本発明は、哺乳動物に分子を送達するのに適した組成物及び方法に関する。本発明は、特に、ペプチド誘導体(ペプチド及び疑似ペプチド)、その二量体又は多量体、及び、対象の分子のためのベクターとしてのその使用に関する。本発明は、対象の分子に結合した本発明のペプチド誘導体又はその二量体もしくは多量体を含有するコンジュゲートにも関する。本発明のペプチドを、特に、特異的受容体を介して(受容体媒介輸送、RMT)、一般的にプロドラッグコンジュゲートの形態で、健康又は病的な(癌細胞)、種々の組織又は器官(例えば肝臓、副腎及び腸)の細胞膜を通過する、製薬上又は診断上関心のある分子、例えば治療用分子、イメージング剤又は診断剤又は分子プローブなどをベクター化するために、及びとりわけ、血液脳関門(BBB)、脳脊髄関門(BSCB)又は血液網膜関門(BRB)などの神経系の生理学的関門を通過してのその輸送を可能とするために使用することができる。
発明の内容
IMS Healthによると、中枢神経系(CNS、脳及び脊髄)病態を処置するための薬物の世界市場は、2007年にはおおよそ700億ドルであり、この総額のうちのほぼ90億ドルが薬物送達技術から生まれた製品に相当した(Jain, 2008, Jain PharmaBiotech Report, Drug Delivery in CNS disorders)。このように、今日、神経学は、心臓血管内科及び腫瘍学と共に、三大治療領域の1つである。世界中のCNS疾患及び病態の罹患患者数は、心血管疾病又は癌患者数より多いが、神経学は、依然として未開拓市場である。これは、CNS病態を治療するための可能性のある薬物の98%が、血液脳関門すなわちBBBを通過しないという事実によって一部には説明される(Pardridge, 2003, Mol. Interv., 3, 90-105)。現在市場に出回っている薬物の僅か5%が神経系に関する。
実際、CNSは、2つの主要生理的バリアシステム:BBB/BSCB及び血液脳脊髄液関門(BCSFB)の存在によって潜在的毒性物質から保護される。BBBは、脳レベルでの血漿中リガンドの取り込みの主要経路と考えられている。その表面積は、BCSFBのものよりもおおよそ5000倍大きい。BBBの構成血管の全長は、おおよそ600kmである。大脳皮質各1cm3が、血管1km相当を含有する。BBBの全表面積は、20m2と概算される(De Boer et al., 2007, Clin. Pharmacokinet., 46(7), 553-576)。BBB及びBSCBは、CNS病態及び損傷を処置するための新規療法の開発において克服すべき主要な障壁と考えられる(Neuwelt et al., 2008, Lancet Neurol., 7, 84-96)。
同様に、眼における血液網膜関門(BRB)は、共に堅く結合している細胞からなりかつ特定の物質が網膜に侵入するのを防ぐ、血液眼関門の一部である。BRBは以下の2つの成分を有する:網膜血管内皮及び網膜色素上皮、これは内側及び外側成分(内側BRB[iBRB]及び外側BRB[oBRB])とも称される。脳血管に類似している網膜血管は、内側血管眼関門を維持する。BBB又はBSCBと同様に、この生理学的関門は、タイトジャンクション(TJ)と共に単層の非有窓性内皮細胞を含む。網膜上皮細胞間のこれらのジャンクションは、大きな分子が脈絡毛細管から網膜中へと通過することを防ぐ。
2007年における全世界の眼科用製剤部門はおよそ115億2000万ドルと評価された(Visiongain, Ophthalmics. 2007, Visiongain, Inc.: San Francisco. Janoria KG, et al. Novel approaches to retinal drug delivery. Expert Opin Drug Deliv. 2007;4(4):371-388)。網膜疾病としては、網膜色素変性症、黄斑変性症、錐体桿体ジストロフィー(CORD)、網膜剥離(retinal separation)、網膜剥離(retinal detachment)、高血圧性網膜症及び糖尿病性網膜症、網膜芽細胞腫、網膜脂血症などが挙げられる。
多くの集団が高齢化しつつあるため、金融専門家は、前記部門の年間平均増大が、当面よりも10%を超えると予想する。それにもかかわらず、眼の疾病、特に後眼部の疾病を処置するための治療有効濃度の薬物の持続的送達は、依然として重要な技術的な課題である。既存療法に対する患者のコンプライアンスの対応する問題も同様に重要な問題である。従って、かなりの市場の機会が、新規分子並びに革新的な薬物送達システムを追及する会社にとって存在する。
従って、BBB、BSCB及びBRBは、多くのCNS及び眼疾患に対する可能性ある薬物の使用に対しての大きな障壁を示すが、また、血液と神経組織との間の可能性ある交換の大きな表面をも示す。
一般的な原則として、おおよそ450から600ダルトンのほんの僅かな小さな親油性分子しか(薬物候補の2%しか)上記の生理学的関門を通過できず、すなわち、血液から神経組織へと通過できない。CNS疾患の処置についてのインビトロにおける試験及び動物試験において有望な結果を示す多くの薬物候補の分子量及びサイズは、相当大きい。従って、治療用ペプチド、タンパク質(治療用抗体を含む)などの大部分の分子は、神経組織毛細血管内皮細胞の低い経細胞透過性のために、CNS又は眼(網膜)における血液から神経組織への通過/輸送から一般的に排除される。血管にて構成される脳毛細血管内皮細胞(BCEC)は、基底板、星状膠細胞終足、周皮細胞、並びにマイクログリア細胞及び神経細胞に取り囲まれている。内皮細胞と星状膠細胞終足の緊密な会合が、大部分の分子に対するBBB不透過性の特性の発生及び維持に関与し、これにより、血液と脳の間の分子交換の厳密かつ効果的な制御が保証され、よって脳の恒常性が維持される。内皮細胞は、有窓性である他の器官の内皮細胞と比較して、TJにより密接に結合している。それ故、これらのTJは、BBBを通過する傍細胞通過を防止する。内皮細胞及びそれらを取り囲む星状膠細胞終足もまた、生理的バリアを構成する。なぜなら、これらの細胞は、細胞透過経路による一切の通過/輸送を制限する、有効な排出システムを有するからである。実際に、生理的バリアを通過することができる一部の分子は、多剤耐性(MDR)輸送タンパク質によって内皮細胞から血液系に向かって能動的に排出される。これらの能動排出輸送(AET)系は、神経組織から血液系に向かっての小分子の能動排出を一般的に制御する。一例として、BBBにおけるモデルAET系は、ATP結合カセット(ABC)輸送体、すなわちP−糖タンパク質(P−gp)であるが、他のAET系、例えばMDR関連タンパク質1(MRP1)もBBBには存在する。脳毛細血管内皮細胞の管腔表面に主として位置するP−gpは、大部分の生体異物の脳への侵入を防止するが、しかしCNSにおいて活性であることができる薬物候補及び治療上関心のある他の分子の脳への侵入も防止する、BBBの生理的バリア機能における必須要素である。従って、これらの特性は、血漿からCNS及び眼における神経組織の細胞外空間へ向かう物質の通過を強く制限する。
主要なCNS又は眼の病態及び損傷(脳癌、パーキンソン病及びアルツハイマー病、脳血管障害(CVA)など)のための現在利用可能な真に有効な処置が全くないことを説明し得る理由の1つは、脳病態を処置するための薬物候補の開発者が、社内研究プログラム(脳薬物発見プログラム)を実施しているが、関門を通過する問題及び神経組織、特に脳の神経組織への優先的ターゲティング(脳薬物ターゲティングプログラム)に殆ど努力を投資していないことである(Pardridge, 2003, Mol. Interv., 3, 90-105)。薬物候補は、CNS病態又は疾患を処置するための薬物となる最善の機会を有するためには、特定の構造的、物理化学的、薬化学的、及び薬理学的な原則に従わなければならない(Pajouhesh et al., 2005, NeuroRx, 2(4), 541-553)。従って、薬物候補の開発において、そのターゲットに対する分子の選択性及び特異性(薬理学的プロファイリング)は、その治療活性(効力)にとって必須である。分子のバイオアベイラビリティ及び毒性の可能性(薬学的プロファイリング)は、薬物としてのその将来にとって重要である。別の言葉で言えば、CNS又は眼の病態もしくは疾患を処置するための薬物となりそうな任意の分子が、BBB/BSCB又はBRBを通過し、その生物学的活性を維持し、かつ薬物動態(PK)、吸収、分布、代謝及び***/消失(ADME)、並びに薬力学(PD)の適切な特性と、低毒性(Tox)を示さなければならない。事実、神経系治療薬の分野の医薬品化学者にとって、開発下の分子の親水性/親油性バランスを見つけるのは特に困難である。
従って、CNS及び眼の疾患及び病態を処置する際の主な問題の1つは、投与された分子が、BBB/BSCB/BRBを通過せず、従って、CNS又は眼におけるそのターゲット(群)に到達できないという事実にある。従って、CNS又は眼の疾患もしくは病態を処置、診断又はイメージングするための分子の発見における研究の優先事項の1つは、BBB/BSCB又はBRBを活性物質が通過する有効性を増加させるための手段を発見することである。
この点に関して、治療上関心のある分子がCNSに到達できるようにするために薬物候補の開発者によって現在研究されており、そして使用されている、これらのバリアを通過す分子のベクター化のための戦略を、以下の2つの主な戦略に分けることができる:薬理学的アプローチ及び生理学的アプローチ(Pardridge, 2007, Pharm. Res., 24(9), 1733-1744; De Boer et al., 2007, Clin. Pharmacokinet., 46(7), 553-576; De Boer et al., 2007, Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 47, 327-355; Jones et al., 2007, Pharm. Res., 24(9), 1759-1771; Vlieghe and Khrestchatisky, 2012, Med Res Rev., 33(3), 457-516)。
侵襲的アプローチ
侵襲的アプローチは、活性物質の脳への直接脳室内注射、脳内注射もしくは髄腔内注入によって、又はBBB/BSCBの崩壊(これらのバリアの完全性の一次的破壊)によって遂行され得る。
脳神経外科手術に関係する費用とは別に、脳室内注射による脳神経外科的アプローチの主な問題は、薬物が脳実質に直接送達されず、脳脊髄液に送達されることである。脳室内注入は、脳室内へのカテーテルの留置を必要とする(Aird, 1984, Exp. Neurol., 86, 342-358)。この非常に侵襲的な技術は、神経実質への活性物質の輸送には有効ではない。実際、脳は実質内体積流量を有さないので、例えば脳における、脳室内注入による薬物送達中の脳脊髄液から脳実質への流量は、その対流の異常に遅い拡散(輸送)によって左右される。
脳内注射についても同様に、脳内での活性物質の拡散は、注射部位から病変部位までに非常に急速に減少する。実際、活性物質の脳内濃度は、その注射部位から500μmの距離で90%減少する。
髄腔内注入は、脳内へのカテーテルの留置を必要とする。このカテーテルは、活性物質を既定流速で送達するポンプに接続されている。脳は、細胞外液を全身循環に輸送して戻す役割を通常果たすリンパ系を有さない唯一の器官であるという事実のため、脳内の髄腔内注入による活性物質の分布は、非常に遅い。これが、病変部位での活性物質の濃度を低下させる。
さらに、そのような脳神経外科手術の間の感染のリスクは、特にカテーテルの存在によって有意である。これらの条件下で患者の快適さは最適ではない。
BBBの一時的開放は、脳毛細血管内皮細胞のTJの一過性の開放を伴う。これは、ロイコトリエン又はブラジキニンなどの血管作用物質についてそうである(Baba et al., 1991, J. Cereb. Blood Flow Metab., 11, 638-643)。この戦略は、同じく侵襲的であり、鎮静剤を飲ませた被験体/患者における頸動脈への動脈アクセスを必要とする。頸動脈へのアクセスのための放射線医学手順に関係する出費に加えて、BBBの完全性の一時的破壊により遭遇する主な問題は、BBBが短期間開放したままであるに過ぎず、従って、長期間にわたって薬物を送達する可能性を制限することである。さらに、BBBの一時的破壊は、血漿中タンパク質を脳に進入させ(ところがこれらのタンパク質は脳にとって毒性である可能性がある)、かつ感染病原体の進入も助長し得る。従って、BBBのこのタイプの破壊は、慢性神経病理学的破壊につながり得、かつ高い感染リスクを伴う(Salahuddin et al., 1988, Acta Neuropathol., 76, 1-10)。
ベクター化への薬理学的アプローチ
分子を輸送するための薬理学的戦略は、活性物質に脂質又は親油性基を付加することによってより疎水性にした分子の経細胞拡散(細胞透過性親油性拡散、すなわちTLD)、又はリポソームの使用(Zhou et al., 1992, J. Control. Release, 19, 459-486)、及び正に荷電したベクター分子を介したイオン性吸着による又は活性分子のカチオン化による輸送(吸着媒介輸送すなわちAMT)を含む。
脂質又は親油性基を付加させることにより、とりわけプロドラッグアプローチを通して親水性分子からより疎水性の分子への化学的変換が可能となる。しかし、そのような化合物の合成は、BBB/BSCB/BRBを通過するために最適な輸送閾値を超える、とりわけ分子量(MW)に関しては450ダルトンの至適限度より大きな分子をもたらす(Pajouhesh et al., 2005, NeuroRx, 2(4), 541-553)。同じ理由で、リポソームは、又は小さい小胞(ミセルなど)もしくはナノ粒子(ナノスフィア、ナノカプセル)でさえ、一般的には大き過ぎ、BBB/BSCB/BRBに対して十分特異的でなく、その結果、治療上関心のある分子(又はイメージング剤もしくは診断剤、又は任意の他の分子、例えば分子プローブ)をこれらのバリアを通過して輸送するには比較的有効ではない(Levin, 1980, J. Med. Chem., 23, 682-684; Schackert et al., 1989, Selective Cancer Ther., 5, 73-79)。さらに、このタイプの小胞系は、一般的に、大脳において無視できない毒性作用を有する。従って、脂質化技術によって遭遇する主な問題は、他の細胞膜と比較してBBB/BSCB/BRBの特異的ターゲティング及び通過に対するそれらの低い特異性、血漿中の薬物の曲線下面積(AUC)値の低下、並びに小分子のベクター化のためのそれらの一般的に限定された使用である。
AMTにおいて(共有結合を介したカチオン基の付加又は薬物の直接的なカチオン化)、遭遇する主な問題は、他の細胞膜と比較してBBB/BSCB/BRBを特異的にターゲティング及び通過することに関する低い特異性である。実際、AMTは、膜が負の電荷を有する細胞(殆どの細胞がそうである)上に吸着しているカチオン性分子に基づく。血漿中薬物のAUC値の低下、小分子のベクター化のためのそれらの一般的に限定された使用、及びそれらの細胞毒性は、AMTベクター化アプローチを不利にするさらなる要因である。
ベクター化への生理的アプローチ
ベクター化への生理的アプローチに基づく戦略は、バリアの様々な天然輸送メカニズムの活用に存する。BBBを通過する分子の能動輸送のこれらのメカニズムは、特異的受容体基質とのカップリングを介して、又は特異的受容体基質との分子的擬態(担体媒介輸送すなわちCMT)によって、又は受容体を特異的にターゲティングするリガンドとのカップリングもしくは融合(RMT、受容体媒介輸送、又は受容体媒介経細胞輸送)を介して作用する。
一例として、L−DOPA(パーキンソン病)、メルファラン(脳癌)、α−メチル−DOPA(動脈性高血圧)及びガバペンチン(癲癇)などの分子は、大型中性アミノ酸輸送体1及び2(LAT1及びLAT2)を介したCMTによって脳へと入る(Pardridge, 2003, Mol. Interv., 3, 90-105)。これらの分子は、LAT1の天然基質の1つであるフェニルアラニンに近い化学構造を有する。しかし、CMTアプローチにより遭遇する主な問題は、内因性受容体/輸送体の基質を厳密に擬態/模倣するコンジュゲートに対するそれらの広い選択性/特異性であり、結果として、小分子のベクター化に限定されたままであるそれらの使用である。
RMTには、受容体依存性輸送系が求められる。ベクター化は、脳毛細血管を含むターゲット組織に存在する内因性受容体をターゲティングすることによってエンドサイト―シスのメカニズムを介して遂行される。RMTに関与する様々なヒトBBB受容体の注目に値する例は、鉄に結合したトランスフェリン(Tf)を輸送するトランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体(IR)又はインスリン様増殖因子受容体(IGFR)、低密度、高密度及び超低密度リポタンパク質(それぞれLDL、HDL及びVLDL)に含まれるコレステロールの輸送を可能とする受容体、例えば低密度リポタンパク質(LDL)受容体及び低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)のファミリーメンバー、ジフテリア毒素受容体(DTR)、又はヘパリン結合上皮成長因子様成長因子(HB−EGF)、並びに、スカベンジャー受容体(SCAV−Rs)、例えばスカベンジャー受容体クラスBタイプI(SR−BI)を含む。RMTにおいては、BBB内皮細胞をはじめとする、器官における特定の細胞の膜上の受容体は、それらのリガンドに結合し、小胞において受容体及びそのリガンドから成る複合体のエンドサイトーシスをもたらし、この小胞は細胞表面上に形成され、その後、ターゲット細胞に透過する。このRMTプロセスは、エンドサイトーシスによって飲み込まれた分子のサイズに依存しないようである。BBB/BSCB/BRBの場合、リガンド/受容体複合体又は解離したリガンドは、内皮細胞を通過することができ(経細胞輸送)、従って、これらの生理的バリアを通過して神経組織において作用することができる。従って、RMTは、多くの分子又は分子複合体の特定の細胞型又は器官への輸送、特に血液からCNS又は眼への輸送を可能とするメカニズムである。これらの分子又は分子複合体に対する受容体を使用して、薬物及び/又はナノ粒子を担持するように改変されたこれらの受容体の天然リガンドを輸送することができる。例えば、ナノ粒子をポリソルベート、特にポリソルベート80でコーティングすることにより、血漿に由来するアポリポタンパク質Eがナノ粒子表面上に吸着し、これは後に、低密度リポタンパク質(LDL)粒子を模倣し、LDLRと相互作用することができ、よってそれらは内皮細胞によって取り込まれる(Kreuter, 2012, Adv Drug Deliv Rev. pii: S0169-409X(12)00275-X)。LDL受容体にターゲティングするリポソームに封入されたドキソルビシンは、インビトロにおいて、BBB細胞を通過する薬物送達を増加させる(Pinzon-Daza et al., 2012, Br J Pharmacol. doi: 10.1111/j.1476-5381.2012.02103.x)。TfはBBB上に存在するTfRの天然リガンドである。TfrによるBBBを通過しての能動輸送のために、活性物質をTfにカップリング/コンジュゲートさせた(Jefferies et al., 1984, Nature, 312, 162-163; Friden et al., 1983, Science, 259, 373-377; Friden, 1994, Neurosurgery, 35, 294-298)。タンパク質型の高分子を使用したこのベクター化戦略は、関門を通過する対象のコンジュゲート分子の通過の増加を可能とするが、それはいくつかの欠点を有する。第一に、前記分子は、一般的に、遺伝子発現法(融合)によってベクターにカップリング/コンジュゲートされるので、輸送される分子の数がただ1つのポリペプチド又はタンパク質に限定される。第二に、前記分子をベクターとカップリング/コンジュゲートさせるための系が相当複雑であり;従来の化学的又は生化学的カップリングは、構造的及び分子的観点から明確な高分子系をもたらさない。さらに、ターゲティング受容体に対するコンジュゲートと内因性リガンドとの間の可能性ある競合は、RMTの生理学的プロセスの阻害、又は、脳の適切な機能に必要とされる内因性リガンドの濃度の低下のいずれかをもたらし得る。最後に、RMT受容体はまた、大脳における細胞シグナル伝達プロセスにも関与し得、コンジュゲートはこれらのプロセスを干渉する可能性がある。
特異的受容体を介したRMTを、BBB及び脳以外の他の組織/器官に薬物をターゲティングするために使用することもできる。例えば、網膜によるコレステロールの取り込みは、主に、LDLRにより媒介されるプロセスを介して起こることが示されている(Tserentsoodol et al., 2006, Molecular Vision 2006; 12:1306-18)。
器官の血管系、特定の器官の実質、又は罹患組織は、高レベルの所与の受容体を発現し得、これを薬物ターゲティングのために使用することができる(Chung and Wasan, 2004, Adv Drug Deliv Rev. 2004 May 7;56(9):1315-34に概説)。LDLRは、例えば、肝臓(特に肝細胞の類洞側)、並びに副腎及び腸などの他の組織に高レベルで発現されている(Beisiegel et al., 1981, J Biol Chem. 25;256(8):4071-8 ; Huettinger et al., 1984, J Clin Invest.; 74(3): 1017-26 ; Fong et al., 1989, J Clin Invest; 84(3): 847-56)。
最後に、数多くの癌におけるLDLRの増加した発現、及び、神経膠芽腫をはじめとする癌細胞のこれらのLDLRを介した、LDLにより又はナノ粒子により媒介される抗癌薬物送達についての十分なエビデンスが存在する(Varshosaz et al., 2012, Eur J Med Chem; 54:429-38 ; Kopecka et al., 2011 ; Journal of Controlled Release ; 149 :196-205 ; Nikanjam et al., 2007, Int J Pharm.; 328(1): 86-94 ; reviewed in Ng et al., 2011, Acc Chem Res;44(10):1105-13 ; Firestone, 1994, Bioconjug Chem.;5(2):105-13.)。
また、LDL又はPCSK9といったいくつかのLDLR内因性リガンドは、LDLRと結合した後、受容体媒介エンドサイトーシスを受け、続いて膜小胞(エンドソーム)が細胞内に輸送され、これは最終的にリソソームと融合することが示された(Issandou et al., 2004, Biochem Pharmacol.; 67(12) :2281-9 ; reviewed in Lambert et al., 2009, Atherosclerosis.; 203(1): 1-7)。
ライソゾーム病(LSD)は、約70個の遺伝子的に明確に異なる容態を示し、これらを合わせた出生時の頻度はおよそ7500人に1人である。酵素補充療法(ERT)は、複数のLSDの処置に考えられる組換え酵素の取り込みを必要とする。マンノース−リン酸受容体(M6PR)は、現在、組織への及び細胞のリソソーム区画への酵素の送達のための主要なターゲットであるが(Cox, 2012, J Pathol.; 226(2) :241-54 ; Lachmann, 2011, Curr Opin Pediatr. ; 23(6): 588-93に概説)、RMTに関与する受容体などの他の受容体も、LSDの約2/3がCNSを冒すことを考えると、CNSへのERTのターゲティングに考えられ得る。
国際特許出願第WO2010/046588号は、初めて、ヒト、マウス又はラットLDLRに結合して、BBBを通過して高い分子量及び/又は大きな容量であり得る物質を運搬することができる、ペプチド又は疑似ペプチドを記載している。
本出願は、LDLR、特にヒト、マウス及び/又はラットLDLRに結合し、健康又は病的(癌細胞)な、LDLR発現組織(例えば肝臓、副腎、腸)に向かって、分子を、特にBBB、BSCB又はBRBなどの神経系の生理学的関門を通過して伝達するのに最適化された、新規ペプチドに関する。
発明の要約
本発明は、LDLR発現組織の細胞膜、特にCNS又は網膜の生理学的関門(BBB/BSCB及びBRB)を通過して、対象の分子を輸送することのできる、新規ペプチド又は疑似ペプチドを提供する。従って、本発明は、改善された体内分布又はバイオアベイラビリティを有し、特に、CNS及び/又は眼及び/又はLDLRの豊富な他の器官、例えば肝臓、副腎及び腸への、及び/又はLDLRの豊富な種々の癌細胞への、及び/又は細胞のリソソーム区画への改善されたアクセス(ターゲティング)を有する、新規治療剤又は診断剤を設計することを可能とする。
WO2010/046588及びWO2011/131896において、本発明者らは、LDLRに結合することができ、かつ、分子(治療上又は診断上関心のある分子を含む)を脳に伝達することのできる、ペプチド誘導体を開発した。
本発明者らは、今回、分子の輸送にとって有利な特性を示す新規なペプチドを設計し検証した。本発明者らはまた、あらゆる薬剤を動物に送達するための改善された親和性及び高い輸送能を示す、新規なこのようなペプチドの多量体を設計した。これらの新規ペプチド及び多量体は、天然リガンドと競合することなく、従って、内因性LDLの輸送を干渉することなく、LDLRに結合することができ、かつ、治療又は診断(イメージングを含む)薬物又は薬剤を送達、ターゲティング又はベクター化して、特にCNS及び/又は眼及び/又はLDLRの豊富な他の器官(例えば肝臓、副腎、腸)に、及び/又はLDLRの豊富な癌細胞に、及び/又は細胞のリソソーム区画に到達するために、特に有利である新規製品を示す。
本発明の1つの目的は、特に、配列番号1〜5から選択された配列を含むペプチド又は疑似ペプチドに関する。
本発明のさらなる目的は、以下の式(A):
Ph−M−Pi (A)
(式中、
各Pは、アミノ酸配列:A1−Met−A2−Arg−Leu−Arg−A3−A4を含む同じ又は異なるペプチド又は疑似ペプチドを示し、A1及びA4は、独立して、システイン又はその類似体又はそのアイソスターを示し、A2はプロリン又はその類似体又はそのアイソスターを示し、A3はグリシン又はその類似体又はそのアイソスターを示し;
Mは分子プラットフォームであり、
h及びiは、互いに独立して、1、2、3、4又は5から選択された整数である)
で示される多量体物質である。
好ましい態様によると、A1は、(D)−システイン、ペニシラミン(Pen)及び(D)−ペニシラミン((D)−Pen)から選択されたシステイン(Cys)又はその類似体を示し;A2は、ピペコリン酸(Pip)及びチアゾリジン−4−カルボン酸(Thz)から選択されたプロリン(Pro)又はその類似体を示し;及び/又はA3は、グリシン(Gly)又はサルコシン(Sar)を示し、並びに/又はA4は、(D)−システイン、ペニシラミン(Pen)、及び(D)−ペニシラミン((D)−Pen)から選択されたシステイン又はその類似体を示す。
好ましい態様において、Pは、以下の一般式(I’):
(D)−Cys−Met−A2−Arg−Leu−Arg−A3−A4(I’)
(式中、
A2は、Pip及びThzから好ましくは選択されたプロリン又はその類似体を示し、A3はグリシン(Gly)又はサルコシン(Sar)を示し、並びに/又はA4は、(D)−システイン、ペニシラミン(Pen)、及び(D)−ペニシラミン((D)−Pen)から選択されたシステイン又はその類似体を示す。
最も好ましい態様において、Pは、配列番号1〜5のいずれか1つから選択された配列を含むペプチドである。
最も好ましい態様において、h=i=1である。
本発明のペプチド及び多量体は、有利には、高い親和性でヒトLDL受容体(hLDLR)、マウスLDLR、又はラットLDLRに結合し、かつ、対象の分子を、LDLR発現組織及び細胞中に、又は内皮細胞などのLDLR発現細胞を通過して輸送する能力を有する。
この点に関して、本発明の別の目的は、1つ又はいくつかの分子に、好ましくは1つ又はいくつかの診断用分子又は治療用分子にコンジュゲートした、上記に定義されているようなペプチド又は多量体である。
本発明の別の目的は、哺乳動物において治療剤又は診断剤を送達又は輸送するための、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体の使用に関する。
本発明のさらなる目的は、哺乳動物において治療剤又は診断剤を送達又は輸送するために使用するための、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体に関する。
本発明のさらなる目的は、薬学的組成物又は診断用組成物を調製するための、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体の使用に関する。
本発明の別の目的は、カップリングしている活性物質又は対象の物質の生物学的活性を増加させるための、又はその毒性を減少させるための、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体の使用に関する。
本発明の別の目的は、以下の式(II):
VxDy (II)
(式中、
Vは、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体を示し、Dは、活性物質又は対象の物質を示し、x及びyは1〜5の整数である)
で示される任意のコンジュゲート化合物に関する。
本発明はまた、以下の式(III):
VxSzDy (III)
(式中、
Vは、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体を示し、Sはスペーサーを示し、Dは、活性物質又は対象の物質を示し、xは1〜5の整数であり、y及びzは1〜10の整数である)
で示される任意のコンジュゲート化合物に関する。
本発明の別の目的は、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体にコンジュゲートした活性成分、及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、薬学的組成物に関する。
本発明の別の目的は、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体にコンジュゲートした診断剤又はイメージング剤を含む診断用組成物に関する。
本発明の別の目的は、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体への分子のカップリングを含む、健康又は病的なLDLR発現組織の細胞膜を通過しての、特に、生理学的関門BBB/BSCB及びBRBを通過しての前記分子の通過を改善又は可能とするための方法に関する。
本発明の別の目的は、薬物を用いて被験体の病態を処置するための改善された方法であり、前記改善は、前記薬物を、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体にカップリングさせることからなる。
本発明は、任意の動物、特に任意の哺乳動物、より特定するとヒトに使用され得る。
ペプチド/治療上関心のある分子のコンジュゲートの、直列型の合成とリンカーを介した合成との比較図。
C末端(C末)スペーサー/リンカーと、リポーター又は蛍光分子、例えばビオチン、フルオレセイン、(FITC)、ローダミン(ローダミンRED−X)、シアニン(Cy3.5)又はStagペプチドとコンジュゲートした合成ペプチドの一般的スキーム。
カバーガラス上で増殖させ、かつ、10μMのペプチド−STagコンジュゲート(配列番号1)と共に20mg/mLのDiI−LDLと共にインキュベーションした、CHO−hLDLR−GFP細胞を使用したパルスチェイス実験。4℃で30分間インキュベーションした後、細胞を十分に洗浄し、その後、5分間又は3時間かけてチェイス培地中でインキュベーションして、結合したペプチドのエンドサイトーシス及び細胞内輸送を可能とする。細胞核を、ヘキストを使用して染色する。挿入図は、より高い拡大率の代表的な共焦点画像領域を示し、かつ、ペプチド及びLDL輸送の早期段階の間のLDLR及びLDLの両方とペプチドの共局在(T5)、並びに、LDLRを含まないLDL含有リソソーム(T180−挿入図2)又はLDLを含まないLDLR含有再循環小胞(T180−挿入図1)のいずれかにおけるペプチドの遅い蓄積を示す。
IgG1抗体のヒトFcフラグメントを、配列番号1に化学的に連結させたペプチドベクターを介して、細胞中へと輸送させるための原型タンパク質部分として使用した。組換え分子技術によって調製された、参照ペプチド2(「配列番号43」と呼ばれる、そのアミノ酸配列は、WO2010/046588において配列番号43として開示されている)との融合を、比較目的のために使用した。CHO−hLDLR−GFP細胞へのFc−配列番号1(化学的に連結)及びFc−配列番号43(融合)の結合を示すパルスチェイス実験。カバーガラス上で増殖させたCHO−hLDLR−GFP細胞を、4℃で30分間、5nMの化学的に連結させたFc−配列番号1、融合タンパク質Fc−配列番号43又はFc単独と共にインキュベーションし、十分に洗浄し、その後、チェイス培地中37℃で5分間インキュベーションして、結合したタンパク質のエンドサイトーシスを可能とした。細胞核をヘキストを使用して染色する。Fcを、Alexa594にコンジュゲートさせた抗ヒトFc抗体を用いて検出する。Fc−配列番号1及びFc−配列番号43のみがhLDLRに結合することを注記する。挿入図は、より高い拡大率の代表的な共焦点画像領域を示し、かつ、LDLR及びFc−ペプチドコンジュゲートが初期/ソーティングエンドソームに共局在する領域を示す。
インビトロにおける血液脳関門(BBB)モデル:星状膠細胞と共に培養したラット脳毛細血管内皮細胞(RBCEC)。Aでは、生RBCECを、40μg/mLのDiI−LDLと共に30分間インキュベーションした。Bでは、ヒト、マウス及びラットLDLRの細胞外ドメインを認識する10μg/mLのヤギ抗体を用いて、1時間インキュベーションし、生RBCECの表面におけるラットLDLRを標識。Cでは、同じ抗体で、4%のPFAを用いて細胞を固定した後にラットRBCEC LDLRを標識。フローサイトメトリー(FACS):0.25mMのEDTAを用いてRBCEC単層を機械的に解離。Dでは、フィコエリトリンPE−Aで標識された対照RBCEC。Eでは、4℃で90分間、40μg/mlで、RBCECのLDLR受容体上に結合したDiI−LDL。Fでは、4℃で90分間、40μg/mLで、LDLR−/−ラット(LDLRノックアウト、KOラット)のRBCRC上に結合したDiI−LDL。Gでは、二次抗体のみ(ロバ抗ヤギアロフィコシアニンAPC、対照として使用)を用いたRBCEC。Hでは、4℃で45分間、10μg/mLのヤギ抗LDLR抗体を用いて標識、続いて二次抗体を用いて標識。Iでは、4℃で45分間、10μg/mLのLDLR−/−ラットのRBCEC上でヤギ抗LDLR抗体を用いて標識、続いて、二次抗体を用いて標識。Jでは、インビトロBBBモデル:星状膠細胞と共培養したラット脳毛細血管内皮細胞(RBCEC):生WT及びLDLR−/−RBCEC上で30分間インキュベーションした後の、種々の濃度のDiI−LDLの下の区画への輸送。
インビトロBBBモデル:星状膠細胞と共培養したラット脳毛細血管内皮細胞(RBCEC)。AからF:野生型(WT)ラットの生RBCEC上でのインキュベーション、G及びH:LDLR−/−ラットの生RBCEC。Aでは、生WT RBCEC上での30分間のインキュベーションの間の0.25μMのFcの結合/取り込み。Bでは、生WT RBCEC上での30分間のインキュベーションの間の0.25μMのFc−配列番号43の結合/取り込み。C及びEでは、生WT RBCEC上での30分間のインキュベーションの間の40μg/mLのDiI−LDLの結合/取り込み。Dでは、生WT RBCEC上での30分間のインキュベーションの間の0.25μMのFc−配列番号43の結合/取り込み。これらの顕微鏡写真は、DiI−LDLとFc−配列番号43との間の共局在を示す。Eでは、LDLR−/−ラットの生RBCEC上での30分間のインキュベーションの間の40μg/mLのDiI−LDLの結合/取り込み。Fでは、LDLR−/−ラットの生RBCEC上での30分間のインキュベーションの間の0.25μMのFc−配列番号43の結合/取り込み。Gでは、生WT RBCEC上での30分間のインキュベーションの間の0.1μMのFc−CTRLの結合/取り込み。Hでは、LDLR−/−ラットの生RBCEC上での30分間のインキュベーションの間の0.1μMのFc−配列番号1の結合/取り込み。
インビトロBBBモデル:星状膠細胞と共培養したラット脳内皮細胞(RBCEC)。Aでは、生WT RBCECの30分間のインキュベーション後の種々の濃度のFc及びFc−配列番号43の結合/取り込み。Bでは、生WT RBCECの2時間のインキュベーション後の0.1μMのFc−配列番号1及びFc−CTRLの結合/取り込み。
ペプチドベクター二量体。二量体は、その単量体形よりもLDLRに対してより良好な親和性を示す。Aでは、2つの異なる分子構築物に基づいた2つの二量体の例。A−1:市販のトリアミンプラットフォーム上でのペプチドカップリングによって合成された二量体の例。Rは、水素、トレーサー分子、活性物質又は対象の任意の物質であり得、その間にリンカーが存在するか又は存在しない。A−2:「自家製」ジ−リジンプラットフォーム上でのペプチドカップリングによって合成された二量体の例。R1及び/又はR2は、水素、トレーサー分子、活性物質又は対象の任意の物質であり得、その間にリンカーが存在するか又は存在しない。Bでは、抗STagELISAによるCHO−hLDLR−GFPへのペプチド配列番号1−STagの結合/取り込みの定量。CHO−hLDLR−GFP細胞を、37℃で60分間、10μMのペプチド配列番号1−STagのみ(100%の結合)と共に又は10μMのペプチド配列番号1、ペプチドCTRL又はペプチドD2(配列番号1)2と競合するペプチド配列番号1−STagと共にインキュベーションした。Cでは、CHO−hLDLR−GFPへの4℃で30分間かけての500nMのペプチドD2(配列番号1)2−Cy3.5及びD2(CTRL)2−Cy3.5の結合。細胞核をヘキストで染色する。顕微鏡写真は、形質膜におけるペプチドD2(配列番号1)2−Cy3.5とLDLRの共局在を示す。
WTマウス又はLDLR−/−マウス(KO)におけるペプチド配列番号1単独又はヒトFcフラグメントに化学的にカップリングさせたペプチド配列番号1の組織分布。Aでは、WT又はLDLR−/−マウスの尾静脈への注射から10分後の、トリチウムで標識されたペプチド配列番号1の組織分布。結果は、組織1gあたりの全注射投与量の比率として表現される(DI/g%)。組織における放射能の計測は、LDLR−/−マウスと比較して、WTのLDLRの豊富な組織において、ペプチドのより大きな蓄積を示す。Bでは、WT又はLDLR−/−マウスへの尾静脈の注射から2時間後の、化学的にカップリングさせたFc−配列番号1の組織分布。結果は、組織1gあたりの全注射投与量の比率として表現される(DI/g%)。ELISAアッセイを使用した組織におけるFc部分の蓄積の定量は、LDLR−/−マウスと比較してWTのLDLRの豊富な器官におけるFcのより大きな蓄積を示す。
発明の詳細な説明
本発明は、ヒトLDLRに結合することのできるペプチド誘導体、及び、特に治療上又は診断上関心のある分子を、健康な又は病的な(例えば癌細胞)LDLR発現組織(例えば肝臓、副腎又は腸)の細胞膜を通過して、特に生理学的関門BBB/BSCB及びBRBを通過して輸送するための、医薬品の分野におけるその使用に関する。本発明のペプチド及び多量体は、ヒトLDLRに対して高い親和性を有し、インビボにおいて分子を輸送することができる。本発明のペプチド又は疑似ペプチド及び多量体は、化学的に容易に合成することができ、治療上又は診断上(例えばイメージング)関心のある任意の分子を、スペーサーを介して(リンカーを介しての合成)又は2つの実体間の直接的なカップリングによって(直列型の合成)簡単かつ効果的にそれに対してカップリングさせることができる(図1)。ペプチド及び疑似ペプチドは、環式立体構造をとるように設計され、従って、タンパク質分解に対してより耐性となる。さらに、本発明のペプチド及び多量体は、天然リガンドと競合することなくLDLRに結合する。
本発明のペプチド又は疑似ペプチド又は多量体は、神経学的病態、並びに、脳又は他の組織の遺伝子的、感染性、炎症性又は癌性病態の処置、イメージング及び/又は診断における、治療上関心のある分子のための、又はイメージング剤もしくは診断剤のための、又は任意の他の分子、例えば分子プローブのためのベクターとして使用され得る。
本発明に記載のペプチド、疑似ペプチド及び多量体は、細胞受容体、特に細胞型及び器官、特に癌細胞、神経又は非神経組織、例えば肝臓、副腎又は腸をターゲティングする能力、及び/又は、細胞膜、特に、神経系の生理学的関門、より特定するとCNS及び眼の生理学的関門、特にBBB、BSCB、BRB、又は癌性神経組織腫瘍の血液腫瘍関門(BTB)を通過する能力を有する。
本発明のペプチド、疑似ペプチド及び多量体は、特定の細胞型又は器官、例えば肝臓、副腎又は腸の細胞膜、特にCNS及び眼の生理学的関門のヒト、マウス及び/又はラットLDLRに結合し、エンドサイトーシス又は受容体媒介輸送/経細胞輸送(RMT)によってこの受容体を介して前記の膜を通過する能力を有する。
それ故、ペプチド、疑似ペプチド及び多量体は、感染症の病態、又は細菌、ウイルス、寄生虫もしくは真菌の性質を有する/原因とする他の病態などの、様々な疾病を処置するのに適した薬物を設計するために使用され得る。
本発明の目的は、より特定すると、配列番号1〜5から選択された配列を含むペプチド又は疑似ペプチドに関する:
本発明のさらなる目的は、以下の式(A):
Ph−M−Pi (A)
(式中、
各Pは、アミノ酸配列:A1−Met−A2−Arg−Leu−Arg−A3−A4を含む同じ又は異なるペプチド又は疑似ペプチドを示し、A1及びA4は、独立して、システイン又はその類似体又はそのアイソスターを示し、A2はプロリン又はその類似体又はそのアイソスターを示し、A3はグリシン又はその類似体又はそのアイソスターを示し;
Mは分子プラットフォームであり、
h及びiは、互いに独立して、1、2、3、4又は5から選択された整数である)
で示される多量体物質に関する。
A1は、典型的には、D又はL立体配置のシステイン(Cys、C)から選択された残基、あるいは、L又はD立体配置の2−アミノ−3−メルカプトプロパン酸及びそのS−置換誘導体、S−アセチルシステイン又は2−アミノ−3−(アセチルチオ)プロパン酸、セレノシステイン(Sec、U)又は2−アミノ−3−(セレノ)プロパン酸、システイノール、3−メルカプトプロパン酸(Mpa)又はペニシラミン(Pen)から選択されたその誘導体を示す。好ましい態様において、A1はD−Cys、Pen又はD−Penである。
A2は、好ましくは、プロリン(Pro、P)又はピロリジン−2−カルボン酸、ホモプロリン又は2−(2−ピロリジニル)エタン酸、3−ヒドロキシプロリン(3Hyp)、4−ヒドロキシプロリン(4Hyp)、3−メチルプロリン、3,4−デヒドロプロリン、3,4−メタノプロリン、4−アミノプロリン、4−オキソプロリン、チオプロリン又はチアゾリジン−4−カルボン酸(Thz)、2−オキソチアゾリジン−4−カルボン酸、インドリン−2−カルボン酸(Idc)、ピペコリン酸(Pip)又はピペリジン−2−カルボン酸、ニペコチン酸(Nip)又はピペリジン−3−カルボン酸、4−オキソピペコリン酸、4−ヒドロキシピペコリン酸、アミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸、プロリノールから選択された残基を示す。好ましい態様において、A2は、Pro、Pip又はThzから選択される。
A3は、好ましくは、グリシン(Gly、G)又は2−アミノエタン酸、サルコシン(Sar)又はN−メチルグリシン(MeGly)、N−エチルグリシン(EtGly)、アリルグリシン(アリルGly)又は2−アミノ−4−ペンテン酸、2−シクロペンチルグリシン(Cpg)、2−シクロヘキシルグリシン(Chg)、2,2−ジプロピルグリシン(Dpg)、2−(3−インドリル)グリシン(IndGly)、2−インダニルグリシン(Igl)、2−ネオペンチルグリシン(NptGly)、2−オクチルグリシン(OctGly)、2−プロパルギルグリシン(Pra)又は2−アミノ−4−ペンチン酸、2−フェニルグリシン(Phg)、2−(4−クロロフェニル)グリシン、アザグリシン(AzGly)、又はグリシノール又は2−アミノエタノールから選択された残基を示す。好ましい態様において、A3は、Gly及びSarから選択される。
A4は、好ましくは、D又はL立体配置のシステイン(Cys、C)、あるいは、L又はD立体配置の2−アミノ−3−メルカプトプロパン酸及びそのS−置換誘導体、S−アセチルシステイン又は2−アミノ−3−(アセチルチオ)プロパン酸、セレノシステイン(Sec、U)又は2−アミノ−3−(セレノ)プロパン酸、システイノール、又はペニシラミン(Pen)から選択されたその誘導体から選択された残基を示す。
本発明の好ましいクラスの多量体物質において、Pは、式(I’):
(D)−Cys−Met−A2−Arg−Leu−Arg−A3−A4(I’)
(式中、
A2、A3及びA4は上記に定義されている通りである)
で示されるペプチド又は疑似ペプチドを示す。
P基の具体的な例は、配列番号1〜5のいずれか1つを含むペプチドである。
本発明の多量体物質は、同一でも異なっていてもよい2〜10個のP基を含み得る。好ましい態様において、多量体物質はホモ多量体であり、すなわち、全てのP基は同一である。さらに、本発明の好ましい多量体物質は二量体又は三量体であり、さらにより好ましくは二量体である。本発明は、実際に、二量体形の上記に定義されているようなLDLR結合ペプチドを使用することによって、結合能が改善され、RMT特性が高まることを示す。受容体の天然リガンドは単量体であるので、従来技術からこのような結果は全く予期されなかった。
特定の態様において、本発明の多量体物質において、hは1又は2であり、iは1又は2である。より好ましい態様において、h=i=1である。
分子プラットフォームMは、薬学的領域又は獣医学領域における使用に適合した任意の化学的な架橋基であり得る。基は、好ましくは、生物学的活性又は毒性を欠いている。分子プラットフォームのサイズは、当業者によって調整され得る。M基の好ましい例は、ポリリジンプラットフォーム、又は多官能基を有する有機化合物、例えばトリス(2−アミノエチル)アミンである。さらなるM基は、市販されている有機化合物である。特定の態様において、分子プラットフォームは、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つの反応性官能基を含み、これにより、少なくとも2つのペプチド及び少なくとも1つの対象分子のカップリングが可能となる。対象の分子を、ペプチド又はプラットフォームのいずれかにカップリングさせ得ることが注記されるべきである。反応性官能基の例としては、例えば、アミン、酸、チオール、アジド、アルキン、カルボニル、又はヒドラジンが挙げられる。好ましい態様において、分子プラットフォームは、好ましくは2〜10個のリジンを含むポリリジン基である。具体例は、ペプチドPと同じ数のリジン残基を含むジリジン又はポリリジンである。ペプチドを、プラットフォームの反応性官能基と共有結合によって直接的に、又はスペーサー(これは、例えば、グリシン又は一連のグリシン、PEG分子、又はアミノヘキサン酸から構成され得る)を通してのいずれかでプラットフォーム上にカップリングさせ得る。
多量体物質の特定かつ好ましい例は、以下の式:
(式中、
「配列番号1〜5」は、配列番号1〜5のいずれか1つから選択された配列を含むペプチドを示す)
で示される分子である。上記の式におけるペプチドは、上記に定義されているような式A1−Met−A2−Arg−Leu−Arg−A3−A4の任意の配列を含み得ることが理解されるべきである。
出願人によって得られた結果は、本発明のペプチド及び多量体は、LDLRに対して改善された親和性を有することを示す。特に、参照化合物と比較して、配列番号1〜5のペプチドは、表1に示されているように、高い優れた親和性を示す(実施例II)。さらに、本発明は、驚くべきことに、多量体物質が、高まった受容体への親和性、及び脳などの組織をターゲティングする高い能力を示すことを示す。より特定すると、上記に定義されているような2つのHDLR結合ペプチドを含む二量体物質は、脳などの組織をターゲティングする顕著に高い能力を有する。
これらの結果は、小さなペプチドサイズ(上記ペプチドは8つのアミノ酸を含む)を考慮すると特に顕著であり、これはその工業的使用におけるさらなる利点をなす。
上記に示されているように、本発明のペプチド又は疑似ペプチド又は多量体は、ペプチド、非ペプチド及び/又は修飾されたペプチド結合を含み得る。好ましい態様において、ペプチド又は疑似ペプチドは、好ましくは、メチレン(−CH2−)又はリン酸(−PO2−)基、第2級アミン(−NH−)又は酸素(−O−)、アルファ−アザペプチド、アルファ−アルキルペプチド、N−アルキルペプチド、ホスホンアミデート、デプシペプチド、ヒドロキシメチレン、ヒドロキシエチレン、ジヒドロキシエチレン、ヒドロキシエチルアミン、レトロインベルソ型ペプチド、メチレンオキシ、セトメチレン、エステル、ホスフィネート、ホスフィン酸、ホスホンアミド及びカルバ類似体の挿入から選択された少なくとも1つのペプチド模倣結合を含む。
さらに、特定の態様において、本発明のペプチド又は疑似ペプチドは、例えばアシル化又はアミド化又はエステル化によってそれぞれ保護されたN末及び/又はC末官能基を含む。
本発明のペプチド又は疑似ペプチドは、当業者に公知の任意の技術によって合成され得る(化学合成、生物学的合成又は遺伝子的合成など)。それらはそのままで保存されても、あるいは、対象の物質又は任意の許容される賦形剤の存在下で製剤化されてもよい。
化学合成のために、天然並びに非天然アミノ酸、例えばDエナンチオマー、並びにその天然相同体とは異なる疎水性及び立体障害を有する側鎖を有する残基(いわゆる外来性のアミノ酸、すなわち非コードアミノ酸)、又は特にメチレン(−CH2−)又はリン酸(−PO2−)基、第2級アミン(−NH−)又は酸素(−O−)又はN−アルキルペプチドの挿入を含み得る1つ以上のペプチド模倣結合を含むペプチド配列を取り込むことのできる市販の装置が使用される。
合成中、様々な化学的修飾を導入することができ、例えば、N末もしくはC末の位置に又は側鎖上に、脂質(又はリン脂質)誘導体又はリポソームもしくはナノ粒子の構成成分を置くことが可能であり、これにより、本発明のペプチド又は疑似ペプチドを、脂質膜内に、例えば1つ以上の脂質層又は二重層から構成されるリポソームの脂質膜内に又はナノ粒子の脂質膜内に取り込むことができる。
本発明のペプチド又はそのタンパク質の一部はまた、それをコードする核酸配列から得ることができる。本発明はまた、上記に定義されているようなペプチドをコードする核酸配列を含む又はからなる核酸分子に関する。より特定すると、本発明は、一般式(I)のペプチドをコードする少なくとも1つの配列を含む核酸分子に関する。これらの核酸配列はDNAでもRNAでもよく、制御配列と組み合わせていてもよく、及び/又は生物学的発現ベクターに挿入されていてもよい。
使用される生物学的発現ベクターは、導入される宿主に応じて選択される。それは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルスなどであり得る。本発明は、特に、これらの核酸及び生物学的発現ベクターに関し、これを使用して本発明のペプチド又はそのタンパク質の一部を宿主細胞において産生することができる。これらの生物学的発現ベクターを調製することができ、前記ペプチドを当業者に周知の分子生物学及び遺伝子工学技術によって宿主において産生又は発現させることができる。
本発明の別の目的は、治療上関心の分子、又はイメージング剤もしくは診断剤、又は任意の他の分子の導入/輸送のためのベクターとしての、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体の使用に関する。
本発明はまた、健康な又は病的なLDLR発現組織の細胞膜を、特に生理学的関門BBB/BSCB及びBRBを通過して通過することのできる医薬品を調製するための、上記に定義されているようなペプチド又は疑似ペプチド又は多量体の使用に関する。
本発明はまた、本発明のペプチド又は疑似ペプチド又は多量体への分子のカップリングを含む、健康な又は病的な(例えば癌細胞)LDLR発現組織(例えば肝臓、副腎又は腸)の細胞膜を通過して、特に生理学的関門BBB/BSCB及びBRBを通過して、前記分子の通過を可能とする又は改善するための方法に関する。
本発明はさらに、以下のような式(II):
PxDy (II)
(式中、
Pは、配列番号1〜5のいずれか1つのアミノ酸配列を含むペプチド又は疑似ペプチドを示し、Dは、活性物質又は対象の物質を示し、x及びyは1〜5の整数である)
で示されるコンジュゲート化合物に関する。特定の態様において、x及びy=1であり、xはyより大きいか、又はyはxより大きい。
本発明はまた、以下のような式(III):
VxSzDy (III)
(式中、
Vは本発明のペプチド又は疑似ペプチド又は多量体を示し、Sはスペーサーを示し、Dは活性物質又は対象の物質を示し、xは1〜5の整数であり、y及びzは1〜10の整数である)
で示されるコンジュゲート化合物に関する。特定の態様において、x=z=y=1又はx=z>y又はy=z>x又はz>x>yである。
活性物質又は対象の物質は、薬学的に関心のある任意の分子、特に治療剤、診断剤又は医療用イメージング剤、又は分子プローブであり得る。それは、特に、生物学的に関心のある任意の化学的実体、例えば小さな化学的分子(抗生物質、抗ウイルス剤、免疫調節剤、抗腫瘍剤、抗炎症剤など)、ペプチド又はポリペプチド(例えばニューロペプチド、ホルモン)、タンパク質(酵素、特にリソソーム、ホルモン、サイトカイン、アポリポタンパク質、成長因子、抗原、抗体又は抗体の一部)、核酸(ヒト、ウイルス、動物、真核生物又は原核生物、植物又は合成起源の、リボ核酸、siRNA、miRNA、又はデオキシリボ核酸など、そのサイズは、1つのオリゴヌクレオチドのサイズからゲノム又はゲノムフラグメントのサイズまでの範囲であり得る)、ウイルスゲノム又はプラスミド、リボザイム、マーカー又はトレーサーである得る。一般的に、「対象の物質」は、化学的、生化学的、天然又は合成の化合物の、任意の薬物活性成分であり得る。「化学的低分子」という表現は、最大分子量が1,000ダルトン、典型的には300ダルトンから700ダルトンである薬学的に関心のある分子を示す。
本発明のコンジュゲート化合物における、種々の部分間のカップリングは、会合した活性物質及びペプチド又は疑似ペプチドの化学的性質、障壁及び数を考慮しながら、任意の許容される結合手段によって実施され得る。従って、カップリングは、生理的培地中又は細胞内において切断可能な又は切断不能な、1つ以上の共有結合、イオン結合、水素結合、疎水性結合又はファンデルワールス結合によって行なわれ得る。さらに、Dは、必要であればSを介して、VもしくはPと、様々な反応性基において、特にVの1つ以上のN末端及び/もしくはC末端において、並びに/又はVにより構成される天然もしくは非天然アミノ酸側鎖によって化学的に導入もしくは担持される1つ以上の反応性基においてカップリングされ得る。
カップリングは、−OH、−SH、−CO2H、−NH2、−SO3H、−CN、−N3、−NCS、−PO2H、マレイミド又はスクシンイミドエステルなどの官能基が天然に存在するか又は導入されている、ペプチド又は疑似ペプチドの任意の部位において行なわれ得る。従って、対象の治療用分子又は診断(又は医療用イメージング)剤又は任意の他の分子、例えば分子プローブは、ペプチド又は疑似ペプチドベクターに共有結合によって、このペプチド配列のN末端もしくはC末端のいずれか、又はこのペプチド配列の天然もしくは非天然アミノ酸側鎖によって担持される反応性基において連結(カップリング)され得る。
同様に、カップリングは、例えば−OH、−SH、−CO2H、−NH2、−SO3H、−CN、−N3、−NCS、−PO2H、マレイミド又はスクシンイミドエステルなどの官能基が天然に存在するか又は導入された、活性物質又は対象の物質(治療的に関心のある分子、診断剤又は医療用イメージング剤、任意の他の分子、例えば分子プローブ)の任意の部位において行なわれ得る。
このカップリング化学反応はまた、上記したような分子プラットフォームにペプチド又は薬物をコンジュゲートさせるのに適している。
ペプチドがその作用部位に到達する前に活性物質から解離しないのに十分なほど相互作用が強いことが好ましい。この理由のために、本発明の好ましいカップリングは共有結合であるが、非共有結合もまた使用され得る。対象の物質を、ペプチドの末端(N末又はC末)の一方、又は構成アミノ酸配列の1つの側鎖において、又は多量体の場合には導入された任意の官能基上のいずれかにおいて、前記ペプチドに直接カップリングさせ得る(直列型合成)。対象の物質はまた、リンカー又はスペーサーを用いて間接的に、ペプチドの末端の一方に、又は構成アミノ酸配列の1つの側鎖においてカップリングさせ得る(図1)。スペーサーを必要とする又は必要としない、共有結合による化学的カップリングの手段は、エステル、アルデヒド又はアルキル又はアリール酸、無水物、スルフヒドリル又はカルボキシル基、臭化シアンもしくは塩化シアンから導かれた基、カルボニルジイミダゾール、スクシンイミドエステル、スルホン酸ハロゲン化物、マレイミド、アジド、イソチオシアネート、アルキンによる、アルキル、アリール、PEG又はペプチド基を含む二官能基又は多官能基物質から選択されたものを含む。
この点に関して、本発明はまた、上記に定義されているようなコンジュゲート化合物を調製するための方法に関し、前記方法は、ペプチド又は疑似ペプチド又は多量体と物質Dとの間の、必要であればSを介した、好ましくは化学的、生化学的又は酵素的経路によって又は遺伝子工学によってカップリングする工程を含むことを特徴とする。
本発明はまた、上記に定義されているような少なくとも1つのコンジュゲート化合物及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含むことを特徴とする、薬学的組成物に関する。
本発明はまた、上記に定義されているようなコンジュゲート化合物から構成される診断用又は医療用イメージング剤を含むことを特徴とする、診断用組成物に関する。
前記コンジュゲートは、任意の薬学的に許容される塩の形態で使用され得る。「薬学的に許容される塩」という表現は、例えば、非制限的に、薬学的に許容される塩基又は酸付加塩、水和物、エステル、溶媒和物、前駆体、代謝物又は立体異性体を指し、前記ベクター又はコンジュゲートには、少なくとも1つの対象の物質がローディングされている。
「薬学的に許容される塩」という表現は無毒性塩を指し、これは、一般的に、遊離塩基を適切な有機酸又は無機酸と反応させることによって調製され得る。これらの塩は、生物学的有効性及び遊離塩基の特性を保持する。このような塩の代表例としては、水溶性及び水不溶性の塩、例えば酢酸塩、N−メチルグルカミンアンモニウム、アムソン酸塩(4,4−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホネート)、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化水素酸塩、臭化物塩、酪酸塩、カンシル酸塩、炭酸塩、塩酸塩、塩化物、クエン酸塩、クラブラン酸塩、二塩酸塩、ジホスホン酸塩、エデト酸塩、エデト酸カルシウム、エジシル酸塩、エストレート、エシレート、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、アルサニル酸グリコリル、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキシルレソルシナート(hexylresorcinates)、ヒドラバミン、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イソチオネート、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硝酸メチル、硫酸メチル、ムカート、ナプシレート、硝酸塩、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩(1,1−メチレン−ビス−2−ヒドロキシ−3−ナフトエート、又はエンボネート(emboates)、パントテン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩(subacetate)、コハク酸塩、硫酸塩、スルホサリチル酸塩、スラメート(suramates)、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオダイド、トリフルオロ酢酸塩、及び吉草酸塩が挙げられる。
本発明の組成物は、有利には、薬学的に許容されるベクター又は賦形剤を含む。薬学的に許容されるベクターは、各投与形態に従って古典的に使用されるベクターから選択され得る。考えられる投与形態に従って、前記化合物は、固体、半固体又は液体の形態であり得る。バラの又はゼラチンカプセル剤に含まれた錠剤、丸剤、散剤又は顆粒剤などの固形組成物のために、活性物質を、a)希釈剤、例えば乳糖、デキストロース、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、セルロース及び/又はグリシン;b)潤滑剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムもしくはカルシウム塩及び/又はポリエチレングリコール;c)結合剤、例えばケイ酸マグネシウム及びアルミニウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン;d)崩壊剤、例えばデンプン、寒天、アルギン酸又はそのナトリウム塩、又は発泡性の混合物;及び/又はd)吸着剤、色素、芳香剤及び甘味剤と配合することができる。賦形剤は、例えば、マンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、ブドウ糖、ショ糖、炭酸マグネシウム及び製薬等級の類似体であり得る。坐剤などの半固体組成物のための賦形剤は、例えば、乳剤又は油性懸濁液、又はポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールを基剤とし得る。液体組成物、特に注射液又は軟カプセル剤に含まれるものは、例えば、水、生理食塩水溶液、水性デキストロース、グリセロール、エタノール、油、及びその類似体などの薬学的に純粋な溶媒中への活性物質の溶解、分散などによって調製され得る。
本発明の組成物又はコンジュゲートは、任意の適切な経路によって、非制限的に、非経口経路によって、例えば、皮下、静脈内又は筋肉内経路によって注射され得る調製物の剤形で;経口経路によって(すなわち経口)、例えば、コーティングされた又はコーティングされていない錠剤、ゼラチンカプセル剤、散剤、ペレット剤、懸濁剤、又は経口用液剤の形態で(経口投与用のこのような1つの剤形は、即時放出又は延長放出もしくは遅延放出のいずれかであり得る);直腸経路によって、例えば、坐剤の剤形で;局所経路によって、特に経皮経路によって、例えば、パッチ、ポマード又はゲルの剤形で;鼻腔内経路によって、例えばエアゾール又は噴霧剤形で;舌を通しての経路によって;又は眼内経路によって投与され得る。
薬学的組成物は、典型的には、有効投与量の本発明のペプチド又は疑似ペプチド又はコンジュゲートを含む。本明細書に記載のような「治療有効量」は、所与の容態及び投与計画に対して治療効果をもたらす投与量を指す。それは、典型的には、疾病又は病的状態に伴ういくつかの症状を認め得るほどに改善するために投与されるのは、平均投与量の活性物質である。例えば、脳又は別の組織の癌、CNSの病態、病変又は疾患を処置する際の、疾病又は疾患の原因又は症状の1つを減少、防止、遅延、消失又は停止させる活性物質の投与量は治療に有効なものである。
活性物質の「治療有効量」は、疾病又は疾患を必ずしも治癒しないが、この疾病又は疾患のための処置を提供し、よって、その出現が遅延、妨害又は防止されるか、あるいはその症状が減弱されるか、あるいはその期間が改められるか、あるいは例えば、重篤度がより低くなるか、あるいは患者の回復が加速される。
特にヒトに対する「治療有効量」は、活性物質の活性/効力、その投与時刻、その投与経路、その***速度及びその代謝、薬物の併用/相互作用、及び予防的又は治癒的な基準で処置される疾病(又は疾患)の重篤度、並びに、患者の年齢、体重、全体的な健康状態、性別及び/又は食事を含む、様々な因子に依存することが理解される。
カップリングされる物質に依存して、本発明のコンジュゲート及び組成物は、多くの病態、特にCNS又は眼を冒す病態、感染症病態又は癌、炎症性疾病、及び/又は肝硬変又は肝線維症、肝細胞癌、副腎及び腸などの他の組織の疾病の処置、予防、診断又はイメージングのために使用され得る。
この点に関して、本発明は、CNSの病態もしくは疾患、脳腫瘍又は他の癌細胞、及び脳もしくは他の組織の細菌性、ウイルス性、寄生虫性もしくは真菌性の感染病態、炎症性疾病、及び/又は肝硬変もしくは肝線維症、肝細胞癌、副腎及び腸などの他の組織の疾病を処置又は予防するための上記のような薬学的コンジュゲート又は組成物の使用に関する。
本発明はまた、CNS又は眼の病態もしくは疾病、脳腫瘍又は他の癌細胞、及び脳もしくは他の組織の細菌性、ウイルス性、寄生虫性もしくは真菌性の感染病態、及び炎症性疾病、及び/又は肝硬変もしくは肝線維症、肝細胞癌、副腎及び腸などの他の組織の疾病を診断又はイメージングするための上記のような薬学的コンジュゲート又は組成物の使用に関する。
本発明はまた、脳腫瘍又は他の種類の癌細胞を処置、イメージング及び/又は診断するための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する。研究により、実際に、特定の癌を有する患者は低コレステロール血症を有することが示された。この低コレステロール血症は、癌細胞によるコレステロールの過剰使用の結果である。癌細胞は生存するために、腫瘍を有する器官内のLDLR発現レベルの増加を誘導する(Henricksson et al., 1989, Lancet, 2(8673), 1178-1180)。従って、細胞によるLDLR発現レベルの増加と及び特定の癌との間には相関がある。また、近年、LDLRの数は、癌細胞などの特定の病的細胞の表面上で非常に高いことが示された。一般的に、1,000〜3,000個のLDLRが、病的ではない細胞の表面に存在していることが認められている。同様に、皮質の灰白質の細胞には僅かなLDLRしか存在していない(Pitas et al., 1987, J. Biol. Chem., 262, 14352-14360)。神経膠芽腫の場合、LDLRの過剰発現が示されている。従って、脳腫瘍細胞の表面上に、125,000(U−251細胞について)から900,000個(SF−767細胞について)のLDLRが計測されている(Malentiska et al., 2000, Cancer Res., 60, 2300-2303; Nikanjam et al., 2007, Int. J. Pharm., 328, 86-94)。また、多くの腫瘍細胞がLDLRを、例えば、前立腺癌(Chen et al., 2001, Int. J. Cancer, 91, 41-45)、大腸癌(Niendorf et al., 1995, Int. J. Cancer, 61, 461-464)、白血病(Tatidis et al., 2002, Biochem. Pharmacol., 63, 2169-2180)、結腸直腸癌(Caruso et al., 2001, Anticancer Res., 21, 429-433)、乳癌(Graziani et al., 2002, Gynecol. Oncol., 85, 493-497)、並びに、肝臓、副腎、膵臓、卵巣、肺などの癌のLDLRを過剰発現することが注記されるべきである。
本発明はまた、脳又は他の組織の細菌性、ウイルス性、寄生虫性又は真菌性の感染症病態、例えば非制限的には、AIDS又は髄膜炎などを処置、イメージング及び/又は診断するための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する。LDLRはまた、肝細胞上にも存在する。今日では、C型肝炎ウイルス(HCV)のエンドサイトーシスは、LDLRを介して起こり得ることが知られている。LDLRは、HCVによるヒト肝細胞の感染の初期段階でウイルス受容体として作用し得る(Molina et al., 2007, J. Hepatol., 46(3), 411-419)。従って、本発明のコンジュゲートは、LDLRを発現するB型肝炎及びC型肝炎ウイルスなどのウイルスに感染した病的細胞を特異的にターゲティングするために、及び/又は、健康な細胞のウイルス感染プロセスをLDLRを介して調節するために使用することができる。本発明はまた、他の肝臓病態、例えば非制限的には、アルコール消費によって誘発された又は誘発されない非ウイルス性肝炎、急性肝炎、肝硬変又は肝線維症、原発性胆汁性肝硬変及び肝胆道の他の病態などの処置、イメージング及び/又は診断のための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する(Poeltra et al., 2012, J Control Release, 161(2):188-97)。
本発明はまた、LDLRの豊富な副腎又は腸の疾病をイメージング又は処置するための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する。
本発明はまた、神経変性病態、例えば非制限的には、アルツハイマー病、パーキンソン病、クロイツフェルトヤコブ病、脳血管障害(CVA)、ウシ海綿状脳症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脊髄損傷などを処置、イメージング及び/又は診断するための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する。
本発明はまた、神経学的病態、例えば非制限的には、癲癇、偏頭痛、脳炎、CNS疼痛などを処置、イメージング及び/又は診断するための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する。
本発明はまた、神経変性及び興奮毒性プロセス、例えば非制限的には、一過性心肺停止、脳卒中、新生児虚血などを処置、イメージング及び/又は診断するための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する。
本発明はまた、精神神経病態、例えば非制限的には、うつ病、自閉症、不安症、統合失調症などを処置、イメージング及び/又は診断するための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する。
本発明はまた、眼の病態、例えば非制限的には、網膜色素変性症、黄斑変性、錐体桿体ジストロフィー(CORD)、網膜剥離(retinal separation)、網膜剥離(retinal detachment)、高血圧性網膜症及び糖尿病性網膜症、網膜芽細胞腫、網膜脂血症などを処置、イメージング及び/又は診断するための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する。
「処置」、「処置すること」、「処置する」という用語及び他の類似の表現は、薬理学的効果及び/又は生理学的効果を得ること、例えば、癌細胞増殖の阻止、癌細胞死、又は疾病もしくは神経学的疾患もしくは眼疾患の改善を指す。効果は、病人における疾病もしくはそのような疾病の症状の悪化、又は健康な被験体におけるその増殖を完全にもしくは部分的に防止するように予防的もしくは防止的であり得るか、及び/又は、疾病及び/又はその関連した有害な作用を完全に又は部分的に処置するように治療的であり得る。本文書に使用されるような「処置」という用語は、哺乳動物、より特定するとヒトにおける疾病の任意の処置を網羅し、かつ、(a)この病態又は疾患の素因のあるヒトに生じ得るが、まだ陽性と診断されていない疾病(例えば、癌の防止)又は容態の防止、(b)疾病の緩徐化(例えば、その発症を停止させることによって)、又は(c)疾病からの寛解(例えば、疾病に伴う症状を低減させることによって)を含む。この「処置」という用語はまた、本文書に記載されているようなベクター又はコンジュゲートから構成される薬物を必要とするヒトへの投与を含むがそれらに限定されない、個体又は患者における容態に対処、治癒、軽減、改善、低減又は阻止するための活性物質の任意の投与を網羅する。
本発明はまた、カップリングしている活性物質又は対象の物質(対象の治療用分子、診断剤又は医療用イメージング剤、又は任意の他の分子、例えば分子プローブ)の生物学的活性を増加させるための、本発明のペプチド又は疑似ペプチドの使用に関する。
本発明はまた、カップリングしている活性物質又は対象の物質(対象の治療用分子、診断剤又は医療用イメージング剤、又は任意の他の分子、例えば分子プローブ)の毒性を低減させるための本発明のペプチド又は疑似ペプチドの使用に関する。
本発明の他の局面及び利点は、以下の実施例の考察により明らかとなり、これは単に説明の性質を帯び、本発明の範囲を制限するものではない。
実施例
実施例I
ペプチドの合成及びトレーサー分子(酵素活性を有するビオチン、フルオレセイン、ローダミン、シアニン又はStagペプチド)とのカップリング
ペプチドを、アドバンスケムテックApex396(AAPPTec)シンセサイザー又はLiberty(登録商標)(CEM)マイクロ波シンセサイザーで、固相ペプチド合成(SPPS)法によって、ポリスチレン−1%DVB上のリンクアミドAMレジン、ポリスチレン−1%DVB上のワンレジン、ポリスチレン−1%DVB上のBarlosレジン(2−クロロトリチルクロリド)、又はポリスチレン−1%DVB上のSieberアミドレジンでのFmoc/tBu戦略を使用して合成した。ロード(又は置換)は使用されるレジンに応じて、0.25mmol/gから1.6mmol/gである。
Fmoc(又は特定のN末端についてはBoc)によってN−保護された及び/又はその側鎖においてオルトゴナルな官能基(特に酸に不安定な官能基)によって保護されたアミノ酸、化学的カップリング試薬及び脱保護試薬及び溶媒は、特殊な会社からもたらされ、そのまま使用される。
リンクアミドレジン及びワンレジンは、その側鎖及びそのC末端が完全に脱保護されたペプチド配列を合成することを可能とする。従って、これは2次元(Fmoc/tBu)のオルトゴナルなペプチド固相合成法である。
Barlos及びSieberの非常に敏感で酸に不安定な(HAL)レジンはそれぞれ、合成されたペプチドの様々なアミノ酸のオルトゴナルな側鎖の保護を維持しつつ、末端(C末)の酸又はアミド官能基の遊離、並びに、その最後のアミノ酸のアミン官能基の末端(N末)アミン保護を可能とする(例えば、新規合成されたペプチド配列の安定性の問題のためにN−アセチル化)。保護されたペプチドは非常に弱い酸性条件で切断されるが、Fmoc(Prot1)合成戦略を介した、これらのタイプのレジンは強酸媒体中でのみ切断可能な酸に不安定なオルトゴナルな側鎖の保護(Prot2:Boc、tBu、OtBu、Trt、Mmt、Acmなど)を使用することを可能とする。このタイプの切断は、対象の治療分子をペプチドとカップリングさせることを特に目的として、その側鎖官能基(Prot2)上が完全に保護されたペプチド配列を回収することを可能とする。従って、これは3次元の(Barlos又はSieber/Fmoc/tBu)オルトゴナルなペプチド固相合成法である。
ペプチド合成中に各アミノ酸に使用される標準的なオルトゴナルな側鎖の保護(Prot2)は:Arg(N−Pbf)、Arg(N−Pmc)、Asn(N−Trt)、Asp(O−tBu)、Cys(S−Acm)、Cys(S−Mmt)、Cys(S−4MeBn)、Cys(S−tBu)、Cys(S−Tmob)、Cys(S−Trt)、Glu(O−tBu)、Gln(N−Trt)、His(N−Trt)、Lys(N−Boc)、Pen(S−Acm)、Pen(S−Trt)、Ser(O−tBu)、Thr(O−tBu)、Trp(N−Boc)、Tyr(O−tBu)である(Applied Biosystems, 1998, Cleavage, Deprotection, and Isolation of Peptides after Fmoc Synthesis. Technical Bulletin)。Gly、Sar、Ala、Val、Leu、Ile、Phe、Met、Pro、Pip及びThzは側鎖が保護されていない。なぜなら、そのそれぞれの化学構造はそれを必要としないからである。
アミノ酸は、DMF中、DIEA/HBTU/HOBt又はDIPC/HOBtを使用して、n+1アミノ酸の酸官能基の活性化を介してカップリングされる。
このようにしてカップリングされた新規アミノ酸のFmoc(Prot1)基の脱保護は、20%ピペリジンのDMF溶液を使用して行なわれる。
ペプチドシークエンス中にカップリングされた最後のアミノ酸はBoc官能基によって保護されるか(合成終了時にその遊離末端アミン官能基を遊離することを目的として)、又はアセチル化(合成された新規ペプチドを安定化させるためであるが、しかしまた、例えばC末の位置に対象の治療分子を共有結合的にカップリングさせる間に二次反応のリスクを低減させるため)もしくはプロピオニル化される。
合成されたペプチドに従って、ジスルフィド架橋が、当業者によって古典的に使用されてきた以下の試薬を使用して、溶液中又はレジン上のいずれかで、2つの適切に保護されたCys(Acm、Trt、tBuなど)の2つのチオール官能基の分子内環化によって得られる:H2O/AcOH/,/(NH4)2CO3/DMSO、H2O/AcOH,/(NH4)2CO3、I2/DMF、I2/HFIP/DCM、TFA/DMSO/アニソール、I2/DCM/MeOH/H2Oなど。N末の位置におけるCysは、有利には、ジスルフィド架橋を介した環化のためにPen又はMpaによって置換され得る。ランチオニン架橋(デヒドロアラニンを介した環化による)又はジカルバ(アリルGlyを介した環化による)もまた、当業者に公知の合成経路によって得ることができる。Glu(又はAsp)残基の側鎖の酸官能基と、Lys上の側鎖アミン官能基又はN末アミンとの間でラクタム架橋を作ることができる。同様に、N末のアミン官能基とC末の酸官能基(ヘッド/テイル)の間の環化を、Lysの側鎖アミン官能基とペプチドのC末の酸官能基との間の環化のように、アミド結合を介して行なうことができる。
Barlos又はSieberレジンからのペプチドを、当業者によって古典的に使用されてきた方法によって、0.5%TFA(v/v)のDCM溶液を用いて、又はAcOH/TFE/DCM(1/1/3)を用いて、又はHFIP(30%)のDCM溶液を用いて、又はTFE(30%)のDCM溶液などのいずれかを用いて切断する。側鎖の脱保護、及びリンクアミドレジン又はワンレジンからのペプチドの切断を、当業者によって古典的に使用されてきた方法によって、TFA/H2O/TIS又はTIPS(95/2.5/2.5)を用いて、又はTFA/H2O/EDT/TIS又はTIPS(94/2.5/2.5/1)を用いて、又はTFA/チオアニソール/H2O(94/5/1)を用いて、又はTFA/TIS/H2O/チオアニソール(90/5/3/2)を用いて、又はTFA/H2O/フェノール/チオアニソール/EDT(82.5/5/5/5/2.5)などを用いて行なう。
ビオチン、フルオレセイン、(FITC)、ローダミン(ローダミンRED−X)、シアニン(Cy3.5)又はSTag(以下の実施例IV参照)は、一般的に、C末又はN末の位置に導入され、これらのトレーサーは時に、当業者には公知の古典的な合成法及びカップリング法に従って、N末の位置にカップリングされる。
ペプチドを、例えば水相(H2O+0.1%TFA)中で0%〜100%のアセトニトリル勾配を3.5分間、その後、100%〜0%で1.5分間(流速:1ml/分から5ml/分)でのChromolith C18(4.6mm×50mm)又はNucleosil C18(10mm×250mm)カラムを含むBeckman System Gold 126装置での、あるいは、Waters 996 PDA検出装置(190nm〜400nm)により検出されるChromolith Speed ROD RP-18(4.6mm×50mm)カラム(固定相)を含むWaters 1525システムでの、あるいは、Waters 996 PDA検出装置(190nm〜400nm)により検出されるChromolith Performance RP-18(3mm×100mm)カラム(固定相)を含むWaters Alliance 2690システムでの、HPLCによって単離及び精製する。UV検出は、214nm及び254nmで行なわれる。
分取精製は、Waters 2487 Dual Wavelength Absorbance検出装置により検出される、Delta-Pak(登録商標)C18カートリッジ(25mm×10mm)を含むGuard-Pak(登録商標)カラム(固定相)を含むWaters Prep LC4000システムを用いて行なわれる。
分子量を、ポジティブモードで電子スプレーイオン化(ESI)質量分析計を使用して決定する。スペクトルは、LC−MSカップリングを可能とするWaters Alliance 2690 HPLCシステムを備えたWaters Micromass Quattro Micro(四重極型分析装置)を使用することによって得られる。
使用されるLC−MS分析条件は、以下の通りである:
− Chromolith Flash C18カラム(4.6mm×25mm)、
− 3ml/分の流速、
− 2.5分間で0〜100%のBの線形勾配(A:0.1%のH2O/HCO2H;B:0.1%のACN/HCO2H)。
ポジティブ電子スプレーモードの質量スペクトルを、100〜200μl/分の流速で獲得する。データは、0.1秒の間隔で200〜1700m/zのスキャンモードで得られる。
実施例II
ペプチドベクターの設計
ペプチドがhLDLRに結合する能力を決定した。この目的を達成するために、接着及びコンフルエントなCHO−hLDLR−RFP細胞を、6ウェルプレート中で培養した。1つの条件につき3つの細胞のウェルを使用する。
Stagに付着させた10μMの参照ペプチド1(「配列番号17」と呼ばれる、そのアミノ酸配列は、WO2011/131896において配列番号17として開示されている)(「配列番号17−Stag」)を含む溶液を、HamF12−1%BSA培養培地中で調製した。この溶液に、評価すべき10μMのペプチドを加えた(競合)。
いくつかの対照溶液も調製する:
(i)HamF12−1%BSA培地。
(ii)HamF12−1%BSA培地+10μMの対照ペプチドCTRL−STag(STagを含む任意のペプチドの非特異的結合の評価)。
(iii)HamF12−1%BSA培地+10μMのペプチド配列番号17−STag+10μMの対照ペプチドCTRL(対象のペプチドと対照ペプチドCTRLの間の「非特異的」競合の評価)。
使用されるFRETアプローチは、実施例IIIに記載のものである。
得られた結果を以下の表1に提示する。表は、本発明のペプチドによって置換された、hLDLRに対する親和性である、参照ペプチドベクター(配列番号17−STag)に対する競合%の結果を示す。置換値が大きくなればなるほど、hLDLRに対するペプチドの親和性は高くなる。この数値が50%を超えると、ペプチドは、参照ペプチド1よりも高い親和性を有する。
提示された結果は、配列番号1〜5のいずれか1つのアミノ酸配列を含む本発明のペプチドが、参照ペプチド1よりもヒトLDLRに対して高度に優れた親和性を有することを示す。これらの結果は、特に、ペプチドのサイズが小さいことを考えると興味深い。
さらに、表面プラズモン共鳴(Biacore(登録商標))を使用して測定された本発明のペプチドの結合親和性KDもまた顕著な結果を示す。例えば、配列番号1のペプチドは、22nMという低いKD値を示す。
本発明のペプチドのインビトロにおける血漿中の安定性(すなわち半減期又はt1/2)もまた評価された。簡潔に言えば、各ペプチドを、37℃で8時間まで新しく回収されたスイス(CD−1)マウス血液中でインキュベーションし、血漿画分中の分析物を、液体クロマトグラフィー−タンデム型質量分析計(LC−MS/MS)分析法を使用していくつかの時点で定量した。結果は、本発明の全てのペプチドが、少なくとも3.9時間及び9.2時間以下のインビトロにおける半減期の値を示すことを示す。
従って、本発明のペプチド又は疑似ペプチドは、以下の顕著な薬理学的特性を有する:
(i)100nMの範囲のhLDLRに対する見かけの親和性(Km)及び10nMの範囲の親和性(KD)、これは以前のペプチドより非常に優れており、かつ、ペプチドの結合、エンドサイトーシス、細胞内放出又は経細胞輸送/排出後の放出に適合している(Yu et al., 2011, Sci Transl Med., May 25;3(84):84ra44);
(ii)hLDLRに対するその特異性を支持する物理化学的な特徴(ジスルフィド架橋の環化を介した拘束されたコンフォメーション);8アミノ酸までに低減されたサイズ;この受容体に対するその特異性を促進するために非天然アミノ酸は4つ以下;
(iii)酵素的タンパク質分解に対するより大きな抵抗性:内因性ペプチド及び一般的には天然アミノ酸のみを含む小さな鎖状ペプチドは、血液中で非常に短いインビトロにおける半減期(t1/2)を有し、典型的には分単位の範囲を有するが(Foltz et al., 2010, J Nutr., Jan;140(1):117-8)、本発明のペプチドのt1/2は、1.5時間から9.2時間までの範囲である。
(iv)小さなサイズ及び1kDaに近い分子量により、合成費用及び工業規模での将来的な生産量を減少させることが可能となる。
実施例III
CHO−LDLR−GFP細胞系のhLDLRに対して親和性を有する合成ペプチドの結合及びエンドサイトーシス
本発明のペプチドは、C末又はN末の位置において、3つのGly残基から一般的に構成されるスペーサーによって隔てられて、様々なトレーサー分子である、ローダミンRed−X、Cy3.5、FITC又はSTagのいずれかとカップリング/コンジュゲートしている(図2)。STag(ウシ膵リボヌクレアーゼAの配列1〜15に由来する15アミノ酸ペプチド)は、一方で、免疫細胞化学又はFACSアプローチのために抗STag抗体によって認識され得、他方で、FRETWorks STagアッセイキット(Novagen 70724-3)を使用したインビトロ活性試験においてリボヌクレアーゼS−タンパク質(C末部分、アミノ酸21〜124)と結合させることによって酵素活性を復元することができる。このようにして活性化されたリボヌクレアーゼは、RNA基質を消化して、遮蔽された蛍光物質を放出し、これはFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)によって可視化され、96ウェルプレート中、Beckmann分光蛍光光度計で定量される。これらのFRET実験のために、対照CHO細胞を使用し、hLDLR及びmLDLRとC末の位置において融合させたGFP(これは、FRETに使用された波長で強力なバックグラウンドノイズを発生する)を、赤色蛍光タンパク質(RFP)によって置換した。FRET実験のために生成された安定な細胞系は、従って、CHO−RFP及びCHO−hLDLR−RFPである。
FRETアプローチのために、細胞を2mlのPBSで2回洗浄し、その後、37℃で1時間250μlのペプチド溶液と共にインキュベーションした。それらを2mlのPBSで2回洗浄し、その後、1mlのPBSで2回洗浄し、その後、1mlのPBS中で剥離し、1250rpmで5分間遠心分離にかけた。その後、上清を吸引し、細胞ペレットを80μlのPBS+0.1%トリトンX100中で溶解した。20μlの各細胞溶解液を、FRET反応後の蛍光の発光を測定することによって分析する。
従って、hLDLRを発現する様々な細胞上でのペプチドのインキュベーションを含む実験が実施され、前記ペプチドがCHO−LDLR−GFP細胞に結合し、それらがエンドサイトーシスを受けて、hLDLRを発現する細胞系の細胞に蓄積することを実証し、これは対照ペプチドについては当てはまらない。これらの実験において、STagに対して向けられた一次抗体(一次Ab)及び一次抗体に対して向けられた二次抗体(二次Ab)と共に、Stagにコンジュゲートさせたペプチドを事前にインキュベーションすることは、ペプチド−STag、一次Ab及び二次Abとの間の複合体が、hLDLRを発現している細胞に結合し、エンドサイトーシスによって内部移行することを示す。これらの結果は、本発明のペプチドが、hLDLを発現している細胞に結合することができ、かつ、大きなロード(2つの抗体)をベクター化することができること、すなわち、これらのロードはエンドサイトーシスによって内部移行することを示す。
STagにコンジュゲートさせたペプチドの正確な細胞内輸送をさらに評価するために、CHO−hLDLR−GFP細胞においてパルスチェイス実験を実施した(図3)。これらの実験において、ペプチド配列番号1−STag/一次抗体/二次抗体から構成される複合体を、4℃で30分間CHO−hLDLR−GFP細胞と共に、蛍光プローブDiIにカップリングさせたLDLRの天然リガンドであるLDL(DiI−LDL)と一緒にインキュベーションする。その後、細胞を、1mlのPBSで3回洗浄し、チェイス培地中で5分間インキュベーションし(図3−T5)、細胞質内小胞の蓄積を可能とさせるか、又は3時間インキュベーションし(図3−T180)、エンドソームの輸送及びリソソームとの融合を可能とさせ、リソソーム中に天然リガンドLDLは蓄積するが、LDLRは、再循環エンドソーム経路を介して形質膜に再循環して戻される。その後、細胞を4%のPFAで10分間かけて固定し、透過処理を行なわずに処理した。結果は、i)本発明のペプチドが、細胞表面に発現されるhLDLRに特異的に結合し、LDLRの天然リガンドであるLDLの結合及びエンドサイトーシスを変化させることなくLDLRにより媒介されるエンドサイトーシスを受け、ii)エンドサイトーシス後、これらのペプチドのかなりの部分が、LDLと同じ細胞内輸送経路を辿り、最終的にペプチド含有小胞とリソソームは融合するが(図3−T180/挿入図2)、ペプチド類似体間で異なる別の部分も、LDLRと同じ再循環経路を辿ることを示す(図3-T180/挿入図1)。
実施例IV
BBBのインビトロモデルにおける内皮細胞上のLDLRに対して親和性を有する合成ペプチドの毒性、エンドサイトーシス及び経細胞輸送
内皮細胞に対するペプチドの可能性ある毒性作用、これらの細胞におけるペプチドの結合/蓄積、及びペプチドの経細胞輸送による通過を、インビトロのBBBモデルにおいて評価する。共培養モデルを組み立てるのに必要とされる細胞は、ラット又はマウス脳毛細血管内皮細胞(BCEC)及びラット又はマウス星状膠細胞である。このタイプのインビトロのBBBモデルを使用して、数多くの分子、特に薬理学的薬剤の、BCECを通過する受動通過又は能動輸送を、及び従って、インビボにおいてCNS組織に到達するその能力を推定することによって評価する。現在までに開発された種々のモデル(ウシ、ブタ、マウス、ヒト)は、脳内皮、特にタイトジャンクション、開窓がないこと、経内皮チャネルがないこと、疎水性分子に対する低い透過性、及び高い電気抵抗を特徴とする、超微細構造的な特性を有する。さらに、これらのモデルは、BBBを通過するその特性についてインビトロ及びインビボで評価された様々な分子について行なわれた測定の結果間に確かな相関を示した。現在までに得られた全てのデータは、これらのインビトロのBBBモデルが、細胞培養実験に伴う利点を保持しつつ、インビボで存在する細胞環境の幾分の複雑さを再現することによって、インビボの状況を厳密に擬態することを示す。
例えば、インビトロのラットBBBモデルは、BCECと星状膠細胞の共培養を利用する。細胞培養前に、膜インサート(Millicell1.0μmの多孔度;6ウェル又は12ウェルのプレートについて)の上の部分を、IV型コラーゲン及びフィブロネクチンで処理して、BCECの最適な接着を可能とし、基底層の状態を作る。混合星状膠細胞の一次培養液を、新生児ラット大脳皮質から確立する(Dehouck et al., 1990, J. Neurochem., 54, 1798-1801)。簡潔に言えば、髄膜を除去した後、脳組織を82μmのナイロンふるいに通過させる。星状膠細胞を、1.2×105個の細胞/mlの濃度で、10%の加熱により失活させたウシ胎児血清を補充した2mlの最適な培養培地(DMEM)と共に、マイクロプレートウェル中に分布する。培地を1週間に2回交換する。BCECを、2日間毎に添加された、20%(v/v)ウシ乏血小板血漿由来血清、2mmのグルタミン、50μg/mlのゲンタマイシン、及び1ng/mlの塩基性線維芽細胞増殖因子を補充した、DMEM/F12培地の存在下で増殖させる。その後、BCECを、2mlの共培養液中のフィルターの上表面に分配する。このBCEC培地を1週間に3回交換する。これらの条件下、分化BCECは、7日後にコンフルエントな単層細胞を形成する。
その毒性を試験するために、IgG1抗体のヒトFcフラグメントに化学的にコンジュゲート又は融合させた本発明のペプチドを、培養システムの上のチャンバーで、内皮細胞と30分間又は2時間接触させてインキュベーションする。下のチャンバーの培養培地を、様々な時点で回収し、FcフラグメントをサンドイッチELISAによって定量する。BBBを通過しない蛍光小分子であるルシファーイエロー(LY)を、まず、インビトロにおいて分析した全てのウェルにおいてBBBの完全性を評価するために、第二に、ペプチドを共インキュベーションして、このBBBを形成する内皮細胞に対してペプチドの毒性がないことを評価するために使用する。培養培地を種々の時点で回収し、蛍光を蛍光定量法によって定量する。結果を、内皮表面透過度(すなわちPe)として10−3cm/分で表現する。インビトロのバリアは、LYのPe値が0.6×10−3cm/分よりも大きい場合に、「透過性」又は「開放」と考える。電気抵抗器を用いて測定されΩ.cm2で表現される、経内皮電気抵抗(TEER)もまた、BBBを通過する試験中にインビトロにおけるBBBの完全性を測定することを可能とする。品質閾値は>500Ω.cm2に設定される。
実施された実験は、使用された対照ペプチドだけでなく、前記ペプチドの毒性もないこと、及び、BBBの透過特性に対する有害な作用がないことを示す。
対照として、DiI−LDLを、インビトロのBBBモデルの下の区画において定量した(図5−J WT曲線)。グラフは、1つのインサートあたり4μgで輸送の飽和を示す。DiI−LDLを用いて定量されたシグナルのLDLR特異性を確認するために、この実験を、LDLR−/−ラット(KO)からのBCECに基づいたインビトロのBBBモデルを用いて繰り返した。図5−Jのグラフは、LDLR−/−ラットから調製された場合、下の区画へのBCEC単層を通過するDiI−LDLの輸送が全くないことを示す(WT及びLDLR−/−ラットBCECを用いての実験間の有意な差)。
ヒトFcフラグメントにコンジュゲートさせた本発明のペプチド(Fc−配列番号43及びFc−配列番号1)のインビトロでのBBBにおけるLDLRへの結合/取り込みを、インビトロにおいて上記のようなラットモデルで確認する(図7)。この分析は、様々な時点(30分間から2時間)及び濃度(0.1から0.4μM)で内皮細胞及びレシーバーウェルに蓄積した、Fcフラグメント又は本発明のペプチドにコンジュゲートさせたFcフラグメントの品質を、サンドイッチELISAによって測定することによって行なわれる。毒性がないことは、時間の関数として一方の区画から別の区画へと通過するLYレベルの同時測定によって分析された様々なウェルにおけるBBBの完全性を測定することによって評価される。
実施例V
参照ペプチド2の生体分子融合、並びに、参照ペプチド1及び配列番号1の、ヒトIgG1抗体の定常フラグメント(Fcフラグメント)への生化学的カップリング、並びに、CHO hLDLR細胞系及びインビトロラットBBBモデルにおける結合、エンドサイトーシス及びRMTの評価
hLDLRに対する親和性を有するいくつかのペプチドを、細胞系又は一次内皮細胞において発現されるhLDLRへの、共有結合的に連結されたFcフラグメントの結合及び/又はエンドサイトーシス及び/又は経細胞輸送を促進するその能力について試験した。この目的のために、本発明らは、Fcフラグメントと融合したペプチド配列番号43をコードする配列、又は、同じFcフラグメントに化学的にカップリングさせたペプチド配列番号17及び配列番号1をクローニングした。
ペプチド配列番号43に融合したFcフラグメントを産生するために、プラスミド−pINFUSE hIgG1−Fc2(InvivoGen)に基づいてプラスミド構築物を作成し、これを鋳型として使用した。Fc−配列番号43をコードするメガプライマーを、WO2011/131896に記載のようにPCRによって合成した。PCR反応の産物(Fc−配列番号43)を精製し、DpnI(親メチル化DNAを消化する酵素)で消化し、QuickChange II 部位特異的突然変異誘発キット(Agilent)を使用してマトリックスとして使用されたpINFUSE hIgG1−Fc2プラスミドを用いて実施された第2のPCR反応においてメガプライマーとして使用した。コンピテントな細菌の形質転換後、単離されたコロニーを得、プラスミドDNAを調製し、cDNA構築物を確認のために両方の鎖についてシークエンスした。このベクターはpFc−配列番号43と呼ばれるが、これは哺乳動物細胞のトランスフェクション後、そのN末端又はC末端においてペプチド配列番号43に融合したFcフラグメントの発現を可能とする。ヒト胚腎臓細胞(HEK293)を、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を使用してプラスミドpFc−配列番号43を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションから72時間後、培養上清に含まれるタンパク質Fc−配列番号43を、ProsepプロテインA精製キット(Millipore)を使用して精製した。精製された融合タンパク質を、サンドイッチELISA試験によってアッセイし、続いてhLDLR CHO細胞、一次内皮細胞及びインビトロのBBBモデルで試験を実施するために使用した。
Fcフラグメント(Millipore)へのペプチド配列番号17及び配列番号1の化学的カップリングのために、制御されたタンパク質−タンパク質架橋キット(Controlled Protein-Protein Crosslinking Kit、Thermo Scientific)を使用した。ペプチド配列番号17及び配列番号1を、Fcフラグメントの第一級アミン上に付加されたマレイミド基を有する精製Fcフラグメントとの連結のために利用できる遊離スルフヒドリル基(システアミド)を担持するように合成された。1モルのFcフラグメントあたりのペプチドのモル数は1〜7と評価された。得られたタンパク質はFc−配列番号17及びFc−配列番号1と命名され、サンドイッチELISA試験によってアッセイされた。それらを続いて使用して、CHO hLDLR細胞上での試験を実施した。
Fc−配列番号43及びFc−配列番号1の結合及びエンドサイトーシスもまた、パルスチェイス実験を使用した免疫細胞化学法によって評価された(図4)。簡潔に言えば、CHO−hLDLR−GFP細胞を、4℃で30分間、5nMの濃度のFc−ペプチドと共にインキュベーションし、その後、十分に洗浄し、チェイス媒体中、37℃で5分間インキュベーションして、細胞質内小胞の蓄積を可能とした。その後、細胞を4%PFAを用いて10分間かけて固定し、PBS/トリトンX100 0.1%を用いて10分間かけて透過処理し、その後、Alexa594にコンジュゲートさせた抗ヒトFc抗体を用いて免疫染色した。Fcフラグメントに融合させたペプチド配列番号43、及びFcフラグメントに化学結合させたペプチド配列番号1は、STagにカップリングさせたペプチドで観察されたようにLDLR媒介エンドサイトーシスを受ける。Fc単独では結合は全く観察されない。CHO WT細胞では全く結合は観察されていない(示していない)。
実施例Vに記載のようなインビトロBBBモデルのラットBCECを、Fc−配列番号43、対、陰性対照として使用されたFcフラグメント単独、及び、Fc−配列番号1、対、陰性対照としてのFc−CTRL(配列番号43のスクランブル)の結合/取り込み及び輸送実験に使用した。LDLRの発現、及びインビトロBBBモデルにおけるRMTについてのその機能性を評価した(図5)。その後、Fc−配列番号43対Fcを、37℃で生RBCEC上、種々の濃度で30分間インキュベーションした(図7−A)。Fc−配列番号1対Fc−CTRLもまた、0.1μMで30分間(図6−G及び6−H)又は2時間、生RBCEC上、37℃でインキュベーションした(図7−B)。このような共インキュベーション後、細胞単層を十分に洗浄し、4%のPFAで固定した。細胞単層を、0.1%トリトンX100溶液を用いて透過処理した。Fc、Fc−配列番号43、Fc−配列番号1及びFc−CTRLを、ヒトFcフラグメントに対する一次抗体を使用して明らかとした(図6)。その後、共焦点顕微鏡を使用して、DiI−LDL小胞とFc−配列番号43の蛍光との間の共局在を評価した(図6−AからD)。同じ実験をまた、LDLR−/−ラット(KO)のラットBCECを用いて実施した(Sigma AldrichのSAGE研究所)(図6−E及び6−F)。この実験により、DiI−LDL結合及びエンドサイトーシスにおけるLDLRの役割が確認された。なぜなら、DiI−LDL結合は、LDLR−/−ラットBCECにおいては観察されなかったからである。同時に、DiI−LDLの結合及びFc−配列番号43についての染色は、LDLR−/−BCECには検出されなかった。
Fc−配列番号43及びFc−配列番号1のBCECへの結合/取り込みを確認するために、種々の時間及び濃度を、ラットのインビトロBBBモデルにおいて評価した(図7)。図7−Aのグラフは、Fcフラグメントと比較したFc−配列番号43の結合/取り込みの有意差を示す。図7−Bのグラフは、Fc−CTRLと比較したFc−配列番号1の結合/取り込みの有意差を示す。
実施例VI
ベクター及び対象の治療分子又はイメージング(又は診断)剤又は任意の他の分子、例えば分子プローブからなるコンジュゲートの化学合成プロトコール
対象の治療分子又はイメージング剤又は診断剤又は任意の他の分子、例えば分子プローブを、細胞膜を、より特定するとBBBを通過して輸送及び通過させた後、例えばベクターと活性物質との間の化学結合の加水分解又は酵素的切断によるプロドラッグ戦略を通して、ベクターから切断/遊離/塩析させることができる。
その反応性側鎖官能基上で完全に保護された(C末及びN末でカップリング)又は部分的に保護された(側鎖の反応性官能基上でカップリング)ペプチドベクターと、対象の治療分子との間の共有結合的カップリングを、2つの一般的な戦略を介して実施する(図1):
− 直列型合成(すなわち、2つの実体間の中間体を全く伴わない直接的なカップリング)、
− リンカーを介した合成(Temsamani et al., 2004, Drug Discov. Today, 23, 1012-1019)。
選択されたペプチドベクター及び対象の治療分子に応じて、様々な戦略の1つ又はその他を、C末もしくはN末、又はこのペプチドベクターの側鎖の反応性官能基上のいずれかに適用する。理想的には、プロドラッグ戦略において、選択されたスペーサーは、活性物質の適切な放出及びコンジュゲートの溶解度の改善を可能とすべきである(Molema et al., 2001, Drug targeting, organ-specific strategies. In Methods and principles in medicinal chemistry, vol. 12 ; Kratz et al., 2008, Prodrug Strategies in Anticancer Chemotherapy. In ChemMedChem, vol. 3)。従って、様々な不安定な共有化学結合を、2つの実体(ベクター及び活性物質)の間に、スペーサー(アミド、カルバメート、エステル、チオエステル、ジスルフィドなど)を介して又は介さずに生成することができる。例えば、血漿中で比較的安定であるジスルフィド結合は、タンパク質−ジスルフィド還元酵素などの酵素によって、脳内区画の内側で切断され得、これにより遊離チオール官能基を回復することができることが文献において示されている(Saito et al., 2003, Adv. Drug Deliv. Rev., 55, 199-215)。
対象の他の化合物は、スペーサーが、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリマーである化合物である。実際に、生物学的に関心のある有機分子とPEGとのコンジュゲーションは、この分子の血漿中半減期を増加させ、そのクリアランスを減少させることが可能であったことが文献において示されている(Greenwald et al., 2003, Adv. Drug Deliv. Rev., 55, 217-250)。
別の戦略は、酸に不安定なリンカー、例えば、pH7.4の血漿環境においては安定であるが、pHが5.5〜6.5であるエンドソームの酸性環境においては切断される、シス−アコニチル又はヒドラゾン基の使用からなる(D'Souza and Topp, 2001, Release from Polymeric Prodrugs: Linkages and Their Degradation, In Journal of Pharmaceutical Science, vol. 93)。血漿中酵素に抵抗性であるが、カテプシン−Bなどのリソソームプロテアーゼに対しては高度に感受性であるペプチドの性質を有する第3のリンカーファミリー、例えばテトラ−ペプチドGFAL及びGFLGを使用することができる(Bildstein and al., 2011, Prodrug-based Intracellular Delivery of Anticancer Agents, In Advanced Drug Delivery Review, vol. 63)。
活性物質又は対象の物質とコンジュゲートしたベクターを、種々の細胞又は器官、例えば肝臓、副腎及び腸の、CNS及び眼の、病態、病変又は疾患の診断、イメージング又は治療において、BBB/BSCB/BRBを通過し、脳腫瘍又は別のタイプの癌細胞にターゲティングすることができる薬物を調製するために、癌細胞膜及び/又は感染症病態を通過することのできる薬物を調製するために、細胞膜を通過して、CNS、眼又は他の組織/器官の細菌性、ウイルス性、寄生虫性又は真菌性の感染症病態の感染細胞をターゲティングすることのできる薬物を調製するために使用することができる。
本発明のペプチドベクターにコンジュゲートさせた治療上関心のある活性物質の例は、ドキソルビシン及び他の細胞障害性薬剤、シタラビン−C(Ara−C)、リバビリン、アシクロビル、アデホビル、及び他の抗ウイルス剤、プロリル−4−ヒドロキシラーゼ(P4H)阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)及び他の抗線維化剤が挙げられるがそれらに限定されない。
実施例VII
ペプチド、又は治療上関心のある薬物、イメージング(又は診断)剤、もしくはトレーサーとして使用される任意の他の物質にコンジュゲートさせたペプチドの組織分布
LDLRをターゲティングするペプチド及びペプチドコンジュゲートの分布を、マウスにおいて評価して、高レベルのターゲット受容体を発現している組織及び器官に優先的に蓄積するその能力を示す。
脳灌流実験と同様に、マウスに注射されたペプチド及びペプチドコンジュゲートを、トリチウムを使用して放射性標識する。野生型マウス又はLDLRをコードする遺伝子を欠失したマウス(LDLR−KOマウス)の尾静脈への静脈内注射から10分後、マウスを屠殺し、血漿中及び組織中に存在する放射活性を定量する。一例としてペプチド配列番号1を使用して得られた結果は、インビボにおいてLDLRをターゲティングし、高いレベルの受容体を発現することが知られかつ高いLDL取り込みを示す(すなわち高い受容体活性)器官及び組織(肝臓、副腎及び腸を含む)において優先的に蓄積するこのペプチドベクターファミリーの能力を示し、野生型(WT)マウスと比較して、LDLR−/−(KO)マウスにおけるペプチド濃度はそれぞれ約4倍、約3.4倍及び約3.6倍減少している(図9−A)。
同様に、IgG1抗体のヒトFcフラグメントに融合又は化学的にカップリングしたペプチドの組織分布を、WT又はLDLR−/−マウスにおいて、ELISAアッセイを使用してFc部分を定量することによって評価した。尾静脈への静脈内注射から2時間後、マウスを屠殺し、血漿並びにLDLRの豊富な組織を、ペプチド−Fcの存在について分析する。一例として、Fcに化学的にカップリングさせたペプチド配列番号1を用いて得られた結果は、本発明のペプチドが、インビボでカップリングさせたタンパク質のLDLR依存性の組織への蓄積をトリガーすることができることを示し、WTマウスと比較して、LDLR−/−の肝臓及び副腎におけるFcの蓄積はそれぞれ約6.7倍及び約30倍低下する(図9−B)。
実施例VIII
ベクター単独、及び対象の治療分子又はイメージング(又は診断)剤又は任意の他の分子、例えば分子プローブとコンジュゲートさせたベクターのインサイツにおける脳灌流、並びに、BBBを通過するその輸送動態及びマウス脳におけるその蓄積の研究
インサイツにおける脳灌流技術(成体雄OF1マウス)は、BBBを通過する脳内の通路を示す。
前以て、ペプチドベクターを、特に組織切片上で放射性化合物の検出のための最も強力な感度を与える元素であるトリチウム(3H)で放射標識する。高い比放射能(RAS、100Ci/mmol以下)を有する放射性ペプチドを、トリチウム化プロピオン酸(又はプロパン酸)無水物又はトリチウム化N−プロピオニル−スクシンイミド(NPS)によるN末のアミン官能基のアシル化戦略によって調製する。このトリチウム化法は、全てのペプチド(ベクター、又は治療ペプチドとペプチドベクターとの間の直列型又はリンカー(ペプチドの又は有機性のリンカー)を介してのコンジュゲート)に適用することができるが、ただし、N末の修飾は、ターゲティングする受容体(すなわちLDLR)に対するペプチドの親和性又は治療ペプチドの場合にはその生物学的活性に影響を及ぼさないものとする。
プロピオニル化によるN末の位置におけるペプチドベクターのトリチウム化反応は、室温で5分間、0.1等量のトリチウム化NPSを、その後、0.9等量の冷NPS(トリチウム化されていない)を1時間かけて、その後、新たに1等量の冷NPSを5時間かけて加えることによってDMF(溶解度に応じて100μl〜450μl中に1mgのペプチド)中で実施する。その後、反応培地を4℃で一晩放置し、HPLCによって翌日に精製する。各トリチウム化ペプチドについてのRASは、典型的には5Ci/mmolから60Ci/mmolである。合成によって調製された放射能の全量は、一般的に、500μCiから1000μCiである。
放射標識されたペプチド(例えば、3Hで放射標識)を、例えば実施例VIIに記載のように放射標識された活性物質(例えば14Cで放射標識)と共有結合的にカップリングさせる。以前に記載されているように、この共有結合的カップリングは、活性物質の構造及び物理化学特性に応じて、特に、この物質の生物学的活性を低下させることなく修飾され得る化学的官能基の存在下で行なわれる。放射標識されたコンジュゲートは、非放射標識コンジュゲートのために開発された合成経路からの外挿によって合成される。
以下に簡潔に要約された技術は、活性物質の脳における分布、特に、脳におけるこれらの分子の透過におけるBBBの役割、より特定するとLDLRの役割を研究するために以前に開発された。インサイツにおける脳灌流技術は、最も技術的に要望があり、マウスにおいて実施するのが最も困難である。しかしながら、インサイツにおける脳灌流(インビトロのモデルのように)は、人工灌流液の組成の全体的な制御を可能とし、これにより、全身分布の破壊因子を含まない、動物内の通常の生理的及び解剖学的条件下で、脳の細胞及び血管新生が維持される。
ラットにおいて通常行なわれるインサイツにおけるこの脳灌流戦略を、マウスに適応させ(Dagenais et al., 2000, J Cereb Blood Flow Metab., 20(2), 381-6)、、BBB及び血液網膜関門における輸送動態のパラメーターを、及びこれをまたトランスジェニックマウス及びKO変異マウスにおいても受容体、酵素又は活性物質の輸送体について評価するために、その適用を拡大した。それは、麻酔マウス(典型的にはOF1)における頸動脈のカテーテル留置、及びこの頸動脈(外部、甲状腺、後頭部)の特定の枝の結紮術を含み、これにより、内頚動脈及び翼口蓋動脈を特異的に灌流し、これを使用して脳へのベクター及びコンジュゲートの取り込みを評価する。カテーテルは、十分に制御された灌流液(重炭酸緩衝液、血漿又は血液)を注入することによって、頸動脈の付近を通ることによって、全循環を置換することを可能とする。酸化されたクレブス重炭酸緩衝液をまず使用して、ベクター及びコンジュゲートが脳内を通過する能力を評価する。頸動脈へのカテーテル留置後、内在性血流を、心室を区分化することによって停止させ、血液と緩衝液との混合及び血圧の上昇を回避する。一定の流速の灌流時間をモニタリングする。緩衝液の灌流は、20分間まで、又は1時間まで、酸素輸送体(洗浄された赤血球)の存在下で、受容体媒介輸送(RMT)の研究のために延長され得る。
実施された実験は、本発明のいくつかのペプチドベクター及びコンジュゲートの脳内輸送又は移動係数(Kin:分布容積と脳内灌流時間との関係)を確立することを可能とした。これらの実験についての脳灌流時間は2〜5分間であり、灌流の流速は2ml/分である。
例えば、配列番号17にコンジュゲートさせたオピエートペプチドのダラルギンのKinは、約20×10−4ml/s/gであるが、ダラルギン単独のKinは約0.9×10−4ml/s/gであった。
比較のために、TfRの天然リガンドであるTfは、3.0×10−4ml/s/gのKinを有する(Demeule et al., 2008, J. Neurochem., 106 (4), 1534-1544)。
従って、これらの結果は、本発明のコンジュゲートが、その小さなサイズ及び有利な立体配置のために、Tfのそれよりも大きな脳内移動係数を有することを示す。
実施例IX
多量体の合成及び特性
hLDLR−GFP/RFPに対して親和性を有する本発明のペプチドを、単量体として使用し、二量体を合成した。単量体を、アミン、酸、チオール、アジド、アルキン、カルボニル、ヒドラジンの中の少なくとも3つの反応性官能基を含む分子プラットフォーム上で、溶液中又は固相支持体上のいずれかでカップリングさせた。単量体は、スペーサー(一般的に1つのグリシンから構成されているが、それは、PEG分子、アミノヘキサン酸又は一連のグリシンであってもよい)によってプラットフォームから隔離されている。プラットフォームは、市販の有機化合物であっても、又は臨機応変にペプチド化学反応を使用して設計されてもよい。
本発明の二量体を、続いて、様々なトレーサー又は活性物質に、例えば、スペーサー基(PEG、アミノヘキサン酸、一連のグリシン又は市販のヘテロ二官能性リンカーなど)によって隔てられた又は隔てられていない、プラットフォームの遊離反応性官能基を使用してカップリング/コンジュゲートさせた。
定性及び分取RP−HPLCを、Dionex装置(Ultimate 3000(登録商標))を使用して実施した。C18定性及び分取カラムはPhenomenexから購入した。MALDI−TOF−TOF MSを、Ultraflex II Brukerを使用して、マトリックスとしてα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)を用いて実施した。Liberty(登録商標)マイクロ波シンセサイザーを、自動ペプチド合成のために使用した。
− Pペプチドを含むD1二量体の合成:(P−CH2CH2)2−N−CH2CH2−NH2
トリス(2−アミノエチル)アミン及び乾燥DMF(ジメチルホルムアミど)はSigma-Aldrichから、PyBop(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸)及びDIEA(ジイソプロピルエチルアミン)はIris Biotechから購入した。
本発明のペプチドP(2等量)を、PyBop及びDIEA(P/PyBop/DIEA:1/1/2)を用いて室温(RT)で5分間乾燥DMF中でプレ活性化し、その後、トリス(2−アミノエチル)アミンの乾燥DMF溶液に0℃で加えた。その後、反応混合物を一晩室温で撹拌した。反応完了は、定性RP−HPLCクロマトグラフィーによってモニタリングした。純粋な二量体が、RP−HPLCによる精製によって白色粉末として得られた。粗二量体をRP−HPLCクロマトグラフィーによって精製した。回収した画分を凍結乾燥させると、純粋な白色固体(2.9mg、Pに関して7%、純度>95%)が得られた。質量は、MALDI−TOF MSによって確認された:m/z[M+H]+計算値2293.03、実測値2294.20。
− Pペプチドを含むD2二量体の合成:Pr−K(P)−K(P)−NH2、Cya3.5−PEG2−K(P)−K(P)−NH2を用いてのプロトコールの例。
Fmoc−Lys(Boc)−OH、Fmoc−PEG2−OH、TFA(トリフルオロ酢酸)、TIS(トリイソプロピルシラン)、HBTU(2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸)、HATU(1−[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]−1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−β]ピリジニウム3−オキシドヘキサフルオロリン酸)、ピペリジン、PyBop、DIEA、及びFmoc−リンクアミドAMレジンはIris Biotechから購入した。Cya3.5及びPr2O(無水プロピオン酸)はそれぞれInterchim及びSigma Aldrichから購入した。DCM(ジクロロメタン)及びDMFはAnalytic Labから購入した。
工程1:ジ−リジンプラットフォームPr−K−K−NH2及びCya3.5−PEG2−K−K−NH2を、固相ペプチド合成(SPPS)を使用して合成した。SPPSは、手作業で又はペプチド合成装置でFmoc(9−フルオレニルメトキシオキシカルボニル)アミノ末端保護を使用して行なわれた。ペプチドを、100μmolの規模で、自動合成の場合には5倍モル過剰のFmocアミノ酸(0.2M)を、手作業での合成の場合には2.5倍モル過剰のFmocアミノ酸(0.3〜0.5M)を使用して合成した。カップリングは、ポリスチレン−1%DVB上のリンクアミドAMレジン上で(ローディング=0.714mmol/g)、アミドC末端について、1:1:2のアミノ酸/HBTU又はHATU/DMFを使用して実施された。脱保護は、20%ピペリジン/DMFを使用して実施された。レジンに結合したペプチドPr−K−K−レジンが、Pr2O/DCM:1/1を使用してN末端のプロピオニル化後に得られた。レジンに結合したペプチドCya3.5−PEG2−K−Kレジンが、DMF中、Cya3.5−スクシンイミドエステル(1.25等量)のN末端のカップリング後に得られた。レジンに結合した産物を、室温で1時間30分間かけて、TFA/TIS/H2O:95/2.5/2.5からなる溶液を使用して切断した。粗ペプチドを、氷冷エーテルを使用して沈降させ、3000rpmで8分間遠心分離にかけ、H2O/0.1%TFA中で凍結乾燥させた。白色固体が、95%を超える純度で精製することなく得られた。
工程2:その後、ペプチドPを、溶液中、リジンアミノ側鎖を介して、ペプチドプラットフォームにコンジュゲートさせた。ペプチドP、PyBop及びDIEA(P/PyBop/DIEA:1/1/10)を、乾燥DMF中のペプチドプラットフォーム溶液に加えた。その後、反応混合物を室温で撹拌した。反応の完了は定性RP−HPLCクロマトグラフィーによってモニタリングした。プラットフォームが完全に反応するには数分間で通常十分であった。粗二量体を、RP−HPLCクロマトグラフィーによって精製した。95%を超える画分を回収し、凍結乾燥させると、純粋な白色固体が得られた。Pr−K(P)−K(P)−NH2:m=3.7mg、34%、m/z[M+H]+計算値2476.12、実測値2477.09。Cya−PEG2−K(P)−K(P)−NH2:m=1.4mg、24%m/z[M+H]+計算値3104.47、実測値3107.25。
二量体ペプチドD2(配列番号1)2及びD2(CTRL)2を、Cy3.5とコンジュゲートさせた(図7−A)。
ペプチドD2(配列番号1)2−Cy3.5及びD2(CTRL)2−Cy3.5のhLDLR結合能を評価するために、パルス実験を、CHO−hLDLR−GFPにおいて実施した(図7−B)。これらの実験において、500nMのペプチドの結合を、4℃で30分間かけて実施する。その後、細胞をPBSで3回洗浄し、4%PFAで固定した。細胞核をヘキストで青色に染色する。結果は、ペプチドD2(配列番号1)2−Cy3.5が、CHO−hLDLR−GFP細胞の形質膜に発現されるhLDLRに結合して共局在し、一方、ペプチドD2(CTRL)2−Cy3.5はそうではないことを示す。
ペプチド配列番号1−STag対ペプチド配列番号1、ペプチドD2(配列番号1)2及びペプチドD2(CTCL)2の、CHO−hLDLR−GFP細胞への結合/取り込みを、抗STag ELISA試験を使用して評価した。FRETアプローチでは、細胞を、2mlのPBSで2回洗浄し、その後、37℃で1時間かけて250μlのペプチド溶液(10μM)と共にインキュベーションした。20μlの各細胞溶解液を、S−Tag検出のために開発されたサンドイッチELISA試験によって分析した。図12−Cは、ペプチド配列番号1−STagが、CTRLペプチドによって僅かに置換され、ペプチド配列番号1によって半分置換され、ペプチドD2(配列番号1)2によってほぼ全体が置換されることを示す。LDLRに対するペプチドD2(配列番号1)2の親和性は、ペプチド配列番号1よりも高い。
ペプチドD1(配列番号17)2及びペプチドD2(配列番号1)2のhLDLRに対する親和性(KD)は、ビアコアシステムの表面プラズモン共鳴によって決定された。これらの実験のために、NiHcチップ(XanTec ref:SCBS NIHC1000M)を、組換え細胞外LDLRドメイン(Sino Biological Inc ref:10231-H08H)とコンジュゲートさせた。ペプチドD1(配列番号17)2及びD2(配列番号1)は、1×10−9nM未満の非常に高い親和性を有する(表2)。