従来から、自動車の電装系には、リレーボックスやジャンクションボックス等の電気接続箱が用いられており、電気接続箱を介してバッテリーから車載電装品等への効率的な電力の分配がなされている。特に、近年の電気自動車等では、バッテリー・インバータ間により高電圧大電流を使用する車両が増えており、例えば、特開2006−50768号公報(特許文献1)に記載の如く、バスバーによって構成された高電圧用の回路を備えた高圧用電気接続箱も用いられるようになっている。
ところで、このような高圧用電気接続箱では、特許文献1にも記載されているように、比較的太いバスバーによって構成された高圧用回路から分岐して、それよりも細いバスバーによって構成された低圧用回路に接続することで、電力の分岐分配が行われている。そこにおいて、高圧用回路を構成する高圧用バスバーと低圧用回路を構成する低圧用バスバーは、それぞれの接続部位に突設されたタブ部同士をヒューズ等の電気部品や中継端子を介して相互に接続したり、高圧用バスバーと低圧用バスバーを相互に重ね合せてボルトとナットにより締結すること等により、電気的に導通されている。
ところが、このような従来構造では、高圧用バスバーと低圧用バスバーを、中継端子等の別部品を介して接続する必要があり、部品点数や組立製造工数の増加および専用設備の必要性が避けられないという問題があった。また、別部品を介して高圧用バスバーと低圧用バスバーが接続されることから、接触抵抗が高くなることが避けられないという問題も招いていた。
さらに、高圧用バスバーと低圧用バスバーのそれぞれのタブ部を別部品を介して接続する場合は、接続部分の高さ寸法が嵩む。また、高圧用バスバーと低圧用バスバーを相互に重ね合せてボルトとナットで締結する場合も、ボルトとナットの装着領域を確保する必要がある。何れの場合も電気接続箱の大型化が避けられず、別部品を使用するためその分重量が増すことから、近年の電気接続箱への小型化、軽量化への要求に対応し難いという問題もあった。
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、高圧用バスバーと低圧用バスバーの接続部分の接触抵抗の低減を図ることができ、さらに小型化・軽量化を有利に達成することができる、新規な構造の高圧用電気接続箱を提供することにある。
本発明の第一の態様は、高圧用バスバーによって構成された高圧用回路と、低圧用バスバーによって構成された低圧用回路を含んで構成された高圧用電気接続箱において、前記高圧用バスバーの板厚寸法が前記低圧用バスバーの板厚寸法よりも大きくされている一方、前記低圧用バスバーと前記高圧用バスバーの接続部が、前記低圧用バスバーに前記高圧用バスバーを重ね合せて、該高圧用バスバー側から前記低圧用バスバー側に押し込まれたメカニカルクリンチによって形成されていることを、特徴とする。
本発明に従う構造とされた高圧用電気接続箱においては、高圧用バスバーと低圧用バスバーが、メカニカルクリンチによって、別部品を介することなく直接に接続されている。これにより、高圧用バスバーと低圧用バスバーとの接続部における接触荷重を有効に確保して、接触抵抗を低減することができる。
そして、高圧用バスバーと低圧用バスバーとの接続に中継端子やボルト等の別部品を要さないことから、部品点数を削減することができると共に、中継端子の接続やボルト締結の作業を不要とすることができて、製造コストの低減を図ることができる。また、例えば低圧用バスバーをプレス加工により分断した後に、高圧用バスバーを重ね合わせて再度プレス加工することで、複数箇所をメカニカルクリンチで同時に接続することもでき、更なる製造効率の向上を図ることもできる。加えて、高圧用バスバーと低圧用バスバーを別部材を要することなく接続することから、例えばボルト等に比して接続部を小型化することができる。それと共に、部品点数の削減により接続部を軽量化することができる。その結果、高圧用電気接続箱の小型化および軽量化を図ることができる。
また、高圧用バスバーの板厚寸法を低圧用バスバーの板厚寸法よりも大きくすることで通電断面積を確保したことにより、高圧用バスバーの幅寸法の増大を抑えることができ、高圧用バスバーの配索スペースの省スペース化を図ることができる。そして、板厚寸法の大きな高圧用バスバー側から押し込んでメカニカルクリンチを形成することにより、メカニカルクリンチの成形不良を招くおそれを低減することができる。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載のものにおいて、前記低圧用バスバーにおいて、前記接続部が形成される前記高圧用バスバーとの重ね合わせ部が幅広に形成されているものである。
本態様によれば、低圧用バスバーにおける接続部の幅寸法を確保することによって、メカニカルクリンチの成形品質をより高度に確保することができる。また、高圧用バスバーとの接触面積をより大きく確保することによって、高圧用バスバーとの接続信頼性を向上することができる。
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に記載のものにおいて、1つの前記高圧用バスバーに、複数の前記低圧用バスバーが接続されているものである。
前述のように、本発明によれば、複数箇所のメカニカルクリンチを同時に形成することも可能であり、本態様のように、高圧用バスバーに複数の低圧用バスバーが接続される場合には、複数の低圧用バスバーを同時に接続することができる。
本発明の第四の態様は、前記第一〜第三の何れか1つの態様に記載のものにおいて、前記低圧用バスバーが接続された前記高圧用バスバーの少なくとも1つが、電流センサに挿通されているものである。
本発明によれば、低圧用バスバーと高圧用バスバーがメカニカルクリンチで高い接触荷重をもって接続されていることにより、低圧用バスバーと高圧用バスバーとの接触抵抗の変動を抑えることができる。従って、高圧用バスバーを電流センサに挿通されるバスバーとして用いることにより、電流センサの検出精度を高めることができる。
本発明においては、高圧用バスバーの板厚寸法を低圧用バスバーの板厚寸法よりも大きくすると共に、高圧用バスバーと低圧用バスバーの接続部を、高圧用バスバー側から低圧用バスバー側に押し込んだメカニカルクリンチで形成した。これにより、高圧用バスバーと低圧用バスバーとの接触荷重を有効に確保して、接触抵抗の低減を図ることができる。更に、高圧用バスバーと低圧用バスバーを別部品を介することなく接続したことにより、高圧用電気接続箱の製造コストの低減と、小型化および軽量化を図ることができる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
先ず、図1に、本発明の一実施形態としての高圧用電気接続箱10を示す。高圧用電気接続箱10は、合成樹脂からなるアッパケース12とロアケース14の間に、複数の高圧用バスバー16からなる高圧用回路18と、複数の低圧用バスバー20からなる低圧用回路22が収容されていると共に、電流センサ24やリレー26等の各種電気部品が収容された構造とされている。
図2および図3に、高圧用回路18および低圧用回路22を示す。以下の説明において、高圧用回路18を構成する高圧用バスバー16と、低圧用回路22を構成する低圧用バスバー20について、特定のものを指す場合には、高圧用バスバー16a,低圧用バスバー20a等として説明し、特に区別しない場合には、高圧用バスバー16および低圧用バスバー20として説明する。なお、図3は、後述する高圧用バスバー16a,16bと、これに接続される低圧用バスバー20a〜20dのみを図示している。
高圧用回路18は、高圧用バスバー16a,16bによって構成されている。高圧用バスバー16a,16bは、銅や銅合金等からなる金属板がプレス打ち抜きおよび屈曲加工等されて形成されており、高圧用回路18の回路配索形状等を考慮して任意の形状に設定され得る。本実施形態の高圧用バスバー16a,16bは、略一直線状に延びる帯形状とされており、一方の端部にボルト挿通孔28が貫設されていると共に、他方の端部には、リレー26(図1参照)に接続するタブ状のリレー接続部30が立ち上げられて形成されている。
一方、低圧用回路22は、複数の低圧用バスバー20によって構成されている。各低圧用バスバー20は、銅や銅合金等からなる金属板がプレス打ち抜きおよび屈曲加工等されて形成されており、低圧用回路22の回路配索形状等を考慮して任意の形状に設定され得る。これら低圧用バスバー20のうち、低圧用バスバー20aが高圧用バスバー16aと接続されている一方、低圧用バスバー20b〜20dが、高圧用バスバー16bと接続されている。低圧用バスバー20a〜20dには、それぞれ、所望の配索形状に形成された回路部32の一方の端縁部に、高圧用バスバー16a又は高圧用バスバー16bに重ね合される重ね合せ部34が形成されていると共に、他方の端部に端子部36が形成されている。各低圧用バスバー20a〜20dの重ね合せ部34は、それぞれ、一辺の長さが、重ね合される高圧用バスバー16a又は高圧用バスバー16bの幅寸法(図2中、上下方向寸法)と略等しい略正方形の板形状とされており、回路部32よりも大きな幅寸法(図2中、左右方向寸法)をもって形成されている。また、低圧用バスバー20a,20b,20cの端子部36は、回路部32から垂直に立ち上げられたタブ形状とされている一方、低圧用バスバー20dの端子部36は、回路部32の端部にネジ孔が貫設された形状とされている。
なお、図3から明らかなように、高圧用バスバー16の板厚寸法:th は、低圧用バスバー20の板厚寸法:tl に比して大きくされている。高圧用バスバー16の板厚寸法:th および低圧用バスバー20の板厚寸法:tl は、要求される通電容量等を考慮して任意に設定され得る。本実施形態における高圧用バスバー16の板厚寸法:th は2.0mm、或いは2.5mm、低圧用バスバー20の板厚寸法:tl は0.8mmに設定されている。
そして、低圧用バスバー20aが高圧用バスバー16aに接続されていると共に、低圧用バスバー20b〜20dが、高圧用バスバー16bに接続されている。これら低圧用バスバー20aと高圧用バスバー16a、低圧用バスバー20b〜20dと高圧用バスバー16bは、何れも同様の構造で接続されている。図4に、低圧用バスバー20aと高圧用バスバー16aとの接続部40の断面を例示して説明する。
接続部40は、メカニカルクリンチによって形成されている。接続部40において、低圧用バスバー20aの重ね合せ部34に、高圧用バスバー16aが重ね合されている。高圧用バスバー16aは、重ね合せ部34からの回路部32の延出方向(図2中、上方)に直交して重ね合されている。
接続部40は、高圧用バスバー16aと低圧用バスバー20aが、高圧用バスバー16a側から低圧用バスバー20a側に略同形状で突出された有底円筒形状の有底筒部42a,42bによって構成されている。有底筒部42a,42bの底部44a,44bには、その外周縁部が斜め外方に向かって円環状に突出する環状突部46a,46bが形成されている。これら環状突部46a,46bにより、高圧用バスバー16aの有底筒部42aの外径が底部44a側において拡げられて円環状の係合凸部48が形成されている一方、低圧用バスバー20aの有底筒部42bの内径が底部44b側において拡げられて円環状の係合凹部50が形成されている。そして、高圧用バスバー16aの有底筒部42aが、低圧用バスバー20aの有底筒部42bに押し込まれて、係合凸部48と係合凹部50が嵌合されることにより、高圧用バスバー16aと低圧用バスバー20aが接合されている。
接続部40の形成は、例えば図5および図6に示すようにして行われる。先ず、ポンチ52とダイ54を用意する。ポンチ52は、円柱形状を有しており、先端部56が基端部58に比して小径とされている。なお、ポンチ52の先端面60は、円形の略平坦面とされている。一方、ダイ54は、円柱形状を有しており、先端面62に凹所64が形成されている。凹所64は、上方(図6中、上方)に開口する略有底円筒形状とされており、底面66の中心部が円形の略平坦形状とされている一方、底面66の外周縁部に環状溝68が形成されている。そして、凹所64の内径は、高圧用バスバー16aと低圧用バスバー20aの厚さを考慮して、ポンチ52の先端部56の外径よりやや大きい所定の大きさに形成されている。
そして、ダイ54の上に、低圧用バスバー20aの重ね合せ部34が載置されると共に、重ね合せ部34に、高圧用バスバー16aが重ね合わされて位置固定される。この状態でポンチ52の先端部56をダイ54の凹所64に向けて移動させることにより、高圧用バスバー16aが低圧用バスバー20a側に押し込まれ、高圧用バスバー16aと低圧用バスバー20aが、重ね合わせ部分において局部的にダイ54の凹所64内に張り出されて、有底筒部42a,42bが形成される。有底筒部42a,42bは、ダイ54の凹所64の底面66に到達するまでは有底筒体形状を維持し、その後、更にポンチ52が前進すると、凹所64内で横方向に広げられる。そして、環状溝68を含む凹所64内に材料が満たされることにより、高圧用バスバー16aの有底筒部42aに係合凸部48が形成されると共に、低圧用バスバー20aの有底筒部42bに係合凹部50が形成される。そして、係合凸部48と係合凹部50の嵌合により、高圧用バスバー16aと低圧用バスバー20aが接合される。
また、同様に、高圧用バスバー16bに対して、低圧用バスバー20b,20c,20dが接合される。なお、高圧用バスバー16bには、3つの低圧用バスバー20b,20c,20dが接合されるが、好ましくは、それぞれの低圧用バスバー20b,20c,20dについてポンチ52とダイ54が用意されて、同時に接合される。
このようにして、高圧用バスバー16a,16bによって構成された高圧用回路18と、低圧用バスバー20a〜20d、および他の低圧用バスバー20を含んで構成された低圧用回路22とが相互に接続される。そして、図1に示したように、高圧用バスバー16および低圧用バスバー20は、ロアケース14に載置される。ロアケース14には、各バスバー16,20に対応する凹所形状のバスバー収容溝70が形成されており、各バスバー16,20が、対応するバスバー収容溝70に収容状態で載置される。なお、高圧用バスバー16a,16bが収容されるバスバー収容溝70a,70bにおいて、接続部40と対応する位置には、接続部40に突出形成された有底筒部42a,42bを逃がすための退避凹所72が形成されている。高圧用バスバー16a,16bと低圧用バスバー20a〜20dがそれぞれバスバー収容溝70に収容されることにより、高圧用バスバー16a,16bと低圧用バスバー20a〜20dが接続部40回りで相対回転することが防止されている。高圧用バスバー16a,16bは、リレー接続部30,30がリレー26にボルト固定されると共に、ボルト挿通孔28,28にスタッドボルト74が挿通されて、ロアケース14にセットされる。また、高圧用バスバー16aは、電流センサ24に挿通されてロアケース14にセットされている。
そして、ロアケース14にアッパケース12が被せられて、ロアケース14の外周面の複数箇所に形成されたロック爪76と、対応するアッパケース12の外壁に形成されたロック片78とが相互に係合されることで、ロアケース14とアッパケース12が相互に組み付けられる。アッパケース12の上面には、ヒューズ80が装着されるヒューズ装着部82、抵抗84が装着される抵抗装着部86、リレー88が装着されるリレー装着部90、コネクタが装着されるコネクタ装着部(図示省略)等が設けられている。そして、ロアケース14にアッパケース12が被せられることによって、各低圧用バスバー20に設けられた端子部36が各装着部82,86,90等に配設されて、必要に応じて中継端子92を介してヒューズ80や抵抗84、リレー88、コネクタ等と接続される。なお、低圧用バスバー20aの端子部36は、リレー装着部90に配設されてリレー88と接続される。低圧用バスバー20bの端子部36は、コネクタ装着部に配設されてコネクタと接続される。低圧用バスバー20cの端子部36は、抵抗装着部86に配設されて抵抗84と接続される。低圧用バスバー20dの端子部36は、ヒューズ装着部82に配設されてヒューズ80と接続される。
本実施形態に従う構造とされた高圧用電気接続箱10においては、高圧用回路18を構成する高圧用バスバー16a,16bと、低圧用回路22を構成する低圧用バスバー20a〜dが、メカニカルクリンチで形成された接続部40で接続されている。これにより、高圧用バスバー16a,16bと低圧用バスバー20a〜dを、中継端子等の別部品を介することなく、高い接触荷重をもって接続することができる。その結果、接続部40における接触抵抗を低減することができる。また、高圧用バスバー16と低圧用バスバー20との接触荷重を安定的に確保して、接触抵抗の変動を抑えられることから、高圧用バスバー16aのように、電流センサ24の検出用バスバーとして利用される場合には、検出精度の向上を図ることができる。
そして、高圧用バスバー16a,16bと低圧用バスバー20a〜dとの接続に別部品を要さないことから、部品点数を削減することができると共に、接続部40の小型化を図ることができる。その結果、高圧用電気接続箱10の製造コストの低減と、軽量化および小型化を図ることができる。また、高圧用バスバー16a,16bと低圧用バスバー20a〜dを、ボルト締め等に比して効率良く接続することができ、複数箇所を同時に接続することも可能であり、例えば高圧用バスバー16bに接続される複数の低圧用バスバー20b,20c,20dにメカニカルクリンチを同時に施すことにより、製造効率の更なる向上を図ることができる。
さらに、高圧用バスバー16の板厚寸法:th が、低圧用バスバー20の板厚寸法:tl に比して大きくされている。これにより、高圧用バスバー16a,16bの幅寸法の増大を抑えつつ、通電断面積を確保することができ、高圧用バスバー16a,16bの配索スペース効率を向上することができる。そして、板厚寸法の大きな高圧用バスバー16側から板厚寸法の小さな低圧用バスバー20側に押し込んでメカニカルクリンチを形成することによって、特に板厚寸法の小さな低圧用バスバー20が破断されるおそれを軽減して、成形不良のおそれを低減することができる。更に、低圧用バスバー20における高圧用バスバー16との重ね合せ部34を幅広に形成して幅寸法を確保することによって、破断のおそれがより低減されている。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、高圧用バスバーおよび低圧用バスバーの個数および具体的形状は、要求される回路配索形状等に応じて適宜に設定され得ることは、勿論である。