JP2011231720A - 空燃比センサの異常診断装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】十分な診断精度を確保し、誤診断を未然に防止する。
【解決手段】本発明によれば、内燃機関の排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサであり、触媒層を有するセンサ素子を備えた空燃比センサの異常診断装置が提供される。排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行し、アクティブ空燃比制御の実行中に診断パラメータを算出して空燃比センサが正常か異常かを判定する。空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定し、使用初期状態にあると判定したときセンサ素子の温度を昇温させる。
【選択図】図5
【解決手段】本発明によれば、内燃機関の排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサであり、触媒層を有するセンサ素子を備えた空燃比センサの異常診断装置が提供される。排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行し、アクティブ空燃比制御の実行中に診断パラメータを算出して空燃比センサが正常か異常かを判定する。空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定し、使用初期状態にあると判定したときセンサ素子の温度を昇温させる。
【選択図】図5
Description
本発明は、内燃機関の排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサの異常を診断する装置に関する。
触媒を利用した排気ガス浄化システムを備える内燃機関では、触媒による排気ガスの有害成分の浄化を有効に行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが欠かせない。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に、排気ガスの特定成分の濃度に基づいて空燃比を検出する空燃比センサを設け、その検出された空燃比を所定の目標空燃比に近づけるようフィードバック制御を実施している。
ところで、空燃比センサに劣化、故障等の異常を来すと、正確な空燃比フィードバック制御が実行できなくなり排ガスエミッションが悪化する。よって空燃比センサの異常を診断することが従来から行われている。特に、車両に搭載されたエンジンの場合、排ガスが悪化した状態での走行を未然に防止するため、車載状態(オンボード)で空燃比センサの異常を検出することが各国法規等からも要請されている。
従来、アクティブ空燃比制御により空燃比を周期的に増減し、これに伴って増減する空燃比センサ出力の軌跡長又は面積に基づいて空燃比センサの異常を診断する手法が開発されている。
また特許文献1に記載の装置では、空燃比をリーン方向に制御したときの検出空燃比(空燃比センサ出力)変化量に基づいてリーン方向の応答特性値を求めると共に、空燃比をリッチ方向に制御したときの検出空燃比変化量に基づいてリッチ方向の応答特性値を求める。リーン方向の応答特性値をリッチ方向の応答特性値で除算してリーン/リッチ応答比を求めると共に、リッチ方向の応答特性値をリーン方向の応答特性値で除算してリッチ/リーン応答比を求める。そして、リーン方向の応答特性値とリーン/リッチ応答比をそれぞれ異常判定値と比較して空燃比センサのリーン方向の応答性の異常の有無を判定し、リッチ方向の応答特性値とリッチ/リーン応答比をそれぞれ異常判定値と比較して空燃比センサのリッチ方向の応答性の異常の有無を判定する。
ところで、空燃比センサの中には、触媒層を有するセンサ素子を備えたものがある。そしてこのような空燃比センサが使用初期状態にあり、且つその出力が所定空燃比を通過するとき、応答性が使用初期状態でない場合に比べて低下することが判明した。
この応答性低下を考慮しないと、十分な診断精度を確保することが困難となり、また正常なセンサを、応答性が悪化した異常なセンサであると誤診断する虞がある。
そこで本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その一の目的は、触媒層を有するセンサ素子を備えた使用初期状態にある空燃比センサについて、十分な診断精度を確保し、誤診断を未然に防止し得る空燃比センサの異常診断装置を提供することにある。
本発明の一の態様によれば、
内燃機関の排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサであり、触媒層を有するセンサ素子を備えた空燃比センサの異常診断装置であって、
前記空燃比センサに供給される排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行するアクティブ空燃比制御手段と、
前記アクティブ空燃比制御の実行中に、前記空燃比センサの異常度合いに相関する診断パラメータを算出する算出手段と、
算出された前記診断パラメータに基づいて前記空燃比センサが正常か異常かを判定する判定手段と、
前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する状態判定手段と、
前記状態判定手段により前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定されたとき、前記センサ素子の温度を所定の基準温度よりも昇温させる昇温手段と、
を備えることを特徴とする空燃比センサの異常診断装置が提供される。
内燃機関の排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサであり、触媒層を有するセンサ素子を備えた空燃比センサの異常診断装置であって、
前記空燃比センサに供給される排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行するアクティブ空燃比制御手段と、
前記アクティブ空燃比制御の実行中に、前記空燃比センサの異常度合いに相関する診断パラメータを算出する算出手段と、
算出された前記診断パラメータに基づいて前記空燃比センサが正常か異常かを判定する判定手段と、
前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する状態判定手段と、
前記状態判定手段により前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定されたとき、前記センサ素子の温度を所定の基準温度よりも昇温させる昇温手段と、
を備えることを特徴とする空燃比センサの異常診断装置が提供される。
好ましくは、前記状態判定手段は、前記空燃比センサの慣らし度合いに相関するパラメータに基づいて、前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する。
好ましくは、前記パラメータが、前記空燃比センサの温度に応じて変化する温度パラメータの積算値からなる。
好ましくは、前記昇温手段は、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定されたとき、前記アクティブ空燃比制御の開始時から終了時まで前記昇温を実行し、
前記算出手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から終了時まで、リーン制御毎およびリッチ制御毎に前記診断パラメータを算出し、
前記判定手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から所定周期終了時までの前記診断パラメータの算出データを破棄すると共に、残余の算出データに基づき前記空燃比センサが正常か異常かを判定し、且つ、前記所定周期数を吸入空気量に応じて設定する。
前記算出手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から終了時まで、リーン制御毎およびリッチ制御毎に前記診断パラメータを算出し、
前記判定手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から所定周期終了時までの前記診断パラメータの算出データを破棄すると共に、残余の算出データに基づき前記空燃比センサが正常か異常かを判定し、且つ、前記所定周期数を吸入空気量に応じて設定する。
代替的に、前記昇温手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から所定周期内において昇温を非実行とし、
前記状態判定手段は、前記所定周期内における前記空燃比センサの出力の分散値に基づいて、前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する。
前記状態判定手段は、前記所定周期内における前記空燃比センサの出力の分散値に基づいて、前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する。
好ましくは、前記状態判定手段は、前記所定周期内において空燃比がリーンからリッチに切り替えられた場合に1より多い前記分散値のピークを検出したとき、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定する。
好ましくは、前記昇温手段は、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定されたとき、前記所定周期経過後に昇温を実行する。
代替的に、前記昇温手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から1周期目には昇温を非実行とし、2周期目には昇温を実行し、
前記状態判定手段は、前記1周期目および2周期目で算出された前記診断パラメータに基づいて、前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する。
前記状態判定手段は、前記1周期目および2周期目で算出された前記診断パラメータに基づいて、前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する。
好ましくは、前記状態判定手段は、前記1周期目および2周期目で算出された前記診断パラメータの差が所定値以上であるとき、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定する。
好ましくは、前記昇温手段は、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定されたとき、前記アクティブ空燃比制御の3周期目以降に昇温を実行する。
本発明によれば、触媒層を有するセンサ素子を備えた使用初期状態にある空燃比センサについて、十分な診断精度を確保し、誤診断を未然に防止し得る空燃比センサの異常診断装置を提供することができるという、優れた効果が発揮される。
以下、本発明を実施するための形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関の概略図である。図示されるように、内燃機関(エンジン)1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態の内燃機関1は車両用多気筒エンジン(例えば4気筒エンジン、1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。
内燃機関1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが組み込まれている。吸気ポート、枝管、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁Viの開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストン4で圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
一方、各気筒の排気ポートは気筒毎の枝管を介して排気集合通路をなす排気管6に接続されている。排気ポート、枝管及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6には、その上流側と下流側とに三元触媒からなる触媒、即ち上流触媒11と下流触媒19とが取り付けられている。上流触媒11の前後の位置にそれぞれ排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ17,18、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設置されている。これら触媒前センサ17及び触媒後センサ18は排気ガスの酸素濃度に基づいて空燃比を検出する。触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した大きさの出力信号を発する。他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、ストイキ(理論空燃比)を境に出力が急変する特性を持つ。
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。なおスロットル開度は通常アクセル開度に応じた開度に制御される。
触媒11,19は、これに供給される排気ガスの空燃比A/Fがストイキ(例えばA/F=14.6)のときにNOx ,HCおよびCOを同時に浄化する。そしてこれに対応して、ECU20は、内燃機関の通常運転時、触媒11,19に供給される排気ガスの空燃比A/Fがストイキに近づくように、混合気の空燃比を制御する(これをストイキ制御という)。具体的にはECU20は、ストイキに等しい目標空燃比A/Ftを設定すると共に、触媒前センサ17によって検出された実際の空燃比A/Ffが目標空燃比A/Ftに近づくよう、燃料噴射量をフィードバック制御する。なお補助的に、触媒後センサ18によって検出された実際の空燃比A/Frを目標空燃比A/Ftに近づけさせるような燃料噴射量のフィードバック制御も実行される。
図2に、異常診断の対象となる触媒前センサ17のセンサ素子60の構造を示す。センサ素子60は、絶縁層61と、絶縁層61に固着された板状の固体電解質62と、この固体電解質62の表裏面に互いに対向するよう設置された一対の電極すなわち排気電極63および大気電極64とを備える。例えば、絶縁層61はアルミナ等の高熱伝導性セラミックスからなり、固体電解質62は部分安定化ジルコニア製のシートからなる。電極63,64は白金からなる。
絶縁層61のうち、内側の大気電極64に対面する部位には大気室65が形成されており、大気電極64が大気に晒されるようになっている。絶縁層61にはヒータ66が埋設されている。排気電極63及び固体電解質62の上に、例えば多孔質セラミックからなる拡散抵抗層68が積層され、拡散抵抗層68の上に遮蔽層69が積層されている。素子雰囲気の排ガスは、拡散抵抗層68の入口面68aから拡散抵抗層68の内部に浸入し、拡散抵抗層68の内部を拡散して排気電極63に至る。このとき排気電極63に到達したガスの酸素濃度に応じた限界電流が電極63,64間に流れ、この限界電流に基づきセンサ出力が構築される。
特に、拡散抵抗層68の入口面68aには触媒層70が設けられている。排気ガスが触媒層70を透過することによって排気中の水素が浄化され、水素が除かれたガスが排気電極63によって検知される。これによって水素に起因するセンサ出力のズレが防止される。
触媒層70は、アルミナ、ジルコニア、コージェライト等のセラミック担体粒子と、セラミック担体粒子に化学的結合によって直接担持された白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属と、助触媒とを含む。特に助触媒は二酸化セリウムCeO2等の酸素吸蔵成分を含み、触媒層70に酸素吸蔵能を付与する。すなわち、触媒層70に供給される排気ガスがストイキよりリーンであると、触媒層70が排気ガス中の過剰酸素を吸蔵し、他方、触媒層70に供給される排気ガスがストイキよりリッチであると、触媒層70は吸蔵酸素を放出する。
かかる触媒層70の存在により、排気ガス中の水素のみならず他の有害成分(NOx、HC、CO)も浄化したガスを排気電極63に供給できる。なお上流触媒11と下流触媒19も触媒層70と同様に構成されている。また触媒後センサ18のセンサ素子にも同様の触媒層が設けられている。
次に、本実施形態における空燃比センサの異常診断について説明する。既に述べたように、本実施形態で診断対象となるのは触媒前センサ17である。
図3に示すように、本実施形態では、空燃比センサの異常診断の際に、燃焼室3内の混合気の空燃比ひいては触媒前センサ17に供給される排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に且つアクティブに切り替えるアクティブ空燃比制御が実行される。特に、中心空燃比はストイキに等しい値、すなわち14.6とされている。
このアクティブ制御では、目標空燃比A/Ft(図示せず)が一定周期で振動させられ、振動の振幅は例えば空燃比で0.5などとされる。従ってリーン制御時の空燃比は15.1、リッチ制御時の空燃比は14.1である。アクティブ空燃比制御はエンジンの定常運転時に実行される。よって各制御量及び検出値が安定し、診断精度が向上する。
図3に示すように、アクティブ空燃比制御の1周期とは、入力空燃比u(t)がリッチおよびリーンの一方に切り替えられた時τ1(図示例ではリーンへの切替時)から次に同方向に切り替えられる時τ3までの期間をいう。これに対し、アクティブ空燃比制御の半周期とは、入力空燃比u(t)がリッチおよびリーンの一方に切り替えられた時τ1から次に逆方向に切り替えられる時τ2までの期間をいう。
目標空燃比A/Ftの切り替えとほぼ同時に混合気の空燃比がフィードフォワード制御によって切り替えられ、輸送遅れに基づくむだ時間を経過した後、切替後の空燃比の値を有する排気ガスが触媒前センサ17に到達する。
触媒前センサ17に対する入力である入力空燃比として、インジェクタ12の通電時間に基づいて計算された燃料噴射量Qと、エアフローメータ5の出力に基づいて計算された吸入空気量Gaとの比Ga/Qが用いられる。以下、入力空燃比をu(t)で表す(u(t)=Ga/Q)。目標空燃比A/Ftの切替時から入力空燃比u(t)の切替時までのタイムラグは極僅かであり、無視して差し支えない。
他方、触媒前センサ17からの出力である出力空燃比は、触媒前センサ17の出力信号に基づいて計算された触媒前空燃比A/Ffそのものである。以下、出力空燃比をy(t)で表す(y(t)=A/Ff)。このような入力空燃比u(t)を触媒前センサ17に与えたときの出力空燃比y(t)の出方から、触媒前センサ17の正常または異常が診断される。
図3に示すように、入力空燃比u(t)はステップ状の波形であり、これに対し出力空燃比y(t)は一次遅れを伴った波形となる。図中Lは、入力空燃比u(t)から出力空燃比y(t)までの輸送遅れに基づくむだ時間である。このむだ時間Lは、インジェクタ12における燃料噴射時から、その燃料噴射による排気ガスが触媒前センサ17に到達するまでの時間差に相当する。
なお、簡単化のためむだ時間Lをゼロと仮定すると、入力空燃比u(t)と出力空燃比y(t)との間の伝達関数における一次遅れ要素はG(s)=k/(1+Ts)で表すことができる。kは触媒前センサ17のゲインであり、Tは触媒前センサ17の時定数である。ゲインkは、触媒前センサ17の特性のうち出力に関わる値であり、他方、時定数Tは、触媒前センサ17の特性のうち応答性に関わる値である。
図3において、出力空燃比y(t)を表す実線は触媒前センサ17が正常な場合を示す。これに対し、触媒前センサ17の出力特性に異常が生じると、ゲインkが正常時より大きくなり、aで示す如くセンサ出力が増大(拡大)するか、またはゲインkが正常時より小さくなり、bで示す如くセンサ出力が減少(縮小)する。他方、触媒前センサ17の応答性に異常が生じると、殆どの場合、時定数Tが正常時より大きくなり、cで示す如くセンサ出力が遅れて出てくるようになる。
かかる特性に鑑み、触媒前センサ17の正常または異常は、その異常度合いに相関する診断パラメータである出力空燃比y(t)(すなわち触媒前センサ17の出力)の軌跡長、面積若しくは単位時間当たりの変化率(傾き)、または触媒前センサ17のゲイン若しくは時定数に基づいて判断される。
軌跡長の場合、図3に示すように、所定のサンプリング周期Δ(例えば16ms)毎の出力空燃比の今回値y(t)と前回値y(t−1)との差の絶対値を、出力空燃比の応答開始時刻τ31からサンプリング周期Δ毎に積算する。そして、次に入力空燃比u(t)が反転される時点τ4における積算値が、所定の正常範囲内に入っていれば触媒前センサ17を正常と判定し、当該正常範囲内に入っていなければ触媒前センサ17を異常と判定する。
面積の場合、図3に示すように、所定のサンプリング周期Δ毎の出力空燃比の今回値y(t)と初期値y(0)との差の絶対値を、出力空燃比の応答開始時刻τ31からサンプリング周期Δ毎に積算する。そして、次に入力空燃比u(t)が反転される時点τ4における積算値が、所定の正常範囲内に入っていれば触媒前センサ17を正常と判定し、当該正常範囲内に入っていなければ触媒前センサ17を異常と判定する。
単位時間当たりの変化率の場合、応答開始時刻τ31における出力空燃比y(0)と、所定の複数サンプリング周期NΔ(Nは2以上の整数)後の出力空燃比y(NΔ)との差の絶対値が、所定の正常範囲内に入っていれば触媒前センサ17を正常と判定し、当該正常範囲内に入っていなければ触媒前センサ17を異常と判定する。
触媒前センサ17のゲイン若しくは時定数の場合、例えば特開2009−127594号公報に開示されているように、触媒前センサ17を含む系を少なくとも一次遅れ要素によりモデル化する。そしてこのモデルに対する入力空燃比u(t)および出力空燃比y(t)に基づき、一次遅れ要素におけるゲインkと時定数Tを同定もしくは推定する。同定されたゲインkと時定数Tを対応する正常範囲と比較し、例えば両者が正常範囲内に入っていれば触媒前センサ17を正常と判定し、そうでないときには触媒前センサ17を異常と判定する。この手法では、ゲインkに対応する出力異常と時定数Tに対応する応答性異常とを個別に診断できる。なおむだ時間の異常も診断したいときにはむだ時間要素(G(s)=e-Ls)も含めてモデルを構築すればよい。
さて、本実施形態のような触媒層を有する空燃比センサの場合、これが使用初期状態(以下「慣らし中」ともいう)にあり、且つその出力が所定空燃比を通過するとき、応答性が使用初期状態でない場合(以下「慣らし後」ともいう)に比べて低下することが判明した。
この点を図4を用いて説明する。図4は、入力空燃比を15.4から14.4に切り替えた場合の、慣らし中と慣らし後の触媒前センサ17の出力空燃比の変化の様子を示す。図中円内に示すように、慣らし中のセンサでは、ストイキ付近を通過するとき、慣らし後のセンサよりも応答性が低下しており、またストイキ付近を通過する前後よりも変化速度が一時的に遅くなる所謂息継ぎ現象が発生している。
かかる息継ぎ現象が発生する理由は、慣らし中だと、触媒前センサ17の排気電極63と触媒層70における反応がストイキ付近で低下するためと考えられる。特に、触媒層70の酸素吸蔵能の影響が大きいと考えられる。すなわち、リーン空燃比、すなわち触媒層70が酸素を吸蔵している状態から、リッチ空燃比、すなわち触媒層70が酸素を放出する状態に切り替えられるとき、ストイキ付近で酸素放出の反応速度が遅くなるためと考えられる。このため、かかる息継ぎ現象は、空燃比をリッチからリーンに切り替えたときよりも、空燃比をリーンからリッチに切り替えたときの方が、顕著に発生する傾向にある。
こうした応答性低下を考慮しないと、十分な診断精度を確保することが困難となり、また正常なセンサを、応答性が悪化した異常なセンサであると誤診断する虞がある。
そこで本実施形態では、この対策として、触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かを判定し、使用初期状態にあると判定したとき、センサ素子60の温度(以下「素子温」ともいう)を所定の基準温度よりも昇温させることとしている。
素子温を昇温させると、排気電極63と触媒層70における反応がより活発化し、ストイキ付近での応答性低下、すなわち息継ぎ現象を抑制することができる。よって慣らし中の触媒前センサ17についても十分な診断精度を確保し、誤診断を未然に防止することができる。
ここで素子温は、ECU20がヒータ66を制御することにより制御される。ECU20とヒータ66が本発明にいう昇温手段をなす。素子温制御は次のように実行される。
ECU20は、センサ素子60のアドミタンスY(1/Ω)を検出し、このアドミタンスYの値に基づいて素子温を検出する。そして常時、この検出素子温が所定の目標温度付近に維持されるようヒータ66への通電量を制御する。目標温度は前記基準温度とそれよりも高い昇温時温度との二種類があり、通常の素子温制御(通常制御)時には目標温度が基準温度とされ、前記昇温制御時には目標温度が昇温時温度とされる。例えば基準温度は700℃とされ、昇温時温度は750℃とされ、昇温量は50℃とされる。なおアドミタンスYの代わりにインピーダンスZ(Ω)を用いてもよい。
図5には、慣らし中の触媒前センサ17について異常診断する際の素子温制御の例を示す。(A)はアクティブ空燃比制御の入力空燃比u(t)を示す。図示例ではアクティブ空燃比制御が6周期実行されている。
(B)の基本例に示すように、慣らし中の触媒前センサ17の場合、アクティブ空燃比制御の開始時から終了時まで、昇温制御を実行することができる。そしてリーン制御毎およびリッチ制御毎に前述の診断パラメータが算出され、これら算出された診断パラメータに基づき触媒前センサ17の正異常判定がなされる。昇温制御を実行した上で診断パラメータを算出するので、息継ぎ現象の影響を排除した上で診断パラメータを算出することができ、診断精度を向上できる。なお昇温制御の実行時以外は通常制御が実行される。
(C)は変形例を示す。この変形例では、アクティブ空燃比制御の開始時から終了時まで昇温制御を実行しつつ、リーン制御毎およびリッチ制御毎に診断パラメータを算出し、且つ、アクティブ空燃比制御の開始時から所定周期(図示例では2周期)終了時までの診断パラメータ算出データを破棄する。そして残余の算出データ、すなわち3〜6周期内での算出データに基づき触媒前センサ17の正異常判定を行う。
アクティブ空燃比制御の開始と同時に昇温を開始しても、素子温が実際に上昇するまでにある程度の時間を要する。よってアクティブ空燃比制御の開始時から当該時間が経過する前は、まだ息継ぎ現象の影響が残存していると考えられる。
それ故この変形例では、息継ぎ現象の影響が残存している所定周期終了時までは、診断パラメータ算出データを破棄し、当該データを正異常判定の対象から除外する。これによってさらに診断精度の向上が見込まれる。
ここで、データを破棄する周期数は、排気ガス流量、ひいてはその代用値である吸入空気量Ga(g/s)に応じて可変とするのが好ましい。具体的には、吸入空気量Gaが多いほど排気温度が高く、素子温上昇速度が速くなるため、所定周期数を少なくする。さらに具体的には、図6に示すようなマップに従い、ECU20が吸入空気量Gaに対応したデータ破棄周期数を設定する。排気ガス流量または吸入空気量Gaの値については、アクティブ空燃比制御開始時の値とするのが好ましい。
こうすることにより、正異常判定の対象から除外されるデータ数を必要最小限とし、できるだけ多くのデータから正異常判定を行って診断精度を向上することができる。
ここで、空燃比センサの使用初期状態について説明する。エンジンが車両に搭載されている場合、空燃比センサの性能保証期間は例えば車両走行距離で150000mile(240000km)とされる。一方、息継ぎ現象が無くなるには、使用温度条件等によっても変わるが例えば最大で1000kmの走行が必要である。よって息継ぎ現象が無くなるまでの使用初期状態とは、例えば空燃比センサの性能保証期間の最初の約0.4%の期間をいう。
次に、触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かを判定する際の判定方法を説明する。この判定は、まず一つに、触媒前センサ17の慣らし度合いに相関するパラメータに基づいて行うのが好適である。
第1の判定方法は、エンジンが車両に搭載されている場合に、上述の通り、車両の走行距離に基づいて判定を行う方法である。車両の走行距離が長くなるほど、触媒前センサ17の新品時からの慣らし度合いが大きくなる。よって車両の走行距離は、触媒前センサ17の慣らし度合いに相関するパラメータであるといえる。車両の走行距離を当該パラメータとすることにより、単純な方法で、触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かを好適に判定することができる。
第2の判定方法は、触媒前センサ17の温度に応じて変化する温度パラメータの積算値に基づいて判定を行う方法である。温度パラメータについては、触媒前センサ17の温度自体のほか、触媒前センサ17のセンサ素子60のアドミタンスY(1/Ω)を好適に用いることができる。センサ素子60の温度が高くなるほど、センサ素子60のインピーダンスZ(Ω)は低下し、インピーダンスZの逆数であるアドミタンスYは高くなる傾向にある。そこで本実施形態ではセンサ素子60のアドミタンスYに応じたカウント値Cを所定時間毎に積算し、当該積算値が所定値以上に達した時に使用初期状態終了とする。
カウント値Cは、図7に示すような、アドミタンスYとカウント値Cとの関係を予め定めたマップから求められる。図8に示すように、ECU20は、新品のエンジンの最初の運転開始時(すなわちセンサの新品時)τ0から、エンジン運転中、所定時間(例えば1s)毎に、アドミタンスYを検出し、アドミタンスYに対応したカウント値Cをマップから求め、求めたカウント値Cを積算(すなわちSRAMのカウンタをカウントアップ)する。
図7に示すように、アドミタンスYが大きくなるほどカウント値Cも大きくなる。これは、センサ素子温度が高くなるほど大きなカウント値Cが得られることを意味する。こうしてECU20は、センサの新品時から所定時間毎にカウント値Cを積算し、その積算値ΣCが所定値A以上に達した時τ1に使用初期状態終了(すなわち慣らし終了)と判定する。
この第2の判定方法ではカウント値Cが温度パラメータをなす。かかる温度パラメータの積算値に基づいて判定を行うことにより、センサの温度履歴を反映させつつ使用初期状態終了を判定することができる。例えば高温条件下で多くセンサが使用されたならば早期に使用初期状態終了と判定でき、逆に低温条件下で多くセンサが使用されたならば遅い時期に使用初期状態終了と判定でき、実状に即した判定が可能である。従って触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かを、実際の使用状況に即して的確に判定することができる。
なお、図8に示すように、慣らし終了判定前は図5(B)または(C)に示したような昇温制御がアクティブ空燃比制御毎或いは診断毎に実行され、慣らし終了判定後はアクティブ空燃比制御時或いは診断時においても通常制御が実行される。
ところで、素子温昇温を行うと、特に冷間始動直後にあっては、センサ素子割れが発生する可能性が高くなる。またセンサ自体の劣化も促進される。よって素子温昇温を行う時間や頻度はできるだけ少なくしたいという要請がある。
上述のような使用初期状態判定を実施すれば、素子温昇温を実行する機会を使用初期状態である場合に限定することができる。よって、素子温昇温を行う時間や頻度をできるだけ少なくし、センサ素子割れやセンサ劣化に関する上記問題を解消できる。
上述の第1および第2の判定方法のほか、第3および第4の判定方法もあるが、これらについては後に詳しく述べることとする。
図9に、第1または第2の判定方法を用いた異常診断処理の第1実施例に関するルーチンを示す。このルーチンはECU20により所定のサンプリング周期Δ毎に繰り返し実行される。
まずステップS101では、現トリップ中での診断が未完了か否かが判断される。すなわち、本実施形態では1トリップ当たりに1回、診断を実施するようにしており、現トリップ中で診断を1回も完了してなければ判定はイエスとなる。逆に既に診断を1回完了した場合は判定はノーとなる。なおトリップとはエンジンの始動から停止までの期間をいう。代替的に、診断を1トリップ当たりに複数回実施するようにしてもよい。
判定がノーのときはルーチン終了となり、判定がイエスのときはステップS102に進む。ステップS102では、アクティブ空燃比制御の実行条件が成立しているか否かが判断される。
例えば、次の各条件(1)〜(4)が全て成立したとき実行条件成立となる。
例えば、次の各条件(1)〜(4)が全て成立したとき実行条件成立となる。
(1)図示しない水温センサによって検出されたエンジン冷却水温が所定の閾値(例えば75℃)以上。閾値は、エンジンが暖機状態となるような温度のうちの最低温度として設定される。
(2)ECU20によって検出された触媒前センサ17のアドミタンスYが所定の閾値以上。この閾値も、触媒前センサ17が活性状態となるような値のうちの最小値として設定される。
(3)エアフローメータ5によって検出された吸入空気量GaがGa1≦Ga≦Ga2を満たす所定範囲内にあること。例えばGa1=15(g/s)、Ga2=30(g/s)とすることができる。この条件は実質的に、エンジンが定常運転状態にあることと等価である。
(4)ECU20によって推定された上流触媒11の温度TcがTc1≦Tc≦Tc2を満たす所定範囲内にあること。例えばTc1=600(℃)、Tc2=800(℃)とすることができる。この条件は実質的に、上流触媒11が十分な暖機状態にあることと等価である。
判定がノーのときはルーチン終了となり、判定がイエスのときはステップS103に進む。ステップS103では、触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かが、前述の第1および第2の判定方法のいずれかに従って判定される。
使用初期状態にない、すなわち触媒前センサ17が慣らし後であると判定されたときには、ステップS104をスキップしてステップS105に進む。すなわちこのときには通常の素子温制御が実行され、素子温は基準温度(例えば700℃)になるよう制御される。
使用初期状態にない、すなわち触媒前センサ17が慣らし後であると判定されたときには、ステップS104をスキップしてステップS105に進む。すなわちこのときには通常の素子温制御が実行され、素子温は基準温度(例えば700℃)になるよう制御される。
他方、使用初期状態にある、すなわち触媒前センサ17が慣らし中であると判定されたときには、ステップS104において素子温を昇温させる昇温制御が実行され、その後ステップS105に進む。このときには素子温が昇温時温度(例えば750℃)になるよう制御される。
ステップS105では、アクティブ空燃比制御が実行される。
ステップS106では、アクティブ空燃比制御の実行中に、図示しない別ルーチンにおいて、上述の診断パラメータXが算出される。ここでいう診断パラメータXとは、出力空燃比y(t)の軌跡長、面積若しくは単位時間当たりの変化率(傾き)、または触媒前センサ17のゲインk若しくは時定数Tの少なくとも一つである。
ステップS107では、アクティブ空燃比制御の半周期終了毎に、アクティブ空燃比制御の終了周期数Nが所定値N1以上に達したか否かが判断される。所定値N1は例えば5とされる。
N<N1のときはルーチン終了となり、N≧N1のときはステップS108に進む。ステップS108では、最終的に算出された診断パラメータXがX1≦X≦X2を満たす所定の正常範囲内に入っているか否かが判断される。
なお最終的に算出された診断パラメータXとは、例えば、軌跡長、面積若しくは単位時間当たりの変化率(傾き)の場合、半周期終了毎に算出された複数の診断パラメータの平均値をいう。またゲインk若しくは時定数Tの場合、半周期終了毎に更新された診断パラメータの最終的な同定値をいう。
なお最終的に算出された診断パラメータXとは、例えば、軌跡長、面積若しくは単位時間当たりの変化率(傾き)の場合、半周期終了毎に算出された複数の診断パラメータの平均値をいう。またゲインk若しくは時定数Tの場合、半周期終了毎に更新された診断パラメータの最終的な同定値をいう。
診断パラメータXが正常範囲内に入っている場合、ステップS109に進んで触媒前センサ17は正常であると判定される。他方、診断パラメータXが正常範囲内に入っていない場合、ステップS110に進んで触媒前センサ17は異常であると判定される。以上によりルーチン終了となる。
次に、触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かを判定するための第3の判定方法を説明する。この第3の判定方法では、アクティブ空燃比制御の開始時から所定周期内において昇温が非実行とされる。そしてその所定周期内における出力空燃比y(t)の分散値に基づいて、触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かが判定される。
出力空燃比y(t)の分散値Vは次式(1)に従ってECU20により逐次的に求められる。
yavgはM回移動平均、即ち今回(t)から(M−1)回前(t−(M−1))までのデータの平均値である。Mは例えば5などとされる。出力空燃比y(t)の変化が大きいほどその分散値Vは大きくなる。
図10は、診断時における入力空燃比u(t)、出力空燃比y(t)および分散値Vの変化の様子を示す。時刻τ1でアクティブ空燃比制御の最初の1周期目が開始され、その後、時刻τ2で2周期目が、時刻τ3で3周期目が開始されている。1周期目の開始と同時に入力空燃比u(t)はストイキからリーンに切り替えられ、次いで所定時間経過後ないし半周期経過後(時刻τ11)に入力空燃比u(t)はリーンからリッチに切り替えられている。1周期目において素子温の昇温制御は実行されず、通常制御が実行される。
1周期目において、リッチへの切替後、出力空燃比y(t)がストイキ付近を通過する際、応答性が一時的に低下する息継ぎ現象が発生している(図中a参照)。そしてこの発生と同時に分散値Vが立ち上がる。つまり、アクティブ空燃比制御の半周期内において、息継ぎ現象が発生してない場合には出力空燃比y(t)の応答変化開始時にしか分散値のピーク或いは最大値(図中b参照)が見られないのに対し、息継ぎ現象が発生した場合だと、出力空燃比y(t)の応答変化開始時に加え、息継ぎ現象発生時にも分散値のピーク(図中c参照)が見られる。
よってこの特性に鑑み、本実施形態では、1周期目において昇温を非実行とし、且つ、1周期目において入力空燃比u(t)をリーンからリッチに切り替えた場合に、分散値のピークを2回検出したときには触媒前センサ17を使用初期状態にあると判定し、分散値のピークを1回しか検出しないときには触媒前センサ17を使用初期状態にないと判定する。これにより触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かを好適かつ的確に判定することが可能である。
そして使用初期状態にあると判定した場合、図示例の如く、2周期目から直ちに昇温制御を実行し、2周期目以降の診断パラメータXに基づき正異常判定を行う。他方、使用初期状態にないと判定した場合には、2周期目以降も通常制御を継続実施し、2周期目以降の診断パラメータXに基づき正異常判定を行う。
このように、アクティブ空燃比制御の初期に使用初期状態か否かを判定することにより、素子温昇温を必要最小限で実行でき、センサ素子割れやセンサ劣化に関する上記問題を解消できる。
なお図示例では、2周期目に昇温制御を行った結果、息継ぎ現象が抑制され、これに対応する分散値ピークも大幅に低下している。3周期目では素子温上昇に伴いその抑制効果がさらに高まっている。
昇温制御を非実行とし、通常制御を実行する期間は、必ずしも最初の1周期とする必要はなく、例えば最初の複数周期(例えば1周期目から2周期目或いは3周期目まで)とすることも可能である。
図11に、第3の判定方法を用いた異常診断処理の第2実施例に関するルーチンを示す。このルーチンもECU20により所定のサンプリング周期Δ毎に繰り返し実行される。この第2実施例において、前記第1実施例と同様のステップについてはステップ番号を200番台に変更して図示するに止める。以下、相違点を中心に説明する。
この第2実施例は、前記ステップS103がステップS203A,S203Bに変更される点、およびステップS211〜S217が新たに追加される点で、前記第1実施例と相違する。
ステップS203Aでは、アクティブ空燃比制御の終了周期数Nが所定値N2以上か否かが判断される。本実施形態ではN2=1である。N≧N2のときはステップS203Bに進み、N<N2のときはステップS205に進む。
ステップS203Bでは、昇温フラグがオンか否かが判断される。昇温フラグは、触媒前センサ17が使用初期状態にあると判定された場合(ステップS216がイエスの場合)に、昇温制御を実行すべくステップS217でオンされるフラグであり、初期状態はオフである。
昇温フラグがオンであるときにはステップS204で昇温制御が実行され、昇温フラグがオンでないとき(オフであるとき)にはステップS204をスキップしてステップS205に進む。ステップS205ではアクティブ空燃比制御が実行される。
ステップS205の後、ステップS211でアクティブ空燃比制御の終了周期数Nが所定値N2未満か否かが判断される。イエスの場合にはステップS212に進み、ノーの場合にはステップS206に進む。
アクティブ空燃比制御の開始前およびその最初の1周期目にはN=0である。よってステップS203Aはノーとなり、昇温制御非実行の状態で(すなわち通常制御の状態で)アクティブ空燃比制御が実行される。そしてステップS211がイエスであるから、ステップS212〜S217で、1周期目内での分散値ピーク2回検出の判断が行われる。
ステップS212では、リッチ制御中であるか否かが判断される。ノーの場合は終了され、イエスの場合はステップS213に進む。
ステップS213では、図示しない別ルーチンにより分散値Vが逐次的に算出される。そしてステップS214では、図示しない別ルーチンにより、分散値Vのピークを検出する処理が実行される。
次いでステップS215では、リッチ制御が終了したか否か、すなわち入力空燃比u(t)がリッチからリーンに切り替えられたか否かが判断される。ノーの場合は終了され、イエスの場合はステップS216に進む。
ステップS216では、リッチ制御中に分散値ピークが2回検出されたか否かが判断される。ノーの場合は終了され、イエスの場合はステップS217に進んで昇温フラグがオンされ、その後終了される。
アクティブ空燃比制御の2周期目以降はN≧N2である。よってステップS203Aはイエスとなり、昇温フラグのオンオフ状態によって、すなわちセンサ使用初期状態であるか否かによって、昇温制御が実行または非実行とされる。昇温フラグがオンの場合、ステップS204で昇温が実行されつつステップS205でアクティブ空燃比制御が実行される。他方、昇温フラグがオフの場合、ステップS204の昇温が実行されないでステップS205でアクティブ空燃比制御が実行される。
ステップS211でN≧N2の場合、ステップS206以降に進んで実質的な診断処理がなされる。
次に、触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かを判定するための第4の判定方法を説明する。この第4の判定方法では、アクティブ空燃比制御の最初の1周期目で昇温を非実行とし、次の2周期目で昇温を実行する。そして1周期目および2周期目で算出された診断パラメータXに基づいて、触媒前センサ17が使用初期状態にあるか否かを判定する。
1周期目で昇温を非実行とすると、前述したように、センサ使用初期状態であればリッチ制御時に息継ぎ現象が発生し、それに対応した診断パラメータXの値が算出される。他方、センサ使用初期状態でなければリッチ制御時に息継ぎ現象が発生せず、それに対応した診断パラメータXの値が算出される。よって、センサ使用初期状態であるか否かによって異なる診断パラメータXの値が算出される。
他方、2周期目で昇温を実行すると、センサ使用初期状態である場合の息継ぎ現象が抑制され、その結果、センサ使用初期状態であるか否かに拘わらず、ほぼ同じ値の診断パラメータXの値が算出される。
よって、1周期目で算出された診断パラメータXの値と2周期目で算出された診断パラメータXの値とが異なる場合には、センサ使用初期状態であると判断することができ、他方、それらの値がほぼ同じである場合にはセンサ使用初期状態でないと判断することができる。
本実施形態では、1周期目および2周期目で算出された診断パラメータの差ΔX12が所定値X3以上であるとき、センサ使用初期状態であると判定し、そうでないときにはセンサ使用初期状態でないと判定する。
そして、センサ使用初期状態であると判定したとき、3周期目以降に昇温を実行し、その3周期目以降に算出された診断パラメータXに基づいて正異常判定を行う。他方、センサ使用初期状態でないと判定したときには、3周期目以降に昇温を非実行とし(通常制御を行い)、その3周期目以降に算出された診断パラメータXに基づいて正異常判定を行う。
図12に、第4の判定方法を用いた異常診断処理の第3実施例に関するルーチンを示す。このルーチンもECU20により所定のサンプリング周期Δ毎に繰り返し実行される。
この第3実施例のステップS301〜S303A、S304〜S310、S317は、第2実施例のステップS201〜S203A、S204〜S210、S217と同じである。第2実施例のステップS203BはステップS303Cに置き換えられている。第2実施例のステップS211〜S216は削除され、その代わりにステップS318〜S320が加入されている。
ステップS303Cでは、昇温フラグがオン、またはアクティブ空燃比制御の終了周期数Nが1であるか否かが判断される。
ステップS305でアクティブ空燃比制御が実行された後、ステップS306で診断パラメータXが算出される。
ステップS305でアクティブ空燃比制御が実行された後、ステップS306で診断パラメータXが算出される。
その後ステップS318で、現時点がアクティブ空燃比制御の2周期目終了時であるか否かが判断される。
2周期目終了時である場合、ステップS319に進んで、1周期目および2周期目で算出された診断パラメータの差ΔX12が算出される。そしてステップS320で、差ΔX12が所定値X3と比較される。
2周期目終了時である場合、ステップS319に進んで、1周期目および2周期目で算出された診断パラメータの差ΔX12が算出される。そしてステップS320で、差ΔX12が所定値X3と比較される。
差ΔX12が所定値X3以上であるときには、センサ使用初期状態であるとみなして、ステップS317で昇温フラグをオンにし、ルーチンを終える。他方、差ΔX12が所定値X3未満であるときには、センサ使用初期状態でないとみなしてそのままルーチンを終える。これにより昇温フラグはオフに維持される。
他方、ステップS318で2周期目終了時でないと判断された場合、ステップS307に進んで実質的な診断処理がなされる。
これによると、アクティブ空燃比制御の開始前およびその最初の1周期目にはN=0である。よってステップS303Aはノーとなり、昇温制御非実行の状態で(すなわち通常制御の状態で)アクティブ空燃比制御が実行され、診断パラメータXが算出される(ステップS305,S306)。この時点では未だ2周期目終了時でないので、ステップS318からステップS307に進む。N<N1なのでそのままルーチンが終了される。
アクティブ空燃比制御の2周期目に入ると、N=1であり、ステップS303A、S303Cはイエスとなり、昇温制御が実行される(ステップS304)。そしてこの状態でアクティブ空燃比制御が実行され、診断パラメータXが算出される(ステップS305,S306)。この時点でも未だ2周期目終了時でないので、ステップS318からステップS307に進み、N<N1なのでそのままルーチンが終了される。
アクティブ空燃比制御の2周期目が終了した時点では、N=2であり、ステップS303Aはイエス、S303Cはノーである。その後ステップS318がイエスであるから、ステップS319に進み、1周期目および2周期目で算出された診断パラメータの差ΔX12が算出される。そしてステップS320で差ΔX12が所定値X3と比較され、ΔX12≧X3ならステップS317で昇温フラグがオンとされ、ΔX12<X3なら昇温フラグがオフとされる。
2周期目終了時点の後(3周期目開始後)には、N≧2であり、ステップS303Aはイエスである。S303Cは、昇温フラグのオンオフ状態によって結果が異なり、昇温フラグオンなら昇温実行(ステップS304)、昇温フラグオフなら昇温非実行(ステップS304をスキップ)とされる。この状態で、アクティブ空燃比制御が実行され(ステップS305)、診断パラメータXが算出され(ステップS306)、ステップS318からステップS307に進む。あとは3周期目以降で算出された診断パラメータXに基づき、正異常判定が行われることとなる(ステップS307〜S310)。
以上、本発明の好適実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば内燃機関の用途、形式等は任意であり、車両用に限定されない。上記の各数値も一例であり、適宜変更可能である。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
1 内燃機関
3 燃焼室
5 エアフローメータ
6 排気管
7 点火プラグ
11 上流触媒
12 インジェクタ
14 クランク角センサ
15 アクセル開度センサ
17 触媒前センサ
18 触媒後センサ
19 下流触媒
20 電子制御ユニット(ECU)
60 センサ素子
70 触媒層
A/F 空燃比
u(t) 入力空燃比
y(t) 出力空燃比
X 診断パラメータ
Y アドミタンス
V 分散値
3 燃焼室
5 エアフローメータ
6 排気管
7 点火プラグ
11 上流触媒
12 インジェクタ
14 クランク角センサ
15 アクセル開度センサ
17 触媒前センサ
18 触媒後センサ
19 下流触媒
20 電子制御ユニット(ECU)
60 センサ素子
70 触媒層
A/F 空燃比
u(t) 入力空燃比
y(t) 出力空燃比
X 診断パラメータ
Y アドミタンス
V 分散値
Claims (10)
- 内燃機関の排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサであり、触媒層を有するセンサ素子を備えた空燃比センサの異常診断装置であって、
前記空燃比センサに供給される排気ガスの空燃比を所定の中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行するアクティブ空燃比制御手段と、
前記アクティブ空燃比制御の実行中に、前記空燃比センサの異常度合いに相関する診断パラメータを算出する算出手段と、
算出された前記診断パラメータに基づいて前記空燃比センサが正常か異常かを判定する判定手段と、
前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する状態判定手段と、
前記状態判定手段により前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定されたとき、前記センサ素子の温度を所定の基準温度よりも昇温させる昇温手段と、
を備えることを特徴とする空燃比センサの異常診断装置。 - 前記状態判定手段は、前記空燃比センサの慣らし度合いに相関するパラメータに基づいて、前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の空燃比センサの異常診断装置。 - 前記パラメータが、前記空燃比センサの温度に応じて変化する温度パラメータの積算値からなる
ことを特徴とする請求項2に記載の空燃比センサの異常診断装置。 - 前記昇温手段は、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定されたとき、前記アクティブ空燃比制御の開始時から終了時まで前記昇温を実行し、
前記算出手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から終了時まで、リーン制御毎およびリッチ制御毎に前記診断パラメータを算出し、
前記判定手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から所定周期終了時までの前記診断パラメータの算出データを破棄すると共に、残余の算出データに基づき前記空燃比センサが正常か異常かを判定し、且つ、前記所定周期数を吸入空気量に応じて設定する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の空燃比センサの異常診断装置。 - 前記昇温手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から所定周期内において昇温を非実行とし、
前記状態判定手段は、前記所定周期内における前記空燃比センサの出力の分散値に基づいて、前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の空燃比センサの異常診断装置。 - 前記状態判定手段は、前記所定周期内において空燃比がリーンからリッチに切り替えられた場合に1より多い前記分散値のピークを検出したとき、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定する
ことを特徴とする請求項5に記載の空燃比センサの異常診断装置。 - 前記昇温手段は、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定されたとき、前記所定周期経過後に昇温を実行する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の空燃比センサの異常診断装置。 - 前記昇温手段は、前記アクティブ空燃比制御の開始時から1周期目には昇温を非実行とし、2周期目には昇温を実行し、
前記状態判定手段は、前記1周期目および2周期目で算出された前記診断パラメータに基づいて、前記空燃比センサが使用初期状態にあるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の空燃比センサの異常診断装置。 - 前記状態判定手段は、前記1周期目および2周期目で算出された前記診断パラメータの差が所定値以上であるとき、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定する
ことを特徴とする請求項8に記載の空燃比センサの異常診断装置。 - 前記昇温手段は、前記空燃比センサが使用初期状態にあると判定されたとき、前記アクティブ空燃比制御の3周期目以降に昇温を実行する
ことを特徴とする請求項8または9に記載の空燃比センサの異常診断装置。
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2016089819A (ja) * | 2014-10-29 | 2016-05-23 | 現代自動車株式会社Hyundai Motor Company | 酸素センサ制御装置及び方法 |
CN108343525A (zh) * | 2016-12-26 | 2018-07-31 | 丰田自动车株式会社 | 用于内燃机的控制设备和控制方法 |
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- 2010-04-28 JP JP2010103926A patent/JP2011231720A/ja active Pending
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DE102015108515B4 (de) | 2014-10-29 | 2023-03-30 | Hyundai Motor Company | Vorrichtung und Verfahren zum Steuern eines Sauerstoffsensors |
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