以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の潤滑油基油は、(i)尿素アダクト値が4質量%以下であり、(ii)粘度指数が100以上であり、(iii)ガスクロマトグラフィー蒸留から求められる平均炭素数が23以上27未満であり、(iv)13C−NMRスペクトルの0ppmから50ppmの範囲において、30ppmのピークの積分値を全ピークの積分値で除した値(以下、「εメチレン炭素比率」という)が0.1〜0.2であり、且つ、(v)13C−NMRスペクトルの0ppmから50ppmの範囲において、三級炭素原子に帰属されるピークの積分値を全ピークの積分値で除した値と、上記平均炭素数との積(以下、「平均分岐数」という。)が1.8〜2.5であることを特徴とする炭化水素系潤滑油基油である。
本発明の潤滑油基油の尿素アダクト値は、粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、上述の通り4質量%以下であることが必要であり、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。また、潤滑油基油の尿素アダクト値は、0質量%でも良い。しかし、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
また、本発明の潤滑油基油の粘度指数は、粘度−温度特性の観点から、上述の通り100以上であることが必要であり、好ましくは110以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは125以上、特に好ましくは128以上であり、低温特性の観点から、好ましくは150以下、より好ましくは140以下、さらに好ましくは135以下である。
また、本発明の潤滑油基油のεメチレン炭素比率は、上述の通り0.1〜0.2であることが必要であり、好ましくは0.12〜0.18であり、より好ましくは0.125〜0.16、さらに好ましくは0.125〜0.15である。なお、εメチレン炭素比率が0.2を超えると低温流動性が不十分となり、また、0.1未満であると粘度−温度特性が不十分となる。なお、本発明においては、潤滑油基油のεメチレン炭素比率を0.12〜0.16とすることで、特にBF粘度(例えば−30℃におけるBF粘度)が著しく低い潤滑油基油を得ることができる。
また、本発明の潤滑油基油の平均分岐数は、上述の通り1.8〜2.5であることが必要であり、好ましくは1.8〜2.4、より好ましくは1.9〜2.3、さらに好ましくは2.0〜2.2である。平均分岐数が1.8未満であると低温特性が悪くなることとなり、また、2.5を超えると粘度温度特性が悪くなることとなる。なお、本発明においては、潤滑油基油の平均分岐数を1.8〜2.2とすることで、特にBF粘度(例えば−30℃におけるBF粘度)が著しく低い潤滑油基油を得ることができる。
さらに、本発明の潤滑油基油においては、三級炭素原子のうち25%以上70%未満、好ましくは30〜60%、より好ましくは30〜50%、さらに好ましくは37〜48%が主鎖の末端炭素原子から4番目以内の炭素原子であることが好ましい。前記条件(i)〜(v)に加え、この条件も満たすことで、低温特性と粘度−温度特性のバランスに優れた潤滑油基油を得ることができる。
本発明の潤滑油基油を製造するに際し、ノルマルパラフィン、またはノルマルパラフィンを含有するワックスを含有する原料油を用いることができる。原料油は、鉱物油又は合成油のいずれであってもよく、あるいはこれらの2種以上の混合物であってもよい。
また、本発明で用いられる原料油は、ASTM D86又はASTMD2887に規定する潤滑油範囲で沸騰するワックス含有原料であることが好ましい。原料油のワックス含有率は、原料油全量を基準として、好ましくは50質量%以上100質量%以下である。原料のワックス含有率は、核磁気共鳴分光法(ASTM D5292)、相関環分析(n−d−M)法(ASTMD3238)、溶剤法(ASTM D3235)などの分析手法によって測定することができる。
ワックス含有原料としては、例えば、ラフィネートのような溶剤精製法に由来するオイル、部分溶剤脱ロウ油、脱瀝油、留出物、減圧ガスオイル、コーカーガスオイル、スラックワックス、フーツ油、フィッシャー−トロプシュ・ワックスなどが挙げられ、これらの中でもスラックワックス及びフィッシャー−トロプシュ・ワックスが好ましい。
スラックワックスは、典型的には溶剤またはプロパン脱ロウによる炭化水素原料に由来する。スラックワックスは残留油を含有し得るが、この残留油は脱油により除去することができる。フーツ油は脱油されたスラックワックスに相当するものである。
また、フィッシャー−トロプシュ・ワックスは、いわゆるフィッシャー−トロプシュ合成法により製造される。
さらに、ノルマルパラフィンを含有する原料油として市販品を用いてもよい。具体的には、パラフィリント(Paraflint)80(水素化フィッシャー−トロプシュ・ワックス)およびシェルMDSワックス質ラフィネート(ShellMDS Waxy Raffinate)(水素化および部分異性化中間留出物合成ワックス質ラフィネート)などが挙げられる。
また、溶剤抽出に由来する原料油は、常圧蒸留からの高沸点石油留分を減圧蒸留装置に送り、この装置からの蒸留留分を溶剤抽出することによって得られるものである。減圧蒸留からの残渣は、脱瀝されてもよい。溶剤抽出法においては、よりパラフィニックな成分をラフィネート相に残したまま抽出相に芳香族成分を溶解する。ナフテンは、抽出相とラフィネート相とに分配される。溶剤抽出用の溶剤としては、フェノール、フルフラールおよびN−メチルピロリドンなどが好ましく使用される。溶剤/油比、抽出温度、抽出されるべき留出物と溶剤との接触方法などを制御することによって、抽出相とラフィネート相との分離の程度を制御することができる。さらに原料として、より高い水素化分解能を有する燃料油水素化分解装置を使用し、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を用いてもよい。
上記の原料油について、得られる被処理物が上記条件(i)〜(v)を満たすように、水素化分解/水素化異性化を行う工程を経ることによって、本発明の潤滑油基油を得ることができる。水素化分解/水素化異性化工程は、得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数が上記条件を満たせば特に制限されない。本発明における好ましい水素化分解/水素化異性化工程は、
ノルマルパラフィンを含有する原料油について、水素化処理触媒を用いて水素化処理する第1工程と、
第1工程により得られる被処理物について、水素化脱ロウ触媒を用いて水素化脱ロウする第2工程と、
第2工程により得られる被処理物について、水素化精製触媒を用いて水素化精製する第3工程と
を備える。
なお、従来の水素化分解/水素化異性化においても、水素化脱ロウ触媒の被毒防止のための脱硫・脱窒素を目的として、水素化脱ロウ工程の前段に水素化処理工程が設けられることはある。これに対して、本発明における第1工程(水素化処理工程)は、第2工程(水素化脱ロウ工程)の前段で原料油中のノルマルパラフィンの一部(例えば10質量%程度、好ましくは1〜10質量%)を分解するために設けられたものであり、当該第1工程においても脱硫・脱窒素は可能であるが、従来の水素化処理とは目的を異にする。かかる第1工程を設けることは、第3工程後に得られる被処理物(潤滑油基油)の尿素アダクト値を確実に4質量%以下とする上で好ましい。
上記第1工程で用いられる水素化触媒としては、6族金属、8−10族金属、およびそれらの混合物を含有する触媒などが挙げられる。好ましい金属としては、ニッケル、タングステン、モリブデン、コバルトおよびそれらの混合物が挙げられる。水素化触媒は、これらの金属を耐熱性金属酸化物担体上に担持した態様で用いることができ、通常、金属は担体上で酸化物または硫化物として存在する。また、金属の混合物を用いる場合は、金属の量が触媒全量を基準として30質量%以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。金属酸化物担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナまたはチタニアなどの酸化物が挙げられ、中でもアルミナが好ましい。好ましいアルミナは、γ型またはβ型の多孔質アルミナである。金属の担持量は、触媒全量を基準として、0.5〜35質量%の範囲であることが好ましい。また、9−10族金属と6族金属との混合物を用いる場合には、9族または10族金属のいずれかが、触媒全量を基準として、0.1〜5質量%の量で存在し、6族金属は5〜30質量%の量で存在することが好ましい。金属の担持量は、原子吸収分光法、誘導結合プラズマ発光分光分析法または個々の金属について、ASTMで指定された他の方法によって測定されてもよい。
金属酸化物担体の酸性は、添加物の添加、金属酸化物担体の性質の制御(例えば、シリカ−アルミナ担体中へ組み入れられるシリカの量の制御)などによって制御することができる。添加物の例には、ハロゲン、特にフッ素、リン、ホウ素、イットリア、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類酸化物、およびマグネシアが挙げられる。ハロゲンのような助触媒は、一般に金属酸化物担体の酸性を高めるが、イットリアまたはマグネシアのような弱塩基性添加物はかかる担体の酸性を弱くする傾向がある。
水素化処理条件に関し、処理温度は、好ましくは150〜450℃、より好ましくは200〜400℃であり、水素分圧は、好ましくは1400〜20000kPa、より好ましくは2800〜14000kPaであり、液空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1〜10hr−1、より好ましく0.1〜5hr−1であり、水素/油比は、好ましくは50〜1780m3/m3、より好ましくは89〜890m3/m3である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第1工程における水素化処理条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
第1工程において水素化処理された後の被処理物は、そのまま第2工程に供してもよいが、当該被処理物についてストリッピングまたは蒸留を行い、被処理物(液状生成物)からガス生成物を分離除去する工程を、第1工程と第2工程との間に設けることが好ましい。これにより、被処理物に含まれる窒素分及び硫黄分を、第2工程における水素化脱ロウ触媒の長期使用に影響を及ぼさないでレベルにまで減らすことができる。ストリッピング等による分離除去の対象は主として硫化水素およびアンモニアのようなガス異物であり、ストリッピングはフラッシュドラム、分留器などの通常の手段によって行うことができる。
また、第1工程における水素化処理の条件がマイルドである場合には、使用する原料によって残存する多環芳香族分が通過する可能性があるが、これらの異物は、第3工程における水素化精製により除去されてもよい。
また、第2工程で用いられる水素化脱ロウ触媒は、結晶質又は非晶質のいずれの材料を含んでもよい。結晶質材料としては、例えば、アルミノシリケート(ゼオライト)またはシリコアルミノホスフェート(SAPO)を主成分とする、10または12員環通路を有するモレキュラーシーブが挙げられる。ゼオライトの具体例としては、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、フェリエライト、ITQ−13、MCM−68、MCM−71などが挙げられる。また、アルミノホスフェートの例としては、ECR−42が挙げられる。モレキュラーシーブの例としては、ゼオライトベータ、およびMCM−68が挙げられる。これらの中でも、ZSM−48、ZSM−22およびZSM−23から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、ZSM−48が特に好ましい。モレキュラーシーブは好ましくは水素形にある。水素化脱ロウ触媒の還元は、水素化脱ロウの際にその場で起こり得るが、予め還元処理が施された水素化脱ロウ触媒を水素化脱ロウに供してもよい。
また、水素化脱ロウ触媒の非晶質材料としては、3族金属でドープされたアルミナ、フッ化物化アルミナ、シリカ−アルミナ、フッ化物化シリカ−アルミナ、シリカ−アルミナなどが挙げられる。
脱ロウ触媒の好ましい態様としては、二官能性、すなわち、少なくとも1つの6族金属、少なくとも1つの8−10族金属、またはそれらの混合物である金属水素添加成分が装着されたものが挙げられる。好ましい金属は、Pt、Pdまたはそれらの混合物などの9−10族貴金属である。これらの金属の装着量は、触媒全量を基準として好ましくは0.1〜30質量%である。触媒調製および金属装着方法としては、例えば分解性金属塩を用いるイオン交換法および含浸法が挙げられる。
なお、モレキュラーシーブを用いる場合、水素化脱ロウ条件下での耐熱性を有するバインダー材料と複合化してもよく、またはバインダーなし(自己結合)であってもよい。バインダー材料としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカとチタニア、マグネシア、トリア、ジルコニアなどのような他の金属酸化物との二成分の組合せ、シリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−マグネシアなどのような酸化物の三成分の組合せなどの無機酸化物が挙げられる。水素化脱ロウ触媒中のモレキュラーシーブの量は、触媒全量を基準として、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは35〜100質量%である。水素化脱ロウ触媒は、噴霧乾燥、押出などの方法によって形成される。水素化脱ロウ触媒は、硫化物化または非硫化物化した態様で使用することができ、硫化物化した態様が好ましい。
水素化脱ロウ条件に関し、温度は好ましくは250〜400℃、より好ましくは275〜350℃であり、水素分圧は好ましくは791〜20786kPa(100〜3000psig)、より好ましくは1480〜17339kPa(200〜2500psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1〜10hr−1、より好ましくは0.1〜5hr−1であり、水素/油比は好ましくは45〜1780m3/m3(250〜10000scf/B)、より好ましくは89〜890m3/m3(500〜5000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第2工程における水素化脱ロウ条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
第2工程で水素化脱ロウされた被処理物は、第3工程における水素化精製に供される。水素化精製は、残留ヘテロ原子および色相体の除去に加えて、オレフィンおよび残留芳香族化合物を水素化により飽和することを目的とするマイルドな水素化処理の一形態である。第3工程における水素化精製は、脱ロウ工程とカスケード式で実施することができる。
第3工程で用いられる水素化精製触媒は、6族金属、8−10族金属又はそれらの混合物を金属酸化物担体に担持させたものであることが好ましい。好ましい金属としては、貴金属、特に白金、パラジウムおよびそれらの混合物が挙げられる。金属の混合物を用いる場合、金属の量が触媒を基準にして30質量%もしくはそれ以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。触媒の金属含有率は、非貴金属については20質量%以下、貴金属については1質量%以下が好ましい。また、金属酸化物担体としては、非晶質または結晶質酸化物のいずれであってもよい。具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナまたはチタニアのような低酸性酸化物が挙げられ、アルミナが好ましい。芳香族化合物の飽和の観点からは、多孔質担体上に比較的強い水素添加機能を有する金属が担持された水素化精製触媒を用いることが好ましい。
好ましい水素化精製触媒として、M41Sクラスまたは系統の触媒に属するメソ細孔性材料を挙げることができる。M41S系統の触媒は、高いシリカ含有率を有するメソ細孔性材料であり、具体的には、MCM−41、MCM−48およびMCM−50が挙げられる。かかる水素化精製触媒は15〜100Åの細孔径を有するものであり、MCM−41が特に好ましい。MCM−41は、一様なサイズの細孔の六方晶系配列を有する無機の多孔質非層化相である。MCM−41の物理構造は、ストローの開口部(細孔のセル径)が15〜100Åの範囲であるストローの束のようなものである。MCM−48は、立方体対称を有し、MCM−50は、層状構造を有する。MCM−41は、メソ細孔性範囲の異なるサイズの細孔開口部で製造することができる。メソ細孔性材料は、8族、9族または10族金属の少なくとも1つである金属水素添加成分を有してもよく、金属水素添加成分としては、貴金属、特に10族貴金属が好ましく、Pt、Pdまたはそれらの混合物が最も好ましい。
水素化精製の条件に関し、温度は好ましくは150〜350℃、より好ましくは180〜250℃であり、全圧は好ましくは2859〜20786kPa(約400〜3000psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1〜5hr−1、より好ましくは0.5〜3hr−1であり、水素/油比は好ましくは44.5〜1780m3/m3(250〜10,000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第3工程における水素化生成条件は、原料や処理装置の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
また、第3工程後に得られる被処理物については、必要に応じて、蒸留等により所定の成分を分離除去してもよい。
上記の製造方法により得られる本発明の潤滑油基油は、上記条件(i)〜(v)を満たせば、その他の性状は特に制限されないが、本発明の潤滑油基油は以下の条件を更に満たすものであることが好ましい。
本発明の潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜40質量%、更に好ましくは1〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
なお、飽和分の含有量が90質量%未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる傾向にある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が50質量%を超えると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
本発明において、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1〜50質量%であることは、飽和分に占める非環状飽和分が99.9〜50質量%であることと等価である。ここで、非環状飽和分にはノルマルパラフィン及びイソパラフィンの双方が包含される。本発明の潤滑油基油に占めるノルマルパラフィン及びイソパラフィンの割合は、尿素アダクト値が上記条件を満たせば特に制限されないが、イソパラフィンの割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは50〜99.9質量%、より好ましくは60〜99.9質量%、更に好ましくは70〜99.9質量%、特に好ましくは80〜99.9質量%である。潤滑油基油に占めるイソパラフィンの割合が前記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性をより向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能を一層高水準で発現させることができる。
なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
また、本発明でいう飽和分に占める環状飽和分及び非環状飽和分の割合とは、それぞれASTM D 2786−91に準拠して測定されるナフテン分(測定対象:1環〜6環ナフテン、単位:質量%)及びアルカン分(単位:質量%)を意味する。
また、本発明でいう潤滑油基油中のノルマルパラフィンの割合とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により分離・分取された飽和分について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行い、当該飽和分に占めるノルマルパラフィンの割合を同定・定量したときの測定値を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。なお、同定・定量の際には、標準試料として炭素数5〜50のノルマルパラフィンの混合試料が用いられ、飽和分に占めるノルマルパラフィンは、クロマトグラムの全ピーク面積値(希釈剤に由来するピークの面積値を除く)に対する各ノルマルパラフィンに相当に相当するピーク面積値の合計の割合として求められる。
(ガスクロマトグラフィー条件)
カラム:液相無極性カラム(長さ25m、内径0.3mmφ、液相膜厚さ0.1μm)
昇温条件:50℃〜400℃(昇温速度:10℃/min)
キャリアガス:ヘリウム(線速度:40cm/min)
スプリット比:90/1
試料注入量:0.5μL(二硫化炭素で20倍に希釈した試料の注入量)
また、潤滑油基油中のイソパラフィンの割合とは、前記飽和分に占める非環状飽和分と前記飽和分に占めるノルマルパラフィンとの差を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。
飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
なお、本発明の潤滑油基油において、原料として、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を用いた場合には、飽和分の含有量が90質量%以上、該飽和分に占める環状飽和分の割合が、30〜50質量%、該飽和分に占める非環状飽和分の割合が50〜70質量%、潤滑油基油中のイソパラフィンの割合が40〜70質量%、粘度指数が100〜135、好ましくは120〜130の基油が得られるが、尿素アダクト値が上記条件を満たすことで、本発明の効果、特に−40℃におけるMRV粘度を20000mPa・s以下、特に10000mPa・s以下という優れた低温粘度特性を有する潤滑油組成物を得ることができる。また、本発明の潤滑油基油において、原料としてワックス含有量が高い原料(例えばノルマルパラフィン含有量が50質量%以上)であるスラックワックス、フィッシャー−トロプシュワックスを用いた場合には、飽和分の含有量が90質量%以上、該飽和分に占める環状飽和分の割合が、0.1〜40質量%、該飽和分に占める非環状飽和分の割合が60〜99.9質量%、潤滑油基油中のイソパラフィンの割合が60〜99.9質量%、粘度指数が100〜170、好ましくは135〜160の基油が得られるが、尿素アダクト値が上記条件を満たすことで、本発明の効果、特に−40℃におけるMRV粘度を12000mPa・s以下、特に7000mPa・s以下という高粘度指数と低温粘度特性に極めて優れた特性を有する潤滑油組成物を得ることができる。
また、本発明の潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05〜3質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明の潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
なお、ここでいう芳香族分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
また、本発明の潤滑油基油の%Cpは、好ましくは80以上、より好ましくは82〜99、更に好ましくは85〜98、特に好ましくは90〜97である。潤滑油基油の%Cpが80未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cpが99を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
また、本発明の潤滑油基油の%CNは、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは1〜12、特に好ましくは3〜10である。潤滑油基油の%CNが20を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%CNが1未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
また、本発明の潤滑油基油の%CAは、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1〜0.5である。潤滑油基油の%CAが0.7を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、本発明の潤滑油基油の%CAは0であってもよいが、%CAを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
更に、本発明の潤滑油基油における%CPと%CNとの比率は、%CP/%CNが7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。%CP/%CNが7未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%CP/%CNは、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、25以下であることが特に好ましい。%CP/%CNを200以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
なお、本発明でいう%CP、%CN及び%CAとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、及び芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%CP、%CN及び%CAの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%CNが0を超える値を示すことがある。
また、本発明の潤滑油基油のヨウ素価は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.15以下であり、また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点及び経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.05以上である。潤滑油基油のヨウ素価を0.5以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。なお、本発明でいうヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価及び不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
また、本発明の潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は100質量ppm以上となる可能性がある。本発明の潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることが更に好ましい。
また、コスト低減の点からは、原料としてスラックワックス等を使用することが好ましく、その場合、得られる潤滑油基油中の硫黄分は50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう硫黄分とは、JIS K 2541−1996に準拠して測定される硫黄分を意味する。
また、本発明の潤滑油基油における窒素分の含有量は、特に制限されないが、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下である。窒素分の含有量が5質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
また、本発明の潤滑油基油の動粘度は、その100℃における動粘度は、好ましくは2.0〜3.5mm2/s、より好ましくは2.4〜3.2mm2/s、より好ましくは2.5〜2.9mm2/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度が前記下限値未満の場合、蒸発損失の点で好ましくない。また、100℃における動粘度が前記上限値を超える潤滑油基油を得ようとする場合、その収率が低くなり、原料として重質ワックスを用いる場合であっても分解率を高めることが困難となるため好ましくない。
また、本発明の潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは5〜14mm2/s、より好ましくは7〜12mm2/s、より好ましくは8.5〜10.5mm2/sである。
本発明の潤滑油基油は、上記条件(i)〜(v)を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度−温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、粘性抵抗や撹拌抵抗を著しく低減することができる。
また、本発明の潤滑油基油の−30℃におけるBF粘度は、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは4000mPa・s以下、さらに好ましくは3000mPa・s以下、特に好ましくは2000mPa・s以下である。−30℃におけるBF粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、BF粘度とは、JPI−5S−26−99に準拠して測定された粘度を意味する。
また、本発明の潤滑油基油の15℃における密度(ρ15)(g/cm3)は、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (1)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm2/s)を示す。]
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
また、本発明の潤滑油基油のρ15は、好ましくは0.820以下、より好ましくは0.810以下である。
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
また、本発明の潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、下記式(2)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.3×kv100+100 (2)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm2/s)を示す。]
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
また、本発明の潤滑油基油のAPは、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上、さらに好ましくは110℃以上であり、好ましくは125以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは115℃以下である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
また、本発明の潤滑油基油のNOACK蒸発量は、特に制限されないが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。NOACK蒸発量が前記下限値の場合、低温粘度特性の改善が困難となる傾向にある。また、NOACK蒸発量がそれぞれ前記上限値を超えると、潤滑油基油を内燃機関用潤滑油等に用いた場合に、潤滑油の蒸発損失量が多くなり、それに伴い触媒被毒が促進されるため好ましくない。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
また、本発明の潤滑油基油の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは280〜350℃、より好ましくは290〜340℃、更に好ましくは300〜330℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは320〜390℃、より好ましくは330〜380℃、更に好ましくは340〜370℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは355〜425℃、より好ましくは365〜415℃、更に好ましくは375〜405℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは375〜445℃、より好ましくは385〜435℃、更に好ましくは395〜425℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは395〜465℃、より好ましくは405〜455℃、更に好ましくは415〜445℃である。また、T90−T10は、好ましくは40〜90℃、より好ましくは45〜80℃、更に好ましくは50〜70℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは80〜155℃、より好ましくは90〜135℃、更に好ましくは100〜120℃、特に好ましくは105〜115℃である。また、T10−IBPは、好ましくは25〜80℃、より好ましくは30〜60℃、更に好ましくは35〜45℃である。また、FBP−T90は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜45℃、更に好ましくは10〜20℃である。
本発明の潤滑油基油のIBP、T10、T50、T90、FBP、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP、FBP−T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP及びFBP−T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、潤滑油基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましくない。
なお、本発明でいう、IBP、T10、T50、T90及びFBPとは、それぞれASTM D 2887−97に準拠して測定される留出点を意味する。
また、本発明の潤滑油基油のRBOT寿命は、好ましくは350min以上、より好ましくは370min以上、更に好ましくは390min以上である。RBOT寿命が前記下限値未満の場合、潤滑油基油の粘度−温度特性及び熱・酸化安定性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合には当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
なお、本発明でいうRBOT寿命とは、潤滑油基油にフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール;DBPC)を0.6質量%添加した組成物について、JIS K 2514−1996に準拠して測定されたRBOT値を意味する。
上記構成を有する本発明の潤滑油基油は、粘度−温度特性及び低温粘度特性に優れると共に、粘性抵抗や撹拌抵抗が低く、更には熱・酸化安定性及び摩擦特性が改善されたものであり、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができるものである。また、本発明の潤滑油基油に添加剤が配合された場合には当該添加剤の機能(流動点降下剤による低温粘度特性向上効果、酸化防止剤による熱・酸化安定性向上効果、摩擦調整剤による摩擦低減効果、摩耗防止剤による耐摩耗性向上効果など)をより高水準で発現させることができる。そのため、本発明の潤滑油基油は、様々な潤滑油の基油として好適に用いることができる。本発明の潤滑油基油の用途としては、具体的には、乗用車用ガソリンエンジン、二輪車用ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスヒートポンプ用エンジン、船舶用エンジン、発電エンジンなどの内燃機関に用いられる潤滑油(内燃機関用潤滑油)、自動変速機、手動変速機、無断変速機、終減速機などの駆動伝達装置に用いられる潤滑油(駆動伝達装置用油)、緩衝器、建設機械等の油圧装置に用いられる油圧作動油、圧縮機油、タービン油、工業用ギヤ油、冷凍機油、さび止め油、熱媒体油、ガスホルダーシール油、軸受油、抄紙機用油、工作機械油、すべり案内面油、電気絶縁油、切削油、プレス油、圧延油、熱処理油などが挙げられ、これらの用途に本発明の潤滑油基油を用いることによって、各潤滑油の粘度−温度特性、熱・酸化安定性、省エネルギー性、省燃費性などの特性の向上、並びに各潤滑油の長寿命化及び環境負荷物質の低減を高水準で達成することができるようになる。
本発明の潤滑油組成物においては、本発明の潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明の潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本発明の潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明の潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
本発明の潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば上記条件(i)〜(v)の一部又は全部を満たさない、溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。
また、合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
ポリα−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
また、本発明の潤滑油組成物は、必要に応じて各種添加剤を更に含有することができる。かかる添加剤としては、特に制限されず、潤滑油の分野で従来使用される任意の添加剤を配合することができる。かかる潤滑油添加剤としては、具体的には、酸化防止剤、無灰分散剤、金属系清浄剤、極圧剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、油性剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、シール膨潤剤、消泡剤、着色剤などが挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、本発明の潤滑油組成物が流動点降下剤を含有する場合、本発明の潤滑油基油による流動点降下剤の添加効果が最大限に発揮されるため、優れた低温粘度特性を達成することができる。この場合、流動点降下剤の配合量は、組成物全量基準で0.05〜2質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%である。流動点降下剤としては、その重量平均分子量は好ましくは1〜30万、より好ましくは5〜20万のものが特に好ましく、さらに流動点降下剤としては、ポリメタアクリレート系のものが特に好ましい。
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1においては、まず、溶剤精製基油を精製する工程において減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。溶剤脱ろうの際に除去され、スラックワックスとして得られたワックス分(以下、「WAX1」という。)を、潤滑油基油の原料油として用いた。WAX1の性状を表1に示す。
次に、WAX1を原料油とし、水素化処理触媒を用いて水素化処理を行った。このとき、原料油の分解率が5質量%以上かつ、被処理油の硫黄分が10質量ppm以下となるように反応温度および液空間速度を調整した。なお、「原料油の分解率が5質量%以上」とは、被処理油において、原料油の初留点よりも軽質となる留分の割合が原料油全量に対し5質量%以上であることを意味し、ガスクロ蒸留にて確認される。
次に、上記の水素化処理により得られた被処理物について、貴金属含有量0.1〜5重量%に調整されたゼオライト系水素化脱ロウ触媒を用い、315℃〜325℃の温度範囲で水素化脱ロウを行った。
更に、上記の水素化脱ロウにより得られた被処理物(ラフィネート)について、水素化生成触媒を用いて水素化精製を行った。その後蒸留により軽質分および重質分を分離して、表4に示す組成及び性状を有する潤滑油基油を得た。なお、表4中、「尿素アダクト物中のノルマルパラフィン由来成分の割合」は、尿素アダクト値の測定の際に得られた尿素アダクト物についてガスクロマトグラフィー分析を実施することによって得られたものである(以下、同様である。)。
[実施例2]
実施例2においては、パラフィン含量が95質量%であり、20から80までの炭素数分布を有するFTワックス(以下、「WAX2」という。)を用いた。WAX2の性状を表2に示す。
次に、WAX1の代わりにWAX2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水素化処理、水素化脱ロウ、水素化精製及び蒸留を行い、表4に示す組成及び性状を有する潤滑油基油を得た。
[実施例3]
実施例3においては、WAX1をさらに脱油して得られたワックス分(以下、「WAX3」という。)を、潤滑油基油の原料として用いた。WAX3の性状を表3に示す。
次に、WAX1の代わりにWAX3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水素化処理、水素化脱ロウ、水素化精製及び蒸留を行い、表4に示す組成及び性状を有する潤滑油基油を得た。
[実施例4]
実施例1における水素化脱ロウ反応温度を300℃以上315℃未満に変更した以外は実施例1と同様にして、表5に示す組成及び性状を有する潤滑油基油を製造した。
[実施例5]
実施例2における水素化脱ロウ反応温度を300℃以上315℃未満に変更した以外は実施例2と同様にして、表5に示す組成及び性状を有する潤滑油基油を製造した。
[実施例6]
実施例3における水素化脱ロウ反応温度を300℃以上315℃未満に変更した以外は実施例3と同様にして、表5に示す組成及び性状を有する潤滑油基油を製造した。
[比較例1]
WAX1を用いて得られる従来の潤滑油基油として、表6に示す組成及び性状を有する潤滑油基油を用意した。