JP2011038850A - 温度補償型てんぷ及びこれを有する機械式時計 - Google Patents

温度補償型てんぷ及びこれを有する機械式時計 Download PDF

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勝也 麦島
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幸一郎 重城
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Abstract

【課題】温度依存性を確実に低減し易い温度補償型てんぷ構造体及びこれを備えた機械式時計を提供すること
【解決手段】機械式時計8の温度補償型てんぷ構造体1は、熱膨張係数が負の材料からなる無端リングの形態のリム部11を備えたてん輪本体10を有するてん輪3を具備する。てん輪3がてん輪本体10に加えて、該てん輪本体10のリム部11のの周方向に間隔をおいて該てん輪本体10に装着された複数の重錘部材30,30,30,30であっててん輪本体10よりも密度の大きい材料からなるものを有する。典型的には、てん輪本体10のリム部11が、円弧状溝部14を周方向に間隔をおいて備え、各重錘部材30が各円弧状溝部14に嵌る円弧状形状を有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、温度補償型てんぷ及びこれを有する機械式時計に係る。
てんぷを構成するてん輪の往復回動の角振動数をω、ひげぜんまいの弾性定数をMhs、てん輪の慣性モーメントをIbとすると、てんぷを構成するてん輪の周期Tは
T=2π/ω〜(Ib/Mhs)1/2 (式1)
と表され、ひげぜんまいの長さをLhs1,幅をLhs2,厚さをLhs3とし、ひげぜんまいのヤング率をEhsとすると、てん輪の往復回動に係るひげぜんまいの弾性結合定数Mhsは[Ehs・Lhs2・(Lhs3)3]/[12・Lhs1]であるから、弾性定数Mは、Mhs〜Ehs・(Lhs)3と表され、てん輪の慣性モーメントIbは、Ib〜m・(Lb)2と表されるので、てん輪の周期Tは
T〜(Ib/Mhs)1/2〜[[m・(Lb)2]/[Ehs・(hs)3]]1/2 (式2)
と表される。ここで、(Lhs)は長さのディメンジョンでのひげぜんまいのサイズ、(Lb)は長さのディメンジョンでのてん輪のサイズ、mはてん輪の質量を表す。
従って、ひげぜんまいの線膨張係数をα1、てん輪の線膨張係数をα2、ひげぜんまいのヤング率の温度係数をβとすると、てん輪の周期Tのうち温度の一次の項は、(2α2−3α1−β)に比例する。
すなわち、機械式時計では、てんぷの周期Tの温度依存性は
[2α2−3α1−β] (式3)
により規定されるので、てんぷ振動の温度依存性をなくす(最低限に抑える)には、この(式3)の値が極力ゼロ(0)に近付くようにする必要がある。
なお、通常用いられる鋼材料では、ひげぜんまいのヤング率の温度係数βは負であって絶対値が比較的(相対的に)大きい。
従来の温度補償型てんぷ、即ち、てんぷ振動の温度依存性を抑えた従来のてんぷとしては、二種類のものがある。
従来の第一のタイプの温度補償型てんぷは、てん輪を完全な閉ループをなす円形にする代わりに、てん輪を二箇所で分断された円弧状にすると共に各円弧状てん輪部をバイメタルで形成し、更に、各円弧状てん輪部の一端をてんぷの半径方向延在腕部に固定し、各円弧状てん輪部の他端側を自由端とした構造を有する。(非特許文献1)
温度が上がると通常は熱膨張によりサイズが大きくなっててん輪の実効的な慣性モーメントが増大するのに対して、この非特許文献1に示された温度補償型てんぷでは、温度が上がるとバイメタルが曲がるので円弧状てん輪部の自由端がてんぷの径方向内側に曲がっててん輪の実効的な慣性モーメントを低減させ、例えば、ひげぜんまいの温度依存性βと相殺する程度に慣性モーメントを変化させる。換言すれば、非特許文献1の温度補償型てんぷにおいては、上記バイメタル式のてん輪は、上記(式3)のうち線膨張係数α2があたかも負であるかの如き挙動を示し、てんぷ振動の温度依存性を最低限に抑える。
しかしながら、このバイメタル式のてん輪の場合、慣性モーメントの温度依存性が高精度に適切になるように二種の材料を選び組合せることは容易でない。また、てん輪が二箇所で切断された円弧状であるので、アンバランスが大きくなるのを避け難かった。従って、バイメタル式のてん輪の場合、実際には、非特許文献1にも示されているように、各円弧状てん輪部にいわゆるチラねじが多数取付けられていて、該チラねじを調整して、てん輪のバランス等を調整する必要があり、結局のところ、温度補償に極めて手間がかかり、回転対称性の低下及び空気抵抗の増大等に伴いてんぷ性能の低下を招く虞れもあった。
従来の第二のタイプの温度補償型てんぷでは、通常用いられる鋼系の材料(ヤング率の温度係数βが負であって絶対値が比較的(上記の(式3)において相対的に)大きい)と異なり、「ヤング率の温度依存性ないし温度係数βが実際上ゼロになる」いわゆる恒弾性材料(典型的にはエリンバーの如き合金材料)をひげぜんまいとして用いてβ〜0とし、てん輪の線膨張係数α2とひげぜんまいの線膨張係数α1とを相殺させる(即ち、[2α2−3α1]〜0とする)ことにより、上記の(式3)を実際上満足させようとする。
しかしながら、エリンバーの如き恒弾性材料の場合、溶解の際の組成や熱処理などの加工条件によって、ヤング率の温度係数βが大きく変化する虞れがあるので、厳密な製造管理を要し、ひげぜんまいの製造が容易でなかった。
なお、セラミック材料であるけれども、負の熱膨張係数を有する材料として、逆ペロブスカイト構造を有するMn3Cu1-xGexN(xは例えば0.45〜0.5程度)やMn3Cu1-xSnxN(xは例えば0.45〜0.5程度)の如きマンガン複合窒化物が近年発見されている(例えば、非特許文献2)。
スイス時計大学編「時計学理論(The Theory of Horology)」英語版第2版,2003年4月,p137 「負膨張性Mn窒化物」株式会社高純度化学研究所,2007年10月,インターネット(URL: http://www.kojundo.co.jp/Japanese/Topics/topics/etc10.html)
本発明は前記諸点に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、温度依存性を確実に低減し易い温度補償型てんぷ構造体及びこれを備えた機械式時計を提供することにある。
本発明の温度補償型てんぷ構造体は、前記目的を達成すべく、無端リングの形態のリム部を備え熱膨張係数が負の材料からなるてん輪本体を有するてん輪を具備する。
本発明の温度補償型てんぷ構造体では、「てん輪が、無端リングの形態のリム部を備え熱膨張係数が負の材料からなるてん輪本体を有する」ので、温度が上がるとてん輪本体が収縮して(負の熱膨張をして)、てん輪の慣性モーメントが小さくなり、てんぷ構造体の振動(往復回動)の周期Tを短くすべく働く。
従って、本発明の温度補償型てんぷ構造体では、ひげぜんまいとして鋼系等の通常の材料(温度上昇に伴ってヤング率が低下し且つ正の熱膨張をする材料)を用いた場合に、拮抗するけれどもてんぷ構造体の振動の周期Tを長くする要因(ヤング率の温度係数)が勝り易い状況下でも、てんぷ構造体の振動の周期Tの上昇を抑え、該周期Tの温度依存性を最低限に抑え得る。
すなわち、本発明の温度補償型てんぷ構造体では、てんぷの周期Tの温度依存性[2α2−3α1−β](ここで、α1はひげぜんまいの線膨張係数、α2はてん輪の線膨張係数、βはひげぜんまいのヤング率の温度係数)において、α2が負になるので、ひげぜんまいのヤング率の温度係数βが比較的大きな負の値を採っても、βと[2α2−3α1]とが同程度の値になって相殺し、[2α2−3α1−β]を実際上ゼロに近い値にし得、てんぷ構造体の振動ないし往復回動の周期Tの温度依存性を最低限に抑え得る。
本発明の温度補償型てんぷ構造体では、典型的には、てん輪が、てん輪本体に加えて、該てん輪本体のリム部の周方向に間隔をおいててん輪本体に装着された複数の重錘部材であっててん輪本体よりも密度(単位体積当りの質量)の大きい材料からなるものを有する。
その場合、てん輪本体を構成する熱膨張係数が負の材料が密度の小さい材料(例えば、5〜6g/cm3程度のセラミック材料)である場合には、重錘部材が正の熱膨張係数を有する通常の材料であっても、例えば温度に伴って重錘部材自体が熱膨張しても、てん輪本体の熱収縮(負の熱膨張)に伴うてん輪本体の無端リング形態のリム部の径小化に応じて重錘部材が径方向内向きに変位される。すなわち、てん輪本体及び重錘部材からなるてん輪があたかも全体として負の熱膨張係数を有する材料からなるかの如く振舞い(径方向内向きに変位され)、てんぷ構造体の振動(往復回動)の周期Tの温度依存性を最低限に抑え得る。ここで、温度上昇に伴うてん輪本体の収縮(負の熱膨張)に応じて重錘部材が径方向内向きに変位され得るのは、複数の重錘部材が相互に間隔をおいててん輪本体のリム部に配置されていることによる。
特に、この場合、重錘部材として、例えばタングステン(常温で19.3g/cm3程度)の如く密度の高い金属材料若しくは同様に密度の高い合金材料を用いたり、又はタングステン程ではないけれどもセラミック材料と比較して十分に密度が高い金属若しくは合金材料を用いたりすることが一つの有力な選択肢として考慮され得る。使用が期待される場合には、高密度材料は、白金等の貴金属又は同合金材料であってもよい。これらの場合、てん輪本体及び複数の重錘部材からなるてん輪の慣性モーメントとしてある程度の大きさを確保しつつ、てん輪構造体の径を極力小さくして往復振動の際の空気抵抗を最低限に抑え得、てんぷ構造体の往復振動(回動)の際のエネルギロスを最低限に抑え得る。
てん輪本体を構成する熱膨張係数が負の材料としては、典型的には、逆ペロブスカイト構造を有するMn3Cu1-xGexN(xは例えば0.45〜0.5程度だが、処理方法などにもよる)やMn3Cu1-xSnxN(xは例えば0.45〜0.5程度だが、処理方法などにもよる)の如きマンガン複合窒化物が用いられる。但し、他のセラミック材料でもセラミック以外の材料でもよい
本発明の温度補償型てんぷ構造体は、典型的には、てん輪本体のリム部が、円弧状溝部を周方向に間隔をおいて備え、前記複数の重錘部材の夫々が各円弧状溝部に嵌る円弧状形状を有する。
その場合、円弧状の各重錘部材がてん輪本体のリム部の対応する円弧状溝部に嵌って該溝部内で支持され、温度変化に伴う該円弧状溝部の変位に応じて変位され得る。
本発明の温度補償型てんぷ構造体では、典型的には、円弧状溝部の間の間隙が、てん輪本体のうちてん真とてん輪本体のリム部とを半径方向につなぐアーム部の径方向延長上に位置する。
その場合、てん輪全体として周方向の質量分布が最大限一様化され得、てん輪の往復振動(回動)が最大限安定化され得る。但し、各重錘部材をリム部の対応する溝部で強固に支える必要があるような場合には、該溝部の長手方向の中央部がアーム部の径方向延長上に位置し、円弧状溝部間の周方向の間隙がアーム部の径方向延長上から周方向に離れた箇所に位置していてもよい。
本発明の温度補償型てんぷ構造体では、典型的には、前記てん輪本体のリム部が各円弧状溝部の底壁のうち各溝部を構成する円弧の中間部に穴部を備え、各重錘部材が該穴部に嵌る小凸部を備える。
その場合、各重錘部材がてん輪本体に確実に保持され得、リム部の各穴部に小凸部で嵌った(係合した)重錘部材が温度変化に伴う穴部の概ね半径方向の変位に実際上従って確実に半径方向に変位され得、てん輪の往復振動の際にてん輪本体のリム部に対する重錘部材の位置ずれが生じる虞れが少ない。なお、てん輪本体を構成する材料の脆さ等の虞れを考慮する必要がない場合には、溝部の底壁が穴部の代わりに小凸部を備え、該小凸部が嵌る孔部を重錘部材が備えていてもよい。
本発明の温度補償型てんぷ構造体では、典型的には、前記てん輪本体のリム部が円弧状溝部を周方向に間隔をおいて備え、前記複数の重錘部材の夫々が逆U字状の横断面を有し、該「逆U」の凹部がリム部の各溝部を構成する一対の側壁のうち一方の側壁に嵌り、且つ該「逆U」を形成する一対の脚部のうちの一方の脚部がリム部の各溝部に嵌るように構成される。ここで、各溝部のところにおけるリム部の径方向断面は、概ね「U字状」である。
この場合も、各重錘部材がてん輪本体のリム部の対応する部位に係合して支持され、また、温度変化に伴うてん輪本体のリム部の対応部位の変位に応じて変位され得る。
本発明の温度補償型てんぷ構造体では、典型的には、前記各重錘部材の逆U字状の横断面を形成する前記一対の脚部のうち半径方向内側の脚部がリム部の溝部に嵌っている。その場合、重錘部材としてタングステンの如き高密度材料を用いることにより、重錘部材の密度に起因する慣性モーメントを最大限に高め得るから、てん輪構造体の径を極力小さくし得る。但し、所望ならば、前記各重錘部材の逆U字状の横断面を形成する前記一対の脚部のうち半径方向外側の脚部がてん輪本体のリム部の溝部に嵌っていてもよい。
本発明の温度補償型てんぷ構造体では、典型的には、前記てん輪本体のリム部が、径方向の中間部に周方向に間隔をおいて円弧状凸部を備え、前記複数の重錘部材の夫々が各円弧状凸部に嵌る円弧状溝部を有する。
この場合も、各重錘部材がてん輪本体の対応する部位に係合して支持され、また、温度変化に伴うてん輪本体の対応部位の変位に応じて変位され得る。
本発明の温度補償型てんぷ構造体では、典型的には、前記てん輪本体のリム部が各円弧状凸部の頂壁のうち円弧の中間部に更に突出した小凸部を備え、各重錘部材が該小凸部に嵌る穴部を備える。
その場合、各重錘部材がてん輪本体のリム部に確実に保持され得、てん輪の往復振動の際に重錘部材がてん輪本体のリム部に対して相対変位する虞れが少ない。但し、てんぷ本体が脆いような場合には、リム部の各円弧状突部が小凸部の代わりに穴部を備え、書く重錘部材が該穴部に係合する小凸部を備えていてもよい。
本発明の機械式時計は、上述のような温度補償型てんぷ構造体を備える。
その場合、温度依存性が確実に低減され、てんぷが温度にかかわらず一定周期で振動され得る。従って、機械式時計が温度変化にかかわらず正確な時を刻み得る。
本発明の好ましい一実施例のてんぷ構造体を示したもので、(a)は本発明の好ましい一実施例の機械式時計のてんぷ構造体の斜視説明図、(b)は(a)のIB−IB線断面説明図。 図1のてんぷ構造体のてん輪を示したもので、(a)はてん輪(及びてん真)の斜視説明図、(b)は(a)のてん輪の平面説明図。 図2のてん輪の一部(約1/4の部分)を拡大して示したもので、(a)は基準の温度(典型的には常温)における図2のてん輪の一部の平面説明図、(b)は(a)の状態と比較して温度がより高い状態における図2のてん輪の一部の平面説明図。 図2及び図3のてん輪及び変形例のてん輪の断面を示したもので、(a)は図3の(a)のIVA−IVA線断面説明図、(b)は図3の(a)のIVB−IVB線断面説明図、(c)は変形例のてん輪についての(a)と同様な断面説明図、(d)は別の変形例のてん輪についての(b)と同様な断面説明図。
次に、本発明の好ましい一実施の形態を添付図面に示した好ましい一実施例に基づいて説明する。
本発明の好ましい一実施例の機械式時計8のてんぷ構造体1は、図1の(a)及び(b)に示したように、てん真2及び該てん真2に固定されたてん輪3と、てん真2に取付けられたひげ玉4に内周端部5aで固定されたひげぜんまい5と、該ひげぜんまい5の外周端部5bを支えるひげ持6と、該ひげ持6と協働してひげぜんまい5の実効的な外周端部5cを規定する緩急針7を有する。
てんぷ構造体1において、てん輪3は、端部5a,5c間において渦巻状ばねとして働くひげぜんまい5の作用下で、てん真2の回転中心軸線CのまわりでC1,C2方向に往復回動される。
このてんぷ構造体1のてん輪3の往復振動(回動)の周期Tは、前述の(式1)、すなわち、
T=2π/ω〜(Ib/Mhs)1/2 (式1)
(但し、ωはてんぷ構造体1を構成するてん輪3の角振動数、Mhsはひげぜんまい5の弾性結合定数、Ibはてん輪3の慣性モーメント)で規定され、該周期Tの温度依存性は、前述の(式3)、すなわち、
[2α2−3α1−β] (式3)
(但し、α1はひげぜんまい5の線膨張係数、α2はてん輪3の線膨張係数、βはひげぜんまい5のヤング率の温度係数)によって規定される。
てん輪3は、図1の(a)及び(b)に加えて、そのてん輪3の部分を拡大して示した図2の(a)及び(b)からわかるように、てん輪本体10と四つの重錘部材30とからなる。てん輪本体10は、無端円形リングの形態のリム部11と、中央のボス部12と、リム部11とボス部12との間で半径方向に延びた複数のアーム部13とを有する。この例では、てん輪本体10は、相互に90度ズレた状態を採る四本のアーム部13を有する。重錘部材30は、二つ以上であれば、二つ又は三つでも五つ以上でもよい。
てん輪本体10は、熱膨張係数が負の材料からなる。この負の熱膨張材料としては、典型的には、逆ペロブスカイト構造を有するMn3Cu1-xGexN(xは例えば0.45〜0.5程度だが、処理方法などにもよる)やMn3Cu1-xSnxN(xは例えば0.45〜0.5程度)の如きマンガン複合窒化物が用いられる。但し、他のセラミック材料でもセラミック以外の材料でもよい。なお、ここで、熱膨張係数が負であるとは、てんぷ構造体1の通常の使用温度範囲において、熱膨張係数が負であることをいい、典型的には、例えば、5℃〜40℃程度の温度範囲において熱膨張係数が負であることをいう。
リム部11は、図1の(a)及び(b)並びに図2の(a)及び(b)に加えてその一部を拡大して示した図3の(a)並びに図4の(a)及び(b)からわかるように、周方向に間隔をおいて四つの円弧状溝部14A,14B,14C,14D(相互に区別しないとき又は総称するときは符号14で表す)を、一方の環状面15に備える。隣接する円弧状溝部14,14の間の溝14のない部分即ち間隙16は半径方向に延びたアーム部13の延長上に位置する。各円弧状溝部14の底壁14aの円弧の延在方向(周方向)の中間部には、係合穴部17(図4の(b))が形成されている。係合穴部17は、各溝部14について周方向の一箇所だけではなくて周方向の複数箇所に形成されていてもよい。
てん輪本体10の溝14A,14B,14C,14Dには、金属材料からなる円弧状の重錘部材30A,30B,30C,30D(相互に区別しないとき又は総称するときは符号30で表す)が嵌合されている。なお、各重錘部材30は、図4の(b)からわかるように、円弧状本体部31に加えて溝部14の穴部17に嵌合される小凸部32を該円弧状本体部31と一体的に有する。
各重錘部材30は、例えば、真鍮やステンレス鋼の如き通常の金属材料(合金を含む)からなる。但し、所望ならば、タングステンその他の高密度金属材料であってもよい。
各重錘部材30の周方向の長さLwpは、各溝14の周方向の長さLgpよりも多少短く、常温ないし室温程度の状態においては、各溝14の両端と各重錘部材30の両端との間には、間隙Gp(図2の(a)及び(b)並びに図3の(a)等)が形成されている。なお、各重錘部材30の幅ないし半径方向の長さLwrは、図3の(a)に誇張して示したように、各溝14の幅ないし半径方向の長さLgrよりも少し小さく、常温ないし室温程度の状態においては、各溝14の内外の側壁と各重錘部材30の内外の側面との間には、間隙Gri,Greが形成されている。
例えば、てんぷ構造体1の温度が上がった場合(常温より高い条件下でてんぷ構造体1を使用する場合)、負の熱膨張係数α2の材料からなるてん輪本体10が多少収縮(負の熱膨張)し、正の熱膨張係数の材料からなる重錘部材30が多少膨張する。但し、各重錘部材30は小凸部32で対応する溝部14の穴部17に係合されているので、当該部位32,17間の相対位置が保たれる。
その結果、てんぷ構造体1の温度が常温よりも上がると、図3の(b)に誇張して示したように、各溝14の両端と各重錘部材30の両端との間における間隙Gpが図3の(a)の場合よりも小さくなり、各溝14の内外の側壁と各重錘部材30の内外の側面との間隙Gri,Greについては、内側間隙及び外側間隙Gri,Greが小さくなる。
ここで、てん輪本体10の長手方向の熱収縮(負の熱膨張)及び重錘部材30の長手方向の熱膨張は、間隙Gpの減少によって吸収される。
なお、図3の(a)及び(b)では、特に間隙Gri,Greについては大きく誇張して示してあり、実際には、間隙Gri,Greは、10〜20μm程度又はそれ以下の大きさで、温度変化に応じた傾向は上述のとおりであるけれども、重錘部材30が過度の圧縮応力等を受けることなく内外周の側面で溝14の内外の側壁に概ね軽く摩擦係合した状態が保たれる。すなわち、てん輪3が中心軸線CのまわりでC1,C2方向に往復回動しても、小凸部32で穴部17に係合され且つ円弧状内外周面で溝部14の側壁に軽く摩擦係合された重錘部材30は、てんぷ構造体1の振動特性を乱すことなく、てん輪本体10に対して不動に保たれ得る。
以上のように温度が上昇する状況において、負の熱膨張係数α2の材料からなるてん輪本体10は収縮し該てん輪本体10のアーム部13及びリム部11の径が小さくなる。一方、温度上昇に伴い各重錘部材30自体は熱膨張するけれども、該重錘部材30は凸部32でリム部11の対応溝部14の穴部17に係合されてリム部11の対応する円弧状溝部14内に位置決めされているので、温度上昇に伴うアーム部13及びリム部11の径小化に応じて、(半径方向外側ではなくて)半径方向内側に変位する(大まかには、温度変化に伴う各円弧状溝部14の穴部17の位置の変化(半径方向内側への変位)に応じて凸部32で該穴部17に嵌合した重錘部材30が半径方向内側に変位する。その結果、温度上昇に伴いてん輪本体10と重錘部材30とからなるてん輪3の慣性モーメントは低下する。
従って、前記の(式3)すなわち[2α2−3α1−β]の値が実際上0になるので、温度変化があっても、てん輪3の振動(往復回動)の周期Tは、実際上一定に保たれ得る。
以上において、てん輪本体10は、単一材料で形成され得るので、高精度に所望形状に成形され得る。従って、例えば、ひげぜんまい5に対して弾性及び熱膨張の両面で厳密な特性(従って厳密な合金組成及び加工)を要求しなくてもよくなるので、てんぷ構造体1に所望特性を付与し易い。
なお、温度上昇(又は低下)に応じててん輪本体10のリム部11等が収縮(又は膨張)しても、複数の重錘部材30の夫々がリム部11の関連部位に対して実際上相対変位することなく膨張(又は収縮)し得る限り、てん輪本体10のリム部11と重錘部材30との係合は、例えば、図4の(c)や(d)に示したように、異なる形態の係合であってもよい。
すなわち、例えば、図4の(c)に示したように、てん輪3Jのてん輪本体10Jのリム部11Jが図4の(a)等に示したリム部11の溝部14と概ね同様であるけれども深さがより深い円弧状中間凹部41を円弧状溝部として含む断面U字状の形状を有していてもよい。図4の(c)において、図4の(a)等に示した構造体や部品や要素と同様な構造体や部品や要素には対応する符号の最後に添字Jが付されている。ここで、Uの一対の脚部42,43のうちの一方の脚部42が例えば半径方向内側に位置し、他方の脚部43が半径方向外側に位置する。脚部42,43間に「U」の底壁部44がある。この凹部41は、典型的には、図4の(a)の溝部14即ち図2の(a)及び(b)や図3の(a)及び(b)に示した溝部14と同様に、間隙となる領域16で相互に分離され、てん輪本体10Jは、リム部11Jに複数(例えば四つ)の円弧状凹部41,41,41,41を有する。
より詳しくは、図4の(c)に示したように、この変形例の機械式時計8Jのてんぷ構造体1Jでは、複数の重錘部材30Jの夫々が一対の脚部33,34及び頂壁部35を含む逆U字状の横断面を有し、該「逆U」の凹部36がてん輪本体10Jの各溝部41を構成する一対の脚部(側壁)42,43のうち一方の側壁43に嵌り、且つ「逆U」を形成する一対の脚部33,34のうちの一方の脚部33がてん輪本体10Jの溝部41に嵌っている。
この例では、各重錘部材30Jの逆U字状の横断面を形成する一対の脚部33,34のうち半径方向内側の脚部33がてん輪本体10Jの溝部41に嵌っている。重錘部材30Jがタングステンのような密度の高い材料からなるときにはその質量が大きくなるので、てんぷ構造体1Jの径を最低限に抑えて、空気抵抗を最低限に抑え得る。但し、所望ならば、各重錘部材30Jの逆U字状の横断面を形成する一対の脚部33,34のうち半径方向外側の脚部34がてん輪本体10Jの溝部41に嵌ってもよい。
図4の(c)に一部の断面図を示したてんぷ構造体1Jの場合にも、温度が上がった場合、てん輪本体10Jの熱収縮(負の熱膨張)に応じて該てん輪本体10Jの各断面U字状部に逆U字状部で嵌合された各重錘部材30Jがてん輪本体10Jの半径方向内向きに変位され得、てん輪3Jの慣性モーメントが低減され得るから、前述の場合と同様に、上記の(式3)すなわち[2α2−3α1−β]の値が実際上0に保たれ得、温度変化があっても、てん輪3Jの往復回動ないし振動の周期Tは、実際上一定に保たれ得る。
また、別の変形例のてんぷ構造体1Kでは、てん輪3Kが、図4の(d)に示したような構造を有する。この変形例のてんぷ構造体1Kにおいて、図4の(a)等に示した構造体や部品や要素と同様な構造体や部品や要素には対応する符号の最後に添字Kが付されている。
機械式時計8Kのてんぷ構造体1Kでは、てん輪3Kは、てん輪本体10K及び複数個(この例では、例えば四個)の重錘部材30Kを有する。
てん輪本体10Kのリム部11Kは、複数の円弧状溝部14の代わりに複数の円弧状凸部(凸条)14Kを、周方向に間隔をおいて有すると共に、各円弧状溝部14の長手方向の中間部に係合穴部17を備える代わりに各円弧状凸部(凸条)14Kの長手方向の中間部に係合凸部17Kを備える。各重錘部材30Kは、各重錘部材30が円弧状溝部14に嵌る代わりに、各円弧状凸部ないし凸条14Kが嵌る円弧状溝部51を備えると共に係合凸部17Kが係合する係合穴部52を長手方向の中間部に備える。なお、図4の(d)では明示していないけれども、周方向間隙Gp及び径方向間隙Gri,Greと同様な間隙がてん輪本体10Kの複数の円弧状凸部14Kと各重錘部材30Kの円弧状溝部51との間に形成されている。
この図4の(d)のてんぷ構造体1Kにおいても、温度が上がった場合、てん輪本体10Kの熱収縮(負の熱膨張)に応じて該てん輪本体10Kの各凸部14Kに円弧状溝部51Kで嵌合された各重錘部材30Kがてん輪本体10Kの半径方向内向きに変位され得、てん輪3Kの慣性モーメントが低減され得るから、前述の場合と同様に、上記の(式3)すなわち[2α2−3α1−β]の値が実際上0に保たれ得、温度変化があっても、てん輪3Jの往復回動ないし振動の周期Tは、実際上一定に保たれ得る。
1,1J,1K てんぷ構造体
2 てん真
3,3J,3K てん輪
4 ひげ玉
5 ひげぜんまい
6 ひげ持
7 緩急針
8,8J,8K 機械式時計
10,10J,10K てん輪本体
11,11J,1K リム部
12 ボス部
13 アーム部
14,14A,14B,14C,14D 円弧状溝部
14a 底壁
14K 円弧状凸部
15 環状面
16 溝のない部分(間隙)
17 係合穴部
17K 係合凸部
30,30A,30B,30C,30D 重錘部材
31 円弧状本体部
32 凸部
33,34 (「逆U」の)脚部
35 (「逆U」の)頂壁部
36 (「逆U」の)凹部
41 中間凹部
42,43 (「U」の)脚部
44 (「U」の)底壁部
51 円弧状溝部
52 係合穴部
C 回転中心軸線
C1,C2 回転方向
Gp 周方向間隙
Gri,Gre 径方向(側壁間の)間隙
b てん輪の慣性モーメント
Lgp 溝の周方向の長さ
Lgr 溝の幅(半径方向の長さ)
Lwp 重錘部材の周方向の長さ
Lwr 重錘部材の幅(半径方向の長さ)
hs ひげぜんまいの弾性定数
T 周期
α1 ひげぜんまいの線膨張係数
α2 てん輪の線膨張係数
β ひげぜんまいのヤング率の温度係数
ω 角振動数

Claims (10)

  1. 無端リングの形態のリム部を備え熱膨張係数が負の材料からなるてん輪本体を有するてん輪を具備する温度補償型てんぷ構造体。
  2. てん輪が、前記てん輪本体に加えて、該てん輪本体の前記リム部の周方向に間隔をおいててん輪本体に装着された複数の重錘部材であって、てん輪本体よりも密度の大きい材料からなるものを有する請求項1に記載の温度補償型てんぷ構造体。
  3. てん輪本体のリム部が、円弧状溝部を周方向に間隔をおいて備え、前記複数の重錘部材の夫々が各円弧状溝部に嵌る円弧状形状を有する請求項2に記載の温度補償型てんぷ構造体。
  4. 円弧状溝部の間の間隙が、てん輪本体のうちてん真とてん輪本体のリム部とを半径方向につなぐアーム部の径方向延長上に位置する請求項3に記載の温度補償型てんぷ構造体。
  5. 前記てん輪本体のリム部が各円弧状溝部の底壁のうち各溝部を構成する円弧の中間部に穴部を備え、各重錘部材が該穴部に嵌る小凸部を備える請求項3又は4に記載の温度補償型てんぷ構造体。
  6. 前記てん輪本体のリム部が円弧状溝部を周方向に間隔をおいて備え、前記複数の重錘部材の夫々が逆U字状の横断面を有し、該「逆U」の凹部がリム部の各溝部を構成する一対の側壁のうち一方の側壁に嵌り、且つ該「逆U」を形成する一対の脚部のうちの一方の脚部がリム部の各溝部に嵌るように構成されている請求項2に記載の温度補償型てんぷ構造体。
  7. 前記各重錘部材の逆U字状の横断面を形成する前記一対の脚部のうち半径方向内側の脚部がリム部の溝部に嵌っている請求項6に記載の温度補償型てんぷ構造体。
  8. 前記てん輪本体のリム部が、径方向の中間部に周方向に間隔をおいて円弧状凸部を備え、前記複数の重錘部材の夫々が各円弧状凸部に嵌る円弧状溝部を有する請求項2に記載の温度補償型てんぷ構造体。
  9. 前記てん輪本体のリム部が各円弧状凸部の頂壁のうち円弧の中間部に更に突出した小凸部を備え、各重錘部材が該小凸部に嵌る穴部を備える請求項8に記載の温度補償型てんぷ構造体。
  10. 請求項1から9までのいずれか一つの項に記載の温度補償型てんぷ構造体を備えた機械式時計。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2013134124A (ja) * 2011-12-26 2013-07-08 Seiko Instruments Inc てんぷ及び機械式時計
JP2020042045A (ja) * 2015-06-15 2020-03-19 シチズン時計株式会社 時計の調速装置

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