A.第1実施形態:
A−1.点火システムの構成:
図1は、本実施形態の点火システムのブロック図である。点火システム600は、点火プラグ100と、放電用電源640と、高周波電源650と、混合回路660と、インピーダンスマッチング回路670と、制御装置680と、点火プラグ100の端子金具と接続されたプラグコード690と、を備えている。
放電用電源640は、図示しないバッテリと混合回路660とに接続されている。放電用電源640は、例えば、点火コイルを含み、バッテリの電力を用いて比較的高電圧、例えば、5kVから30kVのトリガ電圧を生成する。生成されたトリガ電圧は、混合回路660とプラグコード690とを介して点火プラグ100に供給される。
高周波電源650は、図示しないバッテリとインピーダンスマッチング回路670とに接続されている。高周波電源650は、例えば、DC/ACコンバータを含み、バッテリの電力を用いて比較的高周波数(例えば、50kHz〜100MHz)の電圧(本実施形態では、交流電圧)を生成する。生成された交流電圧は、インピーダンスマッチング回路670と混合回路660とプラグコード690とを介して点火プラグ100に供給される。
インピーダンスマッチング回路670は、混合回路660と高周波電源650とに接続されている。インピーダンスマッチング回路670は、高周波電源650側の出力インピーダンスと混合回路660側の入力インピーダンスとを整合させる。これによって、点火プラグ100に供給される交流電圧の減衰が抑制される。
混合回路660は、放電用電源640とインピーダンスマッチング回路670とプラグコード690とに接続されている。混合回路660は、放電用電源640とプラグコード690との間に接続されたコイル662と、インピーダンスマッチング回路670とプラグコード690との間に接続されたコンデンサ663と、を備えている。混合回路660は、放電用電源640と高周波電源650との一方から他方へ電流が流れることを抑制しつつ、放電用電源640からのトリガ電圧と高周波電源650から交流電圧との双方を、プラグコード690を介して点火プラグ100に供給する。コイル662は、放電用電源640からの比較的低周波数の電流が流れることを許容し、高周波電源650からの比較的高周波数の電流が流れることを抑制する。コンデンサ663は、高周波電源650からの比較的高周波数の電流が流れることを許容し、放電用電源640からの比較的低周波数の電流が流れることを抑制する。尚、放電用電源640に含まれる点火コイルによって、コイル662が代用されても良い。
制御装置680は、放電用電源640と高周波電源650とに接続されている。制御装置680は、例えば、プロセッサとメモリとを含むコンピュータである。制御装置680は、放電用電源640から点火プラグ100にトリガ電圧が供給されるタイミングと、高周波電源650から点火プラグ100に交流電圧が供給されるタイミングと、を制御する。
点火システム600の動作を簡単に説明する。制御装置680は、放電用電源640を制御して、トリガ電圧を点火プラグ100に供給する。この結果、点火プラグ100の中心電極と接地電極との間にトリガ電圧が供給され、これらの電極間の間隙にて絶縁破壊による火花放電が発生する。絶縁破壊による火花放電をトリガ放電とも呼ぶ。制御装置680は、トリガ電圧の供給直後に、高周波電源650を制御して、交流電圧を点火プラグ100に供給する。この結果、トリガ電圧により発生したトリガ放電に、交流電圧のエネルギーが供給されてプラズマが生成される。生成されたプラズマのエネルギーによって、内燃機関の燃焼室内の混合気へ点火される。このような点火システム600で利用される点火プラグ100は、高周波プラズマプラグとも呼ばれる。
なお、本実施形態の高周波電源650は、交流電圧を生成するが、交流電圧に代えて、複数個の矩形のパルス電圧を含む電圧を生成しても良い。交流電圧や、複数個の矩形のパルス電圧を含む電圧は、いずれも複数個のピーク電圧を含む電圧であると言うことができる。すなわち、高周波電源650は、高周波の複数のピーク電圧を含む電圧(例えば、交流電圧やパルス電圧)を生成すれば良い。放電用電源640と高周波電源650との全体は、トリガ放電用のトリガ電圧と、プラズマ生成用の複数のピーク電圧と、を点火プラグ100に供給する電圧供給部と、呼ぶことができる。
A−2.点火プラグの構成:
図2は、実施形態の点火プラグの一例の断面図である。図示されたラインCOは、点火プラグ100の軸線を示している。図示された断面は、軸線COを含む断面である。軸線COと平行な方向を「軸線方向」とも呼ぶ。軸線COを中心とし軸線COと垂直な面上の円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、当該円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。軸線COと平行な方向のうち、図1における下方向を先端方向FDと呼び、上方向を後端方向BDとも呼ぶ。先端方向FDは、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、先端方向FD側を点火プラグ100の先端側と呼び、後端方向BD側を点火プラグ100の後端側と呼ぶ。
点火プラグ100は、絶縁体としての絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、を備える。
絶縁碍子10はアルミナ等を焼成して形成されている。絶縁碍子10は、軸線方向に沿って延び、絶縁碍子10を貫通する軸孔12を有する略円筒状の部材である。絶縁碍子10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、段部15と、脚長部13とを備えている。後端側胴部18は、鍔部19より後端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19より先端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17より先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は、点火プラグ100が内燃機関(図示せず)に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。段部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成されている。
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成され、内燃機関のエンジンヘッド(図示省略)に点火プラグ100を固定するための略円筒状の部材である。主体金具50は、軸線COに沿って貫通する挿入孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁碍子10の外周に配置される。すなわち、主体金具50の挿入孔59内に、絶縁碍子10が挿入・保持されている。絶縁碍子10の先端は、主体金具50の先端より先端側に突出している。絶縁碍子10の後端は、主体金具50の後端より後端側に突出している。
主体金具50は、プラグレンチが係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている。取付ネジ部52の呼び径は、例えば、M8(8mm(ミリメートル))、M10、M12、M14、M18のいずれかとされている。
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、点火プラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、点火プラグ100と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間に形成される環状の領域には、環状のリング部材6,7が配置されている。当該領域における2つのリング部材6,7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁碍子10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁碍子10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、リング部材6、7およびタルク9を介し、絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。金属製の環状の板パッキン8を介して、主体金具50の取付ネジ部52の内周に形成された段部56(金具側段部)によって、絶縁碍子10の段部15(絶縁碍子側段部)が押圧される。この結果、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁碍子10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。
中心電極20は、軸線方向に延びる棒状の中心電極本体21と、中心電極本体21の先端に接合された円柱状の中心電極チップ29と、を備えている。中心電極本体21は、絶縁碍子10の軸孔12の内部の先端側の部分に配置されている。中心電極本体21は、電極母材21Aと、電極母材21Aの内部に埋設された芯部21Bと、を含む構造を有する。電極母材21Aは、例えば、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金、本実施例では、インコネル600(「INCONEL」は、登録商標))で形成されている。芯部21Bは、電極母材21Aを形成する合金よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金、本実施例では、銅で形成されている。
また、中心電極本体21は、軸線方向の所定の位置に設けられた鍔部24(フランジ部とも呼ぶ。)、鍔部24よりも後端側の部分である頭部23(電極頭部)と、鍔部24よりも先端側の部分である脚部25(電極脚部)と、を備えている。鍔部24は、絶縁碍子10の段部16に支持されている。脚部25の先端部分、すなわち、中心電極本体21の先端は、絶縁碍子10の先端より先端側に突出している。
端子金具40は、軸線方向に延びる棒状の部材である。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、端子金具40の表面には、防食のための金属層(例えば、Ni層)がめっきなどによって形成されている。端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42(端子顎部)と、鍔部42より後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42より先端側の脚部43(端子脚部)と、を備えている。端子金具40のキャップ装着部41は、絶縁碍子10より後端側に露出している。端子金具40の脚部43は、絶縁碍子10の軸孔12に挿入されている。キャップ装着部41には、プラグコード690が接続されたプラグキャップが装着され、上述したトリガ電圧や交流電圧が供給される。
絶縁碍子10の軸孔12内において、端子金具40の先端(脚部43の先端)と中心電極20の後端(頭部23の後端)との間は、導電性シール60によって埋められている。導電性シール60は、例えば、B2O3−SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
A−3.点火プラグ100の先端部分の構成:
上記の点火プラグ100の先端近傍の構成について、さらに、詳細に説明する。図3は、点火プラグ100の先端近傍の拡大図である。図3(A)には、点火プラグ100の先端近傍を軸線COが含まれる面で切断した断面図が示されている。図3(A)の断面は、さらに、接地電極30の後端部の周方向の中心を通っている。このために、図3(A)の断面は、接地電極30の断面を含んでいる。
中心電極チップ29は、中心電極本体21の先端(脚部25の先端)に、例えば、レーザ溶接を用いて、接合されている。図3(A)の符号27で示す部分は、中心電極チップ29を接合する際に、レーザ溶接によって形成された溶融部である。中心電極チップ29は、高融点の貴金属を主成分とする材料で形成されている。中心電極チップ29の材料には、例えば、イリジウム(Ir)や、Irを主成分とする合金が用いられ、本実施形態では、Irに、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)を添加した合金が用いられる。
接地電極30は、断面が四角形の湾曲した棒状体である。接地電極30は、導電性を有し、かつ、耐腐食性の高い金属、例えば、ニッケル合金、本実施例では、インコネル601を用いて形成されている。接地電極30の後端31は、主体金具50の先端面50Aに接合されている。これによって、主体金具50と接地電極30とは、電気的に接続される。接地電極30の先端32は、自由端である。
接地電極30は、後端31を含む湾曲部33と、先端32を含む対向部34と、を備えている。対向部34は、中心電極チップ29の先端面29Sと、間隙gを介して軸線方向に対向している。図3(B)には、対向部34を、軸線COに沿って後端側から先端方向FDに向かって見た図である。
対向部34には、中心電極20の先端面29Sと対向する位置、本実施形態では、軸線COと対向部34とが交差する位置を軸線方向に貫通する貫通孔35が形成されている。貫通孔35は、後端側の孔36と、後端側の孔36より先端側に位置し、後端側の孔36の先端と後端が連通する先端側の孔37と、を含んでいる。後端側の孔36は、先端側から後端側に向かうにつれて拡径している。すなわち、後端側の孔36の軸線COと垂直な方向の長さは、先端側から後端側に向かうにつれて長くなっている。先端側の孔37は、軸線方向の位置に拘わらずに、径が一定である円筒状の孔である。先端側の孔37の径と、後端側の孔36の最先端の径と、は等しい。
上述したトリガ電圧が点火プラグ100の電極(中心電極20および接地電極30)に供給されると、チップ29の先端面29Sと、接地電極30の後端側の孔36を形成する拡径面36Sと、の間に、トリガ放電TEが発生する(図3(A))。図3(B)では、拡径面36Sに、ハッチングが付されている。
中心電極20の先端面29Sの径、本実施例では、中心電極チップ29の先端面29Sの径をW1とする。また、接地電極30の後端側の孔36の最後端の径(軸線と垂直な方向の長さ)をW2とする。接地電極30の先端側の孔37の径(軸線と垂直な方向の長さ)をW3とする。貫通孔35のうちの先端側の孔37の軸線方向の長さをL1とする。接地電極30の対向部34の軸線方向の長さ、すなわち、貫通孔35の軸線方向の長さをL2とする。また、対向部34の後端面34Aと、中心電極20の先端面29Sと、のギャップ距離をL3とする。
接地電極30の先端側の孔37の径W3は、中心電極20の先端面29Sの径W1より小さくされる(W3<W1)。もし、接地電極30の先端側の孔37の径W3は、中心電極20の先端面29Sの径W1より大きいと、先端面29Sと軸線方向に対向する部分の全体が貫通孔35となってしまうので、トリガ放電TEが発生し難くなるからである。
A−4:第1評価試験
第1評価試験では、表1に示すように、18種類の点火プラグのサンプルA1〜A18を作成し、着火性能の試験と、耐消耗性能の試験と、を行った。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
先端側の孔37の軸線方向の長さL1:0.4mm
貫通孔35の軸線方向の長さL2:1.5mm
対向部34の後端面34Aと中心電極20の先端面29Sと、の距離L3:0.8mm
18種類のサンプルでは、先端面29Sの径W1と、後端側の孔36の最後端の径W2と、先端側の孔37の径W3と、のうちの少なくとも1つの値が互いに異なっている。先端面29Sの径W1は、1.6mm、1.2mm、2mmのいずれかの値とされている。後端側の孔36の最後端の径W2は、0.8mm、1mm、1.5mm、2mm、2.5mmのいずれかの値とされている。先端側の孔37の径W3は、0.8mm、1mm、1.2mmのいずれかの値とされている。上述した理由から、全てのサンプルで、先端側の孔37の径W3は、先端面29Sの径W1より小さくされている。
18種類のサンプルのうち、2種類のサンプルA11、A18は、第1比較形態のサンプルであり、他の16種類のサンプルは、上述した第1実施形態のサンプルである。図4は、比較形態のサンプルの説明図である。図4(A)には、第1比較形態のサンプルの接地電極30dが図示されている。第1比較形態のサンプルの接地電極30dの対向部34dに形成されている貫通孔37dは、第1実施形態の点火プラグ100と異なり、全体が等径の筒状の孔である。すなわち、第1比較形態のサンプルの接地電極30dの対向部34dは、拡径面36Sによって形成される後端側の孔36を有していない。このために、表1において、第1比較形態のサンプルA11、A18では、径W2と径W3とが等しくなっている。
着火性能の試験では、18種類のサンプルの着火限界の空燃比(混合気における燃料に対する空気の比率)を調べた。具体的には、試験容器内にプロパンガスと空気の混合気を0.15MPaの圧力で充填し、当該試験容器内で、サンプルの1回の点火を行った。1回の点火では、図1の点火システム600を用いて、トリガ電圧と交流電圧の供給を行い、500mJのエネルギーをサンプルに供給した。そして、1回の点火ごとに試験容器内の混合気の入れ替えを行い、1種類のサンプルと1種類の混合気の組み合わせで5回の点火を行い、5回とも着火が成功した場合に、当該サンプルと混合気の組み合わせを合格とした。そして、段階的に混合気の空燃比を0.1刻みで増加させて、合格となる最大の空燃比を調べた。着火限界の空燃比が高いほど、着火性能に優れている。
また、基準となる着火限界の空燃比を決定するために、図4(B)に示す第2比較形態のサンプル(比較プラグとも呼ぶ)を用いて同様の試験を行った。比較プラグの接地電極30eの対向部34eには、貫通孔が形成されていない。比較プラグの他の部分の構成は、他のサンプルと同じである。比較プラグでは、先端面29Sの径W1を1.6mmとし、他の寸法は、上述した共通の寸法とした。
そして、比較プラグと各サンプルとの間で、着火限界の空燃比を比較して、各サンプルの評価を行った。サンプルの着火限界の空燃比AF1と、比較プラグの着火限界の空燃比AF2と、の差分(AF1−AF2)が、0以下であるサンプルの評価を「E」とし、0より大きく0.3未満のサンプルの評価「D」とした。差分(AF1−AF2)が、0.3以上0.5未満のサンプルの評価を「C」とし、0.5以上1.0未満のサンプルの評価を「B」とした。また、差分(AF1−AF2)が、1.0以上1.5未満の評価を「A」とし、1.5以上であるサンプルの評価を「S」とした。
表1には、各サンプルの着火性能の試験の評価結果が示されている。評価が「E」であるサンプルはなかった。すなわち、全てのサンプルで比較プラグより着火性能の向上が見られた。全てのサンプルで接地電極に貫通孔が形成されているので、間隙gに発生したプラズマが、当該貫通孔を通って接地電極より先端側(すなわち、混合気側)に放出されるので、プラズマの成長を促進できる。これに対して比較プラグの接地電極30eには、貫通孔が形成されていないので、プラズマの混合気側への放出が妨げられて、プラズマは軸方向と垂直な方向に発散してしまう。この結果、プラズマの成長が促進されない。このために、比較プラグと比較すると、全てのサンプルの着火性能が向上していると考えられる。
第1比較形態の2種類のサンプルA11、A18の評価は、「D」であった。これに対して、全ての実施形態のサンプルA1〜A10、A12〜A17の評価は、「C」以上であった。
この理由は、以下のように推定される。実施形態のサンプルA1〜A10、A12〜A17の評価は、第1比較形態の2種類のサンプルA11、A18と異なり、拡径面36Sによって形成される後端側の孔36を有している。この結果、後端側の孔36によって、プラズマが貫通孔35を通るように誘導される。このために、後端側の孔36がない場合と比較して、間隙に発生したプラズマが、貫通孔35を通って接地電極より先端側に放出されやすくなる。この結果、点火プラグの着火性能がより向上する。
さらに、実施形態のサンプルA1〜A10、A12〜A17のうち、後端側の孔36の最後端の径W2が中心電極チップ29の先端面29Sの径W1より小さい(W1>W2)サンプルA3、A4、A7、A10、A12、A15の評価は、「C」であった。そして、後端側の孔36の最後端の径W2が中心電極チップ29の先端面29Sの径W1より大きい(W1<W2)サンプルA1、A2、A5、A6、A8、A9、A13、A14、A16、A17の評価は、「B」であった。
この理由は、以下のように推定される。トリガ放電TEは、中心電極チップ29の先端面29Sのうちでも外縁に近い位置で発生しやすい。このために、プラズマも中心電極チップ29の先端面29Sのうちでも外縁に近い位置で発生しやすい。このために、後端側の孔36の最後端の径W2が先端面29Sの径W1より大きい場合には、後端側の孔36の最後端の径W2が先端面29Sの径W1より小さい場合と比較して、発生したプラズマをより効率良く、貫通孔35に誘導できる。この結果、間隙に発生したプラズマが、貫通孔35を通って接地電極より先端側に放出されやすくなる。この結果、さらに、点火プラグの着火性能がより向上することができる。
第1評価試験では、さらに、耐消耗性能を確認するための試験を行った。耐消耗性能の試験では、18種類のサンプルのそれぞれについて、0.15MPaの窒素雰囲気の試験容器内で1秒あたり30回の点火を20時間に亘って繰り返した。1回の点火では、図1の点火システム600を用いて、トリガ電圧と交流電圧の供給を行い、500mJのエネルギーをサンプルに供給した。そして、試験前のギャップ距離L3と比較することによって、試験後のギャップ距離L3の増加量を調べた。ギャップ距離L3の増加量が小さいほど、耐消耗性能に優れている。
そして、ギャップ距離L3の増加量が、0.1mm以内であるサンプルの評価を「A」とし、0.1mmより大きいサンプルの評価を「B」とした。表1には、各サンプルの耐消耗性能の試験の評価結果が示されている。全てのサンプルA1〜A18の評価が「A」であり、評価が「B」であるサンプルはなかった。
この理由は、次のように推定される。上述したように、トリガ放電TEは、中心電極チップ29の先端面29Sのうちでも外縁に近い位置で発生しやすい。先端面29Sと対向する部分に、後端側の孔36が形成されていたとしても、中心電極チップ29の先端面29Sの外縁と軸線方向に対向する位置には、拡径面36Sがある。このために、後端側の孔36を設けてもトリガ放電TEが発生するための接地電極側の放電面の面積が不十分とはならない。したがって、例えば、接地電極30の局所にトリガ放電TEが集中して接地電極30が過度に消耗するような現象は発生せず、比較形態のプラグと比較して耐消耗性能が劣ることはない。
以上のように、第1評価試験の結果に基づいて、拡径面36Sによって形成される後端側の孔36と、先端側の孔37と、を含む貫通孔35を、接地電極30に形成することによって、点火プラグの着火性能を向上できること、および、対消耗性能が損なわれることはないこと、が確認できた。
A−5:第2評価試験
第2評価試験では、6種類のサンプル群B1、B2、B8、B9、B13、B17を作成し、第1評価試験と同様に、着火性能の試験と、耐消耗性能の試験と、を行った。6種類のサンプル群B1、B2、B8、B9、B13、B17は、それぞれ、末尾の数字が同じ表1のサンプルA1、A2、A8、A9、A13、A17をベースに作成されている。各サンプル群は、8種類ずつのサンプルを含む。すなわち、第2評価試験では、(6×8)=48種類のサンプルについて評価が行われた。1種類のサンプル群に含まれる6種類のサンプルは、貫通孔35の軸線方向の長さL2に対する先端側の孔37の軸線方向の長さL1の割合(L1/L2)が、互いに異なる。これらの8種類のサンプルの割合(L1/L2)は、それぞれ、0.18、0.33、0.40、0.53、0.58、0.70、0.83、0.88である。
割合(L1/L2)は、第1評価試験では共通の値であった貫通孔35の軸線方向の長さL2と、および、先端側の孔37の軸線方向の長さL1を以下の値に設定することによって変更されている。
(L1/L2)=0.18:L1=0.3mm、L2=1.7mm
(L1/L2)=0.33:L1=0.4mm、L2=1.2mm
(L1/L2)=0.40:L1=0.6mm、L2=1.5mm
(L1/L2)=0.53:L1=0.9mm、L2=1.7mm
(L1/L2)=0.58:L1=0.7mm、L2=1.2mm
(L1/L2)=0.70:L1=1.2mm、L2=1.7mm
(L1/L2)=0.83:L1=1mm、L2=1.2mm
(L1/L2)=0.88:L1=1.5mm、L2=1.7mm
このように、貫通孔35の軸線方向の長さL2は、1.2mm≦L2≦1.7mmの範囲に設定されている。
6種類のサンプル群B1、B2、B8、B9、B13、B17の長さL1、L2以外の寸法は、ベースとなるサンプルA1、A2、A8、A9、A13、A17と同じである。
表2では、1個のセルに示された評価のうち、左側が着火性能の評価結果であり、右側が耐消耗性能の評価結果を示す。例えば、評価が「B/A」であるサンプルは、着火性能の評価が「B」であり、耐消耗性能の評価が「A」である。
表2に示すように、48種類のサンプルのうち、割合(L1/L2)が0.40以上、かつ、0.70以下である全てのサンプルの着火性能の評価は、「A」であった。48種類のサンプルのうち、割合(L1/L2)が0.40未満、または、0.70より大きな全てのサンプルの着火性能の評価は、「B」であった。
この理由は、以下のように推定される。割合(L1/L2)が0.40未満であると、貫通孔35の軸線方向の長さL2に対して先端側の孔37の軸線方向の長さL1が過度に短くなる。等径の先端側の孔37が過度に短い場合には、貫通孔35を通るプラズマの放出方向が軸線方向に沿って方向付けすることができなくなる。この結果、貫通孔35から先端側に放出されたプラズマが先端方向FDに拡がらずに、軸線と垂直な方向(径方向)に拡がりやすくなる。この結果、割合(L1/L2)が0.40以上0.70以下の場合と比較してプラズマが拡がり難くなる。
また、割合(L1/L2)が0.70より大きいと、貫通孔35の軸線方向の長さL2に対して先端側の孔37の軸線方向の長さL1が過度に長くなる。径が比較的小さな先端側の孔37をプラズマが通過する際の接地電極30による熱引き量は、径が比較的大きな後端側の孔36をプラズマが通過する際の接地電極30による熱引き量より大きくなる。このために、先端側の孔37の軸線方向の長さL1が過度に長いと、接地電極30による熱引き量が過度に大きくなる。この結果、割合(L1/L2)が0.40以上0.70以下の場合と比較してプラズマの熱エネルギーが失われやすくなる。
また、耐消耗性能の試験については、48種類の全てのサンプルの評価が「A」であり、評価が「B」であるサンプルはなかった。すなわち、48種類の全てのサンプルについて、耐消耗性能は損なわれていなかった。
以上のように、第2評価試験の結果に基づいて、少なくとも1.2mm≦L2≦1.7mmの範囲では、径W1〜W3の値に拘わらずに、0.4≦(L1/L2)≦0.7を満たされることが着火性能を向上する観点から好ましいことが解った。こうすれば、貫通孔35を通ったプラズマの方向性が向上するとともに、接地電極30による熱引き量を抑制することができる。この結果、さらに、点火プラグの着火性能を向上することができる。また、耐消耗性能が損なわれることもないことが解った。
また、着火性能の試験によって、着火性能が向上することが解った割合(L1/L2)の値は、0.40、0.53、0.58、0.70あった。これらの値のうちの任意の値を、割合(L1/L2)の好ましい範囲の上限値および/または下限として採用可能である。例えば、割合(L1/L2)の好ましい範囲として、0.53以上0.70以下の範囲を採用可能である。
B.第2実施形態:
B−1.点火プラグの構成
図5は、第2実施形態の点火プラグの接地電極30bの説明図である。図5(A)には、接地電極30bを軸線COが含まれる面で切断した図が示されている。図5(B)には、接地電極30bの対向部34bを、軸線COに沿って後端側から先端方向FDに向かって見た図が示されている。
対向部34bの先端側の孔37bの軸線方向の中央部には、絞り部38bが形成されている。絞り部38bの内径W4は、先端側の孔37bの先端および後端の径W3より小さい。絞り部38bは、先端側の孔37bを形成する内周面から径方向の内側に突出した突出部が、該内周面の周方向の全周に亘って形成された部分である。第2実施形態の点火プラグの他の部分の構成は、第1実施形態の点火プラグ100と同一であるので、その説明を省略する。
B−2.第3評価試験
第3評価試験では、表3に示すように、第2実施形態の点火プラグの8種類のサンプルC1−1、C9−1、C13−1、C17−1、C1−2、C9−2、C13−2、C17−2を作成し、第1評価試験と同様に、着火性能の試験と、耐消耗性能の試験と、を行った。8種類のサンプルC1−1、C9−1、C13−1、C17−1、C1−2、C9−2、C13−2、C17−2は、Cの後の数字が同じ表1のサンプルA1、A9、A13、A17をベースに作成されている。各サンプルには、先端側の孔37bに、上述した絞り部38bが設けられている。絞り部の内径W4は、表3に示すように、0.6mm、0.9mmのいずれかである。
4種類のサンプルC1−1、C9−1、C13−1、C17−1は、上述した割合(L1/L2)の値が、0.40となるように、L1=0.6mm、L2=1.5mmに設定されている。また、別の4種類のサンプルC1−2、C9−2、C13−2、C17−2は、割合(L1/L2)の値が、0.70となるように、L1=1.2mm、L2=1.7mmに設定されている。
8種類のサンプルC1−1、C9−1、C13−1、C17−1、C1−2、C9−2、C13−2、C17−2のW4、L1、L2以外の寸法は、ベースとなるサンプルA1、A9、A13、A17と同じである。
表3に示すように、第2実施形態の8種類のC1−1、C9−1、C13−1、C17−1、C1−2、C9−2、C13−2、C17−2の着火性能の評価は、「S」であった。すなわち、第2実施形態の8種類のC1−1、C9−1、C13−1、C17−1、C1−2、C9−2、C13−2、C17−2は、絞り部38bがないサンプルA1、A9、A13、A17より着火性能が高かった。
この理由は、以下のように推定される。先端側の孔37に絞り部38bが設けられていることによって、先端側の孔37を通るプラズマの速度が、絞り部38bがない場合と比較して速くなる。この結果、プラズマの先端方向への放出速度をより速くすることができる。この結果、プラズマの成長速度を速くすることで、プラズマの拡がる範囲を広げて、点火プラグの着火性能をより向上することができる。
また、耐消耗性能の試験については、8種類の全てのサンプルの評価が「A」であり、評価が「B」であるサンプルはなかった。すなわち、8種類の全てのサンプルについて、耐消耗性能は損なわれていなかった。
以上のように、第3評価試験の結果に基づいて、先端側の孔37に絞り部38bを設けることが着火性能を向上する観点から好ましいことが解った。こうすれば、貫通孔を通るプラズマの放出速度をより速くすることによって、点火プラグの着火性能をより向上することができる。
C.第3実施形態
C−1.点火プラグの構成
図6は、第3実施形態の点火プラグの先端部近傍を軸線COが含まれる面で切断した断面図である。第3実施形態の点火プラグにおける板パッキン8より後端側の構成は、第1実施形態および第2実施形態の点火プラグと同じである。
第3実施形態の絶縁碍子10Bの段部15より先端側の脚長部13Bの外径は、図2の第1実施形態の脚長部13と異なり、一定である。そして、第3実施形態の主体金具50Bの取付ネジ部52Bのうち、段部56より先端側の部分52Fの内径は、段部56より後端側の部分52Eの内径より小さくなっており、脚長部13Bの外径より僅かに小さい。そして、取付ネジ部52Bの先端面52BT(すなわち、主体金具50の先端面)と、脚長部13Bの先端面13BT(すなわち、絶縁碍子10の先端面)とは、軸線方向の位置がほぼ等しい。
第3実施形態の接地電極70は、略円盤状の板部材である。接地電極70は、例えば、タングステンやニッケル合金等の高融点金属で形成されている。接地電極70の外縁部の後端側は、主体金具50Bの先端面52BTに、例えば、抵抗溶接によって接合されている。この結果、主体金具50Bと接地電極70とは電気的に結合されている。
さらに、絶縁碍子10Bの脚長部13Bの先端面13BTには、円筒状のキャビティ形成部135が形成されている。
キャビティ形成部135の近傍の構成を、さらに、詳しく説明する。図7は、図6の断面のうち、キャビティ形成部135の近傍の拡大図である。
第3実施形態の中心電極20Bの脚部25Bの先端には、貴金属製のチップは取り付けられていない。この中心電極20Bは、タングステンやニッケル合金等の高融点金属で形成されている。これに代えて、第1実施形態と同様に、母材と、母材内に埋設された芯材と、の2重構造を有する構成を採用してもよい。脚部25Bの先端面25BT(すなわち、中心電極20Bの先端面)は、脚長部13Bの先端面13BTより後端側に位置している。
図7に示すように、脚長部13Bの内面(具体的には、キャビティ形成部135の底面135Sbと、キャビティ形成部135の側面135Sa)と、接地電極70の後端側の面73と、脚部25Bの先端側の表面(具体的には、脚部25Bの先端面25BTと側面25BS)と、によって、キャビティCVが形成されている。図7から解るように、中心電極20Bと接地電極70との間の火花が形成される間隙(ギャップ)は、キャビティCV内に位置している。
接地電極70には、脚部25Bの先端面25BTと対向する部分に、軸線方向に貫通する貫通孔75が形成されている。本実施例では、貫通孔75は、接地電極70と軸線COとが交差する位置に形成されている。図7から解るように、貫通孔75によって、キャビティCVと、キャビティCVの外側(使用時には、内燃機関の燃焼室)と、が連通している。
なお、脚長部13Bの先端面13BTと、接地電極70の後端側の面73と、の間の隙間、および、脚部25Bの側面25BSと、絶縁碍子10Bの軸孔12Bを形成する内周面との隙間は、それぞれ、極めて小さく(例えば、0.05mm以下)、キャビティCV内で発生するプラズマ(後述)、貫通孔75からキャビティCVの外側に噴出するように構成されている。
貫通孔75は、第1実施例の貫通孔35と同様の構成を有している。すなわち、貫通孔75は、後端側の孔752と、後端側の孔752より先端側に位置し、後端側の孔752の先端と後端が連通する先端側の孔751と、を含んでいる。後端側の孔752は、先端側から後端側に向かうにつれて拡径している。すなわち、後端側の孔752の軸線COと垂直な方向の長さは、先端側から後端側に向かうにつれて直線的に長くなっている。後端側の孔752を形成する面を拡径面752Sとも呼ぶ。先端側の孔751は、軸線方向の位置に拘わらずに、径が一定である円筒状の孔である。先端側の孔751の径と、後端側の孔752の最先端の径と、は等しい。
ここで、脚部25Bの先端面25BTの径をR1とする。また、接地電極70の後端側の孔752の最後端の径(軸線と垂直な方向の長さ)をR2とする。接地電極30の先端側の孔751の径(軸線と垂直な方向の長さ)をR3とする。また、脚部25Bの先端面25BTから、接地電極70の後端側の面73までの軸線方向の距離(以下、電極間距離とも呼ぶ)をDとする。そして、中心電極20の表面から絶縁碍子10の内面に沿って接地電極70の表面に至る経路のうちの最短の経路SR(以下、最短の沿面経路とも呼ぶ)の長さをEとする。本実施形態では、図7に示すように、最短の沿面経路SRは、脚部25Bの側面25BSから、キャビティ形成部135の底面135Sbと側面135Saとを通って、接地電極70の後端側の面73に至る経路である。
ここで、キャビティ形成部135の径(キャビティ径とも呼ぶ)をR4とし、キャビティ形成部135の底面135Sbから、接地電極70の後端側の面73までの軸線方向の距離(キャビティの軸線方向の長さとも呼ぶ)をH1とすると、最短の沿面経路の長さEは、E=[{(R4−R1)/2}+H1]である。
また、接地電極70の軸線方向の厚さ、すなわち、貫通孔75の軸線方向の長さを、H2とし、貫通孔75のうち、後端側の孔752の軸線方向の長さをH3とする。貫通孔75のうち、先端側の孔751の軸線方向の長さは、(H2−H3)である。
この点火プラグは、以下のように動作する。上述したトリガ電圧が点火プラグの電極(中心電極20Bおよび接地電極70)に供給されると、脚部25Bの先端面25BTと、接地電極70の後端側の孔752を形成する拡径面752Sと、を最短距離で結ぶ位置SP1に、トリガ放電が発生する(図7(A))。そして、トリガ放電に、交流電圧のエネルギーが供給されてキャビティCV内でプラズマが生成される。生成されたプラズマは、貫通孔75を通過して、内燃機関の燃焼室内に放出される。そして、プラズマのエネルギーによって、内燃機関内の混合気へ点火される。
以上説明した第3実施形態の点火プラグによれば、第1実施形態および第2実施形態の点火プラグと同様に、拡径面752Sによって形成される形成される後端側の孔36を有している。この結果、キャビティCV内のプラズマが、後端側の孔752によって、貫通孔75を通るように誘導されるので、プラズマが、内燃機関の燃焼室内に、効率良く放出される。この結果、点火プラグの着火性能が向上する。
C−2.第4評価試験
第4評価試験では、表4に示すように、18種類の第3実施形態の点火プラグのサンプルD1〜D18を作成して、着火性能の試験を行った。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
接地電極70の厚さH2:1.5mm
後端側の孔752の軸線方向の長さH3:0.5mm
後端側の孔752の最後端の径R2:2.5mm
先端側の孔751の径R3:0.5mm
18種類のサンプルD1〜D18では、先端面25BTの径R1と、電極間距離Dと、最短沿面経路の長さEのうちの少なくとも1つの値が互いに異なっている。先端面25BTの径R1は、0.4mm、1mm、1.5mm、2.6mmのいずれかの値とされている。電極間距離Dは、0.3mm、0.5mm、1mm、1.5mm、2mm、2.3mmのいずれかの値とされている。電極間距離Dは、脚部25の軸線方向の長さを調節することによって変更した。
最短沿面経路の長さEは、1mm、4mm、8mmのいずれかの値とされている。最短沿面経路の長さEは、キャビティ径R4を4.0mmに固定し、キャビティCVの軸線方向の長さH1を調整することによって変更した。
第4評価試験では、18種類のサンプルD1〜D18の着火限界の空燃比(混合気における燃料に対する空気の比率)を調べた。具体的には、サンプルを、排気量が1600ccである直列4気筒のエンジンに組み付け、1600rpmの回転速度で、1000サイクルの運転を行った。運転時には、図1の点火システム600を用いて、トリガ電圧と交流電圧の供給を行い、500mJのエネルギーをサンプルに供給した。そして、1個のサンプルについて、混合気の空燃比(A/F)を段階的に増加させながら1つの空燃比あたり3回ずつ失火率(図示平均有効圧力の変動率)を測定した。そして、空燃比と失火率をプロットした結果から、各サンプルの失火率2%時の空燃比を近似計算によって算出し、着火限界の空燃比AFRとして採用した。着火限界の空燃比AFRが大きいほど、着火性能が優れていることを意味している。
そして、着火限界の空燃比AFRが23以上のサンプルの評価を「A」とし、着火限界の空燃比AFRが22以上23未満のサンプルの評価を「B」とし、着火限界の空燃比AFRが22未満のサンプルの評価を「C」とした。
R3<R1<R2を満たし、かつ、0.5mm≦D≦2.0mmを満たす8個のサンプルD3、D4、D7、D8、D11、D12、D15、D16の評価は、Bであった。
これに対して、R3<R1<R2を満たさないサンプルの評価は、いずれも「C」であった。例えば、R3>R1である4個のサンプルD2、D6、D10、D14の評価は、0.5mm≦D≦2.0を満たしているにも拘わらずに、「C」であった。また、R1>R2である4個のサンプルD5、D9、D13、D17の評価は、0.5mm≦D≦2.0を満たしているにも拘わらずに、「C」であった。
また、0.5mm≦D≦2.0mmを満たさないサンプルの評価は、いずれも「C」であった。例えば、D=0.3mm、D=2.3mmのサンプルD1、D18の評価は、R3<R1<R2を満たしているにも拘わらずに、「C」であった。
すなわち、R3<R1<R2を満たし、かつ、0.5mm≦D≦2.0mmを満たす8個のサンプルは、R3<R1<R2と0.5mm≦D≦2.0mmのいずれかを満たさないサンプルよりも着火性能に優れていた。この理由は、以下のように、推定される。まず、第1実施形態の点火プラグが、W3<W1<W2を満たすことが好ましいのと同じ理由で、R3<R1<R2を満たす場合には、プラズマが、効果的に誘導されて、燃焼室内に放出されることが考えられる。さらに、R3<R1<R2を満たす場合には、トリガ放電は、位置SP1にて発生する。位置SP1は、図7に示すように、中心電極20Bの先端面25BTの端と、拡径面752Sと、を最短距離で結ぶ位置である。その後、放電は、より放電の長さが長くなる位置、すなわち、軸線COに近い位置SP2に移動すると考えられる。
トリガ放電TEの発生時には、放電の長さは短い方が絶縁破壊に要する電圧、すなわち、トリガ電圧を低くすることで放電不良が防止できるので、着火性能上好ましい。また、トリガ電圧を低くすることで、沿面経路SRでの放電も発生し難くなり着火性能上好ましい。これに対して、一旦、放電が発生した後に、交流電圧のエネルギーが供給されている間は、放電の長さは長い方が、熱エネルギーが大きくなるので、着火性能上好ましい。R3<R1<R2を満たす場合には、上述のように、比較的放電が短くなる位置SP1にて、放電が発生し、その後に比較的放電が長くなる位置SP2に放電が移動するので、トリガ電圧を低く抑制しつつも、放電の熱エネルギーを大きくすることができるので、着火性能が向上すると、考えられる。しかしながら、電極間距離Dが過度に短いと、例えば、0.5mm>Dであると、例えば、R3<R1<R2を満たしたとしても、位置SP2においても放電の長さが十分に長くならず、着火性能はそれほど向上しないと考えられる。また、電極間距離Dが過度に長いと、例えば、2.0mm<Dであると、位置SP1においても放電の長さが十分に短くならずに、トリガ電圧が高くなり過ぎることによって放電不良が発生して、着火性能はそれほど向上しないと考えられる。以上より、R3<R1<R2を満たし、かつ、0.5mm≦D≦2.0mmを満たす場合には、これを満たさない場合と比較して、着火性能が向上すると考えられる。
C−3.第5評価試験
第5評価試験では、表5に示すように、18種類の第3実施形態の点火プラグのサンプルE1〜E18を作成して、着火性能の試験を行った。サンプルE1〜E18の最短沿面経路の長さEを除いた寸法は、表4のサンプルD1〜D18のサンプルと同じである。表4のサンプルD1〜D18では、最短の沿面経路の長さEは、1mm、4mm、8mmのいずれかに設定されており、この結果、電極間距離Dに対する最短沿面経路の長さEの比率(E/D)は、5未満の範囲内の値、具体的には、2、2.67、3.33、3.48、4のいずれかにされている。これに対して、表5のサンプルE1〜E18では、最短の沿面経路の長さEは、3mm、8mm、12mmのいずれかに設定されており、この結果、電極間距離Dに対する最短沿面経路の長さEの比率(E/D)は、5以上の範囲内の値、具体的には、5.21、5.33、6、8、10のいずれかにされている。
第5評価試験では、第4評価試験と同じ試験を同じ、同じ評価基準を用いて、18種類のサンプルの着火性能を、上述した「A」、「B」、「C」の三段階で評価した。
R3<R1<R2を満たし、かつ、0.5mm≦D≦2.0mmを満たす8個のサンプルE3、E4、E7、E8、E11、E12、E15、E16の評価は、「A」であった。
これに対して、R3<R1<R2、および、0.5mm≦D≦2.0mmのうちのいずれかを満たさないサンプルの評価は、いずれも「C」であった。
以上より、R3<R1<R2を満たし、かつ、0.5mm≦D≦2.0mmを満たす表4の8個のサンプル(評価「B」)と、表5の8個のサンプル(評価「A」)と、を比較すると、(E/D)が5以上である表5のサンプル、すなわち、E≧5Dを満たすサンプルは、E≧5Dを満たさない表4のサンプルより着火性能に優れていた。
この理由は、以下のように、推定される。まず、沿面経路は、単位長さあたりの電気抵抗が、絶縁碍子10の表面に沿うことなく、空気中を通る気中経路(たとえば、図7の位置SP1の経路)と比較して低い。このために、最短沿面経路の長さEが十分に長くない場合には、例えば、E≧5Dを満たさない場合には、気中経路での放電に代えて、沿面経路での放電が発生しやすくなる。沿面経路での放電は、キャビティCV内において、貫通孔75から離れた位置で発生する。このために、キャビティCV内に、当該放電に基づくプラズマが発生しても、貫通孔75から放出され難いために、着火性能が低下する。反対に、E≧5Dを満たす場合には、沿面経路での放電を十分に抑制できるので、より着火性能が向上すると考えられる。
以上、第4評価試験および第5評価試験によって、以下のことが解った。第3実施形態の点火プラグでは、中心電極20Bの先端面35BTの径R1と、接地電極70の後端側の孔752のうちの最後端の径R2と、先端側の孔751の径R3とは、R3<R1<R2を満たし、かつ、中心電極20Bの先端と、接地電極70の貫通孔75が形成された部分の後端側の表面と、の軸線方向の距離Dは、0.5mm≦D≦2.0を満たすことが好ましい。こうすれば、放電発生に必要な電圧の上昇を抑制しつつ、放電発生中の放電の長さを長くすることができるので、着火性能をより向上することができる。
さらに、中心電極20Bの表面から絶縁碍子10Bの内面を経由して接地電極70の後端側の表面に至る最短経路の長さEは、E≧5Dを満たすことが、さらに、好ましい。こうすれば、放電の発生経路が、キャビティCV内の気体中を通る気中経路となる確率を高くし、絶縁碍子10Bの内面を経由する沿面経路となる確率を低減することができる。この結果、着火性能をさらに向上することができる。
D.変形例:
(1)上記各実施形態では、先端側の孔37の個数は、1個であるが、複数個(例えば、2個、3個、4個)であっても良い。また、上記各実施形態では、先端側の孔37を軸線COと垂直な断面で切断した断面形状は、円であるが、円に限られない。図8は、変形例の点火プラグの接地電極30fの説明図である。図8(A)には、接地電極30fを軸線COが含まれる面で切断した図が示されている。図8(B)には、接地電極30fの対向部34fを、軸線COに沿って後端側から先端方向FDに向かって見た図が示されている。
接地電極30fの対向部34fに形成される後端側の孔36は、第1実施形態の後端側の孔36(図3)と同じである。そして、変形例の対向部34fでは、後端側の孔36の先端に底面36BTが形成されており、当該底面36BTを先端方向FDに貫通する複数個の先端側の孔37f1、37f2が、形成されている。そして、先端側の孔37f1、37f2を軸線COと垂直な断面で切断した断面形状は、円ではなく、四角形である。先端側の孔37f1、37f2の断面形状は、星型、楕円、3または5以上の辺を持つ多角形であっても良い。
(2)上記各実施形態では、後端側の孔36を軸線COと垂直な断面で切断した断面形状は、円であるが、円に限られない。図9は、変形例の点火プラグの接地電極30gの説明図である。図9には、接地電極30gの対向部34gを、軸線COに沿って後端側から先端方向FDに向かって見た図が示されている。
接地電極30fの対向部34fに形成される後端側の孔36gを、軸線COと垂直な断面で切断した断面形状は、四角形である。そして、後端側の孔36gの軸線COと垂直な方向のうち、図9(B)の上下方向の長さは、先端側から後端側に向かうに連れて長くなっている。同様に、後端側の孔36gの軸線COと垂直な方向のうち、図9(B)の左右方向の長さは、先端側から後端側に向かうに連れて長くなっている。そして、対向部34fに形成される先端側の孔37gを、軸線COと垂直な断面で切断した断面形状も、四角形である。後端側の孔36gの断面形状は、星型、楕円、3または5以上の辺を持つ多角形であっても良い。
このように、そして、後端側の孔36gが円形でない場合に、後端側の孔36gの最後端の軸線COと垂直な方向の長さの最大値および最小値を、W2max、W2minとする。先端側の孔37gが円形でない場合に、先端側の孔37gの軸線COと垂直な方向の長さの最大値および最小値を、W2max、W2minとする。この場合には、中心電極20の中心電極チップ29の先端面29Sの径W1の関係は、W3min<W1<W2maxを満たすことが好ましく、W3max<W1<W2minを満たすことがさらに好ましい。こうすれば、プラズマを効率良く貫通孔に誘導して、点火プラグの着火性能を向上することができる。
(3)上記各実施形態では、後端側の孔の径は、先端側から後端側に向かうにつれて直線的に長くなっているが、これに限られない。例えば、後端側の孔の径は、先端側から後端側に向かうにつれて曲線状に長くなっていても良いし、先端側から後端側に向かう途中に部分的に径が一定になる部分を含んでも良い。図10は、変形例の点火プラグの接地電極の説明図である。図10(A)には、接地電極70Bを軸線COが含まれる面で切断した図が示されている。図10(B)には、接地電極70Cを軸線COが含まれる面で切断した図が示されている。図10(A)の接地電極70Bの後端側の孔752Bの径は、先端側から後端側に向かうにつれて長くなる度合いが小さくなり、その結果、後端側の孔752Cの断面は、下に凸の形状を有している。また、図10(B)の接地電極70Cの後端側の孔752Cの径は、先端側から後端側に向かうにつれて長くなる度合いが大きくなり、その結果、後端側の孔752Cの断面は、上に凸の形状を有している。接地電極70B、70Cの他の構成は、図7の接地電極70と同じである。
(4)上記各実施形態の点火プラグの着火性能の向上は、上述したように、後端側の孔36を設けたことや、各種の寸法W1〜W4、L1、L2を好ましい範囲に設定されることによって達成されると考えられる。したがって、これらのパラメータ以外の要素、例えば、主体金具50の材質や細部の寸法、絶縁碍子10の材質や細部の寸法などは、様々に変更可能である。例えば、主体金具50の材質は、亜鉛めっきまたはニッケルめっきされた低炭素鋼でも良いし、めっきがなされていない低炭素鋼でも良い。また、絶縁碍子10の材質は、アルミナ以外の様々な絶縁性セラミックスでもよい。
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。