本実施形態に係るポリ乳酸樹脂組成物は、下記(A)乃至(C)成分を含有する。
(A)ポリ乳酸;
(B)JIS K7111に規定されるノツチ付シャルピー衝撃値が5kJ/m2以上であるPMMA樹脂。
(C)スチレン単位の割合が70質量%以下、ブタジエン単位の割合が10〜16質量%であり、且つ平均粒径が0.8μm以下であるABS樹脂。
このため、このポリ乳酸樹脂組成物を成形して得られる成形品の耐水性及び機械的強度がバランスよく向上し、しかも特に(C)成分を含有することで成形時のウエルドを抑制することができ、成形品の外観が向上する。以下に、ポリ乳酸樹脂組成物に含有される成分の詳細について説明する。
[(A)成分]
(A)成分(ポリ乳酸)としては、乳酸の単独重合体と、乳酸と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸との共重合体とが挙げられる。ポリ乳酸は、例えばトウモロコシなどの植物から得られたデンプンを発酵させて乳酸を得た後、この乳酸を化学合成によりポリマー化することで得ることができる。
乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸、乳酸の二量体であるラクトン等が挙げられる。
乳酸以外のヒドロキシカルボン酸であって乳酸と共重合可能なものとしては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。これらのヒドロキシカルボン酸を一種のみ用い、或いは二種以上を併用することができる。
(A)成分は、L−乳酸の重合体であるポリ−L−乳酸と、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸との少なくとも一方を含んでいることが好ましい。特に(A)成分がステレオコンプレックス型ポリ乳酸のみからなり、或いはポリ−L−乳酸とステレオコンプレックス型ポリ乳酸のみからなることが好ましい。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、光学異性体であるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とが混合したものであり、これらが対となることでステレオコンプレックス結晶を生成している(Macromolecules 1987,20,904−906参照)。このステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸と比較して格段に高い融点を有する結晶性樹脂であり、ポリ−L−乳酸よりも格段に優れた特性が期待できる。
ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸は、実質的にそれぞれ下記[化1]で表されるL−乳酸単位及びD−乳酸単位からなる。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を構成するポリ−L−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を構成するポリ−D−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
乳酸以外の単位としては、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位、及びこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドを付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸の混合物であり、ステレオコンプレックス結晶を形成し得る。ポリ−L−乳酸の重量平均分子量は、好ましくは15万〜21万である。ポリ−D−乳酸の重量平均分子量は、好ましくは13万〜16万である。このように、重量平均分子量に差をつけることによって、ステレオコンプレックス化が容易となり、より高分子量の均一なステレオコンプレックスを形成し易くなる。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を構成するポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器を単独、または並列して使用することができる。また、回分式あるいは連続式あるいは半回分式のいずれでも良いし、これらを組み合わせてもよい。
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。このアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸におけるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との割合は、質量比で90:10〜10:90の範囲であることが好ましく、75:25〜25:75の範囲であればより好ましく、60:40〜40:60の範囲であれば更に好ましく、またこの割合が50:50に近いほど好ましい。
また、このステレオコンプレックス型ポリ乳酸の重量平均分子量は、10万〜50万の範囲であることが好ましく、10万〜30万の範囲であれば更に好ましい。この重量平均分子量は、溶媒(移動相)としてクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求められる、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸からなりステレオコンプレックス結晶を形成していることが好ましい。ステレオコンプレックス結晶の含有率は、好ましくは80〜100%、より好ましくは95から100%である。本発明でいうステレオコンプレックスポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
また、このステレオコンプレックス型ポリ乳酸のステレオ化度は、90%以上であることが好ましく、100%であれば更に好ましい。ステレオ化度(S)は、DSC測定において融点のエンタルピーを比較することによって下記式によって決定することができる。
S=[(ΔHms/ΔHms0)/(ΔHmh/ΔHmh0+ΔHms/ΔHms0)]
(ただし、ΔHms0=203.4J/g、ΔHmh0=142J/g、ΔHmsはステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmhはホモ結晶の融解エンタルピーである。)
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを所定の質量比で共存させて混合することにより得ることができる。混合は溶媒の存在下でおこなうことができる。この溶媒としては、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が溶解するものであれば特に制限されないが、例えばクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等を使用することができる。これらの溶媒を一種のみ用いることができ、また複数種の溶媒を併用することもできる。
また、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを溶媒の非存在下で混合することでステレオコンプレックス型ポリ乳酸を得ることもできる。この場合、例えばポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを溶融混練する方法や、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のうち一方を溶融させた後、これに他方を加えて混練する方法などを採用することができる。
また、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸として、ポリ−L−乳酸セグメントとポリ−D−乳酸セグメントが結合している構造を有するステレオブロックポリ乳酸も、好適に用いることができる。ステレオブロックポリ乳酸はポリ−L−乳酸セグメントとポリ−D−乳酸セグメントが分子内で結合してなる、ブロック重合体である。このようなブロック重合体は、たとえば、逐次開環重合によって製造する方法や、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を重合しておいてあとで鎖交換反応や鎖延長剤で結合する方法、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を重合しておいてブレンド後固相重合して鎖延長する方法、立体選択開環重合触媒を用いてラセミラクチドから製造する方法、など上記の基本的構成を持つ、ブロック共重合体であれば製造法によらず、用いることができる。しかしながら、逐次開環重合によって得られる高融点のステレオブロック重合体、固相重合法によって得られる重合体を用いることが製造の容易さからより好ましい。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸には、ステレオ化度を向上させるために特定の添加物を添加することが好ましい。そのような添加物としては、下記[化2]に示すリン酸金属塩が好ましい例として挙げられる。
式中、R5は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。R6乃至R9はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表す。アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
M1はアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表す。M1として、Na、K、Al、Mg、Caが挙げられ、特に、K、Na、Alを好適に用いることができる。nは、M1がアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を表し、M1がアルミニウム原子のときは1または2を表す。
これらのリン酸金属塩は、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸に対して、好ましくは質量割合で10ppmから2%、より好ましくは50ppmから0.5%、さらに好ましくは100ppmから0.3%用いることが好ましい。少なすぎる場合には、ステレオ化度を向上する効果が小さく、多すぎると樹脂自体を劣化させるので好ましくない。
また、ポリ乳酸樹脂組成物の耐熱性を向上させるために、さらにケイ酸カルシウムを添加することが好ましい。ケイ酸カルシウムとしては、例えば、六方晶を含むものを用いることができ、その粒子径は低いほうが好ましい。例えば、平均一次粒子径は0.2〜0.05μmの範囲であるとポリ乳酸樹脂組成物に適度に分散するので、ポリ乳酸樹脂組成物の耐熱性は良好なものとなる。また、添加量はポリ乳酸樹脂組成物を基準として、0.01〜1質量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましいのは0.05〜0.5質量%の範囲である。多すぎる場合には、外観が悪くなりやすく、少なければ特段の効果を示さないので好ましくない。
また、ポリ乳酸樹脂組成物に対する、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸のカルボキシル末端基濃度が15eq/ton以下であることが好ましい。この範囲内にある時には、溶融安定性、湿熱耐久性が良好な組成物を得ることができる。15eq/ton以下にする場合には、具体的には、ポリエステルにおいて公知のカルボキシル末端基濃度の低減方法をいずれも採用することができ、例えば、末端封止剤の添加、具体的には、オキサゾリン類、エポキシ化合物等の添加や、モノカルボジイミド類、ジカルボジイミド類、ポリカルボジイミド類などの縮合剤の添加または、末端封止剤、縮合剤を添加せず、アルコール、アミンによってエステルまたはアミド化することもできる。
(A)成分がポリ−L−乳酸を含む場合には、ポリ−L−乳酸としては、上記ステレオコンプレックス型ポリ乳酸の製造に用いられるポリ−L−乳酸を使用することができ、また市販のものを適宜使用することができる。ステレオコンプレックス型ポリ乳酸とポリ−L−乳酸とが併用される場合の、ポリ−L−乳酸の含有量は、ポリ乳酸樹脂全量に対して30質量%以下であることが好ましい。この含有量が30質量%を超えると、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を含有することによる成形品の剛性の改善が充分に達成されなくなるおそれがある。このポリ−L−乳酸の分子量は特に制限されないが、物理的、熱的特性の面より、その重量平均分子量が1万以上、より好ましくは3万以上であることが好ましい。
ポリ乳酸樹脂組成物中の(A)成分の含有量は25〜45質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が25質量%以上であることで、ポリ乳酸樹脂組成物から形成された成形品の機械的強度を十分に改善することができる。更に、ポリ乳酸樹脂組成物中の(A)成分の含有量を充分に多くして、石油資源の使用量を充分に削減し、CO2排出量の削減に大きく寄与することができる。尚、バイオマス成分である(A)成分が25質量%以上であることで日本バイオプラスチック協会によるバイオマスプラ識別表示を受けることも可能となる。また(A)成分の含有量が45質量%以下であることでポリ乳酸樹脂の加水分解による成形品の耐水性の低下が抑制される。
[(B)成分]
(B)成分であるポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)の一部又は全部は、ポリメタクリル酸メチル樹脂エラストマー(PMMA樹脂エラストマー)であってもよい。
この(B)成分は上記のとおり、JIS K7111に規定されるノツチ付シャルピー衝撃値が5kJ/m2以上である必要がある。このノツチ付シャルピー衝撃値は特に5.3kJ/m2以上であることが好ましい。ノツチ付シャルピー衝撃値の上限は特に制限されない。
このようなPMMA樹脂としては、住友化学株式会社製の商品名スミペックスHT03Y、スミペックスHT01X等が挙げられ、特にスミペックスHT01Xが好ましい。
この(B)成分はポリ乳酸樹脂組成物の成形後にポリ乳酸の結晶化を阻害する。このため成形品の高温条件下での寸法安定性が向上すると共に成形品の耐衝撃性が更に向上する。更にこの(B)成分により、成形品の耐熱性が向上する。
ポリ乳酸樹脂組成物中の(B)成分の含有量は2〜17質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が2質量%以上であると成形品の寸法安定性、耐衝撃製、耐熱性が特に向上し、またこの含有量が17質量%以下であるとポリ乳酸樹脂組成物の高い流動性が維持される。
[(C)成分]
(C)成分に含まれるABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)中のスチレン単位の割合は72質量%以下であり、ブタジエン単位の割合は10〜16質量%である。
スチレン単位の割合の下限は特に制限されないが、30質量%以上であることが好ましく、特にABS樹脂が実質的にアクリロニトリル単位、ブタジエン単位及びスチレン単位のみから構成される場合には60質量%以上であることが好ましい。
ABS樹脂中のアクリロニトリル単位の割合は例えば1.5〜30質量%の範囲であり、ABS樹脂が実質的にアクリロニトリル単位、ブタジエン単位及びスチレン単位のみから構成される場合には例えば15〜30質量%の範囲である。
ABS樹脂は、アクリロニトリル単位、ブタジエン単位及びスチレン単位以外の単位を含んでいてもよく、例えばメチルメタクリレート単位を含んでいてもよい。ABS樹脂中のメチルメタクリレート単位の割合は、例えば60質量%以下である。
ABS樹脂
尚、ABS樹脂中のアクリロニトリル単位、スチレン単位、ブタジエン単位、メチルメタクリレート単位等の割合は、ABS樹脂のNMR測定結果、並びにABS樹脂のグラジエント・ポリマー溶出クロマトグラフィ(GPEC:gradient polymer elution chromatography)による測定結果に基づいて導出される。
ABS樹脂の平均粒径は特に制限されないが、例えば0.3〜0.9μmの範囲である。この平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)でレーザー回折散乱法により測定される体積平均粒径である。
ABS樹脂の合成方法は特に制限されないが、乳化重合法又はバルク重合法で製造されることが好ましい。
このようなABS樹脂が用いられることで、ポリ乳酸樹脂組成物の成形時のウエルドが抑制され、成形品の外観が向上する。またこのようなABS樹脂が使用されることで、成形品が着色される場合の発色性が優れる。
ポリ乳酸樹脂組成物中の(C)成分の含有量は、45質量%以上であることが好ましく、特に45〜78質量%の範囲であることが好ましい。
更に(C)成分の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物中の樹脂成分の合計量に対して、50体積%以上であることが好ましく、特に50〜80体積%の範囲であることが好ましい。ポリ乳酸樹脂組成物中の樹脂成分とは、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、並びにこれらの以外の熱可塑性樹脂(後述する(G)成分)をいう。
上記のような範囲において、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性が特に優れ、ウエルドの発生が著しく抑制される。
[(D)成分]
ポリ乳酸樹脂組成物は(D)成分(カルボジイミド化合物)を含有してもよい。(D)成分に含まれる化合物としては、ポリカルボジイミド化合物、モノカルボジイミド化合物等が挙げられる。(D)成分が使用されると、この(D)成分が、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル基末端の一部または全部と反応して封鎖する働きを発揮し、これにより、成形品の耐水性が更に向上する。このため、成形品の高温高湿環境下での耐久性が更に向上する。
ポリカルボジイミド化合物としては、例えばポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等が挙げられる。モノカルボジイミド化合物としては、例えばN,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物としては、市販品が適宜使用され得る。その具体例としては、日清紡績株式会社製の商品名カルボジライトLA−1(ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド))等が挙げられる。
(D)成分が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物中の(D)成分の含有量は0.1〜5質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が0.1質量%未満では前記耐久性の向上はあまり期待されず、5質量%を超えると成形品の機械的強度が低下する傾向が現れる場合がある。
(D)成分が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物の調製時にポリ乳酸と(D)成分のみとが予め混合されてマスターバッチが調製されると、(D)成分が使用されることによる前記作用が効果的に発揮される。
[(E)成分]
ポリ乳酸樹脂組成物は、次の(E)成分を含有してもよい。
(E)2,2−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン酸オクタデシル、ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル−フェニル)ジシクロペンタジエンから選択される酸化防止剤。
これらの酸化防止剤が使用されると、ポリ乳酸樹脂組成物の成形安定性が向上し、また成形時の金型表面の汚れなどが抑制される。
(E)成分が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物中の(E)成分の含有量は質量基準で100〜500ppmの範囲であることが好ましい。この範囲において、前記のようなポリ乳酸樹脂組成物の成形安定性の向上と、成形時の金型表面の汚れなどの抑制が、顕著に現れる。
[(F)成分]
ポリ乳酸樹脂組成物は、(F)成分(ポリ乳酸の結晶化を促進する化合物)を含有してもよい。(F)成分に含まれる化合物としては、ポリ乳酸の核剤(結晶核剤)が挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物が(F)成分を含有すると、この(F)成分によってポリ乳酸樹脂組成物の成形時にポリ乳酸の結晶化が促進されることで、成形品の高温条件下での寸法安定性が向上する。また、成形時のポリ乳酸の結晶化が促進されることで、金型内保持時間を短くしつつ、ポリ乳酸の結晶化を充分に進行させ、成形品の高い耐熱性や弾性率を付与することができる。
核剤の一例として、タルクが挙げられる。タルクは、成形品の引張り弾性率の向上にも寄与する。タルクとしては、市販されている適宜のものを用いることができる。このタルクの平均粒径は、通常は0.1〜12μmの範囲内であることが好ましい。この平均粒径は0.5μm以上であることが更に好ましく、10μm以下であることも更に好ましい。この平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)などを用いたレーザー回折散乱法により測定される値である。
ポリ乳酸樹脂組成物中のタルクの含有量は、1〜30質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が1質量%未満の場合には成形品の引張り弾性率は充分に向上しなくなる。またこの含有量が30%を超える場合にはポリ乳酸樹脂組成物の混練時にタルクの一部がスクリューに食い込まなくなるなどしてペレット化が困難になる等、加工性が低下すると共に、成形性も低下してしまう。タルクの含有量は、好ましくは1〜15質量%の範囲であり、更に好ましくは3〜8質量%の範囲である。この含有量が8質量%以下であると、複雑な形状の成形品を得る場合であってもウエルドの発生が充分に抑制され、またこの含有量が3質量%以上であると、タルクの添加による効果が特に著しく発揮される。
核剤としてホスフィン酸亜鉛が使用されてもよい。ホスフィン酸亜鉛としては、例えばフェニルホスフィン酸亜鉛やジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。前記フェニルホスフィン酸亜鉛やジフェニルホスフィン酸亜鉛におけるフェニル基は置換基を有してもよい。この置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素原子数1〜10のアルコキシカルボニル基が挙げられる。このようなホスフィン酸亜鉛の具体例としては、フェニルホスフィン酸、4−メチルフェニルホスフィン酸、4−エチルフェニルホスフィン酸、4−n−プロピルフェニルホスフィン酸、4−i−プロピルフェニルホスフィン酸、4−n−ブチルフェニルホスフィン酸、4−i−ブチルフェニルホスフィン酸、4−t−ブチルフェニルホスフィン酸、3,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスフィン酸、3,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスフィン酸、2,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスフィン酸、2,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスフィン酸等や、ジフェニルホスフィン酸、ジ−4−メチルフェニルホスフィン酸、ジ−4−エチルフェニルホスフィン酸、ジ−4−t−ブチルフェニルホスフィン酸、ジ−3,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスフィン酸、ジ−3,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスフィン酸等が挙げられる。
ホスフィン酸亜鉛が核剤として有効に作用するためには、その平均粒径は、0.1〜3μmの範囲内であることが好ましい。尚、平均粒径は、前記と同様にレーザー回折散乱法により測定される値である。
ホスフィン酸亜鉛は、成形品の引張り弾性率の向上にも寄与する。ホスフィン酸亜鉛の含有量は、0.5質量%以上とすることが好ましい。この含有量が0.5質量%未満の場合には成形品の引張り弾性率の向上を図ることができなくなる。また、ホスフィン酸亜鉛の含有量の上限は特に制限されない。但し、この含有量が3質量%を超える場合には、成形品の引張り弾性率の向上効果が飽和してしまい、実用的な意味がないため、この含有量は3質量%以下であることが好ましい。
前記タルクやポリホスフィン酸以外の核剤として、ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂に溶解する核剤が使用されてもよい。ポリ乳酸樹脂に溶解するとは、ポリ乳酸樹脂と核剤の融点以上の温度で両者を混練した場合に透明になることをいう。このような核剤が使用されると、成形品の耐水性が更に向上する。このような核剤としては市販されている適宜のものが使用され、例えばN,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド(新日本理化株式会社製の品番TF1)等が使用される。
ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂に溶解する核剤の含有量は適宜調整されるが、0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が0.5質量%以上であれば前記耐加水分解性が特に向上するが、この含有量が3質量%を越えると耐加水分解性の向上効果が飽和してしまう。
ポリ乳酸樹脂組成物中は、前記以外の核剤として、ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂に溶解しない核剤を含有してもよい。ポリ乳酸樹脂に溶解しないとは、ポリ乳酸樹脂と核剤の融点以上の温度で両者が混練された場合に不透明になることをいう。このような核剤が使用されると、成形品の耐水性が更に向上する。このような核剤としては市販されている適宜のものが使用され、例えば竹本油脂株式会社製の品番LAK401等が使用される。
また、核剤として、トヨタ社製KX238B(ポリ乳酸ベースの結晶核剤10%含有マスターバッチ)、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド(川研ファインケミカル社製WX−1)、5−スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム(東京化成工業社製)、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド(アデカ社製T−1287N)などが使用されてもよい。
ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂に溶解しない核剤の含有量は適宜調整されるが、0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が0.5質量%以上であれば前記耐加水分解性が特に向上するが、この含有量が3質量%を越えると耐加水分解性の向上効果が飽和してしまう。
ポリ乳酸樹脂に溶解しない核剤の、ポリ乳酸樹脂組成物中での分散性の向上のためには、予めこの核剤が適宜の無機充填材と混合(予備混合)された後に、他の成分と混合されることでポリ乳酸樹脂組成物が調製されることが好ましい。この場合、無機充填材が打粉剤の役割を果たし、微細な核剤同士の凝集が抑制される。この無機充填材としては、特に核剤でもあるタルクが好ましい。この予備混合に使用される無機充填材の量は、ポリ乳酸樹脂に溶解しない核剤に対して100〜200質量%の範囲であることが好ましく、またこの無機充填材の平均粒径はポリ乳酸樹脂に溶解しない核剤の平均粒径の1〜2倍の範囲であることが好ましい。
[(G)成分]
(G)成分(前記各成分に含まれない熱可塑性樹脂)は、種々の熱可塑性樹脂を含み得る。(G)成分に含まれ得る好ましい成分について説明する。
((G1)ポリカーボネート樹脂)
ポリ乳酸樹脂組成物は、(G)成分の少なくとも一部としてポリカーボネート樹脂を含有してもよい。この場合、成形品の耐水性が更に向上する。ポリカーボネート樹脂としては、市販品が適宜使用される。ポリ乳酸樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂の含有量は1〜20質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が1質量%未満では成形品の耐加水分解性の向上はあまり期待されず、この含有量が20質量%を超えると樹脂成分全体に対するポリ乳酸樹脂の比率が下がってしまい、ポリ乳酸樹脂の特徴である生分解性が低下するおそれがある。
ポリカーボネート樹脂としては、例えば二価フェノールとカーボネート前駆体とが反応することで得られる芳香族ポリカーボネート樹脂が挙げられる。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、環状カーボネート化合物の開環重合法などが挙げられる。
二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが、挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも成形品の靭性を向上させることができる点でビスフェノールA(BPA)が特に好ましい。
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステル、ハロホルメートなどが挙げられる。具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
二価フェノールとカーボネート前駆体から界面重合法によって芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するに当たっては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。
(G1)成分には、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにこの二官能性カルボン酸及び二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂などが含まれていてもよい。また、(G1)成分には2種以上のポリカーボネート樹脂が含まれていてもよい。
分岐ポリカーボネート樹脂は、ポリ乳酸樹脂組成物の溶融張力を増加させ、この特性に基づいて押出成形、発泡成形、ブロー成形等における成形加工性が改善される。結果として寸法精度により優れた成形品が得られる。分岐ポリカーボネート樹脂を得るために使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。その他の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、並びにトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、及びこれらの酸クロライド等が例示される。中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、及び1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
分岐ポリカーボネート樹脂における多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、二価フェノールから誘導される構成単位とこの多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、0.03〜1モル%、好ましくは0.07〜0.7モル%、特に好ましくは0.1〜0.4モル%である。また、この分岐構造単位は、多官能性芳香族化合物から誘導されるだけでなく、溶融エステル交換反応時の副反応の如き、多官能性芳香族化合物を用いることなく誘導されるものであってもよい。尚、この分岐構造の割合については1H−NMR測定により算出することが可能である。
一方、脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましく、その具体例としては、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸並びにシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールが好適であり、例えば、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノール等が例示される。さらに、ポリオルガノシロキサン単位を共重合したポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
(G1)成分は、二価フェノール成分が異なるポリカーボネート、分岐成分を含有するポリカーボネート、各種のポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体等を2種以上含んでいてもよい。さらに、製造法の異なるポリカーボネート、末端停止剤の異なるポリカーボネート等を2種以上含んでいてもよい。
ポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、環状カーボネート化合物の開環重合法などの反応形式は、各種の文献及び特許公報などで良く知られている方法である。
(G1)成分は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネートを含んでいてもよい。使用済みの製品としては防音壁、ガラス窓、透光屋根材、自動車サンルーフなどに代表される各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、並びに光記録媒体などが好ましく挙げられる。これらは多量の添加剤や他樹脂などを含むことがなく、目的の品質が安定して得られやすい。殊に自動車ヘッドランプレンズや光記録媒体などは下記粘度平均分子量のより好ましい条件を満足するため好ましい態様として挙げられる。尚、上記のバージン原料とは、その製造後に未だ市場において使用されていない原料である。
(G1)成分の粘度平均分子量は、好ましくは1×104〜5×104、より好ましくは1.4×104〜3×104、更に好ましくは1.8×104〜2.5×104である。粘度平均分子量が1.8×104〜2.5×104の範囲においては、ポリ乳酸樹脂組成物が特に良好な流動性と成形品の耐衝撃性との両立に優れる。最も好適には、粘度平均分子量が1.9×104〜2.4×104の範囲である。尚、この粘度平均分子量は(G1)成分全体として満足すればよく、分子量の異なる2種以上の成分を含む(G1)成分全体がこの範囲を満足するものを含む。
粘度平均分子量の算出にあたっては、まず次式(a)にて算出される比粘度を、塩化メチレン100mlに(G1)成分0.7gを20℃で溶解して調製される試料溶液についてのオストワルド粘度計による測定結果から求める。次に得られた比粘度から、次式(b)〜(d)を用いて粘度平均分子量Mを求める。
比粘度(ηSP)=(t−t0)/t …(a)
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度) …(b)
[η]=1.23×10−4M0.83 …(c)
c=0.7 …(d)
((G2)コアシェルゴム)
(G)成分は、コアシェルゴムを含有してもよい。コアシェルゴムは、重合体で構成される最内層(コア層)と、それを覆うコア層とは異種の重合体から構成される1以上の層(シェル層)とを有する、多層構造の重合体である。
ポリ乳酸樹脂組成物はコアシェルゴムを一種のみ含有してもよく、二種以上含有してもよい。ポリ乳酸樹脂組成物がコアシェルゴムを含有する場合、その含有量の合計は3〜12質量%の範囲であることが好ましい。
コアシェルゴムとして、Siを含有するコアシェルゴムが挙げられる。Siを含有するコアシェルゴムは、コア層がSiを含む重合体から構成されているポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体とエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムのうちの、少なくとも一方が含まれていることが好ましく、特にポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が含まれていることが好ましい。
ポリ乳酸樹脂組成物がSiを含有するコアシェルゴムを含有する場合、その含有量は、3〜12質量%の範囲であることが好ましい。この範囲内において、ポリ乳酸樹脂組成物から形成される成形品の耐衝撃性及び耐熱性が優れたものとなる。
Siを含有するコアシェルゴムとして、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体、エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムなどが挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物がポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を含有すると、成形品の難燃性と耐衝撃性とが特に向上する。ポリ乳酸樹脂組成物がポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を含有する場合、その含有量は、3〜12質量%の範囲であることが好ましい。
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、次の(X)〜(Z)成分から得られる;
(X)ポリオルガノシロキサン粒子;
(Y)第1のビニル系単量体;
(Z)第2のビニル系単量体。
(Y)成分は、下記(Y−1)成分のみからなり、或いは下記(Y−1)成分及び(Y−2)成分からなると共にこれらの成分を下記の割合で含む;
(Y−1)多官能性単量体100〜50質量%;
(Y−2)その他の共重合可能な単量体0〜50質量%。
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、(X)成分40〜90質量部の存在下で、(Y)成分0.5〜10質量部を重合し、更に、(Z)成分5〜50質量部を重合して得られる。前記の各成分の量は、(X)〜(Z)成分の合計量を100質量部とした場合の値である。
(X)成分は、トルエン不溶分量((X)成分0.5gをトルエン80mlに室温で24時間浸漬した場合のトルエン不溶分量)が95質量%以下、さらには50質量%以下、特には20質量%以下であることが、成形品の難燃性、耐衝撃性の向上のために好ましい。
(X)成分の具体例としては、ポリジメチルシロキサン粒子、ポリメチルフェニルシロキサン粒子、ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体粒子などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(X)成分の一部又は全部は、ポリオルガノシロキサン以外の重合体を含む変性ポリオルガノシロキサンの粒子であってもよい。ポリオルガノシロキサン以外の重合体の具体例としては、ポリアクリル酸ブチル、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体などが挙げられる。(X)成分中のポリオルガノシロキサン以外の重合体の含有量は低い方が好ましく、特に含有量が5質量%以下であることが好ましい。特に(X)成分が実質的にポリオルガノシロキサンのみからなる粒子であることが、成形品の難燃性向上のために好ましい。
(X)成分の平均粒子径は特に制限されないが、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められる数平均粒子径が0.008〜0.6μmであることが好ましく、0.01〜0.2μmであれば更に好ましく、0.01〜0.15μmであれば特に好ましい。この数平均粒子径が小さすぎる場合は生産が困難であり、逆に大きすぎると成形品の難燃性を充分に向上することができないおそれがある。成形品の外観の向上のためには、(X)成分の粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/数平均粒子径(%))が10〜100%の範囲であることが好ましく、20〜60%であれば更に好ましい。
(X)成分の製造にあたってのモノマーの組み合わせとしては、オルガノシロキサンの単独重合;2官能シラン化合物の単独重合;オルガノシロキサンと2官能シラン化合物との共重合;オルガノシロキサンとビニル系重合性基含有シラン化合物との共重合;2官能シラン化合物とビニル系重合性基含有シラン化合物との共重合;オルガノシロキサン、2官能シラン化合物及びビニル系重合性基含有シラン化合物、或いは更にこれらの化合物と3官能以上のシラン化合物の共重合等が、挙げられる。
前記各化合物のうち、オルガノシロキサン又は2官能シラン化合物は、ポリオルガノシロキサン鎖の主骨格を構成する成分である。
オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(a)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(b)、デカメチルシクロペンタシロキサン(c)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(d)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(e)、ヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(f)等が挙げられる。
2官能シラン化合物としては、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
特に経済性及び成形品の難燃性向上の観点から、(X)成分の製造に使用されるモノマー中の、(b)成分、(a)〜(e)成分の混合物、又は(a)〜(f)成分の混合物の割合が、70〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることが更に好ましい。残余の部分は、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が0〜30質量%を占めることが好ましく、0〜20質量%を占めることが更に好ましい。
ビニル系重合性基含有シラン化合物は、オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、3官能以上のシラン化合物などと共重合し、共重合体の側鎖または末端にビニル系重合性基を導入するための成分である。このビニル系重合性基は、後述する(Y)成分または(Z)成分から形成されるビニル系(共)重合体と化学結合する際のグラフト活性点として作用する。更にこのビニル系重合性基含有シラン化合物は、ラジカル重合開始剤の存在下でグラフト活性点間をラジカル反応させて架橋結合を形成させることができる。すなわちビニル系重合性基含有シラン化合物は架橋剤としても機能し得る。ラジカル重合開始剤として、後述のグラフト重合において使用され得るものと同じものが使用できる。尚、ビニル系重合性基含有シラン化合物を架橋剤として機能させても、その一部はグラフト活性点として残るため、グラフトは可能である。
ビニル系重合性基含有シラン化合物の具体例としては、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物;p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン、p−ビニルフェニルトリメトキシシランなどのビニルフェニル基含有シラン化合物;ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有シラン化合物;メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルジメトキシメチルシランなどのメルカプト基含有シラン化合物などが、挙げられる。
これらのなかでは(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物、ビニル基含有シラン化合物、メルカプト基含有シラン化合物から選択される少なくとも一種を用いることが、経済性の点から好ましい。尚、前記ビニル系重合性基含有シラン化合物がトリアルコキシシラン型である場合には、次に示す3官能以上のシラン化合物の役割も有する。
3官能以上のシラン化合物は、前記オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物などと共重合することにより、ポリオルガノシロキサンに架橋構造を導入して、(X)成分にゴム弾性を付与し得る。すなわち3官能以上のシラン化合物はポリオルガノシロキサンの架橋剤として用いられる。
3官能以上のシラン化合物としては、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシランなどの4官能、3官能のアルコキシシラン化合物等が挙げられる。このうちテトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシランの少なくとも一方を用いることが、架橋効率の高さの点から好ましい。
オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物、および3官能以上のシラン化合物の重合時の使用割合は適宜決定される。特にオルガノシロキサンと2官能シラン化合物との合計量の割合が50〜99.9質量%であることが好ましく、60〜99.5質量%であれば更に好ましい。尚、オルガノシロキサンと2官能シラン化合物との割合は、重量比で100/0〜0/100であることが好ましく、100/0〜70/30であれば更に好ましい。ビニル系重合性基含有シラン化合物の割合は0〜40質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であれば更に好ましい。3官能以上のシラン化合物の割合は0〜50質量%であることが好ましく、0〜39質量%であれば更に好ましい。ビニル系重合性基含有シラン化合物と3官能以上のシラン化合物とは、少なくとも一方を用いることが好ましく、特にビニル系重合性基含有シラン化合物と3官能以上のシラン化合物のうちの少なくとも一方の割合を0.1%以上とすることが好ましい。
オルガノシロキサン及び2官能シラン化合物の使用割合が少なすぎると、成形品が脆くなる傾向がある。逆に多すぎてもビニル系重合性基含有シラン化合物および3官能以上のシラン化合物の量が少なくなりすぎて、これらを使用する効果が発現されにくくなる傾向にある。
また、ビニル系重合性基含有シラン化合物あるいは前記3官能以上のシラン化合物の割合が少なすぎると、成形品の難燃性が充分に向上しないおそれがある。逆に多すぎても、成形品が脆くなる傾向がある。
(X)成分は、上記モノマーを乳化重合することにより製造することが好ましい。乳化重合は、例えば前記モノマーおよび水を乳化剤の存在下で機械的剪断により水中に乳化分散して酸性状態にすることで行なうことができる。この場合、機械的剪断により数μm以上の乳化液滴を調製した場合、重合後に得られる(X)成分の平均粒子径は使用する乳化剤の量により0.02〜0.6μmの範囲で制御することができる。また、(X)成分の粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/平均粒子径)(%)を20〜70%の範囲に制御することができる。
また、0.1μm以下で粒子径分布の狭い(X)成分を製造する場合、多段階で重合することが好ましい。例えば前記モノマー、水および乳化剤を機械的剪断により乳化してえられた、数μm以上の乳化液滴からなるエマルションの1〜20%を先に酸性状態で乳化重合し、得られた(X)成分をシードとしてその存在下で残りのエマルションを追加して重合する。これより得られた(X)成分は、乳化剤の量により平均粒子径が0.02〜0.1μmで、かつ粒子径分布の変動係数が10〜60%に制御可能である。更に好ましい方法は、多段重合において、(X)成分のシードの代わりに、後述するグラフト重合時に用いるビニル系単量体(例えばスチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルなど)を通常の乳化重合法により(共)重合してなるビニル系(共)重合体を用いて、同様の多段重合を行なうことである。この場合、得られるポリオルガノシロキサン(変性ポリオルガノシロキサン)粒子の平均粒子径は乳化剤量により0.008〜0.1μmでかつ粒子径分布の変動係数が10〜50%に制御できる。前記数μm以上の乳化液滴は、ホモミキサーなど高速撹拌機を使用することにより調製することができる。
前記乳化重合では、酸性状態下で乳化能を失わない乳化剤が用いられる。具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。特にアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウムから選択される少なくとも一種を用いることが、エマルションの乳化安定性が比較的高いことから好ましい。更に、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルスルホン酸はモノマーの重合触媒としても作用するので特に好ましい。
反応系の酸性状態は、この反応系に硫酸や塩酸などの無機酸やアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸を添加することで達成される。反応系のpHは生産設備の腐食抑制や適度な重合速度の達成を考慮して1〜3に調整することが好ましく、1.0〜2.5に調整することがより好ましい。重合のための加熱は、適度な重合速度の達成のためは60〜120℃が好ましく、70〜100℃がより好ましい。
尚、酸性状態下では、ポリオルガノシロキサンの骨格を形成しているSi−O−Si結合が切断と生成の平衡状態にあり、この平衡は温度によって変化する。このため、ポリオルガノシロキサン鎖の安定化のためには、反応系に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液を添加して中和することが好ましい。更に前記の平衡は、低温になるほど生成側に寄り、高分子量または高架橋度の生成物が得られやすくなる。このため、高分子量または高架橋度の生成物を得るためには、モノマーの重合を60℃以上で進行させた後、反応系を室温以下に冷却して5〜100時間程度保持してから中和することが好ましい。
このようにして得られる(X)成分は、例えば、オルガノシロキサンあるいは2官能シラン化合物、更にこれらにビニル系重合性基含有シラン化合物を加えて重合し形成された場合、それらは通常ランダムに共重合してビニル系重合性基を有した重合体となる。また、3官能以上のシラン化合物を共重合した場合、架橋された網目構造を有したものとなる。また、後述するグラフト重合時に用いられるようなラジカル重合開始剤によってビニル系重合性基間をラジカル反応により架橋させた場合、ビニル系重合性基間が化学結合した架橋構造を有し、かつ一部未反応のビニル系重合性基が残存したものとなる。
(Y)成分は、(Y−1)成分からなり、或いは(Y−1)成分と(Y−2)成分とからなる。(Y−1)成分は分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能単量体であり、(Y)成分における割合は100〜50質量%である。(Y−2)成分は(Y−1)成分以外のビニル系単量体であり、(Y)成分における割合は0〜50質量%である。(Y)成分を使用することは、成形品の難燃性及び耐衝撃性の向上に寄与する。
(Y)成分における(Y−1)成分の割合が50質量%以上であること、並びに(Y)成分における(Y−2)成分の割合が50質量%以下であることで、成形品の耐衝撃性が更に向上する。(Y)成分における(Y−1)成分の割合は、特に100〜80質量%であることが好ましく、100〜90質量%であれば更に好ましい。(Y)成分における(Y−2)成分の割合は特に0〜20質量%であることが好ましく、0〜10質量%の範囲であれば更に好ましい。
(Y−1)成分としては、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、フタル酸ジアリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらの中では、経済性および効果の点で特にメタクリル酸アリルの使用が好ましい。
(Y−2)成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、パラブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体;イタコン酸、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有ビニル系単量体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
(Z)成分は、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体と(A)成分や(H)成分との相溶性を確保し、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の分散性向上に寄与する。
(Z)成分としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、スチレン、アクリロニトリル等の、上記(Y−2)成分と同じものを使用することができる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
(Z)成分の溶解度パラメーターは、9.15〜10.15[(cal/cm3)1/2]であることが好ましく、9.17〜10.10[(cal/cm3)1/2]であればより好ましく、9.20〜10.05[(cal/cm3)1/2]であれば更に好ましい。溶解度パラメーターを前記範囲とすることにより、成形品の難燃性を更に向上することができる。尚、溶解度パラメーターは、John Wiley&Son社出版「ポリマーハンドブック」1999年、第4版、セクションVII第682〜685頁)に記載のグループ寄与法でSmallのグループパラメーターを用いて算出される値である。
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、(X)成分40〜90質量部の存在下で、(Y)成分0.5〜10質量部を重合し、更に、(Z)成分5〜50質量部を重合して得られる。前記の各成分の量は、(X)〜(Z)成分の合計量を100質量部とした場合の値である。特に(X)成分の割合は60〜80質量部であることが好ましく、60〜75質量部であれば更に好ましい。(Y)成分の割合は1〜5質量部であることが好ましく、2〜4質量部であれば更に好ましい。(Z)成分の割合は15〜39質量部であることが好ましく、21〜38質量部であれば更に好ましい。
(X)成分の割合が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも成形品の難燃化効果が低くなる。(Y)成分が少なすぎる場合、成形品の難燃化効果および耐衝撃性改良効果が低くなり、多すぎる場合は成形品の耐衝撃性改良効果が低くなる。(Z)成分が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも成形品の難燃化効果が低くなる。
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、公知のシード乳化重合により製造することができる。例えば、(X)成分のラテックス中で(Y)成分のラジカル重合を行い、更に、(Z)成分のラジカル重合を行うことができる。(Y)成分および(Z)成分は、いずれも1段階で重合させてもよく2段階以上で重合させてもよい。
前記ラジカル重合にあたっては、ラジカル重合開始剤を熱分解することにより反応を進行させる方法、還元剤を使用するレドックス系での反応など、適宜の方法が採用され得る。重合時の反応温度は30〜120℃が好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、反応性の高さから、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイト、ラウロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、シクロヘキサンノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどの有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物などを、使用することが好ましい。ラジカル重合開始剤の使用量は、(Y)成分あるいは(Z)成分100部に対して、0.005〜20部、さらには0.01〜10部であり、特に0.03〜5部であるのが好ましい。
一方、レドックス系で使用される還元剤としては、硫酸第一鉄/グルコース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/デキストロース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート/エチレンジアミン酢酸塩などの混合物などが、挙げられる。
ラジカル重合の際に連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤の具体例としては、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンなどが挙げられる。連鎖移動剤を使用する場合の使用量は、(Y)成分あるいは(Z)成分100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましい。
前記重合では、(X)成分がビニル系重合性基を含有する場合には(Y)成分がラジカル重合開始剤によって重合する際に、(X)成分のビニル系重合性基と反応することにより、グラフトが形成される。(X)成分にビニル重合性基が存在しない場合、特定のラジカル開始剤、例えばt−ブチルパーオキシラウレートなどを用いれば、ケイ素原子に結合したメチル基などの有機基から水素を引き抜き、生成したラジカルによって(Y)成分が重合しグラフトが形成される。さらに(Z)成分がラジカル重合開始剤によって重合する際に、(Y)成分と同じように(X)成分と反応するだけでなく、(Y)成分によって形成された重合体中に存在する不飽和結合にも反応して(Z)成分によるグラフトが形成される。
乳化重合等によって得られたポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、ラテックスからポリマーを分離して使用してもよく、ラテックスのまま使用してもよい。ポリマーを分離する方法としては、通常の方法、例えば、ラテックスに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩を添加することによりラテックスを凝固、分離、水洗、脱水し、乾燥する方法が挙げられる。また、スプレー乾燥法も使用できる。
尚、(X)成分の存在下での(Y)成分および(Z)成分の重合では、グラフト共重合体の枝にあたる部分(ここでは、(Y)成分および(Z)成分の重合体)が幹成分(ここでは(X)成分)にグラフトせずに枝成分だけで単独に重合して得られるいわゆるフリーポリマーも副生し、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体とフリーポリマーの混合物として得られる。この両者を併せてポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体という。
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、(X)成分に(Y)成分がグラフトし、さらに(Z)成分が(X)成分だけでなく(Y)成分によって形成された重合体にもグラフトした構造のものであるため、フリーポリマーの量が少なくなる。このポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体のアセトン不溶分量(ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1gをアセトン80mlに室温で48時間浸漬した場合のアセトン不溶分量)は、80%以上、さらには85%以上であることが、成形品の難燃性向上のために好ましい。
このようなポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、市販品として入手可能であり、例えば株式会社カネカ製の商品名カネエースMR01、カネエースMR02等が挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物がエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムを含有する場合、その含有量は3〜12質量%の範囲であることが好ましい。
エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムとしては、アクリル酸アルキル、シリル基末端ポリエーテル、及びグリシジル基含有ビニル系化合物の、重合体を用いることができる。このエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムは、アクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体(シリコーンアクリル複合ゴム)と、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有ビニル系化合物の重合体との複合物であってもよい。この場合、アクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体と、グリシジル基含有ビニル系化合物の重合体との全部若しくは一部が共重合していてもよい。
このエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムのコア層はアクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体から構成され、シェル層はグリシジル基含有ビニル系化合物の重合体から構成される。この多層構造重合体は、例えばアクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体のラテックスにグリシジル基含有ビニル系化合物を添加し、グラフト重合させることで得ることができる。
アクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体(シリコーンアクリル複合ゴム)の代表的な一例の構造式を下記[化3]に示す。この構造式の左部分がアクリル酸アルキルに由来するアクリル酸アルキル単位であり、右側部分がシリル基末端ポリエーテルに由来するシリル基末端ポリエーテル単位である。
グリシジル基含有ビニル系化合物の代表的な一例の構造式を下記[化4]に示す。
アクリル酸アルキルとしては、具体的には、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル;メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸オクタデシル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸ベンジル、メタアクリル酸クロロメチル、メタアクリル酸2−クロロエチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル;メタアクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタアクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル;メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルまたはメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられる。これらの化合物は単独ないし2種以上を用いることができる。
シリル基末端ポリエーテルとしては、末端にシリル基を有するポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリエーテルが用いられる。前記シリル基としては、具体的には、メチルシリル基、エチルシリル基、プロピルシリル基、ブチルシリル基などのアルキルシリル基、3−クロロプロピルシリル基、3,3,3−トリフルオロプロピルシリル基などのハロゲン化アルキルシリル基、ビニルシリル基、アリルシリル基、ブテニルシリル基などのアルケニルシリル基、フェニルシリル基、トリルシリル基、ナフチルシリル基などのアリールシリル基、シクロペンチルシリル基、シクロヘキシルシリル基などのシクロアルキルシリル基、ベンジルシリル基、フェネチルシリル基などのアリール−アルキルシリル基などが挙げられる。このようなシリル基末端ポリエーテルは、一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
グリシジル基含有ビニル系化合物としては、メタアクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルまたは4−グリシジルスチレンなどが挙げられる。これらの化合物は単独ないし2種以上を用いることができる。
このようなエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムとしては、市販のものを適宜使用することができる。その具体例としては、グリシジルメタクリレートをシェルに含有するコアシェル構造体である三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンS2200を挙げることができる。
ポリ乳酸樹脂組成物は、Siを含有するコアシェルゴム以外のコアシェルゴム、すなわちSiを含有しないコアシェルゴムを含有してもよい。Siを含有しないコアシェルゴムの例として、不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体が挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物に不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体を含有させることで、Siを含有するコアシェルゴムの機能の一部を不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体に代替させることができる。尚、この場合、コスト面でも有利となる。
不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体を得るために用いられる不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられる。ジエン系ゴム成分としては、例えばポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン等の、ガラス転移点が10℃以下のゴムが挙げられる。芳香族ビニルとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン及びp−メチルスチレン等の核置換スチレンが挙げられる。これら不飽和カルボン酸アルキルエステル、ジエン系ゴム、芳香族ビニルは、それぞれ1種または2種以上使用することができる。
この不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体の代表例として、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)が挙げられる。メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体は、ブタジエン・スチレン重合体で構成されるコア層と、メタクリル酸メチル重合体で構成されるシェル層とを備える多層構造重合体であることが好ましい。
ブタジエン・スチレン重合体の構造式を下記[化5]に示す。この構造式の左側部分がブタジエンに由来するブタジエン単位であり、右側部分がスチレンに由来するスチレン単位である。
シェル層を構成するメタクリル重合体の構造式を下記[化6]に示す。
不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体の製造法としては、例えば塊状重合、懸濁重合、乳化重合などの各種方法が挙げられる。特に、乳化重合法が好適である。このようにして得られるコアシェルタイプグラフトゴム状弾性体は、前記ジエン系ゴム成分を50質量%以上含有していることが好ましい。
このようなメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体としては、市販のものを適宜使用することができる。その好適な具体例としては、三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンC−223A、メタブレンC−323A、メタブレンC−215A、メタブレンC−201A、メタブレンC−202、メタブレンC−102、メタブレンC−140A、メタブレンC−132等、株式会社カネカ製の商品名カネエースM−600、ローム・アンド・ハース株式会社製の商品名パラロイドEXL−2638等が挙げられる。
((G3)グリシジル基を有する共重合体)
ポリ乳酸樹脂組成物は、(G)成分の少なくとも一部として、グリシジル基を有するアクリル系重合体と、グリシジル基を有するアクリル−スチレン系共重合体とから選ばれる少なくとも一種の共重合体を含有してもよい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の流動性を更に向上すると共に、成形品の耐衝撃値を更に向上することができる。ポリ乳酸樹脂組成物中の、グリシジル基を有するアクリル系重合体及びグリシジル基を有するアクリル−スチレン系共重合体の含有量の合計は、1〜5質量%の範囲が好ましい。この含有量が多すぎると増粘したり、逆に可塑剤として作用したりするおそれがある。
グリシジル基を有するアクリル系重合体としては、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体同士の共重合体、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体、グリシジル基を有するアクリル酸エステル単量体同士の共重合体、グリシジル基を有するアクリル酸エステル単量体とアクリル酸エステル単量体の共重合体、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とアクリル酸エステル単量体の共重合体、グリシジル基を有するアクリル酸エステル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体等が挙げられる。
グリシジル基を有するアクリル−スチレン系共重合体としては、スチレン単量体とグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体、スチレン単量体とグリシジル基を有するアクリル酸エステル単量体の共重合体等が挙げられる。グリシジル基を有するアクリル−スチレン系共重合体の具体例としては、東亞合成株式会社製のARUFON UG−4000シリーズなどが挙げられる。
グリシジル基を有するアクリル系重合体及びグリシジル基を有するアクリル−スチレン系共重合体の製造方法は特に制限されない。例えばグリシジル基を有するアクリルエステルモノマーを重合させる方法;グリシジル基を有するアクリルエステルモノマーをスチレンと共重合させる方法;グリシジル基を有しないアクリル酸等のモノマーを重合させる方法;グリシジル基を有しないアクリル酸等のモノマーをスチレンと共重合させた後に、アクリル酸単位のカルボキシル基にグリシジル基を有するアルコール類を縮合反応により付加させる方法などが、挙げられる。グリシジル基を有するアクリル系モノマーとしては、グリジルメタクリレート、グリジルアクリレート等が挙げられる。
(他の熱可塑性樹脂)
(G)成分には、上記以外の種々の熱可塑性樹脂が含まれてもよい。例えばポリ乳酸樹脂組成物中に、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(いわゆるPET−G樹脂)、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂などの芳香族ポリエステル樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂);環状ポリオレフィン樹脂;ポリカプロラクトン樹脂;ポリフッ化ビニリデン樹脂に代表される熱可塑性フッ素樹脂;ポリエチレン樹脂、エチレン−(α−オレフィン)共重合体樹脂、ポリプロピレン樹脂、プロピレン−(α−オレフィン)共重合体樹脂などを含有させることができる。ポリ乳酸樹脂組成物中には前記のような樹脂が一種のみ含まれていてもよく、二種以上が含まれていてもよい。このような種々の熱可塑性樹脂により、成形品の耐衝撃性が更に向上することができる。これらの熱可塑性樹脂の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物に対して3〜12質量%の範囲であることが好ましい。
[他の成分]
ポリ乳酸樹脂組成物は、必要に応じて上記以外の結晶核剤、安定剤、顔料、染料、補強剤(マイカ、クレー、ガラス繊維等)、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の公知の添加剤を含有してもよい。これらの成分は、ポリ乳酸樹脂組成物の混練時に配合されても、成形時等に加えられてもよい。
[ポリ乳酸樹脂組成物及び成形品の製造]
ポリ乳酸樹脂組成物は、上記のような成分が混合、混練されることにより調製される。ポリ乳酸樹脂組成物は必要に応じてペレット状に成形されてもよい。前記混合、混練にあたっては、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等が用いられる。特に二軸押出機による溶融混練が好ましい。この混合、混練にあたっては、必要に応じて、サイドフィードなどにより樹脂やその他の添加剤が配合されてもよい。
このポリ乳酸樹脂組成物が射出成形、ブロー成形、シート成形、真空成形などの適宜の成形方法により成形されることで、各種成形品が得られる。
このようにして得られる成形品は、耐加水分解性が高く、且つ優れた剛性を有するため、長期間の使用が想定される家電分野や建材、サニタリー分野など、広範囲の分野に使用され得る。
例えば、このポリ乳酸樹脂組成物は成形サイクルが短く、従来のABS樹脂と同等の成形加工性、特性を有することから、携帯電話機用卓上ホルダーの外装などの電子機器用筐体や、携帯電話機の内部シャーシ部品などの電子機器用内部部品を作製するために好適に用いられる。
[製造例]
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度99%以上)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.006重量部、オクタデシルアルコール0.37重量部を加え、窒素雰囲気下、撹拌翼のついた反応機にて、190℃で2時間反応し、その後、エステル交換抑制剤(ジヘキシルホスホノエチルアセテートDHPA)0.01重量部を加えた後、減圧して残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリ−D−乳酸を得た。得られたポリ−D−乳酸の重量平均分子量は13万、ガラス転移点(Tg)60℃、融点は170℃であった。
このポリ−D−乳酸と、ポリ−L−乳酸(ネイチャーワークス社製の4042D、光学純度95%以上、融点150℃、重量平均分子量21万)とを、32mm径の二軸押出機(Coperion製、ZSK 32)を用い、シリンダー温度200℃〜250℃、回転数200rpmの条件で溶融混練を行い、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を得た。得られたステレオコンプレックス型ポリ乳酸の融点は213℃、ステレオ化度は100%であった。
[実施例1〜29、比較例1〜5]
各実施例及び比較例について、表1,2に示す成分を用い、樹脂成分については予め乾燥処理を施した上で、これらの成分をタンブラーで10分間混合した。得られた混合物を二軸押出機で、ダイス付近温度190℃、投入口付近温度200℃の条件で押し出してストランドを得た。尚、表1,2に示す成分の配合量のうち、酸化防止剤の配合量については全成分の合計量に対する質量基準の割合(ppm)が示されている。また表1,2には、ABS樹脂の配合量について、樹脂成分(ポリ乳酸、ABS樹脂、PMMA、コアシェルゴム、及びポリカーボネート樹脂)の合計に対する体積比率(体積%)も示されている。
このストランドを速やかに冷却槽で冷却した後、カッターで切断して、長さ2〜4mmのペレット状の樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物を、除湿乾燥機にて120℃で4時間加熱することにより乾燥処理を施した後、100トン射出成形機及びISO準拠試験片金型(カラープレート、60mm×60mm×2mm、2個取り)を用い、シリンダーの温度をヘッド付近で230℃、材料投入口付近で220℃に設定すると共に、金型温度を110℃に設定して射出成形し、成形品を得た。
但し、ポリ乳酸Cを用いる場合には、上記方法において、二軸押出機におけるダイス付近温度及び投入口付近温度を225℃とし、射出成形時にはシリンダーの温度をヘッド付近で230℃、材料投入口付近で230℃に設定した。
実施例13,14については、原料成分を全て混合する前に、まずカルボジイミド化合物をポリ乳酸に混合してカルボジイミド化合物の含有量が10質量%のマスターバッチを調製した。
[加工性評価]
各実施例及び比較例で得られた成形品のメルトフローインデックスを、ISO 1133に従い、温度220℃、荷重10kgの条件で測定した。
[成形サイクル評価]
各実施例及び比較例につき、樹脂組成物の射出成形時に一点ゲートの金型を用い、成形品の寸法を60mm×60mm×1mmとした。この場合の金型への樹脂組成物の射出後、金型から成形品を変形が生じることなく取り出すことが可能となるまでに要した保持時間(冷却時間)を測定し、これを成形サイクルの指標とした。
[外観評価]
各実施例及び比較例につき、樹脂組成物の射出成形時に2点ゲートの金型を用い、成形品の寸法を60mm×60mm×1mmとした。この場合の成形品中央部でのウエルドの有無を確認した。各実施例及び比較例において100個のサンプルについて試験をおこない、ウエルドの認められたサンプル数で評価した。
[熱安定性]
各実施例において、成形品を得るにあたり、射出成形を200ショット連続しておこなった。この場合の、表面に汚れが認められる成形品の数を確認し、これを熱安定性の指標とした。
[発色性評価]
各実施例において、樹脂組成物の調製時にカーボンブラック(三菱化学株式会社製のカーボンブラックMA600B)を、表1,2に示される原料成分の総量100質量部に対して1質量部の割合で配合した。
このカーボンブラックが配合された樹脂組成物を射出成形機で成形して90mm×150mm×3mmの寸法の成形品を得た。分光光度計(村上色彩技術研究所製)を用いて前記の成形品の表面のL*値を測定した。
その結果L*値が10以下の場合を○、11〜15の場合を△、16以下を×と評価した。
[耐衝撃性評価]
各実施例で得られた成形品のノッチ付きのシャルピー衝撃値を、ISO 179に従って測定した。
[耐熱性評価]
各実施例における成形品の荷重たわみ温度を、ISO 75−1及び75−2に従って測定した。測定荷重は0.45MPaとした。
[耐久性評価]
各実施例で得られた成形品を60℃、95%RHの雰囲気下に曝露した後、この成形品の引張強度を、ISO 179に従って測定した。この試験を曝露時間を変化させて実行することで、曝露後の成形品の引張強度が曝露前の成形品の引張り強度の90%以下に達する最短の曝露時間を特定し、これを耐久性の指標とした。
[寸法安定性評価]
各実施例で得られた成形品を80℃の雰囲気下に48時間曝露する処理を施した後、この成形品の寸法変化を測定した。処理前の成形品の寸法(a)及び処理後の成形品の寸法(b)から、次の式により成形収縮率を算出した。
{(b−a)/b}×100(%)
[評価結果]
以上の評価試験の結果を、各実施例及び比較例における配合組成と共に下記表1,2に示す。
表1,2に示される各成分の詳細は次の通りである。
・ポリ乳酸A:ポリ−L−乳酸樹脂(ネイチャワークス社製の品番Ingeo 3001D)。
・ポリ乳酸B:ポリ−L−乳酸樹脂(ネイチャワークス社製の品番Ingeo 4032D)。
ポリ乳酸C:製造例で得られたステレオコンプレックス型ポリ乳酸。
・ABS樹脂A:アクリロニトリル単位割合15.4質量%、スチレン単位割合71.2質量%、ブチレン単位割合13.4質量%、バルク重合による合成品、平均粒径0.40μm。
・ABS樹脂B:アクリロニトリル単位割合20.2質量%、スチレン単位割合65.8質量%、ブチレン単位割合14.0質量%、バルク重合による合成品、平均粒径0.86μm。
・ABS樹脂C:アクリロニトリル単位割合22.8質量%、スチレン単位割合62.2質量%、ブチレン単位割合15.0質量%、乳化重合による合成品、平均粒径0.40μm。
・ABS樹脂D:アクリロニトリル単位割合20.5質量%、スチレン単位割合69.0質量%、ブチレン単位割合10.5質量%、バルク重合による合成品、平均粒径0.46μm。
・ABS樹脂E:アクリロニトリル単位割合2.0質量%、スチレン単位割合34.5質量%、ブチレン単位割合13.5質量%、メチルメタクリレート単位割合50.0質量%、バルク重合による透明な合成品、平均粒径0.40μm。
・ABS樹脂F:アクリロニトリル単位割合25.0質量%、スチレン単位割合62.3質量%、ブチレン単位割合12.7質量%、乳化重合による透明な合成品、平均粒径0.3μmと0.8μmの混合物。
・ABS樹脂G:アクリロニトリル単位割合23.4質量%、スチレン単位割合56.6質量%、ブチレン単位割合20.0質量%、乳化重合による合成品、平均粒径0.3μmと0.8μmの混合物。
・PMMA(高衝撃):住友化学株式会社製、商品名スミペックスHT01X、JIS K7111に規定されるノツチ付シャルピー衝撃値5.6kJ/m2。
・PMMA(標準):住友化学株式会社製、商品名スミペックスMG−SS、JIS K7111に規定されるノツチ付シャルピー衝撃値1.3kJ/m2。
・カルボジイミド化合物:日清紡ケミカル株式会社製の商品名カルボジライト LA−1。
・酸化防止剤A:AO−2246(2,2−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール))。
・酸化防止剤B:チバ・ガイギー社製の商品名Irganox1076(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン酸オクタデシル)。
・酸化防止剤C:エリオケム社製の商品名Wingstay−L(ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル−フェニル)ジシクロペンタジエン)。
・コアシェルゴムA:三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンS2200、グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとの複合体。
・コアシェルゴムB:三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンC223A、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合ゴム。
・ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製の商品名ユーピロンH4000。
・タルク:林化成株式会社製の商品名タルクミクロンホワイト、平均粒径2.8μm。
・ホスフィン酸亜鉛:フェニルホスフィン酸亜鉛(日産化学工業株式会社製の商品名エコプロモートNP、平均粒径1.5μm)。