まず、本発明を開発するにあたり、一般に入手可能な各種アンモニア容器中や供給中のアンモニアガス中の不純物を調査した。表1は、A社、B社、C社の三社から入手した50kg入りアンモニア容器中の気相及び液相に含まれる不純物成分をそれぞれ測定した結果と、市販されている高純度アンモニアの製品規格値を示している。
その結果、主な不純物は、水素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素及び水分であり、これらの各不純物は、容器内で貯蔵中の状態によって変動するが、水素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素及び酸素は、アンモニアより低沸点成分であるから気相側に濃縮しやすい。このため、容器内の気相を採取すると、流量変動に伴う貯蔵液温の変化とも相まって、不純物の濃度は大きく変化するとともに、その濃度も高くなる。これに対し、容器内の液相を採取したときは、供給ガス中におけるこれらの不純物は極微量となり、必要とされる不純物濃度以下であるため、除去対象成分としては、水分のみを考慮すればよいことになる。
一方、アンモニアの製造工程において、原料を圧縮する圧縮機や冷却に使用する冷凍機の圧縮機などの摺動部の摩耗を防止するための潤滑油が、製品のアンモニアガスに混入する可能性がある。このため、アンモニアを精製する際には、アンモニア中に含まれる油分を除去する必要があり、前記各不純物に対しては、容器内の液相を採取することによって水分以外は極微量となるので、水分を除去すればよいことになる。
図1は、本発明のアンモニアの精製方法を実施可能なアンモニア精製装置の一例を示している。このアンモニア精製装置は、原料の粗アンモニアとなる無水アンモニアや工業用アンモニアを貯留した貯槽又は容器11と、該貯槽又は容器11から液相のアンモニアを液体アンモニアとして採取する液採取工程を行うための液採取管12と、液採取管12で採取した液体アンモニア中の油分を除去する第1油分除去工程を行う液相フィルター13と、第1油分除去工程後の液体アンモニアを気化させる気化工程を行う蒸発器14と、気化したアンモニアガスの圧力をあらかじめ設定された圧力に調整する圧力調整工程を行う圧力調整器15と、前記液相フィルター13での第1油分除去工程で除去されずに気化したアンモニアガス中に残存する油分を除去する第2油分除去工程を行う気相フィルター16と、油分除去後のアンモニアガス中の水分を吸着剤によって除去する水分除去工程を行う水分吸着筒17とを備えている。
すなわち、容器11から取り出した液体アンモニア中に含まれる油を液相フィルター13により除去した後、蒸発器14に導入してガス化させる。ガス化したアンモニアガスは、圧力調整器15で供給圧力を調整後、気相フィルター16に導入してガス中の微粒子やオイルミストを除去し、最後に、水分除去のための吸着剤を充填した水分吸着筒17に通気してから高純度アンモニアを使用する各工程へ供給するように構成している。
前記液相フィルター13は、前述のように、アンモニアの製造工程でアンモニア中に混入した潤滑油などの油分を除去するためのものである。本発明のように、原料として液体アンモニアを使用した場合、使用先に供給する前にアンモニアをガス化させるための蒸発器が必要になるが、液体アンモニア中に油分が混入していると、アンモニアと相溶性のない油分は、液体アンモニアより重く、気化しにくいため、蒸発器の底部に滞留し、熱交換の効率を低下させるだけでなく汚染を引き起こし、下流側における不純物の除去性能にも悪影響を及ぼすことになる。このため、気化工程を行う蒸発器14の前段で液体アンモニア中の油分のほとんどを除去することにより、装置の長期連続運転が可能となる。
液相フィルター13としては、油水分離など、液−液分離に使用されているコアレッサー方式のものが適している。このコアレッサー方式は、混合液中の微小な対象成分を比較的大きい孔を有するメデイアなどの粗粒化フィルターを使用することによって微小な液滴を粗大化して分離するものであり、必要に応じて遮り効果のあるフィルターと組み合わせることより高効率な油分捕集率を得ることができる。この液相フィルター13における油分除去管理は、液相フィルター13の下部に設けたドレントラップ13aの貯留油量で行うことができる。
一方、油分を吸着する活性炭をフィルターに用いることも考えられるが、活性炭は、水分を吸脱着するため、液相フィルター13としては不適当である。図2は、工業用アンモニアを供給する際に、活性炭を充填した筒を油分捕集用のフィルターとして用いた場合と、フィルターを用いない場合とにおける水分量の変化を測定した例を示している。
図2(A)に示すように、アンモニアの供給を一時停止させた後に供給を再開すると、前段階のアンモニア供給中に活性炭に吸着した水分が、供給再開とともに活性炭から脱着して供給ガス中に同伴され、水分を高濃度で含むアンモニアが供給されてしまう。これに対し、図2(B)に示すように、活性炭フィルターを使用していない場合は、供給再開と同時に僅かに水分濃度が上昇するのみである。これは、アンモニアの流量が変化したときも同様の傾向を示すことから、高純度アンモニアを供給する場合は、活性炭を用いることは好ましくないといえる。
前記蒸発器14は、液体アンモニアを気化できれば任意の構造のものを使用できるが、加熱媒体を導入するシェル14a内にアンモニアが流通するコイル14bを配置したシェル&コイル式が好ましい。コイル式の蒸発器は、構造が簡単であることと、シェル14a内に加熱媒体の貯蔵容量があるため、熱容量を大きくすることができ、アンモニアガス供給量の変動による負荷変動の温度変化を防止することができるという利点を有している。但し、液相フィルター13での油分除去が不十分な場合は、コイル14bの内部に油分が滞留するおそれがあるため、ドレン抜きを設けておくことが好ましい。
前記圧力調整器15は、アンモニアガスの使用先における必要圧力に応じた圧力に調整するもので、所定の圧力に調整できるものならば、市販の圧力調整器、膨張弁や二次側の圧力を検知してコントロール弁により制御するものなど、任意の形式のものを使用することができる。この圧力調整器15は、吸着筒17の後段などにも設けることが可能であるが、断熱膨張によってガス温度が低下するため、再液化防止や設備上の制約を考慮すると、蒸発器14の出口で必要圧力に降圧して調整することが好ましい。また、アンモニアガス中に含まれる油分や水分が溜まるおそれがあるため、複数の圧力調整器15を並列に配置して切替可能にしておくことが好ましい。
前記気相フィルター16は、前記液相フィルター13で除去されずにアンモニアガス中に残留した微量の油分を除去することにより、最終工程の水分吸着筒17が汚染されることを防ぐためのもので、気相におけるオイルミストや固形物などを拡散衝突やブラウン運動を利用した捕集機構を有するガス中の微粒子除去フィルターを用いることができる。この気相フィルター16においても、前記同様の理由から、活性炭などの吸着剤を使用したフィルターは用いることができない。また、この気相フィルター16は、液相フィルター13の不具合によってアンモニアガスに油分が同伴された場合にも機能する。この気相フィルター16における油分除去管理は、気相フィルター16のガス流入側とガス流出側との差圧で行うことができる。
前記水分吸着筒17は、水分吸着能を有する吸着剤を充填した筒内にアンモニアガスを流通させて水分を除去するもので、吸着剤には、MS3A、MS4A、MS5Aといった合成ゼオライトを用いることができる。水分吸着筒17は、複数の水分吸着筒17を配置し、吸着操作と再生操作とを交互に繰り返して連続的に水分の除去を行えるようにすることが好ましい。また、アンモニア(NH3)は、水分(H2O)の有効分子径に近く、ゼオライトの極性効果もあって、アンモニア自体も吸着するため、再生時にアンモニアを吸脱着するときの吸熱や発熱によって精製システムの性能や設備上の問題が生じないように再生操作を行う。
最適な再生操作は、まず、水分の吸着量が破過した水分吸着筒17の入口弁17a及び出口弁17bを閉じて運転圧力の状態で水分吸着筒17を一旦停止する。図示しないパージガス導入経路から水分吸着筒17内に、不活性ガスからなるパージガス、通常は、窒素ガスを所定流量で流通させるとともに、ヒーター17cを作動させて吸着剤を加熱する第1パージ段階を行う。あらかじめ設定した再生温度まで吸着剤を昇温し、水分吸着筒17からパージガス導出経路に導出した出口ガス(窒素ガス)中の水分濃度が所定値以下になるまで、運転圧力及び加熱状態を継続しながら第1パージ段階を継続する。
水分濃度が所定値まで低下した後、加熱状態を継続しながらパージガスをアンモニアに切り替えて第2パージ段階に進む。そして、出口ガス(アンモニアガス)中の水分濃度が所定値以下になった時点で加熱を停止し、パージガスを所定時間継続して流通させ、所定の温度まで冷却する冷却段階を行った後、水分吸着筒17を封止してパージガスの導入・導出を停止する封止段階を行うことにより、再生操作が終了する。
この再生操作を、加熱温度を200℃、窒素ガス流通を10時間、アンモニアガス流通加熱を10時間、アンモニアガス流通冷却を4時間行ったときの出口ガス中の水分濃度の変化を図3に示す。また、再生操作における加熱温度は、200℃以下、好ましくは200℃に設定することにより、吸着剤を十分に再生することが可能である。一方、200℃を超える高温に設定すると、例えば250℃では200℃の場合に比べて吸着容量が半分程度に低下し、300℃では更に吸着容量が低下する傾向がある。
このように、水分吸着筒17の再生操作では、運転圧力、例えば0.3MPaを維持しながら所定温度、好ましくは200℃に加熱した状態で、第1段階で窒素ガスのような不活性ガスでパージを行い、雰囲気中にアンモニアが存在しない状態で水分を脱着させた後、第2段階で精製アンモニア(高純度アンモニアガス)でパージ及び筒内のガス置換を行うことにより、水分吸着筒17に充填したMS3A、MS4A、MS5Aといった合成ゼオライトを十分に再生することができ、次の吸着操作において十分な水分除去能力を発揮することができる。
図4は、前記アンモニア精製装置の水分吸着筒17の後段に、水分、酸素、一酸化炭素及び二酸化炭素を除去する最終精製工程を行う最終精製筒18を組み込んだ例を示している。なお、以下の説明において、前記図1に示したアンモニア精製装置の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
最終精製筒18は、筒内ガス流れ方向上流側に、ニッケル及び酸化ニッケルを含む触媒18aを充填するとともに、下流側にMS3Aからなる吸着剤18bを充填したもので、このような最終精製筒18を最終精製工程として組み込むことにより、高純度アンモニアガス中の不純物濃度を更に低減できるとともに、配管途中での漏れ込みによる不純物を除去することができる。この最終精製筒18の再生操作は、還元性ガスを用いて行うことが好ましく、特に再生操作の最終段階では、高純度アンモニアガスを使用することが望ましい。