<1.概要>
リフレクトアレイの反射位相は、共振周波数において0になり、共振周波数は等価回路におけるインダクタンスL及びキャパシタンスCにより調整できる。したがって、所与の周波数における反射位相は、インダクタンスL及び/又はキャパシタンスCを調整することで制御できる。後述の実施例による第1構造は、キャパシタンスに着目している。
第1構造によるリフレクトアレイは、1つの地板(接地プレート)と、該地板に配列された複数のマッシュルーム構造と、該マッシュルーム構造の上に配列された無給電アレイによって形成される。無給電アレイの働きにより、マッシュルーム構造を近似する並列共振モデルのキャパシタンスの値を例えば2倍にすることができる。すなわち、隣接するマッシュルーム構造間のギャップ(第1パッチ同士の隙間)によるキャパシタンスに加えて、第2パッチ同士の隙間に生じるキャパシタンスにより、全体のキャパシタンスを増やすことができる。キャパシタンスは、隣接する第1パッチ同士の隙間及び/又は隣接する第2パッチ同士の隙間のサイズを変えることにより制御できる。したがって、第1及び第2パッチのサイズ(すなわち、ギャップのサイズ)を変化させることで、キャパシタンスを制御できる範囲が広くなり、ひいては反射位相が変化する範囲を広くすることができる。
後述の実施例による第2構造は、インダクタンスに着目している。マッシュルーム構造のインダクタンスLは、接地プレートからパッチまでの距離(ビアホールの長さ)tに近似的に比例する。したがって、接地プレート及びパッチ間の距離が異なるマッシュルーム構造は、反射位相に対しても異なる動作を行う。接地プレート及びパッチ間の距離tが異なるマッシュルームを組み合わせることで、ある距離又は厚みの場合には実現できなかった反射位相を実現できるようになる。
後述の実施例による第3構造は、第1構造と同様にキャパシタンスに着目しているが、第1構造とは異なり、複数のパッチが並列には配置されていない。その代わり、より大きなキャパシタンスを得るため、隣接するマッシュルーム構造のパッチ同士は、同一平面内で隙間を空けるだけでなく、互いに異なる平面に存在することが許容される(距離を隔てて重なることが許容される)。これにより、製造限界等に起因して実現できなかったキャパシタンスを達成できるようになり、ひいては反射位相のレンジを拡大できる。
<2.第1構造>
<<2.1 マッシュルーム構造>>
図2Aは、本実施例において使用可能なマッシュルーム構造を示す。図2Aには2つのマッシュルーム構造が示されている。このようなマッシュルーム構造の素子を多数並べることで、リフレクトアレイを形成することができる。ただし、本発明はリフレクトアレイに限定されず、アンテナやフィルタ等のような他の用途にも使用可能である。
図2Aには、接地プレート21、ビアホール22、第1パッチ23及び第2パッチ24が示されている。
接地プレート21は、多数のマッシュルーム構造に対して共通の電位を供給する導体である。図2AにおけるΔx及びΔyは、隣接するマッシュルーム構造におけるビアホール間のx軸方向の間隔及びy軸方向の間隔に等しい。Δx及びΔyは、マッシュルーム構造1つ分に対応する接地プレート21のサイズを表す。一般に、接地プレート21は、多数のマッシュルーム構造が並んだアレイと同程度に大きい。
ビアホール22は、接地プレート21と第1パッチ23とを電気的に短絡するために設けられる。第1パッチ23は、x軸方向にWxの長さを有し、y軸方向にWyの長さを有する。第1パッチ23は、接地プレート21に対して平行に距離tを隔てて設けられ、ビアホール22を介して接地プレート21に短絡される。
第2パッチ24も接地プレート21に対して平行に設けられるが、第1パッチ23よりもさらに距離を隔てて設けられる。第1パッチ23は接地プレート21に電気的に結合されている。しかしながら、第2パッチ24は接地プレート21に電気的には接続されていない無給電素子である。左側の第1パッチ23及び右側の第1パッチ23は容量結合している。同様に、左側の第2パッチ24及び右側の第2パッチ24も容量結合している。さらに、並列的に配置された第1パッチ23及び第2パッチ24も容量結合している。後述するように、第2パッチ24は、第1パッチ23と接地プレート21との間に設けられてもよい。
一例として、第1パッチ23は、接地プレート21から1.6mm隔てて設けられ、第1パッチ23及び第2パッチ24の間には、誘電率が4.4であり、厚みが0.8mmであり、tanδが0.018の誘電体層が設けられている。
なお、図示の例においてパッチは、第1及び第2の2つしか示されていないが、3つ以上のパッチが用意されてもよい。例えば、第2パッチ24に対してさらに距離を隔てた無給電素子である第3パッチが用意されてもよい。
図3は、図2Aに示したマッシュルーム構造を二次元的に並べた場合の概略平面図を示す。このように、マッシュルーム構造を一定の規則にしたがって多数並べることで、例えばリフレクトアレイを形成することができる。リフレクトアレイの場合、紙面に垂直な方向(z軸)から電波が到来し、xz面内でz軸に対して角度αを有する方向に電波が反射する。
図4は、図3の個々のマッシュルーム構造の配置を説明するための図を示す。線pに沿って一列に並んだ4つの第1パッチ23と、その列に隣接して線qに沿って並んだ4つの第1パッチ23とが右側に示されている。左側は、第1パッチ23上に距離を隔てて設けられる第2パッチ24を示す。パッチの数は任意である。図2A、図3、図4に示す例において、第1パッチ23及び第2パッチ24は、同じサイズを有するが、このことは本発明に必須でなく、異なるサイズが使用されてもよい。しかしながら、マッシュルーム構造の容量を約2倍にすること等の観点からは、第1パッチ23及び第2パッチ24は、同じサイズであることが望ましい。
本実施例では、線pに沿っているマッシュルーム構造の第1パッチ23と、別の線qに沿っているマッシュルーム構造の第1パッチ23との間の隙間(ギャップ)が、線p及びqに沿って徐々に変化している。
図3及び図4に示す例の場合、紙面の上下方向(例えば、図4における線p)に沿って並んでいる或る素子(マッシュルーム構造)による反射波と、その線に沿ってその素子に隣接する素子による反射波は、互いに所定の量だけ位相がずれている。そのような性質を有する素子を多数並べることで、リフレクトアレイを形成することができる。
図5は、x軸方向に並んだマッシュルーム構造M1〜MNに対して、z軸∞方向から電波が到来し、反射される様子を模式的に示す。反射波は、入射方向(z軸方向)に対して角度αをなすとする。ビアホール間の間隔がΔxであったとすると、隣接する素子による反射波の位相差Δφ及び反射角αは次式を満たす。
Δφ=k・Δx・sinα
α=sin-1[(λΔφ)/(2πΔx)]
ただし、kは波数であり、2π/λに等しい。λは電波の波長である。波長に比べて十分大きなリフレクトアレイを構成するには、N個のマッシュルーム構造M1〜MNの全体による反射位相差N・Δφが、360度(2πラジアン)になるように、隣接する素子同士の位相差Δφを設定したものを繰り返し並べるとよい。例えば、N=20 の場合、Δφ=360/20=18度 である。したがって、隣接する素子との反射位相差が18度であるように素子を設計し、それらを20個並べたものを繰り返し並べることにより、角度αの方向に電波を反射するリフレクトアレイを実現することができる。
図6は、図2A、図3、図4に示すマッシュルーム構造の等価回路を示す。図6左側に示されるように、線pに沿って並ぶマッシュルーム構造の第1パッチ23と、線qに沿って並ぶマッシュルーム構造の第1パッチ23との間のギャップに起因して、キャパシタンスCが存在する。同様に、マッシュルーム構造の第2パッチ24に起因して、キャパシタンスC'が存在する。さらに、線pに沿って並ぶマッシュルーム構造のビアホール22、及び線qに沿って並ぶマッシュルーム構造のビアホール22に起因して、インダクタンスLが存在する。したがって、隣接するマッシュルーム構造の等価回路は、図6右側に示されるような回路になる。すなわち、等価回路において、インダクタンスLと、キャパシタンスCと、別のキャパシタンスC'とは、並列に接続されている。キャパシタンスC、インダクタンスL、表面インピーダンスZs及び反射係数Γは、次のように表すことができる。
数式(1)において、ε
0は真空の誘電率を表し、ε
rは第1パッチ同士の間に介在する材料の比誘電率を表す。Δyはy軸方向のビアホール間隔を表す。Wyはy軸方向の第1パッチの長さを表す。したがって、Δy−Wyは、隣接する第1パッチ同士の隙間(ギャップ)の大きさを表す。このため、arccosh関数の引数は、ビアホール間隔Δyとギャップとの比率を表す。数式(2)において、μはビアホール同士の間に介在する材料の透磁率を表し、tは第1パッチ23の高さ(接地プレート21から第1パッチ23までの距離)を表す。数式(3)において、ωは角周波数を表し、jは虚数単位を表す。簡明化のためC'=Cとしているが、このことは必須ではない。数式(4)において、ηは自由空間インピーダンスを表し、Φは位相差を表す。
図7は、マッシュルーム構造の第1パッチのサイズWyと反射位相との関係を示す。ただし、この場合のマッシュルーム構造は、図2Aの構造とは異なり、第2パッチ24が設けられていない従来のマッシュルーム構造である。すなわち、接地プレートに対して第1パッチが距離tを隔てて設けられているだけの構造である。図7には、3種類の距離tの各々について、第1パッチのサイズWyと反射位相との関係を表すグラフが示されている。t16は、距離tが1.6mmである場合のグラフを表す。t24は、距離tが2.4mmである場合のグラフを表す。t32は、距離tが3.2mmである場合のグラフを表す。なお、隣接するビアホール同士の間隔Δyは2.4mmである。
グラフt16の場合、第1パッチのサイズWyが0.5mmから1.9mmに変化する場合、反射位相は140度から120度に緩慢にしか減少していないが、サイズWyが1.9mmより大きくなると、反射位相は急激に減少し、サイズWyが2.3mmの場合に、反射位相は、0度程度になる。
グラフt24の場合も同様に、第1パッチのサイズWyが0.5mmから1.6mmに変化する場合、反射位相は120度から90に緩慢にしか減少していないが、サイズWyが1.6mmより大きくなると、反射位相は急激に減少し、サイズWyが2.3mmの場合に、反射位相は、−90度程度に達する。
グラフt32の場合、第1パッチのサイズWyが0.5mmから2.3mmに変化する場合、反射位相は100度から−120度に徐々に減少している。
このように、従来構造の場合、第1パッチWyを0.5mmから2.3mmまで変化させたとしても、反射位相の調整可能な範囲は、最も大きなt32の場合でさえ、+100度〜−120度の高々220度程度でしかない。
図8は、図2Aに示されるようなマッシュルーム構造の第1パッチのサイズWyと反射位相との関係を示す。接地プレート21に対して第1パッチ23が距離tを隔てて設けられ、さらに第2パッチ24も設けられている。図8には、3種類の距離tの各々について、第1パッチのサイズWyと反射位相との関係を表すグラフが示されている。t08は、距離tが0.8mmである場合のグラフを表す。t16は、距離tが1.6mmである場合のグラフを表す。t24は、距離tが2.4mmである場合のグラフを表す。なお、隣接するビアホール同士の間隔Δyは2.4mmである。
グラフt08の場合、第1パッチのサイズWyが0.5mmから1.8mmに変化する場合、反射位相は160度から150度に僅かにしか減少していないが、サイズWyが1.8mmより大きくなると、反射位相は急激に減少し、サイズWyが2.3mmの場合に、反射位相は、10度程度になる。
グラフt16の場合、第1パッチのサイズWyが0.5mmから1.7mmに変化する場合、反射位相は135度から60に緩慢にしか減少していないが、サイズWyが1.7mmより大きくなると、反射位相は急激に減少し、サイズWyが2.3mmの場合に、反射位相は、−150度程度に達する。
グラフt24の場合、第1パッチのサイズWyが0.5mmから2.3mmに変化する場合、反射位相は100度から−150に徐々に減少している。
このように、本実施例の第1構造において、第1パッチWyを0.5mmから2.3mmまで変化させた場合、反射位相の調整可能な範囲は、最も大きなt16の場合、+135度〜−150度のように285度にも及ぶ。本実施例によれば、図2Aに示されるように第1パッチ23に加えて第2パッチ24を設けることで、反射位相の調整可能な範囲を拡大することができる。
<<2.2 リフレクトアレイ>>
図5を参照しながら説明したように、隣接する素子との反射位相差が所定値であるように素子を設計し、それらを並べることで、角度αの方向に電波を反射するリフレクトアレイを実現することができる。例えば、18度ずつ反射位相差が異なる20個の素子を並べることで、リフレクトアレイが形成されてもよい。このようなリフレクトアレイを形成する場合、図7や図8のようなパッチサイズと反射位相差の相互関係に基づいて、素子のサイズが決定される。
従来構造でリフレクトアレイを設計する場合、図7のグラフt32を参照しながら設計が行われる。例えば、反射位相0度の素子のパッチサイズWyは、1.9mmであり、反射位相+18度の素子のパッチサイズWyは1.8mmであり、反射位相+36度の素子のパッチサイズWyは1.7mmであること等が判明する。第1パッチの高さtとして、3.2mmの場合を選んだのは、それが最も広い反射位相のレンジを示したからである。このようにして割り出されたサイズのパッチを並べることで、リフレクトアレイを実現することができる。この場合、第1パッチWyを0.5mmから2.3mmまで変化させたとしても、位相差の最大値は高々220度である。位相差の最大値は理想的には360度(=2πラジアン)である。その結果、所望の位相差を実現する素子全てをリフレクトアレイに設けることはできず、リフレクトアレイの特性は、理想的なものから幾分逸脱したものになる。
本実施例の第1構造によりリフレクトアレイを設計する場合、図8のグラフt16を参照しながら設計が行われる。例えば、反射位相0度の素子のパッチサイズWyは、1.9mmであり、反射位相+18度の素子のパッチサイズWyは1.75mmであり、反射位相+36度の素子のパッチサイズWyは1.7mmであること等が判明する。第1パッチの高さtとして、1.6mmの場合を選んだのは、それが最も広い反射位相のレンジを示したからである。このようにして割り出されたパッチサイズのパッチを並べることで、リフレクトアレイを実現することができる。この場合、第1パッチWyを0.5mmから2.3mmまで変化させた場合、位相差の最大値は285度にも及び、理想的な360度(=2πラジアン)に近づく。その結果、所望の位相差を実現する素子を、より多くリフレクトアレイに設けることができ、リフレクトアレイの特性は、理想的なものに近づく。後述するように、所定の条件の下で45度の方向に反射するリフレクトアレイを実現する際、反射位相差が18度ずつ異なる素子が、理想的には20個必要になる。本実施例の場合、実際にこのうち14個(20個の7割)も作成できた。これに対して従来構造の場合、位相差の最大値が高々220度であるため、理論的には220度÷18度≒12.2から最大でも12個しか作成することができず、実用的に作成できるのは4個程度にとどまる。
<<2.2.1 反射角45度のリフレクトアレイ>>
図9は、第1構造を利用したリフレクトアレイの部分断面図を示す。リフレクトアレイは、L1層、L2層及びL3層の3つの導電層と、各導電層間の誘電体層とを有する。一例として、導電層は例えば銅を含む材料で構成されている。また、誘電体層は、比誘電率が4.4であり、tanδが0.018である材料で構成されている。L1層及びL2層間には0.8mmの厚さの誘電体層が介在している。L2層及びL3層間には1.6mmの厚さの誘電体層が介在している。L1層は図2Aにおける第2パッチ24に対応する。L2層は図2Aにおける第1パッチ23に対応する。L3層は接地プレート21に対応する。したがって、L2層及びL3層間の貫通孔はビアホール22に対応する。
図10は、L1層、L2層及びL3層の平面図を概略的に示す。図2Aに示されるようなマッシュルーム構造により1つの素子が形成され、その素子が行列形式に配置されている。図示の例の場合、y軸方向に伸びる7列の帯の1つは、14×130個の素子を含んでいる。素子間の間隔は2.4mmである。図示のリフレクトアレイは、電波を入射方向に対して45度の角度で反射させるように設計されており、隣接する素子同士の反射位相差は18度であるように設計されている。すなわち、y軸方向に伸びる1つの帯(列)は、x軸方向の両端で反射位相が2π変化するように設計されている。理想的には20個の素子により、反射位相が2π変化することが望ましいが、製造上の制約等の理由により14個の素子が使用されている。このため、x軸方向の1周期48mm(=2.4×20)の中で、素子が形成されていない領域が存在する。このような帯又は列を複数個反復的に並べることで、より大きなサイズのリフレクトアレイを実現できる。なお、図10及び図11において、具体的な寸法の詳細は本発明に本質的ではないので伏せている。帯又は列を複数個並べてサイズを適宜調整できることは、水平方向(x軸方向)に電波を反射させる用途だけでなく、後述するような垂直方向に電波を反射させる用途にも応用可能である。第1構造だけでなく、後述の第2構造、第3構造さらには組み合わせ構造にも応用可能である。
図11は図10のL2層において「A部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。1つの行に関し、x軸方向に14個の素子が並んでいる。A部はL2層の一部なので、14個の矩形の1つ1つは、Wx及びWyのサイズを有する第1パッチ23(図2A)に対応する。これらx軸方向に並んでいる14個の素子の各々は、隣接する素子と所定の位相差(18度=360度/20)を有するように設計されている。
図12は、それら14個の素子の寸法(パッチサイズWy)と反射位相の具体的な数値例を示す。図中、「設計位相」は、理想的な設計値を示し、「実際の位相」は、実現できた実際の位相を示す。図13は、FR4基板を用いて作成されたマッシュルーム構造の素子に関する具体的な数値例を示す。図12及び図13に示される数値例は、電界が図10のy軸方向を向いて、Z軸方向から入射する電波を、偏波面に対して横方向、すなわち図10のx軸の方向に、45度の角度で反射させる、水平制御の観点から決定されている。
図14は、従来構造及び本実施例の第1構造によるリフレクトアレイ(グラフA、B)各々に対する特性比較例(水平制御の遠方散乱界の比較例)を示す。いずれのリフレクトアレイも、電波の到来方向に対して、水平−45度の方向に電波を反射するように設計されている。この場合において、電波の周波数は8.8GHz(=c/λ)であり、隣接する素子同士の反射位相差Δφは18度(=360/20)であり、素子間の寸法Δxは2.4mmであるとする。この場合、反射角αは、図5を参照しながら説明したように、
α=arcsin[(λΔφ)/(2πΔx)]
=arcsin(λ8.8GHz・18度/(2π・2.4mm))
≒45.21度
となる。このため、グラフAもBも−45度において大きなピークを示している。−45度以外の方向に反射する電波は、不要反射波である。グラフAにより示されているように、従来構造の場合、−45度だけでなく、0度、+45度、60度等の方向にも大きな反射が生じている。さらに、+70度ないし+150度にかけて比較的高いレベルの反射も観測されている。これに対して、グラフBに示されるように、本実施例の第1構造の場合、0度、+45度、+60度、+70度ないし+150度等における不要反射波は、かなり抑制されていることが分かる。
図15は、図14のグラフB(本実施例の場合のグラフ)に関する遠方放射界を極座標形式で示す。
図16は、本実施例の第1構造を使用したリフレクトアレイによる反射波の等位相面を示す。x軸に沿って14個の素子(第1構造のマッシュルーム構造)が並んでおり、z軸方向から電波が到来し、z軸に対して、ZX面上にθ=−45度の方向に電波が反射している。等位相面の法線は、z軸に対して−45度の方向を向いており、この方向に反射波が適切に進んでいることが分かる。
<<2.2.2 反射角70度のリフレクトアレイ>>
図10〜図16(図13を除く)に示した数値例は、入射方向に対して水平45度の方向に反射させる観点から選ばれていた。本実施例は、45度に限定されず、任意の方向に電波を反射するリフレクトアレイを形成できる。
図17は、入射方向に対して水平70度の方向に反射させるリフレクトアレイにおける導電層L1層〜L3層を示す。L1層、L2層及びL3層の層構造は、図9に示したものと同じである。この例の場合、y軸方向に伸びる9列の帯の1つは、11×128個の素子を含んでいる。素子間の間隔は2.4mmである。隣接する素子同士の反射位相差は、24度であるように設計されている。すなわち、y軸方向に伸びる1つの帯(列)は、x軸方向における両端で反射位相が2π変化するように設計されている。理想的には15個の素子により、反射位相が2π変化することが望ましいが、設計上の制約などの理由により11個の素子が使用されている。このため、x軸方向の1周期36mm(=2.4×15)の中で、素子が形成されていない領域が存在する。このような帯又は列を複数個反復的に並べることで、より大きなサイズのリフレクトアレイを実現できる。なお、図17及び図18において、具体的な寸法の詳細は本発明に本質的ではないので伏せている。
図18は図17のL2層において「A部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。1つの行に関し、x軸方向に11個の素子が並んでいる。11個の矩形の1つ1つは、Wx及びWyのサイズを有する第1パッチ23(図2A)に対応する。これらx軸方向に並ぶ11個の素子の各々は、隣接する素子と所定の位相差(24度=360度/15)を有する。
図19は、それら11個の素子の寸法(パッチサイズWy)と反射位相の具体的な数値例を示す。図中、「設計位相」は、理想的な設計値を示し、「使用パッチの位相」は、実現できた実際の位相を示す。なお、この設計例においても図13に示される数値が使用されている(ただし、x軸方向の1サイクル長は36mmである。)。
<<2.3 第1及び第2パッチの相互関係>>
ところで、図2Aでは説明の簡明化のために第1パッチ23と、無給電素子の第2パッチ24のx方向及びy方向の寸法は同じであることを前提とした。しかしながら、このことは本実施例に必須ではなく、第1パッチ23の寸法と、無給電素子の第2パッチ24の寸法は異なってもよい。
図20は、図2Aと同様に、第1パッチ23の上に第2パッチが設けられているマッシュルーム構造を、具体的な数値例とともに示す。図20には、第1及び第2パッチ間の寸法を変化させた場合、並びに第2パッチの面積を変化させた場合に、反射位相を従来よりもどの程度拡大できたかを示す表も示されている。表において、第1及び第2パッチ間の間隔が、0.4mmの場合と0.8mmの場合とが比較されている。また、第2パッチが第1パッチと同じサイズの場合(サイズ1倍)と、第2パッチが第1パッチを95%に縮小したものである場合(サイズ0.95倍)とが比較されている。表に示されているように、間隔を0.8mmとし、第2パッチを縮小しなかった場合(サイズ1倍)に、反射位相の拡大効果は最も大きくなった(+39.3度)。なお、反射位相の拡大効果は、基準となるマッシュルーム構造に対するものである。基準マッシュルーム構造とは、パッチが多層化されていない従来構造である。
図2Aでは第1パッチ23よりも第2パッチ24の方が、接地プレート21から遠く隔たっていたが、このことも本実施例に必須ではない。第1パッチ23よりも第2パッチ24の方が接地プレート21に近くてもよい。
図21は、図2Aと同様に、第1パッチ23よりも第2パッチ24の方が、接地プレート21から遠く隔たっている場合の構造と、その構造に対するシミュレーション結果を示す。第1及び第2パッチの位置関係が逆の場合については、図22を参照しながら説明される。図21のシミュレーション結果は、パッチサイズWyが1.0mm、1.6mm、2.3mmである場合の各々について、基準マッシュルーム構造による反射位相と、本実施例の多層マッシュルーム構造による反射位相との比較例を示す。基準マッシュルーム構造の場合、パッチサイズWyが2.3mmの場合に、約167.4度の範囲にわたって反射位相を変えることができる。これに対して、本実施例による多層マッシュルーム構造の場合、パッチサイズWyが1.6mmの場合に、約179.7度の範囲にわたって反射位相を変えることができ、反射位相のレンジを約12.3度拡大できている。図21においてDSPAGで示される値(パッチの高さ又はビアの高さ)を3.2mmとし、第1及び第2パッチ間の距離Dsb−2の値を0.4mmとした場合において、無給電素子の第2パッチを第1パッチと同じサイズにした場合、ギャップを介して隣接する第1パッチ同士の間と、第1及び第2パッチ間との双方でキャパシタンスを増やす効果が認められた。これに対して、無給電素子の第2パッチを第1パッチの0.5倍のサイズにした場合、第1及び第2パッチ間でのみキャパシタンスを増やす効果が認められた。
図22は、図2Aとは異なり、第1パッチ23よりも第2パッチ24の方が、接地プレート21に近い場合の構造と、その構造に対するシミュレーション結果を示す。図において、ビアホールが第2パッチを貫通しているが、電気的な接続はされておらず、給電はされていない。シミュレーション結果は、パッチサイズWyが1.0mm、1.6mm、2.3mmである場合の各々について、基準マッシュルーム構造による反射位相と、本実施例の多層マッシュルーム構造による反射位相との比較例を示す。このような構造で図示の寸法の場合、基準マッシュルーム構造による反射位相のレンジの方が、多層マッシュルーム構造の場合よりも広いことが分かった。図22においてDsとして示される値(第1及び第2パッチ間の距離)を0.4mmとし、第2パッチの面積が第1パッチの面積の何倍であるかを示す量SCを0.5とした場合、主に、第1及び第2パッチ間において、キャパシタンスを増やす効果が認められた。Dsの値を3.2mmとし、SCを1.0とした場合、主に、ギャップを介して隣接するパッチ間において、キャパシタンスを増やす効果が認められた。Dsの値を0.4mmとし、SCを1.0とした場合、ギャップを介して隣接する第1パッチ間と、第1及び第2パッチ間との双方でキャパシタンスを増やす効果が認められた。
図23も、図2Aとは異なり、第1パッチ23よりも第2パッチ24の方が、接地プレート21に近い場合の構造と、その構造に対するシミュレーション結果を示す。シミュレーション結果は、パッチサイズWyが1.0mm、1.6mm、2.3mmである場合の各々について、基準マッシュルーム構造による反射位相と、本実施例の多層マッシュルーム構造による反射位相との比較例示す。基準マッシュルーム構造の場合、パッチサイズWyが2.3mmの場合に、約167.4度の範囲にわたって反射位相を変えることができる。これに対して、本実施例による多層マッシュルーム構造の場合、パッチサイズWyが1.6mmの場合に、約178.6度の範囲にわたって反射位相を変えることができ、反射位相のレンジを約11.2度拡大できた。図23においてDsとして示される値(第1及び第2パッチ間の距離)を0.4mmとし、第2パッチの面積が第1パッチの面積の何倍であるかを示す量SCを0.5とした場合、主に、第1及び第2パッチ間において、キャパシタンスを増やす効果が認められた。Dsの値を3.2mmとし、SCを1.0とした場合、主に、ギャップを介して隣接するパッチ間において、キャパシタンスを増やす効果が認められた。Dsの値を0.4mmとし、SCを1.0とした場合、ギャップを介して隣接するパッチ間と、第1及び第2パッチ間との双方でキャパシタンスを増やす効果が認められた。
<2.4 より一般的な多層マッシュルーム構造>
図2A等に示されているマッシュルーム構造のパッチは、第1及び第2の2つしか備えていないが、上述したように、このことは本発明に必須ではない。接地プレート上に3つ以上のパッチが多層化されていてもよい。
図2Bは、接地プレート上にn個のパッチL1、L2、L3、...Lnが並列的に多層化されているマッシュルーム構造を示す。最下位の層L0は接地プレートに対応する。図2Bに示されている構造は、図2Aに示されているマッシュルーム構造の代わりに使用可能である。後述する多の構造におけるマッシュルーム構造として使用されてもよい。図示の例では、各パッチのx軸方向及びy軸方向の寸法は、それぞれWx及びWyであるとして揃っているが、このことも必須ではない。適切な如何なるサイズが使用されてもよい。また、多層化されているパッチ間の間隔t、t1、t2、...も一律に揃っている必要はない。説明の便宜上、接地プレート上のパッチL1〜Lnは全て同じサイズWx及びWyを有し、多層化されているパッチ間の間隔は互いに等しいものとする。したがって、同一平面内で隣接するパッチ同士の隙間(ギャップ)は、どの層においても等しい。
図2Cは図2Bに示されるマッシュルーム構造の概略構造(左)及び等価回路図(右)を示す。同一平面内で互いにギャップを隔てて隣接するパッチによりキャパシタンスが生じる。この点は図2Aの構造と同じであり、そのようなキャパシタンスが、多層化されている層毎に得られる。図2Bの構造の場合、L1〜Lnのn個の平面すなわちn個の層において、キャパシタンスが層毎に発生する。このため、等価回路は、図2C右側に示すような回路図になる。この場合、表面インピーダンスZsは、(jωL)/(1−nω2LC)として、近似的に取り扱うことができる。
図2Dは、マッシュルーム構造のパッチ数(レイヤ数)が異なる様々な構造各々について、パッチサイズWy及び反射位相の関係をシミュレーションした結果を示す。図中、「1−Layer」とあるのは、接地プレート上に1層のパッチしか存在しない従来構造に対するシミュレーション結果を示す。従来構造の場合、表面インピーダンスZsは、(jωL)/(1−ω2LC)として、近似的に取り扱うことができる。この表面インピーダンスZsに基づいて、反射位相を計算した場合のグラフが、図中、実線で表現されている。これに対して、そのような数式によらず、接地プレート上に1層のパッチしか存在しない構造を、有限要素法でシミュレーションした場合の結果が、丸印でプロットされている。
図中、「2−Layer」は、接地プレート上に2層のパッチが存在する図2Aの構造に対するシミュレーション結果を示す。上述したように、この場合、表面インピーダンスZsは、(jωL)/(1−2ω2LC)として、近似的に取り扱うことができる。この表面インピーダンスZsに基づいて、反射位相を計算した場合のグラフが、図中、実線で表現されている。これに対して、そのような数式によらず、接地プレート上に2層のパッチが存在する構造を、有限要素法でシミュレーションした場合の結果が、四角印でプロットされている。
「3−Layer」は、接地プレート上に3層のパッチが存在する図2Bの構造に対するシミュレーション結果を示す。この場合、表面インピーダンスZsは、(jωL)/(1−3ω2LC)として、近似的に取り扱うことができる。この表面インピーダンスZsに基づいて、反射位相を計算した場合のグラフが、図中、実線で表現されている。これに対して、そのような数式によらず、接地プレート上に3層のパッチが存在する構造を、有限要素法でシミュレーションした場合の結果が、逆三角印でプロットされている。
「4−Layer」は、接地プレート上に4層のパッチが存在する図2Bの構造に対するシミュレーション結果を示す。この場合、表面インピーダンスZsは、(jωL)/(1−4ω2LC)として、近似的に取り扱うことができる。この表面インピーダンスZsに基づいて、反射位相を計算した場合のグラフが、図中、実線で表現されている。これに対して、そのような数式によらず、接地プレート上に4層のパッチが存在する構造を、有限要素法でシミュレーションした場合の結果が、三角印でプロットされている。
各グラフを参照するに、Zs=(jωL)/(1−nω2LC)に基づく実線と、有限要素法による計算結果は、比較的一致していることがわかる。これは、マッシュルーム構造のパッチをn層に多層化することで、容量が近似的にn倍に増えることを意味する。したがって、マッシュルーム構造のパッチを多層化することで、容量を制御することができる。
図示の例によれば、多層化する層数(レイヤ数)が増えた場合、パッチサイズが大きくなるにつれて、Zsの計算式と有限要素法のシミュレーション結果との間のずれが大きくなっている。これは、マッシュルーム構造のレイヤ数が増えるにつれて、マッシュルーム構造全体を1つの集中素子として取り扱うことが妥当でなくなることを示す。したがって、レイヤ数が多い場合、及びパッチサイズが大きくい場合、Zsの理論式(Zs=(jωL)/(1−nω2LC))よりも、有限要素法等による実際のシミュレーション結果に基づいて設計することが好ましい。
<3.第2構造>
上記の第1構造は、無給電素子のパッチを付加してパッチを多層化することで、キャパシタンスCを増やしていた。本実施例の第2構造は、キャパシタンスCではなくインダクタンスLに着目する。
図24は、第2構造で使用可能なマッシュルーム構造を示す。図24には、接地プレート121、ビアホール122、パッチ123が示されている。
接地プレート121は、多数のマッシュルーム構造に対して共通の電位を供給する導体である。Δx及びΔyは、隣接するマッシュルーム構造におけるビアホール間のx軸方向の間隔及びy軸方向の間隔を示す。Δx及びΔyは、マッシュルーム構造1つ分に対応する接地プレート121のサイズを表す。一般に、接地プレート121は、多数のマッシュルーム構造が並んだアレイと同程度に大きい。
ビアホール122は、接地プレート121とパッチ123とを電気的に短絡するために設けられる。パッチ123は、x軸方向にWxの長さを有し、y軸方向にWyの長さを有する。パッチ123は、接地プレート121に対して平行に距離tを隔てて設けられ、ビアホール122を介して接地プレート121に短絡される。一例として、パッチ123は、接地プレート121から1.6mm隔てて設けられている。
図25は、x軸方向に並んだマッシュルーム構造M1〜MNに対して、z軸∞方向から電波が到来し、反射される様子を模式的に示す。反射波は、入射方向(z軸方向)に対して角度αをなすとする。ビアホール間の間隔がΔxであったとすると、隣接するマッシュルーム構造(素子)による反射波の位相差Δφ及び反射角αは次式を満たす。
Δφ=k・Δx・sinα
α=arcsin[(λΔφ)/(2πΔx)]
ただし、kは波数であり、2π/λに等しい。λは電波の波長である。N個のマッシュルーム構造M1〜MNの全体による反射位相差N・Δφが、360度(2πラジアン)になるように、隣接する素子同士の位相差Δφが設定される。例えば、N=20 の場合、Δφ=360/20=18度 である。したがって、隣接する素子との反射位相差が18度であるように素子を設計し、それらを20個並べることで、角度αの方向に電波を反射するリフレクトアレイを実現することができる。
図26は、図24に示すマッシュルーム構造の等価回路を示す。図26左側に示されるように、あるマッシュルーム構造のパッチ123と、y軸方向に隣接するマッシュルーム構造のパッチ123との間のギャップに起因して、キャパシタンスCが存在する。さらに、あるマッシュルーム構造のビアホール122及びy軸方向に隣接するマッシュルーム構造のビアホール122に起因して、インダクタンスLが存在する。したがって、隣接するマッシュルーム構造の等価回路は、図26右側に示されるような回路になる。すなわち、等価回路において、インダクタンスLとキャパシタンスCは、並列に接続されている。キャパシタンスC、インダクタンスL、表面インピーダンスZs及び反射係数Γは、次のように表すことができる。
数式(5)において、ε
0は真空の誘電率を表し、ε
rはパッチ同士の間に介在する材料の比誘電率を表す。Δyはビアホール間の間隔を表す。Wyはパッチのサイズを表す。したがって、Δy−Wyは、ギャップの大きさを表す。数式(6)において、μはビアホール同士の間に介在する材料の透磁率を表し、tはビアホール122の高さ(接地プレート121からパッチ123までの距離)を表す。数式(7)において、ωは角周波数を表し、jは虚数単位を表す。数式(8)において、ηは自由空間インピーダンスを表し、Φは位相差を表す。
上記の数式(5)を参照するに、インダクタンスLは、パッチ123の高さ(接地プレート121及びパッチ123間の距離)に比例している。したがって、図24に示されるようなマッシュルーム構造において、パッチ123の高さtを変えることで、インダクタンスL、すなわち共振周波数を変えることができる。
図27は、図24に示すようなマッシュルーム構造のパッチのサイズWyと反射位相との関係を示す。図中、実線は理論値を示し、丸印でプロットされているものは有限要素法解析によるシミュレーション値を示す。図27には、4種類の高さtの各々について、パッチのサイズWyと反射位相との関係を表すグラフが示されている。t02は距離tが0.2mmである場合のグラフを表す。t08は距離tが0.8mmである場合のグラフを表す。t16は距離tが1.6mmである場合のグラフを表す。t24は距離tが2.4mmである場合のグラフを表す。ビアホール間隔Δyは、一例として2.4mmである。
グラフt02の場合、パッチのサイズWyが0.5mmから2.3mmまで変化しても、反射位相は180度のままである。
グラフt08の場合も、パッチのサイズWyが0.5mmから2.3mmまで変化しても、反射位相は162度のままである。
グラフt16の場合、パッチのサイズWyが0.5mmから2.1mmに変化する場合、反射位相は144度から126度に緩慢にしか減少していないが、サイズWyが2.1mmより大きくなると、反射位相は急激に減少し、サイズWyが2.3mmの場合に、反射位相は、シミュレーション値(丸印)で54度及び理論値(実線)で0度に達する。
グラフt24の場合、パッチのサイズWyが0.5mmから1.7mmに変化する場合、反射位相は117度から90度に緩慢にしか減少していないが、サイズWyが1.7mmより大きくなると、反射位相は急激に減少し、サイズWyが2.3mmの場合に、反射位相は、−90度に達する。
このように、マッシュルーム構造におけるパッチの高さtが異なる場合、パッチのサイズを変えることで実現できる反射位相の範囲も変わる。したがって、マッシュルーム構造の素子を並べてリフレクトアレイを実現する場合、パッチ高さtが異なる構造を組み合わせることで、反射位相が適切に変化するマッシュルーム構造の列を実現でき、反射特性が優れたリフレクトアレイを実現することができる。
本実施例の第2構造によるリフレクトアレイを設計する場合、図27のグラフt02、t08、t16、t24を参照し、所望の反射位相を実現するパッチサイズを決定する。例えば、t=2.4mmのグラフt24においてパッチサイズWyを2.2mmにすることで、反射位相0度の素子を実現し、t=2.4mmのグラフt24においてパッチサイズWyを2mmにすることで反射位相72度を実現し、t=1.6mmにおいてパッチサイズWyを1mmにすることで、反射位相144度を実現することができる。このようにして割り出されたパッチサイズのパッチを並べることで、リフレクトアレイを実現することができる。
図28は、パッチ高さが異なるマッシュルーム構造が並んでいる様子を模試的に示す。図示の例では、パッチ高さとしてt1、t2及びt3の3種類がある。例えばt=t1のような特定のパッチ高さだけであった場合、反射位相が徐々に変化するマッシュルーム構造を十分な数だけ用意することができないかもしれない。しかしながら、t=t2及びt3のパッチ高さの構造も併用することで、設計の自由度が広がり、適切な反射位相の素子を実現しやすくなる。
図28に示す例では、接地プレートからの高さが異なる複数のパッチが、同一平面に存在するように形成されている。しかしながら、このことは本発明に必須でなく、接地プレートからの高さが異なる複数のパッチは、同一平面に存在しなくてもよい。
図29は、接地プレートからパッチまでの高さが異なる複数のマッシュルーム構造について、接地プレート121が共通に設けられている様子を示す。その代わり、全てのパッチ123が同一平面には存在していない。
図30は、さらに別の例を示す。図28に示す例と同様に、接地プレートからの高さが異なる複数のパッチが、同一平面に存在するように形成されている。図28では接地プレートが多層に形成されていたのに対して、図30では、接地プレートは多層には形成されていない。言い換えれば、ある接地プレートの下側に、別の接地プレートが存在しないように、接地プレートが適宜除去されている。このような構造は、接地プレートに起因する不要な反射を抑制する観点から好ましい。
<4.第3構造>
上記の第1構造は、無給電パッチを付加して複数のパッチを互いに並列的に多層化することで、キャパシタンスCを増やしていた。本実施例の第3構造は、ギャップを規定するパッチ同士の位置関係を工夫することで、キャパシタンスCを増やす。第3構造においても図24に示されるようなマッシュルーム構造が使用されてよい。すなわち、接地プレート121に対して、距離tを隔ててパッチ123が設けられ、パッチ123はビアホール122を介して接地プレート121に短絡されている。隣接するマッシュルーム構造におけるビアホール間のx軸方向の間隔及びy軸方向の間隔は、それぞれΔx及びΔyである。パッチ123は、x軸方向にWxの長さを有し、y軸方向にWyの長さを有する。あるいは、第3構造において、図2Aや図2Bに示すようなマッシュルーム構造が使用されてもよい。その場合、パッチ123に加えて、第2パッチ24が設けられる。説明の簡明化のため、第3構造は、図24に示されるようなマッシュルーム構造を使用するものとする。
図25を参照しながら説明したように、マッシュルーム構造の素子M1〜MNをx軸方向に並べ、各素子による反射波の位相差が、ある関係を満たすようにすることで、反射波を所望の方向に向けることができる。
図24に示すようなマッシュルーム構造の場合、等価回路は図26に示されるような回路であった。したがって、等価回路のキャパシタンスC、インダクタンスL、表面インピーダンスZs及び反射係数Γは、次のように表すことができる。
各数式における記号は第2構造において説明したとおりである。
数式(5)を参照するに、Δy−Wyは、隣接するパッチ同士の隙間(ギャップ)の大きさを表す。したがって、arccosh関数の引数は、ビアホール間隔Δyと、ギャップとの比率を表す。
図31は、図24に示されるようなマッシュルーム構造に対するキャパシタンスCと反射位相の関係を示すシミュレーション結果である。シミュレーションは、キャパシタンスとインダクタンスは独立に変化することを仮定して行われた。図示の例では、パッチ高さtの値が、0.4mm、0.8mm、1.2mm、1.6mm、2.4mm及び3.2mmである場合の各々について、キャパシタンスCと反射位相との関係のシミュレーション結果が示されている。図31から分かるように、+180度ないし−180度の全範囲にわたって反射位相を実現するには、キャパシタンスのレンジが広くなければならないことが分かる。
上記の数式(5)によれば、マッシュルーム構造におけるキャパシタンスCは、ギャップ(Δy−Wy)が狭くなるにつれて、より大きな値になる。逆に言えば、キャパシタンスCを大きくするには、ギャップを狭くする必要がある。しかしながら、主に製造工程上の制約に起因して、非常に狭いギャップを高精度に製造することは容易ではない。例えば、0.1mm未満のギャップを高精度に製造することは容易でない。このため、このマッシュルーム構造を使用する従来技術の場合、大きなキャパシタンスの値を実現できない、という問題があった。
図32は、本実施例の第3構造の概念図を示す。3つの平行な線p1〜p3の各々に沿ってマッシュルーム構造が整列している。説明の便宜上、列数及びマッシュルーム構造数をそれぞれ3つにしているが、列数やマッシュルーム構造数が、実際にはさらに大きな値になることは当業者にとって明らかである。便宜上、線piに沿って整列しているパッチをpijと書くことにする。パッチp13及びp23は、最も広いギャップを隔てて隣接している。同様に、パッチp23及びp33も最も広いギャップを隔てて隣接している。このため、これらのパッチpi3(i=1〜3)により形成されるキャパシタンスC3は、小さな値になる。パッチp12及びp22は、より狭いギャップを隔てて隣接している。同様に、パッチp22及びp32も狭いギャップを隔てて隣接している。このため、これらのパッチpi2(i=1〜3)により形成されるキャパシタンスC2は、C3より大きな値になる。パッチpi1及びpi2(i=1〜3)の各々は、同一平面内に設けられている。これに対して、パッチp11及びp21は、同一平面内ではなく、異なる平面内に位置し、距離を隔てて互いに一部重なっている。同様に、パッチp21及びp31も、同一平面内ではなく、異なる平面内に位置し、距離を隔てて互いに一部重なっている(パッチp11及びp31は同一平面内にある)。このため、これらのパッチpi1により形成されるキャパシタンスC1は、C2より大きな値になる。このように第3構造では、隣接する少なくとも一部のパッチ同士が距離を隔てて互いに重なることで、単に同一平面でギャップを形成していた場合よりも、大きなキャパシタンスを実現できるようにする。
図33は、第3構造におけるパッチの位置関係を平面図(左側)及び断面図(右側)により示している。便宜上、7行3列の形式にパッチが並んでいるが、行数及び列数は任意である。従来の構造と同様に、第4行ないし第7行のパッチの場合、隣接する列のパッチ同士が同一平面内で隙間(ギャップ)を形成している。従来は、同一平面内におけるギャップを狭く形成する際の製造限界に起因して、例えば第4行ないし第7行のような位置関係のマッシュルーム構造のみを利用して、リフレクトアレイを形成せざるを得なかった。このため、さらに大きな容量に対応する反射位相が必要であったとしても、そのような反射位相をもたらすマッシュルーム構造を得ることはできなかった。例えば、図27において、パッチ長さWyは、2.3mmが上限になっている。パッチ同士の間隔Δyは、2.4mmであるので、パッチ長さWyが2.3mmの場合、ギャップは、Δy−Wy=0.1mmとなり、パッチ長さの上限は、実現可能なギャップの長さに対応する。
これに対して、第1行ないし第3行のパッチの場合、隣接する列のパッチ同士は、同一平面にはない。図示の例の場合、第1行から第3行に属するパッチの内、第2列に属するパッチの高さは、第1列及び第3列に属するパッチの高さより高い。これにより、隣接する列のパッチ同士が、より大きな容量を形成することができる。隣接する列のパッチ同士は重なることが許容されるので、パッチ長さWyは、2Δy未満であれば、Δy以上でもよい。代替例として、第2列のパッチの高さが、第1及び第3列のパッチの高さより低くなっていてもよい。
図27の右下側に示されているグラフOVは、重なりを許容することでパッチ長さWyを2.3mm以上に延長した場合のシミュレーション結果を示す。隣接するパッチに対して重なりを許容することで、従来の限界であった−90度を超えて、ほぼ−180度に達する反射位相を実現できることが分かる。このように第3構造によれば、達成可能な反射位相のレンジを拡大することができる。
ところで、図32や図33に示されているように、隣接する列のパッチ同士の重なりを許容する場合、隣接するパッチの接地プレートからの距離(高さ)tは、厳密には同一でない。上記の数式(6)によれば、パッチの高さtは、インダクタンスLに影響する(L=μt)。したがって、あるパッチ高さtに関するパッチ長さWyと反射位相の関係を示すグラフ(例えば、t24)と、重なりを許容した場合のパッチ長さWyと反射位相の関係を示すグラフ(OV)は、厳密には連続的にならない。前提とするパッチ高さが厳密には異なり、それに応じて共振周波数が変わるからである。しかしながら、第3構造において、重なっているパッチ同士のパッチ高さの相違が、比較的小さい場合、図27に示されるように、グラフt24とグラフOVは、連続的になる。ただし、これらのグラフを連続的にすること(すなわち、隣接するパッチ高さの相違が無視できる程度に小さいこと)は、本実施例において必須ではない。グラフOVとして示されるグラフが、グラフt24から離れた位置にあったとしても、適切な反射位相が設計可能であればよいからである。
<5.変形例>
<<5.1 パッチ配列>>
第1ないし第3構造における上記のパッチは、ビアが並んでいる線(図4のp、q、図33の列)に対して対称的に形成されていた。そして、y軸方向のパッチサイズWyをその線に沿って徐々に変えることで、広狭様々なギャップが形成されていた。しかしながら、このようなパッチの並べ方は本発明に必須ではなく、様々なパッチ配列が考えられる。
例えば、図34Aに示すようにして、パッチ及びギャップが形成されてもよい。x軸方向にWxの長さを有するパッチp11、p12、p13、p14が、y軸方向に間隔Δyを隔てて並んでいる。第1のパッチp11は、y軸方向に2Wy1の長さを有する。第2のパッチp12は、y軸方向にWy1+Wy2の長さを有する。第3のパッチp13は、y軸方向にWy2+Wy3の長さを有する。第4のパッチp14は、y軸方向にWy3+Wy4の長さを有する。したがって、第1及び第2のパッチ間の隙間(ギャップ)は、Δy−2Wy1=gy1 である。同様に、第2及び第3のパッチ間のギャップは、Δy−2Wy2=gy2 である。第3及び第4のパッチ間のギャップは、Δy−2Wy3=gy3 である。4つのパッチp11、p12、p13、p14は、それぞれ異なる寸法を有するが、パッチ同士の間の中心間距離は、全て等しい(Δy)。これらのパッチを用いてリフレクタアレイを作成する場合、図5及び図25において説明したように、隣接するパッチとの間で所定の位相差ΔΦを実現する必要がある。この位相差ΔΦは、電波の反射角α及びパッチの中心間距離Δyに対して次式を満たす必要がある。
ΔΦ=k・Δy・sinα
ここで、kは波数を表す(k=2π/λ)。
図35は、図34Aに示されるようなパッチ及びギャップを形成することで、リフレクトアレイを形成した場合の概念的な平面図を示す。図35に示されているパッチは、不図示のビアホールを介して接地プレートに接続されている。
<<5.2 垂直制御>>
図3、図4、図11、図18及び図33の構造では、電界がy軸方向を向いてZ軸方向から入射する波は、電界の方向に対して横方向、すなわちx軸方向に反射する(水平制御)。これに対して、図34A、B及び図35の構造においては、電界がy軸方向を向いてZ軸方向から入射する波は、電界と同じ方向すなわちy軸方向に反射する(垂直制御)。言い換えれば、電波を反射させたい方向に沿って、素子同士の間の位相差を変化させることで(例えば、キャパシタンスC及び/又はインダクタンスLを変化させることで)、入射する電波を所望の方向に反射させることができる。説明の便宜上、z軸から入射した電波を、x軸方向に反射させる場合が水平制御と言及され、y軸方向に反射させる場合が垂直制御と言及されているが、水平及び垂直は便宜的な相対的な概念である。
<<5.3 第1構造を利用した場合(反射角45度)>>
図36は、電波を反射するリフレクトアレイを形成する際、第1構造が使用されている様子を示す部分断面図を示す。図示の層構造は、図9において説明したものと同じである。ただし、図34A、B及び図35に示されるようなパッチ及びギャップの形成法が使用されている点が異なる。リフレクトアレイは、L1層、L2層及びL3層の3つの導電層と、各導電層間の誘電体層とを有する。一例として、導電層は例えば銅を含む材料で構成されている。また、誘電体層は、比誘電率が4.4であり、tanδが0.018である材料で構成されている。L1層及びL2層間には0.8mmの厚さの誘電体層が介在している。L2層及びL3層間には1.6mmの厚さの誘電体層が介在している。L1層は図2Aにおける第2パッチ24に対応する。L2層は図2Aにおける第1パッチ23に対応する。L3層は接地プレート21に対応する。したがって、L2層及びL3層間の貫通孔はビアホール22に対応する。
図37は、L1層、L2層及びL3層の平面図を概略的に示す。図2Aに示されるようなマッシュルーム構造により1つの素子が形成され、その素子が行列形式に配置されている。この点は、図10と同じである。図示の例の場合、x軸方向に伸びる7列の帯の1つは、15×131個の素子を含んでいる。素子間の間隔は2.4mmである。図示のリフレクトアレイは、電界がy軸方向を向いてZ軸から入射する波をy軸方向、すなわち垂直方向に入射方向に対して45度の角度で反射させるように設計されており、隣接する素子同士の反射位相差は18度であるように設計されている。すなわち、x軸方向に伸びる1つの帯(列)は、帯のy軸方向における両端で反射位相が2π変化するように設計されている。理想的には20個の素子により、反射位相が2π変化することが望ましいが、製造上の制約等の理由により15個の素子が使用されている。このため、y軸方向の1周期48mm(=2.4×20)の中で、素子が形成されていない領域が存在する。このような帯又は列を複数個反復的に並べることで、より大きなサイズのリフレクトアレイを実現できる。なお、図37及び図38において、具体的な寸法の詳細は本発明に本質的ではないので伏せている。
図38は図37のL2層において「A部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。1つの列(y軸方向)に関し、15個の素子が並んでいる。15個の矩形の1つ1つは、Wx及びWyのサイズを有する第1パッチ23(図2A)に対応する。これら15個の素子の各々は、隣接する素子と所定の位相差(18度=360度/20)を有する。
図39は、y軸方向に用意する素子数を12個にした場合の数値例を示す。図39に示す数値例も、電波の入射方向に対して45度の角度で反射波を形成するためのものである。
<<5.4 第1構造を利用した場合(反射角70度)>>
図37〜図39に示した数値例は、電波を入射方向に対して45度の方向に反射させる観点から決定されていた。本実施例は、45度に限定されず、任意の方向に電波を反射するリフレクトアレイを形成できる。
図40は、電波を入射方向に対して70度の方向に反射させるリフレクトアレイにおけるL1層、L2層及びL3層を示す。L1層、L2層及びL3層の層構造は、図9及び図36に示したものと同じである。この例の場合、x軸方向に伸びる9列の帯の1つは、12×129個の素子を含んでいる。素子間の間隔は2.4mmである。隣接する素子同士の反射位相差は、24度であるように設計されている。すなわち、x軸方向に伸びる1つの帯(列)は、y軸方向における両端で反射位相が2π変化するように設計されている。理想的には15個の素子により、反射位相が2π変化することが望ましいが、製造上の制約などの理由により12個の素子が使用されている。このため、y軸方向の1周期36mm(=2.4×15)の中で、素子が形成されていない領域が存在する。このような帯又は列を複数個反復的に並べることで、より大きなサイズのリフレクトアレイを実現できる。なお、図40及び図41において、具体的な寸法の詳細は本発明に本質的ではないので伏せている。
図41は図40のL2層において「A部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。1つの列(y軸方向)に関し、12個の素子が並んでいる。12個の矩形の1つ1つは、Wx及びWyのサイズを有する第1パッチ23(図2A)に対応する。これら12個の素子の各々は、隣接する素子と所定の位相差(24度=360度/15)を有する。
図42に示す数値例も、電波の入射方向に対して70度の角度で反射波を形成するためのものである。ただし、1つの列(y軸方向)に関して12個ではなく、11個の素子を並べることで、リフレクトアレイを形成した場合の数値例である。
<<5.5 第2構造を利用した場合(反射角45度)>>
図36ないし図42に示した数値例は、電波を反射するリフレクトアレイが第1構造を用いて形成された場合の例である。以下、第2構造を用いて、電波を反射するリフレクトアレイを形成する例を説明する。
図43は、マッシュルーム構造のパッチ高さtが4種類存在するリフレクトアレイの概略斜視図を示す。多数の素子の一部分しか描かれていないことに留意を要する。リフレクトアレイの全体的な平面図は、図35に示したものと同様である。
図44は、層構造を示す断面図である。図示されているように、1層目ないし5層目の5つの層が、少なくとも一部に導電層を含む層として使用され、それらの間には誘電体層が介在している。一例として、誘電体層は、比誘電率が4.4であり、tanδが0.018であるFR4基板である。1層目と2層目は0.2mm隔たっている。1層目と3層目は0.8mm隔たっている。1層目と4層目は1.6mm隔たっている。1層目と5層目は2.4mm隔たっている。
図45Aは、1層目ないし5層目における導電層の位置(影の付いた部分)を示す。1層目の場合、第1ないし第13の素子各々に対応する13個のパッチが示されている。図中、y軸方向に並ぶ13個の丸印はビアホールに対応する。便宜上、右から順に第1、第2、...第13の素子と言及する。図46Aは、1層目における13個のパッチのサイズを示す。2層目の場合、第1の素子に対応する場所に、長さPy1を有する導電層が設けられ、他の場所において導電層は設けられていない。一例としてPy1は2.4mmである。3層目の場合、第1及び第2の素子に対応する場所に、長さPy2を有する導電層が設けられ、他の場所において導電層は設けられていない。一例としてPy2は4.8mmである。4層目の場合、第1ないし第5の素子に対応する場所に、長さPy3を有する導電層が設けられ、他の場所において導電層は設けられていない。一例としてPy3は12mmである。5層目の場合、第1ないし第13の全素子に対応する場所に、長さPy4を有する導電層が設けられている。一例としてPy4は31.2mmである。
<<5.6 改良された第2構造による垂直制御>>
第2構造の等価回路を示す図26を参照しながら説明したように、隣接するマッシュルーム構造同士の間には、近似的にL=μtの大きさのインダクタンスが発生する。Lはインダクタンスを示し、μは材料の透磁率を示し、tはビアの高さを示す。この場合、隣接するマッシュルーム構造のビアの高さはともに等しい。図28にはビアの高さが異なるマッシュルーム構造が並べられている。実線の左回りの矢印で示されているインダクタンスL1、L3、L5については、それぞれμ×t1、μ×t2、μ×t3の大きさの値になることが予想される。しかしながら、破線の左回りの矢印で示されているインダクタンスL2、L4の場合、接地プレートに段差があり、隣接するビアの高さが相違している。このため、この付近で発生するインダクタンスを、透磁率μとビアの高さtの積により近似することは適切でなくなってしまう。同様なことは、図29及び図30におけるL2、L4についても当てはまる。インダクタンスを透磁率とビアの高さの積で近似できないことは、マッシュルーム構造を多数並べてリフレクタ等を作成する際に、設計を困難にしてしまう。ビアの高さが複数種類存在する第2構造により、垂直制御(図34A−D)を行う場合、この不都合は特に顕著になる。
図45Bは、上記の問題に対処するように改良された第2構造を用いて垂直制御を行う場合の平面図及び断面図を示す。図34Aに示されるようなパッチ配列が使用されているが、他の配列法が使用されてもよい。1層目ないし5層目に示されている太い線分は、その部分が導電性の材料であることを示す。1層目における導電性の材料は、パッチを構成する。2層目ないし5層目は接地プレートを構成する。各層を横切るように、5つのビアがパッチ各々に対して存在している。ビアと接地プレートが交わっている部分は、電気的に接続されている。図中、C1、C2、C3、C4はパッチ同士の間に発生するキャパシタンスを示す。図28においては「EX」で示されているように、接地プレートの端(又は縁)は、ビアを超えて延在し、隣接する素子同士の中間に位置している。これに対して、図45Bに示す例の場合、接地プレートの端は、ビアを超えて延在しておらず、ビアの位置において終端されている。これにより、L1、L2、L3、L4のどのインダクタンスについても、隣接するビアの高さは等しく、発生するインダクタンスは、透磁率とビアの高さの積により適切に近似できる。なお、接地プレートの端はビアの位置において実質的に終端されていればよく、製造工程等の都合により接地プレートの端がビアを僅かに超えていてもよい。
<5.6 ビアなし構造>
上記の様々なマッシュルーム構造やパッチ配列において、1つ以上のパッチの内の1つと、接地プレートは、ビアホールを介して電気的に接続又は短絡されていた。しかしながら、このことは、リフレクトアレイを実現する場合には必須ではない。マッシュルーム構造がリフレクタアレイとして使用され、入射波を所望の方向に反射させる際、ビアホールは、直接的には作用していないからである。ただし、ビアホールの高さ(パッチ高さ)tは、インダクタンスL(=μt)に関連し、インダクタンスLはマッシュルーム構造の共振周波数ωに影響するので、ビアホールの有無は、パッチの寸法やギャップ等を設計する際には必ず考慮しなければならない。逆に、ビアホールを設けないこととし、接地プレート及び1つ以上のパッチ同士の容量等に基づいて、パッチ及びリフレクタアレイを設計することも可能である。
例えば、第1構造によるマッシュルーム構造は、パッチを多層化することで容量を制御できるので(C→nC)、ビアホールが存在しなかったとしても、入射波を適切に反射させることはできる(図46B)。
第2構造によるマッシュルーム構造の場合、パッチ及び接地プレート間の距離を変えるとインダクタンスLが変化することに着目していた(L=μt)。したがって、ビアホールが存在しなかった場合、上記の議論のようなインダクタンスは得られない。しかしながら、第2構造においてビアホールが存在しなかった場合に、パッチ及び接地プレート間の容量をさらに考慮して設計することが考えられる(図46C)。パッチ及び接地プレート間の容量は、近似的にそれらの間の距離に反比例する。したがって、隣接するパッチ同士の隙間に起因する容量に加えて、パッチ及び接地プレート間の距離に依存する容量をも考慮することで、隣接するパッチ同士の反射位相差に相応しいパッチを設計することができる。
第3構造によるマッシュルーム構造は、パッチ同士の重なりを許容することで容量を制御しているので、第1構造の場合と同様に、ビアホールが存在しなかったとしても、入射波を適切に反射させることができる(図46D)。
図46B−Dにおいて、隣接するパッチ同士の間隔は、図示の便宜上等間隔であるように描かれているが、このことは本発明に必須ではなく、パッチ同士の間隔は、具体的な製品用途に応じて様々に設定される。図46Eは、上記の第2構造において、ビアがなく、パッチ同士の間隔が均等ではない様子を強調して示している。パッチ同士の間隔が均等であってもなくてもよいことは、第2構造だけでなく、第1及び第3構造についても当てはまる。
さらに、水平制御(x方向に反射させる制御)及び垂直制御(y方向に反射させる制御)を行う際にも、ビアがないマッシュルーム構造を使用することができる。
図34Bは、ビアがないマッシュルーム構造を用いて垂直制御を行う場合のパッチ配列例を示す。ただし、図34Bに示すパッチ配列法は、ビアがあるマッシュルーム構造についても適用可能である。図示の例場合、4つのパッチp11、p12、p13、p14は、すべて同じ寸法を有する。すなわち、x軸方向にWx及びy軸方向に2Wyのサイズをそれぞれが有する。この点、隣接するパッチのサイズが異なっている図34Aに示される配列法と異なる。ただし、図34Bに示すパッチ配列法の場合、隣接するパッチ同士の中心間距離は、同一ではない。第1のパッチp11と第2のパッチp12との間の中心間距離Δy1は、Δy1=Wy+gy1+Wy=2Wy+gy1 である。第2のパッチp12と第3のパッチp13との間の中心間距離Δy2は、Δy2=Wy+gy2+Wy=2Wy+gy2 である。第3のパッチp13と第4のパッチp14との間の中心間距離Δy3は、Δy3=Wy+gy3+Wy=2Wy+gy3 である。パッチ同士の間の隙間は、図34Aのパッチ配列と同様に、gy1、gy2、gy3、...のように変化している。
図34Bに示すパッチ配列例の場合、4つのパッチp11、p12、p13、p14は、すべて同じ寸法を有するが、パッチ同士の中心間距離は、場所によって異なる。これらのパッチを用いてリフレクタアレイを作成する場合も、図5及び図25において説明したように、隣接するパッチとの間で所定の位相差ΔΦを実現する必要がある。この位相差ΔΦは、電波の反射角α及びパッチの中心間距離Δyiに対して次式を満たす必要がある。
ΔΦ=k・Δyi・sinα
ここで、kは波数を表し(k=2π/λ)、Δyiは、場所によって異なるパッチの中心間距離を表す(i=1,2,...)。
図34Cは、ビアがないマッシュルーム構造を用いて垂直制御を行う場合の別のパッチ配列例を示す。図34Aと同様に、4つのパッチp12、p13、p14、p15は、それぞれ異なる寸法を有するが、パッチ同士の間の中心間距離は、全て等しい(Δy)。図34Aに示す例とは異なり、ビアは設けられていない。これらのパッチは、x軸方向にWxの長さを有する。第1のパッチp12は、y軸方向にWy1+Wy2の長さを有する。第2のパッチp13は、y軸方向にWy2+Wy3の長さを有する。第3のパッチp14は、y軸方向にWy3+Wy4の長さを有する。第4のパッチp15は、y軸方向にWy4+Wy5の長さを有する。したがって、第1及び第2のパッチ間の隙間(ギャップ)は、Δy−2Wy2=gy2 である。同様に、第2及び第3のパッチ間のギャップは、Δy−2Wy3=gy3 である。第3及び第4のパッチ間のギャップは、Δy−2Wy4=gy4 である。したがって、基準線同士の間の距離は、Δyに等しく、一定に保たれる。基準線の位置は、図34Aにおけるビアが設けられていた点(点を通る直線)に対応する。これらのパッチを用いてリフレクタアレイを作成する場合、図5及び図25において説明したように、隣接するパッチとの間で所定の位相差ΔΦを実現する必要がある。この位相差ΔΦは、電波の反射角α及びパッチ間隔Δyに対して次式を満たす必要がある。
ΔΦ=k・Δy・sinα
ここで、kは波数を表す(k=2π/λ)。
ところで、マッシュルーム構造にビアが有る場合、パッチの寸法を決める基点としてビアの位置を使用することができる。しかしながら、ビアが無いマッシュルーム構造の場合、そのような基点はない。
図34Dは、ビアがないマッシュルーム構造を用いて垂直制御を行う場合の別のパッチ配列例を示す。図34Cと同様に、4つのパッチp12、p13、p14、p15は、それぞれ異なる寸法を有する。図示の例の場合、第1のパッチと隣接する第2のパッチと間のギャップ(隙間)を二等分した中心線と、第2のパッチと隣接する第3のパッチとの間のギャップを二等分した中心線との間の距離が、全て等しく設定されている(Δy)。一般に、i番目のパッチと(i+1)番目のパッチとの間のギャップは、gyiとして表現され、ギャップを二等分した中心は、Giとして表現される。i番目のパッチのy軸方向の寸法Wyiは、Δy−(gyi−1)/2−gyi/2 として算出される。例えば、Wy2=Δy−gy1/2−gy2/2 として算出される。このようにギャップの中心を基点とすることで、ビアが無い場合のパッチの寸法を簡易に算出することができる。
<6.製造方法>
第1ないし第3構造及び変形例の構造は、当該技術分野で既知の適切な如何なる方法で製造されてもよい。何れの構造を製造する場合にも、金属層と誘電体層とが積層された構造が基礎になる。例えば、表裏に銅の導電層が形成されているプリント基板(例えば、誘電率が4.4であるガラスエポキシ基板(FR4))を2枚重ねてプレスすることで、金属層が3層存在する構造が得られる。この場合において、プリプレグのような樹脂基板を複数枚重ねることで、所望の厚みの誘電体層を形成することができる。
例えば、最下位の金属層を接地プレートとし、中間の金属層を第1パッチとし、最上位の金属層を第2パッチとすることで、図2Aに示されるような第1構造のマッシュルーム構造を製造してもよい。
また、最下位の金属層及び最上位の金属層を第1のマッシュルーム構造に使用し、中間の金属層及び最上位の金属層を第2のマッシュルーム構造に使用することで、図28及び図30に示すような第2構造を製造してもよい。最上位の金属層及び最下位の金属層を第1のマッシュルーム構造に使用し、中間の金属層及び最下位の金属層を第2のマッシュルーム構造に使用することで、図29に示すような第2構造を製造してもよい。
また、隣接するパッチが重ならないマッシュルーム構造について、最上位及び中間(又は中間及び最下位)の金属層を使用する一方、隣接するパッチが重なるマッシュルーム構造について、最上位、中間及び最下位の金属層を使用することで、図32及び図33に示すような第3構造を製造してもよい。
<7.組み合わせ構造>
<<7.1 組み合わせ方>>
上記の第1ないし第3構造及び変形例の構造は、単独で使用されてもよいし、組み合わせて使用されてもよい。第1構造、第2構造、第3構造及び変形例等の項目の区分けは本発明に本質的ではなく、2以上の項目に記載された事項が必要に応じて組み合わせて使用されてよいし、ある項目に記載された事項が、別の項目に記載された事項に(矛盾しない限り)適用されてよい。概して、第1構造は、無給電素子を付加して複数のパッチを並列的に多層化することでキャパシタンスを増やしている。第2構造はパッチ高さを複数種類用意することでインダクタンスを調整している。第3構造は隣接するパッチが重なることを許容することでキャパシタンスを増やしている。したがって、第1構造、第2構造及び第3構造のうち2つ以上を組み合わせることで、キャパシタンス及び/又はインダクタンスをさらに変化させ、反射位相のレンジをさらに拡大できるようになる。
例えば、図47の上側に示されるように、1つのアレイが2つの領域R1、R2に区分けされ、領域R1及びR2のそれぞれにおいて異なる構造が使用されてもよい。アレイは、x軸方向にNx個及びy軸方向にNy個のマッシュルーム構造を含む。マッシュルーム構造は、図2Aの構造でもよいし、図24の構造でもよい。アレイをx軸方向及び/又はy軸方向に反復することで、所望の大きさのリフレクトアレイを実現できる。
図47においてR1及びR2を形成する構造として、第1構造と第2構造、第1構造と第3構造、第2構造と第3構造の組み合わせ、及び第1−3構造全ての組み合わせが考えられる。さらには、図47の下側に示されるように、1つのアレイが3つの領域R1、R2及びR3に区分けされ、これらの領域の少なくとも2つが異なる構造を使用してもよい。3つの領域が全て異なる構造を使用してもよい。アレイ内における領域の分け方は、図示のものに限定されず、適切な如何なる仕方で分けられてもよい。
さらに、図47に示したように領域毎に異なる構造を使用するだけでなく、1つのマッシュルーム構造における組み合わせも考えられる。
図48は、パッチを多層化する第1構造と、パッチ高さが異なるものを併用する第2構造との組み合わせを示す。これは、キャパシタンス及びインダクタンスの双方を調整する観点から好ましい。
図49Aは、パッチを多層化する第1構造と、隣接するパッチの重なりを許容する第3構造との組み合わせを示す。これは、キャパシタンスをさらに大きくする観点から好ましい。第2構造と第3構造を組み合わせることや、第1ないし第3構造全てを組み合わせることも可能である。
一例として、図49Bは、ビアがない第1構造と第2構造を組み合わせた構造を示す。また、図49Cは、ビアがない第2構造と第3構造を組み合わせた構造を示す。このように様々な構造が可能である。
<<7.2 第2構造と第3構造の組み合わせ>>
第2構造と第3構造の組み合わせについて、説明する。
図50は、1つのアレイの中で、紙面右側の第2構造の領域と紙面左側の第3構造の領域とを組み合わせた場合の様子を示す。第2構造におけるパッチ高さ又はビア高さtについては、2.4mm、1.6mm及び0.1(又は0.2)mmの選択肢がある。第3構造におけるパッチ高さは、2.3mm及び2.4mm(又は2.2mm及び2.4mm)である。したがって、図示の構造は、以下の構造に分解して考えることができる。
(A)基板の厚みtが0.1mmのマッシュルーム構造、
(B)基板の厚みtが0.2mmのマッシュルーム構造、
(C)基板の厚みtが1.6mmのマッシュルーム構造、
(D)基板の厚みtが2.4mmのマッシュルーム構造、
(E)基板の厚みtが2.3mm及び2.4mmで重なりを許容したマッシュルーム構造及び
(F)基板の厚みtが2.2mm及び2.4mmで重なりを許容したマッシュルーム構造。
図51ないし図54は、上記の(A)ないし(D)の各構造に対するシミュレーション結果を示す。図55は、(A)ないし(D)に加えて、(E)及び(F)の各構造に対するシミュレーション結果を示す。概してこれらは図27を参照しながら説明したものに対応する。図56は、(A)ないし(F)に加えて、基板の厚みtが0.8mmのマッシュルーム構造についてのシミュレーション結果も示している。図57は、図55及び図56に関し、(E)及び(F)の構造をシミュレーションする場合のモデルを示す。
<<7.3 水平制御45度(その1)>>
図58は、第2構造及び第3構造の組み合わせによるリフレクトアレイの平面図を示す。このリフレクトアレイは、図56に示されるようなパッチサイズWy、反射位相及び基板厚みtの相互関係にしたがって、作成されたものである。構造の詳細については、後述する。概して、x軸方向に沿って左から7つのマッシュルーム構造により第3構造が形成されている。第3構造は、パッチ高さが2.4mmのマッシュルーム構造と、パッチ高さが2.3mmのマッシュルーム構造との重なりを許容することで形成されている。パッチ高さが2.4mmの8つのマッシュルーム構造と、パッチ高さが1.6mmの3つのマッシュルーム構造と、パッチ高さが0.8mmのマッシュルーム構造とで第2構造が形成されている。そして、図中右端の位置に2.4mm幅の金属板が設けられている。この金属板とパッチの隙間は0.05mmである。金属板は、0.1mmの厚みのマッシュルーム構造の代わりに使用されている。図51に示されるように、基板の厚みが0.1mmのマッシュルーム構造は、パッチサイズWyによらず、ほぼ180度の反射位相をもたらすので、金属板で代用できる。また、パッチ間のx方向における隙間は0.1mmである。
図59は、図58に示される各素子の具体的な寸法を示す。「設計位相」とは設計上求められる理想的な位相であり、「位相」の欄に示される数値が実際に実現される位相である。これらの数値は、リフレクトアレイが、入射波に対して、−45度の方向に反射を形成するように設計されている。
図60は、x軸方向に沿って並ぶ素子各々による反射位相の値を示す。これらの値はz=λ/2(半波長)における値である。概して、−300度から+60度に至るほぼ360度の全範囲にわたって、各素子に反射位相を適切に設定できていることが分かる。
図61は、シミュレーションにおける解析モデルを示し、このモデルをz軸方向から見たものが、図58に相当する。
図62は、図56に示されるグラフの内、図58及び図61のシミュレーションのモデルに使用された基板(t=0.8mm、1.6mm、2.4mm、2.3&2.4mm)に関するグラフを示す。さらに、図62には、金属板に対応する点も示されている。
図63は、上記のようにして形成されたリフレクトアレイの遠方放射界を示す。リフレクトアレイは、入射波に対して、−45度の方向に反射を形成するように、上記の数値を利用して設計されている。図63に示されているように、約−45度の方向に反射波が適切に向いていることが分かる。さらに、2層マッシュルーム構造だけによる場合の指向性(図15)と比較して、不要方向への放射がかなり抑制されていることが分かる。
図64は、第2構造及び第3構造を組み合わせたリフレクトアレイによる反射波の等位相面を示す。x軸に沿って約20個の素子(第2又は第3構造のマッシュルーム構造)が並んでおり、電波の到来方向であるz軸に対して−45度の方向に電波が反射している。等位相面の法線は、z軸に対して−45度の方向を向いており、この方向に反射波が適切に進んでいることが分かる。
図58に部分的に示されているリフレクトアレイの構造を詳細に説明する。
図65は、第2構造の領域と第3構造の領域とを含むリフレクトアレイの層構造を示す。紙面の左右方向に19個のビアホールが並び、便宜的な番号が右から順に付けられている。ビアホールの各々は1つの素子(マッシュルーム構造)に対応する。5つの導電層が誘電体層を介して積層され、最上位層から順にL1層、L2層、L3層、L4層及びL5層として示されている。導電層は例えば銅を含む材料で形成されてもよい。誘電体層は、FR4基板やガラスエポキシ樹脂基板等により形成されてもよい。一例として、ビアホールの直径は、0.5mmである。
1番目の素子は、マッシュルーム構造ではなく、金属板により形成されている。1番目の素子をマッシュルーム構造で構成する場合、基板の厚み(ビアホールの高さ)が0.1mmであることを要する。しかしながら、このように薄い基板を用いて形成されるマッシュルーム構造の反射位相は、図51に示されているように、パッチサイズによらずほぼ180度であるので、1番目の素子は金属板で代用できる。2番目の素子は、L1層をパッチとし、L3層を接地プレートとしている。3番目ないし5番目の素子は、L1層をパッチとし、L4層を接地プレートとしている。6番目ないし13番目の素子は、L1層をパッチとし、L5層を接地プレートとしている。14番目ないし20番目の素子は、第3構造によるものである。この場合、L1層及びL2層が、一部重なっている2つのパッチに対応する。L5層は、これら13番目ないし20番目の素子における接地プレートである。一例として、L1層及びL2層間の距離は0.1mmであり、L1層及びL3層間、L3層及びL4層、そしてL4層及びL5層間は、それぞれ0.8mmである。また、ビアの直径は0.5mmである。
図66は、L1層及びL2層の平面図を概略的に示す。図67は、L3層、L4層及びL5層の平面図を概略的に示す。図24に示されるようなマッシュルーム構造により1つの素子が形成され、その素子が行列形式に配置されている。図示の例の場合、y軸方向に伸びる7列の帯の1つは、20×130個の素子を含んでいる。図中の数字は寸法(ミリメートル)の一例であり、素子間の間隔は2.4mmである。図示のリフレクトアレイは、電界がy軸方向の偏波をx軸方向(水平方向)に入射方向に対して45度の角度で反射させるように設計されており、隣接する素子同士の反射位相差は18度であるように設計されている。すなわち、y軸方向に伸びる1つの帯(列)は、x軸方向における両端で反射位相が2π変化するように設計されている。このような帯又は列を複数個反復的に並べることで、より大きなサイズのリフレクトアレイを実現できる。なお、図66ないし図73において、具体的な寸法の詳細は本発明に本質的ではないので伏せている。
図68は図66のL1層において「A部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。1つの行(x軸方向)に関し、20個の素子に対応する部分が示されている。20個の素子に対応する部分の内、第2ないし第20の素子に対応する部分の矩形の1つ1つは、Wx及びWyのサイズを有するパッチ123(図24)に対応する。1番目の素子(右側)は金属板で代用されている。これらx軸方向に並ぶ素子の各々は、隣接する素子同士との間で所定の位相差(18度=360度/20)を有する。図示のパッチサイズの数値は、図59に示しているものに対応する。
図69は図66のL1層において「A部」及び「A'部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。
図70は図66のL2層において「B部」及び「B'部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。x軸方向に沿う1つの行に着目すると、左から7つのパッチが並んでいる。これらは、パッチ同士の重なりが許容される第3構造において、L1層のパッチと重なるL2層のパッチに対応する。
図71は図67のL3層において「C部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。図65に示されているように、L3層は、1番目及び2番目の素子に対する接地プレートを提供する。この接地プレートが、図71の右側に示されている。
図72は図67のL4層において「D部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。図65に示されているように、L4層は、3番目ないし5番目の素子に対する接地プレートを提供する。この接地プレートが、図72の右側に示されている。
図73は図67のL5層において「E部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。図65に示されているように、L5層は、6番目ないし20番目の素子に対する接地プレートを提供する。この接地プレートが、図73に示されている。
<<7.4 水平制御45度(その2)>>
図74も、図58と同様に、第2構造及び第3構造の組み合わせを含むリフレクトアレイの構成例を示す。ただし、図中左側の第3構造におけるビアの高さが2.4mmと2.2mmの組み合わせである点、及び右側の第2構造において、金属板ではなく厚みが0.2mmの基板を使用している点が主に異なる。これに応じて、各素子の寸法は、図75に示されるように、図59におけるものと若干異なる。
図76は、図56に示されるグラフの内、図74のシミュレーションのモデルに使用された基板(t=0.8mm、1.6mm、2.4mm、2.2&2.4mm)に関するグラフを示す。
図77は、上記のようにして形成されたリフレクトアレイの遠方放射界を示す。リフレクトアレイは、入射波に対して、−45度の方向に反射を形成するように、上記の数値を利用して設計されている。図77に示されているように、約−45度の方向に反射波が適切に向いていることが分かる。さらに、2層マッシュルーム構造だけによる場合の指向性(図15)と比較して、不要方向への放射がかなり抑制されていることが分かる。
図78は、第2構造及び第3構造を組み合わせたリフレクトアレイによる反射波の等位相面を示す。x軸に沿って約20個の素子(第2又は第3構造のマッシュルーム構造)が並んでおり、電波の到来方向であるz軸に対して−45度の方向に電波が反射している。等位相面の法線は、z軸に対して−45度の方向を向いており、この方向に反射波が適切に進んでいることが分かる。
図74に部分的に示されているリフレクトアレイの構造を詳細に説明する。
図79は、第2構造の領域と第3構造の領域とを含むリフレクトアレイの層構造を示す。概して図65と同様であるが、1番目の素子がマッシュルーム構造として設けられている点、及びL1層及びL2層が、1番目の素子と、14番目ないし20番目の素子とで共通している点、L1層及びL2層間の距離が0.2mmである点が、主に異なる。
1番目の素子は、L1層をパッチとし、L2層を接地プレートとしている。2番目の素子は、L1層をパッチとし、L3層を接地プレートとしている。3番目ないし5番目の素子は、L1層をパッチとし、L4層を接地プレートとしている。6番目ないし13番目の素子は、L1層をパッチとし、L5層を接地プレートとしている。14番目ないし20番目の素子は、第3構造によるものである。この場合、L1層及びL2層が、一部重なっている2つのパッチに対応する。L5層は、これら13番目ないし20番目の素子における接地プレートである。一例として、L1層及びL2層間の距離は0.2mmであり、L1層及びL3層間、L3層及びL4層、そしてL4層及びL5層間は、それぞれ0.8mmである。また、ビアの直径は0.5mmである。
上述したように、L1層及びL2層は、1番目の素子と、14番目ないし20番目の素子とで共通している。これは、1番目の素子のL1層と14番目ないし20番目の素子のL1層とが、同じ基板上に形成できることを意味する。さらに、1番目の素子のL2層と14番目ないし20番目の素子のL2層も、同じ基板上に形成できる。これにより、リフレクトアレイの構造の簡易化及び製造工程の簡易化等を図ることができる。図示の例では、L1層及びL2層が双方の構造で共通しているが、第2構造及び第3構造において、L1層ないしL5層のうち、(可能であるならば)どの層が共通していてもよい。このように、異なる構造を組み合わせる場合において、複数の導電層のうちの1つ以上を共通にすることは、第2及び第3構造間だけでなく、他の構造間で行われてもよい。例えば、第1構造と第2構造を組み合わせた構造、第1構造と第3構造を組み合わせた構造において、L1層ないしL5層の内の1つ以上が共通していてもよい。
図80は、L1層及びL2層の平面図を概略的に示す。図81は、L3層、L4層及びL5層の平面図を概略的に示す。図24に示されるようなマッシュルーム構造により1つの素子が形成され、その素子が行列形式に配置されている。図示の例の場合、y軸方向に伸びる7列の帯の1つは、20×130個の素子を含んでいる。図中の数字は寸法(ミリメートル)の一例であり、素子間の間隔は2.4mmである。図示のリフレクトアレイは、電界がx軸方向の偏波をx軸方向(垂直方向)に入射方向に対して45度の角度で反射させるように設計されており、隣接する素子同士の反射位相差は18度であるように設計されている。すなわち、Y軸方向に伸びる20個分の素子間隔(2.4mm×20)は、20個分の素子間隔の両端で反射位相が2π変化するように設計されている。このような帯又は列を複数個反復的に並べることで、より大きなサイズのリフレクトアレイを実現できる。なお、図80ないし図87において、具体的な寸法の詳細は本発明に本質的ではないので伏せている。
図82は図80のL1層において「A部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。1つの行(x軸方向)に関し、20個の素子に対応する部分が示されている。20個の素子に対応する部分に含まれている矩形の1つ1つは、Wx及びWyのサイズを有するパッチ123(図24)に対応する。これらの素子の各々は、隣接する素子同士との間で所定の位相差(18度=360度/20)を有する。図示のパッチサイズの数値は、図75に示しているものに対応する。
図83は図80のL1層において「A部」及び「A'部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。
図84は図80のL2層において「B部」及び「B'部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。x軸方向に沿う1つの行に着目すると、左から7つのパッチが並んでいる。これらは、パッチ同士の重なりが許容される第3構造において、L1層のパッチと重なるL2層のパッチに対応する。
図85は図81のL3層において「C部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。図79に示されているように、L3層は、1番目及び2番目の素子に対する接地プレートを提供する。この接地プレートが、図85の右側に示されている。
図86は図81のL4層において「D部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。図79に示されているように、L4層は、3番目ないし5番目の素子に対する接地プレートを提供する。この接地プレートが、図86の右側に示されている。
図87は図81のL5層において「E部」として示されている領域(帯又は列の一部)を詳細に示す。図79に示されているように、L5層は、6番目ないし20番目の素子に対する接地プレートを提供する。この接地プレートが、図87に示されている。
<<7.5 垂直制御45度>>
図58ないし図87では、電界に対して水平方向に反射させる観点から、リフレクトアレイの構造及びシミュレーション例が説明されてきた。しかしながら、第2構造及び第3構造を組み合わせたリフレクトアレイは、電界に対して垂直方向に反射させるように設計することもできる。
図88は、マッシュルーム構造のパッチ高さtが4種類存在する第2構造と、隣接するパッチ同士の重なりを許容する第3構造とを有するリフレクトアレイの概略斜視図を示す。多数の素子の一部分しか描かれていないことに留意を要する。
図89は、層構造を示す断面図である。図示されているように、1層目ないし5層目の5つの層が、少なくとも一部に導電層を含む層として使用され、それらの間には誘電体層が介在している。一例として、誘電体層は、比誘電率が4.4であり、tanδが0.018であるFR4基板である。1層目と2層目は0.2mm隔たっている。1層目と3層目は0.8mm隔たっている。1層目と4層目は1.6mm隔たっている。1層目と5層目は2.4mm隔たっている。
図90は、1層目ないし5層目における導電層の位置(影の付いた部分)を示す。図中、y軸方向に並ぶ20個の丸印はビアホールに対応する。便宜上、右から順に第1、第2、...第20の素子と言及する。1層目の場合、第1ないし第20の素子各々に対応するパッチが示されている。第13ないし第20の素子は、パッチ同士の重なりを許容しているので、パッチ高さが異なるもの(第14、第16、第18、第20)は1層目には現れていない。2層目の場合、第1の素子に対応する場所に、長さPy1を有する導電層が設けられ、かつ第14、第16、第18及び第20の素子のパッチが設けられている。他の場所において導電層は設けられていない。一例としてPy1は2.4mmである。図91は、1層目及び2層目における20個のパッチのサイズを示す。3層目の場合、第1及び第2の素子に対応する場所に、長さPy2を有する導電層が設けられ、他の場所において導電層は設けられていない。一例としてPy2は4.8mmである。4層目の場合、第1ないし第5の素子に対応する場所に、長さPy3を有する導電層が設けられ、他の場所において導電層は設けられていない。一例としてPy3は12mmである。5層目の場合、第1ないし第13の全素子に対応する場所に、長さPy4を有する導電層が設けられている。一例としてPy4は31.2mmである。
図92は、上記のようにして形成されたリフレクトアレイの遠方放射界を示す。リフレクトアレイは、入射波に対して、−45度の方向に反射を形成するように、上記の数値を利用して設計されている。図92に示されているように、約−45度の方向に反射波が適切に向いていることが分かる(図示の例の場合、−43度の方向に18.55dBの反射波が得られている。)。
<<7.6 改良された第2構造と第3構造の組み合わせ>>
「5.6 改良された第2構造による垂直制御」のセクションにおいて説明したように、第2構造において発生するインダクタンスを正確に規定する観点からは、接地プレートがビアの位置において実質的に終端していることが好ましい。以下の説明において、具体的な寸法の詳細は本発明に本質的ではないので伏せている。
図93は、改良された第2構造の領域と第3構造の領域とを含むリフレクトアレイの層構造を示す。図示されているように、1層目ないし5層目の5つの層が、少なくとも一部に導電層を含む層として使用され、それらの間には誘電体層が介在している。一例として、誘電体層は、比誘電率が4.4であり、tanδが0.018であるFR4基板である。図示の層構造は、概して、図79、図89等の構造と同様であるが、3層目及び4層目において「EX'」として示されているように、接地プレートがビアの位置で実質的に終端している点が大きく異なる。図79、図89等の構造の場合、接地プレートの端がビアの位置で実質的に終端しておらず、隣接する素子同士の間に接地プレートの端が存在し、接地プレートの段差が形成されている。なお、製造工程上の理由により、「EX'」で示されている部分において、接地プレートの端がビアを少しだけ超えて延在しているが、これは、素子同士の間で発生するインダクタンスに実質的な影響を及ぼすものではない。
図94Aは、図93に示すL1層の平面図を示す。図示の構造の場合、図93に示す20個の素子が並んでいる構造(約48mm)が、y軸方向に2回反復され、x軸方向に40回反復されているが、素子(ビア)の数、y軸方向の反復数及びx軸方向の反復数は単なる一例に過ぎず、適切な如何なる数値が使用されてもよい。図94Bは、図94Aに示すL1層の「A部」を詳細に示す。
図95Aは、図93に示すL2層の平面図を示す。図95Bは、図95Aに示すL2層の「B部」を詳細に示す。「B部」は「A部」の下側に位置する。L2層ないしL5層は接地プレートを構成する。図95A、図95Bに示されているように、接地プレートの端又は縁は、ビアの位置において終端されている。
図96Aは、図93に示すL3層の平面図を示す。図96Bは、図96Aに示すL3層の「C部」を詳細に示す。「C部」は「A部」及び「B部」の下側に位置する。図96A、図96Bに示されているように、接地プレートの端又は縁は、ビアの位置において終端されている。
図97Aは、図93に示すL4層の平面図を示す。図97Bは、図97Aに示すL4層の「D部」を詳細に示す。「D部」は「A部」、「B部」及び「C部」の下側に位置する。図97A、図97Bに示されているように、接地プレートの端又は縁は、ビアの位置において終端されている。
図98Aは、図93に示すL5層の平面図を示す。図98Bは、図98Aに示すL5層の「E部」を詳細に示す。「E部」は「A部」、「B部」、「C部」及び「D部」の下側に位置する。
次に、改良された第2構造と第3構造の組み合わせについてのシミュレーション結果を示す。シミュレーションでは、図99A及び図99Bに示されるような垂直制御を行う2つの構造が比較された。何れの構造も、改良された第2構造を使用し、接地プレートはビアの位置において終端している。しかしながら、パッチの設計が異なっている。図99Aの構造は、図34Aに示されるように、隣接するパッチが同じサイズを有する。これに対して、図99Bの構造は、図34Bに示されるように、ビアを中心として対称的なパッチが使用されている。
図99Cは、2つの構造各々の遠方放射界のシミュレーション結果を示す。電場がy軸方向を向いている電波がz軸∞方向から到来し、−45度の方向に反射されるように、図99A、Bの構造は設計されている。ビームの大きさ又は強度は、所望方向(−45度)における値により規格化されている。何れの構造も、所望方向に大きな反射ビームを形成している。+45度付近において、図99Bの構造は、比較的大きな不要反射ビームを形成している。これに対して、図99Aの構造は、そのような不要反射ビームを適切に抑制できている。さらに、0度方向の鏡面反射ビームについても、図99Aの構造は、図99Bの構造よりも不要反射ビームを小さく抑制できる。したがって、垂直制御の場合、図99Bの構造よりも、図99Aの構造の方が好ましい。
次に、接地プレートがビアの位置で終端していることが、ビアの高さが異なる構造を使用して垂直制御及び水平制御を行う場合にどのように影響するかを説明する。
図100Aは、第2構造を含む構造により垂直制御を行う構造を示す。パッチの長さを図100Aに示すように、所望のLC共振の得られるLとCの対をy軸方向に配列することが可能である。上述のように、値の異なるLとCの組み合わせを配列する場合、接地プレートはビアの位置において終端していることが望ましい。図100Aには、概略平面図と、x軸方向の断面図及びy軸方向の断面図が示されている。y軸方向に沿って、パッチの層である1層目と、4つの接地プレート(2層目ないし5層目)とが存在し、「EX」として示されているように、接地プレートの2層目、3層目及び4層目の端は、隣接する素子同士の間にある。このため、y軸方向に並ぶ素子において、適切な値のインダクタンスを発生させることが困難になってしまう。x軸方向に並ぶ素子同士の間にもインダクタンスは発生する。しかしながら、電場がy軸方向を向いている電波を所望方向に反射させる場合、y軸方向に並ぶ素子同士により発生するインダクタンスの方が重要である。このため、上述したように、接地プレートの端がビアの位置において終端するように、改善すべきである。
図100Bは、第2構造を含む構造により水平制御を行う構造を示す。水平制御の場合、図100Bのように、所望のLC共振の得られるLとCの対をx軸方向に配列することが可能である。図100Bにも、概略平面図と、x軸方向の断面図及びy軸方向の断面図が示されている。水平制御の場合、x軸方向の断面に複数の接地プレートが現れる。x軸方向に沿って、パッチの層である1層目と、3つの接地プレート(2層目ないし4層目)とが存在し、「EX」として示されているように、2層目及び3層目の接地プレートの端は、隣接する素子同士の間にある。このため、x軸方向において、適切な値のインダクタンスを発生させることは困難になってしまう。しかしながら、上述したように、電場がy軸方向の電波を反射させる場合、y軸方向に並ぶ素子同士により発生するインダクタンスの方が重要である。y軸方向沿って並ぶ素子の場合、隣接する素子のビアの高さは同じなので、発生するインダクタンスLは、透磁率μとビアの高さtの積(L=μt)により想定される値になる。このため、水平制御の場合は、垂直制御の場合よりも、接地プレートの段差の影響は深刻ではない。すなわち、x軸方向の断面図に示されているように、接地プレートがビアの位置において終端していなくても、y軸方向の断面図に示されているように、ギャップをはさむビアどうしの地板はつながっているため、所望のインダクタンスL1、L2、L3を得ることができる。ただし、当然ではあるが、図100Bの構造においても、x軸方向に延びる接地プレートが、ビアの位置において終端するようにすることで、設計どおりの動作をさらに期待することができる。
以上本発明は特定の実施例を参照しながら説明されてきたが、それらは単なる例示に過ぎず、当業者は様々な変形例、修正例、代替例、置換例等を理解するであろう。発明の理解を促すため具体的な数値例を用いて説明がなされたが、特に断りのない限り、それらの数値は単なる一例に過ぎず適切な如何なる値が使用されてもよい。発明の理解を促すため具体的な数式を用いて説明がなされたが、特に断りのない限り、それらの数式は単なる一例に過ぎず適切な如何なる数式が使用されてもよい。実施例又は項目の区分けは本発明に本質的ではなく、2以上の項目に記載された事項が必要に応じて組み合わせて使用されてよいし、ある項目に記載された事項が、別の実施例又は項目に記載された事項に(矛盾しない限り)適用されてよい。本発明は上記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例、修正例、代替例、置換例等が本発明に包含される。
以下、本発明により教示される手段を例示的に列挙する。
(M1)
複数個のマッシュルーム構造を有する装置であって、前記複数個のマッシュルーム構造の各々は、
接地プレートと、
前記接地プレートに対して平行に距離を隔てて設けられた第1パッチと、
前記接地プレートに対して平行に、前記第1パッチに至る距離とは異なる距離を隔てて設けられた第2パッチと
を有し、前記第2パッチは、少なくとも前記第1パッチと容量結合する無給電素子である、装置。
(M2)
前記複数個のうち所定数個のマッシュルーム構造が、ある線に沿って並べられ、
前記複数個のうち別の所定数個のマッシュルーム構造が、別の線に沿って並べられ、
前記ある線に沿っているマッシュルーム構造の第1パッチと、前記別の線に沿っているマッシュルーム構造の第1パッチとの間の隙間が、前記ある線及び別の線に沿って徐々に変化している、M1記載の装置。
(M3)
ある線に沿って並べられている所定数個のマッシュルーム構造のうち、隣接するマッシュルーム構造の第1パッチ同士の間の隙間が、前記ある線に沿って徐々に変化している、M1記載の装置。
(M4)
前記隙間を決める隣接する第1パッチの内の一方の端から、該一方の第1パッチの基準線までの距離が、隣接する他方の第1パッチの端から、該他方の第1パッチの基準線までの距離に等しく、複数のマッシュルーム構造に対する基準線間の距離が一定に保たれている、M3記載の装置。
(M5)
前記ある線に沿って順に並んでいる第1、第2及び第3のマッシュルーム構造各々の第1パッチは、互いに等しいサイズであり、前記第1及び第2のマッシュルーム構造の第1パッチ同士の中心間距離は、前記第2及び第3のマッシュルーム構造の第1パッチ同士の中心間距離と異なる、M3記載の装置。
(M6)
前記ある線に沿って隣接している第1及び第2のマッシュルーム構造の第1パッチ同士の隙間を二分する中心線と、前記ある線に沿って隣接している第2及び第3のマッシュルーム構造の第1パッチ同士の隙間を二分する中心線との間の距離が、前記ある線に沿って並んでいる複数のマッシュルーム構造に対して一定に保たれている、M3記載の装置。
(M7)
前記ある線に沿って順に並んでいる第1、第2及び第3のマッシュルーム構造のうち、前記第1及び第2のマッシュルーム構造の各々から反射される電波の位相差が、前記第2及び第3のマッシュルーム構造の各々から反射される電波の位相差に等しい、M2ないしM6の何れか1項に記載の装置。
(M8)
少なくとも前記ある線に沿って並べられた前記所定数個のマッシュルーム構造を含むアレイが、同一平面内に複数個反復的に並べられている、M1ないしM7の何れか1項に記載の装置。
(M9)
前記接地プレート、前記第1パッチ及び前記第2パッチに対して平行に距離を隔てて設けられ、無給電素子として機能する1つ以上のパッチをさらに有する、M1ないしM8の何れか1項に記載の装置。
(A1)
複数個のマッシュルーム構造を有する装置であって、前記複数個のマッシュルーム構造の各々は、
接地プレートと、
前記接地プレートに対して平行に距離を隔てて設けられたパッチと
を有し、あるマッシュルーム構造における接地プレート及びパッチ間の距離は、別のマッシュルーム構造における接地プレート及びパッチ間の距離と異なる、装置。
(A2)
前記あるマッシュルーム構造におけるパッチと、前記別のマッシュルーム構造におけるパッチとが、同一平面内に設けられている、A1記載の装置。
(A3)
前記あるマッシュルーム構造における接地プレートと、前記別のマッシュルーム構造における接地プレートは、多層構造には形成されていない、A2記載の装置。
(A4)
前記あるマッシュルーム構造における接地プレートと、前記別のマッシュルーム構造における接地プレートとが、同一平面内に設けられている、A1記載の装置。
(A5)
(A1)の装置において、(M2)〜(M9)の特徴を備えた装置。
(B1)
複数個のマッシュルーム構造を有する装置であって、前記複数個のマッシュルーム構造の各々は、
接地プレートと、
前記接地プレートに対して平行に距離を隔てて設けられたパッチと
を有し、隣接するマッシュルーム構造双方のパッチは、同一平面内で互いに隙間を形成し、隣接する別のマッシュルーム構造双方のパッチは、少なくとも一部が多層に重なる位置関係でそれぞれ異なる平面に設けられる、装置。
(B2)
(B1)の装置において、(M2)〜(M9)の特徴を備えた装置。
(C1)M+A
第1群及び第2群の複数のマッシュルーム構造を有する装置であって、
前記第1群の複数のマッシュルーム構造の各々は、
接地プレートと、
前記接地プレートに対して平行に距離を隔てて設けられた第1パッチと、
前記接地プレートに対して平行に、前記第1パッチに至る距離とは異なる距離を隔てて設けられた第2パッチと
を有し、前記第2パッチは、少なくとも前記第1パッチと容量結合する無給電素子であり、
前記第2群の複数のマッシュルーム構造の各々は、
接地プレートと、
前記接地プレートに対して平行に距離を隔てて設けられたパッチと
を有し、前記第2群に属するあるマッシュルーム構造における接地プレート及びパッチ間の距離は、前記第2群に属する別のマッシュルーム構造における接地プレート及びパッチ間の距離と異なる、装置。
(C2)M+A+B
当該装置がさらに第3群の複数のマッシュルーム構造を有し、前記第3群に属する隣接するマッシュルーム構造双方のパッチは、同一平面内で互いに隙間を形成し、隣接する別のマッシュルーム構造双方のパッチは、少なくとも一部が多層に重なる位置関係でそれぞれ異なる平面に設けられる、C1記載の装置。
(C3)
前記第1群のマッシュルーム構造における接地プレート、第1パッチ及び第2パッチをなす3層の内の1層が、前記第2群のマッシュルーム構造における接地プレート及びパッチをなす2層の内の1層と同一平面に設けられ、
前記3層の内の別の1層が、前記2層の内の別の1層と同一平面に設けられている、C1又はC2に記載の装置。
(C4)M+B
第1群及び第2群の複数のマッシュルーム構造を有する装置であって、
前記第1群の複数のマッシュルーム構造の各々は、
接地プレートと、
前記接地プレートに対して平行に距離を隔てて設けられた第1パッチと、
前記接地プレートに対して平行に、前記第1パッチに至る距離とは異なる距離を隔てて設けられた第2パッチと
を有し、前記第2パッチは、少なくとも前記第1パッチと容量結合する無給電素子であり、前記第2群の複数のマッシュルーム構造の各々は、
接地プレートと、
前記接地プレートに対して平行に距離を隔てて設けられたパッチと
を有し、前記第2群に属する隣接するマッシュルーム構造双方のパッチは、同一平面内で互いに隙間を形成し、隣接する別のマッシュルーム構造双方のパッチは、少なくとも一部が多層に重なる位置関係でそれぞれ異なる平面に設けられる、装置。
(C5)
前記第1群のマッシュルーム構造における接地プレート、第1パッチ及び第2パッチをなす3層の内の1層が、前記第2群のマッシュルーム構造における接地プレート及び前記異なる平面に設けられるパッチをなす3層の内の1層と同一平面に設けられ、
前記第1群のマッシュルーム構造における接地プレート、第1パッチ及び第2パッチをなす3層の内の別の1層が、前記第2群のマッシュルーム構造における接地プレート及び前記異なる平面に設けられるパッチをなす3層の内の別の1層と同一平面に設けられている、C4記載の装置。
(C6)A+B
第1群及び第2群の複数のマッシュルーム構造を有する装置であって、
前記マッシュルーム構造の各々は、
接地プレートと、
前記接地プレートに対して平行に距離を隔てて設けられたパッチと
を有し、前記第1群に属するあるマッシュルーム構造における接地プレート及びパッチ間の距離は、前記第1群に属する別のマッシュルーム構造における接地プレート及びパッチ間の距離と異なり、
前記第2群に属する隣接するマッシュルーム構造双方のパッチは、同一平面内で互いに隙間を形成し、隣接する別のマッシュルーム構造双方のパッチは、少なくとも一部が多層に重なる位置関係でそれぞれ異なる平面に設けられる、装置。
(C7)
前記第1群のマッシュルーム構造における接地プレート及びパッチをなす2層の内の1層が、前記2群のマッシュルーム構造における接地プレート及び前記異なる平面に設けられるパッチをなす3層の内の1層と同一平面に設けられ、
前記2層の内の別の1層が、前記3層の内の別の1層と同一平面に設けられている、C6記載の装置。