[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施の形態に係る係合装置が搭載された車両の駆動系の概略の構成例を示す説明図である。この図1に示す車両100は、いわゆる2モータタイプのハイブリッド車両であって、駆動力源としてエンジンEと第1及び第2のモータ・ジェネレータMG1,MG2とを備え、エンジンEが出力する動力を第1のモータ・ジェネレータMG1とデファレンシャル装置15とに分割するとともに、第2のモータ・ジェネレータMG2の出力する動力をデファレンシャル装置15に伝達できるように構成されている。
エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関である。エンジンEの動力は、その出力軸101からクラッチ10に入力され、クラッチ10が接続状態であるときに駆動軸102に伝達される。クラッチ10が解放状態であるときには、出力軸101と駆動軸102との連結が遮断される。駆動軸102の回転は、後述する係合装置1の作動によってケーシング9に対して回り止めされる。ケーシング9は、車体に固定され、第1及び第2のモータ・ジェネレータMG1,MG2を収容している。
第1及び第2のモータ・ジェネレータMG1,MG2は、駆動電力が供給されることによりトルクを出力するモータとしての機能と、トルクが与えられることにより発電電力を発生する発電機としての機能との両方を兼ね備えた電動機である。第1及び第2のモータ・ジェネレータMG1,MG2として、具体的には永久磁石式同期モータあるいは誘導モータ等の交流モータを用いることができる。
また、車両100は、エンジンEが出力する動力を第1のモータ・ジェネレータMG1とデファレンシャル装置15とに分割するための動力分割機構11を備えている。本実施の形態では、動力分割機構11として、サンギヤ111とリングギヤ112との間に複数のピニオンギヤ113が配置され、複数のピニオンギヤ113をキャリア114によって自転及び公転可能に保持したシングルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
動力分割機構11は、キャリア114に駆動軸102が固定され、サンギヤ111に第1のモータ・ジェネレータMG1の回転軸12が固定され、リングギヤ112にデファレンシャル装置15及び第2のモータ・ジェネレータMG2側に動力を伝達する回転軸13が固定れている。第1のモータ・ジェネレータMG1の回転軸12は、駆動軸102を挿通させる中空軸である。そして、このような遊星歯車機構から構成される動力分割機構11の各回転要素(サンギヤ111、リングギヤ112、及びキャリア114)が差動機構として機能することにより、第1のモータ・ジェネレータMG1の回転数に応じてエンジンEの回転数が変化するようになっている。したがって、第1のモータ・ジェネレータMG1の出力を制御することにより、エンジンEの回転数を燃費の良好な回転数に制御することができる。
また、動力分割機構11のリングギヤ112は、カウンタギヤ14を介してデファレンシャル装置15に動力伝達可能に連結されている。カウンタギヤ14は、カウンタ軸140と、カウンタ軸140の一方の端部に固定された大径ギヤ141と、カウンタ軸140の他方の端部に固定された小径ギヤ142とから構成されていて、大径ギヤ141と回転軸13とが噛み合わされ、小径ギヤ142とデファレンシャル装置15のリングギヤ150とが噛み合わされている。
第2モータ・ジェネレータMG2は、動力分割機11を介さずに、カウンタギヤ14を介してデファレンシャル装置15のリングギヤ150との間で動力伝達を行うように構成されている。具体的には、第2モータ・ジェネレータMG2の回転軸16の一端に設けられたドライブギヤ161がカウンタギヤ14の大径ギヤ141と噛み合わされている。
第1及び第2のモータ・ジェネレータMG1,MG2は、それぞれ図略のインバータからモータ電流が供給されて動力を発生すると共に、発電した電力をインバータを介してバッテリーに回生することが可能である。このため、例えばエンジンEの出力により第1のモータ・ジェネレータMG1が発電機として機能する場合に、第1モータ・ジェネレータMG1で発生した電力を第2のモータ・ジェネレータMG2へ供給し、第2のモータ・ジェネレータMG2をモータとして機能させることが可能である。
係合装置1は、エンジンEに燃料が供給されず、第1及び第2のモータ・ジェネレータMG1,MG2の動力によって車両100が走行する電動走行時において、駆動軸102の回転を停止させるために用いられる。この電動走行時には、係合装置1が作動して駆動軸102の回転が停止されることにより、動力分配機構11のキャリア114の空転を防ぎ、第1及び第2のモータ・ジェネレータMG1,MG2で発生する動力がデファレンシャル装置15に伝達される。この際、第1のモータ・ジェネレータMG1は、エンジンEによる駆動軸102の回転方向とは逆方向に回転軸12を回転させる。デファレンシャル装置15は、リングギヤ150から入力された動力を左右のドライブシャフト151L,151Rを介して左右の駆動輪17L,17Rに差動を許容して配分する。
図2は、係合装置1の構成例を駆動軸102の一部と共に示す断面図である。図2では、駆動軸102の回転軸線Oよりも上側に係合装置1の非作動状態を示し、回転軸線Oよりも下側に係合装置1の作動状態を示している。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
図3(a)は、非作動状態における係合装置1の一部を拡大して示す断面図である。図3(b)は、後述するドグ歯41,51の噛み合い反力により、これらの噛み合いが解除された状態における係合装置1の一部を拡大して示す断面図である。
係合装置1は、環状の電磁石2と、電磁石2の磁力によって軸方向に移動するアーマチャ3と、第1の噛み合い部材としてのスリーブ4と、第2の噛み合い部材としてのドグピース5と、アーマチャ3とスリーブ4との間に配置された弾性部材としてのトルクリミットバネ60と、アーマチャ3及びスリーブ4をドグピース5の一部と共に収容するハウジング7とを有している。
ハウジング7は、非磁性の金属からなる第1ハウジング部材71及び第2ハウジング部材72を有し、第1ハウジング部材71と第2ハウジング部材72とがケーシング9に複数のボルト91によって固定されている。これにより、ハウジング7は、非回転の固定部材として機能する。電磁石2、アーマチャ3、及びスリーブ4は、第1ハウジング部材71と第2ハウジング部材72との間に配置されている。スリーブ4及びドグピース5は、回転軸線Oを中心とする環状であり、電磁石2の内側に配置されている。
電磁石2は、エナメル線を巻き回してなる電磁コイル211を樹脂からなる封止部材212により封止してなる環状のコイル部材21と、電磁コイル211の通電により発生する磁束の磁路となる磁路形成部材としてのヨーク22とを有している。ヨーク22は、第1ハウジング部材71の内側に嵌合されている。図2では、電磁コイル211の通電により発生する磁束の磁路を破線で示している。
ヨーク22は、電磁コイル211を含むコイル部材21を収容する空間220を有する環状であり、コイル部材21の内周を覆う内周円筒部221と、コイル部材21の外周を覆う外周円筒部222と、コイル部材21の軸方向一側で内周円筒部221と外周円筒部222との間に介在する底部223とを一体に有している。また、ヨーク22は、コイル部材21の軸方向他側が開放され、その開口部22aから空間220内にコイル部材21が収容されている。ヨーク22の開口部22aには、皿バネからなるリターンバネ23が配置されている。また、内周円筒部221の内周面には、PA (ポリアミド)やPET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂からなる樹脂ブッシュ24が固定されている。
内周円筒部221及び外周円筒部222における底部223とは反対側(開口部22a側)の軸方向端面221a,222aは、軸方向に対して垂直な平面である。内周円筒部221は、開口部22a側の端部の外周面が切り欠かれ、テーパ状の傾斜面221bが形成されている。また、外周円筒部222は、開口部22a側の端部の内周面が切り欠かれ、軸方向端面222a側ほど内径が拡大する傾斜面221bが形成されている。
アーマチャ3は、ヨーク22と共に電磁コイル211の通電により発生する磁束の磁路を構成する。また、アーマチャ3は、ヨーク22の内周円筒部221及び外周円筒部222の軸方向端面221a,222aに対向する環状の磁路部31と、磁路部31の内側に設けられ、トルクリミットバネ60を押圧する押圧部32と、押圧部32の内径側の端部から軸方向に突出する円筒部33とを一体に有している。円筒部33の内周面は、第1ハウジング部材71の内面に取り付けられた樹脂ブッシュ73の外周面に対向している。なお、アーマチャ3は後述するカラー61を介して樹脂ブッシュ24に支持されているので、円筒部33を省略してもよい。
磁路部31は、電磁コイル211の通電時に、コイル部材21の周囲に発生する磁束の磁路となる。アーマチャ3は、電磁コイル211に通電されたとき、磁路部31がヨーク22に接近するように軸方向に移動する。このとき、リターンバネ23は軸方向に圧縮される。また、アーマチャ3は、電磁コイル211への通電が遮断されると、リターンバネ23の復元力によりヨーク22から離間する。
磁路部31は、ヨーク22の軸方向端面221a,222aに向かい合う円環板状の平板部311と、平板部311の外径側の端部から軸方向に延出された外鍔部312と、平板部311の内径側の端部から軸方向に延出された内鍔部313とを有している。平板部311は、軸方向に所定の厚みを有する平板状であり、そのヨーク22側の面にはリターンバネ23が当接している。また、平板部311には、ヨーク22側とは反対側の面に、軸方向に突出したボス部311aが設けられている。ボス部311aは、リターンバネ23の復元力により、第1ハウジング部材71の内面に当接する。
外鍔部312及び内鍔部313は共に円筒状である。外鍔部312の内周面にはヨーク22における外周円筒部222の傾斜面222bと平行に向かい合う対向面312aが形成され、内鍔部313の外周面にはヨーク22における内周円筒部221の傾斜面221bと平行に向かい合う対向面313aが形成されている。
押圧部32は、磁路部31の内側でスリーブ4との間にトルクリミットバネ60を挟み、トルクリミットバネ60を軸方向に押圧する。電磁コイル211に通電されたとき、押圧部32は、トルクリミットバネ60を介してスリーブ4をドグピース5側に押し付ける。本実施の形態では、トルクリミットバネ60がコイルバネからなり、軸方向に圧縮された状態でアーマチャ3の押圧部32とスリーブ4との間に複数個が配置されている。トルクリミットバネ60は、電磁石2の磁力によるアーマチャ3の移動力をスリーブ4に弾性的に伝達する。
アーマチャ3の内鍔部313には、カラー61が嵌合固定されている。カラー61は、内周面にスリーブ4を係止する係止突起611(図3参照)を有する円筒状であり、アーマチャ3の軸方向移動に伴ってその外周面が樹脂ブッシュ24の内周面を摺動する。カラー61は、係止突起611により、押圧部32から離間する方向へのスリーブ4のアーマチャ3に対する軸方向移動を規制している。
スリーブ4は、押圧部32とは反対側の軸方向端面に形成された複数の第1の噛み合い歯としての複数のドグ歯41と、内周面に軸方向に延在して形成された複数のスプライン突起42と、カラー61の係止突起611に係止される被係止部43とを一体に有している。スリーブ4は、複数のスプライン突起42が第1ハウジング部材71の内面に形成された複数のスプライン突起711に係合することにより、第1ハウジング部材71に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
ドグピース5は、スリーブ4の複数のドグ歯41に係合可能な複数の第2の噛み合い歯としての複数のドグ歯51と、内周面に軸方向に延在して形成された複数のスプライン突起52とを一体に有している。ドグピース5は、複数のスプライン突起52が駆動軸102の外周面に形成されたスプライン突起102aに係合することにより、駆動軸102に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
ドグピース5と第1ハウジング部材71との間には第1の軸受74が配置され、ドグピース5と第2ハウジング部材72との間には第2の軸受75が配置されている。この構成により、ドグピース5は、ハウジング7に対して駆動軸102と共に回転自在、かつハウジング7に対して軸方向移動不能である。また、駆動軸102と第2ハウジング部材72との間には、第3の軸受76が配置されている。駆動軸102は、第3の軸受76によってハウジング7に対して相対回転可能に配置されている。本実施の形態では、第1及び第2の軸受74,75がスラストころ軸受であり、第3の軸受76が玉軸受である。
上記のように構成された係合装置1は、スリーブ4がトルクリミットバネ60を介してアーマチャ3の移動力を受けてドグピース5側に移動したとき、スリーブ4のドグ歯41とドグピース5のドグ歯51とが電磁石2の内側、より具体的にはヨーク22の内側に配置されたカラー61の内側で噛み合う。このドグ歯41,51の噛み合いにより、駆動軸102のケーシング9に対する相対回転が規制される。
また、係合装置1は、その作動時において駆動軸102に衝撃的な荷重がかかっても、係合装置1や動力分配機構102に損傷が発生しないよう、ドグ歯41,51の噛み合い反力によってトルクリミットバネ60が圧縮されてスリーブ4がアーマチャ3の押圧部32側に移動し、スリーブ4とドグピース5との係合状態が解除されるように構成されている。次に、この損傷防止動作の構成と原理について、図4を参照して詳細に説明する。
図4(a)は、スリーブ4のドグ歯41及びドグピース5のドグ歯51を外周側から見た図であり、図4(b)は、スリーブ4の複数のスプライン突起42と第1ハウジング部材71の複数のスプライン突起711との嵌合部を含むスリーブ4及び第1ハウジング部材71の断面図である。
図4(a)では、スリーブ4のドグ歯41が受ける反力をベクトルRf1で示し、その軸方向成分をベクトルRa1、周方向成分をベクトルRc1で示している。スリーブ4の複数のドグ歯41は、軸方向に歯丈を有し、歯筋が回転軸線Oに対して直角となる径方向に延在する放射状に形成されている。また、ドグ歯41は、歯先面41aが平面状であり、歯先面41aの周方向両側における歯面41bが回転軸線Oに対して直角な面に対し所定の角度傾斜した傾斜面である。
ドグピース5のドグ歯51は、スリーブ4のドグ歯41と同様に、軸方向に歯丈を有し、歯筋が回転軸線Oに対して直角となる径方向に延在する放射状に形成されている。またドグ歯51は、歯先面51aが平面状であり、歯先面51aの周方向両側における歯面51bが回転軸線Oに対して直角な面に対し所定の角度傾斜した傾斜面である。
スリーブ4のドグ歯41とドグピース5のドグ歯51とは、歯丈や歯幅、及び歯数やピッチ等の諸元が共通である。また、ドグ歯41,51は、歯厚が歯先面41a,51a側の先端部ほど小さくなる略台形状である。図4(a)では、スリーブ4のドグ歯41におけるドグピース5のドグ歯51との接点における圧力角をθで示している。
図4(b)では、スリーブ4の複数のスプライン突起42が第1ハウジング部材71の複数のスプライン突起711から受ける反力をベクトルRf2で示し、その径方向成分をベクトルRr2、周方向成分をベクトルRc2で示している。また、スプライン突起42は、歯先面42aの周方向両側における歯面42bがインボリュート曲線からなるインボリュート歯形を有している。第1ハウジング部材71のスプライン突起711も同様に、歯先面711aの周方向両側における歯面711bがインボリュート曲線からなるインボリュート歯形を有している。図4(b)では、スリーブ4のスプライン突起42における第1ハウジング部材71のスプライン突起711との接点における圧力角をφで示している。
スリーブ4は、そのドグ歯41がドグピース5のドグ歯51から受ける噛み合い力の軸方向成分をF1とし、トルクリミットバネ60から受ける押し付け力をF2とし、スプライン突起42が第1ハウジング部材71のスプライン突起711から受ける摩擦力をF3としたとき、下記式(1)が満たされた場合に、図3(b)に示すようにトルクリミットバネ60に抗してドグピース5から離間する方向に移動し、ドグ歯41,51の係合が解除される。
ここで、スリーブ4がドグピース5を介して受ける駆動軸102のトルクをT1、ドグ歯41,51の歯面41b,51bの摩擦係数をμd、ドグ歯41,51の有効径をD1とすると、F1は下記式(2)で得られる。
また、スプライン突起42,711の歯面42b,711bの摩擦係数をμsp、スプライン突起42,711の有効径をD2とすると、F3は下記式(3)で得られる。
これにより、トルクT1が所望の値になったときに上記の式(1)が満たされるようにトルクリミットバネ60のバネ定数を定めることにより、当該所望の値でスリーブ4とドグピース5との係合状態が解除される。この所望の値は、係合装置1や動力分配機構102等に損傷が発生しないように適宜設定されるべき値である。
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、スリーブ4及びドグピース5が電磁石2の内側に配置され、電磁石2の内側でドグ歯41,51が噛み合わされるので、特に軸方向の装置サイズを小さくすることができ、係合装置1の車両等への搭載性を高めることができる。また、スリーブ4は、電磁石2、アーマチャ3、及びリターンバネ23からなる簡素な移動機構により軸方向に移動するので、スリーブ4を移動させるための部品の点数を少なく抑えることが可能となる。またさらに、アーマチャ3は、磁路部31と押圧部32とを一体に備え、押圧部32が磁路部31の径方向内側に設けられた単純な形状であるので、例えば鍛造により容易に成形することが可能である。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図5を参照して説明する。
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る係合装置1Aを示す全体断面図である。図5では、駆動軸102の回転軸線Oよりも上側に非作動状態を示し、回転軸線Oよりも下側に作動状態を示している。図5において、図2を参照して説明した第1の実施の形態に係る係合装置1の部品又は部分に対応する機能を有する係合装置1Aの部品又は部分については、図2に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
第1の実施の形態に係る係合装置1と第2の実施の形態に係る係合装置1Aとは、ヨーク22、リターンバネ23、アーマチャ3、及びトルクリミットバネ60の形状や構成が主として異なる。
具体的には、第1の実施の形態では、ヨーク22の内周円筒部221及び外周円筒部222に傾斜面221b,221bが形成されていたが、第2の実施の形態に係るヨーク22にはこのような傾斜面が形成されていない。また、第2の実施の形態では、リターンバネ23がコイルバネからなり、トルクリミットバネ60が複数(図5の図示例では4つ)の皿バネ600からなる。アーマチャ3の磁路部31には、軸方向に窪んで形成された凹部310が設けられ、リターンバネ23の一端部が凹部310に収容されている。
トルクリミットバネ60を構成するそれぞれの皿バネ600は、外径側の端部同士もしくは内径側の端部同士が隣り合う皿バネ600と当接している。複数の皿バネ600のうち、最もスリーブ4側の皿バネ600とスリーブ4との間には、ワッシャ601が配置されている。
第2の実施の形態に係るアーマチャ3は、ヨーク22の内周円筒部221及び外周円筒部222の軸方向端面221a,222aに対向する環状の磁路部31と、磁路部31の内側に設けられ、トルクリミットバネ60を押圧する押圧部32と、磁路部31と押圧部32との間から軸方向に突出する円筒状の筒状突起34とを有している。筒状突起34は、アーマチャ3の軸方向移動に伴い、その外周面が樹脂ブッシュ24の内周面を摺動する。また、筒状突起34の先端部には止め輪35が嵌着され、この止め輪35によってスリーブ4の押圧部32から離間する方向への軸方向移動が規制されている。
スリーブ4及びドグピース5は、電磁石2の内側に配置されている。より具体的には、スリーブ4がアーマチャ3の筒状突起34の内側に配置されている。電磁石2の電磁コイル211に通電されたとき、スリーブ4のドグ歯41とドグピース5のドグ歯51とは、電磁石2の内側で噛み合わされる。
以上のように構成された係合装置1Aは、第1の実施の形態に係る係合装置1と同様に動作し、同様の機能を発揮する。また、本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、図6を参照して説明する。
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る係合装置1Bを示す全体断面図である。第3の実施の形態に係る係合装置1Bは、第2の実施の形態に係る係合装置1Aをさらに変形したものであり、スリーブ4のドグ歯41とドグピース5のドグ歯51との噛み合いにより、一対の回転部材(第1及び第2の回転部材80,90)の間でトルクが伝達されるように構成されたものである。
図6では、図5と同様に、第1及び第2の回転部材80,90の回転軸線Oよりも上側に非作動状態を示し、回転軸線Oよりも下側に作動状態を示している。図6において、第1及び第2の実施の形態に係る係合装置1,1Aの部品又は部分に対応する機能を有する係合装置1Bの部品又は部分については、図2及び図5に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
第3の実施の形態に係る係合装置1Bは、電磁コイル211に通電された作動状態において、同軸上で相対回転可能に配置された第1の回転部材80と第2の回転部材90とをトルク伝達可能に連結し、電磁コイル211に通電されない非作動状態では、第1の回転部材80と第2の回転部材90とを相対回転可能とする。第1の回転部材80は、円筒状の本体部811及び円環板状のフランジ部812を一体に有する中空状のシャフト81と、シャフト81に複数のボルト831及びナット832によって結合された結合部材82とを有する。
結合部材82は、スリーブ4の複数のスプライン突起42が係合する複数のスプライン突起820が外周面に形成された円筒状の本体部821と、本体部821の軸方向一端部から外径側に突出して形成された外鍔部822と、本体部821の軸方向他端部から内径側に突出して形成された内鍔部823とを一体に有している。
スリーブ4は、複数のスプライン突起42が結合部材82の複数のスプライン突起820に係合することで、第1の回転部材80に相対回転不能かつ軸方向移動可能に連結されている。第1の回転部材80に対するスリーブ4のドグピース5から離間する側への軸方向移動は、結合部材82の本体部821の外周に嵌着された止め輪36によって規制されている。
ドグピース5は、複数のスプライン突起52が第2の回転部材90に形成された複数のスプライン突起900に係合することにより、第2の回転部材90に相対回転不能かつ軸方向移動可能に連結されている。ドグピース5は、第2の回転部材90を挿通させる円筒状の連結部50を有し、この連結部50の内周面に軸方向に延びる複数のスプライン突起52が形成されている。
ドグピース5の連結部50と結合部材82の本体部821との間には、玉軸受77が配置されている。また、第2の回転部材90は、その先端部がシャフト81の内部に配置され、第2の回転部材90の先端部における外周面とシャフト81の内周面との間に玉軸受78が配置されている。
アーマチャ3及びスリーブ4は、第1の回転部材80と共に回転する。このため、本実施の形態では、リターンバネ23とアーマチャ3の磁路部31との間にスラストころ軸受791が配置されている。また、結合部材82の内鍔部823とドグピース5との間には、スラストころ軸受792が配置されている。ヨーク22は、非回転の固定部材であるステー70に固定され、ステー70に嵌着された止め輪701によって抜け止めされている。
以上のように構成された係合装置1Bによっても、第1及び第2の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
(付記)
以上、本発明を第1乃至第3の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、車両100の駆動系の構成は、図1に例示したものに限らず、例えば図7のように変形することも可能である。図1の構成例では、第1のモータ・ジェネレータMG1の回転軸12が駆動軸102を挿通させる中空軸であり、係合装置1が動力分割機構11の軸方向におけるエンジンEとは反対側に配置された場合について説明したが、図7の変形例では、係合装置1が動力分割機構11とエンジンEとの間に配置されている。その他の構成は図1を参照して説明した第1の実施の形態の駆動系の構成と同様であるので、図7に示す駆動系の各構成要素には、図1に示した構成要素のうち機能が共通するものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。このような駆動系の構成によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
また、上記の実施の形態では、ドグ歯41,51の歯面41b,51bが回転軸線Oに対して直角な面に対して所定の角度傾斜した傾斜面である場合について説明したが、これに限らず、歯面41b,51bがインボリュート曲線であってもよい。また、ドグ歯41,51の噛み合わせが凸円弧と凸円弧との組み合わせであってもよく、凸円弧と凹円弧の組み合わせであってもよい。
またさらに、上記の実施の形態では、係合装置1を車両100の駆動系に用いた場合について説明したが、例えば工作機械等の他の機器に係合装置1を用いることも可能である。