(発明の詳細な説明)
以下の詳細な記載および例は、本発明のある特定の実施形態を例証する。当業者は、この開示の範囲によって包含される本開示の多くのバリエーションおよび改変が存在することを認識する。よって、ある特定の実施形態の記載は、限定と見做されないものとする。
本明細書で使用される場合、用語「持続放出」または類似の表現、例えば、「徐放」は、活性な薬学的成分またはそのプロドラッグが、投与後に長期間(例えば、投与から、24時間もしくはこれより長く、例えば、3日間に等しいかもしくはこれより長く、5日間に等しいかもしくはこれより長く、6日間に等しいかもしくはこれより長く、7日間に等しいかもしくはこれより長く、または14日間に等しいかもしくはこれより長く)にわたって、薬物製剤または医薬製剤から連続して放出され得ることを意味する。他の関連する用語としては、「持続した様式で放出される」が挙げられる。
本明細書で使用される場合、用語「放出期間」とは、有効成分またはそのプロドラッグが投与後に吸収および薬理学的効果(例えば、疼痛を処置するため)に利用可能な期間を意味する。
本明細書で使用される場合、用語「作用持続時間」とは、有効成分またはそのプロドラッグが投与後に所望の薬理学的効果(例えば、鎮痛効果)を示す時間の長さを意味する。これは、薬物濃度が最小有効濃度にあるかまたは最小有効濃度を上回る時間量によって決定される。
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に受容可能な油」とは、この油が許容不能な有害作用を引き起こさずに、有効成分を含む医薬製剤を調製するために使用され得る油をいう。本明細書で使用される場合、用語「治療上注射可能な油」とは、有効成分を含む医薬製剤を調製するために使用され得る油をいい、この製剤は後に、この油が許容不能な有害作用を引き起こさずに、臨床的使用または治療的使用のために患者に注射され得る。従って、「薬学的に受容可能な油」とは、「治療上注射可能な油」ともいうことができる。
本明細書で使用される場合、用語「放出制御溶液」とは、製剤からの有効成分またはそのプロドラッグの放出速度または放出期間を調節または制御するために使用され得る溶液をいう。
本明細書で使用される場合、用語「油混和性保持溶媒」とは、油と混和性でありかつ薬物送達の速度を改変するために、または上記薬学的に受容可能な油中の薬物の溶解度を改変するために、製剤中の有効成分またはそのプロドラッグの放出を遅らせるために使用され得る有機溶媒をいう。上記薬学的に受容可能な油が添加される前の上記油混和性保持溶媒中での薬物またはそのプロドラッグの溶解により、上記製剤中の薬物またはそのプロドラッグの濃度が、上記薬物またはプロドラッグが上記油および上記保持溶媒の予め作製された混合物に添加される場合の上記薬物またはプロドラッグの溶解度より高くすることができる。
本明細書で使用される場合、用語「可溶化剤」とは、液体製剤中の有効成分またはそのプロドラッグの溶解度を増大させるために使用され得、かつその液体製剤と混和性である物質を意味する。
本明細書で使用される場合、用語「中和剤」とは、薬物製剤の投与中または投与後に生成される酸を中和するために使用され得る物質を意味する。
本明細書で使用される場合、語句「溶解する」(例えば、完全に溶解する場合のように)または「溶解された」とは、非水性物質(例えば、固体)が、液体になるかまたは液体中に組み込まれた状態になるようにして、均一な溶液を形成することを意味する。
本明細書で使用される場合、用語「均質に溶解される」とは、非液体(例えば、固体または非晶質)化合物が、溶媒、または溶媒系もしくは混合物中に完全に溶解されて、例えば、上記溶解されるべき化合物の粒子または沈殿物を含まない均質な溶液を得ることを意味する。
本明細書で使用される場合、用語「注射に適した」または「注射による投与に適した」とは、薬学的組成物が、これを注射(例えば、皮下注射、静脈内注射、または筋肉内注射)による投与のために臨床上可能であるかまたは理想的にする形態または状態にあることを意味する。
本明細書で使用される場合、用語「溶解度」は、特定の温度で所定量の溶媒中に溶解され得る溶質(例えば、有効成分またはそのプロドラッグ)の最大量を意味する。別段特定されなければ、本明細書で示される溶解度は、室温(例えば、25〜28℃)でのものである。用語「飽和濃度」とは、溶質が溶媒中にこれ以上(no more of)溶解せず、溶質のさらなる量は、別個の相として(例えば、沈殿物として)出現する濃度をいう。
本明細書で使用される場合、単数形「1つの、ある(a)」、「および、ならびに(and)」および「上記、前記、この、その(the)」は、文脈が別段明確に規定しなければ、複数形をも含むために本明細書では使用される。
本明細書で使用される場合、用語「約(about)」は、当業者が考慮する場合の受容可能な平均の標準誤差内を意味する。操作実施例/作業実施例における以外は、または別段明確に特定されなければ、数値範囲、量、値、およびパーセンテージ(例えば、本明細書で開示される材料の量、持続時間、温度、操作条件、量の比、または反射角に関するもの)の全ては、全ての場合に用語「約」によって修飾されていると理解されるものとする。保持溶媒/油比の、ナルブフィンエステルプロドラッグの濃度の、または時間(例えば、開示される方法の各工程に関する時間量)の文脈において、「約」は、本明細書で使用される場合に、値の計算または測定が、開示される製剤または方法の化学的または物理的属性に対して実質的影響を有することなく、ある僅かな不正確さを許容することを示す。ある理由から、「約」によってもたらされる不正確さが、この通常の意味で当該分野において別なふうに理解されていなければ、「約」は、本明細書で使用される場合、その値で5%までの可能な変動を示す。
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
医薬製剤
一局面において、本発明は、各々がナルブフィンエステルプロドラッグおよび放出制御溶液を含む医薬製剤を提供し、ここで上記製剤は、注射による投与に適しており、ナルブフィンエステルプロドラッグを持続したまたは徐放の様式で放出する。いくつかの実施形態において、ナルブフィンエステルプロドラッグは、放出制御溶液中に均質に溶解される。放出制御溶液は、油混和性保持溶媒および薬学的に受容可能な油を含み得る。
本開示はまた、各々が薬学的に受容可能な油および油混和性保持溶媒中に溶解したナルブフィンエステルプロドラッグを含む医薬製剤を提供する。いくつかの実施形態において、上記製剤中のナルブフィンエステルプロドラッグの濃度は、薬学的に受容可能な油および油混和性保持溶媒の混合物に添加される場合のナルブフィンエステルプロドラッグの溶解度より高い。いくつかの実施形態において、油混和性保持溶媒 対 薬学的に受容可能な油の重量比は、約1.1:1に等しいかもしくはこれより大きい。このような医薬製剤は、ナルブフィンエステルプロドラッグの持続放出期間を提供し得る。
ナルブフィンエステルプロドラッグは、ナルブフィンと比較して、油状物質中でより良好な溶解度を示し得る。例えば、上記プロドラッグは、米国特許第6,225,321号で開示されるナルブフィンポリエステル誘導体のうちのいずれかであり得る。いくつかの実施形態において、ナルブフィンエステルプロドラッグは、セバコイルジナルブフィンエステル(「SDE」)であり得る。いくつかの実施形態において、上記製剤中のSDEの濃度は、約70〜300mg/mL、約70〜150mg/mL、または約70〜100mg/mLである。例えば、上記製剤中のSDEの濃度は、約70mg/mL、約75mg/mL、約80mg/mL、約100mg/mL、または約150mg/mLであり得る。
いくつかの実施形態において、保持溶媒中のナルブフィンエステルプロドラッグの溶解度は、約100mg/mLに等しいかもしくはこれより高い。他の実施形態において、油混和性保持溶媒は、高濃度で、例えば、約150mg/mLより高く、または約300mg/mLより高く、ナルブフィンエステルプロドラッグを溶解し得、薬学的に受容可能な油と混和性である。いくつかの実施形態において、油混和性保持溶媒は、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール、またはこれらの任意の混合物であり、そしてナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEである。安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコール中のSDEの溶解度は、それぞれ、300mg/mLより高い、および500mg/mLより高い。
薬学的に受容可能な油は、植物性油であり得る。いくつかの実施形態において、薬学的に受容可能な油は、ゴマ油、ヒマシ油、綿実油、ダイズ油、コーン油、ひまわり油、ラッカセイ油、オリーブ油、またはこれらの任意の混合物であり得る。いくつかの実施形態において、油は、ゴマ油、綿実油、またはヒマシ油である。例えば、油は、ゴマ油であり得る。
油混和性保持溶媒は、薬学的に受容可能な油と混和性である有機溶媒、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール、またはこれらの混合物であり得る。いくつかの実施形態において、保持溶媒は、安息香酸ベンジルである。例えば、薬学的に受容可能な油は、ゴマ油であり得、そして油混和性保持溶媒は、安息香酸ベンジルであり得る。
薬学的に受容可能な油は、保持溶媒と混和性である。製剤が、皮下注射または筋肉内注射によって被験体に投与される場合、油および保持溶媒は、持続した/制御された様式で製剤からナルブフィンエステルプロドラッグを放出するために、マトリクスを形成して、該プロドラッグを保持し得る。保持溶媒 対 油の重量比が増大される場合、製剤からのプロドラッグの放出期間は、延長し得るまたは長期にわたり得る。操作のいかなる特定の理論にも機構にも本発明を限定することは望まないが、油混和性保持溶媒は、マトリクス中にプロドラッグを保持するために製剤中の鍵となる要素として働くと考えられる。
本明細書で使用される場合、保持溶媒/油比は、例えば、3:1または3のいずれかとして表され得る。例えば、0.5:1として表される保持溶媒/油比は、0.5として表される保持溶媒/油比と同じである。保持溶媒/油比の範囲は、例えば、1:1〜3:1、1〜3:1または1〜3として表され得る。
保持溶媒/油比を制御/調整することによって、本発明の製剤は、製剤からのナルブフィンエステルプロドラッグの放出速度/放出期間を調節し得る。例えば、保持溶媒/油比が3:1に調整される場合、製剤は、0.5:1の保持溶媒/油比を有する製剤のものより有意に長い放出期間を示し得る。いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が約0.65に調整される場合、プロドラッグのうちの約99%は、投与から144時間で製剤から放出される;保持溶媒/油比が約1に調整される場合、プロドラッグのうちの約90%は、投与から144時間で製剤から放出される;保持溶媒/油比が約2に調整される場合、プロドラッグのうちの約80%は、投与から144時間で製剤から放出される。いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が約1より大きいように調整される場合、本発明の製剤は、10日間、12日間または14日間に等しいかまたはこれらより長い放出期間を有し得る。いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が、約1より大きいように調整される場合、本発明の製剤は、5日間または6日間に等しいかまたはこれらより長い作用持続時間を有し得る。
いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が約1より大きいように調整される場合、本発明の製剤は、14日に等しいかもしくはこれより長い放出期間を有し得るかまたは6日間に等しいかもしくはこれより長い作用持続時間を有し得る。いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が約1〜3または約1〜2に調整される場合、本発明の製剤は、約5日間または6日間に等しいかまたはこれらより長い作用持続時間、および/あるいは約10日間、12日間または14日間に等しいかまたはこれらより長い放出期間を有し得る。いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が約1より小さいように調整される場合、本発明の製剤は、14日間より短い放出期間および/または6日間より短い作用持続時間を有し得る。
いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比は、約0.5〜約19である。いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比は、is 約0.65〜8:1、約0.65〜3:1、約0.65〜2:1、約1〜8:1、約1〜3:1、約1〜2:1、または約0.8〜1.2:1である。例えば、保持溶媒/油比は、約0.5、0.65、0.8、1、1.12、1.18、1.2、2、3または8であり得る。
いくつかの実施形態において、油混和性保持溶媒は、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール、またはこれらの任意の混合物である;ナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEである;そして薬学的に受容可能な油は、ゴマ油、綿実油、ヒマシ油、またはこれらの任意の混合物である。例えば、油混和性保持溶媒は、安息香酸ベンジルであり得、ナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEであり得、そして油は、ゴマ油であり得、ここで安息香酸ベンジル 対 油の重量比(「BB/油比」)は、約0.5〜約16であり得る。16のBB/油比で調製される場合の本発明の製剤は、0.5のBB/油比で調製される製剤より長い放出期間を示し得る。いくつかの実施形態において、BB/油比は、約0.65〜8:1、約0.65〜3:1、約0.65〜2:1、約1〜8:1、約1〜3:1、約1〜2:1または約0.8〜1.2:1である。例えば、BB/油比は、約0.5、0.65、0.8、1、1.12、1.18、1.2、2、3または8であり得る。BB/油比が約1:12に調整される実施形態において、本発明の製剤は、約10日間、12日間または14日間に等しいかまたはこれらより長い放出期間、および/あるいは約5日間または6日間に等しいかまたはこれらより長い作用持続時間を有し得る。特に、BB/油比が約1:12に調整される場合、本発明の製剤は、約14日間に等しいかもしくはこれより長い放出期間を有し得、そして/または約6日間に等しいか若しくはこれより長い作用持続時間を有し得る。
いくつかの実施形態において、油混和性保持溶媒は、安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコールの混合物である。いくつかの実施形態において、安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコール 対 薬学的に受容可能な油の組み合わせ重量比(「BB+BA/油比」)は、0.5〜19、約0.82〜19、約0.5〜16、約0.65〜8:1、約0.65〜3:1、約1〜8:1、または約1〜3:1であり得る。いくつかの実施形態において、BB+BA/油比は、約0.82:1または約19:1であり得る。
いくつかの実施形態において、本発明の製剤は、SDE、安息香酸ベンジル、およびゴマ油を含み、ここで上記製剤は、筋肉内注射によって被験体に投与され、安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比は、1:1より大きく、上記製剤中のSDEの濃度は、70mg/mLより高く、上記製剤の作用持続時間は、6日間に等しいかもしくはこれより長い。
いくつかの実施形態において、本発明の医薬製剤は、それを必要とする被験体への注射に適している。製剤は、注射用製剤として適格であるために、均一な溶液または均一な懸濁物でなければならないことは、当該分野で公知である。より詳細には、注射用懸濁物は、多くても0.5〜5.0% 固体を含むべきであり、そして筋肉内注射のための薬学的に受容可能な懸濁物として使用されるように、5μm未満の平均粒子径を有するべきである(R. M. Patel, Parenteral Suspension: an Overview, Int. J. Curr. Pharm. Res., 2010, 2(3):3−13を参照のこと)。いくつかの実施形態において、本開示の製剤は、均一かつ安定な溶液であるので、筋肉内注射による投与に適している。いくつかの実施形態において、ナルブフィンエステルプロドラッグは、製剤中に均質に溶解される。
保持溶媒中のおよび油中のSDEの溶解度の間の差異に起因して、SDEの溶解度は、より高い保持溶媒/油比を有する製剤中でより高いことは、理解されるはずである。例えば、安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコール中のSDEの溶解度は、それぞれ、300mg/mLより高い、および500mg/mLより高い一方で、ゴマ油、ヒマシ油、および綿実油中のSDEの溶解度は、それぞれ、約6mg/mL、約13mg/mL、および約6mg/mLである。本発明者らが行った一連の溶解度試験に基づいて、安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比が約1である場合、安息香酸ベンジルおよびゴマ油の混合物に添加される場合のSDEの溶解度(すなわち、飽和濃度)は、約60〜65mg/mLである;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比が約1.1である場合、安息香酸ベンジルおよびゴマ油の混合物に添加される場合のSDEの溶解度は、約70mg/mLである;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比が約1.5である場合、安息香酸ベンジルおよびゴマ油の混合物に添加される場合のSDEの溶解度は、約150mg/mLである;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比が約2.3である場合、安息香酸ベンジルおよびゴマ油の混合物に添加される場合のSDEの溶解度は、約200mg/mLである;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比が約9である場合、安息香酸ベンジルおよびゴマ油の混合物に添加される場合のSDEの溶解度は、300mg/mLより高いことが示された。
いくつかの実施形態において、上記製剤中のナルブフィンエステルプロドラッグの濃度は、薬学的に受容可能な油および油混和性保持溶媒の混合物に添加される場合のナルブフィンエステルプロドラッグの溶解度より高い。例えば、プロドラッグは、SDEであり得、保持溶媒は、安息香酸ベンジルであり得、油は、ゴマ油であり得、そして保持溶媒/油比(例えば、BB/油比)は、所定の放出期間または所望の作用持続時間を与えるために、約1または約0.8〜1.2:1に設定され得る。この場合に、製剤中のSDEの濃度は、以下の製造プロセスを使用することによって、約60〜65mg/mL(安息香酸ベンジルおよびゴマ油の、約1のBB/油比を有する混合物中のSDEの溶解度)から約70〜100mg/mLへと増大され得る: a)SDEを安息香酸ベンジル中に完全に溶解する工程、およびb)その得られた溶液とゴマ油とを混合して、均質な溶液を得る工程。本発明のこの調製法において、SDEは、安息香酸ベンジル中に先ず溶解されて、透明な溶液を形成する。この透明な溶液は、次いでゴマ油と混合されて、均一な溶液を与える。これによって、約0.8〜1.2:1のBB/油比および高濃度のSDE(例えば、70〜100mg/mL)を有する均質かつ安定な製剤が調製され得る。これに応じて調製された製剤は、安定でありかつ長い貯蔵寿命を有し、2〜8℃で少なくとも24ヶ月間貯蔵された後にすら、均質でかつ固体粒子もしくは沈殿物を形成しないままである。従って、上記製剤は、筋肉内注射による投与に適している。
いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比は、約1.1:1に等しいかもしくはこれより大きい。例えば、プロドラッグは、SDEであり得、保持溶媒は、安息香酸ベンジルであり得、油は、ゴマ油であり得、そして保持溶媒/油比(例えば、BB/油比)は、所定の放出期間または所望の作用持続時間を与えるために、約1.1に設定され得る。いくつかの実施形態において、製剤中のナルブフィンエステルプロドラッグの濃度は、薬学的に受容可能な油および油混和性保持溶媒の混合物に添加され、そして保持溶媒/油比が約1.1:1に等しいかもしくはこれより大きい場合に、ナルブフィンエステルプロドラッグの溶解度より高い。
一実施形態において、ナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEであり;薬学的に受容可能な油は、ゴマ油であり;油混和性保持溶媒は、安息香酸ベンジルであり;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比は、約1.1〜3:1であり;そして上記製剤中のSDEの濃度は、約70mg/mLより高い。
いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比は、約1.5:1に等しいかもしくはこれより大きい。いくつかの実施形態において、製剤中のナルブフィンエステルプロドラッグの濃度は、薬学的に受容可能な油および油混和性保持溶媒の混合物に添加され、そして保持溶媒/油比が約1.5:1に等しいかもしくはこれより大きい場合のナルブフィンエステルプロドラッグの溶解度より高い。一実施形態において、ナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEであり、薬学的に受容可能な油は、ゴマ油であり、そして油混和性保持溶媒は、安息香酸ベンジルである。
BB/油が、例えば、約1から約1.5へと増大される場合、製剤中のSDEの溶解度は、例えば、約60mg/mLから約150mg/mLへと有意に増大されることは、理解されるはずである。安息香酸ベンジルおよびゴマ油の混合物に添加される場合のSDEの溶解度より高いSDE濃度を有する製剤が調製されることが意図される場合、その均一に溶解した溶液は、SDEと安息香酸ベンジルとを混合して透明な溶液を形成し、次いで、この透明な溶液とゴマ油とを混合することによってのみ調製され得るである。安息香酸ベンジルおよびゴマ油の混合物に添加されるときのSDEの溶解度に等しいかまたはこれより低いSDE濃度を有する製剤が調製されることが意図される場合、この均一に溶解した溶液は、SDEと安息香酸ベンジルおよびゴマ油の混合物とを直接混合することによるか、またはSDEを安息香酸ベンジルで予め溶解することによるかのいずれかで与えられ得る。
いくつかの実施形態において、BB/油比は、約1.1:1に等しいかもしくはこれより大きく、そして上記製剤中のSDEの濃度は、約70mg/mLより高い。例えば、BB/油比は、約1.1:1であり得、そして上記製剤中のSDEの濃度は、約70〜100mg/mLであり得る。
いくつかの実施形態において、ナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEである;薬学的に受容可能な油は、ゴマ油であり、そして油混和性保持溶媒は、安息香酸ベンジルである;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比は、約0.8〜1.2:1である;そして上記製剤中のSDEの濃度は、約70mg/mLより高い。
いくつかの実施形態において、上記製剤中のSDEの濃度は、約70〜80mg/mLであり、安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比は、約1.1〜1.2:1である。一実施形態において、上記製剤中のSDEの濃度は、約75mg/mLであり、安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比は、約1.12:1である。一実施形態において、上記製剤中のSDEの濃度は、約80mg/mLであり、安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比は、約1.18:1である。
いくつかの実施形態において、製剤は、可溶化剤をさらに含み得る。可溶化剤は、製剤中のナルブフィンエステルプロドラッグの濃度を増大させる一助となり得る;一方、可溶化剤は、放出制御溶液と混和性である。例えば、可溶化剤は、アルキルアルコールであり得る。アルキルアルコールがナルブフィンエステルプロドラッグを溶解するために独立して使用される場合、このアルキルアルコール中のプロドラッグの溶解度は、比較的低くてもよい。例えば、エタノール、1−プロパノールおよびt−ブタノール中のSDEの溶解度は、それぞれ、約16mg/mL、約32mg/mL、および約19mg/mLである。しかし、いくつかの実施形態において、アルキルアルコールが本発明の製剤に添加される場合、製剤中のプロドラッグの溶解度は、少なくとも30%増大し得る。10重量%のtert−ブタノールを使用して、製剤中の安息香酸ベンジルの相当する量を置き換える場合、例えば、製剤中のSDEの溶解度は、約160mg/mLから約210mg/mLへと増大し得る。
可溶化剤は、C2−C6アルキルアルコールまたはこれらの任意の混合物であり得る。C2−C6アルキルアルコールは、直鎖状または分枝状のアルキルアルコールであり得る。いくつかの実施形態において、アルキルアルコールは、C2−C5アルキルアルコール(例えば、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、および/または2,2−ジメチル−1−プロパノール)であり得る。いくつかの実施形態において、アルキルアルコールは、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、および/またはtert−ブタノールであり得る。いくつかの実施形態において、溶媒系中のアルキルアルコールのw/w%(すなわち、アルキルアルコール、保持溶媒および油の合計)は、約2.5〜30%、例えば、2.5%、5%、10%、15%、20%または30%である。いくつかの実施形態において、溶媒系中のアルキルアルコールのw/w%は、約10〜20%である。いくつかの実施形態において、可溶化剤は、最終製剤中のナルブフィンエステルプロドラッグの溶解度を、100mg/mLより高く(例えば、150mg/mL、200mg/mL、250mg/mL、または300mg/mLより高く)へと増大させるために使用され得る。いくつかの実施形態において、可溶化剤は、最終製剤中のナルブフィンエステルプロドラッグの濃度を少なくとも30%増大させるために使用され得る。
高濃度のSDEを有する油含有製剤の調製は、油中でのSDEの低い溶解度に起因して困難であることは、理解されるはずである。臨床的には、ヒト成体に関しては、単回IM注射の最大容量として5mLが引用されてきた。SDEの注射用持続放出製剤を調製する場合、有効放出期間がより長いと予測されるほど、薬物負荷はより高くなるはずである。注射容量が5mL未満に制限される状況(筋肉量がより少ない成人に関しては、さらに低い)では、SDEの濃度は、薬物負荷を増大させるために増大されなければならない。保持溶媒中にSDEを予め溶解することおよび可溶化剤(特にエタノール)の添加は、それぞれ、製剤中のSDEの溶解度を有意に増大させ得、それによって高薬物負荷を有するSDEの長期放出製剤が達成され得る。
いくつかの実施形態において、本発明の医薬製剤は各々、SDE、放出制御溶液、および可溶化剤を含む。いくつかの例では、放出制御溶液は、ゴマ油、ヒマシ油、および綿実油からなる群より選択される薬学的に受容可能な油;ならびに安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを含む油混和性保持溶媒を含む。いくつかの例では、可溶化剤は、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、およびtert−ブタノールからなる群より選択されるアルキルアルコールである。いくつかの例では、溶媒系中の薬学的に受容可能な油のw/w%(すなわち、油、保持溶媒、および可溶化剤の合計)は、約5%、10%、20%、30%、40%、45%、50%、55%、または60%である。いくつかの例では、溶媒系中の保持溶媒のw/w%は、約30%、35%、37.5%、40%、45%、47.5%、50%、55%、57.5%、60%、65%、67.5%、70%、75%、77.5%、80%、または85%である。いくつかの例では、溶媒系中の可溶化剤のw/w%は、約2.5%、5%、10%、15%、20%、または30%である。いくつかの例では、上記製剤中のSDEの濃度は、100mg/mLより高く、溶媒系は、約2.5〜30 w/w%のアルキルアルコールを含む。いくつかの例では、製剤中のSDEの濃度は、150mg/mLより高く、溶媒系は、約5〜30%のアルキルアルコールを含む。いくつかの例では、製剤中のSDEの濃度は、200mg/mLより高く、溶媒系は、約10〜20%のアルキルアルコールを含む。製剤は、皮下注射または筋肉内注射によって動物またはヒトへと投与され得る。
アルキルアルコールの添加は、本発明の製剤がより高いSDE濃度で調製されると同時に、優れた安定性を示すことを可能にする。いくつかの実施形態において、本発明の医薬製剤は、2〜8℃で少なくとも24時間貯蔵された後に、固体粒子または沈殿物を形成しない。さらに、アルコールの添加は、小ゲージ針を介してより容易な注射を可能にするために、本発明の製剤の粘性を低減する一助となり得る。
いくつかの実施形態において、製剤は、可溶化剤ありまたはなしで、中和剤をさらに含み得る。中和剤は、ナルブフィンエステルプロドラッグがナルブフィンに変換される間に生成される酸を中和するにあたって一助となり得る。例えば、SDEがナルブフィンに変換される場合、セバコイル酸(sebacoyl acid)が生成される。セバコイル酸の蓄積は、注射部位刺激を引き起こし得る。中和剤の添加は、注射部位での局所刺激を和らげるために、セバコイル酸を中和する一助となり得る。中和剤は、薬学的に受容可能な塩基性塩であり得る。例えば、塩基性塩は、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、またはコハク酸塩であり得る。いくつかの実施形態において、塩基性塩は、ナトリウム塩またはカリウム塩であり得る。いくつかの実施形態において、塩基性塩は、クエン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、または乳酸ナトリウムであり得る。
いくつかの実施形態において、本発明の医薬製剤は各々、SDE、放出制御溶液、可溶化剤、および中和剤を含む。
本発明の医薬製剤は、適切な不活性成分、薬学的にまたは獣医学的に受容可能なキャリア(粘度調節剤(viscosity modifier)、着色剤、および香味剤などが挙げられるが、これらに限定されない)をさらに含み得る。
調製法
いくつかの実施形態において、本発明の医薬製剤は、加熱工程または複雑な混合順序なしに調製され得る。
本発明はまた、所定の放出期間を有するナルブフィンエステルプロドラッグの持続放出製剤を調製するための方法を提供し、各々の方法は、
1)油混和性保持溶媒および薬学的に受容可能な油を提供する工程であって、ここで油混和性保持溶媒 対 薬学的に受容可能な油の重量比(「保持溶媒/油比」)は、所定の放出期間に基づいて調整される工程;ならびに
2)ナルブフィンエステルプロドラッグと、油混和性保持溶媒および薬学的に受容可能な油とを混合して、均一に溶解した溶液を形成する工程、
を包含する。
いくつかの実施形態において、プロドラッグと、保持溶媒および油とを混合する工程は、プロドラッグと、油混和性保持溶媒および薬学的に受容可能な油の混合物とを混合する工程を包含する。例えば、所定の放出期間が14日間より長いように設定される場合、保持溶媒/油比は、1より大きいように調整され得る。例えば、保持溶媒/油比は、約2であり得る。一実施形態において、放出制御溶液、すなわち、保持溶媒および油の混合物(約12gの保持溶媒および約6gの油を含む)がまず調製され得、次いで、約1.6gのプロドラッグと混合され得る。
いくつかの実施形態において、プロドラッグと、保持溶媒および油とを混合する工程は、(a)油混和性保持溶媒中にナルブフィンエステルプロドラッグを溶解し、それによって、ナルブフィンエステルプロドラッグ溶液(透明な溶液)を得る工程、および(b)治療上受容可能な油と工程(a)から生じるナルブフィンエステルプロドラッグ溶液とを混合して、均質に溶解した溶液を得る工程を包含する。いくつかの実施形態において、所定の放出期間が14日間より短いように設定される場合、保持溶媒/油比は、1より小さいように調整され得る。例えば、保持溶媒/油比は、約0.65であり得る。一実施形態において、約1.5gのプロドラッグが、約11gの保持溶媒中に溶解されて、透明な溶液を得ることができ、そしてこの透明な溶液は、次いで、約17gの油と混合される。いくつかの実施形態において、製剤中のプロドラッグの濃度は、保持溶媒および油の混合物に添加される場合のプロドラッグの溶解度より高い。例えば、BB/油比が約1.1である場合、製剤中のSDE濃度は約75mg/mLまたは約80mg/mLであり得る(安息香酸ベンジルおよびゴマ油の、約1.1のBB/油比を有する混合物に添加される場合のSDEの溶解度は、約70mg/mLである)。
上記のように、ナルブフィンエステルプロドラッグは、増大した保持溶媒/油比を有する製剤中でより溶解でき、薬物放出の持続時間は、このような製剤に関してより長い。より長い放出期間が望ましい場合、保持溶媒/油比は、より高い値へと調整され得、ここで保持溶媒および油の混合物に添加される場合のプロドラッグの溶解度は、最終製剤中のプロドラッグの濃度より高い可能性がある;よって、このような製剤は、プロドラッグと放出制御溶液(すなわち、保持溶媒および油の混合物)とを直接混合するか、または保持溶媒中にプロドラッグを予め溶解するかのいずれかによって、調製され得る。しかし、より短い放出期間が予測される、すなわち、保持溶媒/油比がより小さい場合、または最終製剤中のプロドラッグの意図された濃度が、飽和濃度(すなわち、保持溶媒および油の混合物に添加される場合のプロドラッグの溶解度)に等しいかもしくはこれより高い場合、製剤は、製剤中のプロドラッグの溶解度が有意に改善され得るように、保持溶媒中にプロドラッグを予め溶解することによって調製され得る。よって、得られる製剤中のプロドラッグの濃度は、保持溶媒および油の溶液に添加される場合のプロドラッグの溶解度より高い可能性がある。
均一に溶解した溶液が、本発明の調製法によって、すなわち、プロドラッグと放出制御溶液とを直接混合するか、または保持溶媒中にプロドラッグを予め溶解するかのいずれかによって、一旦形成されると、それらはすべて、安定な溶液であり得る。いくつかの実施形態において、安息香酸ベンジル中にSDEを予め溶解し、次いで、ゴマ油と混合することによって調製される製剤は、2〜8℃において24カ月間安定であり、約0〜4℃において均一なままであり得ると同時に、沈殿物または固体粒子を形成しない。
方法のいくつかの実施形態において、ナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEである。
いくつかの実施形態において、工程(a)は、SDEおよび油混和性保持溶媒の混合物を、約30〜90分間、例えば、約60分間撹拌する工程をさらに包含し得る。いくつかの実施形態において、工程(b)は、工程(a)の得られる溶液および油の混合物を、約15〜45分間、例えば、約30分間撹拌する工程をさらに包含し得る。いくつかの実施形態において、工程(a)および工程(b)は、室温で行われ得る。本発明の製剤は、SDEを完全に溶解させるために、任意の加熱プロセスまたは他の一般に使用される技術なしで、調製され得る。それによって、得られる製剤の高純度が達成され得る。さらに、いくつかの実施形態において、本発明の製剤を調製するために、短い撹拌期間しか必要とされない。よって、本発明の製剤は、大規模製造に有益な、より経済的かつ便利な様式で調製され得る。
方法のいくつかの実施形態において、油混和性保持溶媒は、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール、またはこれらの任意の混合物であり得、そして薬学的に受容可能な油は、ゴマ油、綿実油、ヒマシ油、またはこれらの任意の混合物であり得る。
本発明はまた、医薬製剤を調製するための方法を提供し、上記方法は、油混和性保持溶媒中にナルブフィンエステルプロドラッグを溶解する工程;および得られる溶液と薬学的に受容可能な油とを混合して、均質な溶液を得る工程であって、ここで上記製剤は、注射による投与に適している工程を包含する。いくつかの実施形態において、ナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEである;上記製剤中のSDEの濃度は、約70mg/mLより高い;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比は、約0.8〜1.2:1である;そして上記製剤は、筋肉内注射または皮下注射による投与に適している。
いくつかの実施形態において、保持溶媒は、安息香酸ベンジルであり得、そして油は、ゴマ油であり得、ここで安息香酸ベンジル 対 油の重量比(「BB/油比」)は、約0.5〜約16であり得る。いくつかの実施形態において、BB/油比は、約0.65〜約3である。いくつかの実施形態において、BB/油比は、約0.65〜約2である。他の実施形態において、BB/油比は、約1〜3または約1〜2である。いくつかの実施形態において、放出期間が、約5〜6日間の作用持続時間を与えるように予め決定されている場合、BB/油比は、約1.1に調整され得る。よって、放出期間が、6日間より長い作用持続時間を与えるように予め決定されている場合、BB/油比は、約1.1より大きいように調整され得る;そして放出期間が、6日間より短い作用持続時間を与えるように予め決定されている場合、BB/油比は、約1.1より小さいように調整され得る。
上記方法は、各々、可溶化剤および/または中和剤を添加する工程をさらに包含し得る。いくつかの実施形態において、可溶化剤および/または中和剤は、プロドラッグと混合する前に、放出制御溶液に添加され得る。例えば、可溶化剤および/または中和剤は、放出制御溶液に添加され得、次いで、プロドラッグと混合され得る。あるいは、製剤は、プロドラッグと、保持溶媒ならびに可溶化剤および/または中和剤の混合物とをまず混合し、次いで、油と混合することによって、調製され得る。
本発明の方法において使用される薬学的に受容可能な油、油混和性保持溶媒、可溶化剤、および中和剤は、本発明の製剤に関して記載されるものと同じである。
方法のいくつかの実施形態において、可溶化剤は、アルキルアルコール(例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、および/またはtert−ブタノール)であり得る;そしてナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEであり得る。いくつかの実施形態において、可溶化剤は、エタノールであり得る。アルキルアルコールの添加は、最終製剤中のSDEの溶解度を有意に増大させ得、それによって、長い放出期間を有する高薬物負荷製剤が達成され得る。いくつかの実施形態において、アルキルアルコールは、最終製剤中のSDEの濃度を100mg/mLより高く(例えば、150mg/mL、200mg/mL、250mg/mL、または300mg/mLより高く)なるように増大させるために使用され得る。いくつかの実施形態において、アルキルアルコールは、最終製剤中のSDEの濃度を少なくとも30%増大させるために使用され得る。アルキルアルコールは、SDEが溶媒系へと添加される前に、放出制御溶液へと添加され得る。あるいは、アルキルアルコールは、SDEが保持溶媒と混合される前に、保持溶媒へと添加され得る。
方法のいくつかの実施形態において、中和剤は、クエン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および乳酸ナトリウムからなる群より選択される塩基性塩であり得る。塩基性塩は、プロドラッグを放出制御溶液と混合する前または混合した後に、製剤へと添加され得る。あるいは、塩基性塩は、保持溶媒をプロドラッグと混合する前または混合した後に、製剤へと添加され得る。あるいは、中和剤は、本発明の製剤の投与前に、製剤と混合され得る。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、均質に溶解された溶液を細菌濾過器(例えば、Millipore 0.22μmフィルタ)で濾過する工程をさらに包含し得る。本発明の製剤は、これらが、薬物を完全またはほぼ完全に回収する濾過によって容易に滅菌され得るように、沈殿物または固体粒子のない均一に溶解した溶液である。
持続放出期間/低い放出速度
いくつかの実施形態において、本発明の製剤は、ナルブフィンエステルプロドラッグの持続放出期間を提供する。例えば、ナルブフィンエステルプロドラッグの放出速度/期間は、製剤からのナルブフィンエステルプロドラッグ放出を生きている被験体中での実際の放出速度より高い速度で引き起こすようにデザインされたインビトロ溶解実験を介して示され得るかまたは推定され得る。製剤がこの溶解実験において低い溶解速度を示す場合、製剤が生きている被験体中でより長い放出期間(またはより低い放出速度)を有し得ることは、予測される。溶解速度は、界面、温度および溶媒組成のある特定の条件下で、単位時間あたりに製剤から溶解媒体へと入るプロドラッグ(例えば、SDE)の量として定義され得る。ナルブフィンエステルプロドラッグの溶解は、製剤を溶解媒体のより大きな容量へと注意深く滴下することによって決定され得る。例えば、製剤の容量は、50〜150μlであり得、溶解媒体の容量は、200〜1000ml(例えば、500ml)であり得る。上記溶解媒体は、界面活性剤を有する緩衝液、例えば、1% tween 80およびpH6.0を有するリン酸緩衝食塩水(PBST)であり得る。溶解媒体は、次いで、撹拌され得、得られる媒体のサンプルが、所定の時間間隔で取り出され得る。実験の終了前に、HClは、得られる媒体に添加されて、ナルブフィン(nalphubine)エステルプロドラッグの100%放出を可能にし得るので、サンプルが採取され得、そしてナルブフィンエステルプロドラッグの放出速度を計算するにあたって、100%という基準点として使用され得る。ナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEであり得る。例えば、製剤の溶解プロフィールは、実施例1に記載されるように決定され得る。
いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が約0.5、約0.65、約1、約2、約3、および約16である場合、ナルブフィンエステルプロドラッグの総量のうちの約50%を製剤からインビトロ媒体へ放出する時間は、それぞれ、約15〜25分間、約20〜30分間、約35〜45分間、約50〜60分間、約85〜95分間、および約120〜130分間であり得る。保持溶媒/油比が増大される場合、製剤からのプロドラッグの溶解速度は、低減し得ることが示される。製剤のより低いインビトロ溶解速度は、生きている被験体中でのより長い放出期間(またはより低いインビボ放出速度)を反映し得る。
本発明の製剤の放出速度/期間、またはインビトロ溶解速度とインビボ放出期間/放出速度との間の前述の相関関係は、生きている被験体への本発明の製剤の投与後のナルブフィンのインビボアベイラビリティーおよび薬物動態パラメーターを評価することによって、さらに評価または検証され得る。例えば、本発明のナルブフィンエステルプロドラッグ製剤は、注射を介して生きている被験体へと投与され得る。ナルブフィンエステルプロドラッグは、SDEであり得る。いくつかの実施形態において、注射は、皮下であり得る。他の実施形態において、注射は、筋肉内であり得る。被験体は、動物(例えば、イヌ、ネコ、または齧歯類)であってもよいし、被験体はヒトであってもよい。血液サンプルは、製剤の投与前におよび製剤の投与後の種々の時点で(例えば、投与後の最初の144時間または360時間にわたって)、被験体から採取され得る。例えば、血液サンプルは、投与後1時間、2時間、6時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、96時間、120時間および144時間で、抜き取られ得る。あるいは、血液サンプルは、投与後0.083時間、0.25時間、0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、および24時間で、または投与後に同様の間隔で、ならびに投与後12日間までの間に規則的な間隔で、抜き取られ得る。次いで、ナルブフィンの全血濃度または血漿濃度が、その血液サンプルに関して決定され得る。例えば、ナルブフィンの血漿濃度および全血濃度は、実施例3および4に記載されるように決定され得る。
いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が約0.65に調整される場合、プロドラッグのうちの約99%は、投与から144時間で製剤から放出され得る;保持溶媒/油比が約1に調整される場合、プロドラッグのうちの約90%は、投与から144時間で製剤から放出され得る;保持溶媒/油比が約2に調整される場合、プロドラッグのうちの約80%は、投与から144時間で製剤から放出され得る。保持溶媒/油比が増大される場合、製剤のインビボ放出期間は、延長し得るかまたは長期にわたり得ることが示され、これは、インビトロ溶解実験によって示される結果と一致する。
いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が約1(例えば、1.12)に調整される場合、本発明の製剤は、約10日間、12日間および14日間に等しいかまたはこれらより長い放出期間、ならびに約5日間または6日間に等しいかまたはこれらより長い作用持続時間を有し得る。いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比は、6日間より短い(例えば、約4日間の)作用持続時間を有する製剤を得るために、約1より小さい(例えば、0.65)ように調整され得る。他の実施形態において、保持溶媒/油比は、約5日間および6日間に等しいかまたはこれらより長い(例えば、6日間より長い)作用持続時間を有する製剤を得るために、約1.1より大きい(例えば、2)ように調整され得る。
一実施形態において、本発明の医薬製剤は、疼痛軽減のために投与することを必要とする被験体へと筋肉内投与され、そしてナルブフィンの血漿濃度または全血濃度は、投与の6〜12時間以内に1ng/mL以上に達し得、そしてこの濃度は、投与から12日間に等しいかもしくはこれより長い間保持され得る。一実施形態において、ナルブフィンの血漿濃度または全血濃度は、投与の12〜24時間以内に3ng/mL以上に達し得、そしてこのナルブフィン濃度は、投与から7日間に等しいかもしくはこれより長い間維持され得る。別の実施形態において、ナルブフィンの血漿濃度または全血濃度は、投与の12〜24時間以内に3ng/mL以上に達し得、そして投与から9日間に等しいかもしくはこれより長い間上記濃度で維持し得る。
薬物動態パラメーターはまた、全血ナルブフィン濃度または血漿ナルブフィン濃度から計算され得る。例えば、血漿または全血中で観察される最大ナルブフィン濃度(Cmax)が、決定され得る。Cmax(Tmax)までの時間、半減期(T1/2)、平均滞留時間(MRT)、および曲線下面積(時間0から最後の定量可能なナルブフィン測定値(AUC0−t)および時間ゼロから無限大までの外挿値(AUC0−inf))がまた、決定され得る。例えば、ナルブフィンの血漿濃度および全血濃度、ならびに本発明の製剤の薬物動態パラメーターは、実施例3および4に記載されるように決定され得る。
被験体への筋肉内注射を介する投与後に、いくつかの実施形態において、本発明の製剤は、以下のインビボ特徴を示す:(a)ナルブフィンのピーク血漿レベルは、投与後45〜66時間以内に起こる(Tmax);および(b)投与後のナルブフィンの平均消失半減期(T1/2)は、約56〜90時間である。
いくつかの実施形態において、投与後のナルブフィンの血漿濃度または全血濃度は、本発明の製剤の鎮痛効果の開始および作用持続時間を決定するために使用され得る。例えば、ナルブフィンの得られた血漿濃度または全血濃度は、鎮痛効果を示すことが報告された血漿ナルブフィン濃度または全血中ナルブフィン濃度と比較され得る。一般に、筋肉内注射を介する本開示の医薬製剤の投与によって、鎮痛効果の開始は、投与の約6〜36時間で起こり得、作用持続時間は、約6〜約12日間であり得る。いくつかの実施形態において、作用持続時間は、約5日間、約6日間、約9日間、または約12日間に等しいかまたはこれらより長い可能性がある。いくつかの実施形態において、作用持続時間は、3日間、6日間、9日間、10日間、12日間、または14日間に等しいかまたはこれらより長い可能性がある。いくつかの実施形態において、製剤の作用持続時間は、約5日間または6日間に等しいかまたはこれらより長い。他の実施形態において、製剤の作用持続時間は、約7日間に等しいかもしくはこれより長い。鎮痛効果の開始時間は、投与、個体の応答、および求められる疼痛軽減のタイプに依存し得る。
ある特定の実施形態において、本発明の製剤は、約0.8〜1.2のBB/油比で調製され、ここでSDE濃度は、約75mg/mLである。いくつかの実施形態において、このような製剤は、150mgのSDEの単回用量を投与する場合に、約6日間に等しいかもしくはこれより長い間に>3ng/mLの、または約12日間に等しいかもしくはこれより長い間、>1ng/mLの血中ナルブフィン濃度を維持し得る。増大したBB/油比を有する製剤は、6日間より長い作用持続時間を有し得る。同様に、製剤が6日間より短い(例えば、3日間または5日間の)作用持続時間を提供することが意図される場合、BB/油比は、低減され得る。
本発明の製剤の作用持続時間が、保持溶媒/油比のみならず、製剤中のプロドラッグの濃度および投与される総用量にも依存し得ることは、理解されるはずである。製剤中のプロドラッグの濃度、および投与される総用量は、所望の期間にわたって有効血中濃度を提供するように、必要に応じて調整され得る。
疼痛の処置
別の局面において、本発明は、疼痛を処置するための方法を提供し、上記方法は、治療上有効な量の本発明の医薬製剤を、それを必要とする被験体に投与する工程を包含する。いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の製剤によって、術後疼痛または他のタイプの長期間の疼痛を処置するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、医薬製剤は、筋肉内注射または皮下注射によって投与される。疼痛の処置は、強度スケールでの被験体の疼痛評価を評価することによって評価され得る。例えば、疼痛の視覚的アナログスケール(Visual Analog Scale)(VAS)は、被験体の疼痛の強度をスコア付けするために使用され得る(Psychol Med. 1988 Nov;18(4):1007−19)。疼痛VASは、被験体が、彼または彼女の疼痛強度レベルを示すように求められる一次元強度スケールである。例えば、疼痛強度は、患者制御鎮痛(PCA)の最初の使用直前に開始して、そして術後1±0.1時間、2±0.1時間、3±0.1時間、4±0.25時間、8±0.5時間、12±0.5時間、16±0.5時間、20±0.5時間、24±1時間、28±1時間、32±2時間、36±2時間、40±2時間、44±2時間、48±2時間で評価され得、そして3〜7日目の間に朝夕に、ならびに便通などの特別な事象の間に評価され得る。例えば、患者制御鎮痛薬は、ケトロラクである。いくつかの実施形態において、本発明の製剤は、手術手順の前に被験体に投与され得る。例えば、この手術手順は、痔核切除術であり得る。ある特定の実施形態において、本発明の製剤は、手術の6〜36時間前に投与され得る。いくつかの実施形態において、150mgのSDEが手術前に投与される。疼痛強度は、次いで、術後に、例えば、術後48時間にわたって評価され得る。いくつかの実施形態において、疼痛は、VAS疼痛スケールで評価され得る。いくつかの実施形態において、本発明の製剤を投与された被験体は、48時間にわたって、プラセボを投与された被験体より低いVAS疼痛スコアを有する。例えば、疼痛の処置の評価は、実施例4に記載されるように決定され得る。
疼痛の処置はまた、術後鎮痛薬(すなわち、レスキュー薬(例えば、ケトロラク))の被験体の使用を評価することによって評価され得る。例えば、手術後に被験体が術後鎮痛薬を最初に使う時間が、評価され得る。いくつかの実施形態において、手術前に本発明の製剤を投与された被験体は、プラセボを投与された被験体と比較して、術後鎮痛薬を使用する前のより長い期間を有する。例えば、疼痛の処置は、実施例4に記載されるように評価され得る。
疼痛の処置はまた、本発明の製剤の投与後に、被験体のナルブフィンの有効血中濃度を評価することによって評価され得る。いくつかの実施形態において、保持溶媒/油比が増大される場合、ナルブフィンの有効血中濃度に達する時間はより長くなり得るので、製剤の作用の開始は、より遅くなり得る。よって、必要な被験体に製剤を投与する時間は、製剤の所望の作用開始に応じて調整され得る。例えば、保持溶媒/油比が約0.65、約1、または約2である場合、投与後1時間でのナルブフィンの血中濃度は、それぞれ、約28ng/mL、約11ng/mL、または約7ng/mLであり得る。いくつかの実施形態において、例えば、生きている被験体、例えば、イヌにおけるナルブフィンの有効血中濃度が約5ng/mLである場合、約2の保持溶媒/油比を有する製剤は、疼痛症状の開始の約1時間前に被験体に投与され得る;一方で、約0.65の保持溶媒/油比を有する製剤は、疼痛症状の開始の約30分前に被験体に投与され得る。
いくつかの実施形態において、疼痛を処置するための本発明の方法は、疼痛を処置することを必要とする被験体、例えば、ヒトに、約0.8〜1.2(例えば、約1.12)の保持溶媒/油比を有する本発明の製剤を、疼痛症状の開始の6〜36時間前に投与する工程を包含し、ここで製剤は、筋肉内注射を介して被験体に投与される。いくつかの実施形態において、約1.12の保持溶媒/油比を有する製剤は、疼痛症状の開始の12〜36時間前に投与され得る。いくつかの他の実施形態において、約1.12の保持溶媒/油比を有する製剤は、疼痛症状の開始の12〜24時間前に投与され得る。いくつかの実施形態において、製剤中のSDEの濃度は、約75mg/mLであり、このような製剤は、150mgまでのSDEの総用量で投与される。
いくつかの実施形態において、疼痛を処置するための本発明の方法は、疼痛を処置することを必要とする被験体、例えば、イヌに、約1.18の保持溶媒/油比を有する本発明の製剤を投与する工程を包含する。一実施形態において、製剤中のSDEの濃度は、約80mg/mLであり、そしてこのような製剤は、160mgまでのSDEの総用量で投与される。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、術後疼痛を処置するためのものであり、ここで疼痛症状の開始は、被験体に対する外科手術中または外科手術後である。外科手術の例としては、一般外科の一般的なタイプ(例えば、ヘルニア手術、痔核手術、腹部手術、産科および婦人科の手術、形成外科手術、整形外科手術、耳鼻咽喉科手術、***手術、および歯科手術)が挙げられる。いくつかの実施形態において、外科手術は、痔核手術である。ある特定の実施形態において、約1.12の保持溶媒/油比を有する製剤は、外科手術の12〜36時間前に投与される。いくつかの実施形態において、約1.12の保持溶媒/油比を有する製剤は、外科手術の12〜24時間前に投与される。いくつかの実施形態において、投与される製剤は、SDE、ゴマ油および安息香酸ベンジルを含み、ここで安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比は、約0.8〜1.2:1であり;そして製剤中のSDEの濃度は、約75mg/mLである。ある特定の実施形態において、約1.12の保持溶媒/油比を有する製剤は、150mgまでのSDEの総用量でヒトに投与される。
本発明の別の局面は、長期の疼痛を処置するための方法を提供することであり、上記方法は、長期の疼痛を処置することを必要とする被験体に、筋肉内注射を介して約1.12の保持溶媒/油比を有する本発明の医薬製剤を疼痛症状の開始の6〜36時間前に投与する工程を包含する。長期の疼痛の例としては、陣痛、慢性背部痛、および慢性関節痛が挙げられる。いくつかの実施形態において、約1.12の保持溶媒/油比を有する製剤は、疼痛症状の開始の約12〜36時間前に投与される。ある特定の実施形態において、約1.12の保持溶媒/油比を有する製剤は、150mgまでのSDEの総用量で投与される。
いくつかの実施形態において、製剤は、約0.8〜1.2の保持溶媒/油比および約75mg/mLのSDE濃度で調製され、約150mgまでのSDEの総用量で筋肉内投与される。このような場合に、製剤の作用開始は、投与から約6〜36時間以内または約12〜36時間以内であり得る;そして製剤の作用持続時間は、約6日間、約7日間、または約9日間であり得る。他の実施形態において、製剤は、約0.65の保持溶媒/油比および約50mg/mLのSDE濃度で調製され、約160mgまでのSDEの総用量で筋肉内投与される。他の実施形態において、製剤は、約2の保持溶媒/油比および約80mg/mLのSDE濃度で調製され、約160mgまでのSDEの総用量で筋肉内投与される。
いくつかの実施形態において、製剤は、約50〜160mg/mlまたは約70〜100mg/mLの濃度において、約75〜160mgまたは約150〜160mgの総投与用量で投与される。例えば、その濃度は、約50mg/mL、75mg/mL、80mg/mL、100mg/mL、または150mg/mLであり得る;そして総用量は、約75mg、100mg、125mg、150mg、または160mgであり得る。ある特定の実施形態において、製剤は、約75mg/mlの濃度および約150mgの総用量において投与される。他の実施形態において、製剤は、約50mg/mLまたは約80mg/mlの濃度、および約160mgの総用量で投与される。
実施例1.種々のBB/油比を有する本発明の製剤のインビトロ放出研究
(1)本発明の製剤の調製
種々のSDE濃度(50〜150mg/mL)および安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の種々の重量比(「BB/油比」)、または安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコールの混合物 対 ゴマ油の種々の重量比(「BB+BA/油比」)(0.5〜19)を有する8種の本発明の製剤を、表1Aおよび表1Bに基づいて調製した。とりわけ、AF4製剤、R2製剤、N7製剤、およびN9製剤を、以下の方法Aに従って調製した。
方法A:
溶媒系(すなわち、安息香酸ベンジル(ベンジルアルコールありまたはなし)およびゴマ油の混合物)を、各成分を表1Aおよび表1Bに列挙される所望の重量/重量パーセント(w/w%)に相当する所定の容積で混合することによってそれぞれ調製した。その得られた溶媒混合物を、室温においてボルテックスするかまたは撹拌して、各成分を完全に混合した。SDEの所定の量を、表1Aおよび1Bに列挙されるSDE濃度に基づいてそれぞれ秤量し、次いで、その対応する溶媒混合物を含むメスフラスコの中に添加した。その得られた混合物を、メスフラスコを転倒混和および振盪することによって完全に混合して、最終製剤を得た。
R1製剤、AF1製剤、AF3製剤およびN8製剤を、以下の方法Bに従って調製した。
方法B:
SDEの所定量を、表1Aおよび表1Bに列挙されるSDE濃度に基づいてそれぞれ秤量し、次いで、表1Aおよび表1Bに列挙される所望の重量/重量パーセント(w/w%)に相当する所定の容積の安息香酸ベンジル、または安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコールの混合物に添加した。その得られた混合物をボルテックスするかまたは撹拌することによって混合して、SDEを完全に溶解させた。次いで、所定の容積のゴマ油を、安息香酸ベンジルおよびSDEの得られた混合物、または安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコールならびにSDEの混合物に添加して、最終製剤を得た。
(2)インビトロ溶解実験:
以下のインビトロ溶解実験およびUPLC分析を、表1Aおよび表1Bに列挙される製剤に対して行った。
製剤の各々からのSDEの溶解/放出速度を、それぞれ、インビトロ溶解実験によって評価した。その溶解媒体は、0.1% tween 80を有するPBST緩衝液(pH6.0)であった。各実験に関して、500mL 媒体を、600mL ビーカーの中に入れ、頂部にある気泡を除去した。表1Aおよび表1Bに列挙される各SDE製剤のうちの50〜150μlを、それぞれ注意深く媒体の中に滴下した(各実験において、滴下した製剤は、SDEの同じ量、すなわち、約7.5mgを含んだ)。媒体の温度を室温(約25〜28℃)に設定し、撹拌速度を、約360rpmに設定した。得られた媒体のうちの5mLを所定の時間間隔で取り出した。200μl 6N HClを実験の終端点の20分前に、その得られた媒体に添加して、酸性条件でのSDEの100%放出を可能にした。終端点で得られた媒体のうちの5mLを集め、時間間隔の各々でのSDEの溶解速度を計算するにあたって、100%放出の基準点として採用した。
UPLC分析
インビトロ溶解実験において集めたサンプルの各々におけるSDEの濃度を、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)によって決定した。標準溶液を調製した。UPLC分析を、以下の条件下でACQUITY UPLCエチレン架橋ハイブリッド(BEH) C18、1.7μm、2.1×50mmカラムを使用することによって行った:
製剤の各々の累積SDE溶解プロフィールを、図1Aおよび図1Bにプロットする。
図1Aにおいて、BB/油比が0.5から16へと増大される場合に、製剤からのSDEの溶解速度は低減される、すなわち、製剤からのSDEの放出期間は延長することが、認められ得る。例えば、BB/油比が約0.5である(R1)場合、SDEの総量のうちの約50%を製剤からインビトロ媒体へと放出するために必要とされる時間は、約15〜25分であった;BB/油比が約3である(R2)場合、SDEの総量のうちの50%を製剤からインビトロ媒体へと放出するために必要とされる時間は、約85〜95分であった;そしてBB/油比が約16である(N7)場合、SDEの総量のうちの50%を製剤からインビトロ媒体へと放出するために必要とされる時間は、約120〜130分であった。図1Bにおいて、図1Aにおいて観察された傾向が、保持溶媒が安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコールの混合物である場合にもなお存在することは、認められ得る。
結果は、本発明の製剤からのSDEのインビトロ放出速度/放出期間が、溶媒系の保持溶媒/油比、例えば、BB/油比によって調節または制御され得ることを示す。より長い放出期間が意図される場合、製剤の保持溶媒/油比は、必要に応じて増大され得る。
インビトロデータとインビボデータとの間の相関関係はしばしば、製剤の開発時間を短縮しかつ製剤を最適化するために、医薬開発の間に使用される。70年代後半および80年代前半に報告された多くの研究は、このような相関関係の基本的な信頼性を確立した(Pharm.Res.1990,7,975−982)。インビトロ−インビボ相関関係の種々の定義は、持続放出投与形態のインビトロ特性(通常は、薬物溶解または放出の速度または程度)と、関連するインビボ応答(例えば、血漿薬物濃度または吸収される薬物量)との間の関係性を説明する予測数学モデルとして提唱されてきた。この概念の下では、本発明の製剤の保持溶媒/油比が増大される場合、製剤は、増大/長期にわたるインビボ放出期間を有し得ると考えられる。
実施例2 方法Aと方法Bとの比較
(1)BB/油比が約1である場合に方法Aによって調製される沈殿物を有する懸濁物
2つのサンプル(1および2)を、SDEをゴマ油および安息香酸ベンジルの混合物へと直接添加する(すなわち、実施例1の方法A)ことによって調製した。サンプル1では、5.5mL ゴマ油および4.5mL 安息香酸ベンジルをまず混合して、油性溶媒混合物を形成した。次いで、750mgのSDEを、この溶媒混合物に添加した。その得られた混合物を、少なくとも2時間超音波処理し、室温において一晩静置し、次いで、10分間、3000rpmで遠心分離した。上側の透明な溶液を集め、次いで、高速液体クラマトグラフィー(HPLC)分析に供した。サンプル2を、SDEの量を1000mgへと変更したことを除いてサンプル1を調製するためのプロセスに従うことによって調製した。サンプル1およびサンプル2に関して、「SDEの本来添加される重量」 対 「安息香酸ベンジルおよびゴマ油の容積」の比は、それぞれ、75mg/mLおよび100mg/mLであった。サンプル1およびサンプル2の両方に関して、沈殿物を有する懸濁物は、SDEを油性混合物へと添加した直後に形成された。2時間にわたって超音波処理し、室温において一晩静置した後、SDEの目に見える固体粒子は、得られる混合物の中になお存在した。
(2)BB/油比が約1である場合に方法Bによって調製される均一な溶液
4つのサンプル(3〜6)を、実施例1の方法Bに従って調製した。具体的には、サンプル3において、2.25mLの安息香酸ベンジルおよび375mgのSDEをまず混合し、撹拌して、透明な溶液を形成した。次いで、2.75mLのゴマ油をこの透明な溶液に添加して、均一な溶液を得た(得られるSDE濃度は75mg/mL;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の容積比は、45:55)。その結果、SDEが溶液中に均質に溶解した。サンプル4を、2mL 安息香酸ベンジルおよび3mL ゴマ油を使用したことを除いて、サンプル3を作製するための方法に従うことによって調製した(得られるSDE濃度は75mg/mL;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の容積比は、40:60)。サンプル5を、2.5mL 安息香酸ベンジルおよび2.5mL ゴマ油を使用したことを除いて、サンプル3を作製するための方法に従うことによって調製した(得られるSDE濃度は、75mg/mL;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の容積比は、50:50)。サンプル6を、500mg SDEを使用したことを除いて、サンプル3を作製するプロセスに従うことによって調製した(得られるSDE濃度は、100mg/mL;安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の容積比は、45:55)。次いで、サンプル3〜6を、凍結−融解試験に供して、それらの物理的安定性をチェックした。この凍結−融解試験を、約0〜4℃において約12時間サンプルの各々を冷却し、この冷却したサンプルの各々を室温において約12時間加温し、そしてこの冷却および加温工程を2回連続して反復することによって行った。サンプル3〜6の全ては、凍結−融解試験の後に透明かつ均一なままであった。その得られたサンプルを、3000rpmにおいて10分間遠心分離した。各サンプルの上側の溶液をそれぞれ集め、次いで、HPLC分析に供した。
(3)サンプル1〜6のHPLC分析
このHPLC分析を、カラムWaters Xbridge RP18、4.6mm×250mm、3.5μmカラム(部品番号: 186003964)および以下の条件を使用して行った:
流速:0.6ml/分
注入容積:10μl
実行時間:70分
検出器:UV波長280nm
カラム温度:35℃
サンプル温度:25℃
勾配プログラム:
移動相Aは、酢酸緩衝液であり、移動相Bは、メタノールであった。遠心分離したサンプル1〜6の上側の溶液のうちの各々1.0mLを集め、次いで、アセトニトリルで100mLへと希釈した。その得られた溶液を、個々にかつ別々にHPLC分析に供した。HPLC分析の結果を、遠心分離したサンプル1〜6中の溶解したSDEの濃度を計算するために使用した。そのデータを表2にまとめる。
表2において、安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比を、以下の式によって計算する:
重量比=容積比×1.118/0.917
式中、1.118(g/cm3)は、安息香酸ベンジルの密度を表し、0.917(g/cm3)は、ゴマ油の密度を表す。「添加されたSDE濃度」は、「SDEの本来添加される重量」 対 「安息香酸ベンジルおよびゴマ油の本来添加される容積」の比を表す。「計算されたSDE濃度」は、サンプルの各々を遠心分離し、次いで、その得られた上清をHPLCによって分析することによって得られる、サンプル1〜6の計算されたSDE濃度を表す。
BB/油比が約1に設定される場合、方法Aに従って調製されたサンプル(すなわち、サンプル1およびサンプル2)は全て、沈殿物を有する懸濁物の形態にあった一方で、方法Bに従って調製されたサンプル(すなわち、サンプル3〜6)は全て、均一な溶液の形態にあったことは、表2から認められ得る。サンプル1およびサンプル2に関して、「添加されたSDE濃度」と「計算されたSDE濃度」との間の差異は、SDEの20%超が製剤中で固体粒子を形成した(これは、筋肉内注射懸濁物に関して受容可能な「多くても0.5〜5.0% 固体」という制限を大きく超えていた)ことを示す(R. M. Patel, Parenteral Suspension: an Overview, Int. J. Curr. Pharm. Res., 2010, 2,3:3−13を参照のこと)。さらに、この目に見える固体粒子は、サンプル1およびサンプル2の平均粒子径が5マイクロメーター(すなわち、適格な筋肉内注射懸濁物についての上限)より遙かに大きいことを示した。さらに、サンプル1およびサンプル2の「計算されたSDE濃度」は、方法Aによって調製された製剤中のSDEの飽和濃度が、BB/油比が約1に設定される場合、およそ60〜65mg/mLであることが示された。
サンプル3〜6に関しては、「添加されたSDE濃度」と「計算されたSDE濃度」との間の差異が有意でなかったことが認められ得る、これは、方法Bによって調製された均一な製剤が凍結−融解工程の3サイクルによって試験された後ですら安定であったことを意味する。上記のデータはまた、安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比が約0.8〜1.2:1の範囲にあった場合に、方法Bによって調製された本発明の製剤が、100mg/mLもしくはこれより低いSDE濃度で均一かつ安定であり得ることを示す。いくつかの実施形態において、本発明は、約0.8〜1.2:1のBB/油比で、70〜100mg/mL(例えば、75mg/mL)のSDE濃度を有する均一かつ安定な製剤を形成し得る。70mg/mLより高いSDE濃度は、先行技術によって示唆される注射容量と比較した場合に、注射容量が大いに低減されることを可能にする。
BB/油比が、例えば、約1から約1.5へと増大される場合、BBおよび油の混合物中のSDEの溶解度は、例えば、約60mg/mLから約150mg/mLへと有意に増大することが、理解されるはずである。従って、約1.5のBB/油比を有する均一に溶解した製剤は、その意図されたSDE濃度が150mg/mLより低い場合に、方法Aまたは方法Bのいずれかによって調製され得る。しかし、約1.5のBB/油比を有する製剤が150mg/mLより高いSDE濃度で調製される必要がある場合には、均一に溶解した製剤を達成するために方法Bが使用されなければならない。
実施例3.本発明の製剤のインビトロおよびインビボ(イヌでの)研究
(1)本発明の製剤の調製
3種のSDE製剤(AF3、AF1、およびAF4)を、表3に列挙された濃度およびBB/油比に基づいて調製した。AF4を、実施例1の方法Aに従って調製した;AF3およびAF1を、実施例1の方法Bに従って調製した。
(2)本発明の製剤の安定性
次いで、AF3製剤、AF1製剤およびAF4製剤を、凍結−融解試験に供して、その物理的安定性をチェックした。この凍結−融解試験を、約0〜4℃において約12時間サンプルの各々を冷却し、この冷却したサンプルの各々を室温において約12時間加温し、そしてこの冷却および加温工程を2回連続して反復することによって行った。AF3製剤、AF1製剤、およびAF4製剤は、この凍結−融解試験後に透明かつ均一なままであった。その得られたサンプルを、10分間、3000rpmにおいて遠心分離した。各サンプルの上側の溶液をそれぞれ集め、次いで、実行時間が15分でありかつサンプル容積が1μlであったことを除いて実施例1の方法に従ってUPLC分析に供した。「添加されたSDE濃度」および「計算されたSDE濃度」は、AF3、AF1およびAF4の上側の溶液をHPLCではなくUPLCによって分析したことを除いて、実施例2において定義されるものと同じである。
表4において、「添加されたSDE濃度」と「計算されたSDE濃度」との間の差異が有意でないことが認められ得る。これは、3種の製剤が均一であり、そして3回の凍結−融解サイクルに供した後ですら安定であることを意味する。この3種の製剤は、それぞれ、固体粒子のない均一な溶液を形成するために、方法Aまたは方法Bによって調製され、そして均一な溶液は、商業上のニーズ(例えば、濾過による直接的な滅菌に適していること、および低温貯蔵(貯蔵寿命はより低い温度で貯蔵される場合に長期にわたり得る)を満たし得る優れた安定性を示す。
(3)インビトロ溶解実験
実施例1に開示されるプロセスに従って、AF3製剤、AF1製剤およびAF4製剤に対してインビトロ溶解実験およびUPLC分析を行った。製剤の各々の累積SDE溶解プロフィールを、図2にプロットする。BB/油比が約0.65である場合、AF3製剤からインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの50%を放出するために必要とされる時間は、約20〜30分であったことが図2から認められ得る。BB/油比が約1.18であった場合、AF1製剤からインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの50%を放出するために必要とされる時間は、約35〜45分であった。BB/油比が約2であった場合、AF4製剤からからインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの50%を放出するために必要とされる時間は、約50〜60分であった。この試験は、BB/油比が0.65から2へと増大される場合に、本発明の製剤のインビトロ溶解速度が低減されることを示す。
(4)イヌにおける鎮痛のための有効血漿ナルブフィン濃度の決定
Handbook of Veterinary Pain Management(第2版, 2009)において、ナルブフィンおよび他のオピオイド鎮痛薬の効能が、報告された(第167ページ、表9−2)。イヌに対して0.5mg/kgでナルブフィンを投与する場合の鎮痛の持続時間は、約4時間であると報告された。従って、皮下投与を介するナルブフィンの上記用量の注射後4時間でのナルブフィンの血漿濃度は、イヌに対する鎮痛のためのナルブフィンの最低有効血漿濃度であり得る。本発明者らが行ったインビボ実験によれば、0.5mg/kg ナルブフィンを皮下注射した後3時間および4時間でのナルブフィンの平均血漿濃度は、それぞれ、9.9ng/mLおよび5.2ng/mLであった。従って、イヌにおける鎮痛のためのナルブフィンの有効血漿濃度は、約5ng/mLであると見做され得る。
(5)本発明の製剤のイヌへの筋肉内投与
動物研究を行って、本発明の製剤のインビトロ溶解速度とインビボ放出速度/放出期間との間の相関関係を検証した。AF3製剤、AF1製剤、およびAF4製剤の各々を、2匹の雄性ビーグル犬へと筋肉内注射によって別個に投与した。SDEの用量は、各イヌに関して160mgであり、その注射容量は、各製剤の薬物濃度に応じて変えた(AF3: 3.2mL、AF1およびAF4: 2mL)。投与前、ならびに投与後1時間、2時間、6時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、96時間、120時間および144時間で、血液サンプルを抜き取った。各サンプルの血漿ナルブフィン濃度を、Shimazdu LC−20ADおよびCTC AutoSamplerを連結したAB API4000三連四重極質量分析計からなる液体クロマトグラフィー−質量分析/質量分析(LC−MS/MS)システムを使用して決定した。
3種の製剤に関する1日目から6日目までのナルブフィンの平均血漿濃度−時間プロフィールを、図3に示し、その相当する対数濃度−時間プロフィールを、図4に示す。SDEは、製剤から血液または組織へと放出される場合に迅速にナルブフィンへと変換されるので、血漿ナルブフィン濃度は、製剤からのSDEの放出量を表すために測定される。
イヌに対するAF3製剤、AF1製剤およびAF4製剤のインビボ試験結果は、インビトロ溶解研究に基づいて本発明者らが予測する傾向と一致する。BB/油比が増大される場合、製剤のインビボ放出期間は、延長されるかまたは長期にわたることが、図3から認められ得る。より具体的には、AF3、AF1およびAF4の投与後144時間(6日目)でのナルブフィン血漿濃度は、それぞれ、約0.4ng/mL、約9.2ng/mLおよび約14.7ng/mLである。イヌに対する鎮痛のためのナルブフィンの有効血漿濃度が約5ng/mLであるという想定に基づくと、AF3製剤は、投与から144時間では鎮痛効果を生じない一方で、AF1製剤およびAF4製剤は、投与から144時間を超える期間にわたって鎮痛効果を生じる。イヌでの実験結果によれば、BB/油比を約1より低い(例えば、0.65)ように調整した場合、製剤は、6日間より短い(例えば、約4日間の)作用持続時間を有し得る;BB/油比を約1より大きい(例えば、2)ように調整した場合、製剤は、約5日間に等しいかもしくはこれより長い(例えば、6日間より長い)作用持続時間を有し得る。従って、所定の放出期間を有するSDEの持続放出製剤は、製剤のBB/油比を調整することによって調製され得る。
さらに、 BB/油比が増大される場合、製剤の放出プロフィールがより一様である(例えば、AF4に関しては、開始の遅れおよび微々たるバースト放出)ことは、図3からも観察され得る。薬物動態パラメーターは、表5にまとめられる。AF3、AF1およびAF4のTmaxは、それぞれ、21時間、24時間および84時間である。AF3、AF1およびAF4のCmaxは、それぞれ、87.35ng/mL、82.90ng/mLおよび41.1ng/mLである。
BB/油比が約0.65、約1、および約2であった場合、投与後1時間でのナルブフィンの血中濃度は、それぞれ、約28.4ng/mL、約11.0ng/mL、および約6.7ng/mLであった。結果は、BB/油比が増大される場合、ナルブフィンの有効血中濃度に達するまでの時間がより長くなり得るので、製剤の作用開始は遅くなり得ることを示す。
以下のPKパラメーターは、BB/油比が増大される場合に、製剤が、より低いBB/油比を有する製剤と比較した場合、より長い放出期間、より低い最大濃度(C
max)およびピーク血中濃度レベルまでのより長い時間(T
max)を伴う放出プロフィールを示し得るという結論を裏付ける。
Wegner−Nelson法を使用することによって、平均血漿濃度 対 時間曲線を、吸収された累積相対分率(CRFA) 対 時間曲線へと変換した。各製剤のAb∞(t=0〜∞で吸収される薬物の総量)が100%でありかつイヌにおけるi.v.投与後のナルブフィンの消失半減期が約1.2時間である(Biopharm Drug Dispos. 1985 Oct−Dec;6(4):413−21.)という想定の下で、各製剤のCRFA 対 時間曲線を図5にプロットする。図5において、BB/油比が約0.65である場合、Ab∞のうちの約99%は、投与後144時間で吸収される(AF3);BB/油比が約1.18である場合、Ab∞のうちの約91%は、投与後144時間で吸収される(AF1);BB/油比が約2である場合、Ab∞のうちの約82%は、投与後144時間で吸収される(AF4)。このモデルを適用することによって、製剤のBB/油比が増大される場合、同じ時点で吸収されるAb∞の相対的パーセンテージが低くなることは、予想され得る。これは、より高いBB/油比を有する製剤が、より長い期間にわたって用量デポー(dose depot)を放出し得ることを示す。
上記の実験結果は全て、本発明の製剤のインビトロ溶解プロフィールが、製剤のインビボ放出プロフィールに相関することを示す。本発明の製剤のインビボ放出速度/放出期間は、BB/油比によって制御または調節され得る。
実施例4.本発明の製剤のインビトロおよびインビボ(ヒトに対する)研究
(1)実施例1の方法Bによる本発明の製剤の調製
約600gのSDEを、約4025gの安息香酸ベンジルと混合した。その得られた混合物を、300rpmにおいて60分間撹拌して、透明な溶液を得た。約3591gのゴマ油を、その透明な溶液へと添加し、次いで、300rpmにおいて約30分間撹拌した。その得られた溶液を、Millipore 0.22μmフィルタを使用することによって濾過滅菌に供した。最終製剤(F8)は、約75mg/mLのSDE濃度を有し、安息香酸ベンジル 対 ゴマ油の重量比は、約1.12:1であった(表6)。
このようにして得たF8製剤は、固体粒子のない均一な溶液であり、それによって、濾過によって直接滅菌するために適しており、かつ大規模製造に適していた。
(2)インビトロ溶解実験
実施例1で開示されるプロセスに従って、F8製剤に対してインビトロ溶解実験およびUPLC分析を行った。F8製剤およびAF1製剤の累積SDE溶解プロフィールを、図6にプロットする。F8製剤およびAF1製剤の溶解プロフィールが、それらのBB/油比が類似であることから類似であることは、図6から認められ得る。BB/油比が約1.1〜1.2である場合、製剤からインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの50%を放出するために必要とされる時間は、約30〜40分であった。
上記のイヌにおいてAF1で得られた作用持続時間の結果ならびにF8およびAF1の類似のインビトロ溶解プロフィールに鑑みれば、F8で類似の作用持続時間(すなわち、6日間より長い)が、ヒトで予測された。
(3)フェーズ1臨床研究
フェーズI臨床試験を、健康な志願者においてF8製剤で行った。その臨床試験を、安全性および局所忍容性を評価し、そして単回用量の筋肉内注射後のSDEの薬物動態を評価するように設計した。研究には、合計28名の健康な男性被験体が登録した。全ての被験体を、5つのコホートに無作為化した。コホート1(N=4)を、筋肉内注射を介する単回用量のNubain(登録商標)17mg(0.85mL)で処置した。コホート2〜5(N=6)は、プラセボ(N=2)で処置したか、またはそれぞれ75mg(1mL)、100mg(1.33mL)、125mg(1.67mL)、および150mg(2mL)の単回用量のSDE(N=4)で処置したかのいずれかであった。全体として、150mgまでのSDEの漸増用量は、十分に忍容された。全ての有害事象(AE)は、軽度であった。AEの数、AEを有する被験体の数、AEの重症度、およびAE関連性において、SDE群とプラセボ群の間に有意差は全く見出されなかった。
Nubain(登録商標)、F8製剤、またはプラセボで処置した全28名の被験体から血液を集めた。ヘパリン処理血液サンプルを、治験薬の単回用量投与の前および投与後の種々の時点で得た。検証されたLC/MS/MS法を使用して、Nubain(登録商標)またはF8製剤からのナルブフィンを検出および定量した。そのデータのその後の分析は、ノンコンパートメント薬物動態分析(non−compartmental pharmacokinetics analysis)、すなわち、Cmax、Tmax、AUC0−t、AUC0−inf、およびT1/2を含んだ。SDEは、血中でナルブフィンに迅速に変換されるので、ナルブフィンの薬物動態パラメーターを、ノンコンパートメントモデルおよび実際の時間 対 ナルブフィンの血漿濃度を使用して計算した(表7)。
F8製剤の投与後のナルブフィンの薬物動態は、用量比例性であるようであった。最高の平均CmaxおよびAUC0−infは、150mg SDEにおいて見出され、それぞれ、9.81ng/mLおよび1353.16ng×時間/mLであった。血漿ナルブフィンは、75mg、100mg、125mg、および150mgのSDEのIM投与後の45〜66時間(Tmax)以内でCmaxに達した。
Nubain(登録商標)(コホート 1)のIM投与後のナルブフィンの平均消失半減期(T
1/2)は、約4時間であった。75mg〜150mgの範囲に及ぶ総用量でのF8製剤の筋肉内注射後には、ナルブフィンの見かけの平均T
1/2は、約56〜90時間の範囲であった。より長いみかけの半減期は、IM注射部位からのSDE/ナルブフィンの遅いおよび延長した吸収に起因する可能性がもっとも高かった。
図7は、F8製剤の種々の用量の、およびNubain(登録商標)の1用量の投与後のナルブフィンの血漿濃度を示す。ナルブフィンの血漿濃度は、F8製剤で75〜150mgのSDEを受けた全16名の被験体において、それぞれ、少なくとも220時間または120時間にわたって、1ng/mLまたは3ng/mLを上回った。しかし、Nubain(登録商標) 17mgの筋肉内注射後に、ナルブフィンの血漿濃度は、それぞれ、わずか16時間または8時間にわたって、1ng/mLまたは3ng/mLより高いままであった。中程度から重度の疼痛における鎮痛のためのナルブフィンの有効血漿濃度が1ng/mLより高い、より好ましくは、3ng/mLより高い(Can J Anaesth. 1991 Mar.; 38(2):175−82; European Journal of Clinical Pharmacology 1987, Volume 33, Issue 3, pp 297−301)という想定の下では、F8製剤の単回注射の作用持続時間は、Nubain(登録商標)の単回注射によって網羅されるものより遙かに長い。125mg SDEを受けるコホートにおいて、ナルブフィンの平均血漿濃度は、投与の12時間〜168時間の間に3ng/mLを上回った。これは、作用持続時間が約6.5日間(168−12=156時間=6.5日間)であることを示した。150mg SDEを受けるコホートでは、ナルブフィンの平均血漿濃度は、投与の24〜168時間の間に3ng/mLを上回り、投与の6〜288時間の間に1ng/mLを上回り、これは、作用持続時間が約6〜12日間(168−24=144時間=6日間;288−6=282時間=11.75日間)であることを示した。いくらかの個体に関しては、ナルブフィンの血漿濃度は、投与の12〜216時間の間に3ng/mLを上回り、これは、作用持続時間が約8.5日間(216−12=204時間=8.5日間)であることを示した。これは、F8製剤が、疼痛症状の開始の6〜36時間前に患者に投与してよいことを示す。例えば、疼痛症状の開始は、外科手術の間または外科手術の後である。よって、F8製剤は、外科手術の6〜36時間前に患者に投与してよく、外科手術中および外科手術直後に疼痛を効果的に軽減し得る。例えば、F8製剤は、外科手術の12〜36時間前または外科手術の12〜24時間前に投与してよい。
(4)バイオアベイラビリティー研究
F8製剤およびBain(登録商標)(ナルブフィンHCl IM注射)でのバイオアベイラビリティー研究を、健康な志願者に対して行った。合計12名の被験体が、クロスオーバー研究を終えた。各被験体は、期間Iにおいて単回用量の基準薬物(Bain(登録商標)、ナルブフィンHCl IM注射、10mg/mL×2mL)を
および期間IIにおいてF8製剤(SDE IM注射、75mg/mL×2mL)受けた。期間Iと期間IIとの間に、最低5日間の休薬期間を設けた。期間Iでは、血液サンプルを、投与前に、ならびに投与後0.083時間、0.25時間、0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、および24時間で抜き取った。期間IIでは、血液サンプルを、投与前に、ならびに投与後6時間、12時間、24時間、48時間、60時間、72時間、96時間、120時間、168時間、216時間、288時間および360時間で抜き取った。
サンプル中のナルブフィンの全血濃度を、LC−MS/MSによって決定した。全血中のナルブフィンのAUC0−t、AUC0−inf、Cmax、Tmax、T1/2、およびMRTを、ノンコンパートメント法によって決定した。さらに、ナルブフィン(Bain(登録商標))と比較してSDEの相対的バイオアベイラビリティーを計算した。
この研究の間に重度の有害事象は全く起こらなかった。Bain(登録商標)およびF8製剤に関するナルブフィンの薬物動態パラメーターを、表8において平均±標準偏差(SD)として表す。
図8は、上記の期間IIにおける投与の0〜360時間まで、被験体がF8製剤を受けた後のナルブフィンの平均全血濃度−時間プロフィールを示す。このバイオアベイラビリティー研究において、ナルブフィンの平均全血濃度は、投与の24〜168時間の間に3ng/mLを上回り、これは、作用持続時間が約6日間であることを示した(表9)。この結果は、フェーズ1研究の150mg SDEを受けたコホートにおける知見(ナルブフィンの血漿濃度)と一致する。いくらかの個体に関しては、ナルブフィンの全血濃度は、投与の12〜216時間の間に3ng/mLを上回り、これは、作用持続時間が約8.5日間であることを示した。さらに、ナルブフィンの平均全血濃度は、投与の6〜288時間の間に1ng/mLを上回り、これは、作用持続時間が約12日間であることを示した。
Bain(登録商標)のナルブフィンに対するF8製剤のナルブフィンの相対的バイオアベイラビリティー(F)は、約86.2±12.1(%)であった。さらに、F8製剤のナルブフィンの平均吸収時間(MAT)および吸収速度(Ka)は、それぞれ、約145.2±69.1時間および約0.0081±0.0030/時間であった。このバイオアベイラビリティー研究は、本発明の製剤の作用持続時間は、BB/油比が約1.12に設定される場合に、6日間に等しいかもしくはこれより長い可能性があることを示す。いくらかの個体に関しては、本発明の製剤の作用持続時間は、約5日間であり得る。
イヌでの研究結果(実施例3)とヒトでの研究結果とを相関させることによって、1より小さいBB/油比(例えば、約0.65)を有する製剤がIM注射を介してヒト被験体に投与される場合、製剤の作用持続時間は、6日間より短い可能性がある;その一方で、1より大きいBB/油比(例えば、約2)を有する製剤がIM注射を介してヒト被験体に投与される場合、製剤の作用持続時間が6日間より長い可能性があると結論付けられ得る。よって、本発明は、BB/油比を調整することによって、種々の放出期間を有するSDEの持続放出製剤を提供し得る。例えば、より長い作用持続時間が意図される(例えば、1週間もしくは2週間、またはこれらより長い)場合、BB/油比は、約1または1より大きいように設定され得る(例えば、2または3);そしてより短い作用持続時間が意図される(例えば、3日間または4日間)場合、BB/油比は、1より小さいように設定され得る(例えば、0.5または0.65)。
(5)フェーズ2/3臨床研究
無作為プラセボ対照単回用量並行デザインフェーズ2/3研究を、209名の男性および女性患者で行って、痔核切除術後の術後疼痛の処置においてF8製剤の筋肉内注射の安全性および有効性を評価した。
被験体を2群に分け、そのうちの群1(n=103)を、単回用量の筋肉内SDE 150mg(2mL)で処置し、群2(n=106)を、単回用量の筋肉内プラセボ(2mL)で処置した。全ての被験体に、痔核手術の24±12時間前に筋肉内注射を介して単回用量のSDEまたはプラセボを与えた。被験体がレスキュー薬を服用することを許容し、投与後7日間モニターした。この2群を比較するためにデータに対して統計分析を行った。
一次有効性エンドポイントは、術後48時間を通してのVAS疼痛強度スコアの曲線下面積として計算した疼痛評価であった。二次有効性エンドポイントは、VASで測定した疼痛評価;手術終了から最初のレスキュー薬投与までの時間;経口ケトロラクの消費を含んだ。疼痛強度を、PCAとしてのケトロラクの最初の使用直前に、ならびに手術後1±0.1時間、2±0.1時間、3±0.1時間、4±0.25時間、8±0.5時間、12±0.5時間、16±0.5時間、20±0.5時間、24±1時間、28±1時間、32±2時間、36±2時間、40±2時間、44±2時間、48±2時間で評価し、3〜7日目の間の朝夕、ならびに便通などの特別な事象の間に評価した。
AUCの計算のために、データを、時間域が決められたWOCF+LOCF法(windowed worst observation carried forward plus last observation carried forward method)を使用して入力した。疼痛軽減のためにレスキュー薬を使用した被験体に関しては、ケトロラク処方の時間域(6時間(これはケトロラクの1半減期である))内で記録された彼らのVASスコアを、「最悪の」所見(すなわち、ケトロラクを服用する前の最高スコア)によって置き換えた(本明細書で以降「調整済みVASスコア」といわれる)。
SDE群およびプラセボ群の平均調整済みVASスコアのAUC
0−24およびAUC
0−48を、台形法を使用することによって計算し、表10にまとめた。
SDE群のAUC0−48は、mITT集団中のプラセボ群に対して統計的に有意に優れていることを示した(209.93±111.26 対 253.53±108.49、p=0.0052)。処置によって術後48時間後の経口ケトロラク消費の量に関する統計的分布を、図9に示される箱ひげ図としてグラフにした。経口ケトロラクの平均消費およびメジアン消費はともに、SDE群(平均:51.36mg、メジアン:40.00mg)において、プラセボ群(平均:73.30mg、メジアン:80.00mg)における平均消費およびメジアン消費よりも低かった。
さらに、術後から術後鎮痛薬の最初の使用の時間を評価した。統計的分布の結果を表11にまとめる。SDE群において術後鎮痛薬の最初の使用に関してより長い期間が観察された。SDE群の平均期間(12.57時間)は、プラセボ群の期間(4.93時間)と比較して長期にわたった。
まとめると、術後48時間を通じて経時的に測定された疼痛強度に関するVASスコア、手術終了から最初のレスキュー薬投与までの時間および48時間以内の経口ケトロラクの消費の傾向は、一致した。全てのこれらの臨床結果は、F8製剤が痔核手術前に患者に投与され得、そして痔核手術の直後に疼痛を有効に軽減し得ることを示した。
図10は、mITT集団の痔核手術後0時間から7日間までを通じて経時的調整済みVASスコアのプロットを示す。SDE群およびプラセボ群に関する平均VASスコアの調整済みAUC
0−finalを、台形法を使用することによって計算し、表12にまとめた。SDE群の疼痛強度の平均調整済みVASスコアのAUC
0−finalは、mITT集団におけるプラセボ群に対して統計的に有意に優れていることを示した(630.79±350.90 対 749.94±353.72、p=0.0165)。さらに、SDE群における疼痛強度の調整済みVASスコアは、痔核手術後の最初の1時間を測定した評価の開始時および7日目の朝に低かった(図10の最初のデータ点および最後のデータ点を参照のこと)。SDE群の調整済みVASスコアは、痔核手術後7日間全体を通じてプラセボ群より低かった。よって、F8製剤は、痔核手術前に患者に投与され得、少なくとも約5日間または6日間持続する作用持続時間を伴って、痔核手術の直後に疼痛を有効に軽減し得る。
実施例5.本発明の製剤の安定性データ
実施例4に従って調製されるF8製剤を、2〜8℃において24ヶ月間貯蔵した。その製剤は、24ヶ月間の全期間にわたって透明かつ軽度に黄色の油性溶液のままであった。その間に、その製剤を、HPLCによって定期的に試験して、そのアッセイを決定した(表13)。
F8製剤が2〜8℃において少なくとも24ヶ月間、貯蔵に関して安定であることは、表13から認められ得る。実施例2において行った凍結−融解試験はまた、本発明の製剤が、約0〜4℃において均一なままであり得ると同時に、室温に戻される場合に沈殿物または固体粒子を形成しないことを示す。安定性試験結果は、方法Bによって調製される、本来の溶解度/飽和濃度(約60mg/mL)より高いSDE濃度(約75mg/mL)を有する製剤が、優れた安定性を示し得、商業上のニーズ(例えば、低温貯蔵下での長い貯蔵寿命)を満たすことを示す。
別の例では、F8製剤を、5℃、25℃および40℃においてそれぞれ6ヶ月間貯蔵した。各群から集めたサンプルを、HPLCによって定期的に試験して、分解生成物の形成を決定した(表14)。
25℃または40℃で貯蔵される場合、F8製剤がより多くの不純物を生成したことは、表14から認められ得る。これは、製剤が室温より低い温度で貯蔵されるのがより適していることを示す。本発明の製剤は2〜8℃において均一かつ安定なままであり得ると同時に、室温へと戻される場合に固体粒子を形成しないので、その貯蔵寿命は、より低い温度において貯蔵されることによってさらに長期にわたり得る。
実施例6.可溶化剤として種々のアルキルアルコールを含む種々の溶媒系中でのSDE溶解度の改善
(1)SDE溶液の溶解度試験
表15は、重量/重量パーセント(w/w%)で、試験した溶媒系の組成を示す。その溶媒系は各々、ゴマ油、安息香酸ベンジルおよび種々のアルキルアルコール(すなわち、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールおよびt−ブタノール)を含む。
溶媒系の各々を、各成分を表15に列挙されるw/w%に相当する正確な容積(μl)で混合することによって調製した。溶媒系の各々のうちの約500μlを調製し、3分間もしくはこれより長くボルテックスにかけて、各成分を完全に混合した。SDEの適切な量は、溶媒系の各々の250μlへと添加し、その得られた混合物を、10分間超音波処理した。先に添加されたSDEが完全に溶解した場合、さらに4〜8mgのSDEをこの混合物に添加し、次いで、それをさらに10分間超音波処理した。4〜8mgのSDEを添加する工程を、その混合物が飽和して溶解していないSDE沈殿物を示すまで反復した。混合物の全てを少なくとも30分間超音波処理し、次いで、遠心分離して、その上清を集めた。その上清をアセトニトリルで処理し、次いで、UPLC分析に供した。
(2) UPLC分析
サンプルS1〜S8から集めた上清中のSDE濃度を、実行時間が15分間でありサンプル容積が1μlであったことを除いて、実施例1の方法に従うUPLCによってそれぞれ決定した。
各試験した溶媒系に関する飽和SDE濃度(すなわち、溶解度)を表15に示す。溶媒系中にアルキルアルコールの添加は、SDE溶解度を有意に増大させ得るが、アルコールのみの各々におけるSDEの溶解度はむしろ低いことが認められる。エタノール、1−プロパノール、またはt−ブタノール中のSDEの溶解度は、約10〜30mg/mLである(表16)。
溶媒系中のSDEの溶解度は、アルキルアルコールが10%添加される場合に少なくとも30%増大され得る。
実施例7.種々のタイプおよび量のアルキルアルコールを含む溶媒系中のSDEの溶解度
40重量%のゴマ油を含む溶媒系の5つの群を、表17に列挙されるとおりの組成を使用することによって、実施例6の方法に従ってそれぞれ調製した;そしてとりわけ、5種の種々のアルコール(すなわち、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、およびtert−ブタノール)を、5つの群で使用した。SDEを、実施例6の方法に従うことによって飽和するまで溶媒系の各々に溶解させた。サンプルの各々から集めた上清のSDE濃度(すなわち、飽和SDE濃度、またはSDE溶解度)を、実施例6の方法を使用してUPLCによってそれぞれ決定した。
UPLC分析結果を5つの群に分けて、図11に示されるように、SDE解度に対するアルコール変更の効果を例証する。エタノールを1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、またはtert−ブタノールで置き換える場合に、観察される溶解度改善の傾向が類似であることは、図11から認められ得る。C2−C4アルコールに関しては、2.5〜30重量%のアルコールが溶媒系に添加される場合、SDEの溶解度は、有意に増大され得る;そして約10〜20重量%のアルコールが溶媒系に添加される場合、SDE溶解度は、最大化され得る。
実施例8.種々のアルキルアルコールを含む本発明の製剤のインビトロ放出研究
(1)本発明の製剤の調製
5種の本発明の製剤を、表18に列挙されるとおりの種々の溶媒系を使用することによって、実施例1の方法A(すなわち、アルキルアルコール、BBおよび油を混合し、次いで、SDEを添加する)に従って調製した。油混和性保持溶媒および薬学的に受容可能な油を含む製剤中のSDEの溶解度は、アルキルアルコールを添加することによって有意に増大され得る。よって、方法Aは、アルコール含有製剤中のSDEの意図された濃度が飽和濃度より低い限りにおいて、アルコールなしの製剤のSDE溶解度より高いSDE濃度を有する、均質なアルコール含有製剤を調製するために十分である。
表18に列挙された5種の製剤に関して、各製剤は、10% エタノールを含み、BB/油比は、0.5〜16の範囲に及ぶ。
(2)インビトロ溶解実験
インビトロ溶解実験およびUPLC分析を、実施例1の方法に従って行った。表18に列挙された5種の製剤の累積SDE溶解プロフィールを、図12にプロットする。
図12において、エタノールを製剤に添加する場合に図1で観察される傾向が残ることは、認められ得る(表18のN1〜N5)。
本発明の製剤中のアルキルアルコールの存在または非存在は、溶解/放出速度とBB/油比との間の相関関係に有意に影響を及ぼすわけではないが、アルコールの添加は、アルコールなしの製剤に関して可能なSDE濃度より高いSDE濃度を有する均一な製剤を与えるように、製剤中のSDEの溶解度を有意に改善し得る。
実施例9.アルキルアルコールありまたはなしの本発明の製剤のインビトロ放出研究
(1)製剤の調製
6種の製剤を、表19〜20に列挙されるとおりの種々の溶媒系を使用して調製した。とりわけ、製剤F8およびAF1を、実施例1の方法Bに従って調製し、残りの製剤を、実施例1の方法A(すなわち、アルキルアルコール、BBおよび油を混合し、次いで、SDEを添加する)に従って調製した。
表19に列挙される3種の製剤に関して、BB/油比は、全て16である。N5製剤およびN10製剤に関して、エタノールおよび1−ブタノールを、製剤中にそれぞれ添加した。N7製剤に関しては、製剤中でアルコールを全く使用しなかった。
表20に列挙される3種の製剤に関しては、BB/油比は、全て約1である。N2製剤に関して、エタノールを製剤中に添加した;そしてF8製剤およびAF1製剤に関して、製剤中でアルコールを全く使用しなかった。
(2)インビトロ溶解実験
実施例1の方法に従って、表19〜20に列挙される製剤に対してインビトロ溶解実験およびUPLC分析を行った。表19および表20の8種の製剤の累積SDE溶解プロフィールを、それぞれ、図13〜14にプロットする。図13〜14に示されるように、アルキルアルコールの存在または非存在は、BB/油比が同じまたは類似なままである限りにおいて、製剤からのSDEの溶解速度に有意に影響を及ぼさない。BB/油比が約16に設定される場合、4種の製剤からインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの50%を放出するために必要とされる時間は、全て約100〜120分である(表19のN7、N5およびN10)。BB/油比が約1に設定される場合、3種の製剤からインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの50%を放出するために必要とされる時間は、全て約20〜50分である(表20のF8、AF1、およびN2)。
結果は、アルキルアルコールの存在または非存在が、BB/油比が同じまたは類似のままである限りにおいて、本発明の製剤の溶解/放出速度に有意に影響を及ぼさないことを示す。
実施例10.種々の油を含む製剤のインビトロ放出研究
(1)製剤の調製
4種の製剤を、表21に列挙されるとおりの種々の溶媒系を使用することによって、実施例1の方法Aに従って調製した(すなわち、エタノール、BBおよび油を混合し、次いで、SDEを添加する)。N2製剤およびN14製剤に関しては、BB/油比は約1である;その一方で、N4製剤およびN13製剤に関しては、BB/油比は、約8である。N2製剤およびN4製剤において、使用される油は、ゴマ油である;そしてN14製剤およびN13製剤において、使用される油は、ヒマシ油である。
(2)インビトロ溶解実験
実施例1における方法に従って、4種の製剤に対してインビトロ溶解実験およびUPLC分析を行った。4種の製剤の累積SDE溶解プロフィールを、図15にプロットする。
図15に示されるように、使用される油がゴマ油であり、BB/油比が1に設定される場合、製剤からインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの約50%を放出するために必要とされる時間は、約30〜40分である(N2);そして使用される油がヒマシ油であり、BB/油比が1に設定される場合、製剤からインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの50%を放出するために必要とされる時間は、約100〜120分である(N14)。他方で、使用される油がゴマ油であり、BB/油比が8に設定される場合、製剤からインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの約50%を放出するために必要とされる時間は、約70〜90分である(N4);そして使用される油がヒマシ油であり、BB/油比が8に設定される場合、製剤からインビトロ媒体へとSDEの総量のうちの50%を放出するために必要とされる時間は、約120〜140分である(N13)。
N2製剤およびN14製剤の溶解プロフィールが極めて類似であるが、溶解速度が、ヒマシ油を使用してゴマ油を置き換えることによってさらに低減され得ることは、図15から認められ得る。このパターンは、N4製剤とN13製剤との間の比較でも認められる。言い換えると、本発明の製剤において別の薬学的に受容可能な油によってゴマ油を置き換えることは、放出期間とBB/油比との間の相関関係に有意に影響を及ぼさない、すなわち、BB/油比が高いほど、製剤の放出期間は長くなる。さらに、ヒマシ油を使用して、ゴマ油を置き換えることは、製剤の放出期間をさらに延ばし得る。