JP2010246440A - 硫化水素生産能が低下した酵母 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ゲノム中のGLN3遺伝子が破壊されたアルコール飲料製造用酵母、特にビール酵母。特に、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子が破壊されたアルコール飲料製造用酵母、特に前記遺伝子が破壊されたビール酵母。
【選択図】なし
Description
一般に酵母を用いたアルコール飲料製造の際に含硫化合物が生成されることがある。含硫化合物の中には、醸造酒等のアルコール飲料の品質を低下させるものがある。例えば、日光臭の原因物質MBT(3-メチル-2-ブテン-1-チオール)やネギ臭の原因物質2M3MB(2-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール)がそれに該当する。これらがアルコール飲料の品質を低下させることがあるが、これらの含硫化合物は発酵中に酵母により生成される硫化水素が原因で生成されると考えられている。発酵中に発生する硫化水素は、酵母が硫酸イオンを利用してメチオニンを合成する過程で副次的に生成されると考えられている。また、このとき発生する硫化水素自体も硫黄臭の原因となり、アルコール飲料の品質に好ましくない影響を与える。例えば酵母を用いてビール、発泡酒、いわゆる第三のビール等のアルコール飲料を製造する場合に、3-メチル-2-ブテン-1-チオール(MBT)や2-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール(2M3MB)等の含硫化合物が製品であるアルコール飲料の品質を低下させることがしばしば問題となっている。
アルコール飲料を製造する際の発酵液中の窒素源量と硫化水素産生量との関係については、発酵液中の窒素源量が少ないほど発酵中に産生される硫化水素量が多いことが報告されている(非特許文献2、3)。窒素成分量が減少すると認められると、酵母では次のような生体反応が生じると考えられている。酵母はアミノ酸(プロリン除く)やアンモニウム塩といった資化しやすい窒素源が欠乏すると、資化しにくい窒素源であるプロリン、アラントイン、尿素といった窒素源を資化するための酵素、および、これらの透過蛋白質等をコードする遺伝子群(NCR(Nitrogen Catabolite Repression)遺伝子群)の転写が活性化される。この遺伝子群の転写活性化に関与している転写活性化因子がGLN3である。この遺伝子産物の126から138のアミノ酸残基はα−へリックスモチーフであり、転写活性化に関与していると考えられている。また、この遺伝子産物の306から330のアミノ酸残基は多くの転写活性化因子に見られるジンクフィンガー(zinc finger;Znフィンガー)モチーフを有しており、NCR遺伝子群のプロモーター領域のGATAシークエンスへの結合に関与していると考えられている。さらに、510から720のアミノ酸残基は、栄養源シグナルに関与するタンパク質であるTorタンパク質との結合に関与すると考えられている(非特許文献4、5)。
実験室酵母S.セレビシアエについてはゲノム解読が完了しており、データベースも完備している(http://www.yeastgenome.org/)。GLN3遺伝子を破壊した実験室酵母株は既に報告されている(非特許文献6、7)。このデータベースからの情報に基づいて、下面ビール酵母のS.セレビシアエ型GLN3遺伝子(SC-GLN3)のヌクレオチド配列は配列番号1に記載された配列であり、GLN3タンパク質をコーディングするORF領域は配列番号1のヌクレオチド番号796から2986までであると考えられている。非特許文献6に記載されている実験室酵母のGLN3遺伝子破壊は、配列番号1のヌクレオチド番号1238から4398の領域を選択マーカー遺伝子と置換する、配列番号1のヌクレオチド番号770から4398の領域を選択マーカー遺伝子と置換する、または、配列番号1のヌクレオチド番号1238から1998を選択マーカー遺伝子と置換することによって行われている。そのような酵母ではNCR遺伝子群であるDAL1,DAL2,DAL7等の窒素源飢餓時(あるいは、資化しにくい窒素源のみである場合)の遺伝子発現誘導が生じないことが報告されている(非特許文献7)。
一方、上述したアルコール飲料製造用酵母の硫化水素産生とGLN3遺伝子との関連性についての報告はこれまでになされていない。
本発明により、酵母、特にアルコール飲料製造用酵母ビールの硫化水素生産能を低下させる方法が提供される。また本発明により、ビール酵母、特に下面ビール酵母の硫化水素生産能を低下させる方法が提供される。
さらに、本発明はゲノム中のGLN3遺伝子にGLN3遺伝子中へDNA断片が挿入された結果GLN3遺伝子が破壊されたアルコール飲料製造用酵母である。本発明は、ゲノム中のGLN3遺伝子にDNA断片が挿入された結果GLN3遺伝子が破壊されたビール酵母、特に下面ビール酵母でもある。
本発明は、アルコール飲料製造用酵母ゲノム中のGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較してアルコール飲料製造用酵母の硫化水素生産能を低下させる方法でもある。特に、本発明は、ビール酵母、特に下面ビール酵母ゲノム中のGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較してビール酵母の硫化水素生産能を低下させる方法でもある。
また本発明はアルコール飲料製造用酵母のゲノム中のGLN3遺伝子にDNA断片を挿入することによってGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較して酵母の硫化水素生産能を低下させる方法でもある。特に、本発明は、ビール酵母、特に下面ビール酵母のゲノム中のGLN3遺伝子にDNA断片を挿入することによってGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較して酵母の硫化水素生産能を低下させる方法でもある。
特に、GLN3遺伝子に挿入されるDNA断片は好ましくはGLN3の機能と無関係のDNA断片である。
また、本発明は本発明のアルコール飲料製造用酵母による醗酵工程を含む、アルコール飲料の製造方法でもある。
特に、本明細書において「ビール酵母」とは、ビール、発泡酒および第三のビール等の製造に使用されることのある酵母を意味し、特に「下面ビール酵母」とは、ビールおよび発泡酒等の製造に使用されることのあるS.セレビシアエ(SC)とS.バヤヌス(SB)の自然交雑体であって、S.パストリアヌスに分類される酵母を意味する。
本発明の硫化水素生成能が抑制されたアルコール飲料製造用酵母、特にビール酵母は、酵母ゲノム中のGLN3遺伝子の機能を抑制することによって作成することができる。
上述のように、下面ビール酵母のSC-GLN3遺伝子のヌクレオチド配列が明らかになっており(配列番号1)、SC-Gln3タンパク質をコードするORF領域は配列番号1のヌクレオチド番号794からヌクレオチド番号2986までであると考えられている。ORFから翻訳されるSC-Gln3のアミノ酸配列を配列番号2に示す。さらに、下面ビール酵母のゲノム解読の結果(特許文献5)およびSC-GLN3遺伝子とのヌクレオチド配列の相同性に基づいてSB型GLN3遺伝子(SB-GLN3)のヌクレオチド配列も推定することができる。推定されたSB-GLN3のヌクレオチド配列を配列番号3に示す。SB-Gln3タンパク質をコードするORF領域は配列番号3のヌクレオチド番号582からヌクレオチド番号2771までであると考えられる。SB-Gln3の予想されたアミノ酸配列を配列番号4に示す。SB-Gln3のアミノ酸数は729であり、SC-Gln3のアミノ酸数730とほぼ同じである。実験室酵母S.セレビシアエ、他のアルコール飲料製造用酵母のGLN3遺伝子もこれらの配列情報に基づいて作製した適切なプローブを用いて得ることができる。
実験室酵母のゲノムデータベース(SGD: Saccharomyces Genome Database)によると、SC-GLN3のプロモーター領域の制御領域として、配列番号1のヌクレオチド番号595-601がDNA結合タンパク質REB1の結合領域であると考えられており、配列番号1のヌクレオチド番号652-658が転写活性化因子GCN4の結合領域と考えられている。SB-GLN3のプロモーター領域においてもGCN4の結合領域の配列はよく保存されている(配列番号3の445-451)。
本発明においてはGLN3遺伝子の機能を十分に低下させることが好ましいため、ゲノム中にGLN3遺伝子のコピーが複数存在する場合、または相同遺伝子が存在する場合は、それらの少なくとも1コピー、好ましくは2コピー以上を破壊するのが好ましく、GLN3遺伝子の全コピーを破壊することが最も好ましい。GLN3遺伝子の1以上のコピーを破壊するためには、胞子分離体に対して遺伝子破壊を行なうのが有利である。例えば、下面ビール酵母においては少なくともゲノム中のSC型GLN3遺伝子の少なくとも1コピーを破壊することが好ましく、ゲノム中のSC型GLN3遺伝子およびSB型GLN3遺伝子の両方をそれぞれ1コピー以上破壊することがより好ましい。
さらに、必要であれば、ビール等のアルコール飲料醸造条件下における酵母の硫化水素産生能を測定することもできる。たとえば、ビール製造に用いられる一般的な麦汁に、初期のビール酵母濃度を2×107細胞/mlになるようにして、15℃で発酵を開始する。各時間に醗酵液を採取し、GC-FPD等で培養液中に溶存している硫化水素量を測定することができる。また、醗酵期間中及び発酵試験終了後の発酵液中におけるMBTおよび2M3MBの量をGC-FPD等により測定してもよい。ワイン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、シャンパン酵母等の他のアルコール飲料製造用酵母についても同様に硫化水素産生能を測定することができる。
上述のようにSC-GLN3のヌクレオチド配列は配列番号1に、SC-Gln3のアミノ酸配列は配列番号2に示され、SB-GLN3のヌクレオチド配列は配列番号3に、SB-Gln3のアミノ酸配列は配列番号4に示された通りである。これらの配列情報から分かるように、SC-GLN3遺伝子とSB-GLN3遺伝子のORF中、少なくともα−へリックスモチーフのアミノ酸配列(SC-GLN3 アミノ酸残基126-138, SB-GLN3アミノ酸残基126-138)、Znフィンガーモチーフのアミノ酸配列(SC-Gln3のアミノ酸残基306-330, SB-Gln3のアミノ酸残基305-329)は両者で完全に保存されている。これらの配列情報に基づいて適切なPCRプライマーを設計して、いずれのGLN3遺伝子もTAクローニングすることができる。たとえば、SC-GLN3のTAクローニングのためのPCRにはプライマー1(配列番号5)とプライマー2(配列番号6)を、SB-GLN3のTAクローニングのためのPCRにはプライマー3(配列番号7)および4(配列番号8)を用いることができる。
用いた遺伝子破壊用プラスミドと同じ配列を有している筈であるので、サザンハイブリダイゼーション、または、適切なプライマー、例えばSC-GLN3あるいは、SB-GLN3のDNA配列(配列番号1あるいは、配列番号3)と選択マーカーとした遺伝子の配列(配列番号9あるいは、配列番号10)を含むプライマーを用いたPCRによって増幅産物が得られることにより、所望の形質転換体が得られたことを確認することができる。
下面ビール酵母以外のアルコール飲料製造用酵母についても同様な手順でGLN3遺伝子破壊酵母を作成することができる。
以下の実施例において本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例の範囲に限られないことは言うまでもない。
1)SC-GLN3およびSB-GLN3のクローニング
タカラバイオ社製のPerfectshotを用いて増幅されたPCR断片をTAクローニングすることにより、SC型GLN3遺伝子(SC-GLN3)及びSB型GLN3遺伝子(SB-GLN3)のそれぞれの断片を得た。
下面ビール酵母ヴァイヘンシュテファン(Weihenstephan)34/70のゲノムDNAを鋳型として、SC-GLN3増幅用プライマー1(TGACTTTTCCGCCAAAGAAGAGGACCTCG:配列番号5)および2(TATTATACGATTGGCTGTTCATGAGGACC:配列番号6)、またはSB-GLN3増幅用プライマー3(TGGCGAGACAGTGGAAGGTTAAAGAGAGG:配列番号7)および4(TTGGAGAAGGTTTTGGTAAAATCGGGACC:配列番号8)を用いて、Applied Biosytems社製サーマルサイクラーを用いてPCRを行った。
PCR条件は以下の通り
構築したプラスミドpCR2-SCGLN3及び、pCR2-SBGLN3のORF内にある制限酵素部位を利用し、インビトロジェン社のGateway TechnologyでのDestinationベクターを構築した。すなわち、プラスミドpCR2-SCGLN3あるいは、pCR2-SBGLN3、それぞれ約10μgを、制限酵素Nde I(認識部位:配列番号1のヌクレオチド番号1097-1102)あるいは、Cla I(認識部位:配列番号3のヌクレオチド番号936-941)、それぞれ約50ユニット、37℃、約1時間で切断し、タカラバイオ社製Blunting kitを用いて平滑化した。その後、平滑化した各プラスミド約100ngをインビトロジェン社製Gateway Vector Conversion Systemでの、Reading Frame Cassette (配列番号15) 10ngと、タカラバイオ社製T4 DNAリガーゼ350ユニットとを室温で1時間反応させ、ccdB耐性の大腸菌コンピテントセル、インビトロジェン社製One Shot ccdB Survival T1 Phage-Resistant細胞を形質転換し、DestinationベクターであるプラスミドpCR2-SCGLN3ccdBとpCR2-SBGLN3ccdBを構築した(図1、図2)。
下面ビール酵母SC-GLN3及びSB-GLN3遺伝子破壊の際の形質転換マーカーとして、アミノグリコシド系抗生物質をリン酸化する酵素をコードする大腸菌の遺伝子(apt2)に酵母(S.セレビシアエ)ADH1(アルコール脱水素酵素)遺伝子のプロモーターを接続したDNA断片(PADH1-apt2、配列番号9)、あるいは、酵母(S.セレビシアエ)の転写因子YAP1にPGK(ホスホグリレセレートキナーゼ)のプロモーターを接続したDNA断片(PPGK-YAP1、配列番号10)を用いた。apt2遺伝子は、形質転換酵母に抗生物質G-418に耐性をもたらし、YAP1遺伝子は、形質転換酵母に薬剤セルレニンに対する耐性を付与する。PADH1-apt2を有するプラスミドpYcDE-ΔG11を鋳型として、プライマー5(GGATCCGGGATCGAAGAAATGATGGTAAA:配列番号11)とプライマー6(AAGCTTGCAAATTAAAGCCTTCGAGCGTC:配列番号12)を用いてPCRでPADH1-apt2のDNA断片を増幅し、増幅された断片をインビトロジェン社製プラスミドpCR8にTAクローニングしてインビトロジェン社のGateway TechnologyでいうEntryベクターであるpCR8-apt2を得た(図1)。PCRの条件は前述したものと同じである。PPGK-YAP1についても同様に、同DNA断片を有するプラスミドYEp-PGKp-YAP1を鋳型として、プライマー7(CGATTTGGGCGCGAATCCTTTATTTTGGC:配列番号13)とプライマー8(AGTTACCCAGTTTTCCATAAAGTTCCCGC:配列番号14)を用いてPCRで増幅し、pCR8にTAクローニングしてインビトロジェン社のGateway TechnologyでいうEntryベクターであるpCR8-YAP1を得た(図2)。
前述したインビトロジェン社のGateway TechnologyでいうDestinationベクターであるプラスミドpCR2-SCGLN3またはpCR2-SBGLN3と、インビトロジェン社のGateway TechnologyでいうEntryベクターであるpCR8-apt2またはpCR8-YAP1をそれぞれ300ng混合し、インビトロジェン社製LRクロナーゼを反応させ、SC-GLN3遺伝子破壊用プラスミドであるpCR2-SCGLN3Δapt2、および、SB-GLN3遺伝子破壊用プラスミドであるpCR2-SBGLN3ΔYAP1を得た(図1、図2)。
作製したSC-GLN3遺伝子破壊用プラスミドpCR2-SCGLN3Δapt2を鋳型に用い、プライマー1(配列番号5)とプライマー2(配列番号6)を用い、あるいは、作製したSB-GLN3遺伝子破壊用プラスミドpCR2-SBGLN3ΔYAP1を鋳型に用い、プライマー3(配列番号7)とプライマー4(配列番号8)を用いてPCRを行なった。PCRの条件は前述したものと同じである。次に、増幅したDNA断片を用いて下面ビール酵母の形質転換を行った。
形質転換に用いた下面ビール酵母は、Weihenstephan34/70の胞子分離体W-1Bである。対数増殖期の酵母菌体を集菌洗浄した後、109細胞/mlになるように懸濁した酵母細胞液0.1mLに、0.2M酢酸リチウム溶液0.1mLを加え、室温で1時間反応させた後、反応液0.1mLに、70%ポリエチレングリコール4000溶液0.1mLを加え、懸濁し、PCRで増幅したDNA断片を約20μg加え、室温で1時間反応させた。その後、42℃の水槽で、5分間処理した後、集菌洗浄し、SC-GLN3遺伝子破壊の場合は、YPD培地(1% 酵母エキストラクト, 2%ペプトン, 2%グルコース)、SB-GLN3遺伝子破壊の場合は、SD培地(2% グルコース、0.67% Yeast Nitrogenbaseアミノ酸不含有)に懸濁し、室温で1時間から1昼夜培養し、選択培地(SC-GLN3遺伝子破壊の場合は抗生物質G-418 200μg/mL含有したYPD培地(1% 酵母エキストラクト, 2% ペプトン, 2% グルコース、2%寒天)、SB-GLN3遺伝子破壊の場合は、セルレニン2μg/mL含有したSD培地(2% グルコース 0.67% Yeast Nitrogenbase アミノ酸不含有、2%寒天)に塗布し、形成されたコロニーから形質転換株を選択した。得られた形質転換体のゲノム挿入状態を調べた。
1)窒素飢餓条件下での硫化水素産生抑制
以上のような方法で造成したSC-GLN3遺伝子破壊ビール酵母、SB-GLN3遺伝子破壊酵母、SC-GLN3/SB-GLN3二重遺伝子破壊ビール酵母と親株であるビール酵母の胞子分離体B-1Bを、25℃のSD培地(2% グルコース, 0.67% Yeast Nitrogenbase アミノ酸不含有、(内、0.5%硫酸アンモニウム))の培養で、対数増殖期(酵母細胞濃度2〜5×107 cells/mL)に、集菌洗浄し、一方を、25℃のSD培地で続けて培養を継続し、もう一方を、25℃の窒素源飢餓培地(2% グルコース, 0.17% Yeast Nitrogenbase、アミノ酸不含有、硫酸アンモニウム不含有)で培養し、1時間後の硫化水素濃度を測定した。硫化水素の測定は、培養液を約7mL採取し、3000rpm 10分間の遠心分離によって、酵母を分離した培養液5mLをスターラーバーの入ったバイアル瓶に入れ、塩化ナトリウム1.0gを加え、3N塩酸100μL、内部標準液(硫化エチルメチル10 mg/mL) 50μLを加え、アルミキャップで密栓し、室温10分間でスターラーバーを回転させて、塩化ナトリウムを溶解させる。ヘッドスペースGC-FPDによって、内部標準比から培養液中の溶存硫化水素濃度を定量した。その結果を表1に示す。
麦汁で馴らしの培養が終了した、SC-GLN3遺伝子破壊ビール酵母、SB-GLN3遺伝子破壊酵母、SC-GLN3/SB-GLN3二重遺伝子破壊ビール酵母と親株であるビール酵母の胞子分離体B-1Bをそれぞれ2Lの麦汁に移し、初期細胞濃度を2×107細胞/mLとなるようにして、15℃にて醗酵を開始し、ビール発酵条件下での硫化水素産生を調べた。各時間に醗酵液を採取し、醗酵液中に溶存している硫化水素を1)と同様にしてGC-PFDで測定した。その結果を図3に示す。GLN3遺伝子破壊体酵母の産生硫化水素量は抑制され、特に、SC-GLN3破壊体酵母及びSC-GLN3/SB-GLN3遺伝子二重破壊体において産生硫化水素の抑制効果は大きかった。
Claims (15)
- ゲノム中のGLN3遺伝子が破壊されたアルコール飲料製造用酵母。
- ビール酵母である、請求項1記載の酵母。
- GLN3遺伝子が配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする、請求項1または2記載の酵母。
- 配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が配列番号1のヌクレオチド番号796〜2986の配列であり、配列番号4のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が配列番号3のヌクレオチド番号582〜2771の配列である、請求項3記載の酵母。
- 破壊がGLN3遺伝子中へのDNA断片の挿入による、請求項1〜4のいずれか1項記載の酵母。
- 下面ビール酵母である、請求項2〜5のいずれか1項記載の酵母。
- アルコール飲料製造用酵母のゲノム中のGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較してアルコール飲料製造用酵母の硫化水素生産能を抑制する方法。
- アルコール飲料製造用酵母がビール酵母である、請求項7記載の方法。
- GLN3遺伝子が配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、請求項7または8記載の方法。
- 配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が配列番号1のヌクレオチド番号796〜2986の配列であり、配列番号4のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が配列番号3のヌクレオチド番号582〜2771の配列である、請求項9記載の方法。
- 破壊がGLN3遺伝子中へのDNA断片の挿入による、請求項8〜10のいずれか1項記載の方法。
- 酵母が下面ビール酵母である、請求項8〜11のいずれか1項記載の方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項記載のアルコール飲料製造用酵母による醗酵工程を含む、アルコール飲料の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項記載のアルコール飲料製造用酵母のアルコール飲料製造における使用。
- アルコール飲料がビール、発泡酒または第三のビールである請求項13記載の方法。
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