JP2015140403A - セルロースナノファイバー及びその生産方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】木質バイオマスからより変性の少ないリグニンを抽出しつつ効率よくセルロースナノファイバーを生産する方法を提供する。
【解決手段】木質バイオマス原料2とポリカルボン酸3とからなる混合物4を作製する混合工程と、混合物4を100−200℃の範囲内の温度条件下で加熱して反応物5を生成させる反応工程と、反応物5を熱水で洗浄して第1の残渣8を得る第1の洗浄工程と、第1の残渣8を溶剤で洗浄して第2の残渣11を得る第2の洗浄工程と、第2の残渣11中に残存するリグニンを分解・除去してポリカルボン酸が誘導されたセルロース15を得る脱リグニン工程と、ポリカルボン酸が誘導されたセルロース15と金属塩水溶液とから有機塩17を生成させる有機塩17生成工程と、有機塩17を水溶液中で撹拌してポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバー18を得る解繊工程と、を有するセルロースナノファイバーの生産方法1による。
【選択図】図1

Description

本発明は、木質バイオマスから変性の少ないリグニンを抽出しつつ、効率良くセルロースナノファイバーを生産することができる方法およびこの方法により生産されるセルロースナノファイバーに関する。
近年、化石燃料である石炭、石油の代替として、木質バイオマスの利用についての関心が高まっている。一般に、バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉であり、「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことである。その中で特に、木材からなるバイオマスは「木質バイオマス」と呼ばれている。
また、木質バイオマスとしては、主に樹木の伐採や造材のときに発生した枝、葉などの林地残材、製材工場などから発生する樹皮や鋸屑などのほか、住宅の解体材や街路樹の剪定枝などが知られている。
さらに、木質バイオマスの主要成分は、セルロース、ヘミセルロース等の親水性炭水化物と疎水性のリグニン(ポリフェノール)であり、セルロースは40−50%、ヘミセルロースが20−30%、リグニンが20−30%の割合で存在している。
上述のような木質バイオマスを構成するセルロースは、グルコースがβ−グルコシド結合により直鎖状に重合した高分子であり、同一方向に多数のセルロースが水素結合により結合して束になることでセルロースミクロフィブリルを形成している。この、セルロースフィブリルは互いに平行に並び、細胞壁の骨組みとなっている。
また、木質バイオマスを構成するヘミセルロースはキシラン、グルコマンナンなどから構成される高分子であり、細胞壁多糖類からペクチンを抽出した後に、アルカリで抽出される多糖類の総称である。
さらに、木質バイオマスを構成するリグニンは3種類のフェニルプロパノイド が脱水素重合して複雑な構造をした高分子である。
そして、木質バイオマスを構成するヘミセルロースおよびリグニンはセルロースなど結合して存在し、細胞壁の機械的強度を飛躍的に高くさせるという機能を有している。
近年、鉄鋼に代わる強度を有する構造材の原料として、あるいは、これ以外の新規な材料の原料としてセルロースナノファイバーが注目されている。
このようなセルロースナノファイバーの製造方法としては、例えば、特許文献1に開示されるようなグラインダーを用いた方法や、非特許文献1に開示される、TEMPO(2, 2, 6, 6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)触媒を用いる方法が知られている。
また、セルロースナノファイバーは、上記方法以外にも、木質バイオマスから分離されたセルロースから製造することも可能である。
そして、木質バイオマスからセルロースを分離する方法としては、一般にパルプ化法が知られており、特に製紙産業分野におけるクラフト法や、サルファイト法が知られている。
また、木質バイオマスからセルロースを分離する他の方法としては、水および有機溶媒を用いるソルベント法(非特許文献2を参照)や、クレゾール類を用いてリグニンを抽出しその残渣としてセルロースを得る方法(特許文献2,3を参照)、さらには、ヒドロキシ酸を用いる方法(特許文献4を参照)などが知られている。
さらに、上述したものとは別に本願発明に関連すると思われる他の先行技術として、木質バイオマスを構成するセルロースの水酸基を修飾して木質バイオマス改質するという技術内容が知られており、このような技術としては、例えば、特許文献5−20が知られている。
ここで、従来技術に係るセルロースナノファイバーの製造方法、従来公知のパルプ化法、従来公知のセルロースやリグニン、あるいは、これらの複合物の分離・生成方法について必要に応じて図面を参照しながら説明する。
まず、従来技術に係るセルロースナノファイバーの製造方法について説明する。
特許文献1には「セルロースナノファイバーの製造方法」という名称で、セルロースナノファイバーの製造方法に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明は、リグニン含有量が0−5重量%である植物由来の繊維集合体と液体物質との混合物を攪拌することを特徴とするものである。
上述の特許文献1に開示される発明によれば、繊維長が10−50nmであり、植物細胞壁中における基本エレメントまで解繊された、均一でかつ損傷の少ないセルロースナノファイバーを効率的に生産することができる。
非特許文献1には、TEMPO触媒を用いてセルロースシングルミクロフィブリルを製造方法が開示されている。
非特許文献1に開示される従来技術では、天然セルロースにおけるセルロースミクロフィブリルの表面のみに高密度でカルボキシル基を導入してセルロースの表面化学改質を行う。さらに、セルロースの表面に導入されたカルボキシル基をナトリウム塩にすることで、ミクロフィブリル同士の荷電反発と浸透圧効果が生じ、ミクロフィブリル同士を分散状態にするという技術内容を有する。非特許文献1に開示される従来技術によれば、高アスペクト比のセルロースシングルミクロフィブリルを製造することができる。
非特許文献1に開示される従来技術によれば、有機溶媒を用いることなく、安価な次亜塩素酸ナトリウムを用いてセルロースシングルミクロフィブリルを製造することができる。また、TEMPO触媒は回収して繰り返し使用できるというメリットもある。さらには、非特許文献1に開示される従来技術によれば、常温・常圧の温和な条件下で、短時間で反応を完結できるというメリットも有している。
次に、木質バイオマスからセルロースを分離するパルプ化法として知られるクラフト法とサルファイト法について図12を参照しながら説明する。
図12(a)は従来公知のクラフト法の作業工程を示すフローチャートであり、(b)は従来公知のサルファイト法の作業工程を示すフローチャートである。
従来公知のパルプ化法(クラフト法,サルファイト法)ではともに、薬液を用いて高圧条件下において木質バイオマスである木材を蒸煮する工程が必要である。
図12(a),(b)のそれぞれに示すクラフト法,サルファイト法によれば、木質バイオマスからセルロースナノファイバーの原料となるセルロース(パルプ)を分離することができる。また、その際に副産物としてクラフト法の場合はクラフトリグニンを、また、サルファイト法の場合はサルファイトリグニンをそれぞれ得ることができる。
さらに、木質バイオマスからセルロースを分離する他の方法であるソルベント法について図13,14を参照しながら説明する。
非特許文献2にはソルベント法に関する記述がある。
図13はソルベント法を体系別にその概要を示した概念図である。また、図14(a)はソルベント法において触媒を使用しない場合の作業工程を示すフローチャートであり、(b)はソルベント法において触媒を使用する場合の作業工程を示すフローチャートである。
ソルベント法は有機溶媒を用いたパルプ化法、又は、オルガノソルベントパルプ化法、あるいは、ソルベントパルプ化とも呼ばれる。また、図13,14に示すように、ソルベント法では先に述べたパルプ化法(クラフト法,サルファイト法)のように高圧条件下において処理を行う必要がないものの、有機溶媒を用いるため、装置は基本的に密閉系にする必要がある。
図14(a),(b)に示すような従来公知のソルベント法(触媒あり、触媒なし)によれば、木質バイオマスからセルロースナノファイバーの原料となるセルロース(パルプ)を分離することができる。また、ソルベント法(触媒あり、触媒なし)によれば、リグニンも抽出できる。
続いて、木質バイオマスからセルロースを分離する他の方法として特許文献2−4に開示されるそれぞれの技術内容について説明する。
特許文献2には「リグノフェノール系成形体、その製造方法、リグノフェノール系成形体の処理方法」という名称で、木材の一構成成分であるリグニンをフェノール誘導体化して得られるリグノフェノール誘導体を利用する技術に関し、より詳しくは、リグノフェノール誘導体を用いて成形体を製造し、さらに、かかる成形体から再びリグノフェノール誘導体を回収し再利用する技術に関する発明が開示されている。
図15は特許文献2に開示されるリグノフェノール系成形体の製造方法の作業工程を示すフローチャートである。
特許文献2に開示される発明は、ファイバー状、チップ状、粉状等の成形材料が成形された成形体であって、前記成形体は、リグニンがフェノール誘導体で誘導体化されたリグノフェノール誘導体を含んでおり、このリグノフェノール誘導体は、図15に示すように、リグノセルロース系材料にフェノール誘導体を添加した後、濃酸を添加して得られたフェノール誘導体相と濃酸相のうち、フェノール誘導体相から抽出することを特徴とするものである。
つまり、特許文献2に開示される技術は、木質バイオマス中に含有されるリグニンを有効に利用するための技術である。
このような特許文献2に開示される発明によれば、森林資源のリグノセルロース複合体構造の構成成分であるリグニンを有効に利用して、繰り返し利用できる成形体を提供することができ、これにより、森林資源を有効に利用することができる。また、リグニンを利用した成形体から、リグニン成分を再利用可能に回収することができ、これにより、森林資源のリグニン成分を有効に利用することができる。
特許文献3には「リグノフェノール誘導体とセルロース成分とから成るリグノセルロース系組成物」という名称で、リグノフェノール誘導体とセルロース成分とからなるリグノセルロース系組成物に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示される発明であるリグノセルロース系組成物は、フェノール誘導体を添加したリグノセルロース系物質に酸を添加して混合することにより得られるものであり、リグノフェノール誘導体とセルロース成分とから成ることを特徴とするものである。
また、特許文献3に開示される発明は、目的とするリグノセルロース系組成物を製造する際の工程に、セルロースを膨潤させる作用を有し、かつ、このセルロースを加水分解する作用が低い酸として、リン酸、ギ酸又はトリフルオロ酢酸を使用する工程を有するものである。
上記構成の特許文献3に開示される発明によれば、森林資源のリグノセルロース複合体構造の構成成分であるリグニンとセルロースの両方を繰り返し有効利用できる新規な組成物を提供することができ、これにより森林資源を有効に利用することが可能になる。また、特許文献3に開示される発明によれば、上記組成物から、リグニン成分をリグノフェノール誘導体として回収することができ、森林資源のリグニン成分を有効に利用することができる。
特許文献4には「木材分解生成物、接着剤、および、木材分解生成物を用いるアルキッド樹脂の製造方法」という名称で、木材の分解および当該分解生成物の利用に関する発明が開示されている。
図16は特許文献4に開示される木材分解生成物の製造方法の作業工程を示すフローチャートである。
特許文献4に開示される発明は、図16に示すように、木材をヒドロキシカルボン酸により分解して得られる木材分解生成物であって、前記ヒドロキシカルボン酸として、乳酸またはグリコール酸と、長鎖アルキルヒドロキシカルボン酸とを用いることを特徴とするものである。
特許文献4に開示される発明によれば、木材を分解処理することができ、工業的に有用な分解生成物を得ることができる。また、その際の副産物としてセルロースナノファイバーの原料となるセルロース(パルプ)を得られる可能性がある。すなわち、乳酸またはグリコール酸により高い分解率で木材分解生成物を得ることができ、かつ、長鎖アルキルヒドロキシカルボン酸によって疎水性も付与された木材分解生成物が得られる。このようにして得られた木材分解生成物は耐水性が格段に高いものとなる。また、特許文献4に開示される木材分解生成物は、接着剤原料や樹脂原料となり得、色も淡い褐色程度なので種々の用途に有用される。また、木材分解生成物を得る分解反応は比較的低い温度で、比較的短時間に、かつ比較的簡単な操作により実現可能であるので、簡易な設備をもって木材の処理および有効利用を図ることができるというメリットも有している。
特許文献5−20に開示される先行技術によれば、木質原料を好適に改質できるというメリットを有している。
特開2010−216021号公報 特開2000−72888号公報 特開2001−342353号公報 特開2002−338694号公報 特開2001−354774号公報 特開平4−19102号公報 特開平1−226302号公報 特開平1−196303号公報 特開昭63−61034号公報 特開昭62−225303号公報 実開昭62−121902号公報 特開昭62−42801号公報 特開昭61−290001号公報 特開昭61−144304号公報 特開昭60−219007号公報 特開昭59−209103号公報 特開昭59−33133号公報 特開昭58−148747号公報 特開昭57−103804号公報 特開昭55−7422号公報
斉藤継之、磯貝明、「天然セルロースのTEMPO触媒酸化によるセルロースシングルミクロフィブリルの調整」、Cellulose communications、2007年、第14巻、第2号、p.62−66 飯塚堯介、「ウッドケミカルスの技術」、第1刷、日本、株式会社シーエムシー出版、2007年6月21日、第11−31頁
特許文献1に開示される発明は、木質バイオマスからリグニンを分解・除去して得られる精製木粉(ホロセルロースパルプ)をブレンダー撹拌処理することで、植物細胞壁中における基本エレメントまで解繊された均一かつ損傷の少ないセルロースナノファイバーを得る技術である。
このような特許文献1に開示される発明の場合は、本願発明のようにセルロースの水酸基にポリカルボン酸が誘導されたものではないので、得られたセルロースナノファイバーの反応性は本願発明のそれと比較すると低いと考えられる。また、特許文献1に開示される発明の場合は、セルロースナノファイバーを製造する過程においてリグニンは分解・除去されてしまうため、副産物として他の目的に利用することはできなかった。
非特許文献1に開示される技術の場合は、セルロースナノファイバーを構成するセルロースにカルボキシル基(本願発明におけるポリカルボン酸)を導入(誘導)するという点については本願発明と共通している。
しかしながら、非特許文献1に開示される技術の場合はセルロースにカルボキシル基を導入(誘導)するためにTEMPO触媒を用いる必要がある。このTEMPO触媒は回収して繰り返し使用することが可能であるものの、TEMPO触媒の使用や回収のためのコストがかかる。この結果、ミクロフィブリル状のセルロースナノファイバーの製造コストを廉価にし難いという課題が生じていた。
また、非特許文献1に開示される技術の場合、パルプからのセルロースナノファイバーの製造方法であり、リグニンの分離に関する内容ではないため、セルロース以外の木質バイオマスを有効に活用することはできなかった。
上述の図12に示すような従来公知のパルプ化法(クラフト法、サルファイト法)の場合は、木質バイオマスからリグニンが除去されたセルロース(パルプ)を分離できる反面、例えば、5−8気圧程度の高圧条件下で蒸解処理を、さらに、クラフト法の場合は150−170℃の温度条件下で1−2時間、サルファイト法の場合は120−130℃の温度条件下で7−8時間、それぞれ蒸解処理を行う必要がある。この場合、これらの処理を安全かつ確実に行うために、高度な耐久性を有する製造設備を備える必要があり、この結果、パルプ化法(クラフト法、サルファイト法)を実施するために多大な設備投資が必要になるという課題があった。
さらに、特にクラフト法により木質バイオマスからセルロース(パルプ)を分離した場合、パルプ強度の優れたセルロースが得られる反面、リグニンを除去する過程で苛性ソーダ(NaOH)と硫化ソーダ(NaS)の混合水溶液を用いるために硫化水素ガス(HS)が発生する。このため、上述のような高圧に条件に耐える設備に加えて、臭気対策のための設備も必要である。このように、クラフト法を実施する際には、その過程で生じる生成物(廃棄物質)による環境への影響を小さくするためにも多大な設備投資を行う必要があった[図12(a)を参照]。
他方、サルファイト法を用いる場合は、白色度の高いパルプを生成できるというメリットを有する反面、リグニンを除去する過程で亜硝酸カルシウム[Ca(SO]水溶液を用いる必要があり、この薬液がカルシウム(Ca)を多量に含有しているために、原料である木質バイオマス(例えば、木材チップ等)への薬液の浸透が悪く、セルロースを分離できる樹種が限定されてしまっていた。つまり、サルファイト法の場合は、技術の汎用性が低いという課題があった。また、サルファイト法により分離されるセルロース(パルプ)に硫酸基が残留することで、分離物であるセルロース(パルプ)の用途に制限があるという課題もあった。加えて、サルファイト法を用いる場合も、亜硫酸ガス等の臭気対策のための設備や、リグニンを含有する黒液を処理するための設備が別途必要であるため、やはり、環境面に対する多大な設備投資が必要になるという課題があった[図12(b)を参照]。
また、クラフト法、サルファイト法のいずれの場合でも、リグニンは黒液として排出されることになるが、薬液中の無機物を回収するために、通常黒液は燃焼される。また、クラフト法、サルファイト法は、そもそもセルロース(パルプ)を抽出するための方法であり、リグニンは大きく変性されて、低分子化されてしまうため、他の目的に利用可能なより変性の少ないリグニンを抽出することは難しいという課題があった。
非特許文献2、及び、図13,14に示されるような従来公知のソルベント法を用いる場合は、本願発明と同様に、木質バイオマスからセルロースナノファイバーの原料となるセルロース(パルプ)を分離する過程において、副産物として他の目的に使用可能なリグニンを抽出できると考えられる。
しかしながら、本願発明のようにセルロースナノファイバーの原料となるセルロースにポリカルボン酸を誘導するという技術ではないので、生成されたセルロースナノファイバーは本願発明のそれに比べて反応性が劣る可能性が高い。加えて、ソルベント法を用いる場合は以下に示すような課題も有している。
従来公知のソルベント法では、有機溶剤を使用するため、触媒を用いる場合も、触媒を用いない場合も装置を密閉系にする必要があり多大な設備投資が必要になる。より具体的には、酢酸やフェノールを用いるので臭気対策が必要となる。また、フェノールは劇物であるので、作業時の安全性や操作性を担保するための設備も必要である。
さらに、有機溶媒としてフェノール等の水に溶けにくい有機溶媒を用いる場合は、処理設備の洗浄にも有機溶媒を用いる必要があり、廃液の処理にもコストがかかるという課題がある。
加えて、有機溶媒と水とを完全に分離することは難しいので、ソルベント法を用いる場合は、廃液処理にかかるコストも大きくなるという課題がある。
また、ソルベント法において触媒を用いない場合は、上述のような密閉系の装置に加えて木質バイオマスを蒸煮にする際に加圧容器が必要になるので、更なる設備投資が必要である[図14(a)を参照]。他方、触媒を用いる場合は、塩酸、硫酸などの劇物を使用するので、処理容器が腐食しやすいという課題もある。
特許文献2に開示される発明の場合は、木質バイオマスからリグニンを、変性を抑えながら抽出できるというメリットを有する反面、リグニンが抽出された後のセルロースは加水分解されており、セルロースナノファイバーを製造するための原料には適さない。ただし、このような加水分解されたセルロースは、発酵処理するなどによりエタノールを生成させるための原料として利用できる可能性はある。
また、特許文献2に開示される発明の場合は、リグニン誘導化に劇物であるクレゾール類を使用するため、作業時の安全性や操作性を担保するための設備が別途必要であった。
さらに、特許文献2に開示される発明の場合は、図15に示すような、相分離を引き起こすために、濃酸(72%硫酸)を用いる必要があり、作業時の安全性や操作性を担保するための設備が必要であった。
加えて、特許文献2に開示される発明の場合は、上記層分離により得られた有機相からリグノフェノールを抽出するまでの間に、多量の有機溶剤を使用する必要があるので、上述のソルベント法の場合と同様に、廃液の処理にもコストがかかるという課題があった。
また、一連の反応が完了した後の反応設備を多量の水を用いて洗浄するため、排水中に含まれる硫酸濃度が低くなってしまい、排水から硫酸を回収する際にもコストがかかるという課題があった。
特許文献3に開示される発明は、木質バイオマスを酸により処理する工程を有するものの、そもそも木質バイオマスからセルロースやリグニンを抽出するための技術ではない。
また、特許文献3に開示される発明の場合は、酸として95%リン酸などが用いられる。またこの他に引用文献3に開示される発明の場合は、クレゾール類も用いられるため、先の特許文献2に開示される発明の場合と同様に、反応容器の腐食が起こりやすく、設備の維持管理にコストがかかるという懸念があった。
特許文献4には、図16に示すように、ヒドロキシ酸(グリコール酸、乳酸等)を用いて木質バイオマスからリグニンを含む木材分解生成物を得る方法が開示されており、特許文献4に開示される発明によれば木材分解生成物を得る過程において、セルロースナノファイバーの原料となるセルロース(パルプ)を分離できる可能性がある。
しかしながら、特許文献4に開示される技術を用いる場合は、下記のような不具合が生じる可能性がある。
図17(a)はグリコール酸の熱分析結果を示すグラフであり、図17(b)は乳酸の熱分析結果を示すグラフである。
特許文献4に開示される技術を用いる場合は、残渣としてセルロースを抽出できるとも考えられる。
その一方で、図17(a),(b)に示すように、グリコール酸,乳酸は、加熱すると、揮発および脱水縮合反応が起きて水に溶けにくくなる。特許文献4に開示される発明のようにグリコール酸,乳酸等を分離することなく用いる場合には問題ないと考えられるが、図16に示すプロセスにおいてヒドロキシ酸(グリコール酸、乳酸等)のほとんどが縮合反応するので、リグニンを分離・抽出することは困難である。また、当然に、グリコール酸の再利用も困難である。
さらに、グリコール酸,乳酸を反応に用いる場合は、100℃を超えて加熱すると揮発するので、加熱処理を行う際は密閉容器が必要になる。このため、グリコール酸,乳酸を用いる加熱処理を開放系の設備で行うことができないという課題もあった。
特許文献5−20には、木質バイオマスを構成するセルロースにカルボキシル基を誘導するという技術内容が開示されているとも考えられるが、いずれの先行技術も、カルボキシル基を誘導したセルロースを原料としてセルロースナノファイバーを生産したり、その際に他の目的で利用可能なより変性していないリグニンを抽出することを目的とするものではない。
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、木質バイオマスから大部分のリグニンを除去するための薬剤又は薬液が一般試薬であり、かつ、開放系で加圧装置を用いることなく加熱処理を行うことができ、さらに、分離されたセルロースナノファイバーの反応性が高く、その生産過程で変性の少ないリグニンを抽出することができ、しかも、廃液からの未反応の薬剤の回収やリグニンの分離・抽出にコストがかからないセルロースナノファイバーの生産方法及びこの方法により生産されたセルロースナノファイバーを提供することにある。
上記目的を達成するため請求項1記載の発明であるセルロースナノファイバーの生産方法は、木質バイオマスに由来し、セルロースの水酸基にポリカルボン酸が誘導されてなるミクロフィブリル状のセルロースナノファイバーの生産方法であって、木質バイオマスを破砕してなる木質バイオマス原料と、ポリカルボン酸又は水和物あるいはこれらのうちの少なくとも一方を含有する水溶液と、を混合して混合物を生成する混合工程と、この混合工程の後で、混合物を常圧下で、かつ、100−200℃の範囲内の所望の温度条件下において加熱処理して、木質バイオマス原料を構成するセルロースにポリカルボン酸を誘導しつつ、木質バイオマス原料中のリグニンを可溶化させてなる反応物を生成させる反応工程と、この反応工程の後で、反応物を水により洗浄して、その際に生じる第1の廃液から第1の不溶物を分離する第1の洗浄工程と、この第1の洗浄工程の後で、第1の不溶物を溶剤により洗浄して、その際に生じる第2の廃液から第2の不溶物を分離する第2の洗浄工程と、この第2の洗浄工程の後で、第2の不溶物に水及び酸化剤を加えて加熱処理して、第2の不溶物中に残存するリグニンを分解・除去してポリカルボン酸が誘導されたセルロースを得る脱リグニン工程と、この脱リグニン工程の後で、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースにおけるカルボキシル基の水素イオンを1価の金属イオンに置換して有機塩を生成させる有機塩生成工程と、この有機塩生成工程の後で、有機塩を含有する水溶液を撹拌混合して、1価の金属イオン同士を静電反発させて、有機塩を構成するポリカルボン酸が誘導されたセルロースをほぐして、ミクロフィブリル状のセルロースナノファイバーを得る解繊工程とを有していることを特徴とするものである。
上記構成の請求項1記載の発明において、混合工程は木質バイオマス原料とポリカルボン酸の無水物又は水和物あるいはこれらのうちの少なくとも一方を含有する水溶液とからなる混合物を生成するという作用を有する。続く反応工程は、上記混合物を常圧条件下で、かつ、100−200℃の範囲内の所望の温度条件下において加熱処理することで、木質バイオマスを構成するセルロースの水酸基にポリカルボン酸を脱水縮合させて付加するとともに、木質バイオマス中のリグニンを可溶化させてなる反応物を生成させるという作用を有する。続く第1の洗浄工程では、上記反応物を水(熱水)で洗浄して未反応のポリカルボン酸を除去して第1の不溶物(残渣)を得るという作用を有する。続く第2の洗浄工程では、木質バイオマス中に含有されるリグニンの大部分を、例えば、アセトン等の溶剤により抽出するとともに、わずかにリグニンが残存したセルロースを第2の不溶物(残渣)として分離するという作用を有する。続く脱リグニン工程では、第2の不溶物に残存するリグニンを酸化剤(漂白剤)により酸化することで分解・除去してリグニンをほとんど含有しないポリカルボン酸が誘導されたセルロースを得るという作用を有する。この脱リグニン工程を行うことで、限りなく純白に近いホロセルロースが得られる。続く有機塩生成工程では、セルロースの水酸基に脱水縮合されたポリカルボン酸のカルボキシル基の水素イオンを1価の金属イオンに置換して有機塩を生成させるという作用を有する。最後の解繊工程は、上記有機塩を含有する水溶液を物理的に撹拌して、有機塩を構成する1価の金属イオン同士を静電反発させることで、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースをほぐして(解繊して)、ミクロフィブリル状のセルロースナノファイバーにするという作用を有する。
なお、請求項1記載の発明が、第1の洗浄工程と、第2の洗浄工程を併せて有することで、木質バイオマスから大部分のリグニンを効率よくかつ確実に抽出することが可能になる。
さらに、請求項1記載の発明において薬剤としてポリカルボン酸を用いることで木質バイオマス原料を構成するセルロース脱水縮合したカルボン酸が、この脱水縮合に寄与しない別のカルボキシル基を少なくとも1つ有している状態を確実に実現できる。この場合、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースに、1価の金属イオンを加えることで有機塩を生成させることができ、この有機塩を構成する1価の金属イオン同士の静電反発力を利用してセルロースを効率よく解繊するという作用が確実に発揮される。
加えて、反応工程時の反応温度を100−200℃の範囲内に特定することで、木質バイオマス原料を構成するリグニンの可溶化を促進しつつ、薬剤又は薬液であるポリカルボン酸の変性や、セルロースの熱分解を抑制するという作用も有する。
請求項2記載の発明であるセルロースナノファイバーの生産方法は、請求項1記載のセルロースナノファイバーの生産方法であって、第2の廃液から溶剤を分離してリグニンを単離するリグニン単離工程と、を有することを特徴とするものである。
上記構成の請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同じ作用に加えて、リグニン単離工程は第2の廃液から、リグニンを効率よく抽出するという作用を有する。
請求項2記載の発明によれば、木質バイオマスからポリカルボン酸が誘導されたセルロースを分離する過程で、他の目的に利用可能なより変性の少ないリグニンを抽出可能にするという作用を有する。
請求項3記載の発明であるセルロースナノファイバーの生産方法は、請求項1又は請求項2に記載のセルロースナノファイバーの生産方法であって、ポリカルボン酸は、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸から選択される1種類、又は、これらから選択される同族又は異族の少なくとも2種類のポリカルボン酸の組み合わせであることを特徴とするものである。
上記構成の請求項3記載の発明は、請求項1,2に記載の発明に用いられるポリカルボン酸を特定したものであり、その作用は請求項1,2に記載の発明と実質的に同じである。
請求項4記載の発明であるセルロースナノファイバーの生産方法は、請求項1又は請求項2に記載のセルロースナノファイバーの生産方法であって、ポリカルボン酸は、クエン酸であることを特徴とするものである。
上記構成の請求項4記載の発明は、請求項1,2に記載の発明に用いられるポリカルボン酸をクエン酸に特定したものである。
このような請求項4記載の発明によれば、他のポリカルボン酸を用いる場合に比べて、効率よくセルロースとリグニンを分離させるという作用を有する。
また、クエン酸は100−200℃の範囲内の温度条件下で加熱した場合でも安定していて、熱分解等の変性が起きにくいので、未反応のクエン酸を高効率で回収して再利用することを可能にするという作用を有する。
請求項5記載の発明であるセルロースナノファイバーの生産方法は、請求項4に記載のセルロースナノファイバーの生産方法であって、反応工程における反応温度は150−170℃の範囲内であることを特徴とするものである。
上記構成の請求項3記載の発明は、請求項4に記載の発明と同じ作用に加えて、反応工程における反応温度を150−170℃の範囲内に設定することで、木質バイオマスからほぼ完全にリグニンを除去させるという作用を有する。
請求項6記載の発明であるセルロースナノファイバーは、木質バイオマスに由来し、セルロースの水酸基にポリカルボン酸が誘導されてなり、ミクロフィブリル状であることを特徴とするものである。
上記構成の請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明により生産されるセルロースナノファイバーを物の発明として捉えたものである。
このような請求項6記載の発明は、セルロースの水酸基にポリカルボン酸が誘導されている。つまり、セルロースの水酸基にポリカルボン酸が脱水縮合して付加されている。そして、セルロースに誘導されたカルボン酸は、セルロースの水酸基との脱水縮合に寄与しないカルボキシル基を少なくとも1つ以上有している。
このため、請求項6記載の発明を、他の化学物質と反応させて、所望の目的に用いる際に、請求項6記載の発明と他の化学物質との反応性を高めるという作用を有する。
請求項7記載の発明であるセルロースナノファイバーは、請求項6記載のセルロースナノファイバーであって、ポリカルボン酸は、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸から選択される1種類、又は、これらから選択される同族又は異族の少なくとも2種類のポリカルボン酸の組み合わせであることを特徴とするものである。
上記構成の請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明におけるポリカルボン酸を特定したものであり、その作用については請求項6記載の発明と実質的に同じである。
請求項8記載の発明であるセルロースナノファイバーは、請求項6記載のセルロースナノファイバーであって、ポリカルボン酸は、クエン酸であることを特徴とするものである。
上記構成の請求項8記載の発明は、請求項6記載の発明におけるポリカルボン酸をクエン酸に特定したものである。
この場合、木質バイオマスから請求項8記載の発明を生産する際に、木質バイオマスから効率良くクエン酸が誘導されたセルロースを分離しつつ、より変性されていないリグニンを抽出可能にするという作用を有する。
請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明によれば、木質バイオマスから、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバーを効率よく生産しつつ、より変性されていないリグニンを抽出することができる。
より具体的には、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明によれば、ポリカルボン酸を薬剤又は薬液として用いることで、反応工程においてリグニンを、変性を抑制しながら可溶化することができる。
すなわち、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明によれば、木質バイオマスから抽出されるセルロースもリグニンも有効に利用することができる。つまり、木質バイオマスの大部分を有効に利用することができる。
また、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明の場合、反応工程に用いる薬剤又は薬液は劇物でない一般試薬であるため、それぞれのプロセスにおいて安全性を確保することができる。また、本発明に用いる試薬は入手が容易である。さらに、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明によれば、反応工程時に有害な臭気が発生する恐れもない。加えて、上述のような試薬を用いる場合は、反応容器等の腐食を抑制することができる。
また、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明では、薬剤又は薬液として、ポリカルボン酸の無水物又は水和物あるいはこれらのうちの少なくとも一方を含有する水溶液のみを用いればよいので、反応工程を常圧下で行うことができる。このことは、反応工程を行う際に高圧容器等のコストのかかる設備が必要ないことを意味している。よって、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明によれば、セルロースナノファイバーの生産設備にかかるコストを廉価にできる。
さらに、この反応工程後に行われる第1の洗浄工程において使用する洗浄液は、水(熱水)であるため、第1の洗浄工程の際に排出される廃液の処理を容易にできる。つまり、第1の廃液の処理コストを廉価にできる。
また、この第1の洗浄工程では、セルロースに誘導されなかったポリカルボン酸を反応物から効率良く除去して第1の不溶物(残渣)を得ることができる。
この結果、続く第2の洗浄工程において第1の不溶物(残渣)を溶剤により洗浄した場合に、第1の不溶物から効率良くリグニンを分離することができる。
よって、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明によれば、木質バイオマスから変性を抑制しながら効率良くリグニンを抽出することもできる。
従って、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明によれば、木質バイオマスからのポリカルボン酸が誘導されたセルロースの分離と、リグニンの分離とを一連のプロセス内で並行してかつ効率的に行うことができる。
加えて、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明では、反応工程に用いる薬剤又は薬液をポリカルボン酸の無水物又は水和物あるいはこれらのうちの少なくとも一方を含有する水溶液に特定することで、木質バイオマスを構成するセルロースの水酸基にカルボキシル基を付加するために、薬剤又は薬液と別に触媒を用いたり、高圧条件下で加熱処理を行う必要がなくなる。
これにより、反応工程を行うための設備を簡素化できるだけでなく、容易に廃液の処理ができるので、廃液処理設備も簡素化できる。つまり、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバーを廉価に提供できる。
よって、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明を実施するためのコストを大幅に小さくしつつ、廃液処理等の環境に配慮するための負荷も大幅に軽減できる。
この結果、これまで木質バイオマスからセルロース(パルプ)を分離するために多大な設備投資が必要であったところを、少ない設備投資で木質バイオマスからセルロース(パルプ)を効率よく分離することが可能になる。
従って、少ない投資で木質バイオマスからセルロースナノファイバーを効率よく生産することが可能になり、これにより、木質バイオマスの利用可能性を広げることができる。
請求項4記載の発明によれば、反応工程において使用する薬剤又は薬液をクエン酸無水物又は水和物あるいはこれらのうちの少なくとも一方を含有するクエン酸水溶液に特定することで、他のポリカルボン酸を使用する場合に比べて一層効率よくセルロースナノファイバーを生産しつつ、リグニンを回収することができる。さらに、クエン酸は100−200℃の温度条件下において長時間加熱処理した場合でも安定していて変性し難いので、未反応のクエン酸を容易にかつ高効率で回収して再利用することができる。この場合、請求項4記載の発明を実施する際のコストを廉価にできるというメリットを有する。
また、クエン酸は食品としても摂取できるものであるため、第1の廃液の安全性が大幅に高まる。
よって、請求項4記載の発明によれば、より安全で信頼性の高いセルロースナノファイバーの生産方法を提供することができる。
請求項5記載の発明によれば、脱リグニン工程後に得られるポリカルボン酸が誘導されたセルロース中のリグニンの残存率を3重量%以下にすることができる。
このことは、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバーの純度が高まることを意味している。
よって、請求項5記載の発明によれば、高品質なセルロースナノファイバーを効率よく生産することができる。
請求項6,7記載の発明は、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載される発明により生産されるセルロースナノファイバーを物の発明として捉えたものである。
請求項6,7記載の発明によれば、他の化学物質との反応性が高く、リグニンの含有率が低い、高純度で高品質なセルロースナノファイバーを提供できる。
請求項8記載の発明によれば、請求項6に記載される発明と同じ効果に加えて、セルロースナノファイバー中におけるリグニンの残存率を3重量%以下にすることができる。
この結果、より高品質なセルロースナノファイバーを提供することができる。
本発明の実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法の作業工程を示すフローチャートである。 セルロースにポリカルボン酸であるクエン酸が誘導されるプロセスを示す構造式である。 クエン酸が誘導されたセルロースに水酸化ナトリウム水溶液を加えて有機塩を生成させるプロセスを示す構造式である。 反応工程(ステップS02)において反応時間を変えた場合の脱リグニン率(%)の変化を示すグラフである。 反応工程(ステップS02)において木質バイオマス原料に対するクエン酸1水和物の添加割合を変えた場合の残渣率(%)及び脱リグニン率(%)の変化を示すグラフである。 木質バイオマス原料であるタケに対して、その10倍の重量のクエン酸を薬剤として添加して、実施例に係るプロセスにおいて170℃の温度条件下において2時間反応させて得られる残渣の繊維長の分布を示すグラフである。 木質バイオマス原料であるヒノキに対して、その10倍の重量のクエン酸を薬剤として添加して、実施例に係るプロセスにおいて170℃の温度条件下において2時間反応させて得られる残渣の繊維長の分布を示すグラフである。 ステージI−IIIのそれぞれにおいて得られた生成物(残渣)のフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)のスペクトルを示すグラフである。 (a),(b)はともに実施例に係る工程により生産されたポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバーから水分をエタノール、t-ブチルアルコールに置換し、凍結乾燥させたものの走査型電子顕微鏡画像である。 実施例に係るアセトン抽出物の熱分解ガスクロマトグラフ(Py−GC/MS)による分析結果を示す図である。 (a)実施例の反応工程(ステップS02)における反応温度をそれぞれ130℃,150℃,170℃に設定した場合のアセトン抽出物、並びに、摩砕リグニン(MWL)のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定結果としての微分分子量分布曲線を示す図である。(b)実施例の反応工程(ステップS02)における反応温度を170℃とし、反応時間をそれぞれ60分,120分,180分に設定した場合のアセトン抽出物のGPC測定結果としての微分分子量分布曲線を示す図である。 (a)従来公知のクラフト法の作業工程を示すフローチャートであり、(b)従来公知のサルファイト法の作業工程を示すフローチャートである。 ソルベント法を体系別にその概要を示した概念図である。 (a)ソルベント法において触媒を使用しない場合の作業工程を示すフローチャートであり、(b)ソルベント法において触媒を使用する場合の作業工程を示すフローチャートである。 特許文献2に開示されるリグノフェノール系成形体の製造方法の作業工程を示すフローチャートである。 特許文献4に開示される木材分解生成物の製造方法の作業工程を示すフローチャートである。 (a)グリコール酸の熱分析結果を示すグラフであり、(b)乳酸の熱分析結果を示すグラフである。
以下に、本発明の実施の形態に係るセルロースナノファイバー及びその生産方法について図1乃至図3を参照しながら詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法について図1を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法の作業工程を示すフローチャートである。
本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1における最初の工程は、粉砕等の前処理を行った木質バイオマス原料2と薬剤又は薬液であるポリカルボン酸無水物又は水和物これらのうちの少なくとも一方を含有するポリカルボン酸水溶液3とを混合して混合物4を得る混合工程(ステップS01)である。
なお、木質バイオマス原料2は必ずしも粉砕しておく必要はないが、予め粉砕しておいた方が木質バイオマス原料2とポリカルボン酸又はポリカルボン酸水溶液3との接触面積が大きくなるので、以後の反応工程(ステップS02)における反応がスムースになる。
また、木質バイオマス原料2の粉砕には、例えば、衝撃式破砕機(ハンマーミル、ジェットミル)、剪断式破砕機(カッターミル)、圧縮式破砕機(ロールミル、)、ボールミル、ロッドミルなどを用いることができる。
また、繊維長の長いセルロースナノファイバーを得るためには、木質バイオマス原料を粉砕する際に、粉砕物のアスペクト比が大きくなるよう粉砕方法を工夫する必要がある。
さらに、木質バイオマス原料2としてはセルロースを含有する植物由来物であればどのようなものでも使用可能であるが、葉や花、果実等のようにセルロース以外の成分や水の含有量が多い部位については、何らかの手段によりできるだけセルロース以外の成分や水を分離・除去しておくことが望ましい。
なお、木質バイオマス原料2としては木材が望ましい。また、上述のステップS01において木質バイオマス原料2として使用可能な樹種に特に制限はないが、例えば、以下に示すようなものを木質バイオマス原料2として使用できる。
例えば、針葉樹としては、イチイ、モミ、トドマツ、カラマツ、エゾマツ、アカマツ、クロマツ、ヒメコマツ、ツガ、スギ、コウヤマキ、ヒノキ、サワラ、ネズコ、アスナロなどがある。
また、例えば、広葉樹としては、ドロノキ、オニグルミ、サワグルミ、ハンノキ、ミズナ、マカンバ、アサダ、クリ、スダジナ、ブナ、ミズナラ、アカガシ、シラガシ、ハルニレ、ケヤキ、カツラ、ホオノキ、クズノキ、タブノキ、イスノキ、ヒロハノキハダ、イタヤカエデ、シナノキ、ハリギリ、ヤチダモ、シオジ、キリなどがある。
さらに、イネ科植物である竹も木質バイオマス原料2に適している。このような竹としては、モウソウチク、カンチク、シホウチク、ハチク、マダケ、ホテイチク、ハコネダケ、メダケ、イヨダケ、シャコタンチク、ヤダケなどが挙げられる。
もちろん、繊維質に富んだ草本植物も支障なく使用できる。例えば、ジュート、ケナフ、パピルス、アサ、ワタなどがある。
また、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1のステップS01において薬剤又は薬液として添加されるポリカルボン酸3としては、100−200℃の温度条件下において木質バイオマス原料2を構成するセルロースの水酸基に脱水縮合して付加され、かつ、この温度条件下において容易に熱分解したり脱水縮合しないものであればどのようなものでも使用できる。
本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1に使用可能なポリカルボン酸3は、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸であり、これらから選択されるポリカルボン酸3を1種類のみ用いてもよいし、これらから選択される同族又は異族の少なくとも2種類のポリカルボン酸3を組み合わせて用いてもよい。なお、どのポリカルボン酸3を用いるかについては、生産されるセルロースナノファイバーの使用目的に応じて適宜選択するとよい。
また、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1に使用可能なジカルボン酸としては、しゅう酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、酒石酸、イタコン酸、シトラコン酸などがある。
さらに、トリカルボン酸としては、クエン酸、アコニット酸などがある。
加えて、テトラカルボン酸としては、エチレンテトラカルボン酸、1,2,3,4,−ブタンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸などがある。
なお、これらのポリカルボン酸3は、無水物又は水和物を木質バイオマス原料2に添加してもよいし、水溶液として木質バイオマス原料2に添加してもよい。
さらに、特にポリカルボン酸又はポリカルボン酸水溶液3として、クエン酸(無水物,水和物)又はクエン酸水溶液を用いる場合は、木質バイオマス原料2からセルロース及びリグニンを効率良く抽出できる上、反応に使用されなかったクエン酸の回収が容易になり、薬剤又は薬液であるポリカルボン酸3を効率よく再利用できるというメリットがある。
また、図1に示すステップS01において混合する木質バイオマス原料2とポリカルボン酸(無水物)の重量比は、1:1−50、好ましくは、1:5−10とするのが望ましい。木質バイオマス原料2に対するポリカルボン酸3の量が少ないと、リグニンが可溶化され難くなり、効率よくリグニンを分離することができない。このことは、図1に示すセルロースナノファイバーの生産方法1におけるリグニンの収率が低下するというデメリットを生じさせるだけでなく、セルロースナノファイバーの原料となるセルロース中に多量のリグニンが残存することになるので、セルロースを効率よくミクロフィブリル化できないという不具合を生じさせてしまう。また、仮に残存したリグニンを効率良く分解・除去できたとしても、その過程においてセルロースが必要以上に分解されてしまう恐れがあり、高品質なセルロースナノファイバーを生産できないというデメリットを生じさせてしまう。
さらに、図1に示すステップS01では、ポリカルボン酸3を木質バイオマス原料2に十分に含浸させておく必要がある。そのためには、ポリカルボン酸3を溶媒に溶かして用いるとよい。なお、ポリカルボン酸3として特にクエン酸を用いる場合は、溶媒として水が適している。
なお、溶媒として有機溶媒を用いる場合は、以後の工程に用いる反応設備を閉鎖系にする必要が生じたり、従来技術の場合と同様に廃液の処理にコストがかかるという課題が生じてしまう。よって、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1では、水に溶けやすいポリカルボン酸3を選ぶことが望ましい。
このように、ポリカルボン酸3を適切な溶媒に溶かして木質バイオマス原料2に添加した場合は、効率よくリグニン及びセルロースを抽出するために必要なポリカルボン酸3の量(質量)を少なくできるというメリットがある。
ただし、水等の低沸点の溶媒が多量に存在すると、以後の反応工程(ステップS02)において所望の反応温度に到達するまでの時間が長くなり、作業効率を向上できないという別の課題が生じてしまうため、溶媒を用いる場合でもその量はできるだけ少ない方がよい。
図1に示すように、このステップS01に続く工程が、先のステップS01において得られた混合物4を常圧条件下で、かつ、100−200℃の範囲内の所望の温度条件下で加熱処理することで、木質バイオマス原料2を構成するセルロースにポリカルボン酸3を誘導しつつ、木質バイオマス原料2中のリグニンを可溶化させてなる反応物5を得る反応工程(ステップS02)である。
なお、このステップS02におけるリグニンの可溶化と、木質バイオマス原料2を構成するセルロースにポリカルボン酸3を誘導する反応をスムースにするために、先のステップS01において木質バイオマス原料2を予め木材膨潤剤等を用いて膨潤させておいてもよい。このような木材膨潤剤としては、例えば、水や、尿素、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール等がある。
あるいは、このステップS02における反応をスムースにするための他の方法としては、木質バイオマス原料2を予め蒸煮しておいたり、粉砕処理を兼ねて木質バイオマス原料2を爆砕処理するなどの方法がある。
ここで、図2を参照しながら木質バイオマス原料2を構成するセルロースにポリカルボン酸3が誘導されるプロセスについて構造式を参照しながら説明する。
図2はセルロースにポリカルボン酸であるクエン酸が誘導されるプロセスを示す構造式である。なお、図2ではポリカルボン酸3の一例としてクエン酸を用いる場合を例に挙げて説明する。
セルロースはグルコース単位が1,4−β−グリコシド結合でつながった分岐のない高分子化合物である。このようなセルロースは、図2に示すように、セルビオース単位が直鎖状につながったものであると表現することもできる。
そして、セルロースを含有する木質バイオマス原料2にポリカルボン酸3を含浸させて、常圧で、かつ、100−200℃の範囲内の所望の温度条件下で加熱処理すると、図2に示すようなセルロースのセルビオース単位における水酸基に、ポリカルボン酸3が脱水縮合により付加される。すなわち、木質バイオマス原料2を構成するセルロースはポリカルボン酸3(例えば、クエン酸)が誘導されたセルロース15(図1を参照)となる。
なお、ポリカルボン酸3として特にクエン酸を用いる場合は、100−170℃の温度条件下で、好ましくは130−170℃の温度条件下で、より好ましくは150−170℃の温度条件下で加熱処理すればよい。上述のような温度範囲に特定することで、最終生産物であるセルロースナノファイバー中に残存するリグニンの量を少なくできる。この場合、その後の工程においてセルロースをミクロフィブリル化することが容易になるので、より高品質なセルロースナノファイバーを生産することが可能になる。また、特にカルボン酸3としてクエン酸を用いる場合は、反応温度が高い方がリグニンの変性を抑制できるとういうメリットもある。
図2ではクエン酸分子の鉛直下方側に配されるカルボキシル基と、セルロースを構成するグルコースにおける6位の水酸基とが脱水縮合する場合を例に挙げて説明しているが、クエン酸分子における他のカルボキシル基と脱水縮合する場合や、セルロースを構成するセルビオース単位の他の水酸基と、クエン酸分子のいずれかのカルボキシル基が脱水縮合する場合もある。さらに、セルロースを構成するセルビオース単位中の複数の水酸基にクエン酸が脱水縮合する場合もある。
このように、セルロースにポリカルボン酸3が誘導されることで、セルロース同士をつなぎとめる接着剤として機能するリグニンがセルロースから分離し易くなると考えられる。
木質バイオマス原料2を構成するセルロース,リグニンには、水酸基(−OH)や、エーテル結合(R−O−R’)が多く存在しているため、カルボン酸(−COOH)との反応性が高い[下記、化学式(1),(2)を参照]。
ポリカルボン酸3はカルボキシル基を複数有しているため、木質バイオマス原料2から分離される、ポリカルボン酸3が誘導されたセルロースや、ステップS02を経て抽出されるリグニンには、多くのカルボキシル基が残存していると考えられる。
このため、ポリカルボン酸3が誘導されたセルロースや、ステップS02を経て抽出されるリグニンは、反応性に富み、接着剤や、樹脂などの原料に適した性質を備えていると考えられる。
また、このことはステップS02を経たリグニンの抽出が容易になることを意味している。すなわち、カルボキシル基を多く備えるリグニンは、アセトン等の溶剤に溶解しやすくなると考えられる。
この結果、以後の工程において、より変性されておらず、かつ、過度に低分子化されていないリグニンを抽出することが可能になる。
ステップS02の処理時間については、使用する木質バイオマス原料2の種類や量に左右されるため一概には言えないが、ステップS02における加熱処理温度が高いほど反応時間は短くてすむ。
例えば、木質バイオマス原料2として竹を用い、ポリカルボン酸3としてクエン酸を用いる場合は、加熱処理時の温度を170℃に設定して60分間加熱処理を行えばよい。
ステップS02における反応時間を180分を超えて長く設定すると、薬剤であるポリカルボン酸3の樹脂化が起き易くなり、木質バイオマス原料2からセルロースやリグニンを分離することが難しくなる。
また、加熱処理時の温度が高くなるにつれて薬剤であるポリカルボン酸3の熱分解や、縮合反応などの副次的な反応が起きやすくなる。
そして、加熱処理時の温度が200℃を超えると、木質バイオマス原料2を構成するセルロースやヘミセルロースの熱分解が生じてしまい、最終産物であるセルロースナノファイバーの収率が低下するという不具合が生じてしまう。
このような事情により、ステップS02では、速やかに反応を完了させることが好ましい。
このため図1に示すステップS02では、反応触媒としてルイス酸を用いてもよい。なお、反応触媒として使用可能な物質としては、硫酸アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化アルミニウム、四塩化チタンなどがある。
また、ステップS02の反応工程は、大気雰囲気下において支障なく行うことができるが、酸化反応によりセルロースが着色されるという不具合が生じる可能性もある。このような不具合を防止するために、ステップS02の反応工程を、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下において行ってもよい。
また、ステップS02の反応工程は、加圧条件下において行ってもよい。この場合、所望の反応温度に到達するまでの時間を短くできるというメリットがある。
他方、ステップS02の反応工程を常圧下で行う場合は、反応系を開放することができるので、溶媒の除去を効率よく行うことができるというメリットがある。
次に、ステップS02に続く第1の洗浄工程について引き続き図1を参照しながら説明する。
まず、ステップS02において生成した反応物5を静置して冷ます。例えば、ポリカルボン酸3としてクエン酸を使用する場合は、反応物5が100℃を下回るまで冷ましてから、この反応物5に多量の熱水6(水)を加えてこの熱水6中に反応物5を十分に分散させた後、この熱水6を濾過又は遠心分離により、第1の廃液7と第1の残渣8(不溶物)とに分離する(ステップS03)。
このステップS03により、反応物5から未反応のポリカルボン酸3であるクエン酸を除去することができる。すなわち、ステップS03において生じる第1の廃液7は、未反応のクエン酸が溶解した水である。また、先のステップS02において、反応触媒を用いる場合は、第1の廃液7中に反応触媒も残存していることになる。
本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1では、ポリカルボン酸3としてクエン酸を用いる場合に、このステップS03において生じる第1の廃液7を回収して、この廃液中にカルシウム(Ca)を添加することで、未反応のクエン酸をクエン酸カルシウムとして回収することができる。
また、第1の廃液7は褐色であるが、その着色成分は木質バイオマス原料2に含有される糖や有機酸であると考えられ、活性炭等により着色成分を容易に除去できる。
すなわち、コストをかけることなく第1の廃液7から未反応のポリカルボン酸3を回収して処理することができる。
他方、上述のステップS03において反応物5を分散させた熱水6を濾過又は遠心分離して得られる第1の残渣8(不溶物)は、ポリカルボン酸(例えば、クエン酸)が誘導されたセルロースと、カルボキシル基に富んだリグニンとにより構成されている。
そして、このステップS03に続く第2の洗浄工程が、第1の残渣8(不溶物)からカルボキシル基に富んだリグニンを分離・除去する工程である(ステップS04)。
このステップS04では、先のステップS03により得られた第1の残渣8を溶媒9中に溶解させた後、第1の残渣8が溶解した溶媒9を濾過又は遠心分離により第2の廃液10と第2の残渣11(不溶物)に分離する。
なお、このステップS04において得られる第2の廃液10中にはカルボキシル基に富んだリグニンが溶出している。また、このステップS04において得られる第2の残渣11は、ポリカルボン酸(例えば、クエン酸)が誘導されたセルロースと、除去しきれずにわずかに残存するリグニンからなるものである。
また、このステップS04において使用可能な溶媒9としては、例えば、アセトン、エタノール、ジオキサン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、又はこれらから選択される少なくとも2種類の混合液、あるいは、これらから選択される少なくとも1種類の溶媒9と水の混合液、アルカリ水溶液等を使用できるが、操作性、及び、リグニンの溶解性を考慮するとアセトンを用いることが望ましい。
なお、溶媒9としてアルカリ水溶液を用いる場合は、後段において説明するリグニン単離工程(ステップS05)においてリグニンを単離・抽出する際に、第2の廃液10を中和する工程が必要になるので作業がやや煩雑になる。
なお、このステップS04で得られた第2の廃液10から溶媒9を除去することで、反応性に富み、かつ、過度に変性又は低分子化されていないリグニン12を単離・抽出することができる。この工程が、リグニン単離工程(ステップS05)である。
先のステップS04において得られる第2の残渣11は、そのほとんどがポリカルボン酸が誘導されたセルロースであるが、リグニンがわずかに残存しているのでこのままではスムースにミクロフィブリル化することができない。このため、ステップS04において得られた第2の残渣11中に残存するリグニンをさらに分解・除去する必要がある。
そして、先のステップS04に続いて行われ、第2の残渣11中に残存するリグニンを分解・除去する工程が、脱リグニン工程(ステップS06)である。
このステップS06では、先のステップS04において得られた第2の残渣11(不溶物)に水13及び酸化剤14(漂白剤)(例えば、亜塩素酸ナトリウム,過酸化水素など)を添加しながら加熱した後、別の水と溶媒(例えば、アセトンなど)によりその残渣を十分洗浄して、乾燥させてポリカルボン酸が誘導されたセルロース15(例えば、クエン酸が誘導されたセルロース)を得る。
このステップS05を有することで、先のステップS04において得られる第2の残渣11中に残存するリグニンをほぼ完全に除去することができる。
すなわち、ミクロフィブリル状に解繊し易いセルロースを得ることができる。
なお、このステップS06において廃液中に溶存するリグニンは、先の第2の廃液10中に溶存するリグニン12と比較してより変性された又は低分子化されていると考えられる。また、その量もわずかであるため分離・抽出するほどのものではない。
また、ステップS05において得られるポリカルボン酸が誘導されたセルロース15を単に撹拌するだけでミクロフィブリル状に解繊するためには、大きな外力を作用させる必要がある。ポリカルボン酸が誘導されたセルロース15の解繊を物理的に行う場合は、外力によりミクロフィブリル状に解繊されたセルロースナノファイバーがその伸長方向に切断されて断片化してしまうというデメリットが生じる恐れがある。
このような事情に鑑み、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1では、ステップS05において得られたポリカルボン酸が誘導されたセルロース15におけるカルボキシル基の水素イオンを1価の金属イオン16に置換することで有機塩17を生成させ(ステップS07;有機塩生成工程)、この有機塩17を水溶液中で撹拌することで、有機塩17を構成する1価の金属イオン16同士の静電反発力を利用してポリカルボン酸が誘導されたセルロース15を解繊している。この結果、小さな外力を付加するだけでミクロフィブリル状の、セルロースナノファイバー(ポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバー18)分散液を得ることができる(ステップS08;解繊工程)。
より具体的に説明すると、上述のステップS07では、先のステップS06により得られたポリカルボン酸が誘導されたセルロース15(例えば、クエン酸が誘導されたセルロース)に、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等の金属塩水溶液(1価の金属イオン16)を添加することで有機塩17を生成させることができる。
図3はクエン酸が誘導されたセルロースに水酸化ナトリウム水溶液を加えて有機塩を生成させるプロセスを示す構造式である。なお、図1,2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先の図2に示すようなポリカルボン酸が誘導されたセルロース15に、金属塩水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)を添加すると、図3に示すように、セルロースの水酸基に脱水縮合したポリカルボン酸3(例えば、クエン酸)のカルボキシル基の水素イオンが1価の金属イオン16(例えば、ナトリウムイオン)に置換されて有機塩17が生成する。
このような有機塩17では、カルボキシル基が有する1価の金属イオン16(例えば、ナトリウムイオン)の作用によりセルロース分子同士を静電反発させることができる。この結果、セルロース分子同士の強固な繊維構造を和らげることができる。よって、小さな外力を付加するだけでポリカルボン酸が誘導されたセルロース15からなる有機塩17を解繊してミクロフィブリル状のセルロースナノファイバーにすることができる。
なお、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1のステップS08では、有機塩17を含有する水溶液を、例えば、ミキサーを用いるなどして撹拌して、有機塩17を構成するセルロースを解繊させるとよい。
このステップS08において有機塩17を含有する水溶液の撹拌手段としてミキサーを用いる場合には、ミキサーの回転数を10,000−50,000rpm、好ましくは、20,000−50,000rpmに設定することが望ましい。また、その際の有機塩17の濃度は、0.1−5重量%の範囲内に、より好ましくは、1−2重量%の範囲内に調整するとよい。
なお、ステップS08においてミキサーを用いる場合、ミキサーの回転数が少ない場合や、有機塩17の濃度が低い場合は、有機塩17を構成するセルロース分子を効率よくミクロフィブリル化することができない。
また、有機塩17の濃度が高すぎる場合も、分散液の粘度が高くなってしまい機塩17を構成するセルロース分子を均一にミクロフィブリル化することが困難になる。
以下に、本発明の実施例について説明する。
木質バイオマス原料2として、西日本技術開発有限会社製のファイバライザで繊維化し脱脂したマダケ(学名:Phyllostachys bambusoides、以下単にタケとよぶ)を用いた。また、先の図1におけるステップS02の反応工程に使用する反応容器として、100mLのトールビーカーを用い、この反応容器中に木質バイオマス原料2であるタケ、ポリカルボン酸3、ポリカルボン酸3の溶媒を仕込み、所定温度で所定時間反応させた(ステップS01;混合工程に相当)。なお、ポリカルボン酸3の溶媒として水を用いた。実施例では、オイルバスにより反応容器中の水のほとんどを除去してから、電気炉で所望の温度に維持してマダケとポリカルボン酸3を反応させた(ステップS02;反応工程に相当)。
反応後に生成した反応物5に多量のポリカルボン酸溶媒(熱水)を投入して、グラスろ過器で濾別した(ステップS03;第1の洗浄工程に相当)。この後、得られた第1の残渣8(不溶物)を溶媒9であるアセトンで洗浄し、第2の廃液10と、不溶物である第2の残渣11を得た(ステップS04;第2の洗浄工程に相当)。なお、この第2の洗浄工程で得られた第2の廃液10であるアセトン溶液からアセトンを除去して(ステップS05;リグニン単離工程)アセトン抽出物を得た。
上述の実施例において得られた残渣(第2の残渣11)及びアセトン抽出物を、以下に示すような手法により分析した。
<各分析方法>
[1]「残渣率(%)」について
上述の実施例に用いた木質バイオマス原料2の重量、及び、この木質バイオマス原料2を用いて上述の実施例に示すプロセスを経て得た第2の残渣11の重量に基づき、以下に示す数式(1)により「残渣率(%)」を求めた。
なお、木質バイオマス原料2及び第2の残渣11はともに、105℃の温度条件下において絶乾させた後、秤量した。
[2]「アセトン抽出物(%)」について
上述の実施例に用いた木質バイオマス原料2の重量、及び、この木質バイオマス原料2を用いて上述の実施例に示すプロセスを経て得たアセトン抽出物の重量に基づき、以下に示す数式(2)により「アセトン抽出物(%)」を求めた。
なお、木質バイオマス原料2及びアセトン抽出物はともに、105℃の温度条件下において絶乾させた後、秤量した。
[3]脱リグニン化の手順について
上記実施例において用いた木質バイオマス原料2、並びに、この木質バイオマス原料2を用いて上述の実施例に示すプロセスを経て得た第2の残渣11のそれぞれに対し、以下に示すプロセスにて脱リグニン化を行った(本発明のステップS06;脱リグニン工程に相当)。
絶乾した木質バイオマス原料2、又は、第2の残渣11をそれぞれ0.25g量り採って100mLの三角フラスコに収容し、イオン交換水15mL、亜塩素酸ナトリウム0.1g、及び、酢酸0.02mLを加えて、70℃に加熱したホットプレート上で、ときどき軽く内容物を振りながら、1時間加熱した。引き続き、亜塩素酸ナトリウム0.1gおよび酢酸0.02mLを加えて、70℃に加熱したホットプレート上で1時間加熱する作業を、計3回行った。この作業に後に固形物を、あらかじめ恒量を求めたガラスろ過器(1GP100)を用いて吸引ろ取した後、冷水およびアセトンで洗浄後、105℃の乾燥器中で乾燥してから、デシケーター中で放冷後に秤量し、ガラスろ過器(1GP100)の恒量から増加した重量をホロセルロース量とした。なお、天秤精度は0.01mgであった。
[4]硫酸法によるリグニン抽出工程について
上記実施例において用いた木質バイオマス原料2、並びに、この木質バイオマス原料2を用いて上述の実施例に示すプロセスを経て得た第2の残渣11のそれぞれに対し、以下に示すようなプロセスにて脱リグニン化(硫酸法による脱リグニン化工程)を行った。
絶乾した木質バイオマス原料2、又は、第2の残渣11をそれぞれ0.1g量り採って試験管に収容し、72%硫酸1.5mLを加え、ガラス棒で十分に撹拌し、室温で4時間静置(ときどき撹拌)後、内容物を56mLのイオン交換水で100mL三角フラスコに移し込む(硫酸濃度3%)。この後、それぞれの試料をホットプレートで4時間加熱し、放冷後、沈殿物を、あらかじめ恒量を求めたガラスろ過器(1GP16)を用いて吸引ろ取する。この後、ろ取したそれぞれの沈殿物を熱水、冷水で洗浄後、105℃の乾燥器中で乾燥し、デシケーター中で放冷後秤量し、ガラスろ過器(1GP16)の恒量から増加した重量を酸不溶性リグニン(クラーソンリグニン)量とした。なお、天秤精度は0.01mgであった。
[5]「脱リグニン率(%)」(=A)の算出方法について
木質バイオマス原料2中のリグニン量、並びに、第2の残渣11中のリグニン量をそれぞれ上記[4]に示す手法により求め、上述の実施例に係るプロセスを経る前と後での「脱リグニン率(%)」を以下に示す数式(3)により求めた。
[6]摩砕リグニン(milled wood lignin:MWL)の抽出手順について
<抽出工程>
酸化リン上で真空乾燥させた木質バイオマス原料2をトルエン中に分散させ、振動ミルで48時間摩砕させた。摩砕容器(1L)それぞれに10gの木質バイオマス原料2、摩砕ボール(鋼鉄製)を入れ、トルエンの添加量は摩砕ボールが隠れる程度の量とした。
遠心分離によりトルエンを除去し、残渣をジオキサン−水混液(96:4v/v)(残渣1gあたり10mLを添加)を用いて24時間抽出した。抽出液を遠心分離で除去したのち、再度ジオキサン−水混液を加え、48時間抽出した。抽出液を遠心分離し、全抽出液を減圧留去した。
<精製工程>
上記抽出工程において抽出された抽出物1gを、ピリジン−酢酸−水混液(9:1:4v/v/v)10mLに溶解させた後、その溶液に36mLのクロロホルムを加え、混合した。混合液を遠心分離し、有機層を分取した。水層にクロロホルム36mLを加え、混合し、遠心分離し、有機層を得た。全有機層の溶媒を留去した。残渣をピリジンに溶解させ、溶液を250mLのジエチルエーテル中に滴下し沈殿物を得た。沈殿物をジエチルエ−テルで十分に洗浄し、酸化リン上で真空乾燥してリグニンを得た。
<リグニンのアセチル化>
20mgのリグニンにピリジン−無水酢酸混液(1:1v/v)を加え、室温で一夜放置した。その後、メタノール−氷冷水(1:1v/v)を加え、混合物を蒸発乾固した後、残渣をトルエンに分散させ、蒸留させた。
<リグニンのメチル化>
20mgのリグニンをジオキサン−メタノール混液(8:2v/v)4mLに溶解させ、トリメチルシリルジアゾメタン(10%ヘキサン溶液)2mLを加え、室温で20分間静置した。反応後、メタノールを加え、減圧留去し残渣を得た。
<補足>
なお、摩砕リグニン(MWL)はリグニンのアセチル化のみを行えば良いが、上述の実施例においてアセトン抽出物として得られるリグニンは、アセチル化、メチル化の両方を行う必要がある。
[7]「反応後のカルボン酸(薬剤)の残存率(%)」(=D)について
実施例の反応工程(ステップS02)後の第1の洗浄工程(ステップS03)において得られた第1の廃液7を、希釈または濃縮して200mLになるように調整し、この後、希釈又は濃縮した第1の廃液7を高速液体クロマトグラフにより分析して、第1の廃液7中のカルボン酸の含有量(mg/L)(=B)を定量した。なお、第1の廃液7中のカルボン酸の定量方法には検量線法を用いた。より具体的には、上記定量値Bに基づき、下記数式(4)により「反応後のカルボン酸量(g)」(=C)を求めた。
さらに、下記数式(4)により求められた「反応後のカルボン酸量(g)」(=C)に基づき、下記数式(5)により「反応後のカルボン酸(薬剤)の残存率(%)」(=D)を求めた。
[8]分析機器について
<フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)>
・日本分光株式会社製、型番:FT/IR−6300
リグニンはKBrプレート法、残渣等はATR(ダイアモンド)法で測定を行った。

<ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)>
・株式会社パーキンエルマージャパン製、型番:Clarus 600 C GC/MS
・カラム:UA−5(内径0.25mm、膜厚0.25μm、長さ30m)
・カラムオーブン:50℃−10℃/min−350℃
・キャリアーガス:He 1mL/min(スプリット比:50)
リグニンは熱分解させ、その揮発成分をGC/MSに導入し、分析を行った。
・熱分解装置:フロンティア・ラボ株式会社製、ダブルショット・パイロライザー、型番:PY−2020iD
・熱分解温度:500℃

<ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)>
・東ソー株式会社製、型番:HLC−8220
・カラム:TSKgel SuperHZ2000+TSKgel SuperHZ4000
・カラムオーブン:40℃
・溶媒:クロロホルム 0.35mL/min
・注入量:20μL(リグニンは5mg/2mLに調整)
・検出器:示差屈折率検出器
・標準物質:ポリスチレン PStQuick F

<繊維長分布測定装置>
・メッツォオートメーション株式会社製、型番:kajaani FS−300
残渣を水に分散させ測定した。

<高速液体クロマトグラフ(HPLC)>
・日本分光株式会社製、型番:PU−1580
・カラム:RSpak KC−811(内径8mm、長さ300mm)
・カラムオーブン:60℃
・移動相:3mM HClO 1mL/min
・注入量:10μL
・検出器:UV−VIS(445nm)
測定はBTBポストカラム法で行った。
上述の実施例に関し、反応工程(ステップS02)における反応温度の影響を調べる目的で、以下に示すような試験1を行った。
<試験1>
以下に、試験1の概要を説明する。
タケ1g、クエン酸1水和物10g、イオン交換水20mLを100mLのトールビーカーに入れて、十分混合した後、オイルバスで水分をほぼ除去してから、電気炉を用いて下記表1に示すそれぞれの温度に加熱しながら3時間反応を行った。
この反応工程(ステップS02)で得られた反応物5を用いて、上述の[1]−[7]に示すプロセスに基づいて、残渣率(%)、アセトン抽出物(%),残渣(第2の残渣11)中のクラーソンリグニン量(%)、脱リグニン率(%)、反応後クエン酸1水和物(%)[=反応後のカルボン酸の残存率(%)と同義]をそれぞれ求めて、以下の表1に示した。
上表1に示されるように、反応温度を100℃に設定した場合の残渣率(%)は86.7%、脱リグニン率(%)は14.4%であった。このことから、100℃以下の温度ではリグニンの除去が好適にできないことが示された。
他方、反応温度が110℃を超えると、クエン酸(ポリカルボン酸3)と木質バイオマス原料2との反応が急激に進む傾向が認められ、反応温度が170℃の場合は脱リグニン率(%)がほぼ100%になった。
また、反応温度170℃の場合は、残渣(第2の残渣11)中にリグニンはほとんど存在しないが、残渣率(%)の値が増加していることから、セルロース中にポリカルボン酸3が誘導されて残渣(第2の残渣11)の重量が増加したと考えられる。
よって、上述のような試験1の結果を参照すると、ポリカルボン酸3と、木質バイオマス原料2中のセルロースやリグニンを好適に反応させるためには、ステップS02における反応温度を100℃以上に設定する必要があることが示唆された。
なお、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1では、薬剤又は薬液として使用するポリカルボン酸3の種類に応じて反応温度を100−200℃の範囲内で適宜設定する必要があるが、反応温度を高く設定するほど脱リグニン率(%)は高まると予測される。
また、特にポリカルボン酸3としてクエン酸を用いる場合は、反応温度を150−170℃の温度範囲内に設定することで、木質バイオマス原料2から効率良くリグニンを除去しつつ、木質バイオマス原料2を構成するセルロースにクエン酸を効率よく誘導できることが示された。
上述の実施例に関し、反応工程(ステップS02)における反応時間の影響を調べる目的で、以下に示すような試験2を行った。
<試験2>
以下に、試験2の概要を説明する。
タケ1g、クエン酸1水和物10g、イオン交換水20mLを100mLのトールビーカーに入れ、十分混合後、オイルバスで水分をほぼ除去した後、下記表2に示すそれぞれの温度に加熱した温度に加熱した電気炉で、下表2に示すそれぞれの時間反応させた。この後、それぞれのサンプルについて、先に述べた手法により残渣率(%)、アセトン抽出物(%)、残渣中クラーソンリグニン量(%)、脱リグニン率(%)のそれぞれを求めて、下表2にまとめた。なお、下表2に示す各反応時間における脱リグニン率(%)の値をグラフ上にプロットしたものが図4である。
図4は反応工程(ステップS02)における反応時間を変えた場合の脱リグニン率(%)の変化を示すグラフである。
反応温度を130℃にした場合は、反応時間が長くなるにつれて脱リグニン率(%)が上昇する傾向が認められた。
上表2,図4に示されるように、反応温度が高いほど短時間で脱リグニン化される傾向が認められた。
本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1では、反応工程(ステップS02)における反応温度を、100−200℃の範囲内で、かつ、それぞれのポリカルボン酸3に応じた最適な温度に設定する必要があると考えられるものの、仮に反応温度が最適な反応温度よりも低くても、反応時間を長く設定することで効率良くリグニンを除去できると考えられる。
特に、ポリカルボン酸3としてクエン酸を用いる場合は、反応温度を170℃に設定し、30分間反応させただけでも脱リグニン率(%)は87.2%であった。
上述の実施例に関し、反応工程(ステップS02)におけるポリカルボン酸3の添加量の違いが反応に与える影響を調べる目的で、以下に示すような試験3を行った。
<試験3>
以下に、試験3の概要を説明する。
タケ1gに対して、クエン酸1水和物を下表3に示すそれぞれの比となるような量を加え、さらに、イオン交換水20mLを加えたものを100mLトールビーカーに入れて十分混合後、オイルバスで水分をほぼ除去した後、170℃に加熱した電気炉において1時間反応させた。この後、それぞれのサンプルについて、先に述べた手法により残渣率(%)、アセトン抽出物(%)、残渣中クラーソンリグニン量(%)、脱リグニン率(%)のそれぞれを求めて、下表3にまとめた。
なお、下表3に示す各クエン酸1水和物の添加割合における残存率(%)と、脱リグニン率(%)の値をグラフ上にプロットしたものが図5である。
図5は反応工程(ステップS02)において木質バイオマス原料に対するクエン酸1水和物の添加割合を変えた場合の残渣率(%)及び脱リグニン率(%)の変化を示すグラフである。
木質バイオマス原料2としてタケを用いる場合、上表3,図5に示されるように、クエン酸1水和物/タケ=1である場合の残渣率(%)は109%であり、木質バイオマス原料2の重量よりも10%程度増加した。他方、タケの重量に対するクエン酸の添加量が増加するにつれ、残渣率(%)は減少する傾向が認められた。これに対し、タケの重量に対するクエン酸の添加量が増加するにつれ、アセトン抽出物(%)の値が増加する傾向が認められた。
よって、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1では、木質バイオマス原料2の重量に対してポリカルボン酸3の添加量が不十分である場合は、木質バイオマス原料2中のリグニンを好適に可溶化できないことが示唆された。
また、特に本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1において、木質バイオマス原料2としてタケを用い、ポリカルボン酸又はポリカルボン酸水溶液3としてクエン酸を用いる場合は、木質バイオマス原料2の総重量の2倍以上の量のクエン酸を、より好ましくは3倍以上の量のクエン酸を添加することが望ましい。
上述の実施例に関し、反応工程(ステップS02)において薬剤として従来技術(特許文献4)に係るヒドロキシ酸、および、クエン酸以外のポリカルボン酸3を用いる場合の影響を調べる目的で以下に示すような試験4を行った。
なお、本試験では薬剤として、従来技術に係るヒドロキシ酸である、グリコール酸、乳酸を、また、本発明に係るクエン酸以外のポリカルボン酸3としてリンゴ酸を用いた。なお、グリコール酸を200℃に近い温度で加熱すると縮合反応が起きて、ステップS02の反応工程後に、第1の残渣8や第2の残渣11を抽出できなくなる恐れがあるため、比較的低い温度(120℃)で長時間(3時間)反応を行うことにした。
<試験4>
以下に、試験4の概要を説明する。
タケ1gに対して、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸をそれぞれ10gずつ添加し、さらに、イオン交換水20mLを添加したものを100mLトールビーカーに入れて、十分混合後、オイルバスで水分をほぼ除去した後、120℃に加熱した電気炉で3時間反応させた。この後、それぞれのサンプルについて、先に述べた手法により残渣率(%)、及び、反応後のカルボン酸(薬剤)の残存率(%)を求めて下記表4にまとめた。
上表4に示すように、従来技術に係るヒドロキシ酸を用いた場合はいずれも、クエン酸を用いた場合に比べて、残存率(%)の値が大きくなる反面、反応後のカルボン酸(薬剤)の残存率(%)が低くなる傾向が認められた。
先の図17(a)の熱分析結果に示されるように、グリコール酸は100℃より低い温度条件下にDTAのピーク値を有しており、このピークはグリコール酸が融解していることを示している。また、グリコール酸は、その温度が100℃を超えると重量が減少する。これはグリコール酸が脱水反応して、グリコール酸無水物になることによると考えられる。また、これ以外にもグリコール酸は100℃を超えると揮発するので、揮発によってもグリコール酸の重量が減少したと考えられる。さらに、グリコール酸を加熱し続けると、グリコール酸は縮合反応して樹脂化する。よって、本発明の実施例においてポリカルボン酸3に代えてグリコール酸を用いる場合は、反応工程(ステップS02)においてグリコール酸自体が変性してしまい残渣率(%)や、反応後のカルボン酸(薬剤)の残存率(%)が低くなると考えられる。つまり、本発明の実施例においてポリカルボン酸3に代えて、グリコール酸を用いる場合は、薬剤が木質バイオマス原料2を構成するセルロース中に好適に誘導されなかったり、好適にリグニンと反応しないことにより、リグニンの可溶化が十分に進行せず、残渣率(%)の値が大きくなると考えられる。
また、乳酸も100℃を超えると揮発する。このため、本発明の実施例においてポリカルボン酸3に代えて乳酸を用いる場合も、グリコール酸を用いる場合と同様に、120℃の温度条件下においても好適に木質バイオマス原料2を構成するセルロースに乳酸を誘導することができない上に、木質バイオマス原料2中のリグニンを好適に可溶化することもできないと考えられる。つまり、本発明の実施例において薬剤として乳酸を用いる場合も、目的とする効果が発揮されない。
さらに、グリコール酸や乳酸は、そもそもカルボキシル基を1つしか有していないので、このカルボキシル基が木質バイオマス原料2を構成するセルロースとの結合に用いられると、薬剤としてポリカルボン酸3を用いる場合のように、木質バイオマス原料2のセルロースに脱水縮合したカルボン酸が余剰なカルボキシル基を有しているという状態が実現されない。この場合、先の図1に示すステップS07において有機塩17を形成することができず、1価の金属イオン16同士の静電反発力を利用して木質バイオマス原料2を構成するセルロース分子を解繊させることもできない。
よって、本発明では反応工程を行う際の薬剤として複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸3を使用する必要がある。
他方、クエン酸以外のポリカルボン酸3としてリンゴ酸を用いる場合は、残存率(%)はクエン酸を用いる場合のそれと比較しても遜色ない。これに対して、リンゴ酸を用いる場合は、反応工程(ステップS02)時にリンゴ酸同士が脱水反応を起こしてフマル酸などが生成されるために、反応後のカルボン酸(薬剤)の残存率(%)の値が、クエン酸を用いた場合よりも小さくなってしまう。しかしながら、このことは、反応工程(ステップS02)後に未反応物として回収されるリンゴ酸の量が減少して、効率的に再利用できなくなることを意味しているにすぎず、木質バイオマス原料2に含有されるリグニンの可溶化促進効果や、木質バイオマス原料2を構成するセルロース分子の解繊促進効果には何ら悪影響を及ぼさない。
よって、本発明の実施例においてクエン酸以外のポリカルボン酸3を用いても、目的とする効果を十分発揮させることができる。ただし、実施例においてクエン酸以外のポリカルボン酸3を用いる場合は、使用するポリカルボン酸3によって、あるいはの反応温度や反応時間によって、未反応物を効率よく回収して再利用できない場合がある。
上述のような点を考慮すると、本発明の実施例においてクエン酸を用いる場合は未反応物の大部分を効率よく回収できるので、薬剤としては最適である。
上述の実施例に関し、木質バイオマス原料2としてタケ以外のものを用いる場合の影響を調べる目的で以下に示すような試験5を行った。
<試験5>
以下に、試験5の概要を説明する。
上述の実施例に係る各工程を、タケに代えてスギ(学名:Cryptomeria japonica)、および、ヒノキ(学名:Chamaecyparis obtusa)をカッティングミル(株式会社ホーライ遠藤工業製、型番:ZI-420、スクリーン20mm)にて破砕し、2時間水で煮込んだ後、手動ハンマーで粗く打解したものを用いた。この後、それぞれのサンプルについて、先に述べた手法により残渣率(%)、アセトン抽出物(%)、残渣中クラーソンリグニン量(%)、脱リグニン率(%)のそれぞれを求めて下表5にまとめた。
上表5に示されるように、木質バイオマス原料2としてタケ以外のスギやヒノキを用いた場合でも、反応工程(ステップS02)における反応温度が200℃に近づいて上昇するにつれて脱リグニン化が進行することが示された。
よって、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1では、木質バイオマス原料2としてタケ以外のものも使用可能であり、その際の反応工程(ステップS02)における反応温度は100−200℃の範囲とすることが望ましいと言える。
さらに、実施例に関し、木質バイオマス原料2としてタケ,ヒノキを用いた場合に得られた残渣(第2の残渣11)の繊維長を調べてその分布をグラフとして図6,7に示した。
なお、タケ,ヒノキから得られたそれぞれの残渣(第2の残渣11)の繊維長は繊維長分布測定装置により調べた。
図6は木質バイオマス原料であるタケに対して、その10倍の重量のクエン酸1水和物を薬剤として添加して、実施例に係るプロセスにおいて170℃の温度条件下において2時間反応させて得られる残渣の繊維長の分布を示すグラフである。
また、図7は木質バイオマス原料であるヒノキに対して、その10倍の重量のクエン酸1水和物を薬剤として添加して、実施例に係るプロセスにおいて170℃の温度条件下において2時間反応させて得られる残渣の繊維長の分布を示すグラフである。
図6,7に示すように、木質バイオマス原料2としてヒノキを用いた場合の方が、木質バイオマス原料2としてタケを用いる場合に比べてより繊維長の長い残渣(第2の残渣11)を得ることができた。
上述の実施例に関し、木質バイオマス原料2としてタケを用い、この木質バイオマス原料2を用いて上述の実施例に示すプロセスを経て得た第2の残渣11を用いて、下記手順に従ってセルロースナノファイバーを作製した。
より具体的には、木質バイオマス原料2であるタケに対して、その10倍の重量のクエン酸1水和物を薬剤(ポリカルボン酸又はポリカルボン酸水溶液3)として添加して、130℃の温度条件下で3時間反応工程(ステップS02)を行った後、実施例の手順に従って残渣(第2の残渣11;ステージI)を得た。そして、この残渣(第2の残渣11)を先に述べた手順([3]脱リグニン化の手順について、を参照)にて脱リグニン化して(ステップS06;脱リグニン工程に相当)ポリカルボン酸が誘導されたセルロース15(ステージII)を得た。
この後、得られたポリカルボン酸が誘導されたセルロース15を0.1N(規定)NaOH水溶液中に10分間含浸させ(ステップS07;有機塩生成工程に相当)てから、ろ過した後に、大量のイオン交換水で洗浄して有機塩17(ステージIII)を得た。
この後、この有機塩17に水を加えて用いて2(重量)%分散液を作製し、ブレンダー[バイタミックス社(Vita−Mix Corporation)製 商品名:バイタミックス(Vitamix)型番:TNC5200、最高回転数:37,000rpm]で10分間撹拌処理して(ステージS08;解繊工程に相当)、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバー18の分散液を得た。
図8は上記ステージI−IIIのそれぞれにおいて得られた残渣のフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)のスペクトルを示すグラフである。
なお、図8では、ステージI−IIIのそれぞれのFT−IRのスペクトルを鉛直方向に併記しているため、ステージIII以外のスペクトル(ステージI,IIのスペクトル)は、図8として示すグラフのY軸のメモリに対応していない。
図8に示すように、ステージIのスペクトルでは、1730cm−1にC=O由来のピークが現れた(図8中の実線による矢印を参照)。これは、木質バイオマス原料2を構成するセルロースに、ポリカルボン酸3(薬剤)であるクエン酸が誘導されたことによると考えられる。
また、ステージIIのスペクトルでは、1575cm−1に新たなピークが現れた(図8中の破線による矢印を参照)。この新たなピークは、脱リグニン工程(ステップS06)において残存するリグニンを分解するために亜塩素酸ナトリウムを用いたために、ポリカルボン酸が誘導されたセルロース15のカルボキシル基の水素イオンの一部がナトリウムイオンに置換されたことによると考えられる。
さらに、ステージIIIのスペクトルでは1575cm−1におけるピークが一層顕著になっている。これは、脱リグニン化後のポリカルボン酸が誘導されたセルロース15のカルボキシル基の水素イオンの多くが、ナトリウムイオンに置換されたことによると考えられる。
よって、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1によれば、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバー18を得ることができる。
なお、ステージIIIで得られた分散液を遠心分離すると、より解繊された、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバー18含有する分散液を抽出することができる。また、この分散液を酸で洗浄してナトリウム塩(1価の金属イオン16)を除去するとゲル化する。
図9(a),(b)はいずれも実施例に係る工程により生産されたポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバーから水分をエタノール、t-ブチルアルコールに置換し、凍結乾燥させたものの走査型電子顕微鏡画像である。 なお、図9(a)に示す画像は、木質バイオマス原料2であるタケに対して、その10倍の重量のクエン酸1水和物を薬剤(ポリカルボン酸又はポリカルボン酸水溶液3)として添加して、130℃の温度条件下で3時間反応工程(ステップS02)を行って得た第1の残渣8から分離されたポリカルボン酸が誘導されたセルロース15である。
また、図9(b)に示す画像は、木質バイオマス原料2であるタケに対して、その5倍の重量のクエン酸1水和物を薬剤(ポリカルボン酸又はポリカルボン酸水溶液3)として添加して、170℃の温度条件下で60分間反応工程(ステップS02)を行って得た第1の残渣8から分離されたポリカルボン酸が誘導されたセルロース15である。
図9(a),(b)に示すように、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法によれば、ミクロフィブリル化された、ポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバー18を効率よく生産することができる。
上述の実施例に関し、アセトン抽出物の構成成分を明らかにする目的で、アセトン抽出物の熱分解ガスクロマトグラフ(Py−GC/MS)を行った。
なお、木質バイオマス原料2としてタケを、ポリカルボン酸又はポリカルボン酸水溶液3(薬剤)としてクエン酸をそれぞれ用いた。また、木質バイオマス原料2であるタケの重量の10倍の量の薬剤(クエン酸1水和物)を添加した。さらに、この反応工程は170℃の温度条件下において2時間反応を行った。
図10は実施例に係るアセトン抽出物の熱分解ガスクロマトグラフ(Py−GC/MS)による分析結果を示す図である。
図10に示すように、実施例に係るアセトン抽出物から、クエン酸の熱分解物であるシトラコン酸無水物が検出された。また、リグニンの熱分解物であるフェノール,2,3−ジヒドロベンゾフラン,シリンゴールが検出された。
よって、実施例に係るアセトン抽出物にはタケのリグニンとクエン酸(ポリカルボン酸3)が含有させていることが明らかになった。
さらに、実施例に係るアセトン抽出物中のリグニンの変性の程度を確認する目的でGPC測定を行った。
なお、上述のアセトン抽出物を得るための実施例に係る工程において、木質バイオマス原料2としてタケを、ポリカルボン酸又はポリカルボン酸水溶液3(薬剤)としてクエン酸をそれぞれ用いた。また、木質バイオマス原料2であるタケの重量の10倍の量の薬剤(クエン酸1水和物)を添加した。また、このような試料サンプルをそれぞれ130℃,150℃,170℃の温度条件下において3時間加熱処理(反応工程:ステップS02)を行った。また、上記試料サンプルと同様の試料サンプルを別に準備し、170℃の温度条件下においてそれぞれ60分,120分,180分間加熱処理を行った。
また、比較対象として先に述べた手順([6]摩砕リグニンの抽出手順について、を参照)にて抽出した摩砕リグニン(milled wood lignin:MWL)のGPC測定も併せて行った。
図11(a)は実施例の反応工程(ステップS02)における反応温度をそれぞれ130℃,150℃,170℃に設定した場合のアセトン抽出物、並びに、摩砕リグニン(MWL)のGPC測定結果としての微分分子量分布曲線を示す図である。また、(b)は実施例の反応工程(ステップS02)における反応温度を170℃とし、反応時間をそれぞれ60分,120分,180分に設定した場合のアセトン抽出物のGPC測定結果としての微分分子量分布曲線を示す図である。
なお、図11(a)では、それぞれの反応温度における微分分子量分布曲線と、摩砕リグニン(MWL)の微分分子量分布曲線とを鉛直方向に併記した。また、図11(b)でも、それぞれの反応時間における微分分子量分布曲線を鉛直方向に併記した。
図11(a),(b)では山形の曲線の裾部分の広がりの幅が大きいほど、様々な分子量を有する物質が含有されていることを意味している。すなわち、図11(a),(b)に示す山形の曲線の裾部分の広がりの幅が大きいほど、リグニンの変性が進んでいると推測できる。
図11(a)から、反応工程(ステップS02)の反応温度を変えた場合は、反応温度が低いほどリグニンの変性又は低分子化が進行し易いことが示された。
また、図11(b)から、60分から180分の間では、反応時間の長短でリグニンの変性にさほど大きな影響がないことが示された。
よって、本実施の形態に係るセルロースナノファイバーの生産方法1において、より変性していないリグニンを得るためには、それぞれのポリカルボン酸3における好適な反応温度領域において、より高い温度で反応工程を行うことが望ましいと考えられる。
本発明は木質バイオマスからより変性していない状態のリグニンを抽出しながら効率よくセルロースナノファイバーを生産する方法及びこの方法を用いて生産されたセルロースナノファイバーであり、食品加工、応用化学、高分子、繊維などに関する技術分野において利用可能である。より具体的には、セルロースナノファイバーは、食品加工、応用化学、高分子、繊維などの分野において利用可能である。
1…セルロースナノファイバーの生産方法 2…木質バイオマス原料 3…ポリカルボン酸又はポリカルボン酸水溶液 4…混合物 5…反応物 6…熱水 7…第1の廃液 8…第1の残渣 9…溶媒 10…第2の廃液 11…第2の残渣 12…リグニン 13…水 14…酸化剤 15…ポリカルボン酸が誘導されたセルロース 16…1価の金属イオン 17…有機塩 18…ポリカルボン酸が誘導されたセルロースナノファイバー

Claims (8)

  1. 木質バイオマスに由来し、セルロースの水酸基にポリカルボン酸が誘導されてなるミクロフィブリル状のセルロースナノファイバーの生産方法であって、
    前記木質バイオマスを破砕してなる木質バイオマス原料と、前記ポリカルボン酸の無水物又は水和物あるいはこれらのうちの少なくとも一方を含有する水溶液と、を混合して混合物を生成する混合工程と、
    この混合工程の後で、前記混合物を常圧下で、かつ、100−200℃の範囲内の所望の温度条件下において加熱処理して、前記木質バイオマス原料を構成する前記セルロースに前記ポリカルボン酸を誘導しつつ、前記木質バイオマス原料中のリグニンを可溶化させてなる反応物を生成させる反応工程と、
    この反応工程の後で、前記反応物を水により洗浄して、その際に生じる第1の廃液から第1の不溶物を分離する第1の洗浄工程と、
    この第1の洗浄工程の後で、前記第1の不溶物を溶剤により洗浄して、その際に生じる第2の廃液から第2の不溶物を分離する第2の洗浄工程と、
    この第2の洗浄工程の後で、前記第2の不溶物に水及び酸化剤を加えて加熱処理して、前記第2の不溶物中に残存する前記リグニンを分解・除去してポリカルボン酸が誘導されたセルロースを得る脱リグニン工程と、
    この脱リグニン工程の後で、前記ポリカルボン酸が誘導されたセルロースにおけるカルボキシル基の水素イオンを1価の金属イオンに置換して有機塩を生成させる有機塩生成工程と、
    この有機塩生成工程の後で、前記有機塩を含有する水溶液を撹拌混合して、前記1価の金属イオン同士を静電反発させて、前記有機塩を構成する前記ポリカルボン酸が誘導されたセルロースをほぐして、ミクロフィブリル状のセルロースナノファイバーを得る解繊工程とを有していることを特徴とするセルロースナノファイバーの生産方法。
  2. 前記第2の廃液から前記溶剤を分離して前記リグニンを単離するリグニン単離工程と、を有することを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバーの生産方法。
  3. 前記ポリカルボン酸は、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸から選択される1種類、又は、これらから選択される同族又は異族の少なくとも2種類のポリカルボン酸の組み合わせであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセルロースナノファイバーの生産方法。
  4. 前記ポリカルボン酸は、クエン酸であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセルロースナノファイバーの生産方法。
  5. 前記反応工程における反応温度は150−170℃の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載のセルロースナノファイバーの生産方法。
  6. 木質バイオマスに由来し、
    セルロースの水酸基にポリカルボン酸が誘導されてなり、
    ミクロフィブリル状であることを特徴とするセルロースナノファイバー。
  7. 前記ポリカルボン酸は、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸から選択される1種類、又は、これらから選択される同族又は異族の少なくとも2種類のポリカルボン酸の組み合わせであることを特徴とする請求項6記載のセルロースナノファイバー。
  8. 前記ポリカルボン酸は、クエン酸であることを特徴とする請求項6記載のセルロースナノファイバー。
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