聴取者が、音響信号(電気信号)に基づいて音楽(音)を聴く場合には、一般的にスピーカが用いられる。スピーカは、音響信号を空気振動(物理振動)へと変換させる機能を備えている。一般的なスピーカでは、コーン型と呼ばれるスピーカ構造が用いられている。
図4は、コーン型スピーカの一例を示した側方断面図である。スピーカ100は、図4に示すように、ヨーク40とプレート41と磁石42とを有する磁気部43と、コーン44とボイスコイルボビン45とを有する振動部46と、フレーム47とを備えている。フレーム47は、磁気部43が固定される底面部47aと、エッジ48を介してコーン44の外周縁が揺動可能に取り付けられる枠部47bとを有している。ボイスコイルボビン45の磁気部43側の端部には、ボイスコイル50が巻設されている。ボイスコイル50に音響信号を入力させることにより、音響信号に応じてボイスコイルボビン45が振動される。音響信号に応じてボイスコイルボビン45が振動されることによって、コーン44から音響信号に応じた空気振動が発生されて、スピーカ100から音が出力される構造になっている。
このようなスピーカ100を用いてステレオの音楽等を聴く場合には、Rチャンネル用のスピーカと、Lチャンネル用のスピーカとを用いることが多い。Rチャンネル用のスピーカより右側用の音を出力させると共に、Lチャンネル用のスピーカから左側用の音を出力させることによって、聴取者に臨場感のあるステレオの音響環境を提供することが可能になる。
理想的なステレオの音響環境を構築するためには、Rチャンネル用のスピーカとLチャンネル用のスピーカとを左右にバランス良く設置して、障害物等によりスピーカからの出力音が阻害されない環境を実現することが好ましい。しかしながら、スピーカが設置される環境は、さまざまな制限を受けることが多く、理想的な音響環境を実現することは容易ではない。
例えば、車両にスピーカが設置される場合には、図5(a)に示すように、Rチャンネル用のスピーカ61,62は右側ドア65,65に設置され、Lチャンネル用のスピーカ63,64は左側ドア66,66に設置されることが多い。このようにして設置された左右のスピーカ61〜64からステレオ音の出力を行った場合には、聴取者がどの席に着座した場合であっても、左右のスピーカ61〜64から聴取者までの距離に差が生じる。この距離差により、スピーカ61〜64からの出力音に位相差が生じることになるので、聴取者がステレオ感を感じ難くなるという問題があった。
このため、図5(b)に示すように、Rチャンネル用のスピーカとLチャンネル用のスピーカとを組み込んで一体にしたスピーカ67を構成して、各聴取者の着座位置正面に設置する方法が提案されている。このように、左右チャンネル用のスピーカを一体にしたスピーカ67を設置することによって、スピーカ67の設置スペース・設置レイアウトに対する制限を低減させることができる。また、ステレオ音による効果的な音響環境を、聴取者に提供することが可能になる。
図6(a)(b)は、左右チャンネル用のスピーカを一体に構成したスピーカの一例を示している。図6(a)(b)に示すように、左右チャンネル用のスピーカを1つのフレーム71を用いて1つのスピーカ70にまとめることにより、構成の簡略化と省スペース化を図ることが可能になる。
図6(a)(b)に示すスピーカ70では、フレーム71の正面側(図6(b)におけるスピーカの上側)にコーン75を設置するための開口部73が2つ設けられており、それぞれの開口部73には、エッジ74を介してコーン75が取り付けられている。また、コーン75に取り付けられるボイスコイルボビン76が、ダンパー77を介してフレーム71に取り付けられ、さらに、ボイスコイルボビン76の下端部近傍(図6(b)におけるスピーカの下側の端部)に磁気部78が配置されてフレーム71に固定される構成になっている。
このようにスピーカ70を構成することにより、右側のコーン75によって(より詳細には、磁気部78やボイスコイルボビン76等の協働により)Rチャンネル用の音響出力を実現し、左側のコーン75によってLチャンネル用の音響出力を実現することが可能になる。
ところで、図6(a)(b)に示した構造のスピーカ70を車両に設置する場合には、スピーカの設置スペース等の関係から、スピーカ70の小型化を図る必要性が生じる。一方で、スピーカ70を小型化すると、コーン75の口径(コーン75の面積)も小さくなる傾向がある。一般的に、小口径(小面積)のスピーカでは、低域音の出力(生成)性能が劣ってしまう傾向があり、十分な低域音の出力を実現することが容易ではないという問題があった。
一方で、低域の音響出力性能を高めるためには、コーンの面積を大きくすることが有効である。コーンの面積を大きくすることにより、コーンの振動面積を広くすることができるので、コーンの動きに連動させてより多くの空気を振動させることができ、低域音の出力性能を向上させることが可能になる。
図7(a)(b)は、図6(a)(b)に示したスピーカにおいて、左右それぞれに分かれていた2枚のコーン75を、1枚にまとめて用いたスピーカを示している。図7(a)(b)に示すスピーカ80では、フレーム81の正面側(図7(b)におけるスピーカの上側)に、可能な限り大口径(大面積)となる1つの開口部82が形成されている。開口部82には、エッジ84を介して1枚のコーン85が取り付けられている。1枚のコーン85の裏面であって長手方向に対して左右対象になる位置には、一対の(2つの)ボイスコイルボビン86が設けられている。さらに、左右のそれぞれのボイスコイルボビン86に対応して、左右それぞれの磁気部87(ヨーク90,磁石91、プレート92)が、フレーム81に取り付けられている(例えば、特許文献1(段落0017〜段落0030、第1図〜第3図)参照)。
図7(a)(b)に示すスピーカ80では、図6(a)(b)に示すスピーカに比べて、コーンの面積が広くなるため、結果的にコーン85の口径(面積)が大きくなり、低域音の音響出力性能の向上を図ることが可能になる。
図7(a)(b)に示したスピーカ80を用いる場合、通常は、左右一対に設置されるボイスコイルボビン86のボイスコイル89に対して、同じチャンネル用の音響信号が入力される構造(図7(b)では、一例として、Rチャンネル用の音響信号(Rチャンネル信号)がアンプ(AMP)から入力される構造)になっている。
それぞれのボイスコイル89に同じチャンネルの音響信号が入力される場合には、ボイスコイルボビン86が、音響振動に応じて、コーン85の表裏方向(以下、上下方向と称する。)に、ほぼ同じ振動幅であってほぼ同じタイミングで振動することになる。このため、左右のボイスコイルボビン86は、左右の磁気部87に対して、ほぼ同じ振幅であってほぼ同じタイミングで、上下方向(表裏方向)に振動することになる。従って、ボイスコイルボビン86が振動する場合には、ボイスコイルボビン86の端部およびボイスコイル89と、ヨーク90あるいはプレート92(または磁石91)との側方の間隔(詳細には、上述した上下方向に直交する方向における間隔、以下、左右方向の間隔と称する)が一定に保たれた状態で、振動することになる。
一方で、図7(a)(b)に示した構造からなるスピーカ80において、右側のボイスコイル89に対してRチャンネル用の音響信号を入力させ、左側のボイスコイル89に対してLチャンネル用の音響信号を入力させることによって、1つのスピーカ(厳密には、1つのコーン)で、ステレオ音の出力(再生)を行いたいという要望が存在する。このようにしてステレオ音の出力を行うことができれば、1つのスピーカでステレオ音の出力が可能になるだけでなく、スピーカの小型化を実現しつつ、低域音を再生することが可能な大口径(大面積)のコーンを備えたスピーカ構造を実現することが可能になる。
しかしながら、図8(a)(b)に示すように、右側のボイスコイル89にRチャンネル用の音響信号を入力させ、左側のボイスコイル89にLチャンネル用の音響信号を入力させると、左右のボイスコイルボビン86の振動状態が、入力される音響信号によって異なるため、コーン85の上下方向への振動が右側のボイスコイルボビン86と左側のボイスコイルボビン86とで異なった振動状態になってしまう場合があった。このように、左右のボイスコイルボビン86の振動状態が異なると、図8(b)に拡大して示したように、コーン85の傾きに応じて、ボイスコイルボビン86の端部(およびボイスコイル89)と、ヨーク90との間隔(左右方向の間隔)、あるいはプレート92(または磁石91)との間隔(左右方向の間隔)が、一定に保たれなくなってしまうおそれがある。このため、ボイスコイルボビン86の端部(またはボイスコイル89)が、ヨーク90あるいはプレート92(磁石91)に干渉して内部こすれが発生するおそれがある。内部こすれが発生すると、スピーカ80から異音が発生するおそれがあるという問題があった。
また、スピーカ80の出力音量を制限することによって、コーン85の傾きを抑制して、内部こすれの発生を抑えることも考えられる。しかしながら、スピーカ80の出力音量を制限してしまうと、スピーカ80の本来の性能を十分に発揮することができないという問題が生じてしまう。この問題は、図9に示すように、フレーム81に対して強固な筐体93を取り付けてフレーム81を支持すると共に、筐体93の底面に磁気部87を固定する場合であっても、同様に生じ得るものであった。
さらに、図7および図8に示すように、フレーム81の開口部82に設けられた1枚のコーン85に対して、2つのボイスコイルボビン86および2つの磁気部87を設ける構造はもちろんのこと、1枚のコーン85に対して、1つのボイスコイルボビン86(振動部)および1つの磁気部87が設けられる構造のスピーカに対しても、スピーカの小型化に対する要求が高まっている。特に、車室内に設置されるスピーカに対しては、スピーカの薄型化および構造の簡略化が望まれていた。
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、第1の課題として、コーン型スピーカにおける薄型化および構造の簡略化を実現することが可能なスピーカを提供することを課題とする。また、第2の課題として、スピーカの小型化・省スペース化を図りつつ、可能な限りコーンの口径を大きく確保し、さらに、音量を抑制することなくステレオ音の出力を行うことが可能なスピーカを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明に係るスピーカは、開口部が形成されたフレームと、前記開口部に取り付けられたコーンと、該コーンの裏面に対して裏面方向に延設されたボイスコイルボビンと、該ボイスコイルボビンの端部に巻設されたボイスコイルと、前記コーンの裏面であって、前記ボイスコイルボビンが取り付けられた位置の外側部分に設けられた基礎部と、前記ボイスコイルボビンの前記端部から側方に一定の間隔を確保した状態で、ダンパーを介して前記基礎部に揺動可能に取り付けられた磁気部とを備えることを特徴とする。
本発明に係るスピーカによれば、コーン裏面に基礎部が設けられ、この基礎部に対してダンパーを介して磁気部が揺動可能に取り付けられるため、従来のスピーカのように、コーンの裏面側をフレームの底面で覆って、あるいは、フレームの端部をコーンの裏面側に延伸させて、磁気部をフレームで支持する(フレームに固定する)必要性がなくなる。このため、スピーカの薄型化を図ることが容易となり、スピーカの設置スペースに対する制約を低減することが可能になる。
また、磁気部は、基礎部およびダンパーを介してコーンに取り付けられているため、ボイスコイルボビンの上下動に伴って生ずるコーンおよび基礎部の振動は、ダンパーによって調整された後に磁気部に伝達されることになる。ここで、ダンパーを介して磁気部が基礎部に取り付けられているので、コーンおよび基礎部の振動に伴って、磁気部が基礎部に連動して上下動等をすることはあっても、磁気部が基礎部に対して大きく位置関係を変動させたり(例えば、基礎部に対して磁気部が斜めに位置を変えたり)することはない。さらに、ダンパーが設けられているので、磁気部が基礎部に取り付けられる構造であっても、基礎部の振動が磁気部によって阻害されることはなく、基礎部の振動に影響を与えることもない。
また、基礎部およびボイスコイルボビンはコーンに取り付けられているので、ボイスコイルボビンが上下動することによって、基礎部およびコーンは、ボイスコイルボビンに連動して上下動する。ここで、基礎部には、ダンパーを介して磁気部が取り付けられており、ダンパーが磁気部に対する基礎部の振動を調整するので、基礎部と連動して上下動するコーンおよびボイスコイルボビンの上下動は、磁気部が基礎部に取り付けられることによって阻害されることはない。
また、磁気部はダンパーを介して基礎部に取り付けられており、ダンパーによって振動が調整されるので、磁気部が基礎部に対して斜めに位置を変動させたりすることがない。このため、基礎部がボイスコイルボビンに連動して上下動を行う場合、磁気部は、ボイスコイルボビンの端部から側方に一定の間隔を維持した状態で、ボイスコイルボビンに連動して上下動を行うことになる。従って、ボイスコイルボビンが上下動を行う場合において、ボイスコイルボビンの端部あるいはボイスコイルが、磁気部に接触(内部こすれ)してしまうことを防止することができる。
また、本発明に係るスピーカは、1つの開口部が形成されたフレームと、前記開口部に取り付けられた1枚のコーンと、該コーンの裏面に複数配設されて、裏面方向へ延設された複数のボイスコイルボビンと、それぞれの前記ボイスコイルボビンの端部に1つずつ巻設された、複数のボイスコイルと、前記コーンの裏面であって、前記ボイスコイルボビンのそれぞれが取り付けられた位置の外側部分に、それぞれの前記ボイスコイルボビンに対応づけて1つずつ設けられた複数の基礎部と、それぞれの前記ボイスコイルボビンの前記端部から側方に一定の間隔を確保した状態で、それぞれの前記基礎部に対してダンパーを介して揺動可能にそれぞれ取り付けられた複数の磁気部とを備えることを特徴とする。
また、上述したスピーカは、複数の前記ボイスコイルの中のいずれか一のボイスコイルに入力される音響信号が、いずれか他のボイスコイルに入力される音響信号と異なる信号であってもよい。
本発明に係るスピーカによれば、磁気部は、基礎部およびダンパーを介してコーンに取り付けられているため、ボイスコイルボビンが上下動する状態において、磁気部の動きは、ダンパーによって調整されることになる。従って、基礎部を介して磁気部がコーンに取り付けられる構造であっても、磁気部によって、ボイスコイルボビンの上下動が阻害されることはない。
さらに、磁気部が、基礎部およびダンパーを介してコーンに取り付けられているので、ボイスコイルボビンの上下動に連動して磁気部が上下動する。ここで、磁気部は、ダンパーを介して基礎部に取り付けられており、磁気部が基礎部に対して斜めに位置を変動させたりすることがない。このため、ボイスコイルボビンは、磁気部との間隔を一定に維持した状態で、音響信号に応じて上下動することになり、ボイスコイルボビンの端部が、磁気部と接触(内部こすれ)してしまうことを防止することができる。
特に、複数のボイスコイルのうち、いずれか一のボイスコイルに入力される音響信号が、他のボイスコイルに入力される音響信号と異なる場合には、一のボイスコイルボビンの上下動と、他のボイスコイルボビンの上下動とが、入力される音響信号によって異なる動きになってしまうおそれがある。
しかしながら、各ボイスコイルボビンが異なる上下動になる場合であっても、それぞれの磁気部は、それぞれの基礎部を介してコーンに取り付けられているので、それぞれのボイスコイルボビンの上下動に連動してそれぞれの磁気部が上下動することになる。このため、基礎部に揺動可能に取り付けられた磁気部に対し、各ボイスコイルボビンは、それぞれの磁気部との間隔を一定に維持した状態で、音響信号に応じて上下動することになる。従って、それぞれボイスコイルに異なる音響信号が入力される場合であっても。それぞれのボイスコイルボビンが、磁気部と接触(内部こすれ)してしまうことを防止することができる。このように、複数のボイスコイルボビンおよびボイスコイル等が、1枚のコーンに設けられた構造からなるスピーカに対して、それぞれ異なる音響信号を入力させる場合であっても、異なる音響信号に基づく音響出力を実現することができ、ステレオ出力を行うことが可能になる。
また、1つのコーンに対して複数のボイスコイルボビン、基礎部、磁気部等が設けられるので、複数のコーンに対してボイスコイルボビン、基礎部、磁気部等がそれぞれ1つずつ設けられる場合に比べて、コーンの口径(コーンの面積)を大きく確保することが可能になる。このため、本発明に係るスピーカでは、従来のスピーカ(図6(a)(b)参照)に比べて、低域音の再生能力を高めることが可能になり、広い帯域の音声出力を1つのスピーカで実現することが可能になる。
本発明に係るスピーカによれば、コーン裏面に基礎部が設けられ、この基礎部に対してダンパーを介して磁気部が揺動可能に取り付けられるため、従来のスピーカのように、コーンの裏面側をフレームの底面で覆って、あるいは、フレームの端部をコーンの裏面側に延伸させて、磁気部をフレームで支持する(フレームに固定する)必要性がなくなる。このため、スピーカの薄型化を図ることが容易となり、スピーカの設置スペースに対する制約を低減することが可能になる。
また、磁気部は、基礎部およびダンパーを介してコーンに取り付けられているため、ボイスコイルボビンの上下動に伴って生ずるコーンおよび基礎部の振動は、ダンパーによって調整された後に磁気部に伝達されることになる。ここで、ダンパーを介して磁気部が基礎部に取り付けられているので、コーンおよび基礎部の振動に伴って、磁気部が基礎部に連動して上下動等をすることはあっても、磁気部が基礎部に対して大きく位置関係を変動させたり(例えば、基礎部に対して磁気部が斜めに位置を変えたり)することはない。さらに、ダンパーが設けられているので、磁気部が基礎部に取り付けられる構造であっても、基礎部の振動が磁気部によって阻害されることはなく、基礎部の振動に影響を与えることもない。
また、基礎部およびボイスコイルボビンはコーンに取り付けられているので、ボイスコイルボビンが上下動することによって、基礎部およびコーンは、ボイスコイルボビンに連動して上下動する。ここで、基礎部には、ダンパーを介して磁気部が取り付けられており、ダンパーが磁気部に対する基礎部の振動を調整するので、基礎部と連動して上下動するコーンおよびボイスコイルボビンの上下動は、磁気部が基礎部に取り付けられることによって阻害されることはない。
また、磁気部はダンパーを介して基礎部に取り付けられており、ダンパーによって振動が調整されるので、磁気部が基礎部に対して斜めに位置を変動させたりすることがない。このため、基礎部がボイスコイルボビンに連動して上下動を行う場合、磁気部は、ボイスコイルボビンの端部から側方に一定の間隔を維持した状態で、ボイスコイルボビンに連動して上下動を行うことになる。従って、ボイスコイルボビンが上下動を行う場合において、ボイスコイルボビンの端部あるいはボイスコイルが、磁気部に接触(内部こすれ)してしまうことを防止することができる。
以下、本発明に係るスピーカについて、その一例を示して詳細に説明する。
図1〜図3は、本発明に係るスピーカの概略構成を示した図を示している。図1(a)は、スピーカの正面図を示し、図1(b)、図2は、スピーカの側方断面図を示している。また、図3(a)は、スピーカの一部を拡大した断面図を示しており、図3(b)は、コーンの裏面側におけるスピーカの概略展開図を示している。
スピーカ1は、図1〜図3に示すように、フレーム2と、コーン(振動板)3と、ボイスコイルボビン4と、磁気部5と、基礎部6とにより概略構成されている。なお、ボイスコイルボビン4と、磁気部5と、基礎部6とは、2つずつスピーカ1に設けられている。
フレーム2は、中央に楕円形の開口部21が1カ所だけ形成された枠体により構成されている。開口部21は、フレーム2において可能な限り大口径となるような大きさに形成されている。また、フレーム2の四隅には、スピーカ1を取り付ける際に用いられる取り付け穴22が設けられている。例えば、図5(b)で示したように、車室内の聴取者の正面位置にスピーカを設置する場合には、インストルメントパネルや前席のヘッドレストの背面等に、取り付けが行われる。
フレーム2の開口部21には、エッジ8を介して1枚のコーン3が取り付けられている。エッジ8は、コーン3の振動を許容しつつ支持するための部材であって、振動を許容するための柔軟性を備えている。また、エッジ8は、コーン3の振動を許容しつつも、ボイスコイルボビン4、基礎部6および磁気部5を支持することが可能な強度を備えている。
コーン3は、ボイスコイルボビン4の上下動(コーン3の表裏方向の振動)に応じて振動することにより、入力される音響信号を空気振動に変換して音を出力する振動板としての役割を有している。本実施の形態に係るコーン3は、パルプ材料等により構成される従来型のコーン紙よりも強度の高い素材によって形成される。
なお,コーン3を構成する素材は、十分な強度を備えつつ振動に応じて音を出力することが可能なものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等からなる高分子系振動板材料や、炭素繊維強化プラスチック、カーボンファイバーあるいはガラス繊維強化プラスチック等からなる複合化振動板材料や、全結晶ダイヤモンド振動板やダイヤモンド振動板等からなるセラミックス系振動板材料や、アルミニウム、チタニウム、ベリリウム、マグネシウム合金等からなる金属系振動板材料等を用いることが可能である。また、パルプ材料等により構成されるコーン紙等であっても、パルプ材料の改良等により、十分な強度と振動性能を備えるものであれば、用いることが可能である。
ボイスコイルボビン4、磁気部5および基礎部6は、図1(b)、図2に示すように、コーン3の裏面側であって、コーン3の長手方向に一対を成すように、バランス良く配置される。
ボイスコイルボビン4は、コーン3の裏面であって、裏面方向へ延設されるようにして設けられている。ボイスコイルボビン4は、端部が開放された円筒形状を呈しており、ボイスコイルボビン4の下端部(コーン3の裏面方向側の端部)には、ボイスコイル9が設けられている。ボイスコイル9には、図示を省略したアンプあるいは音楽再生部より出力される音響信号が、コード線を介して入力される。なお、本実施の形態に係るスピーカ1では、一対を成すボイスコイル9のいずれか一方に、Lチャンネル用の音響信号が入力され、いずれか他方に、Rチャンネル用の音響信号が入力される構成となっている。
コーン3の裏面側であって、ボイスコイルボビン4の取り付け位置の外側部分には、端部が開放された円筒形状を呈する、基礎部6が設けられている。円筒形状を呈する基礎部6の中心軸は、ボイスコイルボビン4の中心軸と同芯をなすようにして形成されている。このようにして基礎部6が、コーン3の裏面に取り付けられることにより、コーン3の裏面に円環状の突起部が形成されることになる。基礎部6は、磁気部5を支持するために必要な強度が確保されている。
基礎部6を構成する素材としては、磁気部5を支持するために必要とされる強度を備えたものであって、さらに、裏面に基礎部6が取り付けた状態でコーン3が振動しても、基礎部6によってコーン3の振動が妨げられないものであることが望ましい。例えば、コーン3と同じ素材などを用いて基礎部6をコーン3に取り付けることにより、コーン3と基礎部6とが一体となって振動等が行われやすくなるので、コーン3の振動を、基礎部6によって妨げられ難くすることができる。なお、基礎部6は、コーン3が別部材であって、基礎部6がコーン3に取り付けられる構造であってもよく、または、基礎部6とコーン3とが一体として形成されるものであってもよい。
基礎部6の下端部(コーン3の裏面方向の端部)には、図3(a)(b)に示すように、ダンパー10が取り付けられており、このダンパー10を介して磁気部5が基礎部6に取り付けられている。ダンパー10は、柔軟性を備えた板材をくり抜き加工することにより形成されている。ダンパー10は、基礎部6の下端部に固定される大径円環部10aと、磁気部5に固定される小径円環部10bとが、略S字を呈する3つの脚部10cによって連結された構造となっている。略S字の脚部10cにより、小径円環部10bに対する大径円環部10aへの振動が振動量に応じて柔軟に許容あるいは吸収されることにより、振動の調整が行われる構造になっている。
例えば、振動が小さい場合には、基礎部6の振動が阻害されないようにダンパー10が柔軟に動いて振動を許容する一方で、振動が所定量以上大きい場合には、ダンパー10が振動を積極的に吸収することにより、過度に大きな振動が磁気部5に伝達されないようにすることができる。このようなダンパー10における振動の調整量設定は、ダンパー10を構成する素材やその強度、脚部10cの形状や寸法等によって調整・変更することが可能である。
磁気部5は、ダンパー10の小径円環部10bに取り付けられている。磁気部5は、お椀状のヨーク24と、円盤状のプレート25および磁石26とにより概略構成されている。ヨーク24の中央部には、プレート25および磁石26に対応する円盤状の台座部24aが形成されている。磁石26は、台座部24aの上に積層設置されており、さらに、その上にプレート25が積層設置されている。積層設置された磁石26およびプレート25の側面25aは、ヨーク24の椀状壁の内側面24bと対向している。磁石26およびプレート25の側面25aとヨーク24の椀状壁の内側面24bとの間には、一定間隔で間隙が形成されている。ダンパー10を介して基礎部6に磁気部5が取り付けられると、間隙に対して、ボイスコイルボビン4の下端部が挿入される。ボイスコイルボビン4の下端部には、ボイスコイル9が巻設されている。このため、ボイスコイルボビン4の下端部およびボイスコイル9は、ヨーク24の椀状壁の内側面24bと側方に一定の間隔を保ち、さらに、磁石26およびプレート25の側面25aと側方に一定の間隔を保った状態で、間隙内に配置されることになる。
このようにして構成されるスピーカ1に対して音響信号を入力すると、ボイスコイル9に入力された音響信号に応じて、ボイスコイルボビン4が上下動してコーン3が振動されて、音がコーン3の表面方向へと出力されることになる。
ここで、磁気部5は、コーン3に対して基礎部6およびダンパー10を介して取り付けられている。このため、ボイスコイルボビン4が上下動すると、コーン3の上下動に連動して基礎部6が上下動することになる。磁気部5はダンパー10を介して基礎部6に取り付けられているので、基礎部6が上下動を行った場合には、ダンパー10によって上下動が調整されることになる。従って、基礎部6を介して磁気部5がコーン3に取り付けられる構造であっても、ダンパー10によって上下動の調整が行われるので、基礎部6、コーン3およびボイスコイルボビン4の振動が、磁気部5によって阻害されることはない。
また、右側のボイスコイル9に対してRチャンネル用の音響信号が入力され、左側のボイスコイル9に対してLチャンネル用の音響信号が入力された場合には、左右のボイスコイルボビン4,4の上下動が異なる動きになるおそれもある。しかしながら、磁気部5はダンパー10を介して基礎部6に取り付けられており、ダンパー10によって振動が調整されるので、磁気部5は、基礎部6に対して斜めに位置を変動させたりすることはなく、基礎部6と連動して上下動を行う。このため、基礎部6がボイスコイルボビン4に連動して上下動を行う場合、図2に拡大して示すように、磁気部5の間隙内に配置されたボイスコイルボビン4およびボイスコイル9は、ヨーク24の椀状壁の内側面24bとの間隔、さらに、磁石26およびプレート25の側面25aとの間隔を一定に維持した状態で、音響信号に応じて上下動することになる。従って、左右のボイスコイル9に対してそれぞれ異なる音響信号(例えば、ステレオ信号)が入力される場合であって、1枚のコーン3に1対(2つ)の磁気部5が設けられる構成であっても、ボイスコイルボビン4またはボイスコイル9が、ヨーク24の内側面24b、磁石26およびプレート25の側面25aと接触(内部こすれ)してしまうことを防止することができる。
また、開口部21が、フレーム2に対して可能な限り大口径となるようにして形成されており、この開口部21に1枚のコーン3が設けられている。このような構成を採用することによって、コーン3の口径を大きくすることができるので、図6(a)(b)に示した従来のフレームのように2つの開口部が形成されるスピーカに比べて、低域音の再生能力を高めることが可能になり、広い帯域の音声出力を1つのスピーカで実現することが可能になる。
なお、コーン3が振動する場合、コーン3はボイスコイル9の変動量に応じて、コーン3全体がコーン3の表裏方向に動く「ピストン運動」と、ボイスコイル9が高速で動くことによりコーン3がうねった状態で動く「分割振動」との2種類の振動を発生させることによって、音の出力を行う。一般的に、出力音の周波数が低い場合には「ピストン運動」により音の出力が行われ、周波数が高い場合には、「分割振動」により音の出力が行われる傾向が強い。
「ピストン運動」の場合には、上述したように、コーン3全体が一体となって同一方向に動く。このため、コーン3の裏面に基礎部6(突起部)が設けられても、ピストン運動に伴って、基礎部6がコーン3と一体になって表裏方向に振動することになるので、スピーカ1における音の出力性能には影響を与えない。
また、「分割振動」に関して、基礎部6が取り付けられた部分におけるコーン3のうねり(振動)は、基礎部6が設けられていない箇所のうねり(振動)と異なる動きになる可能性がある。しかしながら、基礎部6が取り付けられた部分に対するコーン3の内側のうねりと外側のうねりとは、連動する動きになる。例えば、川の流れにおいて、狭い川幅から広い川幅へと水の流れが変化した場合には、一時的に水の速度が遅くなるが、その後に初めと同じ川幅(狭い川幅)になると、水の流れが初めの速度に戻る現象が知られている。コーン3のうねり(振動)に関しても、基礎部6の取り付け部分における振動が、この取り付け部分の内側のうねり(振動)または外側のうねり(振動)と異なる動きになる可能性はある。しかしながら、取り付け部分の内側と外側とのうねりは、連動した動き(うねり)になるため、基礎部6によってうねりの連続性が阻害されることない。このため、コーン3に基礎部6が設けられていても、分割振動によってコーン3から出力される音の出力性能(例えば、音質等)に、影響を与えることはない。
さらに、既に説明したように、磁気部5は、ダンパー10を介して基礎部6に取り付けられている。このため、基礎部6に磁気部5が取り付けられる場合であっても、ダンパー10が磁気部5の動きを調整することができる。磁気部5が、ダンパー10および基礎部6を介してコーン3に取り付けられる構造であっても、磁気部5の動きによってボイスコイルボビン4の上下動が阻害されることはないので、スピーカ1における音の出力性能を十分に確保し、機能させることが可能である。
以上、本発明に係るスピーカに関し、実施の形態に係るスピーカ1を一例として示し、図面を用いて詳細に説明を行った。しかしながら、本発明に係るスピーカは、実施の形態に示したスピーカ1の構造には限定されず、他の構造により構成されるものであってもよい。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、実施の形態に係るスピーカ1では、フレーム2に1つの開口部21が形成され、この開口部21に1枚のコーンが設けられると共に、コーン3に対して、2つ(一対)のボイスコイルボビン4、基礎部6および磁気部5が設けられる構造について説明を行った。しかしながら、ボイスコイルボビン4、基礎部6および磁気部5は、1枚のコーンに必ずしも2つずつ設けられる構造に限定されるものではない。磁気部5が基礎部6を介してコーン3に直接取り付けられる構造であるならば、1枚のコーンに対してボイスコイルボビン4、基礎部6および磁気部5が1つずつ設けられる構造であってもよく、あるいは、3つずつ以上設けられる構造であってもよい。
例えば、1枚のコーンに1つのボイスコイルボビンが設けられると共に、1つの基礎部を介して1つの磁気部が取り付けられる構造である場合には、従来のスピーカのように、フレームで磁気部を支持・固定する必要性がなくなる。このため、スピーカの薄型化を図ることが容易となり、スピーカの設置スペースに対する制約を低減することが可能になる。特に、車室内に設置されるスピーカには、スピーカの薄型化が望まれているため、設置に対する制約を効果的に低減させることができる。
また、1枚のコーンに3つ以上のボイスコイルボビンが設けられ、各ボイスコイルボビンの設置位置に対応させて基礎部がそれぞれ設けられ、それぞれの基礎部に対して磁気部がそれぞれ設けられる構成である場合には、上述したように、磁気部がダンパーおよび基礎部を介してコーンに直接設けられるので、スピーカの小型化を図ることが容易になる。
さらに、複数のボイスコイルに対して少なくとも1つ以上の異なる音響信号が入力される場合であっても、磁気部が、基礎部を介してコーンに取り付けられているので、それぞれのボイスコイルボビンの上下動に連動してそれぞれの磁気部が上下動することになる。このため、磁気部の間隙内に配置されたボイスコイルボビンは、ヨークの椀状壁の内側面との間隔、さらに、磁石およびプレートの側面との間隔を一定に維持した状態で、音響信号に応じて上下動することになる。
従って、複数のボイスコイルに対してそれぞれ異なる音響信号(例えば、ステレオ信号)が入力される場合であって、1枚のコーンに複数のボイスコイルボビン、基礎部および磁気部が設けられる構成であっても、ボイスコイルボビンの下端部が、ヨークの内側面、磁石あるいはプレートの側面と接触(内部こすれ)してしまうことを防止することが可能になる。
また、本実施の形態に係るスピーカ1では、端部が開放された円筒形状を呈する基礎部6について説明を行ったが、基礎部の形状は円筒形状には限定されない。基礎部は、磁気部を支持することが可能な形状であって、コーンが振動した場合においてコーンの振動を妨げない形状であれば十分であり、その形状は特に限定されない。例えば、基礎部が、複数の柱状部材により構成され、ボイスコイルボビンの中心軸に対して等距離だけ離れた位置に等間隔で配置されるものであってもよい。このように、柱状部材からなる基礎部が、ボイスコイルボビンの外周部分に等間隔で配置される場合であっても、ダンパーを介して基礎部で磁気部を支持することができるので、実施の形態に示した基礎部6と同様の効果を奏することが可能である。