以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。本発明は、建物の外壁に開口を設けて外気を自然導入する自然換気システムに用いる換気用開口部300であって、本発明に係る換気用開口部300においては、遮音ルーバー1が配されることを特徴としている。そこで、まず、本発明に用いる遮音ルーバー1が採用する騒音低減方法の原理について説明する。図1は本発明に用いる遮音ルーバー1の原理を説明する図である。
図1(A)はルーバーの斜視図である。ルーバーは、ルーバー羽根部材3が複数連続して配置されて構成されている。本例は、ルーバー羽根部材3が鉛直方向に所定の空間を空けて配置される場合を示しているが、ルーバー羽根部材3を水平方向に配列してルーバーを構成するようにしてもよい。
ルーバー羽根部材3は2つの主面4及び主面5を有しており、一のルーバー羽根部材3の主面4(主面5)と、それと隣り合うルーバー羽根部材3の主面5(主面4)との間の空間が、空気の流路或いは光の光路或いは音の伝搬路となる。このような空間を伝搬路100と称することとする。
ここで、図1(B)は、上記のような伝搬路100における内側の空間のみを抜き出して示す図である。ルーバー羽根部材3の間の空間である伝搬路100を騒音が伝搬するとき、伝搬路100の寸法断面(騒音伝搬方向に対して垂直な面)が騒音の波長に比べて半分以下の場合、騒音は当該空間内を平面波として一次元的に伝搬する。
以下、本明細書中の実施形態に係る伝搬路100においては、上流側に騒音源が存在し、騒音源からの騒音が下流側に伝搬されることを例として説明を行う。また、伝搬路100の長手方向は水平方向に設置されることを前提として説明するが、伝搬路100の設置方法はこのような例に限られない。
本発明に用いる遮音ルーバー1の伝搬路100においては、伝搬路100の上下で対向する2つの主面4及び主面5は、音響的に“ソフト”な状態であることを想定している。図1(B)に示すように、伝搬路100で対向する面が音響的に“ソフト”な状態、すなわち、主面4及び主面5の表面における音響インピーダンス比Zが0であるとき、上流側から伝搬してきた騒音は上流側へ反射され下流側へ伝搬しないことが知られている。
なお、本実施形態では、主面4及び主面5の表面における音響インピーダンス比Zが0である対向する2つの面が、鉛直方向で対向する例に基づいて説明を行っているが、表面における音響インピーダンス比Zが0である対向する2つの壁面が、水平方向で対向するものであってもよい。
これまでの技術(例えば、特許第3831263号公報や特許第5454369号公報に記載の技術)は、音響管の管長が1/4波長と等しくなる周波数及びその奇数倍の周波数で、当該音響管の管口での音響インピーダンス比Zが0となることを利用している。
一方、本発明に用いる遮音ルーバー1では、図2に示すような、背後に密閉された空洞を持つスリット構造による共鳴現象が生じる共鳴器10を利用する。図2(A)は共鳴器10の斜視図である。また、図2(B)は、図2(A)の共鳴器10のスリット状開口部50の長手方向を垂直で切って見た断面図である。
図2に示すように、本発明に用いる遮音ルーバー1に用いる共鳴器10は、基本的に、内側の空間が中空である四角柱状の筐体40から構成されている。共鳴器10を構成する筐体40の一面には、長手状のスリット状開口部50と、このスリット状開口部50の両側に配され、共鳴器10の内側の空間に延在する隔壁部60と、を有することを特徴としている。ここで、共鳴器10の各寸法は図1に示す記号で表す。なお、スリット状開口部50が構成されている筐体40の一面と、隔壁部60とは互いに直交している。
共鳴器10の各寸法が波長に対して十分に小さい場合、スリット状開口部50における音響インピーダンス比Zは次式(1)で求めることができる。
ただし、fは騒音の周波数、cは音速、ρは媒質(空気)密度を表す。また、Vnは、スリット状開口部50と隔壁部60とで囲まれた、図2(B)の斜線部以外の空間の体積で、開口端補正を考慮して次式(2)で計算される。なお、式(2)における[ ]内の第2項が、開口端補正に関連する項である。また、図2(B)で斜線部の空間は、共鳴器として機能する共鳴器10の空気層に相当する。
また、Vは共鳴器10の空洞部の体積(空気層の体積)で、次式(3)で計算される。
また、Sは、スリット状開口部50(スリット開口)の面積で、次式(4)で計算される。
式(1)の右辺第1項のrは、共鳴器として機能する共鳴器10の隔壁部60表面と空気の間に生じる摩擦などの音響抵抗である。隔壁部60を金属など表面が平滑な材料で構成する場合、音響抵抗rは極めて小さな値となり、次式を満足する共鳴周波数fにおいてスリット状開口部50の開口における音響インピーダンス比Zがほぼ0となる。
このような共鳴器として機能する、2つの共鳴器10を、図3に示すように、伝搬路100の上下の内壁105に沿って対向配置すると、上記の周波数fにおいては対向するスリット部が音響的に“ソフト”な状態となり、上流側から伝搬してきた周波数fの騒音は上流側へ反射され下流側に伝搬しない。図3は本発明に用いる遮音ルーバー1を示す図であり、本発明に用いる遮音ルーバー1を、伝搬路100の長手方向(或いは、スリット状開口部50の長手方向)を垂直に切って見た断面図である。
図3に示すような伝搬路100の遮音ルーバー1によれば、共鳴器10の共鳴周波数において、対向した共鳴器10のスリット状開口部50における音響インピーダンス比がほぼ0となり、室外側(上流側)から入射した騒音は室外側へ反射され室内側(下流側)に伝搬することがない。
本発明の実施形態に示す遮音ルーバー1においては、共鳴器10はルーバー羽根部材3に埋設されるようにして設けられているが、必ずしも、このようにする必要はなく、共鳴器10は主面4、5に装着するようにしてもよい。
また、本実施形態に示す遮音ルーバー1においては、遮音ルーバー1を構成するルーバー羽根部材3の形態は1種類のみで、この同一形態のルーバー羽根部材3を複数配列することで遮音ルーバー1を構成するようにしているが、ルーバー羽根部材3の主面4、5の表面を、共鳴器10によって音響的に“ソフト”な状態とするのであれば、このような態様に限定されるものではない。
本実施形態に示す遮音ルーバー1では、一つの伝搬路100に、対向する共鳴器10が一対設けられるようにされているが、例えば2つ以上の共鳴器10が伝搬路100に設けられるような構成としてもよい。
さて、上記のような遮音ルーバー1が、建物の外壁に開口を設けて外気を自然導入する自然換気システムに用いる換気用開口部300に配されることで、本発明の構成となる。図4は本発明の実施形態に係る換気用開口部300を示す図である。 図4(A)は本発明の実施形態に係る換気用開口部300の斜視図であり、 図4(A)は図4(A)の点線で囲った部分の拡大断面図である。
このように、本発明に係る換気用開口部300においては、音響インピーダンス比を0とする共鳴器10が設けられた遮音ルーバー1が配されている。遮音ルーバー1は、ルーバー羽根部材3間の空隙を通気経路として確保しつつ、その通気経路を騒音が伝搬することを防止する機能を有する。この機能により、換気用開口部300から室内へ室外騒音が伝搬することを防止する。その結果、本発明に係る換気用開口部300によれば、上記のような外気を自然導入する自然換気システムが採用された場合においても、室内騒音のレベルの上昇を防止し、静音性を確保することが可能となる。
また、本発明に係る換気用開口部300によれば、室内への外気導入と空気の流通は維持しつつも、換気用開口部300が遮音欠損となることを防ぎ、換気用開口を設けた外壁の遮音性能を向上することができる。また、本発明に係る換気用開口部300に用いる遮音ルーバー1は同一断面の長尺体であるので、製作及び取付けが容易である。
次に、本発明に用いる遮音ルーバー1の詳細について説明する。本実施形態に示す遮音ルーバー1を構成するルーバー羽根部材3は、共鳴器10をルーバー羽根部材3全体と一体化して、アルミニウムなどにより押出成形して製造することができる。一方、以下に示すように共鳴器10を製造するようにしてもよい。
次に、遮音ルーバー1を構成する共鳴器10の製造工程を説明する。図5は本発明に用いる遮音ルーバー1に用いる共鳴器10の製造工程例を説明する図である。
外殻部材20は、6面のうち1つの面が開口面25となっている直方体形状の箱状部材である。L型部材30は、断面がL字状で、互いに直交する2つの面を有する部材である。
図5に示すように、上記のようなL型部材30を2つ、外殻部材20の開口面25に取り付けることで、共鳴器10を製造することが可能である。
外殻部材20の開口面25に取り付けられた2つのL型部材30の間の間隔が、スリット状開口部50となる。また、L型部材30の2つの面のうち一つの面が、共鳴器10の隔壁部60として機能する。
以上のような共鳴器10の製造方法において、予め種々の寸法の、外殻部材20、L型部材30を用意しておくことで、低減したい周波数に対応する共鳴器10を製造し、この共鳴器10をルーバー羽根部材3に配することで、低減したい周波数を容易に変更可能な遮音ルーバー1を構成することが可能となる。
以上のように、本発明に用いる遮音ルーバー1は、音響インピーダンス比が0となるスリット状開口部50を有する共鳴器10が、伝搬路100の内面に、スリット状開口部50が対向するように対で配されるので、このような本発明に用いる遮音ルーバー1によれば、伝搬路100における遮音ルーバー1として、構成部材の種類及び数を削減でき、構造の単純化、装置の小型化、軽量化を図ることが可能となると共に、製造や輸送、施工工数の増加に伴うコストを低減することができる。
また、本発明に用いる遮音ルーバー1によれば、様々な方向からの騒音に対処でき、十分な遮音性能を確保することが可能となる。
次に、遮音ルーバー1の他の例について説明する。図6は本発明に用いる他の遮音ルーバー1の伝搬路100への適用例を示す図である。図6は、遮音ルーバー1の伝搬路100から対向する一対の共鳴器10を抜き出して示している。また、図6においては、隔壁部60については、図面が煩雑となるために図示省略している。
図6に示す実施形態は、対向する共鳴器10の間に、3枚仕切り板部材70を設けて、共鳴器10を第1区画11、第2区画12、第3区画13、第4区画14の4つの区画に分けたものである。ここで、本実施形態では共鳴器10を4つの区画に分けるようにしたが、共鳴器10をいくつの区画に分けるかは任意である。また、このような仕切り板部材70を設けて共鳴器10の区画分けを行うことは、図6に示した実施形態以外にも適用可能である。
伝搬路100の開口が、水平方向に対して長手状に壁面に設けられた場合、特に騒音がルーバー面に対して水平方向の斜めから入射する状況では、伝搬路100経路内を1次元的に伝搬しないことも考えられる。
このような場合、図6に示すように、開口内及び組み込む共鳴器10に仕切り板部材70を設けることで、騒音が伝搬路100内を1次元的に伝搬するようになり共鳴器10による騒音低減装置が効果を発揮する。
なお、仕切り板部材70を設ける間隔は、低減したい騒音の波長の1/2以下とすることが好ましい。
また、遮音ルーバー1で低減しようとする対象となる騒音が、周波数特性に複数のピーク周波数を持っていたり、広帯域に周波数成分を持っている場合、仕切り板部材70等の間の間隔を、異なるように設定し、水平方向において異なる長さの区画を設けた共鳴器10とすることも好ましい実施形態の一つである。
以上のように、本発明に用いる遮音ルーバーは、音響インピーダンス比が0となるスリット部を有する共鳴器が、例えば、騒音の伝搬路の内壁における壁面に、スリット状開口部が対向するように対で配されるので、このような本発明に用いる遮音ルーバーによれば、伝搬路100における遮音ルーバーとして、構成部材の種類及び数を削減でき、構造の単純化、装置の小型化、軽量化を図ることが可能となると共に、製造及び組み立てコストを抑制することが可能となる。
次に、遮音ルーバー1の他の例について説明する。これまで説明した本発明で用いる共鳴器10は、式(5)により決定される共鳴周波数fにおいて騒音低減効果を発揮する。共鳴周波数fは図2に示した各寸法A,B,C,a,lを調整することで騒音の周波数特性に合わせることができる。
しかし、共鳴器10で低減しようとする、対象となる騒音が、周波数特性に複数のピーク周波数を持っていたり、広帯域に周波数成分を持っていたり場合、異なる共鳴周波数を持つ共鳴器10を組み合わせる必要がある。
そこで、本実施形態に係る遮音ルーバー1で用いる共鳴器10では、複数の共鳴周波数を持つ筐体を単純かつ少ない部材で構成する。より具体的には、本実施形態に係る遮音ルーバー1では、共鳴器10は1面が開放されている直方体形状の外殻部材20(すでに説明したものと同様)と、一枚板状の仕切り板部材35及び寸法の異なるL型部材30(すでに説明したものと同様)で構成される。
図7は本発明に用いる他の遮音ルーバー1に用いる共鳴器10を説明する図である。
図7(A)は他の実施形態に係る遮音ルーバー1に用いる共鳴器10の分解斜視図である。また、図7(B)は他の実施形態に係る遮音ルーバー1に用いる共鳴器10の斜視図である。また、図7(C)は、他の実施形態に遮音ルーバー1の伝搬路100を、伝搬路100の長手方向(或いは、スリット状開口部50の長手方向)を垂直に切って見た断面図である。
図7(A)及び図7(B)に示すように、上記のようなL型部材30を2つ、及び、仕切り板部材35を1つ、外殻部材20の開口面25に取り付けることで、共鳴器10を製造することが可能である。なお、仕切り板部材35は、この場合、隔壁部60としても機能する。
図7のように外殻部材20、L型部材30、仕切り板部材35を組み合わせることで、1つの共鳴器の中に、空間A及び空間Bを有する2つのスリット共鳴器を構成することができる。それぞれの共鳴器はそれぞれの共鳴周波数f1、f2においてスリット部50の音響インピーダンス比Zがほぼ0となり、図7(C)に図示するようにこれらを、伝搬路100の壁面に対向配置することで複数の周波数に対して騒音低減効果を発揮する。
以上のような実施形態に係る遮音ルーバー1は、仕切り板部材35の位置とL型部材30の寸法を変えれば、同じ寸法の外殻部材20と仕切り板部材35を用いて様々な共鳴周波数を持つ共鳴器10が構成可能である。
なお、空間Aや空間Bなどの「空間」については、図面中にアンダーバーが付されている。
図8は本発明に用いる他の遮音ルーバー1の伝搬路100に適用される共鳴器10の断面図である。図8は伝搬路100の長手方向(或いは、スリット状開口部50の長手方向)を垂直に切って見た断面図である。
図8に示すように、仕切り板部材35とL型部材30の数を増やせば、空間A、空間B及び空間Cを有する3つのスリット共鳴器を構成することができ、1つの外殻部材20の中に3つ以上の異なる共鳴周波数を持つ共鳴器10を構成することが可能である。なお、仕切り板部材35は、この場合、隔壁部60としても機能する。
また、図9は本発明に用いる他の遮音ルーバー1の伝搬路100に適用される共鳴器10の断面図である。図9は伝搬路100の長手方向(或いは、スリット状開口部50の長手方向)を垂直に切って見た断面図である。
図9の他の実施形態に係る遮音ルーバー1においては、共鳴器10は空間A及び空間Cからなる2つの共鳴器が、間隔at離れた2枚の仕切り板部材35で隔てられた構成となっている。この場合、2つの共鳴器の間のスリットは、背後に空気層を持たないスリット状開口部50となる。なお、仕切り板部材35は、この場合、隔壁部60としても機能する。
このような共鳴器10を伝搬路100の内壁に沿って対向配置した場合、伝搬路100の断面寸法及び仕切り板部材35の間隔atが半波長以下となる周波数に対して、背後に空気層を持たないスリット状開口部50は音響管(空間B)として機能する。
このとき、外殻部材20の寸法Dが音響管の管長に相当し、波長の1/4がDと等しくなる周波数ft及びその奇数倍の周波数において、音響管のスリット状開口部50の音響インピーダンス比Zが0となり騒音低減効果を発揮する。
一般に、上記のftはスリット共鳴器(図8の空間A及び空間C)の共鳴周波数f1あるいはf2より高い周波数となるため、図9のようにスリット共鳴器と音響管を組み合わせた構造の共鳴器10による遮音ルーバー1は、幅広い周波数に対して騒音低減効果を発揮することができる。
なお、繰り返しになるが、伝搬路の断面寸法及び仕切り板の間隔atが半波長以下となる周波数に対して、背後に空気層を持たないスリットは音響管として機能する。特許第3831263号公報や特許第5454369号公報に記載の従来技術は、矩形断面の音響“管”を構成するために多数の仕切り板を必要とした。これに対して、本発明においては、これらの仕切り板は不要である。
次に、遮音ルーバー1の他の例について説明する。図10は本発明に用いる他の遮音ルーバー1を示す図である。これまで説明した実施形態においては、伝搬路100の両側に共鳴器10を対向配置することで、ルーバー羽根部材3の主面4、5の表面を、音響的に“ソフト”な状態とするようにしていた。
これに対して、本実施形態では、伝搬路100の片側のみに共鳴器10を配置することで、音響的に“ソフト”な状態の再現を試みたものである。本実施形態に係る遮音ルーバー1において、図10(A)は共鳴器10を伝搬路100に「片側配置」した場合、また、また、図10(B)は共鳴器10を伝搬路100に「片側並列配置」した場合をそれぞれ示している。
2次元境界要素法を用いた数値解析手法によれば、共鳴器10を「対向配置」する方法は、他の配置方法と比較して騒音低減方法として有効であることが確認できるが、「片側配置」や「片側並列配置」などの配置方法にも十分な騒音低減効果を期待することができることがわかり、レイアウトなどの都合上、「片側配置」や「片側並列配置」しか採用し得ない場合には、このような配置を適宜採用することもできる。
次に、遮音ルーバー1の他の例について説明する。図11は本発明に用いる他の遮音ルーバー1に用いる共鳴器10を説明する図である。図11(A)はこれまで説明してきた実施形態に係る遮音ルーバー1に用いる共鳴器10を示しており、図11(B)は本実施形態に係る遮音ルーバー1に用いる共鳴器10を示している。本実施形態態に係る遮音ルーバー1では、図11(B)で示す共鳴器10が伝搬路100に配されることを特徴としている。
図11(A)に示すように、これまで説明してきた実施形態に係る遮音ルーバー1の共鳴器10は、スリット部50の両側に配され隔壁部60が設けられ、これらの隔壁部60は奥行き方向にlの長さを有するものであった。
これに対して、図11(B)に示す本実施形態に遮音ルーバー1の共鳴器10は、スリット部50の両側の隔壁部60が省かれた構造を有している。隔壁部60が省かれているが、この代わりに、少なくともスリット部50が含まれる共鳴器10の前面の板厚がlの厚さを有するものとなっている。
前記板厚lにより、本実施形態で用いる共鳴器10においても、第1の実施形態で説明したVnが生じることとなる。これにより、隔壁部60が省かれた共鳴器10が用いられる本実施形態に係る遮音ルーバー1によっても、これまで説明した遮音ルーバー1と同様の効果を享受することが可能となる。
以上、本発明に用いる遮音ルーバーにおいては、音響インピーダンス比が0となるスリット状開口部を有する共鳴器が伝搬路100に配されており、このような本発明に用いる遮音ルーバーによれば、構造が単純であるので、製造や輸送、施工工数の増加に伴うコストを低減することができる。
また、本発明に用いる遮音ルーバーによれば、様々な方向からの騒音に対処でき、十分な遮音性能を確保することが可能となる。
次に、遮音ルーバー1の他の例について説明する。まず、遮音ルーバー1を構成するルーバー羽根部材210単体を説明する。図12は本発明に用いる他の遮音ルーバー1に用いられるルーバー羽根部材210を示す図である。
遮音ルーバー1は、複数のルーバー羽根部材210が、所定の間隔を置いて配置されることで構成されるものである。ここで、図12乃至図15においては、ルーバー羽根部材210や遮音ルーバー1を、長手方向に対する断面で見たものである。したがって、ルーバー羽根部材210や遮音ルーバー1は、紙面の奥行き方向に長尺体としての長さを有するものである。
また、ルーバー羽根部材210における構成として、「直線部」などと呼称するが、実際の形状は平面部である。
ルーバー羽根部材210は、剛性があり、音響透過損失が大きい材料によって構成することが好ましく、例えば、アルミニウムなどを用いることができる。
ルーバー羽根部材210は、第1直線部231と、この第1直線部231と平行な第2直線部232と、第2直線部232から延在する放物線部240と、を有している。放物線部240は、音の反射部として機能する。
第1直線部231と、第2直線部232とは第3直線部233によって連結されており、第1直線部231と、第2直線部232と、第3直線部233とによって、囲まれた空間には、補強リブ260が設けられている。
ルーバー羽根部材210は、第1直線部231からは、第4直線部234を介して延在する円弧部250を有している。円弧部250は、音の反射部として機能する。
上記のようなルーバー羽根部材210が複数、全てのルーバー羽根部材210の第1直線部231及び第2直線部232が平行となるように、互いに、所定の間隔を置いて配置されることで、遮音ルーバー1が構成される。
すなわち、遮音ルーバー1においては、一のルーバー羽根部材210の第1直線部231が、他のルーバー羽根部材210の第2直線部232と、平行となるように配されている。図13は本発明に用いる他の遮音ルーバー1を示す図である。
図13に示すように、各ルーバー羽根部材210が固定されていれば、ルーバー羽根部材210を固定する方法としてはどのようなものを用いても構わない。また、図に示す遮音ルーバー1において、その左側が、設備機器などが設置されている騒音源側で、右側が受音側であるものとする。
複数のルーバー羽根部材210を図13に示すように配することで、隣り合うルーバー羽根部材210の間に、通気経路215が形成される。騒音源側(室外側)における通気経路215の開口を、第1開口211として定義する。また、受音側(室内側)における通気経路215の開口を、第2開口212として定義する。
本発明に用いる遮音ルーバー1を特徴付ける構造を以下に記す。第1として、第1直線部231及び第2直線部232によりなる平行対向する壁面で構成される通気経路(区間A)を有している。
また、本発明に用いる遮音ルーバー1の特徴的構造の第2として、放物曲面(区間B)を通気経路215の内壁として有している。
また、本発明に用いる遮音ルーバー1の特徴的構造の第3として、円弧曲面(区間C)を通気経路215の内壁として有している。
また、本発明に用いる遮音ルーバー1の特徴的構造の第4として、放物曲面(区間B)と円弧曲面(区間C)は点Dを共通の焦点とする。
また、本発明に用いる遮音ルーバー1の特徴的構造の第5として、通気経路215は騒音源側の第1開口211から区間A、区間B、区間Cの順で構成されている。
次に、本発明による遮音ルーバー1が通気経路215を透過する騒音を低減する原理を以下に説明する。また、本発明による遮音ルーバー1の原理を説明する図を図14、図15に示す。図において、矢印は騒音の音波の流れの方向を示している。
図14において、(0)に示すように、遮音ルーバー1における第1開口211には、様々な方向から騒音が入射する。
(1)に示すように、通気経路215の区間Aに入射した騒音は、区間Aの幅(31と32の距離)が半波長以下となる周波数では、区間Aを平面波として伝搬する。
次に、(2)に示すように、区間Aを平面波として伝搬し、区間Bの放物曲面で反射した音波は焦点Dに向けて収束する。
次に、(3)に示すように、焦点Dを通過した音波は、区間Cの円弧曲面に入射する。
次に、図15の(4)に示すように、区間Cの円弧曲面で反射した音波は再び焦点Dに向けて収束する。
続いて、(5)に示すように、焦点Dを通過した音波は、区間Bの放物曲面に入射する。
次に、(6)に示すように、区間Bの放物曲面で反射した音波は、区間Aを平面波として伝搬し、騒音源側の第1開口211へ再放射される。
以上のように、本発明に用いる遮音ルーバー1によれば、遮音ルーバー1の通気経路215を伝搬する騒音を騒音源側へ再放射することで、通気経路215を透過する騒音を低減し、遮音ルーバー1の遮音性能を向上することができる。
また、本発明に用いる遮音ルーバー1によれば、必要となる部品はルーバー羽根部材210のみであり、部品点数を抑制でき、構造が単純であるので、製造や輸送、施工工数の増加に伴うコストを低減することができる。
また、本発明に用いる遮音ルーバー1によれば、様々な方向からの騒音に対処でき、十分な遮音性能を確保することが可能となる。
本発明に用いる遮音ルーバー1によれば、騒音入射角によらず、通気経路215を透過する騒音を低減することができる。
また、本発明に用いる遮音ルーバー1によれば、 ルーバー羽根部材210のみで、ルーバー壁を構成できるので、部材点数を減らし、構造を単純化できる。
また、ルーバー羽根部材210本体は、同一断面図の長尺体であり、上記の部材点数の減少と構造の単純化と併せて、製造コストの低減、輸送コストの低減、設置が単純かつ効率的であることによる施工コストの低減などの効果が期待できる。
さて、上記のような遮音ルーバー1が、建物の外壁に開口を設けて外気を自然導入する自然換気システムに用いる換気用開口部300に配されることで、本発明の構成となる。図16は本発明の他の実施形態に係る換気用開口部300を示す図である。 図16(A)は本発明の実施形態に係る換気用開口部300の斜視図であり、 図16(A)は図16(A)の点線で囲った部分の拡大断面図である。
このように、本発明に係る換気用開口部300においては、ルーバー羽根部材210の間に、形成される通気経路中には、複数の反射部が形成されると共に、前記通気経路の第1開口に入射した音が、前記複数の反射部で反射され、前記第1開口から出射される遮音ルーバー1が配されている。遮音ルーバー1は、ルーバー羽根部材210間の空隙を通気経路として確保しつつ、その通気経路を騒音が伝搬することを防止する機能を有する。この機能により、換気用開口部300から室内へ室外騒音が伝搬することを防止する。その結果、本発明に係る換気用開口部300によれば、上記のような外気を自然導入する自然換気システムが採用された場合においても、室内騒音のレベルの上昇を防止し、静音性を確保することが可能となる。
また、本発明に係る換気用開口部300によれば、室内への外気導入と空気の流通は維持しつつも、換気用開口部300が遮音欠損となることを防ぎ、換気用開口を設けた外壁の遮音性能を向上することができる。また、本発明に係る換気用開口部300に用いる遮音ルーバー1は同一断面の長尺体であるので、製作及び取付けが容易である。
ここで、以上で説明した遮音ルーバー1においては、第1開口211に入射した音波を、区間Aにおいて平面波とし、これを放物線部240よりなる区間Bの放物曲面で反射させ、いったん焦点Dを通過させた上で、円弧部250よりなる区間Cの円弧曲面で、再び焦点Dに向けて収束させ、さらに、放物線部240よりなる区間Bの放物曲面で反射させて、区間Aを平面波として伝搬させて、騒音源側の第1開口211に出射させる構成としているが、本発明に用いる遮音ルーバー1の実施形態はこれに限られるものではない。
本発明に用いる遮音ルーバー1は、遮音ルーバー1の第1開口211から、入射した音波を平面波とし、それを通気経路215中の複数の反射部で反射させて、再び第1開口211から騒音源側に出射させる、という構成であれば、実施形態で説明した放物曲面や円弧曲面などからなる反射部に限定されるものではない。
すなわち、本発明に用いる遮音ルーバー1は、通気経路215中の形状に特徴を持たせることで、遮音ルーバー1の第1開口211から入射した音波を、再び第1開口211から出射させる、という技術思想一切をも含むものである。
また、本発明に用いる遮音ルーバー1は、通気経路215中の形状に特徴を持たせることで、通気経路215中に音波の焦点を形成し、この焦点を活用して遮音を図る、という技術思想も含むものである。部品点数が増えてしまうというデメリットはあるが、例えば、実施形態における焦点Dに吸音材を配して、焦点Dにおいて吸音を図ることなども、本発明に用いる遮音ルーバー1に含まれるものである。
以下、本発明に用いる遮音ルーバー1による遮音効果について数値解析により確認を行ったので、以下に結果を示す。図17は数値解析対象を示す図である。
以下の数値計算には おいては2次元境界要素法を用いた。計算対象は、ルーバー羽根部材が一定の間隔を空けて配列されたルーバー壁である。図17は計算対象としたルーバー壁の一部を示すものである。この例では、ルーバー羽根部材は120mm間隔で配置され、ルーバー羽根部材間の空隙、すなわち通気経路の幅は約31mmである。ルーバー羽根部材の表面は完全反射性として計算を行った。音源は、ルーバー壁から図面上左側に2m離れた位置に点音源を配置し、ルーバー壁の受音側(図面上右側)へ透過する音響エネルギーを計算により求めた。
音源側の空間と受音側の空間は、高さ1.3mの開口で接続されており、その開口部にルーバー壁が配置される。比較対象として、ルーバー壁が配置されない単純な開口を透過する音響エネルギーを計算により求め、ルーバー壁の有無による音響エネルギーの低減量を遮音ルーバーの挿入損失、すなわち騒音低減性能として評価した。
数値計算においては、1/15オクターブ毎の純音について行い、得られた受音側へ透過する音響エネルギーを1/3オクターブバンド中心周波数を中心とした5つずつエネルギー平均することで、1/3オクターブバンドの計算結果とした。得られた計算結果より、上記のように単純開口を基準としたルーバー壁による音響エネルギーの低減量を算出し、遮音ルーバーの挿入損失とした。
図18に図17に示した遮音ルーバーの挿入損失の周波数特性を示す。値が大きいほど高い騒音低減性能を持つことを示している。後述のスリット共鳴器を組み込んだ場合と区別するために、図17に示した遮音ルーバーに基づく結果を「基本型」と称することとする。
図18から、幅広い周波数範囲で正の挿入損失が得られており、ルーバー壁の通気性を確保しつつ透過する騒音を低減できていることが分かる。特に、2kHz以上の周波数においては5dB以上の挿入損失が得られている。ただし、1kHzを中心とした帯域で挿入損失が低下していることが分かる。この対策について以下に提案する。
上記のように、基本型の遮音ルーバーは、1kHzを中心とした帯域で挿入損失が低下する。この帯域における挿入損失を向上させるため、音が伝搬する伝搬路における壁面を音響的に“ソフト”な状態とするスリット共鳴器を、本発明に用いる遮音ルーバー1のルーバー羽根部材210に組み込むことによる騒音低減法を提案する。
図1乃至図3に関連して、音が伝搬する伝搬路における壁面が音響的に“ソフト”な状態、すなわち、壁面の表面における音響インピーダンス比Zが0であるとき、音源側である上流側から伝搬してきた騒音は上流側へ反射され、受音側である下流側へ伝搬しないことが知られていることは説明した。
そこで、本実施形態に係る遮音ルーバー1では、上記のようなスリット共鳴器310を適用する。図19にスリット共鳴器を組み込んだ遮音ルーバーの例を示す。スリット状の共鳴器の開口部はルーバー羽根部材間の通気経路に面するように設けられている。図示した共鳴器開口の寸法は、共鳴周波数が約850Hzとなるように定めている。
前述したように、音の伝搬路(ルーバー壁においては通気経路)を挟んで2つのスリット共鳴器を対向配置することが理想ではあるが、遮音ルーバーの構造上、図19に示すように1つのスリット共鳴器の片側配置とした。この例では、ルーバー羽根部材間の通気経路の幅は約31mmであり、スリット共鳴器の共鳴周波数850Hzにおける波長(400mm)と比較して十分に小さいため、スリット共鳴器の片側配置としても効果は期待できる。
図18には、図19に示したスリット共鳴器を組み込んだ遮音ルーバーの挿入損失の数値計算結果(基本型+共鳴器)が併せて示されている。
図18によれば、共鳴周波数に近い800Hz及び1kHz帯域において、挿入損失が大きく改善しており、スリット共鳴器を遮音ルーバーに組み込むことによる効果が確認できる。
スリット共鳴器の形状、開口寸法、配置位置は図19に示した例に限られるものではない。ここでは、図17に示した基本型の挿入損失の計算結果から、共鳴周波数を850Hzに設定したスリット共鳴器を組み込んだ例を示した。寸法、配置間隔等の異なる遮音ルーバーにおいても、数値計算または実験により挿入損失の周波数特性を求め、挿入損失を改善したい帯域に合わせてスリット共鳴器の共鳴周波数を設定し、スリット共鳴器の各寸法を決定する。この際、対象となる騒音の周波数特性を併せて勘案してスリット共鳴器の共鳴周波数を決定する場合もある。
上記のようなスリット共鳴器をルーバー羽根部材210に組み込んだとしても、ルーバー羽根部材は同一断面の長尺体であるため、製造、施工におけるコスト減の効果は維持できる。
以上、本発明に係る換気用開口部においては、例えば、音響インピーダンス比を0とする共鳴器が設けられた遮音ルーバーが配されている。遮音ルーバーは、ルーバー羽根部材間の空隙を通気経路として確保しつつ、その通気経路を騒音が伝搬することを防止する機能を有する。この機能により、換気用開口部から室内へ室外騒音が伝搬することを防止する。その結果、本発明に係る換気用開口部によれば、上記のような外気を自然導入する自然換気システムが採用された場合においても、室内騒音のレベルの上昇を防止し、静音性を確保することが可能となる。
また、本発明に係る換気用開口部によれば、室内への外気導入と空気の流通は維持しつつも、換気用開口部が遮音欠損となることを防ぎ、換気用開口を設けた外壁の遮音性能を向上することができる。また、本発明に係る換気用開口部に用いる遮音ルーバーは同一断面の長尺体であるので、製作及び取付けが容易である。