以下にて、図面を参照して、本発明のプラズマディスプレイパネルの製造方法を詳細に説明する。尚、図面に示す各種の要素は、本発明の理解のために模式的に示したにすぎず、寸法比や外観などは実物と異なり得ることに留意されたい。
[プラズマディスプレイパネルの構成]
まず、本発明の製造方法を経ることによって最終的に得られるプラズマディスプレイパネルを簡単に説明する。図3(a)に、PDPの構成を断面斜視図で模式的に示すと共に、図3(b)にPDPの前面板の断面図を模式的に示す。
本発明のPDP(100)の構成は、図3(a)に示すように、「基板A(10)に電極A(11)と誘電体層A(15)と保護層(16)とが設けられた前面板(1)」および「基板B(20)上に電極B(21)と誘電体層B(22)と隔壁(23)と蛍光体層(25)とが設けられた背面板(2)」からなる。
図示するように、前面板(1)では基板A(10)上に電極A(11)が設けられ、電極A(11)を覆うように誘電体層A(15)が基板A(10)上に設けられ、また、誘電体層A(15)上に保護層(16)が設けられている。背面板(2)では基板B(20)上に電極B(21)が設けられ、電極B(21)を覆うように誘電体層B(22)が基板B(20)上に設けられ、誘電体層B(22)上に隔壁(23)および蛍光体層(25)が設けられている。前面板(1)と背面板(2)とは、保護層(16)と蛍光体層(25)とが互いに向き合うように対向配置されている。前面板(1)および背面板(2)の周縁部は、例えば低融点フリットガラス材料などから成る封着部材によって気密封着されている(図示せず)。前面板(1)と背面板(2)との間に形成された放電空間(30)には放電ガス(ヘリウム、ネオンまたはキセノンなど)が例えば20kPa〜80kPa程度の圧力で封入されている。
更に具体的に、本発明のPDP(100)を説明していく。本発明のPDP(100)の前面板(1)は、上述したように、基板A(10)、電極A(11)、誘電体層A(15)および保護層(16)を有して成る。基板A(10)は、透明で絶縁性を有する基板(厚さは例えば約1.0mm以上かつ約3mm以下)である。基板A(10)としては、例えば、フロート法などで製造されたフロートガラス基板を挙げることができる他、ソーダライムガラス基板またはホウケイ酸塩ガラス基板などを挙げることができる。電極A(11)は、基板A(10)上にストライプ状に平行に複数配置されるものであり、例えば、走査電極(12)および維持電極(13)から成る表示電極である。この場合、走査電極(12)および維持電極(13)は、それぞれ「酸化インジウム(ITO)または酸化スズ(SnO2)などから成る透明導電膜である透明電極(12a、13a)」、および、かかる透明電極上に形成された「銀を主成分としたバス電極(12b、13b)」から構成される(図3(b)参照)。透明電極(12a、13a)は、蛍光体層で発生した可視光を透過させる電極として主に機能する一方、バス電極(12b、13b)は、透明電極の長手方向に導電性を付与するための電極として主に機能する。透明電極(12a、13a)の厚さは、好ましくは約50nm〜約500nmである。また、バス電極(12b、13b)の厚さは、好ましくは約1μm以上かつ約20μm以下である。尚、図3(a)に示すように、基板A(10)上にはブラックストライプ(14)(遮光層)もパターン形成され得る。
誘電体層A(15)は、基板A(10)の表面に形成された電極A(11)を覆うように設けられている。かかる誘電体層A(15)は、主としてガラス成分およびビヒクル成分(=バインダ樹脂および有機溶剤を含んだ成分)から成る誘電体原料ペーストを塗布および熱処理して得られるガラス組成から成る膜である。誘電体層A(15)の上には、例えば酸化マグネシウム(MgO)などから成る保護層(16)が形成されている(厚さは例えば約0.5μm以上かつ約1.5μm以下)。保護層(16)は、放電の衝撃(より具体的には「プラズマによるイオン衝撃」)から誘電体層A(15)を守る機能を主に有している。
一方、本発明のPDPの背面板(2)は、上述したように、基板B(20)、電極B(21)、誘電体層B(22)、隔壁(23)および蛍光体層(25)を有して成る。基板B(20)は、透明で絶縁性を有する基板(厚さは例えば約1.0mm以上かつ約3mm以下)であることが好ましく、例えば、フロート法などで製造されたフロートガラス基板を挙げることができる他、ソーダライムガラス基板、ホウケイ酸塩ガラス基板または各種セラミック基板などを挙げることができる。電極B(21)は、基板B(20)上にストライプ状に複数形成される銀を主成分とした電極(厚さは例えば約1μm以上かつ約10μm以下)であり、例えば、アドレス電極(またはデータ電極)である。アドレス電極は、各放電セルを選択的に放電させる機能を主に有している。
誘電体層B(22)は、下地誘電体層と一般に呼ばれるものであり、基板B(20)の表面に形成された電極B(21)を覆うように設けられている。かかる誘電体層B(22)は、主としてガラス成分およびビヒクル成分(=バインダ樹脂および有機溶剤を含んだ成分)から成る誘電体原料ペーストを塗布および熱処理して得られるガラス組成から成る膜である。誘電体層B(22)の厚さは、例えば約5μm以上かつ約50μm以下である。誘電体層B(22)の上には、蛍光体材料を主成分とした蛍光体層(25)が形成されている(厚さは例えば約5μm以上かつ約20μm以下程度)。蛍光体層(25)は、放電によって放射された紫外線を可視光線に変換する機能を主に有している。かかる蛍光体層(25)は、赤色、緑色および青色を発する蛍光体層を構成単位としており、それぞれが隔壁(23)で区切られている。隔壁(23)は、放電空間をアドレス電極(21)毎に区画する目的で、ストライプ状または井桁状に誘電体層B(22)上に形成されている。かかる隔壁(23)は、ガラス成分、ビヒクル成分およびフィラー等を含んで成るペースト原料から形成される。
本発明のPDP(100)では、前面板(1)の表示電極(11)と背面板(2)のアドレス電極(21)とが直交するように、前面板(1)と背面板(2)とが放電空間(30)を挟んで対向して配置されている。このようなPDP(100)では、隔壁(23)によって仕切られ、アドレス電極(21)と表示電極(11)とが交差する放電空間(30)が放電セル(32)として機能することになる。換言すれば、マトリクス状に配列されている放電セルが画像表示領域を構成している。従って、外部駆動回路から表示電極(11)に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電ガスを放電させ、かかる放電によって生じる紫外線によって、各色の蛍光体層を励起させて赤色、緑色および青色の可視光を発生させると、カラー画像表示が実現される。
[PDPの一般的な製造方法]
次に、PDPの一般的な製造方法について簡潔に説明する。特に言及しない限り、本発明に係るPDPは、原則、一般的なPDP製造法に基づいて得ることができる。また、特に言及しない限り、各種構成部材の原材料(原料ペースト)/構成材料なども一般的なPDP製造法で常套的に用いられているものであってよい。
まず、ガラス基板である基板A(10)上に、走査電極(12)と維持電極(13)とから構成される表示電極(11)を形成すると共に遮光層(14)も形成する。走査電極(12)および維持電極(13)のそれぞれの透明電極(12a、13a)とバス電極(12b、13b)とは、露光・現像するフォトリソグラフィ法などを用いてパターニングできる。透明電極(12a、13a)は薄膜プロセスなどを用いて形成でき、バス電極(12b、13b)は銀(Ag)材料を含むペーストを乾燥(100〜200℃程度)および焼成(400〜600℃程度)に付すことによって形成できる。また、遮光層(14)も同様に、黒色顔料を含んだ原料ペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料を含んだ原料をガラス基板の全面に設けた後、露光・現像するフォトリソグラフィ法を用いてパターニングし、焼成することによって形成できる。次いで、走査電極(12)、維持電極(13)および遮光層(14)を覆うように基板A(10)上に、ガラス成分(SiO2、B2O3などから形成される材料)とビヒクル成分とを主成分とした誘電体原料ペーストをダイコート法または印刷法などにより塗布して誘電体ペースト層を形成する。塗布した後、所定の時間放置すると塗布された誘電体ペーストの表面がレベリングされて平坦な表面になる。その後、誘電体ペースト層を焼成すると誘電体層A(15)が形成される。誘電体層A(15)を形成した後、かかる誘電体層A(15)上に保護膜(16)を形成する。保護膜(16)は、一般的には、真空蒸着法、CVD法またはスパッタリング法などを用いて形成できる。
以上の工程により、基板A(10)上に所定の構成部材である電極A(走査電極(12)および維持電極(13))、誘電体層A(15)および保護層(16)が形成され、前面板(1)が完成する。
一方、背面板(2)は次のようにして形成する。まず、ガラス基板である基板B(20)上に、銀(Ag)材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、銀を主成分とした金属膜を全面に形成した後、露光・現像するフォトリソグラフィ法を用いてパターニングする方法などによって前駆体層を形成し、それを所望の温度(例えば約400〜約600℃)で焼成することによりアドレス電極(21)を形成する。この「アドレス電極」は、クロム/銅/クロムの3層薄膜上にフォトレジストを塗布したものをフォトリソグラフィ及びウェットエッチングによりパターニングして形成してもよい。次いで、アドレス電極(21)が形成された基板B(20)上に、下地誘電体層となる誘電体層B(22)を形成する。まず、「ガラス成分(SiO2、B2O3などから形成される材料)およびビヒクル成分などを主成分とした誘電体原料ペースト」をダイコート法などにより塗布して誘電体ペースト層を形成する。そして、かかる誘電体ペースト層を焼成することで誘電体層B(22)を形成できる。次いで、隔壁(23)を形成する。具体的には、誘電体層B(22)上に隔壁形成用原料ペーストを塗布して所定の形状にパターニングすることにより、隔壁材料層を形成し、その後、それを焼成に付して隔壁(23)を形成する。例えば、低融点ガラス材料、ビヒクル成分およびフィラー等を主成分とした原料ペーストをダイコート法または印刷法によって塗布して約100℃〜200℃の乾燥に付した後、露光・現像するフォトリソグラフィ法でパターニングし、次いで、約400℃〜約600℃の焼成に付すことによって隔壁(23)を形成する。尚、隔壁(23)は、サンドブラスト法、エッチング法または成型法などを用いることによっても形成できる。次いで、蛍光体層(25)を形成する。隣接する隔壁(23)間の誘電体層B(22)上および隔壁(23)の側面に蛍光体材料を含む蛍光体原料ペーストを塗布し、焼成することによって蛍光体層(25)を形成する。より具体的には、蛍光体粉末およびビヒクル成分等を主成分とした原料ペーストをダイコート法、印刷法、ディスペンス法またはインクジェット法などによって塗布し、次いで、約100℃の乾燥に付すことによって蛍光体層(25)を形成する。
以上の工程により、基板B(20)上に、所定の構成部材たる電極B(アドレス電極(21))、誘電体層B(22)、隔壁(23)および蛍光体層(25)が形成され、背面板(2)が完成する。
このようにして所定の構成部材を備えた前面板(1)と背面板(2)とは、表示電極(11)とアドレス電極(21)とが直交するように対向配置させる。次いで、前面板(1)と背面板(2)の周囲をガラスフリットで封着すると共に、形成される放電空間(30)に放電ガス(ヘリウム、ネオンまたはキセノンなど)を封入することによってPDP(100)が完成する。
[本発明の製造方法]
本発明は、上述のPDP製造工程の中でも、特に前面板および背面板の形成後からパネル封着までの製造工程に特色を有している。まず、本発明の各工程について説明し、その後、本発明の特徴を説明する。尚、便宜的に、「工程(iv)の加熱処理に先立って前面板と背面板との間の空間にガスを導入し、かかるガス導入前後の圧力差を把握する態様」を主たる態様として説明を行う。
本発明の製造方法では、まず、工程(i)を実施する。即ち、基板A上に電極Aと誘電体層Aと保護層とが形成された前面板を準備すると共に、基板B上に電極Bと誘電体層Bと隔壁と蛍光体層とが形成された背面板を準備する。かかる前面板および背面板の準備は、上述の[PDPの一般的な製造方法]で説明しているので、重複を避けるために説明を省略する。尚、保護層は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムおよび酸化バリウムから選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物からなる金属酸化物から形成することが好ましい。本発明では、かかる金属酸化物は、X線回折分析において特定方位面の前記金属酸化物を構成する前記酸化物の単体より発生する最小回折角と最大回折角との間にピークが存在するものであることが特に好ましい点に留意されたい。このような保護層成分を用いると、パネルの放電開始電圧が低下し、放電遅れが小さくなり放電が安定するからである。尚、かかる金属酸化物は、水、炭酸ガス等の不純物ガスとの反応性が高いので、そのような金属酸化物が保護層成分に用いられていることは、一般的には、保護層が水、二酸化炭素と反応して放電特性の劣化を引き起こしかねないといえる。この点、本発明においては、後述するように好適な清浄化プロセスを行うことができるので、上述のような不都合な反応は回避され、上記金属酸化物を積極的に用いることができる。
後の工程(iv)で行う“ガス清浄化”および/または“圧力差把握のためのガス導入”を前面板もしくは背面板のいずれかに設けられた開口部を介して実施する場合では、基板Aまたは基板Bにガス供給開口部(例えば貫通孔)を形成しておく。かかる場合、前面板または背面板を準備した後に、ドリル加工またはレーザー加工などの適当な方法でガス供給開口部を形成することができる。ガス供給開口部を背面板に設ける場合では、蛍光体のペースト原料を塗布して乾燥させた後に開口部を設けることが好ましい。かかるガス供給開口部は、ガス供給に資するものであれば、どのような形状・形態・サイズであってもかまわない(例えば、円形状のガス供給開口部の場合、直径サイズは1〜20mm程度であってよい)。また、ガス供給開口部の個数は1つに限定されず、場合によっては複数の開口部を形成してよい。かかる場合、図4に示すようなガス供給開口部(29)のピッチLpは、基板サイズなどによって変わり得るものの、例えば50〜500mm程度である。尚、図示するように、複数個のガス供給開口部(29)は、前面板(1)または背面板(2)のエッジの長辺に沿って設けることが好ましい。これにより、工程(iv)で吹き込まれた清浄化ガスが“長辺側”から全体的に流れることになるので、“短辺側”にガス供給開口部を設ける場合と比べて、前面板と背面板との間で形成されるガス流線を短くすることができ、結果的に保護層表面の変質層をより均一性良く除去できる。また、図5に示すように、隔壁は井桁状に形成されており、パネルの長辺方向に沿った隔壁(23a)は短辺方向に沿った隔壁(23b)よりも低くなっている。従って、“長辺側”から清浄化ガスを流し込むと、より効果的に前面板と背面板との間に清浄化ガスを流すことができる。ここで、「複数のガス供給開口部」にいう「複数」とは、2〜16程度の個数を実質的に意味している。
工程(i)に引き続いて、工程(ii)を実施する。即ち、基板Aまたは基板Bの周縁領域にガラスフリット材料を塗布して環状ガラスフリット封着部材を形成する。より具体的には、前面板と背面板とを対向配置させた際に重なり合う領域の周囲にて一続きの環を成すようにガラスフリット封着部材を形成する。このように形成されたガラスフリット封着部材は、後に行う封着工程にて前面板と背面板との周縁をシールするために機能する。尚、上述のガス供給開口部を設ける場合、環状ガラスフリット封着部材がガス供給開口部の外側に位置するようにする。用いられるガラスフリット材料は、一般的なPDPの製造において同様の目的で用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、低融点ガラス材料(例えば酸化鉛−酸化硼素−酸化珪素系、酸化鉛−酸化硼素−酸化珪素−酸化亜鉛系など)から成るガラスフリット材料であってよい。また、塗布し易いようにビヒクル成分などを含んで成るものであってよい。例えば、PbO系、P2O5―SnO系またはBi2O3系の低融点ガラス粉末とフィラーとを均一に混合した封着材料に対して「メチルセルロース、ニトロセルロース等の樹脂」と「α−ターピネオール、酢酸アミル等の溶媒」とを含有するビヒクルを添加して、混合攪拌によりペースト状にしたものをガラスフリット材料として用いることができる。このようなガラスフリット材料は好ましくはペースト形態(常温23℃程度における粘度が50〜200Pa・s程度)を有しており、塗布により環状ガラスフリット封着部材を形成する。しかしながら、ペース形態に限定されず、固形状のガラスフリット材料を配すことによって環状ガラスフリット封着部材を設けてもかまわない。基板Aまたは基板Bの周縁領域に形成された環状ガラスフリット封着部材の厚さは200〜600μm程度(例えば約400μm程度)であり、その幅は3〜10mm程度であることが好ましい。
なお、工程(ii)の封着部材の材質としては、酸化ビスマスや酸化バナジウムを主成分としたフリットであってもよい。この酸化ビスマスを主成分とするフリットとしては、例えば、Bi2O3−B2O3−RO−MO系(ここでRは、Ba、Sr、Ca、Mgのいずれかであり、Mは、Cu、Sb、Feのいずれかである。)のガラス材料に、Al2O3、SiO2、コージライト等酸化物からなるフィラーを加えたものを用いることができる。また、酸化バナジウムを主成分とするフリットとしては、例えば、V2O5−BaO−TeO−WO系のガラス材料に、Al2O3、SiO2、コージライト等酸化物からなるフィラーを加えたものを用いることができる。
工程(ii)に引き続いて、工程(iii)を実施する。つまり、環状ガラスフリット封着部材が基板Aと基板Bとの間に位置するように、前面板と背面板とを相互に対向状態で配置する(例えば図1(a)または(b)参照)。別の表現を用いれば、前面板と背面板とは、保護層と蛍光体層とが互いに向き合うように対向して配置されると共に、表示電極とアドレス電極とが直交するように、前面板と背面板とが実質的に平行に配置される。前面板と背面板とが対向配置されると、図6に示すように、環状ガラスフリット封着部材(86)は、前面板(1)と背面板(2)との間に挟まれた形態で存在することになる。対向配置された前面板(1)および背面板(2)は、以後に動かないようにクリップ(70)などによって保持され得る(図1(a)または(b)参照)。対向配置された前面板と背面板との間の間隔(即ち、ギャップ幅)は、環状ガラスフリット封着部の厚さなどに依存するが、例えば、好ましくは0.1mm〜0.6mmであり、より好ましくは0.3〜0.6mmであり、更に好ましくは0.3mm〜0.5mmである。ちなみに、背面板(2)には隔壁(23)が設けられているが、図6に示すように、封着処理前の状態では隔壁(23)の高さよりも環状ガラスフリット封着部材(86)の高さの方が大きいため、隔壁(23)の頂部は前面板(1)とは接触していない。つまり、パネル内部には隙間があり、その隙間を通るように清浄化ガスが流れることができる。
工程(iii)に引き続いて、工程(iv)を実施する。即ち、封着および/または清浄化のためにパネルを加熱下においた状態で、パネル内部空間へと清浄化ガスを吹き込む。尚、上述したように、清浄化ガスの吹込みは、上述した“ガス供給開口部”を介して行うことができる。
対向配置された前面板および背面板は、加熱炉または封排炉などのチャンバーに投入することによってそれらを加熱下におくことができる。その際、清浄化ガスの吹込みを常温にて開始しつつ、清浄化ガスを吹込みながら「対向配置された前面板および背面板」を炉内で加熱することが好ましい。加熱温度は、少なくとも保護膜と不純物ガス(例えば、水、炭酸ガス等の不純物ガス)との不要な反応を抑制できる限り、または、「保護層表面の変質層を成す不純物(例えば保護層成分に結合しているCO3 2−やOH−など)」が脱離することになる限り特に制限はなく、清浄化の点のみでいえば加熱温度は例えば350〜450℃程度である。
吹き込まれる清浄化ガスは、乾燥ガスであることが好ましく、特に保護層に対して不活性なガスであることが好ましい。例えば、窒素ガスを挙げることができる。また、ヘリウム、アルゴン、ネオンまたはキセノン等の希ガスを用いてもよい。特に、清浄化ガスとして成分に酸素を含まないガスを用いることは、パネル内の残留有機成分が燃焼し、保護層が炭酸化することを防止するうえで望ましい。また、清浄化ガスは、好ましくは乾燥ガスゆえに、少なくとも水蒸気をほとんど含まないガスであることが望まれる。例えば、清浄化ガスの水分濃度は1ppm以下が好ましい。ここでいう「清浄化ガスの水分濃度(ppm)」は、清浄化ガスの全体積(0℃1気圧の標準状態)に占める水分(水蒸気)の体積割合を百万分率で示したものであり、常套の露点計で測定することによって得られる値を指している。窒素ガスは比較的高価であるので、乾燥空気を用いるとコスト的に効率の良いPDP製造法が実現できる。吹き込まれる清浄化ガスの流量は、パネルの大きさ、ガス供給開口部の個数やサイズ、ガラスフリット封着部材の厚さやその頂部凹凸の大きさ等によって最適値は変わってくるものの、概ね0.1SLM〜10SLMの範囲である(SLM:気体の標準状態において1分間に供給したガスの量をリットルで示す単位)。清浄化ガス流量が少なすぎると外部の大気が混入したり、保護層の清浄化が不十分になるおそれがある一方、逆に清浄化ガスの流量が多すぎるとコスト的に不利になり得るだけでなく、前面板と背面板とが変形し得ることになる。
ここで、環状ガラスフリット封着部材の頂部と基板とは接触しているとはいえ、環状ガラスフリット封着部材の頂部は完全な平面ではなく数十〜百μm程度の凹凸が存在している。例えば、背面板に形成された環状ガラスフリット封着部材の頂部と前面板表面との接触界面には、上記凹凸に起因して僅かな隙間が形成されている。従って、ガス供給開口部を介して「前面板と背面板との間の空間」へと吹き込まれた清浄化ガスは、最終的には、環状ガラスフリット封着部材と基板との間の隙間領域(例えば、図4の態様でいえば領域M)から排出され得る。
本発明の製造方法では、清浄化ガスの吹き込みに際して加熱処理を行うので、保護層の清浄化と共に前面板と背面板との封着が行われることになる。より具体的には、対向配置された前面板と背面板との間に清浄化ガスを流しつつ、加熱により環状ガラスフリット封着部材を溶融させて前面板と背面板とを周辺領域で気密接合させる。封着処理の加熱温度は、環状ガラスフリット封着部材が溶融できる温度であれば特に制限はない。即ち、一般的なPDP製造に際して用いられる「封着温度」であってよく、例えば400℃〜500℃程度である(ちなみに、「封着温度」とは、前面板と背面板とが封着部材であるフリットにより密閉される状態となる温度のことを指している)。かかる操作について詳述しておく。清浄化ガスの吹き込みは、常温において開始する。そして、清浄化ガスを吹込みながら「対向配置された前面板および背面板」を炉内で加熱する。ガラスフリットの軟化点を越えると環状ガラスフリット封着部材が軟化・溶融し、徐々に環状ガラスフリット封着部材と前面板との間の隙間(即ち、上述のガラスフリット封着部の頂部に存在する凹凸部)が埋まっていく。軟化後では、環状ガラスフリット封着部材が完全に溶融する温度域(例えばガラスフリットの溶融温度よりも10〜70℃程度高い温度)にて数分〜十数分パネルを保持した後で冷却する。これにより、ガラスフリットが硬化し、前面板と背面板とが確実に封着されることになる。
典型的には、本発明の製造方法では、環状ガラスフリット封着部材の軟化点以下までは前面板と背面板と間に清浄化ガスを流すことになる。ここで、本明細書にいう「軟化点」とは、環状ガラスフリット封着部材のガラスフリットが軟化する温度を指しているが、約380℃〜480℃程度(例えば約430℃)の温度を指している。本発明の製造方法では、前面板と背面板とが封着された後、清浄化ガスの供給を停止する。これにより、パネル内部空間の圧力上昇を防止し、前面板と背面板との変形を防止する。詳述すれば、前面板と背面板との気密封着後においても清浄化ガス吹き込みが続けられた場合では、吹き込まれた清浄化ガスがパネル内部から周囲へと流れ出すことができず、パネル内部に蓄積されてパネル内部の圧力上昇によりパネル変形が生じ得ることになるが、それを回避するために、前面板と背面板との封着後においては清浄化ガスの供給を停止する。
封着後では、パネルを封着処理時よりも若干低温(即ち、ガラスフリットの固化状態が維持される温度であって、ガラスフリットの溶融温度よりも10〜50℃程度低い温度)に保持しながら、前面板と背面板との間を真空排気する。
真空排気操作が完了すると、前面板と背面板との間に放電ガスを封入する(封入圧力は、例えば30Torr〜300Torr程度であってよい)。封入すべき放電ガスとしては、XeとNeの混合ガスを例示できるものの、Xeのみを封入してもよいし、Heを混入させたものであってもよい。このような排気および封入は、“清浄化ガスの吹き込みで使用したガス供給開口部”、即ち、貫通孔を介して行ってよい。つまり、バルブ切り替えによって、清浄化ガスの吹き込みに使用した開口部・貫通孔から真空引きおよび放電ガス注入を行ってよい。放電ガスが注入されることは、放電空間に放電ガスが封入されることを意味し、結果としてPDPが完成することになる。
図7には、背面板(2)に設けられた貫通孔(29)が示されている。かかる「貫通孔」は、対向配置された前面板と背面板との間のガスを排気し、放電ガスを供給することを可能にするものであれば、どのような形状・形態・サイズであってもかまわない(例えば、円形状の貫通孔の場合、直径サイズは1〜20mm程度である)。「貫通孔(29)」およびそれに関連するパーツについて詳述しておく。貫通孔(29)には、図7に示すように、チップ管(55)がフリットリング(56)を介して設けられている。チップ管(55)の端部には、配管(58)の先端部を構成するチャックヘッド(57)が接続されている。チャックヘッド(57)には水冷配管・シール機構(図示せず)が配置されており、チップ管(55)および配管(58)が封着温度にまで昇温された場合においても一体的に密閉構造が維持されるように構成されている。配管(58)にはガス供給装置及び排気装置(図示せず)が接続されているので、貫通孔(29)を介して、前面板と背面板との間のガスを排気できたり、あるいは、かかる空間へと放電ガスを供給できるようになっている。尚、フリットリング(56)は、ガラスフリット材料を固形化させた環状の固形物である。従って、炉内を溶融温度まで昇温した後に降温すると、フリットリング(56)がガラスフリット材料と同様に溶融・固化するので、背面板(2)とチップ管(55)とが相互に接着され得る。
《本発明における保護層》
次に、本発明の特徴部分の1つとなる“保護層”について詳述する。保護層(16)は、図3(b)に示すように、誘電体層(15)上に形成した下地膜(16a)と、下地膜(16a)上に酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子(16b)が複数個凝集させた凝集粒子(16b’)とから構成されていることが好ましい。また、保護層(16)において、下地膜(16a)は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)および酸化バリウム(BaO)から選ばれる金属酸化物により形成されていることが好ましいが、更にいえば、本発明では、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、及び酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物からなる金属酸化物により形成されていることが望ましい。
下地膜(16a)は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、及び酸化バリウム(BaO)の単独材料のペレットや、それらの材料を混合したペレットを用いて薄膜成膜方法によって形成できる。薄膜成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の方法を適用することができる。例えば、スパッタリング法では約1Pa、蒸着法の一例である電子ビーム蒸着法では約0.2Paが実際上取り得る圧力の上限と考えられる。また、下地膜(16a)の成膜時の雰囲気としては、水分付着や不純物の吸着を防止するために外部と遮断された密閉状態で行うことが好ましく、成膜時の雰囲気を調整することにより、所定の電子放出特性を有する金属酸化物よりなる下地膜(16a)を形成することができる。
次に、下地膜(16a)上に付着形成する酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子(16b)の凝集粒子(16b’)について述べる。これらの結晶粒子(16b)は、気相合成法または前駆体焼成法のいずれかで製造することができる。気相合成法では、不活性ガスが満たされた雰囲気下で純度が99.9%以上のマグネシウム金属材料を加熱し、さらに、雰囲気に酸素を少量導入することによって、マグネシウムを直接酸化させることができ、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子(16b)を作製することができる。
一方、前駆体焼成法では、酸化マグネシウム(MgO)の前駆体を約700℃以上の高温で均一に焼成し、これを徐冷して酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子(16b)を得ることができる。前駆体としては、例えば、マグネシウムアルコキシド(Mg(OR)2)、マグネシウムアセチルアセトン(Mg(acac)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硝酸マグネシウム(Mg(NO3) 2)、シュウ酸マグネシウム(MgC2O4)の内のいずれか1種以上の化合物を選ぶことができる。なお選択した化合物によっては、水和物の形態をとり得るが、本発明ではこのような水和物を用いることもできる。上記の化合物は、焼成後に得られる酸化マグネシウム(MgO)の純度が99.95%以上、望ましくは99.98%以上になるように調整する。これらの化合物中に、各種アルカリ金属、B、Si、Fe、Alなどの不純物元素が一定量以上混じっていると、熱処理時に不要な粒子間癒着や焼結を生じ、高結晶性の酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子を得にくいためである。このため、不純物元素を除去するなどにより予め前駆体を調整することが必要となる。
上記いずれかの方法で得られた酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子(16b)を、溶媒に分散させ、その分散液をスプレー法やスクリーン印刷法、スリットコート法、静電塗布法などによって下地膜(16a)の表面に分散散布させる。その後、乾燥・焼成工程を経て溶媒除去を図ることによって、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子(16b)を下地膜(16a)の表面に定着させることができる。
なお、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子(16b)を下地膜(16a)の表面に分散、定着させる方法としては、下地膜(16a)の不純物との反応を抑制する観点から約400℃以下の低温で実施することが望ましい。
更に、本発明の特徴部分の1つとなる“保護層”を詳述していく。本発明の製造方法では、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムおよび酸化バリウムから選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物からなる金属酸化物であって、X線回折分析において、特定方位面の前記金属酸化物を構成する前記酸化物の単体より発生する最小回折角と最大回折角との間にピークが存在する金属酸化物を含んで成る保護層を形成することが好ましいが、特に、保護層の下地膜(16a)をかかる金属酸化物から形成することが好ましい。換言すれば、保護層の下地膜(16a)を、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、及び酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物からなる金属酸化物により形成し、金属酸化物が下地膜(16a)面のX線回折分析において、特定方位面の金属酸化物を構成する酸化物の単体より発生する最小回折角と最大回折角との間にピークが存在するようにする。
図8は、本発明の実施の形態におけるPDPの保護層(16)を構成する下地膜(16a)面におけるX線回折結果を示す図である。また、図8中には、酸化マグネシウム(MgO)単体、酸化カルシウム(CaO)単体、酸化ストロンチウム(SrO)単体、及び酸化バリウム(BaO)単体のX線回折分析の結果も示す。
図8において、横軸はブラッグの回折角(2θ)であり、縦軸はX線回折波の強度である。回折角の単位は1周を360度とする度で示し、強度は任意単位(arbitrary unit)で示している。図中には特定方位面である結晶方位面を括弧付けで示している。図8に示すように、結晶方位面の(111)では、酸化カルシウム(CaO)単体では回折角32.2度、酸化マグネシウム(MgO)単体では回折角36.9度、酸化ストロンチウム単体では回折角30.0度、酸化バリウム単体では回折角27.9度にピークを有していることがわかる。
図8には、下地膜(16a)を構成する単体成分が2成分の場合についてのX線回折結果が示されている。すなわち、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)の単体を用いて形成した下地膜(16a)のX線回折結果をA点、酸化マグネシウム(MgO)と酸化ストロンチウム(SrO)の単体を用いて形成した下地膜(16a)のX線回折結果をB点、さらに、酸化マグネシウム(MgO)と酸化バリウム(BaO)の単体を用いて形成した下地膜(16a)のX線回折結果をC点で示している。
図示するX線回折結果から分かるように、A点は特定方位面としての結晶方位面の(111)において、単体の酸化物の最大回折角となる酸化マグネシウム(MgO)単体の回折角36.9度と、最小回折角となる酸化カルシウム(CaO)単体の回折角32.2度との間である回折角36.1度にピークが存在している。同様に、B点、C点もそれぞれ最大回折角と最小回折角との間の35.7度、35.4度にピークが存在している。
図9に、図8と同様に、下地膜(16a)を構成する単体成分が3成分以上の場合のX線回折結果を示している。すなわち、図9には、単体成分として酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)及び酸化ストロンチウム(SrO)を用いた場合の結果をD点、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)及び酸化バリウム(BaO)を用いた場合の結果をE点、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)及び酸化バリウム(BaO)を用いた場合の結果をF点で示している。
図示するX線回折結果から分かるように、D点は特定方位面としての結晶方位面の(111)において、単体の酸化物の最大回折角となる酸化マグネシウム(MgO)単体の回折角36.9度と、最小回折角となる酸化ストロンチウム(SrO)単体の回折角30.0度との間である回折角33.4度にピークが存在している。同様に、E点、F点もそれぞれ最大回折角と最小回折角との間の32.8度、30.2度にピークが存在している。
このように、本発明におけるPDP保護層の下地膜(16a)では、単体成分として2成分であれ、3成分であれ、下地膜(16a)を構成する金属酸化物のX線回折分析において、特定方位面の金属酸化物を構成する酸化物の単体より発生するピークの最小回折角と最大回折角との間にピークが存在するようにしている。
なお、上記の説明では特定方位面としての結晶方位面として(111)を対象として説明したが、他の結晶方位面を対象とした場合も金属酸化物のピークの位置が上記と同様である。
酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、及び酸化バリウム(BaO)の真空準位からの深さは酸化マグネシウム(MgO)と比較して浅い領域に存在する。そのため、PDPを駆動する場合において、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)のエネルギー準位に存在する電子がキセノン(Xe)イオンの基底状態に遷移する際に、オージェ効果により放出される電子数が、酸化マグネシウム(MgO)のエネルギー準位から遷移する場合と比較して多くなると考えられる。
X線回折分析の結果が、図8及び図9に示す特徴を有する金属酸化物は、そのエネルギー準位もそれらを構成する単体の酸化物の間に存在している。したがって、下地膜(16a)のエネルギー準位も単体の酸化物の間に存在し、オージェ効果により他の電子が獲得するエネルギー量が真空準位を超えて放出されるに十分な量とすることができる。
結果的に、下地膜(16a)では、酸化マグネシウム(MgO)単体と比較して、良好な二次電子放出特性を発揮することができ、それゆえ、放電維持電圧を低減することができる。つまり、特に輝度を高めるために放電ガスとしてのキセノン(Xe)分圧を高めた場合に、放電電圧を低減し、低電圧でなおかつ高輝度のPDPを実現することが可能となる。
ここで、本発明の製造方法で得られるPDPにおいて、下地膜(16a)の構成を変えた場合のPDPの放電維持電圧について説明する。まず、本発明によるサンプルとして、サンプルA(下地膜が酸化マグネシウムと酸化カルシウムによる金属酸化物)、サンプルB(下地膜が酸化マグネシウムと酸化ストロンチウムによる金属酸化物)、サンプルC(下地膜が酸化マグネシウムと酸化バリウムによる金属酸化物)、サンプルD(下地膜が酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化ストロンチウムによる金属酸化物)、サンプルE(下地膜が酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化バリウムによる金属酸化物)を準備し、また比較例として、下地膜を酸化マグネシウム単体で構成したものを準備した。
そして、これらのサンプルA〜Eについて、放電維持電圧を測定すると、比較例を100とした場合、サンプルAは90、サンプルBは87、サンプルCは85、サンプルDは81、サンプルEは82の値を示した。
放電ガスのキセノン(Xe)の分圧を10%から15%へと高めた場合には輝度が約30%上昇するが、下地膜(16a)が酸化マグネシウム(MgO)単体の場合の比較例では、放電維持電圧が約10%上昇する。一方、本発明の製造方法で得られるPDPでは、サンプルA、サンプルB、サンプルC、サンプルD、サンプルEともに、放電維持電圧を比較例に比較して約10%〜20%低減することができるため、通常動作範囲内の放電開始電圧とすることができ、高輝度で低電圧駆動のPDPを実現することができるといえる。
なお、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)は、単体では反応性が高いために不純物と反応しやすく、そのために電子放出性能が低下しやすいものの、それらの金属酸化物の構成とすることによって、反応性を低減し、不純物の混入や酸素欠損の少ない結晶構造で形成される。つまり、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)を金属酸化物の構成とすることによって、PDPの駆動時に電子が過剰放出されるのが抑制され、低電圧駆動と二次電子放出性能の両立効果に加えて、適度な電子保持特性の効果も発揮される。この電荷保持特性は、特に初期化期間に貯めた壁電荷を保持しておき、書込期間において書込不良を防止して確実な書込放電を行う上で有効である。
次に、下地膜(16a)上に設けた、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子(16b)が複数個凝集した凝集粒子(16b’)について詳述する。酸化マグネシウム(MgO)の凝集粒子(16b’)は、本願発明者の実験により、主として書込放電における「放電遅れ」を抑制する効果と、「放電遅れ」の温度依存性を改善する効果が確認されている。そこで本発明では、凝集粒子(16b’)が下地膜(16a)に比べて高度な初期電子放出特性に優れる性質を利用して、放電パルス立ち上がり時に必要な初期電子供給部として配設している。
「放電遅れ」は、放電開始時において、トリガーとなる初期電子が下地膜(16a)表面から放電空間中に放出される量が不足することが主原因と考えられる。そこで、放電空間に対する初期電子の安定供給に寄与するため、酸化マグネシウム(MgO)の凝集粒子(16b’)を下地膜(16a)の表面に分散配置する。これによって、放電パルスの立ち上がり時に放電空間中に電子が豊富に存在し、放電遅れの解消が図られる。したがって、このような初期電子放出特性により、PDPが高精細の場合などにおいても放電応答性の良い高速駆動ができるようになっている。なお下地膜(16a)の表面に金属酸化物の凝集粒子(16b’)を配設する構成では、主として書込放電における「放電遅れ」を抑制する効果に加え、「放電遅れ」の温度依存性を改善する効果も得られる。
以上のように、本発明の製造方法で得られるPDPでは、低電圧駆動と電荷保持の両立効果を奏する下地膜(16a)と、放電遅れの防止効果を奏する酸化マグネシウム(MgO)の凝集粒子(16b’)とにより保護層を構成することによって、高精細なPDPでも高速駆動を低電圧で実現でき、且つ、点灯不良を抑制した高品位な画像表示性能を実現できる。
ちなみに、本発明の好適な実施形態では、下地膜(16a)上に、結晶粒子(16b)が数個凝集した凝集粒子(16b’)を離散的に散布させ、全面に亘ってほぼ均一に分布するように複数個付着させる。図10は凝集粒子(16b’)を説明する拡大図である。
図10に示すように、凝集粒子(16b’)とは、所定の一次粒径の結晶粒子(16b)が凝集またはネッキングした状態のものである。すなわち、固体として大きな結合力を持って結合しているのではなく、静電気やファンデルワールス力などによって複数の一次粒子が集合体の体をなしているもので、超音波などの外的刺激により、その一部または全部が一次粒子の状態になる程度で結合しているものである。凝集粒子の粒径としては、約1μm程度のもので、結晶粒子としては、14面体や12面体などの7面以上の面を持つ多面体形状を有するのが望ましい。
また、結晶粒子(16b)の一次粒子の粒径は、結晶粒子(16b)の生成条件によって制御できる。例えば、炭酸マグネシウムや水酸化マグネシウムなどのMgO前駆体を焼成して生成する場合、焼成温度や焼成雰囲気を制御することで粒径を制御することができる。一般的に、焼成温度は700℃〜1500℃の範囲で選択できるが、焼成温度を比較的高い約1000℃以上にすることで、その粒径を0.3〜2μm程度に制御することが可能である。さらに、結晶粒子(16b)をMgO前駆体を加熱して得ることにより、その生成過程において、複数個の一次粒子同士が凝集またはネッキングと呼ばれる現象により結合して凝集粒子(16b’)を得ることができる。
図11は、本発明の実施の形態におけるPDPのうち、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)との金属酸化物で構成した下地膜(16a)を用いた場合の放電遅れと保護層中のカルシウム(Ca)濃度との関係を示す図である。下地膜(16a)として酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とからなる金属酸化物で構成し、金属酸化物は、下地膜(16a)面におけるX線回折分析において、酸化マグネシウム(MgO)のピークが発生する回折角と酸化カルシウム(CaO)のピークが発生する回折角との間にピークが存在するようにしている。なお、図11には、保護層として下地膜(16a)のみの場合と、下地膜(16a)上に凝集粒子(16b’)を配置した場合とについて示し、放電遅れは、下地膜(16a)中にカルシウム(Ca)が含有されていない場合を基準として示している。
電子放出性能は、大きいほど電子放出量が多いことを示す数値で、表面状態及びガス種とその状態によって定まる初期電子放出量によって表現する。初期電子放出量については表面にイオン、あるいは電子ビームを照射して表面から放出される電子電流量を測定する方法で測定できるが、PDPの前面板表面の評価を非破壊で実施することは困難を伴う。そこで、特開2007−48733号公報に記載されている方法を用いた。すなわち、放電時の遅れ時間のうち、統計遅れ時間と呼ばれる放電の発生しやすさの目安となる数値を測定し、その逆数を積分すると初期電子の放出量と線形に対応する数値になる。つまり、かかる数値を用いて評価している。放電時の遅れ時間とは、パルスの立ち上がりから放電が遅れて行われる放電遅れの時間を意味し、放電遅れは、放電が開始される際にトリガーとなる初期電子が保護層表面から放電空間中に放出されにくいことが主要な要因として考えられている。
図11より明らかなように、下地膜(16a)のみの場合と、下地膜(16a)上に凝集粒子(16b’)を配置した場合とにおいて、下地膜(16a)のみの場合はカルシウム(Ca)濃度の増加とともに放電遅れが大きくなるのに対し、下地膜(16a)上に凝集粒子(16b’)を配置することによって放電遅れを大幅に小さくすることができ、カルシウム(Ca)濃度が増加しても放電遅れはほとんど増大しないことがわかる。
次に、本発明の実施の形態における凝集粒子(16b’)を有する保護層の効果を確認するために行った実験結果について説明しておく。まず、構成の異なる下地膜(16a)と下地膜(16a)上に設けた凝集粒子(16b’)を有するPDPを試作した。試作品1は酸化マグネシウム(MgO)の下地膜(16a)のみの保護層を形成したPDP、試作品2は酸化マグネシウム(MgO)にAl、Siなどの不純物をドープした下地膜(16a)のみの保護層を形成したPDP、試作品3は酸化マグネシウム(MgO)による下地膜(16a)上に酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子(16b)の一次粒子のみを散布し付着させた保護層を形成したPDPである。
一方、試作品4は本発明の製造方法で得られるPDPであり、保護層として、前述のサンプルAを用いている。すなわち、保護層は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)との金属酸化物で構成した下地膜(16a)と、下地膜(16a)上に結晶粒子(16b)を凝集させた凝集粒子(16b’)を全面に亘ってほぼ均一に分布するように付着させている。なお、下地膜(16a)は、下地膜(16a)面のX線回折分析において、下地膜(16a)を構成する酸化物の単体より発生するピークの最小回折角と最大回折角との間にピークが存在するようにしている。すなわち、この場合の最小回折角は酸化カルシウム(CaO)の32.2度、最大回折角は酸化マグネシウム(MgO)の36.9度であり、下地膜91の回折角のピークが36.1度に存在するようにしている。
これらのPDPについて、その電子放出性能と電荷保持性能を調べ、その結果を図12に示す。電子放出性能は上述の方法で評価し、電荷保持性能は、その指標として、PDPとして作製した場合に電荷放出現象を抑えるために必要とする走査電極に印加する電圧(以下Vscn点灯電圧と呼称する)の電圧値を用いた。すなわち、Vscn点灯電圧の低い方が電荷保持能力の高いことを示す。このことは、PDPを設計する上で、電源や各電気部品として、耐圧及び容量の小さい部品を使用することが可能となる。現状の製品において、走査電圧を順次パネルに印加するためのMOSFETなどの半導体スイッチング素子には、耐圧150V程度の素子が使用されており、Vscn点灯電圧としては、温度による変動を考慮して約120V以下に抑えるのが望ましい。
図12から明らかなように、本発明の実施形態における下地膜(16a)に酸化マグネシウム(MgO)の単結晶粒子(16b)を凝集させた凝集粒子(16b’)を散布して全面に亘って均一に分布させた試作品4は、電荷保持性能の評価において、Vscn点灯電圧を120V以下にすることができ、なおかつ電子放出性能が酸化マグネシウム(MgO)のみの保護層の場合の試作品1に比べて格段に良好な特性を得ることができる。
一般的にはPDPの保護層の電子放出能力と電荷保持能力は相反する。例えば、保護層の製膜条件を変更することや、保護層中にAlやSi、Baなどの不純物をドーピングして製膜することにより電子放出性能を向上することは可能であるが、副作用としてVscn点灯電圧も上昇してしまう。
本発明実施の形態における試作品4のPDPにおいては、電子放出能力としては、酸化マグネシウム(MgO)のみの保護層を用いた試作品1の場合に比べて8倍以上の特性を有し、電荷保持能力としてはVscn点灯電圧が120V以下のものを得ることができる。したがって、高精細化により走査線数が増加し、かつセルサイズが小さいPDPに対しては有用で、電子放出能力と電荷保持能力の両方を満足させて、放電遅れを低減して良好な画像表示を実現することができる。
次に、結晶粒子(16b)の粒径についても詳細に説明しておく。なお、以下の説明において、粒径とは平均粒径を意味し、平均粒径とは、体積累積平均径(D50)のことを意味している。
図13は、上記図12で説明した本発明の試作品4において、結晶粒子(16b)の粒径を変化させて電子放出性能を調べた実験結果を示すものである。なお、図13において、結晶粒子(16b)の粒径は、結晶粒子をSEM観察することで測長した。図13に示すように、粒径が0.3μm程度に小さくなると、電子放出性能が低くなり、ほぼ0.9μm以上であれば、高い電子放出性能が得られることがわかる。
ところで、放電セル内での電子放出数を増加させるためには、下地膜上の単位面積あたりの結晶粒子(16b)の数は多い方が望ましいが、本発明者らの実験によれば、前面板の保護層と密接に接触する背面板の隔壁の頂部に相当する部分に結晶粒子が存在することで、隔壁の頂部を破損させ、その材料が蛍光体の上に乗るなどによって、該当するセルが正常に点灯消灯しなくなる現象が発生することが分かった。この隔壁破損の現象は、結晶粒子(16b)が隔壁頂部に対応する部分に存在しなければ発生しにくいことから、付着させる結晶粒子(16b)の数が多くなれば隔壁の破損発生確率が高くなる。このような観点からは、結晶粒子径が2.5μm程度に大きくなると、隔壁破損の確率が急激に高くなり、2.5μmより小さい結晶粒子径であれば、隔壁破損の確率は比較的小さく抑えることができる。
以上の結果より、本発明の製造方法においては、保護層に用いる結晶粒子(16b)として、粒径が0.9μm〜2μmの範囲にあるものを使用すれば、上述した本発明の効果を安定的に得られることがわかった。なお、結晶粒子(16b)として酸化マグネシウム(MgO)粒子を用いて説明したが、この他の単結晶粒子でも、酸化マグネシウム(MgO)同様に高い電子放出性能を持つSr、Ca、Ba、Alなどの金属酸化物による結晶粒子を用いても同様の効果を得ることができるため、粒子種としては酸化マグネシウム(MgO)に限定されるものではない。
“本発明における保護層”について、総括的に述べれば、上述の知見に基づいて保護層が形成されたPDPでは、保護層における二次電子放出特性が向上しており、輝度を高めるために放電ガスのXeガス分圧を大きくした場合であっても放電開始電圧を低減することが可能となっている。つまり、本発明で得られるPDPは、高精細画像でも高輝度で低電圧駆動が可能な表示性能に優れたものとなり得る。
《本発明の製造方法の特徴的プロセス操作》
次に、図14〜図26を参照しつつ、本発明の製造方法の特徴的なプロセス操作を例示的に説明する。本発明では、保護層を、上述したような特徴を有する酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、及び酸化バリウムから選ばれる少なくとも2つ以上の酸化膜からなる金属酸化物から形成するので、パネルの放電開始電圧を低下させ、放電遅れを小さくして放電を安定させることができるものの、これらの材料は、水、炭酸ガス等の不純物ガスとの反応性が高く、特に水、二酸化炭素と反応することにより放電特性が劣化しやすいといえる。そこで、本発明においては、封着工程において、例えば背面板に設けた貫通孔などを通して放電空間内へと清浄化ガスを流すことによって、パネルの製造工程中における保護膜と不純物ガスとの反応を抑制している。しかしながら、清浄化ガスがパネル内に確実に流入させることができないと、保護層を清浄化できなくなるだけでなく、仮に清浄化できたとしても、清浄化ガス流れのムラによって、保護層の清浄化を十分に行うことができず、これが原因で表示面内の駆動電圧ムラや表示輝度ムラを引き起こす可能性がある。そこで、本発明の製造方法においては、パネル内部に十分に清浄化ガスが供されるように予め措置を講じている。
具体的には、本発明の製造方法では、工程(iv)の加熱処理に先立って “ガス導入”または“ガス排気”を行って、その前後の圧力差を把握し(図2参照)、それによって、ガス導入ライン・ガス排気ラインの装着状態やそれらと「対向配置された前面板および背面板」との組付け状態などを把握する。そして、組付け状態や装着状態が不十分であると判断された場合では、再度、組付け直したり、装着し直したりするので、以後のパネル清浄化を好適に実施することができる。換言すれば、本発明では、清浄化ガスのリークなどが生じ得る不十分な組付け状態や装着状態を事前に排除して、清浄化ガスの十分な供給が行われるパネルのみを工程(iv)に供している。
(実施態様1)
本発明の実施態様1として、工程(iv)の加熱処理に先立って検査ガスを導入し、その前後の圧力差を把握する態様について説明する。実施態様1を説明するための図を図14〜図16に示す。図14は、実施態様1におけるPDP製造方法を示すフローチャートを示し、図15は、そのプロセスタイムチャート、そして、図16は、その実施態様1のプロセスを実施するための装置概略図を示している。
かかる実施態様1では、「封着処理後にて行う真空排気および放電ガス封入」に使用するチップ管(55)とフリットリング(56)とを介して検査ガスを導入する。具体的には、図16に示すように、チップ管ないしは排気管(55)を通じ、アライメント済パネル(対向配置済パネル)(101)に接続されるガス配管(104)の途中に圧力計(105)を設置したラインを使用することによって、検査ガスをパネル内部に導入する。かかるガス導入ラインでは、検査ガスは、ガス配管(104)、チップ管(55)およびフリットリング(56)を流れた後、貫通孔(29)からパネル内へと流入することになる。
ここで、アライメント済パネル(101)の内部は略密閉空間を形成しているので、ガス導入ラインなどが十分に封止されている場合、検査ガスを流し続けるとガス導入ラインの圧力計(105)の値がある程度増加することになる。その逆で、ガス導入ラインなどが十分に封止されていない場合、検査ガスを流し続けてもガス導入ラインの圧力計(105)の値はあまり増加しないことになる。
ガス導入ラインの封止についていうと、チップ管(55)は、フリットリング(56)を介して貫通孔(29)に合わせて背面板(2)に押し当てられるものであるので、「チップ管(55)とフリットリング(56)とが接触する面」および「フリットリング(56)と背面板(2)とが接触する面」では、あくまでも押付け力によって封止されている。従って、それらの接触面に異物やダストが付着していたり、チップ管(55)とフリットリング(56)と背面板(2)との相互の据え付け状態(例えば「チップ管またはフリットリングの装着状態」や「チップ管とアライメント済パネルの位置精度」)などが悪いと、リークに起因してパネル内部へと十分に検査ガスが導入されず、検査ガスを流した状態であっても圧力計(105)の値はあまり増加し得ない。その他、チップ管(55)およびフリットリング(56)をパネルに固定するためのクリップ(図示せず)の装着状態が悪い場合などであっても、圧力計(105)の値はあまり増加し得ない。
このように圧力値があまり増加せずにリークの可能性がある場合に、同じラインを介して清浄化ガスを導入すると、パネル内部へとガスを十分に流し込むことができず、その結果、保護層不純物を効果的に除去できないことにつながる。
従って、本発明では、検査ガス導入の前後の圧力差を測定して、それを予め設定された閾値と比較し、その圧力差が閾値以上だと“良”とみなして清浄化プロセス(および封着プロセス)を開始する一方、圧力差が閾値未満だと“不良”とみなして、ガス導入ラインやパネル・アライメントなど組付け状態・装着状態を見直す(図17参照)。ちなみに、本発明では、加熱実施の前に圧力差を把握するために、上記組付け状態・装着状態を容易に見直すことができる(図14および図15参照)。具体的には、圧力差が閾値未満の場合では、上述したように、「チップ管やフリットリングの装着状態」、「装着部位への異物やダストの付着」、「チップ管とアライメント済パネルとの位置精度」および/または「チップ管およびフリットリングをパネルに固定するためのクリップの装着状態」などを見直すことになる(図18参照)。その際、各種部材やクリップなどの交換や前面板や背面板の交換などによる再組立を行ってよい。また、かかる再組立を行っても“圧力差”が閾値に依然達しない場合には、そのパネルに関する製造プロセスを中止してもよい。このような処置を施すことによって、加熱処理後に実施されるパネル内部への清浄化ガス導入の精度を保証することができ、ひいては、効果的な不純物ガス除去が可能となって良好な特性のPDPパネルを安定して製造することができる。
更に言えば、本発明の効果が最も奏されるのは、PDP量産時である。例えば、量産工場等に導入されているカート式連続炉において、封排プロセスや清浄化プロセスを実施する場合、一般的には、1台のカートに複数の被処理パネルをロボット等により順次搭載し、かかるプロセス処理を行う。従って、複数の被処理パネルの内の何枚かにチップ管やフリットリング、クリップ等の組立不良が生じた場合、封排プロセスなどの加熱開始後に清浄化ガスの導入を行うと、組立不良が生じたパネルにおいてガス漏れ等が発生し、他のパネルに必要なガスが導入されず、結果としてプロセスが必要な仕様で実行されないことになりかねない。このような不都合は、本発明を適用することで好適に回避できる。例えば、ロボットにてパネルを順次カートに搭載した後、加熱処理に先立って検査ガス導入前後の圧力差を測定し、それを予め設けられた“閾値”や“管理基準となる値”などと比較することによって、“不良”を容易に見つけ出すことができる。特に、本発明では、実際の封排プロセスの加熱開始前に不良検出できるので、例えば不良品を事前に取り除くことができ、量産設備の能力を無駄にせずに済みだけでなく、パネルの再組立によるリカバーにて良品へと転換して不良品低減・材料の再利用化等が行えるので廃棄物の削減にもつながる。
ちなみに、PDPの一般的な封着プロセスでは、上述したように、チップ管とパネルとの間に固形フリットリングを挟み、それらをクリップ等で固定する場合が多いものの、昨今、量産コストや生産効率の点から、クリップによる固定を省略する形態も現れているので、本発明によるプロセス保証はより重要であるといえる。
“圧力差”の把握に使用される検査ガスは、清浄化ガスと同じ種類のガスであることが好ましい。つまり、検査ガスは、保護層に対して不活性なガスであって、例えば窒素ガス、希ガスおよび乾燥空気から成る群から選択される少なくとも1種以上のガスであることが好ましい。これにより、清浄化プロセスに悪影響を与えることなく、ガス導入ラインやパネル・アライメントなど組付け状態・装着状態を把握できる。検査ガスの流量は、ガス導入ラインやパネルの種類・サイズなどに依存することになるものの、例えば1〜10SLM程度であり、より好ましくは3〜7SLM程度である。また、“良”/“不良”を判断する閾値(圧力差)の値も、検査ガス流量やガス導入ラインやパネルの種類・サイズなどに依存するものの、例えば0.5〜10kPa程度であり、好ましくは1〜3kPa程度である(ちなみに、かかる閾値は絶対的なものでなく、周囲環境や製造日の気象条件などによって変化し得るので、過去の知見・経験的数値に基づき適当な調整値を加減算して用いることが好ましい)。また、検査ガスの導入直後は圧力が急上昇して安定化し得ない場合が多いので、導入直後のピーク圧力を除外して“圧力差”を把握することが好ましい。つまり、図17で示すような「導入後の圧力Pb」と「導入前圧力Pa」とを用いて圧力差を把握することが好ましく、例えば、ガス導入後から約1分以上経過後の圧力を「導入後の圧力Pb」として採用してよい。
“圧力差”の把握に使用される圧力計は、ガス導入ラインのいずれかに設けられていれば特に制限はない。しかしながら、「封着処理後に行う真空排気および放電ガス封入」に使用するチップ管(55)とフリットリング(56)とを介して検査ガスを導入する場合、即ち、チップ管(55)とフリットリング(56)とを介して清浄化ガスを導入することになる場合では、好ましくはフリットリング(56)の上流側、より好ましくはチップ管(55)の上流側に設けられている圧力計を使用する(図16参照)。これにより、チップ管とフリットリングと背面板との相互の据え付け状態などを“圧力差”から好適に把握することができる。使用される圧力計は、上記圧力差を測定できるものであれば特に制限はない(即ち、0.5〜10kPa程度ないしは1〜3kPa程度の差異を測定できる圧力計であればよい)。例えば、「封着処理後に行う真空排気および放電ガス封入」に常套的に使用される圧力計を使用してもよい。
(実施態様2)
本発明の実施態様2として、工程(iv)の加熱処理に先立って検査ガスを導入してその前後の圧力差を把握すると共に、加熱処理後においても検査ガスを導入してその前後の圧力差を把握する態様について説明する。実施態様2を説明するための図を図19および図20に示す。図19は、実施態様2におけるPDP製造方法を示すフローチャートを示し、図20は、そのプロセスタイムチャートを示している。
かかる実施態様2は、実施態様1と同様、「封着処理後に行う真空排気および放電ガス封入」に使用するチップ管とフリットリングとを介して検査ガスをパネル内部に導入するが、かかる検査ガス導入を加熱処理前だけでなく加熱処理後においても行う(図19および図20参照)。つまり、加熱処理の後においても検査ガスを導入して、ガス導入の前後の圧力差を測定し、それを“予め設定された閾値”や“管理基準となる値”と比較する。これにより、加熱処理前の態様と同様、その圧力差が閾値以上だと“良”とみなす一方、圧力差が閾値未満だと“不良”とみなす(図17参照)。
加熱処理後のガス導入で“不良”と判断された場合、該当の不良パネルのみ、設備に設けられたバルブ等の操作によりガス導入を遮断させることで、他のパネルへの影響を阻止できる。例えば、複数のパネルを同時に処理するバッチ炉や量産に用いられる多段炉においては、一部のパネルにのみチップ管やフリットリングの組付け不良やそれらが装着される部分への異物・ダストの付着等が考えられなくもない。そのような場合、封排プロセスにおける加熱処理開始後のガスフロー時にて、リーク等が発生し、同時に処理される他のパネルに導入されるガス流量が変動する恐れがある。このような状況が一般のPDP製造では想定され得るものの、本発明では、各パネルに接続されるガス配管途上に設けられたバルブの内、該当する不良パネルに接続されるガス配管途上のバルブを遮断することができるので、他のパネルに導入されるべき規定流量を確保することができる(ちなみに、かかる場合、不良パネルを遮断した後、良品として継続処理する複数パネルに対して流すガスの総流量は、流量の平均化のため調整する必要が生じる場合がある)。また、実施態様2では、プロセス処理中において、不良を発見できることで、生産計画やプロセス処理完了後の対処等が素早くできる。特に、封排プロセスのような高温の加熱プロセスでは、プロセス中の処理状況を把握できるこのような手法が極めて有効であるといえる。
加熱処理後に導入する検査ガスの流量、“良”/“不良”を判断する閾値の値などについては、加熱処理前に導入する場合と同様であってよく、あるいは、必要に応じて適宜変更してもよい。尚、加熱処理後に導入する検査ガスは清浄化ガスであることが特に好ましく、加熱処理後のガス導入で“良”と判断された場合では、そのまま継続してガス導入を行うことができる。つまり、加熱処理後に導入する検査ガスが清浄化ガスであると、“圧力差の把握”と“清浄化プロセス”とを実質的に並行して行うことができる。
(実施態様3)
本発明の実施態様3として、工程(iv)の加熱処理に先立ってパネル内部からガス排気して、その前後の圧力差を把握する態様について説明する。実施態様3を説明するための図を図21および図22に示す。図21は、実施態様3におけるPDP製造方法を示すフローチャートを示し、図22は、そのプロセスタイムチャートを示している。
かかる実施態様3は、実施態様1の“ガス導入”とは逆に“ガス排気”を行う態様である。つまり、実施態様3では、「封着処理後に行う真空排気および放電ガス封入」に使用するチップ管とフリットリングとを介してパネル内部からガスを排気する、即ち、真空引きを実施し、その前後の圧力差を把握する。そして、“圧力差”を“予め設定された閾値”や“管理基準となる値”と比較する。これにより、“ガス導入”の態様と同様、その圧力差が閾値以上だと“良”とみなして清浄化プロセス(および封着プロセス)を開始する一方、圧力差が閾値未満だと“不良”とみなして、ガス排気ラインやパネル・アライメントなど組付け状態・装着状態を見直す(図23参照)。
具体的には、圧力差が閾値未満の場合では、“ガス導入”の場合と同様、「チップ管やフリットリングの装着状態」、「装着部位への異物やダストの付着」、「チップ管とアライメント済パネルとの位置精度」および/または「チップ管およびフリットリングをパネルに固定するためのクリップの装着状態」などを見直すことになる。その際、各種部材やクリップなどの交換や前面板や背面板の交換などによる再組立を行ってよい。また、かかる再組立を行っても“圧力差”が閾値に依然達しない場合には、そのパネルに関する製造プロセスを中止してもよい。このような処置を施すことによって、加熱処理後に実施されるパネル内部への清浄化ガス導入の精度を保証することができ、ひいては、効果的な不純物ガス除去が可能となって良好な特性のPDPパネルを安定して製造することができる。
(実施態様4)
かかる実施態様4は、検査ガス導入の実施に、放電ガス導入に使用されるガス配管(111)を用いる態様である。図24には実態態様4が端的に表されている。
PDPパネルの一般的な製造では、封排プロセスの最終ステップ付近で放電ガスを所定の圧力で導入し、続いてチップ管を溶融後に切断することによって封止が行われる。従って、放電ガスを導入するための配管(111)や圧力計(105’)が既に備わっているのが大半である。従って、実施態様4では、検査ガス導入ラインとして、放電ガスを導入するための配管(111)や圧力計(105’)を利用する。尚、検査ガスとして清浄化ガスを用いる場合、かかるガスと放電ガスとは、上流側で供給元となる1次側、或いは、ボンベ側においてバルブ等によって独立性が確保されるようになっている。こうすることで、プロセス設備自体も構成がシンプルとなり、設備コスト自体も低減できる。
(実施態様5)
かかる実施態様5は、検査ガス導入の実施に、封着処理後にてパネル内を真空排気する際に使用される排気配管(112)を用いる態様である。図25には実態態様5が端的に表されている。
PDPパネルの一般的な製造では、封排プロセスで封着部材を溶融固化した後、パネル内を真空にするための排気が行われる。従って、真空排気をするための配管(112)や圧力計(105’)が既に備わっているのが大半である。従って、実施態様5では、検査ガス導入ラインとして、真空排気するための排気配管(112)や圧力計(105’)を利用する。尚、検査ガスとして清浄化ガスを用いる場合、かかるガス系と真空排気系とは、上流側で供給元となる1次側、或いは、ボンベ側にてバルブ等により独立性が確保されるようになっている。こうすることで、プロセス設備自体も構成がシンプルとなり、設備コスト自体も低減できる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。例えば以下の変更態様を挙げることができる。
● 上記説明では、検査ガス導入前後の圧力差(例えば、“ガス導入する前の圧力Pa”と“継続的なガス導入を開始した後の圧力Pb”との圧力差「Pb−Pa」)を把握することによって、ガス導入ラインの装着状態やそれと「対向配置された前面板および背面板」との組付け状態などを把握する態様を主に前提としてきたが、本発明は必ずしもかかる態様に限定されるわけではない。たとえば、検査ガスの導入時にてピーク圧力に達するまでの圧力変化の微分値などを指標にして、上記組付け状態ないしは装着状態などを把握してもよい。
● 上記説明では、ガス導入ラインについて、チップ管とフリットリングとが別個の部材を成している態様を前提としてきたが、本発明は必ずしもかかる態様に限定されるわけではない。たとえば、チップ管とフリットリングとが予め一体化している部材をガス導入ラインに使用してもよい。
● 上記説明では、清浄化ガスあるいは検査ガスとして、例えば窒素ガス、希ガスおよび乾燥空気から成る群から選択される少なくとも1種以上のガスを用いる態様を主に前提としてきたが、本発明は必ずしもかかる態様に限定されるわけではない。清浄化ガスおよび検査ガスは、保護層材質や封排プロセスの条件に応じ、それに適した条件を選定して使用すれば良い。
● 上記説明では、保護層が酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムおよび酸化バリウムから成る群から選択される少なくとも1種類以上の酸化金属を含んで成る態様を主に前提としてきたが、本発明は必ずしもかかる態様に限定されるわけではない。たとえば、保護層が特開2004−47193に開示されているようなものであってもよく(例示すれば、保護層が酸化ランタン、酸化セリウムなどのランタノイド酸化物などから形成されたものであってもよい)、かかる場合であっても本発明の効果としては変わりはない。
● 本発明の効果として変わりない点でいえば、保護層が電子ビーム蒸着法により形成されたものの他、微細な金属酸化物粒子を含むペーストを塗布・乾燥することによって形成されたPDPの製造法についても、本発明を好適に適用することができる。
● 前面板に形成する誘電体層は、第1誘電体層と第2誘電体層から構成される2層構造となっていてもよい。この場合、第1誘電体層の誘電体材料は、酸化ビスマス(Bi2O3)を20重量%〜40重量%、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも1種を0.5重量%〜12重量%含み、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化マンガン(MnO2)から選ばれる少なくとも1種を0.1重量%〜7重量%含んで成るものが好ましい。なお、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化マンガン(MnO2)に代えて、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化バナジウム(V2O7)、酸化アンチモン(Sb2O3)から選ばれる少なくとも1種を0.1重量%〜7重量%含ませてもよい。また、上記以外の成分として、酸化亜鉛(ZnO)を0重量%〜40重量%、酸化硼素(B2O3)を0重量%〜35重量%、酸化硅素(SiO2)を0重量%〜15重量%、酸化アルミニウム(Al2O3)を0重量%〜10重量%など、鉛成分を含まない材料組成が含まれていてもよい。このような組成から成る第1誘電体層用ペーストを、表示電極を覆うように前面ガラス基板にダイコート法あるいはスクリーン印刷法で印刷して乾燥させ、その後、誘電体材料の軟化点より少し高い温度の575℃〜590℃で焼成することによって、第1誘電体層を形成することができる。
一方、第2誘電体層は、酸化ビスマス(Bi2O3)を11重量%〜20重量%、さらに、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも1種を1.6重量%〜21重量%含み、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)から選ばれる少なくとも1種を0.1重量%〜7重量%含んで成るものが好ましい。なお、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)に代えて、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化バナジウム(V2O7)、酸化アンチモン(Sb2O3)、酸化マンガン(MnO2)から選ばれる少なくとも1種を0.1重量%〜7重量%含ませてもよい。また、上記以外の成分として、酸化亜鉛(ZnO)を0重量%〜40重量%、酸化硼素(B2O3)を0重量%〜35重量%、酸化硅素(SiO2)を0重量%〜15重量%、酸化アルミニウム(Al2O3)を0重量%〜10重量%など、鉛成分を含まない材料組成が含まれていてもよい。このような組成から成る第2誘電体層用ペーストを、第1誘電体層上にスクリーン印刷法あるいはダイコート法で印刷して乾燥させ、その後、誘電体材料の軟化点より少し高い温度の550℃〜590℃で焼成することによって、第2誘電体層を形成することができる。このようにして製造されたPDPは、表示電極に銀(Ag)材料を用いても、前面ガラス基板の着色現象(黄変)が少なくて、なおかつ、誘電体層中に気泡の発生などがなく、絶縁耐圧性能に優れた誘電体層を実現することができる。
● 工程(iv)の清浄化ガスの吹込みは、パネルの側方から横方向に向かって行ってもよい(図26参照)。この場合、図示するように、環状ガラスフリット封着部材(86)に対して複数の吹込み溝部(92b)を設けてよい。ちなみに、このような場合、横方向からガスを吹き込むためのノズルに圧力計を設け、それによって、“ガス導入前後の圧力差”を測定すればよい。吹込み溝部について詳述しておくと、吹込み溝部(92b)は、環状ガラスフリット封着部材を形成した後に、溝部に相当する部分を切り欠いて形成することができ、あるいは、ガラスフリット材料を断続的に塗布することによっても形成することができる。吹込み溝部(92b)のサイズLa(図26参照)は、例えば0.1〜5mm程度であり、吹込み溝部のピッチLp(図26参照)は、基板サイズなどによって変わり得るものの、例えば50〜500mm程度である。上述のガス供給開口部と同様、複数の吹込み溝部は、前面板(1)または背面板(2)のエッジの長辺に沿って設けることが好ましい。吹込み溝部を用いる態様では、封着処理に際して、環状ガラスフリット封着部材の軟化・溶融に起因して吹込み溝部が徐々に塞がれることになる。最終的には吹込み溝部が完全に塞がれることになるが、それによって、吹き込まれる清浄化ガスが、前面板と背面板との間に流れることができず、パネル内部への清浄化ガス供給が自動的に停止することになる。このように封着処理時にガス吹込みが自動的に停止することは、清浄化ガスの使用量を最小限に抑制できることを意味している。
42吋パネルを試作した。このパネルを用いて、上記の実施態様1に基づき実証試験を行い、本発明の効果を確認した。
(パネル作製)
42吋パネルの製作に際しては背面板および前面板に板厚1.8mmのガラス基板を用いた。背面板としてはシングルスキャン仕様のものを使用した。背面板には、高さ100μmの隔壁を形成した。背面板に形成された環状ガラスフリット封着部の幅(塗布幅)は4mm、高さは400μmであった。背面板と前面板とを重ね合わせると、背面板と前面板の間の距離(隙間)は環状ガラスフリット封着部の高さ400μmになった(尚、「背面板に形成された隔壁の頂部」と「前面板に形成された保護層表面」との間の距離(隙間)は300μmであった)。検査ガス導入に際しては、図16に示すようなチップ管(55)、フリットリング(56)および導入配管(104)および圧力計(105)を用いた。
(検査ガス導入による圧力差の確認試験)
以下の条件で検査ガスを導入し、“導入前後の圧力差”を測定した。
・検査ガス:純度99.999%以上の窒素ガス(=清浄化ガス)
・導入配管(104)
材質:ステンレス
サイズ:1/4インチ
・チップ管(55)
材質:封着用ガラスフリット材料
円柱形状部の内径:約3mm
全長:約70mm
・フリットリング(56)
材質:封着用ガラスフリット材料
内径:約10mm
全長:約2mm
・背面板の貫通孔(29)の直径:約2mm
・検査ガスの流量:約5SLM
・圧力計(105):MKS社製、隔膜式圧力計
本実施例における試験では、アライメント済パネル(101)にチップ管(55)とフリットリング(56)をクリップで装着した状態を前提として、フリットリング(56)とアライメント済パネル(101)の間に異物(ダスト)が存在する場合(即ち、隙間が存在する場合)について再現試験を行った。具体的には、図27(a)に示すように、異物(110)が存在しない正常な状態(ケースA)、異物の大きさを100μm(ケースB)、200μm(ケースC)、300μm(ケースD)と3種類に変化させた状態、そして、最後に、再度、正常な状態(ケースE)で導入前後の圧力差を取得した。尚、ガス導入前の圧力(圧力計の値)は約100.5kPaであった。“正常な状態”でガス導入を開始した後で約1分待機すると最終的に圧力が約103.5kPaに安定化したので、その圧力値に基づき、閾値を3.0kPa(=103.5−100.5)と決定した。つまり、ガス導入前後の圧力差が3.0kPa以上を“良”とみなし、ガス導入前後の圧力差が3.0kPa未満だと“不良”とみなすことにした。ちなみに、ガス導入後の圧力値についていうと、パネルの設計仕様(例えば内部の素子パターンの構造)や設備の配管構成等によっては、ガス導入しても直ぐにはパネル内部に行き渡らず、ガス導入初期に圧力上昇のピークを経た後で徐々に圧力が安定化するので、ガス導入後にて圧力の安定が確認された時点で測定を実施した。
(結果)
ケースA〜Eの結果を図27(b)に示す。
・ケースA:ガス導入前に測定した圧力が100.5kPaであるのに対し、ガス導入後の圧力の測定値は、1回目で103.8kPa、2回目で104.1kPaとなった。つまり、ガス導入前とガス導入後で測定された圧力の差は閾値の3.0kPa以上となった。
・ケースB:フリットリング(56)とパネルの間に100μm程度の隙間が生じるようにみたてた異物(110)が存在する場合、ガス導入前後の圧力差は閾値と同等の3.0kPaとなった。このような状態は、量産等において製品そのものや製造工程の品質を十分に保証することは難しく、今回の判定としては“限界”とした。
・ケースC:フリットリング(56)とパネルの間にそれぞれ200μm程度の隙間が生じるようにみたてた異物(110)が存在する場合、ガス導入前後の圧力差は閾値の3.0kPaを下まわった。当然のことながら、量産時にこのようなことがあれば、“不良”の判定となる。
・ケースD:フリットリング(56)とパネルの間にそれぞれ400μm程度の隙間が生じるようにみたてた異物(110)が存在する場合、ガス導入前後の圧力差は閾値の3.0kPaを下まわった。当然のことながら、量産時にこのようなことがあれば、“不良”の判定となる。
・ケースE:最後に、再現性確認の意味も含め、最初のケースAと同様の条件(正常時の状態)で2回確認した結果、1回目で104.0kPa、2回目で104.0kPaとなり、圧力差は閾値の3.0kPa以上となった。
以上のケースA〜Eの一連の確認試験において、何度となくチップ管とフリットリングとを固定するためのクリップを取り外したり、あるいは、チップ管やフリットリングの組立を何回も行っているが、そのような行為を行っても、最終的には“組付け状態”や“装着状態”を所望のものとすることができることが分かった。従って、本発明を適用すれば、製品品質の管理が可能となり、ひいては、PDPの製品品質の保証も可能となることが理解されよう。