好ましい態様の詳細な説明
本発明者らは本明細書において、HER2上方制御がんの処置に対する新規の手法でのHER2/Neuがん原遺伝子の転写抑制について記述する。本発明者らは、多機能ヒトアデノウイルス(Ad)初期領域1A (E1A)がん遺伝子の単一の機能ドメインを用いて、HER2発現を転写抑制し、かくしてHER2を介した乳がんの発病におけるその機能を無効にすることを提唱する。HER2の強力なE1A転写抑制因子の成功裏の特定および開発は、ハーセプチン(登録商標) (トラスツズマブ) (Beuzeboc et al., 1999)によるまたは他の従来の化学療法計画による有益な補助療法につながる可能性がある。E1AによるHER2の転写抑制は、HER2機能をブロックする優れた方法であることが判明しうる。ハーセプチンは、HER2上方制御がんにおいてHER2チロシンキナーゼ細胞表面受容体の機能を妨げる; しかしながら、わずかな割合の非ブロック化受容体であっても、HER2シグナルカスケードに、がん細胞の増殖を広めさせることができる。E1Aは、他方で、ハーセプチン(登録商標)よりも早い段階で作用して、HER2転写を効率的に抑制し、かくしてその細胞内レベルを大いに低減する。それゆえ、E1Aを用いた治療は、任意によりハーセプチンとの共同療法で、HER2がん遺伝子中毒のがん細胞の有効な処理を実質的に高める可能性がある。本発明のこれらのおよびその他の局面は、以下で詳述される。
I. HER2/Neu
HER2/neu (ErbB-2としても公知)は、「ヒト上皮増殖因子受容体2」を表し、乳がんにおいていっそう高い攻撃性をもたらすタンパク質である。HER2/neuは、より一般的には上皮増殖因子受容体ファミリーとして公知の、ErbBタンパク質ファミリーの一員である。HER2/neuはまた、CD340 (分化抗原群340)およびp185と表されている。HER2/neuはERBB2遺伝子によってコードされる。
HER2は、細胞膜表面結合受容体チロシンキナーゼであり、通常、細胞の増殖および分化をもたらすシグナル伝達経路に関与する。HER2は、公知のがん原遺伝子HER2/neuによってゲノム内にコードされる。HER2はオーファン受容体であると考えられ、EGFファミリーのリガンドのいずれもHER2を活性化することができない。しかしながら、ErbB受容体はリガンド結合によって二量体化し、HER2はErbBファミリーの他の成員の選択的二量体化パートナーである。HER2/neu遺伝子は、ヒト第17染色体の長碗(17q21〜q22)に位置するがん原遺伝子である。
乳がんのおよそ30%は、HER2/neu遺伝子の増幅またはそのタンパク質産物の過剰発現を有している。乳がんにおけるこの受容体の過剰発現は、疾患再発の増大および予後の悪化に関連している。その予後特徴役割やトラスツズマブ(米国商標名ハーセプチン)に対する応答を予測するその能力のため(以下参照)、***腫瘍はHER2/neuの過剰発現について日常的に検査されている。過剰発現は卵巣がん、胃がん、および生物学的に攻撃型の子宮がん、例えば子宮漿液性の子宮内膜がんのような、他のがんにおいても起こる。
がん遺伝子HER2/neuは、神経性腫瘍の一種である、げっ歯類膠芽細胞腫細胞株から導出されたので、「neu」であり、そう名付けられている。HER2は、ヒト上皮増殖因子受容体すなわちHER1と類似の構造を有するので、そう命名されている。ErbB2は、EGFRをコードすることが後に分かったがん遺伝子ErbB (鳥類赤芽球症がん遺伝子B)とのその類似性にちなんで命名された。遺伝子クローニングによって、neu、HER2、およびErbB2が同じものであることが示された。
HER2は、同じくがん原遺伝子(例えば、乳がん、精巣生殖細胞腫瘍、胃がん、および食道がんにおいて活性)である、遺伝子GRB7と共局在し、したがって、大体の場合、同時増幅される。ER-/HER2+乳がんと比べてER+/HER2+乳がんを有する患者は、PI3K/AKT分子経路を阻害する薬物から、より多くの利益を実際に得られることが明らかにされている。HER2は、腫瘍形成に関与しうるクラスタを形成することが知られている。
II. アデノウイルスおよびE1A
アデノウイルスは非エンベロープ、正二十面体の、二本鎖DNAウイルスである。タンパク質エンベロープ(キャプシド)は、252個のキャプソメアから構成されており、そのうち、240個がヘキソンであり、12個がペントンである。アデノウイルスポリペプチドの詳細な構造研究の大部分は、アデノウイルス2型および5型について行われている。ウイルスDNAは、アデノウイルス2型の場合には23.85×106ダルトンであり、血清型に依って大きさがわずかに異なる。そのDNAは反転末端リピートを有し、これらの長さは血清型によって異なる。ほとんどすべての成人がある時期にアデノウイルスに感染しており、その主な影響は風邪のような症状である。アデノウイルスは、げっ歯類でのその発がん作用のため、「DNA腫瘍ウイルス」といわれる。
複製サイクルは早(E)期および後(L)期に分けられる。後期がウイルスDNA複製の開始を規定する。アデノウイルス構造タンパク質は一般的に、後期の間に合成される。アデノウイルス感染の後、大部分の血清型に感染した細胞では宿主DNAおよびタンパク質の合成が阻害される。アデノウイルス2型およびアデノウイルス5型によるアデノウイルス溶解サイクルは、非常に効率的であり、ウイルス粒子の中に組み入れられない過剰なウイルスタンパク質およびDNAの合成とともに感染細胞あたりおよそ10,000個のウイルス粒子を生じる。初期アデノウイルス転写は、複雑な一連の、相互に関連した生化学的事象であるが、本質的には、ウイルスDNA複製の開始の前にウイルスRNAの合成を必要とする。
アデノウイルスゲノムの構成は、アデノウイルス群の全てで類似しており、特異的な機能は一般的に、研究されている各血清型について同一の位置に位置付けられる。初期細胞質メッセンジャーRNAは、ウイルスDNA上の4つの、定義された、非隣接領域と相補的である。これらの領域は、(E1〜E4)と指定されている。初期転写産物は、一連の前初期(E1a)領域、後初期(E1b、E2a、E2b、E3およびE4)領域、ならびに中間(IVa2.1X)領域に分類されている。
E1a領域は、ウイルス遺伝子および細胞遺伝子の転写トランス活性化、ならびに他の配列の転写抑制に関与している。E1a遺伝子は、その他の初期アデノウイルスメッセンジャーRNAの全てに対して重要な制御機能を及ぼす。正常組織では、領域E1b、E2a、E2b、E3、またはE4を効率的に転写するために、活性なE1a産物が必要とされる。しかしながら、E1a機能はバイパスされうる。細胞は、E1a様機能を提供するように操作されうるか、またはそのような機能をもともと含みうる。ウイルスはまた、その機能をバイパスするように操作されうる。
E1b領域は、感染の後期のウイルスにおける事象の正常な進行に必要とされる。E1b産物は、宿主の核において作用する。E1b配列内で生じた変異体は、アデノウイルス感染の後期において通常観察される宿主細胞輸送の阻害の障害とともに、後期のウイルスmRNAの蓄積の低下を示す(Berkner, 1988)。E1bは、ウイルスの後期遺伝子産物に有利になるようプロセッシングおよび輸送がシフトされるように宿主細胞の機能を変化させるために必要とされる。次いで、これらの産物はウイルスのパッケージングおよびウイルス粒子の放出をもたらす。E1bは、アポトーシスを抑止する19 kDのタンパク質を産生する。E1bは、p53に結合する55 kDのタンパク質も産生する。
アデノウイルスのE1A遺伝子によりコードされるタンパク質は、主に2つの観点から研究されてきた。第1に、E1Aの243アミノ酸形態および289アミノ酸形態(243アミノ酸タンパク質が289アミノ酸タンパク質のサブセットであるような、前駆体RNAの選択的スプライシングから生じる)は、両方とも転写調節タンパク質である(Flint et al., 1989)。第2に、これらのタンパク質は、他のがん遺伝子によるある種のげっ歯類細胞の発がん性形質転換を促進し(Ruley, 1983)、したがって、E1Aは一般に、がん遺伝子として分類されている。
しかしながら、いくつかのがん遺伝子の発現はプログラム細胞死としても公知の、アポトーシスに対する細胞の感受性を高めうるという証拠がある(Lowe et al., 1993)。例えば、E1A遺伝子は初代げっ歯類細胞においてアポトーシスに対する細胞の感受性を高めうる(Roa et al, 1992)。c-mycのような、他のがん遺伝子も、プログラム細胞死に対する細胞の感受性を高めることができ(Evan et al., 1992)、c-mycの過剰発現も、腫瘍壊死因子-α (Chen et al., 1987)、またはエトポシド(Fanidi et al., 1992; Lowe et al., 前記)のような、抗がん剤により誘導されるアポトーシスに対する感受性を付与しうる。
興味深いことに、そしてげっ歯類細胞におけるE1Aの発がん作用およびアポトーシス作用とは対照的に、E1Aは、ヒトの場合腫瘍抑制遺伝子として働く。Frisch (1991)は、ヒト腫瘍細胞におけるアデノウイルスE1Aの抗発がん作用の証拠を提供している。より重要なことには、E1Aが、ヒト腫瘍細胞を感作し、化学療法および放射線照射処置に対する腫瘍細胞の応答を増強することは特筆すべきかつ予想外であった。
A. E1A 1〜80の構造的特徴
C群Ad E1Aは、243アミノ酸残基および289アミノ酸残基の2つの主要な調節タンパク質(E1A 243RおよびE1A 289R)をコードする(図1A)。E1Aタンパク質は、転写活性化、転写抑制、細胞DNA合成の誘導、細胞不死化、細胞形質転換、ならびに転移の誘導および細胞分化を含む、多様な生化学的および生物学的機能を有する複数のドメインをコードする。Ad血清型の間でよく保存されている少なくとも4つのE1A領域(CR1〜CR4)が存在する。E1Aのタンパク質ドメインは、重要な細胞転写調節因子およびプロモーターと相互作用して、細胞周期進行、細胞分化およびクロマチン再構築を制御するように進化を遂げている。
E1A 289Rは、保存領域3 (CR3) (アミノ酸残基番号140〜185)、つまり289Rに特有の46アミノ酸のドメインによってE1A 243Rとは異なる。CR3は、初期Ad遺伝子の転写活性化に不可欠かつ十分である(Lillie et al., 1987; Green et al., 1988)。Ad E1A 243Rがんタンパク質は、第1エクソン中の非保存N末端および2つの保存ドメインをコードし、これらは細胞不死化、細胞形質転換に不可欠であり、2つの経路によってS期DNA合成および細胞周期進行を誘導することができる。第1の、Rb-E2F経路では、CR1 (残基番号41〜80)およびCR2 (残基番号121〜139)内のE1A配列を必要とし、これらはRbファミリータンパク質の接触部位を保有している。第2の、N末端経路は、本発明者らの主な焦点であり、E1A N末端の80アミノ酸(E1A 1〜80)の範囲内に位置付けられている。E1A 1〜80は、CR1およびあまり保存されていない残基番号1〜40からなっており、E1Aの増殖調節機能にはこの領域内の配列が必要になるので、ますます重要である。E1A 1〜80においてコードされる重要な生化学的機能は、細胞増殖および細胞分化に関与する細胞遺伝子を転写的に抑制する能力である。
E1A 1〜80の詳細な変異/機能分析によって、E1A抑制に極めて重要である2つの領域またはサブドメイン: アミノ酸番号およそ1〜30およびおよそ48〜60が特定された(図1B)。第1のサブドメインにおける重要なアミノ酸には、(i) 6Cysがとりわけ重要である残基番号2〜6、および(ii) 残基20Leuが含まれる。これらの残基の全てが転写抑制機能に不可欠であり、TBP-TATA複合体の破壊に不可欠であるが、しかしアミノ酸残基番号6だけがインビトロの条件下でp300を結合するのに極めて重要であるように思われる(Boyd et al., 2002)。対照的に、第2のサブドメイン内のアミノ酸53Ala、54Pro、55Gluおよび56Aspは、E1A抑制機能に重要であり、E1Aの細胞パートナーp300の結合に重要であるが、しかしTBPの結合にはまたはTBP-TATA複合体の破壊には重要でない(Loewenstein et al., 2007)。
これらの知見の組み合わせから、E1A抑制のための分子機構としての2段階の仮想的モデルが示唆される(Loewenstein et al., 2007)。第1にE1Aはp300を「分子足場」として用い、特異的E1A抑制性プロモーターに接近する。E1Aは、第1のサブドメイン内の6Cys (およびおそらく隣接アミノ酸)を通じて、ならびに第2のサブドメイン内の53Ala、54Pro、55Gluおよび56Asp (およびおそらく隣接アミノ酸)によってp300を結合する可能性が高い。第2の段階の間、「分子足場」との相互作用を通じてプロモーターに接近した後に、E1AのN末端サブドメインはTBPと相互作用することができる。この相互作用はTBPの立体構造を変化させ、かくして、それをTATAボックスから消散させうる。
E1A 1〜80のアミノ酸配列(SEQ ID NO:1)は、図1Bにおいて提供されており、ここでは1文字表記で記載されている。
B. ペプチド
本発明は、完全長E1Aの残基番号1〜80 (SEQ ID NO:1)を含むか、それから本質的になるかまたはそれからなるE1Aのペプチドおよび断片の使用を企図する。これに関連して、「から本質的になる」とは、指定の分子が、E1A 1〜80の転写抑制機能を変化させうるいずれかのさらなる配列を含まないことを意味する。E1A 1〜80という用語は、具体的には、E1Aの残基番号1〜80だけを含むポリペプチドと定義されるが、しかし本発明は、より一般的には、残基番号1〜80および他の非E1A (または非アデノウイルス)配列を含むE1A分子と定義されうる。したがって、分子は少なくとも80残基を含むが、しかし完全長E1Aを決して含まない。特定の長さは、それゆえ、80残基、およびE1A 1〜80 C+の場合には119残基でありうる(以下の考察を参照のこと)。その他の長さが企図される。「さらなるE1A配列を実質的に欠く」という用語は、さらなるE1A配列を含むが、しかし無傷のE1Aポリペプチドにおけるように機能するいずれかのさらなるE1A構造を欠くセグメントと解釈されるべきである。ペプチドは、合成によりまたは組み換え技法により生成されてもよく、以下でさらに考察される公知の方法によって精製されてもよい。
ペプチドは蛍光剤、発色剤または比色剤のような、さまざまな分子を用いて標識されてもよい。ペプチドはまた、他の抗炎症剤を含む、他の分子に連結されてもよい。連結は、直接的であってもよく、または異なるリンカー分子を通してでもよい。リンカー分子は順に、インビボで、切断に供され、それによりペプチドから薬剤を放出してもよい。ペプチドはまた、より大きい、おそらく不活性の担体分子に連結させることによって多量体にされてもよい。
C. 細胞透過性ドメイン
本発明は、本発明のポリペプチドに連結された細胞送達ドメイン(細胞透過性ドメインまたは細胞形質導入ドメインとも呼ばれる)の使用を企図する。そのようなドメインは、当技術分野において記述されており、多数のリジンおよびアルギニン残基を含有することの多い、短い、両親媒性または陽イオン性ペプチドおよびペプチド誘導体と一般に特徴付けられる(Fischer, 2007)。その他の例は下記表1に示される。
CPPの特定例はHIV TATである。TATの残基番号48〜60、47〜57 (SEQ ID NO:13)および47〜55によって規定されるセグメントは全て、積み荷分子を細胞へ移入させる際に機能することが実証されている。PTD3、ポリアルギニン、CADY、PepFect6およびRXRのような他の配列を、同様に用いることができる。
D. 類似体および模倣体
同様に、本発明においてE1A 1〜80ペプチドの変種または類似体が、E1A 1〜80と同じように機能しうると企図される。主に保存的アミノ酸置換を作成するE1A 1〜80ペプチドの配列変種は、改善された組成物を提供すらしうる。置換変種は典型的に、タンパク質における1つまたは複数の部位で1つのアミノ酸と別のアミノ酸との交換を含有して、他の機能または特性を失うことなく、タンパク質分解切断に対する安定性などの、ポリペプチドの1つまたは複数の特性を調節するようにデザインされてもよい。この種の置換は好ましくは保存的であり、すなわち1つのアミノ酸を類似の形状および電荷の別のアミノ酸に交換する。保存的置換は当技術分野において周知であり、例えば、アラニンからセリン; アルギニンからリジン; アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジン; アスパラギン酸からグルタミン酸; システインからセリン; グルタミンからアスパラギン; グルタミン酸からアスパラギン酸; グリシンからプロリン; ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミン; イソロイシンからロイシンまたはバリン; ロイシンからバリンまたはイソロイシン; リジンからアルギニン; メチオニンからロイシンまたはイソロイシン; フェニルアラニンからチロシン、ロイシン、またはメチオニン; セリンからトレオニン; トレオニンからセリン; トリプトファンからチロシン; チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニン; およびバリンからイソロイシンまたはロイシンへの変化を含む。
以下は、等価な、または場合によっては改善された、第二世代分子を作製するためにペプチドのアミノ酸を変化させることに基づく考察である。例えば、ある種のアミノ酸は、例えば、抗体の抗原結合領域または基質分子上の結合部位のような、構造との相互作用結合能をあまり喪失させずに、タンパク質構造における他のアミノ酸のかわりに置換されうる。ペプチドの生物学的機能活性を規定するのはペプチドの相互作用能および性質であることから、ある種のアミノ酸置換をタンパク質配列、およびその基礎となるDNAコード配列に行うことができ、それでもなお、同類の特性を有するペプチドを得ることができる。したがって、以下で考察されるように、ペプチドをコードするDNA配列において、その生物学的有用性または活性をあまり喪失させずに、さまざまな変化が作成されうることが本発明者らによって企図される。
そのような変化を作成する場合、アミノ酸の疎水性親水性指標を考慮してもよい。タンパク質に相互作用生物機能を付与する際の疎水性親水性アミノ酸指数の重要性は、一般的に当技術分野において理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的な疎水性親水性指標の特徴が、得られるペプチドの二次構造に寄与し、これが今度は、ペプチドと他の分子との相互作用を規定することは容認されている。
各々のアミノ酸は、その疎水性および電荷特徴に基づいて疎水性親水性指標を割付されており(Kyte and Doolittle, 1982)、これらは: イソロイシン(+4.5); バリン(+4.2); ロイシン(+3.8); フェニルアラニン(+2.8); システイン/シスチン(+2.5); メチオニン(+1.9); アラニン(+1.8); グリシン(-0.4); トレオニン(-0.7); セリン(-0.8); トリプトファン(-0.9); チロシン(-1.3); プロリン(-1.6); ヒスチジン(-3.2); グルタミン酸(-3.5); グルタミン (-3.5); アスパラギン酸(-3.5); アスパラギン(-3.5); リジン(-3.9); およびアルギニン(-4.5)である。
ある種のアミノ酸を、類似の疎水性親水性指標またはスコアを有する他のアミノ酸に置換してもよく、それでも類似の生物活性を有するペプチドが得られ、すなわち、なおも生物機能的に等価なタンパク質が得られることは当技術分野において公知である。そのような変化を作成する場合、その疎水性親水性指標が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるアミノ酸置換が特に好ましく、および±0.5以内であるアミノ酸置換がさらに特に好ましい。
同様に、同類のアミノ酸の置換を、親水性に基づいて有効に作成できることも当技術分野において理解される。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号は、その隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるタンパク質の最大局所平均親水性が、タンパク質の生物特性と相関すると述べている。米国特許第4,554,101号において詳述されるように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割付されている:アルギニン(+3.0); リジン(+3.0); アスパラギン酸(+3.0±1); グルタミン酸(+3.0±1); セリン(+0.3); アスパラギン(+0.2); グルタミン(+0.2); グリシン(0); トレオニン(-0.4); プロリン(-0.5±1); アラニン(-0.5); ヒスチジン(*-0.5); システイン(-1.0); メチオニン(-1.3); バリン(-1.5); ロイシン(-1.8); イソロイシン(-1.8); チロシン(-2.3); フェニルアラニン(-2.5); トリプトファン(-3.4)。
1つのアミノ酸を、類似の親水性値を有する別のアミノ酸に置換することができ、それでもなお、生物学的に等価かつ免疫学的に等価なタンパク質を得ることができると理解される。そのような変化において、その疎水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるアミノ酸の置換が特に好ましく、および±0.5以内であるアミノ酸置換がさらに特に好ましい。
上記の概略のように、アミノ酸の置換は一般的に、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えば疎水性、親水性、電荷、大きさなどに基づく。前述のさまざまな特徴を考慮に入れた例示的置換は当業者に周知であり、これには: アルギニンおよびリジン; グルタミン酸およびアスパラギン酸; セリンおよびトレオニン; グルタミンおよびアスパラギン; ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンが含まれる。
本発明によるポリペプチドを調製するための別の態様は、ペプチド模倣体を用いることである。模倣体は、タンパク質の二次構造の要素を模倣する分子を含有するペプチドである(Johnson et al, 1993)。ペプチド模倣体を用いることの背景にある基礎となる原理は、タンパク質のペプチド骨格が、抗体と抗原の相互作用などの分子の相互作用を容易にするように主にアミノ酸側鎖を向けるように存在するという点である。ペプチド模倣体は天然分子と類似の分子相互作用を容認すると予想される。
本発明は同様に、修飾された、非天然および/または異常アミノ酸を含むペプチドを利用してもよい。表2は、例示的であるが、限定的ではない、修飾された非天然および/または異常アミノ酸を提供し、本明細書において以下に提供される。そのようなアミノ酸を関心対象のペプチドに組み入れるために、化学合成を利用してもよい。
先に考察した変種に加えて、本発明者らは、本発明のペプチドまたはポリペプチドの重要な部分を模倣するために、構造的に類似の化合物を製剤化してもよいと企図する。ペプチド模倣体と呼ばれうるそのような化合物を本発明のペプチドと同じ様式で用いてもよく、ゆえにそれらも同様に機能的等価物である。
タンパク質二次構造および三次構造の要素を模倣するある種の模倣体は、Johnson et al. (1993)において記述されている。ペプチド模倣体を用いることの背景にある基礎となる原理は、タンパク質のペプチド骨格が、抗体および/または抗原の相互作用などの分子の相互作用を容易にするように主にアミノ酸側鎖を向けるように存在するという点である。このように、ペプチド模倣体は、天然分子と類似の分子相互作用を容認するようにデザインされる。
ペプチド模倣体の概念の適用のいくつかの成功例は、非常に抗原性であることが知られているタンパク質内のβ-ターンの模倣体に集中している。同様に、ポリペプチド内のβ-ターン構造は、本明細書において考察されるようにコンピュータに基づくアルゴリズムによって予測することができる。ターンの成分アミノ酸を決定した後に、アミノ酸側鎖の本質的な要素の類似の空間的方向を達成するように、模倣体を構築することができる。
βIIターンは、環状L-ペンタペプチドおよびD-アミノ酸を有するペプチドを用いて首尾よく模倣されている(Weisshoff et al., 1999)。同様に、Johannesson et al. (1999)は、逆ターン誘導特性を有する二環トリペプチドについて報告している。
特異的構造を生成するための方法は当技術分野において開示されている。例えば、α-ヘリックス模倣体は、米国特許第5,446,128号; 同第5,710,245号; 同第5,840,833号; および同第5,859,184号において開示されている。これらの構造は、ペプチドまたはタンパク質をより熱安定性にして、同様にタンパク質分解に対する抵抗性を増加させる。6、7、11、12、13、および14員環構造が開示されている。
配座規制βターンおよびβバルジを生成するための方法は、例えば米国特許第5,440,013号; 同第5,618,914号; および同第5,670,155号において記述されている。β-ターンは、対応する骨格コンフォメーションの変化を有することなく、側鎖置換基の変化を許容して、標準的な合成技法によってペプチドに組み入れるために適切な末端を有する。模倣体ターンの他のタイプには、逆およびγターンが含まれる。逆ターン模倣体は、米国特許第5,475,085号および同第5,929,237号において開示され、γターン模倣体は、米国特許第5,672,681号および同第5,674,976号において記述されている。
E. 融合体
別の変種は融合体である。この分子は一般的に、当初の分子の全てまたは実質的な部分を有し、この場合、E1A 1〜80配列を含むペプチドがNまたはC末端で第二のペプチドまたはポリペプチドの全てまたは一部に連結している。例えば、融合体は、異種宿主におけるタンパク質の組み換えによる発現を容認するために他の種からのリーダー配列を利用してもよい。別の有用な融合体には、融合タンパク質の精製を容易にするために抗体エピトープなどの免疫学的に活性なドメインの付加が含まれる。融合接合部またはその近傍に切断部位を含めると、精製後の余分のポリペプチドの除去が容易となる。他の有用な融合体には、酵素からの活性部位、グリコシル化ドメイン、細胞標的化シグナルまたは膜貫通領域などの機能的ドメインの連結が含まれる。
具体的には、本発明は、E1A 1〜80セグメントへの39個の非アデノウイルス残基の付加をもたらすベクター配列によるE1A 1〜80のC末端での融合を企図する。この39残基のセグメント(SEQ ID NO:2)は、市販のアデノウイルスベクターからのE1A 1〜80の発現を驚くほどに増加させる(実施例参照)。このセグメントは23個の非極性残基、5個の酸性残基、5個の塩基性残基、3個の芳香族残基および3個の極性残基を含有し、V5エピトープを含む。融合タンパク質の全体がSEQ ID NO:3に提供されている。
F. タンパク質の精製
E1Aペプチドを精製することが望ましいであろう。タンパク質精製技術は当業者に周知である。これらの技術は、1つのレベルで、細胞環境をポリペプチドおよび非ポリペプチド分画に粗分画する段階を伴う。ポリペプチドを他のタンパク質から分離した後、部分的または完全な精製(または均一になるまでの精製)を達成するために、関心対象のポリペプチドを、クロマトグラフィーおよび電気泳動技術を用いてさらに精製してもよい。純粋なペプチドの調製に特に適した分析法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー; ポリアクリルアミドゲル電気泳動; 等電点電気泳動である。ペプチドを精製する特に有効な方法は、高速タンパク質液体クロマトグラフィーまたはさらにはHPLCである。
本発明のある種の局面は、コードされるタンパク質またはペプチドの精製、特定の態様において、実質的な精製に関する。本明細書において用いられる「精製タンパク質またはペプチド」という用語は、他の成分から単離可能な組成物をいうと意図され、タンパク質またはペプチドはその天然に得ることができる状態に対して任意の程度まで精製される。ゆえに、精製タンパク質またはペプチドはまた、それが天然に存在する可能性がある環境を含まないタンパク質またはペプチドをいう。
一般的に、「精製された」とは、さまざまな他の成分を除去するために分画に供されていて、その発現された生物活性を実質的に保持するタンパク質またはペプチド組成物をいう。「実質的に精製された」という用語を用いる場合、この名称は、タンパク質またはペプチドが、組成物におけるタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはそれ以上を構成するなどの、組成物の主成分を形成する組成物をいう。
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量するためのさまざまな方法は、本開示に照らして当業者に公知であろう。これらには、例えば活性分画の比活性を決定する段階、またはSDS/PAGE分析によって分画内のポリペプチドの量を査定する段階が含まれる。分画の純度を査定するための好ましい方法は、分画の比活性を計算すること、最初の抽出物の比活性をそれと比較すること、およびこのように本明細書において「精製倍率」によって査定される純度の程度を計算することである。活性の量を表すために用いられる実際の単位は、当然、精製後に行われるために選ばれる特定のアッセイ技術、および発現されたタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すか否かに依存するであろう。
タンパク質精製において用いるために適したさまざまな技術が当業者に周知であろう。これらには例えば、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などによる沈殿、または熱変性の後に遠心分離を行う段階; イオン交換、ゲルろ過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、およびアフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー段階; 等電点電気泳動; ゲル電気泳動; ならびにそのようなおよび他の技術の組み合わせが含まれる。一般的に当技術分野において公知であるように、さまざまな精製段階を行う順序を変化させてもよく、ある特定の段階を省略してもよく、それでもなお実質的に精製されたタンパク質またはペプチドを精製するための適した方法が得られると考えられる。
タンパク質またはペプチドが常にその最も精製された状態で提供されることは、一般的に必要ではない。実際に、実質的にあまり精製されていない産物が、ある特定の態様において有用性を有するであろうと企図される。部分的精製は、より少ない精製段階を組み合わせて用いて、または同じ一般的精製スキームの異なる型を利用することによって成就されてもよい。例えば、HPLC装置を利用して行われる陽イオン交換カラムクロマトグラフィーによって一般的に、低圧のクロマトグラフィーシステムを利用する同じ技術より大きい「倍率」の精製が得られるであろうと認識される。低い程度の相対的精製を示す方法は、タンパク質産物の総収量において、または発現されたタンパク質の活性の維持において長所を有する可能性がある。
SDS/PAGEの条件が異なれば、ポリペプチドの移動が時に有意に変わりうることは公知である(Capaldi et al., 1977)。ゆえに、異なる電気泳動条件下では、精製または部分精製発現産物の見かけの分子量は変わる可能性があると認識される。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、驚くべきピーク分解能を有する非常に迅速な分離を特徴とする。これは、適切な流速を維持するために非常に細かい粒子と高圧とを用いることによって得られる。分離は、およそ数分でまたは多くて1時間で成就されうる。その上、粒子は非常に小さく密に充填されて、空隙容量は床容積の非常に小さい分画であることから、ごく少量の試料が必要であるに過ぎない。同様に、バンドが非常に狭く試料の希釈がほとんどないことから、試料の濃度はそれほど大きい必要はない。
ゲルクロマトグラフィーまたは分子ふるいクロマトグラフィーは、分子の大きさに基づく特殊なタイプの分配クロマトグラフィーである。ゲルクロマトグラフィーの背景にある理論は、小さい孔を含有する不活性物質の小さい粒子によって調製されるカラムが、分子が孔の中またはその周囲を通過すると、大きさに応じてより大きい分子をより小さい分子から分離するということである。粒子が作成される材料が分子を吸着しない限り、流速を決定する唯一の要因は大きさである。よって、分子は、形状が比較的一定である限り、大きい順にカラムから溶出される。ゲルクロマトグラフィーは、分離が、pH、イオン強度、温度などのような他の全ての要因とは無関係であることから、異なる大きさの分子を分離する上で卓越している。同様に、実質的な吸着はなく、ゾーンの広がりはより少なく、溶出容積は単純に分子量に関連する。
アフィニティークロマトグラフィーは、単離される物質と、それが特異的に結合することができる分子との間の特異的親和性に依るクロマトグラフィー技法である。これは、受容体-リガンドタイプの相互作用である。カラム材料は、結合パートナーの1つを不溶性マトリックスに共有的にカップリングさせることによって合成される。次に、カラム材料は溶液から物質を特異的に吸着することができる。条件を、結合が起こらない条件に変化させる(pH、イオン強度、温度などを変更する)ことによって、溶出が起こる。
炭水化物含有化合物の精製において有用な特定のタイプのアフィニティークロマトグラフィーは、レクチンアフィニティークロマトグラフィーである。レクチンは、多様な多糖類および糖タンパク質に結合する物質のクラスである。レクチンは通常、臭化シアンによってアガロースにカップリングされる。セファロースにカップリングされたコンカナバリンAは、用いられるこの種の最初の材料であり、多糖類および糖タンパク質の単離において広く用いられている。他のレクチンには、レンズマメレクチン、N-アセチルグルコサミニル残基の精製において有用であるコムギ胚芽アグルチニン、およびヘリックス・ポマチア(Helix pomatia)レクチンが含まれる。レクチン自身は、炭水化物リガンドを有するアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製される。ラクトースは、トウゴマおよび落花生からレクチンを精製するために用いられており; マルトースはレンズマメおよびジャックマメからのレクチンを抽出するために有用であり; N-アセチル-Dガラクトサミンは、ダイズからレクチンを精製するために用いられる; N-アセチルグルコサミニルはコムギ胚芽からのレクチンに結合する; D-ガラクトサミンは、ハマグリからレクチンを得るために用いられており; およびL-フコースは、ハスからのレクチンに結合する。
マトリックスは、それ自身がいかなる有意な程度にも分子を吸着せず、広範囲の化学、物理、および熱安定性を有する物質であるべきである。リガンドは、その結合特性に影響を及ぼさないようにカップリングされるべきである。リガンドはまた、比較的堅固な結合を提供すべきである。試料またはリガンドを破壊することなく、物質を溶出することが可能であるべきである。アフィニティークロマトグラフィーの最も一般的な型の1つは、イムノアフィニティークロマトグラフィーである。本発明によって用いるために適しているであろう抗体の生成を以下で考察する。
G. 合成ペプチド
本発明のペプチドは、従来の技術にしたがって溶液中でまたは固相支持体上で合成されうる。さまざまな自動合成機が市販されており、公知のプロトコルにしたがって用いることができる。例えば、各々が参照により本明細書に組み入れられる、Stewart & Young (1984); Tam et al., (1983); Merrifield (1986); およびBarany and Merrifield (1979)を参照されたい。あるいは、本発明のペプチドをコードするヌクレオチドが発現ベクターに挿入されて、適切な宿主細胞に形質転換またはトランスフェクトされて、発現に適した条件の下で培養される、組み換えDNA技術が利用されてもよい。組み換え発現は、E1Aをコードする核酸に関して、以下で、さらに考察される。
III. 核酸
本発明は同様に、別の態様において、E1A 1〜80をコードする核酸およびその断片を提供する。同様に、核酸に対するいずれの言及も、その核酸を含有する宿主細胞および、場合によっては、その核酸の産物を発現できる宿主細胞を包含すると解釈されるべきである。
A. E1A 1〜80をコードする核酸
本発明による核酸は、E1A 1〜80をコードし、任意で非E1A配列を含んでもよい。ペプチドに関して上記に定義されるように「さらなるE1A配列を実質的に欠く」および「から本質的になる」という用語はまた、同等な形で、E1A核酸に適用できる。
本出願において用いられる場合、「E1A 1〜80をコードする核酸」という用語は、全細胞核酸を含まずに単離されている核酸分子をいう。ある種の態様において、本発明は、SEQ ID NO:1に本質的に記載されている核酸配列に関する。「SEQ ID NO:1に記載されている」という用語は、核酸配列がSEQ ID NO:1の一部分に実質的に対応することを意味する。「機能的に等価なコドン」という用語は、アルギニンまたはセリンに対する6つのコドンのような、同じアミノ酸をコードするコドンをいうように本明細書において用いられ、また、以下の頁において考察されるように、生物学的に等価なアミノ酸をコードするコドンをいう。
遺伝暗号の縮重性を考慮すると、SEQ ID NO:1のヌクレオチドと同一である、少なくとも約50%、通常には少なくとも約60%、より通常には約70%、最も通常には約80%、好ましくは少なくとも約90%および最も好ましくは約95%のヌクレオチドを有する配列。SEQ ID NO:1に記載されている配列と本質的に同じものである配列も、標準的な条件の下でSEQ ID NO:1の相補体を含有する核酸セグメントとハイブリダイズできる配列と機能的に定義されうる。
本発明のDNAセグメントは、上記のように、生物学的に機能等価なE1A 1〜80タンパク質およびペプチドをコードするものを含む。そのような配列は、核酸配列、かくしてコードされるタンパク質において天然に存在することが知られているコドン重複性およびアミノ酸の機能等価性の結果として生じうる。あるいは、機能的に等価なタンパク質またはペプチドは、交換されるアミノ酸の特性を検討することに基づいて、タンパク質構造の変化が遺伝子操作されうる組み換えDNA技術の適用によって作成されうる。人為的にデザインされた変化は、下記のように、部位特異的変異誘発技術の適用によって導入されうるか、あるいは無作為に導入され、その後、所望の機能についてスクリーニングされうる。
B. クローニング、遺伝子移入および発現用のベクター
ある種の態様のなかで、E1A 1〜80ポリペプチドもしくはペプチド産物、アンチセンス、リボザイム、干渉RNA、またはE1A 1〜80に免疫学的に結合する一本鎖抗体を発現させるために、発現ベクターが利用される。他の態様において、発現ベクターは遺伝子治療において用いられる。発現には、適切なシグナルがベクター中に提供されていることが必要となり、このシグナルには、宿主細胞において関心対象の遺伝子の発現を駆動させる、ウイルス起源および哺乳類起源の両方由来のエンハンサー/プロモーターのような、さまざまな調節要素が含まれる。宿主細胞内でのメッセンジャーRNAの安定性および翻訳可能性を最適化するためにデザインされた要素も定義されている。産物を発現する永続的な安定細胞クローンを樹立するためのいくつかの優性的な薬物選択マーカーの使用の条件も、薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現に関連付ける要素と同様に、提供されている。
本出願を通して、「発現構築体」という用語は、核酸をコードする配列の一部または全部が転写されうる、遺伝子産物をコードする核酸を含有する任意のタイプの遺伝子構築体を含むよう意図される。転写産物は、タンパク質に翻訳されうるが、翻訳される必要はない。ある種の態様において、発現は、遺伝子の転写およびmRNAの遺伝子産物への翻訳の両方を含む。他の態様において、発現は、関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写を含むだけである。
「ベクター」という用語は、細胞への導入のために核酸配列を内部に挿入し、細胞内でそれを複製させることが可能な、担体核酸分子をいうように用いられる。核酸配列は「外因性」であってもよく、このことはベクターが導入される細胞に対してそれが外来性であること、または配列は細胞内の配列に対して同種性であるが宿主細胞内の通常は認められない位置にあることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。当業者は、参照によりともに本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989) and Ausubel et al. (1994)において記述されている、標準的な組み換え法によってベクターを構築する能力を十分に備えていると考えられる。
「発現ベクター」という用語は、転写されうる遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含むベクターをいう。ある場合、RNA分子は次いでタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドへ翻訳される。他の場合、これらの配列は、例えばアンチセンス分子またはリボザイムの産生においては、翻訳されない。発現ベクターは種々の「制御配列」を含むことができ、これは、特定の宿主生物における機能的に連結されたコード配列の転写、かつおそらくは翻訳のために必要な核酸配列をいう。転写および翻訳を司る制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、同様にして他の機能を果たす核酸配列を含んでもよく、それについては以下に記述する。
(i) 調節要素
「プロモーター」は核酸配列の一領域であって、この位置で転写の開始および速度が制御される、制御配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子のような、調節タンパク質および分子が結合しうる遺伝子要素を含んでもよい。「機能的に位置付けられた」、「機能的に連結された」、「制御下の」および「転写制御下の」という語句は、プロモーターが核酸配列に関して正しい機能的な位置および/または方向にあって、その配列の転写開始および/または発現を制御することを意味する。プロモーターは「エンハンサー」と併用されてもよく、または併用されなくてもよく、エンハンサーとは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性の調節配列をいう。
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって得ることができるように、遺伝子または配列にもともと付随したものであってよい。そのようなプロモーターは「内因性」ということができる。同様に、エンハンサーは、核酸配列にもともと付随し、その配列の下流または上流のどちらかに位置したものであってよい。あるいは、コード核酸セグメントを組み換えプロモーターまたは異種プロモーターの制御下に位置付けることによって、ある種の利点が得られるものと考えられ、それらのプロモーターは、通常、その天然の環境にある核酸配列に付随していないプロモーターをいう。同様に、組み換えエンハンサーまたは異種エンハンサーとは、通常、その天然の環境にある核酸配列に付随していないエンハンサーをいう。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、および任意の他の原核生物、ウイルスもしくは真核生物の細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然に存在する」ことのないプロモーターまたはエンハンサー、すなわち異なる転写調節領域の異なる要素、および/または発現を変化させる変異を含むものが含まれうる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成により作成することに加えて、組み換えクローニングおよび/またはPCR(商標)を含む、核酸増幅技術を、本明細書において開示される組成物と併せて用い配列を作成することができる(米国特許第4,683,202号、米国特許第5,928,906号を参照されたく、各々が参照により本明細書に組み入れられる)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体などのような非核オルガネラ内の配列の転写および/または発現を指令する制御配列を、同様に利用できるものと企図される。
当然ながら、発現用に選択された細胞型、オルガネラ、および生物においてDNAセグメントの発現を効率的に指令するプロモーターおよび/またはエンハンサーを利用することが重要であろう。1つの例は天然のE1A 1〜80プロモーターである。分子生物学の当業者は一般に、タンパク質発現用のプロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組み合わせの使用を承知しており、例えば、参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989)を参照されたい。利用されるプロモーターは、構成性、組織特異性、誘導性であってよく、ならびに/または組み換えタンパク質および/もしくはペプチドの大規模産生において有利であるような、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指令するのに適した条件の下で有用であってよい。プロモーターは異種性または内因性であってもよい。
表3には、遺伝子の発現を調節するために、本発明との関連で、利用されうるいくつかの要素/プロモーターが載せてある。この一覧表は、発現の促進に関与する可能な全ての要素の網羅であると意図されるわけではなく、単に、その例示であると意図される。表4は誘導性要素の例を提供しており、それらは、特定の刺激に応じて活性化されうる核酸配列の領域である。
組織特異的プロモーターまたは要素の同一性、およびその活性を特徴付けるアッセイは、当業者に周知である。そのような領域の例としては、ヒトLIMK2遺伝子(Nomoto et al. 1999)、ソマトスタチン受容体2遺伝子(Kraus et al., 1998)、マウス精巣上体レチノイン酸結合遺伝子(Lareyre et al., 1999)、ヒトCD4 (Zhao-Emonet et al., 1998)、マウスα2 (XI)コラーゲン(Tsumaki, et al., 1998)、D1Aドーパミン受容体遺伝子(Lee, et al., 1997)、インスリン様増殖因子II (Wu et al., 1997)、ヒト血小板内皮細胞接着分子-1 (Almendro et al., 1996)が挙げられる。腫瘍特異的プロモーターも本発明において用途が見つかるであろう。いくつかのそのようなプロモーターが表5に記載されている。
コード配列の効率的な翻訳のために特定の開始シグナルも必要とされうる。これらのシグナルにはATG開始コドンまたは隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含む外因性翻訳制御シグナルを、提供することが必要になることもある。当業者は容易にこれを判断し、必要なシグナルを提供しうるであろう。挿入断片全体の翻訳を確実にさせるには開始コドンが所望のコード配列の読み枠と「インフレーム」でなければならないことは周知である。外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然のものであっても、または合成のものであってもよい。発現の効率は、適切な転写エンハンサー要素の包含によって増強されうる。
(ii) IRES
本発明のある種の態様において、多遺伝子性または多シストロン性のメッセージを作成するために、リボソーム内部進入部位(IRES)要素が用いられる。IRES要素は、5'メチル化Cap依存性翻訳のリボソームスキャニングモデルを回避し、内部部位で翻訳を開始しうる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルス科の2つの成員(ポリオおよび脳心筋炎)に由来するIRES要素が記述されており(Pelletier and Sonenberg, 1988)、哺乳類のメッセージに由来するIRESも記述されている(Macejak and Sarnow, 1991)。IRES要素は異種読み取り枠と連結することができる。それぞれIRESによって分けられた複数の読み取り枠を一緒に転写して、多シストロン性のメッセージを作成することができる。IRES要素によって、それぞれの読み取り枠は、効率的な翻訳のためにリボソームに接近することができる。単一のプロモーター/エンハンサーを用いて単一のメッセージを転写するように、複数の遺伝子を効率的に発現させることができる(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,925,565号および同第5,935,819号を参照のこと)。
(iii) 多目的クローニング部位
ベクターは、マルチクローニングサイト(MCS)を含んでもよく、これは、複数の制限酵素部位を含有する核酸領域であり、どの制限酵素部位も、ベクターを消化するために標準的な組み換え技術とともに用いることができる。参照により本明細書に組み入れられる、Carbonelli et al., 1999, Levenson et al., 1998、およびCocea, 1997を参照されたい。「制限酵素消化」は、核酸分子の特定の位置でしか機能しない酵素による核酸分子の触媒的切断をいう。これらの制限酵素の多くは市販されている。このような酵素の使用は当業者に広く理解されている。往々にして、外因性配列がベクターに核酸連結できるように、MCS内で切断する制限酵素を用いて、ベクターは直線化または断片化される。「核酸連結」は、2つの核酸断片間でホスホジエステル結合を形成する過程をいい、2つの核酸断片は互いに連続してもよく、または連続してなくてもよい。制限酵素および核酸連結反応を伴う技法は、組み換え技術の当業者に周知である。
(iv) スプライシング部位
大部分の転写された真核生物RNA分子は、RNAスプライシングを受けて、一次転写産物からイントロンを除去する。タンパク質発現に向けた転写産物の適切なプロセッシングを確実とするために、ゲノム真核生物配列を含有するベクターはドナーおよび/またはアクセプタースプライシング部位と必要としうる(参照により本明細書に組み入れられる、Chandler et al., 1997を参照のこと)。
(v) 終結シグナル
本発明のベクターまたは構築体は一般的に、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写の特異的な終結に関与するDNA配列から構成される。したがって、ある種の態様において、RNA転写産物の産生を終わらせる終結シグナルが企図される。インビボで、望ましいメッセージレベルを達成するには、ターミネーターが必要でありうる。
真核生物系において、ターミネーター領域はまた、ポリアデニル化部位を曝露させるように、新たな転写産物の部位特異的切断を可能にする特定のDNA配列も含んでもよい。これは、約200個のA残基(ポリA)のストレッチを転写産物の3'末端に付加するように、特殊な内因性ポリメラーゼにシグナルを送る。このポリA尾部で修飾されたRNA分子は、より安定的であるように思われ、より効率的に翻訳される。したがって、真核生物を伴う他の態様において、ターミネーターはRNA切断のためのシグナルを含むことが好ましく、ターミネーターシグナルはメッセージのポリアデニル化を促進することがより好ましい。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位要素は、メッセージレベルを増強するのに、および/またはカセットから他の配列への読み過ごしを最小限にするのに役立ちうる。
本発明で用いるのに企図されるターミネーターには、例えば、遺伝子終結配列、例えば、ウシ成長ホルモンターミネーターまたはウイルス終結配列、例えば、SV40ターミネーターを含むが、これらに限定されない、本明細書において記述のまたは当業者に公知の、任意の公知の転写ターミネーターが含まれる。ある種の態様において、終結シグナルは、例えば配列切断のため、転写可能なまたは翻訳可能な配列の欠如したものであってよい。
(vi) ポリアデニル化シグナル
発現において、特に真核生物での発現において、転写産物の適切なポリアデニル化を行わせるためにポリアデニル化シグナルを含めることが一般的と考えられる。ポリアデニル化シグナルの性質は本発明の首尾良い実践のために特に重要であるとは考えられず、かつ/またはこのような任意の配列が利用されてもよい。好ましい態様には、便利であり、かつ/またはさまざまな標的細胞でうまく機能することが知られている、SV40ポリアデニル化シグナルおよび/またはウシ成長ホルモンのポリアデニル化シグナルが含まれる。ポリアデニル化は転写産物の安定性を高めうるか、または細胞質輸送を容易にしうる。
(vii) 複製起点
宿主細胞においてベクターを増やさせるために、ベクターは、1つまたは複数の複製起点部位(「ori」と呼ばれることが多い)を含有してもよい。あるいは、宿主細胞が酵母であれば、自律複製配列(ARS)を利用することもできる。
(viii) 選択マーカーおよびスクリーニングマーカー
本発明のある種の態様において、本発明の核酸構築体を含有する細胞は、発現ベクター内にマーカーを含めることによってインビトロまたはインビボで特定されうる。このようなマーカーは特定可能な変化を細胞に付与し、それによって、発現ベクターを含有する細胞の容易な特定を可能にする。一般的には、選択マーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。正の選択マーカーは、マーカーが存在すると細胞の選択が可能になるものであるのに対して、負の選択マーカーは、マーカーが存在すると細胞の選択が妨げられるものである。正の選択マーカーの一例は薬物耐性マーカーである。
通常、薬物選択マーカーを含めることは、形質転換体のクローニングおよび特定に役立ち、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が有用な選択マーカーである。条件の実施に基づいて形質転換体の識別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、比色分析を基本原理とする、GFPのようなスクリーニングマーカーを含む他のタイプのマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)のようなスクリーニング可能な酵素が用いられうる。当業者であれば、免疫マーカーを、おそらくFACS分析とともに利用する方法も承知しているであろう。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されることが可能である限り、重要であると考えられない。選択マーカーおよびスクリーニングマーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
(ix) ウイルスベクター
ある種のウイルスベクターが細胞に効率的に感染または侵入する能力、宿主細胞ゲノムへ組み込まれる能力、およびウイルス遺伝子を安定的に発現する能力が、いくつかの異なるウイルスベクター系の開発および適用をもたらした(Robbins et al., 1998)。現在、エクスビボおよびインビボでの遺伝子移入用のベクターとして用いるために、ウイルス系が開発されている。現在、がん、嚢胞性線維症、ゴーシェ病、腎疾患および関節炎のような疾患の処置のため、例えば、アデノウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスベクターが評価されている(Robbins and Ghivizzani, 1998; Imai et al., 1998; 米国特許第5,670,488号)。下記のさまざまなウイルスベクターは、特定の遺伝子治療用途に依って、個別の利点および不利点を提示する。
アデノウイルスベクター
特定の態様において、発現構築体の送達のためにアデノウイルス発現ベクターが企図される。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a) 構築体のパッケージングを支持するのに、および(b) クローニングされた組織または細胞特異的な構築体を最終的に発現させるのに十分なアデノウイルス配列を含有する構築体を含むよう意図される。
アデノウイルスは線状の、二本鎖DNAを含み、大きさが30〜35 kbに及ぶゲノムを有する(Reddy et al., 1998; Morrison et al., 1997; Chillon et al., 1999)。本発明によるアデノウイルス発現ベクターは、アデノウイルスの遺伝子組み換え型を含む。アデノウイルス遺伝子移入の利点には、非***細胞を含む、多種多様な細胞型に感染する能力、中型のゲノム、操作の容易さ、高い感染力、および高力価に増殖させられる能力が含まれる(Wilson, 1996)。さらに、アデノウイルスDNAは、他のウイルスベクターに付随する潜在的な遺伝毒性なしにエピソームとして複製可能なので、宿主細胞のアデノウイルス感染は染色体の組み込みに至らない。また、アデノウイルスは構造的に安定であり(Marienfeld et al., 1999)、大規模な増幅の後にもゲノム再配列は検出されない(Parks et al., 1997; Bett et al., 1993)。
アデノウイルスのゲノムの顕著な特徴は、初期領域(E1、E2、E3およびE4遺伝子)、中期領域(pIX遺伝子、Iva2遺伝子)、後期領域(L1、L2、L3、L4およびL5遺伝子)、主要後期プロモーター(MLP)、反転末端リピート(ITR)ならびにΨ配列である(Zheng, et al., 1999; Robbins et al., 1998; Graham and Prevec, 1995)。初期遺伝子E1、E2、E3およびE4は感染後のウイルスから発現され、ウイルス遺伝子の発現、細胞遺伝子の発現、ウイルス複製および細胞アポトーシスの阻害を調節するポリペプチドをコードしている。さらにウイルス感染中に、MLPが活性化され、アデノウイルスのキャプシド形成に必要なポリペプチドをコードする後期(L)遺伝子の発現をもたらす。中期領域はアデノウイルスキャプシドの成分をコードしている。アデノウイルス反転末端リピート(ITR; 長さが100〜200 bp)は、シス要素であり、複製起点として機能し、ウイルスDNA複製に必要である。Ψ配列はアデノウイルスゲノムのパッケージングに必要である。
遺伝子移入ベクターとして用いるためのアデノウイルスの一般的な生成手法は、E2、E3およびE4プロモーターの誘導に関与するE1遺伝子の欠失(E1-)である(Graham and Prevec, 1995)。その後、E1遺伝子の代わりに治療用遺伝子を組み換えにより挿入することができ、治療用遺伝子の発現がE1プロモーターまたは異種プロモーターによって駆動される。次いで、E1- 、つまり複製欠損ウイルスを、イントランスでE1ポリペプチドを提供する「ヘルパー」細胞株(例えば、ヒト胚性腎細胞株293)で増殖させる。したがって、本発明においては、E1コード配列が除去された位置に形質転換用の構築体を導入することが好都合でありうる。E1A 1〜80によるE1コード配列の交換は、ウイルス複製という点でE1コード配列の機能を回復させないことに留意されたい。しかしながら、アデノウイルス配列内の構築体の挿入の位置は、本発明にとって重要ではない。あるいは、E3領域、E4領域の一部、または両方を欠失することができ、遺伝子移入で用いるために、真核生物の細胞で作動可能なプロモーターの制御下で、異種核酸配列をアデノウイルスゲノムに挿入する(各々が参照により本明細書に明確に組み入れられる米国特許第5,670,488号; 米国特許第5,932,210号)。
アデノウイルスに基づくベクターは、他のベクター系に勝るいくつかの固有の利点を供与するが、それらは、ベクターの免疫原性、組み換え遺伝子の挿入に関するサイズ制限および低い複製レベルによって制限されることが多い。全ての読み取り枠が欠失され、全長ジストロフィン遺伝子および複製に必要な末端リピートを含んだ、組み換えアデノウイルスベクターの調製(Haecker et al., 1997)は、上記のアデノウイルスの欠点に対していくつかの潜在的に有望な利点を供与する。このベクターは、293細胞中でヘルパーウイルスにより高力価に増殖され、mdxマウスにおいて、インビトロの筋管およびインビボの筋繊維においてジストロフィンを効率的に形質導入することができた。ヘルパー依存性ウイルスベクターを以下で考察する。
アデノウイルスベクター使用における主な懸念は、パッケージング細胞株でのベクター産生中または個体の遺伝子治療処置中の複製可能ウイルスの生成である。複製可能ウイルスの生成は、意図しないウイルス感染および患者の病理学的結果に深刻な脅威をもたらしうる。Armentanoら(1990)は、複製可能アデノウイルスの想定外の生成の潜在性を取り除くことを主張した、複製欠損アデノウイルスベクターの調製について記述している(参照により本明細書に明確に組み入れられる米国特許第5,824,544号)。複製欠損アデノウイルス法では、欠失E1領域および再配置タンパク質IX遺伝子を含み、このベクターは異種の、哺乳類遺伝子を発現する。前述のように、E1A 1〜80によるE1領域の交換は、ウイルス複製という点でE1機能を回復させないであろう。
アデノウイルスベクターが複製欠損である、または少なくとも条件的に欠損であるという要件以外に、アデノウイルスベクターの性質は、本発明の実践の成功にとって重要であると考えられない。アデノウイルスは、既知の異なる42個の血清型および/または亜群A〜Fのいずれかのものであってよい。亜群Cのアデノウイルス5型は、本発明で用いられる条件的複製欠損アデノウイルスベクターを得るために好ましい出発材料である。これは、アデノウイルス5型が、膨大な生化学および遺伝子情報の知られたヒトアデノウイルスであるためであり、このためこのアデノウイルスは、歴史的にアデノウイルスをベクターとして利用する大部分の構築体について用いられている。
上記のように、本発明による典型的なベクターは、複製欠損であり、アデノウイルスE1領域を有しない。アデノウイルスの増殖および操作は、当業者に公知であり、インビトロおよびインビボで広範な宿主域を示す(米国特許第5,670,488号; 米国特許第5,932,210号; 米国特許第5,824,544号)。このウイルス群は、高力価で、例えば109〜1011プラーク形成単位/mlで、得ることができ、非常に感染性が高い。アデノウイルスの生活環は、宿主細胞ゲノムへの組み込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達された外来遺伝子は、エピソーム性であり、それゆえ、宿主細胞に対して遺伝毒性が低い。現在、多数の実験、技術革新、前臨床試験および臨床試験が、遺伝子送達ベクターとしてのアデノウイルスの使用について調査中である。例えば、アデノウイルス遺伝子送達に基づく遺伝子治療は、肝臓疾患(Han et al., 1999)、精神病(Lesch, 1999)、神経疾患(Smith, 1998; Hermens and Verhaagen, 1998)、冠動脈疾患(Feldman et al., 1996)、筋疾患(Petrof, 1998)、胃腸疾患(Wu, 1998)、ならびに結腸直腸がん(Fujiwara and Tanaka, 1998; Dorai et al., 1999)、膵臓がん、膀胱がん(Irie et al., 1999)、頭頸部がん(Blackwell et al., 1999)、乳がん(Stewart et al., 1999)、肺がん(Batra et al., 1999)および卵巣がん(Vanderkwaak et al., 1999)のような種々のがんのために開発中である。
レトロウイルスベクター
本発明のある種の態様において、遺伝子送達のためのレトロウイルスの使用が企図される。レトロウイルスは、RNAゲノムを含むRNAウイルスである。宿主細胞がレトロウイルスによって感染される場合、そのゲノムRNAがDNA中間体へ逆転写され、これが感染細胞の染色体DNAへ組み込まれる。この、組み込まれたDNA中間体はプロウイルスといわれる。レトロウイルスの特別な利点は、それらが、免疫原性ウイルスタンパク質を発現せずに、宿主DNAへの組み込みによって関心対象の遺伝子(例えば、治療用遺伝子)を***細胞に安定的に感染させられるということである。理論的には、組み込まれたレトロウイルスベクターが、感染宿主細胞の寿命の間は維持され、関心対象の遺伝子を発現すると考えられる。
レトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、3つの遺伝子: gag、polおよびenvを有し、これらには2つの長末端反復(LTR)配列が隣接している。gag遺伝子は内部構造(マトリックス、キャプシドおよびヌクレオキャプシド)タンパク質をコードする; pol遺伝子はRNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードし、env遺伝子はウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5'および3' LTRはウイルス粒子RNAの転写およびポリアデニル化を促進する働きをする。LTRは、ウイルス複製に必要な他の全てのシス作用性配列を含む。
本発明の組み換えレトロウイルスは、天然ウイルスの構造遺伝子、感染性遺伝子のいくつかが除去され、その代わりに、標的細胞に送達させたい核酸配列と交換されているように遺伝子操作されうる(各々が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,858,744号; 米国特許第5,739,018号)。ウイルスによる細胞の感染後、ウイルスはその核酸を細胞へ注入し、レトロウイルス遺伝物質は宿主細胞ゲノムに組み入ることができる。移入されたレトロウイルス遺伝物質がその後、宿主細胞内で転写され、タンパク質へ翻訳される。他のウイルスベクター系と同様に、ベクター産生中のまたは治療中の複製可能なレトロウイルスの生成は、大きな懸案事項である。本発明で用いるのに適したレトロウイルスベクターは一般的に、標的細胞に感染することができ、そのRNAゲノムを逆転写することができ、逆転写されたDNAを標的細胞ゲノムへ組み込むことができるが、しかし標的細胞内で複製して、感染性レトロウイルス粒子を産生することができない欠損レトロウイルスベクターである(例えば、標的細胞へ移入されたレトロウイルスゲノムは、ウイルス粒子の構造タンパク質をコードする遺伝子gagが欠損しており、および/または逆転写酵素をコードする遺伝子polが欠損している)。したがって、プロウイルスの転写および感染性ウイルスへの組み立ては、適切なヘルパーウイルスの存在下で行われ、または混入ヘルパーウイルスの同時生成なしにキャプシド形成を可能にする適切な配列を含んだ細胞株で行われる。
レトロウイルスの増殖および維持は、当技術分野において公知である(各々が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,955,331号; 米国特許第5,888,502号)。Nolanらは、異種遺伝子を含む、安定な高力価の無ヘルパーレトロウイルスの産生について記述している(参照により本明細書に明確に組み入れられる米国特許第5,830,725号)。両種指向性または同種指向性の宿主範囲を有する無ヘルパー組み換えレトロウイルスの生成に有用なパッケージング細胞株を構築するための方法、ならびにインビボでおよびインビトロで真核細胞へ関心対象の遺伝子を導入するために組み換えレトロウイルスを使用する方法が本発明において企図される(米国特許第5,955,331号)。
現在、ベクターを介した遺伝子送達に関する全臨床試験の大部分では、マウス白血病ウイルス(MLV)に基づくレトロウイルスベクター遺伝子送達を用いている(Robbins et al., 1998; Miller et al., 1993)。レトロウイルス遺伝子送達の不利な点には、安定な感染のための継続的な細胞***の必要性および大きな遺伝子の送達を抑止するコード能が含まれる。しかしながら、ある種の非***細胞に感染しうる、レンチウイルス(例えば、HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)およびウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)のようなベクターの最近の展開によって、遺伝子治療用途のためのレトロウイルスベクターのインビボでの使用が潜在的に可能とされる(Amado and Chen, 1999; Klimatcheva et al., 1999; White et al., 1999; Case et al., 1999)。例えば、HIVに基づくベクターは、ニューロン(Miyatake et al., 1999)、島(Leibowitz et al., 1999)および筋肉細胞(Johnston et al., 1999)のような非***細胞に感染させるために用いられている。レトロウイルスを介した遺伝子の治療的送達は、現在、炎症性疾患(Moldawer et al., 1999)、AIDS (Amado and Chen, 1999; Engel and Kohn, 1999)、がん(Clay et al., 1999)、脳血管疾患(Weihl et al., 1999)および血友病(Kay, 1998)のような、さまざまな障害の処置について評価されているところである。
ヘルペスウイルスベクター
単純ヘルペスウイルス(HSV) I型およびII型は、70〜80種の遺伝子をコードする、およそ150 kbの二本鎖、線状DNAゲノムを含む。野生型HSVは、細胞に溶解的に感染することができ、ある種の細胞型(例えば、ニューロン)において潜伏を確立することができる。アデノウイルスと同様に、HSVも、筋肉(Yeung et al., 1999)、耳(Derby et al., 1999)、目(Kaufman et al., 1999)、腫瘍(Yoon et al., 1999; Howard et al., 1999)、肺(Kohut et al., 1998)、ニューロン(Garrido et al., 1999; Lachmann and Efstathiou, 1999)、肝臓(Miytake et al., 1999; Kooby et al., 1999)および膵島(Rabinovitch et al., 1999)を含む種々の細胞型に感染することができる。
HSVウイルス遺伝子は細胞RNAポリメラーゼIIにより転写され、一時的に調節され、おおよそ3つの識別可能な相またはキネティッククラスで遺伝子産物の転写およびその後の合成をもたらす。これらの相の遺伝子は、前初期(IE)またはα遺伝子、初期(E)またはβ遺伝子および後期(L)またはγ遺伝子といわれる。新たに感染した細胞の核内におけるウイルスゲノムの到着の直後に、IE遺伝子が転写される。これらの遺伝子の効率的な発現には、それに先立つウイルスタンパク質の合成を必要としない。IE遺伝子の産物は、転写を活性化するためにおよびウイルスゲノムの残りを調節するために必要とされる。
治療用遺伝子の送達で用いるためには、HSVは複製欠損とされなければならない。複製欠損の無HSVヘルパーウイルス細胞株を作製するためのプロトコルが記述されている(各々その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる米国特許第5,879,934号; 米国特許第5,851,826号)。IEタンパク質の1つ、α4またはVmw175としても公知の、ICP4は、ウイルス感染およびIEから後期転写への移行の両方に絶対必要とされる。したがって、ICP4は、その複雑で多機能な性質およびHSV遺伝子発現の調節における中心的な役割のため、典型的には、HSV遺伝子研究の標的となってきた。
ICP4を欠失したHSVウイルスの表現型研究により、そのようなウイルスは遺伝子移入の目的に潜在的に有用であることが示唆される(Krisky et al., 1998a)。ICP4を欠失したウイルスを遺伝子移入に望ましいものとする特性の1つは、それらが、ウイルスDNA合成を指令するタンパク質、およびウイルスの構造タンパク質をコードするウイルス遺伝子の発現なしに、5つの他のIE遺伝子: ICP0、ICP6、ICP27、ICP22およびICP47を発現するにすぎないということである(DeLuca et al., 1985)。この特性は宿主細胞の代謝または遺伝子移入後の免疫応答に及ぼす可能性のある有害な効果を最小限に抑えるために望ましい。ICP4に加えて、IE遺伝子ICP22およびICP27のさらなる欠失は実質的に、HSV細胞毒性の低減を改善し、初期および後期ウイルス遺伝子の発現を妨げる(Krisky et al., 1998b)。
遺伝子移入におけるHSVの治療可能性は、さまざまなインビトロモデル系で、ならびにパーキンソン病(Yamada et al., 1999)、網膜芽細胞腫(Hayashi et al., 1999)、脳内および皮内腫瘍(Moriuchi et al., 1998)、B細胞悪性腫瘍(Suzuki et al., 1998)、卵巣がん(Wang et al., 1998)およびデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Huard et al., 1997)のような、疾患に対してインビボで実証されている。
アデノ随伴ウイルスベクター
パルボウイルス科の一員であるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子送達治療法にますます使われているヒトウイルスである。AAVは、他のウイルス系には見られない、いくつかの有利な特徴を有する。第1に、AAVは、非***細胞を含む、広範囲の宿主細胞に感染することができる。第2に、AAVは異なる種由来の細胞に感染することができる。第3に、AAVは、いずれのヒト疾患または動物疾患にも関連しておらず、組み込みによって宿主細胞の生物学的特性を変化させるように思われない。例えば、ヒト集団の80〜85%がAAVに曝露されていると推定される。最後に、AAVは、産生、貯蔵および輸送の要件に適した広範囲の物理的および化学的条件で安定である。
AAVゲノムは、4681個のヌクレオチドを含有する直鎖状の一本鎖DNA分子である。AAVゲノムは一般に、長さがおよそ145 bpの反転末端リピート(ITR)により各末端上で隣接される内部非反復ゲノムを含む。ITRは、DNA複製起点を含めて、およびウイルスゲノムのパッケージングシグナルとして、複数の機能を有する。ゲノムの内部非反復部分は、AAV複製(rep)およびキャプシド(cap)遺伝子として公知の、2つの大きな読み取り枠を含む。repおよびcap遺伝子は、ウイルスを複製させ、ウイルスゲノムをウイルス粒子中にパッケージングさせるウイルスタンパク質をコードする。AAV rep領域から少なくとも4種類のウイルスタンパク質のファミリー、つまり見掛け上の分子量にしたがって命名されたRep 78、Rep 68、Rep 52、およびRep 40が発現される。AAV cap領域は、少なくとも3種類のタンパク質VP1、VP2、およびVP3をコードする。
AAVは、AAVウイルス粒子を形成するために、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはワクシニア)との同時感染を必要とするヘルパー依存性ウイルスである。ヘルパーウイルスとの同時感染の非存在下では、AAVは潜伏状態を確立しており、ここではウイルスゲノムは宿主細胞染色体に挿入されているが、感染性ウイルス粒子は産生されない。ヘルパーウイルスによる後続の感染が、組み込まれたゲノムを「レスキュー」し、それを複製させ、そのゲノムを感染性AAVウイルス粒子中にパッケージングさせる。AAVはさまざまな種由来の細胞に感染することができるが、ヘルパーウイルスは、宿主細胞と同じ種のものでなければならない(例えば、ヒトAAVは、イヌのアデノウイルスと同時感染されたイヌ細胞中で複製する)。
AAVは、AAVゲノムの内部非反復部分を欠失させ、ITR間に異種遺伝子を挿入することによって関心対象の遺伝子を送達するように遺伝子操作されている。異種遺伝子は、標的細胞において遺伝子発現を駆動できる異種プロモーター(構成性、細胞特異性、または誘導性)に機能的に連結されうる。異種遺伝子を含有する感染性組み換えAAV (rAAV)を産生するため、異種遺伝子を含有するrAAVベクターを、適当なプロデューサー細胞株にトランスフェクションする。プロデューサー細胞に、AAV repおよびcap遺伝子を、その各内因性プロモーターまたは異種プロモーターの制御下に持つ第2のプラスミドを同時にトランスフェクションする。最後に、プロデューサー細胞にヘルパーウイルスを感染させる。
これらの因子が一緒になると、異種遺伝子は、あたかも野生型AAVゲノムであるかのように複製されパッケージングされる。結果的に生じたrAAVウイルス粒子に標的細胞が感染すると、標的細胞において異種遺伝子が侵入し、発現される。
標的細胞はrepおよびcap遺伝子ならびにアデノウイルスヘルパー遺伝子を欠くので、rAAVはさらに複製し、パッケージングし、または野生型AAVを形成しえない。
しかしながら、ヘルパーウイルスの使用は、いくつかの問題を呈する。第1に、rAAV産生系でのアデノウイルスの使用は、宿主細胞にrAAVおよび感染性アデノウイルスの両方を産生させる。混入している感染性アデノウイルスは、加熱処理(1時間56℃)によって不活化することができる。しかしながら、加熱処理は、機能的なrAAVウイルス粒子の力価の、およそ50%の低下を引き起こす。第2に、これらの調製物にはさまざまな量のアデノウイルスタンパク質が存在する。例えば、そのようなrAAVウイルス粒子調製物において得られる総タンパク質のおよそ50%またはそれ以上が、遊離したアデノウイルス繊維タンパク質である。これらのアデノウイルスタンパク質は、完全に除去されなければ、患者由来の免疫応答を誘発する可能性がある。第3に、ヘルパーウイルスを利用するAAVベクター産生方法では、大量の高力価の感染性ヘルパーウイルスの使用および操作を必要とし、これは、特にヘルペスウイルスの使用に関して、いくつかの健康および安全上の懸念を呈する。第4に、rAAVウイルス粒子産生性の細胞におけるヘルパーウイルス粒子の同時産生は、大量の宿主細胞供給源を、rAAVウイルス粒子産生を避ける方に向かわせ、より低いrAAVウイルス粒子の収量を引き起こす可能性がある。
レンチウイルスベクター
レンチウイルスは、複雑なレトロウイルスであり、これは一般的なレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenvの他に、調節または構造機能を有する他の遺伝子を含有する。より高い複雑性によって、潜伏感染の経過中などで、ウイルスはその生活環を調節することができる。レンチウイルスのいくつかの例としては、ヒト免疫不全ウイルス: HIV-1、HIV-2、およびサル免疫不全ウイルス: SIVが挙げられる。レンチウイルスベクターは、HIV病原遺伝子を幾重にも弱毒化させることによって生成されており、例えば、遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefを欠失させて、ベクターを生物学的に安全にする。
組み換えレンチウイルスベクターは、非***細胞に感染することができ、核酸配列のインビボおよびエクスビボ遺伝子移入および発現の両方のために用いることができる。レンチウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、レトロウイルスにおいて見出される3つの遺伝子: gag、polおよびenvを有し、これらには2つの長末端反復(LTR)配列が隣接している。gag遺伝子は内部構造(マトリックス、キャプシドおよびヌクレオキャプシド)タンパク質をコードする; pol遺伝子はRNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)、プロテアーゼおよびインテグラーゼをコードする; ならびにenv遺伝子はウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5'および3' LTRはウイルス粒子RNAの転写およびポリアデニル化を促進する働きをする。LTRは、ウイルス複製に必要な他の全てのシス作用性配列を含む。レンチウイルスは、vif、vpr、tat、rev、vpu、nefおよびvpxを含むさらなる遺伝子を有する。
5' LTRに隣接して、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)および粒子中へのウイルスRNAの効率的なキャプシド形成に必要な配列(Psi部位)がある。キャプシド形成(または感染性ウイルス粒子へのレトロウイルスRNAのパッケージング)に必要な配列がウイルスゲノムから欠損しているなら、シス欠損がゲノムRNAのキャプシド形成を抑止する。しかしながら、得られた変異体は依然として全てのウイルス粒子タンパク質の合成を指令しうる。
レンチウイルスベクターは、当技術分野において公知であり、Naldini et al., (1996); Zufferey et al., (1997); 米国特許第6,013,516号; および米国特許第5,994,136号を参照されたい。一般に、ベクターはプラスミドに基づき、またはウイルスに基づき、外来核酸を組み入れるために、選択のために、および宿主細胞への核酸の移入のために不可欠な配列を保有するように構成される。関心対象のベクターのgag、polおよびenv遺伝子も、当技術分野において公知である。したがって、関連遺伝子を、選択したベクターにクローニングし、その後、これを用いて、関心対象の標的細胞を形質転換する。
適当な宿主細胞にパッケージング機能、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatを保有する2つまたはそれ以上のベクターをトランスフェクションした、非***細胞に感染可能な組み換えレンチウイルスが、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,136号に記述されている。これには、パッケージング細胞を産生するための、ウイルスgagおよびpol遺伝子をコードする核酸を提供しうる第1のベクター、ならびにウイルスenvをコードする核酸を提供しうる別のベクターが記述されている。そのパッケージング細胞の中に、本発明におけるSTAT-1α遺伝子のような、異種遺伝子を提供するベクターを導入することによって、関心対象の外来遺伝子を保有する感染性ウイルス粒子を放出するプロデューサー細胞が得られる。envは好ましくは、ヒトおよび他の種の細胞の形質導入を可能にする両種指向性のエンベロープタンパク質である。
特定の細胞型の受容体への標的化のため特定のリガンドまたは抗体とのエンベロープタンパク質の連結によって、組み換えウイルスを標的化してもよい。例えば、特定の標的細胞の受容体に対するリガンドをコードする別の遺伝子とともに、関心対象の配列(調節領域を含む)をウイルスベクター中に挿入することによって、ベクターはその時点で、標的に特異的である。
ウイルスenv核酸配列を提供するベクターは調節配列、例えば、プロモーターまたはエンハンサーと機能的に結び付けられる。調節配列は、例えば、モロニーマウス白血病ウイルスプロモーター−エンハンサー要素、ヒトサイトメガロウイルスエンハンサーまたはワクシニアP7.5プロモーターを含む、任意の真核生物プロモーターまたはエンハンサーであることができる。モロニーマウス白血病ウイルスプロモーター−エンハンサー要素のような、ある場合には、プロモーター−エンハンサー要素は、LTR配列内にまたはLTR配列に隣接して位置する。
本明細書におけるポリヌクレオチド配列をコードするSTAT-1αのような、異種または外来核酸配列は、調節核酸配列に機能的に連結される。好ましくは、異種配列はプロモーターに連結され、キメラ遺伝子をもたらす。異種核酸配列は、ウイルスLTRプロモーター−エンハンサーシグナルの制御下または内部プロモーターの制御下であってもよく、レトロウイルスLTR内の保持シグナルはそれでもなお、導入遺伝子の効率的な発現をもたらすことができる。マーカー遺伝子は、ベクターの存在をアッセイし、それによって、感染および組み込みを確認するために利用することができる。マーカー遺伝子の存在により、挿入断片を発現させるそれら宿主細胞のみの選択および増殖が確保される。典型的な選択遺伝子は、抗生物質および他の有毒物質、例えば、ヒスチジノール、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、メトトレキサートなどに対する耐性を付与するタンパク質、ならびに細胞表面マーカーをコードする。
ベクターは、トランスフェクションまたは感染によりパッケージング細胞株に導入される。パッケージング細胞株は、ベクターゲノムを含有するウイルス粒子を産生する。トランスフェクションまたは感染のための方法は、当業者によってよく知られている。パッケージング細胞株へのパッケージングベクターおよび移入ベクターの同時トランスフェクションの後、組み換えウイルスが培地から回収され、当業者によって用いられる標準的な方法によって力価測定される。したがって、パッケージング構築体は、通常はneo、DHFR、Gln合成酵素またはADAのような、優性選択マーカーとともに、リン酸カルシウム・トランスフェクション、リポフェクションまたは電気穿孔によりヒト細胞株に導入され、その後、適切な薬物の存在下での選択およびクローンの単離が行われうる。選択マーカー遺伝子は、構築体中のパッケージング遺伝子に物理的に連結されうる。
Naldini et al. (1996)のレンチウイルス移入ベクターは、インビトロで増殖停止されたヒト細胞に感染させるために、および成体ラットの脳への直接注入後のニューロンに形質導入するために用いられている。このベクターはニューロンへのインビボにおけるマーカー遺伝子の移入で効率的であり、検出可能な病変なくして長期発現が達成された。ベクターの単回注入から10ヶ月後に分析された動物は、導入遺伝子の発現の平均レベルが減少していないこと、および組織病理学または免疫反応の兆候がないことを示した(Blomer et al., 1997)。したがって、本発明では、エクスビボで組み換えレンチウイルスに感染した細胞を移植してもよく、またはインビボの細胞に感染させてもよい。
他のウイルスベクター
遺伝子送達のためのウイルスベクターの開発および有用性は、絶えず改善および進化している。ポックスウイルス; 例えば、ワクシニアウイルス(Gnant et al., 1999; Gnant et al., 1999)、アルファウイルス; 例えば、シンドビスウイルス、セムリキ森林熱ウイルス(Lundstrom, 1999)、レオウイルス(Coffey et al., 1998)およびインフルエンザA型ウイルス(Neumann et al., 1999)のような他のウイルスベクターが、本発明で用いるために企図され、標的系の必要特性にしたがって選択されうる。
ある種の態様において、ワクシニアウイルスベクターが本発明で用いるために企図される。ワクシニアウイルスは、異種遺伝子を発現させるのに特に有用な真核生物ウイルスベクター系である。例えば、組み換えワクシニアウイルスが適切に操作されれば、そのタンパク質が合成され、プロセッシングされ、原形質膜に輸送される。遺伝子送達ベクターとしてのワクシニアウイルスは、最近、遺伝子をヒト腫瘍細胞、例えば、EMAP-II (Gnant et al., 1999)、内耳(Derby et al., 1999)、グリオーマ細胞、例えば、p53 (Timiryasova et al., 1999)およびさまざまな哺乳類細胞、例えば、P450 (米国特許第5,506,138号)に移入することが実証されている。ワクシニアウイルスの調製、増殖および維持は、米国特許第5,849,304号および米国特許第5,506,138号(各々が参照により本明細書に明確に組み入れられる)に記述されている。
ある種の態様において、シンドビスウイルスベクターが、遺伝子送達で用いるために企図される。シンドビスウイルスはアルファウイルス属の一種であり(Garoff and Li, 1998)、アルファウイルス属にはベネズエラウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルスおよび東部ウマ脳炎ウイルスのような重要な病原菌が含まれる(Sawai et al., 1999; Mastrangelo et al., 1999)。インビトロにおいて、シンドビスウイルスは種々の鳥類細胞、哺乳類細胞、爬虫類細胞、および両生類細胞に感染する。シンドビスウイルスのゲノムは長さが11,703ヌクレオチドの、一本鎖RNAの単一分子からなる。そのゲノムRNAは感染性であり、5'末端の位置でキャッピングされ、3'末端の位置でポリアデニル化され、mRNAとして働く。ワクシニアウイルス26S mRNAの翻訳によって、ウイルスおよびおそらく宿主によりコードされるプロテアーゼの組み合わせにより同時翻訳的におよび翻訳後に切断されて、3つのウイルス構造タンパク質、つまりキャプシドタンパク質(C)および2つのエンベロープ糖タンパク質(E1およびPE2、つまりウイルス粒子E2の前駆体)をもたらすポリタンパク質が産生される。
シンドビスウイルスの3つの特徴から、それが異種遺伝子の発現に有用なベクターであることが示唆される。第1に、天然においても研究室においてもともに、その宿主域が広いことである。第2に、遺伝子発現が宿主細胞の細胞質中で起こり、迅速かつ効率的である。第3に、RNA合成での温度感受性変異が利用可能であり、これを用いて、感染後のさまざまな時点で非許容温度に培養物を単純にシフトさせることにより異種コード配列の発現を調節することができる。シンドビスウイルスの増殖および維持は、当技術分野において公知である(参照により本明細書に明確に組み入れられる米国特許第5,217,879号)。
キメラウイルスベクター
キメラウイルスベクターまたはハイブリッドウイルスベクターが、治療用遺伝子の送達で用いるために開発中であり、本発明で用いるために企図される。キメラポックスウイルス/レトロウイルスベクター(Holzer et al., 1999)、アデノウイルス/レトロウイルスベクター(Feng et al., 1997; Bilbao et al., 1997; Caplen et al., 1999)およびアデノウイルス/アデノ随伴ウイルスベクター(Fisher et al., 1996; 米国特許第5,871,982号)が記述されている。
これらの「キメラ」ウイルス遺伝子移入系は、2つまたはそれ以上の親ウイルス種の好ましい特徴を活用することができる。例えば、Wilsonらは、下記の、アデノウイルスの一部分、AAV 5'および3' ITR配列ならびに選択した導入遺伝子を含む、キメラベクター構築体を提供している(参照により本明細書に明確に組み入れられる米国特許第5,871,983号)。
アデノウイルス/AAVキメラウイルスは、アデノウイルス核酸配列をシャトルとして用い、組み換えAAV/導入遺伝子ゲノムを標的細胞に送達する。ハイブリッドベクターにおいて利用されるアデノウイルス核酸配列は、ハイブリッドウイルス粒子を産生するためにヘルパーウイルスの使用を要する、最低限の配列量から、選択されたパッケージング細胞によるハイブリッドウイルス産生過程において欠失された遺伝子産物が供給されうる、選択されたアデノウイルス遺伝子欠失のみに及びうる。最低限でも、pAdAシャトルベクターにおいて利用されるアデノウイルス核酸配列は、全てのウイルス遺伝子が欠失され、かつ予め形成されたキャプシド頭部の中にアデノウイルスゲノムDNAをパッケージングするために必要とされるアデノウイルス配列だけを含んだ、アデノウイルスゲノム配列である。より具体的には、利用されるアデノウイルス配列は、アデノウイルスのシス作用性5'および3'反転末端リピート(ITR)配列(これは複製起点として機能する)、ならびに直鎖状Adゲノムのパッケージングに必要な配列およびE1プロモーターに対するエンハンサー要素を含む天然5'パッケージング/エンハンサードメインである。アデノウイルス配列は、所望の機能が取り除かれなければ、所望の欠失、置換、または変異を含むように修飾されてもよい。
上記のキメラベクターにおいて有用なAAV配列は、repおよびcapポリペプチドをコードする配列が欠失されているウイルス配列である。より具体的には、利用されるAAV配列は、シス作用性5'および3'反転末端リピート(ITR)配列である。これらのキメラは、宿主細胞への高力価の導入遺伝子送達および宿主細胞染色体に導入遺伝子を安定的に組み入れる能力によって特徴付けられる(参照により本明細書に明確に組み入れられる米国特許第5,871,983号)。ハイブリッドベクター構築体において、AAV配列は、先に考察した選択のアデノウイルス配列によって隣接される。5'および3' AAV ITR配列それ自体が、下記の、選択した導入遺伝子配列および付随した調節要素に隣接する。したがって、導入遺伝子ならびに隣接する5'および3' AAV配列によって形成された配列は、ベクターのアデノウイルス配列中の任意の欠失部位に挿入されうる。例えば、AAV配列は、望ましくは、アデノウイルスの欠失されたE1a/E1b遺伝子の部位に挿入される。あるいは、AAV配列はE3欠失、E2a欠失などの位置に挿入されてもよい。ハイブリッドウイルスにおいてアデノウイルス5' ITR/パッケージング配列および3' ITR配列しか用いられていないなら、AAV配列はその間に挿入される。
ベクターおよび組み換えウイルスの導入遺伝子配列は、関心対象のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド断片をコードする、アデノウイルス配列に対して異種の、遺伝子、核酸配列またはその逆転写産物であることができる。導入遺伝子は、導入遺伝子の転写を可能にする形で調節成分に機能的に連結される。導入遺伝子配列の組成は、得られるハイブリッドベクターの使途に依るであろう。例えば、導入遺伝子配列の一種には、宿主細胞において所望の遺伝子産物を発現する治療用遺伝子が含まれる。これらの治療用遺伝子または核酸配列は、典型的には、遺伝性もしくは非遺伝性の遺伝的欠陥を置換もしくは修正するために、または後成的障害もしくは疾患を処置するために、患者においてインビボまたはエクスビボで投与および発現させるための産物をコードする。
(x) 非ウイルス形質転換
本発明で用いるオルガネラ、細胞、組織または生物の形質転換のための核酸送達に適した方法は、本明細書において記述されるように、または当業者に公知であるように、核酸(例えば、DNA)をオルガネラ、細胞、組織または生物に導入できる実質的にいかなる方法も含むものと考えられる。このような方法は、微量注入(参照により本明細書に組み入れられるHarland and Weintraub, 1985; 米国特許第5,789,215号)を含む、注入(各々が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号および同第5,580,859号)による; 電気穿孔(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号)による; リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973; Chen and Okayama, 1987; Rippe et al., 1990)による; DEAE-デキストランの後にポリエチレングリコールを用いることによる(Gopal, 1985); 直接超音波負荷(Fechheimer et al., 1987)による; リポソーム媒介トランスフェクション(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al, 1979; Nicolau et al., 1987; Wong et al., 1980; Kaneda et al., 1989; Kato et al., 1991)による; 微小発射物の衝突(各々が参照により本明細書に組み入れられるPCT出願第WO94/09699号および同第95/06128号; 米国特許第5,610,042号; 同第5,322,783号、同第5,563,055号、同第5,550,318号、同第5,538,877号、および同第5,538,880号)による; 炭化ケイ素繊維との攪拌(各々が参照により本明細書に組み入れられるKaeppler et al., 1990; 米国特許第5,302,523号および同第5,464,765号)による; またはプロトプラストのPEG媒介形質転換(各々が参照により本明細書に組み入れられるOmirulleh et al., 1993; 米国特許第4,684,611号および同第4,952,500号)による; 乾燥/阻害媒介DNA取り込み(Potrykus et al., 1985)によるようなDNAの直接送達を含むが、これらに限定されることはない。これらのような技法の適用によって、オルガネラ、細胞、組織または生物は、安定的にまたは一過的に形質転換されうる。
注入
ある種の態様において、核酸は、皮下、皮内、筋肉内、静脈内または腹腔内のような、1回または複数回の注入(すなわち、針による注入)によってオルガネラ、細胞、組織、または生物に送達されてもよい。ワクチンを注入する方法は当業者に周知である(例えば、生理食塩水溶液を含む組成物の注入)。本発明のさらなる態様には、直接マイクロインジェクションによる核酸の導入が含まれる。直接マイクロインジェクションは、核酸構築体をツメガエル(Xenopus)の卵母細胞に導入するために用いられている(Harland and Weintraub, 1985)。
電気穿孔
本発明のある種の態様において、核酸は電気穿孔によってオルガネラ、細胞、組織、または生物に導入される。電気穿孔は高圧放電に細胞およびDNAの浮遊液を曝露することを伴う。この方法のいくつかの変法において、ペクチン分解酵素のようなある種の細胞壁分解酵素を使用して標的レシピエント細胞を、電気穿孔による形質転換に対して未処置細胞よりも感受性があるようにする(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,384,253号)。あるいは、レシピエント細胞を、機械的創傷による形質転換に対してより感受性があるようにすることができる。
電気穿孔を用いる真核細胞のトランスフェクションは、非常に成功している。このようにして、マウスプレBリンパ球にヒトκ免疫グロブリン遺伝子をトランスフェクションしており(Potter et al., 1984)、ラット肝細胞にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子をトランスフェクションしている(Tur-Kaspa et al., 1986)。
例えば、植物細胞のような細胞における電気穿孔による形質転換を行うために、細胞もしくは胚形成カルスの浮遊液のようなもろい組織を使用してもよく、または未成熟な胚もしくは他の組織化された組織を直接形質転換してもよい。この技術において、選んだ細胞をペクチン分解酵素(ペクトリアーゼ)または制御された方法での機械的損傷に曝露することによって、選んだ細胞の細胞壁は部分的に分解されると考えられる。無傷の細胞の電気穿孔によって形質転換されているいくつかの種の例には、トウモロコシ(米国特許第5,384,253号; Rhodes et al., 1995; D'Halluin et al., 1992)、コムギ(Zhou et al., 1993)、トマト(Hou and Lin, 1996)、ダイズ(Christou et al., 1987)およびタバコ(Lee et al., 1989)が含まれる。
同様に、植物細胞の電気穿孔による形質転換のためにプロトプラストを利用してもよい(Bates, 1994; Lazzeri, 1995)。例えば、子葉由来プロトプラストの電気穿孔によるトランスジェニックダイズ植物の生成が、参照により本明細書に組み入れられる国際特許出願WO 92/17598においてDhir and Widholmによって記述されている。プロトプラスト形質転換が記述されている種の他の例としては、オオムギ(Lazerri, 1995)、モロコシ(Battraw et al., 1991)、トウモロコシ(Bhattacharjee et al., 1997)、コムギ(He et al., 1994)およびトマト(Tsukada, 1989)が挙げられる。
リン酸カルシウム
本発明の他の態様において、核酸はリン酸カルシウム沈殿を用いて細胞に導入される。この技術を用いて、ヒトKB細胞にアデノウイルス5 DNAをトランスフェクションしている(Graham and Van Der Eb, 1973)。同様に、このようにして、マウスL(A9)、マウスC127、CHO、CV-1、BHK、NIH3T3およびHeLa細胞にネオマイシンマーカー遺伝子をトランスフェクションし(Chen and Okayama, 1987)、ラット肝細胞に種々のマーカー遺伝子をトランスフェクションした(Rippe et al., 1990)。
DEAE-デキストラン
別の態様において、核酸はDEAEデキストランの後にポリエチレングリコールを用いて細胞に送達される。このようにしてレポータープラスミドは、マウス骨髄腫および赤白血病細胞に導入された(Gopal, 1985)。
超音波ローディング
本発明のさらなる態様には、直接超音波ローディングによる核酸の導入が含まれる。超音波ローディングによってLTK-線維芽細胞にチミジンキナーゼ遺伝子をトランスフェクションしている(Fechheimer et al., 1987)。
リポソーム媒介トランスフェクション
本発明のさらなる態様において、核酸は、例えば、リポソームのような脂質複合体に捕捉されてもよい。リポソームは、リン脂質二重層膜と内部水性媒体とを特徴とする小胞構造である。マルチラメラリポソームは、水性媒体によって分かれた多数の脂質層を有する。それらは、リン脂質を過剰量の水溶液に懸濁させると自然に形成する。脂質成分は、閉鎖構造を形成する前に自己再編成を受けて、脂質二重層の中に水および溶解した溶質を捕獲する(Ghosh and Bachhawat, 1991)。同様に、Lipofectamine(Gibco BRL)、またはSuperfect(Qiagen)と複合体を形成した核酸も企図される。
インビトロにおける外来DNAのリポソーム媒介核酸送達および発現は非常に成功している(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al., 1979; Nicolau et al., 1987)。培養鶏卵、HeLa、および肝腫細胞における外来DNAのリポソーム媒介送達および発現の実現可能性も同様に実証されている(Wong et al., 1980)。
本発明のある種の態様において、リポソームは、血液凝集ウイルス(HVJ)と複合体を形成してもよい。これは、細胞膜との融合を促進して、リポソーム被包性DNAの細胞流入を促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様において、リポソームは、核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)とともに複合体を形成してもよく、またはそれらとともに利用してもよい(Kato et al., 1991)。さらなる態様において、リポソームは、HVJおよびHMG-1の両方とともに複合体を形成してもよく、または利用してもよい。他の態様において、送達媒体はリガンドおよびリポソームを含んでもよい。
受容体媒介トランスフェクション
さらに、核酸を受容体媒介送達媒体によって標的細胞に送達してもよい。これらは、標的細胞内で起こると考えられる受容体媒介エンドサイトーシスによる、高分子の選択的取り込みを利用する。さまざまな受容体の細胞型特異的分布を考慮して、この送達法は、本発明の別の特異性を高める。
ある種の受容体媒介性の遺伝子標的化媒体は、細胞受容体特異的リガンドおよび核酸結合物質を含む。他は、それに対して送達されるべき核酸が機能的に付着している細胞受容体特異的リガンドを含む。いくつかのリガンドが受容体媒介遺伝子移入のために用いられており(Wu and Wu, 1987; Wagner et al., 1990; Perales et al., 1994; Myers, EPO 0273085)、これは技術の操作性を確立する。もう一つの哺乳類細胞型の状況における特異的送達が記述されている(参照により本明細書に組み入れられる、Wu and Wu, 1993)。本発明のある種の局面において、リガンドは、標的細胞集団において特異的に発現される受容体に対応するように選ばれると考えられる。
他の態様において、細胞特異的な核酸標的化媒体の核酸送達媒体成分は、リポソームと組み合わせて特異的結合リガンドを含んでもよい。送達される核酸は、リポソーム内に収容され、特異的結合リガンドはリポソーム膜に機能的に組み入れられる。リポソームは、このように標的細胞の受容体に特異的に結合して、内容物を細胞に送達すると考えられる。そのような系は、例えば上皮細胞増殖因子(EGF)を使用する系を用いて、EGF受容体の上方制御を示す細胞に対する核酸の受容体媒介送達において機能的であることが示されている。
さらなる態様において、標的化送達媒体の核酸送達媒体成分はリポソーム自体であり、これは好ましくは細胞特異的結合を支持する1つまたは複数の脂質または糖タンパク質を含むと考えられる。例えば、ラクトシルセラミド、ガラクトース末端アシアロガングリオシドは、リポソームに組み入れられており、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加が観察されている(Nicolau et al., 1987)。本発明の細胞特異的形質転換構築体は、同様に標的細胞に特異的に送達されうることが企図される。
C. 発現系
先に考察した組成物の少なくとも一部または全部を含む多数の発現系が存在する。核酸配列、またはその同族のポリペプチド、タンパク質およびペプチドを産生する目的で、本発明とともに用いるために、原核生物および/または真核生物に基づく系を利用することができる。そのような多くの系が市販されており、広く入手可能である。
昆虫細胞/バキュロウイルス系は、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,871,986号および同第4,879,236号に記述されるような異種核酸セグメントの高レベルタンパク質発現をもたらすことができ、例えば、INVITROGEN(登録商標)からMAXBAC(登録商標)2.0の名称で、およびCLONTECH(登録商標)からBACPACK(商標)バキュロウイルス発現系の名称で購入することができる。
発現系の他の例としては、合成エクダイソン誘導性受容体またはそのpET発現系、大腸菌(E. coli)発現系を伴うSTRATAGENE(登録商標)のCOMPLETE CONTROL(商標)誘導性哺乳類発現系が挙げられる。誘導性発現系のもう一つの例は、INVITROGEN(登録商標)から入手可能であり、これは完全長のCMVプロモーターを用いる誘導性哺乳類発現系であるT-REX(商標)(テトラサイクリン調節発現)系を有する。INVITROGEN(登録商標)はまた、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)発現系と呼ばれる酵母発現系を提供し、これはメチル栄養性酵母ピチア・メタノリカにおける組み換えタンパク質の高レベル産生のためにデザインされている。当業者は、核酸配列、またはその同族のポリペプチド、タンパク質、またはペプチドを産生するために、発現構築体のような、ベクターを発現させる方法を知っていると考えられる。
初代哺乳類細胞培養物は、さまざまな方法で調製されうる。インビトロにある間におよび発現構築体と接触されている間に細胞を生存させ続けるために、細胞は的確な割合の酸素および二酸化炭素ならびに栄養との接触を維持し、微生物汚染から防護されることを確実にする必要がある。細胞培養技法は十分に解説されている。
前述の1つの態様では、遺伝子移入を用いて、タンパク質の産生のために細胞を不死化することを伴う。関心対象のタンパク質に対する遺伝子を前述のように、適切な宿主細胞へ移入し、その後に適切な条件下での細胞の培養を行うことができる。実質的に任意のポリペプチドに対する遺伝子を、このようにして利用することができる。組み換え発現ベクターの作成、およびその中に含まれる要素は、先に考察されている。あるいは、産生されるタンパク質は、当該細胞によって通常合成される内因性タンパク質であってもよい。
有用な哺乳類宿主細胞株の例は、VeroおよびHeLa細胞ならびにチャイニーズハムスター卵巣細胞株、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、NIH3T3、RINおよびMDCK細胞株である。さらに、挿入された配列の発現を調節する、または所望とされる様式で遺伝子産物を改変およびプロセッシングする宿主細胞株を選択してもよい。タンパク質産物のそのような改変(例えば、グリコシル化)およびプロセッシング(例えば、切断)は、タンパク質の機能にとって重要でありうる。異なる宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセッシングおよび修飾のための特徴的かつ特異的な機構を有する。適切な細胞株または宿主系を選択して、発現された外因性タンパク質の的確な修飾およびプロセッシングを確実にすることができる。
tk-、hgprt-またはaprt-細胞においてそれぞれ、HSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼおよびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むがこれらに限定されない、いくつかの選択系を用いてもよい。同様に、耐性を付与するdhfr; ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt; アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo; およびハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygroの選択に基づいて抗代謝耐性を用いることができる。
IV. HER2/Neuが関与するがんの診断
別の態様において、本発明は、がんにおけるHER2/Neuの発現、または過剰発現を評価するための診断方法に関する。そのようながんは、E1A 1〜80が関与する処置と特に関連性がある。そのようながんは、脳の腫瘍(膠芽細胞腫、髄芽腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、上衣腫)、肺、肝臓、脾臓、腎臓、膵臓、小腸、血球、リンパ節、結腸、***、子宮内膜、胃、前立腺、精巣、卵巣、皮膚、頭頸部、食道、骨髄、血液または他の組織のがんを含みうる。特に、本発明は乳がんの診断に関する。
生体試料は任意の組織または液体であることができる。さまざまな態様には、皮膚、筋肉、顔、脳、前立腺、***、子宮内膜、肺、頭頸部、膵臓、小腸、血球、肝臓、精巣、卵巣、結腸、皮膚、胃、食道、脾臓、リンパ節、骨髄または腎臓の細胞が含まれる。他の態様には、末梢血、リンパ液、腹水、漿液、胸水、痰、脳脊髄液、涙液、便または尿のような液体試料が含まれる。
A. 遺伝子診断
1つの態様において、診断は、特に、DNA重複またはmRNA発現を調べることにより、核酸に焦点を合わせてもよい。用いられる核酸は標準的な方法論(Sambrook et al., 1989)にしたがって、生体試料中に含まれる細胞から単離される。核酸は、ゲノムDNAまたは分画されたもしくは全細胞のRNAでありうる。RNAが用いられる場合、RNAを相補的DNAに変換することが望ましいことがある。1つの態様において、RNAは全細胞RNAであり; 別の態様において、RNAはポリA RNAである。通常、核酸が増幅される。
形式に依って、関心対象の特定の核酸は、増幅を用いて、または増幅後に第2の、既知の核酸によって、直接試料中で特定される。次に、特定された産物が検出される。ある種の適用において、検出は、視覚的手段(例えば、ゲルの臭化エチジウム染色)によって行われうる。あるいは、検出は、化学発光、放射能標識もしくは蛍光標識の放射活性シンチグラフィーを介した、または場合により電気的もしくは熱的衝撃シグナルを用いるシステム(Affymax Technology; Bellus, 1994)を介した生成物の間接的な特定を伴いうる。
検出に続き、所与の患者において認められた結果を、正常患者およびHER2/neuに関連したがんを有する患者の統計的に有意な参照群と比較することができる。このようにして、さまざまな臨床状態で検出されたHER2/neuの量を関連付けることが可能である。
(i) プライマーおよびプローブ
プライマーという用語は、本明細書において定義されるように、鋳型依存的な過程において新生核酸の合成をプライミングできる任意の核酸を包含するよう意図される。典型的には、プライマーは長さ10〜20塩基対のオリゴヌクレオチドであるが、より長い配列を利用することもできる。プライマーは二本鎖の形態で提供されても一本鎖の形態で提供されてもよいが、一本鎖の形態が好ましい。プローブには異なる定義がなされるが、プライマーとして働くこともできる。プローブは、おそらくはプライミングの能力を有するが、標的DNAまたはRNAに結合するようにデザインされており、増幅過程において用いられる必要はない。特定の態様において、プローブまたはプライマーは、放射性化学種(32P、14C、35S、3Hもしくは他の標識)で、フルオロフォア(ローダミン、フルオレセイン)または化学発光(ルシフェラーゼ)で標識される。
(ii) 鋳型依存的増幅方法
所与の鋳型試料中に存在するマーカー配列を増幅するために、いくつかの鋳型依存的な過程が利用可能である。最もよく知られている増幅方法の1つは、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号および同第4,800,159号に、ならびにInnis et al., 1990に詳述されているポリメラーゼ連鎖反応(PCR(商標)といわれる)であり、該文献はそれぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
手短に言えば、PCR(商標)では、マーカー配列の相対する相補鎖上の領域と相補的である2つのプライマー配列が調製される。反応混合物に、過剰量のデオキシヌクレオシド三リン酸がDNAポリメラーゼ、例えば、Taqポリメラーゼとともに加えられる。マーカー配列が試料中に存在すれば、プライマーはマーカーに結合し、ポリメラーゼはヌクレオチドを付加することによりマーカー配列に沿ってプライマーを伸長させることになる。反応混合物の温度を上下させることによって、伸長したプライマーはマーカーから解離して反応生成物を形成し、過剰なプライマーはマーカーおよび反応生成物に結合することになり、そしてこの過程が繰り返される。
逆転写酵素PCR(商標)増幅手順は、増幅されたmRNAの量を定量化するために行われうる。RNAをcDNAへ逆転写する方法は、周知であり、Sambrook et al. (1989)に記述されている。逆転写の別法では耐熱性のRNA依存性DNAポリメラーゼを利用する。これらの方法は、1990年12月21日付で出願されたWO 90/07641に記述されている。ポリメラーゼ連鎖反応の方法論は当技術分野において周知である。
別の増幅方法は、EPO第320 308号に開示されているリガーゼ連鎖反応(「LCR」)であり、該文献は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。LCRでは、2組の相補的なプローブ対が調製され、標的配列の存在下で、各対は標的の相対する相補鎖に、隣接するように結合する。リガーゼの存在下では、2組のプローブ対は連結して単一ユニットを形成することになる。温度サイクリングによって、PCR(商標)のように、結合している核酸連結ユニットが標的から解離し、次いで過剰なプローブ対の核酸連結のための「標的配列」としての役割を果たす。米国特許第4,883,750号には、標的配列にプローブ対が結合するためのLCRに類似の方法が記述されている。
PCT出願番号PCT/US87/00880において記述されているQβレプリカーゼが、本発明におけるさらに別の増幅方法として用いられてもよい。この方法では、標的の配列に相補的な領域を有するRNAの複製配列が、RNAポリメラーゼの存在下で試料に加えられる。このポリメラーゼはこの複製配列をコピーすることになり、次いで該配列が検出されうる。
制限エンドヌクレアーゼおよびリガーゼを用いて制限部位の一方の鎖にヌクレオチド5'-[α-チオ]-三リン酸を含有している標的分子の増幅が行われる等温増幅法も、本発明における核酸の増幅において有用でありうる(Walker et al., 1992)。
鎖置換増幅(SDA)は、多数回の鎖置換および合成、すなわち、ニックトランスレーションを伴う、核酸の等温増幅を実行する別の方法である。修復連鎖反応(RCR)と呼ばれる類似の方法は、増幅の標的とされた領域全体にわたっていくつかのプローブをアニーリングすることと、その後の4つの塩基のうち2つだけが存在する修復反応とを伴っている。他の2つの塩基は、簡単に検出するためにビオチン化誘導体として加えることができる。同様の手法はSDAにおいて用いられる。標的特異的な配列を、サイクリックプローブ反応(CPR)を用いて検出することもできる。CPRでは、非特異的DNAの3'および5'配列と特異的RNAの中央配列とを有するプローブが、試料中に存在するDNAとハイブリダイズされる。ハイブリダイゼーションすると、反応物はRNase Hで処理され、該プローブの産物は消化後に放出される特有の産物として特定される。もとの鋳型は別のサイクリングプローブとアニールされ、反応が繰り返される。
GB出願番号2 202 328において、およびPCT出願番号PCT/US89/01025において記述されているさらに別の増幅方法が、本発明によって用いられてもよく、該出願はそれぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。前者の出願では、「修飾」プライマーがPCR(商標)のような鋳型依存的かつ酵素依存的合成において用いられる。プライマーは、捕捉部分(例えば、ビオチン)および/または検出部分(例えば、酵素)で標識することによって修飾されうる。後者の出願では、過剰量の標識プローブが試料に加えられる。標的配列の存在下では、プローブは結合し、触媒的に開裂される。開裂後、標的配列は元の状態で解放されて、過剰なプローブによって結合される。標識プローブの開裂は、標的配列の存在を示す。
他の核酸増幅手順には、転写に基づいた増幅システム(TAS)、例えば核酸配列に基づいた増幅(NASBA)および3SRが含まれる(参照により全体が本明細書に組み入れられるKwoh et al., 1989; Gingeras et al., PCT出願WO 88/10315)。NASBAでは、核酸は、標準的なフェノール/クロロホルム抽出、臨床試料の加熱変性、DNAおよびRNAの単離のための溶解用緩衝液およびミニスピンカラムを用いた処理またはRNAの塩化グアニジン抽出によって増幅用に調製することができる。これらの増幅技法は、標的特異的な配列を有するプライマーをアニーリングすることを伴う。重合に続いて、DNA/RNAハイブリッドはRNase Hで消化される一方、二本鎖DNA分子は再び熱変性される。いずれの場合も、一本鎖DNAは第2の標的特異的プライマーの添加によって完全に二本鎖となり、続いて重合が行われる。その後、二本鎖DNA分子はT7またはSP6のようなRNAポリメラーゼによって複合的に転写される。等温サイクル反応では、RNAは一本鎖DNAへ逆転写され、次に該一本鎖DNAは二本鎖DNAに変換され、その後、T7またはSP6のようなRNAポリメラーゼで再び転写される。得られた産物は、短縮型であれ完全長であれ、標的特異的な配列を示す。
DaveyらのEPO番号329 822 (参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)は、一本鎖RNA (「ssRNA」)、ssDNAおよび二本鎖DNA (dsDNA)をサイクル合成することを伴う核酸増幅過程を開示しており、これを本発明によって用いてもよい。ssRNAは、逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)によって伸長される第1のプライマーオリゴヌクレオチドの鋳型である。その後、RNAは、リボヌクレアーゼH (RNase H、DNAまたはRNAとの二重鎖の中のRNAに特異的なRNase)の作用によって生じたDNA:RNA二重鎖から取り除かれる。結果として生じるssDNAは第2のプライマーの鋳型であり、該プライマーはまた、鋳型に相同な部分の5'側にRNAポリメラーゼプロモーター(T7 RNAポリメラーゼによって例示される)の配列を含む。このプライマーはその後、DNAポリメラーゼ(大腸菌DNAポリメラーゼIの大「クレノウ」断片によって例示される)により伸長され、その結果、プライマー間に元のRNAの配列と同一の配列を有し、さらには一端にプロモーター配列を有している二本鎖DNA (「dsDNA」)分子を生じる。このプロモーター配列は適切なRNAポリメラーゼにより用いられ、該DNAの多くのRNAコピーを作出することができる。その後、これらのコピーは、非常に迅速な増幅をもたらすサイクルに再度入ることもできる。酵素を適切に選択すれば、この増幅を各サイクルで酵素の追加を行うことなく等温で行うことができる。この過程のサイクル式の性質から、最初の配列はDNAまたはRNAのいずれかの形態としても選択可能である。
MillerらのPCT出願WO 89/06700 (参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)は、核酸配列増幅スキームであって標的一本鎖DNA (「ssDNA」)へのプロモーター/プライマー配列のハイブリダイゼーションとその後の該配列の多くのRNAコピーの転写に基づいたスキームを開示している。このスキームはサイクル式ではない、すなわち、結果として得られるRNA転写産物から新しい鋳型は産生されない。他の増幅方法には「RACE」および「片側PCR(商標)」が含まれる(Frohman, 1990; Ohara et al., 1989; それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
2つ(またはそれ以上)のオリゴヌクレオチドを、結果として得られる「ジオリゴヌクレオチド」の配列を有する核酸の存在下で核酸連結することによって、該ジオリゴヌクレオチドを増幅することに基づく方法を、本発明の増幅段階において用いてもよい。参照により全体が本明細書に組み入れられるWu et al., (1989)。
(iii) サザン/ノザンブロッティング
ブロッティング技法は当業者に周知である。サザンブロッティングでは標的としてDNAの使用を伴うのに対し、ノザンブロッティングでは標的としてRNAの使用を伴う。それぞれ異なるタイプの情報をもたらすが、cDNAのブロッティングは多くの点で、RNA分子種のブロッティングに類似している。
手短に言えば、多くの場合ニトロセルロースのフィルタである適当なマトリックス上に固定化済みのDNA分子種またはRNA分子種を標的とするためにプローブが用いられる。さまざまな分子種は、分析を容易にするために空間的に分離されなければならない。これは多くの場合、核酸分子種のゲル電気泳動とその後のフィルタへの「ブロッティング」によって達成される。
その後、ブロッティングされた標的は、変性および再ハイブリダイゼーションを促進する条件下で、プローブ(通常は標識されている)とともにインキュベートされる。プローブは標的と塩基対合をなすようにデザインされているので、プローブは復元条件下で標的配列の一部分に結合することになる。次いで、結合していないプローブが除去されて、上述のように検出が行われる。
(iv) 分離方法
通常、特異的な増幅が行われたかどうかを判定するために、ある段階または別の段階で、増幅産物を鋳型および過剰なプライマーから分離することが望ましい。1つの態様において、増幅産物は、標準的な方法を用いて、アガロースゲル電気泳動、アガロース-アクリルアミドゲル電気泳動またはポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離される。Sambrook et al., 1989を参照されたい。
あるいは、分離を行うためにクロマトグラフィー技法が利用されてもよい。本発明において用いられうる多くの種類のクロマトグラフィー法: 吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよび分子ふるいクロマトグラフィー、ならびにこれらを用いるための多くの専門的技法、例えばカラムクロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーが存在する(Freifelder, 1982)。
(v) 検出方法
産物は、マーカー配列の増幅を確認するために視覚化されてもよい。1つの典型的な視覚化方法は、臭化エチジウムを用いたゲルの染色および紫外線下での視覚化を伴う。あるいは、増幅産物が放射標識または蛍光標識されたヌクレオチドで全体的に標識される場合、増幅産物は、分離の後に、X線フィルムに曝露されてもよく、または適切な刺激スペクトルの下で視覚化されてもよい。
1つの態様において、視覚化は間接的に達成される。増幅産物の分離後、標識された核酸プローブが増幅されたマーカー配列と接触するようになされる。プローブは発色団に結合されることが好ましいが、放射標識されてもよい。別の態様において、プローブは抗体またはビオチンのような結合パートナーに結合され、結合対の他方の成員が検出可能な部分を担持している。
1つの態様において、検出は標識プローブによって行われる。関連する技法は当業者に周知であり、分子プロトコルに関する多くの標準的な書籍の中に見られる。Sambrook et al. (1989)を参照されたい。例えば、発色団または放射標識のプローブまたはプライマーによって増幅時または増幅後に標的が特定される。
上記の一例は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,279,721号に記述されており、同文献は、自動化された核酸の電気泳動および転写のための装置および方法について開示している。この装置はゲルの外部操作を伴わない電気泳動およびブロッティングを可能にし、本発明による方法の実行に理想的に適している。
さらに、上述の増幅産物を配列解析に供し、標準的な配列解析技法を用いて特定の種類の変異を特定してもよい。ある種の方法においては、最適な配列決定のためにデザインされたプライマーセットを用いる配列解析によって、遺伝子の網羅的な解析が行われる(Pignon et al, 1994)。本発明は、この種の解析のいずれかまたは全てが用いられうる方法を提供する。本明細書において開示された配列を用いて、オリゴヌクレオチドプライマーをデザインしてHER2/neu配列の増幅を可能とし、該配列を次いで直接配列決定法によって解析することができる。
(vi) キット構成要素
HER2/neuおよびその変種の検出および配列決定に必要な全ての必須の材料および試薬を、キット内に一緒に集めることができる。これには一般に、予め選択されたプライマーおよびプローブが含まれる。増幅に必要な反応混合物を提供するために、さまざまなポリメラーゼ(RT、Taq、Sequenase(商標)など)を含めて核酸の増幅に適した酵素、デオキシヌクレオチドおよび緩衝液を含めてもよい。そのようなキットは一般に、適当な手段で、個々の試薬および酵素それぞれのための、また各プライマーまたはプローブのための、個別の容器も含むことになろう。
(vii) 相対定量的RT-PCR(商標)のデザインおよび理論的検討
RNAのcDNAへの逆転写(RT)とその後の相対定量的PCR(商標) (RT-PCR(商標))を用いて、患者から単離された特定のmRNA分子種の相対濃度を測定することができる。特定のmRNA分子種の濃度が変化することを測定することによって、その特定のmRNA分子種をコードする遺伝子が差次的に発現していることが示される。
PCR(商標)では、増幅される標的DNAの分子数は、何らかの試薬が限界に達するまで反応のサイクルごとにおよそ2倍に増える。その後、サイクル間で増幅される標的の増加がなくなるまで、増幅率は次第に減少するようになる。サイクル数をX軸にとり、増幅された標的DNAの濃度の対数をY軸にとったグラフを描くと、プロットされた点を結ぶことで特徴的な形状の曲線が形成される。最初のサイクルを起点として、この線の傾きは正でありかつ一定である。これは曲線の直線部分といわれている。ある試薬が限界に達してからは、線の傾きは減少し始めて最終的にはゼロになる。この時点で、増幅された標的DNAの濃度はある固定値に対して漸近的となる。これは曲線のプラトー部分といわれている。
PCR(商標)増幅の直線部分における標的DNAの濃度は、反応が始まる前の標的の出発濃度に正比例する。同じサイクル数を完了しかつその直線域にあるPCR(商標)反応物中の標的DNAの増幅産物の濃度を測定することにより、元のDNA混合物中の特定の標的配列の相対濃度を測定することが可能である。DNA混合物がさまざまな組織または細胞から単離されたRNAから合成されたcDNAである場合、標的配列が得られた特定のmRNAの相対存在量を各組織または細胞について測定することができる。PCR(商標)産物の濃度と相対的mRNA存在量との間のこの正比例関係は、PCR(商標)反応の直線域においてのみ当てはまる。
曲線のプラトー部分における標的DNAの最終濃度は、反応混合物中の試薬の可用性によって決まり、標的DNAの元の濃度とは無関係である。それゆえ、mRNA分子種の相対存在量がRNA集団の収集物についてRT-PCR(商標)により測定可能となる前に満たされなければならない第一の条件は、PCR(商標)反応がその曲線の直線部分にあるときに増幅PCR(商標)産物の濃度がサンプリングされなければならないということである。
特定のmRNA分子種の相対存在量をうまく測定するためにRT-PCR(商標)実験について満たされなければならない第二の条件は、増幅可能なcDNAの相対濃度が何らかの独立した標準物質に対して正規化されなければならないということである。RT-PCR(商標)実験の目的は、試料中の全てのmRNA分子種の平均存在量に対して特定のmRNA分子種の存在量を測定することである。下記の実験においては、他のmRNAの相対存在量が比較される外部標準物質および内部標準物質として、β-アクチン、アスパラギンシンテターゼおよびリポコルチンIIに対するmRNAを用いた。
競合的PCR(商標)の大部分のプロトコルは、標的とほぼ同程度の量で存在する内部PCR(商標)標準物質を利用する。この戦略は、PCR(商標)増幅の産物がその直線的段階の間にサンプリングされる場合に効果的である。反応がプラトーの段階に接近しているときに産物がサンプリングされれば、それほど多くはない産物が比較的過剰に示されることになる。多くの異なるRNA試料に対してなされる相対存在量の比較は、差次的発現についてRNA試料を調べる場合と同様に、RNAの相対存在量の差異が実際よりも少なく見えるようにするというかたちに歪むようになる。これは、内部標準物質が標的よりもはるかに大量であれば、重大な問題ではない。内部標準物質が標的よりも大量であれば、RNA試料の間で直接的な線形の比較を行うことができる。
上述の考察は、臨床由来の材料に関するRT-PCR(商標)アッセイの理論的検討について述べている。臨床試料に内在する問題は、その量が変動的である(正規化を困難にする)こと、およびその質が変動的である(好ましくは標的よりも大きなサイズの、信頼できる内部対照の同時増幅を必要とする)ことである。RT-PCR(商標)が内部標準物質を用いる相対定量的RT-PCR(商標)であって、内部標準物質が標的cDNA断片よりも大きい増幅可能なcDNA断片であり、かつ内部標準物質をコードするmRNAの存在量が標的をコードするmRNAよりもおよそ5〜100倍多いRT-PCR(商標)として行われる場合、上記の問題はいずれも克服される。このアッセイでは、各mRNA分子種の絶対存在量ではなく、相対存在量が計測される。
その他の研究は、外部標準物質のプロトコルを用いる、より従来型の相対定量的RT-PCR(商標)アッセイを用いて実施されうる。このアッセイでは、PCR(商標)産物はその増幅曲線の直線部分においてサンプリングされる。サンプリングに最適なPCR(商標)サイクル数は、各標的cDNA断片について実験的に決定されなければならない。さらに、種々の組織試料から単離された各RNA集団の逆転写酵素産物は、等濃度の増幅可能なcDNAとなるように注意深く正規化されなければならない。このアッセイではmRNAの絶対存在量が計測されるので、上記の考慮は非常に重要である。mRNAの絶対存在量は、正規化された試料においてのみ差次的遺伝子発現の尺度として用いることができる。増幅曲線の直線域の実験的決定およびcDNA調製物の正規化は冗長かつ時間を要する一連の作業であるが、得られるRT-PCR(商標)アッセイ結果は、内部標準物質を用いた相対定量的RT-PCR(商標)アッセイに由来する結果よりも優れたものとなりうる。
この利点の1つの理由は、内部標準物質/競合物質を用いないと、試薬の全てが増幅曲線の直線域において単一のPCR(商標)産物に変換され、したがってアッセイの感度が増大するということである。別の理由は、PCR(商標)産物が1つだけであると、電気泳動ゲルまたは別の表示方法における産物の表示がより単純になり、バックグラウンドは低くなり、かつより解釈しやすくなるということである。
(viii) チップ技術
本発明者らが特に企図しているのは、Hacia et al. (1996)およびShoemaker et al. (1996)により記述されているもののようなチップを基盤としたDNA技術である。手短に言えば、これらの技法は数多くの遺伝子を迅速かつ正確に解析するための定量方法を伴う。遺伝子をオリゴヌクレオチドでタグ付けすること、または固定プローブのアレイを用いることにより、チップ技術を利用して、標的分子を高密度アレイとして分離すること、およびこれらの分子をハイブリダイゼーションに基づいてスクリーニングすることが可能である。Pease et al. (1994); Fodor et al. (1991)も参照されたい。
B. 免疫診断
別の診断手法は、ELISAおよびウエスタンブロッティングのような技法を通じてタンパク質の発現を調べることである。特に、ELISAアッセイにおいて抗体を用いることが企図される。例えば、抗HER2/Neu抗体が、選択された表面、好ましくはポリスチレン製マイクロタイタープレートのウェルのような、タンパク質親和性を示す表面に固定化される。吸着が不完全な材料を除去するために洗浄を行った後、該アッセイプレートのウェルを、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、または粉乳の溶液のような、試験抗血清に関して抗原的に中立であることが既知である非特異的タンパク質と結合させるかまたは該タンパク質でコーティングすることが望ましい。これによって固定化表面上の非特異的吸着部位のブロッキングが可能となり、こうして該表面への抗原の非特異的結合で引き起こされるバックグラウンドが低減される。
ウェルへの抗体の結合、バックグラウンドを低減するための非反応性材料を用いたコーティング、および結合していない材料を除去するための洗浄の後、固定化表面は、免疫複合体(抗原/抗体)の形成をもたらす形で被験試料と接触される。
試験試料と固定された抗体との間の特異的な免疫複合体の形成、およびその後の洗浄の後、免疫複合体を第1の抗体とは異なるHER2/Neuに特異性を有する第2の抗体に供することで、免疫複合体形成の発生および量までも測定することができる。適切な条件には、試料をBSA、ウシγグロブリン(BGG)、およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tween(登録商標)などの希釈剤で希釈することが含まれることが好ましい。これらの添加剤は、非特異的バックグラウンドの低減の助けにもなりやすい。その後、積層された抗血清は、好ましくは約25〜約27℃程度の温度で、約2〜約4時間インキュベートされる。インキュベーション後、免疫複合体を形成していない材料を除去するために、抗血清に接触させた表面が洗浄される。好ましい洗浄手順には、PBS/Tween(登録商標)、またはホウ酸緩衝液などの溶液による洗浄が含まれる。
検出手段を提供するために、第2の抗体は、適切な発色性基質とともにインキュベートすると発色する酵素が結合していることが好ましいであろう。したがって、例えば、第2の抗体が結合した表面を、免疫複合体形成が生じるのに好都合である時間および条件の下でウレアーゼまたはペルオキシダーゼ結合抗ヒトIgGと接触させてインキュベートすること(例えば、PBS/Tween(登録商標)のようなPBS含有溶液中で室温にて2時間のインキュベーション)が望まれよう。
第2の酵素タグ化抗体とともにインキュベーションした後、および結合していない材料を除去するための洗浄に続いて、発色性基質とともに、例えば、尿素およびブロモクレゾールパープルとともに、または酵素標識としてペルオキシダーゼを用いる場合には、2,2'-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンズチアゾリン)-6-スルホン酸(ABTS)およびH2O2とともにインキュベーションすることにより、標識の量が定量化される。次いで、例えば可視スペクトル分光光度計を用いて発色の度合いを計測することにより、定量化が達成される。
先述の方式は、最初に試料をアッセイプレートに結合させることによって改変されてもよい。次に、一次抗体がアッセイプレートとともにインキュベートされ、続いて一次抗体に特異性を有する標識された二次抗体を用いて、結合した一次抗体の検出が行われる。
本発明の抗体組成物はイムノブロット分析またはウエスタンブロット分析において大いに役立つと考えられる。抗体は、ニトロセルロース、ナイロン、またはこれらの組み合わせのような、固体支持体マトリックスに固定化されたタンパク質を特定するための高親和性の一次試薬として用いられうる。これらを、免疫沈降、その後のゲル電気泳動と併せて、抗原の検出において用いられる二次試薬が不都合なバックグラウンドを引き起こすような抗原の検出で用いるための単一段階試薬として、用いることができる。ウエスタンブロッティングと併用するための免疫学に基づいた検出方法は、酵素により、放射性同位体により、または蛍光によりタグ化された、毒素部分に対する二次抗体を含み、この点では特に有用であると考えられる。
V. 治療の方法
本発明は同様に、別の態様において、がんの処置を伴う。処置されうるがんのタイプは任意であるが、しかし本発明によれば、HER2/Neuの関与に特に関連している。したがって、脳、肺、肝臓、脾臓、腎臓、リンパ節、膵臓、小腸、血球、結腸、胃、***、子宮内膜、前立腺、精巣、卵巣、皮膚、頭頸部、食道、骨髄、血液または他の組織のがんを含む、多種多様の腫瘍が、E1A 1〜80構築体を用いて処置されうることが企図される。
多くの状況では、腫瘍細胞は死滅されるか、または正常な細胞死もしくは「アポトーシス」を起こすように誘導されることは必要ない。むしろ、有意義な処置を達成するために、必要なのは、腫瘍の増殖をある程度まで遅らせることだけである。腫瘍の増殖が、完全にブロックされてもよいが、いくらかの腫瘍の退縮が達成されてもよい。「寛解」および「腫瘍量の低減」のような臨床的用語も、それらの通常の用法を前提として企図される。
本発明は、HER2/Neuの上昇(「HER2/Neu過剰発現」)を示すがんに対する単剤療法としてのE1A 1〜80の使用を企図する。これは放射線療法、化学療法、免疫療法、ホルモン療法、または毒素療法のような、1つまたは複数のさらなる抗がん治療法と併用されてもよい。しかしながら、特に、本発明は、HER2/Neu標的薬剤との組み合わせで機能するようにデザインされる。
A. 遺伝子に基づいた治療
本発明者らによって企図される治療態様の1つは、腫瘍形成に関与する事象において、分子レベルで、介入することである。具体的には、本発明者らはがん細胞に、E1A 1〜80をその細胞において発現可能な発現構築体を提供することを意図する。発現ベクターの長きにわたる考察およびその中で利用される遺伝要素は、参照により本項に組み入れられる。特定の発現ベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスおよびレトロウイルスのようなウイルスのベクターである。リポソーム被包性発現ベクターも企図される。
当業者は、インビボおよびエクスビボの状況に遺伝子送達を適用する方法を十分承知している。ウイルスベクターの場合、一般にウイルスベクターストック液が調製される。ウイルスの種類および達成可能な力価に依って、患者に1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011または1×1012個の感染粒子が送達される。相対的な取り込み効率を比較することにより、リポソーム製剤または他の非ウイルス製剤について同様の計算が外挿されうる。薬学的に許容される組成物としての製剤を以下で考察する。
種々の腫瘍型について種々の経路が企図される。経路に関する以下の項には、可能な経路の広範なリストが含まれる。実際にはいずれの腫瘍についても、全身送達が企図される。これは、微視的ながんまたは転移性のがんを攻撃するために特に重要であることを示す。別々の腫瘍塊が特定されうる場合、種々の直接的、局所的および領域的な手法を講じることができる。例えば、腫瘍に発現ベクターを直接注入することができる。腫瘍床は、切除前、切除中または切除後に処置することができる。切除後は、一般に、術後に留置されたカテーテルによってベクターを送達する。腫瘍血管系を利用し、支持静脈または動脈に注入することによって腫瘍にベクターを導入することができる。より遠位な血液供給経路を利用することもできる。
異なる態様において、エクスビボ遺伝子治療が企図される。この手法は、骨髄に関連するがんの処置に特に適しているが、これに限定されることはない。エクスビボの態様において、患者由来の細胞を取り出し、少なくともある期間、体外で維持する。この期間、治療を行い、その後でその細胞を患者に再導入する; 試料中のいかなる腫瘍細胞も死滅されていることが望ましい。
自家骨髄移植(ABMT)は、エクスビボ遺伝子治療の一例である。基本的に、ABMTの背景にある概念は、患者が、その患者自身の骨髄ドナーとなるということである。したがって、通常は致死量の放射線照射または化学療法を患者に行って、腫瘍細胞を死滅させ、エクスビボで維持(おそらく拡張)された患者自身の細胞を骨髄に再配置させることができる。骨髄には多くの場合、腫瘍細胞が混入しているので、骨髄からこれらの細胞を一掃することが望ましい。この目標を達成するために遺伝子治療を用いることは、本発明にしたがってE1A 1〜80が利用されうる別の方法である。
B. タンパク質治療
別の治療手法は、E1A 1〜80ポリペプチド、その模倣体または他の類似体を対象者に提供することである。タンパク質/ペプチドは、組み換え発現手段によって産生されうるか、または十分に小さいなら、自動ペプチド合成機によって生成されうる。リポソーム製剤および古典的な薬学的調製物を含むが、これらに限定されない、製剤は、投与の経路および目的に基づいて選択されよう。
C. 組み合わせ
本発明に関して、E1A 1〜80治療法を化学治療法または放射線治療法による介入と併せて同様に使用できることも企図される。E1A 1〜80治療法を抗HER-2/Neu治療法または従来の化学治療法もしくは放射線治療法のような他の治療法と組み合わせることも効果的であると判明しうる。
細胞を死滅させるため、細胞増殖を阻害するため、転移を阻害するため、血管新生を阻害するため、または別の様式で腫瘍細胞の悪性表現型を好転もしくは低減させるために、本発明の方法および組成物を用いて、「標的」細胞を、E1A 1〜80治療法、および少なくとも1つの他の薬剤と接触させることが一般に考えられる。これらの組成物は、細胞を死滅させるのに、または細胞の増殖を阻害するのに有効な併用量で提供されると考えられる。この過程は、細胞をE1A 1〜80および他の薬剤または因子と同時に接触させることを伴いうる。これは、両方の薬剤を含む単一の組成物もしくは薬理製剤と細胞を接触させることにより、または、一方の組成物がE1A 1〜80を含み、他方が他の薬剤を含む、2つの異なる組成物または製剤と同時に細胞を接触させることにより達成されうる。
あるいは、E1A 1〜80治療法は、数分から数週間までの範囲の間隔で、他剤処置の前に行われてもよく、または後に行われてもよい。他剤およびE1A 1〜80が別々に細胞へ適用される態様において、通常、薬剤および発現構築体がまだ細胞へ有利な複合効果を発揮できるように、各送達時の間に有効期間が切れないことを確実にする。そのような場合、お互いに約12〜24時間内、およびより好ましくは、お互いに約6〜12時間内に両方のモダリティと細胞を接触させるが、約12時間のみの遅延時間が最も好ましいと考えられる。場合によっては、処置期間を有意に延長することが望ましい可能性があるが、その場合、数日間(2、3、4、5、6または7日間)〜数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週間)は、それぞれの投与の間で経過させる。
E1A 1〜80または他の薬剤のいずれかの二回以上の投与が望ましいこともまた考えられる。E1A 1〜80治療法を「A」とし、他の治療法を「B」とした場合、以下に例示されるように、さまざまな組み合わせが利用されうる:
他の組み合わせが企図される。この場合もやはり、細胞死滅化を達成するために、両方の薬剤は、細胞を死滅させるのに有効な複合量で細胞に送達される。
併用療法で用いるのに適した薬剤または因子は、細胞に適用された場合にDNA損傷を誘導する任意の化合物または処置方法である。このような薬剤および因子には、γ線照射、X線、紫外線照射、マイクロ波、電子放出などのような、DNA損傷を誘導する放射線および波動が含まれる。「化学療法剤」としても記述されている、種々の化合物は、DNA損傷を誘導するように機能し、これらの全てが、本明細書において開示される併用処置法において有用であると意図される。有用であると企図される化学療法剤には、例えば、アドリアマイシン、5-フルオロウラシル(5FU)、エトポシド(VP-16)、カンプトテシン、アクチノマイシン-D、マイトマイシンC、シスプラチン(CDDP)およびさらには過酸化水素が含まれる。本発明は同様に、X線とシスプラチンの併用またはシスプラチンとエトポシドの併用のような、放射線に基づく化合物か実体のある化合物かを問わない、1つまたは複数のDNA損傷剤の併用を包含する。
本発明によってがんを処置する際には、腫瘍細胞を、発現構築体に加えて薬剤と接触させる。これは、限局性腫瘍部位にX線、UV光、γ線またはさらにマイクロ波のような放射線を照射することによって達成されうる。あるいは、腫瘍細胞は、アドリアマイシン、5-フルオロウラシル、エトポシド、カンプトテシン、アクチノマイシン-D、マイトマイシンC、またはシスプラチンのような化合物を含む、治療有効量の薬学的組成物を対象に投与することによって薬剤と接触されうる。薬剤は、これを、上記のように、E1A 1〜80治療法と組み合わせることによって、組み合わせ治療組成物またはキットとして調製および使用されうる。
核酸、特にDNAを直接架橋する薬剤は、DNA損傷を促進することが想定され、E1A 1〜80治療法との相乗的な、抗腫瘍性の組み合わせにつながる。シスプラチンのような薬剤、および他のDNAアルキル化剤が用いられうる。シスプラチンは、がんを処置するために広く用いられており、有効用量は、計3過程で3週ごとに5日間20 mg/m2の臨床的適用で用いられる。シスプラチンは、経口的には吸収されず、それゆえ、静脈内、皮下、腫瘍内または腹腔内に注射を介して送達されなければならない。
DNAを損傷する薬剤にはまた、DNA複製、有糸***および染色体分離に干渉する化合物が含まれる。このような化学療法化合物には、ドキソルビシンとしても公知のアドリアマイシン、エトポシド、ベラパミル、ポドフィロトキシンなどが含まれる。これらの化合物は、新生物の処置のための臨床設定において広く用いられ、静脈内へ、21日間隔でアドリアマイシン25〜75 mg/m2から、エトポシド35〜50 mg/m2までの範囲の用量で、静脈内のボーラス注入で投与されるか、または静脈内用量の二倍量を経口で投与される。
核酸の前駆体およびサブユニットの合成および忠実度を破壊する薬剤もまた、DNA損傷を導く。かくして、いくつかの核酸前駆体が開発されている。特に有用なのは、広範囲に渡る試験を受けており、かつ容易に入手できる薬剤である。かくして、5-フルオロウラシル(5-FU)のような薬剤は、新生物組織により優先的に用いられ、この薬剤を新生細胞への標的化に特に有用なものにさせている。極めて毒性の5-FUは、局所を含め、広範囲の担体において適用可能であるが、3〜15 mg/kg/日までの範囲の用量での静脈内投与が一般的に用いられる。
DNA損傷を引き起こし、かつ広範に用いられている他の因子には、γ線、X線として一般的に知られているもの、および/または腫瘍細胞への放射性同位体の指向送達が含まれる。マイクロ波およびUV照射のような他の形態のDNA損傷因子も企図される。これらの因子の全ては、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の集合および維持に関して広範囲の損傷DNAをもたらす可能性が最も高い。X線についての線量範囲は、50〜200レントゲンの一日線量の長期間(3〜4週間)から2000〜6000レントゲンの単回線量までの範囲である。放射性同位体についての線量範囲は幅広く変わり、同位体の半減期、放射される放射線の強度およびタイプ、ならびに新生細胞による取り込みに依存する。
当業者は「Remington's Pharmaceutical Sciences」15th Edition, chapter 33、特に624〜652頁の指導にしたがう。処置される対象の状態に依って、投与量のある程度のばらつきは必然的に生じる。投与の責任を負う者が、いずれにせよ、個々の対象に適した用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与の場合には、調製物は、FDA Office of Biologics基準によって要求される滅菌性、発熱性、一般的安全性、および純度基準を満たすべきである。
本発明者らは、がんを有する患者へのE1A 1〜80の局所的または局部的送達が、臨床疾患を処置するために非常に効率的な方法であることを提唱する。同様に、化学療法または放射線療法を対象の身体の特定の罹患領域に向けることもできる。あるいは、ある種の状況では、例えば、広範な転移が起きている状況では、発現構築体および/または薬剤の全身送達が適切でありうる。
特定の態様において、本発明は、E1A 1〜80治療法とトラスツズマブのようなHER-2/Neu治療法との併用を企図する。トラスツズマブ(より一般的にはハーセプチン(登録商標)という商品名で知られる)は、HER2/Neu (ERBB2)受容体の細胞外部分に作用するヒト化モノクローナル抗体である。トラスツズマブの主な用途は抗がん治療法として、腫瘍がこの受容体(の通常量よりも多くを産生している)を過剰発現している患者の乳がんにおけるものである。トラスツズマブは30〜90分間、静脈内に週1回または3週ごとに1回投与される。ERBB2の増幅は初期乳がんの25〜30%で起こる。ERBB2は膜貫通チロシンキナーゼp185-erbB2糖タンパク質をコードする。HER2/Neuの過剰発現は、がん治療に対する治療的耐性を付与しうる。トラスツズマブで処理された細胞は、細胞周期のG1期の間に停止を起こすので、増殖の低減が認められる。トラスツズマブはERBB2の下方制御によってその効果のいくらかを誘導し、下流のPI3Kカスケードを通じて受容体の二量体化およびシグナル伝達のかく乱を引き起こすことが提唱されている。ひいては、P27Kip1はリン酸化されず、核に侵入し、CDK2活性を阻害し、細胞周期停止を引き起こしうる。また、トラスツズマブは抗血管新生因子の誘導および血管新生促進因子の抑制の両方によって血管新生を抑える。がんにおいて認められる無秩序な増殖に対する一因は、細胞外ドメインの放出を引き起こすERBB2のタンパク質分解的切断によるものでありうると考えられている。トラスツズマブは乳がん細胞においてERBB2細胞外ドメインの切断を阻害することが示されている。トラスツズマブが、がんの退縮を誘導する他の未発見の機構が存在する可能性がある。
トラスツズマブ治療の開始は、HER-2過剰発現の特定に基づく。HER-2の過剰発現を特定するために、さまざまな方法論が開発されている。日常の臨床検査室において、最も一般的に利用される方法は、免疫組織化学(IHC)および発色性インサイチューハイブリダイゼーションまたは蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(CISH/FISH)である。さらに、多数のPCRに基づく方法論も記述されている。
補助トラスツズマブの至適期間は、現在のところ不明である。1年間の処置は、処置なしと比べて1年の処置の優位性を実証した現臨床試験の証拠に基づき理想的な長さの治療として一般的に受け入れられている。しかしながら、フィンランドの小規模試験ではまた、9週間の処置で治療なしと比べて類似の改善が示された。臨床試験での直接の比較がないために、より短期間の処置が、現在受け入れられている1年間の処置の実践に比べて(あまり副作用なくして)全く同じように効果的でありうるかどうかは不明である。処置期間に関する議論は、1年間のこの処置の施行に関わる高い財務費用のために、多くの公衆衛生政策立案者にとって関連のある問題になっている。ニュージーランドなどの自由な公的保健制度を有する国のなかには、結果として9週の補助療法に資金を出すことのみ選択した国もある[14]。現在の臨床試験は、長期間の治療と比べて短期間の治療を直接比較することによってこの問題に答えることを目指して進行中である。
トラスツズマブの重大な合併症の1つは、心臓に及ぼすその影響である。トラスツズマブは症例の2〜7%において心機能不全と関連している。およそ10%の患者は既存の心臓障害のためにこの薬物を許容することができない; 医師はこの集団において再発がんのリスクと心疾患による高い死亡リスクとのバランスを取っている。心筋症のリスクは、トラスツズマブがアントラサイクリン化学療法(これそのものが心毒性と関連している)と組み合わされた場合に増大する。本発明はしたがって、E1A 1〜80と併用される場合にいっそう低い用量のトラスツズマブを用い、それによってこの毒性を回避することを企図する。さらに、トラスツズマブは、全過程の処置には約7万米ドルの費用がかかる。トラスツズマブ用量を低減できることによっても、費用を低減することができる。
E1A 1〜80治療法を化学治療法、放射線治療法およびハーセプチン(登録商標)治療法と組み合わせることに加えて、遺伝子治療との組み合わせが有利であることも企図される。例えば、E1A 1〜80による腫瘍の処置と同時にp53変異を標的とする遺伝子治療は、抗がん処置の改善をもたらしうる。おそらく、任意の他の腫瘍関連遺伝子、例えば、p21、Rb、APC、DCC、NF-1、NF-2、BCRA2、p16、FHIT、WT-1、MEN-I、MEN-II、BRCA1、VHL、FCC、MCC、ras、myc、raf、erb、src、fms、jun、trk、ret、gsp、hst、bclおよびablをこの方法で標的とすることができる。
D. 製剤および患者への投与経路
臨床応用が企図される場合、意図した用途に適した形態で薬学的組成物 - 発現ベクター、ウイルスストック液、タンパク質、ペプチド、抗体および薬物を調製することが必要であろう。一般的に、これは、発熱物質のみならずヒトまたは動物に対して有害でありうる他の不純物を本質的に含まない組成物を調製する段階を必然的に伴うであろう。
一般的に、送達ベクターを安定にするためにおよび標的細胞によって取り込ませるために、適切な塩および緩衝液を利用することが望ましいであろう。組み換え細胞を患者に導入する場合、緩衝液も同様に利用されるであろう。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散された、細胞に対して有効な量のベクターを含む。そのような組成物はまた、接種材料といわれる。「薬学的または薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与した場合に有害な、アレルギー、または他の望ましくない反応を生じない分子実体および組成物をいう。本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される担体」には、任意のおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に活性な物質に関して、そのような媒体および薬剤を用いることは当技術分野において周知である。いかなる従来の媒体または薬剤も本発明のベクターまたは細胞と非適合性である場合を除き、治療用組成物におけるその使用が企図される。補助活性成分も同様に、組成物に組み入れることができる。
本発明の活性組成物には、古典的な薬学的調製物が含まれてもよい。本発明によるこれらの組成物の投与は、標的組織がその経路によって利用可能である限り、任意の一般的な経路によるであろう。これには、経口、鼻腔内、口腔内、直腸、膣内または局所が含まれる。あるいは、投与は同所性、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内または静脈内注射によるものであってもよい。そのような組成物は、通常、上述した、薬学的に許容される組成物として投与されるであろう。特に関心があるのは、直接的な腫瘍内投与、腫瘍のかん流、または腫瘍への局所的もしくは局部的な投与、例えば、局所的もしくは局部的な血管系もしくはリンパ系でのもの、または切除された腫瘍床でのものである。
活性化合物はまた、非経口または腹腔内に投与されてもよい。遊離の塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースのような、界面活性剤と適当に混合した水の中で調製することができる。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびその混合物中でならびに油中で調製することができる。貯蔵および使用に関する通常の条件下で、これらの調製物は微生物の成育を防止するために保存剤を含有する。
注射用に適した薬学的形態には、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液を即時調製するための滅菌粉末が含まれる。いかなる場合でも、その形態は滅菌的でなければならず、容易な注入可能性が存在する程度に流動的でなければならない。その形態は、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、その適当な混合物、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒体であることができる。適切な流動性は例えば、レシチンなどのコーティングを用いることによって、分散液の場合には必要な粒子径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。微生物の作用の予防は、さまざまな抗菌抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサルなどによってもたらされうる。多くの場合において、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射用組成物の持続的な吸収は、吸収を遅らせる剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物において用いることによってもたらされうる。
滅菌注射用溶液は、必要量の活性化合物を、先に列挙した他の成分のいくつかとともに適切な溶媒中に組み入れ、必要に応じて、引き続きろ過滅菌を行うことによって調製される。一般的に、分散液は、基礎分散媒体と先に列挙したものからの必要な他の成分とを含有する滅菌媒体に、さまざまな滅菌活性成分を組み入れることによって調製される。滅菌注射用溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、活性成分に加えて任意のさらなる所望の成分の粉末をその予めろ過滅菌した溶液から生成する真空乾燥および凍結乾燥技法である。
本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される担体」には、任意のおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。いかなる従来の媒体または薬剤も活性成分と非適合性である場合を除き、治療用組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性成分も同様に、組成物に組み入れることができる。
経口投与の場合、本発明のポリペプチドは、賦形剤と組み合わされ、非摂取性の口内洗浄薬および歯磨剤の形態で用いられてもよい。口内洗浄薬は、ホウ酸ナトリウム溶液(ドーベル溶液)のような、適切な溶媒中に必要量の活性成分を組み入れることによって調製されうる。あるいは、活性成分は、ホウ酸ナトリウム、グリセリンおよび重炭酸カリウムを含有する殺菌洗浄液に組み入れられてもよい。活性成分はまた、ゲル、ペースト、粉末およびスラリーを含む歯磨剤に分散されてもよい。活性成分は治療的有効量で、水、結合剤、研磨剤、着香料、発泡剤、および湿潤剤を含みうるペースト状歯磨剤に加えられてもよい。
本発明の組成物は、中性または塩の形態で製剤化されてもよい。薬学的に許容される塩には、酸付加塩(タンパク質の遊離のアミノ基によって形成される)および、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸によって形成される塩が含まれる。遊離カルボキシル基によって形成される塩はまた、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムまたは水酸化鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基に由来することもできる。
製剤化されると、溶液は、投与製剤と適合する形で、および治療的に有効であるような量で投与される。製剤は、注射用溶液、薬物放出カプセルなどのような種々の投与剤形で容易に投与される。水溶液での非経口投与の場合、例えば、溶液は必要なら適当に緩衝化され、液体希釈液は十分な生理食塩水またはグルコースによって最初に等張にされるべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与にとりわけ適している。これに関連して、利用されうる滅菌水性媒体は、本開示に照らして当業者には公知であろう。例えば、1回の投与量は、等張NaCl溶液1 mlに溶解され、皮下注入溶液1000 mlに加えられるか、または提唱される注入部位に注入されうる(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」15th Edition, 1035〜1038頁および1570〜1580を参照のこと)。処置される対象の状態に依って、投与量のある程度のばらつきは必然的に生じる。投与の責任を負う者が、いずれにせよ、個々の対象に適した用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与の場合には、調製物は、FDA Office of Biologics基準によって要求される滅菌性、発熱性、一般的安全性、および純度基準を満たすべきである。
VI. キット
本発明によれば、HER2発現を検出するためのキットが提供される。本発明のキットは、当技術分野において従来使用されている公知の材料および技法によって調製することができる。一般的に、キットはプローブ、プライマー、酵素、抗体などのような、さまざまな試薬のための別個のバイアルまたは容器を含む。試薬はまた、これを適当な溶媒に溶解することによって保存に適した形態で一般的に調製される。適当な溶媒の例としては、水、エタノール、さまざまな緩衝溶液などが挙げられる。さまざまなバイアルまたは容器は、中空成形または射出成形のプラスチック中で保持されることが多い。
VII. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。以下の実施例において開示される技法は、本発明の実践において良好に機能するように本発明者らによって発見された技法を表し、かくして、その実践にとって好ましい様式を構成すると考えられうることが当業者によって認識されるはずである。しかし、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなしに多くの変化を、開示される具体的態様においてなすことができ、それでもなお、同様または類似の結果を得ることができると認識するはずである。
実施例1: 材料および方法
プラスミドおよびトランスフェクション
HER2プロモーターによって駆動されるルシフェラーゼ遺伝子を発現するpHER2-533 (Yu et al., 2002)を、レポーターとして用いた。適切なプライマーおよび鋳型として、243Rだけを転写させるスプライス点突然変異を有するゲノムE1Aを含有するプラスミドpLE2 dl320を用いて、E1A 243Rを発現ベクターpDest47 (Invitrogen)にPCRクローニングし、またはE1A 243RおよびE1A 1〜80をpcDNA3 (Invitrogen)にPCRクローニングした(Green et al., 2008; Howe et al., 1990)。MCF-10A (ATCC)細胞に、リポフェクトアミン(Invitrogen)および製造元の指針を用いてDNA計500 ngを24ウェルプレート中でトランスフェクションした。60 mm2の細胞培養皿中のSK-BR-3 (ATCC)細胞に、Fugene (Roche)および製造元の指針を用いてDNA計1 μgをトランスフェクションした。トランスフェクションから48時間後に細胞を収集し、Dual-Luciferaseアッセイキット(Promega)およびTurner Design照度計を用い、同時にトランスフェクションされた非E1A抑制性RTL-lucの発現に対する正規化の後にルシフェラーゼ遺伝子の発現を定量化した。
アデノウイルスベクター
E1A 243R、停止コドンを有するE1A 243R変異体および停止コドン有りまたは無しのE1A 1〜80を、製造元の指示にしたがってGateway (Invitrogen)エントリーベクターpENTR/SD/D-TOPOにクローニングした。配列確認の後、E1A挿入断片をpAd/CMV/V5 DEST (Invitrogen)に移入した。停止コドンを有するエントリーベクターにクローニングされたE1A 243R、三重変異体E1A 243R dl1101/dl1108/dl1135またはE1A 1〜80は、その各E1A部分を、CMVプロモーターの制御下で転写する。停止コドンなしでクローニングされたE1A 1〜80は、そのC末端に36個の付加アミノ酸を有するE1A 1〜80を転写する。pAd CMVプラスミドをPacIで消化し、293A細胞(Invitrogen)にトランスフェクションした。得られたAdベクターを増幅し、CsCl密度勾配にて精製し、記述(Green and Loewenstein, 2005)のようにプラークアッセイによって力価測定した。
HER2 RNA抑制アッセイ
6ウェル細胞培養プレート中、集密およそ60%の、SK-BR-3細胞に加湿インキュベーター中37℃にてDME/10% FBS 2 ml中でAdCMV E1A 243RまたはAdCMV E1A 1〜80を感染させた。1時間後、完全培地2 mlを加え、さらに36〜48時間インキュベーションを継続し、冷PBS 1 ml中へスクレイピングにより細胞を収集した。細胞をPBS中で1回洗浄し、RNA Easyキット(QIAGEN)を用いてRNAを単離した。High Capacity cDNA Archiveキット(Applied Biosystems)を用いてcDNAを調製した。Opticon 2リアルタイムPCR機器(Bio-Rad)を用いてHER2特異的なTaqManプローブセット(Applied Biosystems)での定量的RT-PCRによりHER2 cDNAのレベルを測定した。
ウエスタンブロットおよびパルス追跡分析
ウエスタンブロットの場合、60 mm2の細胞培養皿中のA549細胞に、表示した量のAdCMV E1A 1〜80またはAdCMV E1A 1〜80C+ (非常に高いレベルでE1A抑制因子を発現する修飾型E1A 1〜80)を感染させた。結果を参照されたい。細胞を感染から48時間後に収集し、SDS PAGEに供した。E1A CR1ドメインに特異的な抗体(PD1)によってエレクトロブロットをプローブした(Boyd et al., 2002)。Super Signal Western Blot Chemo-luminescence Kit (Pierce)を用いて免疫ブロットを発色させた。
パルス追跡実験の場合、レプリカの10 cm2の細胞培養プレート中のA549細胞にモック感染させるか、またはE1A 243R、E1A 1〜80もしくはE1A 1〜80C+を発現するAdCMVベクターの100 moi (感染多重度)を感染させるかした。感染後20時間の時点で、細胞をPBS中で洗浄し、システイン/メチオニンを欠くかつ10%の透析FBSを含むDME中で1時間、飢餓状態にした。次いで、細胞を100 μCi/プレートの35S標識メチオニン/システイン(Tran-S標識、MP Biochemicals)で90分間標識し、その後、完全DME/10% FBSでさまざまな時間、洗浄および追跡した。
細胞増殖アッセイ
ヒト乳がんSK-BR-3細胞(2,000個/ウェル)をレプリカの96ウェル細胞培養プレートへDME/10% FBS中でプレーティングした。プレーティングから2時間後に培地を除去し、表示した量のAdベクターを含有するDME/10% FBS 100 μlで細胞を感染させた。感染後24時間の時点で細胞培地を新鮮培地(Adベクターのない)に交換した。感染後48時間、96時間、144時間および192時間の時点で細胞に栄養素を与えた。Cell Titer 96細胞増殖アッセイキット(Promega)を用い細胞生存について感染後48時間、96時間、144時間および192時間の時点でレプリカのプレートをアッセイした。このアッセイにおいて、生存細胞は、MTSテトラゾリウム化合物を、細胞培地中で可溶性の有色ホルマザン生成物へ生還元(bioreduce)する。Thermo Maxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)を490 nmで用いて細胞生存性を定量化した。
同じ細胞増殖アッセイを用いて、正常***線維芽細胞(HS68)、正常***(Mg.579、MCF12AおよびMCF10A)、結腸腺がん(SW620)、肺がん(A549およびNCI 460)、***腺がん(MB231、SPC3およびMCF7)、膠芽細胞腫(T98およびSNP-19)、前立腺腺がん(PC3)ならびに卵巣腺がん(ES2)を含むいくつかのヒト正常細胞株およびがん細胞株に及ぼすE1A 243R、E1A 1〜80C+および対照の効果を調べた。
変異分析
最初に、E1A 1〜80 C+のC末端39アミノ酸の第1 (アミノ酸番号1〜13)、第2 (アミノ酸番号14〜27)および第3 (アミノ酸番号28〜39)領域内の潜在的に重要なアミノ酸残基の複数の、置換変異を含んだ3種のE1A 1〜80遺伝子を合成した。これらの合成遺伝子は、GeneArt(登録商標) (Invitrogen)遺伝子合成システムを用いて作出された。さらに、GeneArt(登録商標)システムを用いて野生型E1A 1〜80 C+を生成した。領域Iの変異体は、E1A 1〜80ならびにE1A C末端後のアミノ酸番号4のArgをGluで置換したもの、アミノ酸番号9のPheをAlaで置換したもの、アミノ酸番号11のTryをAlaで置換したものおよびアミノ酸番号15のAspをHisで置換したものからなる。領域IIの変異体は、E1A 1〜80ならびにE1A C末端後のアミノ酸番号24のLysをAspで置換したもの、アミノ酸番号27のProをAlaで置換したものおよびアミノ酸番号29のProをAlaで置換したものからなる。領域IIIの変異体は、E1A 1〜80ならびにE1A C末端後のアミノ酸番号34のArgをAspで置換したものおよびアミノ酸番号37のAspをArgで置換したものからなる。領域I、IIおよびIII変異体に組み込まれた変異は、存在しうるいずれかの機能的な二次構造を破壊する可能性が高いようにデザインされたラジカルな変異である。
これらの合成遺伝子をGateway(登録商標) (Invitrogen) destination AdベクターAdCMV/V5へ移入した。293A細胞へのトランスフェクション後、さまざまなE1A 1〜80 C+誘導体を発現する、得られたAdウイルスベクターを増幅および精製した(Green and Loewenstein, 2005)。既知のプラークアッセイ力価を有するAd E1A 1〜80 C+の先の調製物とのGeneArt(登録商標)ウイルスベクター調製物の光学密度の比較によって力価を正規化した。
実施例2−結果
E1Aの発現は外因性および内因性HER2プロモーターを転写的に抑制することができる
E1A 243Rがヒト***細胞においてHER2発現を抑制できることを確認するために、正常***上皮細胞の自発的な不死化によって生じた、MCF-10A細胞(Soule et al., 1990)に、HER2プロモーターから発現されるルシフェラーゼ遺伝子(luc)と、さまざまなレベルの、E1A 243Rを発現するプラスミドとを同時にトランスフェクションした。図2Aは、外因性HER2プロモーターからの発現がE1A 243Rによって用量依存的な形で抑制されることを実証する。
ヒト乳がん細胞におけるHER2がん遺伝子中毒の一例は、SK-BR-3細胞によって提供されうる。SK-BR-3はHER2遺伝子が4倍〜8倍増幅されており、SK-BR-3細胞は正常***線維芽細胞よりも約128倍高いレベルのHER2 RNAを発現するので、SK-BR-3細胞はヒト乳がんにおけるHER2上方制御のモデルとして頻繁に使われる(Clarke et al., 2000)。それゆえ、本発明者らは、トランスフェクションされた外因性HER2プロモーターからの発現が、非常に高い外因性および内因性HER2発現の環境のなかでE1A 243Rにより抑制されうるかどうかを判定した。図2Bに示されるように、E1A 243RはヒトSK-BR-3細胞において発現される場合、ルシフェラーゼ遺伝子を駆動する同時トランスフェクションされた「外因性」HER2プロモーターを、15倍超、抑制することができる。予想通り、E1A抑制ドメインのみ(E1A 1〜80)で、HER2プロモーター構築体からの転写が効率的に抑制される。これにより、E1A抑制ドメインのみで、インビボにおいてHER2プロモーターを抑制することが可能であり、上方制御されたヒトがん細胞において抑制ドメインが内因性HER2発現を抑制する能力を試験するための土台になることが確認される。
内因性HER2プロモーターがSK-BR-3細胞において効率的に抑制されうるかどうかを判定するために、E1A 243RおよびE1A 1〜80を、E1A、E1BおよびE3遺伝子を欠く複製欠損Adベクター(AdCMV/V5; Invitrogen)にクローニングした。このベクターにおいては、クローニングされたE1A 243RまたはE1A 1〜80抑制ドメインは強力なCMVプロモーターから発現される。図2に示されるように、E1A 243Rが30または300 moiのいずれかでSK-BR-3細胞においてAdCMVから発現される場合に、HER2発現は感染後(PI) 36時間までに80%超低減される。このAdベクターからのE1A 1〜80の発現も、HER2の発現を抑制したが、しかし予想されたよりも低いレベルでHER2の発現を抑制した(データは示されていない)。
E1A 1〜80のC末端の改変は、その発現を劇的に増加させる
AdCMV E1A 243RとAdCMV E1A 1〜80との間の差異は、E1A 243RのC末端から除去された163個のアミノ酸である。本発明者らは、E1A抑制ドメインを安定化させようとして、またはその転写を増加させようとして、非特異的配列をE1A 1〜80 N末端に付加することにした。AdCMV/V5ベクターへ停止コドンなしでE1A 1〜80を再クローニングすることにより、この課題を達成する簡便な方法が提供された。これによって39個の付加アミノ酸がE1A N末端抑制ドメインに付加される(Ad E1A 1〜80 C+といわれる)。これらの配列は、V5エピトープを含んでいるが、いずれかの特異的構造を提供するものと予想されない; 23個の非極性残基、5個の酸性残基、5個の塩基性残基、3個の芳香族残基および3個の極性残基が付加配列には含まれる。
図4Aに示されるように、E1A CR1に対して作製されたポリクローナル抗体によって検出したとき、ずっと多くの(およそ10倍〜20倍) E1A抑制ドメインタンパク質が、A549細胞に、Ad E1A 1〜80を感染させた場合よりも30または300 moiのAd E1A 1〜80 C+のいずれかを感染させた場合に産生される。産物の見掛け上の大きさは、Ad E1A 1〜80 C+に存在する39個の付加アミノ酸を反映していないが、しかし配列分析によって、それらが存在することが明らかである。SDS PAGEによる異常な見掛け上の大きさは、E1Aタンパク質で共通に観察される。
Ad E1A 1〜80と比べてAd E1A 1〜80 C+から産生されるタンパク質が明らかに多く存在するが、この理由は明らかではない。明白な疑問は、転写産物が安定化されるかどうか、または転写が増強されるかどうかである。図4Bは、E1A 1〜80またはE1A 1〜80 C+を用いた並列のパルス追跡実験の結果を示す。以上のように、AdCMV E1A 1〜80 C+の感染によって産生されるタンパク質の総量は、AdCMV E1A 1〜80の感染によって産生されるものよりも多いが、しかし代謝回転率はほぼ同じである。これらの所見は、産物安定性ではなく転写速度が、図3Aにおいて認められるE1Aタンパク質レベルの増大の主要因であることを示唆している。しかしながら、本発明者らは、翻訳制御が役割を果たしうる可能性を排除していない。
Ad E1A抑制ドメインの発現がSK-BR-3細胞を死滅化させる
内因性HER2プロモーターの転写抑制がHER2上方制御ヒト乳がん細胞の増殖を妨げるかどうかを判定するために、SK-BR-3細胞に、E1A 243RまたはE1A 1〜80 C+のいずれかを発現する、さまざまなレベルのAdベクターを感染させた。Adベクター感染からの潜在的毒性の対照として、2つのAdベクターを用いた: 既知のE1A 243R機能ドメインが欠損しているE1A 243R dl1101/dl1108/dl135 (Green et al., 2008; Howe et al., 1990)、および無関係の遺伝子LacZを、並列ウェルにおいて親ベクターAdCMV/V5から発現させた。材料および方法において記述されているように細胞生存性比色アッセイによって48時間ごとにレプリカのプレート中で細胞生存性を測定した。
SK-BR-3細胞に30 moiで感染させた場合(図5A、第1パネル)、AdCMV E1A 243RもAdCMV E1A 1〜80 C+もともに感染後96時間までに細胞死滅化を明らかに示した。感染後192時間までに、AdCMV E1A 1〜80 C+は、モック感染させた細胞または対照Adベクターを感染させた細胞に対しAdCMV E1A 243R (およそ50%)と比べて顕著な細胞死滅化(およそ75%)を示した。正常ヒト***細胞株HS 579.Mgに同じAdベクターパネルを30 moiで感染させた場合(図4B、第1パネル)、AdCMV 243RまたはAdCMV E1A 1〜80 C+間の差異を、モック感染対照またはAdベクター対照に対して検出することができなかった。
100 moiで(図5A 第2パネル)、AdCMV E1A 243RおよびAdCMV E1A 1〜80 C+の細胞死滅化の効率の間にはいっそう大きな差異が存在する。この場合も先と同様に、AdCMV E1A 243RおよびAdCMV E1A 1〜80 C+によるSK-BR-3細胞の死滅化は、感染後96時間までに明白である。しかしながら感染後144時間または192時間までに、AdCMV E1A 1〜80 C+による細胞死滅化は85%超であったが、AdCMV E1A 243Rによる細胞死滅化は、30 moiでの感染で観察されたものとは実質的に違わなかった。対照Adベクターはモック感染とは実質的な差異を示さなかった。この場合も先と同様に、HS 579.Mg細胞にAdベクターを感染させた場合(図5B、第2パネル)、AdCMV E1A 243RまたはAdCMV E1A 1〜80 C+による有意な細胞死滅化を、検出することができなかった。
300 moiで(図5A、第3パネル)、AdCMV E1A 243RおよびAdCMV E1A 1〜80 C+の両方を感染させたSK-BR-3細胞は、かなり大幅な細胞死滅化を示した。意義深いことには、この高いmoiでさえも、対照はモック感染細胞と比べて細胞死を示さなかった。AdCMV 243RまたはAdCMV 1〜80 C+を感染させたHS 579.Mg細胞(図5B、第3パネル)は、有意な細胞死滅化を示さなかった。
HER2上方制御性の細胞株SK-BR 3に加えて、いくつかの正常細胞株およびがん細胞株を、E1A 243RおよびE1A 1〜80 C+ならびに対照に対する感受性について細胞増殖アッセイにより試験した。試験した4種の正常細胞(図6A〜D)のどれも、E1A 243RまたはE1A 1〜80 C+を発現する300 moiのAdベクターからの発現によって死滅化されなかった。膠芽細胞腫細胞株T98 (図6L)を除く試験したがん細胞株の全てがE1A 1〜80 C+の発現によって死滅化された。E1A 1〜80 C+発現に感受性の細胞株には、別の膠芽細胞腫細胞株SNP-19 (図6M)が含まれる。他のE1A 1〜80 C+感受性細胞株は、結腸腺がん(図6E)、肺がん(図6F〜G)、***腺がん(図6H〜J)、前立腺腺がん(図6N)および卵巣腺がん(図6O)の例であった。
したがって、SK-BR-3細胞におけるHER2の抑制は、細胞死をもたらす。E1A 1〜80 C+は低度または中度のmoiで、E1A 243Rよりもかなり効率の良いSK-BR-3細胞の死滅化因子(killer)であることが分かった。試験した全てのmoiで、E1A 243RまたはE1A 1〜80 C+のどちらも、正常HS 579.Mg***細胞株に及ぼす大きな影響はなく、細胞死はAdベクターのみによる感染に起因しえなかった。その他の通常の乳がん細胞株も、E1A抑制ドメインの発現によって細胞死に対する耐性を示した。
もしあるなら、E1A 1〜80 C+の付加C末端アミノ酸(aa)内のどのアミノ酸残基が発現およびがん細胞死滅化活性の増強に必要とされるかを評価するために、変異分析を行った。Ad E1A 1〜80 C+、GeneArt(登録商標)野生型E1A 1〜80 C+ならびに領域I、IIおよびIII E1A 1〜80 C+変異体を、SK-BR-3 HER2上方制御性のヒト乳がん細胞を死滅化するその能力について100および300 moiで標準的な細胞増殖アッセイにおいて試験した。これらの実験(図7)から、E1A 1〜80 C+および合成E1A 1〜80 C+が、高レベルのHER2を発現するSK-BR-3ヒト乳がん細胞を死滅化させるほぼ同じ能力を有することが明らかである。したがって、合成E1A 1〜80 C+遺伝子は、前にクローニングされたその原型のがん細胞死滅化活性を反映する。さらに、E1A 1〜80 C+の領域Iおよび領域III変異体は、SK-BR-3細胞を効率的に死滅化させる類似の能力を保持する。しかしながら、E1A 1〜80 C+の領域II変異体は、SK-BR-3細胞を死滅化させるその能力が重度に欠損している。これらのデータは、領域III内のいくつかのアミノ酸(アミノ酸番号14〜27)がE1A 1〜80 C+の増強されたがん細胞死滅化能に必要とされることを示す。
本発明者らはこれまでに、E1A 1〜80 C+がヒトA549細胞において非複製adベクターから発現される場合にE1A 1〜80と比べて実質的に増加したレベルで発現されることを上記で示した。Ad E1A 1〜80と、Ad E1A 1〜80 C+と、GeneArt(登録商標)合成E1A 1〜80 C+ならびに領域I、IIおよびIII変異体を発現するAdベクターとを用いて、100 moiでA549細胞に感染させた。細胞を感染から26時間後にLDS試料用緩衝液中に直接収集し、手短に超音波処理して染色体DNAを破壊し、LDSゲル電気泳動に供し、タンパク質をニトロセルロースに転写した。ニトロセルロース膜を、E1A 289Rに対するポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット分析に供した。図8は、E1A 1〜80 C+、GeneArt E1A 1〜80 C+、領域Iおよび領域III変異体がA549細胞において高いレベルで発現されることを示す。他方、E1A 1〜80 C+領域II変異体は、ずっと低いレベルで発現され、E1A 1〜80 C+の39個の付加残基を欠くE1A 1〜80は、この実験において100 moiで検出されない。これらの結果は、E1A 1〜80 C+の領域II内のアミノ酸(アミノ酸番号14〜27)が、HER2の上方制御されたヒト乳がん細胞を効率的に死滅化させる能力と相関する劇的に増加した発現レベルに必要とされることを実証する。
実施例3−考察
ここで提示したデータから、E1A 243Rが、およびより重要なことには、E1A 1〜80抑制ドメインだけで、HER2の発現を効率的に抑制でき、HER2が上方制御されているSK-BR-3乳がん細胞株において発現された場合に細胞死をもたらすことが示される。SK-BR-3細胞は、増殖および生存のためにHER2がん遺伝子の上方制御に依存性を示すヒト乳がんの原型として用いられた。E1A転写抑制ドメインの発現がこれらの細胞を効率的に死滅化させるという事実は、「がん遺伝子中毒」仮説(Weinstein, 2002)と一致している。この考えによると、少なくとも一部のがんにおいて、腫瘍細胞ががん遺伝子の持続的発現に依存するようになると、そのがん遺伝子の発現または機能の妨害により正常表現型への復帰またはアポトーシスを引き起こせるということである。しかしながら、発がんは、遺伝的および後成的異常を蓄積する持続的過程であり、がん細胞が元のがん遺伝子への依存を超えて「進展し」うることがもっぱら可能である(Luo et al., 2009)。それゆえ、がん遺伝子中毒を示している腫瘍を標的化する治療法を、耐性腫瘍の発生なしに成功させたいなら、それは非常に効果的でなければならず、またはがん遺伝子機能の2つ以上の局面を標的化しなければならない。例えば、進行疾患をハーセプチンで処置されている患者の3分の1もが応答できず、最初に応答する者のさらに多くが処置1年以内にその疾患の進行を示す(Seidman et al., 2001; Miller, 2004)。つい最近、HER2の上方制御は、処置の失敗の一因になりうる悪性幹細胞の数の増加を引き起こすことが示唆されており(Korkaya et al., 2008)、乳がんの処置においてHER2発現を抑制することの潜在的価値を浮き彫りにしている。
特異的がん遺伝子、例えば、HER2の生合成の転写抑制は、抗がん遺伝子治療として適用されていない戦略であるが、しかしここで示したSK-BR-3細胞死滅化アッセイは、その潜在能力を実証している。HER2受容体に対して作製されたヒト化モノクローナル抗体ハーセプチン(登録商標)は、その有用性を証明しているが、しかしブロックされていないわずかな割合の受容体でさえも、HER2シグナルカスケードに、がん細胞増殖を刺激させ、かくして、ハーセプチン(登録商標)耐性細胞の発生のリスクを持続させうる。がんに対する多剤手法は、成功する可能性がより高く、というのは、ある手法の失敗が他の手法に影響を与える可能性が高くはないからである。例えば、HER2転写のE1A抑制因子と協調して用いたハーセプチン(登録商標)は、耐性腫瘍の発生の可能性をいっそう低くしながら、優れたHER2機能阻害をもたらしうる。
比較的小さなE1A 1〜80抑制ドメインは、治療の成功に発展する可能性がある。E1A 1〜80は、転写抑制以外、多機能E1A 243Rタンパク質の複雑な機能を保有していない。その大きさは、ペプチド模倣体によるその修飾を除外することはなく、Adベクター以外の方法による送達を除外することもない。さらに、これらの予備的研究から、E1A 243Rよりも、おそらく、修飾されたそのE1A 1〜80 C+の形態でさらに効率的に転写されるので、SK-BR-3細胞のさらに強力な死滅化因子であるものと思われる。侵襲性の高い、HER2上方制御性のヒト乳がんの処置のための治療法としてE1A転写抑制ドメインを用いることの実用性を評価するためには、さらなる試験が必要とされる。
本明細書において開示され主張される組成物および方法は全て、本開示に照らして過度の実験を行うことなく作出され実行されうる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記述してきたが、組成物および/または方法に対して、ならびに本明細書において記述される方法の段階においてまたは段階の順序において、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく変形が適用されうることが当業者には明らかであろう。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連するある種の薬剤を、本明細書において記述される薬剤の代わりに用いてもよく、それでも同じまたは類似の結果が達成されることは明らかであろう。当業者には明らかなそのような類似の置換および修正は全て、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内にあると考えられる。
VIII. 参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書において記載されるものの補足となる例示的な手順のまたはその他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に明確に組み入れられる。