本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、膨潤処理、染色処理、架橋処理、洗浄処理及び乾燥処理をこの順に施して偏光フィルムを製造する。そして、乾燥処理の後、偏光フィルムに保護フィルムを貼合して偏光板を製造する。以下、適宜図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
[偏光フィルムの製造方法]
偏光フィルムは、具体的にはポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向しているものである。原料となるポリビニルアルコール系樹脂は、通常、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。このケン化度は、通常85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは99モル%以上である。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、例えば、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体などを挙げることができる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、不飽和スルホン酸類、ビニルエーテル類などを挙げることができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1000〜10000程度、好ましくは1500〜5000程度である。
ポリビニルアルコール系樹脂は、変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用しうる。
本発明では、偏光フィルムの原反フィルムとして、厚さが60μm 以下のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いる。フィルムの厚さは、好ましくは約20〜60μm であり、より好ましくは約30〜60μm である。工業的には、フィルムの幅が約1500〜6000mmであるものが実用的である。
偏光フィルムは、上記のポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し、膨潤処理、染色処理、架橋処理及び洗浄処理の順に溶液処理し、架橋処理中及び必要に応じて架橋処理の前でフィルムの一軸延伸を行い、最後に乾燥することにより得られる。架橋処理中で行う一軸延伸は湿式延伸となり、その前の膨潤処理や染色処理で一軸延伸をする場合も湿式延伸となるが、膨潤処理の前に乾式で一軸延伸することも可能である。
このように一軸延伸は、一つの工程でのみ行ってもよいし、二つ以上の工程で行ってもよく、また公知の延伸方法を採用することができる。延伸方法の具体例を挙げると、フィルムを搬送する二つのニップロール間に周速差をつけて延伸を行うロール間延伸、特許第2731813 号公報に記載のような熱ロール延伸、テンター延伸などがある。工程の順序は、基本的に上記のとおりであるが、処理浴の数又は処理条件などに制約はない。
また、上記以外の処理を別の目的で追加することもできる。追加されうる処理の例を挙げると、架橋処理後に行われるホウ酸を含まないヨウ化物水溶液への浸漬処理(ヨウ化物処理)やホウ酸を含まず塩化亜鉛などを含有する水溶液への浸漬処理(亜鉛処理)などがある。
本発明に係る偏光フィルムを製造する方法で使用する製造装置の好適な配置例を図1に断面模式図で示した。この製造装置は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10が、繰出しロール11から巻き出され、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19を順次通過し、最後に乾燥炉21を通るように構成されている。図1には明示されていないが、架橋処理槽17又はそれより前において一軸延伸が施される。また、図1には、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19をそれぞれ1槽ずつ設けた例を示したが、必要に応じ、ある一つの処理に対して複数の処理槽を設けてもよい。製造された偏光フィルム25は、そのまま次の保護フィルムを貼り合わせる工程に搬送される。以下、本発明で施す処理について説明する。
(膨潤処理)
膨潤処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム表面の異物除去、フィルム中の可塑剤の除去、続く染色処理での易染色性の付与、フィルムの可塑化などの目的で、水に接触させることにより行われる。膨潤処理の条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつフィルムの失透や極端な溶解等の不具合が生じない範囲で決定される。
ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し、最初に膨潤処理を施す場合は、例えば、温度10〜50℃程度、好ましくは20〜40℃程度の処理浴にフィルムを浸漬することにより行われる。フィルムの浸漬時間は、好ましくは30〜300秒程度、より好ましくは60〜240秒程度である。予め大気中で延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、膨潤処理を施す場合は、例えば、温度20〜70℃程度、好ましくは30〜60℃程度の処理浴にフィルムを浸漬することにより行われる。フィルムの浸漬時間は、好ましくは30〜300秒程度、より好ましくは60〜240秒程度である。
膨潤処理では、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが幅方向に膨潤し、フィルムにシワが入る等の問題が生じやすいので、拡幅ロール(エキスパンダーロール)、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップなど、公知の拡幅装置を用いてフィルムのシワを取りつつフィルムを搬送することが好ましい。また、浴中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤処理槽13中での水流を水中シャワーで制御したり、EPC装置(Edge Position Control 装置:フィルムの端部を検出し、フィルムの蛇行を防止する装置)などを併用したりすることも有用である。
膨潤処理では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、フィルムに積極的な延伸を行わない場合は、搬送方向のフィルムのたるみをなくすため、例えば、膨潤処理槽13の前後にある搬送ロールの周速度をコントロールするなどの手段を講ずることが好ましい。また、原反フィルムに対し、膨潤処理、染色処理及び架橋処理の順に施す場合は、膨潤処理において一軸延伸を行ってもよく、その場合の延伸倍率は、通常 1.2〜3倍、好ましくは1.3〜2.5倍である。
膨潤処理槽13で使用する処理浴には、純水のほか、ホウ酸(特開平10-153709 号公報)、塩化物(特開平06-281816 号公報)、無機酸、無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類などが約 0.01〜10重量%の範囲で添加された水溶液を用いることもできる。
(染色処理)
染色処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着させる目的で、例えば、ヨウ素及び水溶性二色性染料等の二色性色素を含有する処理浴にフィルムを浸漬させることによって行われる。染色処理の条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつポリビニルアルコール系樹脂フィルムの極端な溶解や失透などの不具合が生じない範囲で決定される。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合、処理浴(染色浴)には、例えば、濃度が重量比でヨウ素/ヨウ化カリウム/水=約0.003〜0.2/約0.1 〜10/100である水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物を併用してもよい。またヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルトなどを共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合は、ヨウ素を含む点で後述する架橋処理と区別され、水溶液が水100重量部に対し、ヨウ素を約0.003 重量部以上含んでいるものであれば、染色浴と見なすことができる。フィルムを浸漬するときの染色浴の温度は、10〜45℃程度、好ましくは20〜35℃であり、フィルムの浸漬時間は、30〜600秒程度、好ましくは60〜300秒である。
二色性色素として水溶性二色性染料を用いる場合、処理浴には、濃度が重量比で二色性染料/水=約0.001〜0.1/100である水溶液を用いることができる。この処理浴には、染色助剤などを共存させてもよく、例えば、硫酸ナトリウム等の無機塩や界面活性剤などを含有していてもよい。また、二色性染料は、単独で用いてもよいし、2種類以上の二色性染料を併用してもよい。フィルムを浸漬するときの染色浴の温度は、20〜80℃程度、好ましくは30〜70℃であり、フィルムの浸漬時間は、30〜600秒程度、好ましくは60〜300秒である。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、膨潤処理、染色処理、架橋処理の順に施す場合は、通常、染色処理槽でフィルムの延伸を行う。フィルムの延伸は、染色処理槽の前後に設置したニップロールに周速差を持たせるなどの方法で行われる。染色処理までの積算の延伸倍率(染色処理までに延伸工程がない場合は染色処理での延伸倍率)は、通常1.6〜4.5倍、好ましくは1.8〜4倍である。延伸倍率が1.6倍未満であるとフィルムの破断の頻度が多くなり、歩留りを悪化させる傾向がある。
また、染色処理においても、膨潤処理と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するため、拡幅ロール(エキスパンダーロール)、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバーなどを染色処理槽15の内部及び/又はその出入り口に設置することができる。
(架橋処理)
架橋処理は、架橋による耐水化や色相調整(フィルムが青味がかるのを防止する等)などの目的で、水100重量部に対してホウ酸を1〜10重量部含有する処理浴に、二色性色素で染色したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬することにより行われる。処理浴は、染色処理で使用した二色性色素がヨウ素の場合、ホウ酸に加えてヨウ化物を含有することが好ましく、その量は、水100重量部に対して1〜30重量部とすることができる。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛などが挙げられる。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどを共存させてもよい。なお、耐水化のための架橋処理は、耐水化処理、架橋処理、固定化処理などの名称で呼称されることがある。また、色相調整のための架橋処理は、補色処理、再染色処理などの名称で呼称される場合がある。
架橋処理は、その目的により、ホウ酸及びヨウ化物の濃度、並びに処理浴の温度を適宜変更することができる。耐水化のための架橋処理及び色相調整のための架橋処理は、特に区別されるものではなく、以下の条件で実施される。架橋処理の目的が架橋による耐水化であり、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し、膨潤処理、染色処理及び架橋処理をこの順に施す場合、処理浴は、濃度が重量比でホウ酸/ヨウ化物/水=3〜10/1〜20/100の水溶液であることができる。必要に応じて、ホウ酸に代えてグリオキザール及びグルタルアルデヒド等の架橋剤を用いてもよく、ホウ酸と架橋剤を併用してもよい。処理浴の温度は、通常、50〜70℃程度、好ましくは53〜65℃であり、フィルムの浸漬時間は、通常、10〜600秒程度、好ましくは20〜300秒、より好ましくは20〜200秒である。また、予め延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、染色処理及び架橋処理をこの順に施す場合、架橋処理浴の温度は、通常、50〜85℃程度、好ましくは55〜80℃である。
耐水化を目的とする架橋処理の後、色相調整を目的とする架橋処理を行ってもよい。この色相調整を目的とする架橋処理の条件は、例えば、染色処理で使用した二色性染料がヨウ素の場合、濃度が重量比でホウ酸/ヨウ化物/水=1〜5/3〜30/100の処理浴を使用することができる。処理浴の温度は、通常、10〜45℃程度であり、フィルムの浸漬時間は、通常、1〜300秒程度、好ましくは2〜100秒である。
これらの架橋処理は、複数回行ってもよく、通常、2〜5回行われる。この場合、使用する各架橋処理浴の組成及び温度は、上記の範囲内であれば同じであってもよく、異なっていてもよい。架橋による耐水化のための架橋処理及び色相調整のための架橋処理は、それぞれ複数の工程で行ってもよい。
(洗浄処理)
洗浄処理は、架橋処理の後、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに付着した余分なホウ酸やヨウ素等の薬剤を除去する目的で行われる。洗浄処理は、例えば、耐水化及び/又は色調調整のために架橋処理したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬、又はフィルムに対して水をシャワーとして噴霧、若しくはこれらを併用することによって行われる。
図1には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬して洗浄処理を行う場合の例を示した。洗浄処理における水の温度は、通常2〜40℃程度であり、浸漬時間は、2〜120秒程度である。なお、架橋処理及び洗浄処理においても、シワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送する目的で、拡幅ロールを使用することができる。
(乾燥処理)
洗浄処理の後、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させることにより偏光フィルムを作製することができる。フィルムの乾燥は、乾燥炉21内において、例えば、温度30〜100℃程度で、30〜600秒程度とすることができる。
このようにして製造される偏光フィルムの最終的な積算延伸倍率は、通常、 4.5〜7倍、好ましくは5〜6.5 倍である。
[偏光板の製造方法]
本発明の偏光板の製造方法は、上記のようにして製造された偏光フィルムの少なくとも一方の面に、接着剤を介して保護フィルムを貼合するものであり、上記した乾燥処理と後述する保護フィルムを貼り合わせる貼合工程との間に、偏光フィルムを流れ方向に緩和させる緩和工程を有することを特徴とする。従来の偏光板の製造方法では、前記した特開2001-174634 号公報(特許文献1)のように、乾燥炉内でフィルムの緩和を行うことがあった。しかしながら、乾燥炉内でフィルムを緩和させる場合、加熱によりフィルムの流れ方向だけでなくフィルムの幅方向にもフィルムの収縮が生じるため、この時フィルムにかかる張力を緩めると、フィルムにシワが発生したりフィルムの流れ不良が生じ、光学特性やフィルム幅が変化するという問題があった。本発明によれば、乾燥処理の後にフィルムを緩和することにより、従来の方法に比べてこれらの問題が抑制され、かつ、得られる偏光板の高温環境下における収縮を抑制することが可能となる。
図2は、本発明に係る偏光板の製造方法における装置の好適な配置例を断面模式図で示したものである。図2を参照して、乾燥炉21を通過した偏光フィルム25は、緩和ゾーン30においてフィルムを流れ方向に緩和させ(緩和工程)、続いて偏光フィルムに保護フィルム40a,40bを張り合わせた後(貼合工程)、固着ゾーン45を通過して偏光板50となる。また、図2には、偏光フィルムの両面に保護フィルムを貼合する例を示したが、必要に応じ、片面のみに保護フィルムを貼合することもできる。
(緩和工程)
上記の緩和工程は、偏光フィルムにかかる張力が上記の乾燥処理及び後述する貼合工程のいずれよりも小さくなるように行われるのが好ましい。乾燥処理及び貼合工程においては、フィルムにかかる張力が小さいとフィルムにシワが発生することがあるため、ある程度張力を高くする必要がある。また、これらの間に張力の小さい緩和工程を設けることによって、乾燥処理後に偏光フィルムが十分に緩和され、これを適用した偏光板が高温条件下に置かれたときに生じる収縮を抑制することができる。
本発明において、緩和工程は、入口側ニップロール30と出口側ニップロール33との間に周速差をつけることによって、具体的には緩和ゾーン30における入口側ニップロール33の周速度に対する出口側ニップロール35の周速度の比を百分率で表した緩和率が95〜99.7 %となるように行われる。入口側ニップロール33及び出口側ニップロール35の周速度は、緩和率がこの範囲内となるように適宜調節すればよい。この緩和率は下記式(1)によって求めることができる。
この緩和率が99.7 %より大きいと、緩和工程で偏光フィルムが十分に緩和されず、高温環境下で生じる収縮を十分に低減することができなくなる。また、緩和率が95%より小さいと、偏光フィルムにかかる張力があまりに弱くなり、フィルムにシワなどが発生して品質を満足する偏光板を製造することが困難となる。
本発明における緩和工程は、偏光フィルムにかかる張力が50〜400N/mの範囲内となるように行われるのが好ましい。この張力が50N/m未満であると、フィルムにシワやスジ状の欠陥が発生して外観不良となることがあり、また張力が400N/mより強くなると、上記した緩和率を満たすことが難しくなることがある。上記した緩和率を満たし、かつ、張力がこの範囲内にあることにより、偏光フィルムにシワなどが発生せず、また緩和が十分に施されるため、得られる偏光板は高温条件下での収縮が抑制されたものとなる。
上記の張力は、ひずみゲージを使用したテンションロールセンサーなどを組み込んだガイドロールを設置して測定することができる。張力の測定は、これらのガイドロールを偏光フィルムに接触させることで行われる。測定位置は、特に制限はないが、例えば、図2に示す実施形態で緩和工程を施す場合、ニップロール33の次に設置されたガイドロールの位置とすることができる。なお、図2には、緩和ゾーン30にガイドロールを2つ設置した実施形態の例を示したが、必要に応じて、3つ以上のガイドロールを設置したり、昇降ロールなどを設置することもできる。
上記の緩和工程は、標準状態のクリーンルームの環境で行うことができ、その温度は、通常23±5℃であり、相対湿度は、通常50±20%である。
(貼合工程)
緩和工程を経た偏光フィルムは、接着剤を介して保護フィルムが貼合される。この保護フィルムを構成する材料として、例えば、シクロオレフィン系樹脂及び酢酸セルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂など、当分野において従来から広く用いられているフィルム材料を挙げることができる。偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼合される場合、各々の保護フィルムは同じものであってもよく、異なる種類のフィルムであってもよい。
シクロオレフィン系樹脂とは、例えば、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーのような環状オレフィン(シクロオレフィン)からなるモノマーのユニットを有する熱可塑性の樹脂であり、熱可塑性シクロオレフィン系樹脂とも呼ばれる。シクロオレフィン系樹脂は、上記したシクロオレフィンの開環重合体又は2種以上のシクロオレフィンを用いた開環共重合体の水素添加物であってもよく、シクロオレフィンと、鎖状オレフィンやビニル基のような重合性二重結合を有する芳香族化合物などとの付加重合体であってもよい。
また、シクロオレフィン系樹脂には、極性基が導入されているものも有効である。
シクロオレフィンと、鎖状オレフィン及び/又はビニル基を有する芳香族化合物との共重合体を用いて保護フィルムを構成する場合、鎖状オレフィンとしては、エチレンやプロピレンなどが挙げられ、またビニル基を有する芳香族化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、核アルキル置換スチレンなどが挙げられる。このような共重合体においては、シクロオレフィンからなるモノマーのユニットが50モル%以下であってもよいが、好ましくは15〜50モル%程度とされる。特に、シクロオレフィンと鎖状オレフィンとビニル基を有する芳香族化合物との三元共重合体を用いて保護フィルムを構成する場合、シクロオレフィンからなるモノマーのユニットは、上記したように比較的少ない量とすることができる。かかる三元共重合体において、鎖状オレフィンからなるモノマーのユニットは、通常5〜80モル%、ビニル基を有する芳香族化合物からなるモノマーのユニットは、通常5〜80モル%である。
シクロオレフィンと鎖状オレフィン又は/及びビニル基を有する芳香族化合物との共重合体を用いる場合、鎖状オレフィンとして、エチレン、プロピレンなどが挙げられ、またビニル基を有する芳香族化合物として、スチレン、α−メチルスチレン、核アルキル置換スチレンなどが挙げられる。このような共重合体において、シクロオレフィンからなるモノマーのユニットが50モル%以下(好ましくは15〜50モル%)であってもよい。特に、シクロオレフィンと鎖状オレフィンとビニル基を有する芳香族化合物との三元共重合体を用いる場合、シクロオレフィンからなるモノマーのユニットは、上記したように比較的少ない量とすることができる。かかる三元共重合体において、鎖状オレフィンからなるモノマーのユニットは、通常5〜80モル%、ビニル基を有する芳香族化合物からなるモノマーのユニットは、通常5〜80モル%である。
シクロオレフィン系樹脂は、適宜の市販品、例えば、それぞれ商品名で“TOPAS”〔Topas Advanced Polymers GmbH社製〕、“アートン”〔JSR(株)製〕、“ゼオノア(ZEONOR)”及び“ゼオネックス(ZEONEX)”〔以上、日本ゼオン(株)製〕、“アペル”〔三井化学(株)製〕、“オキシス(OXIS)”〔大倉工業(株)製〕などを好適に用いることができる。このようなシクロオレフィン系樹脂を製膜してフィルムとする際は、溶剤キャスト法、溶融押出法などの公知の方法が適宜用いられる。また、例えば、“エスシーナ”及び“SCA40”〔以上、積水化学工業(株)製〕、“ゼオノアフィルム”〔日本ゼオン(株)製〕などの予め製膜されたシクロオレフィン系樹脂製のフィルムの市販品を用いてもよい。
シクロオレフィン系樹脂フィルムは、一軸延伸されたものであっても二軸延伸されたものであってもよい。延伸することで、シクロオレフィン系樹脂フィルムに任意の位相差値を付与することができる。延伸は、通常、フィルムロールを巻き出しながら連続的に行われ、加熱炉にて、ロールの進行方向(フィルムの長手方向)、その進行方向と垂直の方向(フィルムの幅方向)、あるいはその両方へ延伸される。加熱炉の温度は、通常、シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度近傍からガラス転移温度+100℃の範囲が、採用される。延伸の倍率は、通常1.1〜6倍であり、好ましくは1.1〜3.5 倍である。
シクロオレフィン系樹脂フィルムは、ロール巻き状態にあると、フィルム同士が接着してブロッキングを生じ易い傾向にあるため、通常は、プロテクトフィルムを貼合した後にロール巻きとされる。また、シクロオレフィン系樹脂フィルムは、一般に表面活性が劣るため、偏光フィルムと接着させる表面には、プラズマ処理、コロナ処理、ケン化処理、紫外線照射処理及びフレーム(火炎)処理等の表面処理を行うのが好ましい。なかでも、比較的容易に実施可能なプラズマ処理、特に大気圧プラズマ処理及びコロナ処理が好適である。
酢酸セルロース系樹脂とは、セルロースの部分又は完全エステル化物であり、例えば、セルロースの酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、それらの混合エステルなどからなるフィルムを挙げることができる。より具体的には、トリアセチルセルロースフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルムなどが挙げられる。このようなセルロースエステル系樹脂フィルムとしては、適宜の市販品を好適に用いることができ、例えば、それぞれ商品名で、“フジタックTD80”、“フジタックTD80UF”、“フジタックTD80UZ”及び“フジタックTD60UL”〔以上、富士フィルム(株)製〕、“KC8UX2M”、“KC8UY”、“KC4UYW”及び“KC6UAW”〔以上、コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製〕などが挙げられる。
また、保護フィルムとして、位相差特性を付与した酢酸セルロース系樹脂フィルムも好適に用いられる。かかる位相差特性が付与された酢酸セルロール系樹脂フィルムの市販品として、それぞれ商品名で、“WV BZ 438”〔富士フィルム(株)製〕、“KC4FR−1”、“KC4CR−1”及び“KC4AR−1”〔以上、コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製〕などが挙げられる。酢酸セルロースは、アセチルセルロースとも、セルロースアセテートとも呼ばれる。
本発明の偏光板の製造方法に用いられる保護フィルムの厚さは、薄い方が好ましいが、余り薄すぎると強度が低下し、加工性に劣るものとなる。一方で厚すぎると透明性が低下したり、積層後に必要な養生時間が長くなったりするなどの問題が生じる。そこで、保護フィルムの適当な厚さは、例えば、5〜200μmであり、好ましくは10〜150μm、より好ましくは10〜100μm である。
接着剤と偏光フィルム及び/又は保護フィルムとの接着性を向上させるために、偏光フィルム及び/又は保護フィルムに、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線処理、プライマー塗布処理及びケン化処理等の表面処理を施してもよい。
また、保護フィルムには、アンチグレア処理、アンチリフレクション処理、ハードコート処理、帯電防止処理及び防汚処理等の表面処理が、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて施されてもよい。また、保護フィルムは、ベンゾフェノン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物等の紫外線吸収剤や、フェニルホスフェート系化合物及びフタル酸エステル化合物等の可塑剤を含有していてもよい。
さらに、保護フィルムに、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能及び光学補償フィルムとしての機能等の光学的機能を持たせることができる。この場合、例えば、保護フィルムの表面に、位相差フィルム、輝度向上フィルム、反射フィルム、半透過反射フィルム、拡散フィルム及び光学補償フィルム等の光学機能性フィルムを積層することにより、このような機能を持たせることができるほか、保護フィルム自体にこのような機能を付与することもできる。また、輝度向上フィルムの機能を持った拡散フィルムなどのように、複数の機能を保護フィルムに持たせてもよい。
位相差フィルムとしての機能は、例えば、上記した保護フィルムに、特許第2841377 号公報、特許第3094113号公報などに記載の延伸処理を施したり、特許第3168850号公報に記載された処理を施したりすることにより付与することができる。
位相差フィルムにおける位相差特性は、例えば、正面位相差値が5〜100nm、厚さ方向位相差値が40〜300nmの範囲など、適宜選択できる。また、輝度向上フィルムとしての機能は、上記の保護フィルムに特開2002-169025号公報や特開2003-29030号 公報に記載されるような方法で微細孔を形成することにより、あるいは選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより付与することができる。
反射フィルム又は半透過反射フィルムとしての機能は、保護フィルムに蒸着やスパッタリングなどで金属薄膜を形成することにより、拡散フィルムとしての機能は、保護フィルムに微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、それぞれ付与することができる。また、光学補償フィルムとしての機能は、保護フィルムにディスコティック液晶性化合物等の液晶性化合物をコーティングして配向させることにより付与することができる。
保護フィルムには、位相差を発現する化合物を含有させてもよく、さらに、適当な接着剤を用いて、各種の光学機能性フィルムを偏光フィルムに直接貼合してもよい。光学機能性フィルムの市販品の例としては、それぞれ商品名で、“DBEF”〔3M社製、日本では住友スリーエム(株)から入手可能〕等の輝度向上フィルム、“WVフィルム”〔富士フィルム(株)製〕等の視野角改良フィルム、“アートンフィルム”〔JSR(株)製〕、“ゼオノアフィルム”〔日本ゼオン(株)製〕、“エスシーナ”〔積水化学工業(株)製〕、“VA−TACフィルム”〔コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製〕及び“スミカライト”〔住友化学(株)製〕等の位相差フィルムなどを挙げることができる。
接着剤層を構成する接着剤としては、水系接着剤や活性エネルギー線硬化型の接着剤などが挙げられる。
水系接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などが挙げられる。接着剤として用いるポリビニルアルコール系樹脂には、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルをケン化処理して得られるビニルアルコールホモポリマーのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体をケン化処理して得られるビニルアルコール系共重合体、さらにはそれらの水酸基を部分的に変性した変性ポリビニルアルコール系重合体などがある。水系接着剤には、多価アルデヒド、水溶性エポキシ化合物、メラミン系化合物、ジルコニア化合物、亜鉛化合物などが添加剤として添加されてもよい。このような水系の接着剤を用いた場合、それから得られる接着剤層は、通常1μm よりもはるかに薄い。水系接着剤は、その調製後、15〜40℃の温度下で塗布され、貼合温度は、通常15〜30℃の範囲である。
貼合後は、固着ゾーン45において乾燥処理を行い、接着剤中に含まれる水等の溶剤を除去する。この際の乾燥温度は、通常、約30〜95℃、好ましくは約40〜90℃の範囲であり、乾燥時間は、通常、約10〜600秒とすることができる。その後、約15〜85℃、好ましくは約20〜50℃、より好ましくは約35〜45℃の温度環境下で、通常、約1〜90日間程度養生して接着剤を硬化させてもよい。この養生期間が長いと生産性が悪くなるため、養生期間は、約1〜30日間程度、好ましくは約1〜7日間である。
活性エネルギー線硬化型の接着剤としては、耐候性や屈折率、カチオン重合性などの観点から、分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物を接着剤に用いるのが好ましい。このようなエポキシ化合物としては、脂環式環を有するポリオールのグリシジルエーテル、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物などが例示できる。このような活性エネルギー線硬化性接着剤に好適に用いられるエポキシ化合物は、例えば、特許第 4306270号公報(=特開 2004-245925号)で詳細に説明されているが、ここでも概略を説明することとする。
脂環式環を有するポリオールのグリシジルエーテルは、芳香族ポリオールを触媒の存在下、加圧下で選択的に水素化反応を行うことにより得られる核水添ポリヒドロキシ化合物を、グリシジルエーテル化したものであることができる。芳香族ポリオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェールF、及びビスフェノールSのようなビスフェノール型化合物;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、及びヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラック樹脂のようなノボラック型樹脂;テトラヒドロキシジフェニルメタン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、及びポリビニルフェノールのような多官能型の化合物などが挙げられる。これら芳香族ポリオールの芳香環に水素化反応を行って得られる脂環式ポリオールに、エピクロロヒドリンを反応させることにより、グリシジルエーテルとすることができる。このような脂環式環を有するポリオールのグリシジルエーテルのなかでも、水素化されたビスフェノールAのジグリシジルエーテルを用いることが好ましい。
脂肪族エポキシ化合物は、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルであることができる。より具体的には、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル;1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル;グリセリンのトリグリシジルエーテル;トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル;プロピレングリコールのジグリシジルエーテル;エチレングリコール、プロピレングリコール若しくはグリセリンのような脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
脂環式エポキシ化合物とは、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に1個以上有するエポキシ化合物を意味する。「脂環式環に結合したエポキシ基」とは、次式(I)に示される構造における橋かけの酸素原子−O−を意味する。次式(I)中、mは2〜5の整数である。
上記式(I)における(CH2)m中の1個又は複数個の水素原子を取り除いた形の基が他の化学構造に結合している化合物が、脂環式エポキシ化合物となり得る。(CH2)m中の1個又は複数個の水素原子は、メチル基やエチル基等の直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。脂環式エポキシ化合物の中でも、オキサビシクロヘキサン環〔上記式(I)においてm=3のもの〕や、オキサビシクロヘプタン環〔上記式(I)においてm=4のもの〕を有するエポキシ化合物は、偏光フィルムと保護フィルムの間で優れた接着性を示すことから好ましく用いられる。以下に、好ましく用いられる脂環式エポキシ化合物を具体的に例示するが、これらの化合物に限定されるものではない。
(a)エポキシシクロヘキシルメチル エポキシシクロヘキサンカルボキシレート類:次式(II)で示され、式中、R1及びR2は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す。
(b)アルカンジオールのエポキシシクロヘキサンカルボキシレート類:次式 (III)で示され、式中、R3及びR4は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、nは2〜20の整数を表す。
(c)ジカルボン酸のエポキシシクロヘキシルメチルエステル類:次式(IV)で示され、式中、R5及びR6は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、pは2〜20の整数を表す。
(d)ポリエチレングリコールのエポキシシクロヘキシルメチルエーテル類:次式(V)で示され、式中、R7及びR8は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、qは2〜10の整数を表す。
(e)アルカンジオールのエポキシシクロヘキシルメチルエーテル類:次式(VI)で示され、式中、R9 及びR10は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、rは2〜20の整数を表す。
(f)ジエポキシトリスピロ化合物:次式(VII) で示され、式中、R11及びR12は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す。
(g)ジエポキシモノスピロ化合物:次式(VIII)で示され、式中、R13及びR14は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す。
(h)ビニルシクロヘキセンジエポキシド類:次式(IX)で示され、式中、R15は、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す。
(i)エポキシシクロペンチルエーテル類:次式(X)で示され、式中、R16及びR17は互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す。
(j)ジエポキシトリシクロデカン類:次式(XI)で示され、式中、R18は、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す。
上に例示した脂環式エポキシ化合物の中でも、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔式(II)においてR1 =R2 =Hの化合物〕、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート〔式(II)においてR1=4−CH3、R2=4−CH3の化合物〕、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)〔式(III)において、R3=R4 =H、n=2の化合物〕、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル) アジペート、〔式(IV) において、R5=R6 =H、p=4の化合物〕、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル) アジペート〔式(IV) において、R5=4−CH3、R6 =4−CH3、p=4の化合物〕、エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)〔式(VI)において、R9=R10 =H、r=2の化合物〕は、市販されているか、又はその類似物であって、入手が比較的容易である等の理由からより好ましく用いられる。
活性エネルギー線硬化性接着剤において、エポキシ化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。この組成物に用いられるエポキシ化合物のエポキシ当量は、通常30〜3000g/当量、好ましくは50〜1500g/当量の範囲である。エポキシ当量が30g/当量を下回ると、硬化後の保護膜の可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、3000g/当量を超えると、他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
また、活性エネルギー線硬化性接着剤は、上記のエポキシ化合物に加え、オキセタン化合物を含有してもよい。オキセタン化合物を添加することにより、上記した接着剤の粘度を低くし、硬化速度を速めることができる。
オキセタン化合物は、分子内に少なくとも1個のオキセタン環(4員環エーテル)を有する化合物であって、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[(3−エチル−3−オキセタニル)メチル]エーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。オキセタン化合物の配合量は、活性エネルギー線硬化性化合物全体を基準に、通常50重量%以下、好ましくは10〜40重量%である。オキセタン化合物は、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、いずれも東亞合成(株)から販売されている商品名で、“アロンオキセタン OXT−101”、“アロンオキセタン OXT−121”、“アロンオキセタン OXT−211”、“アロンオキセタン OXT−221”、“アロンオキセタン OXT−212”などを挙げることができる。
この接着剤においては、反応性の観点から、エポキシ化合物の硬化反応としてカチオン重合が好ましく用いられ、その組成物には、カチオン重合開始剤を配合することが好ましい。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射によってカチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる。以下、活性エネルギー線の照射によりカチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を「光カチオン重合開始剤」という。
光カチオン重合開始剤を用い、活性エネルギー線の照射により接着剤の硬化を行なう方法は、常温での硬化が可能となり、偏光フィルムの耐熱性又は膨張による歪を考慮する必要が減少し、偏光フィルムと保護フィルムを良好に接着できる点において有利である。また、光カチオン重合開始剤は、光で触媒的に作用するため、接着剤に混合しても保存安定性や作業性に優れる。
上記の光カチオン重合開始剤は、いずれのタイプのものであってもよいが、具体例を挙げれば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩;鉄−アレーン錯体などがある。
芳香族ジアゾニウム塩としては、例えば、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロホスフェート、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロボレートなどが挙げられる。また、芳香族ヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4−ノニルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。
芳香族ジアゾニウム塩としては、例えば、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロホスフェート、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロボレートなどが挙げられる。
芳香族ヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4−ノニルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。
芳香族スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4,4′−ビス(ジフェニルスルホニオ)ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、 4,4′−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロアンチモネート、4,4′−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、7−[ジ(p−トルイル)スルホニオ]−2−イソプロピルチオキサントン ヘキサフルオロアンチモネート、7−[ジ(p−トルイル)スルホニオ]−2−イソプロピルチオキサントン テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−フェニルカルボニル−4′−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロホスフェート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4′−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロアンチモネート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4′−ジ(p−トルイル)スルホニオ−ジフェニルスルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。
また、鉄−アレーン錯体としては、例えば、キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II) ヘキサフルオロアンチモネート、クメン−シクロペンタジエニル鉄(II) ヘキサフルオロホスフェート、キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II) トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタナイドなどが挙げられる。
これらの光カチオン重合開始剤の市販品は、容易に入手することが可能であり、例えばそれぞれ商品名で、“カヤラッドPCI−220”及び“カヤラッドPCI−620”〔以上、日本化薬(株)製〕、“UVI−6990”〔ダウ・ケミカル社製〕、“アデカオプトマー SP−150”及び“アデカオプトマー SP−170”〔以上、(株)ADEKA製〕、“CI−5102”、“CIT−1370”、“CIT−1682”、“CIP−1866S”、“CIP−2048S”及び“CIP−2064S”〔以上、日本曹達(株)製〕、“DPI−101”、“DPI−102”、“DPI−103”、“DPI−105”、“MPI−103”、“MPI−105”、“BBI−101”、“BBI−102”、“BBI−103”、“BBI−105”、“TPS−101”、“TPS−102”、“TPS−103”、“TPS−105”、“MDS−103”、“MDS−105”、“DTS−102”及び“DTS−103”〔以上、みどり化学(株)製〕、“PI−2074”〔ローディア社製〕などを挙げることができる。
これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。これらのなかでも、特に芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械的強度を与え、また偏光フィルムと保護フィルムの間の良好な密着性を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
光カチオン重合開始剤の配合量は、エポキシ化合物やオキセタン化合物を包含するカチオン重合性化合物の合計100重量部に対して、通常 0.5〜20重量部であり、好ましくは1〜6重量部である。光カチオン重合開始剤の配合量が少ないと、硬化が不十分になり、機械的強度や偏光フィルムと保護フィルムの間の接着性を低下させる傾向にある。一方、光カチオン重合開始剤の配合量が多すぎると、硬化物中のイオン性物質が増加することで硬化物の吸湿性が高くなり、得られる接着剤層の耐久性能が低下する可能性がある。
活性エネルギー線硬化型の接着剤には、さらに、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤等の添加剤を配合することができる。イオントラップ剤としては、アンチモン系、粉末状のビスマス系、マグネシウム系、アルミニウム系、カルシウム系、チタン系及びこれらの混合系等の無機化合物が挙げられ、酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。
活性エネルギー線硬化型の接着剤は、溶剤成分を実質的に含まない無溶剤型接着剤として用いることができるが、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、粘度調整のために溶剤を含有させてもよい。溶剤としては、偏光フィルムの光学性能を低下させることなく、接着剤を構成するエポキシ化合物などを良好に溶解するものを用いることが好ましく、例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類等の有機溶剤を挙げることができる。本発明で用いられる活性エネルギー線硬化型の接着剤の粘度は、例えば、5〜1000mPa・s程度の範囲であり、好ましくは10〜200mPa・sであり、より好ましくは20〜100mPa・s である。活性エネルギー線硬化型の接着剤の塗工方法に特別な限定はなく、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式により、保護フィルム又は偏光フィルムの貼合面に塗工すればよい。
こうして偏光フィルムに形成された接着剤層の上には、上記した保護フィルムが貼合される。偏光フィルムの両面に保護フィルムを貼合する場合、2枚の保護フィルムを段階的に片面ずつ貼合してもよいし、両面を一段階で貼合してもかまわない。この偏光フィルムと保護フィルムの積層体に対し、固着ゾーン45で活性エネルギー線を照射して接着剤を硬化させる。活性エネルギー線の照射に用いる光源は、特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどを用いることができる。光照射強度は、目的とする組成物毎に決定されるものであり、やはり特に限定されないが、開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が10〜5000mW/cm2であることが好ましい。光照射強度が10mW/cm2未満であると、反応時間が長くなりすぎ、5000mW/cm2 を超えると、ランプから輻射される熱及び組成物の重合時の発熱によって、接着剤層の黄変や偏光フィルムの劣化を生じる可能性がある。
活性エネルギー線の照射時間は、硬化する組成物毎に制御されるものであり、やはり特に限定されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10〜5000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。上記の積算光量が10mJ/cm2未満であると、開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、得られる保護フィルムの硬化が不十分となる可能性があり、一方でその積算光量が5000mJ/cm2を超えると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上には不利なものとなる。硬化後の接着剤層の厚さは、通常、 0.1〜10μm、より好ましくは0.2〜4μmである。
以上のようにして製造した偏光板は、偏光フィルムと、偏光フィルムの少なくとも一方の面に貼合された保護フィルムとを備え、液晶表示装置の構成部材である偏光板として用いることができる。
次に、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら制限されるものではない。以下の例中で作製した偏光板の収縮率は、次のようにして測定した。
偏光板の収縮率の測定は、次のようにして行った。作製した偏光板を延伸方向に沿って延伸方向50mm×幅方向50mmの断片を切り出し、温度23℃、相対湿度55%に設定された環境下に24時間以上静置して調湿した。次いで、調湿後の偏光板の断片を85℃で24時間加熱した。二次元寸法測定装置を用い、調湿後の偏光板の断片(初期寸法)及びこれを85℃で24時間加熱した後のサンプル片の延伸方向の寸法を測定し、次の式により偏光板の収縮率を算出した。
偏光板の収縮率(%)=(初期寸法−加熱後の寸法)/初期寸法×100
〔実施例1〕
厚さ75μm のポリビニルアルコールフィルム〔(株)クラレ製の商品名“クラレビニロンVF−PS#7500”、重合度2400、ケン化度99.9モル%以上 〕を30℃の純水に、フィルムが弛まないように緊張状態を保ったまま浸漬しフィルムを十分に膨潤させた。次に、染色処理としてヨウ素とヨウ化カリウムを含む水溶液に浸漬しつつ、一軸延伸を行った後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で12/4.4/100 の55℃水溶液が入った架橋処理槽に浸漬し、耐水化処理しつつ原反からの積算延伸倍率が 5.5倍になるまで一軸延伸を行った。続いて、40℃のホウ酸水溶液に浸漬した後、12℃の純水が入った洗浄処理槽に浸漬した。その後、フィルムに800N/mの張力を付与しながら70℃で1分間乾燥した後、緩和ゾーンにおいて室温(温度23℃、相対湿度50%)で200N/mの張力を付与しつつフィルムを延伸方向に緩和し偏光フィルムを得た。
この時の入口側ニップロールの周速度は2.31 m/分であり、出口側ニップロールの周速度は2.29 m/分であった。前記式(1)に当てはめて緩和率を算出したところ、その緩和率は99.1 %であった。得られた偏光フィルムに400N/mの張力を付与しつつ、ポリビニルアルコール系水系接着剤を用いて偏光フィルムの両面に40μm のトリアセチルセルロースフィルムを貼合し、偏光板を作製した。得られた偏光板を85℃で24時間加熱したときの延伸方向における収縮率は1.09 %であった。
〔実施例2〕
厚さ50μm のポリビニルアルコールフィルム〔(株)クラレ製の商品名“クラレビニロンVF−PE#5000”、重合度2400、ケン化度 99.9モル%以上〕を用い、緩和ゾーンにおける張力を150N/mとした以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。この時の入口側ニップロールの周速度は 2.31m/分であり、出口側ニップロールの周速度は2.28 m/分であった。前記式(1)に当てはめて緩和率を算出したところ、その緩和率は98.7 %であった。得られた偏光板を85℃で24時間加熱したときの延伸方向における収縮率は1.08 %であった。
〔実施例3〕
洗浄処理の後、フィルムを35℃で1分間乾燥した以外は実施例2と同様にして偏光板を作製した。この時の入口側ニップロールの周速度は2.31 m/分であり、出口側ニップロールの周速度は2.25 m/分であった。前記式(1)に当てはめて緩和率を算出したところ、その緩和率は97.4 %であった。得られた偏光板を85℃で24時間加熱したときの延伸方向における収縮率は1.01 %であった。
〔実施例4〕
偏光フィルムにトリアセチルセルロースフィルムを貼合する際、50N/mの張力を付与しながら行った以外は実施例2と同様にして偏光板を作製した。この時の入口側ニップロールの周速度は2.31 m/分であり、出口側ニップロールの周速度は2.28 m/分であった。前記式(1)に当てはめて緩和率を算出したところ、その緩和率は98.7 %であった。得られた偏光板を85℃で24時間加熱したときの延伸方向における収縮率は1.07 %であった。トリアセチルセルロースフィルムの貼合後、シワの入った偏光板が得られた。
〔比較例1〕
乾燥処理の後、偏光フィルムに600N/mの張力をかけて、偏光フィルムが緩和されないように調整した以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。この時の緩和ゾーンおける張力は600N/mであり、入口側ニップロールの周速度は2.31 m/分で、出口側ニップロールの周速度は2.34 m/分であった。前記式(1)に当てはめて緩和率を算出したところ、101.3 %であった。得られた偏光板を85℃で24時間加熱したときの延伸方向における収縮率は1.25 %であった。
〔比較例2〕
乾燥処理の後、偏光フィルムに500N/mの張力をかけて、偏光フィルムが緩和されないように調整した以外は実施例2と同様にして偏光板を作製した。この時の緩和ゾーンおける張力は500N/mであり、入口側ニップロールの周速度は 2.31m/分で、出口側ニップロールの周速度は2.33 m/分であった。前記式(1)に当てはめて緩和率を算出したところ、100.9 %であった。得られた偏光板を85℃で24時間加熱したときの延伸方向における収縮率は1.21 %であった。
本発明の製造方法により偏光フィルムを製造した実施例1と、実施例1と同じポリビニルアルコールフィルム(原反フィルム)を用いて本発明の製造方法に該当しない方法で偏光フィルムを作成した比較例1の比較から、本発明の方法によれば、高温条件下における偏光板の収縮が抑制されることがわかる。同様に、実施例1よりも薄い原反フィルムを用いた実施例2及び3の結果と、これらと同じ原反フィルムを用いて本発明の製造方法に該当しない方法で偏光フィルムを作成した比較例2の比較から、本発明の方法によれば、高温条件下における偏光板の収縮が効果的に抑制されることがわかる。また、実施例4の結果から、本発明で規定する緩和工程の条件のうち、貼合工程の張力よりも緩和ゾーンにおける張力が大きい場合であっても、緩和率が満たされていれば収縮率が抑制されることがわかる。