JP2010196912A - 沸騰冷却装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】液体冷媒の凍結を防止でき、且つ、バーンアウトの発生を抑制することができる沸騰冷却装置を提供する。
【解決手段】本発明の沸騰冷却装置1は、発熱体Zの熱を受ける液体冷媒を内部に収容する収容部2を備え、液体冷媒は、沸点の異なる少なくとも2種類の液体からなる混合液であり、収容部2は、発熱体Zの熱を液体冷媒に伝える伝熱壁部21aと、液体冷媒を介して伝熱壁部21aに対向する対向壁部23aと、を有し、伝熱壁部21aと対向壁部23aとの離間距離は、3mm以下であることを特徴とする。
【選択図】図4
【解決手段】本発明の沸騰冷却装置1は、発熱体Zの熱を受ける液体冷媒を内部に収容する収容部2を備え、液体冷媒は、沸点の異なる少なくとも2種類の液体からなる混合液であり、収容部2は、発熱体Zの熱を液体冷媒に伝える伝熱壁部21aと、液体冷媒を介して伝熱壁部21aに対向する対向壁部23aと、を有し、伝熱壁部21aと対向壁部23aとの離間距離は、3mm以下であることを特徴とする。
【選択図】図4
Description
本発明は、冷媒を用いた沸騰冷却装置に関するものである。
沸騰冷却装置は、冷媒の液体から気体への相変化を利用して発熱体を冷却する装置である。ここで、密封系の沸騰冷却装置において、発熱体から受熱する液体冷媒はアルコール類であることが多い。例えば、特開平4−257693号公報(特許文献1)では、水(100)と低級アルコール(5〜12)の混合液が記載されている。ここでの冷媒は、主に室内用機器の冷却に用いられるヒートパイプを対象とし、−10℃程度で凍結せずかつ不燃性となっている。
また、実開昭62−8571号公報(特許文献2)では、水とアルコールの混合液が記載されている。ここでは、水とアルコールの混合比率を変えることで、冷媒の凍結を防止している。
一方、沸騰冷却装置において、上記のような液体冷媒を収容する部位と、発熱体の熱を液体冷媒に伝える部位の空間構成により、熱伝達特性などがどうなるかなどの研究も行われている。例えば、第22回日本伝熱シンポジウム講演論文集(1985−5)A112「狭い間隙における核沸騰熱伝達」では、伝熱面とそれに対向する面との離間距離と、熱伝達特性との関係が記載されている。
第22回日本伝熱シンポジウム講演論文集(1985−5)A112「狭い間隙における核沸騰熱伝達」
沸騰冷却装置においては、高熱流束を生じさせる発熱体に対して、バーンアウト(膜沸騰)が生じる可能性がある。バーンアウトが生じた領域では、熱伝達が行われず、冷却性能は低下してしまう。そこで、従来からバーンアウトの発生を抑制することが求められている。最近では、発熱体である電子機器等が小型化、高集積化され、熱流束(発熱密度)が高くなり(例えば1MW/m2程度)、バーンアウトが生じやすくなっている。
また、液体冷媒として、水を用いた場合、液体冷媒がもつ限界熱流束は大きくなり、バーンアウトが生じにくくなる。しかし、水は融点が高く、容易に凍結してしまうため、車両への搭載には不向きとなってしまう。一方、液体冷媒として、アルコールを用いた場合、融点が低く、凍結しにくくなる。しかし、アルコールは、水に比べて限界熱流束が小さく、バーンアウトの抑制の面で問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、液体冷媒の凍結の抑制が可能であり、バーンアウトの発生を抑制することができる沸騰冷却装置を提供することを目的とする。
本発明の沸騰冷却装置は、発熱体の熱を受ける液体冷媒を内部に収容する収容部を備え、液体冷媒は、沸点の違う少なくとも2種類の液体からなる混合液であり、収容部は、発熱体の熱を液体冷媒に伝える伝熱壁部と、液体冷媒を介して伝熱壁部に対向する対向壁部と、を有し、伝熱壁部と対向壁部との離間距離は、3mm以下であることを特徴とする。
液体冷媒として、混合液を用いることにより、求められる仕様に合わせて融点を調整でき、液体冷媒の凍結防止が可能となる。そして、伝熱壁部と対向壁部との離間距離を3mm以下とすることで、熱伝達が良好になり、バーンアウトの発生は抑制される。
ここで、伝熱壁部と対向壁部との離間距離は、2mm以下であることが好ましい。これにより、さらに熱伝達が良好になり、バーンアウトの発生は抑制される。さらに、伝熱壁部と対向壁部との離間距離は、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。これにより、より熱伝達が良好になり、バーンアウトの発生は抑制される。
ここで、液体冷媒は、水とエタノールの混合液であることが好ましい。エタノールは、他のアルコール類に比べて融点が低く、水との混合液において融点を下げやすい。つまり、混合液が目標融点温度に達するために必要なエタノール量は、他のアルコールを混ぜるよりも少なくてよい。従って、他のアルコールに比べ、混合液における水の割合を大きくすることができ、混合液の限界熱流束を大きくできる。
また、エタノールは、他のアルコール類と比較して、蒸発熱(潜熱)が大きい。従って、エタノールを用いることでより限界熱流束が大きくなる。さらに、エタノールは、比較的沸点が低く、熱循環効率がよくなり、沸騰冷却の冷媒として有効である。また、エタノールは、沸点が低すぎないため、一般に凝縮部で凝縮に用いられる冷媒(例えば冷却水)の温度(例えば65℃程度)よりも沸点が大きく、より沸騰冷却に適している。特に、当該狭い間隙に、気泡上昇速度の大きい上記混合液を用いることで、熱伝達性能は大きく向上する。以上より、水とエタノールの混合液を用いることで、凍結が防止され、且つ、バーンアウトの発生も抑制される。
さらに、上記混合液のエタノール濃度は、45質量%以上55質量%以下であることが好ましい。これにより、融点が−30℃未満となり、車両搭載に一般的に要求される仕様(例えば−30℃で凍らない)を確実にクリアすることができる。また、混合液に水が含まれている分、アルコール単成分よりも、液体冷媒の限界熱流束は大きくなる。これにより、バーンアウトの発生は抑制される。
なお、本発明の沸騰冷却装置は、収容部に連なり、発熱体の熱によって沸騰した液体冷媒を凝縮させる凝縮部をさらに備え、密封系の沸騰冷却装置であってもよい。
本発明の沸騰冷却装置によれば、バーンアウトの発生が抑制される。
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
本実施形態の沸騰冷却装置について図1〜図9を参照して説明する。図1は、沸騰冷却装置1を示す斜視図である。図2は、図1のA−A断面図である。図3は、各アルコールの特性を示す図である。図4は、エタノール−水混合液のエタノール濃度と限界熱流束との関係を示す図である。図5は、離間距離と熱伝達率の関係を示す図である。図6は、戻り離間距離と熱伝達率の関係を示す図である。図7は、エタノール−水混合液のエタノール濃度と熱伝達率との関係を示す図である。図8は、膜沸騰の説明のための模式図である。図9は、エタノール−水混合液のエタノール濃度と素子温度の関係を示す図である。なお、図4は、「Matorir,A.S.,Heat transfer Soviet Research,5−1(1973),85〜89」から引用している。
沸騰冷却装置1は、図1および図2に示すように、仕切板23で内部空間が仕切られた容器Yからなっており、収容部2と、凝縮部3を備えている。
収容部2は、断面が直方体形状の金属製の容器であり、内部に液体冷媒が貯留されている。収容部2は受熱通路21と、供給通路22と、仕切板23とを備えている。受熱通路21は、収容部2の発熱体Zが取り付けられる伝熱壁部21aを含む側壁面と、当該側壁面に対向する仕切板23と、容器Yの前側と後側(図2における紙面の奥側と手前側)の側壁面を含む4面で囲まれた部位である。仕切板23は、受熱通路21の側面および供給通路22の側面を形成し、収容部2の内部空間を受熱通路21と供給通路22とに仕切っている。発熱体Zは、例えば半導体素子等である。
受熱通路21は、略直方体形状であって、上方が開口して凝縮部3に連なり、下方が開口して供給通路22に連なっている。伝熱壁部21aと仕切板23とは平行であり、仕切板23のうち伝熱壁部21aに対向する部分を対向壁部23aとする。本実施形態において、伝熱壁部21aと対向壁部23aとの離間距離は、およそ1mmとなっている。
受熱通路21は、液体冷媒により満たされている。受熱通路21の伝熱壁部21aは、発熱体Zの熱を液体冷媒に伝える部位である。受熱通路21内の液体冷媒は、発熱体Zの熱を受けて沸騰し、気泡となった液体冷媒が液体冷媒内を上昇する。供給通路22については、後述する。
凝縮部3は、収容部2の上方に位置し、下方が開口して受熱通路21および供給通路22に連なっている。凝縮部3には、凝縮パイプ31が設けられている。凝縮パイプ31には、冷却水が流れている。凝縮部3は、受熱通路21から上昇してくる蒸気を冷却し、凝縮させる。
供給通路22は、受熱通路21と並列し、収容部2内が仕切板5で受熱通路21と仕切られたもう一方側の部位である。供給通路22は、上方が開口して凝縮部3に連なり、下方が開口して受熱通路21に連なっている。凝縮部3で凝縮された液体冷媒は、液滴となって液体冷媒の液面に滴下する。供給通路22は、凝縮部3から滴下する液体冷媒を受け、圧力差により下方から受熱通路21に液体冷媒を供給する。なお、沸騰冷却装置1は、完全に密封状態となっている。液体冷媒は、真空状態の容器(沸騰冷却装置1)に封入される。
ここで、収容部2に収容される液体冷媒について説明する。液体冷媒は、水とエタノールの混合液である。本実施形態において、この混合液のエタノール濃度は、およそ50質量%(wt%)である。エタノールは、沸点は比較的低く78.6℃である。エタノールは、沸騰温度が低く沸騰冷却装置の冷媒として有効である。また、本実施形態では、凝縮パイプ31におよそ65℃の冷却水を流している。このため、沸点は65℃より適度に高いほうがよい。この点においても、混合液にエタノールを用いることは有効である。
さらに、エタノールは、蒸発熱(潜熱)が855[kJ/kg]であり、他のアルコール類と比べて蒸発熱が大きい。このため、エタノールは、限界熱流束が大きい。つまり、他のアルコール類を用いるより、水とエタノールの混合液は限界熱流束(MW/m2)を大きくすることができる。熱流速が限界熱流束を超えるとバーンアウトを起こすため、限界熱流束の大きいほうが有利である。なお、水の蒸発熱は、エタノールよりも大きい。
さらに、エタノールは、図3に示すように、他のアルコール類に比べて、融点が低い(−114.1℃)。このため、他のアルコール類よりも、混合液を目標となる融点温度(ここでは−30℃未満)にするために必要な混合量は少なくてよい。水の蒸発熱は、アルコール類よりも大きく、混合液の限界熱流束は、水成分が多いほうが大きくなる。エタノールは、比較的少量でも融点を下げることができ、結果、水成分を多くし限界熱流束を大きくできる。このように、本実施形態において、水との混合はエタノールが最適である。
例えば、水との混合にHFE−7200を用いた場合を考える。図3に示すように、HFE−7200は、エタノールよりも融点が低く混合液の融点を下げるには有効である。しかしながら、蒸発熱がエタノールに比べてかなり小さいため、混合後に適切な蒸発熱を確保することが困難である。つまり、バーンアウトの発生を抑制することが困難となる。
また、例えば、水との混合に2−プロパノールを用いた場合を考える。2−プロパノールは、蒸発熱が比較的大きく、バーンアウトの発生抑制に対しては有効である。しかしながら、2−プロパノールは、エタノールよりも融点が高いため、エタノールよりも多い量で混合しないと、水−エタノール混合液と同じ融点が得られない。結局、融点を低くするために、水に対する2−プロパノールの混合比を増やす必要があり、蒸発熱は低下してしまう。さらには、2−プロパノールの蒸発熱は、エタノールよりも小さい。以上のように、凍結防止効果とバーンアウト発生抑制効果の両方を発揮させるには、水−エタノール混合が最適である。
ここで、エタノール濃度について説明する。図4に示すように、水とエタノールの混合液においてエタノール濃度が異なると限界熱流束が異なることがわかる。図4に示すように、エタノール濃度がおよそ75質量%以下において、限界熱流束は大きくなっている。つまり、上述したように、限界熱流束が大きい方がバーンアウトを抑制するのに有利であることから、バーンアウトの抑制には、エタノール濃度がおよそ75質量%以下の混合液を用いることが好ましい。
ただし、エタノール濃度が低くなるほど、融点が高くなり、凍り易くなってしまう。特に車両に搭載される沸騰冷却装置に用いられる液体冷媒であるため、液体冷媒は、一般におよそ−30℃において凍結しないものが要求される。そこで、エタノール濃度が40質量%の混合液の凍結実験を行った。その結果、当該混合液は、−35℃雰囲気中において、凍結しないことが確認された。つまり、混合液は、エタノール濃度が40質量%以上であれば、融点がそれ以下となり、−30℃でも凍結することはない。車両搭載への要求仕様はクリアできる。また、上記のとおり、混合液には、限界熱流束が大きい水成分が含まれるため、限界熱流束はエタノール単成分よりも大きくなる。
このように、車両の沸騰冷却装置に用いられる液体冷媒は、エタノール濃度が40質量%以上75質量%以下である混合液(水+エタノール)が好ましい。これによれば、凍結が防がれ、且つ、バーンアウトが抑制される。
また、さらに確実に凍結を防ぐために、エタノール濃度は45質量%以上であることが好ましい。例えば、エタノール濃度が50質量%程度であると、融点が−40℃より小さくなり、寒冷地の要求仕様(−40℃で凍らない)もクリアできる。つまり、エタノール濃度が45〜75質量%の混合液を用いることで、凍結をより確実に防止でき、かつ、限界熱流束を大きくしてバーンアウトを抑制することができる。
ここで、本実施形態では、伝熱壁部21aと対向壁部23aとの離間距離がおよそ1mmとなっている。非特許文献1には、上記離間距離(伝熱壁部21aと対向壁部23aとの間隙)を小さくするとプール沸騰に比べて熱伝達は促進されることが記載されている。なお、プールとは、離間距離が10mm以上の十分な距離がある場合である。例えば、離間距離が2mm、1mm、0.6mmの場合、低熱流束域で熱伝達が著しく促進されている。熱伝達率が大きいほど、冷却性能は良好なものとなる。
本実施形態と同構成において、上記離間距離を変更して熱伝達率の違いを実験した。この実験では、エタノール濃度60質量%の混合液を用いている。発熱体の熱流束は1〜2(MW/m2)である。図5に示すように、離間距離が2mm以下で熱伝達率が上昇している。ただし、水とエタノールの混合液の限界気泡径がおよそ1.5mmであり、最大でその倍にあたる3mmまでは良好な熱伝達が行われると考えられる。つまり、離間距離は3mm以下であれば、熱伝達の面で有利な効果が得られる。そして、好ましくは、離間距離が2mm以下である。さらに好ましい離間距離は、1mmを中心とした0.5mm以上1.5mm以下である。
また、仕切板23と供給通路22側の壁部22aとの離間距離(以下、戻り離間距離と称する)についても同様の実験を行った。図6に示すように、戻り離間距離が1mmから2mmに向けて熱伝達率は急激に向上するが、2mm以降は熱伝達率の向上はあまりなくなる。戻り離間距離を大きくすると装置が大型化してしまうというデメリットも考慮すると、装置の大型化を抑制しつつ熱伝達率を向上させるために、戻り離間距離は2mm付近が適していることがわかる。本実施形態の戻り離間距離は、2mmとなっている。
続いて、本実施形態では、伝熱壁部21aと対向壁部23aの離間距離を1mmとして、混合液のエタノール濃度を変えて熱伝達率の実験を行った。図7に示すように、エタノール濃度が50質量%で高い熱伝達率(およそ7.8×104[W/m2・K])となることがわかる。また、60質量%および70質量%でも高い熱伝達率(60質量%:およそ6.5×104[W/m2・K]、70質量%:およそ6.3×104[W/m2・K])となることがわかる。
限界熱流束に関しては、図4に示すように、75質量%から30質量%に向けて徐々に大きくなっている。バーンアウト抑制(75質量%以下)、凍結防止(40質量%以上)、および、上記熱伝達率の観点から、エタノール濃度は、高い熱伝達率の50〜70質量%を中心としたおよそ45質量%以上75質量%以下が車両搭載に適しているといえる。さらに、好ましくは、最も高い熱伝達率の50質量%を中心とした45質量%以上55質量%以下となる。本実施形態では、離間距離が1mmであり、混合液のエタノール濃度が50質量%である。上記のとおり、これによれば、液体冷媒の凍結が防止でき、且つ、バーンアウトの発生が抑制される。
なお、バーンアウトは、特に膜沸騰は、図8(上図)に示すように、発熱体Zの中心部分(最も高温となる部分)に対応する伝熱壁部21aの内面付近で発生する。膜沸騰が発生すると、その発生した領域(膜沸騰領域)では、液体冷媒が伝熱壁部21aに接触できず、熱伝達が行われない。これによれば、冷却性能は低下してしまう。また、熱の伝わりは、膜沸騰領域を避けて周囲に拡大される。つまり、熱伝導距離が長くなってしまう。これにより、伝熱壁部21aを伝わる熱に対して熱抵抗が大きくなり、伝熱性能も低下してしまう。例えば、発熱体Zの発熱密度が1MW/m2を超えるものである場合、エタノール単成分の液体冷媒では膜沸騰を生じる虞がある。
しかしながら、上記した好ましい混合液を液体冷媒として用いることで、膜沸騰の発生を抑制することができる。膜沸騰が抑制されることで、図8(下図)に示すように、伝熱壁部21a内面に液体冷媒が接触し、且つ、伝熱の際の熱の拡大が防止される。熱伝導距離も短くなり、冷却性能および伝熱性能は向上する。
また、図9に示すように、密封系の沸騰冷却装置における発熱体Zの発熱密度とエタノール濃度との関係においては、発熱密度に関わらず、エタノール濃度が80〜100質量%で素子温度が若干高くなっているが、エタノール濃度が変わってもおおよそ素子温度の差は見られない。これは、開放系であればエタノール濃度が少なくなるにつれて沸点が高くなることから、開放系ではエタノール濃度が少なくなるにつれて伝熱性能が低下して素子温度が上昇すると予測されるが、密封系では沸点は圧力に依存し、圧力は凝縮能力に依存するため、密封系において凝縮能力が一定であることによりエタノール濃度によらず混合冷媒の沸点の差がほとんどなくなったと推測される。そのため、密封系であれば、混合冷媒においてエタノール濃度を少なくしたことによる沸点の低下、およびそれに伴う伝熱性能の低下が起こらないため、混合冷媒を使用する場合においては密封系とした方が良いことが分かる。また、エタノール濃度が80〜100質量%で素子温度が若干高くなっていることから、エタノール濃度は80質量%以下がよいことがわかる。この結果からも、エタノール濃度は40〜75質量%が有効であることがわかる。
ここで、さらに、上記離間距離と素子温度との関係について実験した。図10は、実験の簡単な構成を示す模式図である。図11は、実験における発熱体の出力と熱電対の測定温度の関係を示す図である。図11において、横軸は発熱体の出力(W)で、縦軸は温度(℃)である。
実験では、基本構成は上記実施形態と同様であるが、図10に示すように、伝熱壁部21aと発熱体(ヒータ)との間に熱電対を配置し、温度を測定した。液体冷媒は、水とエタノールの混合液である。伝熱壁部21aと対向壁部23aの離間距離をhとする。熱電対の測定温度が素子温度(発熱体温度)に相当する。実験は、エタノール濃度が50質量%の液体冷媒に対してhが1mmと無限、および、エタノール濃度が100質量%の液体冷媒に対してhが1mmと無限について行った。ここでの無限とは、h=10mm以上の十分な長さとした場合について実験した結果であって、プールを意味する。
実験結果では、図11に示すように、エタノール濃度が50質量%でh=1mmの場合が最も素子温度が低くなることが分かる。つまり、エタノール濃度50質量%の混合液を液体冷媒とし、h=1mmとした場合に、最も冷却性能が高いこととなる。例えば、同じエタノール濃度50質量%の液体冷媒を用いた場合でも、hが無限であるより、h=1mmであるほうが素子温度は常に小さくなる。
また、エタノール濃度が100質量%の場合、素子の出力が小さい時にはh=1の方がhが無限である場合より素子温度が低くなるが、素子の出力が大きい時にはh=1の方がhが無限である場合より素子温度が高くなる。すなわち、エタノール100質量%の場合には、伝熱壁部21aと対向壁部23aの離間距離hを小さくしても、その効果が無いか、もしくはあったとしても効果が小さいことが分かる。
従来の論文より、狭い間隙において流路下部で発生した蒸気が流路上部の蒸気を押しのけることで熱伝達率が向上することが分かっている。そして、水とエタノールの混合冷媒の蒸気の密度はエタノール単成分の蒸気の密度に比べ小さいため気泡上昇速度が速い。そのため、狭い間隙における伝熱性能の向上は、エタノール単成分冷媒に比べ水とエタノールの混合成分冷媒の方が大きくなると推測される。
なお、本実施形態では、最適な形態として、離間距離が1mmでエタノール濃度が50質量%としたが、これらの数値は誤差を除くものではない。数値に多少のずれがあっても、上記効果は発揮される。つまり、本実施形態における数値は多少の幅をもち、誤差等による若干のずれは、本実施形態に含まれる。例えば、エタノール濃度が50質量%について、下限が49〜48質量%で、上限が51〜52質量%の範囲内であればよい。同様に、離間距離1mmについても、0.9〜1.1mmであればよい。
ここで、本実施形態の変形態様として、沸騰冷却装置は、図12に示す構成であってもよい。図12は、沸騰冷却装置100を示すA−A断面図に相当する図である。図12に示すように、沸騰冷却装置100は、凝縮部30と、2つの仕切板51、52で内部が仕切られた収容部20とからなっている。収容部20は、第一受熱通路201と、第二受熱通路202と、供給通路203と、仕切板51、52とを備えている。
第一受熱通路201は、略直方体であり、およそ、左側の仕切板51と、発熱体Z1、Z2が取り付けられた伝熱壁部201a、201bを含む側壁面と、を含む側壁面で囲まれた部位である。第二受熱通路202は、略直方体であり、およそ、右側の仕切板52と、発熱体Z3、Z4が取り付けられた伝熱壁部202a、202bを含む側壁面と、を含む側壁面で囲まれた部位である。
受熱通路201、202は、上方が開口して凝縮部30に連なり、下方が開口して供給通路203に連なっている。受熱通路201、202は、内部に上記した液体冷媒が収容されている。伝熱壁部201a、201bを含む側壁面と仕切板51(対向壁部に相当する)との離間距離は、3mm以下(ここでは、およそ1mm)となっている。伝熱壁部202a、202bを含む側壁面と仕切板52(対向壁部に相当する)との離間距離も、3mm以下(ここでは、およそ1mm)となっている。
供給通路203は、略直方体であり、仕切板51と仕切板52に挟まれた部位であり、上方が開口して凝縮部30に連なり、下方が開口して受熱通路201、202に連なっている。仕切板51と仕切板52の離間距離(戻り離間距離)は、およそ2mmとなっている。
凝縮部30は、受熱通路201、202および供給通路203の上方に位置している。凝縮部30には、内部に冷却水が流れる凝縮パイプ301、302が設けられている。受熱通路201、202に収容された本実施形態の液体冷媒(混合液)は、それぞれ発熱体Z1〜Z4から熱を受け、沸騰する。上昇した蒸気は、凝縮部30で凝縮される。凝縮された液体冷媒は、主に供給通路203に滴下する。供給通路203は、凝縮部3から滴下する液体冷媒を受け、圧力差により下方から受熱通路201、202に液体冷媒を供給する(図12矢印参照)。これによっても、上記混合液が用いられることで、本実施形態同様の効果が発揮される。
本発明の沸騰冷却装置は、発熱体が基板と基板の上に設けられた発熱素子から構成され、収容部の側壁に穴を形成するとともにその穴を閉塞するように基板を配置して、基板が冷媒に直接接するような構造であってもよい。その場合、基板は収容部の一部とみなされ、基板が伝熱壁部に該当する。また、発熱体が収容部内に配置されて、冷媒に漬かる構造であってもよい。また、熱交換器については、冷媒が有底容器内に溜まっている熱交換器に限定されず、冷媒が溜まらずに流れているような構造の熱交換器であってもよい。以上、本発明によれば、これらの構造であっても、上記同様の効果が発揮される。
1、100:沸騰冷却装置、
2、20:収容部、
21:受熱通路、 201:第一受熱通路、 202:第二受熱通路
22、203:供給通路、
21a、201a、201b、202a、202b:伝熱壁部、 23a:対向壁部、
3、30:凝縮部、 31、301、302:凝縮パイプ、
23、51、52:仕切板
Z、Z1〜Z4:発熱体
2、20:収容部、
21:受熱通路、 201:第一受熱通路、 202:第二受熱通路
22、203:供給通路、
21a、201a、201b、202a、202b:伝熱壁部、 23a:対向壁部、
3、30:凝縮部、 31、301、302:凝縮パイプ、
23、51、52:仕切板
Z、Z1〜Z4:発熱体
Claims (5)
- 発熱体の熱を受ける液体冷媒を内部に収容する収容部を備え、
前記液体冷媒は、沸点の異なる少なくとも2種類の液体からなる混合液であり、
前記収容部は、前記発熱体の熱を前記液体冷媒に伝える伝熱壁部と、前記液体冷媒を介して前記伝熱壁部に対向する対向壁部と、を有し、
前記伝熱壁部と前記対向壁部との離間距離は、3mm以下であることを特徴とする沸騰冷却装置。 - 前記伝熱壁部と前記対向壁部との離間距離は、2mm以下である請求項1に記載の沸騰冷却装置。
- 前記伝熱壁部と前記対向壁部との離間距離は、0.5mm以上1.5mm以下である請求項2に記載の沸騰冷却装置。
- 前記液体冷媒は、水とエタノールの混合液である請求項1〜3の何れか一項に記載の沸騰冷却装置。
- 前記混合液のエタノール濃度は、45質量%以上55質量%以下である請求項4に記載の沸騰冷却装置。
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