本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1(a)に本発明における複写けん制印刷物(1)を示す。複写けん制印刷物(1)は光透過性の基材(2)の上の少なくとも一部に、基材(2)と異なる色を有する印刷画像(3)が形成されており、印刷画像(3)は、第1の画像領域(4)及び第2の画像領域(5)の二つの領域から構成されている。図1(a)では、基材(2)の一部に印刷画像(3)が形成された状態を示しているが、本発明の複写けん制印刷物(1)は、基材(2)上の全体に印刷画像(3)が形成される構成でも良い。説明の便宜上、図1(a)に示した印刷画像(3)の中には、「×」の文字が視認できるが、拡散反射光下で観察した場合には第1の画像領域(4)及び第2の画像領域(5)は等色であり、「×」の文字は確認できない状態となっている。なお、本発明において、「拡散反射光下での観察」とは、観察者の視点が、正反射光がほとんど存在しない領域中にあって複写けん制印刷物(1)を観察している状況のことをいう。そして、本発明の複写けん制印刷物(1)を複写機で複写すると、図1(b)に示すように、第1の画像領域(4)は再現されず第2の画像領域(5)のみが再現され、複写けん制模様(6)が出現する。このように、本発明の複写けん制印刷物(1)を複製しようとしても、印刷画像(3)を完全に再現することができず、複写したものであることを示す複写けん制模様(6)が出現することで、偽造防止を図ることができる。以下、本発明の複写けん制印刷物(1)の詳細な構成について説明する。
図2は、基材(2)に形成される印刷画像(3)の構成を示す図である。本発明で用いる基材(2)は、浸透インキを印刷した場合に、インキが基材(2)の内部に浸透する特性を持つ必要がある。また、基材(2)自体が光を透過する特性を持つか、基材(2)に浸透インキが浸透した際に、光を透過する特性を持つ必要がある。このような、基材(2)の例として、上質紙やコート紙を用いることができる。
図2に示すように、印刷画像(3)は、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)から構成されている。図2(a)に示す印刷画像(3)の例では、第1の画像領域(4)が、ポジ画像として「×」の文字で形成されており、第2の画像領域(5)が、ネガ画像として「×」の文字を取り囲むように形成されている状態を示しているが、第2の画像領域(5)が、ポジ画像として「×」の文字で形成され、第1の画像領域(4)が、ネガ画像として「×」の文字を取り囲むように形成されても良い。また、ポジ画像として形成される第1の画像領域(4)又は第2の画像領域(5)は、「×」の文字に限定されるものではなく、他の文字で形成されても良いし、数字、記号、図形、図柄、マーク及び模様のいずれか又はその組み合わせで形成されても良い。以降の説明では、図2(a)に示すように、第1の画像領域(4)が、ポジ画像として「×」の文字で形成されており、第2の画像領域(5)が、ネガ画像として「×」の文字を取り囲むように形成される例について説明する。
図2(b)は、図2(a)に示す太線枠で囲む部分を拡大した図である。図2(b)に示すように、第1の画像領域(4)は、複数の複写不能要素(7)で構成され、この複写不能要素(7)は有色浸透インキで印刷されている。また、第2の画像領域(5)は、複数の複写可能要素(8)で構成されており、複写不能要素(7)を形成するインキと同じインキ、もしくは、少なくとも同じ色相の有色インキで印刷されている。なお、複写不能要素(7)と複写可能要素(8)とを形成するインキの詳細については、後述する。
図2(b)に示す複写不能要素(7)は右斜め破断線で、複写可能要素(8)は右斜め線で表しているが、これらは作図上の表現であって、実際には各要素の内側は塗りつぶされている。
本発明において、複写不能要素(7)及び複写可能要素(8)は、画素及び画線の一方又はその組み合わせで構成される。なお、本明細書でいう「画素」とは、印刷画像(3)を構成する最小単位である印刷網点自体か、印刷網点を複数集合させて形成した一塊の画像要素であって、例えば円、三角形や四角形等を含む多角形、星形等の各種図形、文字や記号等が含まれ、画素の形状は如何なるものであっても本発明における画素に含まれるものとする。また、本明細書でいう「画線」とは、網点を一定方向に隙間無く連続して配置して構成した画像要素であって、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線のことであり、如何なる画線形状で構成しても本発明の技術的思想の範囲に含まれる。本実施の形態では、はじめに画素で構成される複写不能要素(7)及び複写可能要素(8)について説明する。
図2(b)に示す構成では、幅(R1)、高さ(H1)の円形の画素である複写不能要素(7)が複数配置されて、「×」の文字が形成された状態を示しており、幅(R2)、高さ(H2)の円形の画素である複写可能要素(8)が複数配置されて、「×」の文字を取り囲むように形成された状態を示している。
本発明において、複写可能要素(8)の大きさは、複写不能要素(7)よりも大きく形成され、複写不能要素(7)が配置される第1の画像領域(4)と複写可能要素(8)が配置される第2の画像領域(5)は、拡散反射光下で観察した場合に目視上、等色となるように、等しい面積率で形成される。なお、本発明において、「等色」とは、観察者が二つの観察対象を特に注意せずに一瞥した場合に、同じ色であると感じる状態のことであり、本発明では、二つの観察対象の色差ΔEが6.0以下の値にある状態のことである。また、本発明において、「面積率」とは、基材(2)の一定の面積の中に配置される要素の面積の割合のことである。続いて、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)が等しい面積率で形成される構成について説明する。
例えば、複写可能要素の幅(R2)及び高さ(H2)に対して、複写不能要素の幅(R1)及び高さ(H1)が2分の1の大きさである場合、図3(a)に示すように、第2の画像領域(5)のある一定面積の中(破線で図示)に、円形の複写可能要素(8)が一つ配置されたとすると、第1の画像領域(4)の同じ一定面積の中(破線で図示)には、図3(b)に示すように、円形の複写不能要素(7)が四つ配置されることで、第2の画像領域(5)と第1の画像領域(4)の同じ一定面積の中に配置される要素の面積が等しくなる。このとき、図2に示すように、複写不能要素(7)が配置される間隔は、複写可能要素(8)が配置される間隔より狭くなる。このように、複写不能要素(7)の大きさ及び配置される間隔と、複写可能要素(8)の大きさ及び配置される間隔を調整することによって、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)の面積率を等しくすることができる。なお、本発明において第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)の面積率は、完全に等しくする必要はなく、拡散反射光下で観察した場合に第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)が、目視で区別がつかない程度であれば良く、その状態を満足できるものであれば、本明細書中で記載する「等しい面積率」の技術的思想の範囲に含まれる。第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)を等しい面積率とする技術については、例えば、特許文献3に挙げている複写防止画線の技術においては、既に公知となっている。
また、ここでは、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)の面積率が完全に等しい構成について、図3を用いて説明したが、実際に、複写けん制印刷物(1)を製造する場合には、製版及び印刷工程におけるドットゲイン及びドットロスを加味して、複写不能要素(7)及び複写可能要素(8)の製版上の面積率を調整し、印刷物上で第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)を等色とすれば良い。
さらに、本発明において、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)のそれぞれは、以下に説明する複数の複写不能要素(7)と複写可能要素(8)の配置によって、拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察される状態となっている。続いて、第1の画像領域(4)が拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察されるための構成について説明する。
第1の画像領域(4)が拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察されるための構成は、二通りあり、一つ目の構成は、図4(a)に示すように、複写不能要素(7)が第1のピッチ(P1)で規則的に複数配置される構成である。図4(a)に示すように、複写不能要素(7)が、規則的に配置される場合、第1の画像領域(4)内の一定面積から反射される光の量が一定であるので、一定の濃度として観察される。なお、本発明において、複写不能要素(7)が画素で形成される場合の「規則的に配置」とは、複数の複写不能要素(7)が第1のピッチ(P1)で二つの異なる方向にマトリクス状に配置された状態のことである。図4(a)では、複写不能要素(7)が上下左右方向の二つの方向に第1のピッチ(P1)で配置された状態を示しているが、二つの異なる方向は、上下左右方向に限定されず、斜め方向であっても良い。
第1の画像領域(4)が拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察されるための二つ目の構成は、図4(b)に示すように、第1の画像領域(4)内に複写不能要素(7)がランダムに配置される構成である。このとき、第1の画像領域(4)内の一定の面積の中に配置される複写不能要素(7)の割合が、第1の画像領域(4)全体にわたって、同じになるように配置される。複写不能要素(7)の大きさについては後述するが、複写不能要素(7)が微細であるため、一定の面積の中に配置される複写不能要素(7)の割合が同じであれば、図4(b)に示すように、第1の画像領域(4)内で部分的に複写不能要素(7)が配置される間隔が異なっても、図4(a)に示す構成と同じように一定の濃度で観察される。このランダムに配置した構成については、FMスクリーン、ディザパターン等の技術が利用でき、例えば、市販の画像処理ソフトPhotoshop(アドビ社製)等のディザ処理機能を利用すれば良い。
第2の画像領域(5)が、拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察される構成についても、第1の画像領域(4)で説明した構成と同様であり、第2の画像領域(5)に、複写可能要素(8)が規則的に配置される構成と、複写可能要素(8)がランダムに配置される構成がある(図示せず)。なお、複写可能要素(8)が規則的に配置される場合には、第1のピッチ(P1)よりも大きい第2のピッチ(P2)で配置される。
本発明において、複写不能要素(7)の大きさは、複写機の性能にもよるが、複写できない大きさとして画素の幅(R1)及び高さ(H1)のうちの少なくとも一方が150μm以下である。これは面積率50%の網点に換算すると120線/インチ以上の網点線数に相当する。従来の複写防止印刷物において、複写したときに画線が再現されないための大きさは、画素の色及び複写機の性能にもよるが、50μm程度であったが、本発明の複写不能要素(7)は、150μmと大きくても良い。この理由については、後述する。
本発明において、複写可能要素(8)の大きさは、複写機の性能にもよるが、複写不能要素(7)が複写機で複写されない大きさの最大値である150μmより大きく、この大きさで形成することで、複写可能要素(8)は複写機で複写される。
本発明で用いる有色浸透インキについて説明する。本発明で用いる有色浸透インキとは、印刷された画像が透過光下で透けて見える(非画線部よりも明るく観察される)効果を有する浸透成分を含む浸透型インキに、有色の色材を配合することで形成したインキであり、淡い色彩を有した浸透型インキを指す。なお、本発明でいう「色彩」とは、色相、彩度、明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。また、ここでいう「淡い色彩」とは、拡散反射光下で明度の高い色彩であることを指し、具体的に有色浸透インキを面積率100%で印刷した場合には拡散反射光下のL*で70を超える値を有することとする。
有色浸透インキは、基材(2)に印刷した場合に、反射光下ではっきりと確認できる色彩を有した印刷画像を形成できる一方、透過光下で、その印刷画像は不可視か、ほとんど視認し難い程度の淡い色彩に変化する特徴を有する。簡潔に表現すると「透かすと画像が消える」効果を有するインキである。
有色浸透インキ中の浸透成分は、従来の浸透型インキの浸透成分と同じでよく、市販されている浸透型インキと色材とを混合して作製しても良い。また、有色の色材については、着色顔料や着色染料として販売されている印刷用色材を用いれば良い。
まず、浸透成分についてであるが、本発明における浸透成分とは、印刷時に用紙内部へと浸透して印刷領域の透過率を上昇させる働きを成す成分のことを指し、具体的にはセルロースの屈折率(1.49)に近い樹脂やワックス、動植物油等を指す。これらの成分は印刷した場合に用紙の中に存在するセルロース繊維間の空隙を埋め、主として用紙内部における光の散乱を抑制することで光の透過率を上げる働きを成す。
さらに、本発明における浸透型インキとは、前述した浸透成分を含むインキを指す。このようなインキとしては、T&K TOKA製ベストワン透かしインキ、東洋インキ製SMX透かしインキ、合同インキ製E2ニス等が存在する。本発明の有色浸透インキは、これらの市販インキを用いても作製可能である。また、浸透効果を有する市販の浸透型インキとしては前述のインキに加えて、一般的な低粘度のOPニス、例えば、DIC製 ニューチャンピオン ハイグロス OPニス等を用いてもよい。これらは浸透効果を主眼に用いられるものではないが、印刷した場合に乾燥過程で用紙内部へと低粘度の樹脂成分が浸透するため、前述の浸透を主眼に作製されたインキ類には及ばないものの、一定の浸透効果を得ることができる。この低粘度のOPニスは乾燥することで硬化することから、堅ろう性を特に重視する場合にはこれらの浸透インキを使用することが好ましい。また、これらのインキを混合して浸透型インキとし、浸透効果や堅ろう性を両立する有色浸透インキとしてもよい。
次に、有色の色材についてであるが、浸透型インキに多量の有色の色材を添加すると、印刷物の透過率が低くなって、「透かすと画像が消える」効果が低下する。ゆえに、本発明で用いる有色浸透インキは淡い色彩である必要がある。淡い色彩の有色浸透インキを高い再現性で安定して製造するためには、色材についても透過性が高く、かつ、着色力が低い顔料を用いることで製造することができ、着色力が高い顔料を低い配合割合で用いることでも製造することができる。着色力が低い顔料のうち、印刷用色材として一般に販売されている顔料には、「透過性顔料」や「微粒子顔料」と呼ばれるものがあり、ダイピロサイド系顔料やシアニン系顔料がこれに該当し、色数も豊富である。また、着色力が高い顔料としては、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサン系顔料等がある。
前述したような印刷用色材を用いて有色浸透インキを作製する場合、インキへの印刷色材の配合量は重量比で10%以下とすることが望ましい。これは、色材を10%以上配合した有色浸透インキでは、印刷される画像の濃度が高く「透かすと消える」効果が低下してしまうためである。なお、「透かすと画像が消える」効果は、有色浸透インキの性能に依存するばかりではなく、形成する画像の面積率にも大きく影響を受ける。
例えば、面積率100%で画像を形成した場合と、ハイライトからハーフトーンの低い面積率で画像を形成した場合とでは、仮に同じ有色浸透インキを用いたとしても「透かすと消える」効果は後者の画像の方が高くなる。
一方、印刷色材の配合量が少ないと、拡散反射光下で印刷画像(3)の視認性が低下することから、有色浸透インキへの印刷色材の配合量は重量比で0.01%以上とすることが好ましい。
以上のことを踏まえて、有色浸透インキに配合する印刷色材の量は、色材自体の着色力や浸透成分の性能、形成する画像の面積率等に応じて、適宜調整する必要がある。
以上のような性能を備えた有色浸透インキを用いて印刷画像(3)を印刷する。印刷方式はウェットオフセット印刷が最も適しているが、ドライオフセット印刷、樹脂凸版印刷等で行っても良い。
本発明の効果について、図5及び図6を用いて説明する。本発明の複写けん制印刷物(1)の効果と比較のため、図5(a)に、通常のインキを用いて従来の複写防止技術の構成の画素が印刷された印刷物(9)の一部拡大図を示す。従来の複写防止技術において、図5(a)に示す大きい方の画素(10a)は、150μm以上の大きさで形成され、小さい方の画素(10b)は、150〜50μm程度の大きさで形成されていた。従来の印刷物を、従来の複写機で複写した場合には、複写機の解像度の限界等により、小さい方の画素(10b)が複写機には読み込めないため、図5(b)に示す複写物(11−1)のように、大きい方の画素(12a)のみを再現することができ、150μm以下の小さな画素(12b)は再現できなかった。しかし、昨今の複写機は、解像度が高いため、150〜50μm程度の小さな画素でも再現することができる。加えて、昨今の複写機は、自動的な画像補正機能や、複写物の色調を濃く又は淡く手動調整する機能を有していることから、これらを使えば、図5(c)に示すように、複写物(11−1)の大きい方の画素(12a)と小さい方の画素(12b)を元の印刷物(9)とかなり近い様相にできる。
続いて、本発明の効果について説明する。ここでは、複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が有色浸透インキで形成される構成の例で説明する。本発明で用いる有色浸透インキで印刷して得た複写けん制印刷物を複写する際に、複写機が印刷物を読み取る際に可視光を照射すると、有色浸透インキで形成された複写不能要素(7)と複写可能要素(8)は、光が透過しやすいために、画素の色彩は用紙に近い状態となる。この傾向は画素の輪郭付近で顕著である。図6(a)に示した複写けん制印刷物(1)における複写不能要素(7)は、画素の幅(R1)及び高さ(H1)を150μm以下で形成されており、有色浸透インキの光の透過性によって、画素の輪郭から画素の中心にかけて画素全体の色彩が検知できず、複写機は画素を存在しないものと判定してしまうことから、図6(b)に示すように、複写物(11−2)に複写不能要素(7)は複写されない。
これに対して、複写可能要素(8)は、輪郭が用紙に近い色彩となるため、複写物(11−2)では元の複写可能要素(8)より小さい画素(14)として複写されるが、画素の幅(R2)及び高さ(H2)を150μmより大きく形成すれば、有色浸透インキを用いても完全に画素が消失することはない(図6(b))。なお、複写機が色調補正機能を有する場合には、複写物(11−2)が元の画素と同じ濃度になるように濃度補正されるので、元の印刷物と比較的近い様相に複写される。
このように、本発明の複写けん制印刷物(1)を複写すると、複写不能要素(7)は、複写されず、複写可能要素(8)のみが複写され図1(b)に示す複写けん制模様(6)が出現することで、複製を防止するとともに、複写けん制印刷物(1)の複写による偽造品に対して真偽判別することができる。従来の複写防止技術の構成で印刷された印刷物(9)は、近年の解像度が高い複写機で再現されてしまうのに対し、本発明の複写けん制印刷物(1)は、有色浸透インキの光透過性を利用することによって複写不能要素(7)が再現されず、複写可能要素(8)のみが再現され、確実に複写けん制模様(6)が出現するので、真偽判別性と偽造防止効果に優れる。
また、複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が有色浸透インキで形成される構成の複写けん制印刷物(1)を光に透かして観察すると、有色浸透インキで形成された複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が不可視か、ほとんど視認し難い程度の淡い色彩に変化し、印刷画像(3)が消失するという効果が生じる。このように、本発明の複写けん制印刷物(1)は、複写機で複写することなく光に透かして観察するだけで真偽判別を簡易に行うことができ、複写した場合の印刷画像(3)の再現性を含めて、二重チェックすることができる。
前述した形態に加えて、複写けん制効果がさらに高い印刷物を得るには、有色浸透インキを用いて複写不能要素(7)のみを印刷し、複写可能要素(8)については、有色浸透インキと同じ色相を有し、かつ「透かすと消える」効果がない有色インキ(以降、有色非浸透インキという)を用いて印刷する。有色非浸透インキには一般のオフセット印刷用等として市販されているインキを用いれば良い。この場合、複写しにくいという有色浸透インキの効果が複写不能要素(7)にのみ発揮されるので、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)との複写再現性の差異が大きくなり、複写物に複写けん制模様(6)が現れやすくなる。
また、有色非浸透インキを用いて複写可能要素(8)を印刷した複写けん制印刷物(1)を光に透かして観察した場合、有色浸透インキで形成された複写不能要素(7)が不可視か、ほとんど視認し難い程度の淡い色彩に変化し、有色非浸透インキで形成された複写可能要素(8)のみが観察されることで、図7に示すように、複写けん制模様(6)と同様なパターンが視認でき、複写機で複写することなく、真偽判別することができ、複写した場合の印刷画像(3)の再現性を含めて、二重チェックすることができる。
複写可能要素(8)を有色非浸透インキで印刷する場合には、有色浸透インキと有色非浸透インキとの色差、粘度等の物理的特性等に基づいて、用紙へのインキ転移量に差異が生じる。このため、第2の画像領域(5)及び第1の画像領域(4)が印刷物上で等色に見えるよう、各々の領域の面積率を調整する必要がある。
以上の説明は、複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が画素で形成される構成について説明したが、続いて、画線で形成される構成について説明する。
図8(a)は、複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が画線で形成される場合の複写けん制印刷物(1)を示す図であり、図8(b)は、図8(a)に示す太線枠で囲む部分を拡大した図である。複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が画線で形成される場合、第1の画像領域(4)は、図8(b)に示すように、画線幅(W1)の画線で形成される複写不能要素(7)が複数配置される。また、第2の画像領域(5)は、図8(b)に示すように、画線幅(W2)の画線で形成される複写可能要素(8)が複数配置される。
複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が画線で形成される場合、複写不能要素(7)の画線幅(W1)は、複写可能要素(8)の画線幅(W2)よりも狭く形成され、具体的には、複写不能要素(7)の画線幅(W1)は、複写機で複写したときに再現されないために、150μm以下で形成され、複写可能要素(8)の画線幅(W2)は、複写して再現されるように150μmより大きく形成される。また、複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が画素で形成される場合と同様に、複写不能要素(7)が配置される第1の画像領域(4)と複写可能要素(8)が配置される第2の画像領域(5)は、拡散反射光下で観察した場合に目視上、等色となるように、等しい面積率で形成される。続いて、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)が等しい面積率で形成される構成について説明する。
例えば、複写可能要素の画線幅(W2)に対して、複写不能要素の画線幅(W1)が2分の1の大きさである場合、図9(a)に示すように、第2の画像領域(5)のある一定面積の中(破線で図示)に、直線の複写可能要素(8)が一つ配置されたとすると、第1の画像領域(4)の同じ一定面積の中(破線で図示)には、図9(b)に示すように、直線の複写不能要素(7)が二つ配置されることで、第2の画像領域(5)と第1の画像領域(4)の同じ一定面積の中に配置される要素の面積が等しくなる。このとき、図8(b)に示すように、複写不能要素(7)が配置される間隔は、複写可能要素(8)が配置される間隔より狭くなる。このように、複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が画線で形成される場合においても、複写不能要素(7)の画線の幅(W1)及び配置される間隔と、複写可能要素(8)の画線の幅(W2)及び配置される間隔を調整することによって、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)の面積率を等しくすることができる。
さらに、複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が、画線で形成される場合においても、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)のそれぞれは、拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察される。そのための構成としては、画素で形成される複写けん制印刷物(1)の形態で説明したのと同様であり、複写不能要素(7)を一定のピッチ(P1)で規則的に配置しても良いし、ランダムに配置しても良い。このとき、複写可能要素(8)もまた、前述した第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)が等しい面積率で形成される条件を満たしていれば、一定のピッチ(P2)で規則的に配置しても良いし、ランダムに配置しても良い。
以上に説明した形態の複写けん制印刷物(1)において、拡散反射光下による観察で、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)が区別して視認されない効果を高めるために、以下に説明するカムフラージュ模様(20)を設けてカムフラージュしても良い。続いて、カムフラージュ模様(20)を備える印刷画像(3)の構成について、複写不能要素(7)と複写可能要素(8)が画素で形成される例で説明する。
図10は、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)をカムフラージュするためのカムフラージュ模様(20)を備えた印刷画像(3)の構成を示す図である。図10(a)は、カムフラージュ模様(20)が「星形」の図柄で形成される例を示しているが、カムフラージュ模様(20)は、「星形」の図柄字に限定されるものではなく、他の図形で形成されても良いし、文字、数字、記号、図柄、マーク及び模様のいずれか又はその組み合わせで形成されても良い。
図10(b)は、図10(a)の太線枠で囲む第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)を拡大した図である。図10(b)に示すように、カモフラージュ模様(20)を備える印刷画像(3)において、第1の画像領域(4)は、複写不能要素(7)と重ならない位置に、有色浸透インキから成る、複数のカムフラージュ要素(21)が形成される。
本発明において、カムフラージュ要素(21)は、画素及び画線の一方又はその組み合わせで構成され、画素と画線の構成については前述したとおりである。また、カムフラージュ要素(21)の大きさは、複写機の性能にもよるが、複写できない大きさとして画素の幅(R3)及び高さ(H3)が150ミクロン以下である。なお、複写不能要素(7)とカムフラージュ要素(21)の幅同士の和の合計及び高さ同士の和の合計が150ミクロン以下の場合は、複写不能要素(7)とカムフラージュ要素(21)が接する位置で形成されても良い。これは、複写不能要素(7)とカムフラージュ要素(21)が接していても、複写機で複写したときに有色浸透インキで形成された150ミクロン以下の画素は、再現されないためである。
一方、第2の画像領域(5)もまた、複写可能要素(8)と重ならない位置に、有色浸透インキから成り、複数のカムフラージュ要素(21)が形成される。第2の画像領域(5)に形成されるカムフラージュ要素(21)の大きさも、第1の画像領域(4)と同様であり、画素の幅(R3)及び高さ(H3)が150ミクロン以下である。なお、潜像の視認性に影響しない範囲であれば、複写可能要素(8)とカムフラージュ要素(21)は、接しても良い。
このように、複写不能要素(7)及び複写可能要素(8)と重ならない位置にカムフラージュ要素(21)が形成されることによって、印刷画像(3)にカムフラージュ模様(20)である「星形」の図柄が形成され、拡散反射光下で観察した場合に、面積率の差によって、「星形」のカムフラージュ模様(20)が視認される。そして、異なる大きさで形成される複写不能要素(7)と複写可能要素(8)の領域に対して、面積率の差によって視認されるカムフラージュ模様(20)が目立つことから、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)をカムフラージュすることができる。また、複写機で複写した場合には、カムフラージュ要素(21)は、複写不能要素(7)と同様に複写されず、複写けん制模様(6)が出現して、真偽判別することができる。
カムフラージュ模様(20)の構成について、図10に示すように、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)にカムフラージュ要素(21)が配置される例で説明したが、カムフラージュ要素(21)は、第1の画像領域(4)のみに形成しても良いし、第2の画像領域(5)のみに形成しても良い。第1の画像領域(4)又は第2の画像領域(5)にカムフラージュ模様(20)を形成する場合であっても、拡散反射光で観察した場合に、面積率の差によって視認されるカムフラージュ模様(20)が目立つことから、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)をカムフラージュすることができる。
カムフラージュ模様(20)が形成される複写けん制印刷物(1)において、カムフラージュ要素(21)を形成する有色浸透インキについては、複写不能要素(7)及び複写可能要素(8)と異なる色であっても良い。この場合、前述した有色の色材の顔料において、所望の色の顔料を添加して作製した有色浸透インキを用いれば良い。
以上に説明した印刷画像(3)は、第2の画像領域(5)が第1の画像領域(4)を取り囲むように形成される構成であり、警告文字を現す複写けん制模様(6)が出現する構成について説明したが、本発明において、印刷画像(3)を構成する第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)は、図11に示すように、隣接して設けられる構成でも良い。このとき、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)のパターンは、図11に示す例に限定されず、任意のパターンで形成しても良い。この場合、複写けん制模様(6)が出現するものではないが、複写物には複写可能要素(8)のみが再現されて、真正な複写けん制印刷物(1)の印刷画像(3)に対して、必ず異なって再現されることから、真偽判別することができる。
また、以上に説明した複写不能要素(7)と複写可能要素(8)は、本明細書に記載する画線、画素の大きさの条件を満たしていれば、図面に記載した構成に限定されず、従来の複写けん制印刷物に形成される複写防止画線としても用いることができ、本発明の技術的思想の範囲である。例えば、図12(a)に示すように、1本の画線で形成される複写可能要素(8)から三つの画素に分岐させて形成される複写不能要素(7)の構成や、図12(b)に示すように、1本の画線で形成される複写可能要素(8)から二つの画線に分岐させて形成される複写不能要素(7)の構成がある。
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した複写けん制印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1は、複写けん制印刷物を構成する複写不能要素及び複写可能要素を有色浸透型インキで印刷した例である。
図13に実施例1における複写けん制印刷物(1−1)を示す。複写けん制印刷物(1−1)は、基材(2−1)の上に、淡い青色を有する印刷画像(3−1)が形成されて成る。基材(2−1)には、一般的な白色上質紙(坪量81.4g/平方メートル、日本製紙製)を使用した。
図14(a)は、第1の画像領域(4−1)の一部を拡大した図である。第1の画像領域(4−1)は、画素の幅(R1)及び画素の高さ(H1)が、0.136mmの円形の複写不能要素(7−1)を、ピッチ(P1)0.170mmで、上下左右に規則的に配置した。図14(b)は、第2の画像領域(5−1)の一部を拡大した図である。第2の画像領域(5−1)は、画線幅(W2)300μmの複写可能要素(8−1)を、ピッチ(P2)600μm(面積率50%に相当)でS1方向に規則的に複数配置した。
加えて、面積率の詳細については、製版及び印刷工程における画線のゲイン及びロスを加味して、複写不能要素(7−1)及び複写可能要素(8−1)の製版上の面積率を調整し、拡散反射光下で観察すると、複写けん制模様が肉眼では視認できないか、それに近い様相にするため、第1の画像領域(4−1)の面積率を55%とした。
なお、図14(a)に示した複写不能要素(7−1)は交差線で、図14(b)に示した複写可能要素(8−1)は縦線で表しているが、これらは作図上の表現であって、実際の各要素は内側が塗りつぶされている。
有色浸透インキについては、浸透型インキ(ユニマーク、帝国インキ製)を97重量パーセント、青色の透過性着色顔料(ダイピロキサイドTMブルー、大日精化工業製)を3重量パーセントの割合で配合して作製した。
以上の用紙及び有色浸透インキを用い、図13に示した印刷画像(3−1)をオフセット印刷方式で印刷して、複写けん制印刷物(1−1)を得た。
以上の手順で作製した複写けん制印刷物(1−1)を複写機A(ImagePressC1+、キャノン製)で複写し、複写防止効果について確認したところ、複写物では第2の画像領域(5−1)は複写され、第1の画像領域(4−1)が複写されないことで複写けん制模様が可視化し、複写けん制効果を確認できた。また、実施例1の比較対象物として、図13に示した印刷画像(3−1)を、実施例1で用いた有色浸透インキと等色の非浸透型オフセットインキを用いてオフセット印刷方式で印刷物を作製し、複写機Aで複写して、複写物Aを得た。複写けん制印刷物(1−1)の複写物を複写物Aと比較したところ、複写けん制印刷物(1−1)の複写物の方が、複写けん制模様が明瞭であり、従来の非浸透型オフセットインキで印刷して得た印刷物よりも、複写けん制効果が高いことが確認できた。
(実施例2)
実施例2は、複写けん制印刷物を構成する二つの要素のうち、複写不能要素を有色浸透型インキで、複写可能要素を有色非浸透インキでそれぞれ印刷した例である。以下、実施例2の複写けん制印刷物について説明するが、実施例1と同じ構成については説明を一部省略する。
実施例2の複写けん制印刷物(1−2)において、複写不能要素を形成する有色浸透インキは、実施例1と同じインキを用いた。また、複写可能要素を形成する有色非浸透インキには、有色浸透インキと等色で通常のUVオフセット印刷用青色インキ(T&K TOKA製)を用いた。
以上の手順で作製した複写けん制印刷物(1−2)を複写機Aで複写し、複写防止効果について確認したところ、複写物では第2の画像領域(5−2)は複写され、第1の画像領域(4−2)が複写されないことで複写けん制模様が可視化し、複写けん制効果を確認できた。また、実施例2の複写けん制印刷物(1−2)と実施例1の複写けん制印刷物(1−1)とを、色相等を詳細に調整できる複写機B(DocuColor4055P、富士ゼロックス社製)でそれぞれ複写して複写物を得た。これらの複写物を比較したところ、実施例2の複写けん制印刷物(1−2)の複写物の方が、複写けん制模様が明瞭であり、有色浸透型インキのみで印刷して得た印刷物よりも、さらに複写けん制効果が高いことが確認できた。加えて、作製した複写けん制印刷物(1−2)を光に透かすと、複写不能要素は見えなくなり、複写可能要素は見えるため、複写けん制模様に相当する画像が視認できた。
(実施例3)
実施例3は、実施例2の複写けん制印刷物に対して、拡散反射光下による観察で、第1の画像領域(4)と第2の画像領域(5)が区別して視認されない効果を高めるために、カムフラージュ模様(20)を施した例である。以下、実施例3の複写けん制印刷物について説明するが、実施例2と同じ構成については説明を一部省略する。
図15に実施例3における複写けん制印刷物(1−3)を示す。複写けん制印刷物(1−3)は、基材(2−3)の上に、淡い青色を有し、第1の画像領域(4−3)と第2の画像領域(5−3)とから構成される印刷画像(3−3)が形成されて成る。ここまでの構成は実施例2の複写けん制印刷物と同様であるが、実施例3の複写けん制印刷物(1−3)は、さらに、第1の画像領域(4−3)の複写不能要素(7−3)と第2の画像領域(5−3)の複写可能要素(8−3)に重ならない位置に、カムフラージュ要素(21)が形成され、カムフラージュ模様(20)である「星形」の図柄が形成される。
図16(a)は、カムフラージュ模様(20)が形成される第1の画像領域(4−3)の一部を拡大する図である。複写不能要素(7−3)と重ならない位置に、画素の幅(R3)及び画素の高さ(H3)が、0.120mmの円形のカムフラージュ要素(21)を、ピッチ(P1)0.170mmで、上下左右に規則的に配置し、カムフラージュ模様(20)の一部を形成した。図16(b)は、カムフラージュ模様(20)が形成される第2の画像領域(5−3)の一部を拡大する図である。複写可能要素(8−3)と重ならない位置に、画線幅(W3)が、0.120mmのカムフラージュ要素(21)をピッチ(P3)0.600ミリでS1方向に規則的に配置し、残りのカムフラージュ模様(20)を形成した。なお、カムフラージュ要素(21)を形成するインキは、実施例2で用いた有色浸透インキと同じインキを用いた。
なお、図16(a)に示す円形のカムフラージュ要素(21)は、上下左右方向の交差線、図16(b)に示す直線のカムフラージュ要素(21)は、横線で表しているが、これらは作図上の表現であって、実際の各要素は内側が塗りつぶされている。
以上の手順で作製した複写けん制印刷物(1−3)を、実施例1の複写けん制印刷物(1−1)及び実施例2の複写けん制印刷物(1−2)とそれぞれ比較したところ、複写けん制印刷物(1−3)は、複写けん制印刷物(1−1)及び複写けん制印刷物(1−2)に比べて第1の画像領域(4−3)と第2の画像領域(5−3)が視認しにくいことが確認できた。また、複写けん制印刷物(1−3)を複写機Aで複写したところ、複写けん制模様が明瞭であり、本発明の複写けん制印刷物が有するカムフラージュ模様は複写けん制効果を阻害しないことが確認できた。