JP2018141183A - 高反発ゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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西田 幸寛
Yukihiro Nishida
幸寛 西田
祐太 吉村
Yuta Yoshimura
祐太 吉村
耕一 坪井
Koichi Tsuboi
耕一 坪井
太一朗 溝口
Taichiro Mizoguchi
太一朗 溝口
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Abstract

【課題】冷間での鍛造あるいはプレスでゴルフクラブフェイス形状に成形が可能であり、その後に焼入れ処理や時効処理など、複数回の煩雑な熱処理を施すことなく、HT1770の時効材を上回る強度および反発力を呈するクラブフェイスを得ることができるステンレス鋼板素材を提供する。【解決手段】質量%で、C:0.010〜0.200%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.12%超え5.00%以下、Ni:1.00〜5.50%、Cr:10.00〜18.00%、N:0.010〜0.200%、Mo:0〜2.00%、Cu:0〜3.50%、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有し、マトリックスがオーステナイト相とマルテンサイト相からなり、オーステナイト量が15体積%以上である金属組織を有し、引張強さが1490N/mm2以上、破断伸びが10.0%以上であるステンレス鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、反発特性に優れるゴルフクラブフェイスに加工するための素材として好適なマルテンサイト+オーステナイト複相組織ステンレス鋼板、およびその製造方法に関する。
従来、ゴルフクラブフェイス用の金属材料としては、チタン合金、マルエージング鋼、ステンレス鋼などが主として使用されている。このうちステンレス鋼では、キャビティーバックタイプの鋳造アイアン用素材として析出硬化系のSUS630が、また、より軟らかい打感を求めるニーズに対してはSUS304が用いられてきた。
特許文献1には防錆性能を高めた鋳造アイアンヘッドとして、マルテンサイト相+10〜30%のオーステナイト相からなる複相組織を呈する鋳造製品が記載されている。
特許文献2には、鋳造ではなく、鋼板製造段階での熱処理によって、オーステナイト+マルテンサイト複相組織を得たのち、マルテンサイト相中に存在する炭素の一部をオーステナイト相へと分配することにより強度・延性バランスに優れたステンレス鋼材を得る技術が開示されている。
一方、鍛造アイアン(フォージドアイアン)としては、以前は加工性を考慮して軟質な鋼材を使用することが多かった。しかし近年は、飛距離アップ等のニーズから、鍛造アイアンやウッドのフェイス用材料としてSUS632J1などの析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼が採用される場合がある。その具体例としてHT1770(15Cr−7Ni−1.5Si−Cu−Ti系鋼)が挙げられる。
特開2011−58040号公報 特開2011−184780号公報
上述のHT1770をはじめとする析出硬化系高強度ステンレス鋼の鋼板素材から、ゴルフクラブフェイスを製造するためには、熱間(あるいは温間)での鍛造やプレスによって所定形状に成形したのち、焼入れ処理と、時効処理を施す必要があり、部品メーカーでの工程が煩雑である。また最近では、鍛造で成形されるフェイス部材を使用したゴルフクラブにおいても、飛距離アップに対する要求が強くなっている。
本発明は、冷間鍛造あるいは冷間プレスで所定のゴルフクラブフェイス形状に成形が可能であり、その後に焼入れ処理や時効処理など、複数回の煩雑な熱処理を施すことなく、HT1770の時効材を上回る強度および反発力を呈するクラブフェイスを得ることができるステンレス鋼板素材を提供しようというものである。
発明者らは詳細な検討の結果、オーステナイト+マルテンサイト複相組織を有する鋼板において、オーステナイト相とマルテンサイト相の量比、引張強さ、および伸びが特定の狭い範囲に調整されているとき、その鋼板は、冷間での鍛造またはプレスで所定のフェイス形状に成形したのち炭素分配熱処理に供することによって、HT1770時効材を超える優れた反発力を有するクラブフェイスを実現する上で極めて有用な素材となることを見いだした。オーステナイト+マルテンサイト複相組織鋼板が、このような高反発ゴルフクラブ加工用の用途に適用できることは知られていなかった。
すなわち本発明では、質量%で、C:0.010〜0.200%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.12%超え5.00%以下、Ni:1.00〜5.50%、Cr:10.00〜18.00%、N:0.010〜0.200%、Mo:0〜2.00%、Cu:0〜3.50%、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有し、マトリックス(金属素地)がオーステナイト相とマルテンサイト相からなり、オーステナイト相の存在量が15体積%以上である金属組織を有し、JIS Z2241:2011の引張試験による圧延方向の引張強さが1490N/mm2以上、破断伸びが10.0%以上である、高反発ゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板が提供される。Mo、Cuは任意添加元素である。この鋼板の板厚は例えば1.0〜6.0mmの範囲で調整することができる。
このステンレス鋼板は、例えば500℃に加熱して10分保持したのち常温まで冷却する熱処理試験に供したとき、JIS Z2241:2011の引張試験による圧延方向の引張強さが1400N/mm2以下、破断伸びが20.0%以上となる性質を有する。
本発明に従う上記のステンレス鋼板は、冷間鍛造および炭素分配熱処理により高反発ゴルフクラブフェイスに加工することができるものである。
また、上記の高反発ゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板の製造方法として、各元素の含有量が上述の範囲にあり、かつ下記(1)式で定義されるMs値が60〜110である化学組成を有する鋼を溶製し、熱間圧延または熱間圧延と冷間圧延を含む工程にて中間素材鋼板とし、その中間素材鋼板に、連続焼鈍設備にて900〜1100℃の温度域に加熱したのち前記Ms値で表される温度(℃)より低温まで冷却する熱処理(複相化処理)を施すことにより、オーステナイト相の存在量が15体積%以上である金属組織、およびJIS Z2241:2011の引張試験による圧延方向の引張強さが1490N/mm2以上、破断伸びが10.0%以上である特性に調整する、ステンレス鋼板の製造方法が提供される。
Ms値={3000[0.068−(C+N)]+50(0.47−Si)+60(1.33−Mn)+110[8.9−(Ni+Cu)]+75(14.6−Cr)−32}×5/9 …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入され、含有しない元素の箇所には0(ゼロ)が代入される。
本発明によれば、熱間ではなく、冷間での鍛造あるいはプレスで所定のフェイス形状に成形可能な、高強度ステンレス鋼板素材が提供可能となった。この鋼板素材を用いると、ゴルフクラブ部材への成形加工の後に、焼入れ処理や時効処理といった複数回の煩雑な熱処理を施すことなく、1回の炭素分配熱処理を施すだけで、HT1770を上回る優れた反発力を有するクラブフェイスを得ることができる。したがって本発明は、鍛造やプレスによりクラブフェイスを製造するメーカーでの製造負荷軽減に寄与するとともに、鍛造アイアンヘッドの飛距離アップをもたらすものである。
〔化学組成〕
本発明では、高温のオーステナイト安定温度域からの冷却でオーステナイト相の一部がマルテンサイトに変態し、残留オーステナイト相が存在するように組成調整された鋼種を適用する。以下、化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
Cは、鋼の強度を確保する上で重要な元素である。また、Ms点に及ぼす影響力が大きい元素である。C含有量は、特に低C化していない一般的なステンレス鋼種と同等以上とすればよい。具体的には0.010%以上のC含有量を確保することが望ましく、0.030%以上とすることがより好ましい。一方、C含有量が多くなりすぎるとマルテンサイト相が硬質化し靭性を損なう要因となる。また、耐食性が低下して問題となる場合がある。C含有量は0.200%以下とする。
Siは、脱酸作用や、炭化物形成の抑制作用を有する。Si含有量は0.05%以上とすることが望ましい。ただし、過剰のSiはSi酸化物を主体とする硬質な介在物の生成を促し、強度低下の要因となる。種々検討の結果、Si含有量は1.00%以下とする。
Mnは、Ms点の制御や、適正溶体化温度の範囲拡大に有効な元素である。ただし、過剰のMn含有はMn系介在物による加工割れを招く要因となる。Mn含有量は1.40〜5.00%の範囲で調整することが望ましく、1.50〜3.00%の範囲に管理してもよい。
Niは、靭性向上に有効である。また、Ms点の制御にも有効である。ただし、Niは高価な元素であるため、添加効果と経済性を考慮してNi含有量は1.00〜5.50%の範囲で調整することが望ましく、3.00〜5.00%の範囲に管理してもよい。
Crは、耐食性の観点から10.0%以上の含有量を確保する必要がある。ただし、Cr含有量が増大すると鋳造時にδフェライトが生成しやすくなり、過剰のδフェライトの存在は強度低下を招く要因となる。検討の結果、Cr含有量は18.0%以下に制限することが好ましい。
Nは、鋼の強度を高め、かつMs点に対しCと同等の影響力を有する。N含有量は0.010%以上とすることが望ましく、0.030%以上とすることがより好ましい。だだし、過剰にNを含有させると、熱間圧延時に表面欠陥の増大を招く場合があり、また、鋼が過度に硬質化することによって冷間での鍛造性やプレス性が低下する要因となる。N含有量は0.200%まで許容できるが、0.100%未満の範囲とすることがより好ましい。
Moは、耐食性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することができる。Moを添加する場合、0.01%以上の含有量を確保することがより効果的である。だだし、Moは高価な元素であるため、2.00%以下の含有量とすることが望ましい。
Cuは、Ms点の制御や、適正溶体化温度の範囲拡大に有効な元素であり、必要に応じて添加することができる。Cuを添加する場合、0.01%以上の含有量を確保することがより効果的である。だだし、過剰のCu含有は耐食性低下や熱間加工性低下の要因となる。Cuを添加する場合は3.50%以下の範囲とすることが望ましい。
上記のMoとCuは任意添加元素である。コスト低減等の観点から、MoとCuを添加しないシンプルな鋼組成を採用することができる。
その他、不可避的不純物であるPは0.050%まで、Sは0.030%まで混入が許容されるが、通常のステンレス鋼溶製方法に従えばこの許容範囲を十分に満たす鋼が得られる。
下記(1)式のMs値は、鋼のMs点(℃)を推定する指標である。
Ms値={3000[0.068−(C+N)]+50(0.47−Si)+60(1.33−Mn)+110[8.9−(Ni+Cu)]+75(14.6−Cr)−32}×5/9 …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入され、含有しない元素の箇所には0(ゼロ)が代入される。
このMs値が60〜110の範囲になるように化学組成を調整しておくと、一般的なステンレス鋼板製造ラインにおける連続焼鈍設備を用いて、残留オーステナイト相の存在量が20体積%以上であるマルテンサイト相主体の組織状態へ調整する際の通板条件設定がしやすくなる。
〔金属組織〕
本発明に従うゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板は、マトリックス(金属素地)がオーステナイト相とマルテンサイト相からなる。そのオーステナイト相は、高温のオーステナイト単相領域からの冷却時にマルテンサイト変態せずに残った、いわゆる残留オーステナイト相である。オーステナイト量は以下の磁気測定によって求めることができる。
(オーステナイト量の測定)
振動試料型磁力計(VSM)に被測定材料から採取した試験片をセットし、磁気モーメントM(A・m2)を求める。この実測Mの値と、試料の質量W(kg)から下記(2)式により試料の飽和磁化I(A・m2/kg)を求める。
I=M/W …(2)
一方、上記組成範囲のステンレス鋼における磁性相の理論的な飽和磁化の値として、成分組成の回帰式である下記(3)式により定まるIS(A・m2/kg)を採用する。
S=214.5−3.12(Cr+Mo+0.5Ni)−12C−1.9Mn−6N−3P−7S−2.6Si−2.3Cu …(3)
ここで、(3)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入される。
上記飽和磁化IおよびISを下記(4)式に代入することにより、磁性相の量VM(体積)を定める。
磁性相の量VM(体積%)=(I/IS)×100 …(4)
オーステナイト相の量VA(体積%)は下記(5)式により定まる。
オーステナイト相の量VA(体積%)=100−VM …(5)
オーステナイト量は15体積%に調整されている必要がある。15体積%を下回ると靭性が低下して、キャビティーフェイス等の厳しい形状に冷間鍛造する際、割れが生じやすくなる。また、冷間あるいは温間での鍛造やプレス後に、後述の炭素分配熱処理を施してもマルテンサイト相の軟質化の程度が小さく、ソフトな打感を得る上で不利となる。オーステナイト量は20体積%以上であることがより好ましく、23体積%以上に管理してもよい。一方、オーステナイト量が多過ぎると、その分、マルテンサイト量が少なくなって、炭素分配処理を終えたフェイス部材完成品において十分な高反発特性が得られない恐れがある。ただし、本発明に従う鋼板は、後述のように引張強さ1490N/mm2以上の強度レベルを必須要件としている。本発明で対象とする化学組成の鋼において、複相化処理後の段階で1490N/mm2以上の強度レベルに調整されている場合、その段階の鋼板は、冷間あるいは温間での鍛造やプレス後に炭素分配処理を終えたフェイス部材完成品において、HT1770を上回る強度レベルおよび反発性能を発揮させるのに十分なマルテンサイト量を有していると判断される。したがって、オーステナイト量の上限については特に規定する必要はないが、例えば、40体積%以下、あるいは35体積%以下のオーステナイト量に管理してもよい。残留オーステナイト量は、化学組成と、それに応じた複相化処理条件によって制御することができる。
〔機械的特性〕
JIS Z2241:2011の引張試験による圧延方向の引張強さが1490N/mm2以上、破断伸びが10.0%以上に調整されている必要がある。引張試験片はJIS Z2241の13B号試験片を採用することができる。引張強さが1490N/mm2を下回る場合は、冷間あるいは温間での鍛造やプレス後に炭素分配処理を終えたフェイス部材完成品において十分な強度レベルに達しない恐れがあり、HT1970を超える高反発特性を安定して付与することが難しくなる。破断伸びが10.0%を下回ると、冷間あるいは温間での鍛造やプレスで所定のフェイス形状に成形することが難しくなる。引張強さの上限については特に規定していないが、通常、1700N/mm2以下の範囲に調整されていればよい。当該鋼板の機械的性質は、化学組成と、それに応じた複相化処理条件によって制御することができる。
本発明に従うステンレス鋼板は、冷間あるいは温間での鍛造やプレスでフェイス部材に成形したのち、後述の炭素分配処理を施すことによってマルテンサイト相が軟質化する組織状態、すなわち、マルテンサイト相中に過飽和の炭素が多量に蓄えられている組織状態を有している。そのことは、当該鋼板から採取したサンプルに炭素分配処理と同様の熱処理試験を施すことによって確かめることができる。具体的には、例えば、鋼板からサンプルを採取し、500℃に加熱して10分保持したのち常温まで冷却する熱処理試験に供したとき、JIS Z2241:2011の引張試験による圧延方向の引張強さが1340N/mm2以下、破断伸びが20.0%以上となる性質を有するものが好適な対象となる。この試験においても、JIS Z2241の13B号試験片を採用することができる。
〔製造方法〕
本発明に従う高反発ゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板は、常法によって鋼を溶製し、熱間圧延または熱間圧延と冷間圧延を含む工程にて中間素材鋼板(熱延鋼板または冷延鋼板)とし、その中間素材鋼板に複相化処理を施すことによって得ることができる。
溶製に際しては、上述の化学組成において、特に上記(1)式のMs値が60〜110の範囲となるように成分調整することが好ましい。上述のようにこのMs値は本発明で対象とする組成範囲の鋼のMs点(℃)を推定する指標である。Ms点を上記範囲に調整しておくことによって、ステンレス鋼板の大量生産現場で使用されている連続焼鈍設備に通板することで上記所定の金属組織に調整することができる。ゴルフクラブのフェイス部材に成形する上で、最終板厚は1.0〜6.0mmとすることが好ましく、1.5〜4.0mmの範囲がより好ましい。
(複相化処理)
上述の化学組成を有する中間素材鋼板(熱延鋼板、冷延鋼板など)を、オーステナイト安定温度域に加熱して溶体化処理する。溶体化処理条件は例えば950〜1100℃、均熱0秒〜5分の範囲で設定すればよい。ここで均熱0秒とは、材料温度が所定温度に到達した後、直ちに冷却することをいう。その後、Ms点より低温まで冷却する。溶体化処理後の冷却開始温度からMs点を通過するまでの平均冷却速度は1℃/s以上とすることが好ましい。Ms点(℃)は上述(1)式で定義されるMs値を採用することができる。本発明に従う化学組成の鋼は、オーステナイト安定温度域からMs点未満の温度へ冷却することによりオーステナイト母相の一部がマルテンサイト相に変態し、残留オーステナイト相+冷却マルテンサイト相の複相組織が得られる。従ってこの熱処理を複相化処理と呼んでいる。鋼の化学組成および複相化処理条件によって、残留オーステナイト相の存在量および機械的特性を上記所定の範囲に制御することができる。Ms点が上述の範囲に調整されている場合は、連続焼鈍設備にて常温付近まで冷却する過程で所定の残留オーステナイト量に調整することができる。
以上のようにして、冷間あるいは温間(例えば50〜300℃)での鍛造またはプレスによってゴルフクラブフェイスへの成形が可能であるという性質、およびその後に炭素分配処理に相当する1回の熱処理を施すことによりHT1770を上回る強度および高反発性能が得られるという性質を内在するステンレス鋼板を得ることができる。
(フェイス部材への成形)
上記のステンレス鋼板を素材に用いて、冷間あるいは温間での鍛造またはプレスにて所定のフェイス形状に成形する。温間での成形加工と、冷間での成形加工を順次施す工程を採用してもよい。その後、炭素分配処理を施す。
(炭素分配処理)
上記の成形部材は、マルテンサイト相中に過飽和の炭素を含有している。炭素分配処理はマルテンサイト相中に過飽和に存在している炭素をオーステナイト相中に吐き出させるための加熱処理であり、高強度複相組織ステンレス鋼材の強度−延性バランスを改善する手法として知られている(例えば特許文献2)。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、「複相化処理によって得られる特定の組織状態」と、その後に行われる「冷間または温間での加工→炭素分配処理」という工程とを組み合わせたとき、炭素分配処理はゴルフクラブフェイスの反発特性を引き上げる作用を有することがわかった。すなわち、同じ中間素材鋼板を用いた場合、「複相化処理→炭素分配処理→冷間での鍛造・プレス」の工程に比べ、「複相化処理→冷間または温間での鍛造・プレス→炭素分配処理」の工程では、より高い反発特性が得られる。炭素分配処理の適正な熱処理条件は、450〜550℃の温度域に1〜120分保持する条件範囲内に設定することができる。上記温度域からの冷却は、空冷とすればよい。
炭素分配処理のあと、必要な表面処理を施し、高反発特性を有するフェイス部材の完成品を得ることができる。
表1に示す本発明例1、2の化学組成を有する鋼を溶製し、常法に従って板厚4mmの熱延鋼板とし、熱延板焼鈍を行い、中間冷間圧延により板厚2.0mmとし、中間焼鈍を行い、仕上冷間圧延にて板厚1.2mmとする工程により、中間素材鋼板を得た。この中間素材鋼板に、連続焼鈍酸洗ラインにて1000℃、均熱0秒の複相化処理を施し、酸洗を行って、板厚1.2mmの複相組織ステンレス鋼板を得た。
比較例として、市販のHT1770調質圧延材、板厚1.2mmを用意した。
参考例として、市販のSUS304ばね材、3/4H、板厚1.0mmを用意した。
以下、これらを「素材鋼板」と呼ぶ。
Figure 2018141183
素材鋼板である複相組織ステンレス鋼板のオーステナイト量を前述の磁気測定によって求めた。
各材料から長手方向が圧延方向である引張試験片(JIS Z2241の13B号)を採取し、JIS Z2241:2011に従い圧延方向の引張試験を行って、引張強さおよび破断伸びを求めた。
また、複相組織ステンレス鋼板については、複相化処理後の鋼板から採取した切り板を500℃で10分保持したのち常温まで空冷する熱処理試験に供した試料を作製し、上記と同様に圧延方向の引張試験を行って、上記熱処理試験後に引張強さが1400N/mm2以下、破断伸びが20.0%以上となる性質を有するものであることを確認した。その結果を表2中に示してある。
上記素材鋼板を用いて、以下のようにフェイス加工模擬試料を作製した。
本発明例の複相組織ステンレス鋼板について、冷間鍛造でのフェイス部材への加工を模擬して、板厚1.2mmから1.0mmまで冷間圧延を施し、その後、500℃で10分保持、空冷の炭素分配処理を施し、酸洗行って、この板材(板厚1.0mm)をフェイス加工模擬試料とした。
比較例のHT1770については、熱間鍛造でのフェイス部材への加工を模擬して、板厚1.2mmから1.0mmまで圧延温度800℃での熱間圧延を施し、1050℃に加熱したのち空冷する条件で焼入れ処理を施し、その後480℃で1時間保持する時効処理を行い、酸洗を行った時効材(板厚1.0mm)をフェイス加工模擬試料とした。
参考例のSUS304については、3/4H材(板厚1.0mm)をそのまま使用して他のフェイス加工模擬試料と同様の試験に供した。
各フェイス加工模擬試料から長手方向が圧延方向である引張試験片(JIS Z2241の13B号)を採取し、JIS Z2241:2011に従い圧延方向の引張試験を行って、引張強さを測定した。
各フェイス加工模擬試料から100mm×100mmの切り板試料を採取し、板面を番手600(JIS R6010:2000に規定される粒度P600)の研磨紙による研磨仕上げ面とし、その研磨面を上にして水平な盤上に置いた。ゴルフボールを、その表面上端が前記研磨面を基準として300mmの高さとなる位置で静止させ、その状態から鉛直下方に自然落下させて板の中心位置にぶつけ、跳ね返ったゴルフボールの最高到達高さをボールの上端位置で測定し、下記(6)式により反発率を求めた。
反発率=跳ね返ったゴルフボール上端の最高到達高さ(mm)/300(mm) …(6)
試験数n=3で測定を行い、3回中で最も値の大きかった反発率を当該供試材の反発率として採用した。
これらの結果を表2に示す。
Figure 2018141183
複相化処理を施して所定の組織状態に調整した本発明例の複相組織ステンレス鋼板(素材鋼板)は、冷間での加工と炭素分配処理を施すことによって、熱間での加工と時効処理を施したHT1770時効材を上回る高強度および高反発性能を有するものであることが確認された。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.010〜0.200%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.12%超え5.00%以下、Ni:1.00〜5.50%、Cr:10.00〜18.00%、N:0.010〜0.200%、Mo:0〜2.00%、Cu:0〜3.50%、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有し、マトリックス(金属素地)がオーステナイト相とマルテンサイト相からなり、オーステナイト相の存在量が15体積%以上である金属組織を有し、JIS Z2241:2011の引張試験による圧延方向の引張強さが1490N/mm2以上、破断伸びが10.0%以上である、高反発ゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板。
  2. 500℃に加熱して10分保持したのち常温まで冷却する熱処理試験に供したとき、JIS Z2241:2011の引張試験による圧延方向の引張強さが1400N/mm2以下、破断伸びが20.0%以上となる性質を有する請求項1に記載の高反発ゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板。
  3. 板厚が1.0〜6.0mmである請求項1または2に記載の高反発ゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板。
  4. 前記ステンレス鋼板は、冷間鍛造および炭素分配熱処理によりゴルフクラブフェイスに加工するためのものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の高反発ゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板。
  5. 質量%で、C:0.010〜0.200%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.12%超え5.00%以下、Ni:1.00〜5.50%、Cr:10.00〜18.00%、N:0.010〜0.200%、Mo:0〜2.00%、Cu:0〜3.50%、残部がFeおよび不可避的不純物であり、下記(1)式で定義されるMs値が60〜110である化学組成を有する鋼を溶製し、熱間圧延または熱間圧延と冷間圧延を含む工程にて中間素材鋼板とし、その中間素材鋼板に、連続焼鈍設備にて900〜1100℃の温度域に加熱したのち前記Ms値で表される温度(℃)より低温まで冷却する熱処理(複相化処理)を施すことにより、オーステナイト相の存在量が15体積%以上である金属組織、およびJIS Z2241:2011の引張試験による圧延方向の引張強さが1490N/mm2以上、破断伸びが10.0%以上である特性に調整する、高反発ゴルフクラブフェイス加工用ステンレス鋼板の製造方法。
    Ms値={3000[0.068−(C+N)]+50(0.47−Si)+60(1.33−Mn)+110[8.9−(Ni+Cu)]+75(14.6−Cr)−32}×5/9 …(1)
    ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入され、含有しない元素の箇所には0(ゼロ)が代入される。
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