JP2010232357A - 表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 湿度が変動する環境においても十分な耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、酸化熱処理による磁気特性の低下が抑制された希土類系焼結磁石の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、磁石に対し、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が0.1Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、磁石の酸素含有量が0.3質量%未満の場合には400℃〜600℃で、磁石の酸素含有量が0.3質量%以上の場合には200℃〜400℃(但し400℃を除く)で熱処理を行う工程を含んでなることを特徴とする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、湿度管理がなされていない輸送環境や保管環境などの湿度が変動する環境においても十分な耐食性を有するとともに、優れた磁気特性を有する希土類系焼結磁石の製造方法に関する。
Nd−Fe−B系焼結磁石に代表されるR−Fe−B系焼結磁石などの希土類系焼結磁石は、資源的に豊富で安価な材料が用いられ、かつ、高い磁気特性を有していることから今日様々な分野で使用されているが、反応性の高い希土類金属:Rを含むため、大気中で酸化腐食されやすいという特質を有する。従って、希土類系焼結磁石は、通常、その表面に金属被膜や樹脂被膜などの耐食性被膜を形成して実用に供されるが、IPM(Interior Permanent Magnet)モータなどのように磁石が部品に埋め込まれて使用される態様の場合には、必ずしもこのような耐食性被膜を磁石の表面に形成することは必要とされない。しかしながら、磁石が製造されてから部品に埋め込まれるまでの期間における磁石の耐食性の確保は当然に必要となる。そこで、このような期間における希土類系焼結磁石の耐食性を確保するための方法として、酸化性雰囲気下で熱処理を行うことによって磁石の表面を改質する方法が提案されており、この方法は、上記の目的を達成できるに足る簡易耐食性向上技術として注目されている。
酸化熱処理による希土類系焼結磁石の表面改質を行うために必要な酸化性雰囲気は、酸素を利用して形成される場合(例えば特許文献1や特許文献2を参照のこと)の他、水蒸気を利用して形成される場合もある。例えば、特許文献3〜特許文献6には、水蒸気を単独で利用して、或いは、水蒸気に酸素を組み合わせて酸化性雰囲気を形成する方法が記載されている。
特許第2844269号公報 特開2002−57052号公報 特開2006−156853号公報 特開2006−210864号公報 特開2007−103523号公報 特開2007−207936号公報
希土類系焼結磁石が製造されてから部品に埋め込まれるまでの期間における磁石の腐食は、磁石が置かれる環境の良し悪しに左右される。特に湿度の変動は、磁石の表面に微細な結露を繰り返し生じさせ、磁石の腐食を早めてしまう。本発明者は、上記の特許文献に記載された簡易耐食性向上技術の有用性を検証した結果、いずれの技術を採用した場合も、湿度の変動が激しい環境においては必ずしも十分な耐食性が得られないこと、特許文献3〜特許文献6においては、水蒸気分圧は10hPa(1000Pa)以上が好適とされているが、このような水蒸気分圧が高い雰囲気下で熱処理を行うと、磁石の表面で起こる酸化反応によって水素が副産物として大量に生成し、磁石が生成した水素を吸蔵して脆化することで磁気特性が低下してしまうことが判明した。
そこで本発明は、湿度が変動する環境においても十分な耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、酸化熱処理による磁気特性の低下が抑制された希土類系焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、酸素分圧と、特許文献3〜特許文献6において不適とされている10hPa未満の水蒸気分圧を適切に制御した酸化性雰囲気下、磁石の酸素含有量に基づいて適切な温度管理の下に熱処理を行うことによって表面改質された希土類系焼結磁石は、湿度が変動する環境においても十分な耐食性を有すること、熱処理による磁気特性の低下が抑制されていることを見出した。
上記の知見に基づいて完成された本発明の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、請求項1記載の通り、希土類系焼結磁石が、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、その50質量%以下がCoおよび/またはNiによって置換されていてもよいFe、および不可避不純物からなる組成を有するものであり、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が0.1Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、磁石の酸素含有量が0.01質量%〜0.3質量%(但し0.3質量%を除く)の場合には400℃〜600℃で、磁石の酸素含有量が0.3質量%〜0.6質量%の場合には200℃〜400℃(但し400℃を除く)で熱処理を行う工程を含んでなることを特徴とする。
また、請求項2記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、請求項1記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法において、酸素分圧と水蒸気分圧の比率(酸素分圧/水蒸気分圧)を1〜400とすることを特徴とする。
また、請求項3記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、請求項1または2記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法において、常温から熱処理を行う温度までの昇温を、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下で行うことを特徴とする。
また、請求項4記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法において、磁石表面に対して平面研削加工を行ってから熱処理を行うことを特徴とする。
また、請求項5記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、請求項4記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法において、番手が♯60〜♯400の粒度を有する砥石を用いて平面研削加工を行うことを特徴とする。
また、本発明の表面改質された希土類系焼結磁石は、請求項6記載の通り、請求項1記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法にて製造されてなることを特徴とする。
また、請求項7記載の表面改質された希土類系焼結磁石は、請求項6記載の表面改質された希土類系焼結磁石において、表面改質された部分が、磁石の内側から順に、R、Fe、Bおよび酸素を含む主層、少なくともR、Feおよび酸素を含む非晶質層、ヘマタイトを主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有する表面改質層からなることを特徴とする。
また、本発明の表面改質された希土類系焼結磁石は、請求項8記載の通り、希土類系焼結磁石が、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、その50質量%以下がCoおよび/またはNiによって置換されていてもよいFe、および不可避不純物からなる組成を有するもので、磁石の酸素含有量が0.01質量%〜0.3質量%(但し0.3質量%を除く)であり、表面改質された部分が、磁石の内側から順に、R、Fe、Bおよび酸素を含む主層、少なくともR、Feおよび酸素を含む非晶質層、ヘマタイトを主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有する表面改質層からなることを特徴とする。
また、本発明の表面改質された希土類系焼結磁石は、請求項9記載の通り、希土類系焼結磁石が、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、その50質量%以下がCoおよび/またはNiによって置換されていてもよいFe、および不可避不純物からなる組成を有するもので、磁石の酸素含有量が0.3質量%〜0.6質量%であり、表面改質された部分が、磁石の内側から順に、R、Fe、Bおよび酸素を含む主層、少なくともR、Feおよび酸素を含む非晶質層、ヘマタイトを主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有する表面改質層からなることを特徴とする。
本発明によれば、湿度が変動する環境においても十分な耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、酸化熱処理による磁気特性の低下が抑制された希土類系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
本発明の表面改質された希土類系焼結磁石の製造に好適な連続処理炉の一例の概略図(側面図)である。 実施例1における表面改質された磁石体試験片の電界放出型走査電子顕微鏡を用いた断面観察の結果を示す写真である。 同、表面改質された磁石体試験片の表面改質された部分(表面改質層)を構成する最表層を、表面からX線回折装置を用いて分析した結果を示すチャートである。 参考例1における熱処理が及ぼす希土類系焼結磁石の磁気特性への影響を調べた結果を示すグラフである。
本発明の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、希土類系焼結磁石が、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、その50質量%以下がCoおよび/またはNiによって置換されていてもよいFe、および不可避不純物からなる組成を有するものであり、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が0.1Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、磁石の酸素含有量が0.01質量%〜0.3質量%(但し0.3質量%を除く)の場合には400℃〜600℃で、磁石の酸素含有量が0.3質量%〜0.6質量%の場合には200℃〜400℃(但し400℃を除く)で熱処理を行う工程を含んでなることを特徴とするものである。酸素分圧と、10hPa未満の水蒸気分圧を適切に制御した酸化性雰囲気下、磁石の酸素含有量が0.3質量%未満であるか0.3質量%以上であるかを指標にした適切な温度管理の下に熱処理を行うことで、優れた耐食性を発揮する表面改質を磁石に対して効果的に行うことができるとともに、過剰な水蒸気の存在によって引き起こされる水素の大量生成に伴う磁石の磁気特性の低下を抑制することができる。
希土類系焼結磁石の表面に対して所望する改質をより効果的かつ低コストに行うためには、酸素分圧は5×10Pa〜5×10Paが望ましく、1×10Pa〜4×10Paがより望ましい。水蒸気分圧は250Pa〜900Paが望ましく、400Pa〜700Paがより望ましい。また、酸素分圧と水蒸気分圧の比率(酸素分圧/水蒸気分圧)は1〜400が望ましく、5〜100がより望ましい。処理室内の酸化性雰囲気は、例えば、これらの酸化性ガスを所定の分圧となるように個別に導入することによって形成してもよいし、これらの酸化性ガスが所定の分圧で含まれる露点を有する大気を導入することによって形成してもよい。また、処理室内には、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを共存させてもよい。
熱処理温度は、磁石の酸素含有量が0.3質量%以上の場合には200℃〜400℃(但し400℃を除く)を採用するが、250℃〜380℃が望ましく、300℃〜370℃がより望ましい。200℃未満の温度で処理を行うと希土類系焼結磁石の表面に対して所望する改質が行い難くなる恐れがある一方、400℃以上の温度で処理を行うと磁石の磁気特性に悪影響を及ぼす恐れや磁石表面の改質が過剰に行われてしまうことで形成された改質層が脱落したりする恐れがある。また、磁石の酸素含有量が0.3質量%未満の場合には400℃〜600℃を採用するが、405℃〜550℃が望ましく、410℃〜480℃がより望ましい。驚くべきことに、酸素含有量が0.3質量%未満の磁石に対し、酸素含有量が0.3質量%以上の磁石に対して採用する例えば300℃〜400℃(但し400℃を除く)で熱処理を行うと、磁石の磁気特性に悪影響を及ぼす一方、420℃〜480℃で熱処理を行うと、磁石の磁気特性は向上する傾向にある。しかしながら600℃を超える温度で処理を行うと磁石の磁気特性に悪影響を及ぼす恐れや磁石表面の改質が過剰に行われてしまうことで形成された改質層が脱落したりする恐れがある。なお、処理時間は1分〜3時間が望ましい。
常温(例えば10℃〜30℃)から熱処理温度までの昇温は、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下で行うことが望ましい。昇温工程を雰囲気制御せずに例えば大気中で行うと、昇温時に大気中に含まれる水分による酸化反応が磁石の表面で起こることで、水素の大量発生に伴う磁石の磁気特性の低下を招く恐れがある。また、大気中に含まれる水分の量は季節によって変動するので、年間を通して安定した品質の表面改質を磁石に対して行えない恐れがある。これに対し、上記の雰囲気は、適度の酸素と水蒸気を含んでいるので、昇温工程自体が磁石の表面改質に好ましい影響を与え、磁石に対する優れた耐食性の付与と磁気特性の低下の抑制に寄与する。常温から熱処理温度までの昇温速度は100℃/時間〜1800℃/時間が望ましく、昇温時間は20分〜2時間が望ましい。磁石を熱処理温度まで昇温させた後は、すぐさま熱処理工程に移ってもよいし、昇温工程の雰囲気中で磁石をしばらく保持してから(例えば1分〜60分)熱処理工程に移ってもよい。
熱処理を行った後の降温も、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下で行うことが望ましい。このような雰囲気中で降温することにより、工程中に磁石の表面が結露して腐食の原因となることを防ぐことができる。
昇温工程、熱処理工程、降温工程は、磁石が収容された処理室内の環境を順次変化させることで行ってもよいし、処理室内をそれぞれの環境に制御した領域に分割し、各領域に磁石を順次移動させることで行ってもよい。
図1(a)は、昇温工程、熱処理工程、降温工程を、内部がそれぞれの環境に制御された領域に分割され、各領域に磁石を順次移動させることで行うことができる連続処理炉の一例の概略図(側面図)である。図1(a)に示す連続処理炉においては、ベルトコンベアなどの移動手段によって磁石を図の左から右に移動させながら各処理を施す。矢印は図略の給気手段と排気手段によって形成される各領域における雰囲気ガスの流れである。昇温領域の入口および降温領域の出口は、例えばエアカーテンで区画され、昇温領域と熱処理領域の境界および熱処理領域と降温領域の境界は、例えば矢印の雰囲気ガスの流れにより区画される(これらの区画は機械的にシャッターで行われてもよい)。図1(b)は、図1(a)に示す連続処理炉の内部を移動する磁石の温度変化を示す図である。このような連続処理炉を用いれば、大量の磁石に対して安定した品質の表面改質を連続的に行うことができる。
以上の工程によって希土類系焼結磁石の表面に形成される改質層は、磁石の内側から順に、R、Fe、Bおよび酸素を含む主層、少なくともR、Feおよび酸素を含む非晶質層、ヘマタイト(α−Fe)を主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有する。表面改質層中の主層は、その組成を表面改質されていない磁石(素材)の組成と比較すると、Feの含量が減少し、酸素の含量が増加しており、酸素の含量は例えば2.5質量%〜15質量%である。表面改質層中の主層は、横方向に伸びる長さが0.5μm〜30μmで厚みが50nm〜400nmのR濃化層を有する場合がある。このR濃化層は、磁石に存在した加工歪部分にRが析出して形成されたものと推察され、脱粒などによる磁石の強度の低下を補強し、また、部品に埋め込む際の接着剤を介した部品との接着強度の向上に寄与すると考えられる。表面改質層中の最表層は、その構成成分として含まれる酸化鉄の90質量%以上がヘマタイトであることが望ましい。より望ましくは95質量%以上であり、さらに望ましくは98質量%以上である。酸化鉄がヘマタイトを高比率で含有し、マグネタイト(Fe)をできる限り含まないことが、磁石の表面改質を行うことによる優れた耐食性の付与に寄与する。酸素分圧と、10hPa未満の水蒸気分圧を適切に制御した酸化性雰囲気下で熱処理を行うことで、表面改質層中の最表層を、ヘマタイトを高比率で含有する酸化鉄から構成されるようにすることができる。これとは対照的に、特許文献3〜特許文献6に記載されているような水蒸気分圧が高い雰囲気下で熱処理を行うと、表面改質層中の最表層を構成する酸化鉄はマグネタイトを高比率で含有するようになる。このことが、これらの特許文献に記載の方法では、湿度の変動が激しい環境において十分な耐食性を発揮する表面改質を磁石に対して行うことができない原因であると考えられる。なお、最表層に構成成分として含まれる酸化鉄中のヘマタイトの比率は例えばラマン分析法で磁石表面から分析することにより求めることができる。表面改質層中の主層と最表層の間に位置する非晶質層は、磁石に含まれるRやFeが酸化反応によって酸化物に変換される際、安定な結晶形成がなされなかった部分であると考えられる。
なお、希土類系焼結磁石の表面に形成される表面改質層の厚みは0.5μm〜10μmが望ましい。厚みが薄すぎると十分な耐食性を発揮しない恐れがある一方、厚みが厚すぎると磁石の磁気特性に悪影響を及ぼす恐れがある。表面改質層中の主層の厚みは0.4μm〜9.9μmが望ましく、1μm〜7μmがより望ましい。非晶質層の厚みは100nm以下であることが望ましく、70nm以下がより望ましい(下限値は例えば10nmが望ましい)。最表層の厚みは10nm〜300nmであることが望ましく、50nm〜200nmがより望ましい。
また、酸化熱処理を行う前に磁石表面に対して平面研削加工を行ってもよい。かかる工程を付加することにより、磁石の表面組成が均一化され、これにより磁石の表面全体に均一な酸化熱処理を行うことが可能となり、最表層をヘマタイトによる表面被覆率が高い均一なものとすることができる。ヘマタイトによる表面被覆率は90%以上が望ましく95%以上がより望ましい。平面研削加工は、自体公知の平面研削盤や両頭研削盤を用いて行うことができる。使用する砥石は番手が♯60〜♯400の粒度を有するものが望ましい。番手が♯60未満であると(粒度が粗すぎると)、磁石表面が必要以上に研削されてしまうことによって磁石の寸法精度に無視できない悪影響を及ぼす恐れがある一方、番手が♯400を超えると(粒度が細かすぎると)、磁石の表面組成の均一化が不十分になる恐れがある。なお、砥石の回転数は600rpm〜2000rpmが望ましく、研削盤への磁石の送り込み速度は0.1m/分〜5m/分が望ましい。平面研削加工は、磁石の寸法調整のための研削を別の方法で行った後に行ってもよいが、磁石の寸法調整のための研削を平面研削加工によって行うことで、磁石の寸法調整と磁石の表面組成の均一化を同時に達成することができる。
本発明が適用される希土類系焼結磁石としては、その組成に対応する合金から、例えば、下記の製造方法によって製造したR−Fe−B焼結磁石が挙げられる。なお、磁石の酸素含有量は、磁石の製造工程中の環境における酸素含有量に左右されるものである。磁石の製造は、基本的に酸素を遮断した状態で行われるが、酸素の遮断をより厳密に行うことで、磁石の酸素含有量をより少なくすることができる。
上記の合金は、原料合金の溶湯を例えばストリップキャスト法によって急冷して好適に作製され得る。以下、ストリップキャスト法による急冷凝固合金の作製を説明する。
まず、上記組成を有する原料合金をアルゴン雰囲気中において高周波溶解によって溶解し、原料合金の溶湯を形成する。次に、この溶湯を1350℃程度に保持した後、単ロール法によって急冷し、例えば厚さ約0.3mmのフレーク状合金鋳塊を得る。こうして作製した合金鋳片を、次の水素粉砕処理前に例えば1〜10mmのフレーク状に粉砕する。なお、ストリップキャスト法による原料合金の製造方法は、例えば、米国特許第5、383、978号明細書に開示されている。
[粗粉砕工程]
上記のフレーク状に粗く粉砕された合金鋳片を水素炉の内部へ収容する。次に、水素炉の内部で水素脆化処理(以下、「水素粉砕処理」や単に「水素処理」と称する場合がある)工程を行う。水素粉砕処理後の粗粉砕粉合金粉末を水素炉から取り出す際、粗粉砕粉が大気と接触しないように、不活性雰囲気下で取り出し動作を実行することが好ましい。そうすれば、粗粉砕粉が酸化・発熱することが防止され、磁石の磁気特性の低下が抑制できるからである。
水素粉砕処理によって、希土類合金は、その平均粒径が500μm以下の大きさにまで粉砕される。水素粉砕処理後、脆化した原料合金をより細かく解砕するとともに冷却することが好ましい。比較的高い温度状態のまま原料を取り出す場合は、冷却処理の時間を相対的に長くすればよい。
[微粉砕工程]
次に、粗粉砕粉に対してジェットミル粉砕装置を用いて微粉砕を実行する。本実施形態で使用するジェットミル粉砕装置にはサイクロン分級機が接続されている。ジェットミル粉砕装置は、粗粉砕工程で粗く粉砕された希土類合金(粗粉砕粉)の供給を受け、粉砕機内で粉砕する。粉砕機内で粉砕された粉末はサイクロン分級機を経て回収タンクに集められる。こうして、0.1〜20μm程度(典型的には平均粒径3〜5μm)の微粉末を得ることができる。このような微粉砕に用いる粉砕装置は、ジェットミルに限定されず、アトライタやボールミルであってもよい。粉砕に際して、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を粉砕助剤として用いてもよい。
[プレス成形]
本実施形態では、上記方法で作製された磁性粉末に対し、例えばロッキングミキサー内で潤滑剤を例えば0.3wt%添加・混合し、潤滑剤で合金粉末粒子の表面を被覆する。次に、上述の方法で作製した磁性粉末を公知のプレス装置を用いて配向磁界中で成形する。印加する磁界の強度は、例えば1.5〜1.7テスラ(T)である。また、成形圧力は、成形体のグリーン密度が例えば4〜4.5g/cm程度になるように設定される。
[焼結工程]
上記の粉末成形体に対して、650〜1000℃の範囲内の温度で10〜240分間保持する工程と、その後、上記の保持温度よりも高い温度(例えば、1000〜1200℃)で焼結を更に進める工程とを順次行うことが好ましい。焼結時、特に液相が生成されるとき(温度が650〜1000℃の範囲内にあるとき)、粒界相中のRリッチ相が融け始め、液相が形成される。その後、焼結が進行し、焼結磁石体が形成される。焼結工程の後、時効処理(400℃〜700℃)や寸法調整のための研削を行ってもよい。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。
(実施例1)磁石の酸素含有量が0.3質量%未満の希土類系焼結磁石(その1)
Nd:17.4、Pr:5.4、Dy:7.6、B:1.00、Co:0.9、Al:0.2、Ga:0.05、Cu:0.1、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有する厚さ0.2〜0.3mmの合金薄片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金薄片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金薄片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金薄片を脆化し、大きさ約0.15〜0.2mmの不定形粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した粗粉砕粉末に対し粉砕助剤として0.04wt%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、平均粉末粒径が約3μmの微粉末を作製した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1050℃で4時間の焼結工程を行い、焼結体ブロックを得た。この焼結体ブロックの酸素含有量を酸素・窒素分析装置(EMGA−620W:HORIBA社製)で測定したところ、0.24質量%であった(熱処理を行うまでこの酸素含有量を維持)。
得られた焼結体ブロックの表面に対し、平面研削盤(大昌精機社製)を用いて平面研削加工を行い(砥石の番手:♯100、砥石の回転数:1500rpm、研削盤への磁石の送り込み速度:0.6m/分)、厚さ6mm×縦7mm×横7mmに寸法調整した焼結磁石(以下、「磁石体試験片」と称する)を得た。
磁石体試験片をアルコール洗浄した後、真空中にて500℃で2.5時間の時効処理を行った。この磁石体試験片の磁気特性を磁気測定装置(TPM−2−10:東英工業社製、以下同じ)を用いて測定した結果、固有保磁力は2353kA/mであった。
次に、時効処理を行った磁石体試験片に対し、露点0℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧600Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=33.3)の雰囲気下、410℃で2時間の熱処理を行うことで、表面改質された磁石体試験片を得た。なお、磁石体試験片の室温から熱処理温度までの昇温は、露点−40℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧12.9Pa)の雰囲気下、約900℃/時間の昇温速度で行った(昇温時間は25分)。また、熱処理後の降温も、同様の雰囲気下で行った。この磁石体試験片を樹脂埋め研磨後、イオンビーム断面加工装置(SM09010:日本電子社製)を用いて試料作製し、電界放出型走査電子顕微鏡(S−4300:日立ハイテクノロジー社製)を用いて断面観察を行った結果を図2に示す。図2から明らかなように、この観察ポイントでは、磁石体試験片の表面に形成された改質層の厚みは約4.7μmであること、この改質層は複数の層からなり、少なくとも主層と、厚みが約140nmの最表層が存在することがわかった。さらに、改質層中には、厚みが約100nmで長さが約5μmのRからなる層状構造(Rの組成が85質量%以上のR濃化層)が水平方向(磁石体の表面と略平行方向)に形成されていることが確認できた。改質層中の主層の組成と素材(磁石体試験片)の組成をエネルギー分散型X線分析装置(Genesis2000:EDAX社製)を用いて分析した結果を表1に示す。表1から明らかなように、改質層中の主層は素材に比較してFeの含量が少ない反面、酸素の含量が非常に多いことがわかった。さらに、表面改質された磁石体試験片の表面付近の断面観察を、透過型電子顕微鏡(HF2100:日立ハイテクノロジー社製)を用いて行った結果、選択した観察ポイントでは、主層と厚みが約160nmの最表層の間には、厚みが約60nmの層が存在することがわかった。また、この層は非晶質であることがわかった(電子線回折分析による)。改質層中の非晶質層と最表層の組成を、エネルギー分散型X線分析装置(EDX:NORAN社製)を用いて分析した結果、改質層中の最表層はRがほとんど存在しない酸化鉄から構成されること、非晶質層はRとFeの複合酸化物から構成されることがわかった。また、表面改質された磁石体試験片の改質層中の最表層を、表面からX線回折装置(RINT2400:Rigaku社製)を用いて分析した結果を図3に示す。図3から明らかなように、改質層中の最表層はヘマタイトを主体とする層であることがわかった(図中の◆:ヘマタイトのピーク)。このヘマタイトを主体とする最表層は、熱処理によって素材の主相(RFe14B)の一部が分解されたことでFeが主相から流出するとともに酸化して形成されたものであると推測された。さらに、表面改質された磁石体試験片の改質層中の最表層を、表面からラマン分光分析装置(Holo Lab 5000R:KAISER OPTICAL SYSTEM社製)を用いて分析した結果、最表層に構成成分として含まれる酸化鉄のすべて(100質量%)がヘマタイトであること、ヘマタイトによる表面被覆率は95.7%であることがわかった。また、この表面改質された磁石体試験片の磁気特性を磁気測定装置を用いて測定した結果、固有保磁力は2354kA/mであり、酸化熱処理による磁気特性の劣化は認められなかった。
(実施例2)磁石の酸素含有量が0.3質量%未満の希土類系焼結磁石(その2)
実施例1と同じ方法で得た焼結体ブロック(酸素含有量は0.24質量%:測定方法は実施例1と同じ、熱処理を行うまでこの酸素含有量を維持)に対し、実施例1と同じ条件で時効処理を行った後、実施例1と同じ条件で平面研削加工を行い、厚さ6mm×縦7mm×横7mmに寸法調整した焼結磁石(以下、「磁石体試験片」と称する)を得た。この磁石体試験片の磁気特性を、アルコール洗浄した後、磁気測定装置を用いて測定した結果、固有保磁力は2309kA/mであった。この磁石体試験片をアルコール洗浄した後、熱処理温度を420℃とし、熱処理時間を30分とすること以外は実施例1と同じ条件で熱処理を行うことで、表面改質された磁石体試験片を得た。この磁石体試験片について実施例1と同様の評価を行ったところ、磁石体試験片の表面に形成された改質層は、厚みが約1.9μmであり、その構成は実施例1で得た表面改質された磁石体試験片における改質層と同様であることがわかった(最表層の厚み:約40nm)。この表面改質された磁石体試験片の磁気特性を磁気測定装置を用いて測定した結果、固有保持力は2311kA/mであり、酸化熱処理による磁気特性の劣化は認められなかった。
(実施例3)磁石の酸素含有量が0.3質量%未満の希土類系焼結磁石(その3)
Nd:16.4、Pr:4.7、Dy:9.4、B:1.00、Co:2.0、Al:0.15、Ga:0.07、Cu:0.1、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有する厚さ0.2〜0.3mmの合金薄片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金薄片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金薄片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金薄片を脆化し、大きさ約0.15〜0.2mmの不定形粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した粗粉砕粉末に対し粉砕助剤として0.04wt%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、平均粉末粒径が約3μmの微粉末を作製し、酸化防止のために鉱物油中に回収した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により200℃で2時間の脱脂工程と1050℃で4時間の焼結工程を行い、焼結体ブロックを得た。この焼結体ブロックの酸素含有量を実施例1と同じ方法で測定したところ、0.13質量%であった(熱処理を行うまでこの酸素含有量を維持)。
得られた焼結体ブロックに対し、真空中にて480℃で8時間の時効処理を行った後、実施例1と同じ条件で平面研削加工を行い、厚さ6mm×縦7mm×横7mmに寸法調整した焼結磁石(以下、「磁石体試験片」と称する)を得た。この磁石体試験片の磁気特性を、アルコール洗浄した後、磁気測定装置を用いて測定した結果、固有保磁力は2403kA/mであった。
次に、この磁石体試験片をアルコール洗浄した後、熱処理温度を420℃とし、熱処理時間を30分とすること以外は実施例1と同じ条件で熱処理を行うことで、表面改質された磁石体試験片を得た。この磁石体試験片について実施例1と同様の評価を行ったところ、磁石体試験片の表面に形成された改質層は、厚みが約2.1μmであり、その構成は実施例1で得た表面改質された磁石体試験片における改質層と同様であることがわかった(最表層の厚み:約65nm)。この表面改質された磁石体試験片の磁気特性を磁気測定装置を用いて測定した結果、固有保磁力は2411kA/mであり、酸化熱処理による磁気特性の劣化は認められなかった。
(比較例1)磁石の酸素含有量が0.3質量%未満の希土類系焼結磁石
実施例1と同じ方法で得た焼結体ブロック(酸素含有量は0.24質量%:測定方法は実施例1と同じ、熱処理を行うまでこの酸素含有量を維持)に対し、実施例1と同じ条件で平面研削加工を行い、厚さ6mm×縦7mm×横7mmに寸法調整した焼結磁石(以下、「磁石体試験片」と称する)を得た。この磁石体試験片をアルコール洗浄した後、実施例1と同じ条件で時効処理を行った。この磁石体試験片の磁気特性を磁気測定装置を用いて測定した結果、固有保磁力は2353kA/mであった。次に、時効処理を行った磁石体試験片に対し、熱処理温度を360℃とすること以外は実施例1と同じ条件で熱処理を行うことで、表面改質された磁石体試験片を得た。この磁石体試験片について実施例1と同様の評価を行ったところ、磁石体試験片の表面に形成された改質層は、厚みが約2.2μmであり、その構成は実施例1で得た表面改質された磁石体試験片における改質層と同様であることがわかった(最表層の厚み:約70nm)。しかしながら、この表面改質された磁石体試験片の磁気特性を磁気測定装置を用いて測定した結果、固有保磁力は2235kA/mであり、酸化熱処理による磁気特性の大幅な劣化が認められた。
乾燥・湿潤サイクル試験による評価:
JIS H8502−1999に基づく中性塩水噴霧サイクル試験方法を参考にし、塩水噴霧を除いた乾燥と湿潤だけのサイクル試験(サイクル数:3)を、実施例1〜実施例3、比較例1でそれぞれ得た表面改質された磁石体試験片に対して行い、試験後のレイティングナンバ評価(JIS H8502−1999に基づく腐食欠陥評価)を実施した。結果を表2に示す。また、表2には、実施例1と同じ方法で得た時効処理を行った磁石体試験片(熱処理前のもの)の評価結果をあわせて示す(参考例)。
表2から明らかなように、実施例1〜実施例3の本発明の方法によって表面改質を行った磁石体試験片は、上述した通り、優れた磁気特性を有するとともに、乾燥・湿潤サイクル試験後も十分な耐食性を有していた。一方、比較例1の方法によって表面改質を行った磁石体試験片は、乾燥・湿潤サイクル試験後も十分な耐食性を有していたが、上述した通り、酸化熱処理による磁気特性の大幅な劣化が認められた。以上の結果には、酸化熱処理を行う前に磁石表面に対して平面研削加工を行ったことで、磁石の表面組成が均一化され、これにより磁石の表面全体に均一な酸化熱処理を行うことが可能となり、優れた耐食性を発揮する、少なくとも酸素の含量が素材よりも多い主層と、RとFeの複合酸化物から構成される非晶質層と、安定なヘマタイトを主体とする酸化鉄を構成成分とする最表層を有する構成からなる改質層が、磁石の表面全体にわたって形成されたことが寄与していると考えられた。また、改質層中に確認されたRからなる層状構造は、熱処理によって素材の主相の一部が分解されたことで主相から流出したRや、熱処理によって液相化した粒界成分が、素材と改質層の熱膨張率の違いにより改質層中に僅かに発生したクラック部分に供給されて形成されたものであると推測されたが、このRからなる層状構造も、改質層の耐食性に寄与していることが考えられた。
(実施例4)磁石の酸素含有量が0.3質量%以上の希土類系焼結磁石
Nd:18.6、Pr:5.5、Dy:7.1、B:1.00、Co:0.9、Al:0.2、Cu:0.1、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有する厚さ0.2〜0.3mmの合金薄片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金薄片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金薄片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金薄片を脆化し、大きさ約0.15〜0.2mmの不定形粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した粗粉砕粉末に対し粉砕助剤として0.04wt%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、平均粉末粒径が約3μmの微粉末を作製した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1050℃で4時間の焼結工程を行い、焼結体ブロックを得た。この焼結体ブロックの酸素含有量を実施例1と同じ方法で測定したところ、0.43質量%であった(熱処理を行うまでこの酸素含有量を維持)。
得られた焼結体ブロックの表面に対し、実施例1と同じ条件で平面研削加工を行い、厚さ6mm×縦7mm×横7mmに寸法調整した焼結磁石(以下、「磁石体試験片」と称する)を得た。この磁石体試験片をアルコール洗浄した後、実施例1と同じ条件で時効処理を行った。この磁石体試験片の磁気特性を実施例1と同様にして測定した結果、固有保磁力は2136kA/mであった。次に、時効処理を行った磁石体試験片に対し、熱処理温度を360℃とすること以外は実施例1と同じ条件で熱処理を行うことで、表面改質された磁石体試験片を得た。この磁石体試験片について実施例1と同様の評価を行ったところ、磁石体試験片の表面に形成された改質層は、厚みが約2.0μmであり、その構成は実施例1で得た表面改質された磁石体試験片における改質層と同様であることがわかった(最表層の厚み:約90nm)。この表面改質された磁石体試験片の磁気特性を実施例1と同様にして測定した結果、固有保磁力は2130kA/mであり、酸化熱処理による磁気特性の劣化はほとんど認められなかった。
(参考例1)磁石の酸素含有量と熱処理が及ぼす磁気特性への影響との関係の検討
実施例1と同じ方法で得た時効処理を行った磁石体試験片(以下、「磁石体試験片1」と称する)と、実施例4と同じ方法で得た時効処理を行った磁石体試験片(以下、「磁石体試験片2」と称する)のそれぞれについて、240℃〜460℃の範囲の任意の温度において真空中で2時間の熱処理を行った後の磁気特性を磁気測定装置(TPM−2−10:東英工業社製)を用いて測定し、熱処理を行う前の磁気特性と比較することで、熱処理が及ぼす磁気特性への影響を調べた。結果を図4に示す。なお、図4の縦軸は固有保持力の劣化率であり、下記の数式で求めたものである。
固有保磁力劣化率(%)=((A−B)/A)×100
A:熱処理前の固有保磁力,B:熱処理後の固有保磁力
図4から明らかなように、磁石体試験片1と磁石体試験片2とでは、熱処理が及ぼす磁気特性への影響が温度によって全く異なり、磁石体試験片1の磁気特性に悪影響を与えない温度範囲(400℃以上)での熱処理によって磁石体試験片2の磁気特性は劣化するのに対し、磁石体試験片2の磁気特性に悪影響を与えない温度範囲(400℃未満)での熱処理によって磁石体試験片1の磁気特性は劣化することがわかった。この知見を元にさらに詳細な検討を行った結果、磁石の酸素含有量が0.3質量%未満の場合において磁石体試験片1と同様の熱処理温度に依存した磁気特性の変化を示すことが判明したことから、磁石の酸素含有量が0.3質量%未満であるか0.3質量%以上であるかを指標に、熱処理の温度を400℃以上にするか400℃未満にするかを決定することで、磁気特性に悪影響を与えることなく熱処理が行えることがわかった。
本発明は、湿度が変動する環境においても十分な耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、酸化熱処理による磁気特性の低下が抑制された希土類系焼結磁石の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。


Claims (9)

  1. 表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法であって、希土類系焼結磁石が、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、その50質量%以下がCoおよび/またはNiによって置換されていてもよいFe、および不可避不純物からなる組成を有するものであり、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が0.1Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、磁石の酸素含有量が0.01質量%〜0.3質量%(但し0.3質量%を除く)の場合には400℃〜600℃で、磁石の酸素含有量が0.3質量%〜0.6質量%の場合には200℃〜400℃(但し400℃を除く)で熱処理を行う工程を含んでなることを特徴とする表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法。
  2. 酸素分圧と水蒸気分圧の比率(酸素分圧/水蒸気分圧)を1〜400とすることを特徴とする請求項1記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法。
  3. 常温から熱処理を行う温度までの昇温を、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1または2記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法。
  4. 磁石表面に対して平面研削加工を行ってから熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法。
  5. 番手が♯60〜♯400の粒度を有する砥石を用いて平面研削加工を行うことを特徴とする請求項4記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法。
  6. 請求項1記載の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法にて製造されてなることを特徴とする表面改質された希土類系焼結磁石。
  7. 表面改質された部分が、磁石の内側から順に、R、Fe、Bおよび酸素を含む主層、少なくともR、Feおよび酸素を含む非晶質層、ヘマタイトを主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有する表面改質層からなることを特徴とする請求項6記載の表面改質された希土類系焼結磁石。
  8. 表面改質された希土類系焼結磁石であって、希土類系焼結磁石が、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、その50質量%以下がCoおよび/またはNiによって置換されていてもよいFe、および不可避不純物からなる組成を有するもので、磁石の酸素含有量が0.01質量%〜0.3質量%(但し0.3質量%を除く)であり、表面改質された部分が、磁石の内側から順に、R、Fe、Bおよび酸素を含む主層、少なくともR、Feおよび酸素を含む非晶質層、ヘマタイトを主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有する表面改質層からなることを特徴とする表面改質された希土類系焼結磁石。
  9. 表面改質された希土類系焼結磁石であって、希土類系焼結磁石が、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、その50質量%以下がCoおよび/またはNiによって置換されていてもよいFe、および不可避不純物からなる組成を有するもので、磁石の酸素含有量が0.3質量%〜0.6質量%であり、表面改質された部分が、磁石の内側から順に、R、Fe、Bおよび酸素を含む主層、少なくともR、Feおよび酸素を含む非晶質層、ヘマタイトを主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有する表面改質層からなることを特徴とする表面改質された希土類系焼結磁石。


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