I.序文
ポリシアル化産物、例えば、ポリシアル酸基を含有するオリゴ糖、糖蛋白質及び糖脂質を効率的に作製するために、ポリシアリルトランスフェラーゼ(PST)ポリペプチドを構築した。PSTのN末端を短縮化すると、溶解度及び活性が増加する。従って、本発明の短縮型PSTは、修飾されていないPST蛋白質に比し、α−2,8又はα−2,9配置でシアル酸残基をより効率的に結合させることができる。
II.定義
本明細書では以下の略号を用いている:
Ara = アラビノシル;
Fru = フラクトシル;
Fuc = フコシル;
Gal = ガラクトシル;
GalNAc = N−アセチルガラクトサミニル;
Glc = グルコシル;
GlcNAc = N−アセチルグルコサミニル;
Man = マンノシル;及び
NeuAc = シアリル(N−アセチルノイラミニル)。
糖転移酵素、例えばポリシアリルトランスフェラーゼの「受容体基質」又は「受容体糖」は、特定の糖転移酵素の受容体の役目をすることができるオリゴ糖部分である。この受容体基質を対応する糖転移酵素及び糖供与体基質並びに他の必要な反応混液成分と接触させ、この反応混液を十分な時間インキュベートすると、この糖転移酵素は糖供与体基質から糖残基を受容体基質へ転移させる。この受容体基質は種々の特定の糖転移酵素に対して変えることができる。従って、「受容体基質」という用語は、特定の用途に対して対象となる特定の糖転移酵素との関連で解釈する。ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質及び別の糖転移酵素の受容体基質について本明細書で説明する。
糖転移酵素の「供与体基質」は、活性化ヌクレオチド糖である。そのような活性化糖は一般に、ウリジン、グアノシン、シトシンの一リン酸の糖誘導体(それぞれ、UMP、GMP、CMP)又は二リン酸の糖誘導体(それぞれ、UDP、GDP、CDP)から成り、この場合、ヌクレオシド一リン酸又は二リン酸は離脱基となる。ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質の供与体基質としては、例えば、目的とするシアル酸を含む活性化ヌクレオチド糖が挙げられる。例えば、NeuAcの場合、この活性化糖はCMP−NeuAcである。細菌系、植物系及び真菌系は、時として他の活性化ヌクレオチド糖を用いることがある。
オリゴ糖は、還元末端及び非還元末端を有すると考えられており、その還元末端の単糖が実際に還元糖であるか否かを問わない。一般に認められている命名法に準拠して、本明細書ではオリゴ糖は、左に非還元末端、右に還元末端がくるように記載している。本明細書に記載したオリゴ糖は全て、非還元糖の名称又は略号(例えば、Gal)、続いてグリコシド結合の配置(α又はβ)、環結合、その結合に関与する還元糖の環位置、次にこの還元糖の名称又は略号(例えば、GlcNAc)により記載している。2個の糖間の結合は、例えば、2,3、2→3又は(2,3)と表すことができる。各単糖はピラノース又はフラノースである。
本明細書に用いている「シアル酸部分」とは、シアル酸を含む、又はシアル酸から誘導することができる分子のことを指す。シアル酸部分は通常単糖、例えば、CMP−シアル酸である。
本明細書に用いている「シアル酸部分のポリマー」とは、多数の結合シアル酸部分(即ち、2個以上)のことを指す。そのようなシアル酸ポリマーとして、全てが同じ配置で結合しているシアル酸のホモポリマー、例えば「α−2,8結合シアル酸部分のホモポリマー」又は「α−2,9結合シアル酸部分のホモポリマー」が挙げられる。また、シアル酸ポリマーとしては「α−2,8/2,9結合シアル酸部分のコポリマー」も挙げられる。シアル酸ポリマーの結合は、ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質に含まれるポリシアリルトランスフェラーゼの識別性によって決まることになる。
本明細書に用いている「ポリシアル化産物又は産物糖」とは、少なくとも3個のシアル酸部分を含む、糖脂質又は糖蛋白質(例えば、生体分子)に非結合又は結合したオリゴ糖、多糖又は炭水化物部分のことを指す。ポリシアル化産物又は産物糖の好ましい実施態様では、第1の単一シアル酸部分は受容体基質又は生体分子にα−2,3配置で結合し、第2の単一シアル酸部分は第1の単一シアル酸部分にα−2,8配置で結合し、第2の単一シアル酸部分には1個以上のシアル酸部分が結合する。ポリシアル化産物又は産物糖は少なくとも3個のシアル酸部分を含む。他の実施態様では、ポリシアル化産物又は産物糖は少なくとも5、7、12、25、45、80、100、150、200、250又は500個のシアル酸部分を含む。別の実施態様では、ポリシアル化産物又は産物糖は少なくとも3乃至12、25、45、80、100、150、200、250又は500個のシアル酸部分を含む。さらに別の実施態様では、ポリシアル化産物又は産物糖は、最大12、25、45、80、100、150、200、250又は500個のシアル酸部分を含む。
また、一部の実施態様では、別の糖転移酵素の作用によって受容体基質に他の糖部分、例えばフコース、ガラクトース、GalNAc、グルコース又はGlcNAcを付加することによりポリシアル化産物糖を作製する。一部の実施態様では、受容体基質はガラクトース部分を含み、二機能性シアリルトランスフェラーゼ蛋白質を用いて第1の単一シアル酸部分をこのガラクトース部分にα−2,3配置で付加し;次いで、ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質により第2の単一シアル酸部分をα−2,8配置で第1のシアル酸部分に付加することができ;さらに、この第2の単一シアル酸部分に1個以上のシアル酸部分を付加してポリシアル化産物糖を作製する。他の実施態様では、受容体基質は第1のシアル酸部分をα−2,3配置で含み、ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質を用いて第2の単一シアル酸部分をα−2,8配置で第1のシアル酸部分に付加し;次いでこの第2の単一シアル酸部分に1個以上のシアル酸部分を付加してポリシアル化産物糖を作製する。別の実施態様では、受容体基質は、第1のシアル酸部分をこの第1のシアル酸部分に対してα−2,8配置で第2の単一シアル酸部分に結合させたものをα−2,3配置で含み;ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質を用いてこの第2の単一シアル酸部分に1個以上のシアル酸部分を付加してポリシアル化産物糖を作製する。
「シアル酸」又は「シアル酸部分」という用語は、炭素9個のカルボキシル化糖のファミリーの任意のメンバーのことを指す。シアル酸ファミリーの最も一般的なメンバーは、N−アセチル−ノイラミン酸(2−ケト−5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクトノヌロピラノス−1−オン酸(しばしばNeu5Ac、NeuAc、又はNANAと略される)である。ファミリーの第2のメンバーは、NeuAcのN−アセチル基がヒドロキシル化されているN−グリコリル−ノイラミン酸(Neu5GcまたはNeuGc)である。第3のシアル酸ファミリーメンバーは、2−ケト−3−デオキシ−ノヌロソン酸(KDN)である(Nadanoほか、(1986年)J.Biol.Chem.261:p11550−11557;Kanamoriほか、J.Biol.Chem.265:p21811−21819(1990年))。9−O−ラクチル−Neu5Ac又は9−O−アセチル−Neu5Acのような9−O−C1〜C6アシル−Neu5Ac、9−デオキシ−9−フルオロ−Neu5Ac、及び9−アジド−9−デオキシ−Neu5Acなどの9位置換シアル酸も含まれる。シアル酸ファミリーの総説については、例えば、Varki、Glycobiology 2:p25−40(1992年);Sialic Acids:Chemistry, Metabolism and Function、R.Schauer編(Springer−Verlag、New York(1992年)を参照されたい。シアル化手順におけるシアル酸化合物の合成および使用については、1992年10月1日付け公開の国際出願WO92/16640号に開示されている。
本出願において必要な命名及び一般的な検査手技の多くは、Sambrookほか、Molecular Cloning:A Laboratory Manual (第2版)、第1−3巻、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、New York、1989年に記載されている。以後、この手引き書のことを「Sambrookほか」と称する。
「シアリルトランスフェラーゼ」又は「シアリルトランスフェラーゼ」をコードする核酸という用語は、第1のシアル酸分子の受容体基質への転移を触媒することができる核酸並びにポリペプチド多型変異体、対立遺伝子、突然変異株及び種間ホモログのことを指す。細菌及び哺乳動物のシアリルトランスフェラーゼが知られている。シアル酸残基は種々の結合(例えば、α−2,3、α−2,6及びα−2,8)により受容体基質に結合させることができる。シアリルトランスフェラーゼは1種以上の活性を有することができる。多くのシアリルトランスフェラーゼは単機能性である。例として、CST−I及びCST−IIIは、シアル酸のα−2,3結合での転移を触媒する、Campylobacter jejuni由来の単機能性シアリルトランスフェラーゼである。例えば、米国特許第6,689,604号及び米国特許第6,699,705号を参照されたい。他の例示的な単機能性シアリルトランスフェラーゼとしては、米国特許第6,096,529号に開示されているNeisseria由来のシアリルトランスフェラーゼがある。
他のシアリルトランスフェラーゼは2種以上の酵素活性を有する、即ち、シアル酸を2種以上の結合で基質に付加する。例えば、C.jejuni由来のCST−II酵素は、α−2,3及びα−2,8結合のうちの少なくとも1つを用いて受容体分子にシアル酸を付加する。一部のCST−II酵素は、α−2,8配置で受容体分子に複数のシアル酸を付加する。別のC.jejuni株由来のCST−II酵素では活性が異なりうる。各種のCST−II酵素、核酸及び活性のアッセイについては、例えば、米国特許第6,699,705号、Gilbertほか、J.Biol.Chem.277:p327−37(2002年)及びGilbertほか、J.Biol.Chem.275:p3896−906(2000年)に開示されている。Haemophilus由来の多機能性シアリルトランスフェラーゼについても報告されている。例えば、Foxほか、J.Biol.Chem.281:p40024−32(2006年)を参照されたい。
「ポリシアリルトランスフェラーゼ」又は「PST」並びに、(1)ポリシアリルトランスフェラーゼの核酸によりコードされたアミノ酸配列もしくはポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質のアミノ酸配列(例示的なポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質配列については、例えば、配列番号1参照)に対して少なくとも60%のアミノ酸配列同一性、65、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上のアミノ酸配列同一性を、好ましくは少なくとも約25、50、100、200、500、1000個以上のアミノ酸の領域にわたって有し、(2)ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質のアミノ酸配列を含む免疫原及びその保存的に修飾された変異体に対する抗体(例えば、ポリクロナール抗体)に結合するポリペプチド多型変異体、対立遺伝子及び種間ホモログ。PSTの活性ドメインは、例えば配列番号1のポリシアリルトランスフェラーゼ活性ドメインに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のアミノ酸同一性を有する。ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列は、通常、限定されない例として挙げられるNeisseria、Campylobacter、Haemophilus、Mannheimia、Pasteurellaなどの細菌由来である。本発明の核酸及び蛋白質には天然分子又は組換え分子のいずれも含まれる。ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質は、通常、例えばα−2,8結合、α−2,9結合又はα−2,8/2,9結合を作る活性を含むポリシアリルトランスフェラーゼ活性を有する。ポリシアリルトランスフェラーゼのアッセイは、本明細書に記載したように、適切な供与体基質及び受容体基質を用い、当業者に周知の方法に従って実施することができる。通常、PST酵素は、受容体基質に予め結合したシアル酸残基に複数のシアル酸残基を付加する。
本明細書に用いている「短縮型PSTポリペプチド」又は文法上の変異体は、この短縮型PSTポリペプチドが酵素活性を保持している限り、自然界に生じる野生型PSTポリペプチドに比し、操作により少なくとも1個のアミノ酸残基が除去されているPSTポリペプチドのことを指す。野生型、即ち天然のPST蛋白質の例としては、例えば配列番号1のものが挙げられる。好ましいPSTの短縮は、配列番号1のN末端から19又は32個アミノ酸の欠失である。短縮型PST蛋白質の他の好ましい例は、配列番号3及び5、又は配列番号3又は配列番号5に対して少なくとも80%、85%、90%、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列である。別の好ましい実施態様では、短縮型PST蛋白質は、例えばMal−E蛋白質又はシアリルトランスフェラーゼに融合させる。
本発明の「融合PSTポリペプチド」又は「融合ポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチド」は活性PSTドメインを含むポリペプチドである。この融合ポリペプチドは、ポリシアル酸転移反応を触媒することができる。通常、この融合ポリペプチドの触媒ドメインは、PST及び触媒ドメインが由来する融合蛋白質のそれと少なくとも実質的に同一であることになる。一部の実施態様では、ポリシアリルトランスフェラーゼとシアリルトランスフェラーゼとの融合体である組換え蛋白質を構築して「自己プライマー化PST」を作製することができる。一部の実施態様では、この自己プライマー化ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質は、第1の単一シアル酸を受容体基質中の非シアル酸糖残基に、シアリルトランスフェラーゼの活性によって通常α−2,3配置で結合させることができる。別の実施態様では、この自己プライマー化ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質は、予め付加された第1の単一シアル酸部分に第2の単一シアル酸部分を多機能性シアリルトランスフェラーゼの活性によって通常α−2,8配置で結合させもする。別の実施態様では、この自己プライマー化ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質は、α−2,3配置で予めシアル化した受容体基質にシアル酸残基を付加する。一旦適切な数のシアル酸残基が受容体基質に付加されてポリシアリルトランスフェラーゼ活性が「プライミング」されると、次いでこの自己プライマー化ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質は、シアル酸部分にポリシアリルトランスフェラーゼの活性によって1個以上のシアル酸部分を結合させることができる。一部の実施態様では、ポリシアリルトランスフェラーゼの活性はシアル酸部分のポリマーを生じる。
本発明の組換え蛋白質は、一端に、蛋白質の精製又は同定を容易にする分子「精製タグ」を有する融合蛋白質として構築し、発現させることができる。このようなタグは、グリコシル化反応時に対象蛋白質の固定化に用いることもできる。好適なタグとしては、「エピトープタグ」が挙げられ、これは抗体によって特異的に認識される蛋白質配列である。エピトープタグは、一般に融合蛋白質に組み込むことによってこの融合蛋白質を明確に検出又は単離するために容易に入手できる抗体を使用することが可能となる。「FLAGタグ」は、配列AspTyrLysAspAspAspAspLys又はこれと実質的に同一の変異体からなる、モノクロナール抗FLAG抗体によって特異的に認識されるよく用いられているエピトープタグである。他にも好適なタグが当業者に周知であり、例えば、ニッケルイオン、コバルトイオンなどの金属イオンに結合するヘキサヒスチジンペプチド又はmycタグのような親和性タグが挙げられる。精製タグを含む蛋白質は、精製タグを結合する結合パートナー(例えば精製タグに対する抗体、ニッケルもしくはコバルトイオン又は樹脂及びアミロース、マルトース又はシクロデキストリン)を用いて精製することができる。また、精製タグとしてはマルトース結合ドメイン及び澱粉結合ドメインも挙げられる。マルトース結合ドメイン蛋白質の精製は当業者には周知である。澱粉結合ドメインについては国際公開第WO99/15636号に開示されており、これは本明細書に参考として援用されている。ベータ−シクロデキストリン(BCD:beta−cylodextrin)で誘導体化した樹脂を用いた澱粉結合ドメインを含む融合蛋白質の親和性精製については2005年2月17日付け公開の国際公開第WO2005/014779号に開示されており、これは本明細書に参考として援用されている。
本明細書中で触れている「アクセサリー酵素」とは、例えばポリシアリルトランスフェラーゼ反応(例えば、シアル酸合成酵素)のためのヌクレオチド糖を形成する反応を触媒することに関与する酵素である。
「触媒ドメイン」又は「活性ドメイン」とは、酵素の部分であって、この酵素により通常行われる酵素反応を触媒するのに十分な部分のことを指す。例えば、PSTポリペプチドの触媒ドメインには、基質へのシアル酸の転移を触媒するのに十分なPSTの部分を含めることになる。触媒ドメインには、酵素全体、その部分配列を含めることができ、又はその酵素に結合していない別のアミノ酸配列もしくは自然界に存在するような部分配列を含めることができる。
「工業規模」とは、1回の反応でポリシアル化産物のグラム規模の作製のことを指す。好ましい実施態様では、工業規模とは、約50、75、80、90、100、125、150、175又は200グラムを超えるポリシアル化産物の作製のことを指す。
「保存的に修飾された変異体」は、アミノ酸配列及び核酸配列のいずれにも適用される。特定の核酸配列に関しては、保存的に修飾された変異体は、同一もしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードしている核酸、又はその核酸がアミノ酸配列をコードしていない場合には本質的に同一の配列のことを指す。遺伝暗号の縮退のため、多数の機能的に同一の核酸が所与の蛋白質をコードしている。例えば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCUは全てアミノ酸アラニンをコードしている。従って、あるアラニンがあるコドンによって特定されている全ての位置において、コードされるポリペプチドを変えることなしに、このコドンを記載の対応するコドンのいずれかに変更することができる。このような核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に修飾された変異の一種である。ポリペプチドをコードする本明細書の全ての核酸配列はこの核酸の全ての可能なサイレント変異を表すものでもある。(通常メチオニンの唯一つのコドンであるAUG及び通常トリプトファンの唯一つのコドンであるTGGを除く)核酸中の各コドンが機能的に同一の分子をもたらすように修飾することができることは、当業者によって認められよう。従って、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、発現産物に関する各記載配列では絶対的であるが、実際のプローブ配列に関してはそうではない。
アミノ酸配列に関しては、コードされている配列中の単一のアミノ酸又はごく一部のアミノ酸を変更、付加又は欠失させる核酸、ペプチド、ポリペプチド又は蛋白質配列に対する個々の置換、欠失又は付加については、こうした変更がアミノ酸の化学的に類似のアミノ酸による置換をもたらす場合、「保存的に修飾された変異体」であることは、当業者によって認められよう。機能的に類似のアミノ酸を示す保存的置換の表については当該分野では公知である。このような保存的に修飾された変異体は、本発明の多型変異体、種間ホモログ及び対立遺伝子を排除するものではなく、これらに加わるものである。
蛋白質中の多くのアミノ酸同士をこの蛋白質の機能に影響を与えずに置換することができること、即ち、保存的置換が開示したポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質及びその誘導体などの蛋白質の保存的に修飾された変異体の基礎となり得ることは、当業者によって認められよう。以下は保存的アミノ酸置換の未完成リストである。以下の8グループはそれぞれ、互いに保存的置換となるアミノ酸を含む:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、アラニン(A);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、スレオニン(T)、システイン(C);及び8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton、Proteins(1984)参照)。
本発明の細胞及び方法は、概して供与体基質からシアル酸部分を受容体分子へ転移させることによってポリシアル化産物を作製するのに有用である。また、本発明の細胞及び方法は、概して供与体基質から別の単糖又は硫酸基を受容体分子へ転移させることによって別の糖残基を含むポリシアル化産物糖を作製するのにも有用である。一般に、付加は、オリゴ糖、多糖(例えば、ヘパリン、カラゲニンなど)又は糖脂質もしくは糖蛋白質(例えば、生体分子)の炭水化物部分の非還元末端で行われる。本明細書で定義した生体分子としては、炭水化物、オリゴ糖、ペプチド(例えば、糖ペプチド)、蛋白質(例えば、糖蛋白質)及び脂質(例えば、糖脂質、リン脂質、スフィンゴ脂質及びガングリオシド)などの生物学的に重要な分子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「核酸」という用語は、一本鎖又は二本鎖状のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーのことを指し、特に限定しない限り、天然のヌクレオチドと同様にして核酸とハイブリッドを形成する天然ヌクレオチドの既知のアナログを包含する。特に示さない限り、特定の核酸配列としてはその相補性配列を含める。「核酸」、「核酸配列」及び「ポリヌクレオチド」は、本明細書では同じ意味で用いている。
「動作可能なように連結された」という用語は、(プロモータ、シグナル配列、転写因子結合部位のアレイなどの)核酸発現制御配列と別の核酸配列との機能的な結合であって、発現制御配列はこの別の配列に相当する核酸の転写及び/又は翻訳に影響を与えるものとする結合のことを指す。
細胞に関連して用いられる場合の「組換え」という用語は、この細胞が異種の核酸を複製し、又は異種の核酸によってコードされるペプチドもしくは蛋白質を発現することを意味する。組換え細胞は、天然(非組み換え)型の細胞内に存在しない遺伝子を含むことができる。また、組換え細胞は、天然型の細胞に存在する遺伝子を修飾して人工的な手段でこの細胞中に再導入したものを含むこともできる。また、この用語は、細胞にとって内因性の核酸であって、細胞から取り出すことなく修飾した核酸を含む細胞を包含し、そのような修飾としては、遺伝子置換、部位特異的突然変異及び関連の技術により得られるものが挙げられる。
「組換え核酸」とは、人工的に構築された(例えば、2種の天然又は合成核酸断片を結合させることにより形成された)核酸のことを指す。また、この用語は、人工的に構築された核酸の複製又は転写によって作製された核酸にも適用される。「組換えポリペプチド」は、組換え核酸(即ち、その細胞に由来しない、又は天然型から修飾されている核酸)が転写され、その後、生じた転写物が翻訳されることによって発現される。
本明細書に用いている「異種ポリヌクレオチド」又は「異種核酸」は、その特定の宿主細胞とは異なる供給源に由来するか、同じ供給源からであってもその元の形態から修飾されているものである。従って、原核宿主細胞中の異種ポリシアリルトランスフェラーゼ遺伝子としては、この特定の宿主細胞に対して内因性ではあるが、修飾されているポリシアリルトランスフェラーゼ遺伝子が含まれる。この異種配列の修飾は、例えば、そのDNAを制限酵素で処理することによりプロモータに動作可能なように連結することができるDNA断片を作製することによって行うことができる。部位特異的突然変異などの技術も異種配列の修飾に有用である。
「部分配列」とは、核酸又はアミノ酸(例えば、ポリペプチド)の長い配列の一部を含む、それぞれ核酸又はアミノ酸のより短い配列のことを指す。
「組換え発現カセット」又は単に「発現カセット」とは、宿主内の構造遺伝子の発現に影響を与えることができる核酸エレメントであって、宿主がそのような配列と共存できる核酸エレメントを有する組換え又は合成により作製した核酸構築体である。発現カセットには、少なくともプロモータ、任意選択的に転写終結シグナルを含ませる。通常、組換え発現カセットには、転写対象の核酸(例えば、目的とするポリペプチドをコードしている核酸)及びプロモータを含ませる。発現を行わせるのに必要又は有用な別の因子も、本明細書に記載したようにして用いてもよい。例えば、発現カセットには、宿主細胞からの発現蛋白質の分泌を誘導するシグナル配列をコードしているヌクレオチド配列を含ませることもできる。転写終結シグナル、エンハンサ及び遺伝子発現に影響を与える他の核酸配列も発現カセットに含ませることができる。
「単離された」という用語は、酵素の活性を妨げる成分を実質的又は本質的に含まない材料のことを指す。本発明の細胞、糖、核酸及びポリペプチドの場合、「単離された」という用語は、天然の状態で存在する材料に通常付随して存在する成分を実質的又は本質的に含まない材料のことを指す。一般的に、本発明の単離された糖、蛋白質又は核酸は、純度測定のための銀染色ゲルのバンド強度その他の方法で測定する純度が少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%又は85%、通常少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%である。純度又は均一性は、蛋白質又は核酸サンプルのポリアクリルアミドゲル電気泳動とそれに続く染色による可視化などの当該分野で公知のいくつかの手段によって示すことができる。特定の目的のためには、高分解能が必要とされることになり、HPLC又は同様な精製手段が利用される。オリゴ糖又は他のガラクトシル化産物の場合、純度は、例えば、薄層クロマトグラフィー、HPLC又は質量分析を利用して測定することができる。
2本以上のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列との関連で「同一の」又は「同一性」百分率という用語は、下記の配列比較アルゴリズムのうちの1つ又は目視検査によって測定して比較及び一致の最大化のために位置合わせをした場合に、2本以上の配列又は部分配列が同一である、又は同一であるアミノ酸残基もしくはヌクレオチドを特定の割合で有することを指す。
2つの核酸又はポリペプチドとの関連で「実質的に同一の」という語句は、下記の配列比較アルゴリズムのうちの1つ又は目視検査によって測定して比較及び一致の最大化のために位置合わせした場合に、2本以上の配列又は部分配列のヌクレオチド又はアミノ酸残基同一性が少なくとも60%、好ましくは80%又は85%、最も好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%であることを指す。この実質的な同一性は、好ましくは長さが少なくとも約50残基の配列の領域にわたって、より好ましくは少なくとも約100残基の領域にわたって存在し、配列同士が少なくとも約150残基にわたって実質的に同一であることが最も好ましい。最も好ましい実施態様では、これらの配列はコーディング領域の全長にわたって実質的に同一である。
配列の比較においては、通常、1つの配列を試験配列と比較する対照配列として用いる。配列比較アルゴリズムを用いる際には、試験および対照配列をコンピュータに入力し、必要な場合、部分配列座標(subsequence coordinates)を指定し、次に、配列アルゴリズム・プログラム・パラメータを指定する。次いで、指定したプログラム・パラメータに基づいて、配列比較アルゴリズムにより、対照配列に対する試験配列の配列同一性百分率が算出される。
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith及びWaterman、Adv.Appl.Math.、2:p482(1981年)の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman及びWunsch、J.Mol.Biol.、48:p443(1970年)のホモロジー・アラインメント・アルゴリズム、Pearson及びLipman、Pro.Nat’l.Acad.Sci.USA、85:p2444(1988年)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(GAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA、Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575Science Dr.、Madison、WI)、もしくは目視検査(一般的には、Current Protocols in Molecular Biology、F.M.Ausubelほか編、Current Protocols、a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.、(1995 Supplement)(Ausubel)参照)によって行うことができる。
配列同一性百分率および配列類似性を測定するのに適したアルゴリズムの例は、Altschulほか、(1990年)J.Mol.Biol.215:p403−410及びAltschuelほか(1977年)Nucleic Acids Res. 25:p3389−3402にそれぞれ記載されているBLASTアルゴリズム及びBLAST2.0アルゴリズムである。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公開されている。このアルゴリズムは、先ず、データベース配列中の同じ長さの文字列とアラインメントさせた時にある正値の閾値スコアTにマッチするかこれを満たす検索配列中の長さWの短い文字列を特定することによって高相同性スコア配列対(HSP:high scoring sequence pair)を同定する。Tは、近傍文字列スコア閾値(Altschulほか、上記文献)と呼ばれる。これらの初期の近傍文字列ヒットは、これらを含むより長いHSPを見出す検索を開始するためのシードとなる。次いで、これらの文字列ヒットは、累積アラインメント・スコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に延長される。ヌクレオチド配列の場合、累積スコアは、パラメータM(一対の一致残基のスコア値(reward);常に>0)およびN(不一致残基のペナルティ値;常に<0)を用いて算出する。アミノ酸配列の場合、スコアリング・マトリクスを用いて累積スコアを算出する。文字列ヒットの各方向への延長は、以下の場合、即ち、上記累積アラインメント・スコアがその最大到達値から数量Xだけ減少した場合、この累積スコアが1つ以上のネガチブ・スコア(negative−scoring)残基アラインメントの蓄積によりゼロ以下になった場合、もしくはどちらの配列においても末端に到達した場合に停止する。BLASTアルゴリズムのパラメータW、TおよびXは、位置合わせの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)は、デフォルトとして、文字列長さ(W)11、期待値(E)10、M=5、N=4および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列の場合、BLASTNプログラムは、デフォルトとして、文字列長さ(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング・マトリクスを用いる(Henikoff及びHenikoff、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:p10915(1989年)参照)。
配列同一性百分率を算出する他に、BLASTアルゴニズムは2本の配列間の類似性の統計的な解析を行う(例えば、Karlin及びAltschul、Proc. Natl.Acad.Sci.USA 90:p5873−5787(1993年)参照)。BLASTアルゴニズムにより得られる類似性の1つの指標は、2つのヌクレオチドもしくはアミノ酸配列間の一致が偶然生じる確率の指標となる最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸と対照核酸との比較における最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、この核酸は対照配列と類似しているとみなされる。
2本の核酸配列又はポリペプチドが実質的に同一であることの別の指標は、下記のように、第1の核酸によりコードされたポリペプチドが第2の核酸によりコードされたポリペプチドと免疫学的に交差反応することである。従って、例えば、あるポリペプチドがもう1つのポリペプチドと、保存的置換によってのみ異なる場合、これらの2つのポリペプチドは、通常、実質的に同一である。さらに、2本の核酸配列が実質的に同一であることの指標は、下記のように、これらの2つの分子が緊縮条件下で互いにハイブリッドを形成することである。
「〜と特異的にハイブリッドを形成する」という語句は、複雑な混合物(例えば、全細胞)のDNA又はRNAに存在する場合の特定のヌクレオチド配列とのみ緊縮条件下で分子が結合、二重化又はハイブリッド形成することを指す。
「緊縮条件」という用語は、プローブがその標的部分配列とハイブリッドを形成するが、他の配列とはしない条件のことを指す。緊縮条件は配列依存性であり、異なる状況の下では異なることになる。長い配列同士ほど、高温で特異的にハイブリッドを形成する。一般に、緊縮条件は、特定のイオン強度及びpHでの特定の配列の熱融点(Tm)よりも約5℃低くなるように選択する。Tmは、標的配列に相補性のプローブの50%が平衡状態で標的配列とハイブリッドを形成する(特定のイオン強度、pH及び核酸濃度下における)温度である。(標的配列は一般に過剰に存在するので、Tmでは、プローブの50%は平衡状態でふさがれる)。通常、緊縮条件は、塩濃度をpH7.0乃至8.3で約1.0M Na+イオン未満、通常約0.01乃至1.0M Na+イオンの濃度(又は他の塩)とし、温度を短いプローブ(例えば、10乃至50ヌクレオチド)で少なくとも約30℃、長いプローブ(例えば、50ヌクレオチド超)では少なくとも約60℃とする条件である。また、緊縮条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によって達成することもできる。高緊縮性PCR増幅の場合、約62℃の温度が通常であるが、高緊縮性アニーリング温度は、プライマーの長さ及び特異性に応じて約50℃乃至約65℃の範囲とすることができる。高及び低緊縮性増幅の代表的なサイクル条件には、90乃至95℃で30乃至120秒間の変性相、30乃至120秒間続くアニーリング相及び約72℃で1乃至2分間の伸長相が含まれる。低及び高緊縮性増幅反応のプロトコル及び指針については、Innisほか、(1990年)PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications、Academic Press、N.Y.において入手可能である。
「〜に特異的に結合する」又は「〜に対し特異的な免疫反応性を示す」という語句は、抗体のことを指す場合、蛋白質、糖及び他の生体物質の不均一な集団の存在下に蛋白質又は他の抗原の存在を決定する結合反応のことを意味する。従って、所定のイムノアッセイ条件下において、特定の抗体は特定の抗原に選択的に結合するが、試料中に存在する他の分子とは有意な量で結合しない。そのような条件下で抗原に特異的に結合するには特定の抗原に対する特異性に関して選択された抗体が必要となる。各種イムノアッセイ方式を用いて特定抗原に対して特異的な免疫反応性を示す抗体を選択することができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイは、抗原に対し特異的な免疫反応性を示すモノクロナール抗体を選択するのにルーチン的に用いられている。特異的な免疫反応性を測定するのに用いることができるイムノアッセイ方式および条件の解説については、例えば、Harlow、Lane(1988年)、Antibodies、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Publications、New Yorkを参照されたい。
「抗体」とは、抗原に特異的に結合し、認識する、免疫グロブリン遺伝子又はその断片からのフレームワーク領域を含むポリペプチドのことを指す。認識される免疫グロブリン遺伝子としては、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン及びミュー定常領域遺伝子並びに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。好ましい実施態様では、自己プライマー化ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質に特異的に結合する抗体を作製する。軽鎖はカッパ鎖とラムダ鎖とに分類される。重鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタ又はイプシロンと分類され、これらはそれぞれ、免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを構成している。通常、抗体の抗原結合領域は結合の特異性及び親和性に最も重要である。
例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は四量体を含む。各四量体は同一の2対のポリペプチド鎖で構成され、各対は1本の「軽」鎖(約25kD)及び1本の「重」鎖(約50乃至70kD)を有する。各鎖のN末端は、主として抗原認識に関与する約100乃至110個以上のアミノ酸からなる可変領域を構成している。可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)という用語はそれぞれ、こうした軽鎖及び重鎖のことを指す。
抗体は、例えば、完全な状態の免疫グロブリンとして、又は各種ペプチダーゼによる消化で生じたいくつかの特性のよく分かった断片として存在する。すなわち、例えば、ペプシンはヒンジ領域のジスルフィド結合の下流で抗体を消化することにより、それ自体ジスルフィド結合によってVH−CH1に接合される軽鎖であるFabの二量体のF(ab)’2を生じる。このF(ab)’2を緩和な条件下で還元してヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することによってF(ab)’2二量体はFab’単量体に変換される。Fab’単量体は本質的にはヒンジ領域の一部を有するFabである(Fundamental Immunology(Paul編、第3版1993年参照)。各種抗体断片は完全な状態の抗体の消化によって決定されるが、そのような断片が化学的に、又は組換えDNA法を用いてデノボ合成することができることは、当業者であれば理解するであろう。従って、本明細書に用いている抗体という用語には、抗体全体の修飾により作製した抗体断片、又は組換えDNA法を用いてデノボ合成したもの(例えば、一本鎖Fv)、又はファージ・ディスプレイ・リイブラリ(例えば、McCaffertyほか、Nature 348:p552−554(1990年))を用いて同定されたものも含まれる。
抗体(例えば、組換え、モノクロナール又はポリクロナール抗体)の調製には、当該分野で周知の多くの技術を用いることができる(例えば、Kohler及びMilstein、Nature 256:p495−497(1975年)、Kozborほか、Immunology Today 4:p72(1983年)、Coleほか、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、p77−96、Alan R.Liss,Inc.(1985年)、Coligan、Current Protocols in Immunology(1991年)、Harlow及びLane、Antibodies,A Laboratory Manual(1988年)並びにGoding、Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(第2版1986年)を参照)。対象とする抗体の重及び軽鎖をコードしている遺伝子は細胞からクローニングすることができ、例えば、モノクロナール抗体をコードしている遺伝子はハイブリドーマからクローニングされ、組換えモノクロナール抗体を作製するのに用いることができる。モノクロナール抗体の重及び軽鎖をコードしている遺伝子ライブラリはハイブリドーマ又は形質細胞から作製することもできる。重及び軽鎖遺伝子産物を無作為に組み合わせることにより異なる抗原特異性を有する抗体の大きなプールが得られる(例えば、Kuby、Immunology(第3版1997年)参照)。一本鎖抗体又は組換え抗体の作製技術(米国特許第4,946,778号及び同4,816,567号)は、本発明のポリペプチドに対する抗体の作製に適用することができる。また、遺伝子導入マウス又は他の哺乳動物などの他の生物を用いてヒト化又はヒト抗体を発現させることもできる(例えば、米国特許第5,545,807号、同5,545,806号、同5,569,825号、同5,625,126号、同5,633,425号、同5,661,016号、Marksほか、Bio/Technology 10:p779−783(1992年)、Lonbergほか、Nature 368:p856−859(1994年)、Morrison、Nature 368:p812−13(1994年)、Fishwildほか、Nature Biotechnology 14:p845−51(1996年)、Neuberger、Nature Biotechnology 14:p826(1996年)、並びにLonberg及びHuszar、Intern.Rev.Immunol.13:p65−93(1995年)参照)。あるいは、ファージ・ディスプレイ・リイブラリを用いて、特定の抗原に特異的に結合する抗体及びヘテロメリックFab断片を特定することができる(例えば、McCaffertyほか、Nature 348:p552−554(1990年)、Marksほか、Biotechnology 10:p779−783(1992年)参照)。また、抗体は、二重特異性、即ち、2種の抗原を認識することができるようにすることもできる(例えば、国際公開第WO 93/08829号、Trauneckerほか、EMBO J.10:p3655−3659(1991年)及びSureshほか、Methods in Enzymology 121:p210(1986年)参照)。また、抗体はヘテロコンジュゲート、例えば、2つの共有結合した抗体、又は免疫毒素とすることもできる(例えば、米国特許第4,676,980号、国際公開第WO91/00360号、同第WO92/200373号及びEP03089参照)。
一実施態様において、この抗体は「エフェクタ」部分と結合させる。このエフェクタ部分は診断アッセイ用の放射性標識又は蛍光標識などの標識部分を含む任意の数の分子とすることができる。
抗体に「特異的に(又は選択的に)結合する」又は「〜に対し特異的な(もしくは選択的な)免疫反応性を示す」という語句は、蛋白質又はペプチドのことを指す場合、しばしば蛋白質類及び他の生体物質類の不均一な集団において、その蛋白質の存在を決定する結合反応のことを意味する。従って、所定のイムノアッセイ条件下において、その特定の抗体は特定の蛋白質にバックグラウンドの少なくとも2倍、より典型的にはバックグラウンドの10乃至100倍超、結合する。そのような条件下で抗体に特異的に結合するには特定の蛋白質に対する特異性に関して選択された抗体が必要となる。例えば、IgE蛋白質に対するポリクロナール抗体、多型変異体、対立遺伝子、直系遺伝子及び保存的に修飾された変異体もしくはスプライス亜型又はこれらの部分は、IgE蛋白質と特異的に免疫反応性を示し、他の蛋白質とは示さないポリクロナール抗体のみが得られるように選択することができる。この選択は、他の分子と交差反応する抗体を取り去ることにより達成することができる。特定の蛋白質と特異的に免疫反応性を示す抗体を選択するには各種のイムノアッセイ方式を用いることができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイは、蛋白質と特異的に免疫反応性を示す抗体を選択するのにルーチン的に用いられている(例えば、特異的な免疫反応性を測定するのに用いることができるイムノアッセイ方式および条件の解説については、例えば、Harlow、Lane、Antibodies、A Laboratory Manual(1988年)参照)。
「抗原」とは、抗体によって認識され、結合される分子、例えば、ペプチド、炭水化物、有機分子、又は糖脂質、糖蛋白質などのより複雑な分子である。抗体結合の標的である抗原の部分は抗原決定基であり、単一の抗原決定基に相当する小さな官能基はハプテンと呼ばれる。
「標識」とは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的又は化学的手段によって検出可能な成分である。例えば、有用な標識としては、32P、125I、蛍光色素、高電子密度試薬、酵素(例えば、ELISAによく用いられているようなもの)、ビオチン、ジゴキシゲニン又は抗血清もしくはモノクロナール抗体が入手可能なハプテン及び蛋白質が挙げられる(例えば、配列番号2のポリペプチドは、例えばこのペプチドに放射性標識を組み込むことにより検出可能となり、このペプチドと特異的に反応する抗体を検出するのに用いることができる)。
「イムノアッセイ」という用語は、抗原に特異的に結合する抗体を用いるアッセイのことである。このイムノアッセイは、抗原を単離し、標的とし、及び/又は定量するために特定抗体の特異的結合性を利用すること特徴とする。
「担体分子」という用語は、T細胞によって認識される抗原決定基を含有する免疫原性分子のことを意味する。担体分子は蛋白質であってもよく、脂質であってもよい。担体蛋白質をポリペプチドに結合させることによってこのポリペプチドは免疫原性になる。担体蛋白質としては、キーホールリンペットヘモシアニン、カブトガニヘモシアニン及びウシ血清アルブミンが挙げられる。
「アジュバント」という用語は、抗原に対する免疫反応を非特異的に増強する物質である。アジュバントとしては、完全又は不完全フロイントのアジュバント、タイターマックスゴールドアジュバント、ミョウバン、及び細菌LPSが挙げられる。
「接触させる(contacting)」という用語は、本明細書では次の用語と同じ意味で用いている:〜と組み合わせる、〜に添加する、〜と混合する、〜上を通す、〜とインキュベートする、〜の上を流す、など。
III. シアリルトランスフェラーゼ
ポリシアリルトランスフェラーゼはシアル酸残基を受容体基質に付加することができる酵素である。通常、ポリシアリルトランスフェラーゼは「プライミングされた基質」(即ち、その基質にシアル酸残基が結合した基質)にシアル酸残基を付加する。適切なシアル酸残基を付加してPST活性のために受容体基質を「プライミングする」のには別のシアリルトランスフェラーゼを用いることができる。
A. PSTポリペプチド
PST蛋白質はこれまでに同定されており、従って、当業者によって同定可能である。例えば、あるPSTはpfam07388、α−2−8−ポリST、α−2,8−ポリシアリルトランスフェラーゼのコンセンサス配列とアラインメントさせることができる。例えば、Marchler−Bauerほか、Nucleic Acids Res.33:pD192−6(2005年)を参照されたい。pfam07388にアラインメントを示す他のPST蛋白質も本発明に使用することができる。このα−2−8−ポリST、α−2,8−ポリシアリルトランスフェラーゼファミリーの蛋白質は、配列比較に基づいてそのように同定された一群の蛋白質である。例えば、Steenbergen及びVimr、J.Biol.Chem.278:p15349−15359(2003年)を参照されたい。他の実施態様では、短縮PST蛋白質は、CAZyファミリーGT38のメンバーであるPST蛋白質からの配列を含む。例えば、URL:afmb.cnrs−mrs.fr/CAZY/のCoutinho,P.M.及びHenrissat,B.(1999年)Carbohydrate−Active Enzymesサーバを参照されたい。PST蛋白質としては、α2,8−結合シアル酸残基のホモポリマー、α2,9−結合シアル酸残基のホモポリマー又はα2,8/α2,9−結合シアル酸残基のコポリマーを合成する蛋白質が挙げられる。
PST蛋白質は、例えば、N.meningitidis又はE.coli細菌から単離することができる。これらのPST蛋白質は、いずれも細菌系のメンバーのみを含む糖転移酵素ファミリーGT−38由来である。例えば、Coutinho,P.M.ほか、Journal of Molecular Biology、328:p307−317(2003年)を参照されたい。例示したN.meningitidis及びE.coliの蛋白質はインビボで同一の構造体を作るが、これら2種の蛋白質は33%の同一性を共有する。
B. シアリルトランスフェラーゼ
一部のシアリルトランスフェラーゼ蛋白質は、α−2,3シアリルトランスフェラーゼ活性及びα−2,8シアリルトランスフェラーゼ活性のうちの少なくとも1つを有する。その例は、例えば米国特許第6,503,744号及び米国特許第6,699,705号に開示されており、これらはあらゆる目的で本明細書に参考として援用されている。このようなシアリルトランスフェラーゼ蛋白質は、CAZyファミリー42のメンバーである。例えば、URL:afmb.cnrs−mrs.fr/CAZY/のCoutinho,P.M.及びHenrissat,B.(1999年)Carbohydrate−Active Enzymesサーバを参照されたい。これらの細菌性シアリルトランスフェラーゼポリペプチドは、2種のモチーフ:シアリルトランスフェラーゼモチーフA、DVFRCNQFYFED/E及びこの配列の保存的修飾変異体並びにシアリルトランスフェラーゼモチーフB、RITSGVYMC及びこの配列の保存的修飾変異体を含む。一部の実施態様において、これらのシアリルトランスフェラーゼポリペプチドは、シアリルトランスフェラーゼモチーフA DVFRCNQFYFED又はDVFRCNQFYFEE及びシアリルトランスフェラーゼモチーフB RITSGVYMCを含む。例えば、あらゆる目的で本明細書に参考として援用されているPCT/CA2005/001432を参照されたい。これらの保存されたシアリルトランスフェラーゼモチーフは多数の細菌性シアリルトランスフェラーゼの分析によって同定されたものである。18種のシアリルトランスフェラーゼのアミノ酸配列がアラインメントされ、これらの保存されたシアリルトランスフェラーゼ配列モチーフA及びBが目視検査により同定された。
例示的なシアリルトランスフェラーゼはC.jejuni由来のCstII蛋白質である。ここのファミリーのメンバーのシアリルトランスフェラーゼ蛋白質又は核酸は、以下のC.jejuni株から単離することができる:OH4384(ジェンバンクアセッション番号AR271700)、OH4382(GenBankアセッション番号AR271701、O:23(ジェンバンクアセッション番号AF401529)、O:41(GenBankアセッション番号AR271702)及びHB93−13(GenBankアセッション番号AY297047)。例えば、米国特許第6,503,744号及び米国特許第6699705号も参照されたい。これらの特許はあらゆる目的で本明細書に参考として援用されている。
一部の実施態様において、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドは酵素活性に重要と思われる他のアミノ酸残基も含む。例えば、Campylobacter jejuni株OH4384由来のCst−IIの構造が解析された。(例えば、Chiuほか、Nat.Struc.Mol.Biol.11:p163−170(2004年)参照)。このCst−II酵素の突然変異解析によって、例えば、シアリルトランスフェラーゼモチーフBのアルギニン残基は活性に必要であることが明らかとなった。OH4384蛋白質については残基番号が示されており、他のCst−II蛋白質の対応する残基は配列アラインメントによって決定することができる。例えば、あらゆる目的で本明細書に参考として援用されているPCT/CA2005/001432を参照されたい。シアリルトランスフェラーゼモチーフBのアルギニン残基はCst−IIのR129といい、図1のシアリルトランスフェラーゼコンセンサス配列のR165と関連がある。触媒活性に重要と思われる他のアミノ酸残基としては、Cst−II Y156、Cst−II Y162及びCst−II H188が挙げられる。蛋白質活性に影響する他のアミノ酸についてはPCT/CA2005/001432で検討されている。
IV. PSTポリペプチドをコードしている核酸の単離
PSTポリペプチドをコードしている核酸としては、上記の完全長天然PSTポリペプチド及びこうした配列の酵素的に活性な短縮配列をコードしている核酸が挙げられる。本発明のPSTポリペプチドは供与体基質からのシアル酸の受容体基質への転移を触媒し、その活性を測定するアッセイが本明細書に開示されている。
本明細書に開示した情報に基づく別のPSTポリペプチドをコードしている核酸類、及びこのような核酸類を得る方法については当業者には周知である。好適な核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAもしくは部分配列(プローブ))は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:polymerase chain reaction)、リガーゼ連鎖反応(LCR:ligase chain reaction)、転写増幅システム(TAS:transcription−based amplification system)、自立的配列複製システム(SSR:self−sustained sequence replication system)などのインビトロでの方法によってクローニング又は増幅させることができる。多種多様なクローニング及びインビトロ増幅方法が当業者には公知である。多くのクローニング実習を通して当業者を指導するのに十分なこうした技術及び手引き書の例は、Berger及びKimmel、Guide to Molecular Cloning Techniques、Methods in Enzymology 152 Academic Press,Inc.、San Diego、CA (Berger);Sambrookほか、(1989年)Molecular Cloning − A Laboratory Manual(第2版)第1−3巻、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Press、NY、(Sambrookほか);Current Protocols in Molecular Biology、F.M. Ausubelほか編、Current Protocols、a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.、(1994年補遺)(Ausubel);Cashionほか、米国特許第5,017,478号;並びにCarr、ヨーロッパ特許第0,246,864号にみられる。
標準的な分子生物学の手法(例えば、PCR)を用いて任意の既知PST配列の短縮配列を作製することができる。
PSTポリペプチド又はその部分配列もしくは短縮配列をコードしているDNAは、上述の任意の適切な方法(これには、例えば、適切な配列のクローニング及び制限酵素による制限が含まれる)によって調製することができる。一実施態様において、PSTポリペプチドをコードしている核酸をルーチン的なクローニング方法により単離する。ポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列は、例えば、配列番号1のPSTをコードしている核酸配列である。核酸配列を用いることによって、(例えば、サザンブロット又はノーザンブロットにおいて)ゲノムDNAサンプル中のPSTポリペプチドをコードしている遺伝子と、又は全RNAサンプル中のPSTポリペプチドをコードしているmRNAと特異的にハイブリッドを形成するプローブを得ることができる。PSTポリペプチドをコードしている目的の核酸を一旦特定すれば、これを当業者に周知の標準的な方法に従って単離することができる(例えば、Sambrookほか、(1989年)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版第1−3巻、Cold Spring Harbor Laboratory;Berger及びKimmel(1987年)Methods in Enzymology、第152巻:Guide to Molecular Cloning Techniques、San Diego:Academic Press,Inc.;又はAusubelほか、(1987年)Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing and Wiley−Interscience、New York参照)。更に、単離した核酸は制限酵素で切断することによって完全長のPSTポリペプチド又はその部分配列もしくは短縮配列(例えば、PSTポリペプチドの触媒ドメインの少なくとも部分配列をコードしている部分配列を含む短縮配列)を作製することができる。次いで、PSTポリペプチド又はその部分配列をコードしているこうした制限酵素諸断片は結合させることができる。
PSTポリペプチド又はその部分配列をコードしている核酸は、その発現産物をアッセイすることにより特性化することができる。その発現蛋白質の物理的、化学的又は免疫学的性質の検出に基づいたアッセイを用いることができる。例えば、この核酸によりコードされている蛋白質の、供与体基質のシアル酸の適切な受容体基質への転移を触媒する能力によって、クローン化PSTポリペプチドを同定することができる。一方法では、キャピラリー電気泳動を用いることにより反応生成物を検出する。この高感度のアッセイは、Wakarchukほか、(1996年)J.Biol.Chem.271(45):p28271−276に記載されているような、フルオレセインで標識した単糖又は二糖アミノフェニル誘導体を使用するものである。ポリシアリルトランスフェラーゼ活性をアッセイするために、基質としてはLac−FCHASE、Gal−β−l,3−GalNAc−α−FCHASE(T−Ag−FCHASE)又はNeuAc−α−2,3−Gal−β−l,3−GalNAc−α−FCHASEを用いることができる。例えば、米国特許第6,503,744号を参照されたい。この特許は本明細書に参考として援用されている。一部の実施態様では、別のシアリルトランスフェラーゼを用いてこの反応をプライミングすることができる。オリゴ糖反応生成物の他の検出方法としては、薄層クロマトグラフィー及びGC/MSが挙げられ、本明細書に参考として援用されている米国特許第6,503,744号に開示されている。
また、PSTポリペプチドをコードしている核酸又はその部分配列は化学的に合成することができる。好適な方法としては、Narangほか、(1979年)Meth.Enzymol.68:p90−99の燐酸トリエステル法、Brownほか、(1979年)Meth.Enzymol.68:p109−151の燐酸ジエステル法、Beaucageほか、(1981年)Tetra.Lett.、22:p1859−1862のジエチルホスホルアミダイト法、及び米国特許第4,458,066号の固体担体法が挙げられる。化学合成では一本鎖オリゴヌクレオチドが作製される。これを、相補配列とのハイブリッド形成又はこの一本鎖を鋳型とするDNAポリメラーゼによる重合によって二本鎖DNAに変換することができる。DNAの化学合成では約100塩基の配列に限定されることが多いが、短い配列同士を結合させることによってさらに長い配列を得ることができることは、当業者によって認められよう。
PSTポリペプチドをコードしている核酸又はその部分配列は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などのDNA増幅法を用いてクローニングすることができる。すなわち、例えば、1つの制限酵素部位(例えば、NdeI)を含むセンスプライマー及び別の制限酵素部位(例えば、HindIII)を含むアンチセンスプライマーを用いて核酸又は部分配列をPCR増幅する。これにより目的のPSTポリペプチド又は部分配列をコードし、末端に制限酵素部位を有する核酸が得られる。次いで、この核酸を適切な対応制限酵素部位を有する発現ベクターに容易に結合させることができる。好適なPCRプライマーは、GenBank又は他の供給源に備えられている配列情報を利用して当業者が決定することができる。PSTポリペプチド又はその蛋白質部分配列をコードしている核酸には部位特異的突然変異により適切な制限酵素部位を付加することもできる。PSTポリペプチドをコードしている核酸配列又は部分配列を含有するプラスミドは、適切な制限エンドヌクレアーゼで切断した後、適切なベクターに結合させて標準的な方法に従って増幅及び/又は発現させる。インビトロ増幅法を通して当業者を指導するのに十分な技術の例は、
にみられる。
PST蛋白質は、適切なDNA配列、例えば細菌染色体からのDNA配列を増幅させることによって単離することができる。PST蛋白質をコードしている核酸を増幅するのに用いることができるPCRプライマーの例としては、次のプライマー対、例えば、E.coli PSTを増幅するためのプライマー:
5’−AAGGTATAAGACATATGATATTTGATGCTAGTTTAAAGAAG及び3’−CCTAGGTCGACTTACTCCCCCAAGAAAATCCTTTTATCGTGC
が挙げられる。
特定の核酸から発現させた組換えPSTポリペプチドの他の物理的性質を既知のPSTポリペプチドの性質と比較することによって、受容体基質特異性及び/又は触媒活性を決定するPSTポリペプチドの好適な配列又はドメインを特定する別の方法を得ることができる。あるいは、想定上のPSTポリペプチドを変化させ、そのPSTとしての役割又は特定配列又はドメインの役割を、変化させていない天然型又は対照PSTポリペプチドにより通常作られる炭水化物の構造の変動を検出することにより立証することができる。本発明のPSTポリペプチドの突然変異又は修飾は、二機能性シアリルトランスフェラーゼポリペプチド又はPSTポリペプチドをコードしている核酸を操作する分子生物学の技術(例えば、PCR)によって容易にすることができることは、当業者によって認められよう。
V. 宿主細胞におけるPSTポリペプチドの発現
本発明のPST蛋白質は、E.coliその他の細菌宿主及び酵母を含む種々の宿主細胞において発現させることができる。宿主細胞は、好ましくは、例えば酵母細胞、細菌細胞、糸状菌細胞などの微生物である。好適な宿主細胞としては、多くの中でも、例えば、Azotobacter sp.(例えば、A.vinelandii)、Pseudomonas sp.、Rhizobium sp.、Erwinia sp.、Escherichia sp.(例えば、E.coli)、Bacillus、Pseudomonas、Proteus、Salmonella、Serratia、Shigella、Rhizobia、Vitreoscilla、Paracoccus及びKlebsiella sp.が挙げられる。こうした細胞は、以下のものを含むいくつかの属のいずれかのものとすることができる:Saccharomyces(例えば、S.cerevisiae)、Candida(例えば、C.utilis、C.parapsilosis、C.krusei、C.versatilis、C.lipolytica、C.zeylanoides、C.guilliermondii、C.albicans及びC.humicola)、Pichia(例えば、P.farinosa及びP.ohmeri)、Torulopsis(例えば、T.Candida、T.sphaerica、T.xylinus、T.famata及びT.versatilis)、Debaryomyces(例えば、D.subglobosus、D.cantarellii、D.globosus、D.hansenii及びD.japonicus)、Zygosaccharomyces(例えば、Z.rouxii及びZ.bailii)、Kluyveromyces(例えば、K.marxianus)、Hansenula(例えば、H.anomala and H.jadinii)、並びにBrettanomyces(例えば、B.lambicus及びB.anomalus)。有用な細菌の例としては、Escherichia、Enterobacter、Azotobacter、Erwinia、Klebsielia、Bacillus、Pseudomonas、Proteus及びSalmonellaが挙げられるが、これらに限定されない。
PSTポリペプチドを宿主細胞において一旦発現させると、これを用いてポリシアル化産物を作製することができる。例えば、PSTポリペプチドを標準的な蛋白質精製技術を用いて単離し、本明細書に記載したインビトロ反応に使用することによってポリシアル化産物を作製することができる。また、インビトロ反応に部分精製したPSTポリペプチドを用いることによって、透過性宿主細胞が可能なように、ポリシアル化産物を作製することもできる。また、こうした宿主細胞をインビボ系(例えば、発酵生産)に用いることによりポリシアル化産物を作製することもできる。
通常、PSTポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドは、所望の宿主細胞において機能するプロモータの制御下におく。極めて広い種類のプロモータが公知であり、具体的な用途に応じて本発明の発現ベクターに用いることができる。通常、選択されるプロモータはこのプロモータが活性を示すことになる細胞によって決まる。リボソーム結合部位、転写終結部位などの他の発現制御配列も任意選択的に含める。こうした制御配列を1種以上含む構築体は「発現カセット」と名付けられている。従って、本発明は、所望の宿主細胞において高レベルの発現を得るために融合蛋白質をコードしている核酸が組み込まれている発現カセットを提供する。
特定の宿主細胞において使用するのに好適な発現制御配列は、この細胞で発現される遺伝子をクローニングすることによって得られることが多い。リボソーム結合部位配列の他に、転写開始用プロモータを、任意選択的にオペレータと共に含むよう本明細書で定義しているよく用いられている原核細胞制御配列としては、ベータラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)及びラクトース(lac)プロモータ系(Changeほか、Nature(1977年)198:p1056)、トリプトファン(trp)プロモータ系(Goeddelほか、Nucleic Acids Res.(1980年)8:p4057)、tacプロモータ(DeBoerほか、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1983年)80:p21−25)並びにラムダ由来PLプロモータ及びN−遺伝子リボソーム結合部位(Shimatakeほか、Nature(1981年)292:p128)などの一般的なプロモータが挙げられる。特定のプロモータ系が本発明に不可欠であるのではなく、原核生物で機能する入手可能な任意のプロモータを用いることができる。
E.coli以外の原核生物においてPST蛋白質を発現させるには、具体的な原核生物種において機能するプロモータが必要とされる。そのようなプロモータはその種からクローニングした遺伝子から得ることができ、又は異種プロモータを用いることができる。例えば、trp−lacハイブリッドプロモータはE.coliの他にBacillusにおいて機能する。
本発明の発現カセットにはリボソーム結合部位(RBS)を含ませるのが好都合である。例えば、E.coliのRBSは開始コドンの上流3乃至11ヌクレオチドに位置する3乃至9ヌクレオチド長のヌクレオチド配列からなる(Shine及びDalgarno、Nature(1975年)254:p34;Steitz、Biological regulation and development:Gene expression(R.F.Goldberger編)、第 1巻、p349、1979年、Plenum Publishing、NY)。
酵母においてPST蛋白質を発現させるための好都合なプロモータとしては、GAL1−10(Johnson及びDavies(1984年)Mol.Cell.Biol.4:p1440−1448)、ADH2(Russellほか、(1983年)J.Biol.Chem.258:p2674−2682)、PHO5(EMBOJ.(1982年)6:p675−680)並びにMFα(Herskowitz及びOshima(1982年)The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces(Strathern、Jones及びBroach編)Cold Spring Harbor Lab.、Cold Spring Harbor、N.Y.、p181−209)が挙げられる。酵母用の別の好適なプロモータはCousensほか、Gene61:p265−275(1987年)に記載されているADH2/GAPDHハイブリッドプロモータである。例えば真菌Aspergillus属の株(McKnightほか、米国特許第4,935,349号)などの糸状菌の場合、有用なプロモータの例としては、ADH3プロモータ(McKnight、EMBO J.4:p2093 2099(1985年))、tpiAプロモータなどのAspergillus nidulansの解糖系遺伝子由来のものが挙げられる。好適なターミネータの例はADH3ターミネータ(McKnightほか)である。
本発明では構成的又は調節性プロモータを用いることができる。調節性プロモータは、宿主細胞を高密度に増殖させた後に融合蛋白質の発現を誘導することができるので、有利となり得る。異種蛋白質を高レベルで発現させると、状況によっては細胞増殖が遅くなる。誘導プロモータは、発現のレベルが、例えば温度、pH、嫌気的もしくは好気的条件、光、転写因子、化学物質などの環境的又は発生的要因によって変更可能である場合に遺伝子の発現を誘導するプロモータである。そのようなプロモータを本明細書では「誘導プロモータ」と称し、これによって糖転移酵素又はヌクレオチド糖合成に関与する酵素の発現のタイミングを制御することが可能となる。E.coli及び他の細菌宿主細胞の誘導プロモータは当業者に周知である。これらのものとしては、例えば、lacプロモータ、バクテリオファージラムダPLプロモータ、trp−lacハイブリッドプロモータ(Amannほか、(1983年)Gene 25:p167;de Boerほか、(1983年)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA80:p21)、及びバクテリオファージT7プロモータ(Studierほか、(1986年)J.Mol.Biol、Taborほか、(1985年)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 82:p1074−8)が挙げられる。これらのプロモータ及びその使用についてはSambrookほか、上記文献に記載されている。原核生物における発現用の特に好ましい誘導プロモータは、ガラクトース代謝に関与する酵素をコードしている遺伝子又は遺伝子群から得られるプロモータ成分(例えば、UDPガラクトース4−エピメラーゼ遺伝子(galE)からのプロモータ)に連結させたtacプロモータ成分を含む二重プロモータである。この二重tac−galプロモータについてはPCT特許出願公開第WO98/20111号に開示されている。
適切な宿主細胞に入れた場合にポリヌクレオチドの発現を駆動する遺伝子発現制御シグナルに動作可能なように連結させた対象ポリヌクレオチドを含む構築体は「発現カセット」と名付けられている。本発明の融合蛋白質をコードする発現カセットは、多くの場合、宿主細胞に導入するための発現ベクター中に配置する。通常、こうしたベクターは、発現カセットの他に、このベクターが1種以上の特定の宿主細胞中で独立に複製することを可能にする核酸配列を含む。一般に、この配列は、ベクターが宿主染色体DNAとは独立に複製することを可能にするものであり、複製起点又は自己複製配列を含む。このような配列は種々の細菌に関して公知である。例えば、プラスミドpBR322からの複製起点は多くのグラム陰性細菌に適している。あるいは、このベクターは、宿主細胞ゲノム相補体に組み込まれ、細胞がDNA複製を行う時に複製されることにより複製することができる。細菌細胞における上記酵素の発現用の好ましい発現ベクターはpTGKであり、これは二重tac−galプロモータを含んでおり、PCT特許出願公開第WO98/20111号に開示されている。
ポリヌクレオチド構築物の構築では、一般に細菌において複製することができるベクターを用いることが必要である。細菌からのプラスミドの精製用に多くのキットが市販されている(例えば、Pharmacia Biotech社製EasyPrepJ及びFlexiPrepJ、Stratagene社製StrataCleanJ、及びQiagen社製QIAexpress Expression System参照)。次に、単離されて精製されたプラスミドをさらに操作して別のプラスミドを作製し、細胞に形質移入するのに用いることができる。Streptomyces又はBacillusにおけるクローニングも可能である。
本発明のポリヌクレオチドを発現させるのに用いる発現ベクターには、多くの場合、選択マーカを組み込む。こうした遺伝子は、選択培地で増殖させる形質転換宿主細胞の生存又は増殖に必要な蛋白質などの遺伝子産物をコードすることができる。選択遺伝子を含むベクターで形質転換しなかった宿主細胞はこの培地では生残しないことになる。代表的な選択遺伝子は、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリンなどの抗生物質その他のトキシンに対する耐性を付与する蛋白質をコードする。あるいは、選択マーカは、栄養素要求性欠損を補完し、又は天然培地からは利用可能でない重要な栄養素を供給する蛋白質をコードすることができる(例えば、Bacilliのd−アラニンラセマーゼをコードしている遺伝子)。多くの場合、このベクターは、例えばE.coli、又はこのベクターが宿主細胞に導入される前に複製される他の細胞において機能する1つの選択マーカを有することになる。いくつかの選択マーカが当業者に周知されており、例えば、Sambrookほか、上記文献に記載されている。
上記に列記した成分を1種以上含む好適なベクターの構築には上記で引用した文献に記載されているような標準的な連結技術を使用する。単離したプラスミド又はDNA断片を切断し、調整して所望の形態に再連結して必要なプラスミドを作製する。構築したプラスミドにおける配列の正確さを確認するために、制限エンドヌクレアーゼ消化及び/又は既知の方法による配列決定などの標準的な技術によってこうしたプラスミドを分析することができる。このような目的を達成するための分子クローニング技術は当該分野では周知である。組換え核酸の構築に適した多種多様なクローニング及びインビトロ増幅方法が当業者には公知である。多くのクローニング訓練を通して当業者を指導するのに十分なこうした技術及び手引き書の例は、Berger及びKimmel、Guide to Molecular Cloning Techniques、Methods in Enzymology、第152巻、Academic Press,Inc.、San Diego、CA(Berger)並びにCurrent Protocols in Molecular Biology、F.M.Ausubelほか編、Current Protocols、a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.、(1998年補遺)(Ausubel)にみられる。
本発明の発現ベクターを構築するための出発原料として使用するのに好適な種々の一般的ベクターが当該分野で公知である。細菌におけるクローニングの場合、一般的ベクターとしては、pBLUESCRIPT(商標)などのpBR322由来ベクター及びλファージ由来ベクターが挙げられる。酵母では、ベクターとしては酵母組み込みプラスミド(例えば、YIp5)及び酵母複製プラスミド(YRpシリーズプラスミド)及びpGPD−2が挙げられる。哺乳動物細胞における発現は、pSV2、pBC12BI及びp91023並びに溶解性ウィルスベクター(例えば、ワクシニアウイルス、アデノウイルス及びバキュロウイルス)、エピソームウイルスベクター(例えば、ウシパピローマウィルス)及びレトロウイルスベクター(例えば、マウスレトロウイルス)を含む種々の一般に入手可能なプラスミドを用いて達成することができる。
特定の宿主細胞にこれらの発現ベクターを導入する方法は特に重要なものではなく、そのような方法は当業者には周知である。例えば、これらの発現ベクターは、塩化カルシウム形質転換法によりE.coliなどの原核細胞に、リン酸カルシウム処理又は電気穿孔法により真核細胞に導入することができる。他の形質転換法も適用できる。
発現を増強させるために翻訳共役を利用してもよい。この方法は、プロモータの下流に配置されている、翻訳系に固有の高度に発現される遺伝子に由来する上流の短い読み取り枠並びにリボソーム結合部位及びこれの数アミノ酸コドン後に続く終結コドンを利用するものである。この終結コドンの直前に第2のリボソーム結合部位があり、終結コドンの次に翻訳開始のための開始コドンがくる。この系はRNAの2次構造を融解させ、その結果、翻訳の効率的な開始が可能となる。Squiresほか、(1988年)、J.Biol.Chem.263:p16297−16302を参照されたい。
PSTポリペプチドは細胞内に発現させることができ、又は細胞から分泌させることができる。細胞内発現は高収量をもたらすことが多い。必要に応じて、再生処置を行うことにより可溶性の活性融合蛋白質を増加させることができる(例えば、Sambrookほか、上記文献、Marstonほか、Bio/Technology(1984年)2:p800、Schonerほか、Bio/Technology(1985年)3:p151参照)。PSTポリペプチドをペリプラズム又は細胞外培地に細胞から分泌させる実施態様では、そのDNA配列には切断可能なシグナルペプチド配列が連結させる。シグナル配列は細胞膜を通る融合蛋白質の移行を誘導する。プロモータ−シグナル配列単位を含むE.coli用の好適なベクターの例は、E.coliphoAプロモータ及びシグナル配列を有するpTA1529である(例えば、Sambrookほか、上記文献、Okaほか、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1985年)82:p7212、Talmadgeほか、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1980年)77:p3988、Takaharaほか、J.Biol.Chem.(1985年)260:p2670参照)。別の実施態様では、例えば精製、分泌又は安定性を促進するために、PST蛋白質をプロテインA又はウシ血清アルブミン(BSA)の部分配列に融合させる。
本発明のPSTポリペプチドは、さらに他の細菌蛋白質に連結させることもできる。多くの場合、この方法では、正常な原核生物制御配列が転写及び翻訳を誘導するので、高収量がもたらされる。E.coliでは、異種蛋白質を発現させるのにlacZ融合体を用いることが多い。pUR、pEX及びpMR100シリーズ(例えば、Sambrookほか、上記文献参照)などの好適なベクターは容易に入手できる。特定の用途のために、精製後の融合蛋白質から非ポリシアリルトランスフェラーゼ及び/又はアクセサリー酵素アミノ酸を切断することが望ましい場合がある。これは、臭化シアン、プロテアーゼ又は第Xa因子による切断を含む当該分野で周知のいくつかの方法のいずれかによって達成することができる(例えば、Sambrookほか、上記文献、Itakuraほか、Science(1977年)198:p1056、Goeddelほか、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1979年)76:p106、Nagaiほか、Nature(1984年)309:p810及びSungほか、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1986年)83:p561)。切断部位は、融合蛋白質の遺伝子中に所望の切断点で作ることができる。
単一発現ベクターに複数の転写カセットを配置することにより、又はクローニング方法に用いる発現ベクターの各々に対して種々の選択マーカを利用することにより単一宿主細胞に2種以上の組換え蛋白質を発現させることができる。例えば、シアリルトランスフェラーゼ(例えば、CST−II蛋白質)及びPSTポリペプチドを同じ宿主発現系において発現させることができる。次いで、このような宿主細胞の溶解産物又は精製シアリルトランスフェラーゼ及びPSTポリペプチドを用いてシアル酸残基を転移させることができる。
VI. PSTポリペプチドの精製
本発明の方法では、本発明のPST蛋白質は、例えば細胞内蛋白質として又は細胞から分泌される蛋白質として、発現させることができ、この形態で用いることができる。例えば、本発明の方法では、発現された細胞内又は分泌PSTポリペプチドを含む細胞粗抽出液を用いることができる。
あるいは、PSTポリペプチドは、硫安塩析、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などを含む当該分野の標準的な方法に従って精製することができる(全般的に、R.Scopes、Protein Purification、Springer−Verlag、N.Y.(1982年)、Deutscher、Methods in Enzymology第182巻:Guide to Protein Purification.、Academic Press,Inc.N.Y.(1990年)参照)。少なくとも約70、75、80、85、90%の均一性の実質的に純粋な組成が好ましく、92、95、98乃至99%以上の均一性が最も好ましい。こうした精製蛋白質は、例えば、抗体を産生させるための免疫原としても用いることができる。
本発明のPSTポリペプチドの精製を容易にするために、こうした蛋白質をコードする核酸に、親和性結合試薬が入手可能であるエピトープ又は「タグ」(即ち、精製タグ)のコーディング配列を含めることもできる。好適なエピトープの例としてはmyc及びV−5レポータ遺伝子が挙げられ、これらのエピトープを有する融合蛋白質の組換え生産に有用な発現ベクターが市販されている(例えば、Invitrogen社(Carlsbad CA)ベクターpcDNA3.1/Myc−His及びpcDNA3.1/V5−Hisは哺乳動物細胞における発現用に適している)。本発明のPSTポリペプチドにタグを結合させるのに適した別の発現ベクター及び対応する検出系が当業者に周知であり、いくつかは市販されている(例えば、FLAG”(Kodak社、Rochester、NY))。好適なタグの別の例は、金属キレート親和性リガンドに結合することができるポリヒスチジン配列である。通常、6個の隣接ヒスチジンが使用されるが、6個より多いものや少ないものも使用することができる。ポリヒスチジンタグの結合部分の役目をすることができる好適な金属キレート親和性リガンドとしては、ニトリロ三酢酸(NTA)(Hochuli,E.(1990年)“Purification of recombinant proteins with metal chelating adsorbents”、Genetic Engineering:Principles and Methods、J.K.Setlow編、Plenum Press、NY;Qiagen(Santa Clarita、CA)から市販)が挙げられる。他の精製又はエピトープタグとしては、例えば、AUl、AU5、DDDDK(EC5)、E tag、E2 tag、Glu−Glu、6残基ペプチド、ポリオーマミドルT蛋白質由来EYMPME、HA、HSV、IRS、KT3、S tage、S1 tag、T7 tag、V5 tag、VSV−G、βガラクトシダーゼ、Gal4、緑色蛍光蛋白質(GFP:green fluorescent protein)、ルシフェラーゼ、プロテインC、プロテインA、セルロース結合蛋白質、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ:glutathione S−transferase)、ステップタグ、Nus−S,PPIアーゼ、Pfg27、カルモデュリン結合蛋白質、dsb A及びその断片並びにグランザイムBが挙げられる。エピトープペプチド及びエピトープ配列に特異的に結合する抗体は、例えば、Covance Research Products,Inc.、Bethyl Laboratories,Inc.、Abcam Ltd.及びNovus Biologicals,Inc.から市販されている。
精製タグとして、マルトース結合ドメイン及び澱粉結合ドメインも挙げられる。精製タグを含む蛋白質は、精製タグを結合する結合パートナー(例えば精製タグに対する抗体、ニッケルもしくはコバルトイオン又は樹脂及びアミロース、マルトース又はシクロデキストリン)を用いて精製することができる。また、精製タグとして、澱粉結合ドメイン、E.coliチオレドキシンドメイン(例えば、Santa Cruz Biotechnology,Inc.及びAlpha Diagnostic International,Inc.から市販されているベクター及び抗体)、並びにSUMO蛋白質のカルボキシ末端半分(Life Sensors Inc.から市販されているベクター及び抗体)も挙げられる。E.coli由来マルトース結合ドメイン、A.nigerのアミラーゼ由来SBD(澱粉結合ドメイン:starch binding domain)などの澱粉結合ドメインについては、本明細書に参考として援用されている国際公開第WO99/15636号に開示されている。ベータシクロデキストリン(BCD)誘導体化樹脂を用いた澱粉結合ドメインを含む融合蛋白質の親和性精製については、国際公開第2005/014779号に開示されており、その全体が本明細書に参考として援用されている。一部の実施態様において、PSTポリペプチドは2種以上の精製又はエピトープタグを含む。
タグとして使用するのに適した他のハプテンについては当業者には周知であり、例えば、Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals (第6版、Molecular Probes,Inc.、Eugene OR)に記載されている。例えば、ジニトロフェノール(DNP:dinitrophenol)、ジゴキシゲニン、バルビツール酸塩(例えば、米国特許第5,414,085号参照)及び数種のフルオロフォアがこれらの化合物の誘導体と同様にハプテンとして有用である。ハプテンその他の部分を蛋白質その他の分子に連結するためのキットが市販されている。例えば、ハプテンがチオールを含む場合、SMCCのようなヘテロ二官能性リンカーを用いて捕捉試薬に存在するリジン残基にタグを結合させることができる。
PSTポリペプチドの触媒又は機能ドメインをその生物活性を減じることなく修飾することができることは、当業者によって認められるであろう。触媒ドメインのクローニング、発現又は溶融蛋白質中への組込みを容易にするために部分的に修飾することができる。このような修飾は当業者には公知であり、例えば、触媒ドメインをコードしているポリヌクレオチドのいずれか一方の末端にコドンを付加して、例えば、アミノ末端にメチオニンを付加して開始部位を形成し、又はいずれか一方の末端に追加的なアミノ酸(例えば、ポリHis)を配置して好都合な位置にある制限酵素部位もしくは終止コドンもしくは精製配列を作ることが挙げられる。
VII. 供与体基質及び受容体基質
本発明の方法においてPSTポリペプチド及び他の糖転移酵素により利用される好適な供与体基質としては、UDP−Glc、UDP−GlcNAc、UDP−Gal、UDP−GalNAc、GDP−Man、GDP−Fuc、UDP−GlcUA並びにCMP−シアル酸及び他の活性化シアル酸部分が挙げられるが、これらに限定されるものではない。Guoほか、Applied Biochem.and Biotech.68:p1−20(1997年)。
通常、PST酵素の受容体基質は、α−2,8結合で第2のシアル酸を付加するためのα−2,3結合の末端シアル酸、又はα−2,8結合で1個以上のシアル酸部分を付加するためのα−2,8結合の末端シアル酸を含む。
第1のシアル酸付加のための受容体基質としては、例えば、α−2,3結合でシアル酸部分を付加するための末端ガラクトースが挙げられる。通常、PST酵素の受容体基質は、α−2,8結合で第2のシアル酸を付加するためのα−2,3結合の末端シアル酸、又はα−2,8結合で1個以上のシアル酸部分を付加するためのα−2,8結合の末端シアル酸を含む。好適な受容体の例としては、β1,4結合によりGlcNAc又はGlcに結合した末端Gal及びGlcNAcもしくはGalNAcにβ1,3結合した末端Galが挙げられる。好適な受容体としては、例えば、Galβl,4GlcNAc、Galβ1,4GalNAc、Galβl,3GalNAc、ラクト−N−テトラオース、Galβ1,3GlcNAc、Galβl,3Ara、Galβ1,6GlcNAc、Galβ1,4Glc(ラクトース)などのガラクトシル受容体及び当業者に周知の他の受容体が挙げられる。ガラクトース部分が結合する末端残基はこれ自体、例えば、H、単糖、オリゴ糖又は少なくとも1つの炭水化物原子を有するアグリコンに結合することができる。一部の実施態様において、受容体残基は、例えば、ペプチド、蛋白質、脂質又はプロテオグリカンに結合しているオリゴ糖の一部分である。
ポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチド及び本発明の方法によって利用される好適な受容体基質としては、多糖及びオリゴ糖が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本明細書に記載したポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを多酵素系に用いることによって好都合な出発原料から所望の産物を生成させることができる。
PSTポリペプチド及び本発明の方法によって利用される好適な受容体基質として、蛋白質、脂質、ガングリオシド、及び本発明の方法により修飾することができる他の生物学的構造(例えば、細胞全体)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。通常、こうした受容体基質は上記の多糖又はオリゴ糖分子を含むことになる。
本発明は、オリゴ糖、所望のオリゴ糖部分を有する糖蛋白質及び糖脂質の生成能から選択されるPSTポリペプチドを提供する。同様に、所望の活性化糖基質又は産物オリゴ糖に存在する糖に基づいて、アクセサリー酵素(存在する場合)(例えば、基質に適切なシアル酸を付加することにより反応をプライミングすることができるシアリルトランスフェラーゼ)を選択する。
糖蛋白質の合成の場合、種々の量の対象ポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチド(例えば、0.01乃至100mU/mg蛋白質)を、この対象ポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質によるグリコシル化のための受容体となる可能性のある部位を有するオリゴ糖が連結している糖蛋白質(例えば、1乃至10mg/ml)と反応させることによって好適なポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを容易に特定することができる。本発明の組換えポリシアリルトランスフェラーゼ蛋白質の所望受容体部位における糖類残基の付加能に関して、所望の性質(例えば、受容体基質特異性又は触媒活性)を有する既知のポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチドと比較する。
一般に、ポリシアル化オリゴ糖、糖蛋白質及び糖脂質の酵素合成の有効性は、本発明の組換え生成短縮型ポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを用いることによって高めることができる。組換え技術を用いることにより、大規模なインビトロでのオリゴ糖、糖蛋白質及び糖脂質の修飾に必要な短縮型でより可溶性のポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを大量に作製することが可能となる。
一部の実施態様において、本発明のポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチド及び方法により利用されるのに好適なオリゴ糖、糖蛋白質及び糖脂質は、グリコシル化反応時に固体担体に固定化した糖蛋白質及び糖脂質とすることができる。「固体担体」という用語は、半固体担体をも包含する。一部の実施態様では、標的糖蛋白質又は糖脂質は、グリコシル化反応が完了した後に糖蛋白質又は糖脂質をそれぞれ放出させることができるように可逆性に固定化する。多くの好適なマトリックスが当業者に周知である。例えば、イオン交換を利用して、グリコシル化反応が進行している間、適切な樹脂上に糖蛋白質又は糖脂質を一時的に固定化することができる。対象の糖蛋白質又は糖脂質に特異的に結合するリガンドを親和性に基づく固定化のために用いることもできる。例えば、糖蛋白質に特異的に結合する抗体が好適である。また、対象の糖蛋白質がそれ自体抗体であるかその断片を含む場合には、プロテインA又はGを親和性樹脂として用いることができる。対象糖蛋白質又は糖脂質に特異的に結合する色素及び他の分子も好適である。
受容体糖が完全長の糖蛋白質の短縮型である場合、一部の実施態様では、これはその完全長の糖蛋白質の生物活性部分配列を含む。生物活性部分配列の例としては、酵素活性部位、リセプター結合部位、リガンド結合部位、抗体の相補性決定領域及び抗原の抗原性領域が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
VIII. ポリシアル化産物の作製
PSTポリペプチドを用いて、インビトロ反応混液中に、又はインビボ反応によって、例えば、PSTポリペプチドをコードしているヌクレオチドを含む組換え微生物の発酵性増殖によってポリシアル化産物を作製することができる。
A. インビトロ反応
PSTポリペプチドを用いて、インビトロ反応混液中にポリシアル化産物を作製することができる。こうしたインビトロ反応混液には、PSTポリペプチド、部分精製PSTポリペプチド又は精製PSTポリペプチドを含む透過性微生物、並びに供与体基質、受容体基質及び適切な反応緩衝液を含ませることができる。インビトロ反応の場合、PSTポリペプチドなどの組換え糖転移酵素蛋白質、受容体基質、供与体基質及び他の反応混液成分を水性反応媒体中で混合することにより化合させる。所望のPST産物に応じて、別の糖転移酵素をPSTポリペプチドと組み合わせて用いることができる。この媒体のpH値は、一般に約5乃至約8.5である。媒体は、媒体がpH値を所望のレベルに維持する能力に基づいて選択する。従って、一部の実施態様では、媒体を約7.5のpH値に緩衝化する。緩衝液を使用しない場合は、媒体のpHは、使用する具体的な糖転移酵素に応じて、約5乃至8.5に維持するべきである。PSTポリペプチドの場合、このpH範囲は約5.5乃至8.0に維持する。
酵素の量又は濃度は、触媒作用の初速度の指標である活性単位で表す。1活性単位は、所与の温度(通常、37℃)及びpH値(通常、7.5)における毎分1μmolの産物の形成を触媒する。従って、10単位の酵素は、10μmolの基質を37℃の温度及び7.5のpH値において1分で10μmolの産物に変換する酵素の触媒量である。
反応混液には2価の金属陽イオン(Mg2+、Mn2+)を含めることができる。また、反応媒体は、必要に応じて、可溶化界面活性剤(例えば、Triton又はSDS)及びメタノール、エタノールなどの有機溶媒を含むこともできる。酵素は、溶液中単独で利用してもよいし、ポリマーなどの担体に結合させてもよい。従って、反応混液は、最初は実質的に均一であるが、反応中にいくらかの沈澱物が形成されることがある。
上記のプロセスを実施する温度は氷点のすぐ上から最も感受性の高い酵素が変性する温度の範囲とすることができる。この温度範囲は、好ましくは約0℃乃至約45℃、より好ましくは約20℃乃至約37℃である。
そのようにして形成した反応混液は、所望の高収量のポリシアル化産物を得るのに十分な時間維持する。大規模調製の場合、反応は、約0.5乃至240時間、より典型的には約1乃至36時間進行させることになることが多い。
B. インビボ反応
PSTポリペプチドを用いて、インビボ反応、例えば、PSTポリペプチドを含む組換え微生物の発酵性増殖によりポリシアル化産物を作製することができる。組換え微生物の発酵性増殖は、受容体基質及び供与体基質又は供与体基質の前駆体(例えば、ガラクトース又はGalNAc)を含む媒体の存在下に行うことができる。例えば、Priemほか、Glycobiology 12:p235−240(2002年)を参照されたい。こうした微生物は受容体基質及び供与体基質又は供与体基質の前駆体を取り込み、この生細胞内で供与体基質の受容体基質への付加が行われる。この微生物は、受容体基質の取り込みを、例えば、糖輸送蛋白質を発現させることにより、容易にするよう改造することができる。例えば、ラクトースが受容体糖である場合、LacY透過酵素を発現するE.coli細胞を用いることができる。他の方法を用いて受容体糖の分解を低減させ、又は供与体糖又は供与体糖の前駆体の産生を増加させることができる。一部の実施態様では、宿主微生物を操作することによってポリシアル化産物の生成を増強する。例えば、E.coliでは、CMP−シアル酸合成酵素を欠く宿主株(NanA−)用いることによってシアル酸の分解をできるだけ少なくすることができる。(E.coliでは、CMP−シアル酸合成酵素は分解酵素であるように思われる。)また、E.coliでは、ラクトースが、例えば、受容体糖又はポリシアル化産物合成の中間体である場合、LacZ−である宿主細胞を用いることでラクトースの分解を最小限に抑えることができる。シアル酸含有オリゴ糖を含むオリゴ糖のインビボ合成の方法については、例えば、Samain及びPriem 国際公開第WO/2001/004341号(2001年)並びにJohnsonほか 国際公開第WO/2006/034225号(2006年)に記載されている。
一部の実施態様では、インビボのポリシアル化系は、シアリルトランスフェラーゼを含むことにより本発明のPSTのためのプライミングされた基質をもたらすこともできる。
C. ポリシアル化産物の特性化及び単離
ポリシアル化産物の生成は、例えば、所望の産物の生成が行われたことを確認することによって、又は受容体基質のような基質が減少したことを確認することによって監視することができる。オリゴ糖などのポリシアル化産物が、例えばろ紙もしくはTLCプレートを用いるクロマトグラフィーなどの技術を用いて、又はマススペクトロメトリー、例えばMALDI−TOFスペクトロメトリーもしくはNMRスペクトロメトリーによって同定することができることは、当業者によって認められよう。ポリシアル化産物の同定方法については当業者に周知であり、例えば、あらゆる目的で本明細書に参考として援用されている米国特許第6,699,705号、及びVarkiほか、Preparation and Analysis of Glycoconjugates,in Current Protocols in Molecular Biology、第17章(Ausubelほか編、1993年)に記載されている。
一部の実施態様では、本発明のPSTポリペプチド及び方法を用いて実質的に均一なグリコシル化パターンを有する糖蛋白質又は糖脂質を酵素的に合成する。こうした糖蛋白質及び糖脂質としては、糖型の変更が所望される、蛋白質、糖蛋白質、脂質又は糖脂質に単糖又はオリゴ糖が結合したものが挙げられる。この単糖又はオリゴ糖は糖転移酵素の受容体基質として機能することができる構造を含む。受容体基質がグリコシル化されると、所望のオリゴ糖部分が形成される。この所望のオリゴ糖部分は、それが結合する糖蛋白質又は糖脂質に所望の生物活性を付与する部分である。本発明の成分において、予め選択された単糖残基は、対象の受容体となる可能性のある部位の少なくとも約30%に連結される。より好ましくは、この予め選択された単糖残基は、対象の受容体となる可能性のある基質の少なくとも約50%、さらにより好ましくは対象の受容体となる可能性のある基質の少なくとも70%に連結される。出発糖蛋白質又は糖脂質が対象のオリゴ糖部分において不均一性を示す(例えば、出発糖蛋白質又は糖脂質のオリゴ糖の一部が対象の受容体基質に結合した予め選択された単糖残基を既に有する)場合、記載した百分率にはそのような予め結合された単糖残基が含まれる。
「変更された」という用語は、本発明のPSTポリペプチド及び方法の適用後に、元々産生された糖蛋白質にみられるのとは異なるグリコシル化パターンを有する対象の糖蛋白質又は糖脂質のことを指す。そのような複合糖質の例は、糖蛋白質の糖型が、生物の細胞により産生され、その生物に固有の糖蛋白質に存在する糖型と異なる糖蛋白質である。また、ポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチド、並びに糖蛋白質及び糖脂質を酵素的に合成するためにそのような蛋白質を使用する方法であって、複合糖質のグリコシル化パターンがその天然の複合糖質が産生される細胞と同じか異なる種のものとすることができる宿主細胞により元々産生された複合糖質のグリコシル化パターンと比べて修飾されている方法も提供する。
グリコシル化パターンの相違は、糖蛋白質及び糖脂質の構造分析によるばかりではなく、複合糖質の1種以上の生物活性の比較によっても評価することができる。例えば、「変更された糖型」を有する糖蛋白質には、非修飾糖蛋白質と比較してグリコシル化反応後の糖蛋白質の1種以上の生物活性に改善を示すものが含まれる。例えば、変更された複合糖質には、本発明のポリシアリルトランスフェラーゼポリペプチド及び方法の適用後に、対象リガンドもしくはリセプターに対する結合親和性の増大、治療半減期の延長、抗原性の低下及び特定組織へのターゲッティングを示すものが含まれる。観察される改善の大きさは、統計的に有意であることが好ましく、より好ましくは少なくとも約25%の改善であり、さらにより好ましくは少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、90%又は95%である。
PSTポリペプチドを用いて作製された産物は精製することなく使用することができる。しかしながら、グリコシル化糖を回収するために、標準的な公知技術、例えば、薄層もしくは厚層クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー又は膜ろ過を利用することができる。また、例えば、本発明の譲受人に譲渡されたオーストラリア特許第735695号に記載されているナノろ過又は逆浸透膜を用いる膜ろ過を利用してもよい。別の例として、膜が約1,000乃至約10,000ダルトンの分画分子量を有する膜ろ過を利用して蛋白質を除去することができる。別の例として、次に、ナノろ過又は逆浸透を利用して塩を除去することができる。ナノろ過膜は、1価の塩は通すが、多価の塩及び使用する膜に応じて約200乃至約1,000ダルトンより大きな非荷電溶質を保持する逆浸透膜の部類である。従って、例えば、本発明の成分及び方法により作製されるオリゴ糖は膜内に保持することができ、夾雑塩は通過することになる。
本明細書及び添付の特許請求の範囲の原文において用いられている単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」及び「the(前記)」は、文脈上明らかに別の意味に解すべき場合を除き、複数も対象に含むことに留意されたい。従って、例えば、「a nucleic acid(核酸)」という表現には複数のそのような核酸が含まれ、「the polypeptide(ポリヌクレオチド)」という表現には1種以上のポリペプチド及び当業者に周知のその均等物が含まれる、などである。
本明細書に記載した刊行物は、もっぱら本願の出願日以前の開示内容に関して提供されている。本明細書に記載のどの刊行物も、本発明が先行発明に基づくそのような刊行物に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、示された発刊日は実際の発刊日と異なる可能性があり、これについては別途確認が必要となる。全ての引用文献は本明細書に参考として援用されている。
種々の天然ポリシアリルトランスフェラーゼ(PST)蛋白質はポリシアリルトランスフェラーゼ活性を有している。本実験ではポリシアリルトランスフェラーゼ活性に必要なPSTのコア構造並びにPST蛋白質の修飾と関連付けられる酵素活性及び可溶性の大幅な改善について確認する。
(実施例1)
PSTのN末端短縮化
以下の実験はPST−13(Neisseria meningitidis由来完全長シアリルトランスフェラーゼへのN末端MalE融合体)の短縮化産物にもとづくものである。このPST蛋白質のN末端を分析すると、これは比較的多数の塩基性及び芳香族性残基からなることが分かった(最初の14個のアミノ酸中6個がリジンである)。
2種の短縮化、即ち、19残基短縮化(下記に下線を付けたMで示した)及び32残基短縮化(下記に下線を付けたRで示した)を行った。
NH2−MLKKIKKALFQPKKFFQDSMWLTTSPFYLTPPRNNLFVISNLGQLNQVQSLIK... (配列番号6)
これら2種の短縮型はPST−29(MalE−PstΔl9)及びPST−30(MalE−PstΔ32)である。
(実施例2)
短縮型PSTの可溶性評価
これら2種の短縮型蛋白質の可溶性を完全長の親蛋白質と比較するために、これらの構築体をE.coli AD202に形質転換し、150μg/mLのアンピシリンを含有する2YT培地中で増殖させた。この培養液に約0.1のOD600で一夜培養物を接種した。細胞は200rpmで振盪しながら約2時間37℃で増殖させることによりOD600が0.2乃至0.5に達した。培養物を0.5μM IPTGで誘導し、200rpmで振盪しながら約24時間20℃でインキュベートした。最終OD600は約4乃至5であった。細胞を採取し、溶解させて遠心分離した。PST構築体を過剰発現する溶解細胞のペレット及び上清を収集して分析した。
図1に示したように、SDS−PAGE分析から、いずれの変異体も十分に発現したことが分かる。PST−13(MalE−完全長PST)構築体の発現のレベルはより高かったが、2種の短縮型は、PST−13(MalE−完全長PST)構築体とは対照的に、27,000×g上清中にほとんど完全に留まり、これらがより可溶性であることが分かった。以下の反応条件を用いてGT3−FCHASE基質において活性のアッセイを行った:0.5mM GT3−FCHASE、50mM NaHEPES pH7.5、10mM MgCl2、10 mM CMP−NeuAC、10%酵素、37℃5分間。(図2に示した)CE分析から分かるように、短縮型は活性があった。酵素の1/10希釈液を用いて27,000×g上清についてアッセイを繰り返し、直接比較した(図3)。図3に示した結果は、PST−13(MalE−完全長PST)が両短縮型よりも活性が高かったことを示している。
(実施例3)
短縮型PST蛋白質の精製
相対比活性を測定するために、3種の蛋白質を全て先ず親和性クロマトグラフィーにより精製した。27,000×g上清5mLを8mLのアミロースカラムに通し、10mMマルトースで溶出させた。3種の蛋白質全てからのクロマトグラムはほとんど同一のようにみえる。従来、PST−13(MalE−完全長PST)は、膜上に沈殿するため遠心分離によって濃縮するのが困難であった。短縮型が同じように挙動するかどうかを調べるために、各精製蛋白質5mLをAmicon Ultra−4遠心分離フィルター(Millipore社)を用いて25分間遠心分離した。1.5mLまで濃縮したPST−13(MalE−完全長PST)の場合、典型的な白色沈殿が膜上に生じた。PST−29(MalE−PSTΔl9)及びPST−30(MalE−PSTΔ32)膜上には極めて少量の沈殿物が存在したが、親蛋白質と到底同じ程度ではなく、短縮型は同じ時間で0.8mLまで濃縮することができた。これらの酵素の蛋白質濃度をBCAアッセイ(Pierce社)により測定した後、各3μgをSDS−PAGEゲルにロードした(図15)。両短縮型は親蛋白質よりも高度に精製されたが、PST−29(MalE−PSTΔl9)は最も純度が高いように思われた。
精製した短縮化タンパク質の相対比活性を測定するために、各タンパク質50ngを、各PSTの50ng/μL溶液を作製した後、GT3−FCHASEとの反応に酵素1μLを加えることで、(上記の反応条件の)反応に加えた。これらの2種の短縮型酵素が高濃度であるため、酵素間で正確な活性比較を行うには希釈する必要があった。図5から明らかなように、試験条件下では、PST−13(MalE−完全長PST)は2種の短縮型タンパク質の活性よりほぼ3倍高い活性を示す。
(実施例4)
短縮型PSTの可溶性分析
短縮型の可溶性を試験するために、各27,000×g上清5mLを100,000×gで4℃60分間遠心分離した。ペレットを5mLの緩衝液に再懸濁して直接上清と比較した。図6に示したように、各サンプル3μLをSDS−PAGEで分析した。3通りの場合の全てにおいて、酵素の多くはペレットを形成したように思われた。しかしながら、活性の分析から(図7)、ペレットに対して上清に存在する酵素の相対量は2種の短縮型でより高く、実際にはPST−30の活性は上清とペレットとの間でほぼ等しく分布することが分かる。こうした酵素の可溶性によって、これらの酵素は、より複雑な基質(例えば、オリゴ糖、糖蛋白質及び糖脂質)の修飾用試薬として用いるのに魅力的な候補となる。
(実施例5)
PSTの安定性分析
蛋白質をアミロース親和性クロマトグラフィーにより精製し、グリセロールを添加及び無添加の下、4℃又は−20℃に維持した。活性のアッセイを上記のようにして行い、CEにより分析して残存活性を時間の関数として求めた。図8、9及び10に示したように、PST−30(MalE−PST−Δ32)標品は、4℃で2週間まで貯蔵したとき、PST−13(MalE−完全長PST)よりも活性が高かった。20%グリセロールを添加すると、PST−13(MalE−完全長PST)標品及びPST−30(MalE−PST−Δ32)標品の活性は同程度に維持された。
(実施例6)
短縮型PSTによる糖蛋白質のポリシアル化
第IX因子は完全長PSTでポリシアル化することができる。種々の供給源からのPSTは第IX因子を種々の程度にポリシアル化することができた。PST−13(MalE−完全長PST)及びPST−30(MalE−PST−Δ32)によるシアル化の比較を図11に示した。等量のPST−13(MalE−完全長PST)及びPST−30(MalE−PST−Δ32)を反応液に添加した。PST−30(MalE−PST−Δ32)を、第IX因子に第1のシアル酸残基を付加するのに用いられる二重特異性シアリルトランスフェラーゼのCST−89と併用すると、第IX因子の全てがシアル化を示す高分子量物質へと基質転換した(図11)。この高分子量物質はポリシアル化第IX因子に相当する。何故なら、これが、Hannover Medical School (Hannover、Germany)から入手したポリシアル酸特異的モノクロナール抗体735に対して免疫反応性を示したからである。こうした結果から、N.meningitidis由来のより可溶性の短縮型PSTは、第IX因子をポリシアル化型へほぼ完全に変換することから明らかなように、治療的基質に対してより高い活性を有することが分かる。
漸増量のPSTをIII型フェチュインを基質としてアッセイした。9mgのIII型フェチュインを846mUのCST−81(C.jejuni由来Cst−II)で処理してPST酵素の二シアル化基質を形成させた。次いで、この二シアル化III型フェチュインを陰イオン交換により精製した(蛋白回収率は約38%であった)。
漸増量のNeisseria酵素:PST−13(MalE−完全長PST)及びPST−30(MalE−PST−Δ32)を用いてアッセイを行った。E.coli PST酵素PST−05もアッセイした。1mg/mLの「ジ−シアリル−フェチュイン」50μgを30℃で50mM トリスHCl pH 8、10mM MgC12、7.8mM CMP−NeuAc中、精製PST蛋白質1、5、10又は15μgとインキュベートした。サンプルを5分、1時間、2時間、4時間及び一夜の後に採取し、−80℃に設置して反応をとめた。各酵素に対してフェチュイン及びCMP−NeuAcを対照としなかった。サンプルは、先ず8%SDS−PAGEによって分析し、この場合、各反応液2.5μLをサンプル緩衝液で希釈し、37℃で約10分間変性させた。
次いで、SDS−PAGEサンプルについて、8個のNeuAcより長いポリシアル酸を検出するモノクロナール抗体mAb735を用いて免疫ブロッティングを行った。この一次抗体mAb735をブロッキング緩衝液で1:7500に希釈し、これにブロットを4℃で一夜インキュベートした。結合抗体をヤギ抗マウスHRP(Sigma社)で検出した。次いで、ブロットを、ルミノール試薬(Perkin Elmer社)と60秒間インキュベートした後、Kodak Biomaxライトフィルム(Sigma社)を2乃至10秒間露光させることにより分析した。免疫ブロッティングの結果は図12に示した。Neisseria酵素PST−30(MalE−PST−Δ32)は、完全長のNeisseria酵素PST−13を上回る最も高い活性を示した。また、E.coliのPST蛋白質は、ポリシアル酸(PSA)をもたらしたが、Neisseria酵素よりも低いレベルではあった。
比較(side−by−side)アッセイを行って第IX因子、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(EPO)で産生させたヒトエリスロポエチン、トランスフェリン及びフェチュインに対するPST−30(MalE−PST−Δ32)ポリシアル化活性を測定した。先ず、これらの糖蛋白質基質をC.jejuni由来CstII蛋白質とインキュベートしてポリシアリルトランスフェラーゼの適切な基質を作製した。30℃で2時間反応を行い、得られた二シアル化基質糖蛋白質を1mLのHiTrap Q HPカラム及び漸増勾配のNH4HCO3を用いて約pH7.5で精製した。
50μgの第IX因子、EPO、トランスフェリン及び1mg/mLのフェチュインを反応緩衝液(50mMトリスHCl(pH8.0)、10mM MgCl2及び7.8mM CMP−NeuAc)中30℃で0.5時間、2時間、5時間及び一夜、5μg及び15μgの精製PST−30(MalE−PST−Δ32)とインキュベートした。これらの各時点でサンプルを取りだし、−80℃に置いて反応を止めた。アッセイした各糖蛋白質に対して対照(即ち、糖蛋白質不含又はCMP−NeuAc不含)も組み込んだ。反応生成物(2.5μL)はサンプル緩衝液で希釈し、37℃で約10分間変性させ、8%SDS−PAGEによって分析した。こうしたSDS−PAGEゲルは図13に示した。
次に、0.5時間及び一夜後のものについてウエスタンブロッティングにより分析した。0.5時間反応液の場合、120ngの蛋白質を8%SDS−PAGEにロードした。一夜反応液の場合、30ngの蛋白質をロードした。mAb735を用い、上記と同様にしてウエスタンブロッティングを行い、ポリシアル酸を検出した。結果は図14に示した。短縮型Neisseria PST蛋白質PST−30(MalE−PST−Δ32)はこれらの哺乳動物基質蛋白質:第IX因子、EPO、トランスフェリン及びフェチュインのそれぞれをシアル化することができた。
(実施例7)
ポリシアル酸鎖の長さに及ぼす糖蛋白質基質濃度の影響
種々の濃度のフェチュインを50mM HEPES(pH7.5)、10mM MgCl2中7μgのPST−30(MalE−PST−Δ32)及び10mMのCMP−NeuAcと30℃で0.5、1、2、4時間及び一夜インキュベートした。フェチュインが20mMトリスHCl(pH 8.0)、50mM NaCl中にあるので、濃度はその中により多くの塩を有する。各一夜反応液からの2.5μgのフェチュインを上記と同様に8%SDS−PAGEにより分析した。次いで、これらのサンプルを免疫ブロットにより分析した。その結果を図15に示した。0.5h、1h及び一夜反応液のそれぞれからの20ngのフェチュインを8%SDS−PAGEにより分析し、上記と同様に免疫ブロットした。5mg/mLフェチュイン基質を用いて得られた一夜反応液はより短いPSA鎖を有するばかりでなく、これらの鎖は全て長さがより均一である(0.5mg/mL反応液における長いスミアーとは対照的に、より密なバンドとして認められる)。
(実施例8)
短縮型PSTのシアリルトランスフェラーゼへの融合
短縮型Neisseria PSTのCST−IIとの融合体は活性があり、ポリシアル化産物を作製するのに用いることができる。
これまで本発明について、理解し易くするために説明および実施例によって少し詳しく述べてきたが、添付の特許請求の範囲の精神又は範囲を逸脱することなくこれに特定の変更および修正をおこなうことができることは、本発明の教示内容からして当業者には容易に理解されよう。
非公式の配列表