以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。なお、図1において、車両用シート8に腰掛ける搭乗者の前方、すなわち、紙面右側が車両の前側であり、その搭乗者の後方、すなわち、紙面左側が車両の後側である。また、車両用シート8に腰掛ける搭乗者の右手にくる側、すなわち、紙面手前側が車両の内側であり、その搭乗者の左手にくる側、すなわち、紙面奥側が車両の外側である。そして、図2以降の各図に示す前後方向、車両内外方向及び上下方向は、すべて図1に対応させて表示する。
(実施例)
図1に示すように、実施例の車両用シートリクライニング装置1は、ロック装置90とともに、車体9に設置された車両用シート8に適用されるものである。本実施例では、車両用シート8は、車体9の後部座席のうちの左側に配置されたシートである。車両用シート8は、搭乗者が腰掛けるシート本体8Aと、搭乗者がもたれ掛かるバックレスト8Bとにより構成されている。シート本体8Aは、車体9に組み付けられている。バックレスト8Bは、シート本体8Aの後端部に設けられた支持軸8Cに傾動可能に支持されており、シート本体8Aの後端部から斜め後方に向かって立ち上がっている。
バックレスト8Bの車両外側を向く側面の上方には、ロック装置90が固定されている。ロック装置90は、進入口91、及びその進入口91を塞ぐように変位可能な図示しないフォーク等を有する公知の構成を備えている。車体9におけるロック装置90に車両外側から対向する部位には、車両用シートリクライニング装置1が設けられている。
進入口91に車両用シートリクライニング装置1のストライカ39が進入した状態でフォークが進入口91を塞ぐことにより、ロック装置90がストライカ39と係合し、バックレスト8Bの傾動姿勢が車両用シートリクライニング装置1によって固定される。バックレスト8Bが傾動する際、ロック装置90は、支持軸8Cを中心とする円弧状の軌跡C1を描く。
図示は省略するが、車両用シート8の近傍には、ロック装置90とストライカ39との係合を解除する解除レバーが設けられている。例えば、大きな荷物を積載するためにバックレスト8Bを前方に倒す場合、搭乗者がその解除レバーを操作すると、ロック装置90がストライカ39と係合しなくなる。その結果、バックレスト8Bを支持軸8C周りで前方に倒すことができる。
図1〜図12に示すように、車両用シートリクライニング装置1は、レール10、スライダ30、ストライカ39及びラッチ機構100を備えている。
図6、図7、図11及び図13等に示すように、レール10は、金属板が略「C」字断面形状に折り曲げ加工されたものである。レール10は、中心軸線S1に沿って直線状に延びる形状とされている。つまり、本実施例では、レール10が延びる延在方向は、中心軸線S1が延びる方向である。
図2、図3及び図8に示すように、レール10の前端部には、ブラケット29が車両外側から取り付けられている。ブラケット29には、上下一対の取付穴29Hが貫設されている。レール10の後端部には、取付穴10Hが貫設されている。各取付穴29H、10Hに止めネジ等を挿通させて車体9に締結することにより、レール10が車体9に固定される。この際、図1に示すように、レール10の中心軸線S1がロック装置90の円弧状の軌跡C1におおよそ合うように、すなわち、円弧状の軌跡C1の接線と略平行で、軌跡C1と重なるように、レール10が車体9に位置決めされる。中心軸線S1は、前後方向に延び、かつ後方に向かって下り傾斜している。なお、本実施例において、幅方向は、中心軸線S1に直交しつつ上下に延びる方向である。
図6、図7、図11及び図13等に示すように、レール10は、基壁13と、第1折り返し壁11と、第2折り返し壁12とを含んでいる。基壁13は、中心軸線S1に沿って平坦に延びている。第1折り返し壁11は、基壁13の幅方向の上端が車両内側に向けて略直角に屈曲され、さらに下向きに折り返されてなる。第2折り返し壁12は、基壁13の幅方向の下端が車両内側に向けて略直角に屈曲され、さらに上向きに折り返されてなる。第1折り返し壁11及び第2折り返し壁12は、中心軸線S1に沿って、基壁13と平行に延びている。
図13等に示すように、基壁13と第1折り返し壁11との車両内外方向の間隔と、基壁13と第2折り返し壁12との車両内外方向の間隔とは、ともに等しい所定の大きさに設定されている。これにより、基壁13と第1折り返し壁11と第2折り返し壁12との間に、スライダ30を摺動させるための摺動空間10Sが確保されている。
図13等に示すように、基壁13の車両内側を向く内壁面が第1案内面13Aとされている。第1折り返し壁11の内壁面のうち、車両外側を向いて第1案内面13Aと対向する面が第2案内面11Aとされ、下方を向いて第1案内面13Aの幅方向の上端と第2案内面11Aの幅方向の上端とに接続する面が第3案内面11Bとされている。第2折り返し壁12の内壁面のうち、車両外側を向いて第1案内面13Aと対向する面が第2案内面12Aとされ、上方を向いて第1案内面13Aの幅方向の下端と第2案内面12Aの幅方向の下端とに接続する面が第3案内面12Bとされている。
図7及び図8等に示すように、基壁13の略中央部には、スリット20が貫設されている。スリット20は、中心軸線S1に沿って延びる略矩形状の長穴である。基壁13におけるスリット20の前端部よりも前方の位置と、スリット20の後端部よりも後方の位置とに、2つの挿通孔13C、13Dが貫設されている。
図6及び図7等に示すように、レール10は、ストッパ15F、15Rを有している。基壁13の前端部には、金属製のストッパプレート16がリベットによって加締め固定されている。ストッパ15Fは、ストッパプレート16の上下2箇所が車両内側に向かって屈曲されてなる。ストッパ15Rは、基壁13の後端部における第1折り返し壁11及び第2折り返し壁12よりも後方の上下2箇所が車両内側に向かって切り起こされてなる。ストッパ15F、15Rは、レール10の中心軸線S1に沿って摺動するスライダ30をレール10の前端部と後端部とで当て止める。
図6、図7、図9及び図10等に示すように、スライダ30は、ストライカ39及びピン32が設けられたベース31と、一対の緩衝部材40と、一対の外装部材50とを有している。
ベース31は、金属板が打ち抜きプレス加工されたものであり、中心軸線S1が延びる方向に長い略矩形状とされている。ベース31は、第1面31Aと、第1面31Aとは反対側を向く第2面31Bとを含んでいる。図13等に示すように、スライダ30がレール10の摺動空間10S内に配置された状態で、第1面31Aは、車両外側を向いて基壁13の第1案内面13Aと対向する。また、その状態で、第2面31Bは、車両内側を向いて、第1折り返し壁11及び第2折り返し壁12の第2案内面11A、12Aと対向する。
図7に示すように、ベース31の前端部と中央部とには、2つのポスト孔31C、31Dが貫設されている。ベース31の後端部には、ピン孔31Eが貫設されている。
図6、図7、図9及び図10等に示すように、ベース31の第2面31B側には、ストライカ39が固定されている。ストライカ39は、金属丸棒が略「U」字形状に折り曲げ加工されてなる。ストライカ39は、その両端部が図7に示すポスト孔31C、31Dに挿通されて溶接や熱加締めされることにより、ベース31に強固に結合されている。図1に示すように、ストライカ39は、ポスト孔31Cに結合する前方の直線部分が上述したロック装置90の進入口91に進入することによりロック装置90と係合する。
図7〜図12及び図14等に示すように、ベース31の第1面31A側には、ピン32が設けられている。ピン32は、金属製の多段円柱体であるピン本体33と、ゴム製の円筒体であるゴムブッシュ36とを含んでいる。
図7に示すように、ピン本体33は、その車両内側の端部がピン孔31Eに挿通されて溶接や熱加締めされることにより、ベース31に強固に結合されている。ピン本体33には、軸心が同一である第1段部33A、第2段部33B及び加締め部33Cが形成されている。
図7、図8、図11及び図12等に示すように、第1段部33Aは、第1面31A側から車両外側に向かって円柱状に突出し、スリット20を通過している。スリット20の中心軸線S1方向の長さは、スライダ30とともに変位するピン本体33の第1段部33Aに干渉しない大きさに設定されている。
第2段部33Bは、スリット20よりも車両外側で第1段部33Aに接続している。第2段部33Bは、第1段部33Aよりも小径であり、車両外側に向かって円柱状に突出している。ゴムブッシュ36は、第2段部33Bに挿通されることによって、ピン本体33と一体に設けられている。ゴムブッシュ36は、第1段部33Aよりも大径である。
加締め部33Cは、第2段部33Bに接続し、車両外側に向かって円柱状に突出している。加締め部33Cは、第2段部33Bよりも小径である。ゴムブッシュ36よりも大径である円形板34が加締め部33Cに挿通された状態で、加締め部33Cが加締められることにより、円形板34がピン本体33の先端に固定され、ゴムブッシュ36がピン本体33に対して抜け止めされる。
図7に示すように、ベース31の前端部における上下の角部には、前方に突出する2つの小突起31Fが形成されている。ベース31の後端部における上下の角部には、後方に突出する2つの小突起31Rが形成されている。ベース31の幅方向の上端縁及び下端縁には、それぞれ小突起31F、31Rの近傍で上向き又は下向きに突出する4つの小突起31Tが形成されている。
図6、図7、図9及び図10等に示すように、前方に配置される緩衝部材40と後方に配置される緩衝部材40とは同一部品であって、姿勢が異なる状態でベース31の前端部と後端部とにそれぞれ取り付けられている。
緩衝部材40は、取付部43と、4つの第1当接部41と、2つの第2当接部42と、2つの補強部44とが一体成形されてなるゴム製部品である。なお、緩衝部材40を構成する材料は、ゴムに限定されず、軟質材料であって復元力に優れたものであれば、エラストマ等の各種の材料を採用できる。
図7に示すように、取付部43は、第1部分43Aと、第2部分43Bと、接続部分43C、43Dとを含んでいる。第1部分43Aと第2部分43Bとは、略「C」字の平板形状とされている。
前方の緩衝部材40において、取付部43は、ベース31の前端部に外装される。第1部分43Aは、第1面31Aの前端部の一部を覆う。第2部分43Bは、第2面31Bの前端部の一部を覆う。接続部分43Cは、第1部分43Aの前端縁と第2部分43Bの前端縁とを接続する。上下2つの接続部分43Dは、ベース31の小突起31Tを乗り越えた位置で、第1部分43Aと第2部分43Bとを幅方向の上端及び下端において接続する。
後方の緩衝部材40において、取付部43は、ベース31の後端部に外装される。第1部分43Aは、第1面31Aの後端部の一部を覆う。第2部分43Bは、第2面31Bの後端部の一部を覆う。接続部分43Cは、第1部分43Aの後端縁と第2部分43Bの後端縁とを接続する。上下2つの接続部分43Dは、ベース31の小突起31Tを乗り越えた位置で、第1部分43Aと第2部分43Bとを幅方向の上端及び下端において接続する。
図7、図9、図10及び図13等に示すように、各緩衝部材40において、2つの第1当接部41は、第1部分43Aの上部分と下部分とから車両外側に向かって略円柱状に短く突出している。これらの第1当接部41の先端面は、車両内側から基壁13の第1案内面13Aに当接している。
また、各緩衝部材40において、他の2つの第1当接部41は、第2部分43Bの上部分と下部分とから車両内側に向かって略円柱状に短く突出している。これらの第1当接部41の先端面は、車両外側から第1折り返し壁11及び第2折り返し壁12の第2案内面11A、12Aに当接している。
図6、図7、図9及び図10等に示すように、前方の緩衝部材40において、2つの第2当接部42は、ベース31の小突起31Fを内挿させた略ブロック形状とされて、前方に突出している。これらの第2当接部42は、スライダ30が中心軸線S1に沿って前方に摺動する際、レール10の前端部に配置されたストッパ15Fと当接可能である。
後方の緩衝部材40において、2つの第2当接部42は、ベース31の小突起31Rを内挿させた略ブロック形状とされて、後方に突出している。これらの第2当接部42は、スライダ30が中心軸線S1に沿って後方に摺動する際、レール10の後端部に配置されたストッパ15Rと当接可能である。
図7に示すように、前方の緩衝部材40において、1つの補強部44は上方の接続部分43Dから後方に離間した位置で、第1部分43Aの上端と第2部分43Bの上端とに接続している。この補強部44は、中空部分を有する略ブロック形状とされて、上方に突出している。また、前方の緩衝部材40において、他の1つの補強部44は、下方の接続部分43Dから後方に離間した位置で、第1部分43Aの下端部と第2部分43Bの下端部とに接続している。この補強部44は、中空部分を有する略ブロック形状とされて、下方に突出している。
後方の緩衝部材40において、1つの補強部44は、上方の接続部分43Dから前方に離間した位置で、第1部分43Aの上端と第2部分43Bの上端とに接続している。この補強部44は、中空部分を有する略ブロック形状とされて、上方に突出している。また、後方の緩衝部材40において、他の1つの補強部44は、下方の接続部分43Dから前方に離間した位置で、第1部分41Aの下端部と第2部分43Bの下端部とに接続している。この補強部44は、中空部分を有する略ブロック形状とされて、下方に突出している。
上方に配置される外装部材50と下方に配置される外装部材50とは同一部品であって、姿勢が異なる状態でベース31の幅方向の上端縁と下端縁とにそれぞれ取り付けられている。
図6、図7、図9及び図10等に示すように、外装部材50は、外装部51と、付勢部52と、回動部54とが一体成形されてなる樹脂製部品である。なお、外装部材50を構成する樹脂材料としては、POM(ポリアセタール)樹脂又はPA(ナイロン)樹脂等の耐摩耗性や摺動性に優れた樹脂材料を採用することが好ましい。
上方の外装部材50において、外装部51は、ベース31の上端縁の前端から後端まで延び、各緩衝部材40の取付部43の上部分に外装されている。外装部51は、各第1当接部41を回避しつつ、取付部43の上部分を車両内外方向において挟んでいる。
下方の外装部材50において、外装部51は、ベース31の下端縁の前端から後端まで延び、各緩衝部材40の取付部43の下部分に外装されている。外装部51は、各第1当接部41を回避しつつ、取付部43の下部分を車両内外方向において挟んでいる。
図11に示すように、外装部51は、若干撓んだ状態で、車両内側から基壁13の第1案内面13Aに当接するとともに、車両外側から第1折り返し壁11及び第2折り返し壁12の第2案内面11A、12Aに当接している。これにより、外装部51は、スライダ30が中心軸線S1に沿って摺動する際、レール10と摺接する。
図6、図7、図9及び図10等に示すように、上方の外装部材50において、付勢部52は、外装部51における前後方向の中間部から前方に突出している。付勢部52は、前方に向けて上り傾斜する片持ち梁形状とされている。前方の緩衝部材40における上方の補強部44は、ベース31の上端縁と、上方の外装部材50の付勢部52とに挟まれる位置に配置され、その付勢部52を補強している。
下方の外装部材50において、付勢部52は、外装部51における前後方向の中間部から前方に突出している。付勢部52は、前方に向けて下り傾斜する片持ち梁形状とされている。前方の緩衝部材40における下方の補強部44は、ベース31の下端縁と、下方の外装部材50の付勢部52とに挟まれる位置に配置され、その付勢部52を補強している。
上方の外装部材50において、回動部54は、外装部51における前後方向の中間部と前端部とを接続するように前後方向に延びている。回動部54は、上向きに湾曲する両持ち梁形状とされている。後方の緩衝部材40における上方の補強部44は、ベース31の上端縁と、上方の外装部材50の回動部54とに挟まれる位置に配置され、その回動部54を補強している。
下方の外装部材50において、回動部54は、外装部51における前後方向の中間部と前端部とを接続するように前後方向に延びている。回動部54は、下向きに湾曲する両持ち梁形状とされている。後方の緩衝部材40における下方の補強部44は、ベース31の下端縁と、下方の外装部材50の回動部54とに挟まれる位置に配置され、その回動部54を補強している。
図6、図11及び図13に示すように、スライダ30が中心軸線S1に沿って摺動する際、上方の付勢部52及び回動部54は、弾性変形可能に第1折り返し壁11の第3案内面11Bに摺接し、下方の付勢部52及び回動部54は、弾性変形可能に第2折り返し壁12の第3案内面12Bに摺接する。
図6(b)に示すように、各回動部54は、スライダ30がピン32周りで回動して中心軸線S1からずれることを許容する。各付勢部52は、スライダ30が中心軸線S1がずれた場合に、図6(a)に示す元の姿勢に復帰させるようにスライダ30を付勢する。
これにより、バックレスト8Bが図1に示す位置から前方又は後方に傾動し、円弧状の軌跡C1に対して中心軸線S1が離間する位置でストライカ39がロック装置90と係合する場合でも、スライダ30が図6(a)に示す状態からピン32周りで回動して図6(b)に示す状態となることで、軌跡C1と中心軸線S1とのずれを吸収することができる。
図2〜図5、図8及び図11等に示すように、ラッチ機構100は、レール10とスライダ30との間に設けられ、スライダ30の摺動を規制又は許容するものである。ラッチ機構100は、スリット20と、ピン32と、拘束手段70と、可動部材60とを有している。
スリット20及びピン32の構成は、上述した通りである。ピン32を構成するゴムブッシュ36と、ピン本体33の第1段部33A及び第2段部33Bとによって、第1係合部110が形成されている。ゴムブッシュ36は、本発明の「ゴム製の第1当接部」の一例である。
図2、図3及び図8等に示すように、拘束手段70は、ブラケット71と、2個の引張コイルバネ75とを有している。引張コイルバネ75は、本発明の「付勢部材」の一例である。
ブラケット71は、金属板が打ち抜きプレス加工及び折り曲げ加工されてなる。図8に示すように、ブラケット71をレール10の基壁13に対して車両外側に配置し、2つのリベット71Jをレール10の基壁13に貫設された挿通孔13C、13Dに車両内側から挿通し、次に、ブラケット71に貫設された図示しない挿通孔に挿通した後、それらの先端部を加締めることによって、ブラケット71がレール10に固定されている。
ブラケット71は、開口部71Hと、一対のガイド壁72F、72Rとを有している。
開口部71Hは、スリット20に対応する位置に貫設されている。開口部71Hは、スリット20よりも大きな略矩形状の長穴である。図12に示すように、開口部71Hは、ピン本体33の第1段部33Aを通過させる。ピン本体33の第2段部33B及び加締め部33Cと、ゴムブッシュ36と、円形板34とは、開口部71Hよりも車両外側に位置している。
図2、図3及び図8等に示すように、ブラケット71の前端部が車両外側に向けて屈曲され、さらに後方に向けて屈曲されることにより、断面略「C」字状のガイド壁72Fが形成されている。ブラケット71の後端部が車両外側に向けて屈曲され、さらに前方に向けて屈曲されることにより、断面略「C」字状のガイド壁72Rが形成されている。前方のガイド壁72Fと後方のガイド壁72Rとは、平行に延びている。ガイド壁72F、72Rが延びる方向を直動方向D1とする。直動方向D1は、中心軸線S1が延びる方向と、ピン32が突出する車両内外方向とに略直交している。
ブラケット71の上端部におけるガイド壁72F、72Rの近傍には、小片が車両外側に向かって屈曲されてなる2つのバネ係止部71Sが形成されている。前方に配置された引張コイルバネ75の上端部は、前方のバネ係止部71Sに係止されている。後方に配置された引張コイルバネ75の上端部は、後方のバネ係止部71Sに係止されている。
ブラケット71における開口部71Hの上端縁を区画する部分には、小片が車両外側に向かって屈曲されてなる5つの突出片73が形成されている。
ブラケット71は、前方のガイド壁72Fと後方のガイド壁72Rとの中間の位置で下方に突出しており、その下端部に、小片が車両外側に向かって屈曲されてなるアウターチューブ保持部74が形成されている。アウターチューブ保持部74は、ケーブル80を進退可能に収容するアウターチューブ81を保持している。
図2〜図5及び図8等に示すように、可動部材60は、金属製の可動本体61と、樹脂製の係合プレート62と、金属製の固定板63とが組み合わされてなる。
可動本体61は、金属板が打ち抜きプレス加工及び折り曲げ加工されてなる。可動本体61には、スリット20側に位置する上端縁から下向きに凹む5つの切欠きが形成され、それらが金属溝部65とされている。各金属溝部65は、中心軸線S1が延びる方向に整列している。図8に示すように、可動本体61の前部分と後部分とには、2つの挿通孔61C、61Dが貫設されている。
図2〜図5及び図8等に示すように、係合プレート62は、本実施例では、POM(ポリアセタール)樹脂等の硬質樹脂からなる射出成形品である。係合プレート62には、スリット20側に位置する上端縁から下向きに凹む5つの切欠きが形成され、それらが樹脂溝部66とされている。各樹脂溝部66は、中心軸線S1が延びる方向に整列している。図8に示すように、係合プレート62の前部分と後部分とには、2つの挿通孔62C、62Dが貫設されている。
図2〜図5及び図8等に示すように、固定板63は、金属板が打ち抜きプレス加工及び折り曲げ加工されてなる。固定板63には、上向きに突出する4つの押さえ部63Pが形成されている。図8に示すように、固定板63の前部分と後部分とには、2つの挿通孔63C、63Dが貫設されている。
2つのリベット60Jを可動本体61に貫設された挿通孔61C、61Dに車両内側から挿通し、次に、係合プレート62に貫設された挿通孔62C、62Dに挿通し、さらに、固定板63に貫設された挿通孔63C、63Dに挿通した後、それらの先端部を加締めることによって、可動本体61と係合プレート62と固定板63とが強固に結合されている。各押さえ部63Pは、係合プレート62における各樹脂溝部66の間に位置する部分に車両外側から当接し、それらの部分が可動本体61から離間しないように押さえる。
図12及び図14等に示すように、各金属溝部65は、車両内外方向から見て樹脂溝部66からはみ出さない大きさに設定されている。図14に示すように、ピン本体33の第1段部33Aは、車両外側に向かって突出し、可動部材60がスリット20に接近する状態で各金属溝部65に進入可能となっている。各金属溝部65の内幅W1は、第1段部33Aの外径D1に対して充分な余裕を確保する程度の大きさに設定されている。ピン本体33の第2段部33Bは、各樹脂溝部66を通過する位置まで延在している。第2段部33Bに挿通されたゴムブッシュ36は、各樹脂溝部66に前後方向で当接可能な位置まで延在している。各樹脂溝部66の内幅W2は、ゴムブッシュ36が各樹脂溝部66の底部に押し付けられて、ゴムブッシュ36の外径D2が上下方向において縮小し、かつ前後方向に拡大するように弾性変形することによって、ゴムブッシュ36と当接する程度の大きさに設定されている。
可動本体61の各金属溝部65と、係合プレート62の各樹脂溝部66とによって、第2係合部120が形成されている。樹脂溝部66は、本発明の「樹脂製の第2当接部」の一例である。
図8及び図11に示すように、可動本体61の前端部及び後端部には、ゴムカバー64Aが装着され、さらに、樹脂カバー64Bがゴムカバー64Aの一部を露出されつつ装着されている。可動本体61の前端部及び後端部は、ゴムカバー64A及び樹脂カバー64Bを介在させた状態で、ガイド壁72F、72Rに収容されている。
図2〜図5に示すように、可動本体61は、ガイド壁72F、72Rによって、直動方向D1に案内される。この際、ゴムカバー64A及び樹脂カバー64Bによって、可動本体61とガイド壁72F、72Rとの間で摺接音が発生することが抑制される。図2及び図4に示すように、可動部材60がスリット20に接近する位置を接近位置とする。図3及び図5に示すように、可動部材60がスリット20から離間する位置を離間位置とする。
図2〜図5及び図8等に示すように、可動本体61の下端部における前後の角部には、小片が車両外側に向かって屈曲されてなる2つのバネ係止部61Sが形成されている。前方に配置された引張コイルバネ75の下端部は、前方のバネ係止部61Sに係止されている。後方に配置された引張コイルバネ75の下端部は、後方のバネ係止部61Sに係止されている。引張コイルバネ75は、直動方向D1に案内される可動部材60を接近位置に変位させるように付勢する。
可動本体61の下端部における前後方向の中間部には、小片が車両外側に向かって屈曲されてなるケーブル連結部61Kが形成されている。ケーブル80の一端は、ケーブル連結部61Kに連結されている。図示は省略するが、車両用シート8の近傍には、バックレスト8Bの傾動姿勢を調整する調整レバーが設けられており、その調整レバーにケーブル80の他端が連結されている。
バックレスト8Bの傾動姿勢を調整する場合、搭乗者がその調整レバーを操作すると、その操作がケーブル80を介して、可動部材60に伝達される。その結果、可動部材60は、ケーブル80によって引き下げられ、接近位置から離間位置に変位する。要するに、拘束手段70は、ケーブル80の進退により、接近位置と離間位置との間で直動方向D1に移動可能に可動部材60を拘束している。
図2、図4、図11及び図14に示すように、可動部材60が接近位置にある状態では、第2係合部120の一部を構成する各樹脂溝部66のいずれか一つが第1係合部110の一部を構成するゴムブッシュ36と係合する。この際、ゴムブッシュ36は、若干圧縮変形して樹脂溝部66に嵌入した状態となる。これにより、ラッチ機構100がスライダ30の摺動を規制し、バックレスト8Bの傾動姿勢が固定される。
図15に示すように、バックレスト8Bに作用する衝撃等の過大な力F1がロック装置90、ストライカ39及びスライダ30を介して、第1係合部110及び第2係合部120に作用する場合がある。ここで、本実施例では、第1係合部110の一部を構成するゴムブッシュ36の変形範囲を大きくするように、ゴムブッシュ36の形状や硬度を設定している。このため、その過大な力F1によって、ゴムブッシュ36が所定の範囲を超えて圧縮変形すると、第2係合部120の一部を構成する樹脂溝部66が過度に変形する前に、可動本体61の金属溝部65と、ピン本体33の第1段部33Aとが前後方向で当接し合って、その過大な力F1に対抗することができる。
搭乗者がバックレスト8Bの傾動姿勢を調整するために調整レバーを操作すると、図3、図5及び図12に示すように、可動部材60が離間位置に変位する。可動部材60が離間位置にある状態では、第2係合部120を構成する各金属溝部65及び各樹脂溝部66の全てが第1係合部110を構成するゴムブッシュ36と、ピン本体33の第1段部33A及び第2段部33Bとから下方に離間する。その結果、第2係合部120と第1係合部110とが非係合となる。これにより、ラッチ機構100がスライダ30の摺動を許容し、バックレスト8Bの傾動姿勢を変更することが可能となる。
<作用効果>
実施例の車両用シートリクライニング装置1では、図2〜図5、図8及び図12等に示すように、スライダ30からレール10のスリット20を通過するように突出するピン32の先端に第1係合部110が形成されている。また、図2及び図4等に示す接近位置と、図3及び図5等に示す離間位置との間で変位可能な可動部材60に、5つの第2係合部120が形成されている。各第2係合部120は、中心軸線S1が延びる方向である延在方向に整列している。そして、拘束手段70によって可動部材60が接近位置に拘束された状態で、第2係合部120のいずれか1つが第1係合部110と係合することにより、レール10に対するスライダ30の摺動が規制される。
ここで、この車両用シートリクライニング装置1では、スライダ30にラッチ機構100を構成するピン32が設けられ、そのピン32がレール10のスリット20を通過するように突出し、先端に第1係合部110が形成されていることから、上記従来技術よりもスライダ30を簡素化できる。また、スライダ30を延在方向において小型化できるため、レール10も延在方向において小型化し易い。
一方、ラッチ機構100を構成する可動部材60及び拘束手段70は、可動部材60に形成された5つの第2係合部120のいずれか一つをピン32の先端に形成された第1係合部110に対して係合又は非係合とする構成に特化できる。このため、可動部材60及び拘束手段70も簡素化し易い。
したがって、実施例の車両用シートリクライニング装置1では、製造コストの低廉化と、延在方向における小型化とを実現できる。
また、この車両用シートリクライニング装置1では、図2〜図5等に示すように、拘束手段70は、ケーブル80の進退により、直動方向D1に移動可能に可動部材60を拘束する。ここで、この車両用シートリクライニング装置1では、上記構成により、スライダ30の摺動にかかわらず、ケーブル80が延在方向に変位しない。このため、ケーブル80の屈曲や引っ掛かりを防止できる。また、ケーブル80が進退して可動部材60を直動させる際に第2係合部120が第1係合部110と係合又は非係合となるだけなので、特許文献2開示の車両用シートリクライニング装置と比較して、ケーブル80に大きな力が作用し難い。その結果、この車両用シートリクライニング装置1では、ケーブル80の耐久性の向上を実現できる。
さらに、この車両用シートリクライニング装置1では、図2、図3及び図8等に示すように、拘束手段70は、レール10に固定され、延在方向と、ピン32が突出する車両内外方向とに略直交する直動方向D1に可動部材60を案内するガイド壁72F、72Rと、直動方向D1に案内される可動部材60を接近位置に変位させるように付勢する引張コイルバネ75とを含んでいる。そして、可動部材60は、各第2係合部120とされる複数の切欠き、すなわち、金属溝部65及び樹脂溝部66がスリット20側の上端縁に形成されている。このような構成により、この車両用シートリクライニング装置1では、車両内外方向における小型化と、可動部材60の簡素化とを実現できる。
また、この車両用シートリクライニング装置1では、図11及び図14等に示すように、ピン32を構成するゴムブッシュ36と、ピン本体33の第1段部33A及び第2段部33Bとによって、第1係合部110が形成されている。可動本体61の各金属溝部65と、係合プレート62の各樹脂溝部66とによって、第2係合部120が形成されている。そして、可動部材60が接近位置に変位して、第2係合部120が第1係合部110と係合する際、引張コイルバネ75の付勢力によって、ゴムブッシュ36と樹脂溝部66とが勢いよく接触する。これにより、この車両用シートリクライニング装置1では、金属部品同士が勢いよく接触する場合と比較して、第2係合部120が第1係合部110と係合する際の衝突音を抑制できる。また、図15に示すように、バックレスト8Bに作用する衝撃等の過大な力F1がロック装置90、ストライカ39及びスライダ30を介して、第1係合部110及び第2係合部120に作用する場合、本実施例では、第1係合部110の一部を構成するゴムブッシュ36が所定の範囲を超えて圧縮変形し得る。このような場合でも、第2係合部120の一部を構成する樹脂溝部66が過度に変形する前に、可動本体61の金属溝部65と、ピン本体33の第1段部33Aとが前後方向で当接し合うことで、その過大な力F1に対抗することができる。その結果、この車両用シートリクライニング装置1では、バックレスト8Bに衝撃等の過大な力が作用する場合でも、バックレスト8Bを確実に保持できる。
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、延在方向は、直線状に延びる方向でもよいし、図1に示す軌跡C1に沿って円弧状に延びる方向でもよい。ピンは、略円柱状や略角柱状等、どのような形状でもよい。拘束手段は、レールと一体でもよいし、レールと別体でもよい。第1係合部は複数でもよい。この場合、複数の第2係合部が複数の第1係合部に係合する。第1係合部が切り欠きや穴等の凹部であり、第2係合部がその凹部に嵌入可能な複数の凸部でもよい。
実施例1に係るゴムブッシュ36を同一形状の樹脂製円筒体に変更し、実施例1に係る係合プレート62及び樹脂溝部66を同一形状のゴム製係合プレート及びゴム溝部に変更してもよい。実施例1に係るゴムブッシュ36を金属製のピン本体33から取り除き、ピン本体33の第2段部33Bの外径をゴムブッシュ36の外径と略等しい大きさに変更し、その第2段部33Bが実施例1に係る樹脂溝部66と係合するようにしてもよい。実施例1に係る可動本体61から係合プレート62及び樹脂溝部66を取り除き、可動本体61の金属溝部65の形状及び大きさを樹脂溝部66と略同一となるように変更し、その金属溝部65が実施例1に係るゴムブッシュ36と係合するようにしてもよい。
実施例では、図15に示すように、バックレスト8Bに作用する衝撃等の過大な力F1によって、ゴムブッシュ36が所定の範囲を超えて圧縮変形すると、第2係合部120の一部を構成する樹脂溝部66が過度に変形する前に、可動本体61の金属溝部65と、ピン本体33の第1段部33Aとが前後方向で当接し合うが、この構成には限定されない。例えば、ゴムブッシュ36が所定の範囲を超えて圧縮変形すると、第2係合部120の一部を構成する樹脂溝部66が変形しながら、その過大な力F1に対抗し、その後、可動本体61の金属溝部65と、ピン本体33の第1段部33Aとが前後方向で当接し合って、その過大な力F1に強固に対抗するようにしてもよい。この際、その過大な力F1によって前後方向に押される樹脂溝部66や金属溝部65に対して、図2及び図4等に示す突出片73が当接することで、その過大な力F1に一層強固に対抗するようにしてもよい。