本発明の光学フィルムの製造方法においては、溶液流延製膜法または溶融流延製膜法により作製された光学フィルムのエンボス加工に関するものであり、まず、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法について、説明する。
溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法においては、フィルム材料として、種々の樹脂を用いることができるが、中でもセルロースエステルが好ましい。
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所
望の面内リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
本発明において、セルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。本発明で用いられるセルロースエステルは、Mw/Mn比が1.4〜3.0が好ましく、さらに好ましくは1.4〜2.3である。
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できるので、これを用いて数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
測定条件は以下の通りである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806,K805,K803G(昭和電工株式会社製を3本
接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所株式会社製)
流量:1.0ml/分
校正曲線:標準ポリスチレンSTKstandardポリスチレン(東ソー株式会社製)Mw=1,000,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
セルロースエステルの総アシル基置換度は2.3〜2.9が用いられ、2.6〜2.9が好ましく用いられる。総アシル基置換度はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
本発明において、セルロースエステルには、種々の添加剤を配合することができる。
本発明による光学フィルムの製造方法では、セルロースエステルと厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するドープ組成物を用いるのが、好ましい。
本発明において、光学フィルムの厚み方向リタデーション(Rt)を低減することが、IPSモードで動作する液晶表示装置の視野角拡大の意味において重要であるが、本発明において、このようなリタデーション低減添加剤としては、下記のものが挙げられる。
一般に、光学フィルムのリタデーションは、セルロースエステル由来のリタデーションと、添加剤由来のリタデーションの和として現れる。従って、セルロースエステルのリタデーションを低減させるための添加剤とは、セルロースエステルの配向を乱し、かつ自身が配向しにくいおよび/または分極率異方性が小さい添加剤が厚み方向リタデーション(Rt)を効果的に低下させる化合物である。従って、セルロースエステルの配向を乱すための添加剤としては、芳香族系化合物より、脂肪族系化合物が好ましい。
ここで、具体的なリタデーション低減剤として、例えば、つぎの一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルが挙げられる。
一般式(1) B1−(G−A−)mG−B1
一般式(2) B2−(G−A−)nG−B2
上記式中、B1はモノカルボン酸成分を表わし、B2はモノアルコール成分を表わし、Gは2価のアルコール成分を表わし、Aは2塩基酸成分を表わし、これらによって合成されたことを表わす。B1、B2、G、およびAは、いずれも芳香環を含まないことが特徴である。m、nは、繰り返し数を表わす。
B1で表わされるモノカルボン酸成分としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましいモノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
B2で表わされるモノアルコール成分としては、特に制限はなく、公知のアルコール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。
Gで表わされる2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうち、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールが好ましく用いられる。
Aで表わされる2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ア
ジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族カルボン酸としては、炭素数4〜12を有するもの、これらから選ばれる少なくとも1つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
上記の一般式(1)または(2)における繰り返し数m、nは、1以上で170以下が好ましい。
ポリエステルの質量平均分子量は、20000以下が好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。特に質量平均分子量が500〜10000のポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜において蒸発も揮発も起こらない。
ポリエステルの重縮合は常法によって行なわれる。例えば上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれらの酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により用意に合成し得るが、質量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが、好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステルフィルムを得ることができる。
分子量の調節方法は、特に制限がなく、従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価のものの添加する量によりコントロールできる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して、このような1価の酸を反応系外に除去するときに溜去しやすいものが選ばれる。これらを混合使用しても良い。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることよっても質量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることよってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
上記一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルは、セルロースエステルに対し、1〜40質量%含有することが好ましい。特に5〜15質量%含有することが好ましい。
本発明において、リタデーション低減添加剤としては、さらに下記のものが挙げられる。
本発明の光学フィルムの製造に使用するドープは、主に、セルロースエステル、リタデーション低減添加剤としてのポリマー(エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー)、及び有機溶媒を含有する。
本発明において、リタデーション低減添加剤としてのポリマーを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、さらに特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の
水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、何れも本発明において好ましく用いられるが、特に、該公報に記載の方法が好ましい。
本発明において、有用なリタデーション低減添加剤としてのポリマーを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるリタデーション低減添加剤としてのポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマー単位としては、まず、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。
つぎに、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものが挙げられる。
さらに、不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
上記モノマーで構成されるポリマーはコポリマーでもホモポリマーでもよく、ビニルエステルのホモポリマー、ビニルエステルのコポリマー、ビニルエステルとアクリル酸またはメタクリル酸エステルとのコポリマーが好ましい。
本発明において、アクリル系ポリマーという(単にアクリル系ポリマーという)のは、芳香環あるいはシクロヘキシル基を有するモノマー単位を有しないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマーまたはコポリマーを指す。
芳香環及びシクロヘキシル基を有さないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。
アクリル系ポリマーは、上記モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30質量%以上を有していることが好ましく、また、メタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40質量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
上述のエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマーは、いずれもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
本発明において、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの場合はホモポリマーではなく、コポリマーの構成単位である。この場合、好ましくは、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位がアクリル系ポリマー中2〜20質量%含有することが好ましい。
本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、リタデーション低減添加剤としての質量平均分子量500以上3000以下のアクリル系ポリマーとを含有することが好ましい。
また、本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、リタデーション低減添加剤としての質量平均分子量5000以上30000以下のアクリル系ポリマーとを含有するが好ましい。
本発明において、リタデーション低減添加剤としてのポリマーの質量平均分子量が500以上3000以下、あるいはまたポリマーの質量平均分子量が5000以上30000以下のものであれば、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜中において蒸発も揮発も起こらない。また、製膜後の光学フィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
本発明において、リタデーション低減添加剤として、側鎖に水酸基を有するポリマーも好ましく用いることができる。水酸基を有するモノマー単位としては、前記したモノマーと同様であるが、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルである。ポリマー中に水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー単位はポリマー中2〜20質量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜10質量%である。
前記のようなポリマーが上記の水酸基を有するモノマー単位を2〜20質量%含有したものは、勿論、セルロースエステルとの相溶性、保留性、寸法安定性が優れ、透湿度が小さいばかりでなく、偏光板用保護フィルムとしての偏光子との接着性に特に優れ、偏光板の耐久性が向上する効果を有している。
また、本発明においては、上記ポリマーの主鎖の少なくとも一方の末端に水酸基を有することが好ましい。主鎖末端に水酸基を有するようにする方法は、特に主鎖の末端に水酸基を有するようにする方法であれば限定ないが、アゾビス(2−ヒドロキシエチルブチレート)のような水酸基を有するラジカル重合開始剤を使用する方法、2−メルカプトエタノールのような水酸基を有する連鎖移動剤を使用する方法、水酸基を有する重合停止剤を使用する方法、リビングイオン重合により水酸基を末端に有するようにする方法、特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等により得ることができ、特に該公報に記載の方法が好ましい。この公報記載に関連する方法で作られたポリマーは、綜研化学社製のアクトフロー・シリーズとして市販されており、好ましく用いることができる。
上記の末端に水酸基を有するポリマー及び/または側鎖に水酸基を有するポリマーは、本発明において、セルロースエステルに対するポリマーの相溶性、透明性を著しく向上する効果を有する。
本発明において、有用なリタデーション低減添加剤としては、上記のほかにも、例えば特開2000−63560号公報記載のジグリセリン系多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、特開2001−247717号公報記載のヘキソースの糖アルコールのエステルまたはエーテル化合物、特開2004−315613号公報記載のリン酸トリ脂肪族アルコールエステル化合物、特開2005−41911号公報記載の一般式(1)で表わされる化合物、特開2004−315605号公報記載のリン酸エステル化合物、特開2005−105139号公報記載のスチレンオリゴマー、および特開2005−105140号公報記載のスチレン系モノマーの重合体が挙げられる。
上述したリタデーション低減添加剤の含有量は、セルロースエステル系樹脂に対して5〜25質量%含有させることが好ましい。リタデーション低減添加剤の含有量が5質量%未満であれば、フィルムのリタデーション低減効果が発現しないので、好ましくない。またリタデーション低減添加剤の含有量が25質量%を超えると、いわゆるブリードアウトが生じるなど、フィルム中の安定性が低下するので、好ましくない。
本発明による光学フィルムの製造方法において、上記セルロース誘導体に対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
良溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブ(金属支持体上にセルロース誘導体のドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、ウェブを丈夫にして、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロース誘導体の溶解を促進したりする役割もある。
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドー
プの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
このような条件を満たす好ましい高分子化合物であるセルロース誘導体を高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
本発明におけるフィルムには、フィルムに加工性・柔軟性・防湿性を付与する可塑剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤等を含有させても良い。
本発明において使用する可塑剤としては、特に限定はないが、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、セルロース誘導体や加水分解重縮合が可能な反応性金属化合物の重縮合物と、水素結合などによって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。
このような官能基としては、水酸基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カルボン酸残基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルホン酸残基、ホスホニル基、ホスホン酸残基等が挙げられるが、好ましくはカルボニル基、エステル基、ホスホニル基である。
このような可塑剤の例として、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることができるが、特に好ましくは多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤である。
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
本発明に用いられる多価アルコールは、つぎの一般式(1)で表される。
一般式(1)R1−(OH)n
(ただし、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
好ましい多価アルコールの例としては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
本発明の多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
多価アルコールエステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが、さらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では、小さい方が好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するグリコレート系可塑剤を、好ましく用いることができる。好ましいグリコレート系可塑剤としては、例えばブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることができる。
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を用いることができるが、本発明では、リン酸エステル系可塑剤を実質的に含有しないことが好ましい。
ここで、「実質的に含有しない」とは、リン酸エステル系可塑剤の含有量が1質量%未満、好ましくは0.1質量%であり、特に好ましいのは添加していないことである。
これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
可塑剤の使用量は、1〜20質量%が好ましい。6〜16質量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜13質量%である。可塑剤の使用量が、セルロース誘導体に対して1質量%未満では、フィルムの透湿度を低減させる効果が少ないため、好ましくなく、20質量%を越えると、フィルムから可塑剤がブリードアウトし、フィルムの物性が劣化するため、好ましくない。
本発明におけるセルロース誘導体には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,R805、OX50、TT600などが挙げられる。
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
測定方法の一例としては、1つのフィルムにつき、ランダムに10箇所の垂直断面写真を撮影し、各断面写真について、長軸長さが、0.05〜5μmの範囲にある100μm2中の粒子個数をカウントする。このときカウントした粒子の長軸長さの平均値を求め、10箇所の平均値を平均した値を平均粒径とする。
微粒子の場合は、1次粒径、溶媒に分散した後の粒径、フィルムに添加された粒径が変化する場合が多く、重要なのは、最終的にフィルム中で微粒子がセルロースエステルと複合し凝集して形成される粒径をコントロールすることである。
ここで、微粒子の平均粒径が、5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
上記の微粒子は、セルロースエステルに対して、0.04〜0.5質量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3質量%、さらに好ましくは0.05〜0.25質量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04質量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5質量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
微粒子の分散は、微粒子と溶剤を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。本発明で用いる高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm2以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm2以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが、好ましい。
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
本発明において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100質量%含有する溶剤中で分散した後、セルロースエステル(セルロース誘導体)を溶剤に溶解したドープと混合し、該混合液を金属支持体上に流延し、乾燥して製膜することを特徴とするセルロースエステルフィルムを得る。
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100質量%、さらに好ましくは75〜100質量%である。
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
微粒子は、溶媒中で1〜30質量%の濃度で分散される。これ以上の濃度で分散すると、粘度が急激に上昇し、好ましくない。分散液中の微粒子の濃度としては、好ましく、5〜25質量%、さらに好ましくは、10〜20質量%である。
フィルムの紫外線吸収機能は、液晶の劣化防止の観点から、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどの各種光学フィルムに付与されていることが好ましい。このような紫外線吸収機能は、紫外線を吸収する材料をセルロース誘導体中に含ませても良く、セルロース誘導体からなるフィルム上に紫外線吸収機能のある層を設けてもよい。
本発明において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが
、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
本発明において、有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・ジャパン(株)社製)を、好ましく使用できる。
また、本発明において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明において、これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロース誘導体)に対して、0.01〜10質量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5質量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
また、本発明の光学フィルムに用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることができる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)(6)(7)で表される高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置などが高湿高温の状態に置かれた場合には、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣
化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸などによりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して質量割合で1ppm〜1.0質量%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
以下、本発明による光学フィルムの製造方法について詳しく述べる。フィルムは、溶液流延製膜方法により作製できる。
図1(A)は、本発明の光学フィルムの製造方法を溶液流延製膜法により実施する装置を模式的に示すフローシートである。なお、本発明の実施にあたっては、図1(A)のプロセスに限定されるものではない。
本発明の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂溶液(ドープ)をエンボス形成装置50上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブ1を金属製支持体50から剥離する工程と、剥離したウェブ1をテンター53により幅手方向に延伸する工程と、延伸したウェブ1を乾燥装置54で乾燥する工程と、乾燥後にウェブ1の両端部をスリッター56、57により両端部を切断する工程と、両端部を切断した後、表面に突起部を有するエンボスロール61と、ウェブ1を介して対応する位置に配置したバックアップロール62とによりウェブ1の両端部にエンボス加工を行うエンボス工程と、エンボス加工後のフィルム(ウェブ)1を巻き取る巻取り工程とを具備している。
まず、図示しない溶解釜において、熱可塑性樹脂、例えばセルロースエステル系樹脂を、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに上記の可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加して樹脂溶液(ドープ)を調製する。
ついで、溶解釜で調整されたドープを、例えば加圧型定量ギヤポンプを通して、導管によって流延ダイ51に送液し、図1(A)に示す無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる金属製支持体50上の流延位置に、流延ダイ51からドープを流延する。
なお、図示は省略したが、例えば加圧型定量ギヤポンプを通して流延ダイ51に送液されたドープを、流延ダイ51からハードクロム鍍金により鏡面処理された表面を有するステンレス鋼製回転の冷却ドラム上に流延しても、良い。
流延ダイ51によるドープの流延には、流延されたドープ膜(ウェブ)をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。
なお、流延ダイ51としては、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。
ここで、セルロースエステル溶液(ドープ)の固形分濃度が、20〜30質量%であるのが、好ましい。
ここで、セルロースエステル溶液(ドープ)の固形分濃度が、20質量%未満であれば、金属製支持体50上で充分な乾燥ができず、剥離時にドープ膜の一部が金属製支持体50上に残り、ドラム汚染につながるため、好ましくない。また固形分濃度が30%を超えると、ドープ粘度が高くなり、ドープ調整工程でフィルター詰まりが早くなったり、金属製支持体50上への流延時に圧力が高くなり、押し出せなくなるため、好ましくない。
金属製支持体50として回転駆動エンドレスベルトを具備する図示の製膜装置では、該金属製支持体50は一対のドラムおよびその中間に配置されかつ金属製支持体50の上部移行部及び下部移行部をそれぞれ裏側より支えている複数のロール(図示略)より構成される。
金属製支持体50の両端巻回部のドラムの一方、もしくは両方に、金属製支持体50に張力を付与する駆動装置が設けられ、これによって金属製支持体50は張力が掛けられて張った状態で使用される。
また、金属製支持体50の周速度が50〜150m/minであるのが、好ましい。
金属製支持体50としてエンドレスベルトを用いる場合には、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度、混合溶剤では最も沸点の低い溶剤の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶剤沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。
上記のようにして金属製支持体50表面に流延されたドープは、冷却ゲル化によりゲル膜の強度(フイルム強度)が増加して、さらに剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜の強度(フイルム強度)が増加する。
また、製膜速度を上げるために、流延ダイ51を金属製支持体50上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層製膜してもよい。
金属製支持体50としてエンドレスベルトを用いる方式においては、金属製支持体50
上では、ウェブ1が金属製支持体50から剥離ロール52によって剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、ウェブ1中の残留溶媒量が150質量%以下まで乾燥させるのが好ましく、80〜120質量%が、より好ましい。また、金属製支持体50からウェブ1を剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃が好ましい。また、ウェブ1は、金属製支持体50からの剥離直後に、金属製支持体50密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶剤蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mは、フィルムの任意時点での質量、Nは、質量Mのものを110℃で3時間乾燥させた後の質量を表わす。
金属製支持体50上に流延されたドープにより形成されたドープ膜(ウェブ)を、金属製支持体50上で加熱し、金属製支持体50から剥離ロール52によってウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法、及び/または金属製支持体50の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等がある。
金属製支持体50にエンドレスベルトを用いる方式においては、金属製支持体50とウェブ1を剥離ロール52によって剥離する際の剥離張力は、通常100N/m〜200N/mで剥離が行なわれるが、従来よりも薄膜化されている本発明により作製された光学フィルムでは、剥離の際にウェブ1の残留溶媒量が多く、搬送方向に伸びやすいために、幅手方向にフィルムは縮みやすく、乾燥と縮みが重なると、端部がカールし、折れ込むことにより、シワが入りやすいため、剥離できる最低張力〜170N/mで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜140N/mで剥離することである。
金属製支持体50上でウェブ1が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ1を剥離ロール52によって剥離する。
ついで、剥離後のウェブ1を、延伸工程のテンター53に導入する。本発明の方法において、延伸工程におけるテンター53としては、ピン・テンター、およびクリップ・テンターを用いることができるが、中でも、液晶表示装置用フィルムとしては、ウェブ(またはフィルム)1の両側縁部をクリップで固定して延伸するクリップテンターであることが好ましく、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。
延伸工程のテンター53に入る直前のウェブ(フィルム)1の残留溶媒量が、10〜50質量%であることが好ましい。
延伸工程においては、テンター53の底の前寄り部分の温風吹出し手段すなわち温風吹出しスリット口から温風が吹込まれ、テンター53の天井の後寄り部分の排出口から排気風が排出せられることによって、ウェブ1が延伸されるとともに、乾燥される。
本発明において、テンター53におけるウェブ1の延伸率は、3〜80%であることが好ましく、さらに6〜60%であることが好ましい。
テンター53におけるウェブ1の幅手方向の延伸率が3%未満であれば、最も幅広いベルトや流延幅の装置を用いても、広幅のフィルムを得ることが不可能となるので、好ましくない。またテンター53におけるウェブ1の幅手方向の延伸率が80%を超えると、延伸温度によってはフィルムが裂けてしまうので、好ましくない。
なお、本発明における延伸工程における温風吹出し手段とは、具体的には、延伸工程のテンター53の温風吹出しスリット口をいうが、温風の吹き出しによりフィルムを効率的に加熱する形状であれば、特に限定されない。温風の温度は、165〜190℃であることが好ましく、さらに170〜185℃であることが望ましい。
つぎに、延伸後のフィルム(ウェブ)1は、ロール搬送型の乾燥装置54に導入し、乾燥装置54において非駆動のフリーロールよりなる搬送ロール55により搬送しながら乾燥する。
この乾燥装置54内では、50〜1000本の側面から見て千鳥配置せられた搬送ロール55によってウェブ1が蛇行せられ、その間にウェブ1が乾燥せられるものである。また、乾燥装置54でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥装置54での温度等に影響を受けるが、30〜250N/mが好ましく、60〜150N/mがさらに好ましい。80〜120N/mが最も好ましい。
なお、ウェブ(またはフィルム)1を乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば乾燥装置54の底の前寄り部分の温風入口から吹込まれる乾燥風によって乾燥され、乾燥装置54の天井の後寄り部分の出口から排気風が排出せられることによって乾燥される。乾燥風の温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするため、さらに好ましい。
これら流延から最終的な後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
乾燥装置54による乾燥後に、フィルム両端部を、上下一対のスリッター56、57により製品となる幅にスリットして、断裁切除し、製品幅に合わせてフィルムを形成した後、該フィルムの幅手方向の端部にエンボス加工を施してエンボス部を形成し、巻き取ることによってロール状の光学フィルムを製造する。
そして、本発明による光学フィルムの製造方法では、エンボス加工を施す工程は、複数の突起部をフィルムの側端部の表面に押しつけて、複数の凹凸の対を形成するものであって、突起部をフィルムに押しつけた際に、突起部により押しのけられたフィルム部材により形成される凸部の高さを、突起部の基部を構成する平坦部で制限し、凸部の高さを所定の高さにすることを特徴とするものである。このエンボス加工については、以降で述べるので、ここでの説明は省く。
本発明の方法により製造された光学フィルムは、ロール状フィルムの巻き長が、500m以上、12000m以下であることがより好ましい。
ここで、ロール状フィルムの巻き長が500m以上であれば、生産速度が速くなっても巻き上がったロールの切替時間を多く取る必要が無く、好ましい。また偏光板加工時にもフィルムの切替作業の頻度が高くならないので生産性を低下せず、好ましい。
また、ロール状フィルムの巻き長が12000m以下であれば、フィルムの自重により巻き芯の荷重が大きくなり、エンボスを高くしても凸部がつぶれやすくなることがなく、
貼り付きが発生する恐れがないので、好ましい。
なお、巻取り装置58によって巻き取るフィルムの残留溶媒量は、0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
以上のようにして、溶液流延製膜法により、ロール状に巻きとられた本発明の光学フィルムを製造することができる。
つぎに、本発明の溶融流延製膜方法による光学フィルムの製造方法について説明する。
図1(B)は、本発明の溶融流延製膜方法による光学フィルムの製造方法を実施する装置を模式的に示すフローシートである。
溶融流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、用いられる熱可塑性樹脂は、溶融流延製膜法により製膜可能であれば、特に限定されない。例えば、セルロースエステル、ポリカーボネート、脂環式構造含有ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルなどが挙げられる。中でも光弾性係数が小さいことから、セルロースエステルや脂環式構造含有ポリマーが好ましく、特に吸水率の小さいことから脂環式構造含有ポリマーが好ましい。
また、本発明において、光学フィルムには、添加剤として有機酸と3価以上のアルコールが縮合した構造を有するエステル系可塑剤、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤の少なくとも1種の可塑剤、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン光安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤から選択される少なくとも1種の安定剤を含んでいることが好ましく、さらにこの他に過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、マット剤、染料、顔料、さらには前記以外の可塑剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤以外の酸化防止剤などを含むことができる。
本発明の溶融流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂を含む原料を供給ホッパー71に投入し、混合機72で混合する工程と、混合した後、押出機73で溶融混錬する工程と、溶融混練された溶融物を流延ダイ74から冷却ロール76上に流延する工程と、流延されたフィルム70をテンター77により幅手方向に延伸する工程と、延伸後、スリッター78、79によりフィルム70の両端部を切断する工程と、両端部を切断した後、表面に凸部を有する第1の部材としての第1エンボスロール80と、第1エンボスロールの凸部に対応する位置に、該凸部と略相似形の凹部を有する第2の部材としての第2エンボスロール81とによりフィルム70の両端部にエンボス加工を行うエンボス工程と、エンボス加工後のフィルム70を巻き取る巻取り工程とを具備している。
本発明において、フィルム製膜に用いる押出機73は、単軸押出機でも2軸押出機でも良い。材料からペレットを作製せずに直接製膜する場合では適当な混練度が必要であるため、2軸押出機を用いることが好ましいが、単軸押出機でも、スクリューの形状をマドック型、ユニメルト型、ダルメージ等の混練型のスクリューに変更することにより適度の混練が得られ製膜が可能となる。1軸押出機においても、2軸押出機においてもベント口を設け、真空ポンプなどを用いてベント口からガスを除去することが望ましい。一旦、ペレットやおこし状の半溶融物を作製する場合は、単軸押出機でも2軸押出機でも良い。
押出機73内および押し出した後の冷却工程は、窒素ガス等の不活性ガスで置換するか、あるいは減圧することにより、酸素の濃度を下げることが好ましい。
押出機73内の樹脂の溶融温度は樹脂の粘度や吐出量、製造するシートの厚み等によって好ましい条件が異なるが、一般的には成形材料のガラス転移温度(Tg)に対して、Tg以上、Tg+100℃以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは溶融温度はTg+10℃以上、Tg+90℃以下である。押出し時の溶融粘度は10〜100000ポイズ、好ましくは100〜10000ポイズである。また、押出機73内での樹脂の滞留時間は短い方が好ましく、5分以内、より好ましくは3分以内、最もこのましくは2分以内である。滞留時間は、押出機73の種類、押出す条件にも左右されるが、材料の供給量やL/D、スクリュー回転数、スクリューの溝の深さ等を調整することにより短縮することが可能である。
押出機73のスクリューの形状や回転数等は、樹脂の粘度や吐出量等により適宜選択される。押出機73でのせん断速度は、好ましくは1/秒〜10000/秒、より好ましくは5/秒〜1000/秒、もっとも好ましくは10/秒〜100/秒である。ギアポンプ噛み込み防止、メインフィルタ負荷低減のため、押出機73の出側にプレフィルターを設けることが好ましい。
例えば必要に応じて50/80/100メッシュのスクリーンや金属繊維の焼結フィルターを設けることが好ましい。オンラインチェンジ可能なタイプを使用することが好ましい。
混合機72で混合された原材料は、押出機73に運ばれ、例えば250℃で加熱溶融され、溶融物は、本発明による流延ダイ74から押出成形される。流延ダイ74から押出された溶融物は、ステンレス鋼製冷却ロール(金属支持体)75にて冷却、表面矯正される。この場合、フィルム70と冷却ロール76は密着することが好ましく、フィルム70を冷却ロール76に密着させる方法として、タッチロール75を用いて押し付ける。
冷却ロール76に密着する直前の樹脂の温度はTg以上であることが好ましく、より好ましくはTg+50℃以上。樹脂の温度を高く保つことでリボンの伸張により発生する流れ方向のリタデーションを小さくすることができる。流延ダイ74出口から樹脂が冷却ロール76に密着する直前のエアギャップにおいて樹脂を保温することが好ましい。保温方法としてはマイクロ波による誘導加熱、赤外線ヒーターによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。赤外線ヒーターは、電気式、ガス式、オイル式あるいはスチーム式の遠赤外セラミックヒーターが利用できる。
冷却ロール76は1本以上であれば良いが、フィルムの両面に対して平滑性を高めるために2本以上とし、両面とも冷却ロール76に接触させることが好ましい。また、冷却ロール76には、クリーニングロール等の清掃設備を付与することも可能である。冷却ロール76の温度ムラは0.5℃以下が好ましい。速度ムラは0.5%以下が好ましい。冷却ロール76表面はハードクロムメッキを使用することができるが、これに限定されない。表面粗度は0.1s以下が好ましい。
一方、タッチロール75の材質としては金属、または金属ロールの周りに樹脂、ゴムなどを巻いたものを用いることができる。また、幅手中央部からサイドへいくに従い、径を変化させたクラウンロールを用いることもできる。
また、タッチロール75に密着する直前の温度は、樹脂のガラス転移温度(Tg)以上が好ましく、より好ましくはTg+50℃以上である。
冷却ロール76の温度調整は冷却ロール76内部に水や油などの熱媒体を流すことにより調整することが好ましい。
ついで、冷却固化されたフィルムを冷却ロール76から剥離し、幅手方向に延伸する。延伸により分子が配向される。延伸する方法は、公知のテンター77などを好ましく用いることができる。
延伸は、制御された均一な温度分布下で行なうことが好ましい。好ましくは±2℃以内、より好ましくは±1℃以内、特に好ましくは±0.5℃以内である。
上記の方法で作製した熱可塑性樹脂フィルムの寸法変化率を小さくする目的等で、フィルムを長手方向や幅手方向に延伸または収縮させてもよい。長手方向に収縮するには、例えば、幅延伸を一時クリップアウトさせて長手方向に弛緩させる、または横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることによりフィルムを収縮させるという方法がある。後者の方法は一般の同時二軸延伸機を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行なうことができる。必要により任意の方向(斜め方向)の延伸と組み合わせてもよい。長手方向、幅手方向とも0.5%から10%収縮させることで光学フィルムの寸法変化率を小さくすることができる。
光学フィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。膜厚変動を小さくする目的で、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に1.0〜2.0倍、幅手方向に1.01〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に1.01〜1.5倍、幅手方向に1.05〜2.0倍に範囲で行なうことが好ましい。
フィルムを延伸する方法には特に限定はなく、例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、フィルム70の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。また、これ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。
テンター77による延伸後に、フィルム両端部を、上下一対のスリッター78、79により製品となる幅にスリットして裁ち落とし、製品幅に合わせてフィルムを形成した後、該フィルムの幅手方向の端郎にエンボス加工を施してエンボス部を形成し、巻取り装置82で巻き取ることによってロール状の光学フィルムを製造する。
そして、本発明による光学フィルムの製造方法では、エンボス加工を施す工程は、複数の突起部をフィルムの側端部の表面に押しつけて、複数の凹凸の対を形成するものであって、突起部をフィルムに押しつけた際に、突起部により押しのけられたフィルム部材により形成される凸部の高さを、突起部の基部を構成する平坦部で制限し、凸部の高さを所定の高さにすることを特徴とするものである。このエンボス加工については、以降で述べるので、ここでの説明は省く。
以上のようにして溶融流延製膜法によりロール状に巻かれた本発明の光学フィルムを製造することができる。
本発明による光学フィルムの製造方法において、フィルムの巻き取り方法は、溶液流延製膜法または溶融流延製膜法のいずれにおいても、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い
分ければよい。
図3は、本発明の実施の形態におけるエンボス形成装置15の概略構成図である。図3に示すようにエンボス形成装置15は、マットローラ31(バックローラの一例)及びエンボス形成ローラ32を備えている。マットローラ31は、フィルムFの幅方向Yを長手方向とする円筒状のローラである。ここで、マットローラ31の幅としては、製造するフィルムFの幅よりも多少長いサイズを採用すればよい。
エンボス形成ローラ32は、フィルムFにエンボスを形成するための多数の凸部が表面に形成されている。本実施の形態では、図2に示すように、フィルムFは、幅方向Yの両端に一対のエンボス部21が形成される。
よって、エンボス形成ローラ32は、マットローラ31の長手方向の両端に一対設けられている。マットローラ31とエンボス形成ローラ32との径のサイズとしては、エンボスを形成するにあたり好ましい圧力をフィルムFに付与できるサイズを採用すればよい。
エンボス形成ローラ32の幅方向Yのサイズとしては、形成するエンボス部21の幅方向Yのサイズに合わせて適宜好ましいサイズを採用すればよい。
そして、マットローラ31とエンボス形成ローラ32とはフィルムFを挟持して長手方向Xに搬送することで、フィルムFを押圧し、フィルムFにエンボス部21を形成する。なお、マットローラ31及びエンボス形成ローラ32の少なくともいずれか一方は、例えばモータ(図略)によって駆動される駆動ローラが採用されている。このモータはフィルムFの搬送速度が80m/分以上の所定の速度となるようにマットローラ31又はエンボス形成ローラ32を回転させる。
このように、フィルムFの搬送速度を高速に設定すると、フィルムFとマットローラ31との間に同伴エアーと呼ばれる空気が入り込む。この同伴エアーはフィルムFとマットローラ31との密着を阻害する。よって、同伴エアーが存在すると、マットローラ31及びエンボス形成ローラ32とによるフィルムFへの押圧力が弱まり、フィルムFに目的とする形状のエンボスを形成することができなくなってしまう。なお、従来の製造装置Sにおいては、搬送速度は80m/分未満の低速に設定されていたため、同伴エアーは発生しなかった。
同伴エアーを低減させるために、本実施の形態の製造装置Sは、同伴エアーを緩和させるエアー緩和手段を備えている。具体的には、マットローラ31の表面粗さ(Ra)を1.0μm≦Ra≦10μmとすることでエアー緩和手段が実現されている。
同伴エアーの厚みは、搬送速度に依存する。例えばフィルムFの搬送速度を、高速搬送の下限値として想定される80m/分程度に設定した場合、同伴エアーの厚みはおよそ2.0μmになる。よって、マットローラ31のRaを少なくとも1.0μmとし、同伴エアーの厚み程度の値にすると、マットローラ31の表面の凹部に同伴エアーが入り込み、同伴エアーの厚みがマットローラ31に吸収される。その結果、マットローラ31の表面とフィルムFとの密着度が高まる。
これにより、低速搬送時と同様に強い押圧力でフィルムFを押圧することができ、低速搬送時と同一形状のエンボスを形成することができる。
搬送速度を80m/分以上の高速に設定すると、それに伴って、同伴エアーの厚みは増大する。したがって、Raの下限値は、設定するフィルムの搬送速度に応じて定まる同伴
エアーの厚み程度の値を採用すればよい。
一方、マットローラ31のRaを10μmより大きくすることは、マットローラ31のエンボス押し込み部のRaが押し圧によりつぶれ、均一なエンボスができない。よって、Raの上限値は10μmとされている。
同伴エアーの厚みは高精度なレーザ測定器で測定することができ、例えば、キーエンス社のTL−9000にて測定することができる。レーザ測定器は、フィルムFを搬送しているマットローラ31にレーザを照射し、フィルムFからの反射光とマットローラ31からの反射光と受光し、受光した両光の例えば光路差を測定することで同伴エアーの厚みを測定する。
マットローラ31は、ブラスト法でマット加工され、かつ、焼き入れ処理されたものでありショア硬さが20HS以上、90HS以下、好ましくは50HS以上、80HS以下であることが好ましい。
ここで、ブラスト法は、加工面に研磨材を高速度で吹き付け、表面を清浄化、磨耗又は硬化させる方法である。ブラスト法を用いてマットローラ31の表面がマット加工されているため、研磨剤の種類や量等を調節することで、マットローラ31の表面のRaを所望の値に容易に設定することができる。
また、マットローラ31は、ショア硬さが20HS以上、90HS以下、好ましくは50HS以上、80HS以下となるように焼き入れ処理が行われているため硬度が高く、耐久性に優れたものになる。なお、ショア硬さを上記の数値範囲内にするためには、焼き入れ温度及び焼き入れ時間を適宜設定すればよい。
また、本実施の形態では、同伴エアー緩和手段を、同伴エアーを吸引する吸引装置33により実現してもよい。図4は、吸引装置33を備えるエンボス形成装置15の概略構成図を示している。図5は、図4に示すエンボス形成装置15を幅方向Yから見た図である。
吸引装置33は、マットローラ31よりもフィルムFの搬送方向の上流側であって、マットローラ31の近傍に設けられた吸引ノズル331を備えている。吸引ノズル331は、幅方向Yを長手方向とし、長手方向のサイズがマットローラ31の長手方向のサイズとほぼ同じ長さにされている。また、図5に示すように吸引ノズル331は、フィルムFを挟んでマットローラ31側に設けられている。そのため、マットローラ31とフィルムFとの間の幅方向Yの全域に発生する同伴エアーを吸収することができる。
そして、吸引装置33は、例えば100Pa以上、2000Pa以下の吸引圧で、吸引ノズル331から同伴エアーを吸引する。なお、吸引圧を100Pa未満とすると、同伴エアーを除去するには能力不足である。また、吸引圧を2000Paより大きくするとフィルムFを吸引する可能性がある。そこで、本実施の形態では、吸引圧として、100Pa以上、2000Pa以下を採用している。
なお、図5では、マットローラ31を通過する前のフィルムFの搬送経路と、マットローラ31を通過した後のフィルムFの搬送経路とがなす角度θは、鋭角に設定されている。これにより、マットローラ31によるフィルムFの押圧力が高まり、同伴エアーの存在による押圧力の低下を抑制させることができる。なお、角度θとしては、例えば60度以上90度以下の値を採用することができる。
また、図5では、吸引ノズル331をマットローラ31の幅方向Yの全域に設けたが、これに限定されず、エンボス形成ローラ32が存在する領域にのみ設けてもよい。具体的には、一対の吸引ノズル331をマットローラ31の近傍の両端に設ければよい。こうすることで、同伴エアーが存在すると好ましくない領域のみの同伴エアーを除去するというように同伴エアーを効率良く除去し、製造装置Sの消費電力の低減を図ることができる。
図4に示すように、吸引装置33を採用した場合、マットローラ31に代えて、鏡面ローラ31a(バックローラの一例)を採用してもよい。この場合、エンボス部21を形成する際のフィルムFに与える傷を抑制することができる。
また、本実施の形態では、エアー緩和手段を、ニップローラ34により実現してもよい。図6は、ニップローラ34を備えるエンボス形成装置15を示した図である。図6に示すように、ニップローラ34は、エンボス形成ローラ32よりもフィルムFの搬送方向の上流側であって、マットローラ31と対向する位置に設けられている。
ニップローラ34は、表面が例えばゴムにより構成された、ゴムローラにより構成されている。そして、ニップローラ34は、マットローラ31とでフィルムFを挟持することで、マットローラ31とフィルムFとの間の同伴エアーを押し出し、同伴エアーを除去する。
ここで、ニップローラ34は、長手方向の長さがマットローラ31の長手方向の長さとほぼ同じサイズを有している。そのため、幅方向Yの全域に存在する同伴エアーが除去される。
また、ニップローラ34は、エンボス形成ローラ32の上流側であって、エンボス形成ローラ32の近傍に設けられている。そのため、エンボスが形成されるときに存在する同伴エアーの量を低減させ、マットローラ31とフィルムFとの密着度を高め、目的とする形状のエンボスを形成することができる。
また、図6に示すように、マットローラ31を通過する前のフィルムFの搬送経路と、マットローラ31を通過した後のフィルムFの搬送経路とがなす角度θは、例えば45度以上、90度以下の鋭角に設定されている。そのため、ニップローラ34による押圧力が高められ、より確実に同伴エアーを除去することができる。
また、本実施の形態では、エアー緩和手段をサクションローラ31b(図略:バックローラの一例)で実現してもよい。サクションローラ31bは、表面に複数の孔が形成され、この孔に吸引圧を発生させ搬送物を密着させるローラである。したがって、サクションローラ31bは、表面の孔に吸引圧を発生させて同伴エアーを吸引することになる。同時に、サクションローラ31bとフィルムFとの密着度を高めることができる。よって、サクションローラ31bとエンボス形成ローラ32との押圧力が高まり、目的とする形状のエンボスを形成することができる。
サクションローラ31bの表面に形成する孔は、例えば密度が一定となるように均一に配列されている。この孔の開口長としては、例えば10μm以上、5000μm以下であることが好ましい。孔の開口長が10μm未満の場合、吸引圧が弱まり、孔の開口長が5000μmより大きくなると、吸引圧が強すぎ、フィルムFに吸引跡を残す可能性がある。
孔の形状としては、円形、又は多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)を採用することができる。孔が円形の場合は孔の直径が孔の開口長となり、孔が多角形の場合は多
角形の対角線の中で最長の対角線が孔の開口長となる。
なお、マットローラ31の表面において、エンボス形成ローラ32と対向する領域にのみ孔を設けてもよい。この場合、同伴エアーの除去が必要な領域においてのみ吸引圧を付与することができ、効率良く同伴エアーを除去することができる。
また、サクションローラ31bの材料としては、ポーラス(多孔質)金属を採用することが好ましい。これにより、サクションローラ31bは、剛性が高くなり、耐久性が高くなる。また、サクションローラ31bの材質としてセラミックを採用してもよい。この場合もサクションローラ31bの剛性を高め、耐久性を高めることができる。
また、本実施の形態では、エアー緩和手段を、金属弾性ローラにより実現してもよい。図7は、金属弾性ローラ31c(バックローラの一例)を備えるエンボス形成装置15の概略構成図である。ここで、金属弾性ローラ31cとしては、例えば、内部ローラと、内部ローラよりも半径が大きく、かつ、内部ローラと同軸上に設けられた外部ローラとを備え、内部ローラと外部ローラとの間に弾性体又は流体が注入された2重構造のローラを採用すればよい。
この場合、金属弾性ローラ31cは、その弾性力により同伴エアーの厚み程度、撓むことができ、同伴エアーが存在していてもフィルムFとの密着度が高まり、金属弾性ローラ31cとエンボス形成ローラ32とによる押圧力が高まり、目的とする形状のエンボスをフィルムFに形成することができる。
次に、エンボス形成装置15により形成されたエンボスについて説明する。図8は、本発明の実施の形態によるエンボス形成装置15により形成されたエンボスを示した図であり、(A)はフィルムFの長手方向と直交する面の断面図を示し、(B)は(A)に示すエンボスのB−B方向からの断面図を示している。なお、図8では、上側がエンボス形成ローラ32により押圧される裏面DS、下側がマットローラ31により押圧される表面USとなっており、図9とは上下が逆になっている。そして、図8(B)では、凸部120の高さをHとすると、裏面DSからH/2の高さにおけるエンボスの断面図が示されている。
図8(A)に示すように、エンボスは、表面US側に窪んだ凹部110と、凹部110を取り囲むようにして裏面DSから突出した凸部120とを備えている。すなわち、本実施の形態では、図9(B)に示す従来の製造装置が低速搬送時に形成したエンボスと同一形状のエンボスが形成されていることが分かる。凹部110は、表面US側に向かうにつれてB−B方向と平行な水平方向の面積が小さくなる形状を有している。つまり、凹部110の内壁111は、テーパーを有している。但し、このテーパーの傾斜はゆるい。また、凸部120の内壁121は、凹部110の内壁111と連なっている。また、凸部120の外壁122は、水平方向と直交しており、テーパーを有していない。そのため、凸部120の断面積はほぼ一定であり、凸部120の幅Wはほぼ一定と考えて良い。
図8(B)に示すように、凹部110は四角形(例えば正方形)の形状を有している。但し、これは一例であり、円形、三角形、五角形等の多角形を適宜採用してもよい。
そして、凸部120は、幅Wが1.0μm以上、100μm以下であり、高さHが0.1μm以上、20μm以下である。但し、この幅Wは、裏面DSからH/2の高さにおける凸部120の幅である。また、凸部120は、凹部110を取り囲んでいるため、凸部120の水平方向の断面S1の形状は四角形状の枠状となる。本実施の形態では、断面S1の各辺において、各辺の長手方向と直交する方向の辺の幅を凸部120の幅Wと定義する。また、断面S1の4辺の幅はほぼ同一である。
凸部120の幅Wが1.0μmより小さい場合、強度が保てず、フィルムFの巻き取り時に、凸部120が潰れる虞がある。また、凸部120の幅が100μmより大きいと、サイズが大きすぎて凸部120の高さを均一に確保できない。また、凸部120の高さHが0.1μmより小さいと低すぎでありフィルムFの巻き取り時にフィルムFを傷つけてしまう虞がありエンボスの機能は果たせない。また、凸部120の高さHが20μmより大きいと高すぎであり、巻き取り時のフィルムFの半径が増大してしまう。
よって、凸部120は、幅Wが1.0μm以上、100μm以下であり、高さHが0.1μm以上、20μm以下であることが好ましい。
従来の製造装置において高速搬送でフィルムFを製造する場合、同伴エアーの存在により、十分にフィルムFを押圧することができず、特に幅Wを1.0μm以上にすることが困難であった。しかしながら、エンボス形成装置15でフィルムFを製造すると、同伴エアーが低減されるため、凸部120の幅Wが1.0μm以上のエンボスを容易に形成することができる。
また、エンボス形成装置15によりエンボスを形成した場合、凸部120は、フィルムFを2.0MPa以上、4.0MPa以下の圧力で加圧したときの高さHが0.1μm以上、3.0μm以下となる。2.0MPa以上、4.0MPaの圧力は、フィルムFの巻き取り時にフィルムFに加わる圧力を示している。したがって、このような圧力でフィルムFを加圧したときの凸部120の高さHは、フィルムFをロール状に巻き取った際の凸部120の高さHとなる。そして、この高さHが、0.1μm以上、かつ、20μm以下であるため、ロール状に巻き取られたフィルムFのブロッキングを十分防止することができる。
フィルムFへの加圧は、エンボス形成装置15によりエンボスが形成されたフィルムFにおいて、幅方向Yの全長と長手方向Xに所定の長さとからなる四角形の領域を加圧装置に加圧させればよい。そして、加圧装置の圧力を2.0MPa以上、4.0MPa以下の所定の値に設定すればよい。そして、加圧後のフィルムFの凸部120の幅W及び高さHを測定すればよい。そして、この凸部120の測定結果が、高さHが0.1μm以上、20μm以下となった。
この測定結果からも分かるように、本実施の形態による製造装置SによりフィルムFを製造することで、エンボスとして十分に機能し得る形状を有するエンボスを形成することができる。
また、エンボス形成装置15によりエンボスを形成した場合、凸部120は、長手方向Xの高さHの標準偏差が0.5μm以上、3.0μm以下、幅方向Yの高さHの標準偏差が0.1μm以上、1.0μm以下となる。これにより、長手方向X及び幅方向Yにおいて形状のバラツキが小さなエンボスを形成することができる。
ここで、長手方向Xの標準偏差が0.5μm以上、3.0μm以下であり、幅方向Yの標準偏差よりもバラツキが大きくなっている。これは、マットローラ31及びエンボス形成ローラ32の長手方向Xのがたつきが幅方向Yのがたつきに比べて大きいことに起因している。そのため、一般的に、長手方向Xは幅方向Yに比べて標準偏差が大きくなってしまう。凸部120のバラツキは同伴エアーの厚みが大きいほど大きくなり、特に長手方向Xのバラツキが顕著になる。
従来のエンボス形成装置では、同伴エアーを低減させることが全くなされていなかったため、エンボスの高さH及び幅Wの長手方向Xの標準偏差を上記の範囲内にすることは困難であった。
一方、エンボス形成装置15では、同伴エアーが低減されている。よって、従来の製造装置でフィルムFを製造した場合に比べて、特に長手方向Xにおける凸部120の形状のバラツキが小さなエンボスを形成することができる。