図1は実施例1の誘導加熱調理器の本体1の斜視図であり、図2は図1中に一点鎖線AA′で示される部分に調理鍋7を載せたときの概略縦断面図である。以下では、誘導加熱が可能な鍋置き場所が左右2口、ラジエントヒータやハロゲンヒータ等のヒーター(加熱源)の放射熱で加熱可能な鍋置き場所が1口、魚焼きグリルがある誘導加熱調理器を例に挙げ説明を行うが、本発明の適用対象はこれに限らない。特にトッププレートを非結晶化ガラスのホウケイ酸ガラスとする場合は、誘導加熱が可能な鍋置き場所を3口設けた誘導加熱調理器であることが望ましい。これは、ラジエントヒータに比べ、誘導加熱による調理鍋7の加熱時の方がトッププレート2の最高温度を500℃以下と低くするためである。これに限らない。特にトッププレートを非結晶化ガラスのホウケイ酸ガラスとする場合は、誘導加熱が可能な鍋置き場所を3口設けた誘導加熱調理器であることが望ましい。これは、ラジエントヒータに比べ、誘導加熱による調理鍋7の加熱時の方がトッププレート2の最高温度を500℃以下と低くするためである。なお、調理鍋7は、誘導加熱に適した磁性体の鉄鍋であっても良いし、非磁性体のアルミ鍋、銅鍋であっても良い。図1および図2に示すように、本体1の上面には、トッププレート2が装着されている。
トッププレート2は、少なくとも耐熱温度が3百数十度の耐熱塗料を用いて文字や略全面の塗装を裏面に施し、表面には鍋の滑り止めとなる印刷を施した非結晶化ガラスを基材とする耐熱ガラスである。本実施例で説明する非結晶化ガラスとは、石英ガラス、高ケイ酸ガラスとホウケイ酸ガラスが含まれ、特に本実施例では、ケイ素が略80%、ホウ酸が10〜15%程度含まれ、熱衝撃温度300℃以上かつ500℃以下のホウケイ酸ガラスをいう。
また、トッププレート2の手前には、各口およびグリルの加熱開始あるいは加熱コースを指示するスイッチ、各口の加熱状態(温度等)を表示する表示器が配置される操作表示部3が装着されている。以下の符号で最終文字がR、Lはそれぞれ右側、左側の加熱口下の構造部品を示し、この文字が無いものは右、左共通の構造部品を示す。
トッププレート2の上面には、その下に配置される加熱コイル8あるいはラジエントヒータの最外半径におよそ一致する半径の円4が加熱可能な鍋置き場所を示すために印刷されている。また、トッププレート2は普通可視光に対して透明であるため、上面にはフリットガラスに耐熱塗料を混入した耐熱耐久性の衣装印刷、下面には耐熱面塗装を施し、機器内部が見えないようにしてある。誘導加熱が可能な鍋置き場所2口の円4の中央から約50mmずれた位置に後述する鍋温度検出のために印刷、塗装を行っていない赤外線透過窓5が設けられている。この赤外線透過窓5は赤外光を透過させるためであり、この部分だけ赤外光に対しては透明な可視光カット部材(耐熱フィルムまたはガラス)を下面に装着しても良い。トッププレート2の上面の各口(円4)に、調理鍋7を置き加熱調理を行う。
図2に示すように、加熱コイル8にインバータ回路9(高周波電流供給手段)からの高周波電流を供給すると、外周側の第1のコイル8aと内周側の第2のコイル8bに分割された加熱コイル8が高周波磁界10(図中破線で示す)を発生し、この高周波磁界が調理鍋7と鎖交して、渦電流を発生し、そのジュール熱により調理鍋7自身が誘導加熱され発熱する。従って、調理鍋7内の調理物は、調理鍋7自身の発熱によって加熱調理される。このとき、調理鍋7の下にあるトッププレート2も、発熱した調理鍋7からの伝熱あるいは放射熱により高温になる。
トッププレート右側の右加熱コイル8Rの下にはインバータ回路9が配置され、左側、左加熱コイル8L下にはグリル庫6が配置される。このグリル庫6内には管ヒータ6a、6bが上下に配置され、魚等の焼き物が可能な構造である。
図3に右側加熱コイル8R周辺の断面を詳しく示す。図3に示すようにトッププレート2下面には第1のコイル8aと第2のコイル8bの間にコイル間隙8cを備えて分割された加熱コイル8が耐熱プラスチックで構成されるコイルベース10内に同心円状(渦巻き状)に巻かれて配置される。加熱コイル8の下側にはコイルベース部材内部にコ字状のフェライト11が凸部を上にして放射状に配置されている。このフェライト11は加熱コイル8が発生する磁束をトッププレート2上の調理容器である調理鍋7に効率良く導くために配置される。また、磁束がコイルベース10下部に漏洩するのを防止する。フェライト11は透磁率が高く磁束はほとんどフェライト11内を通過するからである。
コイルベース10の下には加熱コイル8を冷却するためのコイル冷却風路15が設置される。コイル冷却風路15は二つに分けられ、一つは第1のコイル8aの内周側に接続され、第2のコイル8bおよび第1のコイル8a上面を冷却するコイル上面冷却風路15a、他の一つは第1のコイル8aの下面を冷却するコイル下面冷却風路15bである。コイルベース10の中心部分下に位置するコイル冷却風路15aの上面には円形上のコイル上面冷却風送出孔15cが開口している。
コイルベース10の中心部は円筒状の内空洞14aになっており、第1のコイル8aの内周側にはフェライト11を内蔵する放射上梁に繋がる円筒状の外空洞壁14bになっている。この外空洞壁14bの下部に、コイル冷却風路15aのコイル上面冷却風送出孔15cが接続される。コイル上面冷却風送出孔15cの周囲にはグラスウール等のシール材16が設けられ先の外空洞壁14bに接続されている。
右側加熱コイル8Rへの冷却風路15の下にはインバータ回路9等の回路基板を内蔵する回路冷却風路17a、17bが2段重ねて設けられ、夫々には左右の加熱コイル8L、8Rのインバータ回路等が内蔵されている。これらの冷却風路は本体1に固定される。
コイルベース10はコイル下面冷却風路15bまたは回路冷却風路17aに固定される3個のコイルベース受け12からバネ13で押され、トッププレート2の下面に押し付けられる。
コイル冷却風送出孔15c下のコイル上面冷却風路15a中には鍋温度検出装置18が配置される。鍋温度検出装置18は誘導加熱された調理鍋6の底面温度をトッププレート2の赤外線透過窓5を透過する赤外線から検出する。
加熱調理中にはコイル上面冷却風路15a、コイル下面冷却風路15b、回路冷却風路17a、17bには本体1に内蔵されるファン(図示せず)から外気が導入される。しかし、インバータ回路パワー素子の発熱、フェライトの発熱、加熱コイル自身の発熱によりこの冷却風が暖められるため鍋温度検出装置18の周囲温度は時間とともに上昇する。調理が終了すると周囲温度は時間とともに下降する。コイル上面冷却風路15a内を流れる冷却風は鍋温度検出装置18を冷却しながらコイル上面冷却風送出孔15cから円筒状の外空洞壁14b内のコイル間隙7cおよび内空洞14aを上昇し、コイル間隙8cおよび内空洞14a上部から、トッププレート2に遮られトッププレート2と加熱コイル8の間をコイル径方向外側に流れ、加熱コイル8の上面およびトッププレート2下面を冷却する。コイル下面冷却風路15bのコイル8aの下面にあたる部分には小さな孔が複数開けられ、コイル下面冷却風路15b内を流れる冷却風は、ここからコイル8a下面に向かって噴流してこれを冷却する。
図4に左側加熱コイル8L周辺の断面を詳しく示す。加熱コイル、コイルベース、冷却風路、コイルベース支持構造は図3と同一である。グリル庫6内部には上管ヒータ6a、下管ヒータ6bが配置され、この間に網板6cが固定され、ここに調理物(魚等)を置き焼き物調理を行う。グリル庫6内で焼き物調理を行うと、グリル6の上面、加熱コイル8Lのコイル上面冷却風路15a下面は高温状態となる。この温度は鍋温度検出装置18Lの下面を加熱するようになる。
図5にトッププレート2を除いた図3の上面図の詳細を示す。加熱コイル8、コイルベース10、コイル冷却風路15aの詳細構成図である。加熱コイル8および内空洞14aと鍋温度検出装置18の水平面での位置関係を示す。
加熱コイル8は、テフロン(登録商標)等で絶縁被膜されるリッツ線で同心円状に同一方向に巻回され、外周側の第1のコイル8aと内周側の第2のコイル8bに分割される。その間隙8cは幅およそ15mmの同心帯状をなし、第1のコイル8aの巻き終わりは間隙8cを架橋し第2のコイル8bの巻き始めとなり、第1のコイル8aと架橋線8dと第2のコイル8bで加熱コイル8を構成する。コイルベース10には第1のコイル8aの内周側に円筒状の外空洞壁14bが設けられ、その内側がコイル間隙部8cとなっている。また、第2のコイル8bの内周側に内空洞14aが設けられる。さらに、コイル間隙部8cの一部、放射状に配置される二つのフェライト11間に楕円筒状のセンサ視野筒19(コイル径方向での短径約12mm、コイル円周方向での長径25mm)が設けられ、このセンサ視野筒19の下に鍋温度検出装置18が設置される。
実施例の同心円状に巻かれた加熱コイル8では巻き幅中央近傍の誘導磁界が一番強く、鍋を誘導加熱した場合この巻き幅中央部分の温度が一番高くなる。加熱コイル8を二つに分割したのは、分割隙間の下に鍋温度検出装置18を設け、この高温部分の鍋温度を検出するためである。
センサ視野筒19の上部横にはトッププレート2の赤外線透過窓5の横下面に接触するようにサーミスタ20が設置される。
誘導加熱された鍋底面からの赤外線はトッププレート2の赤外線透過窓5を透過し、センサ視野筒19から後で詳細に説明する鍋温度検出装置18に内蔵されるサーモパイル(熱電対)25に入射する。
図6は図5(先の加熱コイル8)を裏から見た図を示す。コイルベース10には2個のコイル端子21a、21bが設けられ、低電圧端子21aには第1のコイル8aの巻き始めが接続され、高電圧端子21bには第2のコイルの巻き終わりが接続される。この端子にはインバータ回路9の出力線22a、22bがねじで固定される。銅やアルミニウム等の非磁性体の鍋では4〜5kVの高電圧が出力される高電圧出力線22bは高電圧端子21bに接続される。
図5、図6で説明したように鍋温度検出装置18は、架橋線8dの近傍をさけ、かつ高電圧出力線22bが接続される高電圧端子21bから離れた位置にあるコイル間隙部8cに設けられたセンサ視野筒19の下にそのケース窓30が位置するように設置される。架橋線8dの近傍設置を避けるのは、ここでの磁界が乱れ磁界が更に下部に漏えいし、後述するセンサケースの電磁シールドのための金属ケース32が加熱されるのを防止するためである。
図5、図6で説明した構造は左右加熱コイルで同じである。左右を区別するため符号最終文字をR、Lで示す。例えば8Rは右側加熱コイル、8Lは左側加熱コイルを示す。左側の冷却風路には右側冷却風の一部を流す構造になっている。但し左側に独立の吸気ファンを設け左右の冷却風路に流れる空気を分離しても良いのは明らかである。
図7に鍋温度検出装置18の詳細を示す。
図7(a)は、鍋温度検出装置18の平面図を示す。鍋温度検出装置18は、調理容器の底から放射される赤外線が入射される鍋放射赤外線検出用赤外線センサ(サーモパイル25)と、遮光されているため調理容器の底から放射される赤外線が入射されない温度変化補償用赤外線センサ(サーモパイル26)と、反射型フォトインタラプタ27を中心に構成される。サーモパイル25、26と反射型フォトインタラプタ27はサーモパイルの出力信号を増幅する赤外線検出回路72と反射率検出回路73が実装される電子回路基板28に配置され、この鍋放射赤外線検出用サーモパイル25、温度変化補償用サーモパイル26と反射型フォトインタラプタ27および電子回路基板28は、全体をプラスチック部材の赤外線センサケース29(一点鎖線で示す)内に密封される。この赤外線センサケース29には赤外線を透過させるためにケース窓30が開けられ、このケース窓30にはトッププレート2を構成する非結晶化ガラスとほぼ同じ光学特性を持つ非結晶化ガラスを薄く切り出したものを光学フィルタ31として嵌め込んである。なお、本実施例の光学フィルタ31は非結晶化ガラスで説明するが、赤外線を透過する材質であればこれに限らず、例えば結晶化ガラスを使用しても良い。また、光学フィルタ31は、トッププレート2より1μm以下の波長において可視光線の透過率が低い光学特性であればなお良く、光学フィルタ31により、サーモパイル25に入射する可視光線を遮光することで、鍋温度の検出誤差を低減できることになる。
そして、光学フィルタ31の下にサーモパイル25、26と反射型フォトインタラプタ27が電子回路基板28上に実装されている。この赤外線センサケース29は、周りをアルミニウム等の透磁率がほぼ1の金属ケース32(2点鎖線で示す)で覆っている。当然、先のケース窓30の所は開口されている。そして、更にアルミニウム金属ケース32は、周りをプラスチック部材の外側赤外線センサケース33で覆っている。当然先のケース窓30の所は開口されている。つまり、サーモパイル25、26は3重のケースで覆われた形になっている。
サーモパイル25とサーモパイル26を同一ケース内に内蔵するのは、これら2つの素子の周囲温度条件をなるべく一致させるためである。そして、サーモパイル25と反射型フォトインタラプタ27はセンサ視野筒19内を望むように基板28に設置される。
このように構成された鍋温度検出装置18はそのケース窓30がコイルベース10のセンサ視野筒19内を望むようにコイル上面冷却風路15a内に設置される。
図7(a)中のA−A′線に沿った断面図を図7(b)に示す。これは、赤外線センサケース29内に設置される電子回路基板28に装着されるサーモパイル25、26および反射型フォトインタラプタ27と赤外線センサケース29のケース窓30、光学フィルタ31との位置関係を示す断面図である。
図8に反射型フォトインタラプタ27の詳細を示す。反射型フォトインタラプタ27は赤外線発光素子としての赤外線LED50と赤外線受光素子としての赤外線フォトトランジスタ51を同一プラスチック部材に並べてモールドしたものである。赤外線LEDの発光面上にはプラスチックでレンズが構成され細いビームで930nm付近の赤外光を上方に照射する。赤外線フォトトランジスタ51の受光面上には可視光阻止のプラスチックでレンズが構成され、先の照射赤外光の物体(鍋底面)での反射赤外光を狭い視野角で受光し、その受光量に比例した電流を出力する。この反射型フォトインタラプタ27は赤外線発光素子と受光素子の対で構成されるものでトッププレート2上に置かれた調理鍋7底面の反射率を計測するものである。
反射フォトインタラプタ27前面の発光、受光部を光学フィルタ31の下面直下に配置している。これは赤外線発光が直上の光学フィルタ31で反射され、受光されるのを防止するためである。
図9に鍋放射赤外線検出用サーモパイル25の詳細を示す。
図9(a)はサーモパイル25の斜視図を示す。図9(b)は図9(a)中B−B′で示す線でのサーモパイル25の断面図であり、図9(c)は図9(b)中C−C′で示す線での断面の平面図である。なお、熱電対が見えるように、赤外線吸収膜を省略して示してある。
サーモパイル25は熱電対(サーモカップル)を多数縦列接続した(パイリング)したもので、ニッケルめっき鋼板等の金属キャン35と金属ステム36からなる金属ケース37内にこれが内蔵されている。およそ300μm厚のシリコン基材38表面に電気的および熱的に絶縁するためシリコン酸化膜39を形成し、この上にポリシリコン、アルミを順次パターン蒸着しポリシリコン蒸着膜40、アルミ蒸着膜41で熱電対を多数作成し、これを縦列接続する。ポリシリコン、アルミ接合点(測温接点)のあるシリコン基材38中央部には、黒体に近い酸化ルビジウム膜あるいはポリイミド膜等の赤外線吸収膜43を保護皮膜として形成する。ポリシリコンおよびアルミ蒸着膜の一端は冷接点部44であり、これはシリコン基材38の周囲に配置する。シリコン基材38の裏面を、周囲(冷接点部)を残して290μmまでエッチングし、測温接点部分のあるシリコン基材の厚みを10μmに形成する。これは熱電導の良好なシリコンを薄くすることで、測温接点部42と冷接点部44の熱伝導を少なくし測温接点部と冷接点部を熱的に絶縁するためである。
このシリコン基材38を金属ケース37の金属ステム36にボンド等で固定する。同時に金属ステム36にはセラミック上に膜形成したNTCサーミスタ45を同様に配置する。これは金属ケース37内にある熱電対の雰囲気温度を検出し、熱電対の熱起電力を補正するためである。詳細は後述する。金属ステム36には絶縁シールされた4本の金属ピン46が貫通配置されており、この金属ピンに先の熱電対の出力とNTCサーミスタ45がワイヤ接続される。ステム36には、筒状の金属キャン35が窒素などの不活性ガス中で被せられ溶着される。この金属キャン35の上面には***の窓47が開けられ、ここに内側からガラス製のレンズ48が装着されている。レンズ48の光学特性(図20の実線)は、トッププレート2の非結晶化ガラスに比べ、1μm以下の透過率が低くいことから、可視光線を遮光する。この***の垂直下に先の測温接点部42(赤外線吸収膜43の下にある)が位置するようにシリコン基材38が固定される。このレンズ48は赤外線透過窓5の視野範囲が赤外線吸収膜43に結像するように設計される。これはサーモパイル25の視野特性を狭め、集光効率を高めるためである。
サーモパイル25内の熱電対測温接点部42(赤外線吸収膜43の下にある)にはこの***の窓46を通過しレンズ48で集光された赤外線で加熱され、この加熱温度上昇は通過した赤外線エネルギーに比例し、熱電対の冷接点部44と測温接点部42の温度差に比例した電圧が熱電対出力の金属ピン46に出力される。
前述したようにサーモパイル25は金属ケース37が熱的には熱電対の冷接点と同じであり、この温度変動がそのままサーモパイル25の出力変動となってしまう。
図10に、温度補償素子として用いる温度変化補償用サーモパイル26の詳細を示す。図で図9と同一符号は同一物を示す。
温度補償素子のサーモパイル26は、金属ケース37上面の窓46、レンズ4
8およびNTCサーミスタ45はないが、他はサーモパイル25と同一構造である。赤外線吸収膜43の上面は金属ケース37で遮光され、赤外線が赤外線吸収膜43に入射しない様に金属キャン35と金属ステム36からなる金属ケース37内に内蔵されている。前述の同一構造とは熱電対(対数、パターンを含む)、シリコン基材38、シリコン酸化膜39、金属ケース37、金属ステム36の組成、形状、寸法および封入不活性ガスが同一であることを言う。つまり、周囲温度の冷接点部44、測温接点部42への伝熱特性と、冷接点部44から測温接点部42への伝熱特性が同一となるように構成されている。
図11に本実施例の誘導加熱調理器の制御ブロック図を示す。マイクロコンピュータ60が誘導加熱調理器の動作を制御する。以下記号Rは図1の手前右にあるに誘導加熱口に関するブロックを表し、記号Lは図1の手前左にある誘導加熱口に関するブロックを表す。2つのインバータ回路9Rおよび9Lは加熱コイル8R及び8Lに高周波電流を供給する。このインバータ回路9R、9Lの動作周波数及びコイルへの供給電力を調整するのが周波数制御回路61R、61L及び電力制御回路62R、62Lである。動作周波数を変化させるのは、鍋の金属種類によって高周波電流の周波数で誘導加熱効率が変化するためである。一般に鉄では20kHz、これより抵抗率の低い銅、アルミでは70kHz以上の周波数が用いられる。この周波数切り替えは図示しない鍋種類判別手段の判断に基づいてマイクロコンピュータ60が周波数制御回路を制御して行う。
各インバータ回路9R、9Lには整流回路63から直流電圧が供給される。この整流回路63には電源スイッチ64を介して3端子200Vの商用電源65が接続されている。
商用電源の接地端子は本体1の金属部に接地線で接続される。ラジエントヒータ66にはラジエントヒータ回路67を介して商用電源65が接続され、ラジエントヒータ回路67がラジエントヒータ66に供給する電力を制御する。また上下グリルヒータ6a、6bにはグリルヒータ回路68を介して3端子200Vの商用電源65が接続される。グリルヒータ回路68がグリルヒータ6a、6bに供給する電力を制御する。
マイクロコンピュータ60には、表示操作部の操作スイッチ69、表示回路70が接続され使用者の操作指示を受け付け、機器の動作状態表示を行う。また、ブザー71が接続され使用者の操作ボタン押しあるいはエラー等の警告などを報知する。マイクロコンピュータ60は使用者の指示に従い、周波数制御回路61R、61Lと電力制御回路62R、62L及びラジエントヒータ回路67、グリルヒータ回路68を制御して、トッププレート2上の調理鍋7あるいはグリル庫6内を加熱する。
サーモパイル25、26は赤外線検出回路72に接続されサーモパイル25の出力が増幅され、マイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。フォトインタラプタ27は反射率検出回路73に接続され、マイクロコンピュータ60のポート出力で発光素子の発光を制御され、調理鍋7で反射された赤外光は受光素子で受光され、その出力信号は増幅されマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。赤外線検出回路72および反射率検出回路73の動作の詳細は後述する。更にサーミスタ20Rはサーミスタ温度検出回路74Rに接続され、その出力はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。同様にサーミスタ20Lもサーミスタ温度検出回路74Lに接続され、その出力もマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。これらはトッププレート2の温度を検出する。
またマイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の出力から調理鍋の赤外線反射率を知り、反射率で補正して調理鍋の温度を検出する。この処理もマイクロコンピュータ60のソフトウエアで行われる。(反射率補正手段の動作)そして、予め作成してある温度変換テーブル(赤外線検出回路72の出力電圧と鍋温度の関係)で鍋温度に変換する。
そして、マイクロコンピュータ60はこの鍋温度をもとに、電力制御回路62を介して、調理鍋7の加熱を制御する。この処理法の詳細は後述する。
図12に従来の赤外線検出回路72の詳細を示す。サーモパイル25の熱電対出力(熱起電力)(図中(+)、(−)記号間の電圧)はオペレーショナルアンプ(以下OPアンプと略称する)72−1で約3000倍に増幅され、出力端子72−2から出力され、マイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。OPアンプ72−1の増幅率Gは抵抗R1と抵抗R2で決まる(増幅率G=(R2/R1+1))。
サーモパイル25内のNTCサーミスタ45は、回路電源電圧Vcc(=5V)を抵抗R5、R6、R7で分圧された電圧源(抵抗R6の両端)に抵抗R8と直列接続された状態で接続される。この抵抗R8との接続点(図中aで示す)はOPアンプ72−3で構成されるバッファアンプ(電圧フォロアー)の入力に接続され、接続点aの電圧はそのままOPアンプ72−3の出力に現れる。この図中bで示す点の電圧(OPアンプ72−3の出力)は、OPアンプ72−1のバイアス電圧Vbiasとして抵抗R1と熱電対出力端子(−)の接続点に印加される。OPアンプ72−3で構成されるバッファアンプの出力インピーダンスはほぼゼロであり理想的な電圧源としてOPアンプ72−3の出力であるバイアス電圧Vbias(接続点aの電圧と同じ)をOPアンプ72−1に与える。OPアンプ72−1はこのVbias値を動作基準電圧(サーモパイル25の出力電圧がゼロのときの値)として、サーモパイル25の熱電対出力(図中(+)、(−)記号間の直流電圧)をG=(R2/R1+1)倍した値をVbais値に加算して出力する。このVbias値はNTCサーミスタ45の温度25℃での抵抗値で0.5Vに設計され、このゼロ電圧から0.5Vオフセットしたバイアス電圧Vbais値は赤外線検出回路72の故障検出に利用する。OPアンプ72−1の故障あるいは、出力端子72−2の開放、あるいは出力端子72−2が電源VCCあるいは回路グランドと短絡されていればマイクロコンピュータ60の読み込む電圧は0.5Vと異なることになる。
図12に示す回路図においてR6両端を短絡してNTCサーミスタ45の温度抵抗値変化がVbias値に影響しないようにし、OPアンプ72−1の増幅率Gを2700に設定した電子回路基板を用い、図8の鍋温度検出装置18に図12に示す従来の赤外線検出回路72を搭載して恒温槽で槽内温度を可変しながらOPアンプ72−1の出力を測定した。図13に槽内温度25℃から60℃での結果の一例を示す。これはサーモパイル25の熱電対出力(図中(+)、(−)記号間の電圧)を2700倍して測定したことになる。ここでサーモパイル25には恒温槽上壁面からの放射赤外線が入射されるが恒温槽壁面はステンレス製(放射率0.3以下)かつ低温(60℃以下)であり、後述のように(図21、図26参照、)その放射赤外線エネルギーは鍋底(100℃)からのそれの10%
以下で無視できる。また、各温度点での観測は十分時間経過後に行っているため、測温接点42(赤外線エネルギーで加熱される点)と冷接点44の温度差はなく、熱電対の起電力ゼロの状態である。つまり、この測定は赤外線入射がない状態でのサーモパイル25の温度特性を測定したものである。なおOPアンプ72−1自身の入力オフセット電圧は0.1μVであり、この温度係数は0.05nV/℃で上記観測ではOPアンプ自身の入力オフセット電圧は一定で無視できるものである。
図13から赤外線入射のないサーモパイル25の出力は負の温度特性を持つ。温度係数は5つのサーモパイルについてほぼ同一で入力換算値(図の値を1/2700した値)で0.22μV/℃である。この温度係数のため鍋の温度(放射するエネルギー)が一定でも、サーモパイル25の周囲温度が上昇するとサーモパイル25の出力が減少することになり鍋温度の正確な検出ができない。
この負の温度特性はサーモパイルを構成するアルミーポリシリコン熱電対のポリシリコン線抵抗値の温度特性による。周知のように金属線は正の抵抗温度特性を持つ。温度が上がると抵抗値が上昇し、OPアンプの入力電流(pA)で電圧降下がおきる。この電圧降下の変動分が上記出力の負の温度特性となる。
NTCサーミスタ45は負の温度特性を持った抵抗素子であり温度上昇で抵抗値が低下する。このため、サーモパイル25内の温度が上昇すると先の接続点a(サーミスタ45と抵抗R8の接続点)の電圧は上昇する。この上昇係数を前述0.22μV/℃に設計すれば、サーモパイル出力減少をキャンセルできる。つまり、サーモパイル25出力の減少を接続点aの電圧すなわちOPアンプ72−1のバイアス電圧Vbias値の上昇で補償する。すなわち、NTCサーミスタ45はサーモパイル25の出力すなわち測定対象の放射赤外線エネルギーによる出力が周囲温度で変化するのを防ぐために使用される。つまり、サーモパイル25の周囲温度が変化しても、定常状態(周囲温度が一定で冷接点と測温接点の温度が同一となっている状態)では測定対象の温度すなわち入射する赤外線エネルギーが変化しなければ出力変化を起こさないという温度補償を行っている。図13中に破線でサーモパイルE−1の温度補償後の出力を示す。周囲(サーモパイル)温度が変化しても定常状態では出力が一定になっていることがわかる。
このサーミスタ45での定常状態(周囲温度が一定となり、測温度接点と冷接点が同一温度となっている状態)での温度補償を行った図12の従来回路で、サーモパイル25に赤外線が入射しない状態で、電源投入後、時間とともに周囲温度を25℃から40℃まで徐々に増加した場合のセンサ出力変動を図14に示す。徐々に周囲温度が上昇するのは、誘導加熱調理器では鍋の加熱とともにインバータ回路パワー素子の発熱、フェライトの発熱、加熱コイル自身の発熱により赤外線検出回路72が内蔵される鍋温度検出装置18への冷却風が暖められるためである。またグリル庫6で加熱している状態では前述に加え、大きく鍋温度検出装置18の底面が温められる。この徐々に暖められるのを恒温槽で模擬した結果である。
図14から、電源投入直後、センサ出力はオーバーシュートし設計のバイアス電圧(Vbias電圧値)0.5Vに安定するまでにおよそ2分かかっていることがわかる。図12の回路ではこのような時定数を持たせてはいない。また、周囲温度が変化しているときに、センサ出力が大きくディップ(約50mV出力が減少)し、40℃に到達して十分時間が経ってから設計のバイアス電圧Vbias=0.5Vになる。つまり周囲温度が25℃と40℃では同じ出力電圧であり、前述したサーミスタ45での定常状態での温度補償がなされていることがわかる。しかし、電源投入直後および温度が変化している過渡的な状態でセンサ出力が大きく変化していることがわかる。誘導加熱調理器で調理する場合は、前述説明したように時々刻々と鍋温度検出装置18の周囲温度が変化している。この状態で鍋温度を検出する場合、前述した赤外線センサの出力電圧から鍋温度に換算する過程でこの変動分が鍋温度検出誤差となる。詳細は後述する。
上記出力変動の原因はセンサ素子の構造(図9参照)に起因する。まず電源投入時の変動原因を説明する。サーモパイル25の熱電対は10μm厚さのシリコン酸化膜上にパターン形成されている。このパターンに電圧が印加されると。パターン間にあるシリコン酸化膜のコンデンサを充電することになる。例えば、シリコン酸化膜の厚さ10μm、抵抗率、誘電率からこのコンデンサ容量と並列抵抗値を算出すると10pFと1000MΩ程度になり、この時定数は約2分となり実験結果の電源投入から、定常値0.5Vに到達する時間とほぼ一致する。
温度変化時での出力変動は冷接点部44から測温接点部42までの熱伝達遅れで説明される。冷接点部44はバルクシリコン上にあり、測温接点部42は10μmのシリコン膜、10μm酸化シリコン膜の上にある。このため冷接点部44は金属ステム36ひいては金属キャン35周囲温度と比較的短時間で同じになるが、測温接点部42は熱伝達遅れのため、長時間遅れて金属キャン35周囲温度になる。今、赤外線入射がなく、冷接点部44の温度をT1、測温接点部42の温度をT2とすれば、T2は温度差(T1−T2)に比例する熱伝達係数でT1に遅れて温度上昇し、長時間たてば同一温度T1=T2となる。実験に使用したサーモパイルでは図14に示すように数十分遅れて同一温度になっている。このように周囲温度が変化している過渡的な状態では、冷接点部44と測温接点部42の温度が異なり、熱電対の両端すなわちサーモパイル25端子に電圧が生じる。これが増幅回路で増幅され、赤外線検出回路72の出力端子72−2に出力される。周囲温度上昇中、T1は比較的早く周囲温度となるが、T2は前述のように遅れて周囲温度となるため、上昇途中ではT1>T2となり負の電圧を出力する。逆に周囲温度が下降中であればT2の温度下降が遅れ、T2>T1となり正の電圧が生じる(サーモパイル25は(−)端子に対し(+)端子に(T2−T1)に比例する電圧を出力する。)。
このような状態で、トッププレート2上の鍋温度を検出する場合には、上記の電圧変動が鍋からの放射赤外線検出の誤差となり、鍋温度検出精度を悪化させることになる。
図15に本実施例の赤外線検出回路を示す。図11と同一符号は同一物を示す。OPアンプ72−4をR9、R10で増幅率G=(R10/R9+1)の正転増幅回路とし、この入力に遮光されたサーモパイル26の熱電対出力(図中(+)、(−)で示す)を接続している。サーモパイルの負出力((−)で示す)をOPアンプ72−4の正転入力に、正出力((+)で示す)をR10に接続する。この結果、サーモパイル25とは逆位相の熱電対出力を増幅率G=(R10/R9+1)のOPアンプ72−4で増幅することとなり、この出力電圧がバイアス電圧VbiasとしてOPアンプ72−1の図中bで示すバイアス点に印加される。
サーモパイル25、26が同一構造であれば赤外線入力あるいは周囲温度あるいは温度変化に対して同一位相、同一出力となる。サーモパイル25の出力は増幅率G=(R2/R1+1)のOPアンプ72−1で正相増幅され、サーモパイル26の出力はサーモパイル25とは逆位相で増幅率G=(R10/R9+1)のOPアンプ72−4で増幅されOPアンプ72−1の(図中bで示す)バイアス点電圧を変動させる。この変動はそのまま、OPアンプ72−1の出力変動となる。今、サーモパイル25に赤外線入射がなく、各OPアンプの増幅率Gが同じであれば(R2/R1+1=R10/R9+1)、出力端子72−2の温度変化による変動出力は、増幅信号が同一且つ逆位相のOPアンプ72−4出力であるバイアス電圧Vbiasの変動出力で打ち消されることになる。この様子を図16に模式的に示す。
図16は電源投入後、周囲温度を25℃から40℃に変化させた場合の赤外線検出回路72各部の電圧を示す。なお、サーモパイル25への赤外線入射は無い状態である。図中(a)2点鎖線で示すように、サーミスタ45での定常時の温度補償がない場合、OPアンプ72−1出力は、25℃に比べ40℃で下がる。これを防止するため、図11a点の電圧(バイアス電圧Vbais)をサーミスタ45の負の抵抗温度特性を用いて(b)1点鎖線のように温度上昇とともに持ち上げる。この結果、(c)実線のように、図11の従来の赤外線検出回路では定常時の温度補償(25℃の出力と40℃の出力が同じ)がなされるが、温度が変化している時は、前述したようにディップが生じる。本願図15のb点で示すバイアス電圧(Vbais)は(d)破線で示すように(b)で示す電圧に(c)で示す電圧の反転された(逆位相)電圧が加算された電圧となり、このバイアス電圧Vbaisで(a)で示す2点鎖線(定常時および過渡時の温度変化補償がない)電圧が打ち消され、結果(e)太実線で示すように、定常時でも温度の変化する過渡時でも一定の電圧になる。つまり、赤外線検出回路72の端子72−2出力は定常及び過渡的な温度変動に対して補償されたものとなる。
このように従来回路で出力された図14に示す温度変化時のディップは、同一でかつ逆位相信号のバイアス電圧Vbiasで打ち消されることとなり、出力端子72−2ではディップおよび定常時での不一致がなくなる。
なお上記説明のように、従来回路(図12)で行ったサーミスタ45による定常時の温度補償を本願図15では、a点で示す電圧を温度補償用サーモパイル26の増幅器であるOPアンプ72−4のバイアス電圧としてサーモパイル26の(−)端子と抵抗R9の接続点に印加している。こうすることで定常時の温度補償も可能にしている。なお特許文献では定常時と過渡時の温度補償を同時に行うのは困難で言及されていない。
電源投入時も前述説明と同様で、投入時の出力変動は逆位相かつ同一出力変動をbで示すバイアス電圧(Vbias)に与えることで打ち消し、出力端子72−2に変動が出力されない。ここでサーモパイル26は遮光されているため、赤外線受光による出力はないが、電源投入あるいは過渡的な温度変動による出力変動はサーモパイル25と同じである。一方サーモパイル25は入射赤外線に比例する電圧も出力する。結果赤外線検出回路72は、電源投入あるいは過渡的な温度変動による出力変動はなくなり、サーモパイル25の受光赤外線量にのみに比例する出力信号を端子72−2から出力する。
図17に、図15の本実施例の回路の出力を、図12の従来回路の出力と比較して示す。電源投入時の変動は、1/4に低減し、温度変化時のディップはほぼなくすことができる。多少の変動が残るのはサーモパイル25、26の感度および熱伝達特性のバラツキ、各素子での温度環境変化のズレに起因するものである。熱伝達特性のズレは、熱電対上がレンズであるサーモパイル25と遮光金属キャンであるサーモパイル26との相違、あるいは各素子の配置位置関係例えば基板28からの高さ、相互の距離で生じる。このズレによる多少の変動はOPアンプ72−4の増幅率Gを微調整することで訂正できる。もちろん赤外線検出感度のバラツキはOPアンプ72−1の増幅率を調整する。本願では赤外線検出感度のバラツキと熱伝達特性のバラツキ、各素子での温度環境変化のズレを独立に調整できる。前記特許文献1の従来技術では赤外線検出用サーモパイル25と温度補償用サーモパイル26のバラツキ訂正を独立に行うのは困難である。
図18に反射率検出回路73の詳細を示す。フォトインタラプタ27の発光素子である赤外線LED50はトランジスタ73−1で駆動される。この駆動はマイクロコンピュータ60の出力ポートから駆動信号端子73−2に入力される信号で制御される。デューティ50%の矩形波信号を駆動信号端子73−2に入力すると、赤外線LED50は信号が5Vのとき発光し、0Vのときは消灯する。この発光強度は赤外線LED50に流す電流に比例し、この電流は抵抗R11の値で決められる。本実施例では抵抗値を固定して発光強度は一定である。この赤外発光がトッププレート2及び調理鍋7の底面で反射され、受光素子であるフォトトランジスタ51で受光されると光電流により抵抗R12に電圧が発生する。反射が大きく(受光量が多く)なれば電圧は比例して大きくなる。この信号電圧はコンデンサC1で直流分がカットされ、交流信号としてOPアンプ73−3で構成される正転直流増幅器に入力される。ここで交流信号のプラス側成分のみが増幅される。この増幅されたデューティ50%の信号は充放電回路(R13とC2で構成される)73−4で直流の平均値電圧に変換され、出力端子73−8から出力される。この出力はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。
このように反射率検出回路73は発光強度が一定のキャリア変調された赤外光を鍋底面に放射し、鍋で反射される赤外光を受光してその平均値電圧を反射電圧として得ることで反射率に相当する値を検出する。調理鍋7が置かれていない場合にはトッププレート2のみでの反射でありこれは一定の値を示す。これからの増加分が鍋からの反射分であり、この量が鍋の反射率に相当するものである。
赤外発光をキャリア変調し、受光経路で直流成分をカットしているのは、自然光あるいは白熱電灯、蛍光灯などの照明機器に含まれる一定の赤外光が鍋の反射率検出に影響するのを防止するためである。(可視光は受光素子の光学フィルタでカットされる。)また、フォトトランジスタ51の暗電流の影響も防止している。
以下本実施例1の鍋温度検出動作を説明する。
トッププレート2上に置かれた調理鍋7は誘導加熱により発熱する。この加熱により調理鍋7底面からは赤外線が放射される。この全放射エネルギーEは鍋温度Tの4乗に比例したものである。(E=σT4;ステファン・ボルツマンの法則)図19にプランクの分布則から算出される黒体温度の分光放射エネルギーを示す。この分光放射エネルギーを全波長域で積分すれば、全放射エネルギーEが求まり、これは温度(絶対温度)の4乗に比例する。これが前述のステファン・ボルツマンの法則であり、この係数σがステファン・ボルツマン係数である。分光放射エネルギーのピーク波長はウィーンの変移則から、調理温度100〜300℃で5μm〜8μmである。
誘導加熱された鍋底は、黒体温度の全放射エネルギーEに鍋底の放射率εを乗じた全放射エネルギーを温度に応じて放出する。すなわち黒体温度の全放射エネルギーEと鍋底温度のそれ(E′=εσT4)との比が放射率εである。
一方、非磁性体である非結晶化ガラス(トッププレート2)の光学特性を図20に実線(細線)で示す。図20中実線(細線)で示すように、非結晶化ガラスとして用いるホウケイ酸ガラスは、0.4μm〜2.5μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4μmの波長の光を25%程度透過し、4μmよりも長い波長、及び、0.4μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。この光学特性のため鍋から放射される赤外線放射エネルギー(図19参照)の大部分(波長4μm以上の大部分)はトッププレート2を通過できない。通過できるのは鍋から放射される全赤外線放射エネルギーの約1%程度である。また、従来の誘導加熱調理器のトッププレートで採用さている結晶化ガラスの光学特性を図20に破線で示す。結晶化ガラスは、0.5μm〜2.5μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4.5μmの波長の光を50%程度透過し、4.5μmよりも長い波長、及び、0.5μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。
図21に黒体とサーモパイルの間が空気のみの場合と図3に示すように黒体とサーモパイルの間に非結晶化ガラスのホウケイ酸ガラス製のトッププレート2および光学フィルタ31が挿入される場合のサーモパイルに入射する入射エネルギーと赤外線を放射する黒体温度の関係を比較して示す。また、従来の誘導加熱調理器との比較として結晶化ガラス製のトッププレートと光学フィルタを組合せた場合のサーモパイルに入射する入射エネルギーを示す。これは図19の分光放射エネルギーに図20の光学特性(透過率)を掛け合わせ、全波長域で積分したものである。空気のみの場合は全波長域で透過率=1として算出している。図から本実施例(誘導加熱調理器)の非結晶化ガラスのトッププレート2、光学フィルタ31が介在するため、介在しない場合(空気のみ)に比較して100℃付近で約2桁以上、300℃でも約1桁もサーモパイルに入射するエネルギーは減少している。これは、従来の結晶化ガラスのトッププレートと光学フィルタの組合せの入射エネルギーと比較して、100℃付近で約10%、300℃付近で約35%に入射エネルギーの割合が低下している。
低温側で入射エネルギー減少が大きいのは低温放射分光エネルギーのより多くがトッププレートで除去(フィルタリング)されるためである。このため赤外線センサには高い感度が必要とされ、センサ出力を高い増幅率Gで増幅しなければならない。
赤外線センサとしては周知のように、赤外線フォトダイオード、赤外線フォトトランジスタのような量子型とサーモパイル、焦電素子のような熱型とがある。量子型センサは量子効果で赤外線を検出するため狭い波長帯域で高い感度を持ち、熱型は広い波長帯域で低い感度を持つのが特徴である。量子型は半導体の種類で感度波長が決められ、シリコンのように安価に購入できるものは実用感度波長が可視光外(0.8μm)から1μm以下のため、検出温度の範囲が300℃以上となる。更に低温側に検出感度(波長2μm)を持たせた赤外線フォトトランジスタは化合物半導体(たとえばInGaAs等)となるためシリコンに比べ1〜2桁ほど高価になる。一方熱型は量子型に比べ、可視光から20μm以下の広い波長帯域で均一の低い感度を持つ(原理的には波長依存性を持たない)。このため、センサへの赤外線受光面の前に光学フィルタを設け、検出温度範囲波長を狭めて外乱を防ぐ。
本実施例では、検出温度範囲が100付近から380℃であるため、赤外線センサとして熱型であるサーモパイルを用いている。同じ熱型の焦電素子は微分型のセンサであるため、赤外線入射を断続する必要があり、普通機械的なチョッパ機構が使われる。このため、信頼性の点で誘導加熱調理器のような家電品に用いるのは不向きである。同じ熱型のサーミスタ素子では、入射赤外線エネルギーと出力(抵抗値)の間に非線形性があり、これを補正する必要がある。また感度を上げるためには細線化し折り返し長線としなければならず、素子の抵抗値が大きくなる。一方サーモパイルはこのような機構、補正を必要とせず、また、近年MEMS等の技術により半導体プロセスを用い構成する熱電対を微小化し多数堆積(パイリング)して感度を向上させたものが安価に供給されている。
従来の体温計や電子レンジに用いるサーモパイルへの入射エネルギーは多く、サーモパイル自身の感度はあまり問題とならず、サーモパイル出力を増幅する増幅回路の増幅率Gも100倍以下で良い。しかし誘導加熱調理器ある本実施例の鍋温度検出装置18では、サーモカップル(熱電対)を半導体プロセスで比較的容易に作成できるポリシリコン・アルミニウム金属対とし、これを50ほど堆積したサーモパイル25を用い、更にレンズでの集光で一般的なものに比べ感度を10倍程度高めている。またその出力を増幅回路で3000倍に増幅し前述した微小な入射赤外線エネルギーを検出できるようにしている。
サーモカップルで物体の温度を計測する場合には、冷接点を氷点(0℃)に固定して測温接点を物体に接触させて計測する。サーモパイルは図9で説明したように、サーモカップルが多数堆積されたものであり、入射赤外線で加熱される多数の測温接点とシリコン基材38上にある多数の冷接点で構成される。そして、冷接点は金属ケース37の金属ステム36にボンドで固定されるため、熱的にはサーモパイルの金属ケース37(金属キャン36と金属ステム37)が冷接点となっている。そして、この金属ケース37は通常のサーモカップルのように氷点に固定することができない。
仮に、一つのサーモカップルの熱起電力が5μV/℃、パイル数50、直流増幅器の増幅度を2000とすると、金属ケース37の温度が1℃変化すると、直流増幅器の出力では500mVの電圧変動になる。つまり、サーモパイル25周囲の温度変動を押さえることが必要になる。
本実施例の鍋温度検出装置18は、加熱調理中の鍋底高温部を検出可能にするために、分割された加熱コイル8が発生する高周波磁界の磁束密度が最も強いコイル間隙7c直下に配置される。この位置は、加熱コイル8の下に放射状に配置される棒状フェライト11の間であり、磁束はほとんどフェライト中を通過するため漏れ磁束の少ない場所ではある。しかし、加熱コイル8下面からの距離は20mm程度であるため漏れ磁束は大きく、ここに位置する金属を誘導加熱しその温度を上昇させる。例えば3kWの高周波電力を加熱コイルに入力してトッププレート2上に載置される調理容器である鍋を誘導加熱する場合には、この場所にある磁性体の鋼板では約30℃も温度上昇する。非磁性体のアルミニウムでも約5℃も温度上昇する。
調理中、誘導加熱される鍋底は100〜300℃の高温になる。そして、トッププレート2および下面の加熱コイル8も鍋底からの熱伝導、熱輻射で高温となる。
さらに、加熱コイル8には十数アンペアの高周波電流を流すためコイル自身もジュール発熱する。これらトッププレート、加熱コイルを冷却するため、コイル冷却風路15a、15bには外気が導入され、前述のように加熱コイル8に風を当てて冷却する。
また、鍋温度検出装置18の配置される下には加熱コイルに高周波電力を供給するインバータ回路9が冷却風路17a、17b中に配置される。このインバータ回路は20〜90kHz、十数アンペアの電流をスイッチングする回路から構成される。このため、大きな電磁波を輻射することになる。
このように、鍋温度検出装置18、特に内蔵されるサーモパイル25、26は、(1)加熱コイル8からの漏れ磁束、(2)コイル冷却のための冷却風による温度変化、(3)インバータ回路から輻射される電磁波ノイズ、に晒されることになる。これら外乱に対応して、鍋温度検出装置18は加熱調理中の鍋底温度を検出しなければならない。
サーモパイル25、26が内蔵される鍋温度検出装置18はなるべく一定温度雰囲気におくのが望ましい。このため、本実施例では、外気が導入されるコイル冷却風路15a内に鍋温度検出装置18を設置し調理中には外気でサーモパイル25、26と赤外線検出回路72を冷却しこれらの温度上昇を防止している。また、コイル冷却風路15a内の気流がサーモパイル25、26の金属ケース37および赤外線検出回路72の半導体、抵抗等に直接当たり熱ゆらぎを起こすのを防ぐため、防風ケースである赤外線センサケース29でこれを覆っている。また、サーモパイル25、26と赤外線検出回路72は赤外線ケース29内の空気で空気断熱されることにもなる。温度変化に対して安定にサーモパイル25の出力を直流増幅した後低い出力インピーダンスの信号電圧として、後述するマイクロコンピュータ60のAD端子に出力している。
さらに、この赤外線センサケース29をアルミニウム等の透磁率がほぼ1である金属ケース32で覆い、加熱コイルが発生する交流磁場を遮蔽することでサーモパイル25の金属ケース37が加熱コイル7の発生する高周波交流磁界で誘導加熱され温度上昇しないようにしている。また、この金属ケース32は、鍋温度検出装置18の下部に配置されるインバータ回路からのパルス雑音(放射電磁波)に対しての電磁シールドにもなっている。
この金属ケース32は、加熱調理中には周囲雰囲気温度および加熱コイル7からの漏れ磁束で誘導加熱され、アルミニウムの場合5〜10℃温度上昇する。この温度上昇がおさまる前に続けて調理を行う場合、外気を急速に導入して金属ケース32に当てると金属ケース32が急速に冷え、結果赤外線センサケース29内のサーモパイル25の周囲温度が急に低下することになる。この逆の場合、例えば冬朝一番に調理を行う場合、機体内の金属ケース32は夜十分に冷却され5℃程度にあり、使用者が20℃に暖房された調理室で調理を開始した場合には、この暖気が冷却風路15aに導入され、20℃の暖気が5℃の金属ケース31に当てられることになる。本実施例では、このような外気による金属ケース32の急激な温度変化を防止するために、この金属ケース32を更にプラスチックの外側赤外線センサケース33で覆っている。これで金属ケース32に直接冷却風をあてずに風による温度急変を防止している。
このような環境温度変動に対する対応をとっても、前述図14に示したように、電源投入時、環境温度変化時にはセンサ出力が変動する。これを図15に示す新たな温度補償を行うことにより前述図17に示すように大幅にセンサ出力変動を低減できる。
さて、トッププレート2は誘導加熱された調理鍋7から赤外線放射を吸収することおよび接触熱伝導とで加熱される。図20実線(細線)に示すように、トッププレート2は0.4μm〜2.5μmの波長の光を80%以上透過し、3μm〜4μmの波長の光を25%程度透過し、4μmよりも長い波長、及び、0.4μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。
放射エネルギーが物質表面に入射すると、その一部ρは反射され、一部αは吸収され、残りτは透過する。これらの量の間には、エネルギー保存則からρ+α+τ=1が成立する。トッププレート2上に調理鍋7が置かれた状態では、調理鍋7の赤外線放射エネルギーのトッププレート2での反射はほとんどゼロとみなせるため、トッププレート2では吸収率α+透過率τ=1が成立していると見てよい。キルヒホフの法則より吸収率α=放射率εであるため、トッププレート2は調理鍋7からの赤外線放射エネルギーのうち、0.4μm〜2.5μmの波長では80%以上透過し、残り20%を吸収しこれを放射する。また、3μm〜4μmの波長では25%程度透過し、残り75%を吸収しこれを放射する。4μmよりも長い波長、及び、0.4μmよりも短い波長ではほとんど透過せず、すべてを吸収してこれを放射する。熱伝導で加熱された分も同様である。波長4μm以上では熱伝導加温の赤外線エネルギーはほとんどトッププレート2表面から放射される。
このため、サーモパイル25を使用して、トッププレート2上の調理鍋7の温度を検出する場合にはトッププレート2自身の加熱が放射する赤外線が問題となる。例えばサーモパイル25に付属するレンズ48の透過波長が1〜15μmであれば、トッププレート2が放射する4μmよりも長い波長の赤外線によってサーモパイル25の出力が大きく影響を受け、トッププレート2上の調理鍋底の温度を正確に検出できないことになる。トッププレート2を透過する鍋の放射赤外線エネルギーは1μm〜2.5μmの約2μmの帯域、これに対しトッププレート2自身が放射する赤外線エネルギーは4μm〜15μmの約10μmの帯域であり、同じ温度であればサーモパイル出力のうち、調理鍋7の温度による分の5倍がトッププレート2の温度によることになる。
本実施例では、上記を防止するためサーモパイル25で構成される鍋温度検出装置18の赤外線センサケース29に、赤外線を透過させるためのケース窓30を開け、このケース窓30にトッププレート2を構成する非結晶化ガラスを薄く切り出したものを光学フィルタ31として嵌め込んである。そして、サーモパイル25に入射する赤外線の内トッププレート2が放射する分を除去する。トッププレートが放射する波長4μm以上の部分はトッププレート2と同じ透過特性を持つ光学フィルタ31の光学特性によってサーモパイル25への入射が阻止される。
光学フィルタ31をトッププレート以外の材料で作成しても良いが、図19で実線に示すような急峻で特殊な特性を示す光学フィルタを作成するのは非常に困難で高価なものになる。
また、光学フィルタに結晶化ガラスを用いた場合、結晶化ガラスではトッププレートが放射する波長4〜5μm分の赤外線が赤外線センサに熱外乱として入射することになり、鍋温度の検出誤差要因となることから、光学フィルタとトッププレートは同じ材質で構成することが望ましい。
サーモパイル25のレンズ48として波長1μm以下の透過率がトッププレートより低い光学特性のガラス(図20に実線(太線)破線で示す)を用いている。可視光線は0.38〜0.8μmの波長特性を有することから、レンズの光学特性により照明や太陽などの可視光線の遮光効果を得られる。サーモパイルに可視光線が入射した場合、調理鍋7の温度上昇に係わらずサーモパイル出力は増加してしまうため、鍋温度を正しく検出できない。誘導加熱調理器での鍋温度検出において、可視光線の遮光効果を付与する鍋温度の検出手段は必要となる。
調理中にサーモパイル25の検出する赤外線エネルギーは、検出対象である(1)調理鍋からの赤外線エネルギーの他に、(2)トッププレート2からの赤外線エネルギー、(3)センサ視野筒19内壁からの赤外線エネルギー、(4)光学フィルタ31からの赤外線エネルギー、(5)その他部材からの赤外線エネルギーが重畳されたものであり、サーモパイル25はこれらの赤外線エネルギーに比例した電圧を生じる。そして、正確に鍋温度を検出するためには特に(2)トッププレートからの赤外線エネルギーによる電圧を減算する必要がある。
(3)項はサーモパイル25の視野特性を半値角10度に狭め、内壁の温度は冷却風で動作中60℃以下に保たち、(4)項は鍋温度検出装置18を冷却風路内に配置しているため、その温度は40℃以下に抑えられサーモパイルに入射する熱外乱となる赤外線エネルギーを低減している。(5)項も(4)項同様である。
しかし、図21で示したように、従来の結晶化ガラス製のトッププレートと光学フィルタの組合せに対して、本実施例の非結晶化ガラス製のトッププレート2と光学フィルタ31の組合せではサーモパイルに入射する調理鍋7からの赤外線エネルギーが10〜35%程度に低下することから、(3)〜(5)による熱外乱となる赤外線エネルギーの割合が大きくなる。
これに関しては、サーモパイル26をサーモパイル25と同様な受光構造を持たせることで、(3)〜(5)の温度変化により鍋温度検出装置18の周囲温度が変化する熱外乱によるサーモパイル出力の変動を防止することができる。
図22に本実施例における、各部の温度と各部が放射しサーモパイル25の赤外線吸収膜43に入射する赤外線エネルギー(計算結果)の関係をまとめて示す。これは図19の分光放射エネルギーと各部材の透過特性(図20に示す)を用いて計算したものである。各部の温度は調理中に到達する温度範囲のみ図示している。
調理中の各部材の代表的温度、例えば300℃の鍋(黒体)からの入射エネルギーを1とすると、200℃(300℃長時間加熱中でもトッププレート2(ガラス)の熱伝達率が低く200℃程度までしか上がらない。短時間では更に低い温度である。)のトッププレートからのそれは1/6、80℃のセンサ視野筒からのそれは1/120、40℃の光学フィルタ31からのそれは1/60となる。鍋の放射率が例えば0.25となれば、前述鍋からの入射エネルギー1は1/4となり、他の部材特にトッププレート2からの入射エネルギーとあまりかわらなくなる。つまり、低温での鍋温度検出に対する外乱として無視できなくなることがわかる。
図23に部屋が常温25℃の状態で鍋底として黒体を図3の実施例の赤外線透過窓5に置いた場合の、黒体温度Tと赤外線検出回路72出力端子72−2の出力電圧Vの関係を示す。黒体はトッププレートが加熱されない程度の短時間戴置した場合であり、センサ視野筒19、光学フィルタ31の温度上昇もない。つまり、これは前述(1)項の調理鍋からの入射赤外線エネルギーのみをサーモパイル25で電圧に変換し赤外線検出回路72で増幅出力したものである。
出力電圧Vは常温から100℃まではほぼ0.5Vであり、100℃を越えると温度(絶対温度)のべき乗に比例した電圧が出力される。
0.5Vは赤外線検出回路72の電源電圧(5V)を抵抗R5、R6、R7で分圧した電圧(図11/図15中のa/b点で示す)0.5Vがオペアンプ72−1のバイアス電圧Vbiasとして与えてあるためである。出力端子72−2の出力電圧値からこの0.5Vを引いた値(0.5Vからの電圧上昇値)が鍋底面温度に比例したものである。マイクロコンピュータ60は赤外線検出回路72の出力端子72−2の出力電圧VをAD変換して読み込むが、この電圧から0.5Vを引いた値である鍋温度検出電圧Vt(=V−0.5)をもとに後述処理し鍋温度を得る。図23の関係は予めマイクロコンピュータ60のROMにテーブルデータTBLnとして記憶しておく。これがサーモパイル25出力すなわち鍋温度検出回路72出力電圧からから鍋温度を求めるデータテーブルである。
図24にトッププレート2のみを加熱したときのトッププレート温度Ttと赤外線検出回路72出力端子72−2の出力電圧Vの関係を示す。但し前述の0.5Vを引いた値で示してある。鍋が置かれていないトッププレート2のセンサ窓5近傍を熱風で加熱した時のトッププレート温度Ttと赤外線検出回路72出力端子72−2の出力電圧Vの関係を示す。このとき、センサ視野筒19、光学フィルタ31が加熱されないようにする。つまり、これはトッププレート2からの放射赤外線エネルギーを電圧に変換したものである。図24の関係は予めマイクロコンピュータ60のROMにテーブルデータTBLtとして記憶しておく。
鍋温度検出装置18に内蔵されるフォトインタラプタ27を図8に示すように配置するとトッププレート2上に調理鍋がない場合、赤外線LED50の放射した赤外光(波長930nm)は大部分が光学フィルタ31およびトッププレート2を透過し赤外線フォトトランジスタ51には戻ってこない。しかし、一部は光学フィルタ31およびトッププレート2で反射される。これは光学フィルタ31およびトッププレート2の透過率が波長930nmで85%および90%であり、残り15%および10%の赤外光は反射されるためである。特に光学フィルタ31で反射される分はすぐ横にある赤外線フォトトランジスタ51に直接戻るため、本実施例では図8に示すように、フォトインタラプタ26前面を光学フィルタ31下面に接するように配置してこの反射光が赤外線フォトトランジスタ51に入射するのを防止している。また、赤外線LEDの放射角度のため、トッププレート下面に到達せず経路途中にある物体(センサ視野筒19内面)で反射される赤外光もある。
このため、反射率検出回路73の出力は、トッププレート上に鍋がある場合(a)Vr1となり、鍋がない場合(b)Vr2となる。正味の鍋での反射電圧VrはVr=Vr1−Vr2となる。
トッププレート上に反射率が既知の金属板を配置したときの反射率検出回路73の出力から得られる先の反射電圧Vrと反射率の関係を図25に示す。図中に近似線も示す。この関係を用いれば、反射率検出回路73の出力電圧から反射率が得られる。そして、この関係をテーブルデータにあるいは近似式の係数値をあらかじめマイクロコンピュータ60のROMに記憶しておく。
調理鍋のような金属物質ではキルヒホフの法則により温度Tの物質表面から放射される赤外線エネルギー(E=εσT4)の放射率εと表面の反射率ρの間にはε+ρ=1の関係が成立する。(透過率α=0とする)調理鍋では放射率の違いにより同じ鍋底温度でありながら、放射される赤外線エネルギーが異なる。このため、サーモパイル出力すなわち鍋温度検出装置18の出力が異なるという問題が生じる。そこで調理鍋底の反射率を検出して放射率を求め鍋温度検出装置18の出力を補正してから温度に換算する必要がある。これを行うために先に説明した反射率に相当する量である反射電圧Vrを求め、これから反射率を得るのが反射率検出回路73である。この反射率を1から引いて放射率を得る。
図26にトッププレート2に置かれた放射率の異なる数種の鍋について、鍋温度検出装置18の出力(赤外線検出回路72の出力V)から前述した0.5Vのバイアス電圧Vbiasを引いた値Vt(鍋温度検出電圧)と鍋底面温度Tとの関係の一例を示す。図中に各鍋底面の放射率も示す。放射率によって鍋温度検出装置18の出力と鍋底温度の関係が異なることがわかる。図26の(a)で示す鍋は放射率が0.9と黒体に近い。(b)は放射率が0.57、(c)は0.43、(d)は0.24である。(b)、(c)、(d)の電圧値を放射率で除算すると、図中に破線でしめすものとなり、ほぼ1本の曲線に集約することができることが分かる。各出力Vt1は各鍋の全放射エネルギー(E′=εσT4)に比例し、これを放射率で除算するのは、前述したように黒体の全放射エネルギー(E=σT4)に換算することを意味する。そして、各鍋の放射率が分かれば、各鍋の鍋温度を黒体の放射温度に還元できることを意味している。
図27に、各鍋において放射温度計を用いて計測した放射率と図3で反射率検出回路73を用いて得た反射率の関係を示す。鍋によってキルヒホフの法則からはずれるものもあるが、放射率と反射率の間には強い相関がある。キルヒホフの法則から外れるのは反射率の検出において、鍋表面での散乱による反射赤外線の全てを受光していないためである。
反射率を求める際には、赤外線LED50の放射光がトッププレート2になるべく垂直に入射させ、鍋での反射光をなるべく垂直にフォトトランジスタ51に導くのが望ましい。本実施例では鍋温度検出装置18内のサーモパイル25のトッププレート2上位置での視野面とこの反射率検出発光のトッププレート2上での反射面は同一面である。このため、図7に示すように鍋温度検出装置18内にサーモパイル25と反射型フォトインタラプタ26を並べて配置している。
以下では、本実施例の動作について、手前右側の円表示4に調理鍋7を置き、所定温度で所定時間調理鍋を加熱して調理を行う場合として説明する。図28にこの動作のフローチャートを示す。図示していない電源を投入し、調理鍋7を置いた誘導加熱口の操作スイッチで所定の温度および調理時間を設定し(ステップS1)調理開始を指示すると(ステップS2)、マイクロコンピュータ60はまず反射率検出回路73を制御して載置された鍋の反射データ(反射率に相当)を取り込み、反射率(放射率)を検出する(ステップS3)。同時に加熱コイル7およびインバータ回路8等を冷却するため、図示しないファンを駆動して冷却風路15a、15bおよび16a、16bに外気を導入する。
ここで反射率を検出するステップS3を図29に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。マイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の端子73−2にポートから赤外線LED駆動信号を出力する(ステップS3−1)。所定時間例えば200ms出力した後(ステップS3−2)、端子73−8に出力される電圧Vr2をAD端子より読み込む(ステップS3−3)。そして、赤外線LED駆動信号を停止する(ステップS3−4)。次に予め記憶されている鍋が置かれていない時の電圧Vr1を先に読み込んだ電圧Vr2から引き反射電圧Vrを算出する(ステップS3−5)。そして、予め記憶されている反射電圧と反射率の関係(図25に示す)から反射率ρから放射率ε(=1−反射率)を得る(ステップS3−6)。
反射率検出ステップS3に続いて、電力制御回路62、周波数制御回路61、インバータ回路9を制御して加熱コイル8に電力を供給し誘導加熱を開始する(ステップS4)。加熱コイル8に電力が供給されると、加熱コイル8から誘導磁界が発せられ、トッププレート2上の調理鍋7が誘導加熱される。この誘導加熱によって調理鍋7の温度が上昇し、調理鍋7内の被加熱物の調理が開始される。マイクロコンピュータ60は誘導加熱を開始すると、一定時毎に鍋温度検出装置18の出力を読み込み、鍋温度を検出する(ステップS5)。
ここで、鍋温度検出動作(ステップS5)を詳細に説明する。図30に鍋温度検出のフローチャートを示す。マイクロコンピュータ60は鍋温度検出装置18(赤外線検出回路72)の出力端子72−2の出力電圧Vを読み込み(ステップS5−1)、この値から設計Vbias=0.5V(定常室温25℃で設計した値)を引きこれを鍋温度検出電圧Vtとする(ステップS5−2)。
同時にサーミスタ20とサーミスタ温度算出回路73からトッププレート2の温度Taを読み込む(ステップS5−3)。そして、前述した予めテーブルTBLtとして記憶してあるトッププレート温度Ttとサーモパイル温度検出回路72の出力V(端子72−2)の関係から温度Taでの出力電圧Vaを得る(ステップS5−4、トッププレート温度補償電圧取得の動作)。
続いて先の鍋温度検出電圧Vtから前記Vaを減算する(ステップS5−5)。この処理により外乱としてのトッププレート2からの赤外線量を除去する。この減算後の電圧をVtとする(減算によるトッププレート温度補償の動作)。
そして、誘導加熱直前に得ておいた放射率ε(=1−反射率)で、この減算後の鍋温度検出電圧Vtを除算する(ステップS5−6)(反射率補正の動作)。除算後のVtに前述Vbias=0.5Vを加算し(ステップS5−7)、予め温度変換テーブルTBLnとして記憶してあるVtと鍋温度Tの関係であるデータテーブルを引いて(ステップS5−8)、鍋温度に変換し鍋温度Tを得る。
ここで、オーブン庫6で調理中であり、鍋温度検出装置18Lの周囲温度が上昇中であると仮定する。この時、図14に示したように従来の赤外線検出回路(図11)では、出力値が減少している(温度変化で減少して低くなっているバイアス電圧に入射した赤外線に比例した電圧が加算されるため)上述のVt(=読み込んだ出力値−設計の定常25℃でのバイアス電圧0.5V)値は通常より低くなる。この結果、検出鍋温度は常温時よりその分低く検出されることになる。周囲温度が下降中では、この逆に検出鍋温度は常温時よりその分高く検出されることになる。図15に示す本実施例の回路では周囲温度の変化中でも赤外線検出出力は変動しないため上述鍋温度誤差は生じない。
鍋温度検出動作(ステップS5)で検出した鍋温度Tが所定温度に達していなかったら、更に鍋温度検出動作(ステップS5)を行いながら誘導加熱を続ける(ステップS6)。続いて鍋温度Tが所定温度に達したら、異常加熱のチェックを行う(ステップS7)。これは空焚き等で鍋温度が急上昇し、油の発火温度に達したら危険であるので鍋温度が330℃を超えた場合は誘導加熱を停止する(ステップS12)。
鍋温度Tが所定温度に達したら、誘導加熱の電流を低減し(ステップS8)、調理時間タイマーをセット(ステップ9)する。
続いて一定時毎の鍋温度検出(ステップS5)を行い、鍋温度をチェックしながら(ステップS6)、異常加熱のチェック(ステップS7)も行い、加熱コイル7に供給する電流を所定量減増減させて(ステップS8、S10)、鍋温度を一定(Tc)に保つ。そして、所定の調理時間が経過したら(ステップS11)、調理終了をブザーで使用者に報知して、加熱コイル8への電力投入を停止する(ステップS12)。こうして、調理鍋7の被調理物は設定された温度および時間で調理される。ここでも、調理中に空焚き(水分がなくなり)となり、鍋温度が急上昇し、油の発火温度に達したら危険であるので異常加熱チェック(ステップS7)を行い、熱鍋温度が330℃を超えた場合は誘導加熱を停止する(ステップS12)。
なお、放射率を算出する過程(ステップS5−6)と鍋温度検出電圧Vtを放射率で除算する過程(ステップS5−7)の代わりに、予め倍率a=1/放射率(a=1/ε)の値(1以上の値になる)と反射率(あるいは反射電圧Vr)の関係をテーブルとして記憶し、反射率(あるいは反射電圧Vr)から前記テーブルで倍率aを得て、Vtに倍率を乗算したのち、データテーブルTBLnを引いて鍋温度を出力してもよい。こうすれば、マイクロコンピュータの処理時間を要する除算を使用しなくてすみ処理の高速化が図れる。
以上の説明では反射率検出を誘導加熱直前に1度だけ行う例を示したがこれに限ることはない。通常の鍋では誘導加熱中(温度が高温になっても)反射率は変化しない。また、赤外線発光LEDでは長時間連続発光において寿命の問題がある。本説明ではこれらの点を考慮して1調理につき誘導加熱直前の1回の反射率検出に限定した。当然、発光電流を低減して調理中に一定周期例えば2秒毎に反射率検出を行っても良い。温度検出は直前の反射率(放射率)を用いて補正処理(ステップS5−5)を行う。特に薄手の鍋では高温による鍋底変形で反射率が変化することもある。さらに、色塗装を底面に施した鍋では、高温で塗装が変性し反射率が変化することもある。この場合には加熱中でも定期的に反射率検出を行うのが望ましい。この場合当然磁場の影響を避けるために、実施例のように非磁性金属体で反射型フォトインタラプタ26および反射率検出回路73を囲うのが望ましい。
また、調理中に鍋を別の鍋に交換する場合もある。この時反射率は当然変化する。この場合には今ある鍋を退かした時点で鍋温度検出装置18の検出する電圧が急激に低下する。そして、別温度の鍋を置いた時点で鍋温度検出装置18の検出する電圧はこの鍋底面温度に対応する値に復帰する。この変化を捉え再度反射率の検出するのが望ましい。
なお、定常時での温度検出素子として、サーモパイル25に内蔵されるNTCサーミスタ45を用いたがこれに限ることはない。基板上に設けたNTCサーミスタであっても良いのは明らかである。またNTCサーミスタに限らず、半導体素子例えばダイオードの順方向電圧の変化を用いる温度検出素子でも良い。
上記より、トッププレート2に非結晶化ガラスを用いても、鍋温度検出装置18の周囲温度が急変する過渡時の温度変動を生じる条件においも、鍋放射赤外線検出用赤外線センサ(サーモパイル25)と温度変化補償用赤外線センサ(サーモパイル26)を組合せた構成の鍋温度検出装置18により、調理鍋7の温度を精度良く検出することがでる。