JP2011167163A - 水稲収量予測モデル生成方法、及び水稲収量予測方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】圃場にて栽培される水稲の収量予測を現地調査により行うと労力を要し、全国に設置された観測点での気象データによる予測は精度確保が難しく、また、光学リモートセンシングによると天候の影響を受ける。
【解決手段】収量予測式算出部30は、SARを用いて広範囲で得られる生育期前半における標本圃場での後方散乱強度と、現地調査により得られる茎数等の水稲の生育的特徴との相関に基づき収量予測式を生成する。収量算出部34は、収量予測式を用い、生育期前半の対象水稲圃場を撮影したSAR画像により得られる後方散乱強度から水稲の生育的特徴の推定値を求める。水稲の収量構成要素である籾数との間で相関を有する水稲の生育的特徴の推定値から、籾数を予測する。
【選択図】図2
【解決手段】収量予測式算出部30は、SARを用いて広範囲で得られる生育期前半における標本圃場での後方散乱強度と、現地調査により得られる茎数等の水稲の生育的特徴との相関に基づき収量予測式を生成する。収量算出部34は、収量予測式を用い、生育期前半の対象水稲圃場を撮影したSAR画像により得られる後方散乱強度から水稲の生育的特徴の推定値を求める。水稲の収量構成要素である籾数との間で相関を有する水稲の生育的特徴の推定値から、籾数を予測する。
【選択図】図2
Description
本発明は、圃場にて栽培される水稲の収量を、飛翔体に搭載した合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)の観測結果を利用して予測する技術に関し、特に、当該予測に用いる予測モデルの生成方法、及び当該予測モデルを用いた収量予測方法に関する。
従来、水稲の収量の推定・予測は、標本圃場への水稲の作付けを現地調査することにより行われてきた。しかし、例えば、日本では標本圃場は約4万ヶ所に上り、全国レベル、都道府県レベル等の広範囲の水稲作況調査を地上から人手による実測で行うことは労力や時間を要する。
そこで、一部の地域では、気象庁の地域気象観測システム(通称、アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System))により取得した気象データや人工衛星・航空機から取得した光学リモートセンシングデータをもとに収量予測を行う手法が用いられるようになっている。
桑田賢太郎 他、「衛星で推定した光合成有効放射量の水稲収量予測への有用性」、第18回生研フォーラム「広域の環境・災害リスク情報の収集と利用フォーラム」、[online][平成22年2月1日検索]インターネット〈URL:http://www.chikatsu-lab.g.dendai.ac.jp/s_forum/pdf/2009/20090117.pdf)
「衛星データとアメダスデータを入力に用いる水稲の収量予測モデル」、[online][平成22年2月1日検索]インターネット〈URL:http://www.naro.affrc.go.jp/top/seika/2003/common/com03011.html)
アメダスの観測点は全国約1300ヶ所に存在するが、その数や配置は、任意の圃場の近くに観測点が存在することを保証するものではなく、圃場での気象状況を正確に把握するのに十分とは言えない。そのため気象データに基づく収量予測は精度を十分に確保できない可能性があるという問題があった。
一方、光学リモートセンシングは雲が存在すると観測ができない等、天候の影響を受け易い。そのため、必ずしも収量予測に好適なタイミングで観測データを取得できるとは限らず、精度の高い安定した観測が難しいという問題があった。
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、広範囲の地域における水稲圃場の収量予測を生育期前半に少ない労力で高精度に行うことを可能とする水稲収量予測モデルの生成方法、及び水稲収量の予測方法を提供することを目的とする。
本発明に係る水稲収量予測モデル生成方法は、圃場にて栽培される水稲の収量の予測に用いる予測モデルを生成する方法であって、飛翔体に搭載した合成開口レーダにより標本圃場に関する後方散乱強度である標本散乱強度を測定する標本散乱強度測定ステップと、前記標本散乱強度の測定と同時期に、前記水稲の穂数又は籾数と相関を有する注目生育指標を表す標本生育値を測定する標本生育値測定ステップと、前記標本散乱強度と前記標本生育値との相関に基づき、前記予測モデルとして、前記後方散乱強度の測定値から前記注目生育指標の推定値を算出する関係式を求めるステップと、を有し、前記注目生育指標が、前記水稲の茎数、草丈、草高又は植被率で構成される。
本発明の好適な態様においては、前記標本散乱強度測定ステップ及び前記標本生育値測定ステップは、前記標本圃場の前記水稲の最高分げつ期に行われる。また、本発明の他の好適な態様における前記注目生育指標は前記水稲の茎数である。
本発明に係る水稲収量予測方法は、上記本発明に係る水稲収量予測モデル生成方法により得られた前記関係式を用いて、圃場における水稲の収量を予測する方法であって、前記圃場に関し前記合成開口レーダにより前記後方散乱強度を測定する圃場観測ステップと、前記圃場観測ステップにて測定された前記後方散乱強度から前記関係式に基づいて前記注目生育指標の値を推定する生育指標値推定ステップと、を有する。
本発明の好適な態様においては、前記圃場観測ステップは、前記圃場の前記水稲の最高分げつ期に行われる。本発明の他の好適な態様においては、前記生育指標値推定ステップは、前記合成開口レーダの画像の各画素における前記後方散乱強度から前記関係式に基づいて前記注目生育指標の値を推定し、当該指標値を前記圃場内において集計する。
本発明によれば、広範囲の地域における水稲圃場の収量予測を生育期前半に少ない労力で高精度に行うことが可能となる。
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態である水稲収量予測システム2の概略の構成を示すブロック図である。本システムは、SARにより撮影された観測対象領域のレーダ画像(SAR画像)を利用して、水稲の収量の予測モデルを生成し、また当該予測モデルに基づき、SAR画像から圃場における水稲の収量を予測する。本システムは、演算処理装置4、記憶装置6、入力装置8及び出力装置10を含んで構成される。演算処理装置4として、本システムの処理を行う専用のハードウェアを作ることも可能であるが、本実施形態では演算処理装置4は、コンピュータ及び、当該コンピュータ上で実行されるプログラムを用いて構築される。
演算処理装置4は、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)からなり、例えば、収量予測式算出手段12、収量算出手段14として機能し、さらに図2を用いて後述する各種機能の主要部分を実現する。
記憶装置6は、演算処理装置4を上記各手段12,14などとして機能させるためのプログラム及びその他のプログラムや、本システムの処理に必要な各種データを記憶する。例えば、記憶装置6は、収量予測式の生成に用いるSAR画像や現地調査データ、水稲圃場の各一筆を決定する圃場枠や地形などの地図データ、生成した収量予測式、収量算出対象とするSAR画像などを保持するために利用される。
入力装置8は、キーボード、マウスなどであり、ユーザが本システムへの操作を行うために用いる。
出力装置10は、ディスプレイ、プリンタなどであり、本システムにより得られる水稲収量の予測結果を画面表示、印刷等によりユーザに示す等に用いられる。また、本システム以外の装置等にデータ出力してもよい。
本実施形態では、一例としてSAR衛星であるTerraSAR−XによるXバンド(波長3.1cm)での撮影データに基づくSAR画像を用いる。撮影データは送信及び受信を共に水平偏波で行うHHモードにより取得したものと、送信及び受信を共に垂直偏波で行うVVモードにより取得したものとを用いた。TerraSAR−Xの撮影モードを高分解能スポットライトとした場合には、10km×5kmの領域を最高で1mの地上分解能で撮影したデータが取得される。TerraSAR−Xは同一の撮影条件で同一領域を11日周期で撮影可能である。
TerraSAR−XによるSAR画像は、Xバンドのマイクロ波を地上に照射し、その後方散乱波を観測することにより得られるものであり、後方散乱波の強度に応じた画素値を有する。例えば、次式で表される後方散乱係数σ0が各画素について算出される。
σ0[dB]=10log10(k・|DN|2・sinθ) ・・・(1)
σ0[dB]=10log10(k・|DN|2・sinθ) ・・・(1)
ここで、σ0は入射角を考慮した後方散乱係数で、kはキャリブレーション及びプロセッサスケーリングの係数であり、DNは振幅画像の画素値である。θは各画素における地域ごとの入射角である。
図2は本システムの機能ブロック図である。インターフェース(I/F)部20は、撮影されたSAR画像を本システムに取り込む機能を有する。ユーザは水稲の栽培ごよみや衛星の撮影周期をもとにSAR画像の撮影時期を設定し、設定された撮影時期における観測対象領域のSAR画像が衛星により撮影される。撮影時期は複数設定される場合もある。本システムはこのように撮影されたSAR画像を取り込む。
取り込まれた一時期又は時系列のSAR画像はSAR画像保持部22に保存される。例えば、記憶装置6がSAR画像保持部として用いられる。位置合わせ処理部24は、SAR画像を地図に重ね合わせることができるように、地形図や緯度経度が明確な基準地点(道路交差点、建物等)などの地図データ26をもとにSAR画像に幾何(位置)的な補正処理を行う。この結果、SAR画像上の画素と、後述する圃場枠で区画された圃場領域との対応を取ることができる。
SAR画像ノイズ処理部28はSAR画像のノイズを処理する。例えば、SAR画像ノイズ処理部28は、位置合わせ処理後のSAR画像に対してフィルタ処理を行い、SAR画像からスペックルノイズ等のノイズを除去する。例えば、フィルタ処理として、メディアンフィルタ、FrostフィルタやLeeフィルタ等が用いられ、これらはSAR画像のノイズの性状に応じて選択される。なお、位置合わせ処理部24及びSAR画像ノイズ処理部28の処理順序は逆でも構わない。
収量予測式算出部30はノイズの除去処理がされたSAR画像と、現地調査データ32とを用いて収量予測式を生成する。具体的には、収量予測式算出部30は、SAR画像から標本圃場の後方散乱強度(標本散乱強度)を取得し、現地調査データ32から標本圃場における水稲の生長状態(注目生育指標)を表す標本生育値を取得し、それらの相関に基づき、水稲の収量の予測モデルとして、後方散乱強度の測定値から注目生育指標の推定値を算出する関係式(収量予測式)を求める。この収量予測式の生成処理についてはさらに後述する。
収量算出部34はノイズ除去されたSAR画像をSAR画像ノイズ処理部28から入力され、また、圃場枠決定部36から圃場枠のデータを入力される。収量算出部34は、圃場枠をSAR画像に重ね合わせて、圃場ごとに当該圃場枠内のSAR画像を抽出し、当該圃場での後方散乱強度を求める。そして、収量予測式を利用して、各圃場における後方散乱強度から当該圃場における水稲の収量の予測値を算出する。この収量予測処理についてはさらに後述する。
圃場枠決定部36は、観測対象領域における作付けの単位となる圃場の位置を決定する機能を有し、各圃場の範囲を表す圃場枠のデータを生成する。例えば、圃場枠決定部36は、航空写真や国土地理院発行の数値地図等に基づいて圃場枠を抽出する。当該抽出処理は、ユーザによるデジタイザ等の入力装置8の操作により行うようにしてもよいし、画像認識等の自動的な処理で行うようにしてもよい。また、圃場枠は本システムで抽出せずに、予め抽出された圃場枠のデータを外部から入力してもよい。
収量判定部38は、例えば、圃場ごとに予測された収量を複数の階級に分類したり、各種の解析処理等を必要に応じて行う。
予測された収量や解析結果は出力部40により、例えば、水稲収量予測分布図や一覧表などの形式にまとめられる。また、当該分布図や一覧表などは出力装置10によりユーザに提示することができる。
次に収量予測式の生成処理についてさらに詳しく説明する。収量予測式算出部30が、標本圃場の後方散乱強度(標本散乱強度)と、標本圃場における水稲の生長状態(注目生育指標)を表す標本生育値とに基づいて収量予測式を生成することは既に述べた。圃場にて栽培される水稲の収量の予測モデルを生成する本発明に係る方法は、SAR画像の撮影により標本散乱強度を測定するステップ(標本乱強度測定ステップ)と、当該SAR画像の撮影と同時期に標本生育値を測定するステップ(標本生育値測定ステップ)と、標本散乱強度と標本生育値との相関に基づき、予測モデルとして収量予測式を求めるステップ(収量予測式算出ステップ)とを有する。
ここで注目生育指標として、生育期前半の生長状態(水稲の生育的特徴)のうち水稲の収量構成要素である穂数又は籾数と相関を有するものを選択すれば、注目生育指標の推定値から水稲の穂数や籾数を介して水稲の収量を生育期前半の段階で予想することが可能となる。さて、水稲の穂数や籾数と相関を有する生育的特徴の全てが後方散乱強度と相関を有するわけではない。この点について実測データに基づいて解析を行ったところ、水稲の茎数、草丈、草高又は植被率が水稲の穂数又は籾数と正の相関を有し、かつ後方散乱強度とも正の相関を有することが分かった。
また、水稲の茎数、草丈、草高又は植被率と後方散乱強度との相関は水稲の成長過程のうち分げつ期において高く、特に最高分げつ期において高くなることが分かった。さらに、SAR画像撮影におけるマイクロ波の入射角に対する依存性もあることがわかった。
なお、草高は水稲の地面からの高さ、草丈は水稲の根元から茎及び先端枝葉までの長さであり、水稲では茎は必ずしも真上に伸びないため両者は一致しないものの、容易に想像できるように両者の間には強い正の相関がある。植被率は所定面積の領域において植物が地表を覆う比率であり、例えば、デジタルカメラ等で水稲群落上方(1.5m程度以上)から鉛直下方にむけて水田面を撮影し、その画像にて水稲が映る領域、すなわち水稲が地表を隠す領域の面積の割合から求められる。
上述の知見の拠り所となる、実測データに基づく解析の具体的な内容について以下説明する。測定は、植え付けられた品種が様々である複数の圃場を標本として、5月の移植後から8月の出穂期を含む期間にて複数回にわたって行った。測定期間をここでは前期(DOY(Day of Year)150〜172)、前期(DOY172〜194)、中期(DOY194〜238)、後期(DOY238〜)に区分する。ここで、前期(DOY150〜172)及び前期(DOY172〜194)は分げつ期に、中期(DOY194〜238)が幼穂発育期に、後期(DOY238〜)が登熟期に相当する。前期(DOY150〜172)にはまだ湛水面が大きく現れ、後方散乱強度は水面の影響を大きく受ける。前期(DOY172〜194)は最高分げつ期を含み、この期間のSAR画像の後方散乱強度には生長した水稲の影響が好適に現れる。後期(DOY238〜)になると、水稲は出穂し、さらに生長すると倒伏が起こりうる。SAR画像は、入射角が49.8度の場合と21.8度の場合との2通りで、HH偏波、VV偏波について撮影した。
図3から図6は、5月11日に移植した7つの圃場を現地調査した生育値の相関を示すグラフであり、前期(DOY172〜194)における測定データをプロットし、さらにそれらに対する回帰分析により求めた回帰式を表す直線(回帰直線)を図示している。図3から図6それぞれの縦軸は(粒/m2)を単位とする籾数である。
図3は穂数と籾数との関係を示しており、横軸が(本/株)を単位とする穂数である。回帰式の決定係数R2は0.7188である。相関係数Rは0.8以上となり、穂数と籾数との間には強い正の相関が存在する。
図4は茎数と籾数との関係を示しており、横軸が(本/m2)を単位とする茎数である。回帰式の決定係数R2は0.9155であり、相関係数Rは0.9以上であり、茎数と籾数との間には極めて強い正の相関が存在する。
図5は草丈と籾数との関係を示しており、横軸がcmを単位とする草丈である。この場合の決定係数R2は低い。これは、ここでは測定データとして上述のように様々な品種が混在した場合を示しており、その品種間での相違が草丈、籾数に影響しているためと考えられる。この点、同一の品種についての分析を行ったところ、回帰式の決定係数R2は0.6412、相関係数Rは0.80と、草丈と籾数との間にも強い相関が認められた。また、このことは、上述の草丈と草高との相関から、草高と籾数との間にも強い正の相関が存在することを意味する。
図6は植被率と籾数との関係を示しており、横軸が%を単位とする植被率である。回帰式の決定係数R2は0.7128である。相関係数Rは0.8以上であり植被率と籾数との間には強い相関が存在する。
表1、表2は、後方散乱強度と生育値との回帰分析で求めた相関係数Rの一覧である。表1、表2には、前期(DOY172〜194)、中期(DOY194〜238)、後期(DOY238〜)それぞれと、それら全体の期間とについて、HH偏波、VV偏波の後方散乱強度と茎数、草丈及び植被率との間での相関係数Rが示されている。表1は入射角49.8度の場合の結果を示しており、表2は入射角21.8度の場合の結果を示している。
この分析結果は、いずれの入射角でも最高分げつ期に対応する前期(DOY172〜194)にて後方散乱強度と各生育値との相関係数Rは0.8以上となり、強い正の相関があることを示している。また、前期・中期・後期の全体でも相関が存在し得ることを示している。例えば、入射角49.8度の場合の草丈及び植被率についてはHH偏波及びVV偏波に対する相関係数Rは0.7以上、茎数とHH偏波との相関係数は0.5以上となり、いずれもやや強い正の相関を示している。
次に入射角への依存性に着目すると、前期(DOY172〜194)の茎数について、入射角49.8度の場合の方が21.8度の場合よりも強い相関を示すという結果が得られた。これは、定性的には水稲の真上からマイクロ波を照射するよりも横方向から照射する方が後方散乱強度に茎数の影響が大きく現れるということであり、感覚的には、真上から水稲を見た場合よりも横方向から見た場合の方が茎数を把握し易いのと同様であると解することができる。
図7、図8は入射角49.8度についての表1にて特に高い相関係数Rが得られた条件での後方散乱強度と生育値との相関を示すグラフであり、図7は、前期(DOY172〜194)のHH偏波での後方散乱強度(横軸)と茎数(縦軸)との関係を示し、図8は、前期(DOY172〜194)のVV偏波での後方散乱強度(横軸)と草丈(縦軸)との関係を示している。
図9、図10は入射角21.8度の場合において図7、図8に対応する条件での後方散乱強度と生育値との相関を示すグラフであり、図9は、前期(DOY172〜194)のHH偏波での後方散乱強度(横軸)と茎数(縦軸)との関係を示し、図10は、前期(DOY172〜194)のVV偏波での後方散乱強度(横軸)と草丈(縦軸)との関係を示している。
図11は、上述の各種変数間の相関関係をまとめた説明図である。図11には、SARにより取得される各偏波方向(HH偏波、VV偏波)の後方散乱強度と、生育期前半に実測可能な生育的特徴のうち茎数、植被率、草丈(又は草高)と、収量と直接的に関係するものの生育期後半にならなければ実測できない籾数や穂数といった収量構成要素との間の関係が示されている。図11において項目間の線は正の相関の有無を示し、実線の太さは相関係数Rに応じて3段階に変えており、太い方からR≧0.9の場合、0.9>R≧0.8の場合、0.8>R≧0.7の場合を表している。なお、草丈と穂数、籾数との間の点線は品種ごとであれば相関が認められることを表している。
例えば、前期(DOY172〜194)にて、各偏波方向(HH偏波、VV偏波)の後方散乱強度は、茎数、植被率、草丈(又は草高)と正の相関を有し、当該相関は水稲の品種に依存しない。また、茎数及び植被率は籾数や穂数と正の相関を有し、当該相関も水稲の品種に依存しない。すなわち、後方散乱強度から茎数又は植被率を推定する収量予測式は、各圃場にどのような品種が植え付けされているかの情報を要さずに収量を予測するのに利用可能であり、茎数及び植被率はこの点で、SAR画像を用いて複数の圃場を対象とした広範囲な収量予測を行う収量予測式の変数として好適である。なお、各圃場に植え付けられた品種の情報を利用すれば、後方散乱強度から草丈又は草高を推定する収量予測式によっても収量を予測可能である。
生育期前半に実測可能な生育的特徴のうち茎数は、図4の説明で述べたように、籾数との相関係数が、植被率等の他の生育的特徴と籾数との相関係数より大きい。また、茎数は今回測定した2種類の入射角のいずれでも、また2種類の偏波モードのいずれでも後方散乱強度と非常に強い相関を有する。これらの点で、収量予測式を生成して後方散乱強度から推定値を求める生育的特徴として、茎数は特に好適である。
後方散乱強度の測定値から茎数の推定値を算出する収量予測式を生成する例を具体的に説明する。例えば、最高分げつ期内の複数の時期にて、標本圃場が存在する観測対象領域のHH偏波及びVV偏波のSAR画像を撮影する。また、その撮影と同時期(撮影と同日又は近い日)に標本圃場を現地調査して茎数を測定し標本圃場ごとの茎数の平均値を求める。SAR画像及び茎数の現地調査データは、水稲収量予測システム2に入力される。水稲収量予測システム2の収量予測式算出部30は、例えば、SAR画像における各標本圃場に対応する画素ごとに、HH偏波の後方散乱強度σHHとVV偏波の後方散乱強度σVVを求め、これらの平均値を独立変数とし、茎数ξを従属変数として重回帰分析を行い、次式で表される収量予測式におけるσHHの比例係数α、σVVの比例係数β、及び切片γを決定する。
ξ=α・σHH+β・σVV+γ ・・・(2)
ξ=α・σHH+β・σVV+γ ・・・(2)
このようにして収量予測式が決定され、α、β、γは記憶装置6に格納され、収量算出部34での収量予測処理に用いられる。なお、収量予測式は水稲の生育的特徴を捉えた式なので、水稲の生育的特徴に大幅な違いがなければ、基本的には例えば、毎年、標本圃場を対象としてSAR画像撮影や現地調査を行って生成する必要はなく、一度生成した収量予測式は異なる年の収量予測に繰り返して使用することが可能である。また、収量予測式は広範囲の標本圃場のSAR画像や現地調査データに基づいて生成されるので、基本的には場所依存性は小さく、その生成の際に用いた観測対象領域以外の領域での収量予測に適用しても良好な精度を期待できる。
次に、上述のように生成された収量予測式を用いた収量予測処理について説明する。収量の予測対象領域のHH偏波及びVV偏波のSAR画像を撮影し、水稲収量予測システム2に入力する。上述のように茎数と後方散乱強度との相関は前期(DOY172〜194)において高くなるので、例えば、SAR画像の撮影は最高分げつ期の辺りで行うことが好適である。
収量算出部34は、圃場枠データに基づいてSAR画像から圃場内に対応する画素ごとにHH偏波及びVV偏波の後方散乱強度σHH,σVVを抽出し、これら独立変数と記憶装置6に格納されているα,β,γとから(2)式を計算し、当該画素に対応する領域内の茎数の推定値ξを求める。
上述のように茎数は水稲の収量構成要素である籾数と正の相関を有するので、収量の相対的な多寡の判定は茎数の推定値ξに基づいて行うことが可能であるが、籾数や重量で表された収量を求める場合には、茎数の推定値ξをこれらの値に換算する。茎数から籾数や重量への換算式は、それらの間に存在する相関関係から予め求めて記憶装置6に格納しておき、収量算出部34はこれを利用して換算を行う。なお、茎数の推定値ξは、圃場単位で求めた値の集計値とする。例えば、茎数の推定値ξを圃場単位で求めた値の平均値とし、圃場単位の水稲収量予測分布図等にまとめることにより、営農指導を行うユーザのニーズを反映することができる。
上述の説明では、収量予測式は茎数を推定するものを例示したが、上述した植被率、草丈、草高を推定する式を生成することもできる。また、HH偏波の後方散乱強度σHHとVV偏波の後方散乱強度σVVとを独立変数とした重回帰分析ではなく、σHHとσVVとのいずれか一方を用いた単回帰分析による収量予測式を生成し、利用することもできる。
以上説明した本発明の水稲収量予測モデル生成方法、水稲収量予測方法によれば、SAR画像を用い生育期前期にて広範囲の水稲の収量の予測が可能となる。SAR画像は、全天候型であるために、雨や雲に左右されず、水稲圃場を観測し、状況を把握することが可能である。このように天候の影響を受けずに観測が可能であることに加え、広範囲を極めて短時間で観測可能であることから、リアルタイムに水稲圃場の状況を把握でき、さらに生育期前期という早い時点で収量の予測結果を活用可能になるので、適時かつ適切な栽培管理、生産管理の指導が可能となる。また、広範囲の圃場を一括して把握することが可能となる。さらに、農林水産省が実施している現地調査による水稲作況調査が隔測手段で可能となる。
本実施形態では衛星SARを用いる例を説明したが、航空機SARなど他の飛翔体搭載のSARを用いて本発明を実施することもできる。
2 水稲収量予測システム、4 演算処理装置、6 記憶装置、8 入力装置、10 出力装置、12 収量予測式算出手段、14 収量算出手段、20 インターフェース部、22 SAR画像保持部、24 位置合わせ処理部、26 地図データ、28 SAR画像ノイズ処理部、30 収量予測式算出部、32 現地調査データ、34 収量算出部、36 圃場枠決定部、38 収量判定部、40 出力部。
Claims (6)
- 圃場にて栽培される水稲の収量の予測に用いる予測モデルを生成する方法であって、
飛翔体に搭載した合成開口レーダにより標本圃場に関する後方散乱強度である標本散乱強度を測定する標本散乱強度測定ステップと、
前記標本散乱強度の測定と同時期に、前記水稲の穂数又は籾数と相関を有する注目生育指標を表す標本生育値を測定する標本生育値測定ステップと、
前記標本散乱強度と前記標本生育値との相関に基づき、前記予測モデルとして、前記後方散乱強度の測定値から前記注目生育指標の推定値を算出する関係式を求めるステップと、
を有し、
前記注目生育指標は、前記水稲の茎数、草丈、草高又は植被率で構成されること、
を特徴とする水稲収量予測モデル生成方法。 - 請求項1に記載の水稲収量予測モデル生成方法において、
前記標本散乱強度測定ステップ及び前記標本生育値測定ステップは、前記標本圃場の前記水稲の最高分げつ期に行われること、を特徴とする水稲収量予測モデル生成方法。 - 請求項1又は請求項2に記載の水稲収量予測モデル生成方法において、
前記注目生育指標は前記水稲の茎数であること、を特徴とする水稲収量予測モデル生成方法。 - 請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の水稲収量予測モデル生成方法により得られた前記関係式を用いて、圃場における水稲の収量を予測する水稲収量予測方法であって、
前記圃場に関し前記合成開口レーダにより前記後方散乱強度を測定する圃場観測ステップと、
前記圃場観測ステップにて測定された前記後方散乱強度から前記関係式に基づいて前記注目生育指標の値を推定する生育指標値推定ステップと、
を有することを特徴とする水稲収量予測方法。 - 請求項4に記載の水稲収量予測方法において、
前記圃場観測ステップは、前記圃場の前記水稲の最高分げつ期に行われること、を特徴とする水稲収量予測方法。 - 請求項4に記載の水稲収量予測方法において、
前記生育指標値推定ステップは、前記合成開口レーダの画像の各画素における前記後方散乱強度から前記関係式に基づいて前記注目生育指標の値を推定し、当該指標値を前記圃場内において集計すること、を特徴とする水稲収量予測方法。
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