障害、機能不良又はエラーの早期の検出は、技術上のプロセスの信頼性及びセキュリティにとって主要事項であり、従ってまた、エンジン試験設備でのエラー診断を行う動機付けともなっている。
従来技術から、中央集中型測定データ診断の開発について次のような結論を導き出すことができる。
試験設備システムと外部診断ツールとの間のデータ交換は、今日の従来技術では限られている。なぜなら、利用可能なインタフェースが、とりわけ動作周波数を最大1Hz以下に制限し、通例、試験設備システムの情報に対して限られたアクセスしか許容せず(例えば測定チャネルリスト、運転モード、試料説明など)、従って、測定データ診断に必要な情報全てを提供できるわけではなく、双方向通信を許容せず、所定の運転モードでしか応答しないからである。
外部診断ツールは、パーソナルコンピュータ又はノートブックという形の追加的な資源を必要とし、従って、試験設備における複雑さが増大する。
モデルベースのアプローチは、全般的な試験設備利用には不向きである。なぜなら、試験設備システム全体の数学的なモデル記述は高コストである上に複雑であり、及び/又は、試料又は試験設備構造が、適切なシステム識別を保証するほど十分に長く維持されないからである。
測定データ診断の分野についての研究は、わずかな費用で多数の測定変数を自動的に解析できる診断ツールが必要であることを示している。
上述のアプローチの解析から、問題の解決にあたって、測定データ診断と試験設備システムとの間の協働が必要であると推測される。
上述のような考え方と統計的実験計画の利用の絶えざる増加とが、エラー検出をDoEソフトウエアAVL-Cameoに実装したアプローチが求められる契機であった。このアプローチが選択されたのは、最も普及している試験設備システムとのデータ交換のために必要なインタフェースが、既にCameoでは利用できたからである。さらに、このソフトウエア内の特別なインタフェースを介して、独自のアルゴリズムを実装することも可能である。
コンセプト上、このアプローチは、信号ベースの静止エラー検出とオンラインエラー検出とからなっていた。プロジェクト段階では、標準パラメータ以外の入力が利用者によって行われないことが必要であった。
静止エラー検出によって、低温の静止したエンジンでのCAMEOテストランに対する待機状態が確認される。このために、簡単な統計的方式、例えば中央値比較や信頼区間が用いられる。
静止診断が成功した後、DoEテストラン自体に対する試験設備の承認が行われる。オンラインエラー検出は、テストランによって自動的に開始される。選択された測定変数に従って、計測中の異常がオンライン表示される。
このアプローチによって、信号ベースの物理的エラー検出の簡単なアルゴリズムをオンラインで利用できた。しかし、実施してみると、上述のこのアプローチは、最適とは呼べないことが明らかとなった。その理由は、用いられたインタフェースが、本来、特定利用者向き実験ストラテジーを統合するためのものであったからである。この事情によって、新たなテストラン毎に実験ストラテジーとエラー検出方式とを結び付ける作業が必要となる。その際、実装のために、特殊なソフトウエア知識が必要である。さらに、Cameoは、自らデータ収集を行うことができず、従って、試験設備システムのデータにアクセスしなければならない。しかし、このアクセスは、設定された測定モード(平均値測定又は実際値測定)によってのみ行われる。Cameo測定の場合は、通例、このモードは平均値測定である。さらに、Cameoは、試験設備システムにおいて、いわゆる定常ステップ測定(平均値測定)を開始し、最後にステップ測定の平均値を測定値として返してもらう。従って、測定1回当たりの測定データ診断には、ただ1つの測定値しか利用できない。平均値を形成するために用いられるデータ素材にはアクセスすることができない。従って、信号品質を評価するための領域全体が、完全に排除されてしまい、多くの情報が、利用されないまま「廃棄」される。さらに、必要とされる、エラー検出のパラメータ化は、明らかに複雑になった。
上記の短所から結論付けられることは、Cameo式アプローチは、全般的な試験設備利用には不向きであるということである。肯定的に評価すべき点は、このアプローチによって、オンラインエラー検出が基本的に実行可能であることが示され、構造、パラメータ化、承認条件及び結果表示に関する重要な知見が得られたことである。
Cameo式アプローチの経験値は、オンライン測定データ診断のための新しいアプローチに生かされた。今回、このアプローチは、…との結び付きに基づいている。
本書において測定データ診断というとき、それは、エンジン試験設備におけるデータ収集の際に偏差、障害、エラー又は機能不良を検出及び特定するための信号ベースの方法を常に意味するものとする。このためには、計画された特定目的向けの手順が必要であり、この手順は、以下において診断ワークフローと呼ぶ。本発明に係るデータ診断用のスキーマとしての診断ワークフローは、図4から明らかなように、エラー検出、エラー分離、エラー識別及びエラー分類という各ステップからなる。
診断ワークフローは、試験設備システムPuma Openの統合要素として実施される。その際、アーキテクチャへの必要な介入は、パラメータ化から結果文書化までの一貫したコンセプトを必要とする。
総合診断コンセプトに関してこれが意味することは、まず、全ての主要コンポーネントとそれらの相互作用とを定義しなければならないということである。その際、測定データ診断に含まれるのは、例えば、パラメータ化、静止エラー検出、オンラインエラー検出という各コンポーネントであり、これらは、AVL社の測定同期式試験設備システムPuma5.5の各バリエーションを有する。その際、エラー検出方式は、独自のプログラムで実施される。
このプログラムは、試験設備システムの始動時に自動的に起動され、試験設備システムの対応するサービスに接続される。このために、Pumaは、特別なインタフェース(CAPI)を提供する。このインタフェースを介して、測定データの他に、初めて、試験設備システムからの情報も、最大動作周波数fArbeit=1Hzで問い合わせ、解析することができる。また、このインタフェースが自動化システムへ情報を伝送できることによって、初めて、診断システムと試験設備システムとの間の双方向通信が可能となった。これにより、診断結果は、例えば、直接、試験設備システムのユーザウインドウに表示することができる。これの利点は、利用者に対して、自らの慣れ親しんだシステム環境で診断情報が表示されるという点である。
物理的及び論理的アプローチ以外に、初めて、信号品質の評価と簡単な機器チェックとが、エラー検出の固定要素として導入することができた。これの核となったのは、標準偏差と平均値とに関する品質管理図(QRK)であった。
要するに、確かなことは、Puma式アプローチによって、オンラインエラー検出のための有効なコンセプトが実現できるということである。さらに言及しておくべきことは、このアプローチによって、初めて、測定データ診断を試験施設に広く普及させることが可能となったということである。
Puma式アプローチはCameo式アプローチよりも明らかに優れた結果をもたらしたけれども、この場合もインタフェースの性能を短所として挙げなければならない。最大動作周波数fArbeitが1Hzであること以外にも、この解決手段の場合、非常に限られた命令範囲しか利用できないという点がある。従って、フィルタリング以前又は高周波信号解析以前の未処理データの妥当性が考慮されない。
従って、普及している試験設備システムのいずれもが、測定データ診断システムの要求を満たす、標準化されたインタフェースを提供することができなかった。しかし、この要求を満たすことは、測定データ診断を成功裏に実現するためには不可避である。この測定データ診断は、閉じられたプログラムとして試験設備のパーソナルコンピュータ上又は追加的なコンピュータ上で運用することができる。独自の診断コンピュータを利用する利点は、試験設備のコンピュータに余分なシステム負荷が生じないこと、及び、診断ツールを異なった試験設備に柔軟に利用できることである。
外部の解決手段のために、試験設備のコンピュータと診断コンピュータとの間の確実なデータ転送が保証されねばならない。その際、短所として、普及している試験設備システムに対する標準的なインタフェースが存在しない(例えばUSB)という点、及び、コンピュータの追加によって財務コストが嵩むという点がある。
測定データ診断を試験設備のコンピュータで行う場合、十分に注意すべきことは、生じたシステム負荷が試験設備の運転を損なわないようにすることである。しかし、試験設備システムへの測定データ診断の統合は、試験設備システムの全ての内部情報にアクセスできるという利点を有する。
外的及び内的なアプローチによって、試験設備システムのフレームワーク(ソフトウエアのフレーム構造)に対する新たな要件が生じる。これらの要件は、新しい機能及びインタフェースによって実現しなければならない。それには、試験設備システムのシステム構造に対する基本的な介入が必要であるが、これは、適当な製造業者の支援によってしか実現できない。
これらの考え方は、外部インタフェースと内部の解決手段との両者に対するシステム製造業者の支援があって実現できる。
しかし、外部インタフェースのために、内部データフローの大部分を外部へ伝えなければならない。このために必要な透明性は、ほとんどの製造業者にとって、企業間競争という点から好ましいものではない。この透明性は、内部の解決手段の場合には不必要である。
次に、まず、中央集中型測定データ診断の基本コンセプトが、Puma Openベースで提示され、文書化される。アーキテクチャにおける後からの変更を避けるために、測定データ診断に対する全ての既知の要件を入念に表現することがどうしても必要である。特に注意しなければならないのは、診断範囲、診断深度及び結果編集に関する問い合わせに対する応答である。それに続いて、実行可能性の評価が行われ、このために必要な、システムアーキテクチャの解析が行われる。
次に、最新の従来技術によって知られている要件について論じる。これらの要件は、特に、検出強度、頑健性及び診断深度、測定データ診断の動作周波数、本発明に係るコンセプトに従った監視範囲、エラー検出の運転モード、測定チャネルと計算アルゴリズムとの間における割り当て、測定データ診断のパラメータ化に対する要件、可視化コンセプト、結果管理に関するコンセプト、限界条件及び承認条件、並びにデータフローに関する要件、さらにまた、エラー検出あるいは巡回エラー検出、内部データマネージメント、エラー診断の評価に関する要件であり、それらには、重大度の表明を伴うエラー分離及びエラー識別、診断結果の可視化及び/又は文書化、並びに測定データと診断データとの結合が含まれる。
エンジン試験設備での測定データ診断という分野におけるこれまでの研究とは対照的に、本発明では、エラー検出方式の最大化の優先度は二次的である。ここでは、エラー検出は、エラー分離又はエラー識別と全く同様に、診断ワークフローの部分的な機能を担っているに過ぎず、測定データ品質の確保と文書化とに貢献するだけである。
これとの関連において、主要コンポーネントという概念は、任意の数のサブ機能を利用できる閉じられた機能ユニットを意味する。
統合された測定データ診断の基本コンセプトは、主要コンポーネントの2つのグループからなる。第1のグループは、エラー検出、エラー分離、エラー識別及びエラー分類という主要コンポーネントからなり、診断フロー自体を指す。その際、エラー識別とエラー分類とは、エラー識別としてまとめることができる。
第2のグループは、周囲環境との通信を担う。これらのコンポーネントは、効率的かつ柔軟に使用するために不可欠である。これらは、必要とされる、利用者とのデータ交換を可能にし、パラメータ化、内部データマネージメント及び結果管理という主要コンポーネントによって実現される。
同時にまた、コンセプトの統合を優先することから、主要コンポーネント内における拡張可能な機能構造が要求される。これは、後に新しいエラー検出機能を実装及び評価することを可能にするために重要である。
情報科学では、このストラテジーは、汎用プログラミングと呼ばれる。これは、再利用可能なソフトウエアライブラリを開発するための方法と解される。その際、関数は、異なったデータ構造にも用いることができるように、できる限り汎用に設計される。汎用プログラミングにおいて重要なことは、アルゴリズムが一定のデータタイプのために書かれるのではなく、アルゴリズムが、データタイプに対する一定の要件のみを課すことである。汎用モデルは、具体的な状況の特定の対象に対して適合可能である。図5は、それに関するデータフローと各主要コンポーネントの相互作用とを示す。各主要コンポーネント間のインタフェースは、情報が、コード化された形で所定の数値によって転送されるように構成されている。
AVL List GmbHのシステムPuma Openを用いて、データフローと必要なインタフェースとが実際の試験設備システムでどのように実現できるかが分析された。このために、まず、Puma Openのシステムアーキテクチャの分析が行われた。Puma Openは、図6に示されたデバイス構造として構成されており、さらにこのデバイス構造は、2つの部分からなる運転システム構造の上に置かれている。
その際、プロセス階層は、試験設備と外界との間の情報交換を担う。試料及び負荷ユニットの他に、全てのセンサ、アクチュエータ並びに測定増幅器及び電荷増幅器及び試験設備メカニズムが、この階層に属する。インタフェース階層は、センサと情報処理との間の信号変換を行い、さらに、必要に応じて、その他のサブシステムの結合を実施する。
オペレーション階層は、図7に示された、試験設備の中心機能を実現し、従って、自動化システムの核となる。これは、例えば、非特許文献13にも説明されている。
入/出力階層(I/O階層)は、通例、リアルタイム可能なハードウエア/ソフトウエアプラットフォームに含まれている。その際、インタフェース階層のデジタル化された測定値は、シーケンス制御、フィードバック制御、監視及びデータ保存のためのそれぞれ適当なアルゴリズムによって用意される。ここではまた、例えば、妨害信号の影響を最小限に抑えるためのフィルタ法やデータ整理のための分類法も用いられる。幾つかの測定値(例えばエンジン回転速度や油圧)は、測定値としてだけでなく、フィードバック制御用又は安全機構用の実際値としても利用される。
他方では、オペレーション階層は、さらに操作階層とも通信を行う。ここでは、利用者によって指定された実験手順がリアルタイムに実施され、その際、手順の個々のステップは、時間制御又はイベント制御することができる。最大のダイナミクスを実現するために、実験手順が信号収集と時間的に同期して実施される。その際、試験設備のフィードバック制御に対する基準値の設定は、利用者によって手動で、又は適当な実験計画を介して自動的に行うことができる。
操作階層(図8)は、テストラン作成、可視化及び実験管理のための全てのエディタを含む。従って、この階層は、オペレーション階層と管理階層との間の連結部である。
管理階層は、一般的に中央のデータバンクに基づいてテストラン及び実験結果をネットワーク化するためのプラットフォームを提供する。この階層は、試験施設における各試験設備のテストラン及び実験結果について試験設備全体にわたる管理を行う役目を担う(ホストシステム)。実験結果を管理する際、今日、ASAM−ODSがしばしば用いられる。ASAM−ODSは、データの解釈、モデル管理用のインタフェース、データ格納、データアクセス及びデータ交換に関する汎用データモデルを定義する。
各デバイス(機器又はサービス)は、いわゆるリアルタイムシステムインタフェースを介して、リアルタイム部分と非リアルタイム部分とに分けられている。
データフローは、センサの場合、プロセス階層から始まり、インタフェース階層を経てリアルタイムフレームに達する。そこで、データは、リアルタイムIOハンドラによって受け取られ、以降の処理のためにリアルタイムシステムチャネルインタフェースによって編集される。
リアルタイムフレームにおける個別プロセスは、測定データ診断の実行のためには重要ではないので、これ以上の説明はしない。
自動システムフレームにおけるデータフローについては、機器(デバイス)とシステムチャネルとからなるモデルに関して説明する。その際、システムチャネルは、データチャネル又は通知チャネルとして機能することができる。
データチャネルは、物理的な測定変数の値を取得するチャネルと同等である。このシステムチャネルは、いわゆるシステム変数(例えばオンライン値、最小値、最大値、平均値)を用いて値を保存する。一方、通知チャネルは、ステータス情報及び通知情報を含有する。
システム変数には、システムチャネルのデータ、すなわちデータチャネル及び通知チャネルからの情報が含まれる。これらのデータにはシステムチャネルについて詳しく記述がなされているので、これらのデータは、システムチャネルの特性と呼ばれる。
Puma Openは、これらのシステムチャネルを複数個生成する。これらには、例えば、1つの規準名を割り当てておくことができる。その際、規準名は、まさに測定チャネルの名前であって、利用者がチャネル名だと分かるような名前である。
システムチャネルは、少なくとも1つのシステム変数を持ち、さらに不定個数のシステム変数(最小値、最大値、平均値、標準偏差、フィルタ又はリングメモリ)を有することができる。
数量は、オンライン変数、例えば名前、タイプ、小数点以下の桁数などの記述である。しかし、数量は、現在時の測定値を有してはいない。オンラインシステムの開始時に、実際に用いられた各数量についてシステムチャネルが生成される。一方、デバイス(機器)は、常時、システムチャネルを生成することができる。
Puma Openの場合、3つの機器グループに分けられる。すなわち、例えば燃料計量器などの測定デバイス、交換可能かつ顧客固有のI/O、いわゆるI/Oデバイス、及び、例えばコントローラ又は定式などの疑似機器(仮想デバイス)に分けられる。
個々の機器を結合するために、供給者−使用者モデルが用いられる。機器はシステムチャネルを介して物理的に接続されており、その際、各システムチャネルは、複数の使用者を有することができるが、供給者は単数でなければならない。
統合された測定データ診断にとって本質的な機能は、フィルタリングされていない未処理データにアクセスすることである。フレームワークアーキテクチャによって、Puma Openにおいて、所定のシステムチャネルについて、オンライン可視化(グラフィック)用及びレコーダ用のリングバッファを設けることができる。これの背景には、非リアルタイム運転システムが、常時、リアルタイム運転システムによって中断されるということがある。しかし、データを見るために、リングバッファが必要とされ、これによって、損失なくデータをリアルタイム部から非リアルタイム部へと転送することができる。その際、データは、時間的に同期して記録されるが、表示は時間的に同期しては行われない。
その際、リングバッファは、「時間軌跡」を記録するミニレコーダに相当する。リングバッファの開始時間は、リアルタイム階層のクロックマスタティックによって決定される。データ収集の時間間隔は一定である。このようにして、時間的に正確に値が記録される。本発明では、このリングバッファが測定データ診断に組み入れられることが想定されている。これによって、初めて、操作されていない未処理測定データの高周波信号解析を実施することが可能となる。
上述の、Puma Openのアーキテクチャにおいては、測定データの統合が、図6に模式的に示されているように、デバイスを追加して実現される。この理由は、新しいデバイスのために必要なインタフェースが、Pumaには既に存在するか、あるいは容易に付け加えることができるからである。これにより、試験設備の、診断に関連する全てのデータにアクセスすることが可能となる。図9は、システムチャネルマネージャ、試験設備管理、データ収集又はリミット監視のために必要なフレームワークアクセスがどのようなものであるかを示す。次に、図10も、試験設備システムと測定データ診断部との間のインタフェースとデータフローとを示す。この流れは、パラメータ化に必要な情報を管理階層から読み取ることから始まる。その際、特に重要であるのは、試料データ、テストランデータ、及びシステムで利用可能な測定チャネルである。
エラー検出部は、必要とされる入力情報に関してインタフェース階層と相互的なやり取りをしなければならず、かつ、診断結果の可視化のために、操作階層へアクセスできねばならない。診断結果の文書化も、やはり管理階層へのアクセスを必要とする。
基本的な実行可能性の他に、測定データ診断に対する期待度を表現することが、コンセプト開発における重要な点である。すなわち、どのようなエラー及びどの程度の診断深度まで、統合された測定データ診断によってカバーできるか、及びカバーすべきかという問いに答えなければなららない。目的は、原則として、使用できない測定結果につながる状態を検知することである。
その際、重要なことは、試験設備に直接測定された信号が存在するということ、及び、一般的にシステム動作に関する高コストの識別検査を実施することができないということである。これが、エラー検出の信号ベースのアプローチを生む契機となっている。その際、考慮しなければならないことは、エラーとエラーのないシステム動作とは明らかに区別する必要があるという点である。その際、検出できる重大度が、プロセスによって、及び、用いられる方式のポテンシャル又はモデルのポテンシャルによって異なるからである。
この重大度の目安は、検出強度である。これは、方式の特性及びパラメータであり、従って、確実に検出できる最小のエラーについての目安である。
簡略化又は仮定を伴うので、検出強度は、方式の特性とみなさなければならない。なぜなら、これらの仮定及び簡略化のために当該の方式をそれ以上厳密に記述することができないからである。
炭素収支における簡略化によって、例えば、最大検出強度は10%になる。すなわち、期待されるシステム動作からの有意な偏差を検出するためには、流入する炭素質量流量と流出する炭素質量流量との差は、少なくとも10%はなければならないということである。
測定データ診断を所定の試験タスクに最適に適合できるように、検出強度はパラメータ化可能でなければならない。従って、利用者は、エラー検出に対する自らの期待度を自分で決定することができる。この理由により、検出強度は、システム特性とみなされるだけでなく、パラメータともみなされる。
従って、検出強度は、エラー診断に対する期待度を定量化する重要な特性である。このために、用いられる各エラー検出方式について最大可能検出強度を提示しなければならない。例えば、HC未処理排出において5ppmの偏差が非妥当又はエラーとして検出できるという期待は、実現することができない。それに対して、動作時温度を有するエンジンにおいて、例えば100℃の排ガス温度を確実に非妥当として検出することは保証されねばならない。
さらに、エラーという概念とエラー原因あるいはエラー源という概念との間を明確に区別するように注意する必要がある。実際的には、例えば「非測定待機状態」という機器状態は、信号ベースの測定データ診断によって検出されるエラーである。エラー原因は、例えば補助エネルギーの不足(例えばFID用の燃焼ガス)であるかもしれない。しかし、信号ベースのエラー診断は、「排ガス解析非測定待機状態」というエラーから、「FID用の燃焼ガスがない」というエラー原因を導出することはできない。
この例からすぐに分かるように、信号ベースのエラー検出によって、エラーあるいは当該の測定信号へのエラーの作用を決定することはできる。一方、検出されたエラーからエラー原因を推定することは、ただ例外的な場合にしか可能ではない。しかし、測定データ診断が突出した測定信号を表示することで、利用者は敏感になり、また、この診断は、エラー原因自体を識別する際にも有効なツールとなり得る。
しかし、ある種の状況では、以下においてエラー検出の方式との関連で詳述するように、収支の偏差を求めるか、あるいは、排ガス依存の信号又はオペランドと、排ガスに依存しない信号又はオペランドとの間の冗長比較を行うこともできる。後に続く故障樹解析において、個々の場合について、エラー原因を指摘し、例えば、「排ガス測定非妥当」という結論を導き出すこともできる。
原則として、診断強度は、常に、診断の頑健性と対立する関係にある。頑健性もまたシステム特性であり、このシステム特性は、エラー診断の際、危険性及び障害がある場合の診断説明の信頼性に関係する。診断強度が非常に高く設定されており、信頼区間が狭く、許容差が小さい診断システムは、システムノイズによる有意な差及び偏差をあまり確実に解消できないとしても、頑健性を有すると言える。しかし、その際、エラー通知を生成してはならない。他方、設定があまりにも緩い診断は、有意な差を検出しないこと、又は検出が遅すぎることがある。このような極端なケースがどちらにしろ頻繁に生じる場合、正確な診断結果が得られるという信頼性は失われることになる。診断強度、診断深度及び頑健性という特性については、エラー検出の方式との関連でさらに詳細に論じ、定量化する。
測定データ診断を利用する際の重要な問題は、データにおける異常をどの程度素早く検出することができ、また検出しなければならないのか、ということである。従って、動作周波数fArbeitの決定が、コンセプト開発におけるもう1つの重要な点である。図11には、試験設備で一般的に用いられる、最重要測定変数用サンプリング周波数が示されている。
容易に見て取れるように、全ての重要な試験設備測定変数を1Hzから10Hzの範囲でサンプリングすることができる。それよりも高いサンプリング周波数は、一般的に特殊用途のために留保されたままである。同時にまた、測定データ診断によって生じるCPU負荷を考慮しなければならない。
第3の判断基準として、検出速度を検討することができる。測定データ診断は、システム臨界状態の監視機構としては不向きである。試験装置の安全性又は試料の安全性に関係する運転状態は、試験設備システムにおいて適当な管理メカニズムによって監視される。従って、エラー検出時にリアルタイム要求は発生しない。他方、異常は、できる限り素早く検出されるべきである。
日常の試験設備運転の解析から、測定データ収集は、通例、1Hzで、また耐久試験の場合には部分的に0.1Hzで行われていることが分かっている。従って、通例、全般的な試験設備利用には、1Hzの動作周波数fArbeitで十分である。それよりも高い動作周波数は、システム負荷上の理由により拒否される。反復方式のための準備時間と、1Hzという動作周波数とを考慮すると、測定データ診断は、エラー発生から30秒ないし60秒以内にそのエラーを確実に検出することができるべきである。
監視範囲に関しては、基本的に、監視すべき測定変数の個数は任意であるべきである。限界値は、ここでは計算コスト、メモリ容量及び試験設備システムのフレームワークによって決まる。図12は、TDI構造の例についての典型的な測定点を示す。これから、エンジン試験設備に典型的な測定チャネルを導出できる。
測定データ診断について、エンジンへ流入及びそこから流出する全ての質量流量並びに全ての関連する温度、圧力及び排ガス未処理排出が考慮される。ECU変数又は追加的なラムダ値は、全ての試験設備で利用できるわけではない。質量流量という項目におけるエラー検出及び排ガス解析時におけるエラー検出にとって、これらの変数は特に重要であり、従って、可能な限り考慮するべきである。
当該の測定点の一義的な識別のために、パラメータ化において、選択された全ての測定チャネルにいわゆるマスタークラスが割り当てられる。これらの測定チャネルは、プログラミングされたエラー検出アルゴリズムの変数であり、従って、測定変数と計算式とを結び付ける。マスタークラスへの測定変数の分配は、測定変数の位置と種類とに応じて行われる。測定点の位置は、位置0から位置4までの通し番号が付され、対応する物理的変数の略語によって補完される(例えば、T0=測定点0における温度)。
本発明の以下の実施形態には、以下のマスタークラスと測定点とが用いられる。
定常ステップの測定値は、測定段階の終わりに個々の測定の平均値から得られる。しかし、MSFを実施できるのは、ステップの開始と終了とが分かっている場合のみである。これらの情報は、試験設備システムから得られる。
定常ステップ測定の場合、PumaはMSFを独立した仮想測定機器として認識し、解析すべきデータを測定ウインドウを介して収集する。実現のために、イベントの開始及び終了を周期的に制御する適当なイベントマネージャ(デバイスハンドラ)を開発しなければならなかった。巡回エラー検出及び測定同期エラー検出は、並列的にも個別的にも行うことができる。このために必要な起動は、パラメータ化中に行われる。
測定の開始イベント及び終了イベントは、当該の定常ステップ測定の開始時点にPumaによって中止され、これらのイベントは、イベントマネージャによって傍受されねばならない。これに応じて、イベントマネージャはMSFを開始又は終了する。システム負荷を最小限にするために、リアルタイムリングメモリの読み取りは、作業工程1つ当たり1回だけ行われる。このために、データは2つに分けられた内部キャッシュメモリにコピーされる(図13)。キャッシュメモリのイベント制御とそれに対応するエラー検出モードの実施とが、図14に示されている。上述した汎用構造によって、ここで、他のマスタークラスを組み込むこともできる。
予備調査を通じて、及び、検査エンジニアとの経験の共有を通じて、測定データ診断の際に異なった運転モードに対する需要があることを知ることができた。この理由から、統合された測定データ診断では、静止エラー検出、巡回オンラインエラー検出(ZOF)及び測定同期エラー検出(MSF)という3つの運転モードが利用できる。
静止診断では、既にエンジン始動前に簡単なシステム検査が実施される。これにより、例えば、エンジンの動作中には実施できない、温度変数の簡単な比較が可能である。
もう1つの重要な点は、実験が開始条件の調整を必要とする場合である。この場合、静止診断が特に有効である。なぜなら、エラーの場合に、必要な限界条件に達するまでの不必要な待ち時間を伴わないからである。静止診断では、エンジン始動前の停止時に利用者が手動によって開始する特別なエラー検出方式が利用できる。これについては、静止診断との関連において、後に詳述する。
ZOFは自明な方式であり、既に上記課題がこれを行う理由である。しかし、ZOFによるテストランが長時間の場合、それに伴ってデータ量は大きくなる。
さらに、巡回エラー検出と測定同期エラー検出とを厳密に区別する理由は、日常の試験設備運転において、(調整段階及び安定化段階の後に測定段階自体を伴う)定常ステップ測定が実施されることが多いからである。MSFが測定データの解析を行うのは、システムによって定常ステップ測定が開始されたときだけである。その際、透明性及び時間上の理由から、測定中に測定データ診断をデータ収集と同期的に行うのが有利である。さらに、付言しておくべきことは、この運転モードが、試験設備への統合によって初めて可能になったことである。統合前には、測定データ診断のための定常ステップの開始及び終了を「可視化」することはできなかった。
巡回エラー検出の場合、及び、測定が起動されなかった場合、リアルタイムリングメモリのデータは、動作周波数で巡回エラー検出のキャッシュメモリへコピーされる。これに対し、「測定開始」というイベントが発生した場合、巡回エラー検出のために、リアルタイムリングメモリの、既に収集されているデータを一部分、測定同期エラー検出のキャッシュメモリへコピーしなければならない。それと全く逆のことが行われるのが、巡回イベントが測定同期エラー検出中に生じた場合である。この場合、終了イベントの場合と全く同じように、両キャッシュメモリへの書き込みが行われる。その際、巡回キャッシュメモリの評価は、それに対応する動作周波数で行われる。一方、測定同期メモリの評価は、常に測定の最後にのみ行われる。
妥当性方式の場合、各チャネルの物理的な意味が重要である。なぜなら、チャネルは、適当な方式及び計算式と結び付けられねばならないからである。この割り当ては、規準名マッピングと呼ばれ、パラメータ化中に行われる。ここではまず、妥当性検査を実施すべき全てのチャネルが起動される。次に、各規準名にそれに対応するマスタークラスが割り当てられる。これにより、例えば、規準名T_Zyl1がマスタークラスT3の測定チャネルであることがシステムに知らされる。規準名マッピングからの情報によって、診断システムは、自動的に全ての実施可能な方式を決定することができる。
物理式の計算が正確に行われることを保証するために、チャネル固有の物理単位をSI単位系に変換することが有効である。その際、例えば、温度は℃からケルビンに変換される。
場合によっては、圧力測定の際、別の変換が必要である。なぜなら、この場合、絶対圧と相対圧又は差圧との両方が生じる可能性があるからである。さらに、圧力は、さまざまな単位、例えばmbar、hPa、MPA、barなどで示される。誤りを避けるために、全ての圧力が、絶対圧及びSI単位のパスカルに換算される。データ変換に必要な情報は、パラメータ化部から得られる。
フレームワークにおける適切なインタフェースによって、物理単位に関する情報はまた、直接、規準名テーブルから取り出すこともできる。
パラメータ化によって、測定診断データを、任意の試験タスクに適合することができる。その際、特に注意すべき点は、パラメータ化を素早く、分かりやすく、かつ、中央集中的に行うことである。この要件を満たすために、独自のパラメータ化コンセプトが開発された。上述したように、規準名マッピングを通じて測定変数と物理式とを結び付けなければならない。一方、信号解析のためには、チャネルの物理的意味は重要ではない。なぜなら、この場合は、データに基づいた解析しか行われないからである。ここでは、限界値と確率とが重要である。機器チェックの機能は、特殊測定機器の適当な情報があることを前提条件とする。従って、自由にパラメータ化可能な診断パラメータがなければならず、これによって初めて、特定の要件に診断を適合させることが可能となる。自由パラメータのデータ入力のためには、それに対応する事前設定の他に、利用者との対話も必要であるので、適当なパラメータコンポーネントを統合しなければならない。
その際、パラメータ化は、重要な機能、すなわち、試験設備固有の適合を可能にする全てのパラメータへアクセスできるようにするという機能と、全ての診断パラメータに共通に有効である事前設定の仕方を開発するという機能とを有する。試験設備固有の適合のために、以下のパラメータ化グループが形成された。すなわち、規準名管理、静止診断、運転点変更検出、定常動作検出、信号品質、妥当性、アーカイビングというグループである。これらの個々のグループが、見通しを良くし、所望の設定に素早くアクセスすることを可能にする。
例えば、規準名管理において、監視すべき測定チャネル(規準名)の選択が行われる。そのとき、他のグループには、選択されたチャネルだけが現れる。
一方、運転点変更検出の場合又は定常動作検出の場合、所定のシステム動作を表す測定チャネルを選定することができる。
それに対して、信号品質のパラメータ化及び妥当性が、エラー検出の範囲を決定する。その際、自動的に、選択された規準名に基づいて最大限可能な方式範囲が決定される。
各パラメータグループについては、さらに、エラー検出の対応機能と共に論じる。
最も重要で最も難しい課題の1つは、エラー検出の評価と実際のエラーの把握である。これは、診断ワークフローにおいて、エラー分離、エラー識別及びエラー分類という主要コンポーネントに相当する。このために、個々のエラー検出方式とエラー重大度とを考慮しながら、汎用出力ロジックを開発しなければならない。これにより、多量の情報によって利用者に過剰な負担がかかることを回避することが保証される。同時にまた、このロジックは、適当な可視化に結び付けられていなければならず、この可視化は、異なった利用者のためのさまざまな情報階層を提供する。これは、図15に示されたピラミッド構造で実現される。
階層Iでは、診断の機能ステータス及びエラーステータスに関する情報が表示される。必要に応じて、階層IIにおいて、利用者は診断履歴に関する情報を利用できる。階層IIIでは、全てのエラー検出機能の現在のステータスを知ることができる。この出力ロジックの場合にも、後から個別機能を組み入れることが可能であるように注意する必要がある。すなわち、個別機能を後から実装するために、エラー検出を評価するための汎用プロセスを開発しなければならない。これらのコンポーネントは、後に、エラー分離及びエラー分類との関連で説明する。
測定データ診断を円滑に実行するために、目的に合わせたデータ管理が必要である。これは、内部データマネージメントと結果管理自体との両方に関連する。内部データマネージメントは、ミニデータバンクの形で実現される。このデータバンクには、以下のデータグループが含まれる。すなわち、パラメータ化データ、用いられた方式に関する情報、中間結果、エラー通知、利用者の介入というデータグループである。
これらの情報は、一部が診断の開始時に、一部がオンラインによって、データバンクに書き込まれる。そのとき、各1回の診断実行毎の終わりに、エラー分離部及びエラー分類部がデータにアクセスし、オンラインで診断結果を作成する。診断結果は、診断の終わりに、利用者の介入を文書化したものとパラメータと共に特定のファイルに格納される。これらのファイルは、試験設備のデータバンクにおいて適宜参照される。
プロセス依存性又は機器依存性の特徴を正しく判断するために、承認条件は、測定データ診断の重要な制御要素である。これの例は、燃料計量器への充填や運転点の変更あるいは変動点変更である。さらに、方式固有の要件にも注意しなければならない。例えば、エラー検出の大抵の方式は、定常的な運転点にしか適用されないからである。これは、特に信号解析と妥当性とに当てはまる。個々の承認条件に関する理由付けについても、以下において各方式との関連において説明する。しかし、測定データ診断における重要な承認条件は、定常動作検出、機器承認及び特別承認、例えば低負荷検出やジャンプ検出に関連する。
上記の事情を考慮して、図16に示された、診断の全体的な手順が生まれる。試験設備システムのリアルタイム階層において、未処理データは、損失なく、リアルタイム階層から非リアルタイム階層へ転送するためにリングバッファに書き込まれる。リングバッファのサイズは、当該のチャネルに関して設定された収集周波数に依存する。このパラメータ化は試験設備システムで行われ、測定データパラメータ化には含まれない。しかし、この情報は、適当なインタフェースを介して診断のために利用できる。
リングバッファは、パラメータ化可能な動作周波数(例えばfArbeit=1Hz)で読み取られ、n個の要素を有するデータパケットを形成する。これらのデータパケットは、診断プロセス用の未処理データとして用いられる。例えば、回転速度が1kHzのサンプリング周波数fAbtastで収集される場合、そのデータパケットはn=1000個の値からなる。
システム性能上の理由からこれらのデータパケットは、従来、一般的に直接、フィルタリング又は平均値形成を通じたデータ整理に送られてしまい、これによって、既に信号品質に関する重要な情報が未使用のまま失われてしまった。しかし、本発明によって、これらのデータは、高周波解析(HFA)を通じて将来解析されることになる。さらに、HFAによって、この周波数範囲に関して諸方式を用いるためのオプションが生まれる。HFAの終わりに、チャネル固有の結果は内部データマネージメントに伝送される。
操作を受けていない未処理データパケットは、この時点で試験設備システムのデータ整理に送られる。このデータ整理によって、データパケットはそれぞれ1つの測定値に整理され、この測定値は、長さがパラメータ化可能な動的メモリに格納される。このメモリ素子は、作業の次の工程においてデータベースとみなされる。
このデータベースは、ロールメモリ又はシフトレジスタと同様の働きをする。その際、指定長を有するウインドウが、一定の時系列にわたってシフトされる。これが図17に示されている。ロールメモリの全てのエレメントに書き込みが行われた場合、次の作業ステップにおいて、このリングメモリの内容全体が1エレメント分だけシフトされる。これにより、第1の(もっとも古い)値がメモリからこぼれ、その結果、最後に、データ圧縮によって得られた最新の平均値をロールメモリに書き込むことができる。
動作周波数fArbeitが1Hzである場合、例えば30個の値からなるメモリ長は、また30秒の観察時間を表す。データベースの内容は、その後の機能、例えば運転点変更検出、定常動作検出又は低周波信号解析(NFA)といった機能の基本データである。
幾つかのエラー検出機能にとってプロセス動作における変更時点が正確であることが重要であるので、いわゆる基準変数又は操作量(例えば回転数、モーメント又は点火時点)に関して、運転点変更検出が開発された。これの理由は、基準変数の急激な変化が、一般的に、出力変数における数学的に記述可能な応答動作(例えばPT1動作)を引き起こすからである。時間特性を削除することによって、例えば温度信号の場合、定常動作に至る前に信号解析を始めることができる。このために、モデル化した機能変化を、非線形回帰を用いて決定することができる。これは反復法なので、開始点はできる限り正確に決定しなければならない。
各チャネルの定常動作状態の決定が必要であるのは、利用されるエラー検出機能の多くが、定常運転にしか用いることができないからである。なぜなら、正規分布及び独立が前提条件であるからである。
個々のチャネルに関して定常状態に達している場合、データベースはNFAにも用いられる。これの例が、回転速度の未処理データに関して、図18に示されている。運転点変更検出、定常動作検出及び低周波解析の各結果は、HFAの結果と同じように、内部データマネージメントへ送られる。
定常動作検出の後、監視すべきチャネルの現在の測定値が、物理的、論理的及び経験的エラー検出機能によって妥当性検査に供給される。妥当性検査の範囲は、利用できる情報及び測定変数に依存する。パラメータ化を通じて、全ての個別機能は、機能プールから選び出すことができる。これらの個別機能は、利用可能な情報を用いて算定できる。ここでも、最後に個々の結果は再び内部データマネージメントへ伝送される。
部分的結果の評価は、エラー分離及びエラー識別という主要コンポーネントにおいて行われる。ここでは、部分結果は、互いに結び付けられ、さまざまなロジックブロックを介して、監視すべき測定チャネルに原因が帰せられる。別のロジックブロックにおいて、エラー重大度の評価が行われる。すなわち、エラーを有する状態又は非妥当状態がどの程度の長さ及びどの程度の明確さで存在したのか、及び、この状態が所定の時間限界値及び限界数値を超過しているかどうかが決定される。評価の結果、エラー分類は、並べて可視化され、文書化される。
文書化の際、特に注意すべきことは、診断結果の他に、パラメータ化による全ての設定及び全ての利用者の反応が、測定データと共に記録され、格納されることである。これにより、診断結果を常時再現することができる。
次に、典型例として、統合された測定データ診断の実現のために分析され、実装された個別機能について詳述する。その際、特に、利用時の検出強度、分離強度、自由パラメータ及び限界条件に注目する。
機器チェックは、最大の分離強度を有する方式に属している。なぜなら、この方式によって、エラーを有するチャネル又は測定機器の厳密な(100%)識別が、常に行われるからである。その際、検査は、直接的又は間接的、あるいはその両方で行うことができる。
直接的な機器チェックの場合、各測定機器が戻り値として供給すべきいわゆるステータスチャネルが用いられる。VDI/VDE2650シート1に従って、機器独自のステータス信号は、機器の状態に関する情報を含む。その際、機能不良、保守必要性、機能管理又は仕様外での運転に関する情報が利用される。試験設備システムにおいて、同様に、特別なチャネルに問い合わせることができ、これらのチャネルが、特殊測定機器に関する対応する情報を提供する。これらのエラーチャネル(通知チャネル)は、測定値と全く同じように、パラメータ化可能なインターバルで問い合わされ、以下の情報を提供する。
インタフェース接続のために、Pumaとの同期に関する問い合わせステータスに問い合わせることができる(0=Busy/<>0...Not Busy)。
例えば、燃料計量器を監視する場合、燃料質量流量を診断のために利用できるのは、燃料計量器が測定モードにあり、エラーを有さないときだけである。燃料計量器が充填モードにある場合、エラー検出を行うべきではない。なぜなら、このモードでは判定ができないからである。これに関連する制御も、機器ステータス及び承認条件を通じて行われる。
間接的な機器チェックでは、当該の測定機器に関するその他の情報がなく、測定信号しか利用できないことが考慮される。この場合、アンチフリーズ機能といわゆるNaNチェックとが導入される。両方式とも、エラーの場合における所定のデータ特性に関係する。
アンチフリーズ機能は、HFAにもNFAにも利用できる。インタフェースを介しての通信が正常である場合、互いに連続する複数の値が厳密に同じである確率は非常に低い。このことが、アンチフリーズ機能の背景である。数学的には、この状況は、標準偏差を通じて検査することができる。なぜなら、技術上のプロセスには、一般的に自然なノイズが付随しており、従ってs≠0でなければならないからである。逆に、プロセスノイズがデジタルによる解決手段によって取り除かれない限り、s=0という場合はありそうにない。図19には、これに関して、アンチフリーズ機能によって検出された、不具合のあるラムダプローブの例が示されている。この例は、TDIエンジンの外部ラムダプローブである。従って、エンジンのOBDはこのエラーを検出できない。物理的方式も、この例ではうまくいかない。なぜなら、やはりなお「妥当な」測定値が存在しているからである。従って、このエラーは、アンチフリーズ機能又は特別な統計的アプローチによってしか検出できない。
アンチフリーズ機能の場合、パラメータ化可能な個数の、等間隔の収集値について、同一かどうか、あるいはs≠0という条件を満たしているかどうかが検査される。s=0の場合、当該機器に対するインタフェースがフリーズしていることを意味し、最高優先順位のエラー(機器の機能不良/センサの機能不良)が出力される。
アンチフリーズ機能とは対照的に、NaN機能の場合、機器エラーが、しばしば、****、1EXP10又は#####のような「所定のエラー測定値」を返す、ということが利用される。これは、しばしば数字以外の値である。このような値にこの方式の名は由来している(NaN=not a number)。図20は、インデクシングを例にしてこれを示す。ここでは、測定中、データ転送の機能不良を繰り返し確認することができた。
NaN機能によって、データベース内のパラメータ化可能な個数の臨界値を超えていないかどうかが検査される。超過している場合、アンチフリーズ機能の場合と同様、優先順位が最も高い機器エラー又はセンサエラーが生じる。この簡単な機能及びわずかな計算コストによって、この方式もHFAとNFAの両方に利用することが可能となる。しかしその際、HFAバージョンの場合、リアルタイムリングバッファがデータベースとして用いられる。パラメータ化においては、NaN値の最大許容個数あるいは同一値の最大許容個数について指定するだけでよい。
リミットチェックは、HAFにおいて用いられ、典型的な限界値監視に等しい。このために、パラメータ化において、チャネル固有の限界値が指定される(例えばHC>0)。この簡単な機能によって、明確なエラー検出法が存在しない各チャネル、又は所定の限界値が最初から分かっている各チャネルを評価することができる。
例えば、全ての排ガス未処理排出が0よりも大きくなければならないという制限が適用される。また同様に、効率ηe<40%に制限することや、検査固有に消費率量be,min>160g/kWhに制限することが可能である。
従って、リミットチェックは、機器チェックと同じ分離強度を有する。なぜなら、ここでもエラーと測定チャネルとの直接的な割り当てが行われるからである。また、これによって、リミットの侵害があった場合、p=1である、優先順位の最も高いエラーが出力される。パラメータは、チャネル固有の最小値及び最大値である。
試験設備データにとって信号品質の評価が意味することは、これらのデータに、エラー判定及び誤った推定を引き起こす外れ値、許容外のノイズ、ドリフト又はその他の障害が含まれていてはいけないということである。信号品質の評価の焦点は、まさに上述のデータ関連の異常にある。目的は、物理的なシステム情報なしに、任意の信号に異常な点を検出することである。
その際、信号品質の評価は、信号形式解析、高周波信号解析(HFA)及び低周波信号解析(NFA)という3つの部分に分けられる。この評価の役割は、測定データの中に特殊な機能変化を検出することである。これらの機能変化によって、実際のシステム動作を推定することができる。
HFAにおいて、高周波サンプリングされた測定データに対して、信号処理の典型的な方式(例えばFFT)が用いられる。目的は、監視すべきプロセスに関する情報及び該プロセスを示す信号の品質に関する情報を抽出することである。その際、焦点は、デジタル(離散)信号解析にある。
NFAは、フィルタリングされた測定データの解析に用いられる。このような測定データは、典型的には試験設備システムに記録され、可視化されるデータのことを意味する。従って、これらのデータは、1Hzから10Hzまでの周波数を有するデータである。
信号波形の解析の役目は、特徴的な機能変化を検出することによって、観察されたプロセスに関する基本的な説明を行うことである。ここでもまた、データベースが基にされる。
測定データ診断において、試験設備及び測定データに関する次のような典型的な信号波形が観測される。例えば、パーマネント(ジャンプ)、飽和/減衰、ドリフト形状、ビート/振動、断続、ランダム又は外れ値有りなどである。しかし、信号波形の明示的な検討は、前記最初の4つの信号波形についてのみ行う。断続、ランダム又は外れ値有りの信号は、信号品質の評価において考慮される。
ジャンプ形状を伴う事象は、一般的に、いわゆる設定変数又は基準変数においてのみ生じる。DoE利用の場合、このような変数は、ファクタとも呼ばれる。これの例としては、運転点変更や変動点変更がある。
同じ運転点における点火時点の変化は、例えば、変動点変更と呼ばれる。
数学的には、ジャンプは不連続な事象である。これの記述は難しい。なぜなら、線形回帰のような典型的な識別法は使えないからである。簡単なジャンプ検出又は運転点変更検出については、後に提示する。
統計的な信号解析のために、ジャンプ検出は特に重要である。これによって非定常的な運転動作が開始されるからである。さらに、ジャンプ検出によって、運転点変更の正確な時点が取得できる。この情報は、反復的な初期値法の場合に開始時点として必要とされる。
設定変数の他に、いわゆるレスポンス又は応答変数もある。これらは、基準変数の、ジャンプを伴う変化に対するシステム応答を表す。この動作は、フィードバック技術においては、例えばPT1動作と呼ばれ、下記の微分方程式によって表される。
時間範囲におけるジャンプ応答は、式5.1を解くことによって得られる。
逆に、上記知識を用いて、データベースからジャンプ応答のパラメータを推定することができる。これは、非線形の初期値問題である。
パラメータの算定は、例えばガウス・ニュートン法によって行うことができる。ヤコビ行列を構成するために必要な一次偏導関数は次のようになる。
基本となるのは、最小二乗法である。線形回帰の場合と同じように、この場合も以下の剰余式が用いられる。
なお、PT1動作には式5.2が用いられる。
これを解くためには、||f(x)||を最小にしなければならない。当該分野の文献から、下記式
から一義的なミニマイザが得られることが分かる。このために、まず、ヤコビ行列Jが算定される。ヤコビ行列は、微分可能関数の微分行列とも呼ばれ、全ての一次偏導関数のm×nの行列である(式5.3aから5.3c)。置き換えによって、式5.6と、従ってまた反復式5.7とが得られる。
典型的なガウス・ニュートン法ではα=1が用いられる。
各反復ステップについて、ヤコビ行列とベクトルfを、xの解と共に新たに算定しなければならないので、最大10ステップの後に反復は中断される。
正確な開始点の他に、開始値の選択も重要である。このことが、対応する開始値サーチの開発につながった。PT1アプローチのために、開始値が以下のように決定される。すなわち、
K=max(データベース)−min(データベース)
λ=0.05
b=データベース(1)
この推定のための品質判断基準として、決定係数R2が利用される。R2>0.8なら、良好な推定と言える。
図21は、2.2リッター直噴式オットーエンジンにおいて2000min−1の負荷急変が生じた事例について、排ガス温度をモデル化するためのPT1アプローチを利用した例を示す。このために、負荷急変後、動作周波数fArbeit=1Hzによって、10回の反復を伴うガウス・ニュートン法が用いられた。算定されたパラメータ及びそれに関連する決定係数が、表T5.1にまとめられている。
R2の上記数値は、それぞれ算出区間にのみ関連する。
この方式によって定常動作状態がどの程度まで事前算定できるのかが、図21及び図22から見て取れる。これらの図は、T5.1のパラメータを用いて適切に外挿された信号特性を示しており、また、適切な開始値を用いると、PT1モデルが離散区間を記述するのに非常に適していることを証明している。従って、このアプローチは、例えば、温度チャネルにおける時間特性の補償のために適している。しかし、外挿法は推奨できない。なぜなら、最終値が示されることがなく、また、示された曲線のいずれからも漸近線への移行が正確に示されることもないからである。
ドリフトという概念は、一般的に1つの値又はシステム特性が比較的ゆっくりと変化することを意味する。数学的には、ドリフトは、式5.8で示される単純な直線によって表すことができる。
パラメータを推定するためのこの適切な方法は、線形回帰と呼ばれる。パラメータa1及び2は、式5.9及び式5.10によって測定データから算出される。
回帰直線の算定は迅速かつ簡単に行われるので、この方法は、定常動作の簡単な評価のために非常に適している。従って、この方法は、後述する定常動作検出にも含まれている。
データベースから振動又はビートの自由パラメータを算定するためにも、非線形回帰の方式を用いることができる。方法としては、高調波振動を式5.11に従って設定するか、あるいは式5.12に従ってビートを設定する。
高調波振動は、振幅
と周波数f及び位相差ψというパラメータによって特徴付けられている。高調波振動とは対照的に、ビートは、類似する周波数を有する2つの振動の重ね合わせと解される。振幅の他に、周波数f1及びf2を決定する必要がある。その際、簡略化のために、純粋振動であると仮定する。すなわち、正弦波成分の振幅は、余弦波成分と同じであると仮定する。しかし、振動モデルの回帰の場合には、ガウス・ニュートン法の無効がしばしば検出された。これは、1回目の繰り返しループで既にdet(J‘*J)=0が生じたからである。
信号品質の評価は、統合された測定データ診断の中心的な役割の1つである。このために必要な信号解析では、時間特性と、潜在的な障害及びノイズ信号に対する有効信号の比とが分析される。デバイスアーキテクチャによって、平均値形成又はフィルタリングによるデータ操作の前にリアルタイムデータを未処理データ解析することが初めて可能になった。未処理測定データへのアクセスによって、信号品質の評価は、図23に示されているように、高周波信号解析と低周波信号解析とに分かれる。
測定技術では、通例、収集周波数と動作周波数とは異なる。これは、シャノンのサンプリング定理による。このサンプリング定理が意味することは、連続周波数は、収集周波数fErfassung≧2×最大fArbeit, maxでサンプリングしなければならず、これにより初めて、そこから得られた時間離散的な信号から、情報損失を伴うことなく元の信号を再構成することができるということである。この定理に従わない場合、いわゆるエイリアス効果が生じる可能性がある。
チャネル固有の収集周波数及び動作周波数は、試験設備において利用者によって指定することができる。その際、利用者は、例えば、回転速度信号をfErfassung=1000Hzでサンプリングし、一方、システムではfArbeit=10Hzでのみ表示されるように設定することができる。これにより、システムチャネルに適当なリングバッファが設けられる。このリングバッファは、高周波信号解析(HFA)のデータ源である。測定データ診断をデバイスとして統合することによって、これらのデータへのアクセスが可能となっている。その際、「高周波」とは、収集周波数≧10Hzで測定されたデータのことを言う。従って、時間領域及び周波数領域において、統合された測定データ診断のための新たな可能性が開ける。これらの可能性については、高周波信号解析(HFA)の章でまとめて述べる。基本的に、この章で提示された方式は、当然、低周波信号解析(NFA)にも用いることができる。
従って、HFAとNFAとの区別は、実質的には、分析すべきデータベースの区別である。HFAの場合、未処理測定データを基にして、後に、フィルタリング又は平均値形成を通じて、試験設備システムに表示される測定データが生成される。その際、新たなことは、HFAによってこれらの測定データの品質を判定できることである。
周波数領域については、例えば、以下のような特性値及び特性関数、すなわち、離散フーリエ変換(FFT)y(n)、パワー密度Syy(iω)あるいは自己相関関数Ryy(τ)を用いることができる。
その際、自己相関関数は、最も重要な特性関数である。なぜなら、自己相関関数は、異なった時間シフトtにおける信号の自分自身との相関を表すからである。時間信号x(t)について、時間間隔TFにおけるRyy(τ)が式5.13によって算定される。
その際、Ryyは、τ=0においてピークに達する。なぜなら、そのときに、Ryyは、その関数の平均パワーに比例する値となるからである。デジタル信号解析において、自己相関関数は、一般的にパワースペクトルSyy(式5.14)の逆フーリエ変換(iFFT)によって算定される。
Ryyによって、例えば、非常に大きなノイズを含む信号における周期性を識別することができる。しかし、この目的のために、???の大きな値に関する自己相関関数だけが観察され、τ=0を中心とする範囲は無視される。なぜなら、ここにはとりわけノイズ信号の強さに関する情報が含まれているからである。信号対雑音比(SNR)の算定の際は、自己相関関数の正反対の評価が行われる。τ=0の場合、パワー信号に関する自己相関関数は、エネルギー信号における二乗平均値あるいは信号エネルギーを表す。この特性は、SNRの算定のために用いられる(式5.15)。
その際、SXは、位置0におけるノイズなしの自己相関関数を表し(有効信号)、NXは、ノイズピークの高さを表す。これが実際上意味することは、時間信号x(t)から、まず、フーリエ変換されたy(n)が算出され、式5.16によってパワースペクトルSyyが算定されるということである。
パワースペクトルの逆フーリエ変換(iFFT)によって、自己相関関数が得られる。次に自己相関関数から、式5.17によってSNRを算定することができる。
信号パワーは、一般的に、ノイズパワー又は干渉パワーよりも数桁大きいので、SNRはデシベル(dB)で示される。良質な信号と呼べるには、SNRがどの範囲になければならないか、という点については、関連分野(信号処理及び情報技術)の文献からは得られなかった。例えば、人の言葉を理解可能に伝送するためには、SNRは約6dBでなければならない。映像技術において良質な信号と言われるのは、SNR>60の場合である。これは、有効信号対ノイズ信号の比が1000000/1である場合に相当する。図24には、1Hz定常ステップ検出の結果の典型例が示されている。SNRについての対応する値が、表T5.2にまとめられている。
表5.2は、分析の結果を非常に良好に再現している。SNR>50は、ほとんどの試験設備データにおいて、非常にまれにしか現れない。はるかに頻度が高いのは、30dB<SNR<50dBの範囲の値である。この理由から、ランダムに選択した標本を詳細に分析して、観測された信号の品質が、エンジニアによる解析において良又は不良に分類されるのかどうかを確かめた。それに続いて、その分析結果と上記のSNR範囲との間で比較が行われた。それの平均有効圧力の例を図24に示す。
低負荷点(pme=2bar)の場合に即座に目につくことは、SNRが、高い負荷点の場合よりも明らかに劣っていることである。平均圧力に4%の変動がある場合、熟練したエンジニアもそれを不可とみなすであろう。この見方は、また、27.7dBという比較的小さなSNRについても当てはまる。それに対して、最良点においては、SNR=53.9dBであり、2倍優れたSNRを実現できる。SNRに関するこれらの分析から、測定データ診断について、下記表の限界値が設定される。
時間領域における信号品質を評価するために利用できるもう1つのものは、中央値からの偏差である。この解析は、中央値からの偏差を所定の限界値と比較することによって行われる(表T5.5)
中央値からの偏差は、極めて頑健な散布度であり、観察事例において、個々の値xとリングバッファの中央値
とから、式5.18に従って算出される。
試験変数Fは、式5.18を考慮して、次式となる。
この変数は、パラメータ化された限界値rと比較検査される。その際、この試験変数を算定するために、リアルタイム階層からの少なくとも10個の測定値が必要とされる。サンプリング周波数fabtast<10Hzの場合、自動的に保存手続きが開始され、この手続きによって、当該のサンプリング周波数に応じて、所定の個数nのデータパケットが一時的に保存される。これによって、現在のリアルタイムメモリのデータ内容に、先行するデータパケットのデータを書き込むことができ、その結果、常に十分なリアルタイム標本値が、試験変数の算定のために利用できる。次の条件、すなわち、
に従って、それに対応するバイナリのエラー登録が行われる。HFAのバイナリ結果を容易に得るために、この2つの提示された方法の一方のみを起動すべきである。本発明においては、式5.17に従った手順が好ましい。これにより、HFAはp=1という分離強度を有する。なぜなら、当該の信号は、時点tにおいてF>rあるいはSNR>SNRkritという条件を満たすか、満たさないかのいずれかであるからである。
HFAとは対照的に、NFAの場合、利用者ベースのアプローチと自動アプローチとの間で選択が可能である。
後に説明する利用者固有のアプローチの場合、当該の相対限界値又は絶対限界値の指定は、利用者によってパラメータ化において行われる。一方、同様に後に説明する自動アプローチの方式は、まず第一に、測定データが統計的に突出した値にならないように、逸脱すべきではない限界値を算定するために用いられる。
その際、評価は、原則として限界値監視によって行われ、この監視において、統計的な手法を用いて、又は、パラメータ化によって、当該の限界値が決定される。しかし、この種の限界値監視は、上述したリミットチェックと混同すべきではない。リミットチェックと異なり、当該の限界値は、信号解析において、パラメータ化可能な区間[t−n、t]に対してのみ適用される。
NFAの間に、データベースから特性値、限界値又は試験変数が算出される(図25を参照)。それに続いて、データベースの要素が、算定された限界値と比較される。その際、標本の要素が許容限界値を逸脱しているか、及び、許容限界値を逸脱した要素がどれだけあるか、ということが突き止められる。突出値と統計的基本仮定値との個数によって、信号品質を直接的に記述することができる。さらに、監視区間中にプロセス又は当該信号が統計的管理状態にあったかどうかを、決定することができる。
ここでもう一度明確に指摘しておくが、統計的信号解析は、ただ数学的に根拠づけられた推定を提供するに過ぎず、物理的妥当性に関する情報を与えるものでは決してない。統計的信号解析は、統計的に見て根拠のある突出性を示す情報を提供するだけである。しかし、利用者が指定した(絶対又は相対)限界値によって、測定原理と当該測定点の物理特性とが考慮される。このためには、適当なパラメータ化以外に、標本値xiと限界値との比較を組み入れなければならない。
自動信号解析のためには、統計的アプローチが好ましい。これに関連して、標本特性値、代表値、外れ値又はその他の特性変数を決定するための多くの統計的な検定及び方式がある。その際、注意すべきことは、時に統計的限界値が非常に狭く算定され、その結果、これらの限界値を物理的に又は測定技術の観点から実現できないことがある、という点である。しかし、明らかに狭すぎる、又は広すぎる算定限界値は、一般的に、上述の限界条件の侵害に関する指標、又は、信号欠落やインタフェース問題による結果に関する指標である。これは、大抵の場合、当該信号の非常に大きな、又は非常に小さな標準偏差に基づく。
絶対限界値及び相対限界値の算定は、中央値、及び、検査に用いられるパラメータ化された閾値を使って行われる。最後の測定データ点xiに関する相対偏差Rの算定は、式5.21に従って行われる。
この試験変数Rは、中央値
を中心とする利用者指定の相対限界値Rmin及びRmax(例えば+/−5%)と比較検査される。この値が限界値を超えている場合、測定データ点は外れ値としてマーキングされる。
絶対偏差Aの算定は、最後の測定データ点xiについて式5.22に従って行われる。
その際、A値は、中央値
を中心とする利用者指定の絶対限界値(例えば+/−5min−1)と比較検査される。この値が限界値を超えているとき、この場合も、測定データ点は外れ値としてマーキングされる。
自動的なアプローチとして、特性変数又は限界値を算定するための、さまざまな分布依存性の方式が考えられる。しかし、分布依存性の方式のためには、先立ってまず、対応する分布がもともと存在するかどうかを検査しなければならない。これにより、限界条件、特性変数及び限界値という各ブロックに信号解析を分類することになった。
限界条件というブロックでは、現在のデータが、データベースからジャンプ及びドリフトを有していないかどうか、及び、正規分布と統計的独立性とに対する要求が満たされているかどうかが解析される。
特徴的な特性変数の算定は、特性変数というブロックにおいて行われる。これらの変数は、データベースの統計的な信号対雑音比の目安として用いられる。これにより、観測されたデータパケットの基本品質に関する記述を行うことができる。
限界値というブロックは、外れ値検出に用いられる。
上述の各ブロックに関する多くの統計的な方式、検定及び特性変数の中から、各範囲について、幾つかの方法が選出され、統合された測定データ診断に対するそれらの方法の適正が解析された。
正規分布を調べるために、ジャルク・ベラ検定及びコルモゴロフ・スミルノフ検定が、リリフォースの修正(リリフォース検定)と共に分析された。統計的独立性の検定は、自己相関係数の観測、あるいは、R.A.フィッシャーによる相関性についての仮説検定、及び逐次的な差の分散によって行われる。特性変数の領域では、変動係数、平均二乗偏差、標準誤差、中央値からの偏差が、信号対雑音比の特性値として分析された。限界値による外れ値管理のために、Zスコア検定、グラッブスによる外れ値検定、ナリモフによる外れ値検定及び品質管理図の方式が検討された。上記方式の選択は、実質的に計算コスト及び頑健性に基づいて行われた。
計算コストは、1つの試験について新しい変数及び計算がどれだけ必要であるかによって定められる。ある方法が標準偏差又は中央値及び平均値のような変数を用いる場合、この方法を優先すべきである。なぜなら、これらの変数は、常に標準モードで算定されるからである。
一方、頑健性は、ある方式が、干渉を受けたデータをどの程度良好に処理できるかを表す。例えば、平均値と中央値との間で選択を行える場合、ここでは常に中央値が用いられる。中央値の方が極値に対する感度が小さいからである。すなわち、中央値は極値に対して頑健性を有する。同様のことが、例えば、平均二乗偏差についても当てはまる。標準偏差と比較して、平均二乗偏差の方がやはり極値に対して頑健性を有している。
測定データ診断に対する各方式の適正を客観的に評価できるように、200個以上のランダムに選択された測定ファイルが、評価の基礎として用いられた。これらのデータは、個々の標本についてチャネル毎にそれぞれ30個の値を用いて分析された。メモリ上及び容量上の理由から、ロールメモリは連続的ではなく、書き込み消去方式によって書き込まれる。
正規分布の検査は、さまざまな統計的検定によって行うことができる。本発明においては、ジャルク・ベラ検定及びコルモゴロフ・スミルノフ検定が、リリフォースの修正(リリフォース検定)と共に分析され、それらの、測定データ診断における正規分布の評価のための適正が解析された。
関連分野の文献から分かることは、リリフォース検定は、特に標本の大きさが小さい場合に、他の検定以上に正規分布からの偏差を検出するということである。さらに、リリフォース検定は、非常に頑健であるが、しかしまたあまり精密ではないとされている。リリフォース検定とは対照的に、ジャルク・ベラ検定は、分布の形を歪度と尖度の特性値を評価する漸近検定である。両検定の比較のために考慮すべきことは、統計学の文献においては、分析対象のデータが「近似的に正規分布」している場合、正規分布に対する要求が一般的に既に満たされているとみなされる、ということである。
最大20000個のチャネル毎の個別標本を分析することによって明らかになったことは、ジャルク・ベラ検定の検定統計は、非正規分布データにおいて、リリフォース検定の場合よりも、試験変数との相違が著しく大きいということである。従って、帰無仮説は、明らかに「より強く」棄却される(強い判定)。これはまた、近似的な正規分布も排除する。その際、分かったことは、ジャルク・ベラ検定は、両検定の直接的な比較では、リリフォース検定よりも明らかに控えめな判定を行うということである。このことは、測定データ診断のためには、「近似的に正規分布した」という表現からも、全く十分である。これらの理由から、及び幾分計算コストが削減されることから、ジャルク・ベラ検定が、正規分布の評価のために選択された。
統計的独立性を評価するために、全部で3つの異なった方法が分析された。自動相関係数(AKK)の評価とは異なり、逐次的な差の分散及びR.A.フィッシャーによる相関検定は仮説検定である。
AKKに関する統計的独立性の検査は、データベースのいわゆるラグ1列について行われる。ラグとは、ここでは、値がi個分の位置だけシフトされている値列を意味する(自己相関関数又はいわゆるラグi列)。このシフトから、相関係数の決定に関連する2つのデータ列が生じる。データ列の、自分自身との相関であるので、この場合、AKKと呼ばれる。また、AKKは、自己相関関数から数式5.23に従って正規化することによっても算出できる。
関連分野の文献から、独立性の正確な目安として設定される明示的な値を挙げることはできない。しかし、非特許文献14に、自己相関係数AKK=|0.5|による観測が記載されている。さらに、以下の考え方がなされている。すなわち、
Px、y=0である場合、XとYとは無相関であることを意味する。
Px、y≠0かつ|Px、y|≦0.5である場合、XとYとは弱い相関性を有することを意味する。
0.5<|Px、y|≦0.8である場合、XとYとは相関性を有することを意味する。
0.8<|Px、y|≦1である場合、XとYとは高い相関性を有することを意味する。
測定データ診断における信号解析に関しては、定義によって、独立性を有するためにAKK≦|0.5|が満たされねばならないと定められる。バイナリ結果のみを提供する仮説検定とは対照的に、AKKの観測時、理論的には任意の閾値さえ入力することができる。これにより、利用者は、相関性の程度に関する、より優れた情報が得られる。従って、AKKは、独立性についての定量化可能な判定を提供し、この判定を、利用者は容易に理解し、パラメータ化することができる。AKKの利用を肯定するその他の理由は、試験変数の算定のためにテーブル値を伴う必要がないこと、及び、AKKはまた、この章で説明している
品質管理図を補正するためにも用いられることである。
これらの理由から、統計的独立性の評価は、自己相関係数の算定によって、限界値AKK<|0.5|に照らして行われる。
統計学の重要な道具の1つは、散布度の解析である。これは、標本の変動性又は分布を示す特性変数である。NFAに対しては、標準誤差、平均二乗偏差並びに変動係数及び中央値からの偏差が分析された。
その際、変動係数が特に注目された。なぜなら、変動係数の定義は、統計学的に表された信号対雑音比(SNRStatistik)の逆数に相当するからである。統計学的に定められたSNRStatistikは、測定された信号の標準偏差に対する平均値の比と定義されており、式5.24によって算定される。
SNRStatistikがデシベルで表される場合、式5.17を使った場合と同じ値が得られる。ただし、これは、厳密には定常動作点に関してのみ当てはまる。
すなわち、NFAにおいて、及び、定常状態を前提とする場合、式5.25によってSNRを算定できる。平均値と標準偏差とはいずれも標準モードで算定されるので、追加コストは非常にわずかしか発生しない。SNRStatistik以外に、他の上記特性値が、同じデータセットを用いて分析された。その際、特性変数による信号品質の評価は、SNRStatistikを含む式5.25に従って行われた。
HFAの場合と同じ限界値が用いられる。
この判定の根拠は、SNRStatistikの算定のために、HFAの場合と同じ関数を用いることができるということである。従って、自動的に、パラメータ化コストも最小限に抑えられる。同時にまた、より多くの特性変数を用いる場合は、計算コストも増大するであろう。
限界値のブロックに関しては、代表的な外れ値検定としてナリモフ検定とグラッブス検定とが分析された。一方、信号品質を評価するために、プロセス監視と製品監視とで構成される方法が新たに用いられた。その際、特に注目したのは、品質管理図方式及び Western Electric 社の品質管理、いわゆるWECOルールであった。
品質管理図(QRK)は、統計的プロセス管理ツールである。これらのツールを用いて、不可避のランダム分散と、プロセス干渉に基づく系統偏差とを区別することが試みられる。品質管理図によってプロセス解析が実施され、それに続いて、観測されたプロセスが、所定の品質特性(例えば平均値)に関してコントロールがなされているかどうか、という問いに答えることができる。その際、QRKは、平均値μ又は標準偏差oが、望ましくない影響によっていつ変化したのかを示すという役目を担う。コントロールされている場合、安定したプロセス又は乱されていないプロセスとも呼ばれ、このプロセスは、「統計的管理」の下にあるという言い方をする。これの検討は、本書においては、2つのQRK、すなわち典型的なシューハートQRK又は
とCUSUM-QRKとに限定される。
統計的プロセス管理における標準仮定の1つは、上述した、独立性を有する正規分布のデータが必要であるということである。その際、独立性の方が、正規分布よりも明らかに感受性が高い。
QRKの機能性に対する、相関性を有するデータの作用については、非特許文献15において詳細に検討されている。導入として、ここでも、このテーマに関する広範な文献を参考にすることができる。しかしここでは、非特許文献16、非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19だけを指摘しておく。これらの文献は全て、主にシューハート管理図を扱っている。また、統計的プロセス管理における相関性を有するデータの問題点及び作用について広範な見通しを与える文献は、非特許文献20、非特許文献21、非特許文献22、非特許文献23、非特許文献24、非特許文献25である。
品質管理図を利用する場合、誤警報が観測中にどれくらいの頻度で期待されるべきか、及び、系統誤差、例えば平均値のドリフトがどれほど素早く検出できるのか、を明らかにする必要がある。
期待されるエラー通知に関する目安は、通常、ARL(Average Run Length)と呼ばれる平均連長である。ARLは、QRKにおいて、平均して、1つの点を管理限界の外で検出するまでに、安定したプロセスの、連続するデータ点をどの程度の長さプロットしなければならないか、を表す。従って、統計的管理下にあるプロセスについては、ARLはできる限り大きいことが望ましい。一方、プロセスが統計的管理下にない場合、ARLはできる限り小さいことが望ましい。なぜなら、これによって、監視している品質特性における変化が、その分素早く検出されるからである。非特許文献26に、標準化された特性変数h及びkを用いてシューハートQRK及びCUSUM-QRKのARLについて算定した値が記載されている。
k=0.5と設定されている場合、平均値の変化は、表T5.7の第1列の値に0.5を加えることによって決められる。例えば、h=4において平均値が1σ変化したことを検出するためには、CUSUM-QRTのARLは、ARTCUSUM=8.38となる。
表T5.7の最後の列には、同じ平均値偏差に対応する、シューハートQRKのARLが記載されている。これは、ARLShewhart=1/pである。ただし、pは、1つの点が管理限界から逸脱する確率である。これから明らかになることは、3σ限界であり、かつ、正規分布であると仮定した場合、上限(UCL)を超える確率pは0.00135であり、また、下限(LCL)を下回る確率pも0.00135である。従って、シューハートQRKを上回る場合又は下回る場合のARLShewhartは1/0.0027=370.37に算定される。このことから、プロセスが管理下にある場合、371個の値につき1つのエラー通知が予想されることになる。しかし、平均値が1σ上方へ変化すると、管理上限とシフトした平均値との間の差は、(3σではなく)2σだけになる。標準正規分布の水平部分に関する統計学上の基本事項から、z=2の場合、この限界を上回る確率pは0.02275ということになる。このとき、シフトした平均と下限との間の差は4σであり、
の確率pは0.000032という非常に小さな値であり、無視することができる。従って、ARLShewhartは、上記の場合、1/0.02275=43.96であると算定される。
このことから得られる重要な結論は、シューハートQRKは大きな変化を認識するために、より適しており、CUSUM-QRKは小さな変化を検出するために、より適しているということである。そこで、表5.7はまた、この見解に関する損益分岐点が関数hであることを示している。
CUSUM-QRKは、現在の試験変数SHi及びSLoを算定するために過去の測定値も考慮する管理図である。その際、基準値からの標本値の偏差が、当該時間にわたって累積される。これにより、小さな系統上のプロセス変化も非常に早期にかつ敏感に検出することができる。CUSUM-QRKの限界は、当該時間に依存する累積度に応じて決定される。これにより、期待値が上方又は下方へシフトすることが防止されるはずである。このために、各測定値から参照値が差し引かれ、その結果、平均値は0を中心に変動する。参照値としては、測定データ診断においては、データベースの平均値が用いられる。CUSUM-QRKの累積特性値は、式5.28によって算定される。
ただし、SHi(0)=0及びSLo(0)=0である。
という結果である場合、SHiの現在のCUSUM値はゼロに設定される。しかし、この値がゼロよりも大きい場合、SHiは加算される。SLoについては、これは、SLo<0の場合に加算され、SLo>0の場合に0にリセットされるということを意味する。SHiが臨界限界hを上回る場合、当該プロセスは、その時点から「統計的管理下にない」ということになる。非特許文献14では、h=5及びk=0.5が推奨値として挙げられている。表T5.9は、これに関する1例である。
シューハートQRKは、最も頻繁に用いられる管理図である。この管理図は、単独で、又は、他の管理図と組み合わせて用いることができる。その際、管理図で分析される標本は、個別値であっても、あるいは、大きさnの標本抽出、すなわちいわゆるサブグループであっても構わない。前者の場合、X管理図と呼び、後者の場合、
と呼ぶ。サブグループの観測は、ある程度の減衰効果を有し、個々の極値に対する管理図の感度は低下することになる。以降、本書においてシューハートQRKと言うとき、これは、常に
を意味する。
進行中のプロセスにおいて観測される母集団については、一般的に標準偏差も平均値も分かっていないので、これらは、適当な推定量を用いて算定しなければならない。このために、進行中のプロセスから、かなりの数である大きさnの標本が採取される。非特許文献14から、シューハートQRKの場合、n=4から5の少なくとも20個のサブグループが推奨されることが分かる。
通常、
は、s管理図と組み合わせて用いられる。その際、まず、s管理図によって、品質特性の分布(本書においては平均値の分布)を定常的とみなせるかどうかが検査される。このためにまず、各サブグループiについて標準偏差siと平均値
とが算定される。サブグループ数をmとすると、サブグループ
の平均標準偏差を式5.27に従って算定できる。
s管理図の管理限界を算定するために、もう1つの値、いわゆる
が必要となる。
は、未知の母集団σの標準偏差に対する不偏推定値である。因数c4は、標本の大きさnを考慮して、式5.28によって算出するか、あるいは、文献の表から持ってくることができる。
とc4とを用いることで、式5.29a及び式5.29bからs管理図の管理限界を算定できる。
パラメータB3及びB4も文献から持ってくることができる。
の管理限界も同じように算定される。式5.30によって、まず、母集団
が算定される。
限界値は、式5.31a及び式5.31bで算定される。
パラメータA3も文献から持ってくることができる。
独立性及び正規分布に関する仮定が大きく侵害された場合、これは、特に相関性を有するデータにおいて、管理限界の誤った算定につながる。非特許文献14から、相関性を有するデータの場合、s管理図と
との限界値は、一般的にあまりに小さく設定されることが見て取れる。非特許文献18では、相関性を有するデータがシューハートQRKの機能性に対して及ぼす作用について分析されており、この問題に関する解決手段が提示されている。しかし、中央集中型の測定データ診断のためには、これらの解決手段は、補正値を伴うさまざまなグラフを必要とするので、あまりに高コストである。それにもかかわらず、相関性を有するデータにも有効であるように、本発明では、経験的な補正係数が導入された。この補正係数によって、自己相関係数AKKに応じて、
の管理限界が拡張される。補正限界は、下記の式5.32a及び式5.32bによって算定される。
補正は、AKK>0.5の範囲で実施される。限界があまりに拡張され過ぎないように、AKK=AKKmaxは0.9に制限される。
WECOルールは、Western Electric 社の場合、製造プロセスの監視のために開発された。これらのルールは、標本標準偏差sと1s、2s及び3sに関する重大度限界とに基づいている。これらのルールの背景は、上述のケースの1つが発生する確率pが0.0027である場合、正規分布データの際に、観測データの99.73%が±3s内にあるので、この確率は偶発的ではなく誤差として評価されるということである。
これらのルールは、以下のように定められている。すなわち、
1.少なくとも1つの値が3s限界を超える(ゾーンA)。
2.互いに連続する3個の値のうち2つが2s限界を超える(ゾーンB)。
3.互いに連続する5個の値のうち4つが1s限界を超える(ゾーンC)。
4.互いに連続する8個の値が、中心線の一方の側にある。
5.トレンドルールは、互いに連続する6個の値が昇順の値又は降順の値であるとき、それらの値がトレンド特性を持つということを意味する。
個々の方式を対比すると、グラッブス検定とZスコア検定のみが同じ結果をもたらすこと、及び、比較すると、この両方法が明らかに控えめな結果を出すことが分かる。すなわち、外れ値の検出が少なくなる。一方、
とWECOルールとを比較した場合に目につくことは、WECOルールの方が、
よりも検出頻度が高いことである。この理由はグルーピングにある。WECOルールの場合、各値は、減衰されることなく判定に考慮される。
の場合、極値は、グルーピングによって弱められる。しかし、WECOルールでは、点の連続が重要な役割を担う。従って、限界値ブロックについて、個別の最適な方式を挙げることはできない。ここで考慮すべきことは、上述の全ての方式が、多かれ少なかれ強い分布依存性を有すること、及び、ジャルク・ベラ検定では、同様に多かれ少なかれ強い正規分布を持つ場合が検出されることである。この理由から、外れ値検出のために複数の方式が並行して用いられる。以下の方式を組み合わることが、極めて的確かつ頑健であることが明らかになっている。
ナリモフ: 検定区間において検出される外れ値が2個である95%レベルでのナリモフ検定
グラッブス: 95%レベルでの帰無仮説H0(外れ値なし)の棄却
QRK: 1つ以上のグループ値が、QRKを逸脱している
Zスコア: 1つ以上の標本値が、−3.5<z<3.5の区間の外にある
後のエラー分離及びエラー検出のために、NFAの個別ブロックから1つのバイナリ結果を生成しなければならない。このために、特別なロジックが開発され、そのロジックが図26に示されている。信号品質のロジックのために、まず、式5.33aから式5.33cが開発され、これらの式によって、個々のバイナリ結果のブロック結果が形成される。
これらのブロック結果は、新たに加算され、信号品質の試験変数PGSQと比較される。信号品質領域でエラーを生じない個別方式は、それぞれ定常動作ブロック及び限界値ブロックにおいて実現できないようにPGSQは調節されている。
この手順について、短い例を挙げて説明する。測定されたトルクに関するデータベースの評価は、例えば、表5.9に示された結果を提供する。
これに関連する品質管理図が図27に示されており、それに関するz変換された分布関数が図28に示されている。その際、図27には、30個の標本値xiがMD曲線として示され、QRKのグループ値がxbar点として示される。UCL及びLCLは、上方管理限界及び下方管理限界を表す。この例ではまた、
の減衰作用も示されている。x9<LCL及びx24<LCLであるにもかかわらず、これは、グルーピングによって減衰され、その結果、エラー通知は行われない。
パラメータ化によって同じ種類の2つ以上の測定変数(例えば4×排ガス温度T3)が選択された場合、各チャネルについての妥当性関数を個別に算定するかどうか、又は、代表的な変数についてのみ計算を実行するかどうか、について検討する必要がある。
中央値比較を用いて、関与変数の同一性は、全ての変数から中央値を算定し、この中央値を中心にパラメータ化可能な許容範囲を定めることによって簡単に分析することができる。許容範囲内にある全ての変数に関しては、これらの変数のどれが、以下の妥当性計算のために用いられるかは重要ではない。この手順は、有効性が同じである場合、システム負荷の明らかな低減につながる。
しかし、中央値比較は、同時にまた能率的なエラー検出方式でもある。これに関連して、図29には、2.2リッターオットーエンジンにおける排ガス温度シリンダ1からシリンダ4までの測定が示されている。不具合のある油圧バルブリフタによって、ECUのノッキング検出が起動され、シリンダ1について点火時点を遅らせる方向に調整された。それに続いて生じる、排ガス温度の上昇とシリンダ1における点火時点の変化とは、中央値比較によるエラー検出につながった。この場合、エラー通知として、T3_1及びZZZP1におけるエラーが出力された。それに続くエラー解析によって、「油圧バルブリフタ不良」というエラー原因が特定された。
最も簡単な場合、試験設備システムは、運転点変更及び変動点変更について正確に明らかにするはずである。しかしまた、この機能を、試験設備システムとは独立して、任意の測定信号に関して用いることができるように、運転点変更検出は、独自の機能として実装される。一般的な表現をすると、この検出は、所定の測定変数におけるジャンプを伴う変化を識別するために用いられ、従って、ジャンプ検出とも呼ぶことができる。
同じ一連の測定ではあるが、t+1だけシフトされている2つの標本の中央値が、運転点変更の際、互いに明白に異なっているという仮説が、アプローチとして用いられる。しかしまた、この仮説は、変数の、ジャンプを含む変化が、システム動作における重大な変化を引き起こすに違いないということでもある。さらに、実質的にジャンプすることが可能であるのは、設定変数又は基準変数のみであると想定される。この種の変数には、例えば、回転速度、トルク又はアクセルぺダル踏み込み量などが含まれ、これらはまた、運転点変更変数とも呼ばれる。点火時点(ZZP)、EGR率又はその他の、ECUによって調整可能な変数は、ファクタ又は変動変数と呼ばれる。
ジャンプ検出は、図30に模式的に示されているように、互いに対して1つの値(t+1)だけシフトされている2つのロールメモリによって機能する。両方のロールメモリから中央値が算定される。運転点変更が検出されるのは、式5.34a又は式5.34bが満たされたちょうどそのときである。
従ってまた、ジャンプ時点の他に、変化の方向も決定することができる。
検出されたジャンプには、一般的に「定常動作なし」という状態が伴う。従って、信号解析の上述のロジックブロックにおいて、自動的に信号品質=1という結果が生成される。形式上、この説明は、全く正確である。なぜなら、この時点において、必要とされる信号品質は生じていないからである。しかし、これが、所望の運転点変更に起因すると考えられる場合、ここでは、エラー通知が行われるのではなく、エラー検出が中断される。さらに、運転点変更検出の結果は、同時に、上位の論理ループにおいて承認条件としても用いられる。
図31は、エンジントルクの、ジャンプを伴う変化が、回転数不変の場合に、さまざまな応答変数、例えば排ガス温度又はオイル温度及び水温に対して、どのように作用するかを示す。基準変数におけるジャンプの検出の他に、信号波形の識別の際、運転点変更検出が決定的な役割を担う。同時にまた、運転点変更を正確に決定することによって、非線形回帰のための開始点及び開始値が得られる。
定常動作検出は、定常的なシステム動作を前提とする全てのサブ機能にとって重要である。これは、特に、信号解析に関する全ての統計的機能に当てはまるが、しかしまた、多くの妥当性方式及び静止診断にも当てはまる。
その際、選択された各測定チャネルについて、定常動作が個別に突き止められる。これは、例えば、チャネル固有の信号解析及び幾つかの妥当性方式にとって重要な承認判断基準である。計算コストを低減できるように、また、定常動作検出は、幾つかの数少ない変数に対してだけ、又は、そのときにプロセス状態全体の指標として用いられる1つの変数に対してだけ用いることもできる。排ガス温度、オイル温度又は水温は、この種の変数である。この方法の利用は、それぞれの試験設備状況次第であり、従って、パラメータ化可能に構成されている。
方式上の観点からは、定常動作検出は、勾配に関する設定値/実際値比較である。このために、パラメータ化において各チャネルについて限界勾配を入力しなければならない。その際、勾配には、準定常的な場合が含まれるべきである。これが意味することは、勾配とは、既に比較的「平ら」であるが、まだ漸近的ではないということである。
測定データは一般的に確率的特性を示すので、当該の測定信号に対して、適切なデータモデルを作成しなければならない。これに特によく適しているのは回帰モデルであり、とりわけ、線形回帰、ガウス・ニュートン法による非線形回帰、重回帰という3つのアプローチである。
線形回帰とは対照的に、非線形回帰及び重回帰の場合、上述の運転点変更検出が必要とされる。運転点変更検出は、回帰アルゴリズムの厳密な開始点を定めるという役割を持つ。なぜなら、そうでない場合、モデル曲線を正確に算定することができず、それに続く勾配比較に誤りが伴うからである。
上述の各アプローチを試行した結果は、反復法が、非常に敏感であり、1つの重大な運転点変更の検出に大きく依存するというものであった。さらに、マトリクスを解くための計算コストも無視できない。多記述としてモデル計算式を用いることができるが、しかし、これは、当該アプローチの実施とほとんど効果は変わらない。勾配探索に関しても、線形回帰と比較して利点はない。
従って、コストに対して効果が伴っていない。それに対して、線形回帰は、探索する勾配を算定する際、頑健な特性、わずかな計算コスト及び十分な精度という点で優れている。このことは図32にも示されている。従って、統合された測定データ診断における勾配計算のために、線形回帰は特に好適である。さらに分かりやすい図として、図33に、0から140sの範囲が拡大して示されている。その図からよく分かるように、局所的な線形部分モデル(LLM)は、十分な精度で定常動作検出のための測定データ曲線に従っている。
用いた識別法とは独立して、LLMの算定勾配が、パラメータ化において定められた限界勾配をチャネル毎に式5.35によって比較される。
「定常動作に至る」という状態と「定常動作に至らない」という状態との間で永久振動することを避けるために、定常動作カウンタが導入された。このカウンタは、1つのチャネルが「定常動作状態」であると評価される前に、互いに連続する幾つの反復ステップについて、式5.35が満たされていなければならないのか、を示す。基本設定のために、ここでは5秒という値が提案される。すなわち、当該のチャネルが、1Hzという動作周波数において、「定常動作状態」と表示されるまでに、5sの間、定常動作状態にあったに違いないということである。このことから生じる遅延は、実際の運転においては副次的な役割しか担わないが、その一方で、利用者に対する情報の質をより良好なものにする。
妥当性検査の際、物理的なシステム特性が、期待される設定特性と比較される。設定特性の記述は、論理的な関連性及び計算式又はモデルによって行われる。このために、温度、圧力、質量流量及び排ガス排出に関する主要グループが定義され、それらが、当該のツールボックスにまとめられる。ツールボックスは、エラー検出に関する複数の機能を1つの処理ユニットにまとめる機能コレクションを意味する。目的は、優れた検出強度と分離強度とを有する簡単で頑健かつ普遍的な方法を実現することである。
その際、検出強度は、方式特性でもあり、パラメータでもあるので、確実に検出可能な最小のエラーを示す目安である。ある種の簡略化又は仮定のために、検出強度は方式特性とみなさなければならない。なぜなら、これらの仮定及び簡略化によって、当該の方式についてそれ以上詳細に記述することが不可能になるからである。しかし、利用者が試験タスクに関して検出強度を設定できるので、検出強度はパラメータともみなせる。
分離強度は、エラー分離におけるエラー検出の自動的評価及び汎用的評価のために導入され、エラーをそのエラーを有する測定チャネルと関連付けるための、方式の性能と定義される。例えば、T3>T2という不等式は2つの等価の項を有し、従って分離強度p=0.5を有する。機器チェックの方式は、常に分離強度p=1を有する。なぜなら、この場合、常に1つのチャネルのみが観測されるからである。空気質量流量及び燃料質量流量から測定されたラムダ値と算定されたラムダとの比較は、例えば分離強度p=3.3を有する。なぜなら、検査の際、3つの等価の情報が用いられるからである。
以下において、エラー検出に関する幾つかの関数を提示し、特に頑健性及び分離強度について検討する。これらの結果は、次にエラー分離及びエラー分類のために用いられる。
個々の温度測定点を挙げることによって、位置と従ってまた温度レベルとを推定することができる。このようにして生じる温度のヒエラルキーによって、論理関係が、簡単な不等式を用いて検査できるようになる。これに関して、図34に、温度ツールボックスの構造が、それに関連する入力変数及び出力変数と共に示されている。
割り当てを改善するために、及び、システム関連の特殊事項のために、温度ツールボックスの場合、無過給エンジンと、排気ターボ過給機又は圧縮機を有する過給エンジンとの間は区別される。
無過給エンジンとは異なり、ターボ構造の場合、一般的に給気冷却器の前及び後に測定点を設けることができる。デュアル排気の構成である場合、多くの変数が2倍の個数になる。これが、例えば図35の実際例に示されている。従って、方式及びジョブを実装する際、これらの方式及びジョブも2倍実施できるように注意しなければならない。
同じ種類の複数の変数が生じる場合に備えて、上述のマスタークラスが導入された。1つのマスタークラスに複数個の変数が入る場合、計算コストを低減するために第1のステップにおいて当該変数の中央値比較が実施される。当該の全ての変数がこの検定に合格した場合、これらの測定変数は、等価とみなすことができ、第1の変数を代表値として用いて計算することができる。変数が中央値検定に合格しなかった場合、その変数は、突出した変数として検出され、従っまた、以降の計算では変数として考慮されることはない。個々のマスタークラスへの当該測定個所の割り当ては、パラメータ化中に規準名マッピングにおいて行われる。
表5.10は、温度ツールボックスがどのような検査で構成されており、これらの検査がどのようなエンジンタイプに適用されるのかを示す。エラー通知を避けるために、温度ツールボックスの方式は、定常運転点においてのみ用いるべきである(承認条件)。これの理由は、例えば、NEEDCサイクルにおけるTDIの排ガス温度特性にある(図36)。容易に分かるように、全サイクル中に、惰行段階によってしばしばT4>T3という状況が生じる。これによって、確かに形式上は正常なエラー検出が行われるであろうが、しかし、このエラー検出は、センサがエラーを有することよって生じたのではなく、運転点が不安定であるために生じている。この理由から、温度ツールボックスの方式は、惰行運転において、及び、非定常運転点においてオフの状態にすべきである。
分離強度に関して注目すべき点は、全ての不等式が、分離強度p=0.5を有することである。水温及びオイル温度の区間検定は、分離強度p=1になる。同種の複数の温度を比較する場合は、分離強度p=1/nが適用され、その際、nは関与するチャネルの個数を表す。
温度範囲におけるエラー検出の場合と全く同じように、個々の圧力測定点は測定点位置に従って特徴付けられる。これにより、温度ツールボックスの場合と類似したヒエラルキーが生じる。ただし、図37に示された圧力ツールボックスの場合、さまざまなエンジンコンセプトの区別は、温度ツールボックスの場合よりもさらに重要である。
表5.11は、圧力ツールボックスがどのような検査で構成されており、これらの検査がどのようなエンジンタイプに適用されるのかを示す。その際、圧力ツールボックスの場合も、温度ツールボックスの場合と全く同じ制限事項に注意する必要がある。また、ターボ過給の場合、ある種の負荷範囲に特に注意すべきである。
定常運転(pme=1barから)において、過給機は、一般的に常に周囲よりもわずかに高い過圧を供給する。この前提があることによって、圧力p0及びp1と給気圧との比較検査を行う各方式が有効となる。この検査は、負荷が小さい場合(pme<1bar)には中止すべきである。なぜなら、この場合、過給機が絞り弁の働きをする可能性があるからである。これは、特に過給機の軸受位置が低温である場合、及び、これに関連して軸受摩擦がある場合(「鈍い過給機」)に当てはまる。
分離強度に関して注目すべきことは、全ての不等式が分離強度p=0.5を有するという点である。オイル圧力の区間検定は、分離強度p=1となる。同種の複数の圧力を比較する場合は、分離強度p=1/nが適用され、その際、nは関与するチャネルの個数を表す。
C収支(炭素収支)は、質量保存の法則に基づいており、原則として、排ガス濃度の妥当性検査にも、空気質量流量及び燃料質量流量の検査にも適している。方式としては、C収支は、図...に示された排ガスツールボックスに含まれている。
C収支においては、エンジン内へ流入及びそこから流出する炭素質量流量が考慮される。平衡状態(定常運転)のためには、供給される質量流量と排出される質量流量とが、パラメータ化可能な許容差を考慮した上で、等しくなければならない。
C収支の構成要素は、空気、燃料及びオイルを介してエンジン内へ持ち込まれた炭素質量流量と、排ガスを介して排出された炭素質量流量とである。オイルの燃焼によって持ち込まれたC量は、推定することが難しく、従って、収支では無視される。C収支に関する許容差を定める際、無視したというこの点も考慮されねばならない。
さらに、考慮しなければならないことは、排ガス質量流量、排ガスモル質量及び排ガス濃度が常に湿り未処理排ガスに関連するということである。このことから、どのような排ガス成分を乾式測定し、また、どのような排ガス成分を湿式測定するのかが分かっているという要件、及び、乾式測定した濃度を湿り排ガスに換算しなければならないという要件が生じる。このために、いわゆる湿り補正が必要である。
全ての排ガス計算のために、常に湿り未処理排ガス(排ガス未処理排出、未処理排出)の濃度が用いられる。しかし、排ガス測定の際、機器上の理由から、乾式測定と湿式測定とを区別しなければならない。この事情のために、乾式測定された成分を適当に換算することが必要となる。排ガス分析器の前においてガス冷却器内で冷却される場合、乾式排ガス測定と呼ばれる。このような分析器の場合、燃焼水の凝縮が分析前に起こる。これは、分析器の簡素化につながる。
湿式排ガス測定の場合、燃焼水の凝縮を防ぐために、当該の分析器(例えばFID)は十分に加熱される。図39に、炭素質量流量の排出例における湿り補正の作用が示されている。補正された質量流量と補正されていない質量流量との差は、約5.2%であり、無視すべきではない。
乾式排ガス測定と湿式排ガス測定との間の補正ファクタの計算は、非特許文献27に従って行われる。このアプローチに従って、補正ファクタは以下のように算定される。
その際、mfuelは燃料質量流量、mairは吸入された空気質量流量、Raは空気湿度、Paは周囲圧力、Tは吸入された空気の温度である。
補正ファクトタcorrの算定後、乾きとしてパラメータ化された全ての排ガス成分は、tcorrを用いて、式AIII.6に従って渇きから湿りへと換算される。
空気湿度を考慮する場合、理論上、やはり湿り補正を必要とする。しかし、これは、本書においては無視される。
湿り補正以外に、空間成分から質量成分への換算もしばしば必要である。排ガス分析器の測定値は、空間成分であり、式AIII.7によって適当なモル質量を用いて重量成分へ換算することができる。
個々の成分の質量流量を算定するために、重量成分と総質量流量とを乗算する(式AIII.8)。
C収支の試験変数自体は、式5.36によって算定される。
式5.37が満たされない場合、エラーが検出される。
圧力及び温度におけるエラー検出とは異なり、C収支は、原則的に全てのエンジンタイプに用いることができる。負荷が低い場合(pme≦1bar)、この方式はオフにすべきである。なぜなら、この範囲では、空気質量流量及び燃料質量流量がゼロに接近し、従って、誤通知の恐れが非常に高くなるからである。さらに、考慮すべきことは、通常の排ガス測定技術が、一般的に動的運転用ではないことである。この理由から、C収支は、定常運転点においてのみ用いるべきである。
簡略化及び無視を伴うことから、並びに、排ガス質量流量測定、空気質量流量測定及び燃料質量流量測定の際の測定精度上の問題から、頑健であるが臨界的なエラー検出を行うために、許容差は、10%未満に選定すべきではない。表T5.12は、検出強度に応じた当該許容差に対する提案例である。
既に上で簡単に言及したように、検出強度の他に、方式の分離強度も重要である。C収支の場合、湿り補正のために、全ての排ガス測定変数(HC、CO、CO2、O2、NOX)と空気及び燃料の質量流量とが、収支に算入される。その際、モル質量、燃料データ及び参入されたラムダが正確であることが前提である。
全ての変数が等価であると仮定すれば、分離強度p=1/7=0.14となる。この仮定は、当然、支持されない。なぜなら、例えば、ディーゼルエンジンの場合、変数O2及びCO2は%レベルであり、HC、CO及びNOXという変数はppmレベルであるからである。従って、これらの変数の間には10000倍の差がある。このことから推定されることは、HC、CO又はNOXという変数に大きなエラーがあったとしても、C収支には大きな影響を及ぼさないということである。このような事情を証明するために、2.0L・TDIにおいてステップ測定を用いて、C収支に対する個々の成分が分析された。測定のために以下の点が設定された。
この分析において、次々に全てのコンポーネントに50%エラー(測定値×1.5)が印加され、オリジナル測定と比較された。その結果が図40に示されている。
図40からまず分かることは、エラーを含んだ測定の場合、流入する炭素質量流量と流出する炭素質量流量との間の差が5%から10%であり、従って、最低の検出強度が10%で良いということが証されている。
空気質量流量又は燃費質量流量(MLあるいはMB)において、及び、CO2濃度において、正しい測定値に対する50%エラーは、図39に示されているように、C収支の結果における有意な偏差につながる。一方、変数NOX、CO、O2における同様のエラーは、有意な作用を及ぼさない。
CO2排出は、排出される炭素質量流量の算定のためにのみ用いられるので、人工的な50%エラーは、負のC収支を通して現れる。すなわち、供給される炭素よりも排出される炭素の方が多い。一方、空気質量流量は、収支の正負両面に関与する。しかし、その際、考慮すべきことは、吸入された空気のCO2濃度(約350ppm)が、排ガスにおける濃度よりも明らかに低いということである。従ってまた、排出側での作用が、供給側での作用よりも明らかに大きい。これは、負のC収支として現れる。
ちょうど逆のことが、燃料質量流量の計算において現れる。この場合、供給される燃料の項による供給側における影響は、排出側よりも明らかに大きい。これは、正のC収支という特徴となる。
逆のエラーケースでは、上記特徴は、上述した論拠によって同様に逆になる。偏差が小さくても、この作用は同じであるが、それほど明確には現れない。
このことから導出できることは、C収支の分離強度が、質量流量及びCO2濃度の点で優れていると言えることである。HC、CO、NOX及びO2という変数については、分離強度はほぼゼロと言える。COの場合は、まだオットーエンジンとディーゼルエンジンとを区別しなければならない。従って、C収支は、下記のチャネル固有の分離強度に達する。
さらに、C収支から、後のエラー分離及びエラー分類の際に特に有用な特徴も導出できる。これにより、C収支の負の有意な偏差は、空気質量測定又はCO2測定における正のエラーに関する特徴として利用できる。正の有意な偏差は、燃料質量流量測定における正のエラーに有用である。この場合、正は、測定値が高すぎることを意味する。
酸素収支は、上述のC収支と同じアプローチに基づいている。その際、エンジン内に流入する酸素質量流量とそこから流出する酸素質量流量とが差引勘定される。図41は、O2ツールボックスの構造を示す。
O2収支の試験変数自体(EO2B)は、式5.38に従って算定される。
式5.39が満たされない場合、エラーが検出される。
C収支と全く同じように、酸素収支も、定常運転のために、及び、pme>1barの場合にのみ用いるべきである。表T5.14は、検出強度に応じた当該許容差に関する提案例である。
分離強度の検討のために、前章のシナリオが用いられる。その結果が、図42に示されている。
C収支とは対照的に、予想されるように、幾分異なった図となる。空気質量流量と燃料質量流量とに対するエラーの作用は、確かに認められるが、それにもかかわらず、まだ推奨検出閾値を下回っている。一方、O2チャネル又はCO2チャネルにおける50%エラーによる作用は、明らかに有意である。負の方向に特徴が現れるのは、排出酸素質量流量が「高すぎる」ためであると説明できる。このことから推定されることは、O2収支の負の有意な偏差は、O2測定又はCO2測定における正のエラーの特徴として導出できるということである。
従って、O2収支は、下記のチャネル固有の分離強度になる。
測定データ診断において、さまざまなラムダ値を得ること、あるいは、これらのラムダ値を比較することが可能である。これは、常に、大域的な空気燃料比であり、定常点における供給変数と排出変数との間の関係を表す。図43は、ラムダ比較の関数全体を概略的に示す。
図43から分かるように、基本的に、それぞれのラムダ値の算定あるいは測定に関する3つの情報源、すなわち、測定値としてのラムダ(エンジン自体/車両自体のラムダプローブ(λECU)によるECUのラムダ又は外部プローブ(λSonde)の測定値としてのラムダ)、空気質量流量と燃料質量流量(λLuft/Kraftstoff)、あるいは、排ガス排出(λBrettschneider)から算定されたラムダがある。
ラムダ比較は、実質的に、冗長な変数を比較することによって、排ガス流量及び質量流量におけるエラーを検出するという役割を担う。個々の結果の処理は、ロジックツールボックスで行われる。方式上、ラムダ比較は、質量流量ツールボックスに割り当てられている。
ブレットシュナイダーの式に関する計算コストを低減するために、以下の簡略化が行われた。
パラメータ化において、空気湿度及び周囲温度に関するデータが指定される(例えばTUmg=20℃の際にψ=50%)。オイル消費量は0に設定される。炭素には硫黄が含まれていないと仮定される。排ガスには、化合物NH3、H2S、H2が含まれる濃度は非常に低く、無視できる。HC化合物であるCH4、CH3OH及びHCHOは、FIDによって大部分検出され、残りは無視される。
λBrettschneider、λLuft及びλSondeから、表T5.16の検査ルールが導出される。算定されたλ値及び/又は測定されたλ値が厳密に同じであることは期待できないので、比較の際、一定の許容差を設けなければならない。このことは、
によって表される。
許容差は、パラメータ化可能であり、同時にまた個々の検査ルールの検出強度の指標でもある。
良好な頑健性と厳密なエラー検出との間の目標の相反を客観的に記述できるように、ブレットシュナイダーの式の簡略化による作用、及び、運転点とさまざまな測定方法とによる作用が分析された。
ブレットシュナイダーによる計算の際の簡略化という理由から、及び、空気質量流量及び燃料質量流量の測定時の測定精度上の理由から、頑健であるが臨界的なエラー検出を行うために、許容差は、10%未満に選定すべきではない。表T5.17は、検出強度に応じた当該許容差に対する提案例である。
ラムダツールボックスの場合も、圧力ツールボックス及び温度ツールボックスの場合と同じ運転条件及び遮断条件が適用される。すなわち、定常運転点の場合にのみ用いるべきであり、また、各方式は、惰行運転時にはオフにされるということである。
λ検査ルールに関する分離強度の検討は、幾分異なった様相を呈する。
という比較は、分離強度p=0.5という特徴を有する。なぜなら、等価の測定信号が検査に2つしか含まれないからである。
一方、
と
という比較では、それぞれ3つの等価の測定信号が含まれており、そこから、分離強度p=1/3が生じる。
一方、
及び
あるいは
に対する方式分離強度は、チャネル毎に観測されねばならず、表T5.18にまとめられている。
炭素はオットーエンジンの場合に%で、ディーゼルエンジンの場合にppmで測定されるので、チャネル固有の分離強度を決定する際、エンジンの両タイプを区別しなければならない。その際、簡略化のために、オットーエンジンの場合、CO項が、CO2、O2、ML、MB、λSonde及びλECUの各項と同じ重要性を有すると仮定される。NOX項は、方式分離強度を決定する際、pNOX=0.0001であるので無視される。ディーゼルエンジンの場合、さらにCO項も無視される。
方式分離強度の決定について、
という方式例を用いて簡単に説明する。この方式がオットーエンジンに用いられる場合、変数HC、CO、CO2、O2、NOX及びλSondeが、計算のために必要となる。しかし、HC及びNOXは、分離強度の決定に対する影響はわずかであるので無視される。従って、7つではなく5つの等価項だけが、pの決定のために用いられ、分離強度p=1/5が生じる。
上述した各収支の場合と全く同じように、ラムダ比較の場合も、エラー検出のための適当なエラー特徴が抽出される。図44から明確に分かるように、空気又は燃料の質量流量測定における重大なエラーは、ラムダ計算における当該の特徴につながる。一方、ブレットシュナイダーによる計算の場合、予想されるように、CO2測定及びO2測定の点でエラーが大きくなる。
燃料分析によって、主要成分cBrennstoff、hBrennstoff及びobrennstoffを決定することができる。これらの成分の合計は、ほぼ1でなければならない。パラメータ化において、各燃料に関する規定値を選定するか、又は、現在の値を入力することが可能である。入力時、式5.40の条件が満たされているかどうかが検査される。
さらに、ノーマル、スーパー、スーパープラス及びディーゼルという通常の各燃料に関する複数の燃料分析作業から、主要成分についての最小値及び最大値を参照標準として得ることができた。
これから、式5.41による検査が生じる。
重量測定の成分の他に、燃料分析の際、当然、燃料密度も決定される。その際、当該の燃料に関して以下の限界値が得られた。
これから、式5.42による燃料密度の検査が生じる。
ここで注意すべきことは、限界値が推奨値とみなされるということである。なぜなら、限界値は、非常に限られた標本数からしか算出されていないからである。従って、燃料データの観測は、実質的に入力エラーを避けることが意図されている。
静止診断によって、エンジン及び/又は試験設備におけるエラーは、テストラン開始の前には検出されるべきである。このために、選択されたチャネルについて、測定データが、パラメータ化可能な時間間隔(例えば60秒)にわたって収集周波数1Hzで収集され、簡単なスタートアップチェックにおいて処理される。この時間間隔は、この章で説明した全ての個別関数が関連するデータベースとなる。
適当な方式を用いて、全ての温度がほぼ周囲温度に等しいかどうか、及び、全ての圧力が周囲圧力を中心として変動するかどうかが検査される。さらに、選択された全ての測定チャネルが存在し、これらのチャネルが期待通りに測定値を供給するように配慮される。最後の検査によって、選択された測定値全てにドリフト又はノイズが含まれていないかどうかが分析される。
このアプローチを用いる根拠は、全ての測定変数が、十分に長い待機時間の後、周囲との安定した平衡状態に移行するという簡単な事実である。例えば、温度は、周囲温度に接近し、圧力もまた論理上周囲圧力に接近する(図45)。さらに、信号が、期待される信号特性と明確に異なっているかどうかを、既に静止状態において確認することができる。
従って、静止診断が利用可能であるためには、限界値監視、値比較、安定性及び信号品質に関する各関数が用意される必要がある。
静止状態における限界値検査は、測定変数が、エンジン試験設備において、多少長い待機時間の後、所定の漸近値に接近するという簡単な事実を利用する。圧力の場合、漸近値は一般的に周囲圧力であり、温度の場合、周囲温度である。温度の場合に厳密に注意しなければならないことは、最後の燃焼運転からどれくらいの時間が経過しているか、ということである。なぜなら、構成部品、オイル及び冷却水が、まだ冷却段階にあるかもしれないからである。停止した低温のエンジンである場合、圧力、温度、「排ガス測定値」又は質量流量は、特性限界値の中になければならない。これらは、限界値検査において静止状態で監視される。表T5.21は、限界値監視において分析される典型的な限界値の概観を示す。
温度値は、通常の室温調整に適用される推奨値である。試験タスクに応じて、全く別の温度範囲が必要となるかもしれない(例えば低温室)。
「静止状態における値比較」という機能は、同種の測定変数が、所定の基準を中心に変動するかどうかを検査する。圧力及び温度が、これの典型的な例である。その際、比較のベースは、事前に設定した値でも、算定された参照値であってもかまわない。
限界値が事前設定されている場合、同種の全ての測定変数が、パラメータ化可能な許容範囲において、この参照値と比較される。このような限界値は、例えば、測定された周囲温度(TUmgebung)であってもよい。その際、全ての観測された温度は、式5.43を満たさなければならない。
その際、TPrufは、評価の対象となる温度であり、Toleranz(許容差)は、利用者がパラメータ化できる許容差である。
参照変数の決定はまた、自動で行うこともできる。しかし、そのためには、同種の、少なくとも2つの変数が必要である。この場合、参照変数は、個々の変数から中央値計算を通じて作り出すこともできる。その際、それに続く試験は、上述の通り行われ、その例が図46に示されている。
静止状態における値比較は、測定データ診断において実装され、その際、利用者は、自分が参照変数を事前設定したいのか、又は、参照変数がデータから算出されるようにするのかを決定できるように実装される。
安定性の評価は、静止診断において、ドリフト検出と時間特性の補償という2つの役割を担う。ドリフト検出のために、チャネル固有のデータベースの勾配が、簡単な線形回帰によって求められ、パラメータ化可能な限界勾配と比較される。これにより、当該チャネルが、漸近状態にあるかどうかが確認される。これは、特に温度チャネルにとって重要である。
時間特性の補償は、原則として全ての測定チャネルに利用可能であるが、実質的には温度チャネルに関係する。この方式では、時間特性は、局所的な線形モデル(LLM)によって補償され、この補償は、適当なr2においてモデル値を測定値から差し引くことによって行われる。その結果、ゼロを中心とする、ドリフトのない不偏の信号が得られ(図47)、この信号を用いて信号品質の評価を実施することができる。
図48には、時間区間0s<t<120sの最初の4つの範囲が、LLMの、対応するモデル式と回帰係数r2と共に示されている。
静止状態における信号品質の評価は、既に上述した評価と全く同じように行われる。この場合、データベースとして静止データが用いられる。
これまでに述べた全てのエラー検出方式に共通であるのは、これらの方式は定常運転点又は準定常運転点に対してしか用いることができないという点である。従って、ここで、例えばNEDC排ガスサイクルのような非定常的な運転条件におけるエラー検出のためのアプローチを提示する必要がある。
既に言及したように、モデルベースのエラー検出は、時間上の理由から、一般的に除外される。従って、コストがかからず、テストランに並行してデータサンプルを学習し、次にデータサンプルを再び適切に分類することができる方式を見出さなければならない。この構成は、自己学習観測システムに相当する。
解決手段として、ゲイル・カーペンター及びステファン・グロスバーグの適応共鳴理論(ART)が選択された。ARTは、個別モデルではなく、モデルファミリーであり、非監視学習アルゴリズムに属する。
これらのモデルは、本来、神経ネットワークの弾塑性のジレンマを解決するために開発された。これは、神経ネットワークにおける新しい連合が、そのとき古い連合を忘れることなく、どのように学習されるのか、という問題を意味する。
従って、弾塑性のジレンマの解決は、同時にまた、自己学習観測システムの分類問題の解決でもある。学習は、ARTネットワークの場合、緩慢な学習法又は迅速な学習法に従って行うことができる。緩慢な学習の場合、選択されたクラスの重みが、微分方程式を用いて適合される。一方、迅速な学習の場合、この適合は、代数式を用いて決定される。
観測システムとして使用する場合、迅速モードが用いられる。なぜなら、この場合、学習のために入力サンプルが1回しか提示されないからである。これは、観測システムにとって極めて重要な特性である。これが可能であるためには、既に学習されたサンプルを維持するための高い塑性が必要であるが、しかし同時にまた、この塑性は、既に学習済みのサンプルのあまりに強い変更を防止する。これにより、原則として、各測定を新たなサンプルとして学習でき、一方、将来の測定の基準として用いることができる。基本的に、ARTモデルは、以下のスキーマに従って機能する。すなわち、
1)ネットワークに入力サンプルが印加される。
2)アルゴリズムが、入力サンプルについて検査し、保存されているサンプルとの類似性に応じて、既存のクラスへ分類する。
3)当該入力サンプルを既存のいずれのクラスにも割り当てることができない場合、新しいクラスが生成される。これは、当該入力サンプルに類似したサンプルを保存することによって行われる。
4)事前設定された許容差を考慮した上で、類似しているサンプルが発見されると、その保存されていたサンプルは少し修正されて、新しいサンプルにさらに近似される。
5)現在の入力サンプルに類似していない保存されているサンプルは、変更されない。
従って、この手順によって、新しいクラスが生成できるので(塑性)、既存のサンプルが現在の入力サンプルに類似していない場合、既存のサンプルを変更する必要がない(安定性)。
また、重要であることは、バイナリの入力サンプルと連続的な入力サンプルとに対してARTモデルが存在することである。
測定データは連続データであるので、実現するためには、連続入力ベクトル用のARTバージョンだけが検討対象となる。これらの特殊なモデルは、ART2又はART2Aモデルと呼ばれ、典型的なARTモデルを拡張したものである。図49は、ART2ネットワークの模式的な断面図である。
入力サンプルは、入力層F0に印加され、次に比較層F1に伝播される。そこで、さまざまなステップにおいて増幅され、正規化される。これは、比較層と検出層F2との間に所定の平衡状態が生じるまでの間、行われる。この制御は、類似パラメータrとリセットコンポーネントとを介して行われる。F1におけるニューロンはネットワーク属性を表し、一方、F2におけるニューロンはカテゴリ又はクラスを表す。各結合は、比重量で評価される。従って、重み行列は、ARTの長時間メモリとも呼ばれる。
ARTネットワークをパラメータ化する際、類似パラメータに特に注意すべきである。類似パラメータは、ネットワークの分類特性に大きな影響を及ぼす。その際、高い値は、細かな記憶を呼び起こす。すなわち、多くの小さなクラスが形成される。一方、低い値は、より高い抽象性を引き起こし、クラスの数は少なく、その分粗い。
ここでは、アルゴリズムの詳細な数学的説明は省き、その代わりに非特許文献28、非特許文献29、非特許文献30を挙げておく。
しかし、観察システムの役割は、分類だけでなく、測定値を関連参照値と比較することでもある。このようにすることでしか、観察システムは、監視される目標変数におけるエラーを検出できない。このために、パラメータ化において適当な入力変数及び出力変数を設定しなければならない。その個数は、理論的には無限であるが、システム負荷上の理由から、入出力変数は10個までに限定される。同じことが、原則としてクラス数にも当てはまる。
従って、パラメータ化によって、どのデータがネットワークによって関連付けられるべきかが指定される。すなわち、観察システムによって、エラーのないプロセスのために目標変数と応答変数との間に経験的な連合モデルが形成される。この課題のために、ARTの拡張が必要であり、これは、ARTMAP又は予想ART(Predicted ART)と呼ばれる。ARTMAPネットワークの場合、2つのARTネットワークが、1つの結合ネットワーク、いわゆるMAPフィールドと組み合わされて、監視学習システムになる(図50)。このことから、トレーニングサンプルが、入力ベクトル(目標変数又はファクタ)とそれと関連付けられた出力ベクトル(応答変数)とから構成されていなければならないことになる。
その際、ART1、ART2又はART2Aネットワークのどれをを用いるのかは重要ではない。本書においては、ART2Aネットワークが用いられた。
第1のARTネットワーク(ARTa)は入力ベクトルを処理し、第2のARTネットワーク(ARTb)は結果ベクトルを処理する。両ARTネットワークは、MAPフィールドによって互いに結合されており、従って互いに同期される。
既にトレーニングされたARTMAPネットワークの品質を検査するために、入力ベクトルがARTaの検出層に印加され、同時にまたARTbの検出層の全ての入力がゼロにされる。ここで、ARTaにおいて、当該入力のための適切なクラスが探索される。
起動によって、トレーニング済みのセルが作動された場合、これによって、対応するMAPフィールドセルが起動され、一方、このMAPフィールドセルが、対応する出力を生成する。それに対して、ARTaにおいて、トレーニングされていないセルが起動された場合、その結果として、全てのMAPフィールドセルが起動される。これは、入力が十分確実に分類できないということを示している。
この特性は、特に自動観察システムを制御するのに適している。この時点で、上述のアルゴリズムは、各サンプルに対して実施される。入力サンプルを分類できない場合、このサンプルは自動的にもう一度、トレーニングアルゴリズムを走ることになる。これは、所定の中断基準に至るか、又はトレーニングされた状態に達するまでの間、行われる。
自己学習観察システムのベースとしてのARTMATネットワークの基本的な適正を分析するために、多様なNEDCサイクルが用いられた。評価のために許容されていない偏差を排除するために、これらのサイクルは、まず、互いに比較された。全てのサイクルから、1つのサイクルが参照サンプルとして選択され、そのサンプルが、ARTMAPプロトタイプ(図50)に「測定」として提示された。次に、ネットワークは、残りの他のサイクルで運転された。その際、2つの側面を検査すべきである。すなわち、
1)ARTMAPネットワークは、類似サンプルをどの程度良好に分類できるのか?
2)目標変数に関するARTMAPネットワークの予測は、どの程度良好か?
評価のために重要であるのは、分析すべきNEDC測定が、同じエンジン(乗用車用TDIエンジン)に対して、数日にわたって行われたという点である。
図51に、その解析例が、NOX未処理排出に関して示されている。容易に分かるように、NOX測定の再現性は比較的良好である。平均して、変動は50ppm未満である。これらのデータによって、ARTMAPネットワークが、非定常的なNEDCサイクル用の基準としてどの程度適しているかが分析された。
ARTMAP観察システムに関する分析は、プロトタイプにおいてオフラインで行われた。この分析のために、6個の入力変数と1個の出力変数とを有するARTMAPネットワークが生成された。入力変数としては、回転速度、アクセルペダル踏み込み量、トルク、主燃料噴射の制御開始、主燃料噴射の噴射量、主燃料噴射時間が用いられた。目標変数あるいは出力変数は、NOX未処理排出であった。トレーニング段階において、ネットワークは、上述の方法に従って、任意に選択されたNEDCサイクルによってトレーニングされた(図51の赤線)。この場合、トレーニングとは、当該のデータが、トレーニングされていないネットワークに開始サンプルとして提示されることを意味する。これらのデータは、ネットワークによって分類され、正確な目標変数と関連付けられる必要がある。他のNEDCデータによる検証の場合、まず、現在のサンプルが既知であるか、あるいは、新たにトレーニングされねばならないのかが検査される。既知のサンプルであった場合、現在の測定値と予測されたネットワーク出力との間で比較が行われる。
図52に、任意に選択されたNEDCサイクルの、基準測定との比較結果が、例として示されている(他のサイクルの分析も類似した結果になる)。この曲線から分かることは、ネットワーク出力が、実際の測定に良好に従い得るということである。比較的大きな偏差は、NEDCの郊外走行部分と高速走行部分とにおいてのみ見られる。これの理由は、2つのクラスが非常に類似しており、違いがあまりにもわずかであることにある。これは、1750sから2000sの範囲における振動するネットワーク出力から容易に見て取れる。モデル及び測定が同じ動的特性を有していることから、動的診断に対してARTMAPネットワークが基本的な適正を持つことが導出できる。ネットワーク出力と測定との間の最大偏差が202ppm(平均は約25−30ppm)であり、プロトタイプでも驚くほど良好な結果が得られた。その際、考慮すべきことは、既に測定値が最大50ppmの範囲で分散していることである。類似ファクタの適合は、ここでは、まだ明らかな最適化可能性を有している。
ARTMAPアプローチは、基本的に、観察システムという形での動的エラー検出のためのベースとして十分に適している。
エラー分離として、下記の2つの基本的な要件がある。すなわち、
パラメータ化可能な診断強度を考慮した上で、エラーを有する測定変数又は突出した測定変数を確実に通知すること、及び、
エラー検出のための将来の方式をエラー分離のアルゴリズムへ自動的に組み入れることができる汎用的な構造であることである。
これらの要件を満たすために、適当な評価ロジックが開発された。このロジックは、以下においてロジック層と呼ばれ、図53に模式的に示されている。
この開発の際に考慮されたことは、エラー検出のためのチャネル選択性の方式とチャネル全体の方式とのいずれもが用いられるということであった。また、巡回エラー検出による個別値エラー検出と、リングメモリ素子という形での時間間隔に関する診断との間が区別された。
全ての部分的な情報を正確かつ汎用に解釈できるように、エラー分離のための評価ロジックの構造は、チャネル選択制のアプローチに基づいている。
チャネル選択制アプローチの場合、複数の入力変数を有するエラー検出方式を、関与するチャネルに投影する必要がある。当該の方式の結果は、ロジック層に送られ、そこで自動的に評価され、対応する通知のためにさらに処理される。これらの通知は、次に可視化部に送られ、さらにそれと並行してデータ保存部に送られる。
エラー分離及びエラー分類というブロックからなるロジック層の構造が、図54に示されている。その際、診断ワークフローを考慮して、エラー検出とエラー分離とが「エラー分離」というブロックに、エラー識別とエラー分類とが「エラー分類」というブロックにまとめられた。
エラー分離は、エラー検出の全ての個別結果についてその原因を、関与する測定チャネルと関連付け、これらの個別結果を加算するという役割を担う。次に個別結果の合計から試験変数が算出され、それが所定の限界値と比較される。これにより、突出した測定チャネルとそうでない測定チャネルとが分けられる。従って、限界値は、検出強度の目安であり、低、中、高という段階で設定可能である。
エラー分離におけるエラー検出の自動的かつ汎用的評価のために、いわゆる方式分離強度(略して分離強度)が導入された。分離強度は、ある方式がエラーを有する測定チャネルをどの程度良好に識別できるかを定める特性変数である。従って、分離強度は、方式の、エラーをエラーを有する測定チャネルと関連付ける能力を表す。
例えば、不等式T3>T2は2つの等価項を有し、従って分離強度p=0.5を有する。機器チェックの方式は、常に、分離強度p=1を有する。なぜなら、ここでは常に1つのチャネルのみが観測されるからである。測定されたラムダ値と、空気質量流量と燃料質量流量とから算出されたラムダとの間の比較は、例えば分離強度p=0.33を有する。この検査では、3つの等価情報が用いられるからである。
エラー分離の際、低い分離強度を有する方式の方が、高い分離強度を有する方式よりも強く働いてはいけないことは自明である。
分離強度p=1である方式は、一義的な結果を提供するので、それ以上の区別を必要としない。一方、妥当性検査の方式(分離強度p<1)の場合、方式の個数とそれらの方式分離強度とを考慮しなければならない。数学的に見れば、これは、固有の検出確率を有する、ある個数の独立した検査インスタンスが存在することを意味する。結合重みは、従って、この個数と固有検出確率とを結びつけなければならない。
このためのアプローチとして、「自己非排他事象に関する統計値の一般的加法則(verallgemeinerte Additionssatz der Statistik fur sich nicht ausschliesende Ereignisse)」が用いられる。これにより、事象Eiの少なくとも1つが生じる確率は、以下のようになる。
このことから、エラー分離に関して、この法則を用いて、用いられた検査ルールを考慮した上で、所定のチャネルに対する妥当性検査PPlausibilitatの検出確率を決定することが可能となる。しかし、この法則が適用できるのは、個別確率を正確に決定できる場合だけである。すなわち、全ての作用因が同じ発生確率を有し、かつ、数学的に対称でなければならない。従って、統計的対称性の推定を許す物理的対称性が必要となる(例えば理想的なサイコロ)。
しかし、ラムダ比較又はO2収支を考えてみれば、測定された排ガス濃度に対してこの要件は満たされていない。なぜなら、幾つかの変数は容量%という単位を有し、また、他の変数がppmで測定されるからである。この理由から、幾つかの仮定が行われる。すなわち以下の仮定である。
1)ディーゼルエンジンの場合、CO2濃度とO2濃度とが、方式上、質量流量とほぼ同じ作用を及ぼす。
2)オットーエンジンの場合、追加的にCO濃度も考慮しなければならない。従って、変数CO2、O2及びCOは、質量流量と等価とみなされる。
3)変数HC及びNOXについて、定義上、分離強度p=1/10000が指定される。厳密には、ここでも、パラメータ化されたエンジンタイプに従って区別することができ、従って、オットーエンジンの場合はHCとNOXとのみが、ディーゼルエンジンの場合はHC、CO及びNOXが、p=1/10000であるとして考慮される。
試験変数tFehlerisolationの算定は、各妥当性方式がバイナリの検査結果Ebin,Methodeを生成するというアプローチに従って行われる。バイナリの方式結果Ebin,Methodeを方式分離強度PMethodeと乗算することによって、方式結果EMethodeが算定される(式1.2)。
次に、全ての実施可能な妥当性方式の結果は、加算されて、妥当性の総確率と乗算される。これにより、エラー分離のための試験変数が、式1.3によって算定できる。
ただし、
ERA=未処理データ解析
ESA=1Hz信号解析
EGC=リミットチェック
EB=定常動作
上記の6・(EGC+ELC)という項は、リミットチェック又は機器チェックにおける1つのエラー通知の際、1つのチャネルがエラーを有するものとして分離されねばならないことによる。
エラー分離における最後の未決定な点として残っているのは、低、中、高という設定の限界値の決定である。このために、1チャネル当たり、平均4つから5つの妥当性方式が用いられると仮定される。「高」に設定した場合、少なくとも1つの警告が行われる必要があるのは、厳密に、以下の個別結果が存在する場合である(なお、以下において、Rohdatenanalyse は未処理データ解析、Signalanalyse は信号解析、Beharrung は定常動作、Warnung は警告、Geratecheck は機器チェック、Limitcheck はリミットチェックを意味する)。
「中」という設定の場合、少なくとも下記の場合に警告が行われる。
「低」という設定の場合に少なくとも1つの警告が発せられるのは、少なくとも以下の個別結果が生じた場合である。
このことから、表T1.1に示された臨界的な限界値が得られる。
エラー分離の結果は、数値(0、1又は2)としてエラー分類へ伝えられる。
測定同期エラー検出の場合にも、原則として、同じ構造が用いられる。唯一の相違は、個別値方式に関して、現在の測定値ではなく、リングメモリの平均値が用いられるという点である。
エラー分類において、エラー重大度は、デバウンスバッファEP(Entprellpuffer)をを用いて評価される。このために、エラー分離のチャネル固有の結果が、パラメータ化可能な長さを有する、同様にチャネル固有の列ベクトルへ書き込まれる。このベクトルは、ソフトウエア側でロールメモリとして構成される。
デバウンスバッファから、式1.4によって、試験変数tKlassifikationが算定され、臨界値tKlassifikation,kritと比較される。
エラー分離の場合と全く同様に、低、中、高というレベルへの設定が行われる。強度(表T1.2)に応じて、当該チャネルは、エラー無し、有意なエラー有り又は重大なエラー有りに分類され、対応する通知(「OK」、「警告」又は「エラー」)と関連付けられる。
エラー原因を一般的にそれ以上厳密に特定することは、用いられた、信号ベースのエラー検出アプローチでは不可能である。その理由は、一般的に、測定チャネルから、技術的なシステムコンポーネント内のエラーを直接推定することはできないからである。従って、エラー分類は、自動的に、エラーを有する測定信号についてエラーの大きさとエラーの持続時間とを挙げることに制限される。
エラー通知を避けるために、エラー分類は、所定の承認条件を通じて迂回することができる。承認条件が満たされていない場合、図54の「スイッチ」が開かれ、チャネルステータスが、自動的に3に設定される。これは、当該のチャネルを検査することができなかったことを意味する。
エラー分離及びエラー分類というプロセスについて、定常ステップ測定を例に簡単に説明しておく。その際、評価は、あるときは空気質量流量に対して、あるときは燃料質量流量に対して行われる。
この例には、パラメータ化によって指定された下記限界条件が適用される。すなわち、
1)実施可能な方式
・λLuft/Kraftstoff=λSonde
・λLuft/Kraftstoff=λBrettschneider
・C収支
・O2収支
・未処理信号解析
・1Hz信号品質
・リミットチェック
・機器チェック
2)許容差
・C収支=15%
・O2収支=10%
・ラムダ比較=10%
3)時間
・リングメモリの長さ=30s
・デバウンシングメモリ(Entprellungsspeicher)の長さ=30s
4)診断強度
・中
λLuft/Kraftstoff=λSondeという方式の算定のためには、ラムダプローブの測定値及び空気質量流量と燃料質量流量とが必要である。従って、この方式は、空気質量流量あるいは燃料質量流量におけるエラーを検出するための確率p=1/3を有する。
λLuft/Kraftstoff=λBrettschneiderという方式のためには、空気質量流量と燃料質量流量以外に、CO、CO2の濃度も考慮される。NOXは、空気質量流量及び燃料質量流量に関して分離強度p=0.0001を有しており、従って無視される。これにより、この方式によって空気質量流量におけるエラーを正確に検出するための確率p=0.25が生じる。同じ考え方によって、C収支及びO2収支についても同様にp=0.25となる。リミットチェック及び信号解析は、それぞれp=1で算入される。従って、妥当性は、全体として次の通りになる。
診断強度を中から高に変えた場合、空気質量流量については、870sから930sの範囲で警告が生じる。
このようにして開発された、ロジック層の汎用構造によって、作用変数個数が既知であることよって、及び、同様に方式分離強度が既知であることによって、簡単に新しいエラー検出方式を付け加えることが無制限に可能である。
前述の諸説明において、内部データマネージメントにしばしば言及した。内部データマネージメントは「ミニデータバンク」であり、この中に、ランタイムに関するさまざまなデータ診断結果が、コード化された形式で中間保存される。これらの部分的結果は、一方ではエラー評価に用いられ、また一方では診断結果の文書化に用いられる。この機能を最適に実現するために、内部データマネージメントは、図56に示された部門からなる。
「静的データ」という部門には、パラメータ化中にのみ変更されるデータが含まれる。定数の管理以外に、ここでは例えばマスタークラスの割り当てが解析され、そこから、実施可能な方式が決定される。
「可変データ」という部門では、ランタイムに関する利用者の全ての介入の文書化が行われる。診断の開始及び終了の他に、ここでは利用者の全てのアクションが記録される。特に重要であるのは、例えば、エラー検出方式の非アクティブ化及び再非アクティブ化、又はエラー通知への応答である。
エラー検出の個々の方式の結果を等速に評価できるように、これらの方式は、一定の時点において、及び、所定のメモリ素子において利用できねばならない。例えば、エラー分離は、チャネル1つ当たりに使用される方式とそれらの分離強度とに関する情報を必要とする。このデータ管理は、「等間隔オンラインデータ」というブロックで行われる。
可視化、特にエラー可視化は、測定データ診断の重要な要素である、その際、十分に注意しなければならないことは、エラー及びシステムステータスに関する過多の情報によって利用者に過度の負担をかけないようにすることである。このために、既に上で言及した可視化ピラミッドが、3つの可視化階層によって正確に実現される。これが、図57に示されている。
階層Iでは、診断の機能/エラーステータスに関する情報が、一義的な記号によって表示される。好ましくは、このために、三角形と感嘆符との組み合わせが選ばれる。なぜなら、これによって、3つの情報を非常に容易に伝えることができるからである。すなわち、
1)ボタンが黒いことで(警告用三角形が目立たず見える)、パラメータ化と、それによって実施可能なエラー検出機能とに、目下のところエラーが存在しないことが示される(図58a)。
2)警告用三角形が持続的に赤く点灯することによって、新たなエラーが試験設備に示される(図58b)。
3)エラーが検出され、このエラーが再び消えた場合、図58cが用いられる。
第2の可視化階層(階層II)では、利用者は、診断履歴に関する情報を利用できる(図59を参照)。事象(エラー、警告)がいつ、何度生じたのかを、ログウインドウを通じて正確に知ることができる。これは、例えば半無人運転又は無人運転の場合に特に重要である。利用者は、かなり長い時間不在であった後に、その時点までに生じた事象について素早く概観できるからである。
結果可視化の第3の階層は、エラー検出の範囲と現在の状態とを表示する。その際、チャネルベースの画面と方式ベースの画面とが区別される。
両画面(図60aのチャネル概観と図60bの方式概観)は、複数の下層を有するツリー構造に構成されている。注意すべきことは、両画面において、方式は、ランタイム中に、非アクティブ化し、そして再びアクティブ化することができるという点である。これが有用であるのは、例えば、あるチャネル又は方式が、現在のテストには重要でないにもかかわらず、絶えずエラーを示しているような場合である。
測定データ診断において、診断総合結果を得るために重要である全ての情報が文書化される。これには、パラメータ化のデータ、並びに、全ての分類結果、利用者の介入及びシステム通知が含まれる。
結果管理のために以下の外部基準が設けられる。
・パラメータ化データ
・システム通知及び利用者の介入
・品質シール
外部基準又は外部属性に関する関連情報は、テスト結果と共にPumaデータバンクに格納される。
品質シールは、その際、直接、測定データと共に格納すべきである。図61は、MAGICデータバンクを用いた品質シールの実例を示す。この場合、正確なデータに対してマーキングは行われない。すなわち、エラー無しのデータに対する品質シールは、この場合、白い背景である。
品質シールの導入は、利用者のために一連の利点をもたらす。すなわち、
1)品質シールの導入によって、冗長的なデータ利用が、より確実に可能となる。
2)各利用者は、データが検査済みの情報であるかどうかをすぐに知ることができる。
3)品質シールの他に、利用者は、適宜参照することによって、パラメータ化、エラーへの応答などに関する全ての情報を利用することができる。
4)DoEを利用する場合、未処理データの妥当性確認に対する時間コストを明らかに低減できる。