JP2010022977A - 生物脱硫方法及び生物脱硫装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】使用する水のpH調整に要するコストを低減し、小型の設備で効率よくガスを脱硫できる生物脱硫技術を提供する。
【解決手段】生物脱硫装置1は、水を主体とする吸収液のpHを7未満に調整するpH調整手段17,19と、吸収液を硫化水素含有ガスに気液接触させて硫化水素を吸収液に吸収させる気液接触手段5,7,Fと、吸収液に吸収される硫化水素を酸化するための好酸性の硫黄酸化細菌とを有する。吸収液のpHを7未満に調整し、吸収液を硫化水素含有ガスに気液接触させて硫化水素を吸収液に吸収させ、吸収液に吸収される硫化水素を好酸性の硫黄酸化細菌によって酸化する。硫黄酸化細菌は、気液接触手段上に配設され、硫黄酸化細菌による酸化は、気液接触と実質的に同じ場において進行する。
【選択図】図1
【解決手段】生物脱硫装置1は、水を主体とする吸収液のpHを7未満に調整するpH調整手段17,19と、吸収液を硫化水素含有ガスに気液接触させて硫化水素を吸収液に吸収させる気液接触手段5,7,Fと、吸収液に吸収される硫化水素を酸化するための好酸性の硫黄酸化細菌とを有する。吸収液のpHを7未満に調整し、吸収液を硫化水素含有ガスに気液接触させて硫化水素を吸収液に吸収させ、吸収液に吸収される硫化水素を好酸性の硫黄酸化細菌によって酸化する。硫黄酸化細菌は、気液接触手段上に配設され、硫黄酸化細菌による酸化は、気液接触と実質的に同じ場において進行する。
【選択図】図1
Description
本発明は、石炭、低品位炭やバイオマスを原料とするガス化燃料や合成ガス、下水汚泥のメタン発酵で生成するバイオガスなどのエネルギーガスの精製システムに適用してエネルギーガスに含まれる硫化水素を除去する生物脱硫方法及び生物脱硫装置に関し、特に、硫黄酸化細菌による硫化水素の酸化作用を利用して硫化水素を除去する脱硫効率を改善してエネルギーガスの生物脱硫による精製の実用化に寄与し得る生物脱硫方法及び生物脱硫装置に関する。
近年、石油資源の大量消費による地球温暖化や資源枯渇が問題となり、従来使用されなかった資源の有効利用が注目されている。このような資源として、従来は使用しなかった褐炭等の低品位の石炭からガス化される水素、一酸化炭素等を含んだガス化燃料や、家畜糞尿等を発酵して得られるメタンガスを主成分とするバイオガスなどがある。これらのエネルギーガスは、触媒被毒や装置の腐食原因となる有毒な硫化水素を含むため、実用に際してはガス化燃料の脱硫処理が必要となる。
従来の脱硫処理は、化学薬剤を用いて化学吸着や反応によって脱硫する化学脱硫が用いられており、例えば、酸化鉄を用いて硫化水素を酸化脱硫する乾式脱硫や、アミン系吸収液に接触させて化学吸収によって収硫化水素を除去する湿式脱硫が知られている。
これに対し、設備維持に要する費用・手間や廃棄物処理、環境への配慮などの観点から、微生物の作用を利用する生物脱硫の利用が注目されている。生物脱硫では、硫化物を栄養源とする独立栄養型の好気性細菌である硫黄酸化細菌を利用して、硫化水素を硫黄又は硫酸イオンに変換する。
例えば、下記特許文献1,2では、活性汚泥などの微生物が分散する液相中において、水に溶解する硫化水素を酸化する生物脱硫方法を開示する。このような方法は、生物脱硫を行う液相の容積が極めて大きく、エネルギーガスの精製プラント等のような高負荷での処理において実用化するには不向きである。
一方、下記特許文献3では、微生物を担持させた担体が用いられ、気液接触によって硫化水素を吸収させた吸収液を、微生物担持体が投入された被処理水に導入して、微生物によって硫化水素を硫酸イオンに酸化することが開示されている。
また、下記特許文献4では、脱硫作用を有する微生物による生物膜を有する樹脂製基材を充填物として用いた生物脱硫塔に、栄養物質及びアルカリを含有する循環液とバイオガスとを供給することが記載され、バイオガスと循環液との気液接触により吸収された硫化水素を基材上の微生物によって脱硫する方法が記載されている。更に、下記特許文献5では、硫黄酸化細菌を担持する充填材を積層した気液接触塔に硫化水素含有ガスと洗浄溶液とを気液接触させて生物脱硫を行う脱硫方法が記載され、硫化水素含有ガスの流量と洗浄溶液の流量との比率及び硫化水素含有ガスが充填材積層部分に滞留する時間を規定している。
特開2003−62421号公報
特開2004−135579号公報
特開2002−79294号公報
特開2006−36961号公報
特開2008−12489号公報
上記特許文献1,2のような液相に分散した微生物を用いる方法に比べて、上記特許文献3,4のような微生物を担持させた担体を用いる方法は、生物反応に要する容積を縮小する上で有利であると考えられる。
しかし、硫化水素の気液接触による水への吸収は、HS−イオンへの解離平衡が律速となって、pH7以下においては非常に吸収され難い。このため、硫化水素の吸収を促進するためにアルカリ剤を用いて塩基性に調整する必要があり、上記特許文献3,4の生物脱硫においては、硫化水素を吸収する液のpHを塩基性に保持するためのアルカリ剤が用いられている。従って、使用するアルカリ剤によって運転コストが増加する。
一方、上記特許文献5の生物脱硫方法は、pH7.5程度での吸収及び反応を目的としており、上記特許文献3,4に比べてアルカリ剤の使用量を低減できるが、それでも、中和に用いるアルカリ剤はかなりの量となり、細菌が生成する硫酸の中和に要する理論量を著しく超過する。
本発明は、上記問題を鑑み、運転コストが低く、使用する設備の小型化が可能で、脱硫効率のよい生物脱硫方法を提供することを課題とする。
又、本発明は、効率良く脱硫を行うことができ、使用する容積を縮小でき、pH調整その他の処理に要するコストを低く抑えて運転可能な生物脱硫装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、好酸性の硫黄酸化細菌の高い酸化作用を利用して硫化水素の気液接触による吸収を促進可能な構成を見出し、これに基づいて、酸性での硫化水素の吸収及び酸化を実現することによって、硫化水素を吸収する水のpH調整に要するコストを著しく低減させ、効率よく生物脱硫を実施できる本発明を完成するに至った。従って、運転コストや資源の節約などの点で非常に有効であり、処理設備の小型化においても有利である。
本発明の一態様によれば、生物脱硫装置は、水を主体とする吸収液のpHを7未満に調整するpH調整手段と、前記吸収液を硫化水素含有ガスに気液接触させて硫化水素を前記吸収液に吸収させる気液接触手段と、前記吸収液に吸収される硫化水素を酸化するための好酸性の硫黄酸化細菌とを有することを要旨とする。
又、本発明の一態様によれば、生物脱硫方法は、水を主体とする吸収液のpHを7未満に調整し、前記吸収液を硫化水素含有ガスに気液接触させて硫化水素を前記吸収液に吸収させ、前記吸収液に吸収される硫化水素を好酸性の硫黄酸化細菌によって酸化することを要旨とする。
上記において、前記硫黄酸化細菌は、前記気液接触手段上に配設され、硫黄酸化細菌による酸化は、気液接触と実質的に同じ場において進行する。
本発明によれば、好酸性の硫黄酸化細菌を用いて酸性状態での生物反応を効率よく進行させることによって、水中の硫化水素イオンが消費されて濃度が低下し、解離平衡及び気液平衡が常に硫化水素を溶解する方向にシフトするので、酸性状態であっても硫化水素ガスの吸収が進行する。従って、生物脱硫系の水を塩基性に調整するために必要なアルカリ剤を省略でき、しかも、水に溶解する炭酸ガスの濃度が酸性状態では低下するので、炭酸ガスの中和に要するアルカリ剤の省略も可能となり、全体としてのアルカリ剤の使用量が格段に低下し、運転コストの低減に有利である。
硫黄酸化細菌は、硫化物を栄養源とする独立栄養型の好気性細菌であり、硫化水素を硫黄又は硫酸に酸化する。従来の生物脱硫においては、硫化水素ガスを水に吸収させて硫黄酸化細菌に供給する際に、塩基性に調整した水を硫化水素に接触させて硫化水素ガスの吸収を高めている。この理由は、硫化水素の解離度が低く硫化水素ガスの水への接触吸収が律速段階となるため、反応効率を高めるには塩基性の水を用いて吸収性を上げる必要があるからである。従って、硫黄酸化細菌は、塩基性域で反応可能な種(中性菌と称する)を利用している。しかし、水を塩基性に調整するためのアルカリ剤に要するコストは無視できない量になり、特にバイオガスの処理において著しい。これは、塩基性では空気などに含まれる炭酸ガスも吸収し得るためであり、特にバイオガスのように硫化水素0.5〜2%に対して炭酸ガスを30〜40%の割合で含む硫化水素含有ガスの脱硫では、中和時に消費されるアルカリ剤の主要部はむしろ炭酸ガスに起因する。
このようなことから、本願発明者らは、生物脱硫反応とpHとの関係について検討したところ、好酸性の硫黄酸化細菌の酸化速度は、pHが上昇するに従って小さくなるが、中性付近でも中性菌よりかなり大きいことから、細菌の酸化速度の活用について検討し、この酸化速度を用いて硫化水素ガスの水への吸収を促進可能な手法を見出した。本発明の生物脱硫方法及び生物脱硫装置においては、水を主体とする吸収液と硫化水素含有ガスとの気液接触により吸収液に吸収された硫化水素を、好酸性硫黄酸化細菌を用いて酸化する。以下、本発明の生物脱硫方法及びこれに用いる生物脱硫装置について詳細に説明する。
硫黄酸化細菌は、概して耐酸性を有し、好酸性菌(生育pH:0.5〜6程度)と中性菌(生育pH:5〜9程度)とでは、環境pHによる硫黄酸化反応の反応速度が異なる。具体的には、1cell当たりの生物的酸化速度V[×10−13(g-S/h/cell)]は、中性菌では、V=約0(pH3)、V=約0.2(pH7.5)であるのに対し、好酸性菌ではV=約3.5(pH2)、V=約3.0(pH3)、V=約1.6(pH7.5)となる。つまり、好酸性菌の生物的酸化速度は、pHの上昇に従って低下するが、中性でも酸性域の半分程度の酸化能を維持し、中性菌と比較すると7倍程度となる。従って、pH7以下において好酸性菌の反応性を好適に活用可能に構成すれば、硫化水素ガスの処理能力が高い生物脱硫が実現できる。この場合に問題となるのは、硫化水素ガスの水への吸収性の低さであるが、本発明では、好酸性菌の高い反応性を、硫化水素ガスの吸収を高める手段として利用する。つまり、気液接触による硫化水素の吸収と、硫黄酸化細菌の酸化反応とを実質的に同じ場において進行させ、硫黄酸化細菌の硫化水素消費(HS−→S0→SO4 2−)による硫化水素イオン濃度の低下を、硫化水素の気液平衡バランス(H2Sgas⇔H2Saq⇔HS−+H+)にリンクさせて、ガス状態から吸収・解離状態への移行を促進する。
また、酸性域では炭酸ガスの解離度(CO2+H2O→HCO3 −+H+)が低下し、特にpH5以下ではほぼ解離せず、炭酸ガスの溶解性が極めて低くなるので、炭酸ガスの中和に消費されるアルカリ剤の量が減少する。従って、吸収液をpH7未満の酸性域、特にpH5以下に調整することによって、pH調整の際に中和されるのは、実質的に硫化水素の酸化によって生成する硫酸のみになり、アルカリ剤の消費量を被処理硫化水素量に基づく理論中和量に近づけることができる。
このような生物脱硫は、具体的には、以下のような形態において実施することができる。
図1は、本発明の生物脱硫を実施する生物脱硫装置の一実施形態を示す。図1において、生物脱硫装置1は、硫黄酸化細菌を表面に担持する充填物Fを保持する生物反応槽3を有し、充填物F上で吸収液と硫化水素含有ガスとを気液接触させるために吸収液及び硫化水素含有ガスを生物反応槽3に供給する供給手段として、生物反応槽3の上部に接続される送液管5、及び、生物反応槽3の下部に接続される送気管7を有する。充填物Fは、槽内に充填・保持された状態で液体及び気体が中を通過可能な部材であり、具体的には、粒状、網状又は多孔性の素材で構成した部材や、ラシヒリングやレッシングリング等のような気液接触面積を増加させるために一般的に用いられる形態の、高い比表面積を得られる部材を利用して構成することができる。
水を主体とする吸収液を貯水槽17に収容し、ポンプ9の駆動によって送液管5から生物反応槽3に供給すると、先端に取り付けられる撒水ノズル11から充填物Fに撒水されて充填物F1を濡らしながら通過した後、生物反応部3の下部に落下する。一方、送気管7からは、硫化水素含有ガス(バイオガスやガス化資源等の硫化水素を含んだエネルギーガス)がポンプ等(図示省略)によって生物反応槽3内の充填物F下方に供給され、上方に向かって充填物F中を通過する際に、充填物Fの表面で吸収液と硫化水素含有ガスとが気液接触し、硫化水素が吸収液に吸収される。吸収された硫化水素は、充填物Fに担持される好酸性の硫黄酸化細菌によって硫黄及び硫酸に酸化され、充填物F中を流れ落ちるに従って吸収水の硫酸濃度が上昇する。充填物Fを透過した硫酸を含んだ吸収液は、生物反応槽3の下部に落下し底部に貯留される。生物反応槽3の底部は、配管15によって貯水槽17と接続されており、吸収液は、貯水槽17を介して送液管5から生物反応槽3へ還流可能に構成されている。生物反応槽3において硫黄酸化細菌によって硫化水素が除去されたガスは、生物反応槽3の頂部から送気管13を通って排出され、必要に応じて適宜処理を施した後にエネルギーガスとして使用に供される。
本発明において、生物脱硫は、生物反応槽3の充填物F上において硫化水素の気液接触と実質的に同じ場で進行する。詳細には、充填物F上で吸収液との接触によって吸収された硫化水素は、充填物Fに担持される好酸性の硫黄酸化細菌によって硫黄及び硫酸に酸化され、これにより、吸収液中の硫化水素は減少し、硫酸濃度が増加する。この時、吸収液の硫化水素濃度の低下によって気液平衡バランスがシフトして、更にガスから液中への硫化水素の吸収が促される。つまり、気液接触による硫化水素の吸収と、好酸性硫黄酸化細菌による生物脱硫とが実質的に同じ場(充填物上の吸収液中)で進行し、互いにリンクすることによって、生物脱硫の反応速度が硫化水素の吸収を促進させる作用をする。この結果、充填物F中を流れ落ちるに従って吸収水の硫酸濃度が上昇する。
生物反応槽3の下部に落下した吸収液は、配管15を介して貯水槽17へ供給され、硫酸によって低下した吸収液のpHは、アルカリ槽19から送水管21及びポンプ23によって供給されるアルカリ液を用いて適宜調整されて一定のpHに保持され、送液管5を通じて生物反応槽3へ還流される。生物脱硫によって生成した硫酸は、このpH調整によって中和される。尚、貯水槽17中の吸収液は、その一部を外部水と適宜置換することによって塩濃度の上昇が防止され、貯水槽17から排出された吸収液は適宜希釈等を経て放水される。
貯水槽17において調整される吸収液のpHは7未満、つまり酸性に調整され、炭酸ガスの溶解抑制の点ではpH6.0以下が好ましく、pH5.0以下がより好ましい。炭酸ガスを含有するバイオガスの脱硫においては、吸収液のpHを5.0以下に調整することが非常に有用である。pHが低い方が好酸性硫黄酸化細菌の生物的酸化速度が高いが、硫化水素の気液接触における吸収性を考慮すると、実用的にはpH2〜7程度、好ましくはpH3〜6に調整される。貯水槽17の吸収液のpHを測定するpH測定器25を付設して、測定値に応じてポンプ23によるアルカリ槽19からのアルカリ液の供給を自動的に制御するように構成すると正確に調整するのに有利である。尚、硫黄酸化細菌は好気性細菌であり、酸化反応を進めるために酸素の供給が必要である。このためには、例えば、貯水槽17に曝気装置27を付設して吸収液に酸素を吹き込んで溶存酸素濃度を高めることによって、充填物F上の硫黄酸化細菌に吸収液と共に酸素を供給することができる。この場合、吸収液は炭酸ガスの溶解性が低い酸性であるので、曝気装置27から供給する酸素源として空気を用いても、中和に要するアルカリ剤量の増加は抑制され、pH5.0以下においては実質的に脱硫による硫酸の理論中和量となる。処理対象とする硫化水素含有ガスがメタンを含まないガス(例えば石炭ガス化燃料等)である場合は、酸素ガスを生物反応槽3に直接供給するようなに装置を構成してもよい。
本発明において、好酸性硫黄酸化細菌は、生物反応槽3内に保持される充填物Fの表面に担持されており、このような微生物を担持した担体を利用する生物脱硫は、設備の小型化に有用である。充填物Fを構成する素材は、微生物を担持可能な素材であれば良く、磁性又は樹脂製の通常の気液接触用充填材や、多孔質軟質樹脂、活性炭等の炭素材、ゼオライト、セラミックス等の多孔質体などが挙げられ、繊維状、粉末又は粒子状などの形態を適宜使用できる。例えば、炭素繊維フェルト、木炭等を利用できる。微生物を担持し易い素材としては、臨界表面張力が40dyne/cm程度以下の素材があり、微生物が付着し易い。臨界表面張力が低い素材には、各種プラスチックがあり、臨界表面張力が40dyne/cm以下のプラスチックとして、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、PVDC、PTFE等が挙げられ、このようなプラスチック類から適宜選択して使用できるが、これらに限定されるものではない。効率よく気液接触を行うために、充填物Fは、比表面積が10cm2/cm3程度以上(BET比表面積)であることが好ましく、目詰まりを防止する点を考慮すると、細菌を担持して生物反応槽3に保持された状態で、100〜400cm2/cm3程度となることが好ましい。
硫黄酸化細菌が担持した充填物Fは、上記のような充填物Fに好酸性硫黄酸化細菌及び栄養源を含むpH0.5〜6程度の水を供給し、細菌の繁殖に適した温度で両者の接触を維持して充填物表面で細菌を繁殖・付着させることによって調製できる。好酸性硫黄酸化細菌として、例えば、Thiobacillus thioosidans、Acidithiobacillus thioosidans、T.ferrooxidansやSulfolobus等が挙げられるが、特に限定することなく、環境中の細菌群から適宜培養して利用できる。繁殖に適する温度は、概して28〜35℃程度である。充填物Fに担持される硫黄酸化細菌は、好酸性硫黄酸化細菌単独である必要はなく、好酸性硫黄酸化細菌の作用が阻害されない限り、中性菌や他の微生物が共存しても良い。従って、例えば、活性汚泥や鉱物質土壌等に含まれる微生物群を利用して適宜培養して得た硫黄酸化細菌を充填剤に担持することができる。細菌を担持した充填物Fの充填容積当たりの処理能力は、担持細菌量、有効接触面積及び吸収液のpHによって変化するので、必要な処理能力を発揮し得る担持量及び表面積となるように、充填物を構成する部材の形態や担持充填物の調製条件を必要に応じて適宜変更すればよい。
本発明の生物脱硫装置1は、硫黄酸化細菌による酸化の好適な進行を維持するために、必要に応じて生物反応槽3を適正温度に加熱、冷却又は保温する手段を設けてもよく、これにより、外気温度の変動などによる影響を排除して安定した脱硫処理を継続することができる。図1の生物脱硫装置1においては、充填物Fに供給される吸収液を加熱又は冷却する温度調節装置29が付設され、吸収液によって充填物Fの温度が25〜35℃に維持される。温度調節装置29の動作は、温度センサーの検知温度に応じて自動制御するように構成するとよい。
硫化水素の吸収は、気液接触部の濃度平衡によって進行し、気液接触時間(硫化水素含有ガスが充填剤Fに滞留する時間)によって硫化水素の吸収量は変動するので、処理対象ガスについて所望の硫化水素除去率を達成するには、硫化水素の吸収量が除去すべき量に達し得る気液接触時間を確保する必要があり、必要な気液接触時間(ガスの滞留時間)は、処理対象ガスの硫化水素ガス濃度及び生物反応槽3の処理能力(反応速度)に依存する。気液接触時間は、処理対象ガスの流速(供給速度)及び生物反応槽3の充填容量(充填高さ)によって定まるので、処理対象ガス(硫化水素含有ガス)の供給速度及び生物反応槽3の充填容量(充填高さ)は、処理対象ガスの硫化水素濃度及び充填物Fの処理能力に応じて設定される。換言すれば、処理するガスの硫黄負荷(1日に供給される容積当たり硫黄質量[kgS/m3/d])が増加した時は、生物反応槽3の充填容積(充填高さ)を増加するか、ガスの供給速度を低下させることによって対応可能できる。尚、吸収液の調整pHを低下させると硫黄酸化細菌の反応速度が高まるので、これによって生物反応槽3の処理能力を高めて、必要とされる気液接触時間を短縮することも可能である。このような条件設定は、例えば、送気管13から排出されるガスの内容をガスメータ31によって分析し、この結果に基づいて処理対象ガスの供給速度及び生物反応槽3の充填高さを適宜変更することによって可能である。
好酸性硫黄酸化細菌を用いた本発明の生物脱硫では、酸性吸収液の低い硫化水素吸収性は、中性菌の7倍以上の反応速度によって塩基性吸収液と同程度にまで補償することができ、中性又は塩基性吸収液を用いる場合と同程度の処理状態に設定することができる。例えば、硫化水素0.1%程度を含有する硫化水素含有ガスの脱硫処理の場合、気液接触時間(ガスの滞留時間)が1〜5分程度となるようにガス供給速度を反応器の空塔速度に合わせて調節することにより硫黄負荷1〜2[kgS/m3/d]程度の処理が可能である。この際、バイオガスの脱硫の場合は、貯水槽17における吸収液のpHを5.0程度に調整することによって、アルカリ剤の使用量は実質的に脱硫による硫酸の理論中和量となる。
図2は、生物反応槽3と貯水槽17とを一体に構成した生物脱硫装置の一例を示す。この生物脱硫装置41の生物反応槽43は、充填物Fの直下に貯水用の容量を有し、この部分にpH測定器25及び曝気装置27を付設すると共に、アルカリ槽19に接続する送水管21が引き込まれている。従って、吸収液の循環は、生物反応槽43の下部から頂部に至る送液管45を通じて行われる。尚、図2中で用いられる図1と同じ符合の部材は、図1のものと同一又は同機能の部材を示す。図1の生物脱硫装置1では、充填物Fが貯水槽17から分離してしているので、硫化水素含有ガスの供給が曝気装置27による酸素供給から隔てられているが、図2の場合、曝気装置27から供給される酸素は、送気管7から供給される硫化水素含有ガスと接触・混合し得るため安全性の点で問題となるので、図2の装置の使用は、処理対象が酸素の混合を許容する場合に限定される。但し、このような一体構成であっても、区画分離又は酸素の供給制限によって硫化水素含有ガスと酸素との混合防止が成されれば、バイオガス等のメタン含有ガスの処理も可能である。
以下、実施例を参照して、本発明に係る生物脱硫方法及び装置について具体的に説明する。
(充填材の調製)
pH1.5〜1.8の培養液(硫酸アンモニウム、燐酸水素カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含む)に好酸性硫黄酸化細菌としてAcidithiobacillus thioosidansを添加して常温で浸とうして培養した。これを用いて硫黄酸化細菌の分散液を調製し、ポリプロピレン製メッシュリング型充填材(トリカルパッキン、タキロン(株)社製)を浸し、30℃に数日間保温して細菌を生育させることにより細菌を充填材表面に付着させて、硫黄酸化細菌を担持した充填材を得た。これを図1の生物脱硫装置の生物反応槽3内に保持して充填容積0.01m3、充填高さ0.8mの充填物Fを構成した。
pH1.5〜1.8の培養液(硫酸アンモニウム、燐酸水素カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含む)に好酸性硫黄酸化細菌としてAcidithiobacillus thioosidansを添加して常温で浸とうして培養した。これを用いて硫黄酸化細菌の分散液を調製し、ポリプロピレン製メッシュリング型充填材(トリカルパッキン、タキロン(株)社製)を浸し、30℃に数日間保温して細菌を生育させることにより細菌を充填材表面に付着させて、硫黄酸化細菌を担持した充填材を得た。これを図1の生物脱硫装置の生物反応槽3内に保持して充填容積0.01m3、充填高さ0.8mの充填物Fを構成した。
(実施例1)
図1の生物脱硫装置の貯水槽17に水50Lを収容し、HClを用いてpHを5.0に調整して吸収液を用意した。曝気装置27を作動させて、空気供給が1L/分となるように空気を吸収液に吹き込み供給した。
図1の生物脱硫装置の貯水槽17に水50Lを収容し、HClを用いてpHを5.0に調整して吸収液を用意した。曝気装置27を作動させて、空気供給が1L/分となるように空気を吸収液に吹き込み供給した。
ポンプ9を駆動させて、貯水槽17の吸収液(温度:30℃)を3L/分の速度で生物反応槽3に供給して、撒水ノズル11から充填物Fへの撒水を開始した。充填物F全体が吸収液で充分に濡れたのを確認した後、バイオガスを想定した硫化水素含有ガス(硫化水素濃度:0.1質量%、CO2:30質量%、アルゴン:69.1質量%)を送気管7から6L/分の速度(硫黄負荷:1kgS/m3/d)で生物反応槽3に供給した。硫化水素含有ガスは、上方に向かって充填物F中を通過し、この際に、充填物Fの表面上で吸収液と気液接触した。充填物Fから落下する吸収液は貯水槽17に還流させた。この状態で硫化水素含有ガスの供給を8時間継続して生物脱硫を行い、この間、送気管13から排出されるガスの硫化水素濃度をガス検知管で定期的に測定すると共に、貯水槽17の吸収液のpHを測定して、pHが低下したらアルカリ槽19の水酸化ナトリウム水溶液を添加して吸収液のpHが5.0で一定となるように調節した。
生物脱硫間の排出ガスの残留硫化水素濃度は60ppmであり、これから算出される硫化水素除去率は94%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は34mmol/hであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量に相当する。
(実施例2)
貯水槽17の吸収液のpHを常時6.0に調整したこと以外は実施例1と同様にして生物脱硫を行った。この結果、送気管13から排出されるガスの残留硫化水素濃度は50ppmであり、これから算出される硫化水素除去率は95%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は70mmol/hであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量の2倍に相当する。
貯水槽17の吸収液のpHを常時6.0に調整したこと以外は実施例1と同様にして生物脱硫を行った。この結果、送気管13から排出されるガスの残留硫化水素濃度は50ppmであり、これから算出される硫化水素除去率は95%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は70mmol/hであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量の2倍に相当する。
(参考例)
貯水槽17の吸収液のpHを常時7.0に調整したこと以外は実施例1と同様にして生物脱硫を行った。この結果、送気管13から排出されるガスの残留硫化水素濃度は30ppmであり、これから算出される硫化水素除去率は97%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は400mmol/hであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量の12倍に相当する。
貯水槽17の吸収液のpHを常時7.0に調整したこと以外は実施例1と同様にして生物脱硫を行った。この結果、送気管13から排出されるガスの残留硫化水素濃度は30ppmであり、これから算出される硫化水素除去率は97%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は400mmol/hであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量の12倍に相当する。
(比較例1)
前述の充填材の調製において使用する硫黄酸化細菌分散液を、中性菌(Thiobacillus thioparus)を液体培地(チオ硫酸ナトリウム、燐酸水素カリウム、蓚酸マグネシウム、燐酸水素カリウム、塩化アンモニウムを添加した海水)で培養したものに変更したこと以外は同様にして、硫黄酸化細菌を担持した充填材を調製した。これを図1の生物脱硫装置の生物反応槽3に保持して充填物Fを構成した。
前述の充填材の調製において使用する硫黄酸化細菌分散液を、中性菌(Thiobacillus thioparus)を液体培地(チオ硫酸ナトリウム、燐酸水素カリウム、蓚酸マグネシウム、燐酸水素カリウム、塩化アンモニウムを添加した海水)で培養したものに変更したこと以外は同様にして、硫黄酸化細菌を担持した充填材を調製した。これを図1の生物脱硫装置の生物反応槽3に保持して充填物Fを構成した。
貯水槽17の吸収液を常時pH7.5に調整したこと以外は実施例1と同様にして生物脱硫を行った。この結果、送気管13から排出されるガスの残留硫化水素濃度は30ppmであり、これから算出される硫化水素除去率は97%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は2000mmolであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量の40倍に相当する。
(実施例3)
生物反応槽3に供給した硫化水素含有ガスを、石炭ガス化によるガス(水分:50質量%、硫化水素濃度:500ppmv-dry、CO濃度:20wt%-dry、CO2濃度:25%-dry、硫化カルボニル:10ppmv、水素:50%-dry)に変更し、送気管7から1L/分の速度(硫黄負荷:0.1kgS/m3/d)で供給したこと以外は実施例1と同様に生物脱硫を行った。この結果、送気管13から排出されるガスの残留硫化水素濃度から算出される硫化水素除去率は、99%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は6mmol/hであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量の2.3倍に相当する。
生物反応槽3に供給した硫化水素含有ガスを、石炭ガス化によるガス(水分:50質量%、硫化水素濃度:500ppmv-dry、CO濃度:20wt%-dry、CO2濃度:25%-dry、硫化カルボニル:10ppmv、水素:50%-dry)に変更し、送気管7から1L/分の速度(硫黄負荷:0.1kgS/m3/d)で供給したこと以外は実施例1と同様に生物脱硫を行った。この結果、送気管13から排出されるガスの残留硫化水素濃度から算出される硫化水素除去率は、99%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は6mmol/hであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量の2.3倍に相当する。
(実施例4)
貯水槽17の吸収液のpHを常時6.0に調整したこと以外は実施例3と同様にして石炭ガス化燃料の生物脱硫を行った。この結果、送気管13から排出されるガスの残留硫化水素濃度から算出される硫化水素除去率は、99%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は40mmol/hであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量の15倍に相当する。
貯水槽17の吸収液のpHを常時6.0に調整したこと以外は実施例3と同様にして石炭ガス化燃料の生物脱硫を行った。この結果、送気管13から排出されるガスの残留硫化水素濃度から算出される硫化水素除去率は、99%であった。また、この間に吸収液のpH調整に使用した水酸化ナトリウム量は40mmol/hであった。この量は、硫化水素除去率から計算される生物脱硫による硫酸の理論中和量の15倍に相当する。
1,43 生物脱硫装置、 3 生物反応槽、 F 充填物
5 送液管、 7 送気管、 9、23 ポンプ、 11 撒水ノズル
17 貯水槽、 19 アルカリ槽、 25 pH測定器
27 曝気装置、 29 温度調節装置
5 送液管、 7 送気管、 9、23 ポンプ、 11 撒水ノズル
17 貯水槽、 19 アルカリ槽、 25 pH測定器
27 曝気装置、 29 温度調節装置
Claims (12)
- 水を主体とする吸収液のpHを7未満に調整するpH調整手段と、
前記吸収液を硫化水素含有ガスに気液接触させて硫化水素を前記吸収液に吸収させる気液接触手段と、
前記吸収液に吸収される硫化水素を酸化するための好酸性の硫黄酸化細菌と
を有する生物脱硫装置。 - 前記硫黄酸化細菌は、前記気液接触手段上に配設される請求項1記載の生物脱硫装置。
- 前記気液接触手段は、前記吸収液及び前記硫化水素含有ガスの通過が可能なように充填物を保持する生物反応部と、前記吸収液及び前記硫化水素含有ガスを前記生物反応部の前記充填物に供給する供給手段とを有し、前記硫黄酸化細菌は、前記充填物に担持される請求項1又は2に記載の生物脱硫装置。
- 前記pH調整手段は、前記生物反応部に供給される吸収液のpHを5以下に調整する請求項1〜3の何れかに記載の生物脱硫装置。
- 前記充填物は、臨界表面張力が40dyne/cm以下の素材で構成され、液体及び気体が内部を通過可能で、比表面積が10cm2/cm3以上である請求項3〜4の何れかに記載の生物脱硫装置。
- 前記硫黄酸化細菌又は前記吸収液に酸素を供給する手段と、前記硫黄酸化細菌を25〜35℃の温度に維持するための加熱装置とを有する請求項1〜5の何れかに記載の生物脱硫装置。
- 水を主体とする吸収液のpHを7未満に調整し、前記吸収液を硫化水素含有ガスに気液接触させて硫化水素を前記吸収液に吸収させ、前記吸収液に吸収される硫化水素を好酸性の硫黄酸化細菌によって酸化する生物脱硫方法。
- 前記硫黄酸化細菌による酸化は、前記気液接触と実質的に同じ場において進行する請求項7記載の生物脱硫方法。
- 前記硫黄酸化細菌を充填物に担持し、前記吸収液及び前記硫化水素含有ガスが前記充填物中を通過可能なように保持して前記吸収液及び前記硫化水素含有ガスを前記充填物に供給することによって前記充填物上で気液接触する請求項7又は8記載の生物脱硫方法。
- 前記吸収液のpHは5以下に調整される請求項7〜9の何れかに記載の生物脱硫方法。
- 前記硫黄酸化細菌は、充填物の表面に担持され、前記充填物は、臨界表面張力が40dyne/cm以下の素材で構成され、液体及び気体が内部を通過可能で、比表面積が10cm2/cm3以上である請求項7〜10の何れかに記載の生物脱硫方法。
- 前記硫黄酸化細菌又は前記吸収液に酸素を供給し、前記硫黄酸化細菌を25〜35℃の温度に維持する請求項7〜11の何れかに記載の生物脱硫方法。
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