以下では、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。 図1は、一実施形態である光照射装置の構成を示す縦断面図であり、図2は、図1中に示したA−Aa位置における矢視方向の断面図である。
図1、図2に示すように、この光照射装置は、メタルハライドランプ100と冷却ユニット200とから構成される。メタルハライドランプ100と冷却ユニット200(その二重管)との間は、メタルハライドランプ100のソケット351,352に取り付けられたホルダー111,112により所定の間隔に設定される。
図3および図4を参照し、メタルハライドランプ100について説明する。図3は、図1中に示したメタルハライドランプの構成を示す縦断面図であり、図4は、図3の図示を一部拡大して示す縦断面図である。
図3、図4に示すように、メタルハライドランプ100は、光透過性をもつ例えば石英ガラスで放電空間30が形成された発光管31を有する。発光管31は、筒状の形状を有し、その長手方向両端の内部には、例えばタングステン製の電極321,322が配置されている。
電極321,322は、それぞれインナーリード331,332を介して例えばモリブデン製の金属箔341,342の一端に溶接されている。金属箔341,342の他端には、図示しないアウターリードの一端が溶接されている。金属箔341,342の部分は、インナーリード331,332とアウターリードとの間の発光管31を加熱し封止したものである。発光管31の内部には、希ガスであるアルゴン(封入圧は例えば1.33kPa(10torr))のほか、例えば、水銀(封入量は例えば540mg(2.25mg/cm3))、ガリウム、鉛が封入されている。ガリウムは、ヨウ化ガリウムGaI3として封入量が例えば21mg(0.09mg/cm3)、鉛は、ヨウ化鉛PbI2として封入量が例えば3mg(0.01mg/cm3)である。
ガリウム(Ga)による発光主波長は、403nm、417nmであり、波長380nmから440nmに吸収域を有する光開始剤に適合する。鉛(Pb)による主発光波長は、364nm、368nm、406nmであり、このうち前二者は、後述する酸化膜16により十分にカットされるので、残る波長406nmの光は、波長380nmから440nmに吸収域を有する光開始剤に適合する。また、水銀(Hg)による発光主波長は、365nm、405nmであり、前者は、後述する酸化膜16により十分にカットされるので、残る波長406nmの光は、波長380nmから440nmに吸収域を有する光開始剤に適合する。この実施形態は、光硬化性樹脂を硬化させるのに必要な光として、波長380nmから440nmの光を照射することを想定している(後述する)。
金属箔341,342は、発光管31を形成する石英ガラスの熱膨張率に近い材料であれば何でもよいが、この条件に適したものとして、モリブデンを使用している。金属箔341,342に一端がそれぞれ接続されたアウターリードの他端には、例えばセラミック製のソケット351,352内に絶縁封止されている給電用のリード線361,362が電気的に接続され、さらにリード線361,362は、図示しない電源回路に接続される。
以上のように構成されたメタルハライドランプ100は、例えば、外径φが27.5mmで、発光長(ほぼL)が500mmのロングアーク対応のものとすることができる。図5は、図1中に示したメタルハライドランプが放射する光の分光分布の例を示す特性図である。より具体的に、ランプ電圧を700V、ランプ電流を8.6Aで点灯させた場合における分光分布を示している。
再び図1、図2を参照し、冷却ユニット200は、メタルハライドランプ100の発光管31と同様の光透過性をもつ石英ガラス製の内管12(内径32mm、外径36mm)と、内管12の外側に設けられた、発光管31と同様の光透過性をもつ石英ガラス製の外管13(内径64mm、外径70mm)とを備えた二重管を有している。内管12は、発光管31を筒状に包囲する位置に設けられており、外管13は、内管12を筒状に包囲する位置に設けられている。内管12と外管13との間は、流体を流し得るように閉じられた空間になっており、この空間を通して、外周端部に設けられた接続管141から接続管142へと、外部から温度25℃程度の、冷却媒体である冷却水15を循環させることができる。冷却水15には、光透過性に優れる純水などを用いるのが好ましい。
より具体的に、接続管141からは温度の低い冷却水15を入水し、接続管142からは、メタルハライドランプ100の冷却を行って暖められた冷却水15を出水する。暖められた冷却水15が、再冷却され再び接続管141から入水されるように、冷却ユニット200は全体として循環構造になっている。
外管13は、例えば、少なくともSiO2を50%以上含む石英ガラス製で形成され、さらに、外管13の外面上には、Ti、Si、Bi、Taを主たる成分として含む酸化膜16が形成されている。このうち、Ti、Biは所定波長光をカットする特性を得るため加えられている。酸化膜16は、原料となる酸化物溶液をディッピングなどの方法を用いて塗布し、その後例えば800℃程度以下の高温で加熱処理(焼き付け、焼成)し、外管13の外面上に一様に定着、被着させたものである。800℃程度以下の温度で処理するのは、酸化ビスマス(Bi2O3)の融点が約820℃であり、この融点に達すると外管13の石英ガラスを白濁させる可能性があるためである。
ディッピングによる溶液の塗布は、冷却ユニット200の二重管を長手方向にその向きを変えて、複数回、酸化物の溶液が収められた槽内から引き上げるように行う。これにより、塗布された膜厚が一様になり、酸化膜16の一様な形成につながる。酸化膜16は、メタルハライドランプ100から放射される光のうち、波長360nm付近の不要な紫外線をカットするため設けられる。
酸化膜16は、一般に、成膜原料の比率、溶液の塗布厚み条件、その加熱処理条件などにより、その紫外線カット特性が変動する。これを利用し、ある程度の範囲内ではあるが所望の紫外線カット特性をもった分光フィルタを得ることができる。所望の紫外線カット特性を得るため酸化膜16の膜厚を厚く形成する必要がある場合には、原料溶液の塗布回数を多くすればよい。また、厚めの膜厚に形成される酸化膜16の機械的な強度を向上することに関しては、成膜原料としてTaの添加が望ましいことがわかっている。形成膜厚は、例えばSEM(透過型電子顕微鏡)を用いて測定することができる。
特性例として、TiO2、SiO2、Bi2O3、Ta2O5の質量比がTiO2:SiO2:Bi2O3:Ta2O5=31:31:31:7である酸化膜16では、膜厚を所定に形成して、波長360nm付近で透過率が例えば22%程度以下と、十分な紫外線カット特性を有する分光フィルタが得られることがわかった。
より具体的に、図6は、酸化膜16の形成膜厚により分光透過特性がどのように変化するかを示す特性図である。図7は、図6に示した特性図の一部の波長域を拡大して示す特性図である。これらの図に示すように、酸化膜16の膜厚を変えることで紫外線カット特性を制御性をもって変動させることができ、膜厚0.2μmから膜厚1.0μmまでは膜厚を増すことで波長360nmの紫外線をカットする特性が単調に増強されることがわかる。膜厚が1.2μmになると、この傾向を脱してしまい波長360nmの紫外線をカットする特性が非常に悪化する。この悪化は、形成された酸化膜16の機械的な強度が劣化して細かいクラックが発生し、そこから紫外線が漏れるためである。
この図6、図7に示す結果から、酸化膜16の膜厚として、0.4μmから1.0μmとすれば、十分な紫外線カット特性が得られることがわかる。とりわけ0.6μm程度とした場合には、図8に示すように、必要な光を透過させる特性とのバランスもよくなり好ましいと判断できる。図8は、図1、図2に示した光照射装置が放射する光の分光分布の例を示す特性図であり、このときの酸化膜16の膜厚は0.6μmである。
この光照射装置によれば、所定膜厚、所定成分の酸化膜16により、紫外線を十分にカットして光を照射することができる。したがって、遮光マスクがなくても液晶パネルにダメージを与えることなく必要な波長の光を液晶パネルに照射することができる。この必要な波長の光の照射対象としては、波長380nmから440nmに吸収域(とりわけそのピーク)を有する光開始剤を含有する樹脂組成物を想定することができる。このような特性の光開始剤には、例えば、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド(Phenylbis(2,4,6-trimethylbenzoyl)phosphine oxide)を挙げることができる。その光吸収特性を図9に示す。この光開始剤を含有する樹脂組成物を用いたパネルに本実施形態の光照射装置により光を照射したところ、遮光マスクを使用しなくても液晶にダメージを与えることなく樹脂組成物を硬化させることができた。
この硬化の効率が、鉄を発光金属として含んだ周知のメタルハライドランプと比較してどの程度になるかについては以下である。なお、このような鉄を含むメタルハライドランプは、波長380nmから440nmにも発光スペクトルを有しており、同波長域に吸収域を有する光開始剤を含有する樹脂組成物を硬化させるランプとして一応の候補になる。硬化の効率は、以下の式:
で相対的に求められる。ここで、α(λ)は照射する光のスペクトル、φ(λ)は光開始剤の吸収スペクトル(図9に示したもの)、λは波長である。計算においては、xに波長下限である380nmが代入され、yに波長上限である440nmが代入される。本実施形態でのα(λ)は、酸化膜16(膜厚0.6μm)を込みにして、図10中の「本実施形態」に示される通りである。一方、鉄を含むメタルハライドランプを用いた場合のα(λ)は、酸化膜16(膜厚0.6μm)を込みにして、図10中の「鉄ハライドランプ」に示される通りである。
上記の式に従って計算すると、その結果から、鉄を含むメタルハライドランプの場合に比較して本実施形態の場合は、上記の光開始剤を硬化させる効率が約3.4倍高いことがわかる。
以上説明の実施形態では、酸化膜16による紫外線カットフィルタが二重管の外管13の外面上に形成されているので、大面積を照射するときに課題となる突き合わせ面からの光漏れや、熱による膨張収縮によるフィルタどうしのぶつかりによる割れ等の問題を抑制できる効果もある。また、紫外線カットフィルタが、様々な形状の物の表面に原料溶液を塗布し加熱処理することで形成できるので、形成の自由度が高く、かつ安価である、という利点がある。形成の自由度が高いと言う意味で、酸化膜16による紫外線カットフィルタは、二重管の内管12のメタルハライドランプ100に対向する面上に形設することもできる。さらには、それらの両者を形設するようにしてもよい。
また、酸化膜16を、内管12、外管13の冷却液と面する表面上に形設することも考えられる。それらの場合も、酸化膜16の形成方法としては、原料溶液をディッピングなどの方法で塗布し、その後加熱処理し定着させる方法を採用することができる。
以上のような、酸化膜16を二重管の外管13または内管12の外側または内側の面上に設ける場合は、二重管が冷却機能のため設けられるものであるので、融点の低いビスマスを含む酸化膜16の冷却という意味でもより好ましい構成になる。このような好ましさでは劣るが、酸化膜16をメタルハライドランプ100の発光管31の外側の表面上に形成することも採り得る構成である。このようにしても、波長380nm未満の紫外線を十分にカットできるため、遮光マスクがなくてもパネルにダメージを与えることなく必要な波長の光を照射できる効果は変わらない。
さらには、メタルハライドランプ100と光照射の対象物であるパネルとの間に設けた板材上に形成することも採り得る構成である。参考までに、このような構成例を図示すると、図11に示すようになる。図11は、別の実施形態である光照射装置の構成を示す断面図である。同図において、すでに説明した図中に示した構成要素と同一または同一相当のものには同一符号を付してある。その部分の説明は省略する。
符号400は、パラボラ型の反射板である。メタルハライドランプ100とパネル500との間に設けられた板材401(例えば石英板)には、次のような膜が積層されている。ひとつは、長波長側(波長440nm超)の光を反射する反射膜402(例えばダイクロイック膜)がメタルハライドランプ100の側の面上に、もうひとつとしてすでに説明した酸化膜16がパネル500の側の面上に、それぞれ積層されている。反射膜402は、板材401の過熱を防止すべく、反射機能を持たせている(すなわち所定波長域の吸収膜でない)。このようにしても、波長380nm未満の紫外線を十分にカットできるため、遮光マスクがなくてもパネルにダメージを与えることなく必要な波長の光を照射できる効果は変わらない。
次に、さらに別の実施形態について以下説明する。この実施形態は、図1から図10を参照して説明した実施形態との違いという観点で言うと、発光管31の内部に封入した発光金属のうちの鉛を入れず、さらに、紫外線除去の酸化膜16についてその組成を変えて、Ti、Si、Ce、Taを主たる成分として含む酸化膜16Aとした点である(つまりBiに代えてCeを使用)。よって、図1から図4に示した構造的な点は同様である。
酸化膜16Aも、原料となる酸化物溶液をディッピングなどの方法を用いて塗布し、その後加熱処理(焼き付け、焼成)し、外管13の外面上に一様に定着、被着させる点は同様である。ただし、このとき800℃を超えて1000℃程度以下の温度で加熱処理する(ただしガラスの軟化温度1100℃よりは低温)。これは、酸化ビスマス(Bi2O3)の融点が約820℃であるところ、酸化セリウム(CeO2)の融点が1000℃以上であるため可能である。このように高温で加熱処理するということは、逆に言うと、焼成された酸化膜16Aは、メタルハライドランプ100が点灯されこの酸化膜16Aに紫外線照射がされたとき、より高温まで安定してその性質を保つことができることを意味している。
特性例として、TiO2、SiO2、CeO2、Ta2O5の質量比がTiO2:SiO2:CeO2:Ta2O5=31:31:31:7である酸化膜16Aを、膜厚を所定に設定して形成することにより、波長360nm付近で透過率が例えば22%程度以下と、十分な紫外線カット特性を有する分光フィルタが得られることがわかった。
より具体的に、図12は、酸化膜16Aの形成膜厚により分光透過特性がどのように変化するかを示す特性図である。図12に示すように、酸化膜16Aの膜厚を変えることで紫外線カット特性を制御性をもって変動させることができ、膜厚0.2μmから膜厚1.0μmまでは膜厚を増すことで波長360nmの紫外線をカットする特性が単調に増強されることがわかる。膜厚が1.2μmになると、この傾向を脱してしまい波長360nmの紫外線をカットする特性が非常に悪化する。この悪化も、酸化膜16と同様、機械的な強度が劣化して細かいクラックが発生し、そこから紫外線が漏れるためである。
この図12に示す結果から、酸化膜16Aの膜厚として、0.4μmから1.0μmとすれば、十分な紫外線カット特性が得られることがわかる。とりわけ0.6μm程度とした場合には、図13に示すように、必要な光を透過させる特性とのバランスもよくなり好ましいと判断できる。図13は、本実施形態の光照射装置が放射する光の分光分布の例を示す特性図であり、このときの酸化膜16Aの膜厚は0.6μmである。
なお、この実施形態の変形例として、酸化膜16Aをメタルハライドランプ100の発光管31の外側の表面上に形成するように構成することは、酸化膜16を用いる場合より容易に採り得る構成である。これは上記のように、酸化膜16Aに紫外線照射がされたとき、酸化膜16より高温まで安定してその性質を保つことができるためである。さらに発光管31の石英ガラスを白濁させる可能性も非常に小さいからである。
以上の各実施形態の光照射装置を液晶パネルの製造工程に供した場合、光硬化性樹脂を硬化させるシール工程が次のような弊害をもたらすのを回避できる。すなわち、一般にこのシール工程のあとには、液晶材料であるモノマーを重合して配向維持層であるポリマー層を形成する工程を行うが、この液晶材料には波長300nmから360nmに吸収主波長がある。したがって、実施形態の光照射装置をシール工程に供した場合には、波長360nm付近の紫外線が十分に抑制されて照射されるので、遮光マスクを使用しなくても、シール工程で液晶材料のモノマーが反応してしまうような弊害を回避できる。
以上本発明の実施形態を説明したが、これらは例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。