JP2016222965A - 金属炭化物皮膜の形成方法および金属炭化物皮膜被覆部材 - Google Patents

金属炭化物皮膜の形成方法および金属炭化物皮膜被覆部材 Download PDF

Info

Publication number
JP2016222965A
JP2016222965A JP2015109353A JP2015109353A JP2016222965A JP 2016222965 A JP2016222965 A JP 2016222965A JP 2015109353 A JP2015109353 A JP 2015109353A JP 2015109353 A JP2015109353 A JP 2015109353A JP 2016222965 A JP2016222965 A JP 2016222965A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
salt bath
metal
forming
carbide film
carbide
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2015109353A
Other languages
English (en)
Other versions
JP6071154B2 (ja
Inventor
原田 良夫
Yoshio Harada
良夫 原田
健一郎 戸越
Kenichiro Togoshi
健一郎 戸越
雅也 熊川
Masaya Kumakawa
雅也 熊川
亮介 砂原
Ryosuke Sunahara
亮介 砂原
寺谷 武馬
Takema Teratani
武馬 寺谷
誠一朗 河内
Seiichiro Kawachi
誠一朗 河内
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Tocalo Co Ltd
Original Assignee
Tocalo Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Tocalo Co Ltd filed Critical Tocalo Co Ltd
Priority to JP2015109353A priority Critical patent/JP6071154B2/ja
Publication of JP2016222965A publication Critical patent/JP2016222965A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6071154B2 publication Critical patent/JP6071154B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Chemically Coating (AREA)

Abstract

【課題】被処理鋼製部材の表面に、高品質の金属炭化物皮膜を長期に亘って安定して形成する方法と、この方法によって形成される金属炭化物皮膜被覆部材を提供する。【解決手段】炭化物形成用金属化合物を含む溶融硼砂浴中に、Mg含有量1.2〜93mass%のAl−Mg合金の小片または小塊を還元材として添加することによって、塩浴中に残留している酸化アルミニウムをアルミニウムに還元して、塩浴を再活性化し、高純度、高硬度で品質の高い炭化物皮膜を形成させる方法およびこのようにして形成してなる部材。【選択図】なし

Description

本発明は、各種鋼製部材の表面に高硬度で耐摩耗性に優れる金属炭化物の皮膜を形成する方法と金属炭化物皮膜被覆部材に関する提案である。
従来、機械器具用部材や金型などへの表面処理技術として、寸法変化が少なく当初の仕上状態を長期間にわたって維持することができる硬質皮膜についての研究が多くなされ、各種の処理技術と皮膜が開発されてきた。
例えば、物理的蒸着法(PVD法)や化学的蒸着法(CVD法)、粉末冶金法、拡散浸透法、溶射法、アークやレーザによる肉盛り法、電気めっき金属の二次的炭化処理などがそれである。なお、硬質皮膜としては、金属炭化物皮膜の開発がその代表的な皮膜の1つである。
その他、金属炭化物皮膜の形成方法は、加熱して溶融状態とした硼砂が主剤の塩浴中に、被処理鋼製部材を浸漬することによって、部材表面に金属炭化物の皮膜を形成する方法、いわゆる塩浴法が知られている。この方法は、要するに、硼砂中に炭化物形成用金属またはその合金粉末の添加を前提とし、さらに第2添加成分として、アルミナ、炭化棚素(BC)、アルミニウム、カルシウム、珪素などの一種または二種を添加して混合塩浴をつくり、その塩浴中に被処理鋼製部材を浸漬することによって、該部材の表面に皮膜を形成する方法である。この塩浴法に関する技術としては、以下に述べるような方法が知られている。
例えば、特許文献1には、主剤である硼砂や炭化物皮膜形成用金属とともに、アルミナ(A1)、ハロゲン化アンモン(例えば、NHCl)などの添加剤を加え、950℃〜1050℃の塩浴中に被処理鋼製部材を浸漬して、その表面に炭化物皮膜を形成する方法が開発されている。この方法は、アルミナなどを添加することで、塩浴の浴寿命の低下を防止すると共に、炭化物皮膜形成用金属化合物の粉末が処理槽の底部に沈積して被処理鋼製部材表面に付着するという弊害を除くこと、を目的として開発された技術である。
また、特許文献2には、硼化物とバナジウムやニオブなどの炭化物形成用金属の酸化物とからなる塩浴中に、添加剤として金属アルミニウム(Al)を添加すること、さらに、特許文献3には、添加剤として、カルシウムやアルミニウム、珪素、チタン、ジルコン、マンガンを添加した混合塩浴が開示されている。塩浴中にこれらの添加剤を加える理由は、被処理鋼製部材への金属炭化物皮膜の形成速度の低下を防ぐためであると説明されている。
また、特許文献4には、硼砂系塩浴中に、2種類の炭化物形成金属を添加することによって、被処理鋼製部材への2種類の炭化物皮膜を付着形成させる方法について開示している。
さらに、特許文献5〜7では、炭化物形成用金属化合物や各種添加剤を含む硼砂系塩浴中に浸漬した被処理鋼製部材を陰極とし、これに直流電流を流す電気化学的処理によって炭化物の皮膜を形成する電解法による技術を提案している。
特公昭59−42071号公報 特公平5−14786号公報 特公昭53−4054号公報 特公昭56−36864号公報 特公昭51−23263号公報 特公昭51−21384号公報 特公昭51−23262号公報
本発明は基本的に、特許文献2に開示されているような、いわゆる硼砂と炭化物形成用金属化合物に添加剤(還元材)を加えてなる塩浴を用いることにより、好ましくは、炭素量の高い被処理鋼製部材を浸漬することによって、該鋼製部材の表面に硬質の金属炭化物皮膜を形成する方法に関するものであり、この方法に関する前記従来技術が抱えている下記の課題を解決しようとするものである。
前述した金属炭化物皮膜の形成技術は、一般に「塩浴法」と呼ばれ、作業工程が単純で、多量生産にも向いていることから、古くから実用化されている硬質皮膜形成技術の一つである。しかしながら、既知の塩浴法では、被処理体としての鋼製部材を処理する度ごとに、浴中に炭化物形成用金属化合物とアルミニウム金属片を添加しているため、長期間使用した塩浴中には、アルミニウム酸化物粒子が多量に残留することとなる。
もし、塩浴中に多量のアルミニウム酸化物の粒子が残留すると、塩浴自体の化学的活性力が低下し、鋼製部材表面における金属炭化物皮膜の形成速度が遅くなるうえ、形成される炭化物中にもアルミニウム酸化物粒子が混入して、皮膜の局部的な割れや空隙発生の原因となるなど、品質低下現象が見られる。
しかしながら、こうした課題に対して現在のところ有効な解決策は提案されておらず、そのために多量のアルミニウム酸化物を含む塩浴は、廃棄物として捨てられることが多く、これが環境汚染の原因となっているとともに、生産コストの上昇を招く原因ともなっている。
また、塩浴中に50〜70mass%の酸化アルミニウム(Al)を添加する方法(特許文献1)は、高温処理浴の場合でも粘性の低下が少なく、形成された炭化物層の酸化を防ぐ効果があると云われている。しかし、発明者らの研究によれば、その効果は短期的かつ限定的であり、金属アルミニウムを添加した塩浴と同様の現象が早期に発生するという課題が残されている。
そこで、本発明の目的は、化学的活性力の大きい塩浴を永きに亘って維持することで被処理鋼製部材の表面に、高品質の金属炭化物皮膜を長期に亘って安定して形成する方法と、この方法によって形成される金属炭化物皮膜被覆部材とを提案することにある。
発明者らは、従来技術が抱えている前記課題を解決し、上記目的を実現するべく鋭意検討を重ねた結果、下記の手段を採用することが有効であることを突き止め、本発明を開発するに到った。
(1)即ち、本発明は、炭化物形成用金属化合物を含む高温溶融状態の硼砂含有塩浴中に、従来(特許文献2記載)の如き金属アルミニウムの使用に代え、アルミニウム−マグネシウム合金(以下、「Al−Mg合金」という)の小片または小塊を添加し、溶融塩浴(以下、単に「塩浴」という)中に残存しているアルミニウム酸化物(A1)粒子を、Al−Mg合金中のMgによって還元して金属Al粒子として改質させ、再び塩浴中で強力な還元材としての作用を発揮するようにしている点に第1の特徴がある。
(2)また、本発明の第2の特徴としては、前記塩浴中に添加するAl−Mg合金は、Mgの含有量が、1.2〜93mass%のものであり、塩浴中に残存するA1粒子の量によって、Mg含有量の異なるAl−Mg合金の種類と添加量を調節することにある。
(3)また、本発明の第3の特徴としては、前記Al−Mg合金として、直径1〜10mm、長さ5〜10mmの小片または小塊の形で塩浴中に添加し、800℃〜1150℃に加熱された塩浴中において完全な溶融状態の微粒子として存在させ、しかもこの塩浴を適宜に撹拌することによってA1粒子とMg成分との接触効率を上げて、金属Al粒子への還元作用を促して、塩浴全体の化学的活性力を回復させることにある。
(4)また、本発明の第4の特徴は、Al−Mg合金中のAl成分を、塩浴中における炭化物形成用金属化合物の還元作用に寄与させることにより、炭化物形成金属粒子の生成を促進させ、最終的には被処理鋼製部材の表面への硬質の炭化物皮膜の形成に寄与させるようにすることにある。
(5)また、本発明の第5の特徴は、Al−Mg合金中のMg成分を、塩浴中に生成したA1粒子の還元作用に利用するだけでなく、Al成分に比較して一段と強い還元力を利用することにより、炭化物形成用金属化合物から純度の高い炭化物形成金属粒子を生成させ、これによって高品質の炭化物皮膜を形成させるようにすることにある。
(6)さらに、本発明の第6の特徴は、Al−Mg合金の小片・小塊を還元材として用いる本発明に係る塩浴法では、Al金属を使用する場合に比較して塩浴の化学的活性力の回復が顕著で、長期間にわたって、品質の高い炭化物皮膜の形成条件を維持することができるので、生産性の向上とともに生産コストの低減が期待できる点にある。
このような考え方の下に開発した本発明は、硼砂、炭化物形成用金属化合物および還元材を含む塩浴中に被処理鋼製部材を浸漬して、該被処理鋼製部材の表面に金属炭化物の皮膜を形成する方法において、前記還元材として、アルミニウム−マグネシウム合金を用いることを特徴とする金属炭化物皮膜の形成方法である。
また、本発明は、上記の皮膜形成方法を適用することで、被処理鋼製部材の表面が、硼砂、炭化物形成用金属化合物、還元材であるアルミニウム−マグネシウム合金を含む塩浴中に析出し、遊離している炭化物形成用金属の微粒子と該被処理鋼製部材中に含まれている炭素との冶金反応によって生成させた金属炭化物皮膜、にて被覆されていることを特徴とする金属炭化物皮膜被覆部材を提供する。
なお、本発明においては、さらに下記に列挙するような解決手段を採用することがより好ましいと考えられる。
(1)硼砂と炭化物形成用金属化合物とアルミニウム−マグネシウム合金とを含む混合塩を加熱して溶融状態の塩浴とし、その溶融塩浴中に被処理鋼製部材を浸漬し、この被処理鋼製部材に含まれている炭素と当該塩浴中に析出して遊離状態で存在する微細な上記炭化物形成用金属の粒子とを反応させることにより、該鋼製部材の表面に金属炭化物の皮膜を形成すること。
(2)前記炭化物形成用金属化合物が、Ti、Cr、Mn、Ta、Nb、V、Hf、MoおよびWから選ばれるいずれか1種以上の金属の、酸化物、硫酸塩、炭酸塩、塩化物、水酸化物または硼化物のいずれかの化合物であること。
(3)前記アルミニウム−マグネシウム合金は、マグネシウム(Mg)を1.2〜93mass%含み、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなること。
(4)前記被処理鋼製部材は、この部材に含まれる炭素量が、0.05〜2.3mass%であること。
(5)前記塩浴の温度が、800℃〜1150℃であること。
(6)前記塩浴中に浸漬する被処理鋼製部材は、鋼製部材と塩浴成分との接触機会を増やすべく該塩浴中に可動保持すること。
(7)前記金属炭化物皮膜は、TiC、CrC、MnC、TaC、NbC、VC、HfC、MoCのうちから選ばれる1種以上の金属炭化物の皮膜であること。
(8)前記金属炭化物の皮膜は、塩浴中において還元反応によって析出、遊離した微細な炭化物形成用金属の粒子と、被処理鋼製部材中に含まれている炭素との反応によって生成した皮膜であること。
(9)前記金属炭化物皮膜は、ビッカース硬さ(HV):2300以上であること。
(10)前記金属炭化物皮膜は、その厚さが、2μm〜30μmであること。
前記のような構成を有する本発明によれば、下記の如き効果が期待できる。
(1)還元材として金属Alを使用する塩浴法や、塩浴中に予めA1を添加する既知の方法の場合、塩浴中に多量のA1(酸化アルミニウム)が残存して塩浴を汚染し、炭化物生成反応を阻害したり、形成される金属炭化物皮膜の品質を低下させるおそれがある。しかし、本発明のように、Al−Mg合金を還元材として使用する場合、MgがA1を還元してAl微粒子に変化させることができるので、塩浴中に存在しているA1の再利用が可能となり、浴の化学的活性力が回復して高品質の炭化物皮膜の形成に有効に作用する。
(2)本発明において、還元材として用いるMg(A1−Mg合金中のMg)は、従来のAl還元材に比較すると、塩浴中における炭化物形成用金属化合物に対する還元作用が強く、純度の高い炭化物皮膜形成用金属の微粒子を短期間のうちに多量に生成させることができる。そのため、被処理鋼製部材の表面における炭化物皮膜の形成速度を向上させ、しかも生成した炭化物皮膜の高硬度化にも寄与する。
(3)しかも、本発明においては、前記Al−Mg合金中のAlもまた、従来の塩浴法と同様に炭化物形成用金属化合物の還元作用を発揮するので、作用効果がより倍増する。
(4)本発明において、還元材であるAl−Mg合金は、800℃〜1150℃の塩浴中の作業温度条件下では完全に溶融しており、しかも微粒子として塩浴中に分散しているので、前記(1)〜(2)の反応がより効率的なものになる。
(5)本発明において、Al−Mg合金中のMgは、前記(1)〜(4)の作用を発揮した後、最終的にはMgO(酸化マグネシウム)の微粒子となって、塩浴中に残留することになる。しかし、そのMgOの密度は3.65g/cmであり、従来のAl還元材の最終生成物であるA1の密度3.99g/cmに比較すると軽いため、塩浴の表面に集合しやすい傾向がある。そのため、その除去作業が容易であり、塩浴の清浄化維持に有利である。
(6)本発明において、Al−Mg合金は、Mgの含有量が1.2〜93mass%の範囲内のものであり、溶射皮膜用材料および一般構造用材料として使用されている既存の合金であり、しかも空気が完全に遮断された硼砂の溶融塩中で使用されるため、本発明の実施に当たって必要な全ての作業を安全に行なうことができる。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
(1)塩浴を構成する物質とその化学成分
本発明において用いられる塩浴は、硼砂(Na)を主成分として、これに炭化物形成用金属化合物やAl−Mg合金の小片または小塊を添加して形成されるものである。硼砂は、市販のものでもよく、その多くは結晶水を含むNa・10HOの化学式で示されるものを使用することができる。この硼砂は、加熱すると350℃〜400℃で結晶水を放出してガラス状の粘性を有する融体となる。一旦、ガラス状になった硼砂は、大気を遮断して空気の内部侵入を防止して無酸化環境を構成するだけでなく、この浴に被処理鋼製部材を浸漬した際に、該部材表面の薄い鉄酸化膜を除去するフラックスとしての作用も有する。
そのうえ、この硼砂は、炭化物形成用金属化合物と還元材であるAl−Mg合金とからなる塩浴成分を加熱して溶融状態としたとき、このAl−Mg合金による還元反応を促進させて、多量の炭化物形成金属粒子を析出させるための熱源としての役割を果たす。
硼砂を含有する塩浴の好適温度は、800℃〜1150℃の範囲が好ましい。その理由は、塩浴温度が800℃よりも低いと、塩浴の粘度が大きくなって作業が困難になるうえ、前記Al−Mg合金成分による還元反応および被処理鋼製部材表面に形成される炭化物皮膜の形成速度が遅くなるからである。一方、1150℃よりも高い温度では、前記諸反応はいずれも速くなるものの、硼砂自体の酸化・分解反応の速度が速くなり、好適な塩浴環境を維持できる期間が短くなるとともに、形成される炭化物皮膜の性状、品質が低下する。
(2)炭化物形成用金属化合物の種類
本発明において使用可能な炭化物形成用金属化合物の主要成分として含有する金属としては次のようなものがある。
チタン(TiC)、クロム(Cr23、Cr)、マンガン(Mn23)、タンタル(TaC、TaC)、ハフニウム(HfC)、バナジウム(VC、V)、ニオブ(NbC、NbC)、モリブデン(MoCMoC)、タングステン(WC、WC)
なお、括弧内は、それぞれの金属が炭化物を形成した際の化学記号を示す。
上記炭化物形成用金属化合物を硼砂含有塩浴中に添加する場合には、前記炭化物形成用金属の酸化物(例えば、Cr、Nb)や水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩などの化合物の形態で添加することができるが、酸化物の形態のものが特に好ましい。
なお、硼砂含有塩浴中に添加する炭化物形成用金属化合物は、1種類であることを基本とするが、複数の金属化合物を添加してもよい。この場合は、複数の金属炭化物が混在したり、層状に積み重なる構造の皮膜が形成されることとなるが、炭化物皮膜として好適に利用できる場合があり、そうした製造および利用を規制するものではない。
(3)炭化物形成用金属化合物の還元材として用いられるAl−Mg合金
本発明において最も特徴的なことは、前記炭化物形成用金属化合物の還元材として、A1−Mg合金を用いることにある。この合金の化学成分は、Mg:1.2〜93mass%、残部がAlであるものが好ましく、さらにMg:5〜50mass%のものを用いることがより好ましい。その理由は、MgO含有量が1.2mass%(より好ましい場合では5mass%)よりも少ないと、Mgによる酸化アルミニウム(Al)の還元作用に長時間を要するうえ、還元できる量が少なく、一方、93mass%(より好ましい場合では50mass%)よりも多いと、前記Alの還元作用によるAl粒子の生成量が増加して、塩浴の化学活性度が必要以上に高くなって鋼製の塩浴槽と反応し、その溶解成分による塩浴の汚染および塩浴槽寿命を短くするからである。
なお、市販のAl−Mg合金は、微量のZn、Mn、Fe、Si、Cu、CrあるいはTiなど、またその他の不可避的不純物が含まれているが、これらは本発明の作用、効果を得る上であまり障害とならないため、特には規制されない。
前記Al−Mg合金の例としては、日本工業規格JIS H4040規定の「アルミニウムおよびアルミニウム合金の棒および線」の合金番号2024(Mg:1.2〜1.8mass%)を最低のMg含有量とし、最大Mg含有量として、JIS H4202規定の「マグネシウム合金継目無管」MT2(Al:5.5〜6.5mass%、残部:Mg他)を使用することができる。
これらのAl−Mg合金材料は、いずれも市販品であるから入手および取扱いが容易である。従って、Mg含有量の多い合金であっても安全性が高く、本発明の目的に叶う還元材として好ましい材料と云える。
このAl−Mg合金を塩浴中に添加する場合、直径2〜10mm程度、長さ5〜20mm程度の小片または小塊のものを用いることが好ましい。その理由は、この大きさの合金は、該塩浴の操業条件である800℃〜1150℃の温度域では容易に溶融状態となって炭化物形成用金属化合物と反応し、炭化物形成金属の微粒子を遊離状態(析出)とすることができる。因みに、Alの融点は660℃、Mgの融点は650℃である。
(4)被処理対象である鋼製部材
本発明において用いられる被処理鋼製部材としては、塩浴中において、炭化物形成金属の微粒子と接触したときに、炭化物皮膜を早期に形成するのに必要な炭素量を有すること、即ち、該鋼製部材表面に所定の炭化物皮膜を形成するために必要とされる炭素量を有するもの、好ましくは高炭素鋼鋼材であることが望ましい。この目的を達成するのに必要な炭素の含有量は、0.05mass%〜2.3mass%程度のものが好適である。より好ましくは、0.07mass%〜1.5mass%程度である。
具体的には、JIS G4401規定の炭素工具鋼材(炭素量0.55〜1.5mass%)、JIS G4403規定の高速度鋼(炭素量0.73〜1.4mass%)、JIS G4404規定の合金工具鋼(炭素量0.25〜2.3mass%)などが好適である。その他、高炭素クロム軸受鋼や一般的に型鋼と称されるNi−Cr鋼、Ni−Cr−Mo鋼、Cr−W鋼、高C一高Cr鋼に対しても品質に優れた炭化物皮膜を形成することができる。
(5)硼砂含有溶融塩浴中における化学反応と炭化物皮膜の形成反応
炭化物形成用金属化合物とAlやAl−Mg合金を含む溶融状態の硼砂含有塩浴中では、下記に示す化学反応によって、被処理鋼製部材の表面に硬質の炭化物皮膜が形成される。
例えば、炭化物形成化合物として、五酸化バナジウム(V)を用い、その還元材として、金属Alを添加した硼砂含有塩浴中(1000℃)では、両者とも溶融状態となって存在し、Alの還元反応によって、微細な金属Vの粒子が該塩浴中に析出することとなる。
3V+10Al→6V+5A1 (1)
このような反応が進行する塩浴中に被処理鋼製部材を浸漬すると、該鋼製部材の表面では、上記(1)式で発生した微細なV粒子の一部が物理的に接触して付着し、その後、鋼製部材中に含まれている炭素と下記のように反応して優先的に結合することでVC炭化物を形成する。
鋼製部材中のC+塩浴中のV粒子 → VC炭化物粒子 (2)
その後、時間が経過しても、上記(2)式の反応が継続的に続くため、VC粒子が次第に堆積を繰り返しつつ成長し、最終的には膜状のVC炭化物層となる。
上記塩浴法によるVC炭化物皮膜の形成反応は、通常、同一の塩浴を用いて繰り返し行われる。その結果、上記(2)式の反応はその速度が次第に緩やかになったり、全く起こらなくなったりする。この場合、Vや金属Alを塩浴中に何回も添加することにより、VC炭化物皮膜の形成反応が再び活発になるようにしている。
しかしながら、塩浴中における上記化学反応から明らかなように、繰り返しVC炭化物皮膜の形成処理が長期間にわたって行なわれると、(1)式の反応によって生成するA1粒子濃度が次第に高くなる。こうしたA1粒子は、融点2050℃の硬質のセラミック粒子として存在し、塩浴中の他の成分とは全く反応せず、(2)式の反応を阻害したり、VC炭化物皮膜中に混入して、皮膜に欠陥を発生させたり、硬さを低下させたりする。
この点に関し、本発明においては、上述のような塩浴中に、前記Al−Mg合金を添加するので、この合金中のMgが、下記(3)式のように反応してA1を還元し、金属Alの微粒子を生成させる。
A1+3Mg → 3MgO+2Al (3)
そして、上記(3)式によって生成したAlは、再び上記(1)式の反応の主役となってV粒子を生成させ、VC炭化物皮膜の形成に寄与することになる。
しかも、Al−Mg合金中のMg自体も、下記(4)式のような反応によってVを還元して微細なV粒子を生成する。
2V+10Mg → 10MgO+4V (4)
なお、Al−Mg合金中のAlの方は、当然のことながら、上記(1)式の反応によってV粒子の析出に寄与するので、無駄なものはない。
ここで、A1−Mg合金中に含まれるMgの含有量は、塩浴中に残留しているA1量が多い場合には、高Mg合金を使用し、Al量が少ない塩浴については、低Mg含有Al合金を使用すればよく、その選択に自由度をもたせることができる。
また、Al−Mg合金を用いた場合、反応生成物としてMgOが塩浴中に残留するが、MgO粒子はA1粒子に比較して密度が小さいため、表面に浮遊しやすく、物理的に除去することが容易なので、塩浴の汚染源となることは少ない。
(6)塩浴中に添加する炭化物形成用金属化合物とAl−Mg合金の割合
前記塩浴中に添加する炭化物形成用金属化合物とAl−Mg合金の割合は、金属化合物の種類やAl−Mg合金中に含まれるMg量および塩浴に含まれているA1量によって相違するので、一義的に決定するのは困難であるが、一応、下記に示す概念に基づき塩浴の管理を行なうことが好ましい。
具体的には、前項の(1)式を利用する場合には、3モルのV(546g)を還元して6モルのV(306g)が得られる反応におけるAlの理論的必要量は10モルのAl(269g)となる。また、(4)式における4モルのVを析出させるのに必要なMg量は10モル(243g)であることが分る。
しかし、炭化物形成用金属化合物がTaやCrなどの場合、反応量のモル数が同じであっても、質量が大きく異なるため添加量も大きく変動する。例えば、Crの場合、酸素量が異なると、それに伴ってAlやMgの反応量も変化する。さらに、Al−Mg合金中のMg含有量や塩浴中に残存しているA1量もまた大きな変動因子になると共に、溶融塩中の化学反応というのは、水溶液中における反応と比較すると不均等で、両成分が完全に反応するまでの時間を変動するなどのため、それぞれの添加量を一義的に決定することはできない。
そこで、本発明の実施に当たっては、上記の塩浴中の被覆還元物質としての炭化物形成用金属化合物の種類と、その添加量およびA1含有量などが明らかになった時点において、それぞれの還元反応式から算出される理論値を最小値とし、最大値をその1.5倍程度とすることを目安としている。
(7)形成すべき金属炭化物皮膜の厚さ
本発明の実施によって形成される金属炭化物皮膜の厚さは、皮膜形成後の表面研磨などの仕上後の厚さとして、2μm〜30μmの範囲が好適である。その理由は、厚さが2μmより薄い皮膜では、被処理鋼製部材の形状の影響を受けて、皮膜厚さの均等性に起因する問題が発生しやすいからである。
一方、該金属炭化物皮膜の厚さが30μmより厚くなると、成膜処理に長時間を要するだけでなく、皮膜欠陥の発生確率が大きくなる。また、厚い該金属炭化物皮膜では、皮膜を構成する炭化物粒子の大きさが、厚膜の表面側ほど粗大化して、硬さが低下する傾向が見られるからである。
実施例1
この実施例では、硼砂を主剤とし、これに五酸化バナジウムおよびA1−Mg合金を添加した塩浴中に、炭素量の異なる鋼製部材の試験片を浸漬し、その表面に形成されるVC炭化物皮膜の性状、外観などを、塩浴温度との関係で調査した。
(1)供試塩浴組成
硼砂:30kg、V:500g、A1−20mass%Mg:400g
(2)供試鋼材
炭素量が0.07〜1.5mass%の炭素鋼を直径10mm×長さ15mmの寸法に仕上げたものを試験片とし、比較例として炭素量の少ないSUS304L鋼、SUS312L鋼を用いた。
(3)塩浴温度・時間
塩浴温度は700℃〜1200℃に加熱し、それぞれの温度で3時間浸漬した。
(4)評価方法
塩浴から引き上げた試験片の表面に形成されているVC炭化物皮膜の外観を目視および拡大鏡で観察するとともに、必要の都度、皮膜のミクロ硬さを測定した。
(5)試験結果
試験結果は、表1に要約して示した。この表に示す結果から明らかなように、たとえ鋼製部材であっても、温度の低い700℃の塩浴では、VC皮膜の形成が十分ではない。一方、1200℃超の高温の塩浴では、VC皮膜の形成は認められるものの、皮膜は脆く、密着性にも乏しい傾向が見られた。また、1200℃に加熱した塩浴では、硼砂の分解反応の傾向が顕著となり、安定した塩浴環境が得られなかった。
表1に示すように、良好なVC炭化物皮膜が形成される塩浴の温度条件は800℃〜1150℃の範囲であることが確認された。一方、比較例のSUS304L鋼、SUS312L鋼試験片には、VC炭化物皮膜の形成は認められなかった。また、試験片に形成されたVC炭化物皮膜のミクロ硬さは、いずれもHV:2300以上の硬さを有していることが確認された。
Figure 2016222965
実施例2
この実施例では、実施例1で用いた五酸化バナジウム(V)を添加した硼砂系塩浴に対して、Mg含有量の異なるAl−Mg合金を添加した後、鋼製部材の試験片を浸漬し、その表面に形成されるVC炭化物皮膜の形成状況を調査した。
(1)供試塩浴組成
実施例1と同組成の塩浴中に、Mg量:1.2〜93mass%のAl−Mg合金を添加した。なお、供試合金中には高Mg含有合金のJIS H4201規定の合金記号MPIBを用いた。化学成分からは、Mg合金と称すべきところであるが、本発明の主旨から、敢えてA1−Mg合金として表示していることを付記する。また比較例として、従来技術に属するAlおよびA1を供試した。
(2)供試鋼材
供試鋼材は、SK60鋼、SKD7鋼、S35C鋼の3種類とし、それぞれ寸法を直径10mm×長さ15mmに仕上げたものを試験片とした。
(3)塩浴温度・浸漬時間
1000℃とし、3時間浸漬した。
(4)評価方法
実施例1と同様である。
(5)試験結果
試験の結果は表2に要約して示した。表2に示す結果から明らかなように、Mg含有量1.2〜93mass%のAl−Mg合金を添加した塩浴中に浸漬した試験片(試験片No.1〜5)の表面には、HV:2300以上のVC炭化物皮膜が形成され、従来技術に属する比較例のAl添加浴から形成されるVC炭化物皮膜と全く遜色がなかった(試験片No.6)。
一方、比較例のA1を添加した塩浴からは、いずれの鋼材試験片に対しても炭化物皮膜(VC)の形成は認められなかった。
Figure 2016222965
実施例3
この実施例では、各種の炭化物形成用金属酸化物を添加した硼砂含有塩浴に対して、Al−Mg合金を添加し、高炭素鋼試験片の表面に形成される炭化物皮膜の形成状況を調査した。
(1)供試塩浴組成
実施例1と同じ硼砂含有塩浴中に、下記の金属炭化物形成酸化物およびAl−Mg合金を還元材として添加した供試塩浴を準備した。また、比較例として、Al還元材を用いて同条件での効果を比較した。
金属炭化物形成金属酸化物の種類:TiO、Cr、Ta、Nb
(2)供試鋼材
SK60、SKD7、S45Cとし、それぞれ実施例1と同じ寸法の試験片を採取して実験した。
(3)塩浴温度・浸漬時間
1000℃とし、3時間浸漬した。
(4)評価方法
実施例1と同じ方法を採用した。
(5)試験結果
試験の結果は表3に要約して示した。表3に示す結果から明らかなように、Al−Mg合金を添加した硼砂塩浴は、各種の金属炭化物形成酸化物からそれぞれの金属炭化物皮膜を形成させることが可能である。しかも、生成したそれぞれは炭化物皮膜はいずれも硬く(HV:2300以上)、高炭素鋼試験片との密着性も良好であった。
また、同条件で実験したAl材(試験No.5、6)の使用によって形成されるTiおよびCr炭化物皮膜に比べても、硬さ、密着性に遜色はなかった。
Figure 2016222965
実施例4
この実施例では、硼砂含有塩浴による金属炭化物皮膜の形成処理を継続的に実施した場合、塩浴中で増加し続けるA1微粉末の金属炭化物皮膜の品質および作業性に与える影響について、従来技術による金属Alと、本発明に係るAl−Mg合金の作用を比較検討した。
(1)供試塩浴組成
比較例の塩浴組成:硼砂:10kg、V:500g、Al:400g
発明例の塩浴組成:硼砂10kg、V:500g、Al−Mg(30mass%):400g
上記組成を塩浴組成とし、これに比較例の塩浴および本発明に適合する塩浴に対し、それぞれA1粉末を1回の添加量400g一定とし、5回にわたって添加(追添加)し、その都度、供試鋼材試験片を浸漬してVC炭化物皮膜の形成処理を実施した。
(2)供試鋼材
SK60を使用して、寸法が直径10mm×長さ15mmの試験片を準備した。
(3)塩浴温度・浸漬時間
1000℃とし、8時間浸漬した。
(4)評価方法
供試試験片の表面に形成されたVC炭化物皮膜の硬さおよびその断面ミクロ組織観察によって評価した。
(5)試験結果
試験結果は表4に要約して示した。表4に示す結果から明らかなように、比較例として示す従来技術に従う金属Alを還元材とする塩浴から形成されるVC炭化物皮膜は、塩浴処理直後およびA1粉末を1回追添加した後の塩浴では良好な硬さを示し、皮膜の断面ミクロ組織も欠陥のないものが得られた。しかし、A1粉末を1回追添加した塩浴(塩浴中のA1累計量約1160g、但し、塩浴時に添加したAlもA1に変化したものとして加算)から形成されるVC炭化物皮膜には、微細な割れや欠陥の発生が見られ、2回追添加した浴では、皮膜欠陥が一層顕著となり、硬さもHV2000未満を示すなど、皮膜品質の低下が明らかとなった。また、局部的に炭化物皮膜が生成していない場合もあった。
これに対し、本発明に適合する塩浴では、Al−Mg合金中のMg成分によるA1粉末からのAl還元作用効果によって、塩浴中のA1をAlとして再活性化させているため、A1を3回追添加した浴からも、高硬度(HV:2300以上)で欠陥のないVC炭化物皮膜が得られ、塩浴の寿命延長効果にも優れていることが認められた。
Figure 2016222965
実施例5
この実施例では、実施例4で使用したA1追添加浴(表4に記載のA1粉末追添加累計2000g)を基本塩浴とし、これに本発明に適合するA1−30mass%Mg合金を追添加した場合の塩浴の回復状況を、従来技術のAl金属を添加した比較例の塩浴と比較した。
(1)供試塩浴組成
比較例の塩浴組成:実施例4で実施した表4に記載のA1追添加累計量2000g浴(*2)
発明例の塩浴組成:実施例4で実施した表4に記載のA1追添加累計量2000g浴(*1)
上記基本塩浴に対し、従来技術に従う比較例の塩浴には、V500gとA1 400g、本発明に適合する塩浴には、V 500g、A1−30mass%Mg合金400gを添加した。
(2)供試鋼材
実施例4と同種のSK60を供試した。
(3)塩浴温度・浸漬時間
1000℃とし、8時間浸漬した。
(4)評価方法
実施例1と同じ方法で実施した。
(5)試験結果
試験結果は表5に要約して示した。表5に示す結果から明らかなように、従来技術に係る金属Alを添加した試験(比較例)では、VC炭化物皮膜の形成は認められるものの、その皮膜中に多量のA1粉末が含まれているため、皮膜欠陥が大きく、硬さもHV2000未満を示した。この結果から、従来技術に従う金属Alの添加法では、A1を多量に含み、VC炭化物皮膜形成能力を消失している塩浴に対しては効果がなく、塩浴の活性化機能の回復には効果がなかった。
これに対し、Al−Mg合金を添加する本発明に適合する方法では、硬く、しかも欠陥のないVC炭化物皮膜の形成が認められ、長期間使用して塩浴の活性力が低下した状態であっても、その炭化物皮膜形成能力を回復させることが判明した。
Figure 2016222965
実施例6
この実施例では、硼砂含有塩浴中に浸漬した被処理鋼製部材の表面への炭化物被膜形成速度に及ぼす、被処理鋼製部材の回転および移動などの運動因子の効果を調査した。
(1)供試塩浴組成
供試塩浴として実施例1に適用した塩浴を用いた。
(2)供試鋼材
供試鋼材はS45Cとし、浸漬用試験片は、直径10mm×長さ50mmの棒状試験片に加工したものを用いた。
(3)塩浴温度、浸漬時間
1000℃、15時間浸漬の条件としたが、試験片の浸漬条件を下記のように変化させた。
(a)浸漬期間中、試験片を静かに上下運動させた。(上下運動試験片)
(b)浸漬期間中、試験片を静かに回転運動させた。(回転運動試験片)
(c)浸漬期間中、試験片を塩浴槽の内壁に沿って静かに移動させた。(内壁移動試験片)
(d)浸漬期間中、試験片を塩浴槽の中心部で静止状態にした。(静止試験片)
(4)評価方法
浸漬試験後の各試験片の表面に形成されているVC皮膜の形成状況を目視観察するとともに、その皮膜断面を光学顕微鏡で観察し、さらにミクロビッカース硬さ計にて皮膜の硬度を測定した。
(5)試験結果
試験結果を表6に要約して示した。表6に示す結果から明らかなように、塩浴中に浸漬した試験片は、試験片の静止、回転や移動などの運転の有無に関係なく、緻密で、高硬度で、欠陥も認められない良好なVC炭化物皮膜の形成が認められた。ただ、VC炭化物皮膜の成長速度には明らかな差が認められ、回転や移動を付与した試験片には、静止状態に比較して15%〜23%程度厚くなっていることが判明した。この結果から、何らかの運動を付与した試験片の表面では、塩浴中でAl−Mg合金の還元作用によって生成した微細なV粒子との接触回数が増加して、その炭化物化を促進したことがうかがえる。また、試験片の運動に伴って塩浴自体も流動するので、この現象も有利に作用したものと考えられる。
Figure 2016222965
本発明に係る金属炭化物皮膜の形成技術は、高硬度、耐摩耗性、耐食性に加え、皮膜を形成するのに適した鋼製部材が保有している優れた機械的強度とともに、これらの複合的な特性を付与する技術である。具体的には、大きな荷重を付加して金属板や金属製晶を加工が可能であるための各種プレス金型類をはじめ、耐摩耗性が要求される回転体や摺動作用を繰り返す機械構造用部材などの表面処理皮膜として好適に用いられる。
また、金属炭化物皮膜は、溶融状態の亜鉛、錫、アルミニウムなどの金属に対して、優れた耐侵食性を発揮し、溶融金属の付着防止用皮膜としても適用が可能である。

Claims (14)

  1. 硼砂、炭化物形成用金属化合物および還元材を含む塩浴中に被処理鋼製部材を浸漬して、該被処理鋼製部材の表面に金属炭化物の皮膜を形成する方法において、
    前記還元材として、アルミニウム−マグネシウム合金を用いることを特徴とする金属炭化物皮膜の形成方法。
  2. 硼砂と炭化物形成用金属化合物とアルミニウム−マグネシウム合金とを含む混合塩を加熱して溶融状態の塩浴とし、その溶融塩浴中に被処理鋼製部材を浸漬し、この被処理鋼製部材に含まれている炭素と当該塩浴中に析出して遊離状態で存在する微細な上記炭化物形成用金属の粒子とを反応させることにより、該鋼製部材の表面に金属炭化物の皮膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の金属炭化物皮膜の形成方法。
  3. 前記炭化物形成用金属化合物が、Ti、Cr、Mn、Ta、Nb、V、Hf、MoおよびWから選ばれる1種以上の金属の、酸化物、硫酸塩、炭酸塩、塩化物、水酸化物または硼化物のいずれかの化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属炭化物皮膜の形成方法。
  4. 前記アルミニウム−マグネシウム合金は、マグネシウム(Mg)を1.2〜93mass%含み、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の金属炭化物皮膜の形成方法。
  5. 前記被処理鋼製部材は、この部材に含まれる炭素量が、0.05〜2.3mass%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の金属炭化物皮膜の形成方法。
  6. 前記塩浴の温度が、800℃〜1150℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の金属炭化物皮膜の形成方法。
  7. 前記塩浴中に浸漬する被処理鋼製部材は、鋼製部材と塩浴成分との接触機会を増やすべく該塩浴中に可動保持することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の金属炭化物皮膜の形成方法。
  8. 被処理鋼製部材の表面が、
    硼砂、炭化物形成用金属化合物、還元材であるアルミニウム−マグネシウム合金を含む塩浴中に析出し、遊離している炭化物形成用金属の微粒子と該被処理鋼製部材中に含まれている炭素との冶金反応によって生成させた金属炭化物皮膜、
    にて被覆されている、
    ことを特徴とする金属炭化物皮膜被覆部材。
  9. 前記金属炭化物皮膜は、TiC、CrC、MnC、TaC、NbC、VC、HfC、MoCのうちから選ばれる1種以上の金属炭化物の皮膜であることを特徴とする請求項8に記載の金属炭化物皮膜被覆部材。
  10. 前記アルミニウム−マグネシウム合金は、マグネシウム(Mg)を1.2〜93mass%含み、残部がアルミニウムおよびそ不可避的不純物からなることを特徴とする請求項8または9に記載の金属炭化物皮膜被覆部材。
  11. 前記金属炭化物の皮膜は、塩浴中において還元反応によって析出、遊離した微細な炭化物形成用金属の粒子と、被処理鋼製部材中に含まれている炭素との反応によって生成した皮膜であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1に記載の金属炭化物皮膜被覆部材。
  12. 前記金属炭化物皮膜は、ビッカース硬さ(HV):2300以上であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1に記載の金属炭化物皮膜被覆部材。
  13. 前記被処理鋼製部材は、この部材中に含まれる炭素の含有量が0.05〜2.3mass%であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1に記載の金属炭化物皮膜被覆部材。
  14. 前記金属炭化物皮膜は、その厚さが、2μm〜30μmであることを特徴とする請求項8〜13のいずれか1に記載の金属炭化物皮膜被覆部材。
JP2015109353A 2015-05-29 2015-05-29 金属炭化物皮膜被覆部材の製造方法 Expired - Fee Related JP6071154B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2015109353A JP6071154B2 (ja) 2015-05-29 2015-05-29 金属炭化物皮膜被覆部材の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2015109353A JP6071154B2 (ja) 2015-05-29 2015-05-29 金属炭化物皮膜被覆部材の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2016222965A true JP2016222965A (ja) 2016-12-28
JP6071154B2 JP6071154B2 (ja) 2017-02-01

Family

ID=57745515

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2015109353A Expired - Fee Related JP6071154B2 (ja) 2015-05-29 2015-05-29 金属炭化物皮膜被覆部材の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6071154B2 (ja)

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN116332678A (zh) * 2023-05-30 2023-06-27 中南大学 一种在碳材料表面制备碳化钽涂层的方法

Citations (9)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS4870636A (ja) * 1971-12-27 1973-09-25
JPS49118637A (ja) * 1973-03-15 1974-11-13
JPS534054B1 (ja) * 1971-04-20 1978-02-14
JPS5429847A (en) * 1977-08-11 1979-03-06 Toyoda Chuo Kenkyusho Kk Method of forming composite carbide layer of chromium and one or more of 5a group elements on surface of iron alloy
JPS5636864B2 (ja) * 1977-07-07 1981-08-27
JPS5732362A (en) * 1980-08-06 1982-02-22 Hitachi Metals Ltd Surface treatment
JPS63114955A (ja) * 1986-10-31 1988-05-19 Kojiro Yamazaki 金属の表面硬化法
JPH0514786B2 (ja) * 1986-07-07 1993-02-25 Toyoda Chuo Kenkyusho Kk
JP2010222648A (ja) * 2009-03-24 2010-10-07 Ryukoku Univ 炭素鋼材料の製造方法および炭素鋼材料

Patent Citations (9)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS534054B1 (ja) * 1971-04-20 1978-02-14
JPS4870636A (ja) * 1971-12-27 1973-09-25
JPS49118637A (ja) * 1973-03-15 1974-11-13
JPS5636864B2 (ja) * 1977-07-07 1981-08-27
JPS5429847A (en) * 1977-08-11 1979-03-06 Toyoda Chuo Kenkyusho Kk Method of forming composite carbide layer of chromium and one or more of 5a group elements on surface of iron alloy
JPS5732362A (en) * 1980-08-06 1982-02-22 Hitachi Metals Ltd Surface treatment
JPH0514786B2 (ja) * 1986-07-07 1993-02-25 Toyoda Chuo Kenkyusho Kk
JPS63114955A (ja) * 1986-10-31 1988-05-19 Kojiro Yamazaki 金属の表面硬化法
JP2010222648A (ja) * 2009-03-24 2010-10-07 Ryukoku Univ 炭素鋼材料の製造方法および炭素鋼材料

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN116332678A (zh) * 2023-05-30 2023-06-27 中南大学 一种在碳材料表面制备碳化钽涂层的方法
CN116332678B (zh) * 2023-05-30 2023-08-11 中南大学 一种在碳材料表面制备碳化钽涂层的方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP6071154B2 (ja) 2017-02-01

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Paital et al. Improved corrosion and wear resistance of Mg alloys via laser surface modification of Al on AZ31B
JP4762077B2 (ja) 鉄鋼部材の焼入れ方法、焼入れ鉄鋼部材及び焼入れ表面保護剤
US20130056363A1 (en) Ultra-fast boriding of metal surfaces for improved properties
TWI672395B (zh) Al系鍍敷鋼板
TW200528213A (en) Continuous casting mold and method of continuous casting for copper alloy
JP2006322042A (ja) 超高硬度高耐摩窒化鋼
Valentini et al. Study of the effect of functionalization with inhibitors on the corrosion properties of PEO-coated additive manufactured AlSi10Mg alloy
JP2006328496A (ja) 耐食性に優れる炭化物サーメット溶射皮膜被覆部材およびその製造方法
JP2012031480A (ja) 鉄合金材料の表面処理方法
Aramian et al. A review on the microstructure and properties of TiC and Ti (C, N) based cermets
JP6071154B2 (ja) 金属炭化物皮膜被覆部材の製造方法
Stulov et al. Electrochemical methods for obtaining thin films of the refractory metal carbides in molten salts
JP6066433B2 (ja) 金属炭化物皮膜形成用塩浴の浴機能改善方法
JP2017008399A (ja) 鋼鉄部材表面への複合硬化層の形成方法
JP2011219823A (ja) 有機複合Mg系めっき鋼板
CN114318202A (zh) 一种镍基合金表面耐磨涂层及其制备方法
WO2011013766A1 (ja) 超硬材における硬質被膜の除去方法及び超硬材の製造方法
CN103158292A (zh) 一种耐磨型叶片及其加工方法
US3959092A (en) Method for a surface treatment of cemented carbide article
JP2011157611A (ja) 表面被覆サーメット部材の耐酸化膜形成用の処理液
JP6108489B2 (ja) 鋼鉄部材の表面硬化方法
Imak et al. PTA coating of austenitic stainless steels with NiAl-Al2O3+ TiB2 powders
Petrzhik et al. Reactive phase formation by electrospark deposition
JP5258928B2 (ja) 鉄鋼部材の焼入れ方法、焼入れ鉄鋼部材及び焼入れ表面保護剤
WO2020217603A1 (ja) チタン含有部材の製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20161028

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20161221

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20161226

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6071154

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees