前述のように、本発明は、混合燃料によって作動する内燃機関において、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を向上することを可能とする内燃機関の制御装置を提供することを1つの目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、燃焼室内における混合燃料の気化量を正確に把握し、燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる要求気化量に対して当該気化量が不足する場合は混合燃料の噴射量及び/又は点火時期を制御して燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加させ、要求気化量に対して当該気化量が過剰である場合は混合燃料の噴射量及び/又は点火時期を制御して燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減少させることにより、混合燃料によって作動する内燃機関において、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を向上することが可能であることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。
即ち、本発明の第1の実施態様は、
第1燃料成分と当該第1燃料成分の沸点よりも高い沸点を有する第2燃料成分とを含んでなる混合燃料によって作動し、且つ、前記混合燃料を燃焼室内に直接噴射する噴射手段と、前記燃焼室内の前記混合燃料に点火する点火手段とを備える内燃機関を制御する、内燃機関の制御装置であって、
前記燃焼室内における前記第1燃料成分の気化量及び前記第2燃料成分の気化量を検出又は推定する気化量検出手段を備え、
前記燃焼室内における前記混合燃料の点火に必要とされる要求気化量を前記気化量検出手段によって検出又は推定される前記混合燃料の気化量から減算することによって得られる余剰気化量が予め定められた第1閾値未満である場合は、前記噴射手段及び前記点火手段の両方又は何れか一方を制御して、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を増加させ、
前記余剰気化量が前記第1閾値よりも大きい予め定められた第2閾値以上である場合は、前記噴射手段及び前記点火手段の両方又は何れか一方を制御して、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる、
内燃機関の制御装置である。
上記のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、第1燃料成分と当該第1燃料成分の沸点よりも高い沸点を有する第2燃料成分とを含んでなる混合燃料によって作動し、且つ、前記混合燃料を燃焼室内に直接噴射する噴射手段と、前記燃焼室内の前記混合燃料に点火する点火手段とを備える内燃機関を制御する、内燃機関の制御装置である。即ち、本実施態様に係る内燃機関の制御装置が適用される内燃機関は、火花点火式の直噴内燃機関である。火花点火式の直噴内燃機関の構成については、当業者に周知であるので、本明細書においては特に説明はしない。
上記混合燃料は、上記内燃機関を作動させることが可能であり且つ第1燃料成分の沸点が第2燃料成分の沸点よりも高いという条件を満たす限り特に限定されず、如何なる燃料成分の組み合わせであってもよい。かかる混合燃料の例としては、例えば、第1燃料成分としてのガソリンと第2燃料成分としてのアルコールとの組み合わせを挙げることができる。かかる混合燃料のより具体的な例としては、例えば、第1燃料成分としてのガソリンと第2燃料成分としてのエタノール(エチルアルコール)との組み合わせを挙げることができる。尚、上記混合燃料は、上記燃料成分の他に、少量の添加剤等を含んでいてもよい。
上記のように、第2燃料成分(例えば、エタノール)の沸点は、第1燃料成分(例えば、ガソリン)の沸点よりも高い。換言すれば、第2燃料成分(例えば、エタノール)は、第1燃料成分(例えば、ガソリン)よりも、低温での蒸発特性が悪い。従って、第1燃料成分のみを含んでなる燃料を使用する場合と比較して、第1燃料成分と第2燃料成分とを含んでなる混合燃料を使用する場合の方が、機関温度が低い条件(例えば、冷間始動時等)における内燃機関の始動性が悪くなる傾向がある。
そこで、当該技術分野においては、前述のように、混合燃料(例えば、エタノール混合ガソリン)中の高沸点燃料成分(例えば、エタノール)の含有率に応じて混合燃料の噴射時期を調整し、圧縮行程上死点付近の高温・高圧となった燃焼室内に燃料を噴射(筒内直接噴射)することによって混合燃料の気化を促進して、内燃機関の始動性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。かかる内燃機関においても、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を確実に向上させるためには、燃焼室内における混合燃料(第1燃料成分及び第2燃料成分)の気化量を正確に把握して、内燃機関を始動させるのに必要最低限の量の燃料が燃焼室に供給されるように制御することが重要である。
しかしながら、前述のように、混合燃料によって作動する従来技術に係る内燃機関においては、燃焼室内における混合燃料(第1燃料成分及び第2燃料成分)の気化量ではなく、気化する前の混合燃料(例えば、燃料タンク内に貯蔵されている混合燃料)における高沸点燃料成分(例えば、エタノール)の含有率に基づいて燃料噴射量の制御が行われる。つまり、混合燃料によって作動する従来技術に係る内燃機関においては、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の量(気化量)を正確に把握して、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を確実に向上させることは実現できていない。
一方、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の燃焼室内における第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する気化量検出手段を備える。気化量検出手段は、内燃機関の燃焼室内における第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定することが可能である限り特に限定されず、如何なる構成を有する検出手段であってもよい。かかる気化量検出手段の具体例としては、例えば、燃焼室内の混合ガスの光透過率(例えば、赤外線透過率等)に基づいて第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する手段、燃焼室内の圧力(筒内圧)に基づいて第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する手段等を挙げることができる(気化量検出手段の詳細については後述する)。
かかる気化量検出手段を備える本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる要求気化量を気化量検出手段によって検出又は推定される混合燃料の気化量(以降、「検出気化量」と称する場合がある)から減算することによって得られる余剰気化量が予め定められた第1閾値未満である場合は、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加させる。逆に、余剰気化量が第1閾値よりも大きい予め定められた第2閾値以上である場合は、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる。これにより、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の量(気化量)を正確に把握して、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を確実に向上させることができる。
上記要求気化量は、例えば、内燃機関の温度、気化した混合燃料における第2燃料成分の含有率等と燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる混合燃料の気化量との関係を、例えば、実験、シュミレーション等によって予め求め、これらの対応関係を規定するデータテーブル(例えば、マップ)等として、例えば、燃料の噴射を制御する制御装置(例えば、内燃機関を制御するためのECU等)が備えるデータ記憶手段に格納しておき、上記余剰気化量を算出する際に、例えば、内燃機関の温度、気化した混合燃料における第2燃料成分の含有率等に対応する、燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる混合燃料の気化量を当該データテーブルから読み出すことによって、特定することができる。尚、余剰気化量は、上述したように、燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる要求気化量を検出気化量から減算することによって得ることができる。
本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、上述したように、要求気化量を検出気化量から減算することによって得られる余剰気化量が予め定められた第1閾値未満である場合は、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加させる。即ち、換言すれば、第1閾値は、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加させるか否かを判定するための基準である。一般的には、燃焼室内において検出される混合燃料の気化量(検出気化量)が点火に必要とされる気化量(要求気化量)よりも小さい(要求気化量に対して検出気化量が不足)場合に、内燃機関の始動性を向上させるためには、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加させる必要がある。従って、一般的には、第1閾値は、負の値とすることができる。第1閾値の具体的な値は、例えば、内燃機関における始動性の向上の程度とエミッション及び燃費の悪化の程度とのバランス等を考慮して、適宜設定することができる。
一方、余剰気化量が第1閾値よりも大きい予め定められた第2閾値以上である場合は、上述したように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる。即ち、換言すれば、第2閾値は、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減少させるか否かを判定するための基準である。一般的には、燃焼室内において検出される混合燃料の気化量(検出気化量)が点火に必要とされる気化量(要求気化量)よりも大きい(要求気化量に対して検出気化量が過剰)場合に、内燃機関のエミッション及び燃費の悪化を抑制するためには、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる必要がある。従って、一般的には、第2閾値は、正の値とすることができる。第2閾値の具体的な値は、例えば、内燃機関における始動性の向上の程度とエミッション及び燃費の悪化の程度とのバランス等を考慮して、適宜設定することができる。
尚、前述のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加又は減少させる。具体的には、例えば、噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料を増量又は減量したり、点火手段による点火時期を遅角又は進角させて混合燃料の噴射から点火までの期間を延長又は短縮したりすることにより、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加又は減少させることができる。また、噴射手段による混合燃料の噴射量の増量又は減量の程度及び点火手段による点火時期の遅角又は進角の程度は、例えば、余剰気化量の大きさ、余剰気化量と閾値(第1閾値又は第2閾値)との差の大きさ等に応じて適宜定めることができる。
以上のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる混合燃料の気化量(要求気化量)に対して、気化量検出手段によって検出又は推定される混合燃料の気化量(内燃機関の作動に実際に寄与する混合燃料の気化量)(検出気化量)がある程度を超えて不足となる場合(余剰気化量が第1閾値よりも小さい場合)は、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加させ、逆に、要求気化量に対して検出気化量がある程度を超えて過剰となる場合(余剰気化量が第2閾値よりも大きい場合)は、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる。
上記により、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、前述のように、気化する前の混合燃料(例えば、燃料タンク内に貯蔵されている混合燃料)における高沸点燃料成分(例えば、エタノール)と低沸点燃料成分(例えば、ガソリン)との混合比に基づいて燃料噴射量の制御を行う従来技術に係る内燃機関とは異なり、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の量(気化量)に基づいて燃焼室内における混合燃料の気化量を正確に制御することができる。その結果、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性をより確実に向上することができる。
ここで、本実施態様に係る内燃機関の制御装置につき、添付図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。図1は、前述のように、本発明の1つの実施態様に係る内燃機関の制御装置の構成の一例を説明する模式図である。図1に示す実施態様に係る内燃機関の制御装置が適用される内燃機関10は、ピストン往復動型の内燃機関であり、吸気弁及び燃料噴射弁(筒内噴射弁)11等が以下に述べるように構成されている。
吸気弁は、少なくとも傘部を有する一般的な吸気弁である。この吸気弁は、一般的な吸気弁と同様に駆動される。より具体的には、傘部は吸気ポート開口を開閉する。吸気ポート開口は、「ピストンの頂面、シリンダボアの壁面、及びシリンダヘッドの下面」によって画定される燃焼室と、そのシリンダヘッドに形成された吸気ポートと、を連通するように「燃焼室を画定するシリンダヘッドの下面」に形成された開口(即ち、燃焼室に臨む吸気ポートの端部)である。
この吸気弁は、傘部が吸気ポート開口の周囲に形成された弁座部に着座しているとき、即ち、傘部の移動量(吸気弁の移動量)であるリフト量が「0」となっているとき、吸気ポート開口を閉じる。更に、この吸気弁は、傘部が燃焼室内に突出するように移動させられる。リフト量は、「0」から「最大リフト量」となるまで増大し、その後、「最大リフト量」から「0」となるまで減少する。このリフト量が「0」でない期間、即ち、傘部が弁座部から離れている期間である「吸気弁開弁期間」において、傘部は吸気ポート開口を開く。
燃料噴射弁11は、前記燃焼室に露呈した噴孔を有している。燃料噴射弁11は、噴射指示信号に応答して開弁することにより、噴孔から燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁である。燃料噴射弁11は、前記シリンダボアの中心軸線を含む一つの特定の平面に交差する向きであり且つ前記シリンダヘッドの下面から前記ピストンの頂面に向かう方向の成分を有する向きである燃料噴射方向に燃料を噴射するようになっている。
この燃料噴射弁11には、燃料供給通路が連通しており、この燃料供給通路を介して、燃料供給通路の途中に配設された燃料ポンプ15によって、燃料タンク16(図示せず)から燃料が供給される。尚、燃料供給通路には、燃料ポンプ15に加えて、燃料タンク16から供給される混合燃料における第1燃料成分と第2燃料成分との混合比を検出する燃料性状センサ24、燃料ポンプ15から燃料噴射弁11に供給される燃料の圧力を検出する燃料圧センサ28が配設されている。
また、吸気ポートには、吸気系統が連通しており、この吸気系統は、吸気ポートに連通し吸気ポートと共に吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管、吸気管の端部に設けられたエアフィルタ(図示せず)、吸気管内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁14、スロットル弁駆動手段を構成するDCモータからなるスロットル弁アクチュエータ(図示せず)、吸気管内の圧力を検出する吸気管圧力センサ22、及び吸気温度を検出する吸気温度センサ23を備えている。
一方、排気ポートには、排気系統が連通しており、この排気系統は、排気ポートに連通し、エキゾーストマニホールド、エキゾーストマニホールドに接続されたエキゾーストパイプ(排気管)(図示せず)、排気ガス浄化触媒(例えば、上流側の三元触媒及び下流側の三元触媒)(図示せず)を備えている。排気ポート、エキゾーストマニホールド、及びエキゾーストパイプ(図示せず)は、排気通路を構成している。また、排気ポートには、排気温度を検出する排気温度センサが配設されている。
更に、内燃機関10は、燃焼室内における混合燃料に点火するための点火手段としての点火プラグ(点火栓)12及び点火プラグ12に与える高電圧を発生する点火コイル13を備えている。この点火プラグ12の脇には、混合燃料を構成する第1燃料成分及び第2燃料成分の燃焼室内における気化量を検出する気化成分量センサ27が配設されている。加えて、内燃機関10は、クランクの回転角を検出する回転角センサ21及び内燃機関10の冷却水の温度を検出するエンジン水温センサ25を備えている。
電子制御装置(ECU)20は、例えば、互いにバスで接続された中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、CPUが実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)及び定数等を予め記憶したデータ記憶手段(例えば、ROM:Read Only Memory)、CPUが必要に応じてデータを一時的に格納するンダムアクセス記憶装置(RAM:Random Access Memory)、電源が投入された状態でデータを格納すると共に格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM、並びにADコンバータを含むインターフェース等(何れも図示せず)からなるマイクロコンピュータである。
上記インターフェースは、上述した各種センサからの信号をCPUに供給するように構成されている。更に、インターフェースは、CPUの指示に応じて各気筒の吸気弁駆動装置及びスロットル弁アクチュエータ(何れも図示せず)等に駆動信号を送出し、各気筒の燃料噴射弁11に噴射指示信号を送出し、各気筒のイグナイタ(図示せず)に点火信号を送出するように構成されている。
上記のように、図1に示す実施態様に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関10の燃焼室内における混合燃料の気化量(即ち、混合燃料を構成する第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量)を検出する気化成分量センサ27を備える。これにより、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、内燃機関10の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の量(気化量)を正確に把握することができるので、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を確実に向上させることができる。
具体的には、図1に示す実施態様に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関10の燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる要求気化量をECU20が備えるデータ記憶手段から読み出し、気化量検出手段としての気化成分量センサ27によって検出される混合燃料の気化量から当該要求気化量を減算することによって余剰気化量を算出する。かかる演算処理は、例えば、ECU20が備えるデータ記憶手段に予め記憶されたプログラムに従って、CPUに実行させることができる。
次に、上記のようにして得られた余剰気化量が予め定められた第1閾値未満である場合は、噴射手段としての燃料噴射弁11及び点火手段としての点火プラグ12の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加させる。一方、余剰気化量が第1閾値よりも大きい予め定められた第2閾値以上である場合は、噴射手段としての燃料噴射弁11及び点火手段としての点火プラグ12の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる。
以上により、図1に示す実施態様に係る内燃機関の制御装置は、気化する前の混合燃料(例えば、燃料タンク内に貯蔵されている混合燃料)における高沸点燃料成分(例えば、エタノール)と低沸点燃料成分(例えば、ガソリン)との混合比に基づいて燃料噴射量の制御を行う従来技術に係る内燃機関とは異なり、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の量(気化量)に基づいて燃焼室内における混合燃料の気化量を正確に制御することができる。その結果、図1に示す実施態様に係る内燃機関の制御装置は、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性をより確実に向上することができる。
尚、気化成分量センサ27の具体的な構成としては、前述のように、例えば、燃焼室内の混合ガスの光透過率(例えば、赤外線透過率等)に基づいて第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する構成、燃焼室内の圧力(筒内圧)に基づいて第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する構成等を挙げることができる(気化量検出手段の詳細については後述する)。
また、上記においては、本発明についての理解を容易にするために、内燃機関10の燃焼室内における混合燃料の気化量(即ち、混合燃料を構成する第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量)を気化成分量センサ27による検出結果のみに基づいて特定する実施態様に関して説明したが、気化成分量センサ27のように燃焼室内における混合燃料の気化量を検出又は推定する気化量検出手段による検出結果のみならず、例えば燃料性状センサ24等の他の検出手段による検出結果をも利用して、燃焼室内における混合燃料の気化量(即ち、混合燃料を構成する第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量)を検出又は推定してもよい。
以上のように、本発明の1つの実施態様に係る内燃機関の制御装置の構成につき、図1を参照しながら説明してきたが、図1はあくまでも本発明の1つの実施態様に係る内燃機関の制御装置に関する理解を容易にする目的で示されるものであり、図1に示した構成は、本発明の1つの実施態様に係る内燃機関の制御装置の構成の例示的な一例に過ぎない。従って、本実施態様に係る内燃機関の制御装置の構成が図1に示した構成に限定されると解釈されるべきではない。
ところで、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、上述のように、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を調節する。即ち、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、噴射手段及び点火手段の両方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を調節してもよく、あるいは、噴射手段及び点火手段の何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を調節してもよい。
噴射手段を制御して燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増量する場合、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、例えば、噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料を増量することにより、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増量することができる。
即ち、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る内燃機関の制御装置であって、
前記余剰気化量が前記第1閾値未満である場合に、前記噴射手段によって前記燃焼室内に噴射される前記混合燃料を増量することにより、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を増加させる、
内燃機関の制御装置である。
上記のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、前記余剰気化量が前記第1閾値未満である場合に、前記噴射手段によって前記燃焼室内に噴射される前記混合燃料を増量することにより、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を増加させる。これにより、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、要求気化量に対して検出気化量がある程度を超えて不足となる場合に、燃焼室内における混合燃料の気化量を増量することができる。その結果、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性をより確実に向上することができる。
尚、噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料を増量する手法は特に限定されず、例えば、噴射手段による噴射期間の延長、噴射手段の噴射ノズルの開度の拡大、混合燃料の噴射圧の上昇等により、噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料を増量することができる。
逆に、噴射手段を制御して燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減量する場合、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、例えば、噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料を減量することにより、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減量することができる。
即ち、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る内燃機関の制御装置であって、
前記余剰気化量が前記第2閾値以上である場合に、前記噴射手段によって前記燃焼室内に噴射される前記混合燃料を減量することにより、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる、
内燃機関の制御装置である。
上記のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、前記余剰気化量が前記第2閾値以上である場合に、前記噴射手段によって前記燃焼室内に噴射される前記混合燃料を減量することにより、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる。これにより、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、要求気化量に対して検出気化量がある程度を超えて過剰となる場合に、燃焼室内における混合燃料の気化量を減量することができる。その結果、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、始動性を確保しつつ、エミッション及び燃費の悪化を抑制することができる。
尚、噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料を減量する手法は特に限定されず、例えば、噴射手段による噴射期間の短縮、噴射手段の噴射ノズルの開度の縮小、混合燃料の噴射圧の低下等により、噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料を減量することができる。
ところで、前述のように、当該技術分野においては、混合燃料(例えば、エタノール混合ガソリン)中の高沸点燃料成分(例えば、エタノール)の含有率に応じて混合燃料の噴射時期を調整し、圧縮行程上死点付近の高温・高圧となった燃焼室内に燃料を噴射(筒内直接噴射)することによって混合燃料の気化を促進して、内燃機関の始動性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このように圧縮行程において燃焼室内に燃料を噴射(圧縮行程筒内直接噴射)する場合、例えば、噴射時期を遅角させたり、1サイクル当たりに少なくとも2回以上に分けて混合燃料を噴射(分割噴射)したりすることによって、混合燃料の気化を更に促進することができる。
ここで、上記につき、添付図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。図2は、前述のように、圧縮行程筒内直接噴射における燃料の噴射様式による発生トルクの違いを表すグラフである。図2において、圧縮行程筒内直接噴射として標準的なタイミングにて筒内噴射を行った場合における燃料の噴射量と内燃機関の1サイクル当たりに発生するトルクとの対応関係を黒い丸印で表す。これに対し、圧縮行程筒内直接噴射として標準的なタイミングよりも20°遅角させたタイミングにて筒内噴射を行った場合においては、黒い四角印で表されるように、燃料の噴射量と内燃機関の1サイクル当たりに発生するトルクとの対応関係が高トルク側にシフトし、燃料の噴射量の変化に対するトルクの変化率(即ち、グラフの傾き)もより大きくなっている。更に、圧縮行程筒内直接噴射として標準的なタイミングと、標準的なタイミングよりも20°遅角させたタイミングと、の2回に燃料噴射を分けて実施する筒内噴射を行った場合においては、白抜きの四角印で表されるように、燃料の噴射量と内燃機関の1サイクル当たりに発生するトルクとの対応関係が更に高トルク側にシフトし、燃料の噴射量の変化に対するトルクの変化率(即ち、グラフの傾き)もより一層大きくなっている。
上記のように、圧縮行程筒内直接噴射においては、噴射時期の遅角又は分割噴射によって燃料の気化が促進され、より少ない量の燃料にて、より高いトルクを発生させることができる。その結果、圧縮行程筒内直接噴射において噴射時期の遅角又は分割噴射を行うことにより、同じトルクを発生させようとする際の要求噴射量を低減することができる。
尚、上記のように圧縮行程筒内直接噴射において噴射時期を遅角させることによって混合燃料の気化が更に促進されるのは、例えば、噴射時期の遅角により燃料噴射時における燃焼室内の圧力及び温度がより高くなること等が原因であると考えられる。特に、混合燃料における高沸点燃料成分(第2原料成分)が(例えば、分子構造中に)酸素を含有する燃料(含酸素燃料)である場合、上記のように噴射時期を遅角させても拡散燃焼によって燃料を燃焼させることができるので、当該傾向がより顕著である。また、上記のように圧縮行程筒内直接噴射において燃料を複数回に分割して噴射すること(分割噴射)によって混合燃料の気化が更に促進されるのは、例えば、分割噴射におけるある噴射によって燃焼室内に噴射された燃料が次の噴射までの期間に拡散して、次の噴射によって燃料が噴射される空間領域における燃料濃度が低下すること等が原因であると考えられる。
このように、燃焼室内における燃料の点火の時点での気化量は、燃焼室内への燃料の噴射量のみならず、燃料噴射時の燃焼室内の圧力及び温度、並びに噴射様式(例えば、分割噴射、一括噴射等)によって変動する。従って、かかる観点からも、混合燃料によって作動する内燃機関において、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を向上するという本発明の目的を達成するには、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の量(気化量)を正確に把握することが重要であることが解る。
ところで、上記のように分割噴射を行う場合、例えば、分割噴射における1回目の噴射後の燃焼室内における混合燃料の気化量(即ち、混合燃料を構成する第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量)に基づいて分割噴射における2回目以降の噴射量を調節することにより、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の総量をより正確に制御することができる。
例えば、上記のように分割噴射を行う場合において、分割噴射における1回目の噴射後の燃焼室内における混合燃料の気化量(即ち、混合燃料を構成する第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量)を気化量検出手段によって検出又は推定し、斯くして得られた気化量を(検出気化量)から、当該1回目の噴射後の燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる要求気化量を減算することにより、当該1回目の噴射後の燃焼室内における混合燃料の余剰気化量を算出することができる。斯くして得られた余剰気化量が予め定められた第1閾値未満である場合は、噴射手段を制御して2回目以降の混合燃料の噴射量を増量し、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の総量を増加させることができる。逆に、上記余剰気化量が上記第1閾値よりも大きい予め定められた第2閾値以上である場合は、噴射手段を制御して2回目以降の混合燃料の噴射量を減量し、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の総量を減少させることができる。
即ち、本発明の第4の実施態様は、
本発明の前記第2の実施態様に係る内燃機関の制御装置であって、
1サイクル当たり少なくとも2回以上に分けて燃料を噴射する分割噴射を前記噴射手段に実行させ、且つ
前記噴射手段によって実行される前記分割噴射の1回目の噴射後であって2回目の噴射の前の時点での前記燃焼室内における前記余剰気化量が前記第1閾値未満である場合に、前記分割噴射の2回目以降の噴射において前記燃焼室内に噴射される前記混合燃料を増量することにより、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を増加させる、
内燃機関の制御装置である。
また、本発明の第5の実施態様は、
本発明の前記第3の実施態様に係る内燃機関の制御装置であって、
1サイクル当たり少なくとも2回以上に分けて燃料を噴射する分割噴射を前記噴射手段に実行させ、且つ
前記噴射手段によって実行される前記分割噴射の1回目の噴射後であって2回目の噴射の前の時点での前記燃焼室内における前記余剰気化量が前記第2閾値以上である場合に、前記分割噴射の2回目以降の噴射において前記燃焼室内に噴射される前記混合燃料を減量することにより、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる、
内燃機関の制御装置である。
ところで、火花点火式の内燃機関においては、圧縮上死点の後に点火が実行されるのが一般的である。しかしながら、例えば、高沸点燃料成分を含む混合燃料(例えば、アルコール混合燃料)を使用する場合、機関温度が低い場合(例えば、冷間始動時等)等においては、燃料の気化が不十分であり、燃料が着火するまでに要する期間が長くなるため、上死点(TDC)の前まで点火時期を進角しても適正なタイミングにて着火が起こり、十分なトルクを発生させルことができる場合がある。
ここで、上記につき、添付図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。図3は、前述のように、圧縮行程筒内直接噴射における燃料の点火時期による発生トルクの違いを表すグラフである。図3において、圧縮行程筒内直接噴射として標準的なタイミングにて点火した場合(即ち、TDC後点火)における燃料の噴射量と内燃機関の1サイクル当たりに発生するトルクとの対応関係を黒い菱形印で表す。これに対し、圧縮行程筒内直接噴射として標準的なタイミングよりも5°進角させたタイミングにて点火した場合(TDC前点火)においては、白抜きの菱形印で表されるように、燃料の噴射量と内燃機関の1サイクル当たりに発生するトルクとの対応関係が高トルク側にシフトしている。更に、圧縮行程筒内直接噴射として標準的なタイミングよりも10°進角させたタイミングにて点火した場合(TDC前点火)においては、白抜きの三角印で表されるように、燃料の噴射量と内燃機関の1サイクル当たりに発生するトルクとの対応関係が更に高トルク側にシフト(図中の矢印を参照)している。
上記のように、圧縮行程筒内直接噴射においては、点火時期の進角に伴い、より少ない量の燃料にて、より高いトルクを発生させることができる。その結果、圧縮行程筒内直接噴射において点火時期を進角させることにより、同じトルクを発生させようとする際の要求噴射量を低減することができる。一方、上記とは逆に、点火時期を遅角させることにより、燃焼室内における燃料の着火を容易にすることもできる。これは、点火手段による点火時期を遅角させることにより、混合燃料の噴射から点火までの期間が延長され、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量が増えることに起因するものと考えられる。このように、燃焼室内における燃料の点火の時点での気化量は、点火手段による点火時期によっても変動することが解る。
ところで、これまで説明してきた幾つかの実施態様においては、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増量又は減量する方法として、噴射手段を制御して、噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料を増量又は減量する方法を採用している。しかしながら、前述したように、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増量又は減量する方法は、これらの実施態様のように噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料を増量又は減量する方法に限定されない。
具体的には、上述したように、本発明に係る内燃機関の制御装置においては、例えば、点火手段による点火時期を遅角又は進角させて混合燃料の噴射から点火までの期間を延長又は短縮したりすることにより、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加又は減少させることができる。この場合、点火手段による点火時期の遅角又は進角の程度は、例えば、余剰気化量の大きさ、余剰気化量と閾値(第1閾値又は第2閾値)との差の大きさ等に応じて適宜定めることができる。
即ち、本発明の第6の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る内燃機関の制御装置であって、
前記余剰気化量が前記第1閾値未満である場合に、前記点火手段によって前記燃焼室内の前記混合燃料に点火する点火時期を遅角させることにより、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を増加させる、
内燃機関の制御装置である。
また、本発明の第7の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る内燃機関の制御装置であって、
前記余剰気化量が前記第2閾値以上である場合に、前記点火手段によって前記燃焼室内の前記混合燃料に点火する点火時期を進角させることにより、前記燃焼室内における前記混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる、
内燃機関の制御装置である。
ところで、これまで説明してきた幾つかの実施態様に係る内燃機関の制御装置は、余剰気化量が第1閾値未満である(要求気化量に対して検出気化量がある程度を超えて不足となる)場合又は余剰気化量が第2閾値以上である(要求気化量に対して検出気化量がある程度を超えて過剰となる)場合において、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増量又は減量することにより、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を向上させている。かかる実施態様の変形例として、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増量又は減量することに加えて、燃焼室内において混合燃料に点火する際の火花放電のエネルギーを増加又は減少させることにより、燃焼室内における混合燃料の着火性を制御して、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を向上させることもできる。
即ち、本発明の第8の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る内燃機関の制御装置であって、
前記点火手段が、電極間における火花放電によって前記混合燃料に点火する火花点火式の点火プラグであり、
前記余剰気化量が前記第1閾値未満である場合に、前記点火手段によって前記燃焼室内の前記混合燃料に点火する際の火花放電のエネルギーを増加させることにより、前記燃焼室内において燃焼する前記混合燃料の量を増加させる、
内燃機関の制御装置である。
また、本発明の第9の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る内燃機関の制御装置であって、
前記点火手段が、電極間における火花放電によって前記混合燃料に点火する火花点火式の点火プラグであり、
前記余剰気化量が前記第2閾値以上である場合に、前記点火手段によって前記燃焼室内の前記混合燃料に点火する際の火花放電のエネルギーを減少させることにより、前記燃焼室内において燃焼する前記混合燃料の量を減少させる、
内燃機関の制御装置である。
上記のように、これらの実施態様に係る内燃機関の制御装置は、電極間における火花放電によって混合燃料に点火する火花点火式の点火プラグを、点火手段として備える。加えて、これらの実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、余剰気化量が第1閾値未満である場合又は余剰気化量が前記第2閾値以上である場合は、点火手段としての点火プラグによって燃焼室内の混合燃料に点火する際の火花放電のエネルギーを増加又は減少させることにより、燃焼室内において燃焼する混合燃料の量を増加又は減少させることができる。これにより、これらの実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性をより確実に向上させることができる。
ところで、前述のように、本発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の燃焼室内における第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する気化量検出手段を備える。この気化量検出手段は、内燃機関の燃焼室内における第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定することが可能である限り特に限定されず、如何なる構成を有する検出手段であってもよい。かかる気化量検出手段としては、例えば、燃焼室内の混合ガスの光透過率(例えば、赤外線透過率等)に基づいて第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する手段を挙げることができる。
具体的には、燃焼室内の混合ガスの光透過率に基づいて第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する手段を気化量検出手段として採用する場合、かかる気化量検出手段としては、燃焼室内の混合ガスの少なくとも2つ以上の波長における光透過率を計測し、斯くして計測される(それぞれの波長における)光透過率に基づいて、燃焼室内における第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を推定することができる。
即ち、本発明の第10の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第9の実施態様の何れか1つに係る内燃機関の制御装置であって、
前記気化量検出手段が、前記燃焼室内の混合ガスの少なくとも2つ以上の波長における光透過率を計測し、斯くして計測される光透過率に基づいて、前記燃焼室内における前記第1燃料成分の気化量及び前記第2燃料成分の気化量を推定する、
内燃機関の制御装置である。
上記のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、前記気化量検出手段が、前記燃焼室内の混合ガスの少なくとも2つ以上の波長における光透過率を計測し、斯くして計測される光透過率に基づいて、前記燃焼室内における前記第1燃料成分の気化量及び前記第2燃料成分の気化量を推定する。より詳しくは、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、燃焼室内の混合ガスの少なくとも2つ以上の波長における光透過率を気化量検出手段によって計測する。
一方、混合燃料を構成する第1燃料成分及び第2燃料成分のそれぞれの波長における吸光係数を、例えば、実験等により、事前に求めておく。そして、それぞれの波長における光透過率、第1燃料成分及び第2燃料成分の吸光係数、並びに光透過率の計測に使用する光が透過する距離を、例えば、ランベルト・ベールの法則(Lambert−Beer law)に当てはめることにより、第1燃料成分及び第2燃料成分のそれぞれの濃度を算出することができる(例えば、特許文献2を参照)。これにより、本実施態様に係る内燃機関の制御装置によれば、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の量(気化量)を正確に把握することができるので、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を確実に向上させることができる。
ここで、第1燃料成分としてのガソリンと第2燃料成分としてのエタノールとを混合して得られるエタノール混合ガソリンについて、ガソリン及びエタノールの濃度を上記方法によって求める手順につき、添付図面を参照しながら以下に説明する。図4は、前述のように、気化したガソリン、エタノール、及びエタノール混合ガソリンのモル濃度と、異なる2つの波長における赤外線透過率との関係を表すグラフである。即ち、図4に示す例においては、光透過率の計測に使用する光として、赤外線を使用している。また、図4において、ガソリン(100%)の場合の気化モル濃度と赤外線透過率との対応関係を四角印で表し、エタノール(100%)の場合の気化モル濃度と赤外線透過率との対応関係を丸印で表し、エタノール混合ガソリン(20/80)の場合の気化モル濃度と赤外線透過率との対応関係を三角印で表す。また、黒塗りのプロットは2.7μm帯における赤外線透過率を表し、白抜きのプロットは3.4μm帯における赤外線透過率を表す。
図4に示すように、何れの波長帯においても、気化モル濃度の上昇に伴って赤外線透過率が低下する傾向が見られた。また、気化したガソリン、エタノール、及びエタノール混合ガソリンの何れにおいても、2.7μm帯における赤外線透過率と比較して、3.4μm帯における赤外線透過率の方がより低く、気化モル濃度の変化に対する変化率(気化モル濃度の上昇に対する赤外線透過率の低下率)が大きいことが認められた。
更に、2.7μm帯における赤外線透過率については、エタノールの気化モル濃度の変化に対する変化率(気化モル濃度の上昇に対する赤外線透過率の低下率)は、ガソリンの気化モル濃度の変化に対する変化率(気化モル濃度の上昇に対する赤外線透過率の低下率)と比較してより大きく、エタノール混合ガソリンはこれらの中間的な挙動を示している。これに対し、3.4μm帯における赤外線透過率については、エタノールの気化モル濃度の変化に対する変化率(気化モル濃度の上昇に対する赤外線透過率の低下率)は、ガソリンの気化モル濃度の変化に対する変化率(気化モル濃度の上昇に対する赤外線透過率の低下率)と比較してより小さく、エタノール混合ガソリンはこれらの中間的な挙動を示している。
以上より、気化したガソリン及びエタノールの何れにおいても、2.7μm帯におけるモル吸光係数よりも、3.4μm帯におけるモル吸光係数の方がより大きいことが判る。また、2.7μm帯においてはガソリンよりもエタノールの方がモル吸光係数がより大きく、3.4μm帯においてはガソリンよりもエタノールの方がモル吸光係数がより小さいことが判る。
上記のように、それぞれの波長帯における光透過率は、混合燃料におけるガソリンとエタノールとの配合比及び気化モル濃度を反映しており、例えば、前述のように、それぞれの波長帯におけるガソリン及びエタノールの吸光係数を実験等により事前に求めておき、実際に計測されたそれぞれの波長における光透過率、ガソリン及びエタノールの吸光係数、並びに光透過率の計測に使用する光が透過する距離をランベルト・ベールの法則に当てはめることにより、ガソリン及びエタノールのそれぞれの気化モル濃度を算出することができる
ここで、ガソリン及びエタノールのそれぞれの気化モル濃度を算出する手順の一例につき、以下に数式を示しながら更に説明する。先ず、計測の対象となる気体におけるガソリン及びエタノールのモル濃度をそれぞれCg及びCeとする。また、ガソリン及びエタノールの2.7μm帯におけるモル吸光係数をε(2.7,g)及びε(2.7,e)とし、3.4μm帯におけるモル吸光係数をε(3.4,g)及びε(3.4,e)とする。更に、2.7μm帯及び3.4μm帯において計測された赤外線透過率をそれぞれ(I/I0)(2.7)及び(I/I0)(3.4)とし、計測の対象となる気体を赤外線が透過する距離をLとする。このとき、ランベルト・ベールの法則に基づき、以下の式(1)が成立する。
上記式(1)における未知数は、計測の対象となる気体におけるガソリン及びエタノールのモル濃度(Cg及びCe)のみである。従って、上記式(1)に既知数を代入して得られる二元連立一次方程式を解くことにより、計測の対象となる気体におけるガソリン及びエタノールのモル濃度(Cg及びCe)を算出することができる。
尚、図4に示したように、2.7μm帯においては、ガソリンの気化モル濃度の変化に対する赤外線透過率の変化率(気化モル濃度の上昇に対する赤外線透過率の低下率)は、エタノールの気化モル濃度の変化に対する赤外線透過率の変化率(気化モル濃度の上昇に対する赤外線透過率の低下率)と比較して極めて小さく、実質的に0(ゼロ)であるとみなすこともできる。かかる場合は、ガソリンの2.7μm帯におけるモル吸光係数ε(2.7,g)を0(ゼロ)であるとみなすことにより、上記式(1)の第1式から、計測の対象となる気体におけるエタノールのモル濃度Ceを算出し、斯くして算出されたエタノールのモル濃度Ceを上記式(1)の第2式に代入して、計測の対象となる気体におけるガソリンのモル濃度Cgを算出してもよい。
ここで、本実施態様に係る内燃機関の制御装置が備える気化量検出手段を構成する光センサ(気化成分量センサ)(例えば、赤外線センサ)の実装形態の一例につき、添付図面を参照しながら、以下に説明する。図5は、前述のように、本発明の1つの実施態様に係る内燃機関の制御装置が備える気化量検出手段を構成する光センサの実装形態の一例を表す模式図である。図5に示す例においては、点火プラグの電極近傍における光透過率が計測されるように光センサが実装される。
具体的には、図5に示すように、光源から発した光(例えば、赤外線)は光ファイバを通して点火プラグの電極近傍に導かれる。そこで、当該光ファイバ(以降、「発光用光ファイバ」と称する場合がある)を通して導かれた光は、当該発光用光ファイバの光源とは反対側の端部から燃焼室内に放出される。一方、点火プラグの電極近傍には、上記「発光用光ファイバ」に加えて、発光用光ファイバの端部から燃焼室内に放出された光を受けて透過光強度を検出する受光ユニット(例えば、赤外線検出部)へと導くための別の光ファイバ(以降、「受光用光ファイバ」と称する場合がある)の端部が配設されている。尚、発光用光ファイバの光源とは反対側の端部から放出された光が発光用光ファイバの受光ユニットとは反対側の端部へと到達する行程は、上記式(1)についての説明における距離Lに対応する。図5においては、発光用光ファイバの端部から放出された光は、ミラーによって反射されて、受光用光ファイバの端部へと導かれる。
従って、図5に示す光センサによれば、内燃機関の燃焼室内に混合燃料が噴射される前に検出される光の透過強度に対する内燃機関の燃焼室内に混合燃料が噴射された後に検出される光の透過強度の比により、燃焼室内(具体的には、点火プラグの電極近傍)において気化している混合燃料の光透過率を求めることができる。尚、本実施態様に係る内燃機関の制御装置が備える気化量検出手段を構成する光センサの構成は、上記説明に限定されず、所望の波長帯における燃焼室内において気化している混合燃料の光透過率を求めることができる限り、如何なる構成であってもよい。更に、光透過率の計測に使用される光も赤外線に限定されず、例えば、紫外線、可視光等、他の波長領域に属する光を使用してもよい。
ところで、上述のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、燃焼室内の混合ガスの少なくとも2つ以上の波長における光透過率を計測し、斯くして計測される光透過率に基づいて、内燃機関の燃焼室内における、混合燃料を構成する第1燃料成分(例えば、ガソリン)の気化量及び第2燃料成分(例えば、エタノール)の気化量を算出する。しかしながら、このように燃焼室内における混合燃料の気化量を検出又は推定する気化量検出手段による検出結果のみならず、気化する前の混合燃料における第1燃料成分と第2燃料成分との混合比を検出する混合比検出手段(例えば、燃料タンクから供給される混合燃料における第1燃料成分と第2燃料成分との混合比を検出する燃料性状センサ等)による検出結果をも利用して、燃焼室内における混合燃料の気化量(即ち、混合燃料を構成する第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量)を検出又は推定してもよい。
即ち、本発明の第11の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第9の実施態様の何れか1つに係る内燃機関の制御装置であって、
前記燃焼室内に噴射される前の前記混合燃料における前記第1燃料成分及び前記第2燃料成分の混合比を検出又は推定する混合比検出手段を更に備え、
前記気化量検出手段が、前記燃焼室内の混合ガスの1つの波長における光透過率を計測し、
前記混合比検出手段によって検出又は推定される前記混合比及び前記気化量検出手段によって計測される前記光透過率に基づいて、前記燃焼室内における前記第1燃料成分の気化量及び前記第2燃料成分の気化量を推定する、
内燃機関の制御装置である。
上記のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、前記燃焼室内に噴射される前の前記混合燃料における前記第1燃料成分及び前記第2燃料成分の混合比を検出又は推定する混合比検出手段を更に備え、前記気化量検出手段が、前記燃焼室内の混合ガスの1つの波長における光透過率を計測し、前記混合比検出手段によって検出又は推定される前記混合比及び前記気化量検出手段によって計測される前記光透過率に基づいて、前記燃焼室内における前記第1燃料成分の気化量及び前記第2燃料成分の気化量を推定する。混合燃料によって作動する内燃機関においては、混合燃料における第1燃料成分と第2燃料成分との混合比を検出する混合比検出手段(例えば、燃料タンクから供給される混合燃料における第1燃料成分と第2燃料成分との混合比を検出する燃料性状センサ等)が、例えば、燃料タンク、燃料供給通路等に設けられていることが一般的である。尚、かかる燃料性状センサとしては、例えば、静電容量式のアルコールセンサ等を挙げることができる。
従って、本実施態様に係る内燃機関の制御装置が備える気化量検出手段としては、燃焼室内の混合ガスの1つの波長における光透過率を計測することができる気化量検出手段を設ければ十分であるので、本実施態様に係る内燃機関の制御装置においては、例えば、構成の複雑化、製造コストの増大等の問題を抑制しつつ、内燃機関の作動に実際に寄与する気化した混合燃料の量(気化量)を正確に把握して、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を確実に向上させることができる。
ここで、燃焼室内の混合ガスの1つの波長における光透過率と、噴射前の混合燃料における第1燃料成分と第2燃料成分との混合比率とに基づいて、燃焼室内において気化した混合燃料の概略のモル濃度を算出する手順の一例につき、以下に数式を示しながら更に説明する。この例においては、3.4μm帯における赤外線透過率(I/I0)(3.4)と、噴射前の混合燃料における第1燃料成分としてのガソリンと第2燃料成分としてのエタノールとのモル比(1−p:p)とに基づいて、燃焼室内において気化した混合燃料の概略のモル濃度を算出する。
先ず、燃焼室内において気化した状態においてもガソリンとエタノールとのモル比は噴射前の(気化する前の)混合燃料におけるモル比と変わらないと仮定した場合における3.4μm帯における混合燃料のモル吸光係数ε(3.4,c)は、以下の式(2)によって表される。
上式中、ε(3.4,g)及びε(3.4,e)は、燃焼室内において気化したガソリン及びエタノールの3.4μm帯におけるモル吸光係数である。従って、この場合における、燃焼室内において気化した混合燃料のモル濃度Ccは、ランベルト・ベールの法則に基づき、以下の式(3)によって表される。
しかしながら、実際には、相対的に高い沸点を有する第2燃料成分であるエタノールは気化し難く、特に機関温度が低い初期(例えば、冷間始動時等)においては、相対的に低い沸点を有する第1燃料成分であるガソリンが主として気化すると考えられる。つまり、上記のようにして算出される混合燃料のモル濃度Ccは誤差を含む可能性が高い。具体的には、初期におけるエタノールの気化量は僅かであり、燃焼室内において気化した混合燃料におけるエタノールの真のモル比率p0は噴射前の混合燃料におけるエタノールのモル比率pよりも小さいと考えられる。また、前述のように、3.4μm帯においてはガソリンの方がエタノールよりもモル吸光係数が大きい(ε(3.4,g)>ε(3.4,e))。従って、上述のようにして算出される混合燃料のモル濃度Ccと、燃焼室内において気化した混合燃料(エタノール混合ガソリン)、第1燃料成分(ガソリン)、及び第2燃料成分(エタノール)の真のモル濃度(それぞれCc0、Cg0、Ce0とする)との間には、以下の式(4)に示す関係が成り立つ。
一方、初期に気化するのはガソリンのみであり、エタノールは気化しないと仮定すると、燃焼室内において気化したガソリンのモル濃度Cgは、以下の式(5)によって表される。
しかしながら、実際には、少量とはいえエタノールも気化しており、赤外線透過率の低下に寄与している。従って、式(5)によって算出されるガソリンのモル濃度Cgは、燃焼室内において気化したガソリンの真のモル濃度Cg0と比較して、より大きい値として算出される(Cg>Cg0)。但し、上述のように、初期に気化するのはガソリンのみであり、エタノールは気化しないと考えられるので、少なくとも初期においては、式(5)によって算出されるガソリンのモル濃度Cgと、燃焼室内において気化したガソリンの真のモル濃度Cg0との間に、大きな差異は無いと考えられる(Cg≒Cg0)。
ところで、噴射手段によって燃焼室内に噴射される混合燃料の量をqとすると、そのうちガソリンが占める割合(モル比率)は1−pであるので、これらの数値を利用して、燃焼室内で気化し得るガソリンの最大モル濃度Cgmaxを算出することができる。このように、Cgmaxは燃焼室内で気化し得るガソリンの最大モル濃度である。従って、式(5)によって算出されるガソリンのモル濃度Cgがガソリンの最大モル濃度Cgmaxを超える場合(Cg>Cgmax)、その超過分は、上述したようにエタノールによる赤外線透過率の低下への寄与に起因する誤差であると考えることができる。
そこで、上述した式(3)によって算出される混合燃料のモル濃度Ccからガソリンの最大モル濃度Cgmaxを減じた値が、燃焼室内において気化したエタノールのモル濃度Ceに該当すると定義する(Ce=Cc−Cgmax)。斯くして得られたエタノールのモル濃度Ceと、式(5)によって算出されるガソリンのモル濃度Cgとの和からも、燃焼室内において気化した混合燃料のモル濃度を算出することができる。本明細書においては、斯くして得られた混合燃料のモル濃度を「Cc′」と表記する(即ち、Cg+Ce=Cc′)。
燃焼室内において気化した混合燃料(エタノール混合ガソリン)の真のモル濃度Cc0は、上述した2つの混合燃料のモル濃度CcとCc′との間に入るので、これら2つの混合燃料のモル濃度Cc及びCc′のうち小さい方の値に基づいて、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を適切に制御して、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を確実に向上させることができる。
尚、前述のように、2.7μm帯においては、ガソリンのモル吸光係数ε(2.7,g)は実質的に0(ゼロ)であるとみなすことができるので、本発明の変形例に係る内燃機関の制御装置においては、前述した式(1)の第1式から、計測の対象となる気体におけるエタノールのモル濃度Ceを算出し、斯くして算出されたエタノールのモル濃度Ceに基づいて、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を制御してもよい。
ところで、前述のように、光透過率の計測に使用される光も赤外線に限定されず、例えば、紫外線、可視光等、他の波長領域に属する光を使用してもよい。これらの中で、光透過率の計測に使用される光として好ましいのは、赤外線である。
即ち、本発明の第12の実施態様は、
本発明の前記第10又は11の実施態様の何れか1つに係る内燃機関の制御装置であって、
前記燃焼室内の混合ガスの光透過率を計測するために使用される光が赤外線である、
内燃機関の制御装置である。
ところで、前述のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の燃焼室内における第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する気化量検出手段を備える。気化量検出手段は、内燃機関の燃焼室内における第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定することが可能である限り特に限定されず、如何なる構成を有する検出手段であってもよい。かかる気化量検出手段の具体例としては、例えば、上述のように燃焼室内の混合ガスの光透過率(例えば、赤外線透過率等)に基づいて第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する手段の他に、燃焼室内の圧力(筒内圧)に基づいて第1燃料成分の気化量及び第2燃料成分の気化量を検出又は推定する手段を挙げることができる。
即ち、本発明の第13の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第9の実施態様の何れか1つに係る内燃機関の制御装置であって、
前記燃焼室内に噴射される前の前記混合燃料における前記第1燃料成分及び前記第2燃料成分の混合比を検出又は推定する混合比検出手段と、
前記燃焼室内の圧力を検出又は推定する筒内圧検出手段と、
を更に備え、
前記混合比検出手段によって検出又は推定される前記混合比に基づいて、前記燃焼室内に噴射される前の前記混合燃料の気化潜熱を算出し、
前記混合燃料が噴射された場合に前記筒内圧検出手段によって検出又は推定される前記燃焼室内の圧力と前記混合燃料が噴射されない場合における前記燃焼室内の圧力との差異に基づいて、前記燃焼室内における前記混合燃料の気化に伴う前記燃焼室内の温度変化を算出し、
斯くして算出される前記混合燃料の気化潜熱及び前記燃焼室内の温度変化に基づいて、前記燃焼室内における前記混合燃料の気化量を推定する、
内燃機関の制御装置である。
上記のように、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、前記燃焼室内に噴射される前の前記混合燃料における前記第1燃料成分及び前記第2燃料成分の混合比を検出又は推定する混合比検出手段と、前記燃焼室内の圧力を検出又は推定する筒内圧検出手段と、を更に備える。混合比検出手段については、本発明の他の実施態様に係る内燃機関の制御装置についての説明において既に述べたので、ここでの説明は省略する。一方、筒内圧検出手段は、燃焼室内の圧力を検出又は推定することができる限り特に限定されず、如何なる構成を有していてもよい。かかる筒内圧検出手段の例としては、例えば、ピエゾ素子型の圧力センサを用いる筒内圧検出手段を挙げることができる。
また、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、上記のように、前記混合比検出手段によって検出又は推定される前記混合比に基づいて、前記燃焼室内に噴射される前の前記混合燃料の気化潜熱を算出し、前記混合燃料が噴射された場合に前記筒内圧検出手段によって検出又は推定される前記燃焼室内の圧力と前記混合燃料が噴射されない場合における前記燃焼室内の圧力との差異に基づいて、前記燃焼室内における前記混合燃料の気化に伴う前記燃焼室内の温度変化を算出し、そして、斯くして算出される前記混合燃料の気化潜熱及び前記燃焼室内の温度変化に基づいて、前記燃焼室内における前記混合燃料の気化量を推定する。
換言すれば、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、混合燃料を構成する第1燃料成分(例えば、ガソリン)と第2燃料成分(例えば、エタノール)との混合比から混合燃料全体としての気化潜熱を予め求めておき、当該混合燃料を噴射しない場合における燃焼室内の圧力と当該混合燃料を噴射する場合における燃焼室内の圧力との違いから、当該混合燃料の気化に伴う温度変化を算出し、斯くして算出された温度変化及び気化潜熱から、燃焼室内における当該混合燃料の気化量を算出する。
上記において、混合燃料の気化潜熱は、例えば、種々の混合比を有する混合燃料の気化潜熱を実験等によって予め求めておき、混合比と気化潜熱との対応関係を規定するデータテーブル(例えば、マップ)等として、例えば、燃料の噴射を制御する制御装置(例えば、内燃機関を制御するためのECU等)が備えるデータ記憶手段に格納しておき、上述したように混合燃料の気化潜熱を算出しようとする際に、混合比検出手段によって検出又は推定される混合比に対応する気化潜熱を当該データテーブルから読み出すことによって、特定することができる。
次に、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、上記のように、混合燃料が噴射された場合に筒内圧検出手段によって検出又は推定される燃焼室内の圧力と混合燃料が噴射されない場合における燃焼室内の圧力との差異に基づいて、燃焼室内における混合燃料の気化に伴う燃焼室内の温度変化を算出する。ここで、混合燃料が噴射されない場合における燃焼室内の圧力については、例えば、燃焼室内への燃料の噴射を行わない状態における筒内圧を実験によって予め求め、例えば、燃料の噴射を制御する制御装置(例えば、内燃機関を制御するためのECU等)が備えるデータ記憶手段に格納しておき、上述したように燃焼室内における混合燃料の気化に伴う燃焼室内の温度変化を算出しようとする際に、当該データテーブルから読み出すことができる。
本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、上記のようにして得られた混合燃料が噴射されない場合における燃焼室内の圧力と、混合燃料が噴射された場合に筒内圧検出手段によって検出又は推定される燃焼室内の圧力との差異を算出し、当該差異に基づいて、燃焼室内における混合燃料の気化に伴う燃焼室内の温度変化を算出する。当業者には周知であるように、このように圧力差から温度変化を算出するに当たっては、熱力学的な考察に基づく演算を利用することができる。
そして、本実施態様に係る内燃機関の制御装置は、上記のようにして算出された混合燃料の気化潜熱及び燃焼室内の温度変化に基づいて、燃焼室内における混合燃料の気化量を推定する。尚、上述した方法においては、燃焼室内に噴射された混合燃料が燃焼室内の空気から気化潜熱を奪うことに伴う温度及び圧力の変化に着目して混合燃料の気化量を推定しているが、燃焼室内に噴射された混合燃料は、燃焼室内の空気のみならず、燃焼室の壁辺(筒内壁面)にも接触する。しかしながら、機関温度が低い条件(例えば、冷間始動時等)においては筒内壁面の温度も低いことから、上述した方法によっても十分な精度を確保することができる。
ここで、燃料の気化に伴う燃焼室内の圧力(筒内圧)の変化の燃料による違いにつき、添付図面を参照しながら説明する。図6は、前述のように、燃料の気化に伴う燃焼室内の圧力(筒内圧)の変化の燃料による違いを説明する模式的なグラフである。具体的には、図6は、ガソリン及びエタノールの気化に伴う燃焼室内の圧力(筒内圧)の変化の違いを説明する模式的なグラフである。図6に示すように、同じモル濃度の燃料を燃焼室内に噴射しても、相対的に小さい気化潜熱を有するガソリンを燃料とする場合は、相対的に大きい気化潜熱を有するエタノールを燃料とする場合と比較して、燃料の噴射を開始して以降の経過時間(噴射開始後経過時間)の増大に伴う筒内圧(容器内圧力)の低下幅がより小さいことが判る(ΔPg<ΔPe)。
これは、エタノールの気化潜熱に比較してガソリンの気化潜熱がより小さいことから、エタノールの気化に伴う燃焼室内の温度(筒内温度)の低下幅に比較して、ガソリンの気化に伴う燃焼室内の温度(筒内温度)の低下幅がより小さく、結果として、エタノールの気化に伴う筒内圧の低下幅(ΔPe)に比較して、ガソリンの気化に伴う筒内圧の低下幅(ΔPg)がより小さくなったものと考えられる。このように、燃料の気化に伴う筒内圧の低下幅は燃料を構成する物質の気化潜熱を反映する。かかる現象に基づき、燃料の気化に伴う筒内圧の変化から、燃料の気化量を求めることができる。
ところで、前述のように、本発明に係る内燃機関の制御装置が適用される内燃機関を作動させるのに使用される混合燃料は、当該内燃機関を作動させることが可能であり且つ第1燃料成分の沸点が第2燃料成分の沸点よりも高いという条件を満たす限り特に限定されず、如何なる燃料成分の組み合わせであってもよい。かかる混合燃料の例としては、例えば、第1燃料成分としてのガソリンと第2燃料成分としてのアルコールとの組み合わせを挙げることができる。かかる混合燃料のより具体的な例としては、例えば、第1燃料成分としてのガソリンと第2燃料成分としてのエタノール(エチルアルコール)との組み合わせを挙げることができる。
従って、本発明の第14の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第13の実施態様の何れか1つに係る内燃機関の制御装置であって、
前記第1燃料成分がガソリンである、
内燃機関の制御装置である。
また、本発明の第15の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第14の実施態様の何れか1つに係る内燃機関の制御装置であって、
前記第2燃料成分がアルコールである、
内燃機関の制御装置である。
更に、本発明の第16の実施態様は、
本発明の前記第15の実施態様に係る内燃機関の制御装置であって、
前記第2燃料成分がエタノールである、
内燃機関の制御装置である。
尚、前述のように、上記混合燃料は、上記燃料成分の他に、少量の添加剤等を含んでいてもよい。
ところで、これまで説明してきた本発明の各種実施態様に係る内燃機関の制御装置は、前述のように、燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる要求気化量を気化量検出手段によって検出又は推定される混合燃料の気化量から減算することによって得られる余剰気化量が予め定められた第1閾値未満である場合は、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増加させ、上記余剰気化量が第1閾値よりも大きい予め定められた第2閾値以上である場合は、噴射手段及び点火手段の両方又は何れか一方を制御して、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を減少させる。
本発明の変形例に係る内燃機関の制御装置は、余剰気化量と上記閾値(第1閾値及び第2閾値)との乖離の程度に応じて、燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量の制御を、よりきめ細かく実行するように構成されていてもよい。具体的には、本発明の1つの変形例に係る内燃機関の制御装置は、例えば、第1閾値よりも小さい第3閾値、及び第3閾値よりも更に小さい第4閾値を更に設定すると共に、余剰気化量が第1閾値未満であり且つ第3閾値以上である(即ち、余剰気化量と閾値との乖離が小さい)場合には、点火時期を遅角させることのみによって燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増やし、余剰気化量が第3閾値未満であり且つ第4閾値以上である(即ち、余剰気化量と閾値との乖離が中程度である)場合には、点火時期を遅角させるのみならず噴射手段による混合燃料の噴射量を増量することによって燃焼室内における混合燃料の点火の時点での気化量を増やし、余剰気化量が第4閾値未満である(即ち、余剰気化量と閾値との乖離が大きい)場合には、当該サイクルにおいては点火を行わず、次のサイクルにおいて点火を行って混合燃料を着火させるように構成してもよい。
また、本発明に係る内燃機関の制御装置が適用される内燃機関は、筒内直接噴射と吸気ポート噴射とを併用する内燃機関(以降、「併用内燃機関」と称する場合がある)であってもよい。更に、併用内燃機関において、吸気ポート内での第2燃料成分(例えば、エタノール)の付着量を推定することにより、吸気ポート内に液相として留まる第2燃料成分の量を特定し、斯くして推定された付着量に基づき、筒内直接噴射による燃料の噴射量を制御することもできる。
尚、吸気ポート内での第2燃料成分(例えば、エタノール)の付着量を推定する手段としては、例えば、所定の波長帯(例えば、2.9μm、1.55μm等)における光透過率を計測する光センサ等を挙げることができる。図7は、前述のように、所定の波長帯における赤外線透過率を、気相状態のエタノールと液相状態のエタノールとで比較する、模式的なグラフである。図7に示すように、気相状態のエタノール(白抜きの四角印)については赤外線透過率がほぼ1であるのに対し、液相状態のエタノール(黒塗りの四角印)については赤外線透過率が著しく低下している。
上記のように、第2燃料成分(例えば、エタノール)の相によって所定の波長帯における赤外線透過率が大幅に変化することを利用して、吸気ポート内での第2燃料成分(例えば、エタノール)の付着量を推定することができる。従って、上述のように、斯くして推定された付着量に基づいて筒内直接噴射による燃料の噴射量を制御することにより、混合燃料によって作動する内燃機関において、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を向上することができる。
以下、本発明の特定の実施態様につき、添付図面を参照しつつ説明する。但し、以下に述べる説明はあくまで例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
ここで、本発明の1つの実施例に係る内燃機関の制御装置において実行される各種処理の流れにつき、添付図面を参照しながら以下に詳しく説明する。図8は、前述のように、本発明の1つの実施態様に係る内燃機関の制御装置において実行される各種処理の流れを説明するフローチャートである。尚、本実施例においては、圧縮行程において2回に分けて混合燃料を筒内直接噴射する内燃機関に本実施例に係る内燃機関の制御装置を適用する場合について説明する。
図8に示すように、先ず、ステップ101において、イグニッションスイッチがオン(ON)になり、本実施例に係る内燃機関の制御装置による混合燃料の気化量制御が開始されると、次のステップ102において、例えば、燃料タンク、燃料供給通路等に配設された燃料性状センサ(例えば、例えば、静電容量式のアルコールセンサ等)を用いる混合比検出手段により、燃料タンクから供給される混合燃料における第1燃料成分と第2燃料成分との混合比が検出される。また、ステップ103において、エンジン水温センサ及び吸気温度センサ等を用いる検出手段により、内燃機関の冷却水温度(エンジン水温)及び空気の温度が検出される。次に、ステップ104において、上述のようにして検出された燃料混合比及び各温度に基づいて、燃料噴射条件及び点火条件が決定される。また、ステップ105において、上述のようにして検出された燃料混合比及び各温度等に基づいて、燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる要求気化量が設定される。
上記要求気化量は、前述のように、例えば、内燃機関の温度(エンジン水温)、気化した混合燃料における第2燃料成分の含有率(燃料混合比)等と燃焼室内における混合燃料の点火に必要とされる混合燃料の気化量との関係を、例えば、実験、シュミレーション等によって予め求めておき、これらの対応関係を規定するデータテーブル(例えば、マップ)等として、例えば、燃料の噴射を制御する制御装置(例えば、内燃機関を制御するためのECU等)が備えるデータ記憶手段に格納しておき、必要に応じて当該データテーブルから読み出すことによって特定することができる。
次に、ステップ106においてクランキングを開始され、ステップ107において所定の時期に1回目の燃料噴射が実行される。次に、ステップ108において、点火前の所定の時期における燃焼室内の混合燃料の気化量(筒内気化量)が検出される。そして、ステップ109において、上記ステップ108において検出された筒内気化量(検出気化量)から上記ステップ105において算出された要求気化量を減算する演算処理が行われ、余剰気化量として算出される。
次いで、ステップ110において、余剰気化量が第1閾値未満であるか否かが判定される。余剰気化量が第1閾値未満である場合(ステップ110:Yes)、ステップ111において、2回目の燃料噴射が増量される。更に、ステップ112において、点火時期を遅角させてもよい。一方、余剰気化量が第1閾値以上である場合(ステップ110:No)、ステップ113において、余剰気化量が第2閾値以上であるか否かが判定される。余剰気化量が第2閾値以上である場合(ステップ113:Yes)、ステップ114において、2回目の燃料噴射が減量される。一方、余剰気化量が第2閾値未満である場合(ステップ113:No)、ステップ115において、ステップ104において決定された噴射条件及び点火条件のままで2回目の噴射が実行される。
更に、ステップ116において、点火が実行され、燃焼室内に噴射された混合燃料が着火され、最後にステップ117において、本実施例に係る内燃機関の制御装置による混合燃料の気化量制御が終了される。このようにして、本実施例に係る内燃機関の制御装置によれば、混合燃料によって作動する内燃機関において、エミッション及び燃費の悪化を抑制しつつ始動性を向上させることができる。
尚、本実施例において示した実施態様は、あくまでも例示の目的で示した本発明の1つの実施態様に過ぎず、本発明に係る内燃機関の制御装置が本実施例における記載によって制限されると解釈されるべきではない。
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができることは言うまでも無い。