JP2016182657A - アルミニウム合金製サスペンションアームおよびその製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金製サスペンションアームおよびその製造方法 Download PDF

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寛哲 細井
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Abstract

【課題】ショットピーニング処理による残留圧縮応力の付与によって、耐応力腐食割れ性や耐久性を従来よりも著しく向上させた、アルミニウム合金製サスペンションアームおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 アルミニウム合金製サスペンションアームの、処理対象部分の0.2%耐力が高められた上で、ショットピーニング処理されており、このショットピーニング処理された部分の表面から深さ方向の領域に付与された残留圧縮応力が全て100MPa以上となっている。
【選択図】図7

Description

本発明は、高い耐応力腐食割れ性や耐久性を有するアルミニウム合金製サスペンションアーム(自動車足回り部品)およびその製造方法に関するものである。
サスペンションは自動車の車体と車輪の間にある懸架装置であり、ロードノイズの車体への伝達を防止するなどの機能を持つ。このため、サスペンションの構成部材であるサスペンションアーム(自動車足回り部品)は、極めて高い安全性が求められる重要保安部品に位置づけられている。
自動車のサスペンションアームに求められる主な性能としては、タイヤからの荷重伝達に対する十分な剛性、降伏強度、そして長期にわたる繰返し使用に耐えることのできる耐久性能がある。更に加えて,海沿いなどの塩分の豊富な腐食環境において長期間乗用されることを想定して、耐腐食性も重要な性能のひとつである。以下、自動車のサスペンションアームを単にサスペンションアームとも言う。
サスペンションアームの軽量化は、自動車のバネ下重量の軽量化に貢献し、運動性能やドライバの快適性の向上などに大きく寄与するために、軽量化のなかでも特に優先順位が高い。そこで、1990年代以前は、鋼板製や鋳鉄製のサスペンションアームが主であったが、高級車を中心として、アルミニウム合金製のサスペンションアームの採用が増加している。鋼板や鋳鉄製のものからアルミニウム合金に材料置換することで、一般的には40〜60%程度の大きな軽量化が可能である。そして、0.2%耐力が高いアルミニウム合金ほど、一般に高い軽量化効果を得ることができる。
アルミニウム合金製サスペンションアームの製造方法は、材料組織の信頼性や強度を高めるために、熱間鍛造が採用されることが多いが、コストとのバランスから金型鋳造が採用されることもある。また、高い軽量化効果を得るため高強度合金であることが必要であり、アルミニウム合金の中でも、強度と耐食性のバランスに優れた6000系合金、特に6082合金や6061合金が使用されることが最も一般的であり、高い信頼性や使用実績がある。
これらの合金は、製品にする際、耐食性への影響を考慮して、過時効処理であるT7調質を行うことが一般的であり、そのときの0.2%耐力はおおむね200MPa〜330MPaが得られる。更なる軽量化を追及するため、0.2%耐力が380MPaを超える高強度合金が求められている。そこで、6000系合金でもSi、Mg、Cuをはじめとする添加元素の成分を増やすことや、高強度な7000系合金の適用が検討されている。
ただ、これら合金の採用を阻んでいるのは、材料の応力腐食割れ(SCC)感受性が高くなることである。一般には、アルミニウム合金を高強度化することは、SCC感受性を高くすることとトレードオフの関係を持つ。
SCCは、腐食環境下において、高い引張応力が作用する部分で発生する脆性破壊現象であり、割れ形状が極めて鋭敏となることが特徴である。したがって、SCCの割れ先端部における応力集中係数は非常に高くなり、SCC発生部を起点とした、予期しない破断の可能性が懸念される。このため、重要保安部品であるサスペンションアームにおいては、アルミニウム合金のSCC感受性は、特に忌避される要因となって、7000系などの高強度合金材の適用は、このSCC感受性がハードルとなって妨げられていた。
このようなSCC感受性の低減策としてショットピーニング処理が周知である。ショットピーニング処理は、ワークの表面に対して、投射材と呼ばれる微細な粒子を高速度で衝突させることで、塑性変形による加工硬化や残留圧縮応力を付与する表面処理技術である。このような加工硬化や残留圧縮応力が付与されることで、比較的容易に耐SCC性や、耐久性能を向上させることができるため、ショットピーニング処理は、自動車用のバネや歯車、原子炉等の配管など、多様な用途において実用化されている。
ただ、付与される残留圧縮応力の製品の深さ方向のプロファイルは、投射材の材質(主として硬さ)やサイズ、投射の速度、ワークの硬さによって決定され、投射材のサイズが大きいほど、残留圧縮応力の最大値が大きくなること、投射材のサイズが大きくなるほど表面粗さが悪化することなどの定性的な傾向が知られている。
従来から、アルミニウム合金製サスペンションアームやトラック用のアルミホイールでも、SCC感受性の低減策としてショットピーニング処理による、表層部への残留圧縮応力の付与が提案されている。
例えば、特許文献1では、6000系アルミニウム合金鋳塊を、熱間鍛造によりサスペンションアームに成形し、続いて時効硬化した後、0.05〜0.20mmA2 の範囲でショットピーニング加工を施し、圧縮残留応力を付与したアルミニウム合金製サスペンションアームの製造方法が提案さている。
また、特許文献2では、疲労強度および耐食性に優れた6000系アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法として、所定個所の表層から1mm以内の領域に、98N/mm以上の圧縮残留応力を有する部分が平均200μm以上存在するよう、トラック用のアルミホイールに、ロール加工やショットピーニングなどの冷間加工で圧縮残留応力を付与した後に、焼き戻し処理を行っている。
特開平5−270225号公報 特開平7−197216号公報
ただ、これら従来のショットピーニング処理では、アルミニウム合金製サスペンションアームの、高い残留圧縮応力が付与される表面からの深さ領域が不足するか(浅すぎるか)、表面からの深さが10μm未満のごく浅い表層部には100MPa以上の高い残留圧縮応力が付与できない可能性や蓋然性がある。
前記特許文献1は、T6 (溶体化焼入れ処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理)の調質処理後にショットピーニング処理している。しかし、その具体的な処理条件について、剛球の使用や、アークハイト値(サスペンションアームに鋼球を打ち付けた時の反った大きさを言い、どのような強さで剛球が当たったかの目安)以外の記載が無い。そして、それによって付与された残留圧縮応力自体の大きさや、深さについても記載が無く、測定していない。しかも、この特許文献1は、耐久性(疲労強度)の向上が目的であるものの、耐SCC割れ性についての記載、すなわち、残留圧縮応力と耐SCC割れ性についての記載が何も無い。
前記特許文献2は、トラック用のアルミホイールでの実施例である図1の、ショットピーニングにより付与される、Cの白三角印で示される残留圧縮応力の深さ方向のプロファイルから、表面からの深さが10μm未満のごく浅い表層部には、100MPa以上の高い残留圧縮応力が付与できないことが明らかである。この理由はショットピーニング処理の条件など、色々考えられるが、前記特許文献2では、特に、ショットピーニング処理後に焼戻し処理をしており、この焼戻し処理によって、その条件にもよるが、前記ごく浅い表層部の残留応力が消失したものと推考される。
また、ショットピーニング処理条件も、高い残留圧縮応力が付与される表面からの深さ領域や、この深さ領域全域に亘る残留圧縮応力の大きさに影響する。この点、前記特許文献1、2に開示されたような、ガラスビーズあるいは鋼球による一般的なショットピーニング処理条件では、深さ領域全域に亘る、高い残留圧縮応力の付与が困難となりやすい。
因みに、前記特許文献2に開示された、残留圧縮応力付与のためのロール加工は、その実施例のように、大きなトラック用アルミホイールには適用できても、サスペンションアームのような、小型で、しかも表面を含めた形状が複雑なものには、とても適用できない。したがって、サスペンションアームに対して、残留圧縮応力を効率的、工業的に付与できる手段は、現在のところショットピーニング処理しかない。
一方、本発明者らの知見によれば、前記した従来技術のように、高い残留圧縮応力が付与される表面からの深さ領域が不足するか(浅すぎるか)、深さが10μm未満のごく浅い表層部に高い残留圧縮応力が付与できていないと、厳しい腐食環境に晒され、アルミニウム合金製サスペンションアーム表面に粒界腐食が生じて内部に進行した場合、この表層部でのSCC感受性が大きく増してしまう。
例えば、深さが10μm未満のごく浅い表層部に、高い残留圧縮応力が付与できていないなど、幾ら他の深さ領域に高い残留圧縮応力が付与されていても、深さ領域に部分的に残留圧縮応力が低い箇所があると、サスペンションアーム表面に粒界腐食が生じて内部に進行した場合には、SCC感受性が増してしまう。しかも、この傾向は6000系や7000系などの高強度合金材で強くなる。
このため、従来の残留圧縮応力付与のためのショットピーニング処理には、高強度なアルミニウム合金製サスペンションアームの耐応力腐食割れ性や耐久性を、十分に向上できないという課題がある。
このような課題に鑑み、本発明の目的は、ショットピーニング処理による残留圧縮応力の付与によって、耐応力腐食割れ性や耐久性を従来よりも著しく向上させた、アルミニウム合金製サスペンションアームおよびその製造方法を提供することである。
この目的を達成するために、本発明のアルミニウム合金製サスペンションアームの要旨は、アルミニウム合金製サスペンションアームの全体あるいは一部において、表面から深さ150μmまでの内部領域の残留圧縮応力が全て100MPa以上となるよう、この残留圧縮応力が付与される部分の0.2%耐力が予め360MPa以上とされた上で、ショットピーニング処理されていることである。
また、上記目的を達成するために、本発明のアルミニウム合金製サスペンションアームの製造方法の要旨は、2000系、6000系または7000系のアルミニウム合金から選択される熱間鍛造材または金型鋳造材をT6処理して、残留圧縮応力を付与する部分の0.2%耐力を予め360MPa以上とした上で、この部分を前記アルミニウム合金と電食を生じない材料からなる平均粒径が0.2mm以上の投射材を投射してショットピーニング処理し、前記熱間鍛造材または金型鋳造材の全体あるいは一部において、表面から深さ150μmまでの内部領域の残留圧縮応力が全て100MPa以上となるようにして、前記ショットピーニング処理後には、前記付与された残留圧縮応力を低下させる熱処理を施さずに、サスペンションアームとして使用することである。
本発明は、アルミニウム合金製サスペンションアームの、応力腐食割れや破断を抑制したい全体か一部分における、残留圧縮応力の深さ方向の分布あるいはプロファイルを規定する。
すなわち、アルミニウム合金製サスペンションアームの、応力腐食割れを抑制したい部分(部位)における、表面から深さ150μmまでの内部領域の残留圧縮応力が全て100MPa以上となるようにする。
言い換えると、この応力腐食割れを抑制したい部分における表面から深さが150μmまでの内部領域において、残留圧縮応力が100MPa未満となるような部分が(深さ方向に亘って)無いようにする。
この内部領域には、残留圧縮応力が低くなりがちな、前記した表面から深さが10μm未満のごく浅い表層部も、当然ながら含まれる。
ここで、本発明でいう「表面」とは、アルミニウム合金マトリックスの上(表面)に形成された自然酸化皮膜(厚みは数十〜数百nmレベル)の最表面の意味であり、規定する「表面から深さ150μmまでの内部領域」とは、自然酸化皮膜の最表面から、アルミニウム合金マトリックス内部までの、深さ150μmの領域の意味である。
このような残留圧縮応力の深さ方向の分布あるいはプロファイルを実現するために、本発明では、アルミニウム合金製サスペンションアームの、応力腐食割れを抑制したい部分の0.2%耐力を予め(ショットピーニング処理に先立って)360 MPa以上に高めた上で、この部分を好ましい条件によってショットピーニング処理する。
本発明によれば、高強度アルミニウム合金材からなるサスペンションアーム表面に粒界腐食が生じ、アームの内部に向かってこの粒界腐食が進行した場合でも、SCC感受性や割れ感受性などが増すことがない。このため、高強度合金材からなるアルミニウム合金製サスペンションアームを、耐SCC性(耐応力腐食割れ性)や耐久性に優れたものとすることができる。したがって、重要保安部品であるサスペンションアームに高強度アルミニウム合金材の適用を可能とする。
本発明サスペンションアームの一態様を示す平面図である。 本発明サスペンションアームの別の態様を示す平面図である。 本発明サスペンションアームの別の態様を示す平面図である。 図3のA―A断面図である。 本発明サスペンションアームの別の態様を示す平面図である。 本発明サスペンションアームの別の態様を示す平面図である。 実施例における残留圧縮応力の深さ方向のプロファイルを示す説明図である。 実施例における繰返し荷重と破断に至るまでの繰返し数とを示す説明図である。 実施例における残留圧縮応力と破断繰返し数との関係を示す説明図である。 実施例における残留圧縮応力の深さ方向のプロファイルを示す説明図である。
以下に、本発明の実施の形態につき、要件ごとに具体的に説明する。
(サスペンションアーム)
先ず、本発明アルミニウム合金製サスペンションアームの全体形状の例を、図1〜6で示す。これら図1〜6のサスペンションアームは、高強度アルミニウム合金を用いて、薄肉化、軽量化を追求した形状となっており、図5の場合を除いて、公知あるいは一般的な形状である。以下、アルミニウム合金製サスペンションアーム(自動車足回り部品)を、単にサスペンションアームとも言う。
図1〜4は、同じ形状のアルミニウム合金製サスペンションアーム1を示している。サスペンションアーム1は、代表的には、アルミニウム合金鋳造材(ビレット)が熱間鍛造された鍛造材からなるが、それ以外に金型鋳造材からなっていても良い。
サスペンションアームは、自動車の車種に応じて、種々異なる形状のものが使用されるが、代表的には、図1〜4のように、平面視で略三角形の全体形状からなる。これら各三角形の頂点部分には、ボールジョイントやブッシュの圧入部などのジョイント部5a、5b、5cを有しており、これらをアーム部2a、2b、2cなどで各々繋いでいる。
アーム部2a、2b、2cは、その幅方向の各周縁部 (両側端部) に、アーム部の各長
手方向に亙って延在するリブ3a、3bと、その幅方向の中央部にウエブ4a、4bなどを有する。各リブ3a、3bは、自動車サスペンションアームでは、共通して、比較的幅狭で、肉厚が厚く、強度、靱性を確保する主部分となる。これに比して、各ウエブ4a、4bは、自動車サスペンションアームでは、共通して、各リブ3a、3bよりも薄肉で、例えば肉厚が10mm以下の比較的広幅の部分であり、軽量化に寄与する。このため、アーム部2a、2b、2cは、その幅方向の断面では、共通して、図4のように略H型の断面形状を有している。
図5は、変形例であって、マルチリンク方式のサスペンションに使用されるサスペンションアームを示し、平面視では棒状の全体形状からなり、アーム2aの両端部にジョイント部5a、5bを有し、アーム2aの片側の側面側のみにリブ3aを有している。
図6は、変形例であって、ストラット方式のサスペンションに使用されるサスペンションアームを示し、ジョイント部5a、5b、5cとも(特に5cが)同一平面上に配置されている。
(ショットピーニング処理される部分)
これらのサスペンションアームにおいて、ショットピーニング処理して残留圧縮応力を付与したい部分(部位)として、サスペンションに装着されての使用中に、高い引張応力が作用して、応力腐食割れや破断を生じる可能性のある部分、応力腐食割れや破断を抑制したい部分が選択される。サスペンションアームにおいて、応力腐食割れや破断を抑制したい部分は全て網羅的に選択されるべきであるが、ショットピーニング処理の効率化などとの関係で、高い引張応力が作用しない、あるいは応力腐食割れや破断を抑制しなくても良い部分も含んでも良く、このような場合も含めて、ショットピーニング処理される部分が、サスペンションアームの全体に亘るか、あるいは一部であるかが適宜選択される。
図1〜6においては、サスペンションアームにおいて、高い引張応力が作用して、応力腐食割れや破断を生じる可能性のある部分(応力腐食割れや破断を抑制したい部分)を含めて、ショットピーニング処理して残留圧縮応力を付与する部分を斜線で例示している。
図1、5、6では、斜線部で示すショットピーニング処理される部分がサスペンションアームの全体に亘っている。これらの例では、サスペンションアームの全体に亘って、本発明で規定する残留圧縮応力の深さ方向の分布あるいはプロファイルとなっている。ただ、本発明では、サスペンションアームにおいて、前記応力腐食割れや破断を生じる可能性のある部分さえ、本発明で規定する残留圧縮応力の深さ方向の分布あるいはプロファイルとなっていれば良い。したがって、図1、5、6の場合においても、ショットピーニング処理される全ての領域が、本発明で規定する残留圧縮応力の深さ方向の分布あるいはプロファイルとなっている必要はなく、そのような場合も本発明の範囲に含みうる。
図2では、斜線部で示すショットピーニング処理される部分が、サスペンションアームの一部で、ジョイント部5a、5b、5cを除いた、アーム部2a、2b、2c全体に亘っている。この図の態様は、高い引張応力が発生する可能性のある斜線部のみを、本発明で規定する残留圧縮応力の深さ方向の分布とする。ショットピーニング処理をサスペンションアーム製品全面に付与しようとすると、処理時間が増加し、製造ラインも複雑化するので、必要な部分にのみ処理を施すというものである。
図3、図4では、斜線部で示すショットピーニング処理される部分が、サスペンションアームの一部で、各リブ3a、3bの鍛造時の型割り線6の周辺部や、ジョイント部5a、5b、5cの各外縁部側となっている。鍛造材からなるサスペンションアームの場合、熱間鍛造時に高ひずみが生じる型割り線6付近では、異常な粒成長が生じやすく、SCC感受性が高くなることが知られている。そこで、この例では、特に型割り線6の部分のみ、あるいはこの部分を含めた、サスペンションアームの全体あるいは部分にショットピーニング処理を施し、少なくとも型割り線6の部分を、本発明で規定する残留圧縮応力の深さ方向の分布とする。
(処理対象部分の0.2%耐力)
このショットピーニング処理に先立ち、サスペンションアームにおいて、応力腐食割れや破断を抑制したい、処理対象部分の0.2%耐力を、予め360MPa以上、好ましくは380MPa以上、更に好ましくは400MPa以上と高くした上で行う。
残留応力は、基本的には材料の降伏応力を超えられないため、サスペンションアームにおける、当該部分の0.2%耐力が360MPa未満で、表面が柔らかい場合には、ショットピーニング処理により付与できる残留応力は必然的に小さくなる。このため、サスペンションアームの、ショットピーニング処理された部分であって、応力腐食割れや破断を抑制したい部分の、100MPa以上の残留圧縮応力が付与された領域の深さを、表面から150μm以上の深さに、大きくできない。また、特に、表面からの深さが10μm未満のごく浅い表層部を含めて、表面から深さ150μmまでの内部領域に付与された残留圧縮応力を全て100MPa以上と高くできない。言い換えると、表面から深さ150μmまでの内部領域において、表面からの深さが10μm未満のごく浅い表層部など、残留圧縮応力が100MPa未満となる部位を生じてしまう。
なお、ショットピーニング処理対象部分の高めることができる0.2%耐力の上限は、6000系や7000系あるいは2000系などの高強度アルミニウム合金特性(強度)の限界や、製法である鍛造や鋳造あるいはT6処理などの製造限界や、サスペンションアームの靱性低下を防ぐなどの要求特性からして、500MPa程度である。
(残留圧縮応力分布)
本発明で言う「表面から深さ150μmまでの内部領域の残留圧縮応力(残留応力)が100MPa以上」とは、敢えて「−」の負の表記を省略しており、負の値の大きさが100MPa以上という意味である。したがって、前記「100MPa以上」とは、図7、図10における縦軸の「−100MPa」よりも下方の位置(領域)の、例えば、−150MPa、−200MPaであるという意味である。
本発明は、サスペンションアームの応力腐食割れや破断を抑制したい、全体か、あるいは一部において、ショットピーニング処理によって付与される、残留圧縮応力の深さ方向の分布あるいはプロファイルを規定する。すなわち、サスペンションアームの、応力腐食割れや破断を抑制したい部分における、深さが10μm未満のごく浅い表層部も含めて、アルミニウム合金マトリックスの上(表面)に形成された自然酸化皮膜の最表面から、アルミニウム合金マトリックス内部までの、深さ150μmの内部領域に付与された残留圧縮応力を、全て100MPa以上と高くする。
言い換えると、この応力腐食割れを抑制したい部分における、100MPa以上の残留圧縮応力が付与された領域の深さを、自然酸化皮膜の最表面から150μm以上の深さとし、かつ、この内部領域おいて、残留圧縮応力が100MPa未満となる部位が無いようにする。ただ、サスペンションアームの全体や一部をショットピーニング処理した場合にでも、応力腐食割れや破断を抑制したい部分以外の部分は、前記した通り、必ずしも、この規定する深さ方向の残留圧縮応力分布となっていなくても良い。
これによって、高強度合金材からなるサスペンションアーム表面に、例え粒界腐食が生じて、アームの内部に向かって、この粒界腐食が進行した場合でも、SCC感受性や破断感受性が増すことがない。このため、本発明によれば、6000系や7000系あるいは2000系などの高強度合金材からなるサスペンションアームを、耐SCC性(耐応力腐食割れ性)に優れ、耐久性にも優れたものとする。
一方、応力腐食割れや破断を抑制したい部分の、100MPa以上の残留圧縮応力が付与された領域の深さが表面から150μm未満の浅いものでしかない場合は、本発明で規定する深さ方向の残留圧縮応力分布となっていない。また、表面から深さ150μmまでの内部領域において、残留圧縮応力が100MPa未満となる部位が、耐SCC性向上効果に影響するぐらいの実質的な大きさで存在する場合にも、本発明で規定する深さ方向の残留圧縮応力分布となっていない。すなわち、表面から深さ150μmまでの領域に付与された残留圧縮応力を全て100MPa以上とできていない。
このような場合には、サスペンションアームの耐SCC性や耐久性を優れたものとはできない。すなわち、サスペンションアーム表面に粒界腐食が生じて、アームの内部に向かってこの粒界腐食が進行した場合、深さ方向の残留圧縮応力が100MPa未満となった部分で、SCC感受性や破断感受性が増してしまう。
この結果、例え、100MPa以上の残留圧縮応力が付与されている深さ方向の部分があったとしても、そして、そのようにショットピーニング処理されていたとしても、腐食環境下では、前記残留圧縮応力が100MPa未満の深さ部位から、SCCや破断が発生する可能性が生じる。
なお、100MPa以上の残留圧縮応力が付与された領域の、表面からの深さの上限は、サスペンションアームの表面品質からくる、表面を荒らすことの限界や、ショットピーニング処理能力の限界からして、250μm程度である。また、ショットピーニング処理により付与できる残留圧縮応力の上限も、処理対象部分の前記0.2%耐力の上限や、表面を荒らすことの限界やショットピーニング処理能力の限界からして、300MPa程度である。
(ショットピーニング処理条件)
ショットピーニング処理によって、サスペンションアームの表面から深さ150μmまでの内部領域で、残留圧縮応力が100MPa未満となる部分が無いようにするためには、前記したショットピーニング処理の対象部分の0.2%耐力を予め360MPa以上にすることの他に、以下のショットピーニング処理条件を選択することが好ましい。
ショットピーニング処理では、応力腐食割れを抑制したい部分の表面(自然酸化皮膜表面)に対して、周知の通り、投射材と呼ばれる微細な粒子を高速度で衝突させることで、塑性変形による加工硬化や残留圧縮応力を付与する。付与される残留圧縮応力の深さ方向のプロファイルは、前記ワークの硬さ(0.2%耐力)の他に、投射材の材質(主として硬さ)やサイズ(平均粒径)、投射速度、によって決定される。
投射材は、アルミニウム合金と電食を生じない材料として、ステンレス系投射材、アルミナ系投射材、亜鉛系投射材、ガラス系投射材を使用する。前記特許文献2に開示された鋼球は、アルミニウム合金マトリックスに残留した場合、電食を生じて、耐SCC性を低下させ、逆効果となる。
また、投射材のサイズが大きいほど、残留圧縮応力の最大値が大きくなるので、これらの材料の投射材の平均粒径は、0.2mm以上と比較的大きな投射材を使用することが好ましい。ただ、投射材のサイズが大きくなるほど表面粗さが悪化するので、好ましくは投射材の平均粒径の上限は0.8mm程度とする。
前記高速度で投射材を衝突させるために、投射材の投射のためのエア圧力は好ましくは0.3MPa以上とする。また、直接投射材を部分に向けて投射する場合は、インペラを使うなどして、投射速度60〜80m/sで投射することが好ましい。
ショットピーニング処理後には、付与された残留圧縮応力を低下させるような熱処理を施さずに、サスペンションアームとして使用する。前記特許文献2のように、ショットピーニング後に焼戻し処理をした場合には、この焼戻し処理によって、その条件にもよるが、前記ごく浅い表層部の残留応力が消失する。
(適用アルミニウム合金)
本発明のサスペンションアームの適用アルミニウム合金には、JISあるいはAAで規格される、高強度な6000系または7000系、あるいは2000系のアルミニウム合金を用いる。6000系アルミニウム合金は、高強度かつ高靱性で、合金元素量が少なく、耐食性にも比較的優れているという特徴を有する。
6000系のアルミニウム合金としては、例えば、6106、6111、6003、6151、6061、6N01、6063等が挙げられる。また、これよりも強度の高い、7075、7475などの7000系アルミニウム合金(Al−Zn−Mg系合金)も使用できる。7000系合金は、合金組成や、後述する製法、調質の条件によっては、0.2%耐力で450MPa以上を得ることも可能であるため、軽量化効果は非常に高い。
(サスペンションアームの製造)
サスペンションアームは、前記アルミニウム合金の熱間鍛造材または金型鋳造材からなる。熱間鍛造材は、アルミニウム合金鋳造材(鋳塊)を均質化熱処理後、メカニカル鍛造、油圧鍛造などの熱間鍛造(型鍛造)を行い、サスペンションアームの製品形状乃至製品近似形状とされる。金型鋳造材は、前記アルミニウム合金を、サスペンションアームの製品形状乃至製品近似形状とされた金型にて鋳造する。
これら熱間鍛造材または金型鋳造材とも、その後、溶体化および焼入れ処理と人工時効硬化処理などの調質処理が施されて製造される。なお、熱間鍛造用の素材には、前記鋳造材の他に、鋳造材を一旦押出した押出材が用いられることもある。
前記調質処理は、ショットピーニング処理される部分の0.2%耐力を予め360MPa以上、好ましくは380MPa以上、更に好ましくは400MPa以上に高め、ショットピーニング処理された部分の表面から深さ150μmまでの領域に付与された残留圧縮応力を全て100MPa以上とするために必要である。また、サスペンションアームとしての必要な靱性、耐食性を得るためにも必要である。
したがって、サスペンションアームとしては、ショットピーニング処理される部分だけではなく、他の部分も含めて、あるいは、少なくとも強度が必要な部分の、更にはサスペンションアーム全体の、0.2%耐力が360MPa以上、好ましくは380MPa以上、更に好ましくは400MPa以上であることが望ましい。
前記調質処理は、前記残留圧縮応力の付与に必要な耐力向上、あるいはサスペンションアームとしての特性を得るために、T6処理 (溶体化焼入れ処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理) が好ましい。
ただ、これらの条件を満たすなら、T7処理 (溶体化処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理条件を超えて過剰時効硬化処理) 、T8処理 (溶体化処理後、冷間加工を行い、更に最大強さを得る人工時効硬化処理) 等の調質処理と処理条件 (温度、時間)を適宜選択しても良い。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明の実施例として、0.2%耐力が380MPaであり、SCC感受性を有する、高強度6000系アルミニウム合金鍛造材からなる前記図1の形状のサスペンションアームに対して、条件が異なるショットピーニング処理を行って、ショットピーニングを施さなかった場合も含めて、耐SCC性を評価した。
ショットピーニング処理した前記高強度6000系アルミニウム合金鍛造材は、各例とも同じ条件で製造したものを使用した。具体的な製法は、質量%で、1.2%Si−0.9%Mg−0.5%Cu−0.2%Fe−0.06%Mn−0.1%Cr−残部アルミニウムの組成の鋳塊を均熱処理後、500℃に再加熱して熱間鍛造し、圧下率70%まで圧下した。 その後、545℃×3時間の溶体化処理後に焼入れ処理を行い、190℃×5時間の人工時効処理する、T6処理を施した。
鍛造材から、高い引張応力が作用して応力腐食割れや破断を生じる可能性のある部分として、図4の型割り線部分6から、最も厚さ方向と応力負荷方向が一致するように、JIS−H8711 J2ACリング型SCC試験片を採取した。
そして、投射材の材質とサイズ、投射速度が各々異なる、下記4つの条件(条件A、B、C、D)で、前記試験片の、製品表面側となる、0.2%耐力がT6処理によって予め380MPaとされている全面に、ショットピーニング処理を行って、SCC評価試験に供し、ショットピーニング処理を施さなかった場合も含めて比較した。
この結果を表2に示す。表2において左端の「処理なし」がショットピーニング処理を施さなかった比較例である。
4つのショットピーニング処理条件を下記の通り示す。
条件A(比較例):
ステンレス系投射材(平均粒径約0.3mm)を、インペラを使って投射速度50m/sで投射。
条件B(比較例):
アルミナ系投射材(平均粒径約0.125mm)を、エア圧力0.6MPaで直接投射。
条件C(発明例):
亜鉛系投射材(平均粒径約1.4mm)を、インペラを使って投射速度60m/sで投射。
条件D(発明例):
ガラス系投射材(平均粒径約0.35mm)を、エア圧力0.3MPaで直接投射。
なお、これらいずれの条件でも、ごく表層部に粒界腐食が生じており、その被覆率が100%であることを目視で確認した 。ちなみに、このような、ごく表層部のみが粒界腐食する初期段階では、SCCのような部材の破断につながる亀裂(SCC割れ)には至らず、部材の耐久性には影響が無い。
ショットピーニング処理されたアルミニウム合金製サスペンションアームの残留圧縮応力は、X線の回折現象を利用した市販のX線応力測定装置(株式会社リガク社製MSF−3Mにより計測した 。
また、ショットピーニング処理されたアルミニウム合金製サスペンションアームの深さ方向の残留圧縮応力プロファイルは、電解エッチングを用いて、厚み(深さ)方向に、順次所定の厚さ(深さ)になるように、材料を除去していき、各厚み(深さ)での測定を、表面から400μmの深さ位置まで、5〜6箇所の残留圧縮応力測定を繰り返すことで測定した。
これら各例の残留圧縮応力の深さ方向のプロファイルを図7に示す。
ここで、各例の残留圧縮応力の深さ方向のプロファイルを示す、前記図7や後述する図10では、残留圧縮応力(図7、10では残留応力と記載)は負の値「−」で示されており、表2では、この「−」を省略して示されている。
すなわち、図7、図10では、縦軸の残留応力が、原点ゼロ(0)から下方側の位置に、負の値「−」で示されていて、例えば、表2 の条件Dの表層の残留圧縮応力が200MPaとは、図7では△印同士をつないだ点線における、横軸の深さ0μmの位置で、縦軸「−200MPa」の位置にプロットされている。
本発明では「残留圧縮応力(残留応力)−100MPa以上」と、「100MPa以上」に「−」(負の表記)を付けて言うと、数値が−100MPaより上なのか下なのか分りづらいので、敢えて、この「−」の負の表記を省略して記載している。
したがって、本発明で言う「表面から深さ150μmまでの内部領域の残留圧縮応力(残留応力)が100MPa以上」とは、の、負の値の大きさが100MPa以上という意味であり、図7、図10の縦軸の「−100MPa」よりも下方の位置(領域)にあるという意味である。
SCC性評価試験条件:
また、これら各例の共通するSCC評価試験条件を表1に示す。
試験条件はJIS-H8711にほぼ準じた。この試験条件は、サスペンションアームが受ける可能性がある最も過酷な腐食環境(使用態様)を想定して、試験期間30日間で、実際の製品を10〜20年間、腐食環境に暴露した時と等価であると推定される。試験片に負荷した応力は、各例とも共通して、200MPa、250MPa、300MPa、350MPaとし、各n=3とし、これらの試験片の30日経過後のSCCが発生した負荷応力、あるいはSCCが発生しない負荷応力を表2に各々示す。
SCCの判断基準:
SCCの判断基準は、通例、腐食環境下に応力が負荷された状態で一定期間置かれた試料の断面を観察した時に、表面から深さ方向に向かって直線状に伸びる細長い亀裂がみられた場合に、SCCが生じたと判断する。この亀裂の深さや長さの一般的な統一基準は無いが、本試験では100μm以上の細長い亀裂をSCCと判定した。
SCCの評価試験を行うに際しては、負荷応力が高いほど、前記亀裂の進展速度が速く、応力感受性が高くなることや、同じ応力が負荷されても、腐食環境にない場合には亀裂が発生しないか、少なくとも亀裂進展速度が極めて遅くなることも考慮すべきである。この点、前記JIS-H8711の試験条件は、これらを考慮した試験条件として好適である。
SCCは、前記した亀裂が生じない粒界負腐食とは異なり、前記亀裂の先端での応力集中係数が高く、亀裂進展速度が高い。このため、SCC(亀裂)が生じると、部材が突然破断する危険性が高まり、本発明が対象とするサスペンションアームのような重要保安部品では、特に厳しくチェックされなければならない。
耐SCC性評価結果:
表2の左端の「処理無し」のショットピーニング処理が無い比較例では、図7の上方の、短い縦線印のプロット同士をつないだ実線の通り、表面から深さ150μmまでの領域には、残留圧縮応力ほとんど付与されていない。このため、負荷応力が200MPa程度でも、既に全数の試験片にSCCの発生が確認された。したがって、耐SCC性の点で、サスペンションアームには適用できない。
また、表2の条件A、Bの比較例では、負荷応力が350MPaの場合の一部でSCCの発生を確認した。したがって、同様に、耐SCC性の点で、サスペンションアームには適用できない。
条件Aの比較例は、ステンレス系投射材の投射速度が遅すぎる。このため、表2や、菱形印のプロット同士をつないだ実線で示す図7の通り、深さ方向での最大の残留圧縮応力は241MPaも付与されているものの、残留圧縮応力が100MPa以上の深さが表面から109μm しかなく、深さ150μm未満である。
条件Bの比較例は、アルミナ系投射材の平均粒径が小さすぎる。このため、表2や、×印と短い縦線印とを重ねたプロット同士をつないだ実線で示す図7の通り、深さ方向での最大の残留圧縮応力は197MPaも付与されているものの、残留圧縮応力が100MPa以上の深さが表面から92μmしかなく、深さ150μm未満である。また、表面からの深さが10μm未満のごく浅い表層部の残留圧縮応力が93MPaしかなく、100MPa以上の高い残留圧縮応力が付与できない。
これに対して、表2の通り、条件C、Dの発明例では、ショットピーニング処理条件が適切で、負荷応力が350MPaの条件でも、また、粒界腐食が生じているにも関わらず、n=3のいずれの試験片にもSCCの発生は確認されなかった。
この条件C、Dの発明例では、表2や、丸印のプロット同士をつないだ実線で発明例Cを示し、三角印のプロット同士をつないだ実線で発明例Dを示す図7の通り、表面からの深さが10μm未満のごく浅い表層部も含めて、この部分の表面から深さ150μmまでの領域に付与された残留圧縮応力が全て100MPa以上となっている。
すなわち、残留圧縮応力が100MPa以上となる深さは、条件Cは174μm、条件Dは170μmであり、残留圧縮応力が150μm以上の深くまで付与されている。そして、残留圧縮応力が100MPa未満の深さ部位も無い。
これによって、表2の通り、本発明で規定する残留圧縮応力の深さ方向の分布を満足することで、粒界腐食が生じた後でも、SCCが発生しないことが裏付けられている。
また、これら発明例の表面粗さRaは、表2に記載の条件Cの場合のように、大きくても14.7μmであり、表面粗さRaの上限の目安である30μm以下であり、サスペンションアーム表面の外観や品質、あるいは耐食性の点で、許容範囲内である。
耐久性:
前記SCC試験に用いたのと同じ高強度6000系アルミニウム合金鍛造材からなる、前記図1の形状のサスペンションアームを用いて、図4の型割り線部分6から、最も厚さ方向と応力負荷方向が一致するように、板状試験片を採取した。そして、投射材の材質とサイズ、投射速度が各々異なる、下記3つの条件(条件1、2、3)で、前記試験片の、製品表面側となる、0.2%耐力がT6処理によって予め380MPaとされている部分全面に、ショットピーニング処理を行って、ショットピーニングを施さなかった場合も含めて、耐久性を評価した。この結果を表3に示す。表3において「処理なし」がショットピーニング処理を施さなかった場合である。
ショットピーニング処理は、下記に示す3つの条件とし、処理後に、ボールジョイント部5bに繰返し荷重(kN)を与え、破断に至るまでの繰返し数Nfを、ショットピーニング処理なしのものも含めて、測定して、耐久性を評価した。この結果を表3、図8に示す。
図8は、表3の結果を、繰返し荷重(縦軸)と破断繰返し数Nf(横軸)との関係に整理して示している。これら表3、図8において「処理なし」がショットピーニング処理を施さなかった場合である。
更に、表3において、繰返し荷重が15.2kNのときの、表面の残留圧縮応力と破断繰返し数Nfとの関係を図9に示す。
3つのショットピーニング処理条件を下記の通り示す。
条件1(比較例):
アルミナ系投射材(平均粒径約0.125mm)を、エア圧力0.6MPaで製品全体に投射。
前記条件Bと同じでアルミナ系投射材の平均粒径が細かすぎる。
条件2(比較例):
ステンレス系投射材(平均粒径約0.3mm)を、50m/sで製品全体に投射。
前記条件Aと同じでステンレス系投射材の投射速度が遅すぎる。
条件3(発明例):
ステンレス系投射材(平均粒径約0.3mm)を、73m/sで製品全体に投射。
これら各例の残留圧縮応力の深さ方向のプロファイルを図10に示す。
この図10の通り、前記条件1、2、3とも、 深さ方向での最大の残留圧縮応力は200MPa以上付与されている。
しかし、ショットピーニング処理条件が好ましい範囲である、三角印のプロット同士を実線で結んだ発明例の条件3を除き、*印のプロット同士を実線で結んだ比較例の条件1、四角印のプロット同士を実線で結んだ比較例の条件2は、残留圧縮応力が100MPa以上の深さが表面から 150μm未満である。
ただ、前記した表3、図8の通り、破断に至るまでの繰返し数Nfは、ショットピーニング処理が無しの図8で丸印のプロット同士を点線で結んだ比較例と、同じ繰返し荷重(kN)同士で比較すると(図8の縦軸が同じレベルで比較すると)、前記条件1、2、3とも著しく増加していることが分かる。
ちなみに、図8では、黒三角印のプロット同士を点線で結んで前記条件1を示し、黒四角印で前記条件2を示し、菱形印のプロット同士を点線で結んで前記条件3を示している。
また、図9の通り、表面の残留圧縮応力が高いほど、破断に至るまでの繰返し数Nfは増加傾向を示している。
これらの結果から、高強度6000系アルミニウム合金鍛造材表面に付与された残留圧縮応力の大きさが、前記した耐SCC性の向上以外に、耐久性の向上にも効果があることが分かる。
ただ、高強度6000系アルミニウム合金鍛造材の耐SCC性の向上のためには、やはり、本発明で規定し、実施例で裏付けた通り、表面から深さ150μmまでの内部領域の残留圧縮応力が全て100MPa以上となることが必要である。
これに対して、耐久性は、表面の残留圧縮応力が大きいほど向上することが分かる。
言い換えると、残留圧縮応力が、耐SCC性と耐久性とを向上させるメカニズムは、互いに共通する部分も勿論あるが、大きく異なる部分があると言うことができ、残留圧縮応力による耐久性の向上が、必ずしも耐SCC性の向上にはつながらないことが分かる。
以上の結果から、ショットピーニング処理によって、大きな残留圧縮応力が深くまで、かつ深さ方向全域に付与されたアルミニウム合金製サスペンションアームは、粒界腐食や孔食など腐食が進展した後においても、高い耐SCC性や耐久性を保持できることが裏付けられる。
以上説明したように、本発明によれば、ショットピーニング処理による残留圧縮応力の付与によって、耐応力腐食割れ性や耐久性を従来よりも著しく向上させた、アルミニウム合金製サスペンションアームおよびその製造方法を提供できる。この結果、自動車サスペンションアームに高強度なアルミニウム合金の適用を広げるものである。
1: サスペンションアーム、2: アーム部、3: リブ、4: ウエブ、5: ジョイント部、6:型割り線部

Claims (5)

  1. アルミニウム合金製サスペンションアームの全体あるいは一部において、表面から深さ150μmまでの内部領域の残留圧縮応力が全て100MPa以上となるよう、この残留圧縮応力が付与される部分の0.2%耐力が予め360MPa以上とされた上で、ショットピーニング処理されていることを特徴とするアルミニウム合金製サスペンションアーム。
  2. 前記残留圧縮応力が付与される部分の0.2%耐力が予め380MPa以上とされている請求項1に記載のアルミニウム合金製サスペンションアーム。
  3. 前記アルミニウム合金製サスペンションアームが2000系、6000系または7000系のアルミニウム合金から選択される熱間鍛造材または金型鋳造材からなり、前記ショットピーニング処理後に、前記付与された残留圧縮応力を低下させる熱処理が施されずにサスペンションアームとして使用される請求項1または2に記載のアルミニウム合金製サスペンションアーム。
  4. アルミニウム合金製サスペンションアームの製造方法であって、2000系、6000系または7000系のアルミニウム合金から選択される熱間鍛造材または金型鋳造材をT6処理して、残留圧縮応力を付与する部分の0.2%耐力を予め360MPa以上とした上で、この部分を前記アルミニウム合金と電食を生じない材料からなる平均粒径が0.2mm以上の投射材を投射してショットピーニング処理し、前記熱間鍛造材または金型鋳造材の全体あるいは一部において、表面から深さ150μmまでの内部領域の残留圧縮応力が全て100MPa以上となるようにして、前記ショットピーニング処理後には、前記付与された残留圧縮応力を低下させる熱処理を施さずに、サスペンションアームとして使用することを特徴とするアルミニウム合金製サスペンションアームの製造方法。
  5. 前記残留圧縮応力を付与する部分の0.2%耐力を380MPa以上とする請求項4に記載のアルミニウム合金製サスペンションアームの製造方法。
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