JP2010255759A - コイルスプリング - Google Patents
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Abstract
【課題】相手部材との摩擦抵抗によるヒステリシス損失の低減を図ることができ、線同士の接触に対する耐久性を向上させることができるコイルスプリングを提供する。
【解決手段】クラッチユニット1内にアークスプリング41が配置されている。ヒステリシス損失の低減を図るために、アークスプリング41の表面には、摩擦係数μが0.15未満、硬度がHv1000以上となる耐摩耗層を形成している。耐摩耗層は、MoS2層(二硫化モリブデン層)、無電解NiP層(無電解ニッケルリン層)、DLC層(ダイヤモンドライクカーボン層)、あるいは、TiN層(窒化チタン層)である。MoS2層を用いる場合以外には、耐摩耗性の向上も図ることができる。特に、DLC層の場合、その硬度はHv3000程度であるから、高耐摩耗性が要求される図2に示すコイルスプリング表面にDLC層を形成することは好適である。
【選択図】図1
【解決手段】クラッチユニット1内にアークスプリング41が配置されている。ヒステリシス損失の低減を図るために、アークスプリング41の表面には、摩擦係数μが0.15未満、硬度がHv1000以上となる耐摩耗層を形成している。耐摩耗層は、MoS2層(二硫化モリブデン層)、無電解NiP層(無電解ニッケルリン層)、DLC層(ダイヤモンドライクカーボン層)、あるいは、TiN層(窒化チタン層)である。MoS2層を用いる場合以外には、耐摩耗性の向上も図ることができる。特に、DLC層の場合、その硬度はHv3000程度であるから、高耐摩耗性が要求される図2に示すコイルスプリング表面にDLC層を形成することは好適である。
【選択図】図1
Description
本発明は、ダンパ装置に用いられるコイルスプリングに係り、特に、コイルスプリングへの表面処理技術の改良に関する。
クラッチユニット、ロックアップ、フライホイール等のダンパ装置には、コイルスプリングが用いられている(たとえば特許文献1〜3)。たとえばクラッチユニットでは、ハブとプレートとの間にアークスプリングが設けられ、クラッチ締結時にコイルスプリングがエンジン側から変速機側へトルクを伝達するとともに、そのときに生じる衝撃を吸収している。アークスプリングは、円弧状に曲げられた圧縮コイルスプリングである。
しかしながら、クラッチユニット等のダンパ装置内部でアークスプリングを使用すると次のような問題があった。
アークスプリングがダンパ装置内部で相手部材と接触摺動することにより、摩擦損失が発生し、その摩擦損失がトルク伝達特性に影響を与える。このため、そのような内部ヒステリシス損失(おもに相手部材との接触摺動による摩擦抵抗分)をスプリング単体の荷重公差分として圧縮する必要があるから、製造が困難であった。
また、アークスプリングでは、その表面に発生する高応力への耐久性向上を図るために、材料の開発や表面改質(おもにショットピーニングや窒化処理)等を行っている(たとえば特許文献4)。ところが、ばねの線同士の間隔が狭く設定されている場合や、線同士が略密着状態で使用される場合、強振動下で使用する場合等、伸縮の繰り返しにより、線同士の接触が発生しやすい。また、線同士の接触が強い場合には、線同士の接触磨耗により線の一部が減肉し、線の断面形状が小さくなる。
これらの場合、スプリングの表面に形成した強化層(表面改質層)が消滅するため、ばねの耐久性が著しく低下し、早期折損に至る虞がある。このため、線間の間隔を大きく設定することにより、線間接触の発生の抑制を図る必要があった。
したがって、本発明は、相手部材との摩擦抵抗によるヒステリシス損失の低減を図ることができ、かつ線同士の接触に対する耐久性を向上させることができるコイルスプリングを提供することを目的とする。
本発明者は、以上のような各目的を実現するために、次のような検討を行った。図1,2は、本発明者による検討内容を説明するために用いるコイルスプリング41,42の具体例が設けられたクラッチユニット1,2の概略構成を表し、(A)は駆動シャフトの軸線に垂直な方向の断面図、(B)は駆動シャフトの軸線に平行な方向の断面図である。クラッチユニット1,2は、コイルばね41,42の形態が異なる以外は、同様な構成を有するから、同様な構成には同符号を付している。以下の説明では、本発明のコイルスプリングをクラッチユニットに適用した例を用いているが、本発明のコイルスプリングは、クラッチユニットだけでなく、ロックアップ、フライホイール等のダンパ装置(機構)に適用することができるのは言うまでもない。
クラッチユニット1,2のそれぞれは、1対のプレート11,12と、ハブ21とを備えている。プレート11,12は、互いに対向するとともにピン33で連結されている。エンジン側プレート11にはエンジン側駆動シャフト31が接続されている。ハブ21は、プレート11,12の間に配置されている。ハブ21には変速機側駆動シャフト32に接続されている。プレート11,12とハブ21との間には、コイルスプリング41,42が設けられている。具体的には、プレート11,12には凹部11A,12Aが形成され、ハブ21には凹部11A,12Aに対向する位置に開口部21Aが形成され、凹部11A,12Aおよび開口部21Aにコイルスプリングが配置されている。
図1に示すクラッチユニット1では、コイルスプリングとして、アークスプリング41が設けられている。アークスプリング41は、円弧状に曲げられた圧縮コイルスプリングである。アークスプリング41はクラッチユニット1内部で所定の曲げ角度α(>0)で設置されている。図2に示すクラッチユニット2では、コイルスプリングとして、直線状に配置されたコイルスプリング42が設けられている。コイルスプリング42はクラッチユニット2内部で曲げられていないから、曲げ角度αは0度である。クラッチユニット1,2では、クラッチ締結時にコイルスプリング41,42がエンジン側から変速機側へトルクを伝達するとともに、そのときに生じる衝撃を吸収している。
(1)従来技術の問題点の検討
(A)相手部材との摩擦抵抗によるヒステリシス損失について
図1に示すクラッチユニット1では、図3に示すようにエンジン側駆動シャフト31をねじり角度θでねじった場合、アークスプリング41の入力端部41Aに入力トルクTaが作用し、アークスプリング41の出力端部41Bに出力トルクTbが作用する。
(A)相手部材との摩擦抵抗によるヒステリシス損失について
図1に示すクラッチユニット1では、図3に示すようにエンジン側駆動シャフト31をねじり角度θでねじった場合、アークスプリング41の入力端部41Aに入力トルクTaが作用し、アークスプリング41の出力端部41Bに出力トルクTbが作用する。
図5は、アークスプリング41およびコイルスプリング42のねじり角度θと出力トルクTbとの関係を表すトルク線図である。図5では、矢印Sp,Sqは、θが大きくなる方向(行き)を示し、太字矢印Rp,Rqは、θが小さくなる方向(帰り)を示しており、下記の説明では、その方向について明記がない限り、太字矢印(帰り)側の線を用いている。
アークスプリング41は、図3に示すようにクラッチユニット1の壁部に向けて押圧されるようにして、そこに接触しながらたわみ、その壁部にはアークスプリング41の各線に垂直な接触力ΔFが作用する。力ΔFは、場所により異なり、概ね図3に示すような分布を示す。接触力ΔF、および、アークスプリング41の線とクラッチユニット1の壁部との摩擦係数μによってΔTmが生じ、その総和として摩擦トルクTmが生じる。このようなクラッチユニット1のアークスプリング41では、図5に示すトルク線Qが得られる。
一方、図2に示すクラッチユニット2のコイルスプリング42では、アークスプリング41とは異なり、図4に示すように曲げ角度は0度であるから、クラッチユニット2の壁部との接触による摩擦損失を無視することができる(すなわち、Ta=Tb,Tm≒0)。これにより、エンジン側駆動シャフト31をねじり角度θでねじった場合、図5に示すトルク線Pが得られる。
クラッチユニット1内部のアークスプリング41では、図5に示すトルク線P,Qから判るように、入力トルクTa,出力トルクTb,摩擦トルクTmの間には、Ta=Tb+Tm(すなわち、Tm=Tb−Ta)の関係式が成立すると考えられる。なお、eは自然対数を示している。ここで、入力トルクTaおよび出力トルクTbについて、トルク伝達効率ηという観点で見ると、下記の関係式Pが成立する。数1に示す関係式Pから判るように、出力トルクTbとトルク伝達効率ηは同じとして考えてよく、出力トルクTbが高くなると、ηはそれに比例して高くなり、摩擦トルクTmはその逆で低くなる。
通常、クラッチユニットでは、アークスプリング゛の外周部との摩擦抵抗が大きいとき、トルク線図にうねりが生じたり、出力トルクTbが変動して、変速フィーリングや実燃費の低下等の問題が引き起こされることから、出力トルクTb(=η)には、出来るだけ大きな特性(トルク伝達効率ηが大きい)が要求されている。関係式Pから判るように、曲げ角度α,摩擦係数μの値が大きくなるに従い、トルク伝達効率ηは低下する。
(B)線同士の接触に対する耐久性低下について
従来技術では、スプリングの高強度化を図るために、発生応力が最高となる材料表面の強度を向上することが有効であることから、材料の改良(たとえば耐久限度の高い材料の使用)や表面改質(ショットピーニングや窒化処理等)を行ってきた。
従来技術では、スプリングの高強度化を図るために、発生応力が最高となる材料表面の強度を向上することが有効であることから、材料の改良(たとえば耐久限度の高い材料の使用)や表面改質(ショットピーニングや窒化処理等)を行ってきた。
圧縮スプリングの使用では、一般的に軸線方向に荷重を作用させているが、サージングや過大荷重による過剰圧縮によって線同士の接触が繰り返し起こる。このような線同士の接触は、スプリングに偏荷重が加わる形態(たとえば図4に示すように、クラッチユニット2内部のコイルスプリング42では、クラッチユニット2の壁部側に極端に圧縮される形態)において顕著である。
この形態では、コイルスプリング42のクラッチユニット2の壁部側のたわみ量が増加し、線同士が接触しやすく、しかも、過大トルクがクラッチユニットに入力したとき、コイルスプリング42の線同士の衝撃的な接触が繰り返される。このような線同士の局部接触は、図2に示すアークスプリング41でも発生する。
このようなスプリングの使用により線接触を繰り返すと、線表面には磨耗(減肉)が生じる。そこで、ばね線の表面が高い応力に対して耐久性を有するように強化層(表面改質層)を形成する場合があるが、従来の強化層では、磨耗により消滅し、耐久性が著しく低下する虞があった。また、材料表面に表面改質を行い、被膜を形成する場合がある。しかしながら、表面改による従来技術の被膜は、硬度が低く、長時間の接触により摩滅するため、線表面の強化層まで磨耗が到達する虞が大きかった。このような磨耗は、強化層の硬度に反比例し、表面硬度が高くなるに従い、少なくなる傾向がある。
(2)従来技術の問題点への検討に基づく本発明による対策
事項(A)の検討から、ヒステリシス損失の低減のためには、コイルスプリングについて摩擦係数μの低い材質を用いることが好適である。通常、スプリングの材質は、SWOSC−VやSWP等のばね用鋼であり、クラッチユニットとの摺動による摩擦係数μは0.15程度である。したがって、コイルスプリング摩擦係数がばね用鋼よりも小さくなるように表面処理を行い、クラッチユニット内部でのヒステリシス損失を低減する。
事項(A)の検討から、ヒステリシス損失の低減のためには、コイルスプリングについて摩擦係数μの低い材質を用いることが好適である。通常、スプリングの材質は、SWOSC−VやSWP等のばね用鋼であり、クラッチユニットとの摺動による摩擦係数μは0.15程度である。したがって、コイルスプリング摩擦係数がばね用鋼よりも小さくなるように表面処理を行い、クラッチユニット内部でのヒステリシス損失を低減する。
事項(B)の検討のように、コイルスプリングの線同士の磨耗は、強化層の硬度に反比例し、表面硬度が高くなるに従い、少なくなる傾向がある。しかしながら、ショットピーニングや窒化処理等の表面改質では、表面硬度はHv800〜1000前後までしか得られない。したがって、コイルスプリングにその表面硬度よりも高くなる表面処理を行うことにより、摩耗による耐久性低下を抑制する。
以上のようにヒステリシス損失の低減を図るためには、摩擦係数μが0.15未満となる耐摩耗層をコイルスプリングの表面に形成する必要がある。また、耐摩耗性の向上を図るためには、硬度がHv1000以上となる耐摩耗層をコイルスプリングの表面に形成する必要がある。本発明のコイルスプリングは、上記知見に鑑みて得られたものであり、ダンパ装置に適用されるスプリングであって、表面に耐摩耗層が形成され、耐摩耗層は、MoS2層(二硫化モリブデン層)、無電解NiP層(無電解ニッケルリン層)、DLC層(ダイヤモンドライクカーボン層)、あるいは、TiN層(窒化チタン層)であることを特徴としている。
本発明のコイルスプリングでは、耐摩耗層としてMoS2層を用いる場合、摩擦係数が0.08程度となり、滑り性が向上するので、クラッチユニット内部でのヒステリシス損失を低減することができる。
また、本発明のコイルスプリングでは、耐摩耗層として無電解NiP層を用いる場合、摩擦係数が0.08程度となるから、MoS2層を用いた場合と同様にクラッチユニット内部でのヒステリシス損失を低減することができることに加えて、表面硬度がHv1000以上となるので、耐摩耗性が向上し、その結果、線同士の接触に対する耐久性を向上させることができる。さらに、耐摩耗層としてDLC層あるいはTiN層を用いる場合、摩擦係数が0.1程度であり、滑り性が向上するので、クラッチユニット内部でのヒステリシス損失を低減することができる。しかも、TiN層自体は、Hv2000程度であり、DLC層自体の硬度はHv3000程度であるから、MoS2層および無電解NiP層と比較して、耐摩耗性が向上し、その結果、線同士の接触に対する耐久性をさらに向上させることができる。
本発明のコイルスプリングは種々の構成を用いることができる。たとえば耐摩耗層としてDLC層を用いる場合、DLC層の層厚を1〜10μmに設定することができる。DLC層は硬度が極めて高いから、膜厚が10μmを超える場合、コイルスプリングの伸縮中にDLC層にクラックが進行し、折損に至る虞がある。DLC層の層厚を1μm未満の場合、DLC層が磨耗により短時間で消滅する虞がある。したがって、DLC層の層厚を1〜10μmに設定することが好適である。
本発明のコイルスプリングによれば、耐摩耗層としてMoS2層を用いると、クラッチユニット内部でのヒステリシス損失を低減することができる。また、無電解NiP層、DLC層、あるいは、TiN層を用いると、クラッチユニット内部でのヒステリシス損失を低減することができることに加えて、耐摩耗性を向上させることができることができる。
(1)第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について、実施例を用いて説明する。第1実施形態のアークスプリングは、図1,3に示すクラッチユニット1のアークスプリング41への適用が好適な一形態である。アークスプリング41は、図3,4に示すコイルスプリング42と比較して、その形状から曲げ角度αを大きく設定することができるので、大きなたわみ量を得ることができる。これにより、ねじり角度θを大きく設定することができることから、クラッチユニットによく採用されている。
以下、本発明の第1実施形態について、実施例を用いて説明する。第1実施形態のアークスプリングは、図1,3に示すクラッチユニット1のアークスプリング41への適用が好適な一形態である。アークスプリング41は、図3,4に示すコイルスプリング42と比較して、その形状から曲げ角度αを大きく設定することができるので、大きなたわみ量を得ることができる。これにより、ねじり角度θを大きく設定することができることから、クラッチユニットによく採用されている。
第1実施形態では、アークスプリング41の表面にDLC処理(ダイヤモンドライクカーボン処理)を施すことにより、アークスプリング41の表面に耐摩耗層としてDLC層(ダイヤモンドライクカーボン層)を形成している。
アークスプリング41の曲げ角度αを大きく設定した場合、摩擦トルクTmが増加する。SWOSC−VやSWP等のばね用鋼を用いた従来のアークスプリング41では、クラッチユニット1との摺動による摩擦係数μは0.15程度である。ここで、アークスプリング41の摩擦係数がばね用鋼の摩擦係数よりも小さくなるように、アークスプリング41の表面にDLC層を形成すると、アークスプリング41表面の摩擦係数μは0.1程度となる。この場合、上記関係式Pの摩擦係数μの低下により、出力トルクTb,トルク伝達効率ηが増加し、摩擦トルクTmが低下する。
図6(A)は、DLC層を表面に形成したアークスプリングの実験例(摩擦係数μ=0.1)、および、材質としてばね用鋼を用いたアークスプリングの比較実験例(摩擦係数μ=0.15)を、図1に示すクラッチユニット1内に用いて得られたねじり角度θと出力トルクTbの関係を表すグラフである。実験例および比較実験例では、アークスプリングの曲げ角度αを120度に設定した。図6中の摩擦係数μ=0のときのトルク線は、摩擦がないときの理論値を示している。
図6(A)から判るように、実験例(摩擦係数μ=0.1)のトルク線は、比較実験例(摩擦係数μ=0.15)のトルク線と比較して、摩擦係数μの低下により、理論値(摩擦係数μ=0)に近づいていることを確認した。
摩擦係数μの変動幅は±20%程度を設計時に想定している。たとえば、比較実験例(摩擦係数μ=0.15)の場合 0.12〜0.18程度となる。図6(B)は、摩擦係数μに変動が生じたときの実験例および比較実験例のねじり角度θと出力トルクTbの関係を表すグラフである。図6(B)は、ねじり角度θが20度付近である領域を拡大したグラフである。図6(B)では、実験例および比較実験例のトルク線の上下に位置する細い破線は、実験例および比較実験例の変動上下限線であり、図にはそれら間の出力トルクTbの変動幅を示している。図中の摩擦トルクTmの変動幅は、ねじり角度θが20度である場合の理論値(摩擦係数μ=0)との差である。
図6(B)から判るように、実験例の出力トルクTbの変動幅は、比較実験例のものよりも小さいことを確認した。
通常、アークスプリングをクラッチユニットに配置した場合、特定のねじり角度θに対して出力トルクTbの所定の公差が、曲げ角度αに関係なく要求されている。出力トルクTbの公差は、機種によって差はあるが、一般的に出力トルクTbの±10%程度である。
ここで、アークスプリングでは、摩擦トルクTmが発生し、摩擦トルクTmにばらつきが生じ、かつ変動することが問題となる。これにより、出力トルクTbが影響を受け、たとえば曲げ角度αが0度の場合と曲げ角度αが180度の場合では、曲げ角度αが180度の場合は、曲げ角度αが0度の場合と比較して、摩擦トルクTmの変動による出力トルクTbの変動がトルク公差を消費し、ばね単体としてのトルク公差が実質的に圧縮される。その結果、曲げ角度αが180度の場合は、出力トルクTbをその公差中心に設定するために、ばね定数の調整が必要になる。
ところが、実際のアークスプリングでは図面上の各寸法や公差の規制が厳しくなる一方であるため、ばね定数を調整するための調整代はほとんどないのが現状である。実際、出力トルクTbの公差幅±10%の範囲内でロット毎の出力トルクTbの平均値が±2%を超えると、歩留まりに大きな影響が発生する傾向があった。
図7は、曲げ角度α(=接触角度α)とトルク伝達効率ηとの関係を表すグラフ(数1の関係式Pを示すグラフ)である。図7から判るように、摩擦係数μが小さくなるに従い、トルク伝達効率ηが大きくなり、曲げ角度αが小さくなるに従い、トルク伝達効率ηが大きくなる。
図8は、摩擦係数μの変動幅を±20%程度に設定した場合の摩擦係数μの変動に伴う出力トルクTbあるいはトルク伝達効率ηの変動率を表すグラフである。図中の破線は、トルク伝達効率ηが変動許容値である2%を超えるラインに対応する曲げ角度α=38度を示している。図8から判るように、摩擦係数μが±20%程度変動する場合、曲げ角度αが38度程度を示すとき、トルク伝達効率ηが±2%を超える。すなわち、摩擦係数μの変動によって出力トルクTbおよびトルク伝達効率ηが変動許容値である±2%を超える場合、アークスプリングへの表面処理による摩擦係数μの低減効果が効果的になる。
以上のような結果から、曲げ角度αが40度以上に設定されたアークスプリング41の摩擦係数がばね用鋼の摩擦係数(摩擦係数μ=0.15)よりも小さくなるように、アークスプリング41の表面にDLC層を形成すると、出力トルクTb,トルク伝達効率ηの安定化する。
本実施形態では、耐摩耗層としてDLC層を形成した例を説明したが、これに限定されるものではない。たとえば、DLC層の代わりに、摩擦係数μが0.1程度である程度TiN層(窒化チタン層)や、摩擦係数μが0.08程度であるMoS2層、摩擦係数μが0.08程度である無電解NiP層(たとえば無電解Ni-P/Ni-P-PTFE)を形成してもよい。
従来技術においてクラッチユニット内でのアークスプリング41の相手部材との摺動によるヒステリシス損失が問題となっていたが、第1実施形態では、以上のようにアークスプリング41の表面に上記耐摩耗層を形成することにより、滑り性を向上させることができるので、クラッチユニット1内部でのヒステリシス損失を低減することができる。
(2)第2実施形態
本発明の第2実施形態について、実施例を用いて説明する。本発明の第2実施形態は、図2,4に示すクラッチユニット2のコイルスプリング42への適用が好適な一形態である。第2実施形態では、コイルスプリング42の表面にDLC処理あるいはDLC・STAR処理を行うことにより、コイルスプリング42表面にDLC層を形成する。
本発明の第2実施形態について、実施例を用いて説明する。本発明の第2実施形態は、図2,4に示すクラッチユニット2のコイルスプリング42への適用が好適な一形態である。第2実施形態では、コイルスプリング42の表面にDLC処理あるいはDLC・STAR処理を行うことにより、コイルスプリング42表面にDLC層を形成する。
DLC・STAR処理では、図9に示すように、スプリング母材51および強化層52を有するスプリング本体部53の表面から順にCrN層54(クロムナイトライド層54)およびDLC層55を形成する。この場合、DLC・STAR処理は、CrN層が形成される点において、CrN層が形成されないDLC処理とは異なる。
DLC・STAR処理では、CrN層54が形成されるので、非常に硬く(Hv3000以上)、かつ強化層52との密着性が高い。また、DLC・STAR処理では、強化層52表面の凹凸構造の凹部が埋まり、コイルスプリング42表面の平滑性が向上する。
高応力が作用するばね表面では、小さな疵が起点となりそこから亀裂が拡大し、折損に至る虞があるが、第2実施形態では上記のようにDLC・STAR処理により疵が埋められるから、高強度ばねの課題であった切欠き感受性を鈍化させることができる。
従来技術においてクラッチユニット2内でのコイルスプリング42では、その線同士の接触による摩耗が問題となっていたが、第2実施形態では、コイルスプリング42表面にDLC層を形成することにより、耐磨耗性が顕著に向上するので、強化層51上にDLC層を形成しない場合と比較して、磨耗量を低減することができる。
具体的には、DLC層自体の硬度はHv3000程度であるから、Hv1000程度であるMoS2層および無電解NiP層と比較して、耐摩耗性が向上し、その結果、線同士の接触に対する耐久性を向上させることができる。また、DLC・STAR処理により強化層52表面の疵が埋められるから、耐摩耗性向上を図ることができることに加えて、高強度ばねの課題であった切欠き感受性を鈍化させることができる。特に、DLC層の層厚を1〜10μmに設定することにより、DLC層の磨耗による消滅を防止することができ、かつDLC層でのクラック発生を防止することができる。なお、DLC層55の代わりに、MoS2層、無電解NiP層、あるいは、TiN層を形成してもよい。
以上のように本発明を第1実施形態および第2実施形態を用いて説明したが、これら形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、複数のスプリング(複数のアークスプリング41あるいは複数のコイルスプリング42)を用い、一方のばねの内側に他方のばねを挿入する形態を用いることができる。この場合、ばね同士の軸線を一致させる。図10は、スプリング62の内側にスプリング61を配置した態様を示している。上記態様では、スプリング61,62表面にDLC層を形成することにより、互いの接触時の磨耗を低減することができる。また、スプリング61,62同士の間に所定の圧入代を設定した場合、線同士の接触抵抗を低減することができるので、ばねの荷重−たわみの特性の向上を図ることができる。
1,2…クラッチユニット、41…アークスプリング(コイルスプリング)、42…コイルスプリング、55…DLC層(耐摩耗層)、61,62…スプリング
Claims (3)
- ダンパ装置に適用されるコイルスプリングにおいて、
表面に耐摩耗層が形成され、
前記耐摩耗層は、MoS2層、無電解NiP層、DLC層、あるいは、TiN層であることを特徴とするコイルスプリング。 - 前記DLC層の層厚は、1〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載のコイルスプリング。
- 前記耐摩耗層は、Hvが1000以上で、かつ摩擦係数が0.15未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のコイルスプリング。
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