以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、車両に搭載される回転電機に用いられるステータを述べるが、これは説明のための例示であって、集中巻されたコイルを用いる回転電機ステータであれば、他の用途であっても構わない。以下では、集中巻されたコイルとして、平角線を用いて多層巻されたコイルを述べるが、これは説明のための例示であって、平角線以外の円形断面の丸線、楕円断面の導線等を用いても構わない。
以下で述べる形状、ティースの数、巻数、材質等は、説明のための例示であって、回転電機ステータの仕様に合わせ、適宜変更が可能である。例えば、多層巻として、2層巻と4層巻を述べるが、これは説明のための一例であって、これ以外の層数の多層巻であってもよい。2層巻の例で、多層巻の総巻数を8としたが、これも例示であって、これ以外の総巻数であってもよい。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、車両に搭載される回転電機に用いられる回転電機ステータ10の構成を示す図である。図2は、図1のA部についての斜視図である。以下では、回転電機ステータ10を特に断らない限り、ステータ10と呼ぶ。ステータ10が用いられる回転電機は、駆動回路の制御によって、車両が力行するときは電動機として機能し、車両が制動時にあるときは発電機として機能するモータ・ジェネレータで、三相同期型回転電機である。回転電機は、図1に示される固定子であるステータ10と、ステータ10の内径側に所定の隙間を隔てて配置される円環状の回転子であるロータとで構成される。図1ではロータの図示を省略した。
図1は、ステータ10の軸方向から見た上面図である。ステータ10は、ステータコア12と、ステータコア12に装着され巻始め端13と巻終り端15とを有するコイル14と、ステータコア12とコイル14との間に配置されるインシュレータ16とを含んで構成される。ステータ10は、さらに、コイル14の固定のために用いられる第1の絶縁樹脂層30,31と、第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dとを含む(図5参照)。図1では、第1の絶縁樹脂層30,31と第2の絶縁樹脂層40c,40dは隠れて図示されない。図2では第2の絶縁樹脂層40dは隠れて図示されない。
図1、図2に、ステータコア12の周方向、径方向、軸方向をそれぞれ示す。周方向は、ステータコア12の円周方向に沿った方向であり、径方向はステータコア12の内径側と外径側に沿った方向であり、軸方向は、ステータコア12の中心軸に沿った方向である。軸方向において、ステータコア12に巻回されたコイル14の巻始め端13及び巻終り端15が引き出される方向がリード側で、その逆方向が反リード側である。図3以下においても同様である。図1は、軸方向についてリード側から見た図である。
ステータコア12は、円環状の磁性体部品で、円環状のステータヨーク20とステータヨーク20から内周側に突き出す複数のティース22とを含む。隣接するティース22の間の空間は、スロット24である。
かかるステータコア12は、ステータヨーク20とティース22とを含み、スロット24が形成されるように所定の形状に成形された円環状の磁性体薄板28を所定の枚数で積層したものが用いられる。磁性体薄板28の両面には電気絶縁性の表面処理が施される。磁性体薄板28の材質としては、電磁鋼板を用いることができる。磁性体薄板28の積層体に代えて、磁性粉末を所定の形状に成形したものを用いることもできる。
コイル14は、集中巻されたコイルで、1つのティース22に1つの相巻線が多層巻によって所定の巻数で巻回された多層巻コイルである。隣接するティース22の間の1つのスロット24には異なる相のコイル14が配置される。
多層巻コイルとは、ティース22の径方向に垂直な矩形断面の周囲に導線が連続的に巻回されたコイルであって、ティース22の径方向に沿って所定の段数で巻回されて配置され、各段が複数層のコイルで構成される。換言すると、多層巻コイルであるコイル14は、絶縁皮膜付きの導線を多層巻で所定の層数で所定の段数を巻回して所定の総巻数としたものである。層数が2のときは2層巻コイルで、層数が4のときは4層巻コイルと呼ばれる。
以下では、層数に関わらず、1つのティース22に巻回された1つの多層巻コイルの全体を単に「コイル14」と呼び、コイル14を構成する各層の1巻を「下層のコイル」、「表面層のコイル」等と呼ぶ。図1、図2の例では、層数=2、段数=4、総巻数=8の2層巻コイルのコイル14が示される。2層巻コイルであるコイル14における導線の巻回の仕方については、図3、図4を用いて後述する。
コイル14の絶縁皮膜付き導線の素線としては、銅線、銅錫合金線、銀メッキされた銅錫合金線等を用いることができる。素線としては、断面形状が略矩形の平角線が用いられる。絶縁皮膜としては、ポリアミドイミドのエナメル皮膜が用いられる。これに代えて、ポリエステルイミド、ポリイミド、ポリエステル、ホルマール等を用いることができる。
コイル14は、ステータコア12の各ティース22にそれぞれ1つずつ装着される。図1の例では、ステータコア12は、U相用のティース22が3つ、V相用のティース22が3つ、W相用のティース22が3つであり、この9個のティース22のそれぞれに1つずつコイル14が装着される。コイル14が装着されたティース22について、図1では、U相用のU1〜U3、V相用のV1〜V3、W相用のW1〜W3を示す。図2は、図1のA部におけるU1コイルを抜き出した図である。
同相のコイル14同士は、図示しない渡り線等で互いに接続される。例えば、U相に用いられるティースU1〜U3に装着されるコイル14は、互いに渡り線で接続されて1つのU相コイルとなり、その一方端は動力線のU端子に接続される。V相に用いられるティースV1〜V3に装着されるコイル14、W相に用いられるティースW1〜W3に装着されるコイル14も同様で、渡り線で接続されてそれぞれ1つのV相コイル、W相コイルとなり、それぞれの一方端は動力線のV端子、W端子に接続される。U相コイル、V相コイル、W相コイルのそれぞれの他方端は、互いに接続されて中性点とされる。
インシュレータ16は、コイル14の最下層のコイルとステータコア12とが互いに向かい合う間に配置される筒状形状を有する絶縁体である。インシュレータ16は接着等の固定手段によってステータコア12に固定される。かかるインシュレータ16は、電気絶縁性を有するシートを所定の形状に成形したものを用いることができる。電気絶縁性を有するシートとしては、紙の他、プラスチックフィルムを用いることができる。コイル14の絶縁皮膜の電気絶縁性能が十分であるときはインシュレータ16を省略してもよい。そのときは、コイル14はティース22の周囲面に直接的に向かい合って配置される。以下では、インシュレータ16を設けるものとする。
図3、図4は、2層巻コイルであるコイル14における導線の巻回の仕方を示す図である。図3は、図2のB−B面に沿った断面図であり、図4は、図2のC方向から見た図である。図4に、B−B面に対応するB’−B’線を示す。
図3、図4に示すように、コイル14には、断面形状が矩形の平角線を用いる。ティース22は、径方向に垂直な断面が矩形で、径方向に沿って根元側から先端側に向かって矩形の周方向に沿った幅寸法が次第に小さくなる先細り形状を有する。インシュレータ16は、ティース22の形状に沿った筒状部分16aと、ティース22を通す貫通穴を有しステータヨーク20に接触する壁面部分16bとを含んで構成される。筒状部分16aの軸方向に沿った側面には、ティース22の先細り形状にコイル14の平角線形状を合せるように、階段状の段差が設けられる。また、筒状部分16aの軸方向の両端側には、コイル14の湾曲部に合わせて突き出す張出部17が設けられる。以下では、特に断らない限り、筒状部分16a、壁面部分16b、張出部17を区別せず、単にインシュレータ16と呼ぶ。
図3、図4では、総巻数=8のコイル14の各巻を矢印付きの数字で示す。例えば「矢印付きの1」は、巻始め端13から始まる1巻目であり、「矢印付きの2」は、1巻目に続く2巻目である。以下同様に「矢印付きの3」等が続き、「矢印付きの8」が巻終り端15で終わる8巻目である。「1−矢印−2」は、1巻目から2巻目に移る部分を示し、同様に「4−矢印−5」、「5−矢印−6」「7−矢印−8」は、それぞれ4巻目から5巻目に移る部分、5巻目から6巻目に移る部分、7巻目から8巻目に移る部分を示す。図1、図5についても同様である。
2層巻コイルであるコイル14において、ティース22の径方向に沿って巻回して配置される複数の段について、図3に示すように、ティース22のステータヨーク20側の根元側から先端側に向かって、1段目、2段目、3段目、4段目の順とする。各段における2層の巻回について、ティース22側の1巻コイルを下層のコイル60、下層のコイル60の外側の1巻コイルを表面層のコイル70と呼ぶ。
図3に示すように、1段目は、巻始め端13から1巻目は表面層のコイル70として巻回され、1巻目に続く2巻目は下層のコイル60として巻回される。2段目は、2巻目から続いて3巻目が下層のコイル60として巻回され、3巻目に続く4巻目は表面層のコイル70として巻回される。3段目は、4巻目に続く5巻目は表面層のコイル70として巻回され、5巻目に続く6巻目は下層のコイル60として巻回される。4段目は、6巻目から続いて7巻目が下層のコイル60として巻回され、7巻目に続く8巻目は表面層のコイル70として巻回され、巻終り端15となる。
この巻き方では、同じ段のところで下層のコイル60と表面層のコイル70の2層巻が行われ、異なる段の間は、下層のコイル60同士、または表面層のコイル70同士で接続される。これによって、2層巻の多数段の配置において、導線の総長さを最短とすることができる。その反面、同じ段のところで、表面層のコイル70の巻回の次に下層のコイル60の巻回を行うので、導線をティース22に直接的に連続巻することが難しい。この巻き方のコイル14は、ティース22に直接的に巻回するよりは、予め巻型等の治具を用いて導線を成形してカセットコイルとし、成形したカセットコイルをティース22に装着する方式を取ることが好ましい。
図4に示すように、ティース22の先端側から見た状態は、図3の巻き方を反映して、やや複雑な巻形状となる。図4において、2層巻コイルであるコイル14の巻回の4隅の曲がり部50a,50b,50c,50dは、ティース22の矩形断面の4隅の角部52a,52b,52c,52dに対応する箇所である。曲がり部50b,50c,50dでは、各巻回について軸方向の高さ位置は揃っている。これに対し、曲がり部50aでは、3巻目から4巻目に移る曲がり部と、7巻目から8巻目に移る曲がり部の軸方向に沿った高さは、4巻目から5巻目に移る曲がり部の軸方向に沿った高さが異なる。これは、図3に示すように、3巻目から4巻目に移る部分と、7巻目から8巻目に移る部分は、下層のコイル60の軸方向の高さのままであるが、4巻目から5巻目に移る部分は、表面層のコイル70の高さの状態となるからである。
図5は、図3の2段目の巻回部分を抜き出して、第1の絶縁樹脂層30,31、第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dの配置関係を示す図である。図5では、インシュレータ16と下層のコイル60との間の隙間、下層のコイル60と表面層のコイル70との間の隙間を誇張して広めに示す。なお、図5における2段目では、下層のコイル60は「矢印付きの3」のコイルであり、表面層のコイル70は「矢印付きの4」のコイルである。
第1の絶縁樹脂層30,31も第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dも共に、コイル14の移動を防止するために設けられる。第1の絶縁樹脂層30,31はコイル14とインシュレータ16との間を固定するのに対し、第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dはコイル14の各段の表面層のコイル70の間を局所的に固定する。第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dが表面層のコイル70を全面的に覆わないのは、コイル14を露出させて、冷媒等との間の放熱性を向上させるためである。
第1の絶縁樹脂層30,31は、下層のコイル60である「矢印付きの3」のコイルとインシュレータ16との間に形成される。第1の絶縁樹脂層30の形成は、コイル14をインシュレータ16に装着した後、下層のコイル60とインシュレータ16との間の隙間に対し、ティース22の先端側から所定の液状の樹脂を注入、滴下等の手段で流し込むことで行われる。所定の液状の樹脂としては、4段目から1段目までの全部の下層のコイル60とインシュレータ16との間の隙間に広がって浸透するように、比較的低い粘度の絶縁樹脂を用いることが好ましい。例えば、比較的低い粘度のワニスを用いることができる。絶縁樹脂とは、電気絶縁性を有する樹脂である。
第1の絶縁樹脂層30は、インシュレータ16の軸方向に沿った側面と、各段の下層のコイル60との間に形成され、第1の絶縁樹脂層31は、インシュレータ16の張出部17と各段の下層のコイル60との間に形成される。図5の例では第1の絶縁樹脂層30と第1の絶縁樹脂層31は離れて形成されるが、これを互いに接続してもよい。
第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dは、表面層のコイル70である「矢印付きの4」のコイルの4隅の曲がり部50a,50b,50c,50dに対応した箇所にそれぞれ局所的に形成される。曲がり部50aと曲がり部50bとの間、曲がり部50bと曲がり部50cとの間、曲がり部50cと曲がり部50dとの間、曲がり部50dと曲がり部50aとの間には絶縁樹脂層の形成が行われない。第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dの形成は、各段の表面層のコイル70にまたがって行われる。これにより、2層巻コイル14は、各段の表面層のコイル70の間が絶縁樹脂によって互いに接続される。ここで、曲がり部50a〜50dは、コイル14の軸方向と径方向と周方向とにまたがる箇所である。したがって、第2の絶縁樹脂層40a〜40dを4隅の曲がり部50a〜50dに設けることで、例えば、コイル14の直線部の4か所に設ける場合に比べ、コイル14の移動をより効果的に抑制できる。
第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dは、コイル14の表面層のコイル70の外側から所定の樹脂を塗布等の手段によって配置して行われる。所定の樹脂としては、比較的高い粘度の液状の絶縁樹脂、半固化状態の絶縁樹脂、加熱により発泡する発泡性の絶縁樹脂、加熱により流動し固化する粉体状の絶縁樹脂等を用いることができる。第1の絶縁樹脂層30,31の形成のための樹脂の流し込み、第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dの形成のための配置が終わると、樹脂の固化のための加熱が行われる。この加熱によって、第1の絶縁樹脂層30,31と、第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dとは、共に固化し、コイル14は、各段の下層のコイル60がインシュレータ16に固定され、各段の表面層のコイル70が互いに固定状態で接続される。
2層巻コイルの巻き方は、図3、図4で述べた以外にも、ステータ10の仕様に応じていくつかの方式がある。例えば、1段目においてまず下層のコイル60をティース22に巻回し、これに続いて下層のコイル60に重ねて表面層のコイル70を巻回し、1段目の表面層のコイル70から2段目に移って2段目の下層のコイル60を巻回し、これに続いて2段目の表面層のコイル70を巻回し、これを繰り返す。この方式によれば、導線の総長さはやや長くなるが、カセットコイルとせずに、ティース22側に直巻方式でコイル14を巻回できる。
また、集合導線のように、2つの導線を重ねて一度に巻回する方式を用いても、下層のコイル60と表面層のコイル70の2層巻コイルとすることができる。この方式では、巻始め端と巻終わり端がそれぞれ2本の導線となるので、コイルエンド等において直列接続または並列接続の処理が必要になるが、ティース22側に直巻方式で巻回できる。
また、各段ごとに下層のコイル60と表面層のコイル70を形成する方式を取らない方式もある。その方式では、下層のコイル60をティース22の根元側から先端側に向かって所定の段数で巻回し、これに引き続き、表面層のコイル70をティース22の先端側から根元側に向かって所定の段数で巻回する。この方式では、2層巻の場合、巻始め端と巻終り端が共にティース22の根元側となるが、ティース22側に直巻方式で巻回することができる。
上記では2層巻について述べたが、多層巻においても同様にいくつかの多層巻の方式があり、方式によってはティース22側に直巻が難しく、カセットコイルに成形して用いることがある。また、方式によって、曲がり部50a等で各段のコイルの軸方向の高さが不揃いになることが生じる。図1、図2、図5で述べた第1の絶縁樹脂層30,31と第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dは、どの多層巻の方式を用いても適用が可能である。
図5に示すように、下層のコイル60と表面層のコイル70の間の隙間には、第1の絶縁樹脂層30,31は形成されず、第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dも形成されない。下層のコイル60と表面層のコイル70との接続部54は短い長さであるので、その剛性はかなり高く、下層のコイル60と表面層のコイル70の間が隙間のままであっても、コイル14の移動を防止できる。
2層巻のコイル14について、図6にそのことを模式的に示す。2層巻のコイル14では、第1の絶縁樹脂層30,31によって下層のコイル60がインシュレータ16に固定され、第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dによって表面層のコイル70は複数段の間で固定されて一体化されている。表面層のコイル70と下層のコイル60との間は、接続部54で接続されるので、接続部54が下層のコイル60に対する表面層のコイル70の移動の抵抗として働く。接続部54の長さが短い等で抵抗としての剛性が十分に高ければ、表面層のコイル70の下層のコイル60に対する移動を防止できる。
コイル14の総巻数が増加して層数や段数が大きくなり、接続部54の数が多くなりその長さが長くなる等で接続部54の剛性が振動等の外力に対して相対的に低くなると、下層のコイル60に対する表面層のコイル70の移動の防止が不十分となる恐れがある。例示として、4層巻のコイル80について、図7にそのことを模式的に示す。
図8のコイル80は、4層巻であるので、ティース22側に最も近く配置され、第1の絶縁樹脂層30,31によって固定される1巻コイルを最下層のコイル60と呼ぶ。また、最も表面側に配置され、第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dによって各段の巻回が互いに固定される1巻コイルを表面層のコイル70とする。最下層のコイル60と表面層のコイル70の間に配置される2つの1巻コイルを中間層のコイル61,62と呼ぶ。図8のコイル80は、最下層のコイル60と表面層のコイル70との間が、3つの接続部54,55,56によって接続されるので、図6のコイル14に比べ、最下層のコイル60と表面層のコイル70との間を接続する剛性が低くなる。これにより、最下層のコイル60に対する表面層のコイル70の移動の防止が不十分となる恐れがある。
図8に示すコイル82は、4層巻コイルにおいて、最下層のコイル60に対する表面層のコイル70の移動を効果的に防止できる構造の例を示す図である。ここでは、第2の絶縁樹脂層42a,42b,42c,42dは、曲がり部50a,50b,50c,50dについて、表面層のコイル70のみならず、これよりも下層側の中間層のコイル62,61、最下層のコイル60との間にも形成される。すなわち、第2の絶縁樹脂層42a,42b,42c,42dは、表面層のコイル70と中間層のコイル62との間、中間層のコイル62と中間層のコイル61との間、中間層のコイル61と最下層のコイル60との間にも、それぞれ形成される。これにより、表面層のコイル70は、中間層のコイル62,61を介して第2の絶縁樹脂層42a,42b,42c,42dによって最下層のコイル60に固定されるので、表面層のコイル70の最下層のコイル60に対する移動を効果的に抑制することができる。
第2の絶縁樹脂層42a,42b,42c,42dは、コイル82の表面層のコイル70の外側から所定の樹脂を塗布等の手段によって配置して行われる。所定の樹脂としては、図5、図6で述べた第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dに比較して、適当に粘度の低い液状の絶縁樹脂が用いられる。この場合でも、第2の絶縁樹脂層42a,42b,42c,42dは互いに分離して配置され、その分離領域においては、表面層のコイル70、中間層のコイル62,61、最下層のコイル60の表面層側の面は、絶縁皮膜付き導線の状態で露出する。これにより、冷媒等による冷却性能を確保できる。
図9に示すコイル84は、4層巻コイルにおいて、最下層のコイル60に対する表面層のコイル70の移動を効果的に防止できる別の構造の例を示す図である。図9は、図7のD−D線に沿った断面図である。図8における第2の絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dについては、D−D線に沿った断面図では現われないので、二点鎖線で示す。
図9に示すように、第2の絶縁樹脂層44は、図8で述べた絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dの部分に加え、コイル84のステータヨーク20側の壁面とインシュレータ16の壁面部分16bとの間に形成される付加的な絶縁樹脂層46を含む。付加的な絶縁樹脂層46は、絶縁樹脂層40a,40b,40c,40dのそれぞれと、第1の絶縁樹脂層30,31と一体的に接続されて形成される。これにより、表面層のコイル70は、付加的な絶縁樹脂層46を介して最下層のコイル60に固定されるので、表面層のコイル70の最下層のコイル60に対する移動を効果的に抑制することができる。
図8、図9は、4層巻コイルについて述べたが、この場合に限られず、コイル14の総巻数が増加して層数や段数が大きくなり、接続部54の数が多くなりその長さが長くなる等で接続部54の剛性が振動等の外力に対して相対的に低くなる場合に適用可能である。例えば、2層巻の場合でも、巻き方の理由等で、接続部54の剛性を増加させる必要があるときは、図8、図9で述べた方法を適宜適用してよい。
図10に示すステータ11は、図1の構成についての変形例である。ステータ11においては、第2の絶縁樹脂層48は、同一スロット24に配置された2つのコイル14について、互いに向かい合う曲がり部にまたがって形成される。図10にはリード側として、図4で述べた4つの曲がり部50a,50b,50c,50dのうち、同一スロット24内の2つのコイル14において互いに向かい合う2つの曲がり部50a,50bにまたがって形成される第2の絶縁樹脂層48が示される。図10では図示されないが、反リード側では、同一スロット24内の2つのコイル14において互いに向かい合う2つの曲がり部50c,50dにまたがって形成される第2の絶縁樹脂層49が示される。図10の構成を用いることで、絶縁樹脂の使用量を削減でき、絶縁樹脂の塗布等の工数をさらに削減できる。