JP2011063880A - ベイナイト系レール - Google Patents

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Abstract

【課題】ベイナイト組織を呈する鋼レールの頭部および底部の表面硬さや最大表面粗さをある一定の範囲に制御することにより、国内の旅客鉄道や海外の貨物鉄道で使用される直線区間のレールの耐疲労損傷性を向上させることが可能となる。
【解決手段】質量%で、C:0.15〜0.45%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.10〜2.00%、Cr:0.10〜2.00%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、該鋼レールの頭部表面および底部表面の少なくとも一部がベイナイト組織であり、かつ、表面硬さ(SVH)がHv280〜480の範囲であり、最大表面粗さ(Rmax)が200μm以下であることを特徴とするベイナイト系レール。
【選択図】図2

Description

本発明は、国内の旅客鉄道や海外の貨物鉄道で使用される直線区間のレールにおいて、頭部や底部の耐疲労損傷性を向上させることを目的としたベイナイト系レールに関するものである。
近年、鉄道輸送では、輸送効率の向上を目的として、列車の高速化が進められている。これにともない主に高速運転が行われる直線区間のレールにおいては、レール使用環境の苛酷化により、レールと車輪の繰り返し接触によるダークスポット損傷と呼ばれるレール頭表面のころがり疲労損傷の発生が増加している。
このダークスポット損傷は旅客鉄道や貨物鉄道の高速運転区間のレールで発生しやすく、従来からのパーライト組織を呈したレールではその発生の抑制が困難であった。
本発明者らは、ダークスポット損傷の原因であるレールと車輪の繰り返し接触によって生成する疲労層(疲労ダメージ層、集合組織)の形成と金属組織の関係を研究した。
その結果、フェライト相とセメンタイト相の層状構造を成しているパーライト組織では、疲労ダメージ層が蓄積し易く、さらに、集合組織が発達し易いのに対して、柔らかなフェライト組織地に粒状の硬い炭化物が分散したベイナイト組織は、疲労ダメージ層が蓄積し難く、さらに、表面疲労損傷の引き金となる集合組織が発達し難く、結果としてダークスポット損傷が発生しにくいことが明らかとなった。
このような背景から下記に示すようなレールが開発された。これらのレールの主な特徴は、耐ころがり疲労損傷性に優れたベイナイト組織を安定に生成させるため、従来の普通炭素鋼レールと比較して炭素量を低減させると同時に、Mn、Cr、Moなどの合金元素を多く添加し、さらに、強度を確保するため適切な熱処理を施したものである(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1の開示技術では、低炭素成分のベース鋼にMn、Cr、Moなどの合金元素を多量に添加し、圧延のままでベイナイト組織を得、耐ころがり疲労損傷性に優れたレールを提供することができる。
特許文献2の開示技術では、低炭素成分のベース鋼にMn、Cr、Moなどの合金元素を添加し、熱間圧延後の高温度の熱を保有するレール、あるいは高温に加熱されたレールの頭部を加速冷却することにより、耐ころがり疲労損傷性に優れたレールを提供することができる。
上記のベイナイト組織を呈するレールが発明されたことにより、レールの耐ころがり疲労損傷性が向上し、一定の使用寿命の向上が図られた。しかし、ベイナイト鋼レールでは耐力が高く、ローラー矯正後の残留応力が高くなり易いことや、近年、鉄道輸送のさらなる過密化が進んだこと等から、ベイナイト鋼レールの頭部や底部からの疲労損傷の発生が健在化するようになった。その結果、上記に示された発明レールでは、レール使用寿命が大きく低下するといった問題がある。
特開平05−271871号公報 特開平06−316727号公報 特開平06−336613号公報 特開2002−105538号公報 特開平06−312216号公報 特開平10−296302号公報
このような背景から、ベイナイト組織を呈した鋼レールにおいて、レール頭部や底部からの耐疲労損傷性を向上させたレールの提供が望まれるようになった。
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑み案出されたものであり、その目的とするところは、国内の旅客鉄道や海外の貨物鉄道で使用される直線区間のレールの耐疲労損傷性を向上させることを目的としたものである。
(1)質量%で、C:0.15〜0.45%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.10〜2.00%、Cr:0.10〜2.00%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、該鋼レールの頭部表面および底部表面それぞれの少なくとも一部がベイナイト組織であり、かつ、前記少なくとも一部の表面硬さ(SVH)がHv280〜480の範囲であり、前記少なくとも一部の最大表面粗さ(Rmax)が200μm以下であることを特徴とするベイナイト系レール。
(2)(1)に記載の鋼レールにおいて、表面硬さ(SVH)と最大表面粗さ(Rmax)の比(SVH/Rmax)が3.0以上であることを特徴とするベイナイト系レール。
(3)(1)〜(2)に記載の鋼レールにおいて、前記最大表面粗さを測定した部位において、レール高さ方向の平均値に対して最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数が測定長さ5mmあたり10個以下であることを特徴とするベイナイト系レール。
(4)(1)〜(3)に記載の鋼レールにおいて、該鋼レールの頭部表面および底部表面それぞれの残留応力が引張200MPa〜圧縮200MPaの範囲にあることを特徴とするベイナイト系レール。
(5)また、上記(1)〜(4)のレールには、質量%でさらに、下記(a)〜(k)の成分を選択的に含有させることができ、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
(a)Mo:0.01〜1.00%の1種、
(b)B:0.0001〜0.0050%の1種、
(c)V:0.005〜0.50%、Nb:0.002〜0.050%の1種または2種、
(d)Ni:0.05〜1.00%の1種、
(e)Cu:0.05〜1.00%の1種、
(f)Co:0.01〜1.00%の1種、
(g)Ti:0.0050〜0.0500%の1種、
(h)Mg:0.0005〜0.0200%、Ca:0.0005〜0.0200%の1種または2種、
(i)Al:0.0040〜1.00%の1種、
(k)N:0.0060〜0.0200%の1種
本発明によれば、ベイナイト組織を呈する鋼レールの頭部および底部の表面硬さや最大表面粗さをある一定の範囲に制御することにより、国内の旅客鉄道や海外の貨物鉄道で使用される直線区間のレールの耐疲労損傷性を向上させることが可能となる。
レールの疲労試験の結果を鋼レールの底部表面の金属組織や硬さと疲労限応力範囲の関係で示した図。 C量:0.15〜0.45%、Si量:0.30%、Mn量:1.00%、Cr量:1.00%、硬さHv280〜480のベイナイト鋼レールの底部表面の最大表面粗さ(Rmax)と疲労限応力範囲の関係で示した図。 C量:0.15〜0.45%、Si量:0.30%、Mn量:1.00%、Cr量:1.00%、硬さHv280〜480のベイナイト鋼レールの底部表面のSVH/Rmaxと疲労限応力範囲の関係を示した図。 C量:0.30%、Si量:0.30%、Mn量:1.00%、Cr量:1.00%、硬さHv400、最大表面粗さ(Rmax)が150μmと50μmの鋼レール底部の粗さのレール高さ方向の平均値に対して最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数と疲労限応力範囲の関係を示した図。 C量:0.15〜0.45%、Si量:0.30%、Mn量:1.00%、Cr量:1.00%、硬さHv280〜480、SVH/Rmaxの値が3.0以上のベイナイト鋼レールにおいて、底部表面の残留応力と疲労限応力範囲の関係を示した図(引張残留応力を正、圧縮残留応力を負で示す)。 本発明の耐疲労損傷性に優れたベイナイト系レールの頭部断面表面位置での呼称および硬さHv280〜480のベイナイト組織が必要な領域を示した図。 疲労試験の概要の模式図 本発明レール鋼(鋼:A9、A11〜A12、A14〜A18、A20〜A21、A23〜A31、A33〜A37、A39〜A43、A45〜A50、A52〜A58、A60〜A61、A63〜74)のレール頭部表面の硬さと疲労限応力範囲の関係をSVH/Rmaxの値で区別して示した図。 本発明レール鋼(鋼:A9、A11〜A12、A14〜A18、A20〜A21、A23〜A31、A33〜A37、A39〜A43、A45〜A50、A52〜A58、A60〜A61、A63〜74)のレール底部表面の硬さと疲労限応力範囲の関係をSVH/Rmaxの値で区分して示した図。 本発明レール鋼(鋼:A9〜A10、A12〜A13、A18〜A19、A21〜A22、A31〜A32、A37〜A38、A43〜A44、A50〜A51、A58〜A59、A61〜A62)のレール頭部の表面硬さと疲労限応力範囲の関係を最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数で区別して示した図。 本発明レール鋼(鋼:A9〜A10、A12〜A13、A18〜A19、A21〜A22、A31〜A32、A37〜A38、A43〜A44、A50〜A51、A58〜A59、A61〜A62)のレール底部の表面硬さと疲労限応力範囲の関係を最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数で区別して示した図。
以下に本発明を実施する形態として、耐摩耗性および耐疲労損傷性に優れたベイナイト系レールにつき、詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。以下、組成における質量%は、単に%と記載する。
まず、本発明者らは、実軌道でのレールの疲労損傷の発生状況を調査した。レール頭部では疲労損傷は車輪と接触するころがり面ではなく、その周囲の非接触部の表面から発生していることを確認した。また、レール底部では比較的応力が高い底部の幅中央部付近の表面から発生していることを確認した。したがって、実軌道での疲労損傷は製品レールの頭部、底部の表面から発生していることを明らかにした。
さらに、本発明者らは、この調査結果に基づき、レールの疲労損傷の発生因子を解明した。鋼の疲労強度は一般的に鋼の引張強度(硬さ)との相関があることが知られている。そこで、C量:0.05〜0.55%、Si量:0.05〜2.00%、Mn量:0.10〜2.00%、Cr量:0.10〜2.00%の鋼を用いて、レール圧延および熱処理を行い、鋼レールを製造し、実軌道の使用条件を再現した疲労試験を行った。なお、試験条件は下記に示すとおりである。
(x1)レール形状:136ポンドレール(67kg/m)
(x2)疲労試験
試験方法:実物レール3点曲げ(スパン長:1m、周波数:5Hz)
荷重条件:応力範囲制御(最大−最小、最小荷重は最大荷重の10%)
(x3)試験姿勢:レール頭部に荷重負荷(底部に引張応力作用)。
(x4)繰り返し回数:200万回、未破断の場合の最大応力範囲を疲労限応力範囲とする。
3点曲げ疲労試験の結果を図1に示す。図1はレールの疲労試験の結果を鋼レールの底部表面の金属組織や硬さと疲労限応力範囲の関係で整理したものである。ここで、鋼レールの底部表面とは、図6に示す足裏部3であり、疲労限応力範囲とは、上記(x2)に示すとおり、疲労試験において最大応力と最小応力で荷重を変動させて試験を行った際に、最大応力と最小応力の差を疲労試験における応力範囲とし、その中で、上記(x4)に示すとおり、未破断の場合の最大応力範囲を疲労限応力範囲とする。
鋼の疲労特性を決める疲労限応力範囲は、鋼の金属組織とよい相関があることが確認された。ベイナイト組織中に初析フェライト組織やマルテンサイト組織が混在すると、疲労限応力範囲が大きく低下し、疲労強度が大きく低下することが明らかになった。
また、ベイナイト単相組織では、底部の表面硬さが上昇するに従って疲労限応力範囲が増加する傾向を示すが、しかし、表面硬さがある一定値を超えると疲労限応力範囲が低下することが確認された。したがって、ある一定の疲労強度を確実に確保するには、表面硬さを一定の範囲に収める必要があることが明らかとなった。
さらに、本発明者らは、ベイナイト鋼レールの疲労強度を確実に向上させるため、同一硬さの鋼レールの疲労限応力範囲が大きくばらつく要因を検証した。図1に示したように硬さが同一のベイナイト組織においても疲労限応力範囲が200〜250MPa程度変動する。そこで、疲労試験において破断した鋼レールの起点を調査した。その結果、起点には凹凸があり、この凹凸部から疲労損傷が発生していることが確認された。
そこで、本発明者らは、ベイナイト鋼レールの疲労強度と表面の凹凸の関係を詳細に調査した。図2にその結果を示す。図2は、C量:0.15〜0.45%、Si量:0.30%、Mn量:1.00%、Cr量:1.00%、硬さHv280〜480のベイナイト鋼レールの底部表面の粗度を粗さ計で測定し、最大表面粗さ(Rmax)と疲労限応力範囲の関係で整理したものである。ここで、最大表面粗さとは、測定基準長さにおいて高さ方向の平均値を基準として、最大の谷深さ、最大の山高さの和であり、詳細にはJIS B 0601に記載の粗さ曲線の最大高さ(Rz)のことを示す。なお、表面粗度の測定に際しては事前にレール表面のスケールを酸洗またはサンドブラスト除去した。
ベイナイト鋼の疲労強度は最大表面粗さ(Rmax)とよい相関があり、最大表面粗さ(Rmax)がある一定範囲以下に収まると、疲労限応力範囲が大幅に上昇し、疲労強度(≧300MPa)が向上することが明らかとなった。
これらの結果から、国内の旅客鉄道や海外の貨物鉄道の直線区間で使用される鋼レールの疲労強度を向上させるには、金属組織的にはベイナイト単相組織とし、鋼レールの表面の硬さを一定の範囲に収め、さらに、最大表面粗さ(Rmax)を一定範囲内に収める必要があることを新たに見いだした。
さらに、本発明者らは、ベイナイト鋼レールの疲労限応力範囲と表面の硬さ(SVH)、最大表面粗さ(Rmax)の関係を詳細に調査した。その結果、鋼レールの表面硬さ(SVH)と最大表面粗さ(Rmax)の比、すなわち、SVH/Rmaxと疲労限応力範囲にはよい相関があること突きとめた。図3はC量:0.15〜0.45%、Si量:0.30%、Mn量:1.00%、Cr量:1.00%、硬さHv280〜480のベイナイト鋼レールの底部表面のSVH/Rmaxと疲労限応力範囲の関係を示したものである。いずれの硬さの鋼レールにおいても、SVH/Rmaxの値が3.0以上に制御することにより、疲労限応力範囲が上昇し、疲労強度が大きく向上することが新たに知見された。
これらの発明に加えて、本発明者らは、鋼レールの疲労強度を向上させるため、鋼レールの表面の粗さを詳細に制御する方法を検討した。図4はC量:1.00%、Si量:0.30%、Mn量:1.00%、Cr量:1.00%、レール底部の硬さHv400、最大表面粗さ(Rmax)が150μmと50μmのベイナイト鋼レールにおいて疲労試験を行った結果を示す。粗さとの関係を詳細に検討するため、レール高さ方向の平均値に対して最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数との相関を調査した。ここでの0.30倍を超える凹凸とは、例えばRmaxが150μmの場合は、測定部位のレール高さ方向の平均を基準として、その凹凸高さが45μm(150μm×0.30)を超えるものを対象とする。なお、凹凸の数は測定長さ5mmでの個数である。いずれの硬さの鋼レールにおいても、凹凸の数が10個以下に制御することにより、疲労限応力範囲がさらに上昇し、疲労強度が大きく向上することを見いだした。
さらに、本発明者らは、これらの知見に加え、さらにベイナイト鋼レールの疲労強度を向上させる方法を検討した。その結果、鋼レールの底部表面の残留応力と疲労限応力範囲にはよい相関があること突きとめた。図5はC量:0.15〜0.45%、Si量:0.30%、Mn量:1.00%、Cr量:1.00%、硬さHv400、SVH/Rmaxの値が3.0以上のベイナイト鋼レールの底部表面の長手方向残留応力と疲労限応力範囲の関係を示したものである。いずれの硬さの鋼レールにおいても、長手方向残留応力が引張200MPa〜圧縮200MPaの範囲に制御することにより、疲労限応力範囲が上昇し、疲労強度がさらに大きく向上することが新たに知見された。
すなわち、本発明は、ベイナイト組織を呈する鋼レールの頭部および底部の表面硬さや最大表面粗さをある一定の範囲に制御し、表面硬さと最大表面粗さの比、さらには、ある一定値を超える表面凹凸の数や残留応力を制御することにより、国内の旅客鉄道や海外の貨物鉄道で使用される直線区間のレールの耐疲労損傷性を向上させることを目的としたベイナイト系レールに関するものである。なお、本実施形態では、レール底部表面についての結果を図1〜図5に示しているが、レール頭部表面についてもレール底部表面の図1〜図4と同様の結果が得られている。
次に、本発明の限定理由について詳細に説明する。以下、鋼組成における質量%は、単に%と記載する。
(1)化学成分の限定理由
請求項1において、レール鋼の化学成分を上記請求範囲に限定した理由について詳細に説明する。
Cは、ベイナイト組織の強度と耐摩耗性を確保するための必須元素である。しかし、C量が0.15%未満では、ベイナイト組織中に初析フェライト組織が生成し、ベイナイトレールに必要とされる強度や耐摩耗性を確保することが困難となり、塑性変形起因のフレーキング損傷が発生する。また、C量が0.45%を超えると、ベイナイト組織中にパーライト組織が多く生成し、ころがり疲労損傷の一種であるダークスポット損傷が発生することや、ベイナイト変態速度が著しく低下し、レールの靭性に有害なマルテンサイト組織が生成しやすくなる。このため、C添加量を0.15〜0.45%に限定した。
Siはベイナイト組織中の素地のフェライトに固溶することによって強度を向上させる元素である。しかし、Si量が0.05%未満では強度の向上が殆ど期待できない。また、Si量が2.00%を超えると、焼入性が著しく増加し、ベイナイト組織中に疲労特性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなる。このため、Si添加量を0.05〜2.00%に限定した。
Mnは、C同様に鋼の焼入性を高め、ベイナイト組織を安定的に生成させるためには欠かせない元素である。しかし、Mn量が0.10%未満ではその効果が微弱であり、添加元素の組み合わせによっては、ベイナイト組織を安定的に得ることが困難となる。また、Mn量が2.00%を超えると、ベイナイト組織中に疲労特性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなる。このため、Mn添加量を0.10〜2.00%に限定した。
Crは、Mnと同様に、ベイナイト組織を安定的させ、ベイナイト組織中の炭化物を微細に分散させ、強度を確保するために重要な元素である。しかし、Cr量が0.10%未満ではその効果が微弱であり、添加元素の組み合わせによっては、ベイナイト組織を安定的に得ることが困難となる。また、Cr量が2.00%を超えると、ベイナイト組織中にベイナイト組織中に疲労特性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなる。このため、Cr添加量を0.10〜2.00%に限定した。
また、上記の成分組成で製造されるレールは、ベイナイト組織の硬度(強度)の向上、すなわち、耐疲労損傷性の向上、さらには、耐摩耗性の向上、靭性の向上、溶接熱影響部の軟化の防止、レール頭部内部の断面硬度分布の制御を図る目的で、Mo、B、V、Nb、Ni、Cu、Co、Ti、Mg、Ca、Al、Nの元素を必要に応じて添加する。
ここで、Moは、ベイナイト変態を安定化させ、ベイナイト変態温度を低下させることによりベイナイト組織の硬度を確保する。Bは、旧オーステナイト粒界から生成する初析フェライト組織やパーライト組織の生成を抑制し、ベイナイト組織を安定的に生成させる。V、Nbは、熱間圧延やその後の冷却課程で生成した炭化物や窒化物により、オーステナイト粒の成長を抑制し、さらに、析出硬化により、ベイナイト組織の靭性と硬度を向上させる。また、再加熱時に炭化物や窒化物を安定的に生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止する。Niは、ベイナイト変態温度を低下させ、ベイナイト組織の強度を向上させる。Cuは、ベイナイト組織中の基地フェライト相への固溶強化により強度を向上させる。Coは、ベイナイト組織中の基地フェライト相を微細化し、ベイナイト組織の耐摩耗性を確保する。Tiは、熱間圧延やその後の冷却課程で生成した炭化物や窒化物により、オーステナイト粒の成長を抑制し、ベイナイト組織の延性や靱性の改善に寄与する。Mg、Caは、熱間圧延やその後の冷却課程で生成した酸化物により、レール圧延時においてオーステナイト粒の微細化を図り、ベイナイト組織の靭性を向上させる。Alは、熱間圧延やその後の冷却課程で生成した窒化物により、オーステナイト粒の成長を抑制し、ベイナイト組織の靭性を向上させる。さらに、脱酸材としてSi脱酸での脱酸不足を補う。Nは、V、Ti、Alと窒化物を形成し、オーステナイト粒の成長を抑制し、さらに、析出硬化により、ベイナイト組織の靭性と硬度を向上させることが主な添加目的である。
これらの成分の限定理由について、以下に詳細に説明する。
Moは、MnあるいはCrと同様、安定的にベイナイト組織を生成させ、ベイナイト変態温度を低下させることによりベイナイト組織の硬度を確保する元素である。しかし、Mo量が0.01%未満ではベイナイト組織の生成や強度への寄与は少なく、添加元素の組み合わせによっては、ベイナイト組織を安定的に得ることが困難となる。また、Mo量が1.00%を超えると、焼入れ性の増加により、ベイナイト組織中に疲労特性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなる。さらに、鋼片において偏析を助長し、偏析部に疲労特性に有害なマルテンサイト組織を生成する。このため、Mo添加量を0.01〜1.00%に限定した。
Bは、旧オーステナイト粒界から生成する初析フェライト組織やこれにともない変態するパーライト組織の生成を抑制し、ベイナイト組織を安定的に生成させる元素である。しかし、B量が0.0001%未満ではその効果は弱い。また、B量が0.0050%を超えても、その以上の効果が期待できない。このため、B添加量を0.0001〜0.0050%に限定した。
Vは、熱間圧延後の冷却課程で生成したV炭化物、V窒化物による析出硬化により、ベイナイト組織の硬度(強度)を高め、ベイナイト組織の耐疲労損傷性を向上させる元素である。また、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部において、比較的高温度域でV炭化物やV窒化物を生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止するのに有効な元素である。しかし、V量が0.005%未満ではその効果が十分に期待できない。また、V量が0.50%を超えて添加してもそれ以上の効果が期待できない。このため、V添加量を0.005〜0.50%に限定した。
Nbは、熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、Nb炭化物やNb窒化物のピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、ベイナイト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したNb炭化物、Nb窒化物による析出硬化により、ベイナイト組織の硬度(強度)を高め、ベイナイト組織の耐疲労損傷性を向上させる元素である。また、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部において、低温度域から高温度域までNbの炭化物やNb窒化物を安定的に生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止するのに有効な元素である。しかし、その効果は、Nb量が0.002%未満では、これらの効果が期待できず、ベイナイト組織の靭性や硬度(強度)の向上は認められない。また、Nb量が0.050%を超えると、Nbの炭化物や窒化物の析出硬化が過剰となり、ベイナイト組織の靭性が低下し、レールの靭性が低下する。このため、Nb添加量を0.002〜0.050%に限定した。
Niは、オーステナイトを安定化させる元素であり、ベイナイト変態温度を下げ、ベイナイト組織を微細化し、靭性を向上させる効果を有する。しかし、Ni量が0.05%未満ではその効果が著しく小さく、また、Ni量が1.00%を超えると、ベイナイト変態速度が大きく低下し、ベイナイト組織中に疲労特性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなる。このため、Ni添加量を0.05〜1.00%に限定した。
Cuは、ベイナイト組織中の基地フェライト相に固溶し、固溶強化によりベイナイト組織の強度を向上させる元素である。しかし、Cu量0.05%未満では、その効果が期待できない。また、Cu量が1.00%を超えると、著しい焼入れ性向上により、ベイナイト組織中にレールの疲労特性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなる。このため、Cu添加量を0.05〜1.00%に限定した。
Coは、ベイナイト組織中の基地フェライト相に固溶し、レール頭部の摩耗面において、車輪との接触により形成させる微細なフェライト組織をより一層微細化し、ベイナイト組織の耐摩耗性を確保する元素である。しかし、Co量が0.01%未満では、フェライト組織の微細化が図れず、耐摩耗性の向上効果が期待できない。また、Co量が1.00%を超えると、上記の効果が飽和し、添加量に応じたフェライト組織の微細化が図れない。また、合金添加コストの増大により経済性が低下する。このため、Co添加量を0.01〜1.00%に限定した。
Tiは、Nbと同様に、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、Ti炭化物やTi窒化物が析出し、ピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、ベイナイト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したTi炭化物、Ti窒化物による析出硬化により、ベイナイト組織の硬度(強度)を高め、ベイナイト組織の耐疲労損傷性を向上させる元素である。また、溶接時の再加熱において析出したTiの炭化物、Tiの窒化物が溶解しないことを利用して、オーステナイト域まで加熱される熱影響部の組織の微細化を図り、溶接継ぎ手部の脆化を防止するのに有効な成分である。しかし、Ti量が0.0050%未満ではこれらの効果が少ない。また、Ti量が0.0500%を超えると、粗大なTiの炭化物、Tiの窒化物が生成して、粗大な析出物から疲労損傷が発生し、レールの耐疲労損傷性が低下する。このため、Ti添加量を0.0050〜0.0500%に限定した。
Mgは、O、または、SやAl等と結合して微細な酸化物や硫化物を形成し、レール圧延時の再加熱において、結晶粒の粒成長を抑制し、オーステナイト粒の微細化を図り、ベイナイト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、0.0005%未満ではその効果は弱く、0.0200%を超えて添加すると、Mgの粗大酸化物が生成し、粗大な酸化物から疲労損傷が発生し、レールの耐疲労損傷性が低下する。このため、Mg量を0.0005〜0.0200%に限定した。
Caは、O、または、S等と結合して微細な酸化物を形成し、レール圧延時の再加熱において、結晶粒の粒成長を抑制し、オーステナイト粒の微細化を図り、ベイナイト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、0.0005%未満ではその効果は弱く、0.0200%を超えて添加すると、Caの粗大酸化物が生成し、粗大な酸化物から疲労損傷が発生し、レールの耐疲労損傷性が低下する。このため、Ca量を0.0005〜0.0200%に限定した。
Alは、熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、Al窒化物を形成し、ピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、ベイナイト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、Al量が0.0040%未満では、その効果が弱い。また、Al量が0.0300%を超えると、鋼中に固溶させることが困難となり、粗大なアルミナ系介在物が生成し、この粗大な析出物から疲労損傷が発生し、レールの耐疲労損傷性が低下する。さらに、溶接時に酸化物が生成し、溶接性が著しく低下する。このため、Al添加量を0.0040〜0.0300%に限定した。
Nは、熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、V、Ti、Alと窒化物を形成し、オーステナイト粒の成長を抑制し、さらに、析出硬化により、ベイナイト組織の靭性と硬度を向上させる元素である。しかし、N量が0.0060%未満では、これらの効果が弱い。N量が0.0200%を超えると、鋼中に固溶させることが困難となり、疲労損傷の起点となる気泡が生成し、レールの耐疲労損傷性が低下する。このため、N添加量を0.0060〜0.0200%に限定した。
上記のような成分組成で構成されるレール鋼は、転炉、電気炉などの通常使用される溶解炉で溶製を行い、この溶鋼を造塊・分塊法あるいは連続鋳造法、さらに熱間圧延を経てレールとして製造される。
(2)金属組織の限定理由
まず、該鋼レールの頭部表面、底部表面の金属組織をベイナイト組織に限定した理由について説明する。
ベイナイト組織中に初析フェライト組織、マルテンサイト組織が混在すると、比較的硬度(強度)の低いフェライト組織では歪みが集中し、疲労き裂の発生を誘発する。また、比較的靭性の低いマルテンサイト組織では、微小な脆性的な割れが発生し、疲労き裂の発生を誘発する。さらに、レール頭部においては、耐ころがり疲労損傷性を確保するためベイナイト組織とする必要がある。このため、レール頭部表面、底部表面の金属組織をベイナイト組織に限定した。
また、本発明レールの金属組織は、上記限定のようなベイナイト単相組織であることが望ましい。しかし、レールの成分系や熱処理製造方法によっては、ベイナイト組織中に面積率で3%以下の微量な初析フェライト組織やマルテンサイト組織が混入することがある。しかし、これらの組織が混入しても、レール頭部の耐疲労損傷性や耐ころがり疲労損傷性には大きな悪影響を及ぼさないため、耐疲労損傷性に優れたベイナイト系レールの組織としては、3%以下の微量な初析フェライト組織やマルテンサイト組織の混在も含んでいる。
言い換えれば、本発明レールの頭部金属組織は、97%以上がベイナイト組織であれば良く、耐疲労損傷性や耐ころがり疲労損傷性を十分に確保するためには、頭部金属組織の99%以上をベイナイト組織とすることが望ましい。なお、表1−1、表1−2、表2および表3におけるミクロ組織の欄でベイナイトと記載しているのはベイナイト組織が97%以上を意味する。
(3)表面硬さの限定理由
次に、該鋼レールのレール頭部、底部のベイナイト組織の表面硬さ(SVH)をHv280〜480の範囲に限定した理由について説明する。
本成分系では、ベイナイト組織の表面硬さ(SVH)がHv280未満になると、レール頭部表面、底部表面の疲労強度が低下し、レールの耐疲労損傷性が低下する。また、ベイナイト組織の表面硬さ(SVH)がHv480を超えると、ベイナイト組織の靭性が著しく低下し、微小な脆性的な割れが発生し易くなり、疲労き裂の発生を誘発する。このためベイナイト組織の表面硬さ(SVH)をHv280〜480の範囲に限定した。
なお、SVHは本発明レールの頭部、底部のベイナイト組織の表面硬さを示すものであり、具体的にはレール表面から1mm深さの位置をビッカース硬度計で測定した時の値である。測定方法は下記に示すとおりである。
(y1)事前処理:レール切断⇒横断面研摩。
(y2)測定方法:JIS Z 2244に準じて測定。
(y3)測定機:ビッカース硬度計(荷重98N)。
(y4)測定箇所:レール頭部表面、レール底部表面から1mm深さの位置。
※レール頭部表面、底部表面の具体的な位置は図6の表示に従う。
(y5)測定数:5点以上測定し、平均値を鋼レールの代表値とすることが望ましい。
次に、表面硬さ(SVH)Hv280〜480のベイナイト組織の必要範囲を該鋼レールの頭部表面、底部表面の少なくとも一部に限定した理由を説明する。
ここで、図6に本発明の耐疲労損傷性に優れたベイナイト系レールの頭部断面表面位置での呼称、および、表面硬さ(SVH)Hv280〜480のベイナイト組織が必要な領域を示す。
レール頭部において、1は頭頂部、2は頭部コーナー部であり、頭部コーナー部2の一方は車輪と主に接触するゲージコーナー(G.C.)部である。「レール頭部表面」とは頭頂部(符号:1)の部分である。
また、レール底部において、3は足裏部であり、足裏部は足幅(W)中央から±1/4wの領域を含む部分である。「レール底部表面」とは足裏部(符号:3)の部分である。
レール頭部表面において、頭頂部表面を起点として深さ5mmまでの範囲(斜線部)に、上記の硬さ範囲のベイナイト組織が配置されていれば、レール頭部の耐疲労損傷性が確保できる。
また、レール底部表面において、足裏部表面を起点として深さ5mmまでの範囲(斜線部)に、上記の硬さ範囲のベイナイト組織が配置されていれば、レール底部の耐疲労損傷性が確保できる。
なお、レール頭部は車輪と広範囲に接触する。したがって、頭頂部1に加えてコーナー部2を含めて、耐ころがり疲労損傷性確保のため上記のベイナイト組織を配置することが望ましい。
また、摩耗を考慮した耐ころがり疲労損傷性の確保観点では、上記のベイナイト組織は、頭頂部1、コーナー部2を含めて表面を起点として深さ20mmの範囲に配置することが望ましい。
したがって、表面硬さ(SVH)Hv280〜480のベイナイト組織は、レール頭部表面、レール底部表面に配置することが望ましく、それ以外の部分はベイナイト組織以外の金属組織であってもよい。
表面硬さ(SVH)Hv280〜480のベイナイト組織を得る方法としては、圧延後に自然冷却、圧延後、または、必要に応じて再加熱後のオーステナイト領域のある高温のレール頭部表面や底部表面に加速冷却を行うことが望ましい。加速冷却の方法としては、特許文献2、特許文献3に記載されているような方法で熱処理を行うことにより、所定の組織と硬さを得ることができる。
(4)最大表面粗さの限定理由
次に、該鋼レールのレール頭部表面、レール底部表面の最大表面粗さ(Rmax)を200μm以下に限定した理由について説明する。
ベイナイト組織の鋼レールでは、レール頭部表面、レール底部表面の最大表面粗さ(Rmax)が200μmを超えると、レール表面での応力集中が過剰となり、レール表面からの疲労き裂の発生を誘発する。このため、レール頭部表面、レール底部表面の最大表面粗さ(Rmax)を200μm以下に限定した。
なお、最大表面粗さ(Rmax)の下限は限定していないが、熱間圧延でレールを製造することを前提とすると、工業製造上20μm程度が下限となる。
上記限定の表面粗さが必要な範囲は、図6に示したように、レール頭部表面、レール底部表面であり、その最大表面粗さ(Rmax)が上記限定の範囲内であれば、レールの耐疲労損傷性が確保できる。
なお、最大表面粗さ(Rmax)の測定は下記の要領で行うことが望ましい。
(z1)事前処理:レール表面のスケールを酸洗またはサンドブラスト除去。
(z2)粗さ測定:JIS B 0601に準じて測定。
(z3)測定器:2次元または3次元の一般的な粗さ測定器。
(z4)測定箇所:図6に示したレール頭部表面、レール底部表面の範囲内の3箇所。
(z5)測定数:レール頭部表面、レール底部表面において、各箇所を3回測定し、その平均値(測定総数:9=3箇所×3回)を鋼レールの代表値とすることが望ましい。
(z6)測定長さ(測定1回当たり):5mm(測定面のレール長手方向)
(z7)測定条件
・スキャンスピード:0.5mm/sec
また、最大表面粗さ(Rmax)の定義は下記に示すとおりである。
(z8)最大表面粗さ(Rmax):測定基準長さにおいて高さ方向の平均値をベースに最大の谷深さ、山高さの和、JIS2001年では「Rmax」は「Rz」に名称変更。
(5)表面硬さ(SVH)と最大表面粗さ(Rmax)の比(SVH/Rmax)が3.0以上の限定理由
次に、表面硬さ(SVH)と最大表面粗さ(Rmax)の比(SVH/Rmax)が3.0以上に限定した理由について説明する。
本発明者らは、ベイナイト組織の鋼レールの疲労限応力範囲と表面硬さ(SVH)、最大表面粗さ(Rmax)の関係を詳細に調査した。その結果、鋼レールの表面硬さ(SVH)と最大表面粗さ(Rmax)の比、すなわち、SVH/Rmaxと疲労限応力範囲にはよい相関があること突きとめた。
さらに実験を進めた結果、図3に示すように、レールの頭部表面や底部表面の硬さに関係なく、表面硬さ(SVH)と最大表面粗さ(Rmax)の比、SVH/Rmaxの値が3.0以上になると、疲労限応力範囲が上昇し、疲労強度がさらに向上することを知見した。
これらの実験的事実に基づき、表面硬さ(SVH)と最大表面粗さ(Rmax)の比、すなわち、SVH/Rmaxの値を3.0以上に限定した。
(6)粗さの高さ方向の平均値に対して最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を測定長さ5mmあたり10個以下の限定理由
次に、粗さの高さ方向の平均値に対して最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を測定長さ5mmあたり10個以下に限定した理由について説明する。
本発明者らは、ベイナイト鋼レールの疲労強度を向上させるため、鋼レールの表面の粗さを詳細に調査した。その結果、粗さの高さ方向の平均値に対して最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数と疲労限応力範囲にはよい相関があることを突きとめた。
さらに実験を進めた結果、図4に示すように、いずれの硬さのベイナイト鋼レールにおいても、凹凸の数が10個以下になると、疲労限応力範囲がさらに上昇し、疲労強度が大きく向上することを知見した。
これらの実験的事実に基づき、粗さの高さ方向の平均値に対して最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を測定長さ5mmあたり10個以下に限定した。
なお、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数の上限は特に限定しないが、凹凸の数が40個を超えると疲労限応力が低下し、疲労強度が大きく低下する。したがって、凹凸の数は40個以下とすることが望ましい。
なお、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数の測定は最大表面粗さ(Rmax)の測定に準じる。
最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数は粗さデータを詳細に解析して求める。各箇所3回測定した凹凸の数の平均値(測定数:9)を鋼レールの代表値とすることが望ましい。
(7)頭部表面および底部表面の残留応力が引張200MPa〜圧縮200MPaの限定理由
次に、頭部表面および底部表面の長手方向残留応力を引張200MPa〜圧縮200MPaの範囲に限定した理由について説明する。
本発明者らは、表面硬さ(SVH)と最大表面粗さ(Rmax)の比、すなわち、SVH/Rmaxの値が3.0以上になるベイナイト鋼レールを用いて、疲労限応力範囲と残留応力の関係を詳細に調査した。その結果、ベイナイト組織の鋼レールの長手方向残留応力と疲労限応力範囲にはよい相関があること突きとめた。
さらに実験を進めた結果、図5に示したように、鋼レールの頭部表面および底部表面の残留応力が引張で200MPa以下になると、疲労限応力範囲がさらに上昇し、疲労強度がさらに向上することが知見された。
また、圧縮の残留応力は高いほど疲労限応力範囲を向上させるため、疲労強度向上には望ましい。しかし、実製造においては、さらに圧縮残留応力を増加するため、矯正での軽圧下を促進すると、レールの曲がりが制御困難となる。このため、圧縮の残留応力の上限は、実製造上、200MPa程度となる。
これらの実験的事実に基づき、頭部表面および底部表面の長手方向残留応力を引張200MPa〜圧縮200MPaの範囲に限定した。
なお、頭部表面および底部表面の長手方向(圧延方向)残留応力は、歪みゲージを用いた切断法により、レール表面から深さ10mm位置までの部分を計測した時の値である。測定方法は下記に示すとおりである。
(u1)歪みゲージ:2軸、ゲージ長2mm
(u2)歪みゲージ張付け箇所:レール頭部表面、レール底部表面
※レール頭部表面、底部表面の具体的な位置は図6の表示に従う。
(u3)測定方法:切断法
(最終切断寸法:10mm(t)×35mm(w)×25mm(L)
(u4)測定方向:レール長手方向(圧延方向)
(8)最大表面粗さを制御する製造方法について
レール表面の凹凸は熱間圧延時の圧延ロールによるスケールの素材側への押し込みにより発生し、その結果、表面の粗度が大きくなることが確認されている。
そこで、表面粗度を低下させるには、加熱炉内で生成する鋼片の一次スケール生成を軽減、除去する、また、圧延中に生成する鋼片の二次スケールを除去することが有効な手段となる。
加熱炉内で生成する鋼片の1次スケールの軽減については、加熱炉の加熱温度の軽減、保持時間の短縮、加熱炉の雰囲気制御、加熱炉から抽出した鋼片へのメカニカルデスケーリング、圧延前の高圧水やエアーでのデスケーリングが有効な手段となる。
なお、鋼片の加熱温度の軽減、保持時間の短縮については、圧延造形性確保の観点から鋼片中心部までの均一加熱を前提とすると制約が大きいため、実用的な手段としては、加熱炉の雰囲気制御、加熱炉から抽出した鋼片へのメカニカルデスケーリング、圧延前の高圧水やエアーでのデスケーリングが望ましい。
圧延中に生成する鋼片の二次スケールを除去については、各圧延前での高圧水やエアーでのデスケーリングが有効な手段となる。
(9)最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を制御する製造方法について
レール表面の大きな凹凸の数の制御は、前記の1次スケールを軽減する鋼片へのメカニカルデスケーリング、圧延前の高圧水の適用、二次スケールを除去する各圧延前での高圧水やエアーでのデスケーリングでのさらなる制御が必要である。
そこで、凹凸の数を制御するには、表面のスケールを均一に剥離させる、また、過剰なデスケーリング時に生成する新たな表面凹凸を抑制する目的から、メカニカルデスケーリング、高圧の水やエアーの噴射における噴霧媒体の寸法や投射速度や噴射圧力の制御や投射、噴射での揺動が望ましい。
以下、それぞれの条件について詳細に説明するが、以下の条件は望ましい条件であり、これらの条件に限定されるものではない。
(A)加熱炉の雰囲気制御
加熱炉の雰囲気制御については、鋼片周囲の酸素をなるべく排除し、鋼材の特性への影響がなく、安価なものとして窒素雰囲気が望ましい。加熱炉での窒素の添加量としては、体積比率で30〜80%程度が望ましい。加熱炉での窒素の体積比率が30%未満になると、加熱炉内での一次スケールの生成量が増加し、その後にデスケーリングを行っても、一次スケールの除去が不十分となり、表面粗度が増加する。また、窒素の体積比率が80%を超える添加を行っても、効果が飽和することや経済性が低下する。このため、窒素の添加量は体積比率で30〜80%程度が望ましい。
(B)メカニカルデスケーリング
鋼片へのメカニカルデスケーリングについては、一次スケールが生成しているレール用鋼片の再加熱直後にショットブラストを行うことが望ましい。ショットブラストの条件としては、下記に示す方法が望ましい。
(a)ショット材:硬球の場合
直径:0.05〜1.0mm、投射速度:50〜100m/sec、投射密度:5〜10kg/m2以上
(b)ショット材:鉄製の多角形破片(グリッド)の場合
長片寸法:0.1〜2.0mm、投射速度:50〜100m/sec、投射密度:5〜10kg/m2
(c)ショット材:アルミナおよびシリコンカーバイドからなる多角形破片(グリッド)の場合
長片寸法:0.1〜2.0mm、投射速度:50〜100m/sec、投射密度:5〜10kg/m2
上記の範囲の加熱炉の雰囲気制御、メカニカルデスケーリング、さらにはこれに引き続き、後述の高圧水やエアーでのデスケーリングを行うことにより、表面の粗度を低下させ、最大表面粗さ(Rmax)を180以下に制御することが可能となる。
なお、加熱炉の雰囲気制御、メカニカルデスケーリングは、高圧水やエアーでのデスケーリングを基本として、耐疲労損傷性の向上を狙って表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)を3.0以上に制御する、すなわち、耐疲労損傷性をさらに向上させる場合に付加的に行うことが望ましい。
(C)高圧水やエアーでのデスケーリング
高圧水やエアーでのデスケーリングについては、一次スケールが生成しているレール用鋼片の再加熱抽出直後および粗圧延中、二次スケールが生成するレール仕上げ圧延中が望ましい。高圧水やエアーでのデスケーリングの条件としては下記に示す方法が望ましい。
(a)高圧水
噴射圧力:10〜50MPa、
噴射鋼片温度 再加熱抽出直後および粗圧延中(一次スケール除去)
:1250〜1050℃
仕上げ圧延中(二次スケール除去)
:1050〜950℃
(b)エアー
噴射圧力:0.01〜0.10MPa、
噴射鋼片温度 再加熱抽出直後および粗圧延中(一次スケール除去)
:1250〜1050℃
仕上げ圧延中(二次スケール除去)
:1050〜950℃
(D)メカニカルデスケーリング、高圧の水やエアーでのデスケーリング詳細制御
表面のスケールを均一に剥離させる、また、デスケーリング時に生成する新たな表面凹凸を抑制し、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を制御するには下記の条件で行うことが望ましい。
メカニカルデスケーリングの場合では、ショット材である鋼球、鉄製の多角形破片(グリッド)、アルミナおよびシリコンカーバイドからなる多角形破片(グリッド)の寸法(直径、長さ)を微細化する、投射速度を過剰にしない等の対策が必要である。
また、高圧の水やエアーの噴射の場合は、噴霧媒体の寸法を決定する噴射孔を微細化する、噴射圧力を過剰にしない等の対策が必要である。
また、投射、噴射のノズルの揺動については、鋼片やレールの移動速度に合わせて周期的なノズルの揺動を行うことが望ましい。揺動速度は限定しないが、レール頭部表面、底部表面に相当する部位に均一に噴射媒体が当たるように制御することが望ましい。
(E)デスケーリング温度範囲
レール用鋼片の再加熱抽出直後および粗圧延でのデスケーリング温度範囲としては1250〜1050℃が望ましい。デスケーリング温度は鋼片の再加熱(1250〜1300℃)抽出直後に行うため、実質1250℃が上限となる。また、デスケーリング温度が1050℃以下になると、一次スケールが強固となり、除去が困難となる。このため、デスケーリング温度範囲としては1250〜1050℃が望ましい。
レール仕上げ圧延中のデスケーリング温度範囲としては1050〜950℃が望ましい。二次スケールは1050℃以下で生成するため、実質1050℃が上限となる。また、デスケーリング温度が950℃以下になると、レール自体の温度が低下し易くなり、特許文献3、特許文献4に示された熱処理時の熱処理開始温度が確保できず、レールの硬度が低下し、耐疲労損傷性が大きく低下する。このため、デスケーリング温度範囲としては1050〜950℃が望ましい。
(F)デスケーリング回数
再加熱抽出直後および粗圧延での一次スケール除去を十分に行うには、圧延直前にデスケーリングを4〜12回程度行うことが望ましい。デスケーリングが4回未満になると、一次スケールが十分に除去できず、スケールの素材側への押し込みにより発生し、表面の粗度が大きくなる、即ち、Rmaxを180以下に制御することが困難となる。一方、デスケーリングが12回を超えると、レール表面の粗さは小さくなるが、レール自体の温度が低下し、特許文献3、特許文献4に示された熱処理時の熱処理開始温度が確保できず、レールの硬度が低下し、耐疲労損傷性が大きく低下する。このため、再加熱抽出直後および粗圧延でのデスケーリング回数は4〜12回行うことが望ましい。
仕上げ圧延での二次スケール除去を十分に行うには、圧延直前にデスケーリングを3〜8回程度行うことが望ましい。デスケーリングが3回未満になると、二次スケールが十分に除去できず、スケールの素材側への押し込みにより発生し、表面の粗度が大きくなる。一方、デスケーリングが8回を超えると、レール表面の粗さは小さくなるが、レール自体の温度が低下し、特許文献3、特許文献4に示された熱処理時の熱処理開始温度が確保できず、レールの硬度が低下し、耐疲労損傷性が大きく低下する。このため、仕上げ圧延でのデスケーリング回数は3〜8回行うことが望ましい。
なお、耐疲労損傷性のさらなる向上を狙って表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)を3.0以上に制御するには、デスケーリングを粗圧延温度1200〜1050℃で8〜12回、仕上げ圧延温度1050〜950℃で5〜8回のデスケーリングを行うことが望ましい。
デスケーリングを行う部位としては、レール圧延用鋼片において、レール頭部表面、底部表面に相当する位置に行うことが望ましい。それ以外の部位については、積極的なデスケーリングを行っても耐疲労損傷性の向上は望めず、レールが過剰に冷却され、逆にレールの材質を悪化させる懸念がある。
表3−1、表3−2に熱間圧延時の加熱炉雰囲気制御の有無、メカニカルデスケーリングの有無、再加熱抽出直後、粗圧延、仕上げ圧延でのデスケーリングの条件、高圧水エアー及びメカデスケ制御の有無、熱処理開始温度、熱処理の有無、軽圧下矯正の有無と鋼レールの諸特性の関係を示す。雰囲気制御、メカニカルデスケーリングや高圧水やエアーでのデスケーリングをある一定の条件で行い、必要に応じて適切な熱処理を行うことにより、レール頭部表面、底部表面の硬さを確保し、最大表面粗さ(Rmax)を小さくし、さらに、メカニカルデスケーリングや高圧の水やエアーでのデスケーリングを制御し、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を抑制し、矯正の圧下を制御し、残留応力を抑制することにより、レールの耐疲労損傷性を大きく向上させることができる。
(10)残留応力を制御する製造方法について
熱処理後のレールの曲がりを抑制し、ローラー矯正での圧下量を抑制する。さらには、ローラー矯正での圧下を制御することが望ましい。熱処理後のレールの曲がりを抑制する方法としては、特許文献4に記載されているような方法で圧延後のレールに制御冷却を行うことにより、熱処理後のレールの曲がりを抑制し、残留応力の軽減が可能となる。さらに、ローラー矯正での制御については、特許文献5、特許文献6等に記載されているような小径ロールによる軽圧下矯正により、残留応力を軽減することが可能となる。
なお、残留応力の制御については、引張残留応力を軽減、さらには、圧縮に制御することが望ましい。具体的には、上記に述べたように、頭部表面および底部表面の長手方向残留応力を引張200MPa〜圧縮200MPaに制御する。
表3−1、表3−2にローラー矯正時の軽圧下矯正の有無と鋼レールの諸特性の関係を示す。圧延中のデスケーリングに加えて、軽圧下矯正を行うことにより、レール頭部表面、底部表面の残留応力が軽減し、レールの耐疲労損傷性をさらに向上させることができる。
次に、本発明の実施例について説明する。
表1−1、表1−2に供試レール鋼の化学成分と諸特性を示す。表1−1、表1−2には、化学成分値、レール頭部表面、底部表面のミクロ組織、表面硬さ(SVH)、最大表面粗さ(Rmax)、表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を示す。さらに、図7に示す方法で行った疲労試験の結果も併記した。
表2に比較レール鋼の化学成分と諸特性を示す。表2には、化学成分値、レール頭部表面、底部表面のミクロ組織、表面硬さ(SVH)、最大表面粗さ(Rmax)、表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を示す。さらに、図7に示す方法で行った疲労試験の結果も併記した。
表1−1、表1−2、表2に記載のレールは、(A)加熱炉の雰囲気制御、(B)メカニカルデスケーリング、(C)高圧水やエアーでのデスケーリングを選択的に実施したものである。
高圧水やエアーでのデスケーリングは、粗圧延温度1250〜1050℃で4〜12回、仕上げ圧延温度1050〜950℃で3〜8回実施した。
圧延後の熱処理については、特許文献3、特許文献4等に記載されているような圧延後に加速冷却を実施した。
なお、本発明レールの符号A1〜A8、比較レールの符号a1〜a8については、雰囲気制御なし、メカニカルデスケなし、粗圧延温度1250〜1050℃で6回、仕上げ圧延温度1050〜950℃で4回の高圧水やエアーでのデスケーリングを行い、圧延後に、特許文献3、特許文献4等に記載されているような加速冷却を行い、一定の条件で製造し、成分の影響を調査した。
Figure 2011063880
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また、表3−1、表3−2には表1に記載の鋼の製造条件と諸特性を示す。表3−1、表3−2には、熱間圧延時の加熱炉雰囲気制御の有無、メカニカルデスケーリングの有無、再加熱抽出直後、粗圧延、仕上げ圧延でのデスケーリング温度域や回数、高圧水エアー及びメカデスケ制御の有無、熱処理開始温度、熱処理の有無、軽圧下矯正の有無、レール頭部表面、底部表面のミクロ組織、表面硬さ(SVH、最大表面粗さ(Rmax)、表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数、長手方向の残留応力の値を示す。さらに、図7に示す方法で行った疲労試験の結果も併記した。
また、各種試験条件は下記のとおりである。
<疲労試験>
●レール形状:136ポンドレール(67kg/m)
●疲労試験(図7参照)
試験方法:実物レール3点曲げ(スパン長:1m、周波数:5Hz)
荷重条件:応力範囲制御(最大−最小、最小荷重は最大荷重の10%)
●試験姿勢(図7参照)
頭部表面の試験:底部に荷重負荷(頭部に引張応力作用)。
底部表面の試験:頭部に荷重負荷(底部に引張応力作用)。
●繰り返し回数:200万回、未破断の場合の最大応力範囲を疲労限応力範囲とする。
(1)本発明レール(74本)
符号A1〜A74:化学成分値、レール頭部表面、底部表面のミクロ組織、表面硬さ(SVH)、最大表面粗さ(Rmax)の値が本願発明範囲内のレール。
符号A10、A19、A32、A51、A59:化学成分値、レール頭部表面、底部表面のミクロ組織、表面硬さ(SVH)、最大表面粗さ(Rmax)に加えて、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数が本願発明範囲内のレール。
符号A11、A12、A16、A17、A20、A21、A24、A25、A27、A28、A33、A34、A37、A39、A42、A43、A47、A48、A52、A53、A55、A56、A60、A61、A64、A65、A68、A69、A71、A72:化学成分値、レール頭部表面、底部表面のミクロ組織、表面硬さ(SVH)、最大表面粗さ(Rmax)に加えて、表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値が本願発明範囲内のレール。
符号A13、A22、A38、A44、A62:化学成分値、レール頭部表面、底部表面のミクロ組織、表面硬さ(SVH)、最大表面粗さ(Rmax)、表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値に加えて、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数が本願発明範囲内のレール。
なお、表1−1、表1−2、表2に記載の表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値が3.0以上のレールは、(A)加熱炉の雰囲気制御、(B)メカニカルデスケーリング、(C)高圧水やエアーでの圧延中のデスケーリングを選択的に実施したものである。
特に、高圧水やエアーでのデスケーリングでは、その回数を増やし、粗圧延温度1250〜1050℃で8〜12回、仕上げ圧延温度1050〜950℃で5〜8回のデスケーリングを行い、その後、特許文献2、特許文献3等に記載されているような圧延後加速冷却を実施した。
(2)比較レール(28本)
符号a1〜a8:化学成分が本願発明範囲外のレール。
符号a9〜a28:レール頭部表面、底部表面の表面硬さ(SVH)、最大表面粗さ(Rmax)の値が本願発明範囲外のレール。
表1−1、表1−2、表2に示すように、本発明レール鋼(鋼:A1〜A74)は、比較レール鋼(鋼:a1〜a8)と比べて、鋼のC、Si、Mn、Crの化学成分を限定範囲内に収めることにより、耐疲労損傷性に悪影響する初析フェライト組織、マルテンサイト組織を生成させることなく、レール頭部表面、底部表面に一定の硬さ範囲内のベイナイト組織を安定的に得、レールに必要な疲労強度(疲労限応力範囲300MPa以上)を確保し、レールの耐疲労損傷性を向上させることが可能となる。
また、表1−1、表1−2、表2に示すように、本発明レール鋼(鋼:A1〜A74)は、比較レール鋼(鋼:a9〜28)と比べて、レール頭部表面、底部表面に安定的に一定の硬さ範囲内のベイナイト組織を得、さらに、最大表面粗さ(Rmax)を安定的に一定の範囲内に納めることにより、レールに必要な疲労強度(疲労限応力範囲300MPa以上)を確保し、レールの耐疲労損傷性を向上させることが可能となる。
図8に本発明レール鋼(鋼:A9、A11〜A12、A14〜A18、A20〜A21、A23〜A31、A33〜A37、A39〜A43、A45〜A50、A52〜A58、A60〜A61、A63〜74)のレール頭部の表面硬さと疲労限応力範囲の関係を表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値で区別して示す。
図9に本発明レール鋼(鋼:A9、A11〜A12、A14〜A18、A20〜A21、A23〜A31、A33〜A37、A39〜A43、A45〜A50、A52〜A58、A60〜A61、A63〜74)のレール底部の表面硬さと疲労限応力範囲の関係を表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値で区別して示す。
図8、図9に示すように、本発明レール鋼は、表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値を一定範囲内に納めることにより、ベイナイト組織を呈したレールの疲労強度(疲労限応力範囲)をさらに向上させ、耐疲労損傷性を向上させることができる。
図10に本発明レール鋼(鋼:A9〜A10、A12〜A13、A18〜A19、A21〜A22、A31〜A32、A37〜A38、A43〜A44、A50〜A51、A58〜A59、A61〜A62)のレール頭部の表面硬さと疲労限応力範囲の関係を最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数で区別して示す。
図11に本発明レール鋼(鋼:A9〜A10、A12〜A13、A18〜A19、A21〜A22、A31〜A32、A37〜A38、A43〜A44、A50〜A51、A58〜A59、A61〜A62)のレール底部の表面硬さと疲労限応力範囲の関係を最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数で区別して示す。
図10、図11に示すように、本発明レール鋼は、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を一定範囲内に納めることにより、ベイナイト組織を呈したレールの疲労強度(疲労限応力範囲)をより一層向上させ、耐疲労損傷性を大きく向上させることができる。
また、表3−1、表3−2に示すように、雰囲気制御、メカニカルデスケーリングや高圧水やエアーでのデスケーリングをある一定の条件で行い、必要に応じて適切な熱処理を行うことにより、レール頭部表面、底部表面の硬さを確保し、さらに、最大表面粗さ(Rmax)を小さくし、表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値、さらには、メカニカルデスケーリングや高圧の水やエアーでのデスケーリングを制御し、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を一定範囲内に納めることにより、ベイナイト組織を呈したレールの疲労強度(疲労限応力範囲)をより一層向上させ、耐疲労損傷性を大きく向上させることができる。
さらに、表3−1、表3−2に示すように、最大表面粗さ(Rmax)を小さくし、必要に応じて、表面硬さ(SVH)/最大表面粗さ(Rmax)の値を制御し、さらには、最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数を一定範囲内に納め、適切な軽圧下矯正を行うことにより、長手方向の残留応力を軽減し、レールの耐疲労損傷性を大きく向上させることができる。
1:頭頂部、
2:頭部コーナー部、
3:足裏部

Claims (14)

  1. 質量%で、C:0.15〜0.45%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.10〜2.00%、Cr:0.10〜2.00%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、該鋼レールの頭部表面および底部表面それぞれの少なくとも一部がベイナイト組織であり、かつ、前記少なくとも一部の表面硬さ(SVH)がHv280〜480の範囲であり、前記少なくとも一部の最大表面粗さ(Rmax)が200μm以下であることを特徴とするベイナイト系レール。
  2. 請求項1に記載の鋼レールにおいて、表面硬さ(SVH)と最大表面粗さ(Rmax)の比(SVH/Rmax)が3.0以上であることを特徴とするベイナイト系レール。
  3. 請求項1〜2のいずれか1項において、前記最大表面粗さを測定した部位において、高さ方向の平均値に対して最大表面粗さの0.30倍を超える凹凸の数が測定長さ5mmあたり10個以下であることを特徴とするベイナイト系レール。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項において、該鋼レールの頭部表面および底部表面それぞれの残留応力が引張200MPa〜圧縮200MPaの範囲にあることを特徴とするベイナイト系レール。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項において、質量%で、さらに、Mo:0.01〜1.00%を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項において、質量%で、さらに、B:0.0001〜0.0050%を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項において、質量%で、さらに、V:0.005〜0.50%、Nb:0.002〜0.050%の1種または2種を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項において、質量%で、さらに、Ni:0.05〜1.00%を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項において、質量%で、さらに、Cu:0.05〜1.00%を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
  10. 請求項1〜9のいずれか1項において、質量%で、さらに、Co:0.01〜1.00%を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項において、質量%で、さらに、Ti:0.0050〜0.0500%を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
  12. 請求項1〜11のいずれか1項において、質量%で、さらに、Mg:0.0005〜0.0200%、Ca:0.0005〜0.0200%の1種または2種を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
  13. 請求項1〜12のいずれか1項において、質量%で、さらに、Al:0.0040〜0.0300%を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
  14. 請求項1〜13のいずれか1項において、質量%で、さらに、N:0.0060〜0.0200%を含有することを特徴とするベイナイト系レール。
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