JP2015092865A - ヒト化抗cd20キメラ抗原レセプター - Google Patents

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Abstract

【課題】リンパ腫に対する新規治療戦略を提供することを課題とする。【解決手段】抗CD20ヒト化モノクローナル抗体のscFv断片を含む細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナルドメインと、を含む、ヒト化抗CD20キメラ抗原レセプターが提供される。また、当該ヒト化抗CD20キメラ抗原レセプターを細胞表面上に発現する、遺伝子工学的に作製されたCD20特異的免疫細胞が提供される。【選択図】なし

Description

本発明はヒト化CD20キメラ抗原レセプター及びそれを発現する免疫細胞、その作製方法、その用途等に関する。
抗CD20ヒト化キメラモノクローナル抗体(CD20mAb:リツキシマブ、オファツムマブ等)が既に医薬品として多数の患者に投与され、その臨床効果が確認されている。しかしながら抗体薬の半減期は2〜3週間と短いため、繰り返し投与を必要とすること、また、繰り返し投与を行っていくことによってCD20低発現株の出現を惹起し、治療抵抗性を来す症例が報告されている。抗体薬の作用機序は補体依存性細胞傷害活性(CDC)と抗体依存性細胞依存性細胞傷害活性(ADCC)に大別され、リツキシマブではADCCの関与が大きいとされている。
キメラ抗原レセプター(Chimeric Antigen Receptor。以下、「CAR」とも呼ぶ)は、典型的には、抗体の単鎖可変領域を細胞外ドメインとし、それに膜貫通領域、CD3ζ及び共刺激シグナルを伝える分子の細胞内ドメインをつないだ構造を備える。抗体の特異性に従って抗原に結合することにより、T細胞にシグナルが伝達され標的細胞の傷害・サイトカイン放出・刺激後のT細胞***が起こる。遺伝子導入によってT細胞に特異性を与えることが可能であり、細胞の調製は内在性の腫瘍特異的T細胞レセプター(TCR)陽性T細胞を培養増幅する場合に比べて総じて容易である。また、CARを利用した治療法(CAR-T療法)は、抗体療法と比べて高い細胞傷害活性を示すこと、1回の輸注で抗原刺激によって自律的に増幅することから複数回の治療が必要ない点において優れている。TCR遺伝子の導入では、HLAとその上に提示されるペプチドの複合体を標的としているために、患者が特定のHLAを持つ場合にのみ治療可能であるが(HLA拘束性)、CARにはHLA拘束性がない点も有利である。即ち、腫瘍細胞に標的抗原が陽性であれば、標的抗原陽性の全ての患者を対象として治療が可能である。その一方で、抗原陽性であれば全ての細胞を標的とするため、標的細胞以外に抗原が発現している場合には正常組織も標的としてしまう(On-target副反応)。そのため、CAR-T療法の標的抗原を選択することは難しく、この点が汎用性を高める際や臨床応用を図る上で最も問題となる。
CARは、共刺激分子(CD28や4-1BBなど)の細胞内ドメインを利用することにより、標的細胞から共刺激が伝わらなくても、CARからのシグナルだけで共刺激があったように免疫細胞を活性化することが出来る。通常、腫瘍細胞はCD80/86などのリガンドは発現していないため、内在性の腫瘍特異的なT細胞が存在したとしても不完全な刺激しか伝わらず、anergyに陥ってしまう可能性があるが、CARはひとつのシグナルだけで共刺激も賄うことが出来る。このことはTCR遺伝子導入療法と比べてもう一つの有利な点といえる。
CAR-T療法は前述のようにその標的抗原が腫瘍以外に少しでも発現しているとOn-target副反応が発現し、大きな副作用に見舞われ、時に致死的となることがあった。そのため、前述のように標的抗原の選択が最も重要であり、これまで行われてきたCAR-T療法の臨床試験において最も先行しているのはCD20/CD19などのB細胞分化抗原である。ペンシルベニア大学の研究グループはマウス由来のCD19単鎖抗体と4-1BBの細胞内ドメインを前述のようにつないでCARを作成し、化学療法抵抗性慢性リンパ性白血病の末梢血T細胞に遺伝子導入した。これを患者に投与することによって3例中3例において寛解が得られるという驚異的な結果を報告している(非特許文献1)。CD19CAR-T療法の有効性は特許文献1、非特許文献2においても報告されている。一方、CD20を標的としたCAR-T療法については、マウス抗体のscFvを利用した例が報告されている(非特許文献3)。また、CD28細胞内ドメインを利用したCD20 CAR-T療法の報告もある(非特許文献2)。
特許第5312721号公報
N Engl J Med. 2011;365:725-733. Cancer Res 2006;66:10995-11004. MOLECULAR THERAPY Vol. 9, No. 4, April 2004 577-586
前述の通り、抗CD20ヒト化キメラモノクローナル抗体(CD20mAb)を用いた治療法は一定の効果を示す。しかしながら、その半減期のために繰り返し投与が必要である。また、患者体内のT細胞やNK細胞が作用することによって主たる作用が発現するため、抗体単独の投与では効率が悪い。更には、標的細胞における抗原の発現が弱いと良好な治療結果を期待できない。即ち、ヒト化CD20抗体が効果を発揮するためには、標的細胞表面上でのCD20発現が比較的高い必要がある。
一方、キメラ抗原レセプターは細胞外ドメインが抗体の構造をとるが、これまで開発されてきたものの多くはマウス由来抗体を利用したものであり、ヒトに適用した場合には免疫拒絶の問題がある。免疫力の低下した患者においては効果を期待できるものの、自己免疫疾患の患者や、免疫力の低下していない患者では効果を期待できない。
そこで本発明は、リンパ腫、特に抗CD20ヒト化キメラモノクローナル抗体による治療に抵抗性を示す症例やCD20発現が低下した悪性度の高いリンパ腫、に対する新規治療戦略を提供することを主たる課題とする。
上記課題に鑑み研究を進める中で本発明者らは、CAR-T療法に注目するとともに、標的抗原としてのCD20の重要性に着眼し、ヒト化した抗CD20モノクローナル抗体のscFv断片を細胞外ドメインとした新規構造のCARを設計し、その有効性を検証した。具体的には、新規構造のCARを用いた免疫細胞療法の有効性を、標的細胞表面上のCD20の発現量との関係において検討した。その結果、新規構造のCARは、CD20mAbに比べ、かなり低いCD20の発現をも認識し、その機能を発揮することが判明した。この事実は、新規構造のCARが、CD20mAb治療抵抗性を示す症例やCD20発現が低下した腫瘍細胞に対しても有効であることを意味する。一方、詳細な検討の結果、治療効果を高める上で必要なCARの特性について重要な知見が得られた。
ここで、CD20は腫瘍細胞だけではなく、正常形質細胞にも発現があることが知られており、非腫瘍性疾患においても抗体産生CD20陽性B細胞を標的とした治療にCD20mAbが応用されている。これに対する代替療法として、新規構造のCARを用いた療法を利用し得る。具体的には、治療抵抗性全身性エリテマトーデス、治療抵抗性特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫疾患や、頻回の輸血によって抗HLA抗体を獲得し輸血効果が得られなくなった再生不良性貧血、凝固因子の補充によってインヒビターを獲得した血友病などの疾患・病状に対して、新規構造のCARを用いたT細胞療法が高い治療効果を発揮することが期待できる。
以下に示す発明は、主として上記の成果及び考察に基づく。
[1]抗CD20ヒト化モノクローナル抗体のscFv断片を含む細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナルドメインと、を含む、ヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[2]前記抗CD20ヒト化モノクローナル抗体のヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が7〜10nMである、[1]に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[3]前記細胞内シグナルドメインがCD3ζと共刺激分子の細胞内ドメインとを含む、[1]又は[2]に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[4]前記共刺激分子がCD28又は4-1BBである、[3]に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[5]前記膜貫通ドメインがCD28の膜貫通ドメインである、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[6]前記細胞外ドメインと前記膜貫通ドメインの間にスペーサードメインを含む、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[7]前記スペーサードメインが、ヒトIgGのFc断片からなる、[6]に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[8]前記ヒトIgGがIgG4である、[7]に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[9]前記scFv断片を構成するリンカーが、8〜25アミノ酸残基のペプチドリンカーである、[1]〜[8]のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[10]前記抗CD20モノクローナル抗体のヒトCD20抗原に対する解離定数が約7.2である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
[11]前記scFv断片を構成する軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列が、以下の(1)〜(3)の組合せである、[1]〜[9]のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター:
(1)VLが配列番号1のアミノ酸配列、VHが配列番号2のアミノ配列;
(2)VLが配列番号3のアミノ酸配列、VHが配列番号4のアミノ配列;
(3)VLが配列番号5のアミノ酸配列、VHが配列番号6のアミノ配列。
[12][1]〜[11]のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプターをコードするDNA。
[13][12]に記載のDNAを発現可能に保持する組換え発現ベクター。
[14][1]〜[11]のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプターを細胞表面上に発現する、遺伝子工学的に作製されたCD20特異的免疫細胞。
[15]免疫細胞がT細胞である、[14]に記載のCD20特異的免疫細胞。
[16][14]又は[15]に記載のCD20特異的T細胞を治療上有効量含む、細胞製剤。
[17]B細胞性悪性リンパ腫、治療抵抗性慢性リンパ性白血病、治療抵抗性特発性血小板減少性紫斑病、治療抵抗性全身性エリテマトーデス、及び凝固インヒビターを持つ血友病からなる群より選択される疾患、又は抗HLA抗体により輸血効果が得られなくなった患者の治療、予防、又は改善用である、[16]に記載の細胞製剤。
[18]抗CD20ヒト化キメラモノクローナル抗体抵抗性の症例に対して適用される、[17]に記載の細胞製剤。
新規CD20 CARの設計。CARを導入、発現させたときの細胞表面の状態(上)と、CAR導入用の核酸コンストラクト(下)を示す。 CD20 CARの遺伝子導入スキーム(上)及び測定結果(下)。 各種細胞株における、細胞表面上のCD20発現量。 CD20-CEMに対する、リツキシマブによる補体依存的細胞障害(CDC)(左)。リツキシマブ(10μg/ml)及び20%ウサギ補体存在下で30分間インキュベートした後、Annexin-V/DAPI染色を行った。CD20-CEMに対する、CD20 CAR-T細胞による細胞傷害活性(右)。CD20 CAR T-細胞を照射LCLにて1コース刺激増殖させてCD8陽性細胞を選択し、51Cr放出アッセイを行った。 代表的なCD20発現を持つCD20-CEMのCD20発現量。 代表的なCD20発現を持つCD20-CEMによる刺激後のCD20CAR-T細胞のIFN-γの産生。CD20 CAR-T細胞(反応細胞)とCD20-CEM(刺激細胞)を1:1で混合して刺激(4時間のインキュベーション)した後、固定・染色した。 代表的なCD20発現を持つCD20-CEMの刺激によるCD20CAR-T細胞の細胞***。CD20 CAR-T細胞(反応細胞)とCD20-CEM(刺激細胞)を1:1で混合して刺激(96時間のインキュベーション)した後、解析に供した。 代表的なCD20発現を持つCD20-CEMの刺激による細胞内シグナル伝達。CD20 CAR-T細胞(反応細胞)とCD20-CEM(刺激細胞)を5:1で混合して刺激(10分間のインキュベーション)した後、固定・染色した。 CD20低発現細胞株及び臨床分離細胞に対するCD20 CAR-T細胞の効果。 細胞外ドメイン(scFv)のアフィニティーとIFN-γ産生の関係。 細胞外ドメイン(scFv)のアフィニティーと細胞傷害活性の関係。 細胞外ドメイン(scFv)のアフィニティーと放射線照射LCLの刺激後のCAR-T細胞増殖の関係。 リンカーの長さとIFN-γ産生細胞割合の関係。 CD20発現低下臨床分離細胞に対する細胞傷害活性の検討。
1.ヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター
本発明の第1の局面はヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター(CAR)に関する。ヒト化抗CD20キメラ抗原レセプターとは、CD20に特異的なヒト化抗体に由来する細胞外ドメインと、細胞外ドメインとは由来が異なる膜貫通ドメイン及び細胞内シグナルドメインを含む構造体である。本発明のCARは、抗CD20ヒト化モノクローナル抗体のscFv断片を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナルドメインを含む。以下、各ドメインについて説明する。
(1)細胞外ドメイン
本発明において細胞外ドメインはCD20特異的な結合性を示す。細胞外ドメインは、抗CD20ヒト化モノクローナル抗体のscFv断片を含む。抗CD20ヒト化モノクローナル抗体とは、CD20を抗原とするヒト化モノクローナル抗体である。ヒト化モノクローナル抗体は、他の動物種(例えばマウスやラット)のモノクローナル抗体の構造をヒトの抗体の構造に類似させた抗体であり、抗体の定常領域のみをヒト抗体のものに置換したヒト型キメラ抗体、及び定常領域及び可変領域に存在するCDR(相補性決定領域)以外の部分をヒト抗体のものに置換したヒト型CDR移植(CDR-grafted)抗体(P.T.Johons et al., Nature 321,522(1986))を含む。ヒト型CDR移植抗体の抗原結合活性を高めるため、マウス抗体と相同性の高いヒト抗体フレームワーク(FR)を選択する方法、相同性の高いヒト型化抗体を作製する方法、ヒト抗体にマウスCDRを移植した後さらにFR領域のアミノ酸を置換する方法の改良技術もすでに開発され(米国特許第5585089号、米国特許第5693761号、米国特許第5693762号、米国特許第6180370号、欧州特許第451216号、欧州特許第682040号、特許第2828340号などを参照)、ヒト化抗体の作製に利用することもできる。
本発明における抗CD20ヒト化モノクローナル抗体としてCD20に対して高親和性のものを採用するとよい。好ましくは、本発明のCARに期待される効果、即ち、腫瘍細胞などに対する傷害活性が高まるように、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が7〜10nMの抗CD20ヒト化モノクローナル抗体を利用する。特に好ましい態様では、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が約7.2nMの抗CD20ヒト化モノクローナル抗体が利用される。解離定数は特開2010−189402号の実施例に示された測定方法によって測定することができる。但し、同様の測定結果が得られるのであれば、細胞表面に発現する抗原に対するKd値を測定可能な他の測定方法を採用してもよい。
上記解離定数の条件(Kd値が7〜10nM)を満足する抗体として、特開2010−189402号公報に開示された抗体vv、抗体fv、抗体fa(特開2010−189402号公報の表5を参照)を例示することができる。抗体vvは軽鎖可変領域(VL)が配列番号1のアミノ酸配列、重鎖可変領域(VH)が配列番号2のアミノ配列を有する。同様に、抗体fvはVLが配列番号3のアミノ酸配列、VHが配列番号4のアミノ配列を有する。また、抗体faはVLが配列番号5のアミノ酸配列、VHが配列番号6のアミノ配列を有する。尚、これらの抗体のヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値, nM)は、7.02(抗体vv)、7.21(抗体fv)、10.09(抗体fa)である(特開2010−189402号公報の表5を参照)。
本発明では、抗CD20ヒト化モノクローナル抗体のscFv断片を細胞外ドメインに利用する。scFv断片とは、免疫グロブリンの軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)がリンカーを介して連結された構造体であり、抗原との結合能を保持している。リンカーとしては、例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの代表例は、グリシンとセリンから構成されるリンカー(GGSリンカーやGSリンカー)である。GGSリンカー及びGSリンカーを構成するアミノ酸であるグリシンとセリンは、それ自体のサイズが小さく、リンカー内で高次構造が形成されにくい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が5〜25個のリンカーを用いることができる。後述の実施例に示す通り、短いリンカーよりも長いリンカーの方が、CARの機能の発揮に有利であることが明らかとなった。そこで、リンカーの長さは好ましくは8〜25、更に好ましくは15〜20である。尚、リンカーの具体例は後述の実施例に示される。
(2)膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、細胞外ドメインと細胞内シグナルドメインの間に介在する。膜貫通ドメインとしては、CD28、CD3ε、CD8α、CD3、CD4又は4-1BBなどの膜貫通ドメインを用いることができる。人工的に構築したポリペプチドからなる膜貫通ドメインを用いることにしてもよい。尚、膜貫通ドメインの具体例は後述の実施例に示される。実施例に示したものと機能的に同等のものを用いることもできる。
(3)細胞内シグナルドメイン
細胞内シグナルドメインは、免疫細胞のエフェクター機能の発揮に必要なシグナルを伝達する。即ち、細胞外ドメインがCD20と結合した際、免疫細胞の活性化に必要なシグナルを伝達することが可能な細胞内シグナルドメインが用いられる。細胞内シグナルドメインには、TCR複合体を介したシグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第1ドメイン」と呼ぶ)と、共刺激シグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第2ドメイン」と呼ぶ)が含まれる。第1ドメインとして、CD3ζの他、FcεRIγ等の細胞内ドメインを用いることができる。好ましくは、CD3ζが用いられる。また、第2ドメインとしては共刺激分子の細胞内ドメインが用いられる。共刺激分子としてCD28、4-1BB(CD137)、CD2、CD4、CD5、CD134、OX-40又はICOSを例示することができる。好ましくは、CD28又は4-1BBの細胞内ドメインを採用する。
第1ドメインと第2ドメインの連結態様は特に限定されないが、好ましくは、過去の事例においてCD3ζを遠位につないだ場合に共刺激が強く伝わったことが知られていることから、膜貫通ドメイン側に第2ドメインを配置する。同一又は異種の複数の細胞内ドメインをタンデム状に連結して第1ドメインを構成してもよい。第2ドメインについても同様である。
第1ドメインと第2ドメインは、これらを直接連結しても、これらの間にリンカーを介在させてもよい。リンカーとしては例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの構造、特徴等は前述の通りである。但し、ここでのリンカーとしては、グリシンのみから構成されるものを用いてもよい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が2〜15個のリンカーを用いることができる。尚、細胞内シグナルドメインの具体例は後述の実施例に示される。実施例に示したものと機能的に同等のものを用いることもできる。
(4)その他の要素
細胞外ドメインと膜貫通ドメインがスペーサードメインを介して連結した構造にするとよい。即ち、好ましい態様のCARは、細胞外ドメインと膜貫通ドメインの間にスペーサードメインを含む。スペーサードメインは、CARとCD20抗原との結合を促進させるために用いられる。例えば、ヒトIgG(好ましくはヒトIgG4)のFc断片をスペーサードメインとして用いることがきる。その他、CD28の細胞外ドメインの一部やCD8αの細胞外ドメインの一部等をスペーサードメインとして用いることもできる。尚、膜貫通ドメインと細胞内シグナルドメインの間にもスペーサードメインを設けることもできる。
2.ヒト化抗CD20キメラ抗原レセプターをコードする核酸
本発明の第2の局面は本発明のCARをコードする核酸に関する。本発明のCARをコードする核酸とは、それを発現させた場合に当該CARが得られる核酸、即ち、当該CARのアミノ酸配列に対応する塩基配列を有する核酸(典型的にはDNA)のことをいう。従って、アミノ酸配列に対応する配列を有する限り、アミノ酸配列に対応しない配列部分を有する核酸であってもよい。また、コドンの縮重も当然に考慮される。本発明の核酸は、本発明のCARを発現する免疫細胞(本発明の第3の局面)の調製に利用され得る。典型的には、当該免疫細胞の調製のために、本発明の核酸を発現可能に保持するベクター(組換え発現ベクター)を構築する。本明細書において用語「ベクター」は、それに挿入された核酸分子をターゲット(即ち免疫細胞又はその前駆細胞)内へと輸送することができる核酸性分子をいい、形態、由来などは特に限定されるものではない。様々な種類のベクターが利用可能である。例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクター、YACベクター、BACベクター、ウイルスベクター、リポソームベクター、正電荷型リポソームベクター(Felgner, P.L., Gadek, T.R., Holm, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 84:7413-7417, 1987)、HVJ(Hemagglutinating virus of Japan)-リポソーム(Dzau, V.J., Mann, M., Morishita, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 93:11421-11425, 1996、Kaneda, Y., Saeki, Y. & Morishita, R., Molecular Med. Today, 5:298-303, 1999)等が開発されている。
ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、ウイルスが細胞へと感染する現象を巧みに利用するものであり、高い遺伝子導入効率が得られる。ウイルスベクターとしてアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が開発されている。この中でアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターではベクターに組み込んだ外来遺伝子が宿主染色体へと組み込まれ、安定かつ長期的な発現が期待できる。各ウイルスベクターは既報の方法に従い又は市販される専用のキットを用いて作製することができる。例えば、レトロウイルスベクターは以下の手順で作製することができる。まず、ウイルスゲノムの両端に存在するLTR(Long Terminal Repeat)の間のパッケージングシグナル配列以外のウイルスゲノム(gag、pol、env遺伝子)を取り除き、そこへ目的の遺伝子を挿入する。このようにして構築したウイルスDNAを、gag、pol、env遺伝子を構成的に発現するパッケージング細胞に導入する。これによって、パッケージングシグナル配列をもつベクターRNAのみがウイルス粒子に組み込まれ、レトロウイルスベクターが産生される。
通常、本発明の組換え発現ベクターにはプロモーターが組み込まれる。組換え発現ベクター内においてプロモーターは、本発明の核酸に作動可能に連結される。当該構成の組換え発現ベクターではプロモーターの作用によって、本発明の核酸を標的細胞内で強制発現させることが可能となる。ここで、「プロモーターが本発明の核酸に作動可能に連結している」とは、「プロモーターの制御下に本発明の核酸が配置されている」ことと同義であり、通常、プロモーターの3'末端側に直接又は他の配列を介して本発明の核酸が連結されることになる。プロモーターには、CMV-IE(サイトメガロウイルス初期遺伝子由来プロモーター)、SV40ori、レトロウイルスLTP、SRα、EF1α、βアクチンプロモーター等を使用可能である。
組換え発現ベクター内にポリA付加シグナル配列、ポリA配列、エンハンサー配列、選択マーカー配列、タグ配列等を配置することもできる。ポリA付加シグナル配列又はポリA配列の使用によって、組換え発現ベクターから生ずるmRNAの安定性が向上する。ポリA付加シグナル配列又はポリA配列は下流側において本発明の核酸に連結される。一方、エンハンサー配列の使用によって発現効率の向上が図られる。また、選択マーカー配列を含有する組換え発現ベクターを使用すれば、選択マーカーを利用して組換え発現ベクターの導入の有無(及び導入率)を確認することができる。
組換え操作(本発明の核酸、プロモーター、選択マーカー遺伝子等のベクターへの挿入等)には、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた方法等、標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる)を利用することができる。
3.ヒト化抗CD20キメラ抗原レセプターを発現するCD20特異的免疫細胞
本発明の第3の局面は、本発明のCARを細胞表面上に発現する免疫細胞(以下、「本発明の細胞」と呼ぶ)を提供する。本発明の細胞は、その細胞表面上に存在するCARがCD20抗原を認識・結合することによって、細胞内にシグナルが伝達し、活性化される。本発明の細胞は、標的細胞に対して本発明の核酸を導入することによって作製される。通常は、本発明の核酸を含む組換え発現ベクターで標的細胞を形質転換する。標的細胞にはT細胞、NK細胞又はその前駆細胞(造血幹細胞、リンパ球前駆細胞等)を用いることができる。ここでのT細胞として、CD4陽性CD8陰性T細胞、CD4陰性CD8陽性T細胞、CD4陰性CD8陰性T細胞、CD4陽性CD8陽性T細胞、iPS細胞から調製されたT細胞、αβ-T細胞、γδ-T細胞を挙げることができる。上記の如きT細胞又は前駆細胞を含むものであれば、様々な細胞集団を用いることができる。末梢血から採取されるPBMC(末梢血単核細胞)は好ましい標的細胞の一つである。生体から採取された細胞集団を継代及び/又は純化することによって得られた細胞集団を標的細胞にすることもできる。
標的細胞の形質転換は常法で行えばよい。例えば、エレクトロポレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1987))、感染(ウイルスベクターを使用する場合)等の方法により形質転換を行うことができる。尚、その操作から明らかな通り、本発明の細胞は、生体外で(ex vivo)調製される。
本発明の細胞は、B細胞リンパ腫(濾胞性悪性リンパ腫、びまん性悪性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、MALTリンパ腫、血管内B細胞性リンパ腫、CD20陽性ホジキンリンパ腫など)、治療抵抗性慢性リンパ性白血病、治療抵抗性特発性血小板減少性紫斑病、治療抵抗性全身性エリテマトーデス、凝固インヒビターを持つ血友病、又は抗HLA抗体により輸血効果が得られなくなった再生不良性貧血患者などの治療、予防又は改善に利用され得る。「治療」とは、標的疾患に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。「予防」とは、疾病(障害)又はその症状の発症/発現を防止又は遅延すること、或いは発症/発現の危険性を低下させることをいう。一方、「改善」とは、疾病(障害)又はその症状が緩和(軽症化)、好転、寛解、又は治癒(部分的な治癒を含む)することをいう。
本発明の細胞は、CD20の発現が低下した症例に対して特に有用である。当該症例の具体例は、CD20mAb(リツキシマブ、オファツムマブなど)による治療に抵抗性を示す症例(Alvaro-Naranjo T, Jaen-Martinez J, Guma-Padro J, Bosch-Princep R, Salvado-Usach MT. CD20-negative DLBCL transformation after rituximab treatment in follicular lymphoma: a new case report and review of the literature. Ann Hematol. Sep 2003;82(9):585-588.; Yasuhito Terui TS, Yuji Mishima, Yuko Mishima, Natsuhiko Sugimura, Kiyotsugu Kojima, Masahiro Yokoyama, Kiyohiko Hatake. Identification of CD20 Mutations in Malignant Lymphoma: Can They Be Predictors of Response to Rituximab? Paper presented at: 47th American Society Of Hematology Annual Meeting; December 12, 2005, 2005; Atlanta.; Davis TA, Czerwinski DK, Levy R. Therapy of B-cell lymphoma with anti-CD20 antibodies can result in the loss of CD20 antigen expression. Clin Cancer Res. Mar 1999;5(3):611-615.; Kinoshita T, Nagai H, Murate T, Saito H. CD20-negative relapse in B-cell lymphoma after treatment with Rituximab. J Clin Oncol. Dec 1998;16(12):3916.等を参照)、CD20陰転化B細胞性悪性リンパ腫の患者、治療抵抗性CD20低発現慢性リンパ性白血病の患者などである。
ここで、CD20は腫瘍細胞だけではなく、正常形質細胞にも発現があることが知られており、非腫瘍性疾患においても抗体産生CD20陽性B細胞を標的とした治療にCD20mAbが応用されている。これに対する代替療法としても、本発明による治療戦略が奏効することが期待される。具体的には治療抵抗性全身性エリテマトーデス、治療抵抗性特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫疾患や、頻回の輸血によって抗HLA抗体を獲得し輸血効果が得られなくなった再生不良性貧血、凝固因子の補充によってインヒビターを獲得した血友病などの疾患・病状に対して、本発明を利用したCAR-T細胞療法の利用が想定される。
本発明の細胞を細胞製剤の形態で提供することもできる。本発明の細胞製剤には、本発明の細胞が治療上有効量含有される。例えば1回の投与用として、104個〜1010個の細胞を含有させる。細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等、細菌の混入を阻止する目的で抗生物質等、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的とした各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)等の成分を細胞製剤に含有させてもよい。
本発明の細胞又は細胞製剤の投与経路は特に限定されない。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射によって投与する。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。局所投与として、目的の組織・臓器・器官への直接注入を例示することができる。投与スケジュールは、対象(患者)の性別、年齢、体重、病態などを考慮して作成すればよい。単回投与の他、連続的又は定期的に複数回投与することにしてもよい。
1.新規CD20 CARの設計及び効果の検討
(1)CD20 CARの設計(図1)
ヒト化CD20抗体の軽鎖可変領域および重鎖可変領域をリンカー(配列番号11)にて結合し、単鎖可変領域(scFv)とした。これにヒトIgG4由来のFc(ヒンジ、CH2、CH3)(配列番号12)、CD28膜貫通領域(配列番号13)、CD28細胞内ドメイン(配列番号14)、グリシンリンカー(GGG)、CD3ζ(配列番号15)、T2A配列(配列番号16)、tEGF(truncated EGF)(配列番号17)が結合したCARを設計した。比較のために、scFvの異なる5種類のCAR(20vv-a、20fv-a、20fa-a、20sv-a、20sa-a)を用意した。各CARのscFvを構成するVL及びVHは以下の通りである。また、各CARをコードするDNA(VLをコードする配列の5'側にGM-CSFリーダー配列を付加するとともに、5'末端にHindIIIサイトと3'末端にNotIサイトを付加している)は20vv-aが配列番号18の配列、20fv-aが配列番号19の配列、20fa-aが配列番号20の配列、20sv-aが配列番号21の配列、20sa-aが配列番号22の配列である。
20vv-a:VL(配列番号1):VH(配列番号2)
20fv-a:VL(配列番号3):VH(配列番号4)
20fa-a:VL(配列番号5):VH(配列番号6)
20sv-a:VL(配列番号7):VH(配列番号8)
20sa-a:VL(配列番号9):VH(配列番号10)
各CARについて、それをコードするDNAを、両端に作成したHindIII/NotIサイトを用いてレトロウイルスパッケージング用ベクター(LZRS-pBMN-Z)に組み込んだ(LZRS-CD20 CAR)。LZRS-CD20 CARベクターをレトロウイルスパッケージング用細胞であるPhoenix-Ampho細胞に導入した後、培養上清を採取してレトロウイルスを得た。
(2)CD20 CAR遺伝子導入
0日目にドナーから末梢血を採取し、比重遠心法にて単核球(PBMC)を分離した。PBMCはCD3あるいはCD8の免疫磁気ビーズを用いてCD3陽性/CD8陽性に純化を行った。その後CD3/28ビーズを用いて刺激を行った(ビーズ:T細胞=1:3)。
3日目に、レトロネクチンをコートした24ウェル細胞培養皿に刺激後の細胞を播種し、その後凍結保存していたレトロウイルスをMOI(multiplicity of infection)が3程度になるように添加し、スピンフェクション(spinfection)(32℃、2100rpm、45分)を行った。7日目〜9日目に遺伝子導入効率を測定すると、50〜80%程度の細胞に遺伝子発現が見られた(図2左)。その細胞をCD20遺伝子導入K562細胞で刺激するとCD20特異的にインターフェロンγの産生が見られた(図2右)。
(3)各種細胞株におけるCD20の細胞表面上の発現
本来CD20を発現していないT細胞株であるCEM細胞にCD20を様々な強度で発現させた細胞株がDr. A.C.M. Martensらから供与された。CD20-CEMおよび各種B細胞腫瘍細胞株の細胞表面上のCD20発現を定量した(ABC : antibody binding capacity DAKO QIFI kit)。
。通常の腫瘍細胞株においては100000分子以上の発現が見られることが多いが、CD20低発現腫瘍細胞株であるRRBL1(Hiraga J, Tomita A, Sugimoto T, Shimada K, Ito M, Nakamura S, Kiyoi H, Kinoshita T, Naoe T. Blood. 2009 May 14;113(20):4885-93;国際公開第2008/038587号パンフレット)では10000程度であり、CEM-CD20細胞では240分子から500000分子程度まで広い範囲をカバーしている(図3)。
(4)CD20-CEMに対する、リツキシマブによる補体依存的細胞障害(CDC)と、CD20 CAR-T細胞による細胞傷害活性
CD20-CEMに対する、リツキシマブによるCDCを図4左に示す。CD20低発現細胞ではCDC活性が格段に低下する。CD20-CEMに対する、CD20 CAR-T細胞による細胞傷害活性を図4右に示す。MFI 1000〜10000程度のCD20低発現株に対しても、高発現株の場合とほとんど遜色ない細胞傷害活性を示した。この結果は、抗体療法に比してCAR-T療法では、標的抗原CD20が低発現であっても有意な細胞傷害活性を示すことを意味する。
(5)IFN-γ産生能
代表的なCD20発現を持つCD20-CEM(図5)を用いてCD20 CAR-T細胞を刺激し、IFN-γ産生割合を検討した。CD20の発現が非常に低い株(CEM-極低)では有意なIFN-γ産生が見られなかったが、それ以外のCD20-CEM株による刺激では同等の強さのIFN-γ産生が見られた(図6)。
(7)細胞***の評価
代表的なCD20発現を持つCD20-CEM(図5)を用いてCD20 CAR-T細胞を刺激し、刺激後の細胞***を評価した。CD20の発現が非常に低い株(CEM-極低)では有意な***・増殖が見られなかったが、それ以外のCD20-CEM株による刺激では同等の***・増殖が見られた(図7)。
(8)細胞内シグナリングの検討
先の4細胞株を用いてCD20 CAR-T細胞を刺激し、細胞内シグナリングを検討した。CD20の発現が非常に低い株(CEM-極低)では有意な細胞内シグナル伝達が見られなかったが、それ以外のCD20-CEM株による刺激では同等の強さの細胞内シグナル伝達が見られた(図8)。この結果と、上記の結果(IFN-γ産生能、細胞***の評価)を総合すると、CD20 CAR-T細胞に有意な刺激を与えるためには、1細胞あたり数千分子以上のCD20が必要であると考えられた。
(9)CD20低発現細胞株及び臨床分離細胞に対するCD20 CAR-T細胞の効果
RRBL1は再発性濾胞性リンパ腫に対してリツキシマブ投与を繰り返した症例において再発後の細胞から樹立された細胞株であり、CD20発現が低下していることを報告している(Hiraga J, Tomita A, Sugimoto T, Shimada K, Ito M, Nakamura S, Kiyoi H, Kinoshita T, Naoe T. Blood. 2009 May 14;113(20):4885-93;国際公開第2008/038587号パンフレット)。RRBL1に対してもCD20 CAR-T細胞は有意な細胞傷害活性を示した(図9上)。一方、胸水に再発を来した悪性リンパ腫患者由来細胞(Pt-1)に対する効果を検討した結果、再発時CD20陽性分画は13%程度であったが、それを上回る細胞傷害活性を示した(図9下)。以上の結果より、リツキシマブ投与後であってCD20発現が低下している場合でもCD20 CAR-T細胞が有意な細胞傷害活性を持つことが判明した。
(10)小括
CD20 CAR-T細胞はCD20低発現標的細胞も認識できることが明らかとなった。認識の閾値はかなり低く、細胞傷害活性試験では1細胞あたり数百分子であった。一方、刺激後のT細胞に***などを惹起するためには1細胞あたり数千分子程度のCD20の発現が必要であった。リツキシマブとの比較においては、低発現株に対しても明らかに効果の高いことが示された。この事実は、CD20発現が低下した標的細胞に対してもCD20 CAR-T細胞療法が有効であることを示唆するものであり、臨床上、重要な意義を持つ。
2.CD20 CARの構造と効果の関係の検討
2−1.抗原に対するアフィニティー
(1)細胞外ドメイン(scFv)のアフィニティーとIFN-γ産生の関係
アフィニティーの異なる5種類のヒト化抗CD20抗体(特開2010−189402号公報を参照)の軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)を基に設計したscFvを備えるCAR(20vv-a、20fv-a、20fa-a、20sv-a、20sa-a)を作成した。CD20に対する解離定数(Kd値(nM))は、vvが7.07、fvが7.21、faが10.09、svが12.58、saが14.66であり、アフィニティーはvv>fv>fa>sv>saである(特開2010−189402号公報の表5を参照)。
各CARをCD8陽性T細胞に遺伝子導入後、導入細胞を遺伝子導入マーカー(EGFR)にて純化し(図10左)、IFN-γ産生細胞割合を評価した。fa以上のアフィニティーをもつCAR-T細胞はCD20を特異的に認識しIFN-γを産生したが、sv以下のアフィニティーをもつCAR-T細胞はIFN-γを産生しなかった。また、用いた抗体群の中では、アフィニティーが高いほどIFN-γ産生細胞割合が増加する事が示された(図10右)。
(2)細胞外ドメイン(scFv)のアフィニティーと細胞傷害活性の関係
前述の5種類のCARをCD8陽性T細胞に遺伝子導入後、導入細胞を純化し、γ線照射LCLにて1コース刺激・増殖後、CD20遺伝子導入K562を標的として細胞傷害活性を51Cr放出アッセイ(51Cr releasing assay)にて評価した。fa以上のアフィニティーをもつCAR-T細胞は良好な細胞傷害活性を示したが、sv以下のアフィニティーをもつCAR-T細胞では細胞傷害活性はほとんど見られなかった(図11)。また、用いた抗体群の中では、2番目に高いアフィニティーをもつfvが最も高い細胞傷害活性を示すことが示された。
(3)細胞外ドメイン(scFv)のアフィニティーと放射線照射LCLの刺激後のCAR-T細胞増殖の関係
前述の5種類のCARをCD8陽性T細胞に遺伝子導入後、導入細胞を純化した。0日目にCAR-T細胞(0.5×106個)をγ線照射LCL(3.5×106個)にて刺激し、IL-2(50 IU/ml)存在下で培養した。アフィニティーの2番目に高い20fv-aまでは、増殖効率がアフィニティーに相関したが、アフィニティーが最も高い20vv-aではむしろ効率が低下し、20fa-aと同程度であった(図12)。
(4)小括(CD20-CARを設計する際に最適な細胞外ドメイン(scFv)のアフィニティー)
以上の結果より、IFN-γ産生細胞割合はアフィニティーが高いほど増加するが(図10)、細胞傷害活性、及びLCL刺激による細胞増殖効率はアフィニティーの最も高い20vv-aではむしろ低下することが示された(図11、12)。高すぎるアフィニティーは、おそらく過刺激によるactivation-induced cell death (AICD)等により活性を低下させる。CAR-T細胞療法では、CAR-T細胞が標的抗原陽性細胞と出会い、細胞傷害活性を引き起こすと共に、自らが増殖する事により抗腫瘍効果が発揮・増強される。また、臨床では、細胞調製の段階で体外にて照射LCL等の刺激増殖後に投与される例もあると想定され、細胞傷害活性及び増殖効率の優れた20vv-a、20fv-a及び20fa-a(解離定数(Kd値)の範囲は約7〜約10nM)が有効であり、特に、最も優れた特性を示した20fv-a(解離定数(Kd値)は約7.2nM)が最適であるといえる。
2−2.リンカーの長さとIFN-γ産生細胞割合の関係
ヒト化抗CD20抗体のFv領域を構成するVLとVHを長いリンカー(18AA;配列番号11)及び短いリンカー(7AA:配列番号23)で連結し、2種類のCARを設計した。CD3陽性T細胞に遺伝子導入し(図13左)、IFN-γ産生細胞割合を評価した。両者ともCD20を特異的に認識しIFN-γを産生したが、長いリンカーをもつCAR-T細胞の方が短いリンカーをもつCAR-T細胞よりIFN-γ産生細胞割合が高い(図13右)。
2−3.CD20発現低下臨床分離細胞に対する細胞傷害活性の検討
CD20 CAR(20fa-a)をCD8陽性T細胞に遺伝子導入後、導入細胞を純化し、γ線照射LCLにて1コース刺激増殖後、臨床分離細胞を標的とし細胞傷害活性を51Cr放出アッセイにて評価した。繰り返しの化学療法及び抗体療法後にCD20発現が低下し、リツキシマブ不応となった慢性リンパ性白血病(CLL)患者に対し、オファツムマブによる治療を行った後の残存CLL細胞を患者末梢血から分離し、検体(標的)として用いた。検体中のCLL細胞のCD20発現は極めて低下していた(図14左)。このような抗体療法不応のCD20極低発現細胞に対してもCD20 CAR-T細胞は細胞傷害活性を示した(図14右)。このように、共通する抗原(CD20)を標的としたリツキシマブ及びオファツムマブ抗体療法不応症例に対しても、新たに樹立したCD20 CAR-T細胞が有効であることが示された。
本発明はCD20を標的とした新たな治療戦略を提供する。本発明を利用したCD20 CAR-T細胞療法はCD20低発現標的細胞に対しても有効である。CD19CAR-T細胞療法では正常形質細胞はCD19を発現していないため標的とされてこなかったが、CD20は形質細胞にも発現していることから、本発明によればCD20を標的分子とした新規治療を提案しうる。自己免疫疾患や自己抗体が問題となるような病態において、本発明を利用したCD20 CAR-T細胞療法が、CD20抗体療法よりも高い効果を示すことが期待される。具体的には、治療抵抗性全身性エリテマトーデス、 治療抵抗性特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫疾患や、頻回の輸血によって抗HLA抗体を獲得し輸血効果が得られなくなった再生不良性貧血、凝固因子の補充によってインヒビターを獲得した血友病などの疾患・病状に対し、抗体産生細胞を除去して治療効果を発揮することが期待される。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (18)

  1. 抗CD20ヒト化モノクローナル抗体のscFv断片を含む細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナルドメインと、を含む、ヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  2. 前記抗CD20ヒト化モノクローナル抗体のヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が7〜10nMである、請求項1に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  3. 前記細胞内シグナルドメインがCD3ζと共刺激分子の細胞内ドメインとを含む、請求項1又は2に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  4. 前記共刺激分子がCD28又は4-1BBである、請求項3に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  5. 前記膜貫通ドメインがCD28の膜貫通ドメインである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  6. 前記細胞外ドメインと前記膜貫通ドメインの間にスペーサードメインを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  7. 前記スペーサードメインが、ヒトIgGのFc断片からなる、請求項6に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  8. 前記ヒトIgGがIgG4である、請求項7に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  9. 前記scFv断片を構成するリンカーが、8〜25アミノ酸残基のペプチドリンカーである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  10. 前記抗CD20モノクローナル抗体のヒトCD20抗原に対する解離定数が約7.2である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター。
  11. 前記scFv断片を構成する軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列が、以下の(1)〜(3)の組合せである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター:
    (1)VLが配列番号1のアミノ酸配列、VHが配列番号2のアミノ配列;
    (2)VLが配列番号3のアミノ酸配列、VHが配列番号4のアミノ配列;
    (3)VLが配列番号5のアミノ酸配列、VHが配列番号6のアミノ配列。
  12. 請求項1〜11のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプターをコードするDNA。
  13. 請求項12に記載のDNAを発現可能に保持する組換え発現ベクター。
  14. 請求項1〜11のいずれか一項に記載のヒト化抗CD20キメラ抗原レセプターを細胞表面上に発現する、遺伝子工学的に作製されたCD20特異的免疫細胞。
  15. 免疫細胞がT細胞である、請求項14に記載のCD20特異的免疫細胞。
  16. 請求項14又は15に記載のCD20特異的T細胞を治療上有効量含む、細胞製剤。
  17. B細胞性悪性リンパ腫、治療抵抗性慢性リンパ性白血病、治療抵抗性特発性血小板減少性紫斑病、治療抵抗性全身性エリテマトーデス、及び凝固インヒビターを持つ血友病からなる群より選択される疾患、又は抗HLA抗体により輸血効果が得られなくなった患者の治療、予防、又は改善用である、請求項16に記載の細胞製剤。
  18. 抗CD20ヒト化キメラモノクローナル抗体抵抗性の症例に対して適用される、請求項17に記載の細胞製剤。
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