細胞は、tyrS(L36V、C38AおよびF40G)、metG(E45Q、N47R、I49GおよびA51C)ならびにpheS(F125G、P183T、P184A、R186AおよびI188L)における突然変異を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、その必須遺伝子(複数可)が例えば、図66に示すアラビノース系を用いて置換されている条件付き栄養要求体である。
いくつかの実施形態では、本開示の遺伝子操作細菌は、栄養要求体であり、本明細書に記載のキルスイッチ成分およびシステムのいずれかのような、キルスイッチ回路も含む。例えば、組換え細菌は、細胞の生存および/または増殖に必要な必須遺伝子における、例えば、DNA合成遺伝子、例えば、thyA、細胞壁合成遺伝子、例えば、dapAおよび/またはアミノ酸遺伝子、例えば、serAもしくはMetAにおける欠失もしくは突然変異を含み、環境条件(複数可)および/またはシグナル(複数可)(述べたアラビノース系のような)に応答して発現する1つもしくは複数の転写活性化因子により調節されるあるいは外因性環境条件(複数可)および/またはシグナル(複数可)を感知することにより発現する1つもしくは複数のリコンビナーゼ(本明細書および図62〜65に記載するリコンビナーゼシステムのような)により調節される毒素遺伝子も含み得る。他の実施形態は、その全内容が参照により明確に本明細書に組み込まれる、Wrightら、「GeneGuard: A Modular Plasmid System Designed for Biosafety」、ACS Synthetic Biology(2015年)4巻:307〜316頁に記載されている。いくつかの実施形態では、本開示の遺伝子操作細菌は、栄養要求体であり、本明細書に記載のキルスイッチ成分およびシステムのいずれかのような、キルスイッチ回路、ならびに条件複製起点のような、他のバイオセキュリティシステム(Wrightら、2015年)も含む。
他の実施形態では、栄養要求性の改変は、過剰のアンモニアを消費する突然変異細菌をスクリーニングするためにも用いることができる。より具体的な態様では、栄養要求性の改変は、アルギニンを過剰産生することによって過剰のアンモニアを消費する然変異細菌をスクリーニングするために用いることができる。本明細書に記載の通り、アルギニン代謝に関与する多くの遺伝子は、ArgRとのその相互作用によるアルギニンによる抑制を受ける。astC遺伝子プロモーターは、アルギニン−ArgR複合体が、転写リプレッサーとは対照的に、転写活性化因子として作用する点で独特である。astCは、アンモニア産生アルギニンスクシニルトランスフェラーゼ(AST)経路の第3の酵素および大腸菌におけるastCADBEオペロンの第1の酵素である、スクシニルオルニチンアミノトランスフェラーゼをコードする(Schneiderら、1998年)。特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、ある遺伝子について栄養要求性であり、astCプロモーターの制御下で栄養要求性遺伝子産物を発現する。これらの実施形態では、栄養要求性は、正のフィードバック機構の支配下にあり、アルギニンを過剰産生することにより過剰のアンモニアを消費する突然変異細菌を選択するために用いる。正のフィードバック栄養要求体の非限定的な例を図60Aおよび60Bに示す。
遺伝子調節回路
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、本明細書に記載の構築物を発現するための重層的遺伝子調節回路を含む(例えば、その全体として参照により本明細書に組み込まれる、米国仮特許出願第62/184,811号参照)。
特定の実施形態では、本発明は、アルギニンを過剰産生する遺伝子操作細菌を選択する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、代替代謝経路、例えば、ヒスチジン生合成経路、メチオニン生合成経路、リシン生合成経路、アスパラギン生合成経路、グルタミン生合成経路およびトリプトファン生合成経路により過剰のアンモニアを消費する遺伝子操作細菌を選択する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、突然変異アルギニンレギュロンおよびArgR調節2リプレッサー活性化遺伝子調節回路を含む遺伝子操作細菌を提供する。2リプレッサー活性化遺伝子調節回路は、アンモニアを減少させるまたは栄養要求体を救出する突然変異細菌についてスクリーニングするために有用である。いくつかの構築物において、高レベルのアルギニンおよびアルギニンによるArgRの結果として生じる活性化は、細胞の生存に必要な検出可能なレベルまたは必須遺伝子の発現をもたらし得る。
2リプレッサー活性化調節回路は、第1のArgRおよび第2のリプレッサー、例えば、Tetリプレッサーを含む。これらの実施形態の一態様では、ArgRは、目的の特定の遺伝子の転写、例えば、過剰なアンモニアを消費する突然変異体、および/または細胞の生存に必要な必須遺伝子についてスクリーニングするために用いることができる、検出可能な産物を抑制する、第2のリプレッサーの転写を抑制する。ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼおよびGFPのような蛍光タンパク質を含むが、これらに限定されない、任意の検出可能な産物を用いることができる。いくつかの実施形態では、第2のリプレッサーは、Tetリプレッサータンパク質(TetR)である。この実施形態では、野生型ARGボックスを含むArgR抑制性プロモーターは、TetRの発現を駆動し、TetR抑制性プロモーターは、目的の少なくとも1つの遺伝子、例えば、GFPの発現を駆動する。ArgR結合の非存在(低アルギニン濃度で起こる)下では、tetRが転写され、TetRがGFPの発現を抑制する。ArgR結合の存在(高アルギニン濃度で起こる)下では、tetRの発現が抑制され、GFPが発生する。これらの実施形態に有用な他の第2のリプレッサーの例は、ArsR、AscG、LacI、CscR、DeoR、DgoR、FruR、GalR、GatR、CI、LexA、RafR、QacRおよびPtxS(米国特許出願公開第20030166191号)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、いくつかの実施形態では、スイッチを含む突然変異アルギニンレギュロンを突然変異誘発にかけ、アルギニンを過剰産生することによってアンモニアを減少させる突然変異体を、例えば、フローサイトメトリー、検出可能な産物が蛍光を発する場合には蛍光活性化細胞選別(FACS)により、検出可能な産物のレベルに基づいて選択する。
いくつかの実施形態では、目的の遺伝子は、細菌の生存および/または増殖に必要な遺伝子である。ArgRの制御下を除いて遺伝子産物を産生しないようにするために対応する野生型遺伝子が除去または突然変異を起こさせた限り、cysE、glnA、ilvD、leuB、lysA、serA、metA、glyA、hisB、ilvA、pheA、proA、thrC、trpC、tyrA、thyA、uraA、dapA、dapB、dapD、dapE、dapF、flhD、metB、metC、proAB、およびthi1を含むが、これらに限定されない、任意のそのような遺伝子を用いることができる。いくつかの実施形態では、野生型ARGボックスを含むArgR抑制性プロモーターは、TetRタンパク質の発現を駆動し、TetR抑制性プロモーターは、細菌の生存および/または増殖に必要な少なくとも1つの遺伝子、例えば、thyA、uraAの発現を駆動する(Satら、2003年)。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌が哺乳動物消化管内に存在する場合、補足されない遺伝子において栄養要求性であり、前記遺伝子は、細菌に存在する第2の誘導性遺伝子により補足され、第2の遺伝子の転写は、ArgR抑制性であり、十分に高い濃度のアルギニンの存在下で誘導される(ひいては栄養要求性遺伝子を補足する)。いくつかの実施形態では、2リプレッサー活性化回路を含む突然変異アルギニンレギュロン突然変異誘発にかけ、過剰のアンモニアを減少させる突然変異体を、生存および/または増殖に必要な遺伝子産物の非存在下での増殖により選択する。いくつかの実施形態では、2リプレッサー活性化回路を含む突然変異アルギニンレギュロンを用いて、細菌が高レベルのアルギニンの非存在下(例えば、消化管外)で生存しないことを確認する。
宿主−プラスミド相互依存性
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、宿主−プラスミド相互依存性をもたらすように改変されたプラスミドも含む。特定の実施形態では、相互依存性宿主−プラスミドプラットフォームは、GeneGuardである(Wrightら、2015年)。いくつかの実施形態では、GeneGuardプラスミドは、(i)必須の複製イニシエータータンパク質がトランスで配置されている、条件複製起点、(ii)ゲノム転位により宿主によって救出され、リッチ培地中の使用にも適合する栄養要求性の改変、および/または(iii)広域スペクトルの毒素をコードする核酸配列を含む。毒素遺伝子は、抗毒素を発現しない菌株(例えば、野生型細菌)に対してそれ自体不利であるプラスミドDNAを作製することによりプラスミドスプレッド(spread)を対照として選択するために用いることができる。いくつかの実施形態では、GeneGuardプラスミドは、抗体分泌なしで少なくとも100世代にわたり安定である。いくつかの実施形態では、GeneGuardプラスミドは、宿主の増殖を妨害しない。GeneGuardプラスミドは、本発明の遺伝子操作細菌における意図的でないプラスミドの増殖を著しく減少させるために用いられる。
相互依存性宿主−プラスミドプラットフォームは、単独で、または本明細書に記載のもの(例えば、キルスイッチ、栄養要求体)などの、他のバイオセフティ機能と組み合わせて用いることができる。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、GeneGuardプラスミドを含む。他の実施形態では、遺伝子操作細菌は、GeneGuardプラスミドおよび/または1つもしくは複数のキルスイッチを含む。他の実施形態では、遺伝子操作細菌は、GeneGuardプラスミドおよび/または1つもしくは複数の栄養要求体を含む。他の実施形態では、遺伝子操作細菌は、GeneGuardプラスミド、1つもしくは複数のキルスイッチおよび/または1つもしくは複数の栄養要求体を含む。
プラスミド上の合成遺伝子回路発現は、短期では十分に機能し得るが、長期では能力および/または機能を失う(Daninoら、2015年)。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、長期間にわたって目的の遺伝子を発現するための安定な回路を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、消化管増強分子を産生することができ、毒素(hok)および短寿命抗毒素(sok)を同時に産生する毒素−抗毒素システムをさらに含み、プラスミドの喪失は、細胞が長寿命毒素により殺滅されることをもたらす(Daninoら、2015年;図68)。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、枯草菌プラスミドpL20に由来するalp7をさらに含み、細胞***中の等しい分離を保証するために細胞の極にプラスミドを押すことができるフィラメントを産生する(Daninoら、2015年)。
キルスイッチ
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、キルスイッチも含む(例えば、それぞれが参照によりそれらの全体として本明細書に組み込まれる、米国仮特許出願第62/183,935号、第62/263,329号および第62/277,654号参照)。キルスイッチは、外部刺激に反応して操作された微小生物を能動的に殺滅することを意図する。細菌が生存のための必須栄養素を欠いているために死ぬという栄養要求性突然変異と対照的に、キルスイッチは、細胞死を引き起こす微小生物内の有毒分子の産生を誘導する環境中の特定の因子によって誘発される。
キルスイッチにより操作された細菌は、in vitro研究目的のために、例えば、実験室環境の外部へのバイオ燃料産生微生物の広がりを制限するために操作された。疾患または障害を治療するためのin vivoでの投与のために操作された細菌は、1つまたは複数の異種遺伝子、例えば、治療用遺伝子(複数可)の発現および送達の後または対象が治療効果を経験した後の特定に時点に死ぬようにプログラムを組むこともできる。例えば、いくつかの実施形態では、キルスイッチは、argAfbrの酸素レベル依存性発現後の一定の期間の後に細菌を殺滅するように作動させる。いくつかの実施形態では、キルスイッチは、argAfbrの酸素レベル依存性発現後に例えば、アルギニンまたはシトルリンの産生の後に遅れて作動させる。あるいは、細菌は、細菌が疾患部位の外側に広がった後に死ぬように操作することができる。とりわけ、微生物による対象への長期住みつき、対象内の目的の範囲外への微生物の広がり(例えば、消化管の外側)、または対象の外側の微生物の環境中への広がり(例えば、対象の大便を介する環境への広がりを防ぐことは、有用であり得る。キルスイッチに用いることができるそのような毒素の例は、バクテリオシン、リシン、および細胞膜を溶解すること、細胞DNAを分解すること、または他の機構により細胞死を引き起こす他の分子を含むが、これらに限定されない。そのような毒素は、個別にまたは組み合わせて用いることができる。それらの産生を制御するスイッチは、例えば、転写活性化(トグルスイッチ;例えば、Gardnerら、2000年参照)、翻訳(リボレギュレーター)またはDNA組換え(リコンビナーゼベースのスイッチ)に基づくものであってよく、嫌気状態または活性酸素種のような環境刺激を検知することができる。これらのスイッチは、単一環境因子により作動させることができるか、または細胞死をもたらすためにAND、OR、NANDおよびNOR論理構成のいくつかの活性化因子を必要とし得る。例えば、ANDリボレギュレータースイッチは、細胞膜を透過性にし、細胞を殺滅するリシンの発現を誘導するためのテトラサイクリン、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)およびアラビノースにより活性化される。IPTGは、エンドリシンおよびホリンmRNAの発現を誘導し、これらが次に、アラビノースおよびテトラサイクリンの添加によって活性化される。細胞死をもたらすために3つの誘導物質のすべてが存在しなければならない。キルスイッチの例は、当技術分野で公知である(Calluraら、2010年)。いくつかの実施形態では、キルスイッチは、argAfbrの酸素レベル依存性発現の後の期間後に細菌を殺滅するために作動させる。いくつかの実施形態では、キルスイッチは、argAfbrの酸素レベル依存性発現の後に遅らせて作動させる。
キルスイッチは、毒素が環境条件もしくは外部シグナルに反応して産生される(例えば、細菌が外部キューに反応して殺滅される)ように設計する、または代わるべきものとして環境条件がもはや存在しなくなるもしくは外部シグナルが停止したならば、毒素が産生されるように設計することができる。
したがって、いくつかの実施形態では、本開示の遺伝子操作細菌は、例えば、低酸素環境において外因性環境シグナルを感知した後に死ぬようにさらにプログラムされる。いくつかの実施形態では、本開示の遺伝子操作細菌、例えば、argAfbrおよびリプッレサーArgRを発現する細菌は、1つまたは複数のリコンビナーゼをコードする1つまたは複数の遺伝子を含み、その発現は、環境条件またはシグナルに反応した誘導され、細胞を殺滅する毒素の発現を最終的にもたらす1つまたは複数の組換え事象を引き起こす。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの組換え事象は、第1のレコンビナーゼによってフリップされた後に構成的に発現する細菌毒素をコードする逆方向異種遺伝子のフリッピングである。一実施形態では、細菌毒素の構成的発現は、遺伝子操作細菌を殺滅する。これらの種類のキルスイッチシステムでは、操作細菌が外因性環境条件を感知し、目的の異種遺伝子を発現したならば、組換え細菌細胞は、もはや生存しない。
他の実施形態では、本開示の遺伝子操作細菌、例えば、argAfbrおよびリプッレサーArgRを発現する細菌が少なくとも1つの組換え事象を引き起こす環境条件またはシグナルに反応して1つまたは複数のリコンビナーゼを発現し、遺伝子操作細菌は、外因性環境条件またはシグナルに反応して抗毒素をコードする異種遺伝子をさらに発現する。一実施形態では、少なくとも1つの組換え事象は、第1のリコンビナーゼによる細菌毒素をコードする逆方向異種遺伝子のフリッピングである。一実施形態では、細菌毒素をコードする逆方向異種遺伝子は、第1のフォワードリコンビナーゼ認識配列と第1のリバースリコンビナーゼ認識配列との間に位置する。一実施形態では、細菌毒素をコードする異種遺伝子は、それが第1のリコンビナーゼによりフリップされた後に構成的に発現する。一実施形態では、抗毒素は、毒素の活性を阻害し、それにより遺伝子操作細菌の死を遅らせる。一実施形態では、外因性環境条件がもはや存在しない場合に抗毒素をコードする異種遺伝子がもはや発現しない場合、遺伝子操作細菌は、細菌毒素により殺滅される。
他の実施形態では、少なくとも1つの組換え事象は、第1のリコンビナーゼによる第2のリコンビナーゼをコードする逆方向異種遺伝子のフリッピングとそれに続く第2のリコンビナーゼによる細菌毒素をコードする逆方向異種遺伝子のフリッピングである。一実施形態では、第2のリコンビナーゼをコードする逆方向異種遺伝子は、第1のフォワードリコンビナーゼ認識配列と第1のリバースリコンビナーゼ認識配列との間に位置する。一実施形態では、細菌毒素をコードする逆方向異種遺伝子は、第2のフォワードリコンビナーゼ認識配列と第2のリバースリコンビナーゼ認識配列との間に位置する。一実施形態では、第2のリコンビナーゼをコードする異種遺伝子は、それが第1のリコンビナーゼによりフリップした後に構成的に発現する。一実施形態では、細菌毒素をコードする異種遺伝子は、それが第2のリコンビナーゼによりフリップされた後に構成的に発現する。一実施形態では、遺伝子操作細菌は、細菌毒素により殺滅される。一実施形態では、遺伝子操作細菌は、外因性環境条件に反応して抗毒素をコードする異種遺伝子をさらに発現する。一実施形態では、抗毒素は、外因性環境条件が存在する場合に毒素の活性を阻害し、それにより遺伝子操作細菌の死を遅らせる。一実施形態では、外因性環境条件がもはや存在しない場合に抗毒素をコードする異種遺伝子がもはや発現しない場合、遺伝子操作細菌は、細菌毒素により殺滅される。
一実施形態では、少なくとも1つの組換え事象は、第1のリコンビナーゼによる第2のリコンビナーゼをコードする逆方向異種遺伝子のフリッピングとそれに続く第2のリコンビナーゼによる第3のリコンビナーゼをコードする逆方向異種遺伝子のフリッピングとそれに続く第3のリコンビナーゼによる細菌毒素をコードする逆方向異種遺伝子のフリッピングである。
一実施形態では、少なくとも1つの組換え事象は、第1のリコンビナーゼによる第1の切除酵素をコードする逆方向異種遺伝子のフリッピングである。一実施形態では、第1の切除酵素をコードする逆方向異種遺伝子は、第1のフォワードリコンビナーゼ認識配列と第1のリバースリコンビナーゼ認識配列との間に位置する。一実施形態では、第1の切除酵素をコードする異種遺伝子は、それが第1のリコンビナーゼによりフリップされた後に構成的に発現する。一実施形態では、第1の切除酵素は、第1の必須遺伝子を切除する。一実施形態では、プログラムされた組換え細菌細胞は、第1の必須遺伝子が切除された後に生存しない。
一実施形態では、第1のリコンビナーゼは、第2の切除酵素をコードする逆方向異種遺伝子をさらにフリップする。一実施形態では、第2の切除酵素をコードする逆方向異種遺伝子は、第2のフォワードリコンビナーゼ認識配列と第2のリバースリコンビナーゼ認識配列との間に位置する。一実施形態では、第2の切除酵素をコードする異種遺伝子は、それが第1のリコンビナーゼによりフリップされた後に構成的に発現する。一実施形態では、第1の必須遺伝子および第2必須遺伝子の両方が切除される場合、遺伝子操作細菌は、死ぬかまたはもはや生存できない。一実施形態では、第1のリコンビナーゼにより第1の必須遺伝子が切除されるかまたは第2の必須遺伝子が切除される場合、遺伝子操作細菌は、死ぬかまたはもはや生存できない。
一実施形態では、遺伝子操作細菌は、少なくとも1つの組換え事象が起こった後に死ぬ。他の実施形態では、遺伝子操作細菌は、少なくとも1つの組換え事象が起こった後にもはや生存できない。
これらの実施形態のいずれかにおいて、リコンビナーゼは、BxbI、PhiC31、TP901、BxbI、PhiC31、TP901、HK022、HP1、R4、Int1、Int2、Int3、Int4、Int5、Int6、Int7、Int8、Int9、Int10、Int11、Int12、Int13、Int14、Int15、Int16、Int17、Int18、Int19、Int20、Int21、Int22、Int23、Int24、Int25、Int26、Int27、Int28、Int29、Int30、Int31、Int32、Int33、およびInt34からなる群またはその生物学的活性な断片から選択されるリコンビナーゼであり得る。
上述のキルスイッチ回路において、毒素は、環境因子またはシグナルの存在下で産生される。キルスイッチ回路の他の態様では、毒素は、環境因子の存在下で抑制され(産生されず)、環境条件または外部シグナルがもはや存在しなくなれば、産生され得る。毒素が環境因子またはシグナルの存在下で抑制され(かつ外部シグナルが除去されたならば活性化される)例示的キルスイッチを図66〜68に示す。本開示は、外因性環境においてアラビノースまたは他の糖を感知することにより1つまたは複数の異種遺伝子を発現する組換え細菌細胞を提供する。この態様では、組換え細菌細胞は、AraC転写因子をコードする、araC遺伝子、ならびにaraBADプロモーターの制御下の1つまたは複数の遺伝子を含む。アラビノースの非存在下では、AraC転写因子は、araBADプロモーターの制御下の遺伝子の転写を抑制する立体配座をとる。アラビノースの存在下では、AraC転写因子は、所望の遺伝子、例えば、毒素遺伝子の発現を抑制するtetRの発現を誘導する、araBADプロモーターに結合し、活性化することを可能にする立体配座の変化を受ける。この実施形態では、毒素遺伝子は、アラビノースまたは他の糖の存在下で抑制される。アラビノースが存在しない環境においては、tetR遺伝子が活性化されず、毒素が発現し、それにより細菌を殺滅する。必須遺伝子がアラビノースまたは他の糖の存在下でのみ発現し、アラビノースまたは他の糖が環境に存在しない場合には発現しないという、アラビノース系を用いて、必須遺伝子を発現させることもできる。
したがって、外因性環境中のアラビノースを感知することにより1つまたは複数の異種遺伝子が発現するいくつかの実施形態では、1つまたは複数の異種遺伝子は、直接的または間接的にaraBADプロモーターの制御下にある。いくつかの実施形態では、発現異種遺伝子は、異種治療用遺伝子、抗毒素をコードする異種遺伝子、リプレッサータンパク質もしくはポリペプチド、例えば、TetRリプレッサーをコードする異種遺伝子、細菌細胞に見いだされない必須タンパク質をコードする異種遺伝子および/または調節タンパク質もしくはポリペプチドをコードする異種遺伝子のうちの1つまたは複数から選択される。
いくつかの実施形態では、argAfbr遺伝子は、直接的または間接的にaraBADプロモーターの制御下にある。図13に例示的なBADプロモーター駆動argAfbr構築物の概略図を示す。この実施形態では、argAfbr遺伝子は、araC遺伝子とaraD遺伝子との間に挿入されている。argAfbrは、リボソーム結合部位、FRT部位および1つまたは複数の転写終結配列により隣接されている。例示的なBADプロモーター駆動argAfbr構築物の核酸配列を表19に示す。すべての太字の配列はニッスルゲノムDNAである。araC遺伝子の一部は太字の下線付きであり、argAfbr遺伝子は囲み線付きであり、間の太字の配列は、アラビノースの存在下で活性化されるプロモーターである。リボソーム結合部位は斜体であり、終結配列は網掛け付きであり、FRT部位は囲み線付きである。araD遺伝子の一部は点線の囲み線付きである。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号67のBADプロモーター配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号67のBADプロモーター配列またはその機能性断片を含む。
アラビノース誘導性プロモーターは、当技術分野で公知であり、Para、ParaB、ParaCおよびParaBADを含む。一実施形態では、アラビノース誘導性プロモーターは、大腸菌に由来する。いくつかの実施形態では、ParaCプロモーターおよびParaBADプロモーターは、二方向性プロモーターとして作動し、ParaBADプロモーターは、1つの方向の異種遺伝子(複数可)の発現を制御し、ParaC(ParaBADプロモーターに近接し、それと反対側の鎖上の)は、他の方向の異種遺伝子(複数可)の発現を制御する。アラビノースの存在下では、両プロモーターからの両異種遺伝子の転写が誘導される。しかし、アラビノースの非存在下では、両プロモーターからの両異種遺伝子の転写は誘導されない。
本開示の1つの例示的実施形態では、本開示の操作細菌は、少なくとも以下の配列:テトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetR)をコードする異種遺伝子に作動可能に連結したParaBADプロモーター、AraC転写因子をコードする異種遺伝子に作動可能に連結したParaCプロモーター、およびテトラサイクリンリプレッサータンパク質(PTetR)により抑制されるプロモーターに作動可能に連結した細菌毒素をコードする異種遺伝子を有するキルスイッチを含む。アラビノースの存在下では、AraC転写因子がParaBADプロモーターを活性化し、これがTetRタンパク質の転写を活性化し、これが次に毒素の転写を抑制する。しかし、アラビノースの非存在下では、AraCがParaBADプロモーターからの転写を抑制し、TetRタンパク質は発現しない。この場合、異種毒素遺伝子の発現が活性化され、毒素が発現する。毒素は、組換え細菌細胞中に蓄積し、組換え細菌細胞は殺滅される。一実施形態では、AraC転写因子をコードするaraC遺伝子は、構成的プロモーターの制御下にあり、したがって、構成的に発現する。
本開示の一実施形態では、組換え細菌細胞は、構成的プロモーターの制御下の抗毒素をさらに含む。この状況において、アラビノースの存在下では、TetRタンパク質による抑制のため、毒素が発現せず、抗毒素タンパク質が細胞中に蓄積する。しかし、アラビノースの非存在下では、TetRタンパク質は発現せず、毒素の発現が誘導される。毒素は、組換え細菌細胞内に蓄積し始める。毒素タンパク質が細胞中の抗毒素タンパク質の量と等しいかまたはそれより多量に存在したならば、組換え細菌細胞がもはや生存できず、組換え細菌細胞は、毒素により殺滅される。
本開示の他の実施形態では、組換え細菌細胞は、ParaBADプロモーターの制御下の抗毒素をさらに含む。この状況において、アラビノースの存在下では、TetRおよび抗毒素が発現し、抗毒素が細胞中に蓄積し、TetRタンパク質による抑制により、毒素は、発現しない。しかし、アラビノースの非存在下では、TetRタンパク質および抗毒素の両方が発現せず、毒素の発現が誘導される。毒素は、組換え細菌細胞内に蓄積し始める。毒素タンパク質が発現したならば、組換え細菌細胞がもはや生存できず、組換え細菌細胞は、毒素により殺滅される。
本開示の他の例示的実施形態では、本開示の操作細菌は、少なくとも以下の配列を有するキルスイッチを含む:組換え細菌細胞中に見いだされない(かつ生存に必要な)必須ポリペプチドをコードする異種遺伝子に作動可能に連結したParaBADプロモーターおよびAraC転写因子をコードする異種遺伝子に作動可能に連結したParaCプロモーター。アラビノースの存在下では、AraC転写因子がParaBADプロモーターを活性化し、必須ポリペプチドをコードする異種遺伝子の転写を活性化し、組換え細菌細胞が生存することが可能になる。しかし、アラビノースの非存在下では、AraCがParaBADプロモーターからの転写を抑制し、生存に必要な必須タンパク質が発現しない。この場合、組換え細菌細胞は、アラビノースの非存在下で死ぬ。いくつかの実施形態では、組換え細菌細胞に見いだされない必須ポリペプチドをコードする異種遺伝子に作動可能に連結したParaBADプロモーターの配列は、直前に述べたTetR/毒素キルスイッチシステムとともに細菌細胞中に存在し得る。いくつかの実施形態では、組換え細菌細胞に見いだされない必須ポリペプチドをコードする異種遺伝子に作動可能に連結したParaBADプロモーターの配列は、直前に述べたTetR/毒素/抗毒素キルスイッチシステムとともに細菌細胞中に存在し得る。
他の実施形態では、細菌は、短寿命抗毒素および長寿命毒素の両方を産生するプラスミドを含むプラスミド安定システムを含み得る。このシステムでは、細菌細胞は、毒素を中和するために等量の毒素および抗毒素を産生する。しかし、細胞がプラスミドを失うならば/場合、短寿命抗毒素は、減衰し始める。抗毒素が完全に減衰した場合、長寿命毒素が細胞を殺滅した結果として、細胞は死ぬ。
いくつかの実施形態では、本開示の操作細菌、例えば、argAfbrおよびリプレッサーArgRを発現する細菌は、上述のキルスイッチ回路のいずれかの構成要素をコードする遺伝子(複数可)をさらに含む。
上述の実施形態のいずれかにおいて、細菌毒素は、リシン、Hok、Fst、TisB、LdrD、Kid、SymE、MazF、FlmA、Ibs、XCV2162、dinJ、CcdB、MazF、ParE、YafO、Zeta、hicB、relB、yhaV、yoeB、chpBK、hipA、ミクロシンB、ミクロシンB17、ミクロシンC、ミクロシンC7−C51、ミクロシンJ25、ミクロシンColV、ミクロシン24、ミクロシンL、ミクロシンD93、ミクロシンL、ミクロシンE492、ミクロシンH47、ミクロシンI47、ミクロシンM、コリシンA、コリシンE1、コリシンK、コリシンN、コリシンU、コリシンB、コリシンIa、コリシンIb、コリシン5、コリシン10、コリシンS4、コリシンY、コリシンE2、コリシンE7、コリシンE8、コリシンE9、コリシンE3、コリシンE4、コリシンE6;コリシンE5、コリシンD、コリシンMおよびクロアシンDF13、またはその生物学的に活性な断片からなる群から選択される。
上述の実施形態のいずれかにおいて、抗毒素は、抗リシン、Sok、RNAII、IstR、RdlD、Kis、SymR、MazE、FlmB、Sib、ptaRNA1、yafQ、CcdA、MazE、ParD、yafN、Epsilon、HicA、relE、prlF、yefM、chpBI、hipB、MccE、MccECTD、MccF、Cai、ImmE1、Cki、Cni、Cui、Cbi、Iia、Imm、Cfi、Im10、Csi、Cyi、Im2、Im7、Im8、Im9、Im3、Im4、ImmE6、クロアシン免疫タンパク質(Cim)、ImmE5、ImmDおよびCmi、またはその生物学的に活性な断片からなる群から選択される。
一実施形態では、細菌毒素は、遺伝子操作細菌に対して殺菌性である。一実施形態では、細菌毒素は、遺伝子操作細菌に対して静菌性である。
いくつかの実施形態では、本明細書に示す操作細菌は、突然変異アルギニンレギュロンが同じ条件下の同じ細菌亜型の非改変レギュロンより多くのアルギニンおよび/または中間副産物を産生するように、アルギニン生合成経路における、グルタミン酸をアルギニンおよび/または中間副産物、例えば、シトルリンに変換することに関与する酵素をコードするオペロンのそれぞれのアルギニン媒介抑制を低減または消失させる1つまたは複数の核酸突然変異を含むアルギニンレギュロンを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体、例えば、argAfbrを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成酵素N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼアルギニノコハク酸リアーゼおよびカルバモイルリン酸シンターゼをコードする1つまたは複数のオペロンのそれぞれの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを含み、それにより、レギュロンを活性化し、アルギニンおよび/または中間副産物の生合成を増強する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体をさらに含む。いくつかの実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体は、酸素レベル依存性プロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体は、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、フマル酸・硝酸レダクターゼ調節因子(FNR)プロモーター、アルギニンデイミナーゼおよび硝酸還元(ANR)プロモーターおよび異化型硝酸呼吸調節因子(DNR)プロモーターから選択される。いくつかの実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体は、argAfbrである。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成酵素およびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体をコードするオペロンのそれぞれの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、突然変異アルギニンレギュロンを含み、細菌は、同じ条件下の同じ細菌亜型の野生型N−アセチルグルタミン酸シンテターゼと比較してアルギニンフィードバック阻害を減少させるように突然変異させた機能性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードする遺伝子を含み、突然変異N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードする遺伝子の発現は、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターにより制御され、突然変異アルギニンレギュロンは、アルギニン合成酵素N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、カルバモイルリン酸シンターゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼおよびアルギニノコハク酸リアーゼをコードする遺伝子を含む1つまたは複数のオペロンを含み、各オペロンは、ArgRリプレッサーの結合によりオペロンのアルギニン媒介抑制を低減させる1つまたは複数の核酸突然変異を特徴とする1つまたは複数の突然変異ARGボックスを含み、オペロンにおける遺伝子の転写を促進するのに十分な親和性を有するRNAポリメラーゼ結合を保持している。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成酵素およびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体をコードするオペロンのそれぞれの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを含む栄養要求体である。一実施形態では、アルギニン生合成酵素およびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体をコードするオペロンのそれぞれの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを含む遺伝子操作細菌は、cysE、glnA、ilvD、leuB、lysA、serA、metA、glyA、hisB、ilvA、pheA、proA、thrC、trpC、tyrA、thyA、uraA、dapA、dapB、dapD、dapE、dapF、flhD、metB、metC、proAB、およびthi1栄養要求体から選択される栄養要求体である。いくつかの実施形態では、操作細菌は、複数の栄養要求性を有する。例えば、それらは、ΔthyAおよびΔdapA栄養要求体であり得る。
いくつかの実施形態では、アルギニン生合成酵素およびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体をコードするオペロンのそれぞれの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを含む遺伝子操作細菌は、本明細書で示すキルスイッチ回路のいずれかのような、キルスイッチ回路をさらに含む。例えば、いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、誘導性プロモーターの制御下の1つまたは複数のリコンビナーゼをコードする1つまたは複数の遺伝子および逆方向毒素配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、抗毒素をコードする1つまたは複数の遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、操作細菌は、誘導性プロモーターの制御下の1つまたは複数のリコンビナーゼをコードする1つまたは複数の遺伝子および1つまたは複数の逆方向切除遺伝子をさらに含み、切除遺伝子(複数可)は、必須遺伝子を欠失させる酵素をコードする。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、抗毒素をコードする1つまたは複数の遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、操作細菌は、TetRリプレッサー結合部位を有するプロモーターの制御下の毒素をコードする1つまたは複数の遺伝子およびParaBADのような、アラビノースにより誘導される誘導性プロモーターの制御下のTetRをコードする遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、抗毒素をコードする1つまたは複数の遺伝子をさらに含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニン生合成酵素およびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体をコードするオペロンのそれぞれの少なくとも1つのARGボックスにおける1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンレギュロンを含み、本明細書に記載のキルスイッチ回路のいずれかのような、キルスイッチ回路をさらに含む栄養要求体である。
上述の遺伝子操作細菌のいくつかの実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードする遺伝子は、細菌におけるプラスミド上に存在し、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターにプラスミド上で作動可能に連結されている。他の実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードする遺伝子は、細菌染色体に存在し、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターに染色体において作動可能に連結されている。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンリプッレサー機能が低下もしくは不活性である、あるいは遺伝子操作細菌がアルギニンリプッレサーを有さず(例えば、アルギニンリプッレサー遺伝子が欠失した)、レギュロンの抑制解除ならびにアルギニンおよび/または中間副産物の生合成の増大をもたらすような1つまたは複数の核酸突然変異を含む突然変異アルギニンリプレッサーを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体をさらに含む。いくつかの実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体は、酸素レベル依存性プロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体は、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターにより制御される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、フマル酸・硝酸レダクターゼ調節因子(FNR)プロモーター、アルギニンデイミナーゼおよび硝酸還元(ANR)プロモーターおよび異化型硝酸呼吸調節因子(DNR)プロモーターから選択される。いくつかの実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体は、argAfbrである。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、突然変異または欠失アルギニンリプレッサーおよびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、アルギニンレギュロンを含み、細菌は、同じ条件下の同じ細菌亜型の野生型N−アセチルグルタミン酸シンテターゼと比較して低いアルギニンフィードバック阻害を有する機能性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードする遺伝子を含み、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードする遺伝子の発現は、外因性環境条件により誘導されるプロモーターにより制御され、細菌は、機能性ArgRリプレッサーを欠くように遺伝子操作された。
いくつかの実施形態では、突然変異または欠失アルギニンリプレッサーおよびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体を含む遺伝子操作細菌は、栄養要求体である。一実施形態では、突然変異または欠失アルギニンリプレッサーおよびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体を含む遺伝子操作細菌は、cysE、glnA、ilvD、leuB、lysA、serA、metA、glyA、hisB、ilvA、pheA、proA、thrC、trpC、tyrA、thyA、uraA、dapA、dapB、dapD、dapE、dapF、flhD、metB、metC、proAB、およびthi1栄養要求体から選択される栄養要求体である。いくつかの実施形態では、操作細菌は、複数の栄養要求性を有する。例えば、それらは、ΔthyAおよびΔdapA栄養要求体であり得る。
いくつかの実施形態では、突然変異または欠失アルギニンリプレッサーおよびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体を含む遺伝子操作細菌は、本明細書で示したキルスイッチ回路のいずれかのような、キルスイッチ回路をさらに含む。例えば、いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、誘導性プロモーターの制御下の1つまたは複数のリコンビナーゼをコードする1つまたは複数の遺伝子および逆方向毒素配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、抗毒素をコードする1つまたは複数の遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、操作細菌は、誘導性プロモーターの制御下の1つまたは複数のリコンビナーゼをコードする1つまたは複数の遺伝子および1つまたは複数の逆方向切除遺伝子をさらに含み、切除遺伝子(複数可)は、必須遺伝子を欠失させる酵素をコードする。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、抗毒素をコードする1つまたは複数の遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、操作細菌は、TetRリプレッサー結合部位を有するプロモーターの制御下の毒素をコードする1つまたは複数の遺伝子およびParaBADのような、アラビノースにより誘導される誘導性プロモーターの制御下のTetRをコードする遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、抗毒素をコードする1つまたは複数の遺伝子をさらに含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、突然変異または欠失アルギニンリプレッサーおよびアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンターゼ突然変異体を含む栄養要求体であり、本明細書に記載のキルスイッチ回路のいずれかのような、キルスイッチ回路をさらに含む。
上述の遺伝子操作細菌のいくつかの実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードする遺伝子は、細菌におけるプラスミド上に存在し、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターにプラスミド上で作動可能に連結されている。他の実施形態では、アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼをコードする遺伝子は、細菌染色体に存在し、低酸素または嫌気的条件下で誘導されるプロモーターに染色体において作動可能に連結されている。
アンモニア輸送体
細胞内へのアンモニアの輸送を増大させるために本発明の遺伝子操作細菌におけるアンモニア輸送体をさらに発現させるまたは改変することができる。AmtBは、アンモニアを細菌細胞内に輸送する膜輸送タンパク質である。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、天然amtB遺伝子の複数のコピーも含む。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、異なる細菌種に由来するamtB遺伝子も含む。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、異なる細菌種に由来するamtB遺伝子の複数のコピーを含む。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌における天然amtB遺伝子は、改変されていない。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、その天然プロモーター、誘導性プロモーター、または天然プロモーターより強いプロモーター、例えば、GlnRSプロモーター、P(Bla)プロモーター、または構成的プロモーターにより制御されるamtB遺伝子を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌における天然amtB遺伝子は、改変されておらず、天然amtB遺伝子の1つもしくは複数の追加のコピーが、argAfbrの発現を制御する同じ誘導性プロモーター、例えば、FNRプロモーター、またはargAfbrの発現を制御するものと異なる誘導性プロモーター、または構成的プロモーターの制御下にゲノムに挿入されている。代替実施形態では、天然amtB遺伝子は、改変されておらず、異なる細菌種に由来する非天然amtB遺伝子のコピーが、argAfbrの発現を制御する同じ誘導性プロモーター、例えば、FNRプロモーター、またはargAfbrの発現を制御するものと異なる誘導性プロモーター、または構成的プロモーターの制御下にゲノムに挿入されている。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌における天然amtB遺伝子は、改変されておらず、天然amtB遺伝子の1つもしくは複数の追加のコピーが、細菌におけるプラスミド上に存在し、argAfbrの発現を制御する同じ誘導性プロモーター、例えば、FNRプロモーター、またはargAfbrの発現を制御するものと異なる誘導性プロモーター、または構成的プロモーターの制御下にある。代替実施形態では、天然amtB遺伝子は、改変されておらず、異なる細菌種に由来する非天然amtB遺伝子のコピーが、細菌におけるプラスミド上に存在し、argAfbrの発現を制御する同じ誘導性プロモーター、例えば、FNRプロモーター、またはargAfbrの発現を制御するものと異なる誘導性プロモーター、または構成的プロモーターの制御下にある。
いくつかの実施形態では、天然amtB遺伝子に突然変異を起こさせ、アンモニア輸送の増加を示す突然変異体を選択し、突然変異体したamtB遺伝子を単離し、遺伝子操作細菌に挿入する。いくつかの実施形態では、天然amtB遺伝子に突然変異を起こさせ、アンモニア輸送の増加を示す突然変異体を選択し、それらの突然変異体を用いて、本発明の細菌を作製する。本明細書に記載のアンモニア輸送体の改変は、プラスミドまたは染色体に存在し得る。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、大腸菌ニッスルであり、大腸菌ニッスルにおける天然amtB遺伝子は、改変されておらず、天然大腸菌ニッスルamtB遺伝子の1つもしくは複数の追加のコピーが、argAfbrの発現を制御する同じ誘導性プロモーター、例えば、FNRプロモーター、またはargAfbrの発現を制御するものと異なる誘導性プロモーター、または構成的プロモーターの制御下に大腸菌ニッスルゲノムに挿入されている。代替実施形態では、大腸菌ニッスルにおける天然amtB遺伝子は、改変されておらず、異なる細菌、例えば、ラクトバシラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)に由来する非天然amtB遺伝子のコピーが、argAfbrの発現を制御する同じ誘導性プロモーター、例えば、FNRプロモーター、またはargAfbrの発現を制御するものと異なる誘導性プロモーター、または構成的プロモーターの制御下に大腸菌ニッスルゲノムに挿入されている。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、大腸菌ニッスルであり、大腸菌ニッスルにおける天然amtB遺伝子は、改変されておらず、天然大腸菌ニッスルamtB遺伝子の1つもしくは複数の追加のコピーが、細菌におけるプラスミド上に存在し、argAfbrの発現を制御する同じ誘導性プロモーター、例えば、FNRプロモーター、またはargAfbrの発現を制御するものと異なる誘導性プロモーター、または構成的プロモーターの制御下にある。代替実施形態では、大腸菌ニッスルにおける天然amtB遺伝子は、改変されておらず、異なる細菌、例えば、ラクトバシラス・プランタルムに由来する非天然amtB遺伝子のコピーが、細菌におけるプラスミド上に存在し、argAfbrの発現を制御する同じ誘導性プロモーター、例えば、FNRプロモーター、またはargAfbrの発現を制御するものと異なる誘導性プロモーター、または構成的プロモーターの制御下にある。
医薬組成物および製剤
本明細書に記載の遺伝子操作細菌を含む医薬組成物は、高アンモニア血症に関連する障害または高アンモニア血症に随伴する症状(複数可)を治療する、管理する、改善する、かつ/または予防するために用いることができる。1つまたは複数の遺伝子操作細菌を、単独でまたは予防薬、治療薬および/または薬学的に許容される担体と一緒に含む医薬組成物を提供する。
特定の実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載の遺伝子改変を含むように操作された細菌の1つの種、菌株または亜型を含む。代替実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載の遺伝子改変を含むように操作された細菌の2つまたはそれ以上の種、菌株および/または亜型を含む。
本明細書に記載の医薬組成物は、有効成分を医薬用組成物に加工することを促進する、賦形剤および助剤を含む1つまたは複数の生理学的に許容される担体を用いて通常の方法で製剤化することができる。医薬組成物を製剤化する方法は、当技術分野で公知である(例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、Easton、PA参照)。いくつかの実施形態では、医薬組成物を打錠、凍結乾燥、直接圧縮、常法による混合、溶解、造粒、研和、乳化、カプセル封入、封入または噴霧乾燥にかけて、腸溶コーティングを施しても非被覆であってもよい、錠剤、顆粒剤、ナノ粒子、ナノカプセル、マイクロカプセル、微小錠剤、ペレット剤または散剤を形成する。適切な製剤は、投与経路に依存する。
本明細書に記載の遺伝子操作細菌は、任意の適切な剤形(例えば、液剤、カプセル剤、サシェ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、錠剤、腸溶性錠剤、懸濁散剤、顆粒剤または経口投与用のマトリックス持続放出製剤)の、および任意の適切な種類の投与(例えば、経口、局所、注射、即時放出、拍動性放出、遅延放出または持続放出)用の医薬組成物に製剤化することができる。遺伝子操作細菌の適切な投与量は、約105〜1012細菌、例えば、約105細菌、約106細菌、約107細菌、約108細菌、約109細菌、約1010細菌、約1011細菌または約1011細菌の範囲であり得る。組成物は、1日、週または月1回もしくは複数回投与することができる。組成物は、食事の前、食事中または後に投与することができる。一実施形態では、対象が食事をとる前に医薬組成物を投与する。一実施形態では、医薬組成物を食事と同時に投与する。一実施形態では、対象が食事をとった後に医薬組成物を投与する。
組成物は、日、週または月1回もしくは複数回投与することができる。遺伝子操作細菌は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、粘稠化剤、希釈剤、緩衝液、緩衝剤、界面活性剤、中性もしくは陽イオン性脂質、脂質複合体、リポソーム、浸透促進剤、担体化合物および他の薬学的に許容される担体または物質を含む医薬組成物に製剤化することができる。例えば、医薬組成物は、重炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、様々な糖および種類のデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコールならびに例えば、ポリソルベート20を含む表面活性剤の添加を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、重炭酸ナトリウムの溶液、例えば、重炭酸ナトリウムの1モル溶液(例えば、胃などの、酸性細胞環境を緩衝するために)に製剤化することができる。遺伝子操作細菌は、中性または塩の形態として投与すること、かつ製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等に由来するものなどの陰イオンとで形成されるものならびにナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等に由来するものなどの陽イオンとで形成されるものを含む。
本明細書で開示した遺伝子操作細菌は、軟膏剤、クリーム剤、経皮貼付剤、ローション剤、ゲル剤、シャンプー、噴霧剤、エアゾール剤、液剤、乳剤の形態でまたは当業者に周知の他の形態で局所投与すること、かつ製剤化することができる。例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、Easton、PAを参照されたい。一実施形態では、非噴霧用局所剤形については、局所適用に適合性であり、水より大きい動粘度を有する担体または1つもしくは複数の賦形剤を含む粘稠から半固体または固体剤形が用いられる。適切な製剤は、滅菌することができるまたは様々な特性、例えば、浸透圧に影響を及ぼすための補助剤(例えば、保存剤、安定剤、湿潤剤、緩衝剤または塩)と混合することができる、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、散剤、塗布剤、軟膏剤等を含むが、これらに限定されない。他の適切な局所剤形は、有効成分が固体または液体不活性担体と一緒に加圧揮発性物質(例えば、フレオンなどのガス状噴射剤)との混合物でまたはスクィーズボトルに包装されている噴霧用エアゾール製剤を含む。保湿剤または湿潤剤も医薬組成物および製剤に加えることができる。そのような付加的な成分の例は、当技術分野で周知である。一実施形態では、本発明の組換え細菌を含む医薬組成物は、衛生用品として製剤化することができる。例えば、衛生用品は、抗菌製剤または発酵ブロスなどの発酵製品であり得る。衛生用品は、例えば、シャンプー、コンディショナー、クリーム、パスタ、ローションおよびリップクリームであり得る。
本明細書で開示した遺伝子操作細菌は、経口投与することができ、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー、懸濁剤等として製剤化することができる。経口用医薬組成物は、固体賦形剤を用い、得られた混合物を場合によって粉砕し、所望の場合、適切な補助剤を加えた後に、顆粒剤の混合物を処理して、錠剤または糖衣錠コアを製造することができる。適切な賦形剤は、ラクトース、スクロース、マンニトールもしくはソルビトールを含む糖などの増量剤;トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボメチルセルロースナトリウムなどのセルロース組成物;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの生理学的に許容されるポリマーを含むが、これらに限定されない。架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤も加えることもできる。
錠剤またはカプセル剤は、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、スクロース、グルコース、ソルビトール、デンプン、ゴム、カオリンおよびトラガント);増量剤(例えば、ラクトース、結晶セルロースもしくはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、ステアリン酸、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、デンプン、安息香酸ナトリウム、L−ロイシン、ステアリン酸マグネシウム、タルクもしくはシリカ);崩壊剤(例えば、デンプン、ジャガイモデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、糖、セルロース誘導体、シリカ粉末);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容される賦形剤を用いて通常の手段により調製することができる。錠剤は、当技術分野で周知の方法により被覆することができる。コーティングシェルが存在していてもよく、一般的な膜は、ポリラクチド、ポリグリコール酸、ポリ無水物、他の生分解性ポリマー、アルギネート−ポリリシン−アルギネート(APA)、アルギネート−ポリメチレン−co−グアニジン−アルギネート(A−PMCG−A)、ヒドロキシメチルアクリレート−メチルアクリレート(HEMA−MMA)、多層HEMA−MMA−MAA、ポリアクリロニトリル塩化ビニル(PAN−PVC)、アクリロニトリル/メチルスルホン酸ナトリウム(AN−69)、ポリエチレングリコール/ポリペンタメチルシクロペンタシロキサン/ポリジメチルシロキサン(PEG/PD5/PDMS)、ポリN,N−ジメチルアクリルアミド(PDMAAm)、珪質カプセル化物、硫酸セルロース/アルギン酸ナトリウム/ポリメチレン−co−グアニジン(CS/A/PMCG)、酢酸フタル酸セルロース、アルギン酸ナトリウム、k−カラギーナン−ローカストビーンガムゲルビーズ、ゲラン−キサンタンビーズ、ポリ(ラクチド−−coグリコリド)、カラギーナン、デンプンポリ無水物、デンプンポリメタクリレート、ポリアミノ酸および腸溶コーティングポリマーを含むが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、消化管または消化管の特定の領域、例えば、大腸内への放出のために腸溶コーティングを施す。胃から結腸までの一般的なpHプロファイルは、約1〜4(胃)、5.5〜6(十二指腸)、7.3〜8.0(回腸)および5.5〜6.5(結腸)である。一部の疾患では、pHプロファイルを修正することができる。いくつかの実施形態では、コーティングは、放出部位を規定するために特定のpH環境において分解する。いくつかの実施形態では、少なくとも2種のコーティングを用いる。いくつかの実施形態では、外側コーティングおよび内側コーティングが異なるpHレベルで分解する。
経口投与用の液体製剤は、液剤、シロップ剤、懸濁剤または使用前に水もしくは他の適切な媒体で構成するための乾燥製剤の形態をとり得る。そのような液体製剤は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアラビアゴム);非水性媒体(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコールまたは分別植物油);および保存剤(例えば、メチルもしくはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)などの薬学的に許容される物質を用いて通常の手段により調製することができる。製剤は、適宜、緩衝塩類、着香料、着色剤および甘味料も含み得る。経口投与用の製剤は、本明細書に記載の遺伝子操作細菌の徐放、制御放出または持続放出用に適切に製剤化することができる。
一実施形態では、本開示の遺伝子操作細菌は、小児対象への投与に適する組成物に製剤化することができる。当技術分野で周知のように、小児は、胃排出速度、pH、消化管透過性等を含む多くの面で成人と異なる(Ivanovskaら、2014年)。さらに、投与経路および味覚特性などの、小児用製剤の受容性および好みは、容認できる小児のコンプライアンスを達成するために重要である。したがって、一実施形態では、小児対象への投与に適する組成物は、飲み込み易い若しくは溶ける剤形、または添加着香料、甘味料もしくは味覚ブロッカーを含む組成物などの、より味の良い組成物を含み得る。一実施形態では、小児対象への投与に適する組成物は、成人への投与に適するものでもあり得る。
一実施形態では、小児対象への投与に適する組成物は、液剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、懸濁剤もしくは液剤として再構成するための散剤、分散/発泡錠、咀嚼錠剤、グミキャンディー、ロリポップ、フリーザーポップ、トローチ剤、チューインガム、経口薄型ストリップ、口内崩壊錠剤、サシェ剤、軟ゼラチンカプセル剤、振りかけ経口散剤、または顆粒剤を含み得る。一実施形態では、組成物は、キャンディーに弾性、所望の噛みごたえのある堅さおよびより長い貯蔵寿命を与える、ゼラチン基剤から製造されるグミキャンディーである。いくつかの実施形態では、グミキャンディーは、甘味料または着香料も含み得る。
一実施形態では、小児対象への投与に適する組成物は、着香料を含み得る。本明細書で使用する場合、「着香料」は、製剤に明白な風味および芳香をもたらす物質(液体または固体)である。着香料は、製剤の食味を改善する助けともなる。着香料は、イチゴ、バニラ、レモン、ブドウ、風船ガムおよびチェリーを含むが、これらに限定されない。
特定の実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、不活性希釈剤または同化可食性担体とともに経口投与することができる。この化合物は、硬もしくは軟シェルゼラチンカプセルに封入、錠剤に圧縮、または対象の食事に直接混入することもできる。経口治療投与のために、化合物は、賦形剤とともに組込み、摂食できる錠剤、口腔錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハースなどの形態で用いることができる。非経口投与以外により化合物を投与するためには、その不活性化を防ぐための材料で化合物を被覆すること、またはそれ共に化合物を同時投与することが必要であり得る。
他の実施形態では、本発明の組換え細菌を含む医薬組成物は、摂食可能な製剤、例えば、食品であり得る。一実施形態では、食品は、乳、濃縮乳、発酵乳(ヨーグルト、酸乳、フローズンヨーグルト、乳酸菌発酵飲料)、粉乳、アイスクリーム、クリームチーズ、ドライチーズ、豆乳、発酵豆乳、野菜果実ジュース、果実ジュース、スポーツ飲料、菓子類、砂糖菓子、乳児食(乳児用ケーキなど)、栄養食品、動物飼料または栄養補助食品である。一実施形態では、食品は、発酵乳製品などの、発酵食品である。一実施形態では、発酵乳製品は、ヨーグルトである。他の実施形態では、発酵乳製品は、チーズ、乳、クリーム、アイスクリーム、ミルクセーキまたはケフィアである。他の実施形態では、本発明の組換え細菌は、プロバイオティクスとして機能することを意図する他の生菌細胞を含む製剤に組み込む。他の実施形態では、食品は、飲料である。一実施形態では、飲料は、果実ジュースベースの飲料または植物もしくはハーブエキスを含む飲料である。他の実施形態では、食品は、ゼリーまたはプリンである。本発明の組換え細菌の投与に適する他の食品は、当技術分野で周知である。例えば、それぞれの内容が参照により本明細書に明確に組み込まれる、米国特許出願公開第2015/0359894号および米国特許出願公開第2015/0238545号を参照されたい。他の実施形態では、本発明の医薬組成物は、パン、ヨーグルトまたはチーズなどの、食品に注入、噴霧、または振りかける。
いくつかの実施形態では、組成物は、腸溶コーティングを施したまたは非被覆の、ナノ粒子、ナノカプセル、マイクロカプセルまたは微小錠剤による、腸内投与、空腸内投与、十二指腸内投与、回腸内投与、胃シャント投与または結腸内投与用に製剤化する。医薬組成物は、例えば、ココアバターまたは他のグリセリドなどの通常の坐剤基剤を用いた、坐剤または停留かん腸剤などの直腸組成物に製剤化することもできる。組成物は、油性または水性媒体中懸濁剤、液剤または乳剤であってよく、懸濁化、安定化および/または分散剤を含み得る。
本明細書に記載の遺伝子操作細菌は、エアゾールの形態、噴霧剤、ミストまたは滴剤の形態に製剤化して鼻腔内に投与し、また適切な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガス)を用いることにより、加圧パックまたはネブライザーからエアゾール噴霧剤の形態で好都合に送達することができる。加圧エアゾールの投与単位は、定量を送出するために弁を備えることによって決定することができる。吸入器または吹送器に用いるカプセルおよびカートリッジ(例えば、ゼラチンの)は、ラクトースまたはデンプンなどの化合物の粉末混合物および適切な粉末基剤を含むものを製剤化することができる。
遺伝子操作細菌は、デポ製剤として投与し、製剤化することができる。そのような長時間作用性製剤は、埋め込みにより、または静脈内注射、皮下注射、局所注射、直接注射を含む注射、もしくは注入により投与することができる。組成物は、例えば、適切なポリマーもしくは疎水性材料(例えば、許容される油中乳剤として)またはイオン交換樹脂を用いて、あるいはわずかに溶ける誘導体として(例えば、わずかに溶ける塩として)製剤化することができる。
いくつかの実施形態では、単一剤形の、薬学的に許容される組成物を本明細書で開示する。単一剤形は、液体または固形であり得る。単一剤形は、変更なしに患者に直接投与することができ、または投与前に希釈もしくは再構成することができる。特定の実施形態では、単一剤形は、ボーラス型で、例えば、単回注射で、複数の錠剤、カプセル剤、丸剤等を含む経口投与を含む、単回経口投与で投与することができる。代替実施形態では、単一剤形は、例えば、注入により、一定の時間にわたって投与することができる。
医薬組成物の単一剤形は、医薬組成物を、より小さい分割量、一回量容器、一回量液体製剤、または腸溶コーティングを施しても非被覆であってもよい、錠剤、顆粒剤、ナノ粒子、ナノカプセル、マイクロカプセル、微小錠剤、ペレット剤もしくは散剤などの、一回量固形製剤に分割することによって用意することができる。固形製剤の一回量は、患者への投与前に液体、一般的に滅菌水または生理食塩水を加えることにより再構成することができる。
他の実施形態では、組成物は、制御放出または持続放出システムで送達することができる。一実施形態では、ポンプを用いて、本開示の治療薬の制御または持続放出を達成することができる(例えば、米国特許第5,989,463号参照)。持続放出製剤に用いられるポリマーの例は、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)、ポリメタクルリル酸、ポリグリコリド(PLG)、ポリ酸無水物、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)、ポリラクチド(PLA)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLGA)、ポリオルトエステルを含むが、これらに限定されない。持続放出製剤に用いられるポリマーは、不活性で、浸出性不純物を含まず、保存で安定で、滅菌で、生分解性であり得る。いくつかの実施形態では、制御または持続放出システムは、予防および治療標的の近くに配置することができ、したがって、全身投与量の一部を必要とするにすぎない。当業者に公知の任意の適切な技術を用いることができる。
投与計画は、治療反応をもたらすように調節することができる。投与は、疾患の重症度および反応性、投与経路、治療の時間経過(数日から数カ月、さらには数年)ならびに疾患の改善までの時間などのいくつかの因子に依存し得る。例えば、単回ボーラスは、1回で投与することができ、いくつかの分割量を所定の期間にわたって投与することができ、あるいは治療状況によって示される通りに減量または増量することができる。用量の明細は、活性化合物の固有の特性および達成されるべき特定の治療効果によって決定づけられる。投与量は、緩和されるべき状態の種類および重症度によって異なり得る。個別の対象について、個々の必要および担当臨床医の専門的判断に従って具体的な投与計画を長期にわたって調節することができる。本明細書で示す化合物の毒性および治療有効性は、細胞培養または動物モデルにおける標準的な薬学的方法により判断することができる。例えば、LD50、ED50、EC50およびIC50を決定することができ、毒性および治療効果の間の用量比(LD50/ED50)を治療指数として計算することができる。毒性副作用を示す組成物は、副作用を低減するために起こり得る被害を最小限にする注意深い修正を加えて用いることができる。投与は、最初に細胞培養アッセイおよび動物モデルから推定することができる。in vitroおよびin vivoアッセイならびに動物試験から得られるデータは、ヒトに用いる一連の用量を策定するのに用いることができる。
成分は、例えば、活性薬剤の量を示したアンプルまたはサシェなどの密閉容器に入れた乾燥凍結乾燥粉末または水不含有濃縮物として、単位剤形で別個にまたは一緒に混合して供給される。投与方法が注射による場合、投与前に成分を混合することができるように、注射用滅菌水または生理食塩水のアンプルを用意することができる。
医薬組成物は、薬剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密閉容器に包装することができる。一実施形態では、医薬組成物のうちの1つまたは複数を密閉容器に入れた乾燥滅菌凍結乾燥粉末または水不含有濃縮物として供給し、対象への投与に適切な濃度に再構成することができる(例えば、水または生理食塩水で)。一実施形態では、予防もしくは治療薬または医薬組成物のうちの1つまたは複数を2℃〜8℃で保存された密閉容器に入れた乾燥滅菌凍結乾燥粉末として供給し、再構成した後1時間以内、3時間以内、5時間以内、6時間以内、12時間以内、24時間以内、48時間以内、72時間以内または1週間以内に投与する。凍結乾燥剤形について主として0〜10%スクロース(最適には0.5〜1.0%)などの凍結防止剤を含めることができる。他の適切な凍結防止剤は、トレハロースおよびラクトースを含む。他の適切な充填剤は、いずれかを0〜0.05%の濃度で含めることができる、グリシンおよびアルギニン、ならびにポリソルベート80(0.005〜0.01%の濃度で任意選択で含める)を含む。さらなる界面活性剤は、ポリソルベート20およびBRIJ界面活性剤を含むが、これらに限定されない。医薬組成物は、注射用容器として調製することができ、吸収または分散を高めるために用いられるもの、例えば、ヒアルロニダーゼなどの佐剤として有用な物質をさらに含み得る。
治療の方法
本発明の他の態様は、高アンモニア血症に関連する疾患または障害を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、これらの疾患または障害に随伴する1つもしくは複数の症状を低減、改善または消失させる方法を提供する。いくつかの実施形態では、障害は、アルギニノコハク酸尿症、アルギナーゼ欠損症、カルバモイルリン酸シンテターゼ欠損症、シトルリン血症、N−アセチルグルタミン酸シンテターゼ欠損症およびオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症などの尿素回路異常症である。代替実施形態では、障害は、肝性脳症、急性肝不全もしくは慢性肝不全などの肝臓障害;有機酸障害;イソ吉草酸尿症;3−メチルクロトニルグリシン尿症;メチルマロン酸血症;プロピオン酸尿症;脂肪酸酸化欠損症;カルニチン回路欠損症;カルニチン欠乏症;β−酸化欠損症;リジン尿性タンパク不耐症;ピロリン−5−カルボキシレートシンテターゼ欠損症;ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症;オルニチンアミノトランスフェラーゼ欠損症;炭酸脱水素酵素欠損症;インスリン過剰症高アンモニア血症症候群;ミトコンドリア障害;バルプロ酸療法;アスパラギナーゼ療法;完全腸管外栄養;グリシン含有溶液を用いる膀胱鏡検査;肺/骨髄移植後;門脈体静脈短絡;***症;尿管拡張症;多発性骨髄腫;化学療法;感染症;神経因性膀胱;または腸内細菌異常増殖である。いくつかの実施形態では、それに随伴する症状(複数可)は、発作、運動失調、脳卒中様病変、昏睡、精神病、視力障害、急性脳症、脳浮腫ならびに嘔吐、呼吸性アルカローシスおよび低体温症を含むが、これらに限定されない。
方法は、本明細書に記載の細菌の少なくとも1つの遺伝子操作種、菌株または亜型を含む医薬組成物を調製し、治療有効量の医薬組成物を対象に投与することを含み得る。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、例えば、液体懸濁剤で経口投与する。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、ゲルキャップ中で凍結乾燥し、経口投与する。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、胃管または胃シャントにより投与する。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、直腸に、例えば、かん腸剤により投与する。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、局所、腸内、空腸内、十二指腸内、回腸内および/または結腸内投与する。
特定の実施形態では、対象への医薬組成物の投与により、対象におけるアンモニア濃度が低下する。いくつかの実施形態では、本開示の方法は、対象におけるアンモニア濃度を無処置または対照対象におけるレベルと比較して少なくとも約10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上低下させ得る。いくつかの実施形態では、低下は、医薬組成物の投与の前および後の対象におけるアンモニア濃度を比較することによって測定する。いくつかの実施形態では、高アンモニア血症を治療または改善する方法は、状態または障害の1つもしくは複数の症状が少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上改善することを可能にする。
医薬組成物の投与前、投与中および後に、対象におけるアンモニア濃度は、血液、血清、血漿、尿、糞便物質、腹水、腸粘膜剥離物などの生物学的試料、組織から採取した試料、および/または胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、結腸、直腸、肛門管のうちの1つもしくは複数の内容物から採取した試料について測定することができる。いくつかの実施形態では、方法は、対象におけるアンモニア濃度を、検出できないレベルに、または治療前の対象のアンモニア濃度の約1%、2%、5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%もしくは80%より低いレベルに低下させるための本発明の組成物の投与を含み得る。
特定の実施形態では、突然変異アルギニンレギュロンを含む遺伝子操作細菌は、大腸菌ニッスルである。遺伝子操作細菌は、例えば、消化管内もしくは血清中の防御因子(Sonnenbornら、2009年)により、または投与の数時間もしくは数日後にキルスイッチの活性化により、殺滅することができる。したがって、突然変異アルギニンレギュロンを含む医薬組成物は、治療有効量および頻度で再投与することができる。マウスにおけるin vivoでのニッスルの滞留期間を図34および35に示す。代替実施形態では、遺伝子操作細菌は、投与後数時間または数日以内に殺滅されず、増殖し、消化管にコロニー形成し得る。
医薬組成物は、単独で、またはフェニル酪酸ナトリウム、安息香酸ナトリウムおよびフェニル酪酸グリセロールを含むが、これらに限定されない、1つもしくは複数の追加の治療薬と併用して投与することができる。1つもしくは複数の追加の治療薬の選択に際して考慮すべき重要な事柄は、薬剤(複数可)が本発明の遺伝子操作細菌に適合すべきであること、例えば、薬剤(複数可)が細菌を殺滅してはならないことである。
一実施形態では、遺伝子操作細菌は、HEの予防、治療または管理のために投与する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、HEの再発を防ぐための他の治療アプローチと併用して投与する。一実施形態では、遺伝子操作細菌は、分枝鎖アミノ酸補足と併用して投与する。一実施形態では、遺伝子操作細菌は、アセチル−1−カルニチンおよび/または安息香酸ナトリウムおよび/または亜鉛および/またはアカルボースおよび/またはオルニチンアスパラギン酸と併用して投与する。一実施形態では、遺伝子操作細菌は、患者におけるHEを治療し、かつ予防するために一般的に適用される、非吸収性二糖類と併用して投与する。一実施形態では、遺伝子操作細菌は、ラクトースおよび/またはラクチトールと併用して投与する。
一実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、HEの治療用の1つまたは複数の抗生物質と併用して投与する。そのような抗生物質の例は、アミノグリコシド、例えば、ネオマイシンおよび/またはパラモマイシンなどの、非吸収性抗生物質を含むが、これらに限定されない。一実施形態では、抗生物質は、リファマイシンである。一実施形態では、抗生物質は、リファマイシン誘導体、例えば、リファキシミンを含むが、これに限定されない、合成誘導体である。
リファキシミンは、6カ月間にわたって、プラセボと比較して、肝性脳症のエピソードのリスクを著しく低下させることが示された(Bassら、Rifaximin Treatment in Hepatic Encephalopathy; N Engl J Med 2010;362巻:1071〜1081頁)。リファキシミンは、リファンピンの半合成誘導体であり、細菌DNA依存性RNAポリメラーゼのベータサブユニットに結合することにより作用し、それによって転写を阻止する。結果として、細菌のタンパク質合成および増殖が抑制される。
リファキシミンは、in vitroおよび臨床試験の両方において大腸菌に対して活性であることが示された。したがって、リファキシミンとの併用療法が有効であるために、遺伝子操作細菌がリファキシミン耐性をさらに含まなければならないことが理解される。
リファキシミンに対する耐性は、rpoB遺伝子の突然変異によって主としてもたらされる。これは、DNA依存性RNAポリメラーゼ上の結合部位を変化させ、リファキシミン結合親和性を低下させ、それにより、有効性を低下させる。一実施形態では、リファキシミン耐性は、rpoB遺伝子における突然変異である。そのような突然変異の非限定的な例は、例えば、Rodriguez−Verdugo、Evolution of Escherichia coli rifampicin resistance in an antibiotic−free environment during thermal stress、BMC Evol Biol.、2013年2月22日、13巻:50頁に記載されている。注目すべきことに、rpoB共通配列の同じ3コドンにおける突然変異が数種の細菌種の無関係のリファキシミン耐性臨床分離株において反復して起こる(Goldstein、Resistance to rifampicin:総説においてレビューされている;その内容がその全体として参照により本明細書に組み込まれる、The Journal of Antibiotics(2014年)、1〜6頁)。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、例えば、rpoB遺伝子における公知のリファキシミン耐性突然変異を含む。他の実施形態では、リファキシミン耐性をもたらす有用な突然変異を同定するために、遺伝子操作細菌を漸増量のリファキシミンに曝露する、スクリーニングを用いることができる。
いくつかの実施形態では、医薬組成物を食物とともに投与する。代替実施形態では、食物を摂食する前または後に医薬組成物を投与する。医薬組成物を、1つまたは複数の食事改善、例えば、低タンパク質食およびアミノ酸補給と併用して投与することができる。医薬組成物の用量および投与頻度は、症状の重症度および障害の進行に基づいて選択することができる。適切な治療有効量および/または投与頻度は、担当臨床医が選択することができる。
表20に高アンモニア血症患者(UCD<HE)におけるフェニルアラニンの平均レベルに基づく、標的分解速度の非限定的な例を示す。
in vivoでの治療
本発明の遺伝子操作細菌は、in vivoで、例えば、動物モデルにおいて評価することができる。高アンモニア血症に関連する疾患または状態の任意の適切な動物モデル(例えば、Deignanら、2008年;Nicaiseら、2008年参照)、例えば、急性肝不全および高アンモニア血症のマウスモデルを用いることができる。この急性肝不全および高アンモニア血症は、チオールアセトアミド(TAA)による処理により誘発することができる(Basileら、1990年;Nicaiseら、2008年)。あるいは、肝損傷は、物理的胆管結紮を用いてモデル化することができる(Rivera−Manciaら、2012年)。高アンモニア血症は、酢酸アンモニウムおよび/または塩化マグネシウムの経口補給によっても誘発することができる(Azorinら、1989年;Rivera−Manciaら、2012年)。
さらに、CCl4は、動物における肝線維症および肝硬変を誘発するためにしばしば用いられる(Nhungら、Establishment of a standardized mouse model of hepatic fibrosis for biomedical research; Biomedical Research and Therapy 2014年、1巻(2号):43〜49頁)。
本発明の遺伝子操作細菌は、例えば、強制経口投与により動物に投与し、例えば、血液試料中のアンモニアおよび/または糞便試料中のアルギニン、シトルリンもしくは他の副産物を測定することによって治療有効性を判定することができる。
本明細書を通して引用した参考文献の完全な典拠は、以下の通りである。
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[実施例]
以下の実施例は、本開示の例示的実施形態を示す。当業者は、本開示の精神または範囲を変更することなく実施することができる多くの変更形態および変形形態を認識する。そのような変更形態および変形形態は、本開示の範囲内に含まれる。実施例は、本開示を多少なりとも限定するものではない。
アルギニンリプレッサー結合部位(ARGボックス)
[実施例1]
ARGボックス突然変異
大腸菌ニッスルにおける各アルギニン生合成オペロンのArgR結合部位を含む野生型ゲノム配列を表3に示す。それらの配列の改変は、以下のパラグラフに従って設計される。各野生型配列については、ARGボックスを斜体で示す。アルギニンレギュロンのARGボックスは、各オペロンのプロモーター領域と重複する。下線付きの配列は、RNAポリメラーゼ結合部位を表し、それらの配列は、変更しなかった。ArgR結合時にDNAメチル化から保護される塩基は網掛け付きであり、ArgR結合時にヒドロキシルラジカル攻撃から保護される塩基は太字である。網掛け付きの塩基および太字の塩基は、ArgR結合を破壊するための突然変異の主要な標的である。
[実施例2]
ラムダレッド組換え
ラムダレッド組換えを用いて、染色体改変、例えば、ARGボックス突然変異を施した。ラムダレッドは、バクテリオファージラムダに由来する組換え酵素を用いて、カスタムDNAの断片を大腸菌の染色体に挿入する手法である。pKD46プラスミドを大腸菌ニッスル宿主株に導入する。大腸菌ニッスル細胞をLB培地中で一夜増殖させる。一夜培養を5mLのLB培地で1:100に希釈し、0.4〜0.6のOD600に達するまで増殖させる。すべての管、溶液およびキュベットを4℃に予冷する。大腸菌細胞を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を1mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を0.5mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を0.1mLの4℃水に再懸濁する。エレクトロポレーターを2.5kVに設定した。1ngのpKD46プラスミドDNAを大腸菌細胞に加え、ピペッティングし、滅菌済み冷却キュベット中にピペッティングすることによって混合する。乾燥キュベットを試料チャンバーに入れ、電気パルスを印加する。1mLの室温SOC培地を直ちに加え、混合物を培養管に移し、30℃で1時間インキュベートする。細胞を選択培地プレート上に広げ、30℃で一夜インキュベートする。
表3に示す所望のARGボックス配列を含むDNA配列を遺伝子合成会社に発注した。argAオペロンについては、突然変異調節領域は、以下の核酸配列(配列番号2)を含む:gcaaaaaaacaCTTtaaaaaCTTaataatttcCTTtaatcaCTTaaagaggtgtaccgtg。
ラムダ酵素を用いて、この構築物を相同的組換えにより大腸菌ニッスルのゲノムに挿入する。構築物は、そのDNA配列に基づいて大腸菌ニッスルのゲノムにおける特定の部位に挿入される。構築物を特定の部位に挿入するために、構築物に隣接する相同DNA配列を識別する。DNAの相同配列は、突然変異配列の両側の約50塩基を含む。相同配列は、合成遺伝子の一部として注文する。あるいは、相同配列は、PCRにより加えることができる。構築物を用いて、大腸菌ニッスルにおけるargAの上流の天然配列を置換する。構築物は、組換えによって除去することができる抗生物質耐性マーカーを含む。得られる突然変異argA構築物は、argAの上流の相同性の約50塩基、組換えによって除去することができるカナマイシン耐性マーカー、
gcaaaaaaacaCTTtaaaaaCTTaataatttcCTTtaatcaCTTaaagaggtgtaccgtg、および
argAと相同性の約50塩基を含む。
いくつかの実施形態では、ARGボックスは、上述のようにargG調節領域において突然変異させ、BBa_J23100構成的プロモーターをラムダレッド組換えを用いて調節領域に挿入した(SYN−UCD105)。これらの細菌は、アルギニンを産生することができた。代替実施形態では、argG調節領域(配列番号16)は、ArgR抑制性のままであり(SYN−UCD104)、細菌は、シトルリンを産生することができた。
[実施例3]
大腸菌ニッスルの形質転換
突然変異ARGボックス構築物をpKD46を含む大腸菌ニッスルに導入する。すべての管、溶液およびキュベットを4℃に予冷する。一夜培養をアンピシリンを含む5mLのLB培地で1:100に希釈し、0.1のOD600に達するまで増殖させる。0.05mLの100X L−アラビノース保存溶液を加えて、pKD46ラムダレッド発現を誘導する。培養を0.4〜0.6のOD600に達するまで増殖させる。大腸菌細胞を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を1mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を0.5mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を0.1mLの4℃水に再懸濁する。エレクトロポレーターを2.5kVに設定する。0.5μgの突然変異ARGボックス構築物を細胞に加え、ピペッティングにより混合し、滅菌済み冷却キュベット中にピペッティングする。乾燥キュベットを試料チャンバーに入れ、電気パルスを印加する。1mLの室温SOC培地を直ちに加え、混合物を培養管に移し、37℃で1時間インキュベートする。細胞をカナマイシンを含むLBプレート上に広げ、一夜インキュベートする。
[実施例4]
突然変異体の確認
突然変異体の存在をコロニーPCRにより確認する。コロニーをピペットチップにより採取し、上下にピペッティングすることによって20μlの冷ddH2Oに再懸濁する。3μlの懸濁液を、後の使用のために適切な抗生物質を含むインデックスプレート上にピペットで移す。インデックスプレートを37℃で一夜増殖させる。5μLの10X PCR緩衝液、0.6μlの10mM dNTPs、0.4μLの50mM Mg2SO4、6.0μLの10Xエンハンサーおよび3.0μLのddH2Oを用いてPCRマスターミックスを調製する(PCR反応当たり15μLのマスターミックス)。argA突然変異構築物に特有の2μLのプライマー(100μM保存液)を16μLのddH2Oに混合することによって10μMプライマーミックスを調製する。各20μL反応について、15μLのPCRマスターミックス、2.0μLのコロニー懸濁液(鋳型)、2.0μLのプライマーミックスおよび1.0μLのPfx Platinum DNA PolをPCR管中で混合する。PCRサーモサイクラーを次のようにプログラムし、ステップ2〜4を34回反復する:1) 5:00分に94℃、2)0:15分に94℃、3)0:30分に55℃、4)2:00分に68℃、5)7:00分にm68℃および次に4℃に冷却する。10μLの各アンプリコンおよび2.5μLの5X染料を用いてPCR産物をゲル電気泳動により解析する。突然変異がゲノムに挿入された場合のみ、PCR産物が形成する。
[実施例5]
選択マーカーの除去
抗生物質耐性遺伝子をpCP20で除去する。突然変異ARGボックスを有する各菌株を0.4〜0.6のOD600に達するまで抗生物質を含むLB培地中で37℃で増殖させる。すべての管、溶液およびキュベットを4℃に予冷する。細胞を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を1mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を0.5mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を0.1mLの4℃水に再懸濁する。エレクトロポレーターを2.5kVに設定する。1ngのpCP20プラスミドDNAを細胞に加え、ピペッティングにより混合し、滅菌済み冷却キュベット中にピペッティングする。乾燥キュベットを試料チャンバーに入れ、電気パルスを印加する。1mLの室温SOC培地を直ちに加え、混合物を培養管に移し、30℃で1〜3時間インキュベートする。細胞をカナマイシンを含むLBプレート上に広げ、一夜インキュベートする。一夜で十分なOD600に増殖しないコロニーは、さらに24時間インキュベートする。200μLの細胞をアンピシリンプレート上に広げ、200μLの細胞をカナマイシンプレート上に広げ、両方を37℃で一夜増殖させる。アンピシリンプレートは、pCP20を有する細胞を含む。カナマイシンプレートは、いくつの細胞がエレクトロポレーションで生き残るかの兆候を示す。アンピシリンプレートからの形質転換細胞を43℃で非選択的に精製し、一夜増殖させる。
[実施例6]
形質転換細胞の確認
精製形質転換細胞をアンピシリンおよびカナマイシンに対する感受性について試験する。43℃で増殖したプレートからのコロニーを採取し、10μLのLB培地に再懸濁する。3μLの細胞懸濁液を次の3つのプレートのそれぞれにピペッティングする。1)宿主菌株のゲノムにおけるkanR遺伝子の存否について試験する、カナマイシンを37℃でインキュベートしたLBプレート;2)pCP20プラスミドからのampR遺伝子の存否について試験する、アンピシリンを37℃でインキュベートしたLBプレート;および3)37℃でインキュベートした抗生物質を含まないLBプレート。個別のコロニーについてカナマイシンまたはアンピシリンプレート上に増殖が認められない場合、kanR遺伝子およびpCP20プラスミドの両方が失われたこととなり、さらなる解析のためにコロニーを残しておく。残しておいたコロニーをLBプレート上に再び画線して、単一コロニーを得て、37℃で一夜増殖させる。突然変異ゲノムARGボックスの存在は、ゲノムのargA領域の配列決定により確認する。
ラムダレッド組換えの方法、大腸菌ニッスルの形質転換、突然変異の確認、選択マーカーの除去、および形質転換細胞の確認/配列決定を表3に示すARGボックス突然変異およびオペロンのそれぞれについて反復する。得られる細菌は、ARGボックスへのArgRの結合が減少し、オペロンの調節領域への全ArgR結合が減少するような、アルギニン生合成酵素をコードする1つまたは複数のオペロンの各ARGボックスにおける突然変異を含む。
[実施例7]
アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼ(argAfbr)
上述のARGボックスの突然変異に加えて、大腸菌ニッスル細菌は、次のプロモーター:テトラサイクリン誘導性プロモーター、配列番号18〜29から選択されるFNRプロモーターのそれぞれの制御下に発現するアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼ(argAfbr、配列番号30)遺伝子をさらに含む。本明細書に記載の通り、他のプロモーターを用いることができる。
argAfbr遺伝子は、高コピープラスミド、低コピープラスミドまたは染色体上に発現する。SYN−UCD101は、プラスミド上の野生型ArgR、野生型ArgA、テトラサイクリン誘導性argAfbrならびに各アルギニン生合成オペロンの各ARGボックスにおける突然変異を含む。プラスミドは、機能性ArgR結合部位、すなわち、ARGボックスを含まない。SYN−UCD101を用いて、プラスミド上の野生型ArgR、野生型ArgA、テトラサイクリン誘導性argAfbrならびに各アルギニン生合成オペロンの各ARGボックスにおける突然変異を含む、SYN−UCD102を作製した。該プラスミドは、機能性ArgR結合部位、すなわち、ARGボックスをさらに含む。場合によっては、機能性ArgRの存在および/または蓄積がARGボックス以外の部位におけるオフターゲット結合をもたらし得る。このプラスミドに機能性ARGボックスを導入することは、オフターゲットArgR結合を低減または消失させるのに、すなわち、ArgRシンクとしての役割を果たすことによって、有用なものであり得る。SYN−UCD104は、低コピープラスミド上の野生型ArgR、野生型ArgA、テトラサイクリン誘導性argAfbr、テトラサイクリン誘導性argG、およびargGを除く各アルギニン生合成オペロンの各ARGボックスにおける突然変異を含む。SYN−UCD105は、低コピープラスミド上の野生型ArgR、野生型ArgA、テトラサイクリン誘導性argAfbr、構成的に発現するargG(BBa_J23100構成的プロモーターを含む配列番号17)および各アルギニン生合成オペロンの各ARGボックスにおける突然変異を含む。SYN−UCD103は、対照ニッスル構築物である。
argAfbr遺伝子を、大腸菌ニッスルにおける以下の挿入部位:malE/K、araC/BAD、lacZ、thyA、malP/Tのうちの1つまたは複数における細菌ゲノムに挿入する。任意の適切な挿入部位を用いることができる。例えば、図18を参照されたい。挿入部位は、ゲノムにおけるどこであってよく、例えば、thyA(栄養要求体を作製するため)などの、生存および/または増殖に必要な遺伝子;ゲノム複製の部位の近傍などの、ゲノムの活性部分;および/またはアラビノースオペロンのAraBおよびAraC間などの、意図しない転写のリスクを低減するために多様なプロモーター間であってもよい。挿入の部位において、挿入部位と、およびargAfbr構築物と相同であるDNAプライマーを設計する。標的部位との相同性を有する構築物を含む線状DNA断片をPCRにより作製し、ラムダレッド組換えを上述のように実施する。
得られる大腸菌ニッスル細菌は、アルギニン生合成酵素をコードするオペロンのうちの1つまたは複数の、N−アセチルグルタミン酸シンテターゼへのArgR結合およびアルギニン結合を介した、アルギニン媒介抑制を減少させる核酸突然変異を含むように遺伝子操作されており、それによってアルギニンおよび/またはシトルリンの生合成が強化される。
アルギニンリプレッサー(ArgR)配列 大腸菌ニッスルにおける野生型argRヌクレオチド配列およびargR欠失後のヌクレオチド配列を以下の表21および表22に示す。
ArgRの欠失
pKD46プラスミドを大腸菌ニッスル宿主株に導入する。大腸菌ニッスル細胞をLB培地中で一夜増殖させる。一夜培養を5mLのLB培地で1:100に希釈し、0.4〜0.6のOD600に達するまで増殖させる。すべての管、溶液およびキュベットを4℃に予冷する。大腸菌細胞を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を1mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を0.5mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を0.1mLの4℃水に再懸濁する。エレクトロポレーターを2.5kVに設定した。1ngのpKD46プラスミドDNAを大腸菌細胞に加え、ピペッティングし、滅菌済み冷却キュベット中にピペッティングすることによって混合する。乾燥キュベットを試料チャンバーに入れ、電気パルスを印加する。1mLの室温SOC培地を直ちに加え、混合物を培養管に移し、30℃で1時間インキュベートする。細胞を選択培地プレート上に広げ、30℃で一夜インキュベートする。
ArgR遺伝子の上流および下流の相同性の約50塩基をPCRによりpKD4プラスミドにおけるカナマイシン耐性遺伝子に加えて、次のKanR構築物:(ArgRの上流の約50塩基)(ターミネーター)(pKD4のFRT部位により隣接されたkanR遺伝子)(argRの下流のDNA)を作製する。
いくつかの実施形態では、argRおよびargG遺伝子の両方を上述のラムダレッド組換えを用いて欠失させることにより、細菌は、シトルリンを産生することができる。
[実施例10]
アルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼ(argAfbr)およびArgR欠失を有する細菌菌株
上述のArgR欠失に加えて、大腸菌ニッスル細菌は、以下のプロモーターのそれぞれの制御下に発現するアルギニンフィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼ(argAfbr、配列番号30)遺伝子をさらに含む:テトラサイクリン誘導性プロモーター、配列番18〜29から選択されるFNRプロモーター。上述のように、他のプロモーターを用いることができる。
argAfbr遺伝子は、高コピープラスミド、低コピープラスミドまたは染色体上に発現する。ArgRは、SYN−UCD201、SYN−UCD202およびSYN−UCD203のそれぞれにおいて欠失している(ΔArgR)。SYN−UCD201は、野生型argAをさらに含むが、誘導性argAfbrを欠いている。SYN−UCD202は、ΔArgRおよび高コピープラスミド上のテトラサイクリン誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む。SYN−UCD203は、ΔArgRおよび低コピープラスミド上のテトラサイクリン誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む。SYN−UCD204は、ΔArgRおよび低コピープラスミド上のテトラサイクリン誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む。SYN−UCD205は、ΔArgRおよび低コピープラスミド上のFNR誘導性プロモーター(fnrS2)の制御下に発現するargAfbrを含む。
argAfbr遺伝子を、大腸菌ニッスルにおける以下の挿入部位:malE/K、araC/BAD、lacZ、thyA、malP/Tのうちの1つまたは複数における細菌ゲノムに挿入する。任意の適切な挿入部位を用いることができる。例えば、図18を参照されたい。挿入部位は、ゲノムにおけるどこであってよく、例えば、thyA(栄養要求体を作製するため)などの、生存および/または増殖に必要な遺伝子;ゲノム複製の部位の近傍などの、ゲノムの活性部分;および/またはアラビノースオペロンのAraBおよびAraC間などの、意図しない転写のリスクを低減するために多様なプロモーター間であってもよい。挿入の部位において、挿入部位と、およびargAfbr構築物と相同であるDNAプライマーを設計する。標的部位との相同性を有する構築物を含む線状DNA断片をPCRにより作製し、ラムダレッド組換えを上述のように実施する。得られる大腸菌ニッスル細菌は、欠失ArgRおよび挿入フィードバック抵抗性N−アセチルグルタミン酸シンテターゼを有し、それにより、アルギニンまたはシトルリン生合成を増加させる。
[実施例11]
ΔThyAの発生
栄養要求性突然変異は、細菌が必須栄養素を産生するために必要な遺伝子(複数可)を欠いているため、生存または増殖に必須である、外部から加えられる栄養素の非存在下では細菌を死滅させる。栄養要求性の改変を有する遺伝子操作細菌を作製するために、オリゴヌクレオチド合成に必須の遺伝子であるthyAを欠失させた。大腸菌ニッスルにおけるthyAの欠失は、チミジンが補給されない限り、LBプレート上でコロニーを形成することができない菌株を生じさせる。
thyA::cam PCR断片を以下のように3ラウンドのPCRを用いて増幅した。100μmの濃度で用いたプライマーの配列は、表23に見いだされ
る。
第1のPCRラウンドについては、鋳型としての1ng pKD3、25μl2xphusion、0.2μlプライマーSR36およびSR38、ならびに0、0.2、0.4または6μl DMSOを含む4x50μl PCR反応物をヌクレアーゼ不含有水を用いて50μlとし、以下のサイクル条件下で増幅した。
ステップ1:30秒間98c
ステップ2:10秒間98c
ステップ3:15秒間55c
ステップ4:20秒間72c
反復ステップ2〜4:30サイクル
ステップ5:5分間72c
その後、5μlのPCR反応をアガロースゲル上で行って、適切なサイズのPCR産物を確認した。ZymocleanゲルDNA回収キットを用いて製造業者の指示に従って、残りのPCR反応からPCR産物を精製し、30μlのヌクレアーゼ不含有水で溶出した。
第2のラウンドのPCRについては、ラウンド1からの1μlの精製PCR産物を、0.2μlのプライマーSR33およびSR34を除き、上で述べた4x50μl PCR反応における鋳型として用いた。サイクル条件は、第1のPCR反応について上述したのと同じであった。PCR産物をアガロースゲルにかけて、増幅を確認し、精製し、上述のように30μlで溶出した。
第3のラウンドのPCRについては、ラウンド2からの1μlの精製PCR産物を、プライマーSR43およびSR44を除いて、上で述べた4x50μl PCR反応における鋳型として用いた。サイクル条件は、ラウンド1および2について述べたのと同じであった。上述のように増幅を確認し、PCR産物を精製し、溶出した。濃度および純度は、分光光度計を用いて測定した。thyAの上流に相同の92bp、frt部位により隣接されたクロラムフェニコールカセットおよびthyA遺伝子の下流に相同の98bpを含む、得られた線状DNA断片を組換えのために増殖させたpKD46を含む大腸菌ニッスル1917株に形質転換させた。エレクトロポレーションの後、3mMチミジンを含む1mlのSOC培地を加え、細胞を振盪しながら37℃で2時間回復させた。次いで細胞を10,000xgで1分間ペレット化し、上清を捨て、細胞ペレットを3mMチミジンを含む100μlのLBに再懸濁し、3mM thyおよび20μg/mlクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上に広げた。細胞を37℃で一夜インキュベートした。LBプレート上に出現したコロニーを再び画線した。+cam 20μg/ml+または−thy 3mM(thyA栄養要求体のみがthy 3mMを添加した培地中で増殖する)
次に、pCP20形質転換によって抗生物質耐性を除去した。pCP20は、酵母Flp組換え遺伝子、FLP、クロラムフェニコールおよびアンピシリン耐性遺伝子および温度感受性複製を有する。細胞を選択抗生物質を含むLB培地中でOD600=0.4〜0.6となるまで37℃で増殖させた。1mLの細胞を次のように洗浄した。細胞を16,000xgで1分間ペレット化した。上清を捨て、ペレットを1mL氷冷10%グリセロールに再懸濁した。この洗浄ステップを3回反復した。最終ペレットを70μlの氷冷10%グリセロールに再懸濁した。次に、細胞を1ngのpCP20プラスミドDNAとともにエレクトロポレートし、3mMチミジンを添加した1mLのSOCを直ちにキュベットに加えた。細胞を再懸濁し、培養管に移し、30℃で1時間増殖させた。次に、細胞を10,000xgで1分間ペレット化し、上清を捨て、細胞ペレットを3mMチミジンを含む100μlのLBに再懸濁し、3mM thyおよび100μg/mlカルベニシリンを含むLB寒天プレート上に広げ、30℃で16〜24時間増殖させた。次に、形質転換細胞を42℃で非選択的(無抗生物質)にコロニー精製した。
コロニー精製形質転換細胞を試験するために、コロニーを42℃プレートからピペットチップで採取し、10μlのLBに再懸濁した。3μLの細胞懸濁液を次の一組の3つのプレート上にピペッティングした:Cam(37℃;宿主菌株のゲノムにおけるCamR遺伝子の存在/非存在について試験する)、Amp(30℃;pCP20プラスミドからのAmpRの存在/非存在について試験する)および37℃のLBのみ(クロラムフェニコールカセットおよびpCP20プラスミドを失った所望の細胞)。CamまたはAmpプレートのいずれにおいても増殖が存在しない場合、コロニーは治癒したとみなし、採取し、LBプレート上に再画線して、単一コロニーを得て、37℃で一夜増殖させた。
[実施例12]
アンモニアの定量
上述の遺伝子操作細菌を5mLのLB中で一夜増殖させた。翌日、細胞をペレット化し、M9+グルコースで洗浄し、ペレット化し、3mLのM9+グルコースに再懸濁した。細胞培養を振盪(250rpm)しながら4時間インキュベートし、Coy嫌気性チャンバー(90%N2、5%CO2、5%H2を供給)中で37℃で好気的または嫌気的にインキュベートした。各細胞の相対存在量を決定するために、ベースライン時(t=0)、2時間目および4時間目に各細胞培養のOD600を測定した。
培地中のアンモニアの濃度を決定するために、t=0、2時間および4時間目に各細胞培養の1mLアリコートをNova Biomedical Bioprofile Analyzer 300で分析した。SYN−UCD101およびSYN−UCD102の両方がin vitroでアンモニアを消費することができた(図26)。図25、26および27にSYN−UCD202、SYN−UCD204、SYN−UCD103およびブランク対照を用いたアンモニア濃度の棒グラフを示す。
[実施例13]
アルギニンおよびシトルリンの定量
いくつかの実施形態では、上述の遺伝子操作細菌をLB中で振盪しながら37℃で一夜増殖させる。細菌を5mLのLBで1:100に希釈し、振盪しながら37℃で1.5時間増殖させる。細菌培養を以下のように誘導する。(1)FNR誘導性argAfbrを含む細菌を37℃のCoy嫌気性チャンバー(90%N2、5%CO2、5%H2および20mM硝酸塩を供給)中で嫌気的条件でLB中で37℃で最長4時間誘導する。(2)テトラサイクリン誘導性argAfbrを含む細菌をアンヒドロテトラサイクリン(100ng/mL)により誘導する。(3)アラビノース誘導性argAfbrを含む細菌をグルコース欠損培地中で1%アラビノースにより誘導する。誘導後、細菌細胞をインキュベーターから除去し、最大速度で5分間遠沈する。細菌を1mLのM9グルコースに再懸濁し、OD600を測定する。細胞をOD600が0.6〜0.8となるまで希釈する。M9グルコース培地中の再懸濁細胞を振盪しながら37℃で好気的に増殖させる。100μLの細胞再懸濁液を除去し、0時間目にOD600を測定する。質量分析(LC−MS/MS)のために100μLアリコートを丸底96ウエルプレートで−20℃で凍結する。その後の各時点に、100μLの細胞懸濁液を除去し、OD600を測定し、質量分析のために100μLアリコートを丸底96ウエルプレートで−20℃で凍結する。試料は、アルギニンおよび/またはシトルリン濃度について分析する。各時点に、質量分析対OD600により測定された標準化濃度を用いて、単位時間当たり細胞当たりのアルギニンおよび/またはシトルリンの産生の速度を決定する。
いくつかの実施形態では、上述の遺伝子操作細菌を寒天上の単一コロニーのグリセロール保存液から画線する。コロニーを採取し、3mLのLB中で4時間または一夜増殖させ、次いで2500rcfで5分間遠心分離する。培養を0.5%グルコースを含むM9培地で洗浄する。培養を0.5%グルコースを含む3mLのM9培地に再懸濁し、OD600を測定する。すべてのOD600が0.4〜0.5となるように、培養を0.5%グルコースを含み、ATC(100ng/mL)を含みまたは含まず、20mMグルタミンを含むまたは含まないM9培地で希釈する。各試料の0.5mLアリコートを除去し、14,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、残しておく。上清を−80℃で凍結し、細胞ペレットを−80℃で凍結する(t=0)。残りの細胞を振盪(250rpm)しながら4〜6時間増殖させ、Coy嫌気性チャンバー(90%N2、5%CO2、5%H2を供給)中で37℃で好気的または嫌気的にインキュベートする。1つの0.5mLアリコートを各試料から2時間ごとに除去し、OD600を測定する。アリコートを14,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去する。上清を−80℃で凍結し、細胞ペレットを−80℃で凍結する(t=2、4および6時間)。試料を氷上におき、質量分析を用いてアルギニンおよびシトルリンレベルを測定する。
細菌培養上清について、水中500、100、20、4および0.8μg/mLアルギニンおよびシトルリン標準の試料を調製する。丸底96ウエルプレートにおいて、20μLの試料(細菌上清または標準)を、最終2μg/mL濃度のL−アルギニン−13C6,15N4(Sigma)およびL−シトルリン−2,3,3,4,4,5,5−d7(CDN同位体)内部標準を含む80μLの水に加える。プレートをPierceASealフォイルを用いて熱融着させ、十分に混合する。V型底96ウエルポリプロピレンプレートにおいて、5μLの希釈試料を95μLの誘導体化ミックス(85μLの10mM NaHCO3 pH9.7および10μLの10mg/mL塩化ダンシル(アセトニトリルで希釈))に加える。プレートをThermASealフォイルを用いて熱融着させ、十分に混合する。試料を誘導化のために60℃で45分間インキュベートし、4000rpmで5分間遠心分離する。丸底96ウエルプレートにおいて、20μLの誘導体化試料を0.1%ギ酸を含む180μLの水に加える。プレートをClearASealシートを用いて熱融着させ、十分に混合する。
アルギニンおよびシトルリンは、Thermo TSQ Quantum Max三連四重極質量分析計を用いたタンデム質量分析と連結した液体クロマトグラフィー(LC−MS/MS)により測定する。以下の表24にLC−MS/MS法の概要を示す。
ATCもしくは嫌気性誘導物質の存在下または非存在下における遺伝子操作細菌における細胞内アルギニンおよび分泌(上清)アルギニン産生を測定し、同じ条件下の同じ菌株の対照細菌と比較する。
ATCもしくは嫌気性誘導物質の存在下または非存在下における遺伝子操作細菌における6時間にわたる総アルギニン産生を測定し、同じ条件下の同じ菌株の対照細菌と比較する。
[実施例14]
高アンモニア血症および急性肝不全のマウスモデルにおける遺伝子操作細菌の有効性
野生型C57BL6/Jマウスに急性肝不全および高アンモニア血症を引き起こす、チオールアセトアミド(TAA)を投与する(Nicaiseら、2008年)。TAAマウスモデルは、業界で受け入れられているHEのin vivoモデルである。マウスに非改変対照ニッスル細菌または上述の高レベルのアルギニンもしくはシトルリンを産生するように操作されたニッスル細菌を投与する。
1日目に、50mLの細菌培養を一夜増殖させ、ペレット化する。ペレットを5mLのPBSに約1011CFU/mLの最終濃度で再懸濁する。マウスにおける血中アンモニアレベルは、下顎採血により測定し、PocketChem Ammonia Analyzer(Arkray)によりアンモニアレベルを決定する。マウスに100μLの細菌(約1010CFU)を強制経口投与する。マウスの飲料水を0.1mg/mLのアンヒドロテトラサイクリン(ATC)および味を良くするための5%スクロースを含むように交換した。
2日目に、細菌強制経口投与溶液を上述のように調製し、マウスに100μLの細菌を強制経口投与する。マウスに0.1mg/mLのATCおよび5%スクロースを含む飲料水を与え続ける。
3日目に、細菌強制経口投与溶液を上述のように調製し、マウスに100μLの細菌を強制経口投与する。マウスに0.1mg/mLのATCおよび5%スクロースを含む飲料水を与え続ける。マウスは、100μLのTAA(0.5%NaCl中250mg/kg体重)の腹腔内(IP)注射を受ける。
4日目に、細菌強制経口投与溶液を上述のように調製し、マウスに100μLの細菌を強制経口投与する。マウスに0.1mg/mLのATCおよび5%スクロースを含む飲料水を与え続ける。マウスは、100μLのTAA(0.5%NaCl中250mg/kg体重)のもう1回のIP注射を受ける。マウスにおける血中アンモニアレベルを下顎採血により測定し、PocketChem Ammonia Analyzer(Arkray)によりアンモニアレベルを決定する。
5日目に、マウスにおける血中アンモニアレベルを下顎採血により測定し、PocketChem Ammonia Analyzer(Arkray)によりアンモニアレベルを決定する。糞便ペレットをマウスから採取して、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)によりアルギニン含量を測定する。遺伝子操作ニッスルおよび非改変対照ニッスルを投与したマウスにおけるアンモニアレベルを比較する。
[実施例15]
高アンモニア血症およびUCDのマウスモデルにおける遺伝子操作細菌の有効性
オルニチントランスカルバミラーゼは、尿素回路酵素であり、spf−ash突然変異を含むマウスは、部分的オルニチントランスカルバミラーゼ欠損を示し、これがヒトUCDのモデルとしての役割を果たす。マウスに非改変対照ニッスル細菌または上述の高レベルのアルギニンもしくはシトルリンを産生するように操作されたニッスル細菌を投与する。
60匹のspf−ashマウスに本発明の遺伝子操作細菌(SYN−UCD103、SYN−UCD204)またはH2O対照を100μl PO QDで投与した:H2O対照、通常食(n=15);H2O対照、高タンパク質食(n=15);SYN−UCD103、高タンパク質食(n=15);SYN−UCD204、高タンパク質食(n=15)。1日目に、マウスの体重を測定し、各群に選別して、ケージ当たりのマウスの体重の変動を最小限にした。マウスに強制経口投与し、20mg/L ATCを含む水をケージに加えた。2日目に、マウスに午前および午後に強制経口投与した。3日目に、マウスに朝に強制経口投与し、体重を測定し、投与後4時間目に血液を採取して、ベースラインアンモニアレベルを得た。マウスに午後に強制経口投与し、飼料を70%タンパク質飼料に変更した。4日目に、マウスに朝および午後に強制経口投与した。5日目に、マウスに朝に強制経口投与し、体重を測定し、投与後4時間目に血液を採取して、アンモニアレベルを得た。6および7日目に、マウスに朝に強制経口投与した。8日目に、マウスに朝に強制経口投与し、体重を測定し、投与後4時間目に血液を採取して、アンモニアレベルを得た。9日目に、マウスに朝および午後に強制経口投与した。10日目に、マウスに朝に強制経口投与し、体重を測定し、投与後4時間目に血液を採取して、アンモニアレベルを得た。12日目に、マウスに朝および午後に強制経口投与した。13日目に、マウスに朝に強制経口投与し、体重を測定し、投与後4時間目に血液を採取して、アンモニアレベルを得た。血中アンモニアレベル、体重および生存率を解析する(図29)。
[実施例16]
高タンパク質食で飼育した高アンモニア血症およびUCD(spf−ash)のマウスモデルにおける遺伝子操作細菌の有効性
実施例14で述べた高アンモニア血症/UCD(spf−ash)モデルを用いて、高タンパク質食の投与時のアンモニアレベルに対する低コピープラスミド上のfnrプロモーターにより駆動されるArgAfbrをコードする遺伝子操作細菌のin vivoでの有効性を評価した。
低コピープラスミド上のfnrプロモーターにより駆動されるArgAfbrをコードする2つの菌株SYN−UCD206(ΔArgRおよびΔThyAならびに低コピープラスミド上のFNR誘導性プロモーター(fnrS2)の制御下に発現するargAfbrを含む)ならびにSYN−UCD205(ΔArgRおよび低コピープラスミド上のFNR誘導性プロモーター(fnrS2)の制御下に発現するargAfbrを含む)を比較して、チミジン栄養要求性が血液からのアンモニア除去の有効性に影響を及ぼし得るかどうかを判断した。
Spf−ashマウスを遺伝子操作細菌(SYN−UCD205、SYN−UCD206)またはH2O対照の経口投与により治療した。通常または高タンパク質食を次のように与えた:SYN−UCD205、高タンパク質食(n=10);SYN−UCD206、高タンパク質食(n=10);H2O対照、通常食(n=10);H2O対照、高タンパク質食(n=10)。SYN−UCD205およびSYN−UCD206については、細菌を1回投与した1、5、6および7日目を除いて、>1×1010細胞/mlの100μlの用量を12日間にわたり1日2回投与した。1日目に、マウスの体重を測定し、無作為化した。T=0 NH4レベルをPocketChem Ammonia Analyzer (Arkray)を用いて下顎採血により測定し、その後、マウスに強制経口投与した。2日目に、マウスに朝および午後に強制経口投与した。3日目に、マウスに朝および午後に強制経口投与し、飼料を通常飼料から70%タンパク質飼料に変更した。4日目に、マウスに朝および午後に強制経口投与した。5日目に、マウスに朝に強制経口投与し、体重を測定し、投与後4時間目に血液を採取して、アンモニアレベルを得た。8〜12日目に、マウスに朝および午後に強制経口投与した。
図30に見られるように、高タンパク質食におけるspf−ashマウスのアンモニアレベルは、SYN−UCD205およびSYN−UCD206群における高タンパク質食への切り替え後48時間目にH2O高タンパク質食対照群と比較して低下し、FNR誘導性プロモーターがArgAfbrの発現を駆動し、操作細菌を投与したマウスの血液中のアンモニアレベルの低下をもたらしたことがわかる。アンモニアレベルの観測された低下は、SYN−UCD205およびSYN−UCD206の両方において同様であり、ThyA栄養要求性がSYN−UCD206の有効性に有意な影響を有さないことが示唆される。
[実施例17]
染色体挿入を用いた細菌菌株の操作
ArgAfbrがMALEK部位においてFNR応答性プロモーターの制御下に大腸菌ニッスルのゲノムに直接組み込まれている細菌菌株を構築した。
PfnrS−ArgAfbrをニッスルMalEおよびMalK遺伝子座において染色体に組み込むことができるベクターを作製するために、Gibsonアセンブリを用いて、ニッスルMALE/K遺伝子座と相同のDNAの1000bp配列をノックインノックアウト(KIKO)プラスミド上のフリッパーゼ組換え標的(FRT)部位フランククロラムフェニコール耐性(cmR)カセットの両側に加えた。次いでGibsonアセンブリを用いて、FRT−cmR−FRT部位に隣接する、これらの相同性アーム間のPfnrS−ArgAfbr DNA配列をクローニングした。断片の挿入の成功は、配列決定によってバリデートした。PCRを用いて、全MalEK::FRT−cmR−FRT::PfnrS−ArgAfbr::MalK領域を増幅する。このノックインPCR断片を用いて、ラムダレッドリコンビナーゼ遺伝子をコードする温度感受性プラスミドを含むエレクトロコンピテントニッスル菌株を形質転換した。形質転換の後、細胞を37℃で2時間増殖させた。37℃での増殖により、温度感受性プラスミドが治癒する。該断片の染色体組込みの成功を有する形質転換細胞を20μg/mLのクロラムフェニコールにより選択した。
いくつかの実施形態では、リコンビナーゼベースのスイッチを用いて、PfnrS−ArgAfbrの発現を活性化することができる。リコンビナーゼベースのスイッチがArgAfbrの発現を調節することを可能にする菌株を構築するために、PfnrS駆動Int5遺伝子およびrrnBUP駆動のリコンビナーゼ部位フランクArgAfbrareをGenewiz(Cambridge、MA)により合成した。Gibsonアセンブリを用いて、PfnrS−Int5、rrnBUP−ArgAfbr配列の両側のニッスルmalEおよびmalK遺伝子座と相同のDNAの1000bp配列を加え、相同性アーム間のこの配列をクローニングした。KIKOプラスミドへの断片の挿入の成功は、配列決定によってバリデートする。PCRを用いて、全PfnrS−Int5、rrnBUP−ArgAfbr領域を増幅する。このノックインPCR断片を用いて、ラムダレッドリコンビナーゼ遺伝子を発現するエレクトロコンピテントニッスル菌株を形質転換する。形質転換後、細胞を37℃で2時間増殖させる。malEK遺伝子間領域におけるPfnrS−ArgAfbrの組込みの成功を有する形質転換細胞を50μg/mLのカナマイシンにより選択する。この戦略は、ArgAfbr発現のためにT7ポリメラーゼ活性を必要とするリコンビナーゼベースの菌株を構築するためにも用いることができる。
[実施例18]
染色体挿入およびプラスミド保有操作細菌のin vitro有効性の比較
malEK遺伝子座におけるfnr誘導性プロモーターにより駆動されるArgAfbrの染色体挿入を有する遺伝子操作細菌菌株とfnr誘導性プロモーターにより駆動されるArgAfbrを含む低コピープラスミドを含む菌株との間のin vitro有効性を比較するために、嫌気的誘導後の様々な時点に培地中のアルギニンレベルを測定した。さらに、チミジンに対する栄養要求性がアルギニン産生効率に対して影響を有し得るかどうかを評価するために、低コピープラスミド上にまたは染色体に組み込まれたfnr−ArgAfbrを含む、ThyA欠失を含むもしくは含まない操作細菌菌株のアルギニン産生を比較した。
一夜培養をLBで1:100に希釈し、振盪(250rpm)しながら37℃で増殖させた。1.5時間の増殖の後に、細菌培養を以下のように誘導した。(1)FNR誘導性argAfbrを含む細菌を37℃のCoy嫌気性チャンバー(90%N2、5%CO2、5%H2および20mM硝酸塩を供給)中で嫌気的条件でLB中37℃で4時間誘導した;(2)テトラサイクリン誘導性argAfbrを含む細菌をアンヒドロテトラサイクリン(100ng/mL)により誘導した。誘導後、細菌をインキュベーターから除去し、最大速度で5分間遠沈した。細胞を1mLのM9グルコースに再懸濁し、OD600を測定した。細胞をOD600が0.6〜0.8となるまで希釈した。M9グルコース培地中再懸濁細胞を振盪しながら37℃で好気的に増殖させた。100μLの細胞再懸濁液を除去し、時間=0におけるOD600を測定した。100μLのアリコートを質量分析(LC−MS/MS)のために丸底96ウエルプレートで−20℃で凍結した。その後の各時点(例えば、30、60および120分)に、100μLの細胞懸濁液を除去し、OD600を測定し、100μLのアリコートを質量分析のために丸底96ウエルプレートで−20℃で凍結した。試料をアルギニン濃度について分析した。各時点に、質量分析対OD600により測定された標準化濃度を用いて、単位時間当たり細胞当たりのアルギニン産生の速度を決定した。LC−MS/MS法の概要は、上に示されている。
誘導後30、60および120分目におけるアルギニンの産生を、(1)Syn−UCD301(SYN825;ΔArgRおよびmalEK遺伝子座において染色体に組み込まれたFNR誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む)、(2)SYN−UCD205(ΔArgRおよび低コピープラスミド上のFNR誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む)ならびに(3)SYN−UCD206(ΔArgRおよびΔThyAならびに低コピープラスミド上のFNR誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む)の間で比較した。SYN−UCD103を対照ニッスル構築物として用い、結果を図31Aに示す。
図31Aに0、30、60および120分目に測定したSYN−UCD205、SYN−UCD206およびSyn−UCD301のアルギニン産生のレベルを示す。アルギニンの産生は、3菌株すべてで同等であり、最大のアルギニンの産生は、120分目にSyn−UCD301で認められ、FNR ArgA fbrの染色体組込みが、同じ構築物を発現する低コピープラスミド菌株で認められたのと同様のレベルのアルギニン産生をもたらし、アルギニンの産生の速度をわずかに増加させ得ることがわかる。SYN−UCD206は、SYN−UCD205およびSyn−UCD301と比較してアルギニン産生の低下(60分目により低いアルギニンレベル)を示したが、120分目に同等のアルギニン産生レベルに達したことから、ΔThyAがアルギニン産生に対するわずかな減弱化作用を有し得ることがわかる。SYN−UCD103対照については、アルギニン産生が検出されなかった。
次に、試料を上述のように調製し、誘導後120分目におけるアルギニンの産生を、(1)SYN−UCD204(ΔArgRおよび低コピープラスミド上のテトラサイクリン誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む)、および(2)Syn−UCD301(ΔArgR、CmRおよびmalEK遺伝子座において染色体に組み込まれたFNR誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む)、(3)SYN−UCD302(ΔArgR、ΔThyA、CmR(クロラムフェニコール耐性)およびmalEK遺伝子座において染色体に組み込まれたFNR誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む)および(4)SYN−UCD303(ΔArgR、ΔThyA、KanR(カナマイシン耐性)およびmalEK遺伝子座において染色体に組み込まれたFNR誘導性プロモーターの制御下に発現するargAfbrを含む)の間で比較した。
ΔArgRおよびΔThyAを含む、SYN−UCD106を対照ニッスル構築物として用いた。結果を図31Bに示す。図31Bに見られるように、アルギニンの産生は、0.7〜0.9μmol/1×109細胞に上昇し、アルギニンの産生が、プラスミド上にArgAfbrを有する菌株とArgAfbrの組み込まれたコピーを有する菌株で同様同じレベルであることがわかる。
[実施例19]
高タンパク質食で飼育した高アンモニア血症およびUCD(spf−ash)のマウスモデルにおける遺伝子操作細菌の有効性
実施例14で述べた高アンモニア血症/UCD(spf−ash)モデルを用いて、高タンパク質食の投与時のアンモニアレベルに対する細菌染色体に組み込まれたfnrプロモーターにより駆動されるArgAfbrをコードする遺伝子操作細菌のin vivoでの有効性を評価した。マウスを非改変対照ニッスル細菌または上述のように高レベルのアルギニンもしくはシトルリンを産生するように操作されたニッスル細菌により治療した。
1つはThyA欠失を含み(SYN−UCD303)、1つはThyA欠失を含まない(SYN−UCD301)、2つの菌株を有効性について試験し、ΔThyAが、染色体fnr−ArgAfbrを有するこれらの菌株による血液からのアンモニア除去の有効性に影響を及ぼし得るかどうかを判断するために比較した。
Spf−ashマウスを遺伝子操作細菌(SYN−UCD301、SYN−UCD303)またはH2O対照の経口投与により治療した。通常または高タンパク質食を次のように与えた:SYN−UCD301、高タンパク質食(n=10);SYN−UCD303、高タンパク質食(n=10);H2O対照、通常食(n=10);H2O対照、高タンパク質食(n=10)。SYN−UCD301、SYN−UCD303およびSYN−UCD106については、細菌を1回投与した1、5、6および7日目を除いて、>1×1010細胞/mlの100μlの用量を12日間にわたり1日2回投与した。実施例16で述べたのと本質的に同じプロトコールに従い、アンモニアレベルを得るために血液を5日目に採取した(図32A)。10日目に、生存率を解析し、生存の時間的経過を図32Bに示す。
図32Aに示すように、高タンパク質食におけるspf−ashマウスのアンモニアレベルは、H2O高タンパク質食対照群と比較してSYN−UCD301およびSYN−UCD303群において低下したことから、構築物が染色体に組み込まれた場合、FNR誘導性プロモーターがArgAfbr発現を駆動し、操作細菌により治療したマウスの血液中のアンモニアレベルの低下をもたらし得ることがわかる。アンモニアレベルの観測された低下は、SYN−UCD301およびSYN−UCD303の両方において同様であり、ThyA栄養要求性がSYN−UCD303の有効性に有意な影響を有さないことがわかる。図32Bに見られるように、SYN−UCD301およびSYN−UCD303は、対照と比較して長期の生存を示した。実験を2回連続して行ったところ、同様の結果が得られた。
[実施例20]
様々な用量における有効性の比較
実施例14で述べた高アンモニア血症/UCD(spf−ash)モデルにおける最適アルギニン産生を達成しながら、用いることができる最低用量を決定するために、SYN−UCD303の3用量を投与した。
Spf−ashマウスを遺伝子操作細菌(SYN−UCD303)またはH2O対照の強制経口投与により治療した。SYN−UCD303については、1×107、1×108、1×109および1×1010 CFUsの用量を、細菌を1回投与した1、5、6および7日目を除いて、12日間にわたって1日2回100μlの容量で投与した。通常食または高タンパク質食を次のように与えた:SYN−UCD303(1×107CFU)、高タンパク質食(n=10);SYN−UCD303(1×108CFU)、高タンパク質食(n=10);SYN−UCD303(1×109CFU)、高タンパク質食(n=10);H2O対照、通常食(n=10);H2O対照、高タンパク質食(n=10)。実施例16で述べたのと本質的に同じプロトコールに従い、アンモニアレベルを得るために血液を5日目に採取した。5日目に血中アンモニアレベルを各用量について解析した。結果を図33に示す。1×108および1×109の両用量は、このモデルにおける血中アンモニアレベルの有意な低下をもたらすのに十分であった。
[実施例21]
ニッスルの滞留時間
非改変大腸菌ニッスルおよび本発明の遺伝子操作細菌は、例えば、消化管または血清中の防御因子により殺滅され得る。細菌のin vivoでの滞留時間を計算することができる。大腸菌ニッスルのストレプトマイシン耐性菌株を用いる非限定的な例を以下に述べる。代替実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌の滞留時間を計算する。
C57BL/6マウスを動物施設において1週間馴化させた。1週間の馴化後(すなわち、0日目)に、ストレプトマイシン耐性ニッスル(SYN−UCD103)を1〜3日目に強制経口投与によりマウスに投与した。マウスに抗生物質を前投与しなかった。投与された細菌、すなわち、接種物の量を表25に示す。接種物のCFUを決定するために、接種物を連続希釈し、ストレプトマイシン(300μg/mL)を含むLBプレート上で平板培養した。プレートを37℃で一夜インキュベートし、コロニーを計数した。
2〜10日目に、最大で6匹のマウス(ID番号1〜6;表14)から糞便ペレットを採取した。ペレットをPBSを含む管に量り入れ、ホモジナイズした。糞便ペレット中のニッスルのCFUを決定するために、ホモジナイズした糞便ペレットを連続希釈し、ストレプトマイシン(300μg/mL)を含むLBプレート上で平板培養した。プレートを37℃で一夜インキュベートし、コロニーを計数した。
1日目の糞便ペレットも採取し、ストレプトマイシン(300μg/mL)を含むLBプレート上で平板培養して、ストレプトマイシン耐性であったマウス胃腸管に固有の菌株が存在していたかどうかを判断した。マウス胃腸管内に依然として滞留していた投与ニッスルの時間経過および量を表26に示す。
図34にin vivoでのニッスルの滞留のグラフを示す。ストレプトマイシン耐性ニッスルを、抗生物質を前投与せずに強制経口投与によりマウスに投与した。6匹すべてのマウスからの糞便ペレットを投与後にモニターして、マウスの胃腸管内に滞在している投与ニッスルの量を測定した。バーは、マウスに投与した細菌の数を表す。線は、10日間連日にわたる各日の糞便試料から回収されたニッスルの数を表す。
in vivoでの細菌菌株の腸内滞留および生存
SYN−UCD303(組込みfnrS誘導性プロモーター駆動ArgAfbr、カナマイシン耐性、ΔThyA、図35C)の局在および腸内滞留時間をSYN−UCD106(ΔArgR、ΔThyAおよびクロラムフェニコール耐性、図35B)およびSYN−UCD103(ストレプトマイシン耐性ニッスル、図35A)と比較した。マウスに強制経口投与し、様々な時点に屠殺し、流出物を小腸、盲腸および結腸の様々な部分から採取した。
細菌培養を一夜増殖させ、ペレット化した。ペレットを約1010CFU/mLの最終濃度でPBSに再懸濁した。マウス(C57BL6/J、10〜12週齢)に100μLの細菌(約109CFU)を強制経口投与した。マウスの飲料水を0.1mg/mLのアンヒドロテトラサイクリン(ATC)および味を良くするための5%スクロースを含むように交換した。各時点(強制経口投与後1、4、8、12、24および30時間目)に、動物(n=4)を安楽死させ、腸、盲腸および結腸を除去した。小腸を3つの部分に切断し、大腸および結腸をそれぞれ2つの部分に切断した。各部分を0.5mlの冷PBSでフラッシュし、別個の1.5ml管に収集した。盲腸を採取し、内容物をしぼり出し、0.5mlの冷PBSでフラッシュし、1.5ml管に収集した。腸流出物を連続希釈平板培養のために氷上においた。
各流出物中の細菌のCFUを決定するために、流出物を連続希釈し、カナマイシンを含むLBプレート上で平板培養した。プレートを37℃で一夜インキュベートし、コロニーを計数した。各コンパートメントに認められた細菌の量ならびにSYN−UCD103、SYN−UCD106およびSYN−UCD303の滞留時間を図35に示す。図35に見られるように、3つの菌株すべてが同様に挙動する。図35Aを図35Bと比較すると、ΔThyA栄養要求性およびΔArgRは、滞留および通過時間に対する実質的な影響を有さないと思われる。
[実施例23]
腸滞留時間に対する栄養要求性の影響
栄養要求性が局在および滞留時間に対して影響を有し得るかどうかを判断するために、上述のマウスモデルを用いて、SYN−UCD303(ΔThyA)の滞留をSYN−UCD304(野生型ThyA)と比較した。ArgR欠失およびargAfbrが滞留に対する影響を有するかどうかを判断するために、SYN−UCD103(ストレプトマイシン耐性対照ニッスル)を並行して投与する。
実施例22で述べたように細菌を用意し、マウスに強制経口投与し、安楽死させ、様々な時点に腸流出物を採取する。各流出物中の細菌のCFUを決定するために、実施例20で述べたように流出物を連続希釈し、平板培養する。SYN−UCD103についてはストレプトマイシン含有プレートを、SYN−UCD301についてはクロラムフェニコール含有プレートを用いる。
[実施例24]
高アンモニア血症のTAAモデル
マウスのTAA処理は、UCD、急性もしくは慢性肝臓疾患ならびにHEに随伴する血中アンモニアレベルの増加を模擬するために以前に文献において用いられた(Wallace MCら、Lab Anim.、2015年4月;49巻(増補1):21〜9頁、Standard operating procedures in experimental liver research: thioacetamide model in mice and rats)。いくつかの実施形態では、高アンモニア血症のTAA誘発性マウスモデルを用いて、血中アンモニアレベルを低下させる遺伝子操作細菌の能力を検討する。TAAは、spf−ashモデルの代替としての役割を果たす。spf−ashモデルは、遺伝モデルであるため、マウスの数が限られており、したがって、野生型マウスにおける誘導性モデルを開発することは、目的の可能性がある菌株のin vivo試験を著しく促進することとなる。
血中アンモニアの長期の上昇に対する操作細菌の影響を検討するために、300mpkの用量のチオアセトアミド(TAA)も投与するC57BL6マウスに細菌を投与する。
C57BL6(10週齢)にSYN−UCD103もしくはSYN−UCD303(100μlの>1×1010細胞/ml)または媒体対照を1日1回投与する。あるいは、マウスに2一日量の細菌(100μlの>1×1010細胞/ml)(各治療群につきn=5)を午前に1回、午後に1回投与する。細菌の前投与の3日後に、マウスに300mpkのチオアセトアミド(TAA)または対照としてのH2Oを腹腔内投与する。あるいは、マウスに250mpkを1日2回、午前に1回、午後に1回投与する。試験の期間は、5日である。アンモニアレベルを測定し、全般的な健康状態、生存、体重変化をモニターする。
手短に述べると、動物を7日間馴化する。時間経過の1日目に、動物の体重を測定し、採血して、ベースラインアンモニアを測定し、糞便ペレットを採取し(ケージごとに)、初期血中アンモニアレベルに基づいて無作為化する。動物にH2O、SYN−UCD103またはSYN−UCD303(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)強制経口投与により投与する。水をH2O(+)20mg/ml ATCに交換する。2日目に、動物にH2O、SYN−UCD103またはSYN−UCD303(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)強制経口投与により投与する。3日目に、動物の体重を測定し、H2O、SYN−UCD103またはSYN−UCD303(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)強制経口投与により投与する。さらに、動物に300mpk TAA(または生理食塩水対照)を腹腔内投与する。あるいは、動物に250mpk TAA(または生理食塩水対照)を午前に1回、午後に1回投与する。4日目に、動物の体重を測定し、採血し、血中アンモニアを測定する。糞便ペレットをケージごと採取する。動物にH2O、SYN−UCD103またはSYN−UCD303(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)強制経口投与により投与する。動物に250mpkのTAA(または生理食塩水対照)も投与してもよい。5日目に、動物の体重を測定し、採血し、血中アンモニアを測定する。糞便ペレットを採取する(ケージごと)。動物にH2O、SYN−UCD103またはSYN−UCD303(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)強制経口投与により投与する。アンモニアレベル、糞便ペレットにおける細菌負荷ならびに全般的な健康状態、生存および体重変化をモニターする。
[実施例25]
アルギナーゼ阻害剤を用いた高アンモニア血症のモデル
遺伝的spf−ashモデルの代替として、アルギナーゼ阻害剤+/−高タンパク質食を高アンモニア血症の誘導性モデルとして用いる。アルギナーゼ阻害剤は、少なくとも2つのクラスに分類される(Steppanら、Front Immunol.、2013年;4巻:278頁、Development of Novel Arginase Inhibitors for Therapy of Endothelial Dysfunctionに記載されている)。アルギナーゼ阻害剤の第1の群は、l−アルギニン(2)S−アミノ−6−ヘキサン酸(ABH)のボロン酸類似体およびS−2−BECからなり、その両方がアルギナーゼの触媒活性を阻害する。N−ヒドロキシ−l−アルギニン(NOHA)およびN−ヒドロキシ−ノル−l−アルギニン(ノル−NOHA)によって主として代表される、アルギナーゼ阻害剤の他のカテゴリーは、N−ヒドロキシ−グアニジニウム側鎖を特徴とし、アルギナーゼの金属架橋水酸化物イオンをそれらのN−ヒドロキシ基で置換することによってアルギナーゼを阻害する。モデル開発試験で、各群のアルギナーゼ阻害剤、BECおよびノル−NOHA+/−高タンパク質食(70%タンパク質)を用いる。
操作細菌が血液中のアンモニアレベルを変化させることができるかどうかを判断するために、野生型マウスにおいて各群のアルギナーゼ阻害剤、BECおよびノル−NOHA、+/−高タンパク質食(70%タンパク質)を用いた誘導性モデルを用いる。C57BL6(雌、8週)を遺伝子操作細菌(100μlの>1×1010細胞/ml)または媒体対照の強制経口投与およびBECまたはノルNOHAの腹腔内投与により治療し、通常食(治療群当たりn=5)または高タンパク質食(治療群当たりn=5)を与えて飼育する。投与群は、SYN−UCD303および媒体対照治療動物について次の通りである:通常食(n=5);高タンパク質食(70%タンパク質食;n=5);高タンパク質食(+)BEC(n=5);高タンパク質食(+)ノルNOHA(n=5)。
時間経過の1日目に、動物の体重を測定し、採血して、ベースラインアンモニアを測定し、初期血中アンモニアレベルに基づいて無作為化する。糞便ペレットを採取する(ケージごと)。動物にH2O、SYN−UCD303またはSYN−UCD103(100μl/用量/動物)の強制経口投与により投与する。水をH2O(+)20mg/ml ATCに交換する。2日目に、動物にH2O、SYN−UCD303またはSYN−UCD103(100μl/用量/動物)の1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。3日目に、動物の体重を測定し、H2O、SYN−UCD303またはSYN−UCD103(100μl/用量/動物)の1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。さらに、動物にBEC(25mpk)またはノルNOHA(100mpk)または生理食塩水対照を腹腔内投与する。高タンパク質食群について、飼料を通常食から70%タンパク質食に変更する。4日目に、動物の体重を測定し、採血し、血中アンモニアを測定する。糞便ペレットをケージごとに採取する。動物にH2O、SYN−UCD303またはSYN−UCD103(100μl/用量/動物)の1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。動物にBEC(25mpk)またはノルNOHA(100mpk)を腹腔内投与する。4日目に、動物にH2O、SYN−UCD303またはSYN−UCD103(100μl/用量/動物)の1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。動物の体重を測定し、投与後1時間目に採血し、血中アンモニアを測定する。糞便ペレットをケージごとに採取する。動物にBEC(25mpk)またはノルNOHA(100mpk)の腹腔内投与も行う。5日目に、動物にH2O、SYN−UCD303またはSYN−UCD103(100μl/用量/動物)の1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。動物の体重を測定し、投与後1時間目に採血し、アンモニアレベルを測定する。
SYN−UCD202、SYN−UCD204およびSYN−UCD103菌株を用いた同様の試験を行った。結果を図28に示す。
[実施例26]
アルギニン産生に対する増殖能および代謝活性の影響
遺伝子操作細菌によるアルギニン産生のための細胞***および/または活性代謝の必要条件をSYNUCD−303菌株において検討した。
SYNUCD−303を70%イソプロパノールまたは対照としてのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)とともに振盪しながら1時間インキュベートした。70%イソプロパノールは、細胞膜を破壊し、細胞***を妨げたが、細胞代謝を可能にする。PBSインキュベーションは、細胞に対して何の影響も有さなかった(示さず)。処理後、細胞を、0.5%グルコースおよび3mMチミジンを添加したM9培地中で特定の比で混合した。細胞を振盪しながら37℃で2時間インキュベートした。細胞は、M9培地に含まれていた塩化アンモニウムを用いてアルギニンを形成することができる。ゼロ時間目および2時間のインキュベーションの後に再度アルギニン濃度を培地中で測定し、10億個の細胞当たり1時間当たり産生されるアルギニンの量を計算した。図36Aおよび36Bに見られるように、培養中のイソプロパノール処理細胞と非処理細胞との比率がより大きい場合に、平板培養により決定されるより少数のCFUsおよびより低いレベルのアルギニン産生がもたらされる。存在する細菌の量に対するアルギニンの産生量は、様々な培養にわたり一定のままであった(図36C)。これらの結果は、生存細菌のみがアルギニン産生に寄与することを示すものである。
[実施例27]
カニクイザルにおける28日間にわたり毎日経鼻胃管投与した後のSYN−UCD−303の反復投与薬物動態および薬力学試験(非GLP)
遺伝子操作細菌または大腸菌ニッスル単独の投与により生じる可能性がある毒性を評価するために、雌カニクイザルへの28日間にわたる毎日の経鼻胃管(NG)投与の後のSYN−UCD−303およびカナマイシン耐性を有する大腸菌ニッスル(SYN−UCD107)の薬物動態および薬力学を試験した。カニクイザルを選択した理由は、この種が系統発生学的にかつ生理学的にヒトと密接に関連しており、非臨床的毒性評価に一般的に用いられる種であるためである。遺伝子操作細菌は、ヒトにおける提案された投与経路と一致する、経鼻胃管により投与した。動物の全般的健康状態(臨床的観察)、体重、臨床病理(血清化学、血液学および凝固)を追跡した。糞便試料を細菌負荷について検査した。血漿をアンモニアレベルについて分析した。
A. 材料、動物および投与計画:
本試験は、非臨床実験室試験に関する、米国食品医薬品局により公布された安全性試験の実施に関する基準(Good Laboratory Practice Regulations)(Title 21 of the Code of Federal Regulations、Part 58;1979年6月20日発効)およびOECD GLP原則(OECD Principles on Good Laboratory Practice)(C[97]186/最終;1997年発効)に従って実施された。動物は、実験動物の管理および使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)(National Research Council 2011)に記載の勧告に基づいて個別収容した。
本試験に用いた動物は、3〜6kg(最初の身体検査)で、年齢3〜8年(最初の身体検査)の雌パーパスブレッド非ナイーブカニクイザル(Macaca fascicularis)(SNBL USAストック、原産:Cambodia)であった。
バイアスの制御のために、動物を、同様の群別体重分布が得られるように体重で層別して群に無作為化した。無作為化に選択された動物数ならびにそれらの体重および年齢を表27に含める。
17匹の動物を投与開始前の7日間馴化させ、15匹の動物を治療群に割り付けた。予備の動物を1日目に試験から除去した。
試験期間中、動物にPMI LabDiet(登録商標)Fiber−Plus(登録商標)Monkey Diet 5049ビスケットを毎日2回与えた。投与前の少なくとも2時間動物を絶食させ、投与後1時間以内に給餌した。動物はまた、特定の処置(例えば、血清化学検査のための採血、糞便採取の前)による必要に応じて絶食させた。飼料を汚染物質について定期的に分析しており、製造業者の規格の範囲内であることが認められた。試験の結果に支障を来たすようなレベルの汚染物質は存在するとは予期されない。
新鮮な飲料水をすべての動物に供給し、自由に摂取させた。水を汚染物質について定期的に分析した。試験の結果に支障を来たすようなレベルの汚染物質は存在しなかった。動物に試験中果実、野菜、他の補助食品およびケージエンリッチメントデバイスを与えた。
事前に検疫した動物を投与の開始(1日目)の前の7日間試験室に馴化させた。最終投与は、28日目に行った。体重を組み込んだ層化無作為化スキームを用いて、動物を試験群に割り付けた。動物を群に割り付け、表28に示すように処置した。
SYN−UCD107およびSYN−UCD303保存液は、2.2%グルコースおよび3mMチミジンを含む1XPBS中15%グリセロール中1×109cfu/mLおよび1×1011cfu/mLで調製し、86〜−60℃で保持した(表28参照)。重炭酸ナトリウムを含む20%グリセロールで調製したPBSを対照媒体として用いた。重炭酸濃度は、0.36Mであり、重炭酸ナトリウムについては0.12Mであった(表28参照)。投与当日に、細菌および媒体対照を冷凍庫から取り出し、氷上において解凍し、投与するまで氷上においた。
動物に0、1×109または1×1012cfu/動物で投与した。すべての動物に28日間にわたり1日1回、経鼻胃管(NG)により投与した後、対照/媒体でフラッシュした。重炭酸塩の濃度および各群の容量を表28に明記する。バイアルは、注射器に投与液を吸引する前に少なくとも3回反転した。投与部位および投与時間(フラッシュ時間の終了)を記録した。6日目に、群4(SYN−UCD303、1×109/動物)における動物19、21および23は、14mLの代わりに5mLの重炭酸塩フラッシュを、その後に被験物質投与を受けた。
B. 解析
全般的状態および重量
全般的状態: 臨床的観察は、−6日目に開始して、44日目まで、1日2回実施した。第1の観察は、午前であった。第2の観察は、午前の観察の後4時間より早くない時点であった。投与期間中は、第2の観察は、投与後4時間(±10分)目に実施した。必要に応じて、追加の臨床的観察を実施した。
被験物質に関連した臨床的観察所見は、本試験では確認されなかった。
同様に収容される動物に一般的に認められ、個体間で散発的に発生した偶発的かつ/または処置上の所見は、対照動物に認められ、馴化期間にも存在し、投与群間で重症度および発生率が増加しなかった。これらは、皮膚に関連する所見(痂皮/結痂、創傷、擦過傷、異常な皮膚変色、紫斑)、脱毛、曲尾、凹眼、食欲不振、嘔吐および泌尿生殖器分泌物を含む。
重量: 体重は、−6、1、8、11、15、22、29、36および43日目、適宜、最初の給餌および投与前に測定した。
体重に対する被験物質に関連する影響は、本試験では確認されなかった。ベースライン(1日目)と比べて、36日目までに5〜10%の体重の減少が、対照を含むすべての群にわたり明らかであり、試験処置に関連すると判断された。値はベースラインに完全には戻っていなかったが、36日目と比較して、上向き傾向が43日目の入手可能な体重データで認められた。
臨床病理
血液採取: 動物は、毎日の投与前に一夜ならびに血清化学および血漿生物分析用の試料を含む各一連の採取の少なくとも4時間前に絶食させた。これらの場合、関連する臨床病理評価は、絶食動物についてのものであった。血液は、拘束した覚醒動物の末梢静脈の静脈穿刺によって1回の採血(可能な場合)で採取し、分析用の適切な管に次のように分割した:血液学:約1.3mL、K2EDTA管;凝固:約1.8mL、3.2%クエン酸ナトリウム管;血清化学:約1.0mL、血清分離管(SST);血漿試料:約1.0mL、ヘパリンリチウム;臨床病理評価用の血液は、SNBL USA SOPsに従って、血清もしくは血漿に処理するか、またはそのままで用いた。
可能な場合には、血液は、1回の採血により採取し、次に適切に分割する。試料採取頻度を表29に要約する。
表30に臨床病理評価情報を要約する。
血液学、凝固および血清化学パラメーターにおける被験物質に関連した影響は、本試験では確認されなかった。
血漿試料: 動物は、試料の除去の前の4時間絶食させた。約1Lmの血液を、−1および30日目に、ならびに2、7、14および28日目の投与前に大腿静脈から採取し、2mLヘパリンリチウム管に移した。管内への標的容積の血液の採取後に、約0.05(−1および2日目)または0.1mL(7、14、28および30日目)の鉱油を加えて、管内の血液の表面を覆った。管は、反転せずに、湿潤氷上においた。
試料を採取してから15分以内に2〜8℃で遠心分離して、血漿を得て、血漿は−60〜−80℃での保存の前にドライアイス上に保持した。
試料の分析は、血中アンモニア分析機器を用いて行った。
糞便試料の採取: 動物当たり2つの糞便試料を表29に示す標的時点に採取した。試料採取日時を記録した。約5mLのPBSを含む50mLファルコン管を容器として用いた(糞便が液体である場合、PBSを加えない)。糞便試料の重量を得るために、容器の試料採取前後の重量を測定した。試料は、各動物のケージの底から採取した。新鮮で、非汚染試料を得るために、採取前に残存食物を除去し、ケージパンを掃除し、ゴムぞうきんをかけて、デブリおよび/または水を除去した。−5、2、4、7および14日目に、最初の給餌および/または投与の後に食物除去およびパン掃除を実施した。18、20、24、28、30、35、40、46および50日目に、食物除去およびパン掃除を各採取の前の夜に実施した。視覚的に新鮮な糞便試料も臨床的観察を除く、処置を行う前の朝に採取した。
糞便スワブ採取: 糞便試料が予定日の終了までに採取されなかった場合、処置用ケージに拘束した動物の直腸から綿チップアプリケーターを用いて糞便スワブ試料を採取した。
試料は、採取直後に湿潤氷上においた。試料を分析時まで−20〜−15℃で保存した。試料の分析は、実施例31で述べたPCR分析法を用いて行った。
動物当たり2つの糞便試料を−5日目に、ならびに2、4、7および14日目の投与後に採取し、動物当たり3つの糞便試料を29、30、35、40、46および50日目に、ならびに18〜28日目の投与前に採取した。約5mLのPBSを含む50mLファルコン管を−5〜14日目の採取に用い、管1については約5mLのPBS、管2については20mLの50%グリセロールおよび10mMチミジン、管3については20mLの50%グリセロール/PBSを含む50mLファルコン管を18〜50日目の採取に用いた。試料を採取直後に湿潤氷上におき、18〜50日目に採取した各管の内容物を滅菌済み舌圧子を用いて破壊し、混合した。
採取日の終了時までに表29に示した動物から糞便試料が採取されなかったので、動物当たり2つの糞便スワブ試料を採取した。試料の採取後、スワブの綿部分を1mLのPBSを含む5mLクリオバイアルに移し、直ちに湿潤氷上においた。
結果を図37に示すが、糞便試料から定量した細菌の量がカナマイシン耐性対照ニッスル(SYN−UCD107)およびSYN−UCD303について類似したパターンに従うことが示されている。糞便試料中の細菌は、35日目までに糞便1ml当たり1000個未満の細菌のレベルに達する。結果から、これらの投与条件下では、糞便中の対照カナマイシン耐性ニッスルと同様の量の細菌が栄養要求体SYN−UCD303について回収されたことがわかる。同様の結果がマウスで観測された。結論として、SYN−UCD303は、ニッスル(SYN−UCD107)とほぼ同じ濃度でNHP糞便中に存在すると思われる。
全体的結論として、被験物質であるSYN−UCD303は、1×1012CFU/動物までの用量で28日間毎日のNG投与後に雌カニクイザルによって十分に耐えられた。被験物質に関連した死亡は発生せず、臨床的観察、体重および臨床病理評価について被験物質に関連した影響は確認されなかった。
[実施例28]
カニクイザルにおける28日間にわたり毎日経鼻胃管投与した後のSYN−UCD−303の反復投与薬物動態および薬力学試験(非GLP)
SYN−UCD303、SYN−UCD304、SYN−UCD305およびSYN−UCD306の薬物動態および薬力学は、実施例27で述べたのと本質的に同様に雌カニクイザルへの28日間にわたる毎日の経鼻胃管(NG)投与の後に試験する。カニクイザルを選択した理由は、この種が系統発生学的にかつ生理学的にヒトと密接に関連しており、非臨床的毒性評価に一般的に用いられる種であるためである。遺伝子操作細菌は、ヒトにおける提案された投与経路と一致する、経鼻胃管により投与した。動物の全般的健康状態(臨床的観察)、体重、臨床病理(血清化学、血液学および凝固)を追跡する。血漿をアンモニアレベルについて分析し、糞便試料を細菌負荷について検査する。
[実施例29]
カニクイザルにおける2週間の回復期間を含む4週間の毒性試験(GLP)
遺伝子操作細菌の投与により生じる可能性がある毒性を評価するために、GLP条件下での雌カニクイザルへの28日間にわたる毎日の経鼻胃管(NG)投与の後のSYN−UCD303の薬物動態および薬力学を試験する。
他の実施形態では、SYN−UCD304、SYN−UCD305および/またはSYN−UCD306について試験を行う。
試験は、本試験は、非臨床実験室試験に関する、米国食品医薬品局により公布された安全性試験の実施に関する基準(Good Laboratory Practice Regulations)(Title 21 of the Code of Federal Regulations、Part 58;1979年6月20日発効)およびOECD GLP原則(OECD Principles on Good Laboratory Practice)(C[97]186/最終;1997年発効)に従って実施される。動物は、実験動物の管理および使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)(National Research Council 2011)に記載の勧告に基づいて個別収容する。
すべての材料がGMP基準に従って製造されることを除いて、実施例27で述べたのと本質的に同様に動物にSYN−UCD303または対照媒体を投与する。投与を表31に示す。さらに、動物を14日間馴化させ、投与期間は、毎日28日間であり、その後に28日間の回復期間をおく。さらに、動物を試験の終了時に安楽死させて、組織学的分析を行う。
試験解析は、表32に示すように行う。血液学、凝固、血清化学および血漿試料パラメーターは、実施例27で述べたのと本質的に同様であり、実施例27で述べた方法を用いて解析する。糞便試料の採取および分析は、実施例27で述べたのと本質的に同様に行う。
マウスにおける4週間の回復期間を含む4週間の反復投与毒性試験(GLP)
遺伝子操作細菌の投与により生じる可能性がある毒性を評価するために、
GLP条件下での2週間の回復を後続させる4週間にわたる毎日の経鼻胃管投与の後のSYN−UCD303の薬物動態および薬力学を試験する。
すべての材料をGLP条件下で製造する。試験開始時に6〜8週齢のCD−1マウスを7日間馴化させる。雄および雌マウスの群を別個に試験する。SYN−UCD303または媒体対照を表33に示すように投与する。
特定の実施形態では、SYN−UCD304、SYN−UCD305および/またはSYN−UCD306について試験を行う。
試験解析は、表34に示す。血液学、凝固、血清化学および血漿試料パラメーターは、実施例27で述べたのと本質的に同様であり、実施例27で述べた方法を用いて解析する。糞便試料の採取および分析は、実施例27で述べたのと本質的に同様に行う。組織学は、実施例29と同様に行う。
非ヒト霊長類の糞便試料中のニッスルの存在の決定
ニッスルの存在について非ヒト霊長類(NHPs)の糞便試料を分析するために、qPCRを用いた試料中のDNAの量に基づいてNHP試料における細菌の数を定量した。いくつかの実施形態では、このプロトコールは、マウスおよびヒトを含むが、これらに限定されない、他の哺乳動物の糞便試料の分析に用いられる。
試料の均質化: 糞便試料(−20℃で保存)を室温で90分間解凍した。固体糞便試料については、適切な固体の容積を推定し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を容積の2倍まで加えた。液体糞便試料については、追加のPBSを加えなかった。次いで試料を管ごとに30秒間ボルテックスした。糞便試料をエッペンドルフチューブ中、PBS中で使い捨て乳棒(Fisher 12−141−363)を用いてホモジナイズし、後の処置のために氷上に保持する。
DNAの精製: 均質化試料(250μL)を、最初にグラデーションラインで切断された滅菌済みフィルターチップ(Racked Gilson Expert Sterilized Filter Tips)を用いて除去し、エッペンドルフチューブに移した。DNAは、製造業者のプロトコールに従ってMoBio PowerLyzer PowerSoil DNA Isolation Kit(12855−100)を用いて均質化試料(250μL)から精製した。各試料から回収された精製DNAの量は、Eppendorf BioSpectrometer Basicで試料のOD260を測定することによって定量した。
PCR反応: 2つの反応(反応1および反応2)をアセンブルし、3連で行った。第1の反応は、ニッスルの量を定量する役割を、第2の反応は、糞便試料中に存在する細菌の総量を定量する役割を果たす。第1のqPCR反応については、精製DNA(5ng)、0.4μLのプライマー1(10μM)、0.4μLのプライマー2(10μM)および10μLのSYBR Green PCR Master Mix(Thermo Fisher Scientific: 4368577)を水で20μLとした。第2のqPCR反応については、精製DNA(5ng)、0.4μLのプライマー3(10μM)、0.4μLのプライマー4(10μM)および10μLのSYBR Green PCR Master Mix(Thermo Fisher Scientific: 4368577)を水で20μLとした。
10μMの濃度で反応に用いたプライマーの配列は、表35に見いだされる。
増幅された細菌DNAの量の定量のために、各反応について標準曲線を作成した。標準曲線を得るために、断片#1(1組の濃度で合成した)(表36)を以下の量が得られる、10倍連続希釈で、8ウエルが断片#1の106コピーを有するまで、希釈した:無DNA、断片#1の1コピー、断片#1の10コピー、断片#1の100コピーなど。次いで標準DNAsを反応#1のqPCR反応混合物に加えた。
標準曲線、ならびに反応1および2のPCR反応条件を表37に示す。
品質管理処置として、試験qPCR反応の融解曲線を各プライマーセットの陽性対照と比較して、陽性対照の融解曲線が試験試料の融解曲線と一致することを保証した。ニッスルおよび総細菌の存在および量は、標準曲線と対照して、CT値(サイクル閾値)を解析することによって決定した。
[実施例32]
酪酸を過剰産生するためのベクターの構築
上述のアンモニア変換回路、GABA輸送回路、GABA代謝回路および/またはマンガン輸送回路に加えて、大腸菌ニッスル細菌は、消化管バリア増強分子を産生するための1つまたは複数の回路をさらに含む。
大腸菌ニッスルにおける酪酸の誘導性産生を促進するために、ペプトクロストリジウム・ディフィシル630に由来する酪酸産生経路の8つの遺伝子(bcd2、etfB3、etfA3、thiA1、hbd、crt2、bptおよびbuk;NCBI)、ならびに転写および翻訳エレメントを合成し(Gen9、Cambridge、MA)、ベクターpBR322にクローニングした。酪酸遺伝子カセットは、配列番号18〜29(表6)から選択されるFNR調節領域の制御下におかれる。特定の構築物では、FNR応答性プロモーターは、強いリボソーム結合部位配列にさらに融合されている。酪酸遺伝子の効率的な翻訳のために、オペロンにおける各合成遺伝子を、T7プロモーター/翻訳開始部位に由来する15塩基対リボソーム結合部位によって分離させた。
特定の構築物では、酪酸遺伝子カセットは、RNS応答性調節領域、例えば、norBの制御下におかれ、細菌は、対応するRNS応答性転写因子、例えば、nsrRをコードする遺伝子をさらに含む(例えば、表38および39参照)。特定の構築物では、酪酸遺伝子カセットは、ROS応答性調節領域、例えば、oxySの制御下におかれ、細菌は、対応するROS応答性転写因子、例えば、oxyRをコードする遺伝子をさらに含む(例えば、表14〜17参照)。特定の構築物では、酪酸遺伝子カセットは、テトラサイクリン誘導性または構成的プロモーターの制御下におかれる。
bcd2−etfA3−etfB3遺伝子の遺伝子産物は、クロトニル−CoAをブチリル−CoAに変換する複合体を形成し、共酸化剤として酸素に対する依存性を示し得る。本発明の組換え細菌は、酸素制限環境(例えば、哺乳動物消化管)において酪酸を産生するように設計されているため、酸素に対する依存性は、消化管内の酪酸産生の負の影響を有し得る。トレポネーマ・デンティコラ、トランス−2−エノイルCoAレダクターゼに由来する単一遺伝子(ter)がこの3遺伝子複合体を酸素非依存的に機能的に置換することができることが示された。したがって、ter遺伝子が第1の酪酸カセットのbcd2−etfA3−etfB3遺伝子を置換した第2の酪酸遺伝子カセットを合成する(Genewiz、Cambridge、MA)。ter遺伝子は、Integrated DNA Technologiesオンラインコドン最適化ツール(https://www.idtdna.com/CodonOpt)を用いて大腸菌コドン使用のためにコドン最適化されている。第2の酪酸遺伝子カセット、ならびに転写および翻訳エレメントを合成し(Gen9、Cambridge、MA)、ベクターpBR322にクローニングする。第2の酪酸遺伝子カセットは、上述のFNR調節領域の制御下におかれる。特定の構築物では、酪酸遺伝子カセットは、RNS応答性調節領域、例えば、norBの制御下におかれ、細菌は、対応するRNS応答性転写因子、例えば、nsrRをコードする遺伝子をさらに含む(例えば、表38および39参照)。特定の構築物では、酪酸遺伝子カセットは、ROS応答性調節領域、例えば、oxySの制御下におかれ、細菌は、対応するROS応答性転写因子、例えば、oxyRをコードする遺伝子をさらに含む(例えば、表Cおよび表40参照)。
特定の構築物では、酪酸遺伝子カセットは、テトラサイクリン誘導性または構成的プロモーターの制御下におかれる。第3の酪酸遺伝子カセットでは、pbtおよびbuk遺伝子がtesBで置換されている。tesBは、ブチリル−coAから酪酸を切り離し、それによりpbt−bukの必要性を除去する大腸菌に見いだされるチオエステラーゼである。
一実施形態では、tesBは、表6における配列のいずれかから選択されるFNR調節領域の制御下におかれる。代替実施形態では、tesBは、RNS応答性調節領域、例えば、norBの制御下におかれ、細菌は、対応するRNS応答性転写因子、例えば、nsrRをコードする遺伝子をさらに含む。他の実施形態では、tesBは、ROS応答性調節領域、例えば、oxySの制御下におかれ、細菌は、対応するROS応答性転写因子、例えば、oxyRをコードする遺伝子をさらに含む。特定の構築物では、異なる記載されている酪酸遺伝子カセットがそれぞれ、テトラサイクリン誘導性または構成的プロモーターの制御下におかれる。例えば、pbtおよびbuk遺伝子が硝酸応答性調節エレメントの制御下に発現するtesBで置換されている酪酸遺伝子カセットを含む遺伝子操作ニッスルを作製する。配列番号86は、淋菌に由来するnsrRリプレッサー遺伝子の逆方向相補体(下線付き)、nsrRおよび酪酸生成遺伝子カセットならびにそれらのそれぞれのRBSを制御する多様なプロモーターを含む遺伝子間領域(太字)、ならびにRBSによって分離された酪酸遺伝子(ter−thiA−hbd−crt−tesB)を含む。
tet誘導性プロモーター用いる酪酸を過剰産生するためのベクターの構築
大腸菌ニッスルにおける酪酸の誘導性産生を促進するために、ペプトクロストリジウム・ディフィシルに由来する酪酸産生経路の8つの遺伝子(bcd、etfB、etfA、thiA、hbd、crt、bptおよびbuk;NCBI)、ならびに転写および翻訳エレメントを合成し(Gen、Cambridge、MA)、ベクターpBRにクローニングし、pLogicを作製した。合成されたとき、遺伝子を、tet誘導性合成酪酸オペロンから分岐した、構成的に発現するtetリプレッサー(tetR)を含む、テトラサイクリン誘導性プロモーターの制御下においた。酪酸遺伝子の効率的な翻訳のために、オペロンにおける各合成遺伝子を、Tプロモーターに由来する塩基対リボソーム結合部位によって分離させた。
bcd−etfA−etfBの遺伝子産物は、クロトニル−CoAをブチリル−CoAに変換する複合体を形成し、共酸化剤として酸素に対する依存性を示し得る。有効なプロバイオティクは酸素制限環境(例えば、哺乳動物消化管)で機能することができるため、またトレポネーマ・デンティコラの単一遺伝子がこの3遺伝子複合体を酸素非依存的に機能的に置換することができる(トランス−エノイル−CoAレダクターゼ;ter)ことが示されたので、我々は、大腸菌において酪酸の産生の能力のある第2のプラスミドを作製した。逆PCRを用いて、bcd−etfA−etfB領域の外側のpLogicの全配列を増幅した。ter遺伝子をIntegrated DNA Technologiesオンラインコドン最適化ツール(https://www.idtdna.com/CodonOpt)を用いて大腸菌コドン使用のためにコドン最適化し、合成し(Genewiz、Cambridge、MA)、Gibsonアセンブリを用いてこの逆PCR断片にクローニングして、pLogicを作製した。
[実施例34]
大腸菌の形質転換
各プラスミドを大腸菌ニッスルまたは大腸菌DH5aに形質転換する。すべての管、溶液およびキュベットを4℃に予冷する。大腸菌ニッスルまたは大腸菌DH5aの一夜培養を5mLの溶原培地(LB)で1:100に希釈し、0.4〜0.6のOD600に達するまで増殖させる。細胞培養培地は、選択マーカー、例えば、プラスミドに適するアンピシリンを含む。次いで大腸菌を4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を1mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を再び4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を0.5mLの4℃水に再懸濁する。大腸菌を再び4℃で2,000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を最後に0.1mLの4℃水に再懸濁する。エレクトロポレーターを2.5kVに設定する。0.5μgの上記のプラスミドの1つを細胞に加え、ピペッティングにより混合し、滅菌済み冷却キュベットにピペッティングする。乾燥キュベットを試料チャンバーに入れ、電気パルスを印加する。1mLの室温SOC培地を直ちに加え、混合物を培養管に移し、37℃で1時間インキュベートする。細胞をアンピシリンを含むLBプレート上に広げ、一夜インキュベートする。
代替実施形態では、酪酸カセットを相同的組換えによりニッスルゲノムに挿入することができる(Genewiz、Cambridge、MA)。構築物およびヌクレオチド配列の構成を本明細書に示す。合成酪酸カセット構築物を染色体に組み込むことができるベクターを作製するために、まず、Gibsonアセンブリを用いて、ニッスルlacZ遺伝子座に相同のDNAの1000bp配列をR6K起源プラスミドpKD3に加えた。これは、ニッスルゲノムにおけるlacZ遺伝子座に組み込まれるこれらの相同性アーム間にクローニングされるDNAを標的とする。Gibsonアセンブリを用いて、これらのアーム間の断片をクローニングした。PCRを用いて、相同性アームの全配列、ならびにそれらの間の酪酸カセットを含むこのプラスミドの領域を増幅する。このPCR断片を用いて、ラムダレッドレコンビナーゼ遺伝子をコードする温度感受性プラスミドを含む菌株である、エレクトロコンピテントニッスル−pKD46を形質転換する。形質転換後、20μg/mLのクロラムフェニコール上で37℃で平板培養する前に細胞を2時間増殖させた。37℃での増殖もpKD46プラスミドを治癒させる。カセットを含む形質転換細胞は、クロラムフェニコール耐性であり、lacマイナス(lac−)である。
[実施例35]
組換え大腸菌における酪酸の産生
酪酸産生に対する酸素の影響を判断するために、上述の酪酸カセットを含む大腸菌ニッスルにおける酪酸の産生を評価する。すべてのインキュベーションを37℃で実施する。酪酸カセットで形質転換した大腸菌菌株DH5aおよびニッスルの培養をLB中で一夜増殖させ、4mLの0.5%グルコース含有M9最少培地で1:200に希釈する。細胞を振盪(250rpm)しながら4〜6時間増殖させ、Coy嫌気性チャンバー(90%N2、5%CO2、5%H2を供給)中で好気的または嫌気的にインキュベートする。1mLの培養アリコートを1.5mL栓付き管に入れて用意し、培養の曝気を制限するために静的インキュベーター中でインキュベートする。1本の管を各時点(0、1、2、4および20時間)に除去し、LC−MSにより酪酸濃度について分析して、これらの組換え菌株における酪酸産生を低酸素環境で達成することができることを確認する。
[実施例36]
組換え大腸菌における酪酸の産生
酪酸産生に対する酸素の影響を判断するために、上述の酪酸カセットを含む大腸菌ニッスルにおける酪酸の産生を評価する。すべてのインキュベーションを37℃で実施する。酪酸カセットで形質転換した大腸菌菌株DH5aおよびニッスルの培養をLB中で一夜増殖させ、4mLの0.5%グルコース含有M9最少培地で1:200に希釈する。細胞を振盪(250rpm)しながら4〜6時間増殖させ、Coy嫌気性チャンバー(90%N2、5%CO2、5%H2を供給)中で好気的または嫌気的にインキュベートする。1mLの培養アリコートを1.5mL栓付き管に入れて用意し、培養の曝気を制限するために静的インキュベーター中でインキュベートする。1本の管を各時点(0、1、2、4および20時間)に除去し、LC−MSにより酪酸濃度について分析して、これらの組換え菌株における酪酸産生を低酸素環境で達成することができることを確認する。
[実施例37]
tet誘導性プロモーターを用いた組換え大腸菌における酪酸の産生
図48にtet誘導性プロモーターの制御下の上述の酪酸カセットを示す。下文の実施例40で述べる方法を用いて酪酸の産生を評価する。試験したtet誘導性カセットは、(1)8遺伝子すべてを含むtet−酪酸カセット(pLOGIC031);(2)terが置換されているtet−酪酸カセット(pLOGIC046)ならびに(3)tesBがpbtおよびbuk遺伝子の代わりに置換されているtet−酪酸カセットを含む。図51Aに酪酸産生の有意な差がない、酸素の存在下および非存在下でのpLOGIC031およびpLOGIC046菌株における酪酸産生を示す。酪酸産生の増大が、最終2遺伝子(pbt−buk)の欠失および内因性大腸菌tesB遺伝子(ブチリルCoAから酪酸部分を切り離すチオエステラーゼ)によるそれらの置換を含むpLOGIC046を発現する低コピープラスミドにおけるニッスルで示された。
細胞の一夜培養をLbで1:100に希釈し、初期対数期に達するまで1.5時間増殖させ、その時点に無水tetを100ng/mlの最終濃度で加えて、プラスミドの発現を誘導した。2時間の誘導後、細胞を洗浄し、0.5%グルコースを含むM9最少培地にOD600=0.5で再懸濁した。試料を表示時間に除去し、細胞を遠沈した。上清をLC−MSを用いて酪酸の産生について試験した。図51Bにter置換(pLOGIC046)またはtesB置換(ptb−buk欠失)を有するtet−酪酸カセットを含む菌株における酪酸の産生を示すが、tesB置換菌株がより大きい酪酸産生を有することが実証された。
図52に一般的クローニング菌株であり、大腸菌突然変異体のKEIO集合のバックグラウンドである、大腸菌のBW25113菌株を示す。NuoB欠失を有するNuoB突然変異体が得られた。NuoBは、呼吸成長時(電子伝達を必要とする成長の形)のNADHの酸化に関与するタンパク質複合体である。NADH酸化の電子伝達へのカップリングを妨げることにより、酪酸産生を維持するために用いられるNADHの量が増加する。図52に野生型ニッスルと比較して、NuoBの欠失が酪酸のより多くの産生をもたらすことを示す。
組換え大腸菌における酪酸の産生
酪酸産生に対する酸素の影響を判断するために、上述の酪酸カセットを含む大腸菌ニッスルにおける酪酸の産生を評価する。すべてのインキュベーションを37℃で実施する。酪酸カセットで形質転換した大腸菌菌株DH5aおよびニッスルの培養をLB中で一夜増殖させ、4mLの0.5%グルコース含有M9最少培地で1:200に希釈する。細胞を振盪(250rpm)しながら4〜6時間増殖させ、Coy嫌気性チャンバー(90%N2、5%CO2、5%H2を供給)中で好気的または嫌気的にインキュベートする。1mLの培養アリコートを1.5mL栓付き管に入れて用意し、培養の曝気を制限するために静的インキュベーター中でインキュベートする。1本の管を各時点(0、1、2、4および20時間)に除去し、LC−MSにより酪酸濃度について分析して、これらの組換え菌株における酪酸産生を低酸素環境で達成することができることを確認する。
代替実施形態では、一夜細菌培養を新鮮なLBで1:100に希釈し、1.5時間増殖させて、初期対数期に入ることを可能にした。この時点に、長半減期酸化窒素ドナー(DETA−NO;ジエチレントリアミン−酸化窒素付加体)を0.3mMの最終濃度で培養に加えて、プラスミドからの発現を誘導した。2時間の誘導後、細胞を遠沈し、上清を捨て、細胞を0.5%グルコースを含むM9最少培地に再懸濁した。次いで培養上清を表示時点に分析して、酪酸の産生のレベルを評価した。(pLogic031−nsrR−norB−酪酸オペロン構築物;SYN−UCD507)または(pLogic046−nsrR−norB−酪酸オペロン構築物;SYN−UCD508)を含む遺伝子操作ニッスルは、野生型ニッスルと比較して有意に多くの酪酸を産生する。
pbtおよびbuk遺伝子がテトラサイクリンプロモーターの制御下に発現するtesB(配列番号48)で置換されている酪酸遺伝子カセット(pLOGIC046−tesB−酪酸;配列番号88)を含む遺伝子操作ニッスルを作製した。配列番号88は、tetRリプレッサーの逆方向相補体(下線付き)、tetRならびに酪酸オペロンおよびそれらのそれぞれのRBSを制御する多様なプロモーターを含む遺伝子間領域(太字)、ならびにRBSにより分離された酪酸遺伝子(ter−thiA1−hbd−crt2−tesB)を含む。
一夜細菌培養を新鮮なLBで1:100に希釈し、1.5時間増殖させて、初期対数期に入ることを可能にした。この時点に、無水テトラサイクリン(ATC)を100ng/mlの最終濃度で培養に加えて、プラスミドからの酪酸遺伝子の発現を誘導した。2時間の誘導後、細胞を遠沈し、上清を捨て、細胞を0.5%グルコースを含むM9最少培地に再懸濁した。次いで培養上清を表示時点に分析して、酪酸の産生のレベルを評価した。pbtおよびbukのtesBによる置換が、より大きいレベルの酪酸産生をもたらす。
図53Cにグルコースおよび酸素の存在下/非存在下でのFNR−酪酸カセットsyn 363(ter置換を有する)を含む菌株における酪酸産生を示す。図53Cは、細菌がFNRプロモーターからの酪酸産生のためにグルコースおよび嫌気的条件の両方を必要とすることを示している。細胞は、グルコース不含有培地(LB)中または0.5%グルコース含有培地(RMC)中で好気的または嫌気的に増殖させた。培養試料を表示時点に採取し、上清の一部をLC−MSを用いて酪酸濃度について評価した。これらのデータから、SYN363が酪酸の産生のためにグルコースを必要とし、グルコースの存在下では、嫌気性FNR調節ydfZプロモーターの制御下にある場合、嫌気的条件下で酪酸の産生を増大させることができることがわかる。
[実施例39]
アンモニア代謝および酪酸産生回路を含む細菌菌株のin vitro活性
アンモニアの取込みおよびアルギニンへの変換ならびに酪酸の産生を1つの菌株において達成することができるかどうかを判断するために、酪酸産生カセット構築物を含むプラスミド(Logic156)を最初の概念実証実験に用いた。以下の菌株をプラスミドを用いて作製した:SYN−UCD501(Logic156(pSC101 PydfZ−ter酪酸プラスミド;am耐性)を含む);およびSYN−UCD−305であり、Logic156をさらに含むSYN−UCD601(すなわち、SYN−UCD601は、ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyAおよびLogic156(pSC101 PydfZ−ter酪酸プラスミド;am耐性)を含む)。酪酸のみの産生菌SYN−UCD501、アルギニンのみの産生菌SYN−UCD305および複合酪酸/アルギニン産生菌SYN−UCD−601の間でアルギニンおよび酪酸の産生を比較した。用いた酪酸カセットの配列を表38に示す。
手短に述べると、凍結グリセロールストックからの細菌を含む3mlのLB(選択的抗生物質(SYN−UCD501およびSYN−UCD601についてAmp)ならびにSYN−UCD305およびSYN−UCD601について3mMチミジンを含む)。細菌を振盪しながら37℃で一夜増殖させた。一夜培養を125mlのバッフル付きフラスコ中で10mlのLB(上記のように必要な場合、抗生物質およびチミジンを含む)に1:100の希釈度で希釈した。培養を振盪しながら37℃で好気的に約1.5時間増殖させ、次いで37℃の嫌気的チャンバーに4時間移した。細菌(2×108CFU)を小遠心管中50mM MOPSを0.5%グルコースとともに含む1mlのM9培地に加えた。細胞を平板培養して、細胞数を測定した。アッセイ管を37℃の嫌気性チャンバーに入れた。表示時間(1、2、24時間)に、120μlの細胞を除去し、14,000rpmで1分間ペレット化し、100μlの上清を96ウエルアッセイプレートに移し、アルミニウムフォイルで密封し、アルギニンおよび酪酸濃度のLC−MS(実施例13および実施例40で述べる)による分析時まで−80℃で保存した。
結果を図53Aおよび図53Bに示す。SYN−UCD601は、in vitroでSYN−UCD305と同様のレベルのアルギニンを、SYN−UCD501と同様のレベルの酪酸を産生することができることが示されている。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号90の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号90と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号90のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号90と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号92の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号92と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号92のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号92と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号94の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号94と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号94のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号94と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号96の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号96と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号96のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号96と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号98の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号98と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号98のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号98と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号100の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号100と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号100のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号100と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号104の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号104と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号104のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号104と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号48の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号48と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号48のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号48と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
代替実施形態では、pbtおよびbukがTesB(配列番号48)で置換されている。
いくつかの実施形態では、酪酸カセットは、誘導性プロモーターにより駆動される。例えば、配列番号におけるydfZの代わりに他のFNRプロモーターを用いることができる。
非限定的なFNRプロモーター配列を本明細書に示す。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作細菌は、表6に見いだされるプロモーター配列、例えば、nirBプロモーター、ydfZプロモーター、強いリボソーム結合部位に融合したnirB、強いリボソーム結合部位に融合したydfZプロモーター、嫌気的に誘導される小RNA遺伝子(fnrSプロモーター)である、fnrS、crp結合部位に融合したnirBプロモーター、およびcrp結合部位に融合したfnrSのうちの1つまたは複数の制御下の酪酸カセットを含む。
いくつかの実施形態では、酪酸カセットは、消化管内に存在する代謝物により誘導されるプロモーターの制御下にある。いくつかの実施形態では、酪酸カセットは、HP特異的分子または肝損傷を示す代謝物、例えば、ビリルビンにより誘導される。いくつかの実施形態では、酪酸カセットは、炎症または炎症反応により誘導性である、プロモーター(例えば、RNSまたはROSプロモーター)の制御下におかれる。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、それらの血液および腸における分子または代謝物、例えば、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、血液凝固因子II、VII、IXおよびX、アルカリホスファターゼ、ガンマグルタミルトランスフェラーゼ、肝炎抗原および抗体、アルファフェトプロテイン、抗ミトコンドリア、平滑筋および抗核抗体、鉄、トランスフェリン、フェリチン、銅、セルロプラスミン、アンモニアならびにマンガンにより誘導されたプロモーターにより駆動される酪酸カセットを含む。これらの分子またはそれらの代謝物の1つに応答するプロモーターは、本明細書で示した遺伝子操作細菌に用いることができる。
いくつかの実施形態では、酪酸カセットは、アラビノースにより誘導性であり、AraBADプロモーターにより駆動される。
[実施例40]
LC−MS/MSによる酪酸の定量
実施例37における酪酸の測定値を得るために、酪酸の定量のためのLC−MS/MSプロトコールを用いた。
試料の調製
最初に、新鮮な酪酸ナトリウム保存溶液(10mg/m)ならびに1000、500、250、100、20、4および0.8μg/mLの酪酸ナトリウム標準を水を用いて調製した。次いで、10μLの試料(細菌上清および標準)をV型底ポリプロピレン96ウエルプレートにピペッティングし、最終溶液中4μg/mLの酪酸−d7(CDN同位体)内部標準を含む90μLの67%ACN(反応当たり60μL ACN+30μL水)を各試料に加えた。プレートを熱融着させ、十分に混合し、4000rpmで5分間遠心分離した。丸底96ウエルポリプロピレンプレートにおいて、20μLの希釈試料を、10mM MES pH4.5、20mM EDC(N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド)および20mM TFEA(2,2,2−トリフルオロエチルアミン)を含む180μLの緩衝液に加えた。プレートを再び熱融着させ、十分に混合し、試料を室温で1時間インキュベートした。
LC−MS/MS法
酪酸は、Thermo TSQ Quantum Max三連四重極質量分析計を用いたタンデム質量分析と連結した液体クロマトグラフィー(LC−MS/MS)により測定した。HPLCの詳細を表45および表46に示す。タンデム質量分析の詳細は、表47に見いだされる。
胆管結紮モデルにおけるアルギニンおよび/または酪酸を産生する遺伝子操作細菌の有効性
げっ歯類における総胆管の結紮は、肝臓胆汁うっ滞および線維症を誘発する多年にわたる研究における実験的処置として用いられている(例えば、Tagら、Bile Duct Ligation in Mice: Induction of Inflammatory Liver Injury and Fibrosis by Obstructive Cholestasis、Journal of Visualized Experiments、2015年2月;96;e52438頁、その中の参考文献参照)。
肝臓炎症および線維症の症状の低減におけるアルギニンおよび酪酸産生回路を含む菌株の有効性を判定するために、胆管結紮モデルを用いる。ニッスル対照(SYN−UCD107、カナマイシン耐性ニッスル)、アルギニン産生菌株(SYN−UCD305)、酪酸産生菌株(SYN−UCD502)ならびに酪酸およびアルギニンの両方を産生する菌株(SYN−UCD605)を本試験で比較する。ALT/ASTレベル、線維症(門脈、類洞周囲および総)ならびに肝炎が本試験の主要なエンドポイントであり、動物の全般的な健康状態が本試験の副次的エンドポイントである。
動物(C57BL6、8週)は、H2O対照(n=12)、またはSYN−UCD107(n=12;カナマイシン耐性ニッスル)、またはアルギニン産生SYN−UCD305(n=12;ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyAおよび無抗生物質耐性を含む)、または酪酸産生SYN−UCD502(n=12;染色体に組み込まれたPydfZ−ter酪酸カセットを含む)、またはSYN−UCD605(n=12;ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyAおよび染色体に組み込まれたPydfZ−ter酪酸カセット、ならびに無抗生物質耐性を含む)の強制経口投与により治療する。細菌を>10e10細胞/mlの用量で投与する。
いくつかの実施形態では、SYN−UCD501(野生型ArgR、無FNR−ArgAfbr、野生型ThyAおよびLogic156(pSC101 PydfZ−ter酪酸プラスミド;amp耐性を含む)ならびにSYN−UCD602(ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyAおよびLogic156(pSC101 PydfZ−ter酪酸プラスミド;amp耐性を含む))をSYN−UCD502およびSYN−UCD605の代わりに用いる。
0日目に、胆管結紮手術を実施例40で述べたように実施する。1日目に、マウスの体重を測定し、無作為化する。マウスに100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前および午後に強制経口投与する。2日目に、マウスに100μlのH2O、SYN798およびSYN993を午前および午後に強制経口投与する。3日目に、マウスに100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前および午後に強制経口投与する。午前の投与の4時間後に、ALT/ASTの分析のために血液を採取する。4〜6日目に、マウスに100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前および午後に強制経口投与する。7日目に、マウスに100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前および午後に強制経口投与する。午前の投与の4時間後に、ALT/ASTの分析のために血液を採取する。8〜9日目に、マウスに100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前および午後に強制経口投与する。10日目に、マウスに100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前および午後に強制経口投与する。午前の投与の4時間後に、ALT/ASTの分析のために血液を採取する。11〜13日目に、マウスに100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前および午後に強制経口投与する。14日目に、動物に100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前に強制経口投与する。次いで、投与の4時間後に動物を安楽死させ、ALT/ASTの分析のために心臓採血により血液を採取する。組織学的評価による線維症の分析のために肝臓組織を採取する。
[実施例42]
胆管結紮処置
胆管結紮
手術前の準備:
完全な実験中に、動物を麻酔システムに永続的に接続された、37℃の温度の加温プレート上に保持し、手術野を液体浸透性の自己接着性ドレープで全体的に覆う。
マウスは、麻酔の誘導のための4L/分の流量の100%酸素中4容積%イソフルランの吸入により麻酔する。麻酔の深さは、次のバイタル基準に達する場合、十分である:規則的な自発呼吸、指間疼痛刺激の無反射および疼痛への無反応。マウスの腹部の被毛を電気ファーシェーバーで剃毛し、眼および鼻軟膏を用いて眼を乾燥から保護する。マウスを37℃の加熱ホットプレート上にのせ、マウスの鼻をFluovac麻酔システムのFluovacマスクに挿入し、動物の脚を絹テープのストライプで固定する。
マウスの麻酔は、1L/分の流量の100%酸素中1.5〜3容積%イソフルランの吸入により維持し、ブプレノルフィン溶液(0.9% NaCl溶液に溶解した0.1mg/kg BW)の腹腔内注射により周術期の鎮痛を誘導する。
剃毛腹部皮膚を皮膚の術前処置用の調製済みの標準消毒アルコール溶液で湿らせたガーゼスワブ滅菌する。
外科手術
11.5cm外科用鋏で真皮と筋膜を同時に切断することにより約2cmの長さの正中線開腹術により腹部を開く。鋏を延展器として用いることによって腹膜の上部の結合組織を切開した。腹膜を白線に沿って切断して、腹腔を開く。保持縫合糸を胸骨に挿入し、縫合糸のフィラメントを持ち上げることによって腔を拡大し、それをFluovacマスクの上部に固定する。Colibri牽引器を腹腔に挿入することによって手術野を広げる。その腹側が横隔膜に向かって突き出て、門が明瞭に見えるように、湿らせた(0.9%NaCl溶液)綿スワブで肝臓を持ち上げる。腸の尾側移動による胆管を露出させる。小鋸歯状鉗子を用いて胆管を隣接門脈静脈および肝動脈から注意深く分離する。5−0縫合糸を胆管の周囲に設置し、2つの外科結びにより固定する。結び目を作る場合、牽引力を連続的に増加させて、胆管を断ち切ることなく効果的な閉塞を保証する。第2の頭側結紮を間の胆管を切断することなく同様な方法で加える。縫合糸の末端を切断し、胸骨を下げ、牽引器を除去する。腹腔を0.9%NaCl溶液ですすぎ、腹部臓器を生理的位置に戻す。両腹部層(腹膜および真皮と筋膜)を6−0 Mersilkを用いた別個の連続縫合によって閉鎖する。縫合糸の末端を切断し、手術野を消毒溶液で湿らせたガーゼスワブで滅菌する。
術後処置およびフォローアップ:
マウスが十分に覚醒し、活動的になるまで、マウスを赤外ランプで加温されたケージ内で回復させる。その後、マウスを通常のケージに移動させ、水および食物を自由に摂取させる。手術後、内部動物管理使用委員会の現地の勧告に従って、動物を定期的にモニターし、適切な鎮痛薬(例えば、ブプレノルフィン溶液)を用いてフォローアップ術後処置を行う。動物に実験の終了まで食物および水を自由に摂取させることを維持した。
[実施例43]
肝性脳症のTAAモデル
UCD、急性および慢性肝疾患ならびにHEに関連する血中アンモニアレベルの増加を模擬するためのマウスのTAA処理は、文献において以前に用いられた(Wallace MCら、Lab Anim.、2015年4月;49巻(増補1):21〜9頁、Standard operating procedures in experimental liver research: thioacetamide model in mice and rats)。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌の活性の持続時間を検討し、肝性脳症の治療へのこのアプローチを支援するための追加データを得るために高アンモニア血症のTAA誘発マウスモデルを用いる。
肝臓炎症および線維症の症状を軽減するアルギニンおよび酪酸産生回路を含む菌株の有効性を判定するために、ニッスル対照(SYN−UCD107、カナマイシン耐性ニッスル)、アルギニン産生菌株(SYN−UCD305)、酪酸産生菌株(SYN−UCD502)ならびに酪酸およびアルギニンの両方を産生する菌株(SYN−UCD605)をTTAモデル試験において比較する。ALT/ASTレベル、線維症(門脈、類洞周囲および総)ならびに肝炎が本試験の主要なエンドポイントである。動物の全般的な健康状態が本試験の副次的エンドポイントである。
血中アンモニアの長期の上昇に対する操作細菌の影響を検討するために、300mpkの用量のチオアセトアミド(TAA)も投与するC57BL6マウスに細菌を投与する。
C57BL6(10週齢)にSYN−UCD107、またはSYN−UCD305(n=12)、SYN−UCD502(n=12)、もしくはSYN−UCD605(n=12)(100μlの>1×1010細胞/ml)または媒体対照の一日量を投与する。あるいは、マウスに2一日量の細菌(100μlの>1×1010細胞/ml)(各治療群につきn=5)を午前に1回、午後に1回投与する。細菌の前投与の3日後に、マウスに300mpkのチオアセトアミド(TAA)または対照としてのH2Oを腹腔内投与する。あるいは、マウスに250mpkを1日2回、午前に1回、午後に1回投与する。試験の期間は、5日である。アンモニアレベルを測定し、全般的な健康状態、生存、体重変化をモニターする。
手短に述べると、動物を7日間馴化させる。時間経過の1日目に、動物の体重を測定し、ベースラインALT/ASTを測定するために採血し、糞便ペレット(ケージごと)を採取し、ALT/ASTレベルに基づいて無作為化する。動物にH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。水をH2O(+)20mg/ml ATCに変更する。2日目に、動物にH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。3日目に、動物の体重を測定し、H2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。さらに、動物に300mpkのTAA(または生理食塩水対照)を腹腔内投与する。あるいは、動物に250mpkのTAA(または生理食塩水対照)を午前に1回、午後に1回投与する。4日目に、動物の体重を測定し、ALT/ASTの分析のために血液を採取する。糞便ペレットをケージごとに採取する。動物にH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。動物に250mpkのTAA(または生理食塩水対照)も投与することができる。5日目に、動物の体重を測定し、ALT/ASTの分析のために血液を採取する。糞便ペレットをに採取する(ケージごと)。動物にH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605(100μl/用量/動物)を1回または2回(午前および午後)の強制経口投与により投与する。ALT/ASTレベル、糞便ペレット中の細菌負荷ならびに全般的な健康生存期間および体重変化をモニターする。組織学的評価による線維症の分析のために肝臓組織を採取する。
[実施例44]
肝性脳症の四塩化炭素(CCl4)モデル
CCl4は、動物における肝線維症および肝硬変を誘発するためにしばしば用いられる。その理由は、基礎をなす生化学的機構および組織学的特性がヒト肝硬変に認められるものに類似しているからである(Nhungら、Establishment of a standardized mouse model of hepatic fibrosis for biomedical research;Biomedical Research and Therapy 2014年、1巻(2号):43〜49頁)。
CYP2E1は、細静脈周囲肝細胞において発現し、CCl4をCCl3+ラジカルに変換する酵素である。CCl3+ラジカルの蓄積は、小葉中心性壊死ならびに肝細胞形質およびミトコンドリア膜の透過性の変化を引き起こす。結果として、炎症および線維形成の増加、ならびに細胞外マトリックスの沈着が認められる。慢性CCl4曝露は、創傷治癒過程の産物である、小結節の形成および線維症をもたらす。CCl4処理は、2〜4週後に線維症、5〜7週後に著しい架橋線維症、9〜11週後に硬変および10〜20週後に小結節性硬変を引き起こすことが示された(Nhungら、Establishment of a standardized mouse model of hepatic fibrosis for biomedical research; Biomedical Research and Therapy 2014年、1巻(2号):43〜49頁、およびそれにおける参考文献)。
肝臓炎症および線維症の症状を軽減するアルギニンおよび酪酸産生回路を含む菌株の有効性を判定するために、肝硬変のCCl4マウスモデルを用いる。ニッスル対照(SYN−UCD107、カナマイシン耐性ニッスル)、アルギニン産生菌株(SYN−UCD305)、酪酸産生菌株(SYN−UCD502)ならびに酪酸およびアルギニンの両方を産生する菌株(SYN−UCD605)を本試験において比較する。ALT/ASTレベル、線維症(門脈、類洞周囲および総)ならびに肝炎が本試験の主要なエンドポイントである。動物の全般的な健康状態が本試験の副次的エンドポイントである。試験期間は8週間である。
動物(C57BL6、8週齢)をH2O対照(n=12)またはSYN−UCD107(n=12;カナマイシン耐性ニッスル)、もしくはアルギニン産生SYN−UCD305(n=12;ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyAを含み、抗生物質耐性を含まない)もしくは酪酸産生SYN−UCD502(n=12;野生型ArgR、無FNR−ArgAfbr、野生型ThyA、および染色体に組み込まれたPydfZ−ter酪酸カセットを含む)もしくはSYN−UCD605(n=12;ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyA、染色体に組み込まれたPydfZ−ter酪酸カセットを含み、抗生物質耐性を含まない)の強制経口投与により治療する。細菌は、100μlの容量で>10e10細胞/mlの用量で投与する。
いくつかの実施形態では、SYN−UCD501(野生型ArgR、無FNR−ArgAfbr、 野生型ThyAおよびLogic156(pSC101 PydfZ−ter酪酸プラスミド;amp耐性)を含む)ならびにSYN−UCD602(ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyAおよびLogic156(pSC101 PydfZ−ter酪酸プラスミド;amp耐性)を含む)をSYN−UCD502およびSYN−UCD605の代わりに用いる。
1日目に、マウスの体重を測定し、無作為化する。動物に100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前に強制経口投与する。さらに、動物にオリーブ油(擬似対照)またはオリーブ油中1ml/kg CCL4(他のすべての治療群)を強制経口投与する。動物に100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午後に強制経口投与する。
1〜8週目に、動物に100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を1日2回強制経口投与する。さらに、動物にオリーブ油(擬似対照)またはオリーブ油中1ml/kg CCL4(他のすべての治療群)を3x/週、強制経口投与する。動物の体重を3x/週測定し、ALT/AST分析用の血液を1x/週採取する。
8週目の終了時に、動物に100μlのH2O、SYN−UCD107、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前に強制経口投与する。投与の4時間後に、動物の体重を測定し、安楽死させ、ALT/AST分析のために心臓採血により血液を採取する。組織学的評価による線維症の分析のために肝臓を採取する。
[実施例45]
DSSマウスモデルにおける酪酸発現細菌の有効性
上述の酪酸カセットを含む細菌をLB中で一夜増殖させた。次いで細菌を適切な選択マーカー、例えば、アンピシリンを含むLBで1:100に希釈し、0.4〜0.5の光学濃度まで増殖させ、次いで遠心分離によりペレット化する。細菌をリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁し、100μlをマウスに強制経口投与する。細菌の強制経口投与前の7日間にわたり3%デキストラン硫酸ナトリウムを含む飲料水を補給することによってマウスにおける消化管の損傷を誘発させる。マウスを1週間にわたり毎日処理し、糞便ホモジネートを適切な選択マーカー、例えば、アンピシリンを添加した寒天プレート上で平板培養することによって糞便試料中の細菌を検出する。5日間の細菌処理の後、内視鏡法を用いて生存マウスにおける消化管の損傷を採点する。内視鏡的損傷スコアは、結腸の透過性、フィブリン付着、粘膜および血管の病変、および/または糞便の特性を評価することにより確定する。マウスを屠殺し、結腸組織を単離する。遠位結腸切片を固定し、炎症および潰瘍形成について採点する。結腸組織をホモジネートし、酵素アッセイキットを用いてミエロペルオキシダーゼ活性ならびにサイトカインレベル(IL−1β、TNF−α、IL−6、IFN−γおよびIL−10)について測定を行う。
[実施例46]
HEのDSS誘導マウスモデルの作製
述べた遺伝子操作細菌は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウスモデにおいて試験することができる。動物へのDSSの投与は、炎症誘発性腸内容物(例えば、内腔抗原、腸内細菌、細菌産物)に炎症を伝播させ、誘発させる、腸上皮の化学的損傷をもたらす(Lowら、2013年)。DSS処理用のマウスを準備するために、マウスを耳パンチまたは任意の他の適切な標識法を用いて標識する。マウスは、DSS誘導に対して異なる感受性および反応性を示すので、個々のマウスを標識することにより、研究者が各マウスにおける疾患の進行を追跡することができる。次いでマウスの体重を測定し、必要な場合、群間の任意の有意な体重差を解消するために平均群体重を均衡させる。後のアッセイの対照として、DSSの投与の前に糞便も採取する。炎症の糞便マーカー(例えば、サイトカインレベルまたはミエロペルオキシダーゼ活性)の例示的アッセイを以下に述べる。
DSSの投与のために、高圧滅菌水中DSS(MP Biomedicals、Santa Ana、CA;カタログ番号160110)の3%溶液を調製する。次に、ケージの水ボトルに100mLのDSS水を満たし、対照マウスにDSSの補給のない同じ量の水を与える。この量は、一般的に5匹のマウスに対して2〜3日間は十分なものである。DSSは室温で安定であるが、両方の種類の水を2日ごと、またはボトル内の濁りが認められた場合に交換する。
腸炎症の急性、慢性および集束性モデルは、DSSの用量(通常1〜5%)およびDSS投与の期間を変更することによって達成される(Chassaingら、2014年)。例えば、急性および集束性消化管損傷は、1週間以下にわたるDSSへの単一連続曝露後に達成することができるのに対して、慢性消化管損傷は、回復期間により中断されるDSSの周期的投与(例えば、4サイクルの7日間のDSS処理、と続く7〜10日の水)によって一般的に誘導される。
図53DにFNRプロモーターの制御下のDSSマウスモデルにおいてin vivoで産生された酪酸が消化管防護的であり得ることが示されている。LCN2およびカルプロテクチンは、両方が消化管バリアの破壊(このアッセイでELISAにより測定される)の尺度である。図53DにSyn363(ter置換)がSyn94(野生型ニッスル)と比較して炎症を低減し、かつ/または消化管バリアを保護することが示されている。
[実施例47]
疾患の進行のin vivoでのモニタリング
DSSの初回投与後、単一マウスを空のケージ(床敷き材料を含まない)に15〜30分間入れることにより、糞便を各動物から毎日採取する。しかし、DSSの投与が進み、炎症が強くなるにつれて、採取に必要な時間が長くなる。糞便試料は、滅菌済み鉗子を用いて採取し、遠心管に入れる。単一ペレットを用いて、
以下の採点法に従って潜血をモニターする:0、正常な糞便の堅さと潜血陰性;1、軟便で、潜血陽性;2、非常に軟便で、微量の血液;および3、水様便で、可視直腸出血。この採点基準は、腸出血の比較解析に用いられる。すべての残存糞便は、炎症マーカーの測定のために確保し、−20℃で凍結する。
各動物の体重も毎日測定する。体重は、最初のDSSの投与後の最初の3日間にわずかに増加し、次いで出血の開始後徐々に減少し始める。急性大腸炎のマウスモデルについては、DSSは、一般的に7日間投与する。しかし、この期間は、研究者の裁量で変更することができる。
[実施例48]
DSS誘導後の遺伝子操作細菌のin vivo有効性
本明細書に記載の遺伝子操作細菌は、HEのDSS誘導動物モデルにおいて試験することができる。細菌は、適切な抗生物質を添加したLB中で一夜増殖させる。次いで細菌を選択抗生物質を含む新鮮なLBで1:100に希釈し、0.4〜0.5の光学濃度まで増殖させ、遠心分離によりペレット化する。次いで細菌をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁する。細菌の強制経口投与前の7日間にわたり3%DSSを含む飲料水を補給することによって、マウスにおける消化管損傷を誘発させる。DSS処理の7日目に、100μLの細菌(または媒体)をマウスに強制経口投与により投与する。細菌処理を1週間にわたり毎日1回反復し、糞便ホモジネートを選択寒天プレート上で平板培養することによって糞便試料中の細菌を検出する。
細菌処理の5日後に、Coloviewシステム(Karl Storz Veterinary Endoscopy、Goleta、CA)を用いて生存マウスにおける消化管損傷を採点する。1.5〜2.0%イソフルラン麻酔下のマウスにおいて、結腸を空気で拡張し、近位結腸の約3cmを視覚化することができる(Chassaingら、2014年)。内視鏡的損傷は、最大スコアが18となる、結腸の透過性(スコア0〜3)、腸壁へのフィブリンの付着(スコア0〜3)、粘膜顆粒度(スコア0〜3)、血管病変(スコア0〜3)、糞便の特性(正常〜下痢;スコア0〜3)および内腔における血液の存在(スコア0〜3)を評価することにより採点する。マウスを屠殺し、実施例8および9で述べたプロトコールを用いて結腸組織を単離する。遠位結腸切片を固定し、炎症および潰瘍形成について採点する。残りの結腸組織をホモジナイズし、サイトカインレベル(例えば、IL−1β、TNF−α、IL−6、IFN−γおよびIL−10)ならびにミエロペルオキシダーゼ活性を下で述べる方法を用いて測定する。
[実施例49]
HEのげっ歯類モデルの安楽死処置法
屠殺の4および24時間前に、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)(Invitrogen、Waltham、MA;カタログ番号B23151)を供給業者の推奨の通りに、マウスに腹腔内投与することができる。BrdUを用いて、標準抗BrdU抗体(Abcam、Cambridge、MA)を用いた免疫組織化学により腸上皮細胞の増殖および/または移動をモニターする。
屠殺の当日に、マウスに4時間絶食させ、次いでFITC−デキストラントレーサー(4kDa、0.6mg/g体重)を強制経口投与する。糞便ペレットを採取し、FITC−デキストラン投与後3時間目にマウスを安楽死させる。次いで動物の心臓から採血して、無溶血血清を採取する。腸透過性は、適切に希釈された血清の蛍光強度(励起488nm、発光520nm)と相関しており、分光光度法を用いて測定する。マウス血清中の既知量のFITC−デキストランの連続希釈を用いて、標準曲線を作成する。
あるいは、腸炎症は、血清ケラチノサイト由来ケモカイン(KC)、リポカリン2、カルプロラクチンおよび/またはCRP−1のレベルにより定量する。これらのタンパク質は、炎症性疾患の活動性の信頼できるバイオマーカーであり、製造業者の指示に従って、DuoSet ELISAキット(R&D Systems、Minneapolis、MN)を用いて測定する。これらのアッセイについては、対照血清試料は、KCについて1:2または1:4に、リポカリン2について1:200に希釈する。DSS処理マウスからの試料は、相当高い希釈を必要とする。
[実施例50]
肝性脳症の非肥満糖尿病(NOD)モデル
NODマウスは、消化管バリア増強回路、例えば、酪酸生合成カセットを含む細菌の有効性を試験するためのin vivoモデルとして用いることができる。
その理由は、これらのマウスは、密着結合タンパク質(例えば、オクルジン、ゾニュラオクルジン、ムチン、E−カドヘリン)のレベルの低下によって明らかである、顕著な「漏出性消化管」表現型を示すからである。
「漏出性消化管」に関連する症状を軽減するアルギニンおよび酪酸産生回路を含む菌株の有効性を判定するために、NODマウスモデルを用いる。NODマウスは、膵島β細胞の自己免疫性破壊に起因する。ニッスル対照(SYN−UCD107、カナマイシン耐性ニッスル)、アルギニン産生菌株(SYN−UCD305)、酪酸産生菌株(SYN−UCD502)ならびに酪酸およびアルギニンの両方を産生する菌株(SYN−UCD605)を本試験において比較する。消化管上皮の完全性(オクルジンおよび他の密着結合マーカー)ならびに消化管炎症(炎症性バイオマーカー、例えば、IL−1A、IL−6、TNFa、IL−21)が本試験の主要なエンドポイントである。動物の全般的な健康状態が本試験の副次的エンドポイントである。試験の期間は、8週間である。
動物(C57BL6、8週齢)をH2O対照(n=12)または酪酸100mM(n=12)、もしくはアルギニン産生SYN−UCD305(n=12;ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyAを含み、抗生物質耐性を含まない)もしくは酪酸産生SYN−UCD502(n=12;野生型ArgR、無FNR−ArgAfbr、野生型ThyA、および染色体に組み込まれたPydfZ−ter酪酸カセットを含む)もしくはSYN−UCD605(n=12;ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyA、染色体に組み込まれたPydfZ−ter酪酸カセットを含み、抗生物質耐性を含まない)の強制経口投与により治療する。細菌は、100μlの容量で>10e10細胞/mlの用量で投与する。
いくつかの実施形態では、SYN−UCD501(野生型ArgR、無FNR−ArgAfbr、 野生型ThyAおよびLogic156(pSC101 PydfZ−ter酪酸プラスミド;amp耐性)を含む)ならびにSYN−UCD602(ΔArgR、malEK遺伝子座において染色体に組み込まれたPfnrS−ArgAfbr、ΔThyAおよびLogic156(pSC101 PydfZ−ter酪酸プラスミド;amp耐性)を含む)をSYN−UCD502およびSYN−UCD605の代わりに用いる。
1日目に、マウスの体重を測定し、無作為化する。動物に100μlのH2O、100mM酪酸、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午前に強制経口投与する。動物に100μlのH2O、100mM酪酸、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を午後に強制経口投与する。動物に100μlのH2O、100mM酪酸、SYN−UCD305、SYN−UCD502またはSYN−UCD605を1日2回強制経口投与する。動物の体重を毎日測定する。
5日目に、マウスを4時間絶食させ、次いで0.6mg/g FITC−デキストラン(40kD)を強制経口投与する。FITC−dexの投与後3時間目にマウス体重を測定し、心臓採血により血液を採取し、結腸および糞便ペレットを採取する。
ハプトグロビン/ゾヌリンおよびLcn2を測定する。TJP1、OCLN、CLDN25およびEPCAMのRNAレベルを結腸試料において測定する(これらのマーカーのレベルの増加は治療効果を示す)。炎症バイオマーカーのRNAレベルを血液試料において測定する(これらのマーカーのレベルの低下は治療効果を示す)。
[実施例51]
GABA輸送および代謝回路
上述のアンモニア変換回路に加えて、大腸菌ニッスル細菌は、1つもしくは複数のGABA輸送および/または1つもしくは複数のGABA代謝回路をさらに含む。少なくとも1つのGABA輸送回路を含む遺伝子操作菌株は、GabP(配列番号105、表48;配列番号106、表49)などの、例示的GABA輸送タンパク質をコードする遺伝子を含み、上述の方法を用いて構築される。少なくとも1つのGABA代謝回路を含む遺伝子操作菌株は、GSSTおよびSSDHを含むが、これらに限定されない、GABA代謝に必要な酵素をコードする遺伝子を含み、上述の方法を用いて構築される。
GabP、GSSTおよびSSDHをコードする遺伝子は、テトラサイクリン誘導性プロモーター、配列番号18〜29から選択されるFNRプロモーターまたはHE関連分子もしくは代謝物により誘導されるプロモーターの制御下に発現する。GabP、GSSTおよびSSDHをコードする遺伝子は、同じまたは異なるプロモーターの制御下に発現し得る。本明細書に記載の通り、他のプロモーターを用いることができる。GabP、GSSTおよびSSDHをコードする遺伝子は、高コピープラスミド、低コピープラスミドまたは染色体上に発現する。GabP、GSSTおよびSSDHをコードする遺伝子は、大腸菌ニッスルにおける次の挿入部位:malE/K、araC/BAD、lacZ、thyA、malP/Tのうちの1つまたは複数において細菌ゲノムに挿入される。任意の適切な挿入部位を用いることができる。例えば、図18を参照されたい。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号106の核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号106と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号106のDNA配列もしくはその機能性断片、または遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号106と同じポリペプチドをコードする核酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同である核酸配列を含む。
[実施例52]
マンガン輸送回路
上述の回路に加えて、大腸菌ニッスル細菌は、1つもしくは複数のマンガン輸送回路をさらに含む。少なくとも1つのマンガン輸送回路を含む遺伝子操作菌株は、MntH(配列番号107、表50;配列番号108、表51)などの、例示的マンガン輸送タンパク質をコードする遺伝子を含み、上述の方法を用いて構築される。
MntHをコードする遺伝子は、テトラサイクリン誘導性プロモーター、配列番号18〜29から選択されるFNRプロモーターまたはHE関連分子もしくは代謝物により誘導されるプロモーターの制御下に発現する。本明細書に記載の通り、他のプロモーターを用いることができる。MntHをコードする遺伝子は、高コピープラスミド、低コピープラスミドまたは染色体上に発現する。MntHをコードする遺伝子は、大腸菌ニッスルにおける次の挿入部位:malE/K、araC/BAD、lacZ、thyA、malP/Tのうちの1つまたは複数において細菌ゲノムに挿入される。任意の適切な挿入部位を用いることができる。例えば、図18を参照されたい。
TesBを含む回路
TesBの核酸配列は、以下のように翻訳される。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号109のアミノ酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号109のアミノ酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同であるアミノ酸配列、あるいは、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号109と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号91のアミノ酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号91のアミノ酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同であるアミノ酸配列、あるいは、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号91と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号93のアミノ酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号93のアミノ酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同であるアミノ酸配列、あるいは、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号93と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号95のアミノ酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号95のアミノ酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同であるアミノ酸配列、あるいは、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号95と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号97のアミノ酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号97のアミノ酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同であるアミノ酸配列、あるいは、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号97と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号99のアミノ酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号99のアミノ酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同であるアミノ酸配列、あるいは、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号99と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号101のアミノ酸配列またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子操作細菌は、配列番号101のアミノ酸配列またはその機能性断片と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%相同であるアミノ酸配列、あるいは、遺伝コードの重複性を別とすれば、配列番号101と同じポリペプチドまたはその機能性断片をコードする核酸配列を含む。