以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
図1に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板80は、六方晶の結晶構造を有する炭化珪素から作られた単結晶基板である。炭化珪素基板80は、側面SDと、側面SDに取り囲まれた主面M80とを有するものである。六方晶のポリタイプは、好ましくは4Hである。
さらに図2に示すように、主面M80(図1)は、六方晶HXの{0001}面からオフ角OAだけ傾斜していてもよい。すなわち主面M80の法線方向DZは、<0001>方向からオフ角OAだけ傾斜していてもよい。この傾斜はオフ方向DXにおいて設けられている。図1中、方向DYは、主面M80内において方向DXに対して垂直な方向である。なお本実施の形態においては、オフ方向DXは、{0001}面における<11−20>方向に対応している。
本発明に従った炭化珪素基板80は、上述のように炭化珪素の単結晶からなり、幅が100mm以上、マイクロパイプ密度が7cm-2以下、貫通螺旋転位密度が1×104cm-2以下、貫通刃状転位密度が1×104cm-2以下、基底面転位密度が1×104cm-2以下、積層欠陥密度が0.1cm-1以下、導電性不純物濃度が1×1018cm-3以上、残留不純物濃度が1×1016cm-3以下、Secondary Phase Inclusionsが1個・cm-3以下である。
このようにすれば、炭化珪素基板80の主面M80上に炭化珪素からなるエピタキシャル層を形成した場合に、当該エピタキシャル層を含むデバイスの特性に影響を及ぼす欠陥の密度を確実に低減することができる。このため、当該デバイスの特性の向上を図ることができる。
なお、炭化珪素基板80の幅(たとえば直径)を100mm以上としたのは、デバイス製造コストを低減するためである。なお、炭化珪素基板80の幅は、好ましくは120mm以上、より好ましくは150mm以上である。また、上記マイクロパイプ密度を7cm-2以下としたのは、デバイス製造プロセスにおけるフォトレジスト塗布時にフォトレジストが炭化珪素基板80の裏面へ回り込むことを防止するためである。なお、マイクロパイプ密度は、好ましくは5cm-2以下、より好ましくは3cm-2以下である。また、当該マイクロパイプ密度の下限は、製造上の制約などから0.01cm-2である。
また、上記貫通螺旋転位密度を1×104cm-2以下としたのは、デバイスの耐圧歩留まりの向上を図るためである。
また、上記貫通刃状転位密度を1×104cm-2以下としたのは、デバイスの耐圧歩留まりの向上を図るためである。
また、上記基底面転位密度を1×104cm-2以下としたのは、デバイスの長期信頼性の向上を図るためである。
また、上記積層欠陥密度を0.1cm-1以下としたのは、デバイスの耐圧歩留まりの向上を図るためである。なお、積層欠陥密度は、好ましくは0.05cm-1以下、より好ましくは0.03cm-1以下である。また、当該積層欠陥密度の下限は、製造上の制約などから0.001cm-1である。
また、上記導電性不純物濃度を1×1018cm-3以上としたのは、縦型デバイス作製時においてオン抵抗の増加を抑制するためである。なお、導電性不純物濃度は、好ましくは5×1018cm-3以上、より好ましくは1×1019cm-3以上である。また、当該導電性不純物濃度の上限は、炭化珪素基板の結晶性といった観点から1×1021cm-3である。
また、上記残留不純物濃度を1×1016cm-3以下としたのは、炭化珪素基板80への残留不純物取り込みに伴って各種の欠陥が増殖することを抑制するためである。また、当該残留不純物濃度の下限は、製造上の制約などから1×1014cm-3である。
また、上記Secondary Phase Inclusionsを1個・cm-3以下としたのは、Secondary Phase Inclusionsに伴う各種欠陥の増殖を抑制するためである。なお、Secondary Phase Inclusionsは、好ましくは0.5個・cm-3以下、より好ましくは0.3個・cm-3以下である。また、当該Secondary Phase Inclusionsの下限は、製造上の制約などから0.01個・cm-3である。
また、マイクロパイプ密度、貫通螺旋転位密度、貫通刃状転位密度、基底面転位密度の測定方法としては、溶融KOHエッチング或いはガスエッチングを炭化珪素基板80に対して行い、その後当該炭化珪素基板80の表面に形成されたエッチピットを観察する、といった方法を用いることができる。
また、積層欠陥密度の測定方法としても、溶融KOHエッチング或いはガスエッチングを炭化珪素基板80に対して行い、その後当該炭化珪素基板80の表面に形成されたエッチピットを観察する、といった方法を用いることができる。
また、導電性不純物濃度および残留不純物濃度の測定方法としては、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いることができる。
次に、図1に示した炭化珪素基板80の製造方法を、図3〜図14を参照して説明する。
図1に示した炭化珪素基板80の製造方法では、図3に示すように、まず原料準備工程(S10)を実施する。この原料準備工程は、後述するように炭化珪素の原料粉末を準備する工程および種結晶基板を準備する工程を含む。
原料粉末を準備する工程は、たとえば図4に示すような工程により構成される。以下、原料粉末を準備する工程を説明する。
まず、図4に示すように準備工程(S11)を実施する。具体的には、炭化珪素の原料粉末となるべき材料であるシリコン小片と炭素粉末とを準備する。これらのシリコン小片と炭素粉末とは高純度のものを用いることが好ましい。次に、プレ洗浄工程(S12)を実施する。この工程(S12)では、シリコン小片や炭素粉末に付着している異物を除去するために従来周知の任意の洗浄工程を実施する。なお、シリコン小片および炭素粉末の品質によっては、当該プレ洗浄工程(S12)は実施しなくてもよい。
次に、プレ洗浄工程(S12)が終わったシリコン小片および炭素粉末とを混合して混合物を作製する工程を行なう。混合物を作製する工程は、たとえば、シリコン小片と炭素粉末とをそれぞれ坩堝(たとえば黒鉛製の坩堝)に収容し、坩堝中でこれらを混合して混合物を作製することによって行なうことができる。なお、混合物は、坩堝への収容前に、シリコン小片と炭素粉末とを混合して作製してもよい。
ここで、シリコン小片としては、たとえば図5の模式的平面図に示すシリコン小片の径dが0.1mm以上5cm以下であるものを用いることが好ましく、1mm以上1cm以下であるものを用いることがより好ましい。この場合には、内部まで炭化珪素で構成された高純度の炭化珪素粉末が得られる傾向にある。なお、本明細書において、「径」とは、表面に存在する任意の2点を結ぶ線分のうち最長の線分の長さを意味する。
炭素粉末としては、平均粒径(個々の炭素粉末の径の平均値)が10μm以上200μm以下である炭素粉末を用いることが好ましい。この場合には、内部まで炭化珪素で構成された高純度の炭化珪素粉末が得られる傾向にある。
次に、図4に示した加熱工程(S13)を実施する。具体的には、上記のようにして作製した混合物を2000℃以上2500℃以下に加熱して、まず炭化珪素粉末前駆体を作製する工程を実施する。炭化珪素粉末前駆体を作製する工程は、たとえば、上記のように坩堝に収容されたシリコン小片と炭素粉末との混合物を1kPa以上1.02×105Pa以下、特に10kPa以上70kPa以下の圧力の不活性ガス雰囲気下で2000℃以上2500℃以下の温度に加熱することにより行なうことができる。これにより、坩堝中でシリコン小片のシリコンと炭素粉末の炭素とが反応することによって、シリコンと炭素との化合物である炭化珪素が形成されて炭化珪素粉末前駆体が作製される。
ここで、加熱温度が2000℃未満である場合には、加熱温度が低すぎて、シリコンと炭素との反応が内部まで進行せず、内部まで炭化珪素で形成された高純度の炭化珪素粉末前駆体を作製することができない。また、加熱温度が2500℃を超える場合には、加熱温度が高すぎて、シリコンと炭素との反応が進行しすぎて、シリコンと炭素との反応により形成された炭化珪素からシリコンが脱離するため、内部まで炭化珪素で形成された高純度の炭化珪素粉末前駆体を作製することができない。
なお、上記において、不活性ガスとしては、たとえば、アルゴン、ヘリウムおよび窒素からなる群から選択された少なくとも1種を含むガスを用いることができる。
また、シリコン小片と炭素粉末との混合物の加熱時間は、1時間以上100時間以下であることが好ましい。この場合には、シリコンと炭素との反応が十分に行なわれて良好な炭化珪素粉末前駆体を作製することができる傾向にある。
また、上記の加熱後に雰囲気の圧力を低下する工程を行なうことが好ましい。この場合には、後述する炭化珪素粉末前駆体を構成する炭化珪素結晶粒子のそれぞれの内部まで炭化珪素が形成される傾向が大きくなる。
ここで、雰囲気の圧力を低下する工程において、雰囲気の圧力を10kPa以下の圧力まで低下させる場合には、圧力の低下時間は10時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましく、1時間以下であることがさらに好ましい。圧力の低下時間が、10時間以下である場合、より好ましくは5時間以下である場合、特に1時間以下である場合には、シリコンと炭素との反応により形成された炭化珪素からシリコンが脱離するのを好適に抑制することができるため、良好な炭化珪素粉末前駆体を作製することができる傾向にある。
また、上記のように、雰囲気の圧力を10kPa以下の圧力まで低下した後には、不活性ガスを供給することなどによって雰囲気の圧力を50kPa以上の圧力まで圧力を上昇させた後に炭化珪素粉末前駆体を室温(25℃)まで冷却してもよく、10kPa以下の圧力に保持した状態で炭化珪素粉末前駆体を室温(25℃)まで冷却してもよい。ここで、炭化珪素粉末前駆体は、複数の炭化珪素結晶粒子の集合体であって、個々の炭化珪素結晶粒子が互いに連結することによって構成されている。
次に、図4に示した粉砕工程(S14)を実施する。具体的には、上記のようにして作製された炭化珪素粉末前駆体を粉砕して炭化珪素粉末を作製する。この工程(S14)では、たとえば、複数の炭化珪素結晶粒子の集合体である炭化珪素粉末前駆体を、炭化珪素の単結晶若しくは多結晶のインゴット、または炭化珪素の単結晶若しくは多結晶がコーティングされた工具で粉砕することによって行なうことができる。
次に、図4に示した洗浄工程(S15)を実施する。具体的には、たとえば王水により炭化珪素粉末を洗浄する。このような洗浄工程(S15)は、特に炭化珪素の単結晶若しくは多結晶以外のもので炭化珪素粉末前駆体の粉砕を行なった場合に実施することが好ましい。たとえば炭化珪素粉末前駆体を鋼鉄製のもので粉砕した場合には、粉砕された炭化珪素粉末に、たとえば、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属不純物が混入または付着しやすくなる。そのため、このような金属不純物を除去するために、上記の酸で洗浄することが好ましい。
上記のようにして作製された炭化珪素粉末は、その表面だけでなく内部までも炭化珪素で形成されている傾向が大きくなり、実質的に炭化珪素から構成されている。なお、実質的に炭化珪素から構成されているとは、炭化珪素粉末の99質量%以上が炭化珪素から形成されていることを意味する。
なお、上記のように炭化珪素前駆体を形成するのではなく、原料粉末として炭化珪素粉末を準備してもよい。その場合も、上述のように原料粉末を王水により洗浄する工程を実施してもよい。この場合、原料粉末中の不純物を容易に除去できる。
次に、原料準備工程(S10)に含まれる、種結晶基板を準備する工程について説明する。
まず、各々が主面を有する、複数の炭化珪素単結晶を準備する工程を実施する。具体的には、図6に示すように、種結晶基板の候補材料であり、各々が主面M70を有する炭化珪素単結晶70a〜70i(70とも総称する)を準備する。炭化珪素単結晶70は、六方晶の結晶構造を有し、好ましくはポリタイプ4Hを有する。主面M70の面方向は、たとえば図1に示した炭化珪素基板80の主面M80(図1)の面方向に対応している。炭化珪素単結晶70の厚さ(図中、縦方向の寸法)は、たとえば0.7mm(700μm)以上10mm以下である。また炭化珪素単結晶70の平面形状は、たとえば円形であり、その直径は、25mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましい。炭化珪素単結晶70の主面M70は、(0001)面に対して傾斜していることが好ましい。このようにすれば、後述する炭化珪素を成長させる結晶成長工程(S20)において、種結晶基板70Sの主面M70にてステップフロー成長を容易に維持することができる。
次に、前数の炭化珪素単結晶70の各々の主面M70のフォトルミネッセンス測定を行なうことにより、炭化珪素単結晶70中の欠陥の密度を測定する工程を実施する。具体的には、図7および図8に示すように、炭化珪素単結晶70a〜70iの各々の主面M70のフォトルミネッセンス測定が行なわれる。これにより、後述する特性値が算出される。
ここで、上記フォトルミネッセンス測定において用いる測定装置について説明する。図7に示すように、フォトルミネッセンス測定装置400は、励起光生成ユニット420と、顕微鏡ユニット430とを有する。
励起光生成ユニット420は、光源部421と、導光部422と、フィルタ423とを有する。光源部421は、六方晶炭化珪素のバンドギャップよりも高いエネルギー成分を含む光源であり、たとえば水銀ランプである。導光部422は、光源部421から出射した光を導くものであり、たとえば光ファイバーを含む。フィルタ423は、六方晶炭化珪素のバンドギャップよりも高いエネルギーに対応する特定の波長を有する光を選択的に透過するものである。六方晶炭化珪素のバンドギャップに対応する波長は典型的には390nm程度であることから、たとえば約313nmの波長を有する光を特に透過するバンドパスフィルタをフィルタ423として用いることができる。この構成により、励起光生成ユニット420は、六方晶炭化珪素のバンドギャップよりも高いエネルギーを有する励起光LEを出射することができる。
顕微鏡ユニット430は、制御部431と、ステージ432と、光学系433と、フィルタ434と、カメラ435とを有する。制御部431は、ステージ432の変位動作の制御と、カメラ435による撮影動作の制御とを行なうものであり、たとえばパーソナルコンピュータである。ステージ432は、主面M70が露出するように炭化珪素単結晶70を支持し、かつ主面M70の位置を変位させるものであり、たとえばXYステージである。光学系433は、励起光LEによる励起にともなって主面M70から放射されたフォトルミネッセンス光LLを受光するためのものである。フィルタ434は、光学系433によって受光された光のうち750nm以上の波長を選択的に透過するものであり、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタである。カメラ435は、フィルタ434を透過した透過光LHによる像を撮影してそのデータを制御部431に送信するものであり、たとえばCCDカメラである。
次にフォトルミネッセンス測定装置400の使用方法について説明する。
炭化珪素単結晶70の主面M70へ励起光LEが入射される。これにより主面M70上においてフォトルミネッセンス光LLの発光が生じる。フォトルミネッセンス光LLのうちフィルタ434を透過したものである透過光LHが、カメラ435によって像として観測される。すなわち主面M70上において、750nm超の波長を有するフォトルミネッセンス光LLの発光領域が観測される。
図8に示すように、各発光領域RLについて方向DXおよびDYのそれぞれに沿う最大の寸法LXおよびLYが算出される。発光領域RLのうち、励起光LEの六方晶炭化珪素への侵入長をオフ角OA(図2参照)の正接で除した値以下の寸法LXを有し、かつ、15μm以下の寸法LYを有するものの個数が算出される。次にこの個数が、主面M70のうち観測対象となった部分の面積(cm2)で除される。これによって得られた値は、炭化珪素単結晶70の主面M70のフォトルミネッセンス特性のひとつの指標となる特性値となる。
なお侵入長とは、観測される主面に垂直な長さであって、かつ、主面に入射した光の強度が1/e(eはネイピア数)の割合にまで減衰する長さである。
次に、上述した測定する工程において得られた欠陥の密度の測定値(上記特性値)を、予め設定されている基準と対比することにより、当該基準を満足する炭化珪素単結晶70を種結晶基板に決定する工程を実施する。具体的には、上記特性値が所定の値よりも小さいものが種結晶基板70S(図9参照)として決定される。この所定の値(基準)は、たとえば、1×104cm-2である。
次に、このようにして決定された種結晶基板70Sを、ベース部材としての台座41に接続する工程を実施する。具体的には、まず、種結晶基板70Sの裏面(主面M70とは反対の面)の表面粗さをより大きくする加工が行われる。この加工は、十分に大きな粒径を有する砥粒を用いて種結晶基板70Sの裏面を研磨することによって行われ得る。砥粒の粒度分布は、好ましくは16μm以上の成分を有する。砥粒の平均粒径は、好ましくは5μm以上50μm以下であり、より好ましくは10μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは12〜25μmである。
そして、好ましくは上記の砥粒はダイヤモンド粒子である。また好ましくは、上記の砥粒はスラリー中に分散されて用いられる。よって上記の研磨は、ダイヤモンドスラリーを用いて行うことが好ましい。平均粒径が5μm以上50μm以下であり、かつ粒度分布において16μm以上の成分を有するダイヤモンド粒子を含有するダイヤモンドスラリーは、一般的に、容易に入手することができる。
なお上記のように種結晶基板70Sの裏面の表面粗さをより大きくする工程を行なう代わりに、最初から十分に大きな表面粗さを有する裏面を形成し、この裏面を研磨することなく種結晶基板70Sを使用してもよい。具体的には、ワイヤソーによるスライスによって形成された種結晶基板70Sの裏面を、研磨することなく用いてもよい。すなわち裏面として、スライスによって形成されかつその後に研磨されていない面であるアズスライス面を用いてもよい。好ましくはワイヤソーによるスライスにおいて、上述した砥粒が用いられる。
次に、図9に示すように、種結晶基板70Sの裏面上に、炭素を含む被覆膜21を形成する。好ましくは、被覆膜21の表面粗さは、被覆膜21が形成される種結晶基板70Sの裏面の表面粗さに比して小さくされる。
好ましくは、この形成は液体材料の塗布によって行われ、より好ましくは、この液体材料は微粒子のような固体物を含有しない。これにより薄い被覆膜21を容易かつ均一に形成することができる。
被覆膜21は、本実施の形態においては有機膜である。この有機膜は、好ましくは有機樹脂から形成される。有機樹脂としては、たとえば、アクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂などの各種樹脂を用いることができ、また光の作用で架橋または分解される感光性樹脂として組成されたものを用いることもできる。この感光性樹脂としては、半導体装置の製造用に用いられているポジ型またはネガ型フォトレジストを用いることができ、これらについてはスピンコート法による塗布技術が確立されているので、被覆膜21の厚さを容易に制御することができる。スピンコート法は、たとえば、以下のように行われる。
まず種結晶基板70Sがホルダーに吸着される。このホルダーが所定の回転速度で回転することで、種結晶基板70Sが回転させられる。回転している種結晶基板70S上にフォトレジストが滴下された後、所定時間回転が継続されることで、薄く均一にフォトレジストが塗布される。種結晶基板70S全面に渡る均一性を確保するためには、たとえば、回転速度は1000〜10000回転/分、時間は10〜100秒、塗布厚は0.1μm以上とされる。
次に塗布されたフォトレジストが乾燥されることで固化される。乾燥温度および時間は、フォトレジストの材料および塗布厚によって適宜選択され得る。好ましくは、乾燥温度は100℃以上400℃以下であり、乾燥時間は5分以上60分以下である。たとえば乾燥温度が120℃の場合、揮発に要する時間は、たとえば、厚さ5μmで15分間、厚さ2μmで8分間、厚さ1μmで3分間である。
なお、上記の塗布および乾燥からなる工程を1回行えば被覆膜21を形成することができるが、この工程が繰り返されることで、より厚い被覆膜21が形成されてもよい。繰り返しの回数が多すぎるとこの工程に必要以上に時間を要してしまう点で好ましくなく、通常、2〜3回程度の繰り返しに留めることが好ましい。
次に、図10に示すように、種結晶基板70Sが取り付けられることになる取付面を有する台座41が準備される。この取付面は、好ましくは炭素からなる面を含む。たとえば台座41はグラファイトによって形成されている。好ましくは取付面の平坦性を向上させるために取付面が研磨される。
次に接着剤31を挟んで被覆膜21と台座41とが互いに接触させられる。好ましくはこの接触は、50℃以上120℃以下の温度で、また0.01Pa以上1MPa以下の圧力で両者が互いを押し付け合うように行われる。また接着剤31が種結晶基板70Sおよび台座41に挟まれた領域からはみ出さないにようにされると、後述する、種結晶基板70Sを用いた単結晶の成長工程において、接着剤31による悪影響を抑制することができる。
接着剤31は、好ましくは、加熱されることによって炭化されることで難黒鉛化炭素となる樹脂と、耐熱性微粒子と、溶媒とを含み、より好ましくは、さらに炭水化物を含む。なお難黒鉛化炭素となる樹脂は、たとえば、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、またはフルフリルアルコール樹脂である。
耐熱性微粒子は、接着剤31が高温加熱されることで形成される固定層中において、上記の難黒鉛化炭素を均一に分布させることでこの固定層の充填率を高める機能を有する。耐熱性微粒子の材料としては、グラファイトなどの炭素(C)、炭化珪素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)などの耐熱材料を用いることができる。またこれ以外の材料として、高融点金属、またはその炭化物もしくは窒化物などの化合物を用いることもできる。高融点金属としては、たとえば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、またはハフニウム(Hf)を用いることができる。耐熱性微粒子の粒径は、たとえば0.1〜10μmである。また、炭水化物としては、糖類またはその誘導体を用いることができる。この糖類は、グルコースのような単糖類であっても、セルロースのような多糖類であってもよい。
溶媒としては、上記の樹脂および炭水化物を溶解・分散させることができるものが適宜選択される。またこの溶媒は、単一の種類の液体からなるものに限られず、複数の種類の液体の混合液であってもよい。たとえば、炭水化物を溶解させるアルコールと、樹脂を溶解させるセロソルブアセテートとを含む溶媒が用いられてもよい。
接着剤31中における、樹脂、炭水化物、耐熱性微粒子、および溶媒の間の比率は、種結晶基板70Sの適切な接着と固定強度とが得られるように適宜選択される。また接着剤31の成分は、上述した成分以外の成分を含んでもよく、たとえば、界面活性剤および安定剤などの添加材を含んでもよい。また接着剤31の塗布量は、好ましくは、10mg/cm2以上100mg/cm2以下である。また接着剤31の厚さは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。
次に、好ましくは接着剤31のプリベークが行われる。プリベークの温度は、好ましくは150℃以上である。
なお、台座41を構成する材料として、ヤング率が10GPa以上、曲げ強さが40MPa以上、引張り強さが30MPa以上となる材料を用いることが好ましい。台座41の厚み(たとえば種結晶基板70Sと直接的に対向する台座41の部分の厚み)は15mm以上であることが好ましい。
次に、図11に示すように、被覆膜21および接着剤31(図10)が加熱される。この加熱によって被覆膜21は、炭化されることで炭素膜22となる。すなわち種結晶基板70S上に炭素膜22が設けられる。またこの加熱によって、炭素膜22および台座41の間において接着剤31が硬化されることで固定層32となる。これにより種結晶基板70Sが台座41に固定される。
好ましくは上記の加熱は、800℃以上1800℃以下の温度で、1時間以上10時間以下の時間で、0.13kPa以上大気圧以下の圧力で、また不活性ガス雰囲気中で行なわる。不活性ガスとしては、たとえば、ヘリウム、アルゴン、または窒素ガスが用いられる。
なお上記工程においては接着剤31が硬化される際に被覆膜21が炭化されるが、接着剤31が形成される前に被覆膜21が炭化されてもよい。
次に、図3に示した結晶成長工程(S20)を実施する。具体的には、図12に示すように、坩堝42内に原料51が収められる。原料51は、たとえば上記原料準備工程(S10)で準備した炭化珪素粉末である。坩堝42は、たとえばグラファイト製である。次に坩堝42の内部へ種結晶基板70Sが面するように、台座41が坩堝42に取り付けられる。なお図12に示すように、台座41が坩堝42の蓋として機能してもよい。
次に、図12中の矢印で示すように原料51を昇華させ、かつ種結晶基板70S上で再結晶させることで、種結晶基板70S上に昇華物が堆積させられる。これにより種結晶基板70S上にインゴット52が形成される。炭化珪素を昇華および再結晶させる温度は、たとえば、2100℃以上2500℃以下とされる。また原料51の温度に対して種結晶基板70Sの温度が低くなるように、坩堝42内には温度勾配が設けられる。またこの坩堝42内の圧力は、好ましくは1.3kPa以上大気圧以下とされ、より好ましくは、成長速度を高めるために13kPa以下とされる。このようにして、炭化珪素のインゴット52が形成される。
このとき、処理容器としての坩堝42に加えられる振動について、当該振動の周波数の最大値が10Hzかつ振幅の最大値が1mmに設定されている。具体的には、図14に示すように、坩堝42(図12参照)を含む処理容器500は、除振台510などの固定部材上に配置されるとともに、処理容器500に接続され振動を発生させるポンプ530についても除振台520上に配置される。なお、ポンプ530は冷却媒体の移送用あるいは処理容器500の雰囲気圧力制御などに用いられる。さらに、当該ポンプ530を処理容器500から十分離れた位置に配置する。また、当該ポンプ530と処理容器500とを接続する配管550、560の経路途中に、冷却媒体または気体などを貯めるバッファとなるタンク540を配置する。このようにすれば、処理容器500に加えられる振動について周波数および振幅の最大値を規制することができ、結果的に優れた品質の炭化珪素基板を得ることができる。
次に、図3に示した加工工程(S30)が実施される。具体的には、図13に示すように、インゴット52がスライスされる。これにより単結晶基板である炭化珪素基板80(図1)が得られる。
以下、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。
この発明に従った炭化珪素基板80は、炭化珪素の単結晶からなり、幅が100mm以上、マイクロパイプ密度が7cm-2以下、貫通螺旋転位密度が1×104cm-2以下、貫通刃状転位密度が1×104cm-2以下、基底面転位密度が1×104cm-2以下、積層欠陥密度が0.1cm-1以下、導電性不純物濃度が1×1018cm-3以上、残留不純物濃度が1×1016cm-3以下、Secondary Phase Inclusionsが1個・cm-3以下である。
このようにすれば、炭化珪素基板80の主面上に炭化珪素からなるエピタキシャル層を形成した場合に、当該エピタキシャル層を含むデバイスの特性に影響を及ぼす欠陥の密度を確実に低減することができる。このため、当該デバイスの特性の向上を図ることができる。
この発明に従った炭化珪素基板の製造方法は、炭化珪素単結晶からなる種結晶基板を準備する工程(原料準備工程(S10))と、種結晶基板の表面に成長させる炭化珪素の原料粉末を準備する工程(図3の原料準備工程(S10)、図4の工程(S11〜S15))と、種結晶基板70Sおよび原料粉末(原料51)を処理容器(坩堝42または坩堝42を含む処理容器500)の内部に配置して、昇華法により種結晶基板70Sの表面に炭化珪素(インゴット52)を成長させる工程(結晶成長工程(S20))とを備える。炭化珪素を成長させる工程においては、処理容器に加えられる振動について、当該振動の周波数の最大値が10Hzかつ振幅の最大値が1mmに設定されている。
このようにすれば、炭化珪素を成長させるときに、坩堝42に振動が加えられた場合には成長したインゴット52に当該振動に起因する欠陥が導入されるといった問題の発生を抑制できる。
このように振動の周波数及び振幅を規制するためには、たとえば以下のような装置構成を採用することができる。具体的には、図14に示すように、処理容器500を除振台510などの固定部材上に配置するとともに、処理容器500に接続され振動を発生させるポンプ530などについても除振台520上に配置する。さらに、当該ポンプを処理容器500から十分離れた位置に配置する。また、当該ポンプ530と処理容器500とを接続する配管550、560の経路途中にバッファとなるタンク540を配置するといった装置構成を採用できる。
上記炭化珪素基板の製造方法において、原料粉末を準備する工程(原料準備工程(S10))は、炭化珪素を含む粉末を準備する工程(図4の工程(S11)〜工程(S14))と、粉末を王水により洗浄する工程(図4の洗浄工程(S15))とを含んでいてもよい。
この場合、原料粉末(原料51)中の不純物(残留不純物)の濃度を確実に低減できる。
上記炭化珪素基板の製造方法において、炭化珪素からなる粉末を準備する工程(原料準備工程(S10))は、シリコン小片と炭素粉末との混合物を加熱する工程(図4の加熱工程(S13))と、加熱する工程の後、混合物を粉砕することにより、粉末を得る工程(図4の粉砕工程(S14))とを有していてもよい。シリコン小片と炭素粉末とについては、特に高純度のものを用いることが好ましい。たとえば、シリコン小片の純度は99.9999質量%以上とすることができる。また、炭素粉末の純度は99.99質量%以上とすることができる。
上記炭化珪素基板の製造方法において、種結晶基板を準備する工程(原料準備工程(S10))では、主表面(主面M70)が(0001)面に対して傾斜しているオフ基板を種結晶基板70Sとして準備してもよい。
この場合、炭化珪素を成長させる工程(結晶成長工程(S20))において、種結晶基板70Sの主面M70にてステップフロー成長を容易に維持することができる。このため、形成された炭化珪素の層における欠陥の発生を抑制できる。なお、当該炭化珪素を成長させる工程(結晶成長工程(S20))では、種結晶基板70Sと原料粉末(原料51)間の熱流分布を極力均一化することが好ましく、種結晶基板70Sおよび形成された炭化珪素の層(インゴット52)における等温度面を平坦化することで、炭化珪素の成長面を常に平坦化することが好ましい。
なお、ここで種結晶基板70Sの主面M70が(0001)面に対して傾斜している角度(オフ角度)は、たとえば0.1°以上15°以下とすることができる。また、当該オフ角の下限は、好ましくは1°、より好ましくは2°である。また、当該オフ角の上限は、好ましくは10°、より好ましくは8°である。
上記炭化珪素基板の製造方法において、種結晶基板70Sを準備する工程(原料準備工程(S10))では、厚みが700μm以上の種結晶基板70Sを準備してもよい。ここで、得られる炭化珪素基板80の幅(直径)を100mm以上とするためには、種結晶基板70Sの幅(直径)も同程度(100mm以上)必要である。そして、種結晶基板70Sの厚みが薄いと、当該種結晶基板70Sの形状が劣化する(たとえば反りが発生する)といった問題が起きやすい。このような形状の劣化が起きると、種結晶基板70Sを坩堝42の内部(たとえば台座41上)に固定するときに、固定される部材(台座41)の表面と種結晶基板70Sの裏面との間に隙間が形成されることになる。このような隙間が発生すると、種結晶基板70Sの裏面側での昇華が激しくなり、結果的に形成された炭化珪素のインゴット52において新たな欠陥の発生原因となる。したがって、このような種結晶基板70Sの形状の劣化を防止するため、当該種結晶基板70Sの厚みは700μm以上とすることが好ましい。なお、種結晶基板70Sの厚みは、好ましくは1mm以上、より好ましくは1.3mm以上である。
上記炭化珪素基板の製造方法において、炭化珪素を成長させる工程(結晶成長工程(S20))では、種結晶基板70Sは処理容器(処理容器500または処理容器500に含まれる坩堝42)の内部においてベース部材(台座41)上に固定されていてもよく、ベース部材(台座41)を構成する材料として、ヤング率が10GPa以上、曲げ強さが40MPa以上、引張り強さが30MPa以上となる材料を用てもよい。ベース部材の厚みは15mm以上であってもよい。
ここで、炭化珪素を成長させる工程(結晶成長工程(S20))において炭化珪素の成長が進むと、種結晶基板70Sを固定している台座41には炭化珪素の成長に起因する応力が加わる。そして、種結晶基板70Sのサイズ(すなわち形成される炭化珪素のサイズ)が大きくなるほど、当該応力の値は大きくなる。当該応力により台座41が変形した場合、炭化珪素の成長条件が変動することになり、結果的に形成される炭化珪素(インゴット52)の品質が劣化することになる。そのため、当該台座41の変形を防止するために上記のように台座41の構成材料の機械的特性を規定することが好ましい。なお、台座41の材料としては、たとえばカーボンまたはカーボンを主成分とする複合材料を用いることができる。
なお、ベース部材(台座41)の構成材料のヤング率を10GPa以上としたのは、上記のような炭化珪素の成長に応じた応力に十分耐えることができるベース部材を実現するためである。なお、ヤング率は、好ましくは12GPa以上、より好ましくは14GPa以上である。また、当該ヤング率の上限は、ベース部材の構成材料として利用可能な材料の種類から考えると20GPaである。
また、ベース部材(台座41)の構成材料の曲げ強さを40MPa以上としたのは、上記のような炭化珪素の成長に応じた応力に十分耐えることができるベース部材を実現するためである。なお、曲げ強さは、好ましくは50MPa以上、より好ましくは60MPa以上である。また、当該曲げ強さの上限は、ベース部材の構成材料として利用可能な材料の種類から考えると100MPaである。
また、ベース部材(台座41)の構成材料の引張り強さを30MPa以上としたのは、上記のような炭化珪素の成長に応じた応力に十分耐えることができるベース部材を実現するためである。なお、引張り強さは、好ましくは40MPa以上、より好ましくは50MPa以上である。また、当該引張り強さの上限は、ベース部材の構成材料として利用可能な材料の種類から考えると100MPaである。
上記炭化珪素基板の製造方法において、種結晶基板を準備する工程(原料準備工程(S10))は、図6に示すように、各々が主面を有する、複数の炭化珪素単結晶70a〜70iを準備する工程と、複数の炭化珪素単結晶70a〜70iの各々の主面のフォトルミネッセンス測定を行なうことにより、炭化珪素単結晶70a〜70i中の欠陥の密度に対応する特性値を測定する工程と、測定する工程において得られた特性値の測定値を、予め設定されている基準と対比することにより、当該基準を満足する炭化珪素単結晶70a〜70iを種結晶基板70Sと決定する工程とを含んでいてもよい。
この場合、種結晶基板70Sとして欠陥密度の十分低い基板を用いることができるので、形成される炭化珪素に当該種結晶基板70Sからの欠陥が引き継がれることで炭化珪素の特性が劣化するといった問題の発生を抑制できる。
この発明に従った炭化珪素基板80は、上記炭化珪素基板の製造方法を用いて製造されている。この場合、優れた特性のデバイスを形成することが可能な炭化珪素基板80を得ることができる。
(実施例)
以下、本発明の効果を確認するために炭化珪素基板のサンプルを形成した。
(原料の準備)
まず、シリコン小片として径が1mm以上1cm以下のシリコン小片を複数用意し、炭素粉末として平均粒径が200μmである炭素粉末を用意した。ここで、シリコン小片は、シリコン単結晶引き上げ用純度99.999999999%のシリコンチップとした。
次に、上記で用意したシリコン小片1541gと、炭素粉末659gとを軽く混練して得られた混合物を黒鉛坩堝に投入した。ここで、黒鉛坩堝としては、予め0.013Paのアルゴンガス減圧下で高周波加熱炉を用いて2300℃に加熱し、14時間保持する処理を行なったものを用いた。
次に、上記のように、シリコン小片と炭素粉末との混合物が投入された黒鉛坩堝を電気加熱炉に入れ、一旦雰囲気圧力が0.01Paとなるまで真空引きした。その後、純度が99.9999%以上のアルゴンガスで雰囲気ガスを置換することで電気炉内の雰囲気圧力を70kPaとした。
次に、図15に示すように、電気炉内の圧力および黒鉛坩堝の温度を制御することで加熱処理を行なった。なお、図15は、経過時間に対する黒鉛坩堝の温度と電気炉内の圧力(雰囲気圧力)のプロファイルを示している。図15を参照して、図15の横軸は時間(熱処理時間)を示し、左側の縦軸は圧力(単位:kPa)を示し、右側の縦軸は黒鉛坩堝の温度(単位:℃)を示している。図15において、電気炉内の雰囲気圧力は一点鎖線により示されている。また、図15において、黒鉛坩堝の温度は実線で示されている。
当該熱処理では、図15に示すように、電気炉内の圧力を70kPaに保持した状態でシリコン小片と炭素粉末との混合物が収容された黒鉛坩堝を2300℃に加熱し、その温度条件で20時間保持した。その後、電気炉内の圧力を2分間で10kPaまで減圧した。その後、黒鉛坩堝の温度の降下を開始した。そして、黒鉛坩堝の温度を室温(25℃)まで低下させた。
次に、上記の加熱処理によって作製された炭化珪素粉末前駆体を黒鉛坩堝から取り出した。ここで、炭化珪素粉末前駆体を観察したところ、炭化珪素粉末前駆体は、複数の炭化珪素結晶粒子の集合体であって、個々の炭化珪素結晶粒子が互いに連結することによって構成されていた。
次に、上記のようにして得られた炭化珪素粉末前駆体を、炭化珪素多結晶でコーティングされた工具を用いて粉砕した。このようにして、炭化珪素粉末を作製した。ここで、実施例1の炭化珪素粉末の平均粒径は20μmであった。
その後、粉砕した炭化珪素粉末を王水で洗浄した。その後、当該炭化珪素粉末を塩酸で洗浄し、さらに超純水で洗浄した。その後、炭化珪素粉末を乾燥した。
(種結晶基板の準備)
種結晶基板用インゴットを作製するための種基板として、(000−1)面がCMP研磨された4H−SiC単結晶基板を準備した。上記単結晶基板は直径が150mm、[11−20]方向に2度オフ、厚み1mmである。また、当該単結晶基板においては、マイクロパイプ密度が7cm-2、貫通螺旋転位密度が1×104cm-2、貫通刃状転位密度が3×104cm-2、基底面転位密度が3×104cm-2であった。なお、本明細書中においては、個別の面方位を(hkil)で表わし、(hkil)およびそれに結晶幾何学的に等価な面方位を含む総称的な面方位を{hkil}で表わす。また、個別の方向を[hkil]で表わし、[hkil]およびそれに結晶幾何学的に等価な方向を含む方向を<hkil>で表わす。また、負の指数については、結晶幾何学上は「−」(バー)を指数を表す数字の上に付けて表わすのが一般的であるが、本明細書中では指数を表す数字の前に負の符号(−)を付けて表わす。
次に、図12のように、上記種結晶基板を台座41(図12参照)に固定した。また、上記炭化珪素粉末をカーボン製の坩堝42(図12参照)の内部に配置した。そして、図12に示すように種結晶基板が固定された台座41を坩堝42上に配置するとともに、当該坩堝42を加熱装置に入れた。その後、坩堝下部温度が2400度、坩堝上部温度が2100度になるように、アルゴンと窒素の混合雰囲気として雰囲気圧力が1kPaという条件で加熱を行った。なお、アルゴンと窒素の分圧比は3:1であった。上記のような条件で100時間加熱を行った結果、直径150mmで高さ30mmの炭化珪素の単結晶インゴットが作製出来た。
インゴット作製後、(0001)面から[11−20]方向に2度オフするように、つまり種基板と平行に、厚み1mmで当該インゴットをスライスした。スライス後、切出された基板(種結晶基板)の(000−1)面を、研削、MP研磨、CMP研磨の順で研磨した。研磨後、PLイメージング装置を用いて種結晶基板について各種欠陥評価を実施した。この結果、評価対象の種結晶基板について、マイクロパイプ密度が5cm-2、貫通螺旋転位密度が5×103cm-2、貫通刃状転位密度が1×104cm-2、基底面転位密度が1×104cm-2であることを確認した。
(結晶成長工程の条件)
図12のように、上記種結晶基板を台座41(図12参照)に固定した。また、上記炭化珪素粉末をカーボン製の坩堝42(図12参照)の内部に配置した。そして、図12に示すように種結晶基板が固定された台座41を坩堝42上に配置するとともに、当該坩堝42を加熱装置に入れた。その後、坩堝下部温度が2400度、坩堝上部温度が2100度になるように、アルゴンと窒素の混合雰囲気として雰囲気圧力が1kPaという条件で加熱を行った。なお、アルゴンと窒素の分圧比は10:1であった。このような条件で100時間加熱を行った結果、直径150mmで高さ30mmの炭化珪素の単結晶インゴットが作製出来た。
(加工工程の条件)
インゴット作製後、(0001)面から[11−20]方向に4度オフするように、厚み0.7mmの基板を切出すようにインゴットをスライスした。スライス後、切出した基板の(0001)面を、研削、MP研磨、CMP研磨の順で研磨した。この結果、直径150mmで厚みが0.6mmの炭化珪素単結晶基板が得られた。
(測定方法)
マイクロパイプ、貫通螺旋転位、貫通刃状転位、基底面転位については、炭化珪素単結晶基板の表面について溶融KOHエッチング及び顕微鏡によるエッチピット観察にて、各欠陥の密度を評価した。また、積層欠陥についても、炭化珪素単結晶基板に対して溶融KOHエッチング及び顕微鏡によるエッチピット観察により評価した。導電性不純物濃度及び残留不純物濃度についてはSIMS分析により評価した。Secondary Phase Inclusionsについては、裏面照射による顕微鏡観察にて評価した。
(結果)
上述した測定の結果、炭化珪素単結晶基板においては、マイクロパイプ密度が0.1cm-2、貫通螺旋転位密度が5×103cm-2、貫通刃状転位密度が1×104cm-2、基底面転位密度が1×104cm-2、積層欠陥密度が0cm-1、導電性不純物濃度が5.0×1018cm-3、残留不純物濃度が5×1015cm-3、Secondary Phase Inclusionsが0.1個・cm-3であった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。