ところで、上述した太陽電池において、受光面側に位置するn層の不純物濃度を低くし或いはそのn層を薄く(すなわちドナー元素のドーピング深さを浅く)して、そのn層のシート抵抗を高くすること、すなわちシャローエミッタ化することが試みられている。これにより、表面再結合速度を低下させ、延いては電圧や取り出せる電流を向上させることができるので、太陽電池の高効率化が可能になる。このようにシャローエミッタ化すると、特に400(nm)付近の短波長側も発電に寄与するようになるため、太陽電池の効率向上の面では理想的な解と考えられている。シャローエミッタでは受光面側のn層厚みが70〜100(nm)と、従来のシリコン太陽電池セルの100〜200(nm)に比較して更に薄くされていることから、受光により発生した電気のうちpn接合に達する前に熱に変わって有効に利用できなかった部分が減じられるため、短絡電流Iscが増大し、延いては発電効率が高められるのである。
しかしながら、上記シャローエミッタのようにn層が薄いすなわちpn接合部が浅い場合には、前述した受光面電極形成のための焼成処理において、ファイヤースルーで反射防止膜を十分に破り且つpn接合部に電極材料が侵入しないような侵入深さ制御が非常に困難になる。そのため、リーク電流Idが増大し延いてはFF値が低くなり易い問題がある。また、基板を焼成するにあたり、最高保持温度が高い場合や昇温開始から降温終了までの所要時間が長い場合など、熱量が強くかかる条件ではpn接合部が一層損傷させられ易く、理論値よりも特性が低下し易い。そのため、良好な特性が得られる温度範囲すなわち焼成マージンが狭くなる。
本発明は、以上の事情を背景として為されたもので、その目的は、n層の薄いシャローエミッタ構造の太陽電池にファイヤースルー法で電極を形成する際にも電極材料の侵入量の制御が容易で、FF値が高く且つリーク電流が小さく高効率の太陽電池を得ることのできる太陽電池電極用ペースト組成物を提供することにある。
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、導電性粉末と、ガラスフリットと、ベヒクルとを含む太陽電池電極用ペースト組成物であって、前記ガラスフリットが酸化物換算で6〜62(mol%)のPbOと、1〜18(mol%)のB2O3と、8〜49(mol%)のSiO2と、1〜30(mol%)のLi2Oと、1〜30(mol%)のTiO2と、0〜6(mol%)のP2O5とを含み、且つPb/(Si+Ti)(mol比)が0.2〜2.4の範囲内にあるガラスから成ることにある。
このようにすれば、太陽電池電極用ペースト組成物は、これを構成するガラスフリットが、6〜62(mol%)のPbO、1〜18(mol%)のB2O3、8〜49(mol%)のSiO2、1〜30(mol%)のLi2O、1〜30(mol%)のTiO2とを含み、且つPb/(Si+Ti)(mol比)が0.2〜2.4の範囲内にあり、更に、必須ではないが好ましい成分としてP2O5を0〜6.0(mol%)の範囲で含むガラスから成ることから、pn接合部が浅い場合にも、電極材料の侵入を容易に制御できる。そのため、本発明のペースト組成物を受光面電極の形成に用いれば、リーク電流Idが小さく、曲線因子FF値が高く、電流値が大きく、且つ光電変換率が高い太陽電池モジュールを製造し得る。
なお、前記ガラスフリット組成において、PbOは、ガラスの軟化点を低下させる成分で、低温焼成を可能とするための成分で、良好なファイヤースルー性を得るためにはPbOが6(mol%)以上且つ62(mol%)以下であることが必要である。PbO量が6(mol%)未満では軟化点が高くなり過ぎるのでガラス化が困難になると共に反射防止膜へ侵食し難くなり、延いては良好なオーミックコンタクトが得られなくなる。一方、62(mol%)を越えると軟化点が低くなり過ぎるので侵食性が強くなり過ぎてpn接合部が破壊され、延いてはFF値が小さくなる等の問題が生ずる。PbO量は、60(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、6〜60(mol%)の範囲が一層好ましい。また、38(mol%)以上が更に好ましく、59(mol%)以下が更に好ましい。すなわち、38〜59(mol%)の範囲が特に好ましい。
また、B2O3は、ガラス形成酸化物(すなわちガラスの骨格を作る成分)であり、ガラスの軟化点を低くするための成分で、良好なファイヤースルー性を得るためにはB2O3が1(mol%)以上且つ18(mol%)以下であることが必要である。B2O3量が1(mol%)未満では軟化点が高くなり過ぎるので反射防止膜へ侵食し難くなり、延いては良好なオーミックコンタクトが得られなくなると共に、耐湿性も低下する。特に、本願発明においてはガラス中にLiが含まれることから、B2O3が1(mol%)以上含まれていないと著しく熔け難くなる。一方、18(mol%)を越えると軟化点が低くなり過ぎるので侵食性が強くなり過ぎてpn接合部が破壊される等の問題が生ずる。何れにしても開放電圧Vocが低下する傾向がある。B2O3量は、3(mol%)以上が一層好ましく、12(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、3〜12(mol%)の範囲が一層好ましい。また、8(mol%)以下が更に好ましい。すなわち、3〜8(mol%)の範囲が特に好ましい。
また、SiO2は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの耐化学性を高くするための成分で、良好なファイヤースルー性を得るためにはSiO2が8(mol%)以上且つ49(mol%)以下であることが必要である。SiO2量が8(mol%)未満では耐化学性が不足すると共にガラス形成が困難になり、一方、49(mol%)を越えると軟化点が高くなり過ぎてガラス化し難くなって反射防止膜へ侵食し難くなり、延いては良好なオーミックコンタクトが得られなくなる。SiO2量は、32(mol%)以下が一層好ましい。
また、Li2Oは、ガラスの軟化点を低下させる成分で、良好なファイヤースルー性を得るためには、Li2Oが1.0(mol%)以上且つ30(mol%)以下であることが必要である。Li2Oが1.0(mol%)未満では軟化点が高くなり過ぎ延いては反射防止膜への侵食性が不十分になる。一方、30(mol%)を越えるとアルカリが溶出すると共に侵食性が強くなり過ぎるので却って電気的特性が低下する。因みに、Liは、拡散を促進することから一般に半導体に対しては不純物であって、特性を低下させる傾向があることから半導体用途では避けることが望まれるものである。特に、通常はPb量が多い場合にLiを含むと侵食性が強くなり過ぎて制御が困難になる傾向がある。しかしながら、上記のような太陽電池用途においては、Liを含むガラスを用いても特性低下が認められず、却って適量が含まれていることでファイヤースルー性が改善され、特性向上が認められた。Liはドナー元素であり、接触抵抗Rcを低くすることもでき、また、ドナー補償効果により焼成マージンが一層広がる利点もある。しかも、Liを含む組成とすることにより、良好なファイヤースルー性を得ることのできるガラスの組成範囲が広くなることが認められた。尤も、太陽電池用途においても、過剰に含まれると侵食性が強くなり過ぎ、電気的特性が低下する傾向にある。Li2O量は、12(mol%)以下が一層好ましい。
また、TiO2は、接触抵抗Rcを低減し、延いては直列抵抗Rsを低減することで、FF値を高める作用があり、1.0(mol%)以上且つ30(mol%)以下の範囲で含まれることが必要である。Ti量が1.0(mol%)未満では、Rc、Rsを十分に低くできず、FF値が低くなる。一方、Tiが30(mol%)よりも多くなると軟化点が上昇するので焼成温度が1250(℃)以下である通常の焼成炉ではフリットの製造自体が困難になる。
また、PbO、SiO2、TiO2は、それぞれ上記の範囲内にあるだけでなく、更にPb/(Si+Ti)(mol比)が、0.2以上且つ2.4以下であることが必要である。Pb/(Si+Ti)mol比が0.2未満すなわち(Si+Ti)がPbに対して過剰では、熔けにくくなるのでファイヤースルー性が低下し、受光面電極およびn層間のRcが高くなり、延いてはFF値が低下する。なお、熔けやすくするためにLiやZnを多くすることも考えられるが、これらではFF値は一層低下する。一方、Pb/(Si+Ti)mol比が2.4を超えると、Pbの影響が大きくなることから侵食性が強くなり過ぎてpn接合部が破壊されるため、Idが著しく大きくなるので、FF値が低下し、十分な出力特性が得られなくなる。要するに、前述したようにTiはガラス軟化点を上昇させることから、Siと同様にファイヤースルーの際の侵食量に影響を与えるので、Ti量を増やす場合には、Pb/(Si+Ti)mol比が上記範囲内となるようにPb量およびSi量を同時に調整して侵食量を制御することが必要である。Pb/(Si+Ti)は、2.0以下が一層好ましい。また、1.0以上が更に好ましく、1.9以下が更に好ましい。すなわち、1.0〜1.9が特に好ましい。
因みに、導電性ペーストを構成するガラスフリット中にTiを含有させることで良好なオーミック接触を得て、延いてはFF値の低下を抑制することが提案されている(前記特許文献4,5等を参照。)。Tiが含まれると、焼成時にシリサイドが形成されるので、前述したようにn型シリコン層および銀電極間のRcが低減させられるものと考えられる。高シート抵抗のシャローエミッタにおいては、このようなオーミック接触の改善が必須であるが、Tiには電極材料の侵入深さを深くする作用があるため、その侵入深さの制御が一層困難になる。これに対して、本願発明によれば、Pb/(Si+Ti)を上述したように適切な範囲に定めることで、Rcを低下させ且つ侵入深さ制御が容易になる利点がある。
また、シャローエミッタを構成するに際しては、前述したようにn層が高シート抵抗化されるが、表面近傍のドナー元素濃度が低くされる場合には、Ag-Si間のバリア障壁が増加してオーミック接触の確保が困難になる。一方、n層が薄くされる場合には侵入深さ制御が困難になって、n層およびAg電極間のRcが増大する。何れにしてもFF値の低下要因となっていたが、本発明によれば、上述したようにTi量およびPb/(Si+Ti)量を適切に制御することで、これらの問題が解消するのである。
また、P2O5はn層に対するドナー元素であって、受光面電極のオーミックコンタクトの確保を容易にすることから、任意ではあるが含まれることが好ましい成分である。P2O5は6.0(mol%)以下であることが必要である。6.0(mol%)を超えると、ガラスが溶け難くなると共にデッドレイヤー(再結合速度の大きい層)が生ずる。
一般に、オーミックコンタクトを確保するためには、ドナー元素を高濃度で固溶させることが望ましい。一方、シャローエミッタを構成する高シート抵抗のセルでは、例えばSi3N4から成る反射防止膜の厚さ寸法を80(nm)程度として、電極による侵食量を80〜90(nm)の範囲内、すなわち10(nm)の精度で制御することが望ましい。しかしながら、このような制御は極めて困難であり、僅かに侵食過剰となった状態に制御せざるを得ない。そのため、侵食されたn層に対してドナー元素を補うことでその侵食過剰による出力低下を抑制する。斯かる条件下でオーミックコンタクトを確保するためには、ドナー元素の濃度を1019(個/cm3)以上、好ましくは1020(個/cm3)以上にすることが望ましいが、Li等のガラス成分以外でこのような高濃度を得ることのできる元素は、As、P、Sbに限られる。これらのうちAsは毒性が強いことから開放系で操作されるガラス製造では好まれないが、SbはPに代えて用い得る元素である。
なお、上記各成分は、ガラス中に如何なる形態で含まれているか必ずしも特定が困難であるが、これらの割合は何れも酸化物換算した値とした。
また、本発明の導電性ペーストを構成する前記ガラスは、その特性を損なわない範囲で他の種々のガラス構成成分や添加物を含み得る。例えば、Al、Zn、Zr、Na、Ca、Mg、K、Ba、Sr等が含まれていても差し支えない。これらは例えば合計30(mol%)以下の範囲で含まれ得る。これらのうち、Al、Znは、適量含まれることで並列抵抗Rshを向上させ、延いてはVocおよびIscを向上させる作用がある。なお、これらAlおよびZnは何れもアクセプタであるので、シャローエミッタにおいて必須とされるドナー補償を妨げる。これに対して、LiおよびPは前述したようにドナー補償効果があるので、AlやZnを含む場合には、LiやPを相当量含むことが望ましい。
また、本発明の導電性ペースト組成物は、上述したように容易に良好なオーミック接触が得られる。そのため、例えばシート抵抗値が80〜120(Ω/□)程度の高シート抵抗基板にも好適に適用される。しかしながら、これよりもシート抵抗値の低い基板にも適用可能であり、シャローエミッタではない従来構造の太陽電池用にも同様に適用可能である。また、ペースト中のガラス成分を従来に比較して少なくすることができることから、銀グリッド電極の抵抗値を低下させ得るので、細線化が容易な利点もある。
ここで、好適には、前記ガラスは酸化物換算で6〜60(mol%)のPbOと、3〜12(mol%)のB2O3と、8〜32(mol%)のSiO2と、1〜30(mol%)のLi2Oと、1〜30(mol%)のTiO2と、0〜4(mol%)のP2O5とを含み、且つPb/(Si+Ti)(mol比)が0.2〜2.0の範囲内にあることが望ましい。
また、好適には、前記ガラスは酸化物換算で38〜59(mol%)のPbOと、3〜8(mol%)のB2O3と、8〜32(mol%)のSiO2と、1〜12(mol%)のLi2Oと、3〜30(mol%)のTiO2と、0〜2(mol%)のP2O5とを含み、且つPb/(Si+Ti)(mol比)が1.0〜1.9の範囲内にあることが望ましい。
また、前記ガラスフリットは平均粒径(D50)が0.3〜3.0(μm)の範囲内である。ガラスフリットの平均粒径が小さすぎると電極の焼成時に融解が早すぎるため電気的特性が低下するが、0.3(μm)以上であれば適度な融解性が得られるので電気的特性が一層高められる。しかも、凝集が生じ難いのでペースト調製時に一層良好な分散性が得られる。また、ガラスフリットの平均粒径が導電性粉末の平均粒径よりも著しく大きい場合にも粉末全体の分散性が低下するが、3.0(μm)以下であれば一層良好な分散性が得られる。しかも、ガラスの一層の溶融性が得られる。したがって、一層良好なオーミックコンタクトを得るためには上記平均粒径が好ましい。
なお、上記ガラスフリットの平均粒径は空気透過法による値である。空気透過法は、粉体層に対する流体(例えば空気)の透過性から粉体の比表面積を測定する方法をいう。この測定方法の基礎となるのは、粉体層を構成する全粒子の濡れ表面積とそこを通過する流体の流速および圧力降下の関係を示すコゼニー・カーマン(Kozeny-Carmann)の式であり、装置によって定められた条件で充填された粉体層に対する流速と圧力降下を測定して試料の比表面積を求める。この方法は充填された粉体粒子の間隙を細孔と見立てて、空気の流れに抵抗となる粒子群の濡れ表面積を求めるもので、通常はガス吸着法で求めた比表面積よりも小さな値を示す。求められた上記比表面積および粒子密度から粉体粒子を仮定した平均粒径を算出できる。
また、好適には、前記導電性粉末は平均粒径(D50)が0.3〜3.0(μm)の範囲内の銀粉末である。導電性粉末としては銅粉末やニッケル粉末等も用い得るが、銀粉末が高い導電性を得るために最も好ましい。また、銀粉末の平均粒径が3.0(μm)以下であれば一層良好な分散性が得られるので一層高い導電性が得られる。また、0.3(μm)以上であれば凝集が抑制されて一層良好な分散性が得られる。なお、0.3(μm)未満の銀粉末は著しく高価であるため、製造コストの面からも0.3(μm)以上が好ましい。また、導電性粉末、ガラスフリット共に平均粒径が3.0(μm)以下であれば、細線パターンで電極を印刷形成する場合にも目詰まりが生じ難い利点がある。
なお、前記銀粉末は特に限定されず、球状や鱗片状等、どのような形状の粉末が用いられる場合にも導電性を保ったまま細線化が可能であるという本発明の基本的効果を享受し得る。但し、球状粉を用いた場合が印刷性に優れると共に、塗布膜における銀粉末の充填率が高くなるため、導電性の高い銀が用いられることと相俟って、鱗片状等の他の形状の銀粉末が用いられる場合に比較して、その塗布膜から生成される電極の導電率が高くなる。そのため、必要な導電性を確保したまま線幅を一層細くすることが可能となることから、特に好ましい。
また、好適には、前記太陽電池電極用ペースト組成物は、25(℃)−20(rpm)における粘度が150〜250(Pa・s)の範囲内、粘度比(すなわち、10(rpm)における粘度/100(rpm)における粘度)が3〜8である。このような粘度特性を有するペーストを用いることにより、スキージングの際に好適に低粘度化してスクリーンメッシュを透過し、その透過後には高粘度に戻って印刷幅の広がりが抑制されるので、スクリーンを容易に透過して目詰まりを生じないなど印刷性を保ったまま細線パターンが容易に得られる。ペースト組成物の粘度は、180〜230(Pa・s)の範囲が一層好ましく、粘度比は3.2〜6.5の範囲が一層好ましい。また、設計線幅が100(μm)以下の細線化には粘度比4〜6が望ましい。
なお、線幅を細くしても断面積が保たれるように膜厚を厚くすることは、例えば、印刷製版の乳剤厚みを厚くすること、テンションを高くすること、線径を細くして開口径を広げること等でも可能である。しかしながら、乳剤厚みを厚くすると版離れが悪くなるので印刷パターン形状の安定性が得られなくなる。また、テンションを高くし或いは線径を細くすると、スクリーンメッシュが伸び易くなるので寸法・形状精度を保つことが困難になると共に印刷製版の耐久性が低下する問題がある。しかも、太幅で設けられることから膜厚を厚くすることが無用なバスバーも厚くなるため、材料の無駄が多くなる問題もある。
また、好適には、前記太陽電池電極用ペースト組成物は、前記導電性粉末を74〜90重量部、前記ベヒクルを3〜20重量部の範囲内の割合で含むものである。このようにすれば、印刷性が良好で線幅の細く導電性の高い電極を容易に形成できるペースト組成物が得られる。
また、好適には、前記導電性ペースト組成物は、前記ガラスフリットを前記導電性粉末100重量部に対して1〜10重量部の範囲で含むものである。1重量部以上含まれていれば十分な侵食性(ファイヤスルー性)が得られるので、一層良好なオーミックコンタクトが得られる。また、10重量部以下に留められていれば絶縁層が形成され難いので十分な導電性が得られる。導電性粉末100重量部に対するガラス量は、1〜8重量部が一層好ましく、1〜7重量部が更に好ましい。
また、本願発明の導電性ペースト組成物は、前述したようにファイヤースルーによる電極形成時の銀の拡散を好適に制御し得るものであるから、受光面電極に好適に用い得る。また、受光面に設けられる反射防止膜の構成材料は、酸化チタン、二酸化珪素、窒化珪素等種々のものが挙げられる。本発明のペーストは何れの場合にも適用可能であるが、特に窒化珪素薄膜で反射防止膜が構成される場合に好適である。
また、前記ガラスフリットは、前記組成範囲でガラス化可能な種々の原料から合成することができ、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等が挙げられるが、例えば、Si源としては二酸化珪素SiO2を、B源としては硼酸B2O3を、Pb源としては鉛丹Pb3O4を用い得る。また、Ti源としては酸化チタン TiO2を、Li源としては炭酸リチウム Li2CO3を、P源としてはリン酸二水素アンモニウム NH4H2PO4を、Al源としては酸化アルミニウム Al2O3を、それぞれ用い得る。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例の導電性組成物が適用されたシリコン系太陽電池10を備えた太陽電池モジュール12の断面構造を模式的に示す図である。図1において、太陽電池モジュール12は、上記太陽電池10と、これを封止する封止材14と、受光面側において封止材14上に設けられた表面ガラス16と、裏面側から太陽電池10および封止材14を保護するために設けられた保護フィルム(すなわちバックシート)18とを備えている。上記封止材14は、例えば、EVAから成るもので、十分な耐候性を有するように、架橋剤、紫外線吸収剤、接着保護剤等が適宜配合されている。また、上記保護フィルム18は、例えば弗素樹脂やポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、或いはPETやEVA等から成る樹脂フィルムを複数枚貼り合わせたもの等から成るもので、高い耐候性や水蒸気バリア性等を備えている。
また、上記の太陽電池10は、例えばp型多結晶半導体であるシリコン基板20と、その上下面にそれぞれ形成されたn層22およびp+層24と、そのn層22上に形成された反射防止膜26および受光面電極28と、そのp+層24上に形成された裏面電極30とを備えている。上記シリコン基板20の厚さ寸法は例えば100〜200(μm)程度である。
上記のn層22およびp+層24は、シリコン基板20の上下面に不純物濃度の高い層を形成することで設けられたもので、その高濃度層の厚さ寸法はn層22が例えば70〜100(nm)程度、p+層24が例えば500(nm)程度である。n層22は、一般的なシリコン系太陽電池では100〜200(nm)程度であるが、本実施例ではそれよりも薄くなっており、シャローエミッタと称される構造を成している。なお、n層22に含まれる不純物は、n型のドーパント、例えば燐(P)で、p+層24に含まれる不純物は、p型のドーパント、例えばアルミニウム(Al)や硼素(B)である。
また、前記の反射防止膜26は、例えば、窒化珪素 Si3N4等から成る薄膜で、例えば可視光波長の1/4程度の光学的厚さ、例えば80(nm)程度で設けられることによって10(%)以下、例えば2(%)程度の極めて低い反射率に構成されている。
また、前記の受光面電極28は、例えば一様な厚さ寸法の厚膜導体から成るもので、図2に示されるように、受光面32の略全面に、多数本の細線部を有する櫛状を成す平面形状で設けられている。
上記の厚膜導体は、Agを100重量部に対してガラスを1〜10重量部の範囲で、例えば6.0重量部含む厚膜銀から成るもので、そのガラスは酸化物換算した値で、PbOを6〜62(mol%)の範囲内、例えば39.0(mol%)、B2O3を1〜18(mol%)の範囲内、例えば8.0(mol%)、SiO2を8〜49(mol%)の範囲内、例えば31.0(mol%)、Al2O3を0〜30(mol%)の範囲内、例えば3.0(mol%)、Li2Oを1〜30(mol%)の範囲内、例えば12.0(mol%)、TiO2を1〜30(mol%)の範囲内、例えば3.0(mol%)、ZnOを0〜30(mol%)の範囲内、例えば3.0(mol%)、ZrO2を0〜1.0(mol%)の範囲内、例えば0(mol%)、P2O5を0〜6(mol%)の範囲内、例えば1.0(mol%)の割合でそれぞれ含む鉛ガラスである。また、上記鉛ガラスにおいて、PbO、SiO2、TiO2は、Pb/(Si+Ti)モル比が0.2〜2.4の範囲内、例えば1.10の割合となるように含まれている。
また、上記の導体層の厚さ寸法は例えば20〜30(μm)の範囲内、例えば25(μm)程度で、細線部の各々の幅寸法は例えば80〜130(μm)の範囲内、例えば100(μm)程度で、十分に高い導電性を備えている。
また、前記の裏面電極30は、p+層24上にアルミニウムを導体成分とする厚膜材料を略全面に塗布して形成された全面電極34と、その全面電極34上に帯状に塗布して形成された厚膜銀から成る帯状電極36とから構成されている。この帯状電極36は、裏面電極30に半田リボン38や導線等を半田付け可能にするために設けられたものである。前記受光面電極28にも裏面側と同様に半田リボン38が溶着されている。
本実施例の太陽電池10は、受光面電極28が前述したようにPbOを6〜62(mol%)の範囲内、B2O3を1〜18(mol%)の範囲内、SiO2を8〜49(mol%)の範囲内、Al2O3を0〜30(mol%)の範囲内、Li2Oを1〜30(mol%)の範囲内、TiO2を1〜30(mol%)の範囲内、ZnOを0〜30(mol%)の範囲内、ZrO2を0〜1.0(mol%)の範囲内、P2O5を0〜6(mol%)の範囲内の割合でそれぞれ含む組成の鉛ガラスを、銀100重量部に対して1〜10重量部の範囲で含む厚膜銀で構成されていることから、侵食量が80〜90(nm)程度すなわち反射防止膜26の厚さ寸法よりも最大で10(nm)程度だけ大きい深さに制御されているので、線幅が100(μm)程度に細くされているにも拘わらず、n層22との間で良好なオーミックコンタクトが得られ、接触抵抗が低くなっている。
しかも、本実施例の受光面電極28は、前述したようにガラス量が1〜10重量部程度と少量にされていることから高い導電性を有しているため、膜厚および線幅が何れも小さくされているにも拘わらずライン抵抗が低いので、接触抵抗が低いことと相俟って太陽電池10の光電変換効率が高められている。
上記のような受光面電極28は、例えば、導体粉末と、ガラスフリットと、ベヒクルと、溶剤とから成る電極用ペーストを用いて良く知られたファイヤースルー法によって形成されたものである。その受光面電極形成を含む太陽電池10の製造方法の一例を以下に説明する。
まず、上記ガラスフリットを作製する。Ti源として酸化チタン TiO2を、Li源として炭酸リチウム Li2CO3を、Al源として酸化アルミニウム Al2O3を、P源としてリン酸二水素アンモニウム NH4H2PO4を、Si源として二酸化珪素 SiO2を、B源として硼酸 B2O3を、Pb源として鉛丹 Pb3O4をそれぞれ用意し、前述した範囲内の適宜の組成となるように秤量して調合する。これを坩堝に投入して組成に応じた900〜1250(℃)の範囲内の温度で、30分〜1時間程度溶融し、急冷することでガラス化させる。このガラスを遊星ミルやボールミル等の適宜の粉砕装置を用いて粉砕する。粉砕後の平均粒径(D50)は例えば0.3〜3.0(μm)程度である。なお、上記ガラス粉末の平均粒径は前述した空気透過法を用いて算出したものである。
一方、導体粉末として、例えば、平均粒径(D50)が0.3〜3.0(μm)の範囲内の市販の球状の銀粉末を用意する。このような平均粒径が十分に小さい銀粉末を用いることにより、塗布膜における銀粉末の充填率を高め延いては導体の導電率を高めることができる。また、前記ベヒクルは、有機溶剤に有機結合剤を溶解させて調製したもので、有機溶剤としては、例えばブチルカルビトールアセテートが、有機結合剤としては、例えばエチルセルロースが用いられる。ベヒクル中のエチルセルロースの割合は例えば15(wt%)程度である。また、ベヒクルとは別に添加する溶剤は、例えばブチルカルビトールアセテートである。すなわち、これに限定されるものではないが、ベヒクルに用いたものと同じ溶剤でよい。この溶剤は、ペーストの粘度調整の目的で添加される。
以上のペースト原料をそれぞれ用意して、例えば導体粉末を77〜88(wt%)の範囲内、ガラスフリットを1〜10(wt%)の範囲内、ベヒクルを8〜14(wt%)の範囲内、溶剤を2〜5(wt%)の範囲内の割合で秤量し、攪拌機等を用いて混合した後、例えば三本ロールミルで分散処理を行う。これにより、前記電極用ペーストが得られる。ペーストの粘度は、20(rpm)、25(℃)の条件下で180〜230(Pa・s)の範囲内となるように調製した。
上記のようにして電極用ペーストを調製する一方、適宜のシリコン基板に例えば、熱拡散法やイオンプランテーション等の良く知られた方法で不純物を拡散し或いは注入して前記n層22およびp+層24を形成することにより、前記シリコン基板20を作製する。次いで、これに例えばPE−CVD(プラズマCVD)等の適宜の方法で窒化珪素薄膜を形成し、前記反射防止膜26を設ける。
次いで、上記の反射防止膜26上に前記図2に示すパターンで前記電極用ペーストをスクリーン印刷する。これを例えば150(℃)で乾燥し、更に、近赤外炉において700〜800(℃)の範囲内の温度で焼成処理を施す。これにより、その焼成過程で電極用ペースト中のガラス成分が反射防止膜26を溶かし、その電極用ペーストが反射防止膜26を破るので、電極用ペースト中の導体成分すなわち銀とn層22との電気的接続が得られ、前記図1に示されるようにシリコン基板20と受光面電極28とのオーミックコンタクトが得られる。受光面電極28は、このようにして形成される。
なお、前記裏面電極30は、上記工程の後に形成してもよいが、受光面電極28と同時に焼成して形成することもできる。裏面電極30を形成するに際しては、上記シリコン基板20の裏面全面に、例えばアルミニウムペーストをスクリーン印刷法等で塗布し、焼成処理を施すことによってアルミニウム厚膜から成る前記全面電極34を形成する。更に、その全面電極34の表面に前記電極用ペーストをスクリーン印刷法等を用いて帯状に塗布して焼成処理を施すことによって、前記帯状電極36を形成する。これにより、裏面全面を覆う全面電極34と、その表面の一部に帯状に設けられた帯状電極36とから成る裏面電極30が形成され、前記の太陽電池10が得られる。上記工程において、同時焼成で製造する場合には、受光面電極28の焼成前に印刷処理を施すことになる。
次に、ガラス組成を種々変更して、上記の製造工程に従って太陽電池10を製造して評価した結果を説明する。太陽電池特性については、市販のソーラーシミュレータを用いてその出力を測定して、曲線因子FF値およびリーク電流Idを求めた。また、Rcはn層22と受光面電極(Ag電極)28との間の接触抵抗で、Transfer Length Method(TLM)法を用いて以下のようにして求めた。すなわち、先ず、前記製造工程における受光面電極28の形成と同様にして、複数本の帯状のオーミック電極を互いに平行且つ相互間隔が各々異なるようにn層上にファイヤースルーによって形成する。形成した電極パターンを図3(a)、(b)に示す。次いで、形成した各電極対間の電気抵抗を4端子法を用いて測定する。測定した電気抵抗を、電極間隔を横軸(x軸)にとり、電気抵抗測定値を縦軸(y軸)にとった座標上に記すと、図4に示すように記した点から得られる近似的な一次直線のy切片が2Rcになる。図5はこの測定原理を説明したもので、測定された抵抗値をRtotal、電極対間のシート抵抗をRsheet、電極間隔をdとしたとき、以下の関係式が成り立つので、図4のグラフにおけるy切片が2Rcになる。
Rtotal=2Rc+Rsheet・d
なお、グラフの傾きがRsheetである。また、x切片は遷移長Ltと称され、これは電極下で電気的な接触に影響を与えている領域として定義される。また、上記のRc、Lt、およびオーミック電極の長さから固有接触抵抗ρcを算出できる。
上記評価結果を、ガラス組成と併せて表1に示す。表1において、No.欄の数字に△を付したものが本発明の範囲外の比較例であり、他が本発明の範囲内の実施例である。すなわち、No.5,7,14,18〜20,25,28,33,35,39,42,46,48,49が比較例、他が実施例である。これらの実施例のうち、No.欄の数字に○を付したもの(No.8,11,12,21,23,24,29,32)は、後述するように本発明の範囲内の最適組成であり、中でも特に好ましいもの(No.12,21,24,29,32)に◎を付した。FF値は良好なオーミックコンタクトが得られているか否かの判定であり、一般に、太陽電池はFF値が70以上であれば使用可能とされているが、高いほど好ましいのはもちろんであり、本実施例においては、FF値が75より大きいものを合格とした。また、リーク電流Idはpn接合に電極の侵入が起きたか否かの判定基準となるもので、低い方が好ましいが、-10(V)で1.0(A)以下であれば使用可能であるので、0.2(A)以下を◎、0.5(A)以下を○、1.0(A)以下を△、1.0(A)超を×とした。また、固有接触抵抗ρcはFF値の低下要因の一つであって、低い方が好ましいものの、ρcが低くとも必ずしも高いFF値が得られないが、種々のFF値低下要因のうちの一つを排除した状態でガラス組成を評価することや、Ti添加の効果を確認する目的で掲載している。
なお、各試料は平均粒径1.6(μm)の球状のAg粉と平均粒径1.5(μm)のガラスフリットとを用いて作製した。調合割合はAg粉 83(wt%)、ガラスフリット 4(wt%)、ベヒクル 8(wt%)、溶剤 5(wt%)を基本とし、印刷性を同等とするために、25(℃)−20(rpm)における粘度が180〜230(Pa・s)になるようにベヒクル量および溶剤量を調整した。また、受光面電極28を形成する際の印刷製版は、線径23(μm)のSUS325製スクリーンメッシュに20(μm)厚の乳剤を設けたものとした。また、グリッドラインの幅寸法が100(μm)となるように印刷条件を設定した。また、基板のn層のシート抵抗は90±10(Ω/□)である。
上記表1には、実施例として、基本骨格を構成するPbO-B2O3-SiO2にAl2O3、Li2O、TiO2、ZnO、ZrO2、P2O5が添加されたPbO-B2O3-SiO2-Al2O3-Li2O-TiO2-ZnO-ZrO2-P2O5の9成分系と、これらのうち幾つかの元素を欠く4成分系〜8成分系のガラスが示されている。本願発明では、Pb、B、Si、Li、Tiの5つの元素が必須成分であり、実施例はこれら5成分から成り、或いはこれらに加えて他の4成分のうちの1〜4種を含む組成を有する。
No.1〜4は、Li量の上限を確認したものである。Pbが9.0〜17.0(mol%)、Bが12.0(mol%)、Siが15.0(mol%)、Alが6.0(mol%)、Liが25.0〜30.0(mol%)、Tiが15.0(mol%)、Znが7.0〜13.0(mol%)、ZrおよびPが0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が0.3〜0.6の範囲内の組成では、何れもFF値が77と極めて高い特性が得られた。No.4はLi量を上限近傍でNo.1〜3よりも少なくして変化を確かめたものである。また、IdはPbが多くなるほど、すなわちPb/(Si+Ti)が大きくなるほど増大する傾向があるが、No.3,4を対比すると、No.4ではIdが0.5(A)以下に抑えられているので、Liを減じ、Znを増すとこの傾向が緩和されるものと考えられる。また、ρcは0.008〜0.010(Ω・cm2)と十分に低い値であった。これらの評価結果によれば、他の元素、特にPb量との兼ね合いもあるが、Liは30.0(mol%)以下の範囲で含むことができる。
No.5は、No.10と併せて必須5成分の組成でSi量の上限を確認したもので、Pbが29.5〜46.0(mol%)、Bが1.0〜14.6(mol%)、Siが49.0〜51.2(mol%)、Alが0(mol%)、Liが3.0〜3.7(mol%)、Tiが1.0(mol%)、Zn、ZrおよびPが0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が0.6〜0.9の範囲内の組成では、No.10に示されるようにSiが49.0(mol%)でFF値が76、Idが1.0(A)以下の十分な特性が得られたが、No.5に示されるようにSiが51.2(mol%)になるとFF値が36と著しく低下し、Idも1.0(A)超と大きくなった。この評価結果によれば、Siの上限は49.0(mol%)と考えられる。すなわち、Ti量が適切であっても、Si量が過剰ではFF値が低くなる。なお、Al、Pを含む7成分系であるが、No.49もSi量の上限を超えた組成であり、FF値が44と低い結果となった。
No.7は、前記No.1〜3と併せてLi量の上限を確認したもので、Pbが29.0(mol%)、Bが4.0(mol%)、Siが20.0(mol%)、Alが0(mol%)、Liが35.0(mol%)、Tiが12.0(mol%)、Zn、ZrおよびPが0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が0.9の組成では、FF値が73に留まり不十分な結果であった。Tiはρcを低くしてFF値を高める効果が認められるが、ドナー元素であるLiが過剰になると、ρcは低くなってもFF値が低くなって、Ti添加効果を十分に享受することができない。n層にLiが過剰に拡散し、電子の再結合が促進されるためと考えられる。この結果および前記No.1〜3の結果から、Li量の上限は30.0(mol%)である。
No.14は、No.31と併せてP量の上限を確認したもので、Pbが38.6〜45.0(mol%)、Bが6.0〜7.9(mol%)、Siが24.0〜28.5(mol%)、Alが0.5〜6.0(mol%)、Liが12.0(mol%)、Tiが1.0〜3.0(mol%)、Znが0(mol%)、Zrが0〜0.5(mol%)、Pが6.0〜9.0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が1.2〜1.8の範囲内の組成では、No.31に示されるようにP量が6.0(mol%)でFF値が76、Idが0.5(A)以下の十分な特性が得られたが、No.14に示されるようにP量が9.0(mol%)ではFF値が68に留まり不十分な結果となった。P量が過剰になる場合も、Liが過剰になる場合と同様に、電子の再結合が促進されるためと考えられる。これらの結果によれば、P量の上限は6.0(mol%)である。
No.16は、No.18と併せて必須5成分系でB量の上限を確認したもので、Pbが37.0〜38.0(mol%)、Bが18.0〜21.0(mol%)、Siが15.0〜17.0(mol%)、Alが0(mol%)、Liが12.0(mol%)、Tiが15.0(mol%)、Zn、Zr、およびPが0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が1.2の範囲内の組成では、No.16に示されるようにB量が18.0(mol%)でFF値が76、Idが0.5(A)以下の十分な特性が得られたが、No.18に示されるようにB量が21.0(mol%)ではFF値が74に留まり不十分な結果となった。これらの結果によれば、B量の上限は18.0(mol%)である。なお、No.13はB量を上限近傍でNo.16よりも少なくして変化を確かめたもので、同程度の結果が得られている。
No.17は、No.10やNo.25、28と併せてTi量の下限を確認したもので、5成分系〜9成分系の種々の組成において、No.10、17に示されるようにTi量が1.0(mol%)であれば、76以上のFF値と1.0(A)以下のIdが得られることが確かめられた。これに対して、Tiを欠くNo.25、28では、FF値が72〜74に留まった。これらの結果によれば、Ti量の下限は1.0(mol%)である。
No.19は、No.24と併せて5成分系でSi量の下限およびTi量の上限を確認したもので、No.24に示されるようにPbが48.0〜50.0(mol%)、Bが6.0(mol%)、Siが5.0〜8.0(mol%)、Alが0(mol%)、Liが6.0(mol%)、Tiが30.0〜35.0(mol%)、Zn、Zr、およびPが0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が1.2〜1.3の範囲内の組成では、Si量が8.0(mol%)、Ti量が30.0(mol%)でFF値が78、Idが0.2(A)以下の極めて高い特性が得られたが、No.19に示されるようにSi量が5.0(mol%)、Ti量が35.0(mol%)ではガラスフリット製造の際にガラス原料が熔融せず、評価不能であった。これらの結果によれば、Si量の下限は8.0(mol%)、Ti量の上限は30.0(mol%)である。
No.20は、No.10、22と併せて5成分系でB量の下限を確認したもので、Pbが46.0〜54.0(mol%)、Bが0〜1.0(mol%)、Siが23.0〜49.0(mol%)、Alが0(mol%)、Liが3.0〜12.0(mol%)、Tiが1.0〜15.0(mol%)、Zn、Zr、およびPが0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が0.9〜1.3の範囲内の組成では、No.10、22に示されるようにB量が1.0(mol%)でFF値が76〜77、Idが1.0(A)以下の高い特性が得られたが、No.20に示されるようにB量が0(mol%)ではFF値が71に留まった。これらの結果によれば、B量の下限は1.0(mol%)である。
No.32は、No.39と併せてLi量の下限を確認したもので、Pbが51.0〜58.5(mol%)、Bが4.0〜10.0(mol%)、Siが25.0〜28.0(mol%)、Alが0〜3.0(mol%)、Liが0〜1.0(mol%)、Tiが3.0〜10.0(mol%)、Znが0〜4.0(mol%)、Zrが0〜0.5(mol%)、Pが0〜2.0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が1.5〜1.9の範囲内の組成では、No.32に示されるようにLi量が1.0(mol%)でFF値が78、Idが0.2(A)以下の極めて高い特性が得られたが、No.39に示されるようにLi量が0(mol%)ではFF値が74に留まり、Idも1.0(A)超となった。これらの結果によれば、Li量の下限は1.0(mol%)である。
No.33は、No.34、38、47、48と併せてPb量の上限を確認したもので、Pbが60.0〜64.0(mol%)、Bが1.0〜4.0(mol%)、Siが15.0〜30.0(mol%)、Alが0〜1.0(mol%)、Liが0〜6.0(mol%)、Tiが1.0〜15.0(mol%)、Znが0〜4.0(mol%)、Zrが0〜1.0(mol%)、Pが0〜2.0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が1.9〜2.4の範囲内の組成では、No.34、47に示されるようにPb量が60.0〜62.0(mol%)でFF値が76〜77、Idが1.0(A)以下の高い特性が得られたが、No.33、48に示されるようにPb量が63.0(mol%)以上ではFF値が73以下に留まった。すなわち、Ti量が適切でも、Pb量が過剰ではFF値が低くなる。これらの結果によれば、Pb量の上限は62.0(mol%)である。
No.34は、No.35と併せてPb/(Si+Ti)の上限を確認したもので、Pbが60.0〜62.0(mol%)、Bが4.0〜6.0(mol%)、Siが22.0〜25.0(mol%)、Alが0.5〜1.0(mol%)、Liが1.0(mol%)、Tiが1.0(mol%)、Znが4.0〜7.0(mol%)、Zrが0〜0.5(mol%)、Pが2.0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が2.4〜2.6の範囲内の組成では、No.34に示されるようにPb/(Si+Ti)が2.4でFF値が77、Idが1.0(A)以下の高い特性が得られたが、No.35に示されるようにPb/(Si+Ti)が2.6ではFF値が73に留まった。これらの結果によれば、Pb/(Si+Ti)の上限は2.4である。なお、No.37はPb(Si+Ti)の上限近傍でNo.34よりも小さくして特性を確認したもので、リーク電流IdがNo.34よりも少なくなることから、Pb/(Si+Ti)は2.0以下に留める方が好ましい可能性がある。
No.41は、No.42、46と併せてPb量の下限およびPb/(Si+Ti)を確認したもので、Pbが3.0〜6.0(mol%)、Bが12.0(mol%)、Siが15.0(mol%)、Alが6.0(mol%)、Liが30.0(mol%)、Tiが15.0(mol%)、Znが16.0〜19.0(mol%)、Zr、Pが0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が0.1〜0.2の範囲内の組成では、No.41に示されるようにPb量が6.0(mol%)、Pb/(Si+Ti)が0.2でFF値が77、Idが0.2(A)以下の高い特性が得られたが、Pb量が3.0(mol%)ではFF値が73に留まり(No.42)、Pb量が6.0(mol%)でもPb/(Si+Ti)が0.1ではFF値が34に留まった(No.46)。すなわち、Ti量が適切でも、Pb/(Si+Ti)が過小ではFF値が低くなる。これらの結果によれば、Pb量の下限は6.0(mol%)で、Pb/(Si+Ti)の下限は0.2である。
また、上記の評価結果を、成分系毎に見ると、No.5、7、9、10、15、16、18〜20、22〜24、29、30、33は、必須元素のみの5成分系(但し、No.20はBを欠く)で、Pbが29.0〜63.0(mol%)、Bが0〜21.0(mol%)、Siが5.0〜51.2(mol%)、Alが0(mol%)、Liが3.0〜35.0(mol%)、Tiが1.0〜35.0(mol%)、Zn、Zr、Pが0(mol%)の範囲内の組成では、Pbが35.0〜55.0(mol%)、Bが1.0〜18.0(mol%)、Siが8.0〜49.0(mol%)、Liが3.0〜24.0(mol%)、Tiが1.0〜30.0(mol%)、Pb(Si+Ti)が0.9〜1.7の範囲で、76〜78のFF値および1.0(A)以下のIdが得られた。
上記評価結果を個々の構成元素についてみると、Pbは35.0(mol%)含まれていればFF値が77でIdが0.2(A)以下の高い特性が得られた(No.9)。また、55.0(mol%)ではFF値が78でIdが0.2(A)以下の極めて高い特性が得られたが(No.29)、63.0(mol%)ではFF値が73と不十分な結果に留まった(No.33)。Bは1.0(mol%)含まれていればFF値が77でIdが0.2(A)以下の高い特性が得られるが(No.22)、これを欠くとFF値が71に留まり不十分な結果となる(No.20)。また、18.0(mol%)ではFF値が76でIdが0.5(A)以下の十分な特性が得られるが(No.16)、21.0(mol%)ではFF値が74と不十分な結果になった(No.18)。Siは8.0(mol%)含まれていればFF値が78でIdが0.2(A)以下の極めて高い特性が得られるが(No.24)、5.0(mol%)では電極材料が熔融してしまい、特性評価も不能な状態となった(No.19)。また、49.0(mol%)であればFF値が76でIdが1.0(A)以下の十分な特性が得られるが(No.10)、51.2(mol%)ではFF値が36まで低下すると共に1.0(A)超になって不十分な結果となった(No.5)。Liは3.0(mol%)でもFF値が76、Idが1.0(A)以下の十分な特性が得られるが(No.10)、35.0(mol%)ではFF値が73と不十分な結果となった(No.7)。24.0(mol%)ではFF値が77、Idが0.2(A)以下と優れた特性が得られる(No.9)。Tiは1.0(mol%)でもFF値が76、Idが1.0(A)以下の十分な特性が得られるが(No.10)、35.0(mol%)では電極材料が熔融してしまい、特性評価も不能な状態となった(No.19)。30.0(mol%)ではFF値が78、Idが0.2(A)以下と極めて高い特性が得られた(No.24)。
上記の評価の範囲では、B量は1.0〜18.0(mol%)の範囲とすること、Si量は8.0〜49.0(mol%)の範囲とすること、Ti量は30.0(mol%)以下の範囲とすること、Pb量は63.0(mol%)未満とすること、Li量は35.0(mol%)未満とすることが、必須と言える。
また、No.8、11、36、39、48は、Zn或いはPを含む6成分系(但し、No.39、48はLiを欠く)で、Pbが38.0〜64.0(mol%)、Bが3.0〜10.0(mol%)、Siが25.0〜31.3(mol%)、Alが0(mol%)、Liが0〜12.0(mol%)、Tiが1.0〜10.0(mol%)、Znが0〜15.0(mol%)、Zrが0(mol%)、Pが0〜1.0(mol%)の範囲内の組成では、Pbが38.0〜40.7(mol%)、Bが6.0〜8.0(mol%)、Siが29.0〜31.3(mol%)、Liが6.0〜12.0(mol%)、Tiが1.0〜8.0(mol%)、Pb(Si+Ti)が1.0〜1.3の範囲で、77〜78のFF値および0.5(A)以下のIdが得られた。この評価結果において、Liを含まない組成ではFF値が74以下に留まると共にIdが1.0(A)超となり(No.39、48)、特に、Pbが64.0(mol%)と過剰な組成になると、FF値が65に留まる。この評価の範囲ではLiは必須で、これを欠くと高いFF値が得られない。また、Znは任意の元素であるが、15.0(mol%)含まれていても差し支えない(No.36)。
また、No.6、31、44、49は、AlおよびPを含む7成分系で、Pbが27.0〜46.0(mol%)、Bが4.0〜10.6(mol%)、Siが24.0〜53.2(mol%)、Alが2.5〜6.0(mol%)、Liが3.7〜12.0(mol%)、Tiが1.0〜10.0(mol%)、ZnおよびZrが0(mol%)、Pが1.0〜6.0(mol%)の範囲内の組成では、Pbが38.0〜46.0(mol%)、Bが4.0〜6.0(mol%)、Siが24.0〜32.0(mol%)、Alが3.0〜6.0(mol%)、Liが12.0(mol%)、Tiが1.0〜10.0(mol%)、Pが1.0〜6.0(mol%)、Pb(Si+Ti)が0.9〜1.8の範囲で、76〜77のFF値および0.5(A)以下のIdが得られた。この評価結果において、Siが53.2(mol%)と過剰な組成ではFF値が44に留まった(No.49)。Siが過剰になると、FF値が著しく低下する。また、Pは任意の元素であるが、6.0(mol%)含まれていても差し支えない(No.31)。
また、No.1〜4、13、41〜43は、AlおよびZnを含む7成分系で、Pbが3.0〜37.3(mol%)、Bが3.0〜15.0(mol%)、Siが15.0〜29.7(mol%)、Alが1.0〜6.0(mol%)、Liが6.0〜30.0(mol%)、Tiが1.0〜15.0(mol%)、Znが6.0〜30.0(mol%)、ZrおよびPが0(mol%)の範囲内の組成では、Pbが6.0〜37.3(mol%)、Bが3.0〜15.0(mol%)、Siが15.0〜29.7(mol%)、Alが1.0〜6.0(mol%)、Liが6.0〜30.0(mol%)、Tiが1.0〜15.0(mol%)、Znが6.0〜30.0(mol%)、Pb(Si+Ti)が0.2〜1.3の範囲で、FF値77およびId 1.0(A)以下が得られた。この評価結果において、Pbが3.0(mol%)と過少でPb/(Si+Ti)が0.1と過小な組成ではFF値が73に留まった(No.42)。なお、Znは任意の元素であるが、30.0(mol%)含まれていても差し支えない(No.43)。
また、No.12、21、35、40は、Al、Zn、Pを含む8成分系で、Pbが39.0〜60.0(mol%)、Bが3.0〜8.0(mol%)、Siが22.0〜31.0(mol%)、Alが0.5〜3.0(mol%)、Liが1.0〜12.0(mol%)、Tiが1.0〜6.0(mol%)、Znが2.0〜7.0(mol%)、Zrが0(mol%)、Pが1.0〜2.0(mol%)の範囲内の組成では、Pbが39.0〜54.0(mol%)、Bが3.0〜8.0(mol%)、Siが30.1〜31.0(mol%)、Alが0.5〜3.0(mol%)、Liが1.0〜12.0(mol%)、Tiが3.0〜6.0(mol%)、Znが2.0〜5.0(mol%)、Pが1.0〜2.0(mol%)、Pb(Si+Ti)が1.1〜1.5の範囲で、FF値77〜78およびId 0.5(A)以下が得られた。この評価結果において、Pb/(Si+Ti)が2.6と過大な組成ではFF値が73に留まった(No.35)。
また、No.14、25、26、28、32、37、45は、Al、Zr、Pを含む8成分系で、Pbが38.6〜58.5(mol%)、Bが4.0〜7.9(mol%)、Siが25.5〜38.0(mol%)、Alが0.5〜12.0(mol%)、Liが1.0〜12.0(mol%)、Tiが0〜3.0(mol%)、Znが0(mol%)、Zrが0.5(mol%)、Pが2.0〜9.0(mol%)の範囲内の組成では、Pbが50.0〜58.5(mol%)、Bが4.0〜6.0(mol%)、Siが25.5〜32.0(mol%)、Alが0.5〜12.0(mol%)、Liが1.0〜6.0(mol%)、Tiが1.0〜3.0(mol%)、Zrが0.5(mol%)、Pが2.0(mol%)、Pb(Si+Ti)が1.4〜2.0の範囲で、FF値77〜78およびId 0.5(A)以下が得られた。この評価結果において、Tiを欠く組成ではFF値が72〜74に留まり(No.25、28)、Pが9.0(mol%)と過剰な組成ではFF値が68に留まった(No.14)。なお、Alは任意の元素であるが、12.0(mol%)含まれていても差し支えない(No.37)。
また、No.17、27、34、38、46、47は、9成分系で、Pbが6.0〜62.0(mol%)、Bが3.0〜10.0(mol%)、Siが25.0〜38.0(mol%)、Alが0.5〜12.0(mol%)、Liが1.0〜12.0(mol%)、Tiが1.0〜4.0(mol%)、Znが1.0〜16.0(mol%)、Zrが0.5〜1.0(mol%)、Pが1.0〜2.0(mol%)の範囲内の組成では、Pbが43.0〜62.0(mol%)、Bが3.0〜8.0(mol%)、Siが25.0〜30.0(mol%)、Alが0.5〜1.0(mol%)、Liが1.0〜12.0(mol%)、Tiが1.0〜3.0(mol%)、Zrが0.5〜1.0(mol%)、Pが1.0〜2.0(mol%)、Pb(Si+Ti)が1.5〜2.4の範囲で、FF値76〜77およびId 1.0(A)以下が得られた。この評価結果において、Pb(Si+Ti)が0.1と過小な組成ではFF値が43に留まった(No.46)。すなわち、個々の成分は好ましい範囲内にあっても、Pb(Si+Ti)が過小或いは過大では、高いFF値が得られない。
また、以上の実施例の中では、No.8、11、12、21、23、24、29、32がFF値が78と高いことから好ましく、No.12、21、24、29、32は、FF値が78と高く且つIdも0.2(A)以下と小さいので特に好ましい。これらの中でも、No.12、21は、ρcが0.012(Ω・cm2)と低く、最も好ましいと言える。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。