ところで、例えば特許文献1、2のバンパービームのように、車両デザインの関係上、バンパービームが車幅方向外側ほど後に位置するように湾曲ないし傾斜する形状が採用されることがある。この場合、クラッシュカンは車幅方向両側にそれぞれ設けられているので、バンパービームの車幅方向両側、つまり、ちょうど湾曲ないし傾斜した部分がクラッシュカンの前端部に取り付けられることになる。このため、クラッシュカンの車幅方向内側の前後方向の寸法が外側の前後方向の寸法に比べて長くなり、言い換えると、クラッシュカンにおける車幅方向内側壁部が外側壁部に比べて前後方向に長くなる。
ここで、クラッシュカンは、車両の車速が例えば15km/h以下で障害物に衝突した軽衝突時に衝突エネルギを吸収することによってフロントサイドフレームの変形を抑制するために設けられるものである。しかしながら、上述したように、バンパービームの湾曲ないし傾斜した部分がクラッシュカンの前端部に取り付けられている場合、軽衝突時の荷重がバンパービームの例えば車幅方向中間部に入力すると、クラッシュカンにおける車幅方向内側壁部が外側壁部に比べて前後方向に長いので、クラッシュカンが変形を開始する初期段階でクラッシュカンの内側壁部を介してフロントサイドフレームの車幅方向内側に対して大きな荷重が伝達しやすく、このことでフロントサイドフレームの車幅方向内側が変形してしまう恐れがある。
一方、特許文献1では、連結部材の車幅方向内側の壁部が傾斜しており、前方から衝撃荷重が入力したときに左右のクラッシュカンの間隔が広がるようになっているので、衝突時の状況によっては圧縮荷重が逃げてしまう恐れがあり、クラッシュカンがフロントサイドフレームとバンパービームとの間で狙い通りに潰れ変形しない場合が考えられる。
また、特許文献2のバンパステイは、車幅方向の両側壁部が湾曲しているが、所定以上のエネルギ吸収量を得るためには、両側壁部をある程度強固に構成しておく必要がある。そして、特許文献2のバンパステイも車幅方向内側壁部が外側壁部に比べて前後方向に長いので、上述したように、バンパステイが変形を開始する初期段階で内側壁部を介してフロントサイドフレームの車幅方向内側に対して大きな荷重が伝達しやすく、フロントサイドフレームの車幅方向内側が変形してしまう恐れがある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、平面視で湾曲ないし傾斜した部分を有するバンパービームをクラッシュカンに取り付ける場合に、クラッシュカンの軽量化を図りながら、クラッシュカンによるエネルギ吸収性能を高めてフロントサイドフレームの変形を抑制することにある。
上記目的を達成するために、本発明では、クラッシュカン本体の車両前部に、車幅方向内側に脆弱部を備える別部材を設けてクラッシュカン本体を狙い通りに潰すことができるようにした。
第1の発明は、車両の左右両側にそれぞれ配設されて車両前後方向に延びるフロントサイドフレームの車両前端部にクラッシュカンがそれぞれ取り付けられ、該左右のクラッシュカンの車両前端部に車幅方向に延びるバンパービームが取り付けられた車両の衝撃吸収構造において、上記クラッシュカンは、車両前後方向に延びるクラッシュカン本体と、該クラッシュカン本体の前端部に取り付けられる別部材からなる変形誘起部材とを備え、上記バンパービームは、平面視で車幅方向外側ほど車両後側に位置するように湾曲ないし傾斜するように形成され、該バンパービームにおける湾曲ないし傾斜した部分が上記変形誘起部材の車両前端部に取り付けられ、上記変形誘起部材の車幅方向内側には、脆弱部が設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、軽衝突時の荷重がバンパービームの例えば車幅方向中間部に入力すると、バンパービームにおける湾曲ないし傾斜した部分がクラッシュカンの車両前端部に取り付けられので、変形開始の初期段階では、クラッシュカンの内側に対して外側よりも早期に荷重が入力する。この荷重入力時、クラッシュカンの変形誘起部材の車幅方向内側には脆弱部が設けられていて車幅方向内側が弱くなっているので、クラッシュカンの車幅方向内側が変形しやすくなる。このとき、変形誘起部材はクラッシュカン本体とは別部材であることから、クラッシュカン本体によるエネルギ吸収性能を犠牲にすることなく、クラッシュカンの車幅方向内側の変形を狙い通りに誘起してクラッシュカンを潰れ変形させることが可能になる。これにより、フロントサイドフレームの車幅方向内側に対して大きな荷重が伝達するのが抑制されるので、フロントサイドフレームの車幅方向内側の変形が抑制される。
第2の発明は、第1の発明において、上記変形誘起部材は、上記クラッシュカン本体の車両前端部に沿って上下方向に延びる本体側板部と、上記バンパービームの車両後端部に沿って上下方向に延びるビーム側板部とを備え、上記ビーム側板部は、車幅方向内側ほど上記本体側板部から車両前後方向に離れるように配置され、上記脆弱部は、上記ビーム側板部及び上記本体側板部の車幅方向内側同士を連結することを特徴とする。
この構成によれば、変形誘起部材のビーム側板部と本体側板部との車両前後方向の間隔が車幅方向内側ほど広くなるので、衝撃荷重が入力したときに変形誘起部材がより一層変形し易くなる。
第3の発明は、第2の発明において、上記脆弱部は、上記ビーム側板部及び上記本体側板部の間で車幅方向に屈曲していることを特徴とする。
この構成によれば、脆弱部を屈曲させるという簡単な構成としながら、前方からの衝撃荷重が変形誘起部材に入力したときに脆弱部が前後方向に突っ張ることを防止し、変形誘起部材がより一層変形し易くなる。
第4の発明は、第2または3の発明において、上記ビーム側板部と上記本体側板部との間に形成される空間は、上下方向に開放されていることを特徴とする。
この構成によれば、前方からの衝撃荷重が変形誘起部材に入力したときにビーム側板部が本体側板部に接近する方向に変位し易くなるので、衝撃荷重が入力したときに変形誘起部材がより一層変形し易くなる。
第5の発明は、第2から4のいずれか1つの発明において、上記脆弱部は、上記ビーム側板部及び上記本体側板部の上部から下部まで連続して設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、ビーム側板部及び本体側板部が脆弱部によって上部から下部まで連続して連結されるので、通常時においてバンパービームの支持剛性が高まる。一方、前方からの衝撃荷重が変形誘起部材に入力したときには、変形誘起部材の変形を確実に起こしてクラッシュカンの車幅方向内側の変形を狙い通りに誘起することが可能になる。
第6の発明は、上記変形誘起部材は、上記クラッシュカン本体よりも低強度であることを特徴とする。
この構成によれば、軽衝突時の荷重がバンパービームから変形誘起部材に入力したときに、変形誘起部材がクラッシュカン本体よりも低強度であることから、変形誘起部材が先に変形し始め、これにより、クラッシュカンの車幅方向内側の変形を狙い通りに誘起することが可能になる。
第1の発明によれば、クラッシュカン本体の前端部に取り付けられる別部材からなる変形誘起部材の車幅方向内側に脆弱部を設けたので、クラッシュカンによるエネルギ吸収性能を高めてフロントサイドフレームの変形を抑制できる。
第2の発明によれば、変形誘起部材のビーム側板部と本体側板部との車両前後方向の間隔を車幅方向内側ほど広くすることができる。これにより、衝撃荷重が入力したときに変形誘起部材をより一層変形し易くすることができ、クラッシュカン本体の車幅方向内側を確実に変形させることができる。
第3の発明によれば、変形誘起部材の脆弱部がビーム側板部及び本体側板部の間で車幅方向に屈曲しているので、脆弱部を簡単な構成としながら、前方からの衝撃荷重が変形誘起部材に入力したときに脆弱部が前後方向に突っ張ることを防止することができる。これにより、クラッシュカン本体の車幅方向内側を確実に変形させることができる。
第4の発明によれば、変形誘起部材のビーム側板部と本体側板部との間に形成される空間が上下方向に開放されているので、衝撃荷重が入力したときに変形誘起部材をより一層変形し易くすることができ、クラッシュカン本体の車幅方向内側を確実に変形させることができる。
第5の発明によれば、脆弱部がビーム側板部及び本体側板部の上部から下部まで連続しているので、通常時におけるバンパービームの支持剛性を高めながら、衝撃荷重が入力したときには変形誘起部材の変形を確実に起こしてクラッシュカンの車幅方向内側の変形を狙い通りに誘起することができる。
第6の発明によれば、変形誘起部材がクラッシュカン本体よりも低強度であることから、軽衝突時の荷重が変形誘起部材に入力したときに、変形誘起部材がクラッシュカン本体よりも先に変形し始める。これにより、クラッシュカンの車幅方向内側の変形を狙い通りに誘起することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る車両の衝撃吸収構造1を左斜め上方から見た斜視図である。衝撃吸収構造1は、例えば、乗用自動車の前部に設けられており、左側フロントサイドフレーム2と、右側フロントサイドフレーム3と、左側クラッシュカン4と、右側クラッシュカン5と、車幅方向に延びるバンパービーム6とを備えている。左側フロントサイドフレーム2及び右側フロントサイドフレーム3の前端部に左側クラッシュカン4及び右側クラッシュカン5がそれぞれ取り付けられている。左側クラッシュカン4及び右側クラッシュカン5の前端部にバンパービーム6が取り付けられている。尚、この実施形態では、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」といい、車両左側を単に「左」といい、車両右側を単に「右」というものとする。
左側フロントサイドフレーム2及び右側フロントサイドフレーム3は、それぞれ車体の左側及び右側に配設されており、互いに左右方向に離れた状態で前後方向に延びている。左側フロントサイドフレーム2及び右側フロントサイドフレーム3の間には、図示しないがエンジンや変速機等が配設されている。また、この車両には、エンジンルームEと車室(図示せず)とを仕切るダッシュパネルDP(仮想線で概略形状を示す)が設けられている。このダッシュパネルDPは略上下方向に延びている。左側フロントサイドフレーム2は、ダッシュパネルDPの左側部分近傍から前側へ向けて延び、また、右側フロントサイドフレーム3は、ダッシュパネルDPの右側部分近傍から前側へ向けて延びている。
車両の前部には、左側フロントサイドフレーム2の左側方でタワー形状に形成された左側サスタワー部7と、右側フロントサイドフレーム3の右側方でタワー形状に形成された右側サスタワー部8とが設けられている。左側サスタワー部7及び右側サスタワー部8の側方には、それぞれレインフォースメント7a、8aが設けられている。
尚、車両にはフロントバンパ、フェンダー、ボンネットフード等が設けられているが、これらの図示は省略している。
(フロントサイドフレームの構成)
左側フロントサイドフレーム2と右側フロントサイドフレーム3は、左右対称構造であるため、以下、左側フロントサイドフレーム2の構造について詳細に説明する。図3〜図5にも示すように、左側フロントサイドフレーム2は、互いに上下方向に離れて左右方向に延びる上板部21及び下板部22と、上板部21及び下板部22の左端部同士を繋ぐように上下方向に延びる左側板部23と、上板部21及び下板部22の右端部同士を繋ぐように上下方向に延びる右側板部24とを有しており、全体として略矩形状に近い断面形状となっている。上板部21及び下板部22の左右方向の寸法よりも、左側板部23及び右側板部24の上下方向の寸法の方が長く設定されている。
図3に示すように、上板部21は、左側フロントサイドフレーム2の前端部から後端部まで略水平に延びている。下板部22は、左側フロントサイドフレーム2の前端部から後端部近傍までは上板部21と略平行に延びているが、下板部22の後端部近傍は湾曲しており、下板部22の後端部近傍から後端部までは下降傾斜しながら後側へ延びている。図4及び図5に示すように、左側板部23は、左側フロントサイドフレーム2の車幅方向外側部分を構成している。また、右側板部24は、左側フロントサイドフレーム2の車幅方向内側部分を構成している。
左側板部23には、上下方向中間部に左側フロントサイドフレーム2の内方(右側)へ窪んで前後方向に延びる補強用外側凹条部23aが形成されている。外側凹条部23aを左側フロントサイドフレーム2の内方へ窪ませることにより、左側フロントサイドフレーム2の側方空間を狭くすることなく、左側フロントサイドフレーム2の補強が可能になる。
外側凹条部23aは、左側板部23の前端部には形成されておらず、左側板部23の前端部よりも後側の部分から左側板部23の後端部まで連続して延びている。外側凹条部23aの深さは、該外側凹条部23aの前端部に近づくほど浅くなり、該外側凹条部23aの後端部に近づくほど深くなるように設定されている。外側凹条部23aの深さとは、該外側凹条部23aの左右方向の寸法である。また、外側凹条部23aの上下方向の寸法は、該外側凹条部23aの前端部から後端部まで略等しく設定されており、この実施形態では、外側凹条部23aの上下方向の寸法は、左側フロントサイドフレーム2の上下方向の寸法の約1/3とされていて、後述するクラッシュカン4の上側横壁部46と下側横壁部47との上下方向の離間寸法と略同等である。
図4及び図5にのみ示すが、外側凹条部23aは、左側フロントサイドフレーム2の内方へ突出する上部23b及び下部23cと、上部23bの突出方向先端部(右端部)から下部23cの突出方向先端部(右端部)まで上下方向に延びる中間板部23dとで構成されている。上部23b及び下部23cの離間寸法が外側凹条部23aの上下方向の寸法に対応している。上部23bは、右端部に近づくほど下に位置するように傾斜している。また、下部23cは、右端部に近づくほど上に位置するように傾斜している。
右側板部24には、上下方向中間部に左側フロントサイドフレーム2の内方(左側)へ窪んで前後方向に延びる補強用内側凹条部24aが形成されている。内側凹条部24aは、右側板部24の前端部には形成されておらず、右側板部24の前端部よりも後側の部分から右側板部24の後端部まで連続して延びている。つまり、内側凹条部24a及び外側凹条部23aが左側フロントサイドフレーム2の前端部には形成されないことになるので、左側フロントサイドフレーム2の前端部は、上下方向に長い略矩形状の断面を有している。これにより、左側フロントサイドフレーム2の前端部には、上部に2つの稜線部2a、2bが左右方向に互いに間隔をあけて形成され、下部に2つの稜線部2c、2dが左右方向に互いに間隔をあけて形成されることになる。稜線部2a、2b、2c、2dは、左側フロントサイドフレーム2の前端部から後端部まで連続している。稜線部2a、2b、2c、2dが形成された箇所は、平板な部分に比べて強度が高まる。
内側凹条部24aの深さは、該内側凹条部24aの前端部に近づくほど浅くなり、該内側凹条部24aの後端部に近づくほど深くなるように設定されている。また、内側凹条部24aの上下方向の寸法は、外側凹条部23aの上下方向の寸法と同様に設定されている。
内側凹条部24aは、外側凹条部23aと同様に、左側フロントサイドフレーム2の内方へ突出する上部24b及び下部24cと、上部24bの突出方向先端部(左端部)から下部24cの突出方向先端部(左端部)まで延びる中間板部24dとで構成されている。上部24bは、左端部に近づくほど下に位置するように傾斜している。また、下部24cは、左端部に近づくほど上に位置するように傾斜している。
左側フロントサイドフレーム2は、車幅方向外側に配置されるアウタパネルOPと、車幅方向内側に配置されるインナパネルIPとを接合することによって構成されている。アウタパネルOP及びインナパネルIPは、例えば鋼鈑等をプレス成形してなるものである。アウタパネルOPの上部及び下部には接合用フランジOP1、OP2が形成され、また、インナパネルIPの上部及び下部には接合用フランジIP1、IP2が形成されており、接合用フランジOP1と接合用フランジIP1、接合用フランジOP2と接合用フランジIP2が例えばスポット溶接により接合されている。アウタパネルOPとインナパネルIPの接合位置は、左側フロントサイドフレーム2の車幅方向中央部よりも内側(右側)である。
図3に示すように、左側フロントサイドフレーム2の前端部には、上下方向に延びるフレーム側セットプレート25が固定されている。フレーム側セットプレート25は、左側フロントサイドフレーム2の前端部の外形状よりも大きく形成されており、クラッシュカン4を取り付けるための部材である。同様に、右側フロントサイドフレーム3の前端部にもフレーム側セットプレート35が固定されている。
(クラッシュカンの構成)
左側クラッシュカン4と右側クラッシュカン5は左右対称構造であるため、以下、左側クラッシュカン4の構造について詳細に説明する。図6〜図9にも示すように、左側クラッシュカン4は、前後方向に延びる筒状のクラッシュカン本体40と、該クラッシュカン本体40の前端部に取り付けられる別部材からなる変形誘起部材90とを備えている。クラッシュカン本体40は、衝突時のエネルギ吸収を行うためのものである。変形誘起部材90は、左側クラッシュカン4の車幅方向内側の変形を積極的に誘起するためのものである。このように、クラッシュカン本体40と変形誘起部材90とを別部材からなるものとしているので、クラッシュカン本体40のエネルギ吸収性能を犠牲にすることなく、変形誘起部材90を設けることができる。また、前後方向の圧縮力が作用したときに、変形誘起部材90がクラッシュカン本体40よりも先に変形を開始するように、変形誘起部材90がクラッシュカン本体40よりも低強度に構成されている。
クラッシュカン本体40は、互いに上下方向に離れて左右方向に延びる上壁部41及び下壁部42と、上壁部41及び下壁部42の左端部(車幅幅方向外端部)同士を繋ぐように上下方向に延びる外側壁部43と、上壁部41及び下壁部42の右端部(車幅幅方向内端部)同士を繋ぐように上下方向に延びる内側壁部44とを有する押出成形部材からなる。押出成形部材とは、例えばアルミニウム合金やマグネシウム合金等の材料を口金(図示せず)から押し出すことによって成形された部材である。
上壁部41及び下壁部42の左右方向の寸法よりも、外側壁部43及び内側壁部44の上下方向の寸法の方が長く設定されており、全体として上下方向に長い略矩形状に近い断面形状となっている。クラッシュカン本体40の上壁部41及び下壁部42の左右方向の寸法は、左側フロントサイドフレーム2の上板部21及び下板部22の左右方向の寸法と略同じに設定されている。また、左側クラッシュカン4の外側壁部43及び内側壁部44の上下方向の寸法は、左側フロントサイドフレーム2の左側板部23及び右側板部24の上下方向の寸法と略同じに設定されている。
クラッシュカン本体40の前端部には、上部に2つの稜線部4a、4bが左右方向に互いに間隔をあけて形成され、下部に2つの稜線部4c、4dが左右方向に互いに間隔をあけて形成されることになる。稜線部4a、4b、4c、4dは、クラッシュカン本体40の前端部から後端部まで連続している。
また、クラッシュカン本体40の上壁部41及び下壁部42の後側の縁部は左右方向に延びている。クラッシュカン本体40の外側壁部43及び内側壁部44の後側の縁部は上下方向に延びている。これにより、クラッシュカン本体40の後端面は上下及び左右方向に延びる面となり、この後端面には、クラッシュカン側セットプレート45(図1〜図3にのみ示す)が固定されている。クラッシュカン側セットプレート45とフレーム側セットプレート25とは、例えばボルト100及びナット101等の締結部材によって締結されている。
左側フロントサイドフレーム2の前端部の外形状と、クラッシュカン本体40の後端部の外形状とは略一致している。これにより、車両前後方向視において、左側フロントサイドフレーム2の前端部の4箇所に形成される稜線部2a、2b、2c、2dと、クラッシュカン本体40の後端部の4箇所に形成される稜線部4a、4b、4c、4dとがそれぞれ重複するとともに、左側フロントサイドフレーム2の上板部21、下板部22、左側板部23及び右側板部24の前端部と、クラッシュカン本体40の上壁部41、下壁部42、外側壁部43及び内側壁部44の後端部とがそれぞれ重複することになる。
尚、図3に示すように、左側フロントサイドフレーム2とクラッシュカン本体40との間には、セットプレート25、45が介在しているので、左側フロントサイドフレーム2とクラッシュカン本体40とが接触していないが、車両前後方向から見たときには、左側フロントサイドフレーム2の各板部21〜24の前端部と、クラッシュカン本体40の各壁部41〜44の後端部とが互いに重複するような位置関係となる。また、車両前後方向から見たときに、左側フロントサイドフレーム2の各板部21〜24の前端部と、クラッシュカン本体40の各壁部41〜44の後端部とが完全に重複していなくてもよく、板厚の半分程度のずれは許容される。
また、クラッシュカン本体40の上壁部41及び下壁部42の前側の縁部は、後側の縁部と略平行となるように、左右方向に延びている。これにより、クラッシュカン本体40の前端面は上下及び左右方向に延びる面となり、この前端面には、変形誘起部材90が取り付けられるようになっている。
図10に示すように、クラッシュカン本体40の内部には、内側壁部44から外側壁部43まで延びる上側横壁部46及び下側横壁部47が上下方向に互いに間隔をあけて設けられるとともに、上壁部41から上側横壁部46まで上下方向に延びる上側縦壁部48と、下壁部42から下側横壁部47まで上下方向に延びる下側縦壁部49とが設けられている。すなわち、上側横壁部46は、内側壁部44の上下方向中央部よりも上側の部位から外側壁部43の上下方向中央部よりも上側の部位まで左右方向に延びるとともに、上壁部41と略平行にクラッシュカン本体40の前端部から後端部まで延びている。下側横壁部47は、内側壁部44の上下方向中央部よりも下側の部位から外側壁部43の上下方向中央部よりも下側の部位まで左右方向に延びるとともに、下壁部42と略平行にクラッシュカン本体40の前端部から後端部まで延びている。上側横壁部46及び下側横壁部47により、クラッシュカン本体40の内部が上下方向に3つの空間、即ち上側空間R1、中央空間R2及び下側空間R3に区画される。この実施形態では、上側空間R1、中央空間R2及び下側空間R3の上下方向の寸法は略同じに設定されている。
上側横壁部46及び下側横壁部47の高さと、左側フロントサイドフレーム2の外側凹条部23a及び内側凹条部24aの高さとは略同一となるように設定されている。具体的には、上側横壁部46の高さは、外側凹条部23aを構成している上部23b及び内側凹条部24aを構成している上部24bと略同一高さに設定されている。下側横壁部47の高さは、外側凹条部23aを構成している下部23c及び内側凹条部24aを構成している下部24cと略同一高さに設定されている。
上側縦壁部48は、上壁部41の左右方向中央部から上側横壁部46の左右方向中央部まで上下方向に延びるとともに、左右両側壁部43、44と略平行にクラッシュカン本体40の前端部から後端部まで延びている。上側縦壁部48によって上側空間R1が左右方向に2つに区画されている。下側縦壁部49は、下壁部42の左右方向中央部から下側横壁部47の左右方向中央部まで上下方向に延びるとともに、左右両側壁部43、44と略平行にクラッシュカン本体40の前端部から後端部まで延びている。下側縦壁部49によって下側空間R3が左右方向に2つに区画されている。
上壁部41と下壁部42とは略同じ肉厚であり、また、外側壁部43と内側壁部44とは略同じ肉厚である。さらに、上側横壁部46と下側横壁部47とは略同じ肉厚であり、また、上側縦壁部48と下側縦壁部49とは略同じ肉厚である。
変形誘起部材90は、クラッシュカン本体40の前端部に沿って上下方向に延びる本体側板部91と、バンパービーム6の後端部に沿って上下方向に延びるビーム側板部92と、脆弱部93とを備えており、脆弱部93は、変形誘起部材90の車幅方向内側にのみ設けられている。本体側板部91は、クラッシュカン本体40の前端部に対して例えば溶接等により取り付けられている。ビーム側板部92は、バンパービーム6の後端部に対して例えば溶接等により取り付けられている。
本体側板部91は、クラッシュカン本体40の前端部に沿っているので、車幅方向と略平行に延びる一方、ビーム側板部92は、バンパービーム6における傾斜した部分の後端部に沿っているので、車幅方向内側ほど前側に位置するように傾斜している。従って、ビーム側板部92は、車幅方向内側ほど本体側板部91から前後方向に離れるように配置されることになり、図8等に示すようにビーム側板部92と本体側板部91との間には空間Tが形成され、この空間Tは上下方向に開放されている。空間Tを上下方向に開放したので、後述する衝撃荷重の入力時に変形誘起部材90が前後方向に変形し易くなる。
脆弱部93は、ビーム側板部92及び本体側板部91の車幅方向内側同士を連結する板状に形成されており、ビーム側板部92及び本体側板部91の上部から下部まで連続して設けられている。また、この脆弱部93は、ビーム側板部92及び本体側板部91の間で車幅方向に屈曲している。具体的には、脆弱部93は、空間Tの内方(車幅方向外側)へ向けて屈曲している。つまり、脆弱部93は、本体側板部91の前面に固定され、前側ほど車幅方向外側に位置するように傾斜した後側板部93aと、ビーム側板部92の後面に固定され、後側ほど車幅方向外側に位置するように傾斜して上記後側板部93aの前端部と連続する前側板部93bとを有している。後側板部93aと前側板部93bとは1枚の板材をプレス成形することによって一体成形することができるが、これに限らず、2枚の板材を結合するようにしてもよい。
尚、脆弱部93は、車幅方向内側に向けて屈曲させてもよい。また、脆弱部93は、車幅方向外側へ湾曲させてもよいし、車幅方向内側へ湾曲させてもよい。脆弱部93は、複数屈曲させた形状であってもよい。また、脆弱部93は、例えば貫通孔や切欠部、薄肉部を有する板状であってもよく、クラッシュカン本体40の内側壁部44の座屈荷重よりも低い荷重で前後方向に変形するように構成されていればよい。脆弱部93が屈曲ないし湾曲していることで、後述する衝撃荷重の入力時に脆弱部93が前後方向に突っ張るようになるのを防止することができる。
また、クラッシュカン本体40の上側横壁部46、下側横壁部47、上側縦壁部48及び下側縦壁部49は省略してもよい。
(バンパービームの構成)
図1に示すように、バンパービーム6は、互いに上下方向に離れて左右方向に延びる上板部61及び下板部62と、上板部61及び下板部62の前端部同士を繋ぐように上下方向に延びる前板部63と、上板部21及び下板部22の後端部同士を繋ぐように上下方向に延びる後板部64とを有しており、全体として略矩形状に近い断面形状となっている。上板部61及び下板部62の前後方向の寸法よりも、前板部63及び後板部64の上下方向の寸法の方が長く設定されている。
バンパービーム6もクラッシュカン本体40と同様に押出成形部材とすることができるが、これに限られるものではなく、プレス成形された板材で構成されたものであってもよい。バンパービーム6は、平面視で全体として湾曲するように形成されており、車幅方向外側ほど後側に位置するような形状、即ち、車幅方向中央部が最も前に位置するような形状となっている。このようなバンパービーム6の形状は、車両デザインの関係から決定されている。また、バンパービーム6は、車幅方向外側ほど後側に位置するように平面視で傾斜した形状であってもよい。
バンパービーム6の内部には、前板部63から後板部64まで延びる上側横板部66及び下側横板部67が上下方向に互いに間隔をあけて設けられている。上側横板部66は、前板部63の上下方向中央部よりも上側の部位から後板部64の上下方向中央部よりも上側の部位まで前後方向に延びるとともに、上板部61と略平行にバンパービーム6の左端部から右端部まで延びている。下側横板部67は、前板部63の上下方向中央部よりも下側の部位から後板部64の上下方向中央部よりも下側の部位まで前後方向に延びるとともに、下板部62と略平行にバンパービーム6の左端部から右端部まで延びている。
上側横板部66及び下側横板部67により、バンパービーム6の内部が上下方向に3つの空間、即ち上側空間S1、中央空間S2及び下側空間S3に区画される。この実施形態では、上側空間S1、中央空間S2及び下側空間S3の上下方向の寸法は略同じに設定されている。上側横板部66及び下側横板部67の高さは、それぞれ、クラッシュカン本体40の上側横壁部46及び下側横壁部47の高さと略一致している。
また、前板部63及び後板部64の肉厚は、略等しくなっており、上板部61、下板部62、上側横板部66及び下側横板部67の肉厚と比較して厚く設定されている。上板部61、下板部62、上側横板部66及び下側横板部67の肉厚は略等しい。
(実施形態の作用効果)
次に、上記のように構成された車両の衝撃吸収構造1の作用効果について説明する。車両が低車速(例えば15km/h以下)で正面衝突したとき(軽衝突時)のように、前方から所定以下の衝撃荷重が入力した場合について説明する。前方からの衝撃荷重は、図示しないフロントバンパ等を介してバンパービーム6に入力し、このバンパービーム6から左側クラッシュカン4及び右側クラッシュカン5に圧縮力が作用する。尚、衝突の状況によっては、左側クラッシュカン4にのみ圧縮力が作用する場合や、右側クラッシュカン5にのみ圧縮力が作用する場合がある。
左側クラッシュカン4及び右側クラッシュカン5は、左側フロントサイドフレーム2及び右側フロントサイドフレーム3に取り付けられているので、バンパービーム6と、左側フロントサイドフレーム2及び右側フロントサイドフレーム3との間で圧縮力を受ける。このとき、左側フロントサイドフレーム2の前端部における上部には稜線部2a、2bが形成され、また、下部には稜線部2c、2dが形成されていて、左側フロントサイドフレーム2の前端部における上部及び下部には平板な部分に比べて強度の高い部分が2箇所ずつ存在することになり、これにより、フロントサイドフレーム2の前端部における上部及び下部の強度が高まっている。
一方、クラッシュカン本体40も左側フロントサイドフレーム2の前端部と同様に上部及び下部に稜線部4a、4b、4c、4dが形成されているので、クラッシュカン本体40の上部及び下部の強度が高まっている。しかも、クラッシュカン本体40の上部の強度は、上側横壁部46及び上側縦壁部48によって更に高まっており、また、クラッシュカン本体40の下部の強度も、下側横壁部47及び下側縦壁部49によって更に高まっている。
そして、左側フロントサイドフレーム2の各板部21〜24の前端部と、クラッシュカン本体40の各壁部41〜44の後端部とがそれぞれ重複することで、左側フロントサイドフレーム2の上部の強度の高い部分と、クラッシュカン本体40の上部の強度の高い部分とが対応する位置関係になるとともに、左側フロントサイドフレーム2の下部の強度の高い部分と、クラッシュカン本体40の下部の強度の高い部分とも対応する位置関係になる。
これにより、バンパービーム6を介して左側クラッシュカン4に衝撃荷重が入力した際に、クラッシュカン本体40の後端部を左側フロントサイドフレーム2の前端部で強固に、かつ、安定的に支持することが可能になるので、左側クラッシュカン4が意図しない方向に変位してしまうのが抑制され、左側クラッシュカン4がバンパービーム6と左側フロントサイドフレーム2との間で潰れ変形して所期のエネルギ吸収性能が発揮される。右側クラッシュカン5も同様である。
また、例えばバンパービーム6の車幅方向中間部に衝突荷重が入力された場合に、バンパービーム6における湾曲ないし傾斜した部分が左側クラッシュカン4の前端部に取り付けられているので、変形開始の初期段階では、左側クラッシュカン4の内側に対して外側よりも早期に荷重が入力する。この荷重入力時、変形誘起部材90の車幅方向内側には脆弱部93が設けられていて車幅方向内側が弱くなっているので、左側クラッシュカン4の車幅方向内側が変形しやすくなる。このとき、変形誘起部材90はクラッシュカン本体40とは別部材であることから、クラッシュカン本体40によるエネルギ吸収性能を犠牲にすることなく、左側クラッシュカン4の車幅方向内側の変形を狙い通りに誘起して左側クラッシュカン4を潰れ変形させることが可能になる。これにより、左側フロントサイドフレーム2の車幅方向内側に対して大きな荷重が伝達するのが抑制されるので、左側フロントサイドフレーム2の車幅方向内側の変形が抑制される。右側クラッシュカン5も同様である。
以上より、軽衝突時における左側フロントサイドフレーム2及び右側フロントサイドフレーム3の変形が抑制される。
(その他の実施形態)
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
上記実施形態では、左側フロントサイドフレーム2及び右側フロントサイドフレーム3がプレス成形された板材で構成されている場合について説明したが、これに限らず、押出成形部材で構成されていてもよい。