本発明は、機関からの動力を伝達するための動力伝達装置に関する。この動力伝達装置は、機関と接続された第1差動機構と、該第1差動機構に接続された第2差動機構と、第1差動機構に関して設けられた第1係合部と、第1差動機構の1つの回転要素と第2差動機構の1つの回転要素とを解放可能に連結することができる第2係合部とを備える。第1差動機構は、機関と接続された第1回転要素と、第2回転要素と、第3回転要素とを備え、好ましくは、遊星歯車機構(第1遊星歯車機構)である。第2差動機構は、第4回転要素と、第5回転要素と、第6回転要素とを備える。第4回転要素は第1差動機構の第2回転要素に接続され、第5回転要素は第1回転電機と接続され、第6回転要素は第2差動機構の出力要素である。以下に説明される実施形態では、この第6回転要素は車輪および第2回転電機に接続される。この第2差動機構は、遊星歯車機構(第2遊星歯車機構)であるとよい。なお、第1遊星歯車機構はシングルピニオン式の遊星歯車機構であってもよく、ダブルピニオン式の遊星歯車機構であってもよい。これは、第2遊星歯車機構においても同様である。
第1係合部は、第1回転要素、第2回転要素および第3回転要素のうちの2つを互いに解放可能に連結するように構成された係合部、および、第3回転要素と静止要素とを解放可能に連結するように構成された係合部のうちいずれか一方である。一方、第2係合部は、第1差動機構の第3回転要素と、第2差動機構の第5回転要素および第6回転要素のいずれか一方とを解放可能に連結することができる。そして、本発明の好ましい態様では、第1および第2差動機構を介しての、特に、第2差動機構を介しての、機関の動力の第5回転要素(具体的には第1回転電機)と第6回転要素(つまり第2差動機構の出力要素)への動力分割比を変えるように、第1係合部と第2係合部とはそれぞれ以下に説明するように(係合状態と解放状態(非係合状態)とに選択的になるように)作動することができる。
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1から図7を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態は、機関(以下、エンジン)からの動力を伝達するための動力伝達装置TM1に関し、以下に説明するように車両100に適用されている。
本実施形態に係る車両100は、図1に示すように、動力源つまり原動機としてエンジン1、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両100は、外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)車両であってもよい。図1および図2に示すように、車両100は、エンジン1、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、クラッチ(第1クラッチ)CL1、クラッチ(第2クラッチ)CLr、ブレーキBL1、差動装置30、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジンECU70を含んで構成されている。特に、エンジン1および2つの回転電機MG1、MG2と駆動輪Wとの間には、本第1実施形態の動力伝達装置TM1が組み込まれている。この動力伝達装置TM1は、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第1クラッチCL1、第2クラッチCLr、ブレーキBL1を含む。
エンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを出力軸の回転運動に変換して出力する内燃機関である。エンジン1の出力軸は、動力伝達装置TM1の入力軸2と接続されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸と同軸上かつ該出力軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第1遊星歯車機構10の第1サンギア11と接続されている。
第1遊星歯車機構10は、エンジン1と接続され、エンジン1の回転を伝達する第1差動機構として車両100に搭載されている。第1遊星歯車機構10は、入力側差動機構であり、エンジン1との間に第2遊星歯車機構20を挟んで配置されている。第1遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第1サンギア11、第1ピニオンギア12、第1リングギア13および第1キャリア14を有する。なお、本第1実施形態では、第1サンギア11は第1回転要素に相当し、第1リングギア13は第3回転要素に相当し、第1キャリア14は第2回転要素に相当する。
第1サンギア11は、入力軸2と連結されており、入力軸2と一体回転する。第1リングギア13は、第1サンギア11と同軸上であってかつ第1サンギア11の径方向外側に配置されている。第1ピニオンギア12は、第1サンギア11と第1リングギア13との間に配置されており、第1サンギア11および第1リングギア13とそれぞれ噛み合っている。第1ピニオンギア12は、第1キャリア14によって回転自在に支持されている。第1ピニオンギア12は、第1キャリア14と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第1キャリア14によって支持されて第1ピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
第1クラッチCL1は、第1サンギア11と第1キャリア14とを解放可能に連結するように構成された係合装置(係合部)である。第1クラッチCL1は、例えば、摩擦係合式のクラッチとすることができるが、これに限られない。本実施形態では、第1クラッチCL1は、油圧によって制御されて係合(完全係合を含む)あるいは解放する。完全係合状態(以下、単に、係合状態と称し得る)の第1クラッチCL1は、第1サンギア11と第1キャリア14とを連結し、第1サンギア11と第1キャリア14とを一体回転させることができる。完全係合状態の第1クラッチCL1は、第1遊星歯車機構10の差動を規制する。一方、解放状態(非係合状態)の第1クラッチCL1は、第1サンギア11と第1キャリア14とを切り離し、第1サンギア11と第1キャリア14との相対回転を許容する。つまり、解放状態の第1クラッチCL1は、第1遊星歯車機構10の差動を許容する。なお、第1クラッチCL1は、半係合状態であるスリップ状態に制御可能である。スリップ状態の第1クラッチCL1は、第1遊星歯車機構10の差動を許容する。
ブレーキBL1は、第1リングギア13の回転を規制することができる、係合装置(係合部)としてのブレーキ装置である。ブレーキBL1および上記第1クラッチCL1の少なくとも一方が本発明の第1係合部に相当する。ブレーキBL1は、第1リングギア13に接続された係合要素と、車体側、例えば動力伝達装置のケース(静止要素)に接続された係合要素とを有し、第1リングギア13とケースとを解放可能に連結することができる。ブレーキBL1には、第1クラッチCL1と同様の摩擦係合式のクラッチ装置を用いることができるが、これに限られない。本実施形態では、ブレーキBL1は、油圧によって制御されて係合(完全係合を含む)あるいは解放する。完全係合状態(以下、単に、係合状態と称し得る)のブレーキBL1は、第1リングギア13と車体側つまり静止要素とを連結し、第1リングギア13の回転を規制することができる。他方、解放状態(非係合状態)のブレーキBL1は、第1リングギア13と静止要素とを切り離し、第1リングギア13の回転を許容する。なお、ブレーキBL1は、半係合状態であるスリップ状態に制御可能である。スリップ状態のブレーキBL1は、第1リングギア13の回転を許容する。
第1実施形態の第2遊星歯車機構20は、第1遊星歯車機構10と駆動輪Wとを接続する第2差動機構として車両100に搭載されている。第2遊星歯車機構20は、第1遊星歯車機構10と同軸上に、かつ第1遊星歯車機構10よりもエンジン側に配置されている。第2遊星歯車機構20は、第1遊星歯車機構10よりも駆動輪W側に配置された出力側差動機構である。第2遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第2サンギア21、第2ピニオンギア22、第2リングギア23および第2キャリア24を有する。なお、第1実施形態では、第2サンギア21は第5回転要素に相当し、第2リングギア23は第6回転要素に相当し、第2キャリア24は第4回転要素に相当する。
第2リングギア23は、第2サンギア21と同軸上であってかつ第2サンギア21の径方向外側に配置されている。第2ピニオンギア22は、第2サンギア21と第2リングギア23との間に配置されており、第2サンギア21および第2リングギア23とそれぞれ噛み合っている。第2ピニオンギア22は、第2キャリア24によって回転自在に支持されている。第2キャリア24は、第1遊星歯車機構10の第1キャリア14と接続されており、第1キャリア14と一体回転する。第2ピニオンギア22は、第2キャリア24と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第2キャリア24によって支持されて第2ピニオンギア22の中心軸線周りに回転(自転)可能である。第1キャリア14は、第1遊星歯車機構10の出力要素であり、エンジン1から第1遊星歯車機構10に入力された回転を第2キャリア24に出力することができる。
第2サンギア21には第1回転電機MG1のロータ軸33が接続されている。第1回転電機MG1のロータ軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第2サンギア21に接続されていて、第2サンギア21と一体回転する。第2リングギア23には、カウンタドライブギア25が接続されている。カウンタドライブギア25は、第2リングギア23と一体回転する。第2リングギア23は、第1回転電機MG1あるいは第1遊星歯車機構10から入力された回転を駆動輪Wおよび第2回転電機MG2に出力することができる出力要素である。
第2クラッチCLrは、第1リングギア13と第2サンギア21とを解放可能に連結するように構成されており、本発明の第2係合部に相当する。なお、第2係合部としての第2クラッチCLrは、以下の説明から明らかなように、動力伝達装置TM1の第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20とにおける動力分割比を可変とする切替装置として機能する。第2クラッチCLrは、例えば、摩擦係合式のクラッチとすることができるが、これに限られない。本実施形態では、第2クラッチCLrは、第1回転電機MG1の内径側に配置されている。本実施形態では、第2クラッチCLrは、油圧によって制御されて係合(完全係合を含む)あるいは解放する。完全係合状態(以下、単に、係合状態と称し得る)の第2クラッチCLrは、第1リングギア13と第2サンギア21とを連結し、第1リングギア13と第2サンギア21とを一体回転させることができる。これにより、第2遊星歯車機構20のギア比に対応する動力分割比と異なる動力分割比で、後述するハイブリッドモード(HVモード)においてエンジン1からの動力を第1回転電機MG1側と車輪側とに分割することができる。一方、解放状態(非係合状態)の第2クラッチCLrは、第1リングギア13と第2サンギア21とを切り離し、第2遊星歯車機構20のギア比に対応する動力分割比で、第1遊星歯車機構10から第2遊星歯車機構20に入力されたエンジン1からの動力の分割を行うことを可能にする。なお、第2クラッチCLrは、半係合状態であるスリップ状態に制御可能である。
カウンタドライブギア25は、カウンタドリブンギア26と噛み合っている。カウンタドリブンギア26は、カウンタシャフト27を介してドライブピニオンギア28と接続されている。また、カウンタドリブンギア26には、リダクションギア35が噛み合っている。リダクションギア35は、第2回転電機MG2のロータ軸34に接続されている。つまり、第2回転電機MG2の回転は、リダクションギア35を介してカウンタドリブンギア26に伝達される。リダクションギア35は、カウンタドリブンギア26よりも小径であり、第2回転電機MG2の回転を減速してカウンタドリブンギア26に伝達する。
ドライブピニオンギア28は、差動装置30のデフリングギア29と噛み合っている。差動装置30は、左右の駆動軸31を介して駆動輪Wと接続されている。
このように、第2リングギア23は、カウンタドライブギア25、カウンタドリブンギア26、カウンタシャフト27、ドライブピニオンギア28、差動装置30および駆動軸31を介して駆動輪Wと接続されている。また、第2回転電機MG2は、第2リングギア23と駆動輪Wとの駆動力の伝達経路に対して接続されており、第2リングギア23および駆動輪Wに対してそれぞれ動力(駆動力)を伝達可能である。
第1回転電機MG1および第2回転電機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第1回転電機MG1および第2回転電機MG2は、それぞれインバーターを介してバッテリと接続されている。第1回転電機MG1および第2回転電機MG2は、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転電機MG1、MG2によって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。第1回転電機MG1および第2回転電機MG2としては、例えば、永久磁石式の三相交流同期モータジェネレータを用いることができるが、流体モータなどの他の種類の回転機であっても良い。
図2に示すように、車両100は、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジンECU70を有する。各ECU50、60、70は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。HV_ECU50は、車両100全体を統合制御する機能を有している。MG_ECU60およびエンジンECU70は、それぞれ、HV_ECU50と電気的に接続されている。なお、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジンECU70は、実質的に、全体として1つの電子制御ユニット(制御装置)として構成されていてもよい。
MG_ECU60は、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2を制御することができる。MG_ECU60は、例えば、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2に対して供給する電流の周波数を制御して回転数を制御し、また電流値を調節して出力トルクを制御することができる。
エンジンECU70は、エンジン1を制御することができる。エンジンECU70は、例えば、エンジン1の電子スロットル弁の開度を制御すること、点火信号を出力してエンジン1の点火制御を行うこと、エンジン1に対する燃料の噴射制御等を行うことができる。エンジンECU70は、電子スロットル弁の開度制御、点火制御、噴射制御等によりエンジン1の出力トルクを制御することができる。
HV_ECU50には、車速センサ、アクセル開度センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、出力軸回転数センサ、バッテリセンサ等が接続されている。これらのセンサにより、HV_ECU50は、車速、アクセル開度、第1回転電機MG1の回転数、第2回転電機MG2の回転数、動力伝達装置TM1の出力軸(カウンタシャフト27)の回転数、バッテリ充電状態SOC等を取得することができる。
HV_ECU50は、取得した情報に基づいて、車両100に対する要求駆動力や要求パワー、要求トルク等を算出することができる。HV_ECU50は、算出した要求値に基づいて、第1回転電機MG1の出力トルク(MG1トルク)、第2回転電機MG2の出力トルク(MG2トルク)およびエンジン1の出力トルク(エンジントルク)を決定し、それらによる総合的な出力トルクを決定する。HV_ECU50は、MG1トルクの指令値およびMG2トルクの指令値をMG_ECU60に対して出力する。また、HV_ECU50は、エンジントルクの指令値をエンジンECU70に対して出力する。
HV_ECU50は、第1クラッチCL1、第2クラッチCLr、ブレーキBL1のそれぞれの制御部としての機能を有し、後述する走行モード等の選択に基づいて、第1クラッチCL1、第2クラッチCLr、ブレーキBL1の各状態(つまり供給油圧)をそれぞれ制御する。HV_ECU50は、第1クラッチCL1に対する供給油圧(係合圧)P_CL1の指令値、第2クラッチCLrに対する供給油圧(係合圧)P_CLrの指令値、ブレーキBL1に対する供給油圧(係合油圧)P_BL1の指令値をそれぞれ出力する。図示しない油圧制御装置は、各係合油圧P_CL1、P_CLr、P_BL1の指令値に応じてクラッチCL1、CLr、およびブレーキBL1のそれぞれに対する供給油圧を制御する。特に、クラッチCL1、CLr、およびブレーキBL1のそれぞれに対する供給油圧の制御については、HV_ECU50は、予め実験に基づいて定められたプログラムやデータ等を有していて、これらプログラムやデータ等に基づいてそれらの供給油圧の制御を実行する。特に、これらのプログラムやデータ等は、第1および第2回転電機MG1、MG2の性能や、後述する走行モードにおける運転特性を考慮して、定められている。そして、HV_ECU50は、車両の運転状態(例えばアクセル開度)などに基づいて、最適な走行モードを選択し、クラッチCL1、CLr、およびブレーキBL1のそれぞれに対する供給油圧を制御する。
車両100では、ハイブリッド(HV)走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。HV走行とは、エンジン1を動力源として車両100を走行させる走行モードである。HV走行では、エンジン1に加えて、更に第2回転電機MG2を動力源としてもよい。EV走行は、第1回転電機MG1あるいは第2回転電機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する走行モードである。EV走行では、エンジン1を停止して走行することが可能である。
本実施形態において、車両100は、EV走行モードとして、第2回転電機MG2を単独の動力源として車両100を走行させる単独モータEVモードと、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2を動力源として車両100を走行させる両モータEVモードとを有する。以下、まず、これらのEV走行モードを説明する。
図3の作動係合表において、第1クラッチCL1の欄、ブレーキBL1の欄および第2クラッチCLrの欄の丸印は、係合(係合状態)を示し、空欄は解放(解放状態または非係合状態)を示す。また、三角印は、第1クラッチCL1あるいは第2クラッチCLrのいずれかを係合し、他方を解放することを示す。また、以下に説明される図4、図10、図13、図16の共線図において、白四角印は第1回転電機MG1が接続されている回転要素を示し、黒丸印は第2回転電機MG2に接続されている回転要素(つまり第2遊星歯車機構20の出力要素)を示し、白丸はエンジン1に接続されている回転要素を示し、矢印はそれらの出力トルク(動力)を表す。これら共線図において、クラッチCL1が白抜きで示されたものは解放、ハッチングで示されたものは係合を表す。さらに、それら共線図では、第1遊星歯車機構10に関するラインが実線で示され、第2遊星歯車機構20に関するラインが破線で示される。
図4(A)は、単独モータEVモードに係る共線図である。共線図において、符号S1、C1、R1は、それぞれ第1サンギア11、第1キャリア14、第1リングギア13を示し、符号S2、C2、R2は、それぞれ第2サンギア21、第2キャリア24、第2リングギア23を示す。
単独モータEVモードでは、第1クラッチCL1、ブレーキBL1、第2クラッチCLrが解放している。ブレーキBL1が解放していることで、第1リングギア13の回転が許容され、クラッチCL1が解放していることで、第1遊星歯車機構10は差動可能である。HV_ECU50は、MG_ECU60を介して第2回転電機MG2に正トルクを出力させて車両100に前進方向の駆動力を発生させる。第2リングギア23は、駆動輪Wの回転と連動して正回転する。ここで、正回転とは、車両100の前進時の第2リングギア23の回転方向とする。第1キャリア14は、第2キャリア24に連れ回り正回転する。第1および第2遊星歯車機構10、20では、第1クラッチCL1、第2クラッチCLrおよびブレーキBL1のそれぞれが解放されたニュートラルの状態であるため、エンジン1および第1回転電機MG1は連れ回されず、第1サンギア11および第2サンギア21はそれぞれ回転を停止する。
単独モータEVモードでの走行時に、バッテリの充電状態がフルとなり、回生エネルギーが取れない場合が発生し得る。この場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。第1クラッチCL1または第2クラッチCLrを係合することで、エンジン1を駆動輪Wと接続し、エンジンブレーキを駆動輪Wに作用させることができる。図3に三角印で示すように、単独モータEVモードで第1クラッチCL1または第2クラッチCLrを係合すると、エンジン1を連れ回し状態とし、第1回転電機MG1でエンジン回転数を上げてエンジンブレーキ状態とすることができる。
両モータEVモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1およびブレーキBL1を係合する(第2クラッチCLrが解放している)。図4(B)は、両モータEVモードに係る共線図である。クラッチCL1が係合することで、第1遊星歯車機構10の差動は規制され、ブレーキBL1が係合することで、第1リングギア13の回転が規制される。したがって、第1遊星歯車機構10の全回転要素の回転が停止する。出力要素である第1キャリア14の回転が規制されることで、これと接続された第2キャリア24が0回転にロックされる。
HV_ECU50は、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2にそれぞれ走行駆動用のトルクを出力させる。第2キャリア24は、回転が規制されていることで、第1回転電機MG1のトルクに対して反力を取り、第1回転電機MG1のトルクを第2リングギア23から出力させることができる。第1回転電機MG1は、前進時に負トルクを出力して負回転することで、第2リングギア23から正のトルクを出力させることができる。一方、後進時には、第1回転電機MG1は、正トルクを出力して正回転することで、第2リングギア23から負のトルクを出力させることができる。
第1実施形態のHV走行には、第1HVモード(オーバードライブ(O/D)インプットスプリットモード)と、第2HVモード(アンダードライブ(U/D)インプットスプリットモード)と、第3HVモード(固定段モード)とがある。
まず、第1HVモードについて説明する。第1HVモードでのHV走行では、第2遊星歯車機構20は差動状態を基本とし、変速部の第1遊星歯車機構10は、ロー(Lo)/ハイ(Hi)の切り替えがなされる。図4(C)は、第1HVモードでのHV走行における、ロー状態の走行モード(第1ODLoモード)に係る共線図、図4(D)は、第1HVモードでのHV走行における、ハイ状態の走行モード(第1ODHiモード)に係る共線図である。なお、第1HVモードでは、第2クラッチCLrは解放される(非係合状態にされる)。
第1ODLoモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を解放し、ブレーキBL1を係合する(第2クラッチCLrを解放する)。ブレーキBL1が係合することにより、第1リングギア13の回転が規制される。エンジンの出力は第1キャリア14から第2キャリア24に伝達される。第2キャリア24に入力された(エンジン1の)回転は、第2遊星歯車機構20で増速されて第2リングギア23から出力されるオーバードライブ(O/D)状態となる。
第1ODHiモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を係合し、ブレーキBL1を解放する(第2クラッチCLrを解放する)。第1クラッチCL1が係合することにより、第1遊星歯車機構10は差動が規制され、第1遊星歯車機構10の第1サンギア11、第1リングギア13、第1キャリア14が一体回転する。第1実施形態では、第1遊星歯車機構10の第1キャリア14と第2遊星歯車機構20の第2キャリア24とが接続されているので、エンジン1の回転は第2遊星歯車機構20で増速されて第2リングギア23から出力されるオーバードライブ(O/D)状態となる。
第1HVモードの後進走行では、第1ODHiモードと同様に、HV_ECU50は、クラッチCL1を係合し、ブレーキBL1を解放する(クラッチCLrを解放する)。図4(E)の共線図に示すように、エンジン1を作動させ、第1回転電機MG1を回生させ、第2電動機MG2を負回転・負トルクで力行させることで、第2リングギヤ23を逆回転させることができる。
次に、第2HVモードについて説明する。図4(F)は、第2HVモードに係る共線図である。第2HVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1とブレーキBL1とを共に解放し、第2クラッチCLrを係合する。第2クラッチCLrが係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20との間では、第1キャリア14と第2キャリア24とが接続されていることに加えて、第1リングギア13と第2サンギア21とが連結されて接続状態になる。これにより、図4(F)の共線図では、第1遊星歯車機構10に関するライン(実線)と第2遊星歯車機構20に関するライン(破線)とが重なり、1本のラインが存在するようになる。つまり、図4(A)〜図4(E)の共線図では第1遊星歯車機構10に関するラインと第2遊星歯車機構20に関するラインとの2本のラインが存在した。そして、特に図4(C)〜図4(E)の第1HVモードでは、第1遊星歯車機構10を介して第2遊星歯車機構20の第2キャリア24に入力されたエンジン1からの動力は、第2遊星歯車機構20の回転要素のギア歯数に応じた第1動力分割比(ギア比)で、第1回転電機MG1(つまり第2サンギア21)と第2遊星歯車機構の出力要素(つまり第2リングギア23)とに分割された。これに対して、第2HVモードでは、図4(F)から理解できるように、第1HVモードとは異なる第2動力分割比(第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20との回転要素のギア歯数に応じた動力分割比)で、エンジン1からの動力を第2サンギア21と第2リングギア23とに分割することができる。第2HVモードでは、エンジン1の回転は、減速されて第2リングギア23から出力されるアンダードライブ(U/D)状態となる。なお、後進は、第1回転電機MG1を逆回転することで可能になる。
次に、第3HVモードについて説明する。図4(G)は直結固定段モードに係る共線図であり、図4(H)はアンダードライブ(U/D)固定段モードに係る共線図である。直結固定段モードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1および第2クラッチCLrを共に係合し、ブレーキBL1を解放する。第1および第2クラッチCL1、CLrを係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20とは共に差動が規制される。それにより、エンジン1の出力を第2リングギア23から直接出力することができる。
アンダードライブ(U/D)固定段モードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を解放し、ブレーキBL1および第2クラッチCLrを共に係合する。ブレーキBL1が係合することにより第1リングギア13の回転が規制される。第2クラッチCLrが係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20との間では、第1キャリア14と第2キャリア24とが接続されていることに加えて、第1リングギア13と第2サンギア21とが連結されて接続状態になる。したがって、エンジン1の回転は減速されて第2リングギア23から出力されるアンダードライブ(U/D)状態となる。なお、アンダードライブ(U/D)固定段モードは、登坂時やトーイング時などに有利である。第1回転電機MG1が過熱し難いためである。それ故、このアンダードライブ(U/D)固定段モードは、第2回転電機MG2をアシストして、加速力を高めたいときに有利である。
以上述べたように、第2クラッチCLrを非係合状態にして第1クラッチCL1またはブレーキBL1を係合状態にする第1HVモードと、第2クラッチCLrを係合状態にして第1クラッチCL1およびブレーキBL1を共に非係合状態にする第2HVモードとで、動力伝達装置TM1における動力分割比を変えることができる。よって、これらの第1および第2HVモードを好適に選択設定することで、第1回転電機MG1のトルクおよび回転を第1回転電機の特性(性能)に適したように制御することができる。
図5に示されるように、第1HVモード(O/D)及び第2HVモード(U/D)の夫々におけるトルク比率(Tg/Te)の絶対値は、減速比(Ne/No)によらず一定である。
他方、図6に示されるように、動力伝達装置の減速比(Ne/No)が比較的大きな領域aでは、第2HVモード(U/D)の方が第1HVモード(O/D)よりも回転速度比率(Ng/Ne)の絶対値が小さい。従って、減速比の比較的大きな領域aでは第2HVモード(U/D)を成立させることで、MG1回転速度Ngの増大を抑制できる。一方で、減速比が比較的小さな領域bでは、第1HVモード(O/D)の方が第2HVモード(U/D)よりも回転速度比率(Ng/Ne)の絶対値が小さい。従って、減速比の比較的小さな領域bでは第1HVモード(O/D)を成立させることで、MG1回転速度Ngの増大を抑制できる。
出力比率(Pg/Pe)は、トルク比率(Tg/Te)と回転速度比率(Ng/Ne)の積である。したがって、図7に示されるように、減速比の比較的大きな領域cでは、第2HVモード(U/D)の方が第1HVモード(O/D)よりも出力比率(Pg/Pe)の絶対値が小さい。従って、減速比の比較的大きな領域cでは第2HVモード(U/D)を成立させることで、MG1出力Pgの増大を抑制できる。一方で、減速比が比較的小さな領域dでは、第1HVモード(O/D)の方が第2HVモード(U/D)よりも出力比率(Pg/Pe)の絶対値が小さい。従って、減速比の比較的小さな領域dでは第1HVモード(O/D)を成立させることで、MG1出力の増大を抑制できる。
そのため、減速比に応じて出力比率(Pg/Pe)の相対的に小さいHVモードを選択して設定することで、MG1出力の増大を抑制でき、MG1回転数あるいはMG1トルクの増加を抑制でき、MG1の定格回転数あるいはMG1定格トルクの増大を抑制できる。
第1実施形態では、第1HVモードと、第2HVモードとで動力分割比を可変とするように、第1遊星歯車機構10および第2遊星歯車機構20はそれぞれ設計または選択されている。これは、共線図において、第1および第2キャリア14、24に係る縦線と、第2リングギア23に係る線とが互いに対してずれていることや、図1において各回転要素の大きさや位置などの相対関係から理解できるであろう。なお、第1HVモードと第2HVモードとで動力分割比を可変とする設計または選択は、後述する他の実施形態においても同様に行われている。
さらに、第1HVモードと、第2HVモードとでオーバードライブ状態と、アンダードライブ状態とを切り換えるので、動力伝達装置TM1は変速機としての変速比幅を拡大することを可能にする。
なお、第1実施形態では、第1HVモードは低負荷または高速運転で選択されるとよく、第2HVモードは高負荷運転で選択されるとよく、それにより第1回転電機MG1のトルクや回転数の増加を抑制するとよい。この関係に基づいてHV_ECU50の上記プログラム等は構築されているとよい。
[第2実施形態]
図8から図10を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、エンジンからの動力を伝達するための動力伝達装置TM2に関し、第1実施形態と同様に車両200に適用されている。以下の説明では、第1実施形態の説明において既に説明した構成要素と同様の機能を有する構成要素には、同様の符号を付して重複説明を省略する。また、以下では、第1実施形態の説明を参照することにより当業者であれば明らかである点については説明を省略または簡潔に行い、第2実施形態の特徴的な構成および機能について主として説明する。なお、第1実施形態において説明されたような修正および変更は、矛盾しない限り、第2実施形態にも同様に適用される。
第2実施形態に係る車両200は、図8に示すように、エンジン1、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両200は、エンジン1、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、クラッチ(第1クラッチ)CL1、クラッチ(第2クラッチ)CLr、ブレーキBL1、差動装置30、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジンECU70を含んで構成されている。動力伝達装置TM2は、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第1クラッチCL1、第2クラッチCLr、ブレーキBL1を含む。
エンジン1の出力軸は、動力伝達装置TMの入力軸2と接続されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸と同軸上かつ該出力軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第1遊星歯車機構10の第1サンギア11と接続されている。
第1差動機構としての第1遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第1サンギア11、第1ピニオンギア12、第1リングギア13および第1キャリア14を有する。なお、第2実施形態では、第1サンギア11は第1回転要素に相当し、第1リングギア13は第2回転要素に相当し、第1キャリア14は第3回転要素に相当する。
第1クラッチCL1は、第1サンギア11と第1キャリア14とを解放可能に連結可能なクラッチ装置である。ブレーキBL1は、第1キャリア14の回転を規制することができるように第1キャリア14と静止要素とを解放可能に連結可能なブレーキ装置である。
第2差動機構としての第2遊星歯車機構20は、第1遊星歯車機構10と同軸上に、かつ第1遊星歯車機構10よりもエンジン側に配置されている。第2遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第2サンギア21、第2ピニオンギア22、第2リングギア23および第2キャリア24を有する。第2キャリア24は、第1リングギア13と接続されており、第1リングギア13と一体回転する。なお、第2実施形態では、第2サンギア21は第5回転要素に相当し、第2リングギア23は第6回転要素に相当し、第2キャリア24は第4回転要素に相当する。
第2サンギア21には第1回転電機MG1のロータ軸33が接続されている。第1回転電機MG1のロータ軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第2サンギア21に接続されていて、第2サンギア21と一体回転する。第2リングギア23には、カウンタドライブギア25が接続されている。カウンタドライブギア25は、第2リングギア23と一体回転する出力ギアである。第2リングギア23は、第1回転電機MG1あるいは第1遊星歯車機構10から入力された回転を駆動輪Wおよび第2回転電機MG2に出力することができる出力要素である。
第2クラッチCLrは、第1遊星歯車機構10の第1キャリア14と第2遊星歯車機構20の第2リングギア23とを解放可能に連結可能なクラッチ装置である。
カウンタドライブギア25は、カウンタドリブンギア26と噛み合っている。カウンタドライブギア25と、駆動輪Wおよび第2回転電機MG2の各々との間の構成は、第1実施形態で説明した通りである。
車両200では、HV走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。各走行モードでの第1クラッチCL1、ブレーキBL1および第2クラッチCLrの各状態を、図9の作動係合表に示す。
図10(A)は、単独モータEVモードに係る共線図である。単独モータEVモードでは、第1クラッチCL1、ブレーキB1、第2クラッチCLrが解放している。HV_ECU50は、MG_ECU60を介して第2回転電機MG2に正トルクを出力させて車両100に前進方向の駆動力を発生させる。
図10(B)は、両モータEVモードに係る共線図である。両モータEVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1およびブレーキBL1を係合する(第2クラッチCLrが解放している)。第1クラッチCL1およびブレーキBL1が係合することで、第1遊星歯車機構10の全回転要素の回転が停止する。HV_ECU50は、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2にそれぞれ走行駆動用のトルクを出力させる。
第2実施形態のHV走行には、第1HVモード(オーバードライブ(O/D)インプットスプリットモード)と、第2HVモード(アンダードライブ(U/D)インプットスプリットモード)と、第3HVモード(固定段モード)とがある。
まず、第1HVモードについて説明する。第1HVモードでは、第2クラッチCLrは解放状態(非係合状態)にされる。図10(C)は、第1HVモードでのHV走行における前進時の共線図であり、図10(D)は、第1HVモードでのHV走行における後進時の共線図である。
前進時の第1HVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を係合し、ブレーキBL1を解放する。第1クラッチCL1が係合することにより、第1遊星歯車機構10の差動は規制される。第2実施形態では、第1遊星歯車機構10の第1リングギア13と第2遊星歯車機構20の第2キャリア24とが接続されているので、エンジン1の回転は第2遊星歯車機構20で増速されて第2リングギア23から出力されるオーバードライブ(O/D)状態となる。
後進時の第1HVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を解放し、ブレーキBL1を係合する。ブレーキBL1が係合することにより、第1キャリア14の回転が規制される。エンジンの出力は第1リングギア13から第2キャリア24に伝達される。第2キャリア24に入力された(エンジン1の)逆回転(後進用回転)は、第2遊星歯車機構20で(後進側に)増速されて第2リングギア23から出力されるオーバードライブ(O/D)状態となる。このように、第2実施形態の第1HVモードは、第1遊星歯車機構10から出力されるときに、既に後進側の回転になっているので、後進に適している。
次に、第2HVモードについて説明する。図10(E)は、第2HVモードに係る共線図である。第2HVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1とブレーキBL1とを共に解放し、第2クラッチCLrを係合する。第2クラッチCLrが係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20との間では、第1リングギア13と第2キャリア24とが接続されていることに加えて、第1キャリア14と第2リングギア23とが接続状態になる。これにより、図10(E)の共線図では1本のラインが存在するようになる。つまり、第1HVモードとは異なるギア比(動力分割比)で、第2HVモードでは、エンジン1からの動力を第2サンギア21と第2リングギア23とに分割することができる。第2HVモードでは、エンジン1の回転は、減速されて第2リングギア23から出力されるアンダードライブ(U/D)状態となる。なお、後進は、回転電機を逆回転することで可能になる。
次に、第3HVモードについて説明する。図10(F)は直結固定段モードに係る共線図であり、図10(G)は出力軸固定段モードに係る共線図である。直結固定段モードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1および第2クラッチCLrを共に係合し、ブレーキBL1を解放する。第1および第2クラッチCL1、CLrを係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20とは共に差動が規制される。それにより、エンジン1の出力を第2リングギア23から直接出力することができる。
出力軸固定段モードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を解放し、ブレーキBL1および第2クラッチCLrを共に係合する。ブレーキBL1が係合することにより、第1キャリア14の回転が規制される。第2クラッチCLrが係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20との間では、第1リングギア13と第2キャリア24とが接続されていることに加えて、第1キャリア14と第2リングギア23とが接続状態になる。したがって、第2リングギア23の回転は規制されて、エンジン1からの動力で第1回転電機MG1において専ら充電することができる。したがって、この出力軸固定段モードを充電モードと称することができる。さらに、出力回転要素である第2リングギア23に影響することなく、エンジン1を始動することもできる。
以上述べたように、第2クラッチCLrを非係合状態にして第1クラッチCL1またはブレーキBL1を係合状態にする第1HVモードと、第2クラッチCLrを係合状態にして第1クラッチCL1およびブレーキBL1を共に非係合状態にする第2HVモードとで、動力伝達装置TM2における動力分割比を変えることができる。なお、第2実施形態では、第1HVモードは低負荷または高速運転で選択されるとよく、第2HVモードは高負荷運転で選択されるとよく、それにより第1回転電機MG1のトルクや回転数の増加を抑制するとよい。
[第3実施形態]
図11から図13を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態は、エンジンからの動力を伝達するための動力伝達装置TM3に関し、上述の実施形態と同様に車両300に適用されている。以下の説明では、上述の実施形態の説明において既に説明した構成要素と同様の機能を有する構成要素には、同様の符号を付して重複説明を省略する。また、以下では、上述の実施形態の説明を参照することにより当業者であれば明らかである点については説明を省略または簡潔に行い、第3実施形態の特徴的な構成および機能について主として説明する。なお、上述の実施形態において説明されたような修正および変更は、矛盾しない限り、第3実施形態にも同様に適用される。
第3実施形態に係る車両300は、図11に示すように、エンジン1、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両300は、エンジン1、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、クラッチ(第1クラッチ)CL1、クラッチ(第2クラッチ)CLr、ブレーキBL1、差動装置30、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジンECU70を含んで構成されている。動力伝達装置TM3は、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第1クラッチCL1、第2クラッチCLr、ブレーキBL1を含む。
エンジン1の出力軸は、動力伝達装置TM3の入力軸2と接続されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸と同軸上かつ該出力軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第1遊星歯車機構10の第1サンギア11と接続されている。
第1差動機構としての第1遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第1サンギア11、第1ピニオンギア12、第1リングギア13および第1キャリア14を有する。なお、第3実施形態では、第1サンギア11は第1回転要素に相当し、第1リングギア13は第2回転要素に相当し、第1キャリア14は第3回転要素に相当する。
第1クラッチCL1は、第1サンギア11と第1キャリア14とを解放可能に連結可能なクラッチ装置である。ブレーキBL1は、第1キャリア14の回転を規制することができるように第1キャリア14と静止要素とを解放可能に連結可能なブレーキ装置である。
第2差動機構としての第2遊星歯車機構20は、第1遊星歯車機構10と同軸上に、かつ第1遊星歯車機構10よりもエンジン側に配置されている。第2遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第2サンギア21、第2ピニオンギア22、第2リングギア23および第2キャリア24を有する。第2リングギア23は、第1リングギア13と接続されており、第1リングギア13と一体回転する。なお、第2実施形態では、第2サンギア21は第5回転要素に相当し、第2リングギア23は第4回転要素に相当し、第2キャリア24は第6回転要素に相当する。
第2サンギア21には第1回転電機MG1のロータ軸33が接続されている。第1回転電機MG1のロータ軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第2サンギア21に接続されていて、第2サンギア21と一体回転する。第2キャリア24には、カウンタドライブギア25が接続されている。カウンタドライブギア25は、第2キャリア24と一体回転する出力ギアである。第2キャリア24は、第1回転電機MG1あるいは第1遊星歯車機構10から入力された回転を駆動輪Wおよび第2回転電機MG2に出力することができる出力要素である。
また、第2クラッチCLrは、第1遊星歯車機構10の第1キャリア14と第2遊星歯車機構20の第2キャリア24とを解放可能に連結可能なクラッチ装置である。
カウンタドライブギア25は、カウンタドリブンギア26と噛み合っている。カウンタドライブギア25と、駆動輪Wおよび第2回転電機MG2の各々との間の構成は、第1実施形態で説明した通りである。
車両300では、HV走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。各走行モードでの第1クラッチCL1、ブレーキBL1および第2クラッチCLrの各状態を、図12の作動係合表に示す。
図13(A)は、単独モータEVモードに係る共線図である。単独モータEVモードでは、第1クラッチCL1、ブレーキB1、第2クラッチCLrが解放している。HV_ECU50は、MG_ECU60を介して第2回転電機MG2に正トルクを出力させて車両100に前進方向の駆動力を発生させる。
図13(B)は、両モータEVモードに係る共線図である。両モータEVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1およびブレーキBL1を係合する(第2クラッチCLrが解放している)。第1クラッチCL1およびブレーキBL1が係合することで、第1遊星歯車機構10の全回転要素の回転が停止する。HV_ECU50は、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2にそれぞれ走行駆動用のトルクを出力させる。
第3実施形態のHV走行では、第1HVモード(アンダードライブ(U/D)インプットスプリットモード)と、第2HVモード(オーバードライブ(O/D)インプットスプリットモード)と、第3HVモード(固定段モード)とがある。
まず、第1HVモードについて説明する。第1HVモードでは、第2クラッチCLrは解放状態(非係合状態)にされる。図13(C)は、第1HVモードでのHV走行における前進時の共線図であり、図13(D)は、第1HVモードでのHV走行における後進時の共線図である。
前進時の第1HVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を係合し、ブレーキBL1を解放する。第1クラッチCL1が係合することにより、第1遊星歯車機構10の差動は規制される。第3実施形態では、第1遊星歯車機構10の第1リングギア13と第2遊星歯車機構20の第2リングギア23とが接続されているので、エンジン1の回転は第2遊星歯車機構20で減速されて第2キャリア24から出力されるアンダードライブ(U/D)状態となる。
後進時の第1HVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を解放し、ブレーキBL1を係合する。ブレーキBL1が係合することにより、第1キャリア14の回転が規制される。エンジンの出力は第1リングギア13から第2リングギア23に伝達される。第2リングギア23に入力された(エンジン1の)逆回転(後進用回転)は、第2遊星歯車機構20で(前進側に)減速されて第2キャリア24から出力されるアンダードライブ(U/D)状態となる。このように、第3実施形態は、第1遊星歯車機構10から出力されるときに、既に後進側の回転になっている。したがって、第3実施形態の第1HVモードは後進に適している。
次に、第2HVモードについて説明する。図13(E)は、第2HVモードに係る共線図である。第2HVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1とブレーキBL1とを共に解放し、第2クラッチCLrを係合する。第2クラッチCLrが係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20との間では、第1リングギア13と第2リングギア23とが接続されていることに加えて、第1キャリア14と第2キャリア24とが接続状態になる。これにより、図13(E)の共線図では1本のラインが存在するようになる。つまり、第1HVモードとは異なる動力分割比(ギア比)で、第2HVモードでは、エンジン1からの動力を第2サンギア21と第2キャリア24とに分割することができる。第2HVモードでは、エンジン1の回転は、増速されて第2キャリア24から出力されるオーバードライブ(O/D)状態となる。なお、後進は、回転電機を逆回転することで可能になる。
次に、第3HVモードについて説明する。図13(F)は直結固定段モードに係る共線図であり、図13(G)は出力軸固定段モードに係る共線図である。直結固定段モードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1および第2クラッチCLrを共に係合し、ブレーキBL1を解放する。第1および第2クラッチCL1、CLrを係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20とは共に差動が規制される。それにより、エンジン1の出力を第2キャリア24から直接出力することができる。
出力軸固定段モードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を解放し、ブレーキBL1および第2クラッチCLrを共に係合する。ブレーキBL1が係合することにより、第1キャリア14の回転が規制される。第2クラッチCLrが係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20との間では、第1リングギア13と第2リングギア23とが接続されていることに加えて、第1キャリア14と第2キャリア24とが接続状態になる。したがって、第2キャリア24の回転は規制されて、エンジン1からの動力で第1回転電機MG1において充電することができる。したがって、この出力軸固定段モードを充電モードと称することもできる。
以上述べたように、第2クラッチCLrを非係合状態にして第1クラッチCL1またはブレーキBL1を係合状態にする第1HVモードと、第2クラッチCLrを係合状態にして第1クラッチCL1およびブレーキBL1を共に非係合状態にする第2HVモードとで、動力伝達装置TM3における動力分割比を変えることができる。なお、第3実施形態では、第1HVモードは高負荷運転で選択されるとよく、第2HVモードは低負荷または高速運転で選択されるとよく、それにより第1回転電機MG1のトルクや回転数の増加を抑制するとよい。
[第4実施形態]
図14から図16を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態は、エンジンからの動力を伝達するための動力伝達装置TM4に関し、上述の実施形態と同様に車両400に適用されている。以下の説明では、上述の実施形態の説明において既に説明した構成要素と同様の機能を有する構成要素には、同様の符号を付して重複説明を省略する。また、以下では、上述の実施形態の説明を参照することにより当業者であれば明らかである点については説明を省略または簡潔に行い、第4実施形態の特徴的な構成および機能について主として説明する。なお、上述の実施形態において説明されたような修正および変更は、矛盾しない限り、第4実施形態にも同様に適用される。
第4実施形態に係る車両400は、図14に示すように、エンジン1、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両400は、エンジン1、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第3遊星歯車機構40、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、クラッチ(第1クラッチ)CL1、クラッチ(第2クラッチ)CLr、ブレーキBL1、差動装置30、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジンECU70を含んで構成されている。動力伝達装置TM4は、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第1クラッチCL1、第2クラッチCLr、ブレーキBL1を含む。
エンジン1の出力軸は、動力伝達装置TM4の入力軸2と接続されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸と同軸上かつ該出力軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第1遊星歯車機構10の第1キャリア14と接続されている。
第1差動機構としての第1遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第1サンギア11、第1ピニオンギア12、第1リングギア13および第1キャリア14を有する。なお、第4実施形態では、第1サンギア11は第2回転要素に相当し、第1リングギア13は第3回転要素に相当し、第1キャリア14は第1回転要素に相当する。
第1クラッチCL1は、第1リングギア13と第1キャリア14とを解放可能に連結可能なクラッチ装置である。ブレーキBL1は、第1リングギア13の回転を規制することができるように第1リングギア13と静止要素とを解放可能に連結可能なブレーキ装置である。
第2差動機構としての第2遊星歯車機構20は、第1遊星歯車機構10と同軸上に、かつ第1遊星歯車機構10よりもエンジンから離れて配置されている。第2遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第2サンギア21、第2ピニオンギア22、第2リングギア23および第2キャリア24を有する。第2サンギア21は、第1サンギア11と接続されており、第1サンギア11と一体回転する。なお、第4実施形態では、第2サンギア21は第4回転要素に相当し、第2リングギア23は第5回転要素に相当し、第2キャリア24は第6回転要素に相当する。
第2リングギア23には第1回転電機MG1のロータ軸33が接続されている。第1回転電機MG1のロータ軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第2リングギア23に接続されていて、第2リングギア23と一体回転する。また、第2クラッチCLrは、第1遊星歯車機構10の第1リングギア13と第2遊星歯車機構20の第2リングギア23とを解放可能に連結可能なクラッチ装置であるが、第1回転電機MG1およびそのロータ軸33を介して第1リングギア13と第2リングギア23とを連結可能である。第2キャリア24は、第1回転電機MG1あるいは第1遊星歯車機構10から入力された回転を駆動輪Wおよび第2回転電機MG2に出力することができる出力要素である。
第2キャリア24には、シャフト24Aが接続されている。シャフト24Aの途中には、第3遊星歯車機構40が配置されている。第3遊星歯車機構40は、第1および第2遊星歯車機構10、20の各々と同軸上に配置され、第2遊星歯車機構20よりもエンジンから離れて配置されている。第3遊星歯車機構40は、シングルピニオン式であり、第3サンギア41、第3ピニオンギア42、第3リングギア43および第3キャリア44を有する。第3キャリア44は、シャフト24Aに接続されており、第2キャリア24と一体回転する。
第3サンギア41には第2回転電機MG2のロータ軸45が接続されている。第2回転電機MG2のロータ軸45は、入力軸2と同軸上に配置されており、第3サンギア41に接続されていて、第3サンギア41と一体回転する。なお、第3遊星歯車機構40は、第2回転電機MG2の出力トルクの増幅用に配置されている。
シャフト24Aを介して、第2キャリア24はドライブピニオンギア28と接続されている。ドライブピニオンギア28は、差動装置30のデフリングギア29と噛み合っている。差動装置30は、左右の駆動軸31を介して駆動輪Wと接続されている。
車両300では、HV走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。各走行モードでの第1クラッチCL1、ブレーキBL1および第2クラッチCLrの各状態を、図15の作動係合表に示す。
図16(A)は、単独モータEVモードに係る共線図である。単独モータEVモードでは、第1クラッチCL1、ブレーキB1、第2クラッチCLrが解放している。HV_ECU50は、MG_ECU60を介して第2回転電機MG2に正トルクを出力させて車両400に前進方向の駆動力を発生させる。
図16(B)は、両モータEVモードに係る共線図である。両モータEVモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1およびブレーキBL1を係合する(第2クラッチCLrが解放している)。クラッチCL1およびブレーキBL1が係合することで、第1遊星歯車機構10の全回転要素の回転が停止する。HV_ECU50は、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2にそれぞれ走行駆動用のトルクを出力させる。
第4実施形態のHV走行には、第1HVモード(アンダードライブ(U/D)インプットスプリットモード)と、第2HVモード(オーバードライブ(O/D)インプットスプリットモード)と、第3HVモード(固定段モード)とがある。
まず、第1HVモードについて説明する。第1HVモードでのHV走行では、第2遊星歯車機構20は差動状態を基本とし、変速部の第1遊星歯車機構10は、ロー(Lo)/ハイ(Hi)の切り替えがなされる。図16(C)は、第1HVモードでのHV走行における、ロー状態の走行モード(第1UDLoモード)に係る共線図、図16(D)は、第1HVモードでのHV走行における、ハイ状態の走行モード(第1UDHiモード)に係る共線図である。なお、第1HVモードでは、第2クラッチCLrは解放される(非係合状態にされる)。
第1UDLoモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を係合し、ブレーキBL1を解放する。第1クラッチCL1が係合することにより、第1遊星歯車機構10の差動は規制される。第4実施形態では、第1遊星歯車機構10の第1サンギア11と第2遊星歯車機構20の第2サンギア21とが接続されているので、エンジン1の回転は第2遊星歯車機構20で減速されて第2キャリア24から出力されるアンダードライブ(U/D)状態となる。
第1UDHiモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を解放し、ブレーキBL1を係合する。ブレーキBL1が係合することにより、第1リングギア13の回転が規制される。エンジンの出力は第1サンギア11から第2サンギア21に伝達される。第2サンギア21に入力された(エンジン1の)回転は、第2遊星歯車機構20で減速されて第2キャリア24から出力されるアンダードライブ(U/D)状態となる。
次に、第2HVモードについて説明する。図16(E)は、第2HVモードにおける前進時に係る共線図であり、図16(F)は、第2HVモードにおける後進時に係る共線図である。
第2HVモードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1とブレーキBL1とを共に解放し、第2クラッチCLrを係合する。第2クラッチCLrが係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20との間では、第1サンギア11と第2サンギア21とが接続されていることに加えて、第1リングギア13と第2リングギア23とが接続状態になる。これにより、図16(E)および図16(F)の共線図では1本のラインが存在するようになる。つまり、第1HVモード(第1UDLoモードおよび第1UDHiモード)とは異なる動力分割比(ギア比)で、第2HVモードでは、エンジン1からの動力を第1リングギア13と第2キャリア24とに分割することができる。第2HVモードでは、エンジン1の回転は、増速されて第2キャリア24から出力されるオーバードライブ(O/D)状態となる。なお、後進時は、第2回転電機MG2を逆回転することで、エンジン1の回転は、後進側回転に増速可能になる。
次に、第3HVモードについて説明する。図16(G)は直結固定段モードに係る共線図であり、図16(H)はオーバードライブ(O/D)固定段モードに係る共線図である。直結固定段モードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1および第2クラッチCLrを共に係合し、ブレーキBL1を解放する。第1および第2クラッチCL1、CLrを係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20とは共に差動が規制される。それにより、エンジン1の出力を第2キャリア24から直接出力することができる。
オーバードライブ(O/D)固定段モードでは、HV_ECU50は、第1クラッチCL1を解放し、ブレーキBL1および第2クラッチCLrを共に係合する。ブレーキBL1が係合することにより、第1リングギア13の回転が規制される。第2クラッチCLrが係合することにより、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20との間では、第1サンギア11と第2サンギア21とが接続されていることに加えて、第1リングギア13と第2リングギア23とが接続状態になる。したがって、第2リングギア23の回転は規制されて、エンジン1の回転は増速されて第2キャリア24から出力されるオーバードライブ(O/D)状態となる。なお、図15および図16(H)から理解できるように、このオーバードライブ(O/D)固定段モードは、高速走行時の燃費改善に有効である。
以上述べたように、第2クラッチCLrを非係合状態にして第1クラッチCL1またはブレーキBL1を係合状態にする第1HVモードと、第2クラッチCLrを係合状態にして第1クラッチCL1およびブレーキBL1を共に非係合状態にする第2HVモードとで、動力伝達装置TM4における動力分割比を変えることができる。なお、第4実施形態では、第1HVモードは高負荷運転で選択されるとよく、第2HVモードは低負荷または高速運転で選択されるとよく、それにより第1回転電機MG1のトルクや回転数の増加を抑制するとよい。
[第5実施形態]
図17を参照して、本発明の第5実施形態について説明する。第5実施形態は、エンジンからの動力を伝達するための動力伝達装置TM5に関し、上述の実施形態と同様に車両500に適用されている。以下の説明では、上述の実施形態の説明において既に説明した構成要素と同様の機能を有する構成要素には、同様の符号を付して重複説明を省略する。また、以下では、上述の実施形態の説明を参照することにより当業者であれば明らかである点については説明を省略または簡潔に行い、第5実施形態の特徴的な構成および機能について主として説明する。なお、上述の実施形態において説明されたような修正および変更は、矛盾しない限り、第5実施形態にも同様に適用される。
第5実施形態に係る車両500は、図17に示すように、エンジン1、第1回転電機MG1および第2回転電機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両500は、エンジン1、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、クラッチ(第1クラッチ)CL1、クラッチ(第2クラッチ)CLr、ブレーキBL1、差動装置30、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジンECU70を含んで構成されている。動力伝達装置TM5は、第1遊星歯車機構10、第2遊星歯車機構20、第1クラッチCL1、第2クラッチCLr、ブレーキBL1を含む。
エンジン1の出力軸は、動力伝達装置TM5の入力軸2と接続されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸と同軸上かつ該出力軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第1遊星歯車機構10の第1リングギア13と接続されている。
第1差動機構としての第1遊星歯車機構10は、ダブルピニオン式であり、第1サンギア11、第1ピニオンギア12、第1リングギア13および第1キャリア14を有する。なお、第5実施形態では、第1サンギア11は第2回転要素に相当し、第1リングギア13は第1回転要素に相当し、第1キャリア14は第3回転要素に相当する。
第1クラッチCL1は、第1リングギア13と第1キャリア14とを解放可能に連結可能なクラッチ装置である。ブレーキBL1は、第1キャリア14の回転を規制することができるように第1キャリア14と静止要素とを解放可能に連結可能なブレーキ装置である。
第2差動機構としての第2遊星歯車機構20は、第1遊星歯車機構10と同軸上に、かつ第1遊星歯車機構10よりもエンジンの近くに配置されている。第2遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第2サンギア21、第2ピニオンギア22、第2リングギア23および第2キャリア24を有する。第2サンギア21は、第1サンギア11と接続されており、第1サンギア11と一体回転する。なお、第5実施形態では、第2サンギア21は第4回転要素に相当し、第2リングギア23は第5回転要素に相当し、第2キャリア24は第6回転要素に相当する。
第2リングギア23には第1回転電機MG1のロータが接続されている。第1回転電機MG1のロータは、入力軸2と同軸上に配置されており、第2リングギア23に接続されていて、第2リングギア23と一体回転する。第2キャリア24には、カウンタドライブギア25が接続されている。カウンタドライブギア25は、第2キャリア24と一体回転する出力ギアである。第2キャリア24は、第1回転電機MG1あるいは第1遊星歯車機構10から入力された回転を駆動輪Wおよび第2回転電機MG2に出力することができる出力要素である。
また、第2クラッチCLrは、第1遊星歯車機構10の第1キャリア14と第2遊星歯車機構20の第2リングギア23とを解放可能に連結可能なクラッチ装置である。第2クラッチCLrは、第1回転電機MG1を介して、第1キャリア14と第2リングギア23とを連結可能である。
カウンタドライブギア25は、カウンタドリブンギア26と噛み合っている。カウンタドライブギア25と、駆動輪Wおよび第2回転電機MG2の各々との間の構成は、第1実施形態で説明した通りである。
車両500では、HV走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。各走行モードでの各走行モードでの第1クラッチCL1、ブレーキBL1および第2クラッチCLrの各状態は、第4実施形態の図15の作動係合表に準じる。各モードでの共線図に関しては、第5実施形態では第1遊星歯車機構10がダブルピニオン式であるので、第1リングギア13(つまり「R1」)と第1キャリア14(「C1」)とを入れ替えることで図16(A)〜図16(H)がそれぞれのモードでの第5実施形態での共線図となる。よって、第5実施形態での各モードの更なる説明を省略する。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限られない。例えば、上記各実施形態では、第1回転要素と、第2及び第3回転要素のうちの一方とを、第1クラッチCL1によって解放可能に連結したが、第1クラッチCL1は第2回転要素と第3回転要素とを解放可能に連結するものであっても良い。この態様によっても、第1クラッチCL1の係合によって、第1、第2及び第3回転要素の回転数を互いに同一にすることができる。
各実施形態において、第1クラッチCL1とブレーキBL1のいずれか一方が設けられない実施形態も、本発明に含まれる。この場合にも、第1HVモードと第2HVモードとで、動力分割比を可変とすることができる。すなわち、本発明における第1係合部は、第1回転要素、第2回転要素および第3回転要素のうち2つを互いに解放可能に連結することができる係合部、および、第3回転要素と静止要素とを解放可能に連結することができる係合部のうちの少なくともいずれか一方を備えていればよい。
各実施形態のスケルトン図(図1、図8、図11、図14、図17)に示されたギヤトレーンにおける配置の変形も本発明に含まれる。各遊星歯車機構における回転要素の数は3個に限らず、4個以上であっても良い。機関は内燃機関に限られない。特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。