JP2017132742A - Aβオリゴマー特異的抗体の新規薬理用途 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、先行発明では実現不可能なアルツハイマー型認知症(AD)の予防的先制医療医薬を標的とし、先行発明抗体と同等の認知機能障害発症予防効果を有す相補性決定領域(CDR)ペプチドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、神経毒性Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体の、新規薬理用途を有する特定のCDR機能性ペプチドを含む医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【解決手段】本発明によれば、神経毒性Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体の、新規薬理用途を有する特定のCDR機能性ペプチドを含む医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
Description
本発明は、7〜16アミノ酸残基のペプチドによる、アルツハイマー型認知症(AD)を治療及び/又は予防する新規用途、並びに該ペプチドを含む医薬組成物に関する。
アルツハイマー型認知症(AD)は、認知症の最も頻繁な病態であり、今日では、世界中で4700万人の認知症患者が存在すると推測されていて、このうち約70%をADが占めている。AD患者脳の病理学的な主な特徴は、線維化した不溶性アミロイドβ(Aβ)ペプチドからなる老人斑又はアミロイド斑と過剰にリン酸化したタウタンパク質からなる神経原線維変化沈着の形成である。ADでは、神経細胞膜を貫通して局在する前駆体膜タンパク質である「アミロイド前駆体タンパク質」(APP)からプロテアーゼ切断によって生理的にモノマーの形態で産生されたAβペプチドが重合し、可溶性Aβオリゴマーを形成し、シナプス機能障害から致死的なタウカスケードへの引き金となり、認知機能障害が発症すると考えられている。最近、脳内Aβやタウの直接的なPETイメージング解析が可能となり、それぞれ脳内蓄積はAβが先行する形で、認知症発症の約15年前から始まっていることが明らかとった。アミロイドPET陽性であり、脳内病理は発症しているものの、認知機能が正常な高齢者を「プレクリニカルAD」、両者の中間でアミロイド病理が陽性の軽度認知障害(MCI)の高齢者を「MCI due to AD」と定義し、積極的な早期介入を図る二次予防が注目されている。しかしながら、このPETイメージング診断に対応した先制医療薬が未だ実用化されていない。
可溶性Aβオリゴマーは、嗅内野皮質にプレクリニカルADの段階から蓄積を開始し(非特許文献1)、脳内では神経細胞内に局在するが、AD患者脳では神経細胞外にもびまん性老人斑様の局在を認める(非特許文献1;非特許文献2)。先行発明において、細胞外の可溶性Aβオリゴマーを制御すると、神経細胞内Aβオリゴマーの蓄積阻止、ひいては神経細胞変性やシナプス変性阻止と記憶障害発症予防効果(非特許文献1)や記憶障害回復効果(非特許文献2)が達成されることを証明している。これまでは、認知症発症後のADの症状のみが治療可能であったが、認知症の臨床症状は認めないものの、脳内病理発症の基盤分子である可溶性Aβオリゴマーを標的対象とした先制医療薬・疾患修飾薬開発が望まれる。
従前、先行発明(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)では、神経毒性Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体の相補性決定領域(CDR)ペプチドのアミノ酸配列を開示しているが、これは他の先行技術(非特許文献3)と構造上で抗体としての形態差別化を図る目的であり、CDRペプチド自体を人工合成ペプチドとしてADの根治治療薬(disease−modifying therapy)や先制医療医薬として使用する薬理的用途については知られていない。他の先行技術(特許文献7、特許文献8、特許文献9)においては概念のみが言及されているが、具体的な薬理的用途については未知のままである。
Takamura A.et al.,Mol.Neurodegener.,2011,6:20
Takamura A.et al.,Life Sci.,2012,91:1177−1186
Lee E.B.,et al.,J.Biol.Chem.,2006,281:4292−4299
本発明は、先行発明では実現不可能なアルツハイマー型認知症(AD)の予防的先制医療医薬を標的とし、先行発明抗体と同等の認知機能障害発症予防効果を有す相補性決定領域(CDR)ペプチドを提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、神経毒性Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体の、新規薬理用途を有するCDR機能性ペプチドを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、先行発明である神経毒性Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体におけるCDRペプチドから、抗神経毒性活性、抗シナプス毒性活性、プロテアーゼ耐性、及び細胞内移行活性を有するCDR機能性ペプチドを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1](1)Arg−Ser−Ser−Gln−Ser−Ile−Val−His−Ser−Asn−Gly−Asn−Thr−Tyr−Leu−Glu(配列番号1)、(2)Lys−Val−Ser−Asn−Arg−Phe−Ser(配列番号2)、(3)Phe−Gln−Gly−Ser−His−Val−Pro−Leu−Thr(配列番号3)、(4)Ser−Gln−Ser−Thr−His−Val−Pro−Leu−Thr(配列番号4)、(5)Thr−Ser−Gly−Met−Gly−Val−Ser(配列番号5)、(6)Thr−Ser−Ala−Met−Gly−Val−Ser(配列番号6)、(7)His−Ile−Tyr−Trp−Asp−Asp−Asp−Lys−Arg(配列番号7)、(8)Ser−Gly−Asp−Thr−Met−Asp−Tyr(配列番号8)、(9)Lys−Gly−Leu−Gly−Gly−Ala−Met−Asp−Tyr(配列番号9)、(10)Met−Ile−Thr−Gly−Phe−Val−Tyr(配列番号10)、及び(11)Tyr−Arg−Tyr−Gly−Phe−Ala−Tyr(配列番号11)からなる群から選択される1つ以上のペプチドを含む、アルツハイマー型認知症を治療及び/又は予防するための医薬組成物。
[2]医薬として許容される担体、希釈剤、又は賦形剤をさらに含む、上記[1]に記載の医薬組成物。
[3]ペプチドが、抗神経毒性活性、抗シナプス毒性活性、プロテアーゼ耐性、及び/又は細胞内移行活性を有する、上記[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4]ペプチドの治療有効量を経鼻的に注入可能な形態で投与する、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5]ペプチドの治療有効量が、対照と比較して80%より大きい抗神経毒性活性を有するように選択される、上記[4]に記載の医薬組成物。
[1](1)Arg−Ser−Ser−Gln−Ser−Ile−Val−His−Ser−Asn−Gly−Asn−Thr−Tyr−Leu−Glu(配列番号1)、(2)Lys−Val−Ser−Asn−Arg−Phe−Ser(配列番号2)、(3)Phe−Gln−Gly−Ser−His−Val−Pro−Leu−Thr(配列番号3)、(4)Ser−Gln−Ser−Thr−His−Val−Pro−Leu−Thr(配列番号4)、(5)Thr−Ser−Gly−Met−Gly−Val−Ser(配列番号5)、(6)Thr−Ser−Ala−Met−Gly−Val−Ser(配列番号6)、(7)His−Ile−Tyr−Trp−Asp−Asp−Asp−Lys−Arg(配列番号7)、(8)Ser−Gly−Asp−Thr−Met−Asp−Tyr(配列番号8)、(9)Lys−Gly−Leu−Gly−Gly−Ala−Met−Asp−Tyr(配列番号9)、(10)Met−Ile−Thr−Gly−Phe−Val−Tyr(配列番号10)、及び(11)Tyr−Arg−Tyr−Gly−Phe−Ala−Tyr(配列番号11)からなる群から選択される1つ以上のペプチドを含む、アルツハイマー型認知症を治療及び/又は予防するための医薬組成物。
[2]医薬として許容される担体、希釈剤、又は賦形剤をさらに含む、上記[1]に記載の医薬組成物。
[3]ペプチドが、抗神経毒性活性、抗シナプス毒性活性、プロテアーゼ耐性、及び/又は細胞内移行活性を有する、上記[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4]ペプチドの治療有効量を経鼻的に注入可能な形態で投与する、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5]ペプチドの治療有効量が、対照と比較して80%より大きい抗神経毒性活性を有するように選択される、上記[4]に記載の医薬組成物。
本発明者ら見出したAβオリゴマー特異的抗体の特定のCDRペプチドは、インビボにおいて、抗神経毒性活性、抗シナプス毒性活性、プロテアーゼ耐性、細胞内移行活性、並びに空間学習及び記憶能力低下防止効果を有し、アルツハイマー型認知症の治療及び予防に貢献することができる。
本発明は、Aβオリゴマーを起因とする神経毒性、シナプス毒性に対して、神経細胞を防御するCDR機能性ペプチド、及びそれを含む医薬組成物を提供する。ここでは、本発明のより具体的な実施形態を説明するとともに、本明細書に使用される用語の定義を示す。
(1)Aβオリゴマー(重合体)
本明細書で使用するとき、「アミロイド」とは、体内に沈着される不溶性線維性タンパク質凝集体を意味する。また、「アミロイドβ(Aβ)タンパク質」は、上記アミロイドの主要構成成分であり、40〜42個のアミノ酸残基からなるペプチドであって、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precurs protein;APP)から、プロテアーゼ切断によって産生されることが知られている。APPから生成されるAβ分子には、超遠心沈査画分に回収されるアミロイド線維とは別に、可溶性モノマーに加え、オリゴマーの可溶性非線維性重合体がある。本発明における「Aβオリゴマー」とは、可溶性非線維性重合体を指す。
本明細書で使用するとき、「アミロイド」とは、体内に沈着される不溶性線維性タンパク質凝集体を意味する。また、「アミロイドβ(Aβ)タンパク質」は、上記アミロイドの主要構成成分であり、40〜42個のアミノ酸残基からなるペプチドであって、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precurs protein;APP)から、プロテアーゼ切断によって産生されることが知られている。APPから生成されるAβ分子には、超遠心沈査画分に回収されるアミロイド線維とは別に、可溶性モノマーに加え、オリゴマーの可溶性非線維性重合体がある。本発明における「Aβオリゴマー」とは、可溶性非線維性重合体を指す。
(2)CDR機能性ペプチドの取得及びアミノ酸配列
本発明は、Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体のアミノ酸配列を比較検討し、該抗体の相補性決定領域(complementarity determining region;CDR)ペプチドから認知機能障害発症の予防効果を有する「CDRペプチド」を作製し、これらを使用することを特徴とする。
本発明は、Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体のアミノ酸配列を比較検討し、該抗体の相補性決定領域(complementarity determining region;CDR)ペプチドから認知機能障害発症の予防効果を有する「CDRペプチド」を作製し、これらを使用することを特徴とする。
従前、先行発明(特許第5113853号、WO2009/099176、WO2009/051220)では、Aβオリゴマー特異的であるが、Aβモノマーとは全く反応せず、アルツハイマー型認知症(AD)モデルマウスの記憶障害の治療効果及び予防効果を発揮するモノクローナル抗体に関し、該モノクローナル抗体のアミノ酸配列を解析し、他の抗体と構造面で差別化している。しかしながら、先行発明を予防的先制医療で使用するにあたっては、そのコスト高のため非現実的であり、その実現には先行発明と同等若しくはそれに勝る小(低分子)化合物の発見及び開発が必要不可欠である。そこで、本発明によれば、従来の癌治療目的などに応用された手法である、低分子化することにより安価かつ活性の高い新規な抗体医薬取得を目指すのではなく、先行発明の標的特異性とAD予防治療活性を兼ね備えた低分子化合物が提供される。
本発明の低分子化合物は、先行発明において抗原認識の直接的な役割を有する超可変領域に存在するCDRペプチド自体であり、これまでにそれらの薬理的解析はなされていない。従来、抗体としての抗原認識において、CDR3領域が最も重要であると考えられてきたが、CDRペプチド自体ではこの限りでなく、抗体で認められた活性を失うものもあることが証明された。本発明で使用されるCDRペプチドは、抗体の構造及び機能形態をとることなく、抗体同等のAD予防治療活性を保持し、より安価な根治治療薬(disease−modifying therapy)となり、抗体では実現不可能な先制医療医薬としての薬理的用途を有する。
より具体的には、本発明の低分子は、抗Aβオリゴマー特異的抗体のCDR1〜3に対応し、アミノ酸配列は、以下:(a)Arg−Ser−Ser−Gln−Ser−Ile−Val−His−Ser−Asn−Gly−Asn−Thr−Tyr−Leu−Glu(配列番号1)、(b)Lys−Val−Ser−Asn−Arg−Phe−Ser(配列番号2)、(c)Phe−Gln−Gly−Ser−His−Val−Pro−Leu−Thr(配列番号3)、(d)Ser−Gln−Ser−Thr−His−Val−Pro−Leu−Thr(配列番号4)、(e)Thr−Ser−Gly−Met−Gly−Val−Ser(配列番号5)、(f)Thr−Ser−Ala−Met−Gly−Val−Ser(配列番号6)、(g)His−Ile−Tyr−Trp−Asp−Asp−Asp−Lys−Arg(配列番号7)、(h)Ser−Gly−Asp−Thr−Met−Asp−Tyr(配列番号8)、(i)Lys−Gly−Leu−Gly−Gly−Ala−Met−Asp−Tyr(配列番号9)、(j)Met−Ile−Thr−Gly−Phe−Val−Tyr(配列番号10)、及び(k)Tyr−Arg−Tyr−Gly−Phe−Ala−Tyr(配列番号11)である。これらの11種類のアミノ酸配列と、先行技術の特許第5113853号に記載の抗体のCDRとの関係を示すと以下の通りとなる。
本発明のCDR機能性ペプチドは、後述する活性を典型的に有するものが該当するが、該ペプチドの合成は、当業者であれば、常法に従って容易に取得することができる。なお、本発明のCDR機能性ペプチドは、7〜16個のアミノ酸残基で構成される短い配列を有するが、後述する活性を有する限り、1アミノ酸残基程度のアミノ酸の置換、欠失及び付加を有する変異体であってもよい。特に、「置換」については、アミノ酸残基の保存的置換が好ましく、具体的には、変異するアミノ酸残基において、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが好ましい。例えば、アミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
(3)CDR機能性ペプチドの活性
先行技術である特許第5113853号には、Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体として、6種類の抗体:「5A5」(H鎖:配列番号1;L鎖:配列番号3)、「5A9」(H鎖:配列番号21;L鎖:配列番号23)、「4F7」(H鎖:配列番号41;L鎖:配列番号43)、「4H5」(H鎖:配列番号61;L鎖:配列番号63)、「6E4」(H鎖:配列番号81;L鎖:配列番号83)、及び「6H4」(H鎖:配列番号101;L鎖:配列番号103)が開示されている。これらの抗体については、以下の5つの機能が確認されている。
(i)抗神経毒性活性、
(ii)Aβアミロイド線維形成抑制活性、
(iii)Aβオリゴマーのみを認識する特異性;
(iv)AD脳においてAβオリゴマーを捕捉する能力、及び
(v)APPswe−トランスジェニックマウス(Tg2576)におけるアルツハイマー病様表現型発症(記憶障害、脳Aβ蓄積レベル)を予防する能力。
先行技術である特許第5113853号には、Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体として、6種類の抗体:「5A5」(H鎖:配列番号1;L鎖:配列番号3)、「5A9」(H鎖:配列番号21;L鎖:配列番号23)、「4F7」(H鎖:配列番号41;L鎖:配列番号43)、「4H5」(H鎖:配列番号61;L鎖:配列番号63)、「6E4」(H鎖:配列番号81;L鎖:配列番号83)、及び「6H4」(H鎖:配列番号101;L鎖:配列番号103)が開示されている。これらの抗体については、以下の5つの機能が確認されている。
(i)抗神経毒性活性、
(ii)Aβアミロイド線維形成抑制活性、
(iii)Aβオリゴマーのみを認識する特異性;
(iv)AD脳においてAβオリゴマーを捕捉する能力、及び
(v)APPswe−トランスジェニックマウス(Tg2576)におけるアルツハイマー病様表現型発症(記憶障害、脳Aβ蓄積レベル)を予防する能力。
これらの抗体の能力を測定及び決定するための実験手法については、特許第5113853号に詳細に開示されているが、本発明のCDR機能性ペプチドの機能及び該ペプチドを含む医薬組成物(後述)の効果を測定するために、該特許文献にすでに開示されている実験手法を用いてもよいし、又は当業者に承認される常法に従って測定してもよい。
一実施形態によれば、使用されるCDR機能性ペプチドは、上記の特許第5113853号に開示されている抗体と同等の活性を有することが好ましい。ここで、用語「同等の活性」とは、本発発明のCDR機能性ペプチドが、対象となる抗体と同様の生物学的又は生化学的活性を有することを指す。「活性」としては、例えば、Aβオリゴマーに特異的に認識及び結合するが、Aβモノマーに結合しない活性、抗神経毒性活性、Aβアミロイド線維形成抑制活性、抗シナプス毒性活性、抗記憶障害活性、プロテアーゼ耐性活性、及び細胞内移行活性などを例示することができる。本発明で使用されるCDR機能性ペプチドは、上記の活性を有する限り、限定されないが、好ましくは、本明細書において、配列番号1〜11で示されるアミノ酸配列を有するCDRペプチドが好ましい。後述する実施例2において示されるように、神経細胞に与えるAβオリゴマーの神経毒性から、これらの11種類のCDRペプチドは該神経細胞を保護するように機能する(図1参照)。特に、対象とする抗体(「72D9(6H4クローン)」)と比較して、配列番号2、5及び11で示されるアミノ酸配列を有するCDRペプチドは、該抗体と同等の活性を有するためにより好ましい(図1参照)。
(4)医薬組成物
本発明は、上記CDR機能性ペプチドからなる群から選択される1つ以上のペプチドを含む、アルツハイマー型認知症を治療及び/又は予防するための医薬組成物を提供する。
本発明は、上記CDR機能性ペプチドからなる群から選択される1つ以上のペプチドを含む、アルツハイマー型認知症を治療及び/又は予防するための医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物は、上記の通り、プレクリニカルAD、MCI due to AD、アルツハイマー型認知症を対象とするものである。「アルツハイマー型認知症」の症状としては、記憶障害(前行性又は逆行性、すなわち、新たな情報を学習する能力又は以前に学習した情報を思い出す能力の障害);及び以下の認知障害の1つ以上として発現される複合的な認知障害の発症が含まれる:失語(言語障害)、失行(運動機能は正常であるにもかかわらず、運動活動を行う能力が障害される)、失認(感覚機能は正常であるにもかかわらず、物体を認識又は同定することができない)、遂行機能(すなわち、計画、体系化、順序立て及び抽象化)の障害;これらの認知障害はそれぞれ、社会的又は職業的な機能における重大な障害を引き起こし、以前の機能のレベルよりも大きな低下をもたらす。その経過は、認知機能低下が徐々に発生して継続することを特徴とし、認知障害は記憶及び認知の進行性障害の原因となる別の状態(例えば、脳血管疾患、脳腫瘍、甲状腺機能低下症、ビタミンB欠乏症若しくは葉酸欠乏症、ナイアシン欠乏症、高カルシウム血症、神経梅毒、HIV感染症又は化学物質被曝)によるものではない。認知障害に、徘徊、攻撃性若しくは不穏などの行動障害、又は抑うつ若しくは精神病などの心理学的障害が随伴することもある。
本明細書で使用するとき、「アルツハイマー型認知症の治療」とは、上記のアルツハイマー型認知症に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止又は遅延することなどが含まれ、治療の中には疾患の改善も含まれる。「アルツハイマー型認知症の予防」とは、上記症状の発症/発現を防止若しくは遅延すること、又は発症/発現の危険性を低下させることをいう。プレクリニカルADやMCI due to AD症例に単なる予防ではなく、積極的な治療介入で認知症の発症予防(二次予防)を施行することを「先制医療」という。
本発明によれば、本発明のCDR機能性ペプチドを有効成分として含む、上記のプレクリニカルADやMCI due to AD、アルツハイマー型認知症を治療及び/又は予防するための医薬組成物として用いる場合には、当業者に公知の方法で製剤化することができる。例えば、必要に応じて、水又は他の任意の医薬として許容される液体で無菌性溶液若しくは懸濁液にすることによって、非経口的に投与されうる注入又は注射可能な形態へと調製することができる。例えば、本発明の医薬組成物に含まれるべきCDR機能性ペプチドを、医薬として許容される担体又は溶媒、具体的には、滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと混合して、医薬としての使用に必要な一般に許容される単位用量にすることができる。ここで、「医薬として許容される」という用語は、その物質が不活性であり、かつ薬物用の希釈剤又はビヒクルとして使用される物質を含むことを示す。
本発明においては、生理食塩水、グルコース、及びアジュバント(D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、及び塩化ナトリウムなど)を含む他の等張性溶液を、注射用水溶液として使用することができる。これらは、アルコール、具体的には、エタノール及びポリアルコール(プロピレングリコール及びポリエチレングリコールなど)、並びに非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(商標)又はHCO−50など)などの適切な可溶化剤とともに使用することができる。
ゴマ油又はダイズ油を油性液体として用いることができ、これらと共に可溶化剤として安息香酸ベンジル又はベンジルアルコールを用いてもよい。緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、鎮痛薬(塩酸プロカインなど)、安定剤(ベンジルアルコール、フェノールなど)、並びに抗酸化剤を製剤に用いることができる。調製した注射液は適切なアンプルに充填することができる。
投与は、好ましくは非経口投与であり、具体的には、限定されないが、経鼻投与剤型、注射剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身又は局部的に投与することができる。
本発明の医薬組成物の有効投与量は、通常、1回につき体重1kgあたり約0.001mg〜約1000mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり0.01〜100000mg/bodyの範囲で選ばれる。別の態様では、本発明の医薬組成物に含まれるCDR機能性ペプチドの治療有効量は、約1μg〜約1000mg/kg体重/日の範囲であってもよい。さらに、投与方法に関しては、本発明の医薬組成物及びCDR機能性ペプチドは、所望の治療及び/又は予防効果が得られるまで、複数回(例えば、2〜10回)、適宜、間隔(例えば、1日に2回、1日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回)をおいて投与されてもよい。なお、本発明の医薬組成物及びCDR機能性ペプチドの1回あたりの投与量(具体的には、注入量)及び投与頻度は、上記の数値に限定されるものではなく、当業者(例えば、医師又は獣医師)が、適宜調整して決定され得る。
上記の通り、本発明の医薬組成物には、必要に応じて、製剤化のために担体、希釈剤などが含まれる。ここで、用語「担体」とは、細胞又は組織への化合物(具体的には、CDR機能性ペプチド)の取り込みを促進する化合物と定義することができる。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSOは、多くの有機化合物の生命体の細胞又は組織への取り込みを促進することから、通常用いられる担体である。適切な医薬として許容される担体としては、ベンジルアルコール、非極性界面活性剤、水混和性有機ポリマー、及び水相が挙げられる。共溶媒系であってもよい。用いられる通常の共溶媒系は、VPD共溶媒系であり、それは、無水エタノール中において、3%w/vベンジルアルコール、8%w/vの非極性界面活性剤Polysorbate 80(商標)、及び65%w/vポリエチレングリコール 300の量で構成される溶液である。当然ながら、共溶媒系の該比率は、その溶解性及び毒性の特性を損なうことなく、大きく変化させてもよい。さらに、該共溶媒成分の固有性を変化させてもよく:例えば、POLYSORBATE 80(商標)の代わりに他の低毒性の非極性界面活性剤を用いてもよく;ポリエチレングリコールの分画サイズを変化させてもよく;ポリエチレングリコールを他の生体適合性のポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン)で置き換えてもよく;並びに、ブドウ糖を他の糖又は多糖類で置き換えてもよい。
用語「希釈剤」は、目的の化合物(具体的には、CDR機能性ペプチド)を溶解するとともに、該化合物の生物学的に活性な形態を安定させ得る、水に希釈された化合物と定義される。当該技術分野では、緩衝液に溶解された塩が希釈剤として用いられる。リン酸緩衝食塩水は、ヒト血液の塩条件を模倣していることから、通常用いられる緩衝液の1つである。緩衝塩は低濃度で溶液のpHを調節できるため、緩衝化された希釈剤が対象化合物の生物学的活性を変えることはほとんどない。医薬として許容される希釈剤の例としては、限定されないが、スクロース、フルクトース、グルコース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、転化糖、炭酸カルシウム、ラクトース、デンプン、微結晶性セルロース、ラクトース一水和物、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、医薬として許容されるポリオール(例えば、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、イソマルト及びグリセロール)、ポリデキストロース、デンプン、及びそれらの混合物が挙げられる。
医薬として許容される賦形剤としては、例えば、限定はされないが、微結晶性セルロース、ラクトース、スクロース、デンプン粉末、トウモロコシデンプン、若しくはそれらの誘導体、アルカン酸のセルロースエステル、セルロースアルキルエステル、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸及び硫酸のナトリウム塩並びにカルシウム塩、ゼラチン、アカシアガム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニル−ピロリドン、及び/又はポリビニルアルコール、生理食塩水、ブドウ糖、マンニトール、ラクトース一水和物、レシチン、アルブミン、グルタミン酸ナトリウム、システイン塩酸塩、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、各種ポロキサマー、ラウリル硫酸ナトリウム、コロイド状二酸化ケイ素などが挙げられる。
以下の実施例は、本開示の様々な態様を例証する。材料と方法の両方に対する多数の修飾は、本開示の範囲から逸脱せずに実施されてもよいことは当業者に明らかである。市販品供給業者から購入される全ての試薬及び溶媒は、さらに精製又は加工することなしに使用される。
[実施例1]CDR機能性ペプチドの取得
抗Aβオリゴマー(重合体)特異的抗体のCDR1〜3の遺伝子配列(特許第5113853号参照)を相互比較し、12種類のCDR機能性ペプチドを設計し、常法に従って合成した(表1)。
抗Aβオリゴマー(重合体)特異的抗体のCDR1〜3の遺伝子配列(特許第5113853号参照)を相互比較し、12種類のCDR機能性ペプチドを設計し、常法に従って合成した(表1)。
[実施例2]抗神経毒性アッセイ
Aβオリゴマー誘発による神経毒性アッセイは、特許第5113853号及びYamamoto,N.,et al.:J.Biol.Chem.,282:2646−2655,2007に記載の方法を一部変更して行った。簡単には、ヒト神経芽腫細胞(SH−SY5Y)を96ウェルプレート(Corning)に32,000個/wellの密度で10%ウシ胎仔血清(FBS)(Invitrogen)を添加したDulbecco変法Eagle培地(DMEM)(Invitrogen,Carlsbad,CA)中で24時間培養した。次に、各CDR機能性ペプチド(5μM)の存在下若しくは非存在下、又はAβオリゴマー特異的モノクローナル抗体(72D9−6H4クローン)の存在下で、24時間4℃でインキュベートして作製した5μMのAβ1−42オリゴマーを含む同培地に置き換えて、37℃で3時間若しくは24時間培養した。Aβオリゴマーが惹起する神経毒性は、神経細胞の生存度は、LIVE/DEAD二色蛍光アッセイ(Invitrogen)を製造元の指示に従って判定した(図1)。対照アッセイとして、Aβオリゴマーのみを添加した系(図1中の「AβO」)、及びAβオリゴマー+Aβオリゴマー特異的モノクローナル抗体(図1中の「AβO+72D9(6H4クローン)」)を用いた。対照アッセイであるAβOと比較した場合、12種類のCDRペプチドのうち、No.4(表2)のCDRペプチドは、抗神経毒性活性を示さなかった。その他のCDRペプチドについては、抗神経毒性活性を有意に示した。このうち、No.2、6、及び12(表2)のCDRペプチドについては、72D9と同等に顕著な抗神経毒性活性を示した。以下の実施例では、抗神経毒性活性を有意に示さなかったNo.4のCDRペプチドを陰性対照として用いた。
Aβオリゴマー誘発による神経毒性アッセイは、特許第5113853号及びYamamoto,N.,et al.:J.Biol.Chem.,282:2646−2655,2007に記載の方法を一部変更して行った。簡単には、ヒト神経芽腫細胞(SH−SY5Y)を96ウェルプレート(Corning)に32,000個/wellの密度で10%ウシ胎仔血清(FBS)(Invitrogen)を添加したDulbecco変法Eagle培地(DMEM)(Invitrogen,Carlsbad,CA)中で24時間培養した。次に、各CDR機能性ペプチド(5μM)の存在下若しくは非存在下、又はAβオリゴマー特異的モノクローナル抗体(72D9−6H4クローン)の存在下で、24時間4℃でインキュベートして作製した5μMのAβ1−42オリゴマーを含む同培地に置き換えて、37℃で3時間若しくは24時間培養した。Aβオリゴマーが惹起する神経毒性は、神経細胞の生存度は、LIVE/DEAD二色蛍光アッセイ(Invitrogen)を製造元の指示に従って判定した(図1)。対照アッセイとして、Aβオリゴマーのみを添加した系(図1中の「AβO」)、及びAβオリゴマー+Aβオリゴマー特異的モノクローナル抗体(図1中の「AβO+72D9(6H4クローン)」)を用いた。対照アッセイであるAβOと比較した場合、12種類のCDRペプチドのうち、No.4(表2)のCDRペプチドは、抗神経毒性活性を示さなかった。その他のCDRペプチドについては、抗神経毒性活性を有意に示した。このうち、No.2、6、及び12(表2)のCDRペプチドについては、72D9と同等に顕著な抗神経毒性活性を示した。以下の実施例では、抗神経毒性活性を有意に示さなかったNo.4のCDRペプチドを陰性対照として用いた。
[実施例3]抗シナプス毒性活性を有するCDR機能性ペプチドの取得
Aβオリゴマー誘発によるシナプス毒性アッセイには、初代培養マウス神経細胞を用いた(胎生15日マウス大脳半球、DS PHARMA BIOMEDICAL)。神経細胞の分散はSUMITOMO Nerve−Cell Culture Systemの培養方法プロトコールに従い、5×105個/mlを100μlづつ10ml調整した。DIV20において、各CDR機能性ペプチド(5μM)の存在下若しくは非存在下、又はAβオリゴマー特異的モノクローナル抗体(72D9(6H4クローン))の存在下で、24時間4℃でインキュベートして作製した5μMのAβ1−42オリゴマーを含む同培地に置き換えて、37℃で3時間も培養後、固定して、ポリクロナール抗PSD95抗体(1:600、Invitrogen)とAF 488をコンジュゲートしたヤギ抗ラットIgG(Molecular Probes,Eugene,OR)により後シナプス蛋白であるPSD95を指標にBZ−9000(キーエンス、大阪)で検証(励起470nm/吸収535nm)評価した。
Aβオリゴマー誘発によるシナプス毒性アッセイには、初代培養マウス神経細胞を用いた(胎生15日マウス大脳半球、DS PHARMA BIOMEDICAL)。神経細胞の分散はSUMITOMO Nerve−Cell Culture Systemの培養方法プロトコールに従い、5×105個/mlを100μlづつ10ml調整した。DIV20において、各CDR機能性ペプチド(5μM)の存在下若しくは非存在下、又はAβオリゴマー特異的モノクローナル抗体(72D9(6H4クローン))の存在下で、24時間4℃でインキュベートして作製した5μMのAβ1−42オリゴマーを含む同培地に置き換えて、37℃で3時間も培養後、固定して、ポリクロナール抗PSD95抗体(1:600、Invitrogen)とAF 488をコンジュゲートしたヤギ抗ラットIgG(Molecular Probes,Eugene,OR)により後シナプス蛋白であるPSD95を指標にBZ−9000(キーエンス、大阪)で検証(励起470nm/吸収535nm)評価した。
(結果)
対照(No.4のCDRペプチド)と比較して、11種類のうち3種類(No.2、6、及び12)のCDRペプチド)は、モノクローナル抗体(72D9(6H4クローン))と同等の毒性中和活性を有することが確認された(図2)。
対照(No.4のCDRペプチド)と比較して、11種類のうち3種類(No.2、6、及び12)のCDRペプチド)は、モノクローナル抗体(72D9(6H4クローン))と同等の毒性中和活性を有することが確認された(図2)。
[実施例4]プロテアーゼ耐性ペプチドの取得及び検討
実施例2及び3の結果から、表2中のNo.2、6、及び12で示されるCDR機能性ペプチドが、上記72D9(6H4クローン)抗体と同等の活性を示すことから、これらのCDR機能性ペプチドについて、プロテアーゼ耐性について検討した。
実施例2及び3の結果から、表2中のNo.2、6、及び12で示されるCDR機能性ペプチドが、上記72D9(6H4クローン)抗体と同等の活性を示すことから、これらのCDR機能性ペプチドについて、プロテアーゼ耐性について検討した。
(1)プロテアーゼ耐性ペプチド
プロテアーゼ耐性は、試料(脳脊髄液及び脳ホモジェネート)にCDR機能性ペプチドを添加後、試料中のプロテアーゼに耐性があるか否かを電気泳動によって調べた。具体的には、試料として、AD患者10名分をプールした脳脊髄液と、AD患者剖検脳を定法に従ってホモジェネート後、Aβを枯渇させたTBS画分脳ホモジェネートを使用した。予め100μg/ml濃度にAlexa 488で蛍光標識したCDR機能性ペプチド(ペプチド研、大阪)を上記で調製したヒト脳脊髄液又は脳ホモジェネートに1:1(v/v)添加し、37℃で1時間又は24時間インキュベート後、18%Native PAGEでペプチド(500ng)を分離し、Tyhoon FLA 7000(GEヘルスケア、東京)でゲルより検出される蛍光(波長650nm)を指標にプロテアーゼ耐性を解析した。結果を図3に示す。Aβオリゴマーによる神経毒性中和活性を有する3種類のCDR機能性ペプチドのうち2種類が50%以上のプロテアーゼ耐性基準を満たした(LCDR2−No.2ペプチドとHCDR1−No.6ペプチド)。HCDR3−No.12ペプチドは、脳脊髄液では50%以上のプロテアーゼ耐性基準を満たしたが、脳ホモジェネートでは24時間後に50%以上が分解され、この基準を満たさなかった。一方、Aβオリゴマーによる神経毒性中和活性の示さなかった対照ペプチド(LCDR3(対照)−No.4ペプチド)もプロテアーゼ耐性基準を満たした。
プロテアーゼ耐性は、試料(脳脊髄液及び脳ホモジェネート)にCDR機能性ペプチドを添加後、試料中のプロテアーゼに耐性があるか否かを電気泳動によって調べた。具体的には、試料として、AD患者10名分をプールした脳脊髄液と、AD患者剖検脳を定法に従ってホモジェネート後、Aβを枯渇させたTBS画分脳ホモジェネートを使用した。予め100μg/ml濃度にAlexa 488で蛍光標識したCDR機能性ペプチド(ペプチド研、大阪)を上記で調製したヒト脳脊髄液又は脳ホモジェネートに1:1(v/v)添加し、37℃で1時間又は24時間インキュベート後、18%Native PAGEでペプチド(500ng)を分離し、Tyhoon FLA 7000(GEヘルスケア、東京)でゲルより検出される蛍光(波長650nm)を指標にプロテアーゼ耐性を解析した。結果を図3に示す。Aβオリゴマーによる神経毒性中和活性を有する3種類のCDR機能性ペプチドのうち2種類が50%以上のプロテアーゼ耐性基準を満たした(LCDR2−No.2ペプチドとHCDR1−No.6ペプチド)。HCDR3−No.12ペプチドは、脳脊髄液では50%以上のプロテアーゼ耐性基準を満たしたが、脳ホモジェネートでは24時間後に50%以上が分解され、この基準を満たさなかった。一方、Aβオリゴマーによる神経毒性中和活性の示さなかった対照ペプチド(LCDR3(対照)−No.4ペプチド)もプロテアーゼ耐性基準を満たした。
(2)細胞内移行活性を有するプロテアーゼ耐性ペプチド
次に、CDR機能性ペプチドが細胞内移行活性を有するか否かを検討した。具体的には、ERDF−RD1培地(極東製薬工業社製)に懸濁したヒト神経芽腫細胞(SH−SY5Y)を2cm2のCulture Slides(BD Bioscience社)に、7500/cm2 0.6ml播種24時間後に突起伸長を確認し、10%FCS含有ERDFを等量添加し、24時間後に無血清ERDF−RD1培地と交換後、24時間培養した。培養4日目にAlexa 488標識したCDR機能性ペプチド(10μM)を添加後、30、60、120、及び180分における細胞内移行活性を蛍光顕微鏡BZ−9000(キーエンス、大阪)で検証(励起470nm/吸収535nm)した。なお、蛍光標識単体では細胞内移行しないことは確認されている(Takamura A et al,Mol Neurodegener 2011)。
次に、CDR機能性ペプチドが細胞内移行活性を有するか否かを検討した。具体的には、ERDF−RD1培地(極東製薬工業社製)に懸濁したヒト神経芽腫細胞(SH−SY5Y)を2cm2のCulture Slides(BD Bioscience社)に、7500/cm2 0.6ml播種24時間後に突起伸長を確認し、10%FCS含有ERDFを等量添加し、24時間後に無血清ERDF−RD1培地と交換後、24時間培養した。培養4日目にAlexa 488標識したCDR機能性ペプチド(10μM)を添加後、30、60、120、及び180分における細胞内移行活性を蛍光顕微鏡BZ−9000(キーエンス、大阪)で検証(励起470nm/吸収535nm)した。なお、蛍光標識単体では細胞内移行しないことは確認されている(Takamura A et al,Mol Neurodegener 2011)。
対照ペプチド(LCDR3(対照)−No.4ペプチド)とプロテアーゼ耐性のないCDR機能性ペプチド(HCDR3−No.12ペプチド)を含め、すべてのペプチドに細胞内移行活性が観察された(図4)。このうちプロテアーゼ耐性を有するCDR機能性ペプチド(LCDR2−No.2ペプチド及びHCDR1−No.6ペプチド)では、細胞内移行後、細胞質内にびまん性の分布を呈していた。
上記の結果から、まず前臨床試験に向けた各ペプチドの評価を以下の2点で行った。前臨床試験ではペプチドの効率的な脳内移行を想定した経鼻投与を計画したため、脳内移行後のプロテアーゼ耐性が重要な課題であった。今回No.2及び6と対照ペプチドで50%以上のプロテアーゼ耐性を確認できている。No.12は1時間後ではプロテアーゼ耐性が保たれていたが、24時間後には非耐性ペプチドが優位であった。またAβオリゴマーはAD脳ではびまん性の細胞外蓄積と細胞内蓄積を、健常者では神経細胞内にのみ局在している。従って予防的先制医療の観点から、神経細胞内外Aβオリゴマーを一網打尽にできる神経細胞内移行活性もまた重要な検討課題であったが、今回すべてのペプチドが細胞内移行活性を有することが判明した。以上の結果を受け、すべてのペプチドで前臨床試験に臨むことを決定した。
[実施例5]空間学習及び記憶能力の低下防止効果
本発明のCDR機能性ペプチドによる空間学習及び記憶能力の低下防止効果を検討するために、マウスを用いた水迷路試験及びプローブテストを行った。具体的には、6ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウス(Tg2576)と同年齢の野生型マウスの各10匹に対して、LCDR2−No.2及びLCDR3−No.4(対照)の各ペプチドを週1回経鼻投与(8nmol投与:6.696μg(No.2)及び8.088μg(No.4))し、14ヶ月齢において水迷路試験を施行した。この時点で、マウスの生存数(野生型/Tg2576)は、No.2群で9/10、No.4(対照)群で10/8であった。記憶障害発症予防効果検証は、以下の2点で行った。円形プールに課題用逃避台(直径100cm、高さ15.5cm、無色の直径8cm円筒形逃避台)が1cm水没するまで無臭の入浴剤で白色化した水(平均27℃)を張り、マウスが出発点から泳いで逃避用プラットフォームに乗るまでの時間を計測した。次に、上記課題終了後、逃避用プラットフォームを取り除き、60秒間自由に泳がせ、マウスのプローブテストを行った。4分割の内プラットホームの存在した%象限滞在時間を比較した。
本発明のCDR機能性ペプチドによる空間学習及び記憶能力の低下防止効果を検討するために、マウスを用いた水迷路試験及びプローブテストを行った。具体的には、6ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウス(Tg2576)と同年齢の野生型マウスの各10匹に対して、LCDR2−No.2及びLCDR3−No.4(対照)の各ペプチドを週1回経鼻投与(8nmol投与:6.696μg(No.2)及び8.088μg(No.4))し、14ヶ月齢において水迷路試験を施行した。この時点で、マウスの生存数(野生型/Tg2576)は、No.2群で9/10、No.4(対照)群で10/8であった。記憶障害発症予防効果検証は、以下の2点で行った。円形プールに課題用逃避台(直径100cm、高さ15.5cm、無色の直径8cm円筒形逃避台)が1cm水没するまで無臭の入浴剤で白色化した水(平均27℃)を張り、マウスが出発点から泳いで逃避用プラットフォームに乗るまでの時間を計測した。次に、上記課題終了後、逃避用プラットフォームを取り除き、60秒間自由に泳がせ、マウスのプローブテストを行った。4分割の内プラットホームの存在した%象限滞在時間を比較した。
結果を図5に示す。No.2ペプチドでは、場所課題では学習効果が得られているようにもみえるが、プローブテストでは有意な学習効果は証明されなかった。しかし、野生型マウスのプローブテストも同様の結果で、本ペプチドには記憶障害発症予防効果はないと考えられた。一方、No.4(対照)ペプチドでは、Tg2576及び野生型マウスの両者で場所課題で学習効果の証明は得られなかった。しかし、プローブテストでは統計的に有意ではないものの、学習効果傾向が観察された。
No.2ペプチド及びNo.4(対照)ペプチドを用いた場合と同様に、HCDR1−No.6ペプチドとHCDR3−No.12ペプチドを用いて、上記の水迷路試験及びプローブテストをそれぞれのマウスについて行った。投与量は、8nmolであり、No.6ペプチドについては5.104μg、No.12ペプチドについては7.512μgで開始した。14ヶ月齢の時点で、生存数(野生型/Tg2576)は、No.6群で10/8、No.12群で10/8であった。結果を図6に示す。No.6ペプチドとNo.12ペプチドはともに、場所課題で十分な学習効果を獲得し、Tg2576マウスが野生型マウスと同等の記憶を保持できている傍証が得られた。プローブテストでもこの記憶保持効果が証明された。
上記から、本開示の具体的な実施形態は本明細書において例示を目的として記載されているが、様々な修正が本開示の精神と範囲から逸脱することなく行われてもよいことを理解されたい。従って、本開示は、添付の特許請求の範囲による場合を別として、限定されない。さらに、特許請求の範囲は、その全範囲及び同等物に権利を有する。
アルツハイマー型認知症(AD)の予防的先制医療治療は市場性が高く、経済性を含む社会的有用性が高い。本発明のCDR機能性ペプチドを有効成分として含む医薬組成物は、AD治療用の抗体では実現不可能であった予防的先制医療を提供することができる。
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。
Claims (5)
- (1)Arg−Ser−Ser−Gln−Ser−Ile−Val−His−Ser−Asn−Gly−Asn−Thr−Tyr−Leu−Glu(配列番号1)、(2)Lys−Val−Ser−Asn−Arg−Phe−Ser(配列番号2)、(3)Phe−Gln−Gly−Ser−His−Val−Pro−Leu−Thr(配列番号3)、(4)Ser−Gln−Ser−Thr−His−Val−Pro−Leu−Thr(配列番号4)、(5)Thr−Ser−Gly−Met−Gly−Val−Ser(配列番号5)、(6)Thr−Ser−Ala−Met−Gly−Val−Ser(配列番号6)、(7)His−Ile−Tyr−Trp−Asp−Asp−Asp−Lys−Arg(配列番号7)、(8)Ser−Gly−Asp−Thr−Met−Asp−Tyr(配列番号8)、(9)Lys−Gly−Leu−Gly−Gly−Ala−Met−Asp−Tyr(配列番号9)、(10)Met−Ile−Thr−Gly−Phe−Val−Tyr(配列番号10)、及び(11)Tyr−Arg−Tyr−Gly−Phe−Ala−Tyr(配列番号11)からなる群から選択される1つ以上のペプチドを含む、アルツハイマー型認知症を治療及び/又は予防するための医薬組成物。
- 医薬として許容される担体、希釈剤、又は賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
- ペプチドが、抗神経毒性活性、抗シナプス毒性活性、プロテアーゼ耐性、及び/又は細胞内移行活性を有する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
- ペプチドの治療有効量を経鼻的に注入可能な形態で投与する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- ペプチドの治療有効量が、対照と比較して80%より大きい抗神経毒性活性を有するように選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
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