以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の気流制御装置10の斜視図である。図2は、第1の実施の形態の気流制御装置10における、図1のA−A断面を示す図である。なお、以下の実施の形態において、同一の構成部分には同一の符号を付して、重複する説明は、省略または簡略する。
第1の実施の形態の気流制御装置10は、表面を流れる気流を流れ方向に断続的に渦流として放出する渦流放出構成部20を備えている。この渦流放出構成部20は、図1および図2に示すように、気流が表面32を流れ、気流の流れ方向に延設された上流側構造部30と、表面33が上流側構造部30の表面32からステップ状に窪んで気流の流れ方向に延設される下流側構造部31との境界に形成される段差部21で構成されている。また、気流制御装置10は、渦流放出構成部20の下流側に、一対の電極である、第1の電極40と第2の電極41とを備えている。
上流側構造部30は、気流の流れ方向に行くに伴い気流側に突出する表面32(傾斜面)を備えている。この傾斜面である表面32に沿って下流側(下流側構造部31側)に気流が流れる。
下流側構造部31は、表面33が上流側構造部30の表面32からステップ状に窪んで気流の流れ方向に延設するように構成されている。すなわち、下流側構造部31の表面33は、段差部21の端部から気流の流れ方向に延設されている。
このように段差部21は、上流側構造部30と下流側構造部31との境界に形成される。段差部21と上流側構造部30との境、すなわち、上流側構造部30と段差部21との交わる交縁部22は、角部で構成されている。
ここでは、段差部21の表面と下流側構造部31の表面33とのなす角θがほぼ90度となるように段差部21が構成されている一例を示しているが、この構成に限られるものではない。段差部21の表面と下流側構造部31の表面33とのなす角θが、例えば、30〜90度の範囲となるように、段差部21を構成してもよい。
渦流放出構成部20において、上流側構造部30の表面を流れてきた気流が交縁部22を通過すると、交縁部22と平行な方向に軸を持った渦(横渦)が、流れ方向に断続的に渦流として放出される。この渦流を放出する放出周波数は、卓越周波数fsを中心とするピークを有する分布となる。この卓越周波数fsは、次に示す式(1)により、渦流放出構成部20の段差部21の高さH、気流制御装置10の表面を流れる気流の主流速度Uの関数で示すことができる。
fs=A×U/H …式(1)
ここで、Aは定数である。渦流放出構成部20の段差部21の高さHは、交縁部22から表面33またはこれと同一平面上に引いた垂線の長さである。
段差部21の高さHは、気流制御装置10が適用される流体現象の代表長(翼の前縁剥離の場合は翼弦長)の0.1%以下、好ましくは0.01%以下程度に設定されることが好ましい。または、段差部21の高さHは、レイノルズ数が1×104〜1×107の範囲内で実際の寸法が5μm以上500μm以下、または10×U/ν以下(Uは主流速、νは動粘度)に設定されることが好ましい。
これらの範囲が好ましいのは、気流制御装置10の機能が必要でない場合に、その構造が流体抵抗の原因にならない程度の段差にする必要があり、摩擦抵抗を支配する乱流境界層の粘性低層の厚さ以下にする必要があるからである。
第1の電極40および第2の電極41は、下流側構造部31に配置されている。第1の電極40は、一方の表面40aが下流側構造部31の表面33と同一面となるように下流側構造部31に設置されている。なお、第1の電極40は、一方の表面40aを露出しないように、下流側構造部31内に埋設されてもよい。
第2の電極41は、第1の電極40から気流の流れ方向にずらして離間され、下流側構造部31内に埋設されている。第2の電極41は、第1の電極40よりも下流側構造部31の表面33から深く埋設されている。
第1の電極40および第2の電極41は、図1に示すように、ケーブル50を介して第1の電極40と第2の電極41との間に電圧を印加する放電用電源51と接続されている。
放電用電源51は、第1の電極40と第2の電極41との間に交番電圧を印加することができる。また、放電用電源51は、第1の電極40と第2の電極41との間に、交番電圧の周期と異なる周期で、間歇的に電圧を増減または入切して印加するパルス変調機能を備えてもよい。
放電用電源51によって印加される交番電圧の周波数、またはパルス変調周波数は、渦流放出構成部20から断続的に放出される渦流の卓越周波数fsに近い周波数とすることが好ましい。具体的には、これらの周波数は、卓越周波数fsの±10%に制御されることが好ましい。この範囲が好ましいのは、後述するように、この範囲内であれば放電のエネルギで効率的に渦流の放出現象を共鳴させ、渦流を強化することができるからである。
ここでは、第1の電極40および第2の電極41が下流側構造部31に直接備えられた構成を示している。そのため、下流側構造部31は、誘電材料で構成される。誘電材料は、特に限定されるものではなく、公知な固体の誘電材料で構成される。例えば、電気的絶縁材料である、アルミナやガラス、マイカなどの無機絶縁物、ポリイミド、ガラスエポキシ、ゴムなどの有機絶縁物などが挙げられ、用途に応じて最適な誘電材料を選択して使用する。
ここでは、上流側構造部30と下流側構造部31とを一体的に形成した一例を示しているため、上流側構造部30も下流側構造部31と同じ材料で構成されている。なお、上流側構造部30と下流側構造部31は、それぞれ別個に形成されてもよい。この場合、上流側構造部30は、誘電材料で構成される必要はなく、下流側構造部31と異なる材料で構成することができる。別個に形成された上流側構造部30と下流側構造部31は、例えば、双方の接合部に接合構造を備えることで接合されたり、接着材料などにより接合される。
なお、第1の電極40および第2の電極41は、下流側構造部31に直接備えられる構成に限られるものではない。図3は、第1の実施の形態の気流制御装置10の他の構成を示す図であり、図1のA−A断面に相当する断面を示す図である。
図3に示すように、一対の電極は、誘電材料で構成される誘電構造体61に第1の電極40および第2の電極41を備えた、取り外し可能な電極ユニット60として構成されてもよい。この場合には、下流側構造部31を誘電材料で構成する必要はなく、用途に応じた任意の材料で構成することができる。
次に、第1の実施の形態の気流制御装置10の動作について説明する。
ここでは、翼70の前縁部に気流制御装置10を備えたときの気流が流れる状態について説明するが、比較のため、まず、気流制御装置10を備えないときの翼70における気流の流れについて説明する。
図4は、第1の実施の形態の気流制御装置10を備えないときの翼70における気流の流れを模式的に示した図である。なお、図4には、翼70の前縁部の表面における流れを拡大して示している。
図4に示すように、翼70の前縁付近のよどみ点70a付近において、境界層が不安定により、微細な横渦が発生する。これらは下流に流下するにつれ、合体、成長し、剥離点Sにおいて大規模な剥離泡として放出される。このときの大規模な剥離渦の放出周波数は、主に、翼型および主流速度に依存するが、剥離渦の種ともいえる微細な横渦の放出周波数は、主流の乱れ状態や翼表面の状態によって依存され、正確に予測することが難しい。
気流制御装置10において発生させるプラズマをパルス変調で制御する場合は、パルス変調周波数をこの微細な横渦に同調させることが必要であるが、その周波数の予測が難しい。そのため、表面圧力センサなどのセンサによって周波数を検出する必要が生じ、装置のコストを増加させる。
次に、第1の実施の形態の気流制御装置10を翼70の前縁側の背側に備えたときの動作について説明する。
まず、翼70の迎角が小さいときの流れについて説明する。
図5は、第1の実施の形態の気流制御装置10を翼70の前縁側の背側に備えたときの気流が流れる状態を模式的に示した図である。図6は、図5に示した状態における第1の実施の形態の気流制御装置10の表面の気流の流れを拡大して示した図である。
ここで、気流制御装置10は、例えば、図5に示すように、上流側構造部30の傾斜する表面32を構成する部分のみが、翼70の表面から突出した状態となるように、翼70に設置される。すなわち、翼70の表面を流れてきた気流が、段差などを通過することなくスムーズに上流側構造部30の表面32上を流れるように構成されている。
図5および図6に示すように、翼70の迎角が小さいときには、気流は、翼70の表面に沿って流れる。翼70の前縁から背側に流れる気流は、気流制御装置10上を通過して、後縁側に流れる。この際、大規模な剥離は生じない。
図5に示すように、気流が渦流放出構成部20の交縁部22を通過する際、小規模な剥離とその下流側での再付着が生じる。このように、渦流放出構成部20から剥離に伴うスケールの小さな、交縁部22に並行な軸を持った渦流(横渦)が流れ方向に断続的に放出される。この渦流の放出周波数は、卓越周波数fsを中心とするピークを有する分布となり、上記した式(1)に示したように、渦流放出構成部20の段差部21の高さHおよび気流制御装置10の表面を流れる気流の主流速度Uの関数で示される。翼厚や翼弦長に対して、段差部21の高さHを小さくすることで、渦流放出構成部20を通過する際に生じる剥離や再付着の翼の揚力特性に及ぼす影響は無視できる程度となる。
次に、翼70の迎角が大きいときの流れについて説明する。
図7は、第1の実施の形態の気流制御装置10を備え、気流制御装置10を作動さていないときの、翼70における気流の流れを模式的に示した図である。なお、図7には、翼70の前縁部の背側の表面における流れを拡大して示している。図8および図9は、第1の実施の形態の気流制御装置10を翼70の前縁側の背側に備え、気流制御装置10を作動さていないときの、気流制御装置10の表面の気流の流れを拡大して示した図である。
図10は、第1の実施の形態の気流制御装置10を備え、気流制御装置10を作動させたときの、翼70における気流の流れを模式的に示した図である。なお、図10には、翼70の前縁部の表面における流れを拡大して示している。
図7に示すように、翼70の迎角を大きくすると、気流が渦流放出構成部20の交縁部22を通過する際に横渦が発生し、この横渦が流れ方向に断続的に放出される。この横渦は、交縁部22の下流側において、図8に示した付着した状態と、図9に示した剥離した状態を交互に繰り返す、非定常な状態となっている。
そして、この横渦が、下流に流下するにつれ、合体、成長し、境界層厚さが厚くなり、剥離点Sにおいて大規模な剥離泡として放出され、流れが大規模に剥離する。剥離点Sの位置は、翼70の形状や主流速度などによって定まる。
この大規模な剥離を生じる場合に、気流制御装置10を作動させる。第1の電極40と第2の電極41との間に放電用電源51によって交番電圧を印加して、表面上にプラズマを生じさせる。プラズマ中のイオンが電界から受ける力が気体に伝達されることで、プラズマ誘起流が発生する。
なお、プラズマ誘起流は、気流の流れ方向に流れるように発生させることが好ましい。プラズマ誘起流が発生すると、プラズマ誘起流により気流の境界層の低速度部分が加速され、速度分布に有効な影を与える。
例えば、交番電圧を印加した場合、プラズマは交番電圧の周波数によって断続的に発生するため、プラズマ誘起流は交番電圧の周期に合わせて断続的に発生する。また、交番電圧を印加する際、電圧の印加を断続的に制御するパルス変調制御を行った場合、プラズマ誘起流は、このパルス変調制御の周波数に対応して断続的に発生する。
交縁部22の下流側における横渦の状態は、前述したように非定常な状態ではあるが、例えば、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調の周波数fc、つまり断続的に発生するプラズマ誘起流の周波数を、渦流放出構成部20から放出される渦流の卓越周波数fsに同調させると、交縁部22から放出されていた横渦が共鳴してエネルギが注入され、横渦が強化される。
そして、強化されて断続的に放出された横渦どうしの干渉で縦渦が生じ、その縦渦構造によって境界層内の高速部分と低速部分の運動量の交換が進み、境界層の低速部分が顕著に加速される。
そのため、図10に示すように、大規模な剥離が抑えられ、気流の流れは翼表面に沿って付着するように流れる。これにより翼の場合、揚力が向上するなどの効果が得られる。なお、大規模な剥離が完全に抑えられない場合でも、気流の流れが翼側に引き寄せられることで圧力分布が改善され、揚力が向上するなどの効果が得られる。
ここで、上記した交番電圧を印加する周波数またはパルス変調の周波数fcは、前述した式(1)の関係式から算出された、渦流の放出周波数における卓越周波数fsに基づいて設定される。なお、周波数fcは、卓越周波数fsと完全に等しくなくとも、卓越周波数fsに対して±10%の範囲の値であれば気流制御の十分な効果が得られる。渦流の卓越周波数fsと、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調の周波数fcとが等しくない場合には、卓越周波数fsが周波数fcに収斂する。
渦流の放出周波数における卓越周波数fsは、前述した式(1)の関係式から、渦流放出構成部20の段差部21の高さH、気流制御装置10の表面を流れる気流の主流速度Uに基づいて算出することができる。そのため、例えば、段差部21の高さH、気流の主流速度Uの様々な組み合わせに基づく卓越周波数fsをデータベース化しておくことで、運用時には主流速度のみを定めることで卓越周波数fsを決めることができる。そのため、交番電圧の周波数制御を容易に行うことができる。
上記したように、第1の実施の形態の気流制御装置10によれば、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調の周波数fcを制御することで、流体変動センサなどを備えることなく、変動する気流を容易かつ的確に制御することができる。また、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調の周波数fcは、渦流の放出周波数における卓越周波数fsに基づいて設定することができる。また、この卓越周波数fsは、渦流放出構成部20の幾何学的形状などで定めることができるため、気流の乱れ度や気流が流れる物体表面の状態などを考慮することなく、卓越周波数fsを容易に設定することができる。
ここで、第1の実施の形態の気流制御装置10の構成は、上記した構成に限られるものではない。図11は、第1の実施の形態の気流制御装置10の他の構成の断面を示す図であり、翼70に備えたときの状態を模式的に示している。
図11に示すように、上流側構造部30の表面32を気流の流れに平行に沿う平面としてもよい。この場合には、翼70の表面を流れてきた気流が、翼70の表面から突出する部分を有さないように、気流制御装置10全体が翼70に埋設されている。これによって、気流が、段差などを通過することなくスムーズに上流側構造部30の表面32上を流れる。
翼70の表面に繋がる下流側構造部31の端部側の表面は、下流側構造部31の表面上を通過した気流が、段差などを通過することなくスムーズに翼70の表面上を流れるように構成されている。
なお、上流側構造部30の表面32は、気流の流れに平行に沿う平面以外にも、例えば、気流の流れ方向に下方に傾斜する傾斜面で構成されてもよい。
このように上流側構造部30を構成した場合においても、上記した、上流側構造部30の表面32が、気流の流れ方向に行くに伴い気流側に突出する傾斜面で構成された場合と同様の作用効果を得ることができる。なお、いずれの場合においても、渦流放出構成部20の段差部21の高さHは、前述した範囲に設定される。
また、ここでは、下流側構造部31のみに、プラズマ誘起流を発生させるための第1の電極40および第2の電極41を備えた一例を示したが、この構成に限れるものではない。図12は、第1の実施の形態の気流制御装置10のさらに他の構成の断面を示す図であり、図1のA−A断面に相当する断面を示す図である。
図12に示すように、例えば、交縁部22の直上流側の上流側構造部30に、さらに第1の電極40および第2の電極41を備えてもよい。これによって、交縁部22の直上流側の上流側構造部30の表面32に、プラズマ誘起流を発生させることができる。なお、第1の電極40を交縁部22の直上流側の上流側構造部30の表面に設け、第2の電極41を交縁部22の直下流側の段差部21の表面に近い位置に埋設してもよい。
交縁部22の近傍に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に交番電圧を印加する電源は、放電用電源51と別個に設けてもよいし、放電用電源51を併用してもよく、第1の電極40と第2の電極41との間に、交番電圧の周期と異なる周期で、間歇的に電圧を増減または入切して印加するパルス変調機能を備えてもよい。
このように、交縁部22の近傍にもプラズマ誘起流を発生させることで、渦流放出構成部20における渦流を放出する卓越周波数fsの調整機能を高めることができる。
卓越周波数fsは、前述したとおり、基本的には、主流速度Uおよび段差部21の高さHの関数となるが、翼表面の汚損や雨滴などの影響を受けてずれる場合がある。交縁部22の近傍に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加する交番電圧の周波数をfcuとすると、周波数fcuが卓越周波数fsにほぼ等しい場合、渦流の卓越周波数fsはfcuの影響を受けてfcuに収斂する。そのため、汚損や雨滴の影響を受けずに、周波数fcuで渦を放出することができる。
この渦放出に対して、これより下流にある下流側構造部31に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加される交番電圧の周波数fcdを同調させることで、上記したような剥離抑制効果が得られる。すなわち、周波数fcdは、周波数fcuと同じ、または、周波数fcuの±10%の範囲にすることが好ましい。
また、この効果は、断続的に発生するプラズマ誘起流の周波数を制御した結果得られるものである。そのため、パルス変調制御によってプラズマ誘起流を断続的に発生させる場合には、パルス変調周波数も同様に、交縁部22の近傍に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加されるパルス変調周波数を、下流側構造部31に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加されるパルス変調周波数に近い周波数とすることが好ましい。具体的には、交縁部22の近傍に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加されるパルス変調周波数を、下流側構造部31に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加されるパルス変調周波数の±10%の範囲に制御することが好ましい。
図13は、図12に示した第1の実施の形態の気流制御装置10における、交縁部22の近傍に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加される交番電圧の印加タイミングと、下流側構造部31に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加される交番電圧の印加タイミングを示す図である。
図13に示すように、交縁部22の近傍に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加される交番電圧の印加タイミングと、下流側構造部31に設けられた第1の電極40と第2の電極41との間に印加される交番電圧の印加タイミングとに、位相差を設けることが好ましい。
このように、交番電圧の印加タイミングをずらすことで、同時に印加する場合に比べて電源回路の最大電流を小さく抑えることができ、電源の小型化や使用コストの低減を図ることができる。電圧の印加を断続的に制御するパルス変調制御においても印加のタイミングをずらすことで、同様の効果が得られる。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態の気流制御装置11は、渦流放出構成部20の交縁部22の形状が異なる以外は第1の実施の形態の気流制御装置10の構成と同じである。ここでは、この異なる渦流放出構成部20の交縁部22の構成について主に説明する。
図14は、第2の実施の形態の気流制御装置11における、図1のA−A断面に相当する断面を示す図である。
第2の実施の形態の気流制御装置11は、表面を流れる気流を流れ方向に断続的に渦流として放出する渦流放出構成部20を備えている。この渦流放出構成部20は、図14に示すように、気流が表面32を流れ、気流の流れ方向に延設された上流側構造部30と、表面33が上流側構造部30の表面32からステップ状に窪んで気流の流れ方向に延設される下流側構造部31との境界に形成される段差部21で構成されている。
このように段差部21は、上流側構造部30と下流側構造部31との境界に形成される。段差部21と上流側構造部30との境、すなわち、上流側構造部30と段差部21との交わる交縁部22は、凸状の曲面で構成されている。
ここで、段差部21は、図14に示すように、交縁部22を構成する曲面と、この曲面の端部から下流側構造部31の表面33に至る平面とで構成されている。なお、段差部21は、平面部を有さず、交縁部22を構成する曲面で構成されてもよい。
なお、渦流放出構成部20の段差部21の高さHは、図13に示すように、交縁部22の最も上方に突出する点から表面33またはこれと同一平面上に引いた垂線の長さである。
段差部21の高さHは、気流制御装置11が適用される流体現象の代表長(翼の前縁剥離の場合は翼弦長)の0.1%以下、好ましくは0.01%以下程度に設定されることが好ましい。または、段差部21の高さHは、レイノルズ数が1×104〜1×107の範囲内で実際の寸法が5μm以上500μm以下、または10×U/ν以下(Uは主流速、νは動粘度)に設定されることが好ましい。
これらの範囲が好ましいのは、気流制御装置11の機能が必要でない場合に、その構造が流体抵抗の原因にならない程度の段差にする必要があり、摩擦抵抗を支配する乱流境界層の粘性低層の厚さ以下にする必要があるからである。
渦流放出構成部20において、上流側構造部30の表面を流れてきた気流が交縁部22を通過すると、流れ方向に断続的に渦流として放出される。この渦流を放出する放出周波数は、卓越周波数fsを中心とするピークを有する分布となる。この卓越周波数fsは、後述する式(2)により、渦流放出構成部20における剥離点S1における境界層厚さをδs、気流制御装置11の表面を流れる気流の主流速度Uの関数で示すことができる。
第2の実施の形態の気流制御装置11の動作は、第1の実施の形態の気流制御装置10の動作と基本的に同様であるので、図7〜図10を参照して説明する。
図7に示すように、翼70の迎角を大きくすると、気流が渦流放出構成部20の交縁部22を通過する際に横渦が発生し、この横渦が流れ方向に断続的に放出される。この横渦は、交縁部22の下流側において、図8に示したような付着した状態と、図9に示したような剥離した状態を交互に繰り返す、非定常な状態となっている。
そして、この横渦が、下流に流下するにつれ、合体、成長し、境界層厚さが厚くなり、翼面上の剥離点Sにおいて大規模な剥離泡として放出され、流れが大規模に剥離する。剥離点Sの位置は、翼70の形状や主流速度などによって定まる。
この大規模な剥離を生じる場合に、気流制御装置11を作動させる。第1の電極40と第2の電極41との間に放電用電源51によって交番電圧を印加して、表面上にプラズマを生じさせる。プラズマ中のイオンが電界から受ける力が気体に伝達されることで、プラズマ誘起流が発生する。
なお、プラズマ誘起流は、気流の流れ方向に流れるように発生させることが好ましい。プラズマ誘起流が発生すると、プラズマ誘起流により気流の境界層の低速度部分が加速され、速度分布に有効な影響を与える。
例えば、交番電圧を印加する際、電圧の印加を断続的に制御するパルス変調制御を行った場合、プラズマ誘起流は、この制御に対応して断続的に発生する。交縁部22の下流側における横渦の状態は、前述したように非定常な状態ではあるが、例えば、交番電圧を印加する周波数fcを、渦流放出構成部20から放出される渦流の卓越周波数fsに同調させると、交縁部22から放出されていた横渦が共鳴してエネルギが注入され、横渦が強化される。
そして、強化されて断続的に放出された横渦どうしの干渉で縦渦が生じ、その縦渦構造によって境界層内の高速部分と低速部分の運動量の交換が進み、境界層の低速部分が顕著に加速される。
そのため、図10に示すように、大規模な剥離が抑えられ、気流の流れは翼表面に沿って付着するように流れる。これにより翼の場合、揚力が向上するなどの効果が得られる。なお、大規模な剥離が完全に抑えられない場合でも、気流の流れが翼側に引き寄せられることで圧力分布が改善され、揚力が向上するなどの効果が得られる。
図15は、第2の実施の形態の気流制御装置11における、図1のA−A断面に相当する断面において、交縁部22を拡大して示す図である。なお、図15では、流れに対して気流制御装置11が負の傾斜角(図15では、左下方に傾いて傾斜する角度)を有するように設置された場合を示している。
図15に示すように、気流制御装置11が負の傾斜角(図15では、左下方に傾いて傾斜する角度)を有するように設置された場合、流れが交縁部22の曲面部分を流下するとともに境界層が厚くなり、ある境界層厚さになった時点で剥離して微細な横渦が放出される(剥離点S1)。
このように、気流制御装置11が負の傾斜角(図15では、左下方に傾いて傾斜する角度)を有するように設置された場合、剥離点S1が渦流放出構成部20における下流部に位置する。そのため、渦流放出構成部20における下流部を曲面で構成された本実施の形態の気流制御装置11の適用が有効となる。
このときの境界層厚さをδsとすると、気流制御装置部分から微細な横渦の放出周波数は、卓越周波数fsを中心とするピークを有する分布となる。この卓越周波数fsは、次に示す式(2)により、境界層厚さをδs、気流制御装置10の表面を流れる気流の主流速度Uの関数で示すことができる。
fs=B×U/δs …式(2)
ここで、Bは定数である。
迎角がさらに負に大きくなり、気流制御装置11の負の傾斜角が大きくなった場合においても、剥離は境界層厚さがδsに達した時点で発生するが、剥離点S1の位置は、図15に示した位置とは異なる位置となる。しかし、剥離時の境界層厚さがδsとなるので、渦の放出周波数は、上記した式(2)で示される卓越周波数fsとなり、迎角が変化しても渦放出周波数は変化しない。
例えば、気流制御装置11において、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調制御の周波数fcを、渦流放出構成部20から放出される渦流の卓越周波数fsに同調させると、第1の実施の形態で説明したように、渦流の卓越周波数fsが交番電圧を印加する周波数またはパルス変調制御の周波数fcに収斂する。
気流制御装置11の周波数は、運用時の主流速度Uに対応させてデータ化された卓越周波数fsを用いればよく、迎角の変化に対しての対応が良好である。
上記したように、第2の実施の形態の気流制御装置11によれば、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調制御の周波数fcを制御することで、流体変動センサなどを備えることなく、変動する気流を容易かつ的確に制御することができる。また、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調制御の周波数fcは、渦流の放出周波数における卓越周波数fsに基づいて設定することができる。また、この卓越周波数fsは、渦流放出構成部20の幾何学的形状などで定めることができるため、気流の乱れ度や気流が流れる物体表面の状態などを考慮することなく、卓越周波数fsを容易に設定することができる。
(第3の実施の形態)
図16は、第3の実施の形態の気流制御装置12の斜視図である。図17は、第3の実施の形態の気流制御装置12における、図16のB−B断面を示す図である。
第3の実施の形態の気流制御装置12は、表面を流れる気流を流れ方向に断続的に渦流として放出する渦流放出構成部20を備えている。この渦流放出構成部20は、図16および図17に示すように、気流が流れる構造部100の表面から、気流の流れ方向と垂直な方向に半円状に突出する突出部110で構成されている。なお、突出部110の形状は、半楕円状に構成されてもよい。また、気流制御装置12は、渦流放出構成部20の下流側に、一対の電極である、第1の電極40と第2の電極41とを備えている。
構造部100は、例えば、直方体または立方体からなる構造体で構成されている。構造部100を構成する材料は、第1の電極40および第2の電極41が構造部100に直接備えられた場合には、前述した誘電材料で構成される。また、電極部は、前述した取り外し可能な電極ユニット60として構成されてもよい。この場合には、構造部100を誘電材料で構成する必要はなく、用途に応じた任意の材料で構成することができる。
なお、渦流放出構成部20は、気流が流れる構造部の表面から、気流の流れ方向と垂直な方向に、少なくとも上流側が曲面を有して突出する突出部で構成されていればよく、図17に示した構成に限られるものではない。図18は、第3の実施の形態の気流制御装置12の他の構成の、図16のB−B断面に相当する断面を示す図である。
図18に示すように、渦流放出構成部20は、気流が流れる構造部100の表面から、気流の流れ方向と垂直な方向に、上流側が曲面110aで、下流側が平面110bとなる突出部110で構成されてもよい。なお、流れが剥離して微細な横渦が放出される剥離点B1は、曲面110a上に存在する。すなわち、少なくとも、流れの剥離点B1よりも上流側は、曲面110aで構成される。
図19は、第3の実施の形態の気流制御装置12における、図16のB−B断面に相当する断面において、突出部110を拡大して示す図である。なお、図19では、流れに対して気流制御装置12が正の傾斜角(図19では、右下方に傾いて傾斜する角度)を有するように設置された場合を示している。また、突出部110としては、図18に示したものを例示して説明する。
図19に示すように、気流制御装置12が正の傾斜角(図19では、右下方に傾いて傾斜する角度)を有するように設置された場合、流れが突出部110の曲面110aを流下するとともに境界層が厚くなり、ある境界層厚さになった時点で剥離する(剥離点S1)。
このように、気流制御装置12が正の傾斜角(図19では、右下方に傾いて傾斜する角度)を有するように設置された場合、剥離点S1が突出部110における上流部に位置する。そのため、突出部110における上流部を曲面で構成された本実施の形態の気流制御装置12の適用が有効となる。
このときの境界層厚さをδsとすると、剥離時の渦の放出周波数は、卓越周波数fsを中心とするピークを有する分布となる。この卓越周波数fsは、次に示す式(3)により、境界層厚さをδs、気流制御装置10の表面を流れる気流の主流速度Uの関数で示すことができる。
fs=C×U/δs …式(3)
ここで、Cは定数である。
迎角がさらに正に大きくなり、気流制御装置12の正の傾斜角が大きくなった場合においても、剥離は境界層厚さがδsに達した時点で発生するが、剥離点S1の位置は、図19に示した位置とは異なる位置となる。しかし、剥離時の境界層厚さがδsとなるので、渦の放出周波数は、上記した式(3)で示される卓越周波数fsとなり、迎角が変化しても渦放出周波数は変化しない。
渦流放出構成部20の突出部110の高さHは、突出部110の最も上方に突出する点から表面33またはこれと同一平面上に引いた垂線の長さである。突出部110の高さHは、気流制御装置12が適用される流体現象の代表長(翼の前縁剥離の場合は翼弦長)の0.1%以下、好ましくは0.01%以下程度に設定されることが好ましい。または、突出部110の高さHは、レイノルズ数が1×104〜1×107の範囲内で実際の寸法が5μm以上500μm以下、または10×U/ν以下(Uは主流速、νは動粘度)に設定されることが好ましい。
これらの範囲が好ましいのは、気流制御装置12の機能が必要でない場合に、その構造が流体抵抗の原因にならない程度の突出部にする必要があり、摩擦抵抗を支配する乱流境界層の粘性低層の厚さ以下にする必要があるからである。
第1の電極40、第2の電極41、ケーブル50および放電用電源51については、第1の実施の形態の気流制御装置10のそれぞれの構成と同じである。
次に、第3の実施の形態の気流制御装置12の動作について説明する。
第3の実施の形態の気流制御装置12の動作は、第1の実施の形態の気流制御装置10の動作と基本的に同様であるので、図7〜図10を参照して説明する。
図7に示すように、翼70の迎角を大きくすると、気流が突出部110を通過する際に横渦が発生し、この横渦が流れ方向に断続的に放出される。この横渦は、突出部110の下流側において、図8に示したような付着した状態と、図9に示したような剥離した状態を交互に繰り返す、非定常な状態となっている。
そして、この横渦が、下流に流下するにつれ、合体、成長し、境界層厚さが厚くなり、翼面上の剥離点Sにおいて大規模な剥離泡として放出され、流れが大規模に剥離する。剥離点Sの位置は、翼70の形状や主流速度などによって定まる。
この大規模な剥離を生じたときに、気流制御装置12を作動させる。第1の電極40と第2の電極41との間に放電用電源51によって交番電圧を印加して、表面上にプラズマを生じさせる。プラズマ中のイオンが電界から受ける力が気体に伝達されることで、プラズマ誘起流が発生する。
なお、プラズマ誘起流は、気流の流れ方向に流れるように発生させることが好ましい。プラズマ誘起流が発生すると、プラズマ誘起流により気流の境界層の低速度部分が加速され、速度分布に有効な影を与える。
例えば、交番電圧を印加する際、電圧の印加を断続的に制御するパルス変調制御を行った場合、プラズマ誘起流は、この制御に対応して断続的に発生する。突出部110の下流側における横渦の状態は、前述したように非定常な状態ではあるが、例えば、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調制御の周波数fcを、渦流放出構成部20から放出される渦流の卓越周波数fsに同調させると、突出部110から放出されていた横渦が共鳴してエネルギが注入され、横渦が強化される。
そして、強化されて断続的に放出された横渦どうしの干渉で縦渦が生じ、その縦渦構造によって境界層内の高速部分と低速部分の運動量の交換が進み、境界層の低速度部分が顕著に加速される。
そのため、図10に示すように、大規模な剥離が抑えられ、気流の流れは翼表面に沿って付着するように流れる。これにより翼の場合、揚力が向上するなどの効果が得られる。なお、大規模な剥離が完全に抑えられない場合でも、気流の流れが翼側に引き寄せられることで圧力分布が改善され、揚力が向上するなどの効果が得られる。
ここで、上記した交番電圧を印加する周波数またはパルス変調制御の周波数fcは、前述した式(3)の関係式から算出された、渦流の放出周波数における卓越周波数fsに基づいて設定される。なお、周波数fcは、卓越周波数fsと完全に等しくなくとも、卓越周波数fsに対して±10%の範囲の値であれば気流制御の十分な効果が得られる。渦流の卓越周波数fsと、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調制御の周波数fcとが等しくない場合には、卓越周波数fsが周波数fcに収斂する。
気流制御装置12では、上記した形状の突出部110を備えることで、翼の迎角が変化しても、境界層の厚さがある一定値を超えたところで剥離するため、ほぼ一定の放出周波数で渦流を放出することができる。
上記したように、第3の実施の形態の気流制御装置12によれば、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調制御の周波数fcを制御することで、流体変動センサなどを備えることなく、変動する気流を容易かつ的確に制御することができる。また、交番電圧を印加する周波数またはパルス変調制御の周波数fcは、渦流の放出周波数における卓越周波数fsに基づいて設定することができる。また、この卓越周波数fsは、渦流放出構成部20の幾何学的形状などで定めることができるため、気流の乱れ度や気流が流れる物体表面の状態などを考慮することなく、卓越周波数fsを容易に設定することができる。
以上説明した実施形態によれば、流体変動センサなどを備えることなく、変動する気流を容易かつ的確に制御することが可能となる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。