本開示により、トリクロサンおよび銀に基づく新規の塩が提供される。本開示の塩は、様々な物品の合成、被覆または改質で使用できる。本明細書で使用する場合、「物品」としては、それだけに限らないが、医療デバイス、包装材料および織物が挙げられる。また、本開示の塩は、それ自体でまたは医薬組成物として、医薬として許容できる担体と組み合わせて使用してもよい。
本明細書で使用する場合、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルとしても知られる「トリクロサン」は、それらの任意の誘導体を含む。本開示で使用できるトリクロサン誘導体は、フェニル基の一方または両方が、フェニル環上にすでに存在するクロロ置換基に加えて、1個または複数の置換基で置換されていてもよい、これらの化合物をさらに含む。適切な置換基の例としては、約1個〜約4個の炭素原子を含有するアルキル基;約1個〜約4個の炭素原子を含有するハロアルキル基;約1個〜約4個の炭素原子を含有するアルコキシ基;シアノ基、アリル基、アミノ基およびアセチル基;ならびにそれらの組合せがある。いくつかの実施形態では、トリクロサンは、メチル基、メトキシ基またはトリフルオロメチル基で置換されていてもよい。トリクロサンが複数の置換基で置換されている場合、該置換基は同一でも、または異なってもよいことが理解されるであろう。
いくつかの実施形態では、トリクロサンのエステルまたはトリクロサン誘導体のエステルが本開示で使用できる。適切なエステルの例としては、リン酸、ホスホン酸、硫酸、グルクロニド、コハク酸およびグルタミン酸のエステルが挙げられる。いくつかの実施形態では、トリクロサンまたはトリクロサン誘導体のリン酸エステルが利用できる。リン酸エステルは、当業者の範囲内の方法を用いて、トリクロサンをリン酸化することによって調製できる。
本開示により、第1のトリクロサン塩は、トリクロサンと塩基とを反応させることにより形成できる。利用できる適切な塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、および/または水酸化マグネシウム、ならびに重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウムおよび重炭酸カリウム等の水溶液中の塩基性塩が挙げられる。
実施形態では、トリクロサンを水酸化ナトリウム等の塩基と反応させて、ナトリウム−トリクロサン塩を形成してもよい。このようなナトリウム−トリクロサン塩を形成する際に利用する量は、当業者の範囲内である。いくつかの実施形態では、約5〜約95重量%のトリクロサンと約95〜約5重量%の水酸化ナトリウムとを合わせて、ナトリウム−トリクロサン塩を形成してもよく、他の実施形態では、約30〜約70重量%のトリクロサンと約70〜約30重量%の水酸化ナトリウムとを合わせて、ナトリウム−トリクロサン塩を形成してもよい。
第1のトリクロサン塩、例えばナトリウム−トリクロサン塩を調製したら、それを銀塩等の銀化合物と反応させて、銀−トリクロサン塩を形成してもよい。ナトリウム−トリクロサン塩と反応し得る適切な銀化合物としては、例えば酢酸銀、アスコルビン酸銀、安息香酸銀、臭化銀、炭酸銀、塩化銀、クエン酸銀、グルコン酸銀、ヨウ素酸銀、ヨウ化銀、乳酸銀、ラウリン酸銀、硝酸銀、酸化銀、パルミチン酸銀、リン酸銀、プロピオン酸銀、サルチル酸銀、硫酸銀、ラウリル硫酸銀等の銀塩、ならびにそれらの混合物およびそれらの組合せが挙げられる。ナトリウム−トリクロサン塩と反応し、銀−トリクロサン塩を形成し得る他の銀化合物としては、場合により上記銀塩のいずれかと共に、例えば、コロイド状銀、銀タンパク質、銀スルファジアジン、銀アルスフェナミン、亜鉛−銀アラントイネート(zinc−silver allantoinate)、ならびにそれらの混合物およびそれらの組合せが挙げられる。
銀化合物を第1のトリクロサン塩に加える方法は、当業者の範囲内である。第1のトリクロサン塩に加える銀化合物の量は変化し得るが、約5〜約95重量%、実施形態では約20〜約80重量%、通常は約40〜約60重量%であってよいのに対し、第1のトリクロサン塩の量は、約95〜約5重量%、実施形態では約80〜約20重量%、通常は約60〜約40重量%であってよい。
実施形態では、銀化合物は、溶液中で第1のトリクロサン塩に加えてもよい。例えば、上記のように、トリクロサンを水酸化ナトリウム等の塩基に加えて、溶液中でナトリウム−トリクロサン塩を形成してもよい。この溶液に銀化合物を加えることによって、溶液中で銀−トリクロサン塩を形成できる。いくつかの実施形態では、合わせた銀化合物、塩基およびトリクロサンを撹拌または混合し、銀−トリクロサン塩の形成を促進してもよい。他の実施形態では、該組合せを約60℃〜約180℃、実施形態では約70℃〜約150℃、通常は約80℃〜約130℃の温度まで加熱してもよい。適当な時間、実施形態では約2分〜約24時間後、実施形態では約2時間〜約18時間後、他の実施形態では約4時間〜約12時間後に、銀−トリクロサン塩を、当業者の範囲内の方法、例えば、蒸留、濾過、遠心分離等により回収してもよい。
銀−トリクロサン塩を得た時点で、トリクロサンは、銀−トリクロサン塩の全重量に対して約40〜約99重量%、実施形態では銀−トリクロサン塩の全重量に対して約50〜約90重量%、通常は銀−トリクロサン塩の全重量に対して約60〜約80重量%の量で、得られた銀−トリクロサン塩中に存在し得る。銀イオンは、銀−トリクロサン塩の全重量に対して約1〜約60重量%、実施形態では銀−トリクロサン塩の全重量に対して約10〜約50重量%、通常は銀−トリクロサン塩の全重量に対して約20〜約40重量%の量で存在し得る。
いくつかの実施形態では、銀−トリクロサン塩は、他の可溶性の塩またはイオンとさらに錯体を形成してもよい。例えば、クロルヘキシジンおよびその塩を銀−トリクロサン塩と合わせて、銀−クロルヘキシジン−トリクロサン錯体を形成してもよい。利用できる適切なクロルヘキシジン塩としては、それだけに限らないが、酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、硫酸クロルヘキシジン、およびそれらの混合物またはそれらの組合せが挙げられる。
銀−トリクロサン塩とさらに錯体を形成できる他の塩は、カチオンを有していてもよく、それだけに限らないが、カルシウム、ナトリウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、銅、亜鉛、白金、金、セリウム、ガリウム、オスミウム等が挙げられる。このような塩は、アニオンを有していてもよく、それだけに限らないが、酢酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、重酒石酸塩、臭化物、臭素化フラノン、カルボン酸塩、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、葉酸塩、グルコン酸塩、ヨウ素酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、ラウリン酸塩、シュウ酸塩、酸化物、パルミチン酸塩、過ホウ酸塩、フェノスルホン酸塩、リン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、スルファジアジン、硫酸塩、硫化物、スルホン酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、チオグリコール酸塩、チオ硫酸塩等のイオンが挙げられる。
上記のように、本開示の組成物で処理できる物品としては、医療デバイス、包装材料および織物が挙げられる。任意の医療デバイスを、本開示の塩で処理できる。適切な医療デバイスとしては、例えば、ステープル、クリップ、薬物送達デバイス、ステント、ピン、ねじ、および縫合糸、人工靭帯、人工腱、織布メッシュ、ガーゼ、包帯、成長マトリックス(growth matrices)等の繊維性の外科用物品が挙げられる。
包装材料としては、それだけに限らないが、医療デバイス、医薬品、織物、消費財、食品等の製品用、または細菌の定着を最小限に抑えるか、もしくは阻害することが望ましいこともある任意の他の物品用の包装材料が挙げられる。
適切な織物としては、個人の衛生および健康管理用品、汎用プラスチック、繊維、織布、衣類等に利用される織物が挙げられる。織物としては、綿、羊毛等の天然繊維、またはポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等の合成繊維を挙げることができる。また、織物としては、天然繊維のブレンドもしくは混合物、合成繊維のブレンドもしくは混合物、または天然繊維と合成繊維とのブレンドもしくは混合物も挙げることができる。適切な合成繊維としては、それだけに限らないが、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブチレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエステル/ポリエーテル;ナイロン6およびナイロン6,6等のポリアミド;ポリウレタン;上述のもののいずれかのホモポリマー、コポリマー、またはターポリマー、ならびにそれらの任意の組合せ等が挙げられる。
実施形態では、織物は、例えばポリ(オキシアルキレン化)着色剤等の任意の種類の着色剤、ならびに顔料、色素、毛髪染料等で着色または彩色してもよい。帯電防止剤、増白化合物、核形成剤、抗酸化剤、紫外線安定剤、充填剤、パーマネントプレス加工剤、柔軟剤、潤滑剤、硬化促進剤等を含む、他の添加剤も織物上および/または織物内に存在してもよい。
織物は、編物、織布または不織布の形態を含む、任意の標準的な構造であってよい。織物は、それだけに限らないが、衣類、室内装飾品、寝具類、雑巾、タオル、手袋、敷物、フロアマット、カーテン、リネン製品、テーブル掛け、布製バック、天幕、乗物用カバー、ボート用カバー、テント等を含む、任意の適切な用途で利用できる。
本開示の銀−トリクロサン塩は、それが形成された時点で、医療デバイス、包装材料、織物等の処理すべき物品を形成するために利用する材料中に組み込んでもよく、またはこのような材料に対するコーティングとして施してもよい。例えば、処理すべき物品がポリマーである場合、処理すべき物品を形成する前に、銀−トリクロサン塩をポリマーと混合またはブレンドして、物品自体に組み込むことができる。本開示の銀−トリクロサン塩等の材料をポリマーに加える方法は、当業者の範囲内であり、ブラベンダー型ミキサーまたはバンバリー型ミキサー、押出機、ミル等の従来の混合機が挙げられる。
本開示の銀−トリクロサン塩を、物品、すなわち医療デバイス、包装材料または織物等を形成するために利用するポリマー材料に組み込む場合、施用する銀−トリクロサン塩の量は、物品に抗菌性を与えるのに有効な量で存在すべきである。正確な量は、物品の構成、利用する特定の銀−トリクロサン塩、およびポリマー物品中に組み込む方法に依存するであろう。実施形態では、本開示の銀−トリクロサン塩は、物品の約0.001〜約25重量%、実施形態では物品の約0.01〜約15重量%、通常は物品の約0.1〜約5重量%の量で存在し得る。
上記のように、他の実施形態では、本開示の銀−トリクロサン塩を、処理すべき物品に対するコーティングとして施してもよい。いくつかの実施形態では、トリクロサンを水酸化ナトリウム等の塩基性溶液に加え、銀をこの2つの組合せに加えてもよい。それにより銀−トリクロサン塩が抗菌溶液中に形成される。他の実施形態では、本開示の銀−トリクロサン塩をまず形成し、次いで別の溶媒に加えると、抗菌溶液を形成でき、次いでこの抗菌溶液を利用して、処理すべき物品に被覆してもよい。
抗菌溶液は、銀−トリクロサン塩に適した任意の溶媒または溶媒の組合せを含んでもよい。適したものであるために、溶媒は、(1)銀−トリクロサン塩と混和性でなければならず、(2)医療デバイスを形成するために使用する任意の材料の完全性に大きく影響を与えてはならない。上記のように、実施形態では、利用する溶媒が、銀−トリクロサン塩を形成するために利用する塩基を含んでいてもよい。他の実施形態では、利用する溶媒が、極性溶媒であってもよい。適切な溶媒のいくつかの例としては、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸メチル、N−メチル2−ピロリドン、2−ピロリドン、プロピレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、オレイン酸、メチルエチルケトン、水およびそれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、塩化メチレンを溶媒として使用してもよい。
抗菌溶液は、約0.001〜約25重量%の銀−トリクロサン塩を一般に含有する。銀−トリクロサン塩の正確な量は、接触する物品、使用する溶媒の選択、利用する任意の他の添加剤等、いくつかの要因に依存するであろう。一実施形態では、銀−トリクロサン塩は、抗菌溶液の約0.01〜約15重量%、実施形態では抗菌溶液の約0.1〜約5重量%の量で存在し得る。
本開示の抗菌溶液を調製する方法は、決定的なものではなく、比較的単純な手順であり得る。例えば、溶液中の銀−トリクロサン塩および任意の他の添加剤を室温で混合しながら合わせて、抗菌溶液を生成してもよい。一部の有用な実施形態では、溶媒を加熱して、抗菌溶液の形成を促進してもよいが、ただし銀−トリクロサン塩の抗菌活性が有意に劣化しないようにすることとする。
任意の理論に拘束されることは望まないが、銀−トリクロサン塩の組み合わせたトリクロサンと銀とが、トリクロサンおよび銀イオン両方の溶解性を高めると考えられている。抗菌溶液中のトリクロサンおよび銀イオンの溶解性を高めることによって、処理された物品上で所望の量のトリクロサンおよび銀を得るのに要するトリクロサンおよび銀がより少量で済み、所望の抗菌作用を得るために必要なトリクロサンおよび銀の量が減少する。
処理すべき物品が医療デバイス、包装材料または織物であるかどうかにかかわらず、抗菌溶液を処理すべき物品に施すために、任意の公知の技術が使用できる。適切な技術としては、ディッピング、スプレー、ワイピングおよびブラッシングが挙げられる。抗菌溶液が溶媒を含有するため、実施形態では、硬化工程を使用して、溶媒を除去し、物品上に銀−トリクロサン塩を残すことができる。溶媒を除去するのに適した硬化工程としては、それだけに限らないが蒸発および/または凍結乾燥が挙げられる。溶媒を除去したとき、銀−トリクロサン塩は処理された物品に結合したままである。
物品、すなわち医療デバイス、包装材料または織物に対するコーティングとして施す場合、施される銀−トリクロサン塩の量は、物品に抗菌性を与えるのに有効な量で存在すべきである。正確な量は、物品の構成、利用する特定の銀−トリクロサン塩および適用法に依存するであろう。
医療デバイスに対するコーティングとしての銀−トリクロサン塩の量は、医療デバイスの約0.001〜約25重量%、実施形態では医療デバイスの約0.01〜約15重量%、通常は医療デバイスの約0.1〜約5重量%であってよい。縫合糸については、銀−トリクロサン塩は、縫合糸の約0.001〜約25重量%、実施形態では縫合糸の約0.01〜約15重量%、通常は縫合糸の約0.1〜約5重量%の量で存在するように施されるであろう。
さらに、本開示の銀−トリクロサン塩は、包装材料の約0.001〜約25重量%、実施形態では包装材料の約0.01〜約15重量%、通常は包装材料の約0.1〜約5重量%の量で、医療デバイス用または他の物品用の包装材料に対するコーティングとして施してもよい。
他の実施形態では、上記のように、銀−トリクロサン塩は、個人の衛生および健康管理用品、汎用プラスチック、繊維、織布、衣類等を含む、織物に対するコーティングとして施してもよい。本開示の銀−トリクロサン塩は、織物の約0.001〜約25重量%、実施形態では織物の約0.01〜約15重量%、通常は織物の約0.1〜約5重量%の量で、このような織物に対するコーティングとして施してもよい。
いくつかの実施形態では、抗菌溶液は、銀−トリクロサン塩で被覆された物品に対する銀−トリクロサン塩の親和性を高める、少なくとも1種の接着促進剤も含有してもよい。適切な接着促進剤としては、それだけに限らないが、N−メチルグルカミン;L−アルギニン;ラウリル硫酸ナトリウム;βシクロデキストリンおよびヒドロキシプロピルβシクロデキストリン等のシクロデキストリン;エタノールアミン、トリエタノールアミンおよびジエタノールアミン等のエタノールアミン;ならびに安息香酸ナトリウムおよび4−ヒドロキシ安息香酸メチルナトリウム等の安息香酸が挙げられる。
接着促進剤は、利用される場合、抗菌溶液の約1〜約10重量%、通常は抗菌溶液の約2〜約8重量%、より通常は抗菌溶液の約4〜約6重量%の量で存在し得る。
本開示で利用する接着促進剤の選択は、選択された銀−トリクロサン塩およびそれを施し得る物品に依存し得る。いくつかの実施形態では、ミセル錯体は、銀−トリクロサン塩と接着促進剤との間に形成できよう。例えば、抗菌溶液が、シクロデキストリン等の環状糖誘導体と組み合わせた銀−トリクロサン塩を含む場合、ミセル錯体は、銀−トリクロサン塩とシクロデキストリンとの間に形成でき、これは溶媒を除去したとき、被覆された物品の表面上に残るであろう。この場合ミセル錯体である銀−トリクロサン塩は、被覆された物品を介して移動することはないと思われ、特に被覆された物品がポリエステル製であるか、または上記合成フィルム形成コーティングを有する場合、銀−トリクロサン塩、すなわちミセルの親水性部分は被覆された物品に対して、銀−トリクロサン塩のみよりも高い親和性を有すると思われる。
また、本開示の物品は、その物理的特性を高めるために追加のコーティングを有していてもよい。医療デバイス、包装材料および織物等の物品に対してコーティングを施すための方法のように、多くの適切なコーティングは、当業者の範囲内である。一実施形態では、該皮膜はフィルム形成ポリマーを含んでもよい。このようなコーティングは、医療デバイスに施される場合に特に有用となり得る。コーティングで利用できるフィルム形成ポリマーは、当業者の範囲内であり、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノン等、ならびにそれらのコポリマーおよびそれらの組合せが挙げられる。実施形態では、本開示の新規のトリクロサン塩は、追加のコーティングから分離していてもよい。他の実施形態では、本開示の新規のトリクロサン塩は、追加のコーティング中に組み込んでもよい。
一実施形態では、追加のコーティングとして利用するフィルム形成ポリマーとしては、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第5716376号に記載のカプロラクトン含有コポリマーが挙げられる。このようなカプロラクトン含有コポリマーは、主要量のεカプロラクトンと、少量の少なくとも1種の他の共重合可能なモノマーまたはこのようなモノマーの混合物とを多価アルコール開始剤の存在下で重合することによって得ることができる。
εカプロラクトンと共重合することができるモノマーとしては、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネートおよび/またはジメチルトリメチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジオキサノン;ジオキセパノン;吸収性環状アミド;クラウンエーテルから誘導される吸収性環状エーテル−エステル;αヒドロキシ酸(グリコール酸および乳酸等)およびβヒドロキシ酸(βヒドロキシ酪酸およびγヒドロキシ吉草酸等)を含む、エステル化可能なヒドロキシ酸;ポリアルキルエーテル(ポリエチレングリコール等);ならびにそれらの組合せが挙げられる。実施形態では、グリコリドはフィルム形成ポリマーにおけるコモノマーとして利用できる。
フィルム形成ポリマーを調製する際に利用できる適切な多価アルコール開始剤としては、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エリスリトール、トレイトール、ペンタエリスリトール、リビトール、アラビニトール、キシリトール、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、ジペンタエリスリトール、アリトール、ズルシトール、グルシトール、アルトリトール、イジトール、ソルビトール、マンニトール、イノシトール等が挙げられ、いくつかの実施形態ではマンニトールが有用である。
多価アルコール開始剤は、一般に少量で、すなわち、モノマー混合物の全重量に対して約0.01〜約5重量%、実施形態ではモノマー混合物の全重量に対して約0.1〜約3重量%で使用できる。
フィルム形成コポリマーは、利用される場合、約70〜約98重量%のεカプロラクトン由来の単位、実施形態では約80〜約95重量%のεカプロラクトン由来の単位を含有してもよく、該コポリマーの残りはグリコリド等の他の共重合可能なモノマーに由来する。
一実施形態では、医療デバイスに対するコーティングは、脂肪酸、脂肪酸塩または脂肪酸エステルの塩を含有する脂肪酸成分と組み合わせたフィルム形成ポリマーを含んでもよい。適切な脂肪酸は、飽和または不飽和であってよく、約12個超の炭素原子を有する高級脂肪酸が挙げられる。適切な飽和脂肪酸としては、例えばステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸およびラウリン酸が挙げられる。適切な不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸が挙げられる。さらに、ソルビタントリステアレートまたは硬化ヒマシ油等の脂肪酸のエステルも使用できる。
適切な脂肪酸塩としては、C6脂肪酸および高級脂肪酸の多価金属イオン塩、特に約12〜約22個の炭素原子を有するもの、ならびにそれらの混合物が挙げられる。ステアリン酸、パルミチン酸およびオレイン酸のカルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩および亜鉛塩を含む脂肪酸塩が、本開示のいくつかの実施形態で有用となり得る。特に有用な塩は、少量のC14脂肪酸およびC22脂肪酸と共に、約3分の1のC16脂肪酸および3分の2のC18脂肪酸の混合物を含む、市販の「食品等級」ステアリン酸カルシウムを含む。
本開示の生物活性コーティング中に含まれていてもよい適切な脂肪酸エステル塩としては、ステアロイルラクチレートのカルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウムもしくは亜鉛塩;パルミチルラクチレートのカルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウムもしくは亜鉛塩;および/またはオレイルラクチレートのカルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウムもしくは亜鉛塩が挙げられる。実施形態では、カルシウムステアロイル−2−ラクチレート(VERVの商品名でAmerican Ingredients Co.、Kansas City、Moから市販されているカルシウムステアロイル−2−ラクチレート等)が利用できる。利用できる他の脂肪酸エステル塩としては、リチウムステアロイルラクチレート、カリウムステアロイルラクチレート、ルビジウムステアロイルラクチレート、セシウムステアロイルラクチレート、フランシウムステアロイルラクチレート、ナトリウムパルミチルラクチレート、リチウムパルミチルラクチレート、カリウムパルミチルラクチレート、ルビジウムパルミチルラクチレート、セシウムパルミチルラクチレート、フランシウムパルミチルラクチレート、ナトリウムオレイルラクチレート、リチウムオレイルラクチレート、カリウムオレイルラクチレート、ルビジウムオレイルラクチレート、セシウムオレイルラクチレート、およびフランシウムオレイルラクチレートからなる群から選択されるものが挙げられる。
上記のカプロラクトン/グリコリドコポリマー等のフィルム形成ポリマーは、利用される場合、コーティングの約45〜約60重量%の量で存在し得、脂肪酸塩または脂肪酸エステルの塩等の脂肪酸成分は、コーティングの約40〜約55重量%の量で存在し得る。実施形態では、上記のカプロラクトン/グリコリドコポリマー等のフィルム形成ポリマーはコーティングの約50〜約55重量%の量で存在し得、脂肪酸成分は、コーティングの約45〜約50重量%の量で存在し得る。
別のコーティングが物品上に存在する場合、本開示による新規のトリクロサン塩を有する抗菌溶液は、コーティングを施す前、それと同時に、またはその後に施すことができることを理解すべきである。したがって、いくつかの実施形態では、抗菌溶液は、医療デバイス、包装材料または織物等の被覆済みの物品に対して施してもよい。他の実施形態では、抗菌溶液は、物品に施す前にコーティング組成物と混合してもよい。これらの実施形態では、コーティングおよび抗菌溶液は単一の工程で施される。
他の実施形態では、抗菌溶液は、特殊な包装材料を介して、例えば注入口等を介して完成品中、またはその上に注入してもよい。このような特殊な包装材料としては、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれている2006年1月26日出願の米国特許出願第11/340912号に開示されているものが挙げられる。
本開示の銀−トリクロサン塩は、コーティングとして施される場合、物品の処理中、取扱い中、および保管中、物品の表面に結合したままである。これにより、物品から任意の包装材料へ、任意の包装材料から任意の物品へ、環境等への、銀−トリクロサン塩の喪失または移動を最小限に抑えられる。
一実施形態では、本開示により処理される医療デバイスは縫合糸である。本開示による縫合糸は、モノフィラメントまたはマルチフィラメントであってよく、外科用のガット、絹、綿、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリグリコール酸、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、およびグリコリド−ラクチドコポリマー等の生体吸収性材料および生体非吸収性材料を含む、任意の従来の材料で作られたものであってよい。
一実施形態では、縫合糸はポリオレフィン製であってよい。適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、およびポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドが挙げられる。いくつかの実施形態では、ポリプロピレンを利用して、縫合糸を形成してもよい。ポリプロピレンは、アイソタクチックポリプロピレン、またはアイソタクチックポリプロピレンとシンジオタクチックポリプロピレンもしくはアタクチックポリプロピレンとの混合物であってよい。
他の実施形態では、縫合糸は、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、アルキレンカーボネート(すなわち、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート等)、ジオキサノン、ならびにそれらのコポリマーおよびそれらの組合せから作られたもの等、吸収性の合成ポリマーから作られたものであってよい。利用できる1つの組合せとしては、グリコリドとラクチドとのコポリマーを含む、グリコリドとラクチドを基にしたポリエステルが挙げられる。
上記のように、縫合糸は、モノフィラメントまたはマルチフィラメントであってよい。縫合糸がモノフィラメントである場合、このような縫合糸を作製する方法は、当業者の範囲内である。このような方法としては、ポリオレフィン樹脂等の縫合材料を形成し、該樹脂を押し出し、引き抜き、および焼きなまして、モノフィラメントを形成することが含まれる。
縫合糸が複数のフィラメントで作られている場合、該縫合糸は、例えば、編組(braiding)、織り(weaving)または編成(knitting)等の、当業者の範囲内の任意の技法を用いて製造できる。また、フィラメントを組み合わせて、不織縫合糸を作製してもよい。フィラメント自体を延伸させるか、配向させるか、縮れさせるか、捻じるか、混合するか、または空気を絡ませることで、縫合糸形成プロセスの一部として紡績糸を形成してもよい。
実施形態では、本開示のマルチフィラメント縫合糸は、編組によって作製できる。編組は、当業者の範囲内の任意の方法によって行うことができる。例えば、縫合糸および他の医療デバイスの編組構造は、各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第5019093号、第5059213号、第5133738号、第5181923号、第5226912号、第5261886号、第5306289号、第5318575号、第5370031号、第5383387号、第5662682号、第5667528号および第6203564号に開示されている。縫合糸は構成されたら、当業者の範囲内の任意の手段により滅菌してもよい。
場合によっては、管状編組またはシースは、編組機の中心を通って供給されるコア構造の周りに構成してもよい。コアを有するものを含め、公知の管状編組縫合糸は、例えば米国特許第3187752号、第3565077号、第4014973号、第4043344号および第4047533号に開示されている。
単一の繊維および複数の繊維で作られた織布を含む織物材料は、類似の方法で形成および/または被覆してもよい。
本開示による医療デバイスおよび包装材料は、当業者の範囲内の技法により滅菌できる。
上記のように、他の実施形態では、本開示の銀−トリクロサン塩を、活性薬剤を送達するための医薬組成物として利用して、内因性の塩とのイオン交換またはキレート化により、銀イオンおよび/またはトリクロサンをin vivoで放出してもよい。これらの実施形態では、銀−トリクロサン塩は、それ自体で投与してもよく、または医薬組成物として、医薬として許容できる担体中で投与してもよい。本開示の塩の製剤化および投与のための技法は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、Easton、PAの最新版で見出すことができる。これらの医薬組成物を投与して、感染部位に、または例えば排液管が身体または縫合箇所に存在する場合、感染症の可能性が高まる部位に、銀−トリクロサン塩を直接施すことにより、感染症を治療または阻止することができる。いくつかの実施形態では、該塩は、液体または乾燥粉末(凍結乾燥)として施してもよい。
また、組成物は所望により局所的または非経口的に投与してもよい。治療用組成物は、非経口的に投与される場合、pH、等張性および安定性を十分に考慮した、滅菌した発熱物質不含の非経口的に許容される溶液であるべきである。これらの条件は、当業者の範囲内である。
本開示の医薬組成物は、充填剤、崩壊剤または発泡剤、潤滑剤、流動促進剤、香料および着色料、ならびに他の医薬活性剤を含む、適切な公知の賦形剤をさらに含んでもよい。
簡単に言えば、本開示の銀−トリクロサン塩の投与製剤は、銀−トリクロサン塩を生理的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することにより、保管または投与のために調製してもよい。このような材料は、使用する投与量および濃度で、レシピエントに無毒であり、TRIS HCI、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩および他の有機酸塩等の緩衝剤;アスコルビン酸等の抗酸化剤;ポリアルギニン等の低分子量(約10残基未満)ペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリジノン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸またはアルギニン等のアミノ酸;セルロースもしくはその誘導体、グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む、単糖類、二糖類および他の糖質;EDTA等のキレート剤;マンニトールまたはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の対イオンおよび/またはTWEEN、PLURONICSもしくはポリエチレングリコール等の非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
銀−トリクロサン塩は、in vivoでの投与に使用する場合、無菌であるべきであり、従来の製薬の慣行に従って、担体を用いて製剤化してもよい。投与のために、ゴマ油、落花生油もしくは綿実油等の天然植物油等の媒体、またはオレイン酸エチル等の合成脂肪媒体が利用できる。緩衝剤、保存料、抗酸化剤等は、一般に認められている製薬の慣行に従って組み込むことができる。
銀−トリクロサン塩の有効量は、例えば治療または予防される細菌感染症、投与経路および患者の病状に依存するであろう。
上記説明は、多くの細目を含むが、これらの細目は、本開示の範囲の限定と解釈されるべきではなく、単に本開示の特に有用な実施形態の例示であると解釈されるべきである。当業者は、添付の特許請求の範囲によって規定されるような本開示の範囲および精神内で、多くの他の可能性を予測するであろう。