JP2015050996A - 変異型pcna - Google Patents
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Abstract
【解決手段】特定のアミノ酸配列における、82、84、109番目に相当するアミノ酸残基のうち少なくとも1つと、139、143、147番目に相当するアミノ酸残基のうち少なくとも1つとが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列からなる、PCNA単量体。前記のアミノ酸残基に置き換えられたペプチド。前記ペプチドで示されるPCNA単量体において1若しくは数個のアミノ酸残基が更に置換、欠失、挿入したペプチド、若しくは、前記の特定のアミノ酸配列との同一性が80%以上の配列であるペプチドで増幅増強活性を有するペプチド。
【選択図】なし
Description
配列番号1または2に記載のアミノ酸配列における、下記の(a)で示される群に相当する位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも1つと、(b)で示される群に相当する位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも1つとが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列からなる、PCNA単量体。
(a)82、84、109番目のアミノ酸残基群
(b)139、143、147番目のアミノ酸残基群
[項2]
以下の(1)から(4)のうちいずれかで示される項1のPCNA単量体。
(1)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列における、82番目に相当するアミノ酸残基と、143番目に相当するアミノ酸残基とが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列における、109番目に相当するアミノ酸残基と、143番目に相当するアミノ酸残基とが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(3)(1)または(2)で示されるPCNA単量体において、さらに、項1で記載の(a)および(b)で示される群以外の部位において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列からなり、増幅増強活性を有するポリペプチド。
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列との同一性が80%以上、または、配列番号2で示されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、増幅増強活性を有するポリペプチド。
[項3]
項1または2に記載のPCNA単量体が備えるアミノ酸配列をコードするDNA。
[項4]
項3に記載のDNAを組み込んだベクター。
[項5]
項4に記載のベクターを含む形質転換体。
[項6]
項5に記載の形質転換体を培地で培養し、前記形質転換体中または培地中に、PCNA単量体および/または前記単量体で構成された多量体を蓄積させ、蓄積したPCNAの単量体または多量体を回収する工程を含む、PCNAの製造方法。
[項7]
項1または2に記載のPCNA単量体および/または前記単量体で構成された多量体を含むDNA複製用試薬。
[項8]
項7に記載の試薬を備えた、DNA複製用キット。
[項9]
PCR用の試薬を備えた、項8に記載のDNA複製用キット。
[項10]
項1または2に記載のPCNA単量体および/または前記単量体で構成された多量体と、DNAポリメラーゼとの存在下でDNAの合成反応を行う、DNAの複製方法。
[項11]
前記DNAの合成反応がPCRである、項10に記載のDNAの複製方法。
本明細書においては、塩基配列、アミノ酸配列およびその個々の構成因子については、アルファベット表記による簡略化した記号を用いる場合があるが、いずれも分子生物学・遺伝子工学分野における慣行に従う。また、本明細書においては、アミノ酸配列の変異を簡潔に示すため、例えば「D143A」などの表記を用いる。「D143A」は、第143番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したことを示しており、すなわち、置換前のアミノ酸残基の種類、その場所、置換後のアミノ酸残基の種類を示している。また、配列番号は、特に断らない限り、配列表に記載された配列番号に対応する。また、多重変異体の場合は、上記の表記を「/」でつなげて表す。たとえば「D143A/D147A」は、第143番目のアスパラギン酸をアラニンに置換し、かつ、第147番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したことを示す。
また、本明細書において「変異型PCNA」という場合の「変異型」とは、従来知られたPCNAとは異なるアミノ酸配列を備えることを意味するものであり、人為的変異によるか自然界における変異によるかを区別するものではない。
配列の一次構造を比較する方法としては、種々の方法が知られている。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。
本明細書では、DNA Databank of Japan(DDBJ)のClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php?lang=ja)においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、配列の一次構造を比較する。
(a)82、84、109番目のアミノ酸残基群
(b)139、143、147番目のアミノ酸残基群
配列番号1は、Thermococcus Kodakaraensis KOD1株(以下、単にKODとも記載する。)由来のPCNAのアミノ酸配列である。また、配列番号2は、Pyrococcus furiosus(以下、単にPfuとも記載する。)由来のPCNAのアミノ酸配列である。
パイロコッカス属由来のPCNAとしては、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus sp.GB−D、Pyrococcus Woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたPCNAを含むが、これらに限定されない。
サーモコッカス属に由来するPCNAとしては、Thermococcus kodakaraensis、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF−3、Thermococcus sp.9degrees North−7(Thermococcus sp.9°N−7)、Thermococcus sp.KS−1、Thermococcus celer、又はThermococcus siculiから単離されたPCNAを含むが、これらに限定されない。
(1)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列における、82番目に相当するアミノ酸残基と、143番目に相当するアミノ酸残基とが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列における、109番目に相当するアミノ酸残基と、143番目に相当するアミノ酸残基とが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
一又は数個の変異は、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)など公知の手法を利用して、後述する本発明のPCNA単量体をコードするDNAに変異を導入することによって実施することが可能である。また、紫外線照射など他の方法によってもバリアントPCNA単量体を得ることができる。バリアントPCNA単量体には、PCNAを保持する微生物の個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じるバリアント(例えば、一塩基多型)も含まれる。
本明細書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、アミノ酸配列の同一性を算出する。
本発明の変異型PCNA単量体においては、上記で示される位置のアミノ酸残基のうち少なくとも1つ以上が中性アミノ酸残基に置換されるが、置換する中性アミノ酸の種類は特に限定されない。中性アミノ酸としては、天然のものであれば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。好ましくは、置換部位の周辺部位の立体構造に与える影響がもっとも小さいアラニンである。
PCNAの増幅増強活性を評価しやすくするため、伸長時間を短くし、増幅量を少なくした反応系でPCNAの増幅増強活性を比較する。
本明細書においては、増幅増強活性は以下の方法で評価する。
(i)PCR
KOD DNA Polymerase(Toyobo社製)添付の10×PCR Buffer#1(反応に用いる濃度の10倍に濃縮されている。)を用いて、
1×PCR Buffer、および1mM MgCl2、
0.2mM dNTPs、
6pmolのプライマー(配列番号5及び6)、
50ngのヒトゲノムDNA(Roche製)、
0.4UのKOD−Plus−
を含むよう反応液を調製する。
20μlの前記反応液中に、評価するPCNAを300ng添加し、
94℃、2分の前反応の後、98℃、5秒→68℃、36秒を30サイクル繰り返すスケジュールでPCRを行う。
(ii)PCR産物の分析
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下、増幅DNA断片を、PCNAを添加していないものと比較することで増幅増強活性を評価することができる。増幅増強活性の高いPCNAは添加によって増幅量が増加する。
PCRにおいては、プライマーと鋳型DNAを用いてDNA複製を繰り返し、幾何級数的にDNAを増幅させる。そのため、PCNAはDNAポリメラーゼに対するクランプとしての機能を果たすと共に、DNAポリメラーゼが鋳型上で安定した後または所定領域の増幅後には鋳型から速やかに外れることが望ましい。
本発明のPCNA変異体が従来のPCNA変異体よりDNAの複製反応を促進し得る作用・機序は必ずしも明確ではないが、多量体により形成される環構造が温度上昇時に解除されるような構造を有することにより、DNAの複製反応の繰り返しが円滑に行われ、その結果、DNA複製反応をより促進するということが推測される。
本発明のPCNA単量体は、単離されたもの又は精製されたものであることが好ましい。また、本発明のPCNA単量体は、上記保存に適した溶液中に溶解した状態又は凍結乾燥された状態(例えば、粉末状)で存在してもよい。本発明のPCNA単量体に関して使用する場合の「単離された」とは、当該酵素以外の成分(例えば、宿主細胞に由来する夾雑タンパク質、他の成分、培養液等)を実質的に含まない)状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離されたPCNA単量体は、夾雑タンパク質の含有量が重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。一方で、本発明のPCNA単量体は、保存又は酵素活性の測定に適した溶液(例えば、バッファー)中に存在してもよい。また、一部または全部が三量体などの多量体を形成していてもよい。
(2.1)本発明のPCNAをコードするDNA
本発明の実施形態の一つは、上記の本発明の変異型PCNAが備えるアミノ酸配列をコードするDNAである。具体的には以下の(A)〜(D)のいずれかである。
(a)82、84、109番目のアミノ酸残基群
(b)139、143、147番目のアミノ酸残基群
(a)244〜246、250〜252、325〜327番目のヌクレオチド群
(b)415〜417、427〜429、439〜441番目のヌクレオチド群
(a)244〜246、250〜252、125〜327番目のヌクレオチド群
(b)415〜417、427〜429、439〜441番目のヌクレオチド群
下記の(a)で示される群の位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも1つと、(b)で示される群の位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも1つとが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、
かつ上記の増幅増強活性を有するPCNAをコードするポリヌクレオチド
(a)82、84、109番目のアミノ酸残基群
(b)139、143、147番目のアミノ酸残基群
本明細書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムAdvanced BLAST 2.1において、プログラムにblastnを用い、各種パラメータはデフォルト値に設定して検索を行うことにより、ヌクレオチド配列の相同性の値(%)を算出する。
ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mLの変性サケ***DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる。
本発明の実施形態の一つは、上記の本発明の変異型PCNAが備えるアミノ酸配列をコードするDNAを組み込んだベクターである。
ベクターの具体例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)等を挙げることができる。また、糸状菌を宿主とする場合に適したベクターや、セルフクローニングに適したベクターを使用することも可能である。
本発明の実施形態の一つは、上記の本発明の変異型PCNAが備えるアミノ酸配列をコードするDNAを組み込んだベクターを含む形質転換体である。
DNAの宿主への導入手段は特に制限されないが、例えば、上記(2.2)で説明するベクターに組み込まれた状態で宿主に導入される。宿主細胞は、本発明のDNAを発現して変異型PCNAを生産することが可能である限り、特に制限されない。具体的には、大腸菌、枯草菌等の原核細胞や、酵母、カビ、昆虫細胞、植物培養細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞等を使用することができる。
本発明の実施形態の一つは、前記の形質転換体を培地で培養し、前記形質転換体中または培地中に、PCNA単量体または前記単量体で構成された多量体を蓄積させ、蓄積したPCNAの単量体または多量体を回収する工程を含む、変異型PCNAの製造方法である。
特許文献1には、天然型のPfu−PCNAを、大腸菌を宿主とした組み替えタンパク質として調製した場合、本来の開始Metからの翻訳タンパク質以外に、N末端が73残基目からスタートする約20kDaのタンパク質が副産物として生成されるが、M73Lではこの約20kDaのタンパク質の生成が抑えられること、このように作製されたPfu−PCNA(M73L)は野生型PCNAとかわらない性質を有していることなどから、M73Lを準野生型として扱っている。また、特許文献1の実施例ではKOD−PCNAについてもM73Lを準野生型として扱っている。これらのことから、本明細書でも配列番号1または2に記載のアミノ酸配列のM73L変異を野生型に相当するものとみなして扱う。
(3.1)DNAの複製方法
本発明の実施形態の一つは、上記の本発明のPCNAおよびDNAポリメラーゼの存在下でDNAの合成反応を行う、DNAの複製方法である。前記方法において、PCNAは単量体であっても前記単量体で構成された多量体のいずれであってもかまわないし、その両方の形態が混在していても良い。
増幅対象DNAに、本発明のPCNAおよびDNAポリメラーゼのほか、プライマー、DNA合成基質(デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP))およびMgイオンを含むバッファー溶液を混合し、PCR装置にセットして前記PCR装置を以下の(I)から(IV)で示されるサイクルに設定して反応を行う。
(I)反応液を94°C程度に加熱し、30秒から1分間温度を保ち、2本鎖DNAを1本鎖に分かれさせる。
(II)60°C程度(プライマーによって若干異なる)にまで急速冷却し、その1本鎖DNAとプライマーをアニーリングさせる。
(III)プライマーの分離がおきずDNAポリメラーゼの活性に至適な温度帯まで、再び加熱する。実験目的により、その温度は60−72℃程度に設定される。DNAが合成されるのに必要な時間、増幅する長さによるが通常1分から2分、この温度を保つ。
(IV)ここまでが1つのサイクルで、以後、(I)から(III)までの手順を繰り返していく事で特定のDNA断片を増幅させる。
本発明のPCNAは特に伸長性向上に有効であり、忠実性には優れるが、伸長性に劣るタイプのα型ポリメラーゼとの組み合わせにおいて特に有用である。典型的なα型ポリメラーゼとしては、ファミリーBに属するものが挙げられる。なかでもPyrococcusやThermococcusなど古細菌に由来するものが好ましい。
例えば、Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社)、TaKaRa EX Taq(タカラバイオ社)、Vent DNA Polymerase(NEW ENGLAND Bio Labs社)、Deep VentR DNA Polymerase(New England Biolabs社)、Pfu Turbo DNA Polymerase(ストラタジーン社)、KOD DNA Polymerase(東洋紡社)、およびPwo DNA Polymerase(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)など、現在主要に用いられているDNAポリメラーゼのほとんどに適用し得る。
このような変異体としては、具体的には、Thermococcus kodakaraensis KOD1株由来のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列(配列番号10)の1〜40番目、および78〜130番目によって形成されるウラシルの結合に関するアミノ酸配列(ウラシル結合ポケット)の少なくとも1か所に改変を加え、野生型のDNAポリメラーゼと比較してウラシルやイノシンへの結合能力を低下させたDNAポリメラーゼ変異体が例示される。
本発明の核酸増幅法に用いる減少した塩基類似体検出活性を有する古細菌由来のDNAポリメラーゼ変異体として、より好ましいのは、ウラシルと相互作用に直接関連していると想定されている、配列番号10または配列番号11で示されるアミノ酸配列の7、36、37、90〜97および112〜119番目のうち少なくとも1つに改変を加えた古細菌DNAポリメラーゼ変異体、すなわち、
(a1)配列番号10または配列番号11で示されるアミノ酸配列の7、36、37、90〜97および112〜119番目に相当するアミノ酸のうち、少なくとも1つのアミノ酸の改変を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
である。
(a2)(a1)で示されるDNAポリメラーゼ変異体において、さらに、7、36、37、90〜97および112〜119番目以外の部位において少なくとも1つのアミノ酸が改変されており、そのアミノ酸配列と配列番号10との同一性またはそのアミノ酸配列と配列番号11との同一性が80%以上(好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上)であり、かつ、減少した塩基類似体検出活性を有するポリペプチド。
(a3)(a1)で示されるDNAポリメラーゼ変異体において、さらに、7、36、37、90〜97および112〜119番目以外の部位において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されており、かつ、減少した塩基類似体検出活性を有するポリペプチド。
本発明の核酸増幅法に用いる減少した塩基類似体検出活性を有する古細菌DNAポリメラーゼ変異体は、より好ましくは、配列番号10または配列番号11で示されるアミノ酸配列の7、36、または93番目に相当するアミノ酸のうち、少なくとも1つのアミノ酸の改変を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
3‘−5’エキソアーゼ活性とは、取り込まれたヌクレオチドをDNA重合体の3’末端から除去する能力を指し、上記の3‘−5’エキソヌクレアーゼ領域とは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼで高度に保存されている部位であり、サーモコッカス・コダカラエンシスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号10)、パイロコッカス・フリオサスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号11)、サーモコッカス・ゴルゴナリウスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号12)、サーモコッカス・リトラリスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号13)、パイロコッカス・エスピーGB−Dに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号14)、サーモコッカス・エスピーJDF−3に由来するDNAポリメラーゼ(配列番号15)、サーモコッカス・エスピー9°N−7に由来するDNAポリメラーゼ(配列番号16)、サーモコッカス・エスピーKS−1に由来するDNAポリメラーゼ(配列番号17)、サーモコッカス・セラーに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号18)、又はサーモコッカス・シクリに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号19)においては、137〜147、206〜222、および308〜318番目のアミノ酸である。
本発明は具体的に配列を提示したDNAポリメラーゼ以外のDNAポリメラーゼにも適用される。また、配列番号10〜19に示されるDNAポリメラーゼ以外のファミリーBに属する古細菌由来DNAポリメラーゼにおいては、配列番号10の137〜147、206〜222、および308〜318番目のアミノ酸からなる3‘−5’エキソヌクレアーゼ領域と対応する領域のことを示す。
増幅対象DNAに、
(a)DNAポリメラーゼ
(b)PCNA
(c)一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である一対のプライマー
(d)DNA合成基質(デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP))、および、
(e)マグネシウムイオン、アンモニウムイオン及び/又はカリウムイオンを含むバッファー溶液
を、混合し、
サーマルサイクラー等を用いて反応液の温度を上下させることにより、(1)DNA変性、(2)プライマーのアニーリング、(3)プライマーの伸長の熱サイクルを繰り返し、特定のDNA断片を増幅させる。
上記PCR方法においては、必要に応じて、さらに、BSA、非イオン界面活性剤を用いてもよい。
本発明の試薬キットは、上記本発明のPCNAおよび必要に応じその他の試薬類を含むDNA複製用の試薬キットである。本発明のPCNAは、単量体および/または前記単量体で構成された多量体を含む形態で、DNA複製用試薬の一成分として好適に用い得る。本発明の試薬キットは、本発明のPCNAがPCRにおいて特に好適に用い得るため、PCR用の試薬キットとして特に好適である。
KOD−PCNA変異体の作製
サーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来の改変型耐熱性PCNA遺伝子を含有するプラスミドを作製した。
変異導入に使用されるDNA鋳型は、pBlueScriptにクローニングされたサーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来のPCNA(配列番号3)(pKODPCNA)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(Toyobo社製)を用いて、方法は取扱い説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、酵素調製に用いた。
Pfu−PCNA変異体の作製
パイロコッカス・フリオサス由来の改変型耐熱性PCNA遺伝子を含有するプラスミドを作製した。
変異導入に使用されるDNA鋳型は、pBlueScriptにクローニングされたパイロコッカス・フリオサス株由来のPCNA(配列番号4)(pPfuPCNA)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(Toyobo社製)を用いて、方法は取扱い説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、酵素調製に用いた。
実施例1および実施例2で作製したプラスミドを表1に示す。
改変型耐熱性PCNAの作製
実施例1および実施例2で得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mLのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)80mLを500mL坂口フラスコに分注した。この培地に予め100μg/mLのアンピシリンを含有する3mLのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ製)で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリDH5α(プラスミド形質転換株)(試験管使用)を接種し、37℃にて16時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、50mLの破砕緩衝液(30mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、30mM NaCl、0.1mM EDTA)に懸濁後、ソニケーション処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を80℃にて15分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、Qセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、改変型耐熱性PCNAを得た。
PCNAの評価
PCNAの増幅増強活性を比較するため、KOD−PCNAの変異体(M73L、M73L/E143R、M73L/R109A/E143A、M73L/E143A/R82A)を用いてPCRでの増幅量の違いを、上記(1.3.1)で示した増幅増強活性の測定方法に従い、PCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いて、Human β−グロビンの3.6kbを増幅することで比較した。なお、上述のとおり、M73L変異を野生型に相当するものとみなす。
PCNAは多量体を形成し反応を促進するが、多量体形成が強すぎるとRFCの働きなしではDNAにロードできず反応が進まない。M73L/R109A/E143A、M73L/E143A/R82Aの改変は、多量体形成に関わる部位への改変であり、適度に多量体形成が弱まったため、PCNAが単独でDNAにロードでき、PCR増幅量を向上させたことが考えられる。
PCNA添加による血液からの増幅
PCNA変異体の添加効果を確認するため、血液からの直接PCRを実施した。比較には、KOD−PCNA変異体(M73L、M73L/R82A/E143A)を用い、HBgの3.6kbの増幅量の違いを比較した。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
結果、PCNA添加なし、M73Lの変異体では4μg添加しても血液から直接増幅が確認されないところ、M73L/R82A/E143Aの変異体は0.5μg添加すれば血液が8%含まれていてもしっかりしたバンドが確認された(図2)。
KOD DNAポリメラーゼ変異体の作製
後述の実施例におけるPCNAの評価に用いるために、KOD DNAポリメラーゼV93K変異体(以下、KOD V93K)を以下の方法で作製した。
KOD V93KのプラスミドはpBlueScriptにクローニングされたサーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来の改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子(配列番号7)(pKOD)に変異を挿入することで調製した。
変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(Toyobo社製)を用いて、方法は取扱い説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリJM109を形質転換し、酵素調製に用いた。
上記で得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mLのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)80mLを500mL坂口フラスコに分注した。この培地に予め100μg/mLのアンピシリンを含有する3mLのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ製)で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリJM109(プラスミド形質転換株)(試験管使用)を接種し、37℃にて16時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、50mLの破砕緩衝液(30mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、30mM NaCl、0.1mM EDTA)に懸濁後、ソニケーション処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を80℃にて15分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、ヘパリンセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、改変型耐熱性DNAポリメラーゼを得た。
A:40mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)16mM 塩化マグネシウム15
mM ジチオスレイトール100μg/mL BSA(牛血清アルブミン)
B:1.5μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C:1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D:20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E:1mg/mL仔牛胸腺DNA
PCNA添加によるdUTP存在下での増幅
上記で得られたKOD V93Kを用いてdUTP存在下でKOD−PCNA変異体(M73L、M73L/R109A/E143A、M73L/R82A/E143A)添加による効果を比較した。
PCRにはKOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付の10×PCR Bufferを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO4、dTTPの代わりにdUTPを含んだ0.2mM dNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP)、約1.3kbを増幅する15pmolの配列番号8及び9に記載のプライマー、10ngのヒトゲノムDNA(Roche製)、1U KOD DNAポリメラーゼ V93K変異体を含む50μlの反応液中に、評価するPCNAを250ng添加し、94℃、30秒の前反応の後、98℃、10秒→65℃、30秒→68℃、1分30秒を35サイクル繰り返すスケジュールでPCRを行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
PCNA添加によるDNAポリメラーゼ合成速度比較
KOD V93K変異体にM73L/R109A/E143AのKOD−PCNA変異体を添加し、合成速度を測定した。KOD V93Kは、保存緩衝液(50mM Tris−HCl(pH8.0),50mM KCl,1mM ジチオスレイトール,0.1% Tween20,0.1% Nonidet P40,50% グリセリン)で希釈し用いた。また、PCNA変異体は各反応系に250ng添加し、合成速度を測定した。
試薬・方法は、以下の<DNAポリメラーゼ合成速度測定法>に従い実施した。
(1)下記のA液2.5μl、B液2.5μl、C液1.5μl、D液4.8μl、およびE液4μlを混合し、95℃にて10分、37℃にて10分置き、基質を作成する。
(2)、75℃にて30秒、インキュベートさせた基質に0.64ng/μl酵素溶液5μlを加えて75℃にて30秒、60秒、120秒反応する。その後氷冷し、F液35μlを加えて、よく攪拌する。
(3)この液を10μl、1%のアルカリアガロースゲルに供し、Biotinylated 2−Log DNA Ladder (0.1−10 kb)(NEB製)をマーカーとし電気泳動する。
(4)Hybond N+へブロッテリングし、NEBのPhototope−Star Chemiluminescent Detection Kitの取説に従い、ビオチンを検出する。1秒当たりに伸長した鎖の長さを合成速度とする。
A:10×PCR Buffer for KOD −Plus− Ver.2(TOYOBO製)
B:2mM dNTPs(TOYOBO製)
C:25mM MgSO4
D:200ng/μl M13 ssDNA(TaKaRa製)
E:100μM Biotin化P7プライマー(配列:Biotin−CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC)
F:59mM NaOH、59mM EDTA、0.1% BPB 30% Glycerol
Claims (11)
- 配列番号1または2に記載のアミノ酸配列における、下記の(a)で示される群に相当する位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも1つと、(b)で示される群に相当する位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも1つとが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列からなる、PCNA単量体。
(a)82、84、109番目のアミノ酸残基群
(b)139、143、147番目のアミノ酸残基群 - 以下の(1)から(4)のうちいずれかで示される請求項1のPCNA単量体。
(1)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列における、82番目に相当するアミノ酸残基と、143番目に相当するアミノ酸残基とが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列における、109番目に相当するアミノ酸残基と、143番目に相当するアミノ酸残基とが中性アミノ酸残基で置き換えられたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(3)(1)または(2)で示されるPCNA単量体において、さらに、項1で記載の(a)および(b)で示される群以外の部位において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列からなり、増幅増強活性を有するポリペプチド。
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列との同一性が80%以上、または、配列番号2で示されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、増幅増強活性を有するポリペプチド。 - 請求項1または2に記載のPCNA単量体が備えるアミノ酸配列をコードするDNA。
- 請求項3に記載のDNAを組み込んだベクター。
- 請求項4に記載のベクターを含む形質転換体。
- 請求項5に記載の形質転換体を培地で培養し、前記形質転換体中または培地中に、PCNA単量体および/または前記単量体で構成された多量体を蓄積させ、蓄積したPCNAの単量体または多量体を回収する工程を含む、PCNAの製造方法。
- 請求項1または2に記載のPCNA単量体および/または前記単量体で構成された多量体を含むDNA複製用試薬。
- 請求項7に記載の試薬を備えた、DNA複製用キット。
- PCR用の試薬を備えた、請求項8に記載のDNA複製用キット。
- 請求項1または2に記載のPCNA単量体および/または前記単量体で構成された多量体と、DNAポリメラーゼとの存在下でDNAの合成反応を行う、DNAの複製方法。
- 前記DNAの合成反応がPCRである、請求項10に記載のDNAの複製方法。
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